(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240610BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
G03G15/20 555
G03G21/00 370
(21)【出願番号】P 2020143869
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099324
【氏名又は名称】鈴木 正剛
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 裕彰
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-181059(JP,A)
【文献】特開2020-076886(JP,A)
【文献】特開2018-072668(JP,A)
【文献】特開2018-112586(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0062284(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 15/00
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材に画像を形成する画像形成手段と、
商用電源から供給される電力により発熱する定着ヒータを有し、前記定着ヒータの発熱により前記画像が形成された前記記録材を加熱することで、該記録材に該画像を定着させる定着手段と、
前記定着ヒータの抵抗値を表す抵抗値情報を格納する格納手段と、
前記商用電源から前記定着ヒータに供給される交流電圧のゼロクロスタイミングを検知するゼロクロス検知手段と、
前記商用電源から前記定着ヒータに供給される交流電圧の電圧値を検出する電圧検出手段と、
前記定着ヒータに流れる電流の電流値を検出する電流検出手段と、
前記商用電源から前記定着ヒータへ電力を供給する経路上に設けられており、オン状態になることで定着ヒータに電力を供給するスイッチ手段と、
前記ゼロクロスタイミングから所定の設定時間が経過すると前記スイッチ手段をオン状態にすることで前記定着ヒータへ電力を供給する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記電圧検出手段で検出した前記電圧値と、前記電流検出手段で検出した前記電流値と、前記定着ヒータの前記抵抗値情報と、に基づいて前記スイッチ手段の導通比を算出し、算出した前記導通比が所定の導通比に一致するように前記設定時間を調整することで、前記スイッチ手段がオン状態になるタイミングを補正することを特徴とする、
画像形成装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記電圧値と前記抵抗値情報に基づいて算出した電流値と、前記電流検出手段で検出した電流値との差を比較することで前記スイッチ手段の実際の導通比を算出し、前記実際の導通比と前記所定の導通比とが一致するように前記設定時間を補正することを特徴とする、
請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記実際の導通比と前記所定の導通比とが一致するような時間差を算出し、算出した前記時間差を前記設定時間に加算することを特徴とする、
請求項2記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記電圧検出手段から取得した前記電圧値から実効電圧値を算出し、前記電流検出手段から取得した前記電流値から実効電流値を算出し、前記実効電圧値と前記抵抗値情報に基づいて算出した電流値と、前記実効電流値との差を比較することで前記実際の導通比を算出することを特徴とする、
請求項2又は3記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記格納手段は、前記定着ヒータの消費電力を表す消費電力情報を格納しており、
前記制御手段は、前記電圧値と前記抵抗値情報と前記所定の導通比とから前記スイッチ手段を前記所定の導通比でオンしたときの前記定着ヒータの消費電力を算出し、算出した前記消費電力と前記消費電力情報とを比較することで前記スイッチ手段の実際の導通比を算出し、実際の前記スイッチ手段の導通比と前記所定の導通比とが一致するように前記設定時間を補正することを特徴とする、
請求項1記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記実際の導通比と前記所定の導通比とが一致するような時間差を算出し、算出した前記時間差を前記設定時間に加算することを特徴とする、
請求項5記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記電圧検出手段から取得した前記電圧値から実効電圧値を算出し、前記実効電圧値と前記抵抗値情報と前記所定の導通比とに基づいて前記消費電力を算出することを特徴とする、
