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特許7500361インクジェット印刷装置およびインクジェット印刷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置およびインクジェット印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
B41J2/01 201
B41J2/01 305
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020153304
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022047403
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】奥島 智靖
(72)【発明者】
【氏名】松本 一平
(72)【発明者】
【氏名】池田 勇太
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/169237(WO,A1)
【文献】特開2016-074101(JP,A)
【文献】特開2007-237402(JP,A)
【文献】特開2008-000903(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0062010(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷装置であって、
記録媒体を既定の搬送方向に搬送する搬送部と、
前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に向けてインクを吐出するインク吐出部と、
前記インク吐出部にインクを吐出させる吐出制御部と、
を備え、
前記吐出制御部は、
前記記録媒体の搬送速度を算出する速度算出処理と、
前記インク吐出部がインクを吐出する基準タイミングを生成する基準タイミング生成処理と、
前記基準タイミングにおける前記搬送速度に基づいて、前記基準タイミングが発生した後、前記インク吐出部がインクを吐出するまでの前記記録媒体の搬送距離に相当する目標遅延量を決定する目標遅延量決定処理と、
前記基準タイミング生成処理によって前記基準タイミングが生成された時刻よりも後、前記目標遅延量決定処理によって決定した前記目標遅延量だけ前記記録媒体が搬送される前に、前記速度算出処理によって取得される前記搬送速度が変化した場合、変化後の前記搬送速度に応じて前記目標遅延量を新しい目標遅延量に更新する目標遅延量更新処理と、
前記目標遅延量更新処理によって更新された前記目標遅延量に基づいて、前記インク吐出部がインクを吐出するタイミングを遅延させる吐出遅延処理と、
を実行可能である、インクジェット印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記搬送部によって搬送される前記記録媒体の搬送速度に応じたパルス信号を出力するエンコーダ、をさらに備え、
前記速度算出処理は、前記パルス信号に基づいて、前記搬送速度を算出する処理である、インクジェット印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記吐出制御部は、
前記基準タイミングを示す基準タイミング信号を生成する基準タイミング信号生成部と、
前記基準タイミング信号よりも短い周期のサブタイミング信号を生成するサブタイミング信号生成部と、
前記基準タイミング信号を取得した場合、前記搬送速度に基づいて前記目標遅延量を決定する目標遅延量決定部と、
前記目標遅延量に対応するサブタイミング信号に基づいて、前記インク吐出部にインクを吐出させる吐出遅延部と、
を備え、
前記目標遅延量決定部は、前記目標遅延量だけ前記記録媒体が搬送される前に前記搬送速度が変化した場合、変化した前記搬送速度に応じて目標遅延量を更新する、インクジェット印刷装置。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記吐出遅延部は、
前記基準タイミング信号を取得した後、前記サブタイミング信号をカウントすることによって現在遅延量を取得し、前記現在遅延量が前記目標遅延量に達した場合に、前記インク吐出部からインクを吐出させる、インクジェット印刷装置。
【請求項5】
請求項4に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記吐出遅延部は、
前記現在遅延量が前記目標遅延量に達する前に、前記目標遅延量決定部が前記目標遅延量を更新した場合、前記現在遅延量が更新された前記目標遅延量に基づいて、前記インク吐出部からインクを吐出させる、インクジェット印刷装置。
【請求項6】
請求項3から請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記目標遅延量決定部は、前記サブタイミング信号に応じて、前記搬送速度を取得して、前記目標遅延量を決定する、インクジェット印刷装置。
【請求項7】
請求項3から請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記目標遅延量決定部は、前記搬送速度が加速中の速度である場合、前記搬送速度が減速中の速度であるときよりも、前記目標遅延量を小さくする、インクジェット印刷装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記吐出制御部は、インクが前記インク吐出部から吐出されてから前記記録媒体に付着するまでの飛翔時間に基づいて、前記目標遅延量を決定する、インクジェット印刷装置。
