(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】ガス濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20240610BHJP
G01N 27/12 20060101ALI20240610BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
G01N27/26 381B
G01N27/12 A
G01N27/12 B
G01N27/00 K
(21)【出願番号】P 2020162516
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】梅島 康秀
(72)【発明者】
【氏名】亀田 未帆
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-032186(JP,A)
【文献】特開平07-225204(JP,A)
【文献】特開2007-256131(JP,A)
【文献】特表2008-537997(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0227025(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26
G01N 27/12
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定電位電解式ガスセンサからなり、電解液室に対して検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスの出入りが可能な開口を有し、前記検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスを検知する検知センサと、
定電位電解式ガスセンサからなり、電解液室に対して前記検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスの出入りが可能な開口を有し、前記検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスを検知する基準センサと、
前記検知センサと前記基準センサとを並設して収容するホルダと、
前記検知センサの素子出力に基づくガス濃度から前記基準センサの素子出力に基づくガス濃度を差し引いて前記検知対象ガスのガス濃度を算出する制御部と、を備え
、
前記検知センサと前記基準センサは、個別のケースの内部に電解液を保持する前記電解液室が設けられ、前記電解液室内に電極と多孔質体からなる電解液保持体とを有し、
前記検知センサのケースと前記基準センサのケースの外周全体を覆うように設けられる均熱ブロックと、
前記均熱ブロックの外周に設けられ、前記均熱ブロックを加熱するヒータと、
前記均熱ブロックに設けられ、前記検知センサと前記基準センサの周囲温度を検出する温度センサと、を備え、
前記ホルダには、前記検知センサと前記基準センサを並設した状態で、その周囲に前記均熱ブロック、前記ヒータが順に収容され、
前記制御部は、電源投入時に目標温度以上で前記検知センサと前記基準センサの使用上限温度以下の設定温度で前記ヒータを制御した後、前記温度センサの検出温度に基づいて前記検知センサと前記基準センサの周囲温度が目標温度になるように前記ヒータを制御することを特徴とするガス濃度測定装置。
【請求項2】
前記検知対象ガスを含む大気雰囲気の異なる位置には、ガス導入管を介して前記検知センサと接続される複数のガス採気口が設けられ、
前記制御部は、前記複数のガス採気口と前記検知センサとの間のガス流路を選択的に切替制御することを特徴とする請求項1に記載のガス濃度測定装置。
【請求項3】
前記検知対象ガス
を含む大気雰囲気中のガスを導入するガス導入路と、導入されたガスを排出するガス排出路とが前記検知センサのケースの前記電極の検知極側に形成される第1のガス導入治具と、
前記検知対象ガス
を含まない大気雰囲気中のガ
スを導入するガス導入路と、導入されたガスを排出するガス排出路とが前記基準センサのケースの前記電極の検知極側に形成される第2のガス導入治具とが前記ホルダの開口部を介して設けられ、
前記第1のガス導入治具と前記検知センサのケースとの間および前記第2のガス導入治具と前記基準センサのケースとの間には、導入されるガスを前記検知センサおよび前記基準センサの周囲温度と同等の温度に加熱するための予熱空間が形成されることを特徴とする請求項1
または2に記載のガス濃度測定装置。
【請求項4】
前記第1のガス導入治具は、前記検知センサのケースに対して可動自在に設けられ、前記予熱空間の容積が調整可能であり、
前記第2のガス導入治具は、前記基準センサのケースに対して可動自在に設けられ、前記予熱空間の容積が調整可能であることを特徴とする請求項