請求項5又は6記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記画像形成装置に電力を供給するために操作される電源スイッチをさらに有し、
前記制御手段は、前記画像形成装置の動作開始が、
前記電源スイッチがオフ状態からオン状態へ変化による起動である場合に、前記定着ヒータの前記消費電力を算出し、算出した前記消費電力と前記消費電力情報との比較の結果に基づいて前記スイッチ手段の実際の導通比を算出し、実際の前記スイッチ手段の導通比と前記所定の導通比とが一致するように前記設定時間を補正することを特徴とする、
請求項5~7のいずれか1項記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記電圧値と前記抵抗値情報と50[%]の導通比とから前記スイッチ手段を前記50[%]の導通比でオンしたときの前記定着ヒータの前記消費電力を算出し、算出した前記消費電力と前記消費電力情報とを比較することで前記スイッチ手段の実際の導通比を算出し、実際の前記スイッチ手段の導通比と前記所定の導通比とが一致するように前記設定時間を補正することを特徴とする、
請求項8記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記制御手段は、実際の前記スイッチ手段の導通比と前記所定の導通比との差分が所定値以下になるまで前記設定時間の補正を繰り返し行うことを特徴とする、
請求項8又は9記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像が形成されたシート等の記録材を加熱することで、記録材に画像を定着させる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用して画像形成を行う画像形成装置は、記録材を加熱して画像を定着させる定着器を備えるものがある。定着器に電力を効率よく供給して定着器の温度制御を迅速に行うことは、画像形成装置による印刷処理の高速化に重要である。
【0003】
例えば複写機能を有する画像形成装置では、動作の開始指示から1枚目の成果物の出力までの時間(FCOT:First Copy Output Time)の短縮化が求められている。定着器に対する温度制御を迅速に行うことがFCOTの短縮につながる。定着器への電力供給量を可能な限り多くすることが、定着器の迅速な温度制御を実現する。しかし画像形成装置が使用可能な電力量には上限があるために、定着器の迅速な温度制御に限界がある。特許文献1には、定着器に供給される電圧及び電流を検出して定着器へ供給される電力量を精度よく検出することで、画像形成装置の定格電力及び定格電流の上限付近の電力を定着器へ効率よく供給してFCOTを短縮する技術が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
定着器へ供給される電力を検出し、その検出結果に基づいて定着器の最適な温度制御を行うためには、定着器への電力供給を正確に制御する必要がある。定着器への電力供給を位相制御により行う場合、商用電源から供給される交流電圧が0[V]となるタイミング(ゼロクロスタイミング)が検知される。ゼロクロスタイミングを基準として双方向サイリスタ(トライアック)をオンするタイミングを決定することで、定着器への電力供給が制御される。
【0006】
この場合、トライアックをオンにするタイミングは、ゼロクロスタイミングの検知精度に依存する。例えば、ゼロクロスタイミングの検知精度が低い場合には、トライアックをオンするタイミングが理想的なタイミングからズレてしまい、定着器へ供給する電力量と理想的な電力量との間に誤差が発生する。定着器の温度制御を行う場合、この誤差を含めて画像形成装置の定格電力及び定格電流を超えないような制御が必要になる。そのために定着ヒータへ最大電力を供給できなくなる可能性がある。そこで本発明では、定着器への電力供給を正確に行い、定着器の温度制御を高精度に行う画像形成装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の画像形成装置は、記録材に画像を形成する画像形成手段と、商用電源から供給される電力により発熱する定着ヒータを有し、前記定着ヒータの発熱により前記画像が形成された前記記録材を加熱することで、該記録材に該画像を定着させる定着手段と、前記定着ヒータの抵抗値を表す抵抗値情報を格納する格納手段と、前記商用電源から前記定着ヒータに供給される交流電圧のゼロクロスタイミングを検知するゼロクロス検知手段と、前記商用電源から前記定着ヒータに供給される交流電圧の電圧値を検出する電圧検出手段と、前記定着ヒータに流れる電流の電流値を検出する電流検出手段と、前記商用電源から前記定着ヒータへ電力を供給する経路上に設けられており、オン状態になることで定着ヒータに電力を供給するスイッチ手段と、前記ゼロクロスタイミングから所定の設定時間が経過すると前記スイッチ手段をオン状態にすることで前記定着ヒータへ電力を供給する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記電圧検出手段で検出した前記電圧値と、前記電流検出手段で検出した前記電流値と、前記定着ヒータの前記抵抗値情報と、に基づいて前記スイッチ手段の導通比を算出し、算出した前記導通比が所定の導通比に一致するように前記設定時間を調整することで、前記スイッチ手段がオン状態になるタイミングを補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、定着器への電力供給を正確に行い、定着器の温度制御を高精度に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】定着ヒータをオンにする制御のタイミングチャート。