【請求項9】
請求項8に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記搬送速度と前記目標遅延量の対応を規定する遅延量テーブルを記憶する記憶部、
をさらに備え、
前記吐出制御部は、前記遅延量テーブルに基づいて前記目標遅延量を決定する、インクジェット印刷装置。
【請求項10】
請求項9に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記遅延量テーブルは、複数の前記搬送速度の区域ごとに前記目標遅延量を規定しており、
前記搬送速度の区域が、前記飛翔時間に基づいて規定されている、インクジェット印刷装置。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記搬送部による前記記録媒体の搬送速度を制御する搬送制御部、
をさらに備え、
前記記憶部は、
前記搬送制御部が前記搬送速度を加速または減速させるときに適用する加減速テーブル、を記憶し、
前記加減速テーブルは、時間と搬送速度の対応関係を規定し、
前記吐出制御部は、
前記搬送速度と加減速テーブルとに基づいて、前記目標遅延量を決定する、インクジェット印刷装置。
【請求項12】
インクジェット印刷方法であって、
(a) 記録媒体を既定の搬送方向に搬送する工程と、
(b) 基準タイミングを生成する工程と、
(c) 前記記録媒体の搬送速度を取得する工程と、
前記基準タイミングにおける前記記録媒体の搬送速度に基づいて、前記基準タイミングが発生した後、インク吐出部がインクを吐出するまでの前記記録媒体の搬送距離に相当する目標遅延量を決定する工程と、
前記基準タイミングが生成された時刻よりも後、前記工程()によって決定した前記目標遅延量だけ前記記録媒体が搬送される前に前記搬送速度が変化した場合、変化後の前記搬送速度に応じて前記目標遅延量を新たな目標遅延量に更新する工程と、
) 前記工程()によって更新された前記目標遅延量に基づいて、前記インク吐出部からインクを吐出させる工程と、
を含む、インクジェット印刷方法。
【請求項13】
インクジェット印刷装置であって、
記録媒体を既定の搬送方向に搬送する搬送部と、
前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に向けてインクを吐出するインク吐出部と、
前記インク吐出部にインクを吐出させる吐出制御部と、
を備え、
前記吐出制御部は、 前記記録媒体の搬送速度を算出する速度算出処理と、
前記インク吐出部がインクを吐出する基準タイミングを生成する基準タイミング生成処理と、
前記基準タイミングにおける前記搬送速度に基づいて、前記基準タイミングが発生した後、前記インク吐出部がインクを吐出するまでの前記記録媒体の搬送距離に相当する目標遅延量を決定する目標遅延量決定処理と、
前記目標遅延量決定処理によって決定した前記目標遅延量だけ前記記録媒体が搬送される前に前記搬送速度が変化した場合、変化後の前記搬送速度に応じて目標遅延量を更新する目標遅延量更新処理と、
前記目標遅延量更新処理によって更新された前記目標遅延量に基づいて、前記インク吐出部がインクを吐出するタイミングを遅延させる吐出遅延処理と、
を実行可能であり、
前記吐出制御部は、
前記基準タイミングを示す基準タイミング信号を生成する基準タイミング信号生成部と、
前記基準タイミング信号よりも短い周期のサブタイミング信号を生成するサブタイミング信号生成部と、
前記基準タイミング信号を取得した場合、前記搬送速度に基づいて前記目標遅延量を決定する目標遅延量決定部と、
前記目標遅延量に対応するサブタイミング信号に基づいて、前記インク吐出部にインクを吐出させる吐出遅延部と、
を備え、
前記目標遅延量決定部は、前記目標遅延量だけ前記記録媒体が搬送される前に前記搬送速度が変化した場合、変化した前記搬送速度に応じて目標遅延量を更新する、インクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷装置およびインクジェット印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体に画像を記録する際、所定の搬送方向に搬送される記録媒体に対し、ノズルからインクを周期的に吐出するインクジェット印刷装置が用いられる場合がある。インクジェット印刷装置では、記録媒体におけるインクの吐出対象位置が搬送方向についての所定の吐出基準位置に移動したタイミングでそれぞれインクの吐出を行うことにより、搬送方向について適切な間隔でインクを着弾させることで、適正な画像を形成できる。
【0003】
インクジェット記録装置では、通常、一定速度で記録媒体を搬送させながら画像を記録するが、記録媒体の搬送速度が変動した場合には、記録媒体の吐出対象位置が上記吐出基準位置に移動したタイミングでインクが吐出されるようにインクの吐出タイミングが調整される。
【0004】
また、印刷中に、記録媒体の搬送速度が変化すると、インク吐出部がインクを吐出してから、記録媒体に着弾するまでの飛翔時間中に、記録媒体の移動距離が変化する。すなわち、飛翔時間中の記録媒体の移動距離が変化すると、インクの着弾位置にずれが生じることによって、画質が低下する。特許文献1では、記録媒体上のインクの吐出対象位置が、吐出基準位置に移動した吐出基準タイミングから、吐出基準タイミングにおける記録媒体の搬送速度に応じた遅延時間が経過したタイミングで、インク吐出部からインクを吐出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/169237