3に記載のガス濃度測定装置。
【請求項5】
前記予熱空間には、導入されるガスの温度変動を抑制する部材が収容されることを特徴とする請求項
3または
4に記載のガス濃度測定装置。
【請求項6】
前記電解液保持体は、内部に中空の空間部を有していることを特徴とする請求項
1~
5の何れかに記載のガス濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低濃度のガスを高精度で測定する定電位電解式ガスセンサを用いたガス濃度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解液を介した2つの電極間に電位差があるとき、2つの電極間を導体で電気的に接続すると、各電極表面で酸化反応と還元反応がそれぞれ同時進行し、導体に電流が流れる。この電流を検出することでガスの濃度を知る方式のセンサを一般に電気化学式センサと呼んでいる。例えば、ガルバニ電池式酸素センサ、定電位電解式センサ、固体電解質式センサなどが電気化学式センサとして挙げられる。
【0003】
この種の電気化学式センサの1つである定電位電解式ガスセンサは、電解液を介した反応極と参照極間を一定の電位に保つことで、特定のガスに対する酸化または還元反応を選択的に進行させ、その際に生ずる電解電流の大きさでガス濃度を測定する。
【0004】
定電位電解式ガスセンサは、例えば一酸化炭素、硫化水素、半導体材料ガス、ハロゲン、オゾン、窒化酸化物、塩化水素などを検知対象ガスとして、高感度な測定が可能(例:CO分解能1ppm)であり、ガス選択性に優れている。
【0005】
ところが、定電位電解式ガスセンサの素子は、化学反応を利用しているため、大気雰囲気中(検知対象ガスが存在しない環境)における出力(以下、これをゼロ点出力とよぶ。)が日や時間によって変動(ドリフト)することがある(以下、これをゼロ点ドリフトとよぶ。)
【0006】
このため、1つの定電位電解式ガスセンサを用いて大気雰囲気中の検知対象ガスの濃度を測定する場合、特に検知対象ガス以外のガスの影響により、大きなゼロ点ドリフトが発生するという問題があった。
【0007】
ここで、上述したゼロ点ドリフトの問題を解消するため、例えば下記特許文献1~3に開示されるように、検知対象ガスがある状態とない状態の測定値を比較することが考えられる。この手法は、フィルタの無い測定用センサとフィルタの有る補償用センサの組み合わせを同時に動作させるものであり、センサの補正だけでなく、測定値の精度を上げるために使われることも多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-165887号公報
【文献】特開2013-213822号公報
【文献】特許第6253844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した手法では、例えばエチレンを検知対象ガスとした場合、エチレンのフィルタが補償用センサに必要となる。その際、エチレンの除去フィルムは、世の中に存在するが、それほど早くエチレンを吸収、分解することができない。しかも、エチレンを除去した状態でガスを一定流量で循環させるのに長時間を要し、加えて定期的なフィルタの交換作業も必要になるという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、フィルタを使用せずにゼロ点ドリフトを低減することができるガス濃度測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載されたガス濃度測定装置は、定電位電解式ガスセンサからなり、電解液室に対して検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスの出入りが可能な開口を有し、前記検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスを検知する検知センサと、
定電位電解式ガスセンサからなり、電解液室に対して前記検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスの出入りが可能な開口を有し、前記検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスを検知する基準センサと、
前記検知センサと前記基準センサとを並設して収容するホルダと、
前記検知センサの素子出力に基づくガス濃度から前記基準センサの素子出力に基づくガス濃度を差し引いて前記検知対象ガスのガス濃度を算出する制御部と、を備え、
前記検知センサと前記基準センサは、個別のケースの内部に電解液を保持する前記電解液室が設けられ、前記電解液室内に電極と多孔質体からなる電解液保持体とを有し、