【
図4】定着ヒータのオンタイミングの補正処理を表すフローチャート。
【
図6】定着ヒータのオンタイミングの補正処理を表すフローチャート。
【
図8】定着ヒータのオンタイミングの補正処理を表すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の画像形成装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の画像形成装置の構成例示図である。画像形成装置1は、印刷手段としてのプリンタ900を備える。プリンタ900は、イエロー(y)の画像形成部930y、マゼンタ(m)の画像形成部930m、シアン(c)の画像形成部930c、及びブラック(k)の画像形成部930k、中間転写ベルト906、給紙カセット910、及び定着器911を備える。
【0012】
各色の画像形成部930y、930m、930c、930kは同じ構成である。ここでは、イエローの画像形成部930yの構成について説明し、他の色の画像形成部930m、930c、930kの構成についての説明を省略する。イエローの画像形成部930yは、感光体901y、帯電器902y、レーザユニット903y、及び現像器904yを備える。
【0013】
感光体901yは、ドラム形状であり、ドラム軸を中心に図中反時計回りに回転する。帯電器902yは、回転する感光体901yの表面を均一に帯電させる。レーザユニット903yは、イエローの画像データに応じて変調されたレーザ光を、表面が帯電された感光体901yに照射する。レーザ光の照射により、感光体901yは、表面にイエローの画像データに応じた静電潜像が形成される。現像器904yは、イエローの現像剤により感光体901y表面の静電潜像を現像する。これにより、感光体901yは、表面にイエローの画像データに応じた現像剤像が形成される。
【0014】
同様にして、マゼンタの画像形成部930mの感光体901mの表面に、マゼンタの画像データに応じた現像剤像が形成される。シアンの画像形成部930cの感光体901cの表面に、シアンの画像データに応じた現像剤像が形成される。ブラックの画像形成部930kの感光体901kの表面に、ブラックの画像データに応じた現像剤像が形成される。
【0015】
各感光体901y、901m、901c、901kは中間転写ベルト906に接する。各感光体901y、901m、901c、901kの中間転写ベルト906を挟んで対向する位置には、一次転写ローラ905y、905m、905c、905kが設けられる。一次転写ローラ905y、905m、905c、905kに電圧が印加されることで、各感光体901y、901m、901c、901kに形成された各色の現像剤像が、中間転写ベルト906に転写される。中間転写ベルト906は、図中時計回りに回転する。中間転写ベルト906の回転速度に応じたタイミングで各感光体901y、901m、901c、901kから現像剤像が順次転写されることで、中間転写ベルト906に現像剤像が重畳して形成される。これにより中間転写ベルト906にはフルカラーの現像剤像が形成される。
【0016】
中間転写ベルト906に形成された現像剤像は、中間転写ベルト906の回転により、二次転写内ローラ907及び二次転写外ローラ908で構成される二次転写部912に搬送される。二次転写部912には、中間転写ベルト906上の現像剤像が二次転写部912に搬送されるタイミングに合わせて、シート等の記録材913が搬送される。二次転写部912は、二次転写内ローラ907と二次転写外ローラ908との間に中間転写ベルト906及び記録材913を挟持搬送する。この際、二次転写部912に電圧が印加されることにより中間転写ベルト906から記録材913へ現像剤像が転写される。なお、記録材913は、給紙カセット910に収容されており、画像形成部930y、930m、930c、930kで現像剤像が形成されるタイミングに応じて1枚ずつ給紙される。記録材913は、給紙後に斜行等を補正され、タイミングを調整して二次転写部912に搬送される。
【0017】
現像剤像が転写された記録材913は、定着器911に搬送される。定着器911は、記録材913を加熱し、現像剤像が柔らかくなったところで加圧することで、記録材913の表面に現像剤像を定着させる。これにより記録材913への画像形成が終了する。画像形成が終了した記録材913は、定着器911から画像形成装置1の外部へ排出される。
【0018】