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、吐出基準タイミングにおける搬送速度に基づいて遅延時間が決定されている。このため、吐出基準タイミング以降に搬送速度が変動した場合、飛翔時間中の記録媒体の移動距離が変化することによって、インクの着弾位置を補正することが困難となるおそれがあった。
【0007】
本発明の目的は、搬送速度の変化に応じて、インクの着弾位置を適切に補正する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、第1態様は、インクジェット印刷装置であって、記録媒体を既定の搬送方向に搬送する搬送部と、前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に向けてインクを吐出するインク吐出部と、前記インク吐出部にインクを吐出させる吐出制御部と、を備え、前記吐出制御部は、前記記録媒体の搬送速度を算出する速度算出処理と、前記インク吐出部がインクを吐出する基準タイミングを生成する基準タイミング生成処理と、前記基準タイミングにおける前記搬送速度に基づいて、前記基準タイミングが発生した後、前記インク吐出部がインクを吐出するまでの前記記録媒体の搬送距離に相当する目標遅延量を決定する目標遅延量決定処理と、前記基準タイミング生成処理によって前記基準タイミングが生成された時刻よりも後、前記目標遅延量決定処理によって決定した前記目標遅延量だけ前記記録媒体が搬送される前に、前記速度算出処理によって取得される前記搬送速度が変化した場合、変化後の前記搬送速度に応じて前記目標遅延量を新しい目標遅延量に更新する目標遅延量更新処理と、前記目標遅延量更新処理によって更新された前記目標遅延量に基づいて、前記インク吐出部がインクを吐出するタイミングを遅延させる吐出遅延処理とを実行可能である。
【0009】
第2態様は、第1態様のインクジェット印刷装置であって、前記搬送部によって搬送される前記記録媒体の搬送速度に応じたパルス信号を出力するエンコーダ、をさらに備え、前記速度算出処理は、前記パルス信号に基づいて、前記搬送速度を算出する処理である。
【0010】
第3態様は、第2態様のインクジェット印刷装置であって、前記吐出制御部は、前記基準タイミングを示す基準タイミング信号を生成する基準タイミング信号生成部と、前記基準タイミング信号よりも短い周期のサブタイミング信号を生成するサブタイミング信号生成部と、前記基準タイミング信号を取得した場合、前記搬送速度に基づいて前記目標遅延量を決定する目標遅延量決定部と、前記目標遅延量に対応するサブタイミング信号に基づいて、前記インク吐出部にインクを吐出させる吐出遅延部と、を備え、前記目標遅延量決定部は、前記目標遅延量だけ前記記録媒体が搬送される前に前記搬送速度が変化した場合、変化した前記搬送速度に応じて目標遅延量を更新する。
【0011】
第4態様は、第3態様のインクジェット印刷装置であって、前記吐出遅延部は、前記基準タイミング信号を取得した後、前記サブタイミング信号をカウントすることによって現在遅延量を取得し、前記現在遅延量が前記目標遅延量に達した場合に、前記インク吐出部からインクを吐出させる。
【0012】
第5態様は、第4態様のインクジェット印刷装置であって、前記吐出遅延部は、前記現在遅延量が前記目標遅延量に達する前に、前記目標遅延量決定部が前記目標遅延量を更新した場合、前記現在遅延量が更新された前記目標遅延量に基づいて、前記インク吐出部からインクを吐出させる。
【0013】
第6態様は、第3態様から第5態様のいずれか1つのインクジェット印刷装置であって、前記目標遅延量決定部は、前記サブタイミング信号に応じて、前記搬送速度を取得して、前記目標遅延量を決定する。
【0014】
第7態様は、第3態様から第6態様のいずれか1つのインクジェット印刷装置であって、前記目標遅延量決定部は、前記搬送速度が加速中の速度である場合、前記搬送速度が減速中の速度であるときよりも、前記目標遅延量を小さくする。
【0015】
第8態様は、第1態様から第7態様のいずれか1つのインクジェット印刷装置であって、前記吐出制御部は、インクが前記インク吐出部から吐出されてから前記記録媒体に付着するまでの飛翔時間に基づいて、前記目標遅延量を決定する。
【0016】
第9態様は、第8態様のインクジェット印刷装置であって、前記搬送速度と前記目標遅延量の対応を規定する遅延量テーブルを記憶する記憶部、をさらに備え、前記吐出制御部は、前記遅延量テーブルに基づいて前記目標遅延量を決定する。
【0017】
第10態様は、第9態様のインクジェット印刷装置であって、前記遅延量テーブルは、複数の前記搬送速度の区域ごとに前記目標遅延量を規定しており、前記搬送速度の区域が、前記飛翔時間に基づいて規定されている。
【0018】
第11態様は、第9態様または第10態様のインクジェット印刷装置であって、前記搬送部による前記記録媒体の搬送速度を制御する搬送制御部、をさらに備え、前記記憶部は、前記搬送制御部が前記搬送速度を加速または減速させるときに適用する加減速テーブル、を記憶し、前記加減速テーブルは、時間と搬送速度の対応関係を規定し、前記吐出制御部は、前記搬送速度と加減速テーブルとに基づいて、前記目標遅延量を決定する。
【0019】
第12態様は、インクジェット印刷方法であって、(a)記録媒体を既定の搬送方向に搬送する工程と、(b)基準タイミングを生成する工程と、(c)前記記録媒体の搬送速度を取得する工程と、前記基準タイミングにおける前記記録媒体の搬送速度に基づいて、前記基準タイミングが発生した後、インク吐出部がインクを吐出するまでの前記記録媒体の搬送距離に相当する目標遅延量を決定する工程と、(前記基準タイミングが生成された時刻よりも後、前記工程()によって決定した前記目標遅延量だけ前記記録媒体が搬送される前に前記搬送速度が変化した場合、変化後の前記搬送速度に応じて前記目標遅延量を新たな目標遅延量に更新する工程と、()前記工程()によって更新された前記目標遅延量に基づいて、前記インク吐出部からインクを吐出させる工程とを含む。