前記検知センサのケースと前記基準センサのケースの外周全体を覆うように設けられる均熱ブロックと、
前記均熱ブロックの外周に設けられ、前記均熱ブロックを加熱するヒータと、
前記均熱ブロックに設けられ、前記検知センサと前記基準センサの周囲温度を検出する温度センサと、を備え、
前記ホルダには、前記検知センサと前記基準センサを並設した状態で、その周囲に前記均熱ブロック、前記ヒータが順に収容され、
前記制御部は、電源投入時に目標温度以上で前記検知センサと前記基準センサの使用上限温度以下の設定温度で前記ヒータを制御した後、前記温度センサの検出温度に基づいて前記検知センサと前記基準センサの周囲温度が目標温度になるように前記ヒータを制御することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2に記載されたガス濃度測定装置は、請求項1のガス濃度測定装置において、
前記検知対象ガスを含む大気雰囲気の異なる位置には、ガス導入管を介して前記検知センサと接続される複数のガス採気口が設けられ、
前記制御部は、前記複数のガス採気口と前記検知センサとの間のガス流路を選択的に切替制御することを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項3に記載されたガス濃度測定装置は、請求項1または2のガス濃度測定装置において、
前記検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスを導入するガス導入路と、導入されたガスを排出するガス排出路とが前記検知センサのケースの前記電極の検知極側に形成される第1のガス導入治具と、
前記検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスを導入するガス導入路と、導入されたガスを排出するガス排出路とが前記基準センサのケースの前記電極の検知極側に形成される第2のガス導入治具とが前記ホルダの開口部を介して設けられ、
前記第1のガス導入治具と前記検知センサのケースとの間および前記第2のガス導入治具と前記基準センサのケースとの間には、導入されるガスを前記検知センサおよび前記基準センサの周囲温度と同等の温度に加熱するための予熱空間が形成されることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項4に記載されたガス濃度測定装置は、請求項3のガス濃度測定装置において、
前記第1のガス導入治具は、前記検知センサのケースに対して可動自在に設けられ、前記予熱空間の容積が調整可能であり、
前記第2のガス導入治具は、前記基準センサのケースに対して可動自在に設けられ、前記予熱空間の容積が調整可能であることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項5に記載されたガス濃度測定装置は、請求項3または4のガス濃度測定装置において、
前記予熱空間には、導入されるガスの温度変動を抑制する部材が収容されることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項6に記載されたガス濃度測定装置は、請求項1~5の何れかのガス濃度測定装置において、
前記電解液保持体は、内部に中空の空間部を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、フィルタを使用せずに大気雰囲気に対するゼロ点ドリフトを低減して検知対象ガスのガス濃度を測定することができる。また、ゼロ点ドリフトを低減させた状態で大気雰囲気中の複数箇所における検知対象ガスのガス濃度の測定を選択的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るガス濃度測定装置の全体構成を示す説明図である。
【
図2】本発明に係るガス濃度測定装置のセンサユニットの一例を示す断面図である。
【
図3】本発明に係るガス濃度測定装置の検知センサおよび基準センサを構成する定電位電解式ガスセンサの断面図である。
【
図4】本発明に係るガス濃度測定装置の定電位電解式ガスセンサの周囲温度と分解能の関係の一例を示す図である。
【
図5】本発明に係るガス濃度測定装置の配置の一例を示す図である。
【
図6】本発明に係るガス濃度測定装置の配置の他の例を示す図である。
【
図7】本発明に係るガス濃度測定装置の配置の他の例を示す図である。
【
図8】(a),(b)2つの定電位電解式ガスセンサそれぞれによるガス濃度の測定結果の一例を示す図である。
【
図9】本発明に係るガス濃度測定装置によるガス濃度の測定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
[本発明の概要]