プリンタ900の上部にはユーザインタフェースとして操作部920が設けられる。操作部920は、キーボタンやタッチパネルを含む入力装置及びディスプレイやスピーカを含む出力装置を備える。画像形成装置1は、操作部920から入力される指示に応じて記録材913への印刷処理を実行する。ユーザは、操作部920のディスプレイに表示される設定画面から画像形成時の各種の条件(枚数、サイズ、紙種等)を設定することができる。
【0019】
図2は、定着器911の動作を制御するドライバの説明図である。定着器911は、ドライバ100により駆動制御される。定着器911は、ドライバ100を介して外部の商用電源500から供給される電力により発熱する。定着器911への電力供給は、ドライバ100により制御される。ドライバ100は、例えば画像形成装置1の全体動作を制御する不図示のメインコントローラからの指示により、定着器911の動作を制御する。
【0020】
定着器911は、記録材913を加熱するための定着ヒータ600を備える。定着ヒータ600は、内部に熱源となる発熱体620を備える。発熱体620は、供給される電力量に応じた発熱量で発熱する。定着ヒータ600の中央付近には、温度を検出するための不図示のサーミスタが配置される。また、定着器911は、メモリ630を内蔵する。メモリ630は、定着ヒータ600(発熱体620)の抵抗値を表す抵抗値情報が格納される。メモリ630には、例えばROM(Read Only Memory)が用いられる。
【0021】
ドライバ100は、ゼロクロス検知部101、電圧検出部102、電流検出部103、双方向サイリスタであるトライアック104、及びCPU(Central Processing Unit)105を備える。CPU105は、トライアック104に対して制御信号であるヒータオン信号(H-ON)を送信することで、トライアック104を所定の導通比でオン(導通)させることができる。トライアック104は、商用電源500から定着器911へ電力を供給する経路上に設けられており、オン状態になることで定着ヒータ600(発熱体620)に電力を供給するスイッチ素子である。
【0022】
ゼロクロス検知部101は、商用電源500から供給される交流電圧のゼロクロスタイミングを検知する。ゼロクロス検知部101は、商用電源500から供給される交流電圧の絶対値が所定値以下になったタイミングをゼロクロスタイミングとして検知する。ゼロクロス検知部101は、ゼロクロスタイミングを検知すると、CPU105に対してゼロクロスタイミングを検知したことを表すパルス信号(ゼロクロス信号)を送信する。電圧検出部102は、商用電源500から供給される交流電圧の電圧値Vを検出してCPU105へ送信する。電流検出部103は、定着器911に流される電流の電流値Iを検出してCPU105へ送信する。
【0023】
CPU105は、ゼロクロス検知部101からゼロクロス信号を取得することでゼロクロスタイミングを検知する。CPU105は、ゼロクロスタイミングを基点として、所定のサンプリング周波数(本実施形態では20[kHz])で、電圧検出部102から取得する電圧値Vの瞬時値を二乗して積算する。n回目(nは自然数)にサンプリングした電圧値Vの瞬時値をV(n)、次のゼロクロスタイミングまでのサンプリング回数をN(Nは自然数)とすると、交流電圧の電圧値Vの実効電圧値Vrmsは、以下の式で表される。
【0024】
【0025】
CPU105は、ゼロクロスタイミングを基点として、所定のサンプリング周波数(本実施形態では20[kHz])で、電流検出部103から取得する電流値Iの瞬時値を二乗して積算する。n回目(nは自然数)にサンプリングした電流値Iの瞬時値をI(n)、次のゼロクロスタイミングまでのサンプリング回数をN(Nは自然数)とすると、電流値Iの実効電流値Irmsは、以下の式で表される。
【0026】
【0027】
図3は、定着ヒータ600をオンにする制御のタイミングチャートである。
【0028】
CPU105は、ゼロクロス信号の取得タイミング(ゼロクロスタイミング)を基点にして、所定の設定時間Tn経過後にトライアック104にヒータオン信号を送信する。設定時間Tnは、予めテーブルに保存されており、制御周期毎に設定される。
図3では、制御周期(商用電源500から供給される交流電圧の2周期)毎に設定時間T1~T4が設定される。CPU105は、1つの制御周期中の最後の交流電圧の半波を除く期間でトライアック104がオンしている少なくとも一つの半波において、トライアック104の実際の導通比と理想的な所定の導通比との比較を行う。CPU105は、電圧検出部102から取得する電圧値V、電流検出部103から取得する電流値I、及びメモリ630に格納される抵抗値情報に基づいて、トライアック104の実際の導通比を算出する。
【0029】
実際のゼロクロスタイミングが想定からズレている場合(
図3中の実線)、トライアック104へのヒータオン信号の送信タイミングも、ゼロクロスタイミングのズレに応じたズレが生じる。そのために、実際の導通比と所定の導通比とに、ゼロクロスタイミングのズレ分の差が生じる。CPU105は、実際の導通比と所定の導通比との差を抑制して一致するように、ゼロクロスタイミングからヒータオン信号を出力するまでの時間(トライアック104をオンにするまでの時間)を補正する。具体的には、CPU105は、実際の導通比と所定の導通比とが一致するような時間差Txを算出して設定時間Tnに加算する。