第13態様は、インクジェット印刷装置であって、記録媒体を既定の搬送方向に搬送する搬送部と、前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に向けてインクを吐出するインク吐出部と、前記インク吐出部にインクを吐出させる吐出制御部と、を備え、前記吐出制御部は、前記記録媒体の搬送速度を算出する速度算出処理と、前記インク吐出部がインクを吐出する基準タイミングを生成する基準タイミング生成処理と、前記基準タイミングにおける前記搬送速度に基づいて、前記基準タイミングが発生した後、前記インク吐出部がインクを吐出するまでの前記記録媒体の搬送距離に相当する目標遅延量を決定する目標遅延量決定処理と、前記目標遅延量決定処理によって決定した前記目標遅延量だけ前記記録媒体が搬送される前に前記搬送速度が変化した場合、変化後の前記搬送速度に応じて目標遅延量を更新する目標遅延量更新処理と、前記目標遅延量更新処理によって更新された前記目標遅延量に基づいて、前記インク吐出部がインクを吐出するタイミングを遅延させる吐出遅延処理と、を実行可能であり、前記吐出制御部は、前記基準タイミングを示す基準タイミング信号を生成する基準タイミング信号生成部と、前記基準タイミング信号よりも短い周期のサブタイミング信号を生成するサブタイミング信号生成部と、前記基準タイミング信号を取得した場合、前記搬送速度に基づいて前記目標遅延量を決定する目標遅延量決定部と、前記目標遅延量に対応するサブタイミング信号に基づいて、前記インク吐出部にインクを吐出させる吐出遅延部と、を備え、前記目標遅延量決定部は、前記目標遅延量だけ前記記録媒体が搬送される前に前記搬送速度が変化した場合、変化した前記搬送速度に応じて目標遅延量を更新する。
【発明の効果】
【0020】
第1態様のインクジェット印刷装置によると、基準タイミングの後に搬送速度が変化した場合には、変化した搬送速度に応じて目標遅延量が更新され、更新された目標遅延量に基づいて、インクが吐出される。これにより、搬送速度の変化に応じて、インクの着弾位置を適切に補正できる。
【0021】
第2態様のインクジェット印刷装置によると、エンコーダが出力するパルス信号に基づいて、搬送速度を算出できる。
【0022】
第3態様のインクジェット印刷装置によると、搬送速度の変化に対応して、インク吐出部からインクを吐出するタイミングを、基準タイミング信号の周期よりも短い周期のサブタイミング信号に基づいて遅延させることができる。
【0023】
第4態様のインクジェット印刷装置によると、サブタイミング信号をカウントすることによって、目標遅延量が経過したかを判定できる。
【0024】
第5態様のインクジェット印刷装置によると、現在遅延量が目標遅延量に到達する前に搬送速度が変動した場合、変動した搬送速度に対応する目標遅延量に基づいて、インクの吐出が遅延される。これにより、搬送速度の変動に合わせたタイミングでインクを吐出できる。
【0025】
第6態様のインクジェット印刷装置によると、サブタイミグ信号が生成される周期で速度情報が取得されて目標遅延量が決定される。このため、搬送速度が短時間で変化した場合にも、搬送速度の変化に適したタイミングでインクを吐出できる。
【0026】
第6態様のインクジェット印刷装置によると、搬送速度が加速中の速度である場合、減速中の速度であるときよりも、飛翔時間中に記録媒体の進む距離が相対的に大きくなる。このため、搬送速度が加速中の速度である場合、減速中の速度であるときよりも、目標遅延量を大きくすることによって、インクの着弾位置を適切に補正できる。
【0027】
第8態様のインクジェット印刷装置によると、飛翔時間に応じて目標遅延量を決定できるため、インクの着弾位置を適切に補正できる。
【0028】
第9態様のインクジェット印刷装置によると、遅延量テーブルに基づいて、目標遅延量を決定できる。
【0029】
第10態様のインクジェット印刷装置によると、搬送速度の区域が飛翔時間に基づいて規定されるため、飛翔時間に合わせて、目標遅延量を規定できる。
【0030】
第11態様のインクジェット印刷装置によると、記録媒体の搬送速度の加速または減速によって生じる記録媒体の移動量の誤差に応じて、インクの着弾位置を適切に補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施形態に係るインクジェット印刷装置の構成を示す図である。
図2】ヘッドの吐出面を示す図である。
図3】吐出制御部の構成を示す図である。
図4】吐出制御部において生成される信号を示す図である。
図5】遅延量テーブルの例を示す図である。
図6】吐出制御部が実行する処理の流れを示す図である。
図7】目標遅延量に基づくインクの吐出を、概念的に説明するための図である。
図8】搬送速度と飛翔時間の関係を示す図である。
図9】減速中における記録媒体の搬送速度を示す図である。
図10】減速カーブの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張又は簡略化して図示されている場合がある。
【0033】
<1. 実施形態>
図1は、実施形態に係るインクジェット印刷装置1の構成を示す図である。インクジェット印刷装置1は、長尺帯状の記録媒体9をロールトゥロール方式で規定の搬送方向に搬送する。インクジェット印刷装置1は、搬送される記録媒体9の表面に向けてインクを吐出することによって、記録媒体9の表面に画像を形成する。記録媒体9は、例えば、紙またはフィルムである。図1に示すように、インクジェット印刷装置1は、搬送部10と、エンコーダ20と、搬送制御部30と、印刷部40とを備える。