定電位電解式ガスセンサの素子は、化学反応を利用しているため、検知対象ガスが存在しない環境の大気雰囲気中におけるゼロ点出力が日や時間によって変動(ドリフト)してゼロ点ドリフトが生じることがある。
【0023】
ゼロ点ドリフトの原因を調査した結果、定電位電解式ガスセンサの素子の個体差によるドリフトではなく、外的要因によるドリフトであることがわかった。ここでの外的要因は温度、湿度、気圧、干渉ガスが挙げられ、特に干渉ガスによる影響が大きい。
【0024】
さらに、定電位電解式ガスセンサは、ヒステリシスがあるため、外的要因が同一条件であっても、ゼロ点出力が異なることがある。よって、様々なセンサ(温度、湿度、気圧、他ガスを検知するセンサ)を用いて、外的要因を把握しても、ゼロ点ドリフトを低減することは大変困難である。
【0025】
そこで、本件発明者等は、ゼロ点ドリフトを低減するため、2つの定電位電解式ガスセンサを実装し、一方を基準センサ、他方を検知センサとして用い、基準センサと検知センサの出力の差分を取る構成を採用した。これにより、基準センサと検知センサが類似したゼロ点ドリフトを示すため、基準センサと検知センサの出力の差分を取ることで、ゼロ点ドリフトを低減することが可能になった。
【0026】
[ガス濃度測定装置の構成]
図1に示すように、本実施の形態のガス濃度測定装置1は、大気雰囲気中の検知対象ガス(例えばエチレンガス、一酸化炭素、水素など)の濃度を測定するもので、センサユニット2と制御装置3を備えて概略構成される。以下、各部の構成について説明する。
【0027】
[センサユニットの構成について]
センサユニット2は、
図2に示すように、本体11の収容部11aに2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)を含む各種部品が収容され、収容部11aにはシール部材13を介して蓋部材14が取り付けられ、内部が密閉されている。
【0028】
本体11の収容部11aの底部には、中央に開口15aを有する部品取付板15がスペーサ部材16を介して固定されている。部品取付板15の開口15aの上部には、定電位電解式ガスセンサ12を駆動するための回路基板17がスペーサ部材18を介して取り付けられている。また、部品取付板15には、筒状のホルダ19の底部外周部分がスペーサ部材20を介して取り付けられている。
【0029】
ホルダ19は、耐熱性を有する熱可塑性樹脂(例えばPEEK:ポリエーテルエーテルケトンなど)からなり、上部中央に開口部19aが形成された収容部19bを有する。収容部19bには、2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)を中心として、検知センサ12Aと基準センサ12Bの素子の検知面が同じ高さで揃うように、均熱ブロック21が定電位電解式ガスセンサ12のケースの外周を取り囲んで収容され、さらにヒータ22が均熱ブロック21の外側に収容されている。
【0030】
均熱ブロック21は、2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)全体を一定温度に保持するもので、例えばアルミニウムなどの金属からなり、2つの定電位電解式ガスセンサ12の素子の検知面よりも高く形成され、2つの定電位電解式ガスセンサ12のケースの外周全体を取り囲んで覆うようにホルダ19の収容部19bに収容されている。均熱ブロック21の内面と2つの定電位電解式ガスセンサ12のケースの外周との間はOリングによって密封されている。また、均熱ブロック21における2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)間には、定電位電解式ガスセンサ12のケースの周囲温度を検出するための温度センサ23が設けられている。
【0031】
ヒータ22は、均熱ブロック21を加熱するもので、例えばフィルム状のフレキシブルヒータ(例えばシリコンラバーヒータ)からなり、均熱ブロック21の外周に巻き付けられた状態でホルダ19の収容部19bに収容されている。
【0032】
基準センサ12Bと一緒にホルダ19の収容部19bに収容された検知センサ12Aのケースの上方(検知極側)には、検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスを検知センサ12Aに導入するための第1のガス導入治具24Aが設けられている。
【0033】
同様に、検知センサ12Aと一緒にホルダ19の収容部19bに収容された基準センサ12Bのケースの上方(検知極側)には、検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスを基準センサ12Bに導入するための第2のガス導入治具24Bが設けられている。
【0034】