【0030】
なお、1つの制御周期の最後の交流電圧の半波でトライアック104をオンにする時間の補正を行わないのは、次の制御周期までに補正のフィードバックが間に合わないためである。
【0031】
図4は、CPU105により実行される定着ヒータ600のオンタイミングの補正処理を表すフローチャートである。
【0032】
CPU105は、メモリ630から定着ヒータ600の抵抗値情報を取得する(S11)。CPU105は、画像形成装置1全体の動作を制御する不図示のメインコントローラから定着ヒータ600の加熱要求を取得するまで待機する(S12:N)。加熱要求を取得すると(S12:Y)、CPU105は、ゼロクロス検知部101からゼロクロス信号を取得することで、ゼロクロスタイミングを検知する(S13)。
【0033】
CPU105は、ゼロクロスタイミングを基点にして、予め設定された設定時間Tの経過後にヒータオン信号を出力してトライアック104をオンにする(S14)。CPU105は、制御周期中の最後の交流電圧の半波を除く期間でトライアック104をオンしている少なくとも一つの半波において、電圧検出部102及び電流検出部103の検出結果から実効電圧値Vrms及び実効電流値Irmsを取得する(S15)。実効電圧値Vrmsと抵抗値情報とから、トライアック104の導通比を100%として定着ヒータ600に電力供給した場合の実効電流値が算出可能である。CPU105は、実効電圧値Vrmsと抵抗値情報とによる実効電流値の算出結果と、S15の処理で取得した実効電流値Irmsとを比較することでトライアック104の実際の導通比を算出する(S16)。導通比の詳しい算出方法は後述する。
【0034】
CPU105は、次の制御周期までに、算出した実際の導通比と理想的な所定の導通比とが一致するように、ゼロクロスタイミングからヒータオン信号を出力するまでの時間(トライアック104をオンするまでの時間)を補正する(S17)。CPU105は、S13~S17の処理をヒータ加熱要求が終了するまで繰り返し行う(S18:N)。ヒータ加熱要求が終了すると(S18:Y)、CPU105は、処理を終了する。
【0035】
トライアック104の実際の導通比の算出方法について説明する。トライアック104を所定の導通比C[%]でオンしたときに定着ヒータ600に流れる電流の実効電流値の算出結果(Irms)は、以下の式により得られる。なお、この式は、商用電源500から供給される交流電圧の実効値を表す実効電圧値Vrms、発熱体620の抵抗値R、及び導通角θ(=cπ/100)を含む。
【0036】
【0037】
【0038】
図5は、導通比Cと実効電流値Irmsとの関係を表すグラフである。
図5は、(式4)をグラフ化したものである。CPU105は、実効電圧値Vrms、実効値Irms、及びメモリ630から取得した抵抗値情報による抵抗値Rを式(4)に代入して実際の導通比Cを算出することができる。
【0039】
以上のように定着ヒータ600の電流値に応じてトライアック104がオンになるタイミングを調整することで、定着ヒータ600に効率よく電力を供給することが可能となる。これにより、定着ヒータ600に供給可能な最大の電力が供給されることになる。そのために、FCOTの短縮が可能になる。
【0040】
(第2実施形態)
第1実施形態では、実効電流値に基づいて定着ヒータ600への電力の供給タイミングを調整しているが、第2実施形態では有効電力値に基づいてこの調整が行われる。画像形成装置1の構成及び定着器911の動作を制御するコントローラの構成は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0041】
CPU105は、ゼロクロス検知部101から取得したゼロクロス信号によりゼロクロスタイミングを検知する。CPU105は、ゼロクロスタイミングを基点として、所定のサンプリング周波数(本実施形態では20[kHz])で、電圧検出部102から取得する電圧値Vの瞬時値と電流検出部103から取得する電流値Iの瞬時値との積を積算する。n回目(nは自然数)にサンプリングした電圧値Vと電流値Iの瞬時値をそれぞれV(n)、I(n)、次のゼロクロスタイミングまでのサンプリング回数をN(Nは自然数)とすると、定着ヒータ600の消費電力Pは、以下の式で表される。
【0042】
【0043】
図6は、第2実施形態の定着ヒータ600のオンタイミングの補正処理を表すフローチャートである。
図4の第1実施形態のS11~S14の処理と同様に、CPU105は、抵抗値情報の取得からトライアック104をオンするまでの処理を行う(S21~S14)。
【0044】