【0034】
搬送部10は、第1ローラ11と、第2ローラ13と、搬送モータ15とを備える。第1ローラ11および第2ローラ13は、それぞれ記録媒体9の裏面を支持する外周面を有する。記録媒体9は、第2ローラ13の外周面に巻き付けられている。搬送モータ15は、第2ローラ13の回転軸に接続されている。搬送モータ15は、第2ローラ13を回転させることによって、記録媒体9を第1ローラ11から第2ローラ13へ移動させる。
【0035】
第1ローラ11は、ロール状に巻かれた記録媒体9を繰り出すローラであってもよい。また、第2ローラ13は、記録媒体9をロール状に巻き取るローラであってもよい。また、搬送方向における第1ローラ11と第2ローラ13の間に、記録媒体9を支持する複数の補助ローラが位置してもよい。
【0036】
エンコーダ20は、搬送部10によって搬送される記録媒体9の搬送速度に応じたパルス信号を出力する。エンコーダ20は、例えば搬送モータ15に取り付けられている。エンコーダ20は、搬送モータ15が所定の角度回転するごとに、パルス信号を出力する。なお、エンコーダ20は、第2ローラ13の回転を検出してもよい。
【0037】
搬送制御部30は、エンコーダ20が出力するパルス信号に基づいて搬送モータ15を制御することにより、搬送部10による記録媒体9の搬送速度を制御する。
【0038】
印刷部40は、4つの吐出制御部41と、4つのヘッド43(インク吐出部)とを有する。図1に示すように、ヘッド43は、搬送部10によって搬送される記録媒体9の上面(印刷対象面)に対向する吐出面45を有する。図1に示すように、吐出面45は、記録媒体9の上面とほぼ平行である。
【0039】
図2は、ヘッド43の吐出面45を示す図である。図2に示すように、吐出面45は、搬送方向に直交する幅方向に延びる略長方形状を有する。吐出面45は、インクを吐出する複数のノズル47(吐出口)を有する。複数のノズル47は、幅方向において等間隔で位置する。また、幅方向に並ぶ複数のノズル47は、搬送方向に複数の列(本例では2列)を形成している。1列目のノズル47は、2列目のノズル47に対して、幅方向にずれて位置する。
【0040】
ヘッド43は、搬送部10が搬送する記録媒体9に対して、各ノズル47からインクを吐出することにより、記録媒体9の上面に画像データに対応する画像を形成する。ヘッド43は、各ノズル47に対応する複数のインクジェット素子(不図示)を備える。インクジェット素子は、ノズル47からインクを噴射させる。インクジェット素子は、例えばインクが貯留されるインク室と、インク室の壁面を構成する圧電素子で構成される。圧電素子は、電圧が印加されると、インク室内のインクに圧力を加える。インクに圧力が加えられると、インク室に連通するノズル47からインクが噴射される。
【0041】
図1に示すように、4つのヘッド43は、搬送方向に沿って間隔をあけて並べられている。4つのヘッド43は、例えば、ブラック(K)、シアン(C)マゼンタ(M)、およびイエロー(Y)の4色のうちいずれか1色に対応するインクを吐出する。なお、各ヘッド43が吐出する色は、K、C、M、およびYに限定されない。また、ヘッド43の数は、4つに限定されるものではなく、1~3つ、あるいは5つ以上であってもよい。
【0042】
図3は、吐出制御部41の構成を示す図である。吐出制御部41は、ヘッド43の各吐出口からのインクの吐出を制御する。吐出制御部41は、基準タイミング信号生成部51、サブタイミング信号生成部53、速度算出部55、目標遅延量決定部57、吐出遅延部59を備える。吐出制御部41は、特定用途向け集積回路(ASIC)などの専用回路で構成され得る。ただし、吐出制御部41は、CPU等のプロセッサ、および、プロセッサと電気的に接続されたRAMなどを備えた一般的なコンピュータとして構成されていてもよい。プロセッサが、プログラムに従って動作することにより、吐出制御部41の各機能が実現されてもよい。
【0043】
図4は、吐出制御部41において生成される信号を示す図である。図4において、横軸は時間を示している。パルス信号EPは、記録媒体9が所定の距離進むごとにエンコーダ20から出力される。図3に示すように、エンコーダ20は、パルス信号EPを、基準タイミング信号生成部51と、速度算出部55と、搬送制御部30とに出力する。
【0044】
基準タイミング信号生成部51は、エンコーダ20が出力するパルス信号EPに基づいて基準タイミング信号STを生成する。基準タイミング信号STは、パルス信号EPから生成されるので記録媒体9の搬送速度の変動に関係なく、印刷解像度に相当する一定の時間間隔で生成される周期的な信号である。基準タイミング信号STの周期T1は、記録媒体9を一定の基準搬送速度で搬送した場合において、記録媒体9が印刷解像度の1ピッチ分を進むのに要する時間と一致していてもよい。例えば、基準搬送速度をVs、印刷解像度を600dpi(42[μm]ピッチ)とした場合、周期T1は、42[μm]をVsで割った値(=42[μm]/Vs)と一致していてもよい。基準タイミング信号生成部51は、生成した基準タイミング信号STを、サブタイミング信号生成部53および吐出遅延部59に出力する。
【0045】
仮に、記録媒体9が一定の基準搬送速度で搬送されており、かつ、ヘッド43のノズル47から基準タイミング信号STが示すタイミングでインクを吐出した場合には、目的とする印刷解像度のピッチで画像が形成される。基準タイミング信号STは、ヘッド43がインクを吐出する基準タイミングを示す信号である。基準タイミング信号生成部51が基準タイミング信号STを生成する処理は、吐出制御部41が基準タイミングを生成する処理に相当する。
【0046】