第1のガス導入治具24Aと第2のガス導入治具24Bは、同一の構成要素で熱可塑性樹脂(例えばPP:ポリプロピレンなど)からなり、上部がホルダ19の開口部19aから突出してホルダ19の収容部19bに収容されている。第1のガス導入治具24Aと第2のガス導入治具24Bは、下部に凹部24aを有し、この凹部24aと定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)のケースの上面とで囲まれる空間が予熱空間25を形成している。
【0035】
第1のガス導入治具24Aと第2のガス導入治具24Bの上部には、ガスを引き込んで予熱空間25に導入するためのガス導入路26が形成されるとともに、予熱空間25に導入されたガスを排出するためのガス排出路27が形成されている。
【0036】
ガス導入路26の先端部分には、大気雰囲気からのガスをガス導入路26に導くためのガス導入管28がセンサユニット2の外部に導出して接続されている。同様に、ガス排出路27の先端部分には、図示はしないが、ガス導入路26を介して予熱空間25に導入されたガスを元の大気雰囲気に排出するためのガス排出管29がセンサユニット2の外部に導出して接続されている。なお、本実施の形態において、ガス導入管28と不図示のガス排出管は、蓋部材14を介してセンサユニット2の外部へ導出されているが、本体11を介して導出する形式としてもよい。
【0037】
なお、予熱空間25は、大気雰囲気から導入されるガスを2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)のケースの周囲温度と同等の温度に加熱して温度調整するための空間として機能するものである。
【0038】
第1のガス導入治具24Aと第2のガス導入治具24Bは、予熱空間25の容積が調整できるように、2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)のケース31(
図2のケース31)に対して可動オーリング式で可動自在に設けられる構成としてもよい。これにより、2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)のケース31に対し、第1のガス導入治具24Aと第2のガス導入治具24Bを上下移動させれば、予熱空間25の容積を個別に調整することができる。
【0039】
また、予熱空間25には、導入されるガスの温度変動を抑制するための温度変動抑制部材30が必要に応じて収容される。温度変動抑制部材30は、熱容量が大きく熱伝導の良い部材であり、例えばジルコニア、アルミナ等のΦ1.5~3mm程度のビーズ(球体)で構成される。なお、温度変動抑制部材30は、導入されるガスの流れを妨げずにガスに触れる表面積が大きい方が好ましい。
【0040】
2つの定電位電解式ガスセンサ12は、
図1に示すように、吸引ポンプ4A、流量計5Aを介して一定流量で循環される検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスを検知する検知センサ12Aと、吸引ポンプ4B、流量計5Bを介して一定流量で循環される検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスを検知する基準センサ12Bとからなる。
【0041】
なお、本実施の形態において、検知対象ガスを含まない大気雰囲気とは、検知対象ガスが全く存在しない状態に限定されるものではなく、基準センサ12Bの分解能より微量の検知対象ガスが存在する状態を含むものである。また、
図1では、吸引ポンプ4A,4Bと流量計5A,5Bを備えた構成として図示したが、この構成に限定されるものではなく、検知センサ12Aに対しては検知対象ガスを含む大気雰囲気のガスが循環し、基準センサ12Bに対しては検知対象ガスを含まない大気雰囲気のガスが循環する構成であればよい。
【0042】
2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)は、同一構成であって、
図2に示すように、回路基板17の上方に位置してホルダ19の収容部19bに並設して収容され、ケース31の内部に電解液(図示せず)を貯留する電解液室32が形成される。2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)は、
図3に示すように、電解液室32内に電極(検知極33、参照極34、対極35)と電解液保持体36とを有し、検知極33が電解液保持体36の上面側に配置され、対極35が対向する電解液保持体36の下面側に配置され、検知極33と対極35との間に参照極34が配置される。電解液保持体36は、多孔質体で構成され、内部に中空の空間部37を有している。
【0043】
また、2つの定電位電解式ガスセンサ12において、ケース31の外側に突出しているピン38は、検知極33、参照極34、対極35の3つの電極のそれぞれに接続されたリードピンである。なお、