CPU105は、1つの制御周期中の最後の交流電圧の半波を除く期間でトライアック104をオンしている少なくとも一つの半波において、実効電圧値Vrms及び定着ヒータ600の消費電力情報を取得する(S25)。定着ヒータ600の消費電力情報は、定着ヒータ600(発熱体620)の消費電力を表しており、例えばメモリ630に予め格納されてCPU105により読み取られる。実効電圧値Vrms、抵抗値情報、及び所定の導通比から、トライアック104を所定の導通比でオンしたときの定着ヒータ600の消費電力Pが算出される。そのためにCPU105は、算出した消費電力Pと消費電力情報とを比較することで実際のトライアック104の導通比を算出することができる(S26)。導通比の詳しい算出方法は後述する。
【0045】
CPU105は、次の制御周期までに、算出した実際の導通比と理想的な所定の導通比とが一致するように、ゼロクロスタイミングからヒータオン信号を出力するまでの時間(トライアック104をオンするまでの時間)を補正する(S27)。CPU105は、S23~S27の処理をヒータ加熱要求が終了するまで繰り返し行う(S28:N)。ヒータ加熱要求が終了すると(S28:Y)、CPU105は、処理を終了する。
【0046】
トライアック104の実際の導通比の算出方法について説明する。トライアック104を所定の導通比C[%]でオンしたときの定着ヒータ600の消費電力Pは、以下の式により得られる。なお、この式は、商用電源500から供給される交流電圧の実効値を表す実効電圧値Vrms、発熱体620の抵抗値R、及び導通角θ(=cπ/100)を含む。
【0047】
【0048】
【0049】
図7は、導通比Cと消費電力Pとの関係を表すグラフである。
図7は、(式7)をグラフ化したものである。CPU105は、実効電圧値Vrms及びメモリ630から取得した抵抗値情報Rを式(7)に代入して実際の導通比Cを算出することができる。
【0050】
以上のように定着ヒータ600の消費電力に応じてトライアック104のオンになるタイミングを調整することで、定着ヒータ600に効率よく電力を供給することが可能となる。これにより、定着ヒータ600に供給可能な最大の電力が供給されることになる。そのために、FCOTの短縮が可能になる。
【0051】
(第3実施形態)
第3実施形態は、定着ヒータ600のオンタイミングの補正方法が第1実施形態及び第2実施形態とは異なる。画像形成装置1の構成及び定着器911の動作を制御するコントローラの構成は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0052】
図8は、第3実施形態の定着ヒータ600のオンタイミングの補正処理を表すフローチャートである。
【0053】
CPU105は、画像形成装置1の動作開始の要因が、電源スイッチがオフ状態からオン状態に変化することによる起動か、或いはスリープ状態からの復帰であるかを判断する(S31)。ゼロクロスタイミングが想定から外れる原因には、供給される交流電圧及び周波数の変化がある。これらは画像形成装置1の電源スイッチがオフ状態になることで電力の供給が一旦遮断されないかぎり、大きく変動することはない。そのためにCPU105は、動作開始の要因が、電源スイッチがオフの状態からオン状態に変化することによる起動ではなくスリープ状態からの復帰の場合(S31:N)、定着ヒータ600への電力の供給タイミングの調整を行わずに処理を終了する。
【0054】
動作開始の要因が、電源スイッチがオフ状態からオン状態に変化することによる起動である場合(S31:Y)、CPU105は、メモリ630から抵抗値情報を取得する(S32)。その後、CPU105は、ゼロクロス検知部101からゼロクロス信号を取得することで、ゼロクロスタイミングを検知する(S33)。CPU105は、ゼロクロスタイミングを基点にして設定時間経過後にヒータオン信号を出力してトライアック104を50[%]の導通比でオンにする(S34)。ここで、はじめに導通比を50[%]とするのは、ゼロクロスタイミングのズレによる定着ヒータ600への電力供給のタイミングのズレが最も大きくなり、ゼロクロスタイミングの補正精度が上がるためである。
【0055】
CPU105は、
図6のS25の処理と同様に、実効電圧値Vrms及び定着ヒータ600の消費電力情報を取得する(S35)。実効電圧値Vrms及び抵抗値情報から、トライアック104を50[%]の導通比でオンしたときの定着ヒータ600の消費電力Pが算出される。CPU105は、算出した消費電力Pと消費電力情報とを比較することで実際のトライアック104の導通比を算出することができる(S36)。算出方法は第2実施形態と同様である。
【0056】
CPU105は、50[%]の導通比と実際の導通比とを比較した差分が所定値を超えているか否かを判断する(S37)。差分が所定値を超えている場合(S37:Y)、CPU105は、実際の導通比が50[%]になるように、ゼロクロスタイミングを補正する(S38)。CPU105は、S33~S37の処理を差分が所定値以下になるまで繰り返し行う。差分が所定値以下になる場合(S37:N)、CPU105は、処理を終了する。
【0057】
以上のようにゼロクロスタイミングの補正精度が向上し、トライアック104のオンになるタイミングを高精度に調整することで、定着ヒータ600に効率よく電力を供給することが可能となる。これにより、定着ヒータ600に供給可能な最大の電力が供給されることになる。そのために、FCOTの短縮が可能になる。