基準タイミング信号STのサイクルでインクを吐出する場合に、記録媒体9の搬送速度が変動すると、記録媒体9に対するインクの着弾位置のピッチにずれが生じる。これは、インクがヘッド43のノズル47から吐出されてから、記録媒体9に着弾するまでの時間(飛翔時間)中に、記録媒体9が移動する距離(移動量)が、記録媒体9の搬送速度に比例して変化するためである。着弾位置のピッチがずれた場合、印刷結果の画質が低下し得る。このため、吐出制御部41は、後述するように、記録媒体9の搬送速度の変化に応じて、基準タイミング信号STの基準パルスが発生してからヘッド43がインクを吐出するまでのずれ(遅延量)を可変する処理を実行することによって、インクの着弾位置を補正する。本実施形態においては、遅延量を管理する尺度として以下で述べるサブタイミング信号SUのパルス数(実質的には記録媒体9の搬送量)を使用する。
【0047】
サブタイミング信号生成部53は、基準タイミング信号STの周期T1よりも短い周期T2のサブタイミング信号SUを生成する。サブタイミング信号生成部53は、基準タイミング信号STを逓倍することによって、サブタイミング信号SUを生成してもよい。図4に示すサブタイミング信号SUは、基準タイミング信号STを8逓倍した信号である。図3に示すように、サブタイミング信号生成部53は、生成したサブタイミング信号SUを、目標遅延量決定部57および吐出遅延部59に出力する。
【0048】
速度算出部55は、エンコーダ20が出力するパルス信号EPを取得する時間に基づいて、記録媒体9の搬送速度を算出する。具体的には、速度算出部55は、エンコーダ20がパルス信号EPを出力するピッチ(図4の例では、100μm)を、連続する2つのパルス信号EPの時間間隔で割ることによって、搬送速度を算出する。速度算出部55は、算出した搬送速度を含む速度情報VDを、目標遅延量決定部57に出力する。なお、速度算出部55は、2つのパルス信号EPの時間間隔の逆数を速度情報VDとして目標遅延量決定部57に出力してもよい。
【0049】
目標遅延量決定部57は、速度算出部55が出力する速度情報VDに基づいて、目標遅延量を決定する。目標遅延量は、基準タイミング信号STの基準パルスが発生した後、ヘッド43がノズル47からインクを吐出するまでの遅延量を記録媒体9の搬送量を基準に示す情報である。図4の例では、目標遅延量は、基準タイミング信号STの1つ目のパルスが発生した時刻t1から実際にインクが吐出するまでの期間における記録媒体9の搬送距離のことである。本実施形態では、目標遅延量をサブタイミング信号SUのパルス数で管理している。前述の通り、サブタイミング信号SUは記録媒体9の搬送と同期して発生する基準タイミング信号STを逓倍して生成する信号である。よって、目標遅延量(記録媒体9の搬送量)をサブタイミング信号SUのパルス数を尺度に管理しても問題ない。
【0050】
ここで、インクジェット印刷装置1は、遅延量テーブル61を記憶する記憶部を備えていてもよい。目標遅延量決定部57は、遅延量テーブル61に基づいて目標遅延量を決定してもよい。遅延量テーブル61は、搬送速度と目標遅延量の対応関係を規定する情報である。各搬送速度に対応する目標遅延量は、予備的実験またはシミュレーションなどの理論的な計算に基づいて決定される。
【0051】
図5は、遅延量テーブル61の例を示す図である。図5に示すように、遅延量テーブル61は、異なる搬送速度の区域ごとに、目標遅延量を規定している。また、図5に示す例では、目標遅延量は、サブタイミング信号SUの数で規定されている。例えば、搬送速度が37~42mpmである場合には、目標遅延量はサブタイミング信号SU(=T2×20)が20発分発生する間に記録媒体9が搬送される距離であり、搬送速度が42~47mpmである場合には、目標遅延量はサブタイミング信号SU(=T2×19)が19発分発生する間に記録媒体9が搬送される距離である。目標遅延量決定部57は、遅延量テーブル61を参照することによって、速度算出部55が取得した搬送速度を含む区域に対応する目標遅延量を取得する。目標遅延量決定部57は、決定した目標遅延量を、吐出遅延部59に出力する。
【0052】
吐出遅延部59は、目標遅延量に対応するサブタイミング信号SUに基づいて、ヘッド43にインクを吐出させる。詳細には、吐出遅延部59は、基準タイミング信号STを取得した後にサブタイミング信号SUをカウントすることによって、現在遅延量(基準タイミング信号STを取得した後の記録媒体9の搬送量)を取得する。そして、現在遅延量が目標遅延量に達した場合、吐出遅延部59はヘッド43にインクを吐出させる。吐出遅延部59は、ヘッド43に設けられた各インクジェット素子に向けて、吐出信号ESを出力する。各インクジェット素子は、入力された吐出信号ESに応じて、ノズル47からインクを吐出する。
【0053】
図6は、吐出制御部41が実行する処理の流れを示す図である。まず、吐出遅延部59は、基準タイミング信号STを取得する(信号取得処理S1)。吐出遅延部59は、信号取得処理S1によって基準タイミング信号STを取得すると、現在遅延量をクリアする(クリア処理S2)。
【0054】
目標遅延量決定部57は、サブタイミング信号生成部53が出力するサブタイミング信号SUの周期で、速度情報VDを取得する(速度情報取得処理S3)。目標遅延量決定部57は、速度情報取得処理S3において、速度算出部55が出力した最新の速度情報VDを取得する。そして、目標遅延量決定部57は、取得した速度情報VDに基づいて、目標遅延量を決定する(目標遅延量決定処理S4)。目標遅延量は、記録媒体9の搬送量をサブタイミング信号SUの数を単位に示す情報である(図5参照)。目標遅延量決定部57は、決定した目標遅延量を、吐出遅延部59に出力する。
【0055】