図3では、図面の関係上2つのリードピンのみが記載されているが、実際にはそれぞれの電極に対応した3本のリードピンが配置されている。
【0044】
ケース31は、
図3に示すように、内部に電解液室32を有している。この電解液室32には検知極33、参照極34、対極35からなる電極と、電解液保持体36を有している。ケース31は、一体型で構成されるケースでもよいが、
図3に示すように、複数の部品が組み合わされることで構成されていてもよい。具体的には、筒状の外ケース41に外ケース41の上下から内側に挿入される上部内キャップ42と下部内キャップ43、さらに上部内キャップ42および下部内キャップ43を覆うように上キャップ44と下キャップ45を組み合わせることで、ケース31が構成されていてもよい。また、ケース31はその内部に、電解液を貯留するため、内部の電解液が流出しないような構造とする必要がある。このため、
図2に示すように、各種シール部材46を用いて、密閉させる必要がある。また、ケース31には、電解液室32へ測定対象となるガスを導くための開口47が少なくとも1か所設けられている。この開口47は、ケース31の外部と電解液室32内の間で気体の出入りが可能となるように構成されている。
【0045】
また、検知極33の上方であって、上部内キャップ42と上キャップ44の間に設けられた空間48は、ガスフィルタなどを配置するための空間である。この空間48に配置されるフィルタとしては、検知するガスを選択するガス選択フィルタや、埃や油分など、2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)に悪影響を与える物質を除去するためのフィルタなどである。
【0046】
電解液は、測定対象となるガスに応じて変化させる。例えば、一酸化炭素を検知対象とする場合には電解液として硫酸水溶液を用いる。この電解液の種類については、測定対象や想定される測定環境に応じて適宜決定し用いる。従って、本明細書中において特に限定されるものではない。
【0047】
電解液室32は、ケース31の内部に配置され、電解液が封入された空間であって、電極(検知極33、参照極34、対極35)と電解液保持体36が配置されている。電解液はこの電解液室32に封入され、電解液室32から外へと流出しないような構成がされている。仮に、電解液室32から電解液が流出すると、ケース31の外部へ電解液が流出する恐れがある。このため、電解液はシーリング材等によって密閉されている。電解液の増減によって生じる、電解液室32の内部と外部の圧力差を相殺することが可能となる。
【0048】
検知極33、参照極34、対極35からなる電極は、それぞれ電解液を介して導通可能に配置されている。
図3の定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)では、検知極33に対する参照極34および対極35が、上下に積層されて配置された例である。また、それぞれの電極は、保液濾紙51,52,53や集電体54,55、多孔性ガス拡散層56,57に挟まれるように配置されている。具体的には、
図3において、電解液保持体36の上面側に電解液保持体36から順に保液濾紙51、集電体54、検知極33が配置され、下面側に電解液保持体36から順に保液濾紙52、集電体55、対極35が配置されている。なお、検知極33に対峙して参照極34および対極35を並んで配置してもよい。また、2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)は、参照極34を省いた2極(検知極33と対極35)の構成であってもよい。
【0049】
電解液保持体36は、多孔質材料からなり、前述の電解液を保持する。電解液保持体36が電解液を保持することで、前述の検知極33と参照極34および対極35は電解液を介して接続される。電解液保持体36を構成する材料としては、多孔質の材料であって、電解液を保持でき、電解液によって劣化しない材料であればよい。セラミックス、ガラス材料等の多孔質材料であってもよいが、望ましくは破損の恐れが少なく、またセラミックス材料に比べて安価なアクリル材料などの樹脂等であってもよい。なお、電解液保持体36は、内部に設けられた空間部37と電解液保持体36の外部との間で、液体の出入りが可能な材料で構成されていることが必要である。
【0050】
図3において、電解液保持体36は、一体の形状で示されているが、複数の部品を組み合わせて構成されてもよい。電解液保持体36は、内部に空間部37を有している構造であり、この空間部37を形成するために複数の部品から電解液保持体36を構成することが、コストや製作工程で有利である。例えば、電解液保持体36を上下分離可能に構成し、上下が分離される個所に参照極34を配置するように構成してもよい。この場合、検知極33と対極35の間に電解液保持体36が配置され、さらに電解液保持体36の略中央に参照極34が配置されるような構成となる。