吐出遅延部59は、目標遅延量を取得すると、現在遅延量が目標遅延量よりも小さいかを判定する(判定処理S5)。上述したように、吐出遅延部59は、サブタイミング信号生成部53が出力するサブタイミング信号SUをカウントし、カウントしたサブタイミング信号SUの数を、現在遅延量として取得する。すなわち、現在遅延量は、吐出遅延部59が基準タイミング信号STを取得してからカウントしたサブタイミング信号SUの数であり、吐出遅延部59が基準タイミング信号STを取得してからの記録媒体9の搬送量に相当する。
【0056】
吐出遅延部59は、判定処理S5において、現在遅延量が目標遅延量よりも小さいと判定した場合(Yesの場合)、サブタイミング信号SUをカウントする(カウント処理S6)。詳細には、吐出遅延部59は、カウント処理S6において、サブタイミング信号生成部53が1つのサブタイミング信号SUを出力するのを待機する。そして、吐出遅延部59は、サブタイミング信号SUを取得すると、現在遅延量であるサブタイミング信号SUのカウント数を1つ加算する。
【0057】
吐出遅延部59がカウント処理S6を実行すると、目標遅延量決定部57が、速度情報取得処理S3および目標遅延量決定処理S4を実行する。すなわち、目標遅延量決定部57が、サブタイミング信号SUの周期で、速度情報VDを取得し、取得した速度情報VDに基づいて目標遅延量を決定する。目標遅延量決定部57は、再度取得した速度情報VDが前回の速度情報VDと同じである場合(すなわち搬送速度が同じである場合)、前回と同じ目標遅延量を、再度、吐出遅延部59に出力する。一方、目標遅延量決定部57は、再度取得した速度情報VDが前回の速度情報VDから変動した場合(すなわち、搬送速度が変動した場合)、変動した速度情報VDに基づく新たな目標遅延量を、吐出遅延部59に出力する。
【0058】
吐出遅延部59は、目標遅延量が変動した場合、目標遅延量を更新し、更新された目標遅延量に基づいて、判定処理S5を実行する。このように、吐出遅延部59は、サブタイミング信号SUを1カウントするたびに、新たな目標遅延量と、現在遅延量とを比較する。
【0059】
吐出遅延部59は、判定処理S5において、現在遅延量が目標遅延量に達したと判定した場合(Noの場合)、吐出信号ESをヘッド43に出力する(吐出信号出力処理S7)。吐出信号ESが出力されることによって、ヘッド43の各ノズル47からインクが吐出される。
【0060】
図7は、目標遅延量に基づくインクの吐出を、概念的に説明するための図である。図7では、基準タイミング信号STaが出力された場合の遅延処理1、および、基準タイミング信号STbが出力された場合の遅延処理2を説明する。
【0061】
図7に示すように、目標遅延量決定部57は、基準タイミング信号STaに対応する基準タイミングにおける搬送速度V1に基づいて、目標遅延量Da1を決定する。例えば、基準タイミングにおける搬送速度が64mpmであった場合、目標遅延量Da1は、15発のサブタイミング信号SUに相当する(図5参照)。吐出遅延部59は、搬送速度がV1のままであった場合には、基準タイミング信号STaを取得してから目標遅延量Da1が経過するまでサブタイミング信号SUをカウントし、目標遅延量Da1に対応するサブタイミング信号SUに基づいて、インクを吐出させることとなる。しかしながら、図7に示すように、目標遅延量Da1が経過する前に、搬送速度がV1からV2(V1>V2)に低下した場合、目標遅延量決定部57は、搬送速度V2に応じた目標遅延量Da2を吐出遅延部59に出力し、吐出遅延部59が目標遅延量をDa1からDa2に更新する。このため、吐出遅延部59が目標遅延量Da2に対応するサブタイミング信号SUa1を取得した時点(基準タイミング信号STaを取得してから目標遅延量Da2が経過した時点)で、吐出遅延部59がヘッド43からインクを吐出させる。これにより、吐出されたインクが所定の飛翔時間を経て記録媒体9に着弾する。
【0062】
吐出遅延部59は、基準タイミング信号STbを取得した場合、先の基準タイミング信号STaを取得した場合の遅延処理1と同様の遅延処理2を実行する。なお、吐出遅延部59は、遅延処理2を遅延処理1と並行して実行する。吐出遅延部59は、基準タイミング信号STbを取得した場合も、基準タイミング信号STbが出力された時点での搬送速度(=V2)に応じた目標遅延量Db1が経過するまで、吐出を遅延させることとなる。しかしながら、図7に示す例では、目標遅延量Db1が経過するまでに、搬送速度がV2からV3に上昇している。このため、吐出遅延部59は、目標遅延量を、搬送速度V3に対応するDb2に更新する。ここでは、目標遅延量Db2は、目標遅延量Db1よりも小さい。吐出遅延部59は、目標遅延量Db2に対応するサブタイミング信号SUb1を取得した時点で、ヘッド43からインクを吐出させる。これにより、吐出されたインクが所定の飛翔時間を経て記録媒体9に着弾する。
【0063】
以上のように、吐出制御部41は、基準タイミングの搬送速度に基づいて目標遅延量を決定し、目標遅延量が示す量だけ記録媒体9が移動した時点でインクの吐出を行う。このため、インクが飛翔する間の記録媒体9の移動量分に応じて、着弾位置を適切に補正できる。
【0064】
また、搬送速度が基準タイミングから目標遅延量が示す量だけ記録媒体9が移動するまでの間に記録媒体9の搬送速度が変動した場合、吐出遅延部59は、変動した搬送速度に応じて目標遅延量を更新し、更新した目標遅延量が経過した時点でインクの吐出を行う。このため、基準タイミングの後に搬送速度が変動した場合にも、着弾位置を適切に補正できる。
【0065】