【0051】
空間部37は、電解液保持体36の内部に設けられた空間である。この空間部37は、電解液の測定環境の変化等に伴う体積変化を、吸収するために設けられた空間である。つまり、例えば電解液が吸湿によって体積が膨張した場合、仮に空間が存在しないと電解液は、体積が膨張した分、電解室外へ流出する恐れがある。これを防ぐために電解液の体積増加分の空間を電解液保持体36の内部に有している。具体的には、一酸化炭素センサの場合、電解質として一般的に40wt%の硫酸を用いた例で考えると、40wt%-硫酸の体積に対して、2から4倍の空間部37の体積があればよい。なお、この空間部37は、前述したように、電解液保持体36が多孔質の材料で構成されているため、電解液保持体36の外部と空間部37の間で電解液(液体)の出入りが可能になるように構成されている。
【0052】
図3の定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)によれば、電解液保持体36の内部に空間部37を設けた構成なので、電解液の体積変化、特に吸湿などによる体積の増加による電解液の漏れを防ぐことが可能となる。また、定電位電解式ガスセンサ12を横方向に倒して使用した場合であっても、定電位電解式ガスセンサ12を設置する方向に依存することなく、正確に検知対象ガスの濃度を測定することが可能である。
【0053】
[制御装置の構成について]
制御装置3は、
図1や
図2に示すように、記憶部3a、制御部3b、表示部3cを備えて概略構成される。記憶部3aは、定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)の素子出力と検知対象ガスを含む標準用ガスのガス濃度との関係を示す周囲温度ごとの検量線を記憶する。なお、検量線は、制御部3bによりヒータ22を制御して定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)のケース31の周囲温度を目標温度(一定温度)に設定したときの定電位電解式ガスセンサ12の素子出力からガス濃度を目標温度ごとに算出することにより作成される。
【0054】
制御部3bは、温度センサ23の検出信号を取得し、取得した検出信号から現在の定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)のケース31の周囲温度を認識し、定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度(温度センサ23の検出温度)が目標温度(一定温度)になるように、ヒータ22に印加される電圧をオン/オフ制御(PID制御)する。
【0055】
また、制御部3bは、定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が目標温度(一定温度)になったときの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)の素子出力と記憶部3aに記憶された目標温度に対応する検量線に基づいてガス濃度を算出する。
【0056】
具体的には、検量線の素子出力1:V1に対応するガス濃度1:C1、検量線の素子出力2:V2に対応するガス濃度2:C2、検知対象ガスを含む大気雰囲気からガスを導入したときの検知センサ12Aの素子出力:Vx1、ガス濃度:Cx1とすると、検知センサ12Aによる測定時のガス濃度Cx1は、Cx1=(C2-C1)/(V2-V1)×Vx1+(C1×V2-C2×V1)/(V2-V1)…式(1)となる。
【0057】
また、検量線の素子出力1:V1’に対応するガス濃度1:C1、検量線の素子出力2:V2’に対応するガス濃度2:C2、検知対象ガスを含まない大気雰囲気からガスを導入したときの基準センサ12Bの素子出力:Vx2、ガス濃度:Cx2とすると、基準センサ12Bによる測定時のガス濃度Cx2は、Cx2=(C2-C1)/(V2’-V1’)×Vx2+(C1×V2’-C2×V1’)/(V2’-V1’)…式(2)となる。
【0058】
そして、2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)による測定時のガス濃度Cxは、Cx=Cx1-Cx2…式(3)として算出される。
【0059】
さらに、制御部3bは、算出したガス濃度の測定結果を表示画面上に表示するように表示部3cを制御する。
【0060】
なお、制御部3bは、電源投入時に目標温度以上で定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)の使用上限温度以下の範囲(例えば45~54℃)内の設定温度でヒータ22