なお、図3に示すように、速度算出部55は、算出した搬送速度が、加速中であるか、減速中であるかを示す情報を、速度情報VDに含めてもよい。速度算出部55は、算出した搬送速度の履歴を、速度履歴情報63として記憶部に保存してもよい。速度算出部55は、新たに算出した搬送速度と、前回算出した搬送速度とを比較する。搬送速度が大きくなった場合には加速中であることを示す情報を、搬送速度が小さくなった場合には減速中であることを示す情報を、それぞれ速度情報VDに含めてもよい。
【0066】
また、目標遅延量決定部57は、速度情報VDが示す搬送速度が、加速中のものであるか、あるいは減速中のものであるかに応じて、目標遅延量を決定してもよい。例えば、目標遅延量決定部57は、加速中である場合には、減速中であるときよりも、目標遅延量を大きい値に決定してもよい。搬送速度が加速された場合、搬送速度が減速されるときと比較して、飛翔時間中の記録媒体9の移動量が長くなる。このため、搬送速度が減速される場合と比較して、飛翔時間中の記録媒体9の移動量が、相対的に長くなる。このため、加速中の場合には、減速中のときと比較して、目標遅延量を相対的に小さくする(吐出周期を短くする)ことによって、インクの着弾位置を適切に補正できる。
【0067】
また、遅延量テーブル61は、加速中に対応する加速時用テーブルと、減速中に対応する減速時用テーブルとを含んでいてもよい。目標遅延量決定部57は、加速中である場合には加速時用テーブルを、減速中である場合には減速時用テーブルを用いて、目標遅延量を決定してもよい。
【0068】
<飛翔時間に応じた目標遅延量の決定>
図8は、搬送速度と飛翔時間の関係を示す図である。インクの飛翔時間は、理想的には、記録媒体9の搬送速度によらず一定である。しかしながら、飛翔時間は、図8に示すように、搬送速度に応じて変動する場合がある。例えば、搬送速度に応じた周期でインクが吐出される場合、インク室内における圧電素子の周期的な変形によって、共振が発生する場合がある。共振が発生すると、インクの吐出速度が変化するため、飛翔時間が変化する可能性がある。
【0069】
このように、搬送速度に応じて飛翔時間が変化する場合には、目標遅延量決定部57は、飛翔時間に応じて目標遅延量を決定してもよい。この場合、例えば、遅延量テーブル61において規定される目標遅延量が、飛翔時間に応じて設定されていてもよい。例えば、図8に示すように、遅延量テーブル61に規定される搬送速度の区域を、一定間隔ではなく、飛翔時間に合わせて変動させてもよい。これにより、搬送速度の各区域における飛翔時間に合わせて、目標遅延量を適切に決定できる。したがって、搬送速度に応じた飛翔時間の変動に合わせて目標遅延量を決定できるため、インクの着弾位置を適切に補正できる。
【0070】
<加減速に応じた目標遅延量の決定>
図9は、減速中における記録媒体9の搬送速度を示す図である。図9に示すように、インクの飛翔時間中に、搬送速度がV1からV2に減速した場合、搬送速度をV1で一定とした場合と比較して、飛翔時間中の記録媒体9の移動量に誤差が生じる。この移動量の誤差は、図9中、三角形のハッチングで示す面積で表される。また、速度の傾き(加速度)が大きくなるに連れて、移動量の誤差も大きくなる。目標遅延量決定部57は、このような移動量の誤差に基づいて、目標遅延量を決定してもよい。
【0071】
例えば、速度算出部55は、目標遅延量決定部57に出力する速度情報VDに、加速度を示す情報を含めてもよい。速度算出部55は、加速度を、速度履歴情報63を参照することによって取得してもよい。目標遅延量決定部57は、速度情報VDに含まれる加速度に基づいて、目標遅延量を決定してもよい。また、加速度に応じた目標遅延量を規定する遅延量テーブルが、予め用意されていてもよい。
【0072】
<速度カーブに応じた目標遅延量の決定>
図10は、減速カーブC1の例を示す図である。図3に示すように、搬送制御部30は、搬送速度を制御する際、加減速テーブル65を適用してもよい。加減速テーブル65は、搬送速度を加速または減速する際の速度カーブを規定しており、搬送制御部30は搬送速度が規定された速度カーブとなるように搬送モータ15を制御する。図10に示す減速カーブC1は、加減速テーブル65で規定される速度カーブの例である。
【0073】
搬送速度が減速カーブC1に従って減速された場合、減速カーブC1における速度域ごとに、図9で説明した移動量の誤差(三角形の面積)が異なる。例えば、図10に示すように、減速カーブC1において、傾き(加速度)が大きいほど、移動量の誤差が大きくなる。このため、目標遅延量決定部57は、速度カーブの速度域に応じて、目標遅延量を決定してもよい。これにより、移動量の誤差に応じて、着弾位置を適切に補正できる。
【0074】
目標遅延量決定部57が速度カーブの速度域に応じて目標遅延量を決定する場合、図3に示すように、目標遅延量決定部57は加減速テーブル65を取得してもよい。そして、目標遅延量決定部57は、取得した加減速テーブル65に基づいて、速度算出部55によって算出された搬送速度の、速度カーブにおける速度域を特定してもよい。また、速度カーブの速度域に応じた目標遅延量を規定する遅延量テーブル61が、予め用意されていてもよい。
【0075】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 インクジェット印刷装置
10 搬送部
15 搬送モータ
20 エンコーダ
30 搬送制御部
41 吐出制御部
43 ヘッド(インク吐出部)
51 基準タイミング信号生成部
53 サブタイミング信号生成部
55 速度算出部
57 目標遅延量決定部
59 吐出遅延部
61 遅延量テーブル
65 加減速テーブル
9 記録媒体
C1 減速カーブ
EP パルス信号
ES 吐出信号
S6 カウント処理
ST 基準タイミング信号
SU サブタイミング信号
VD 速度情報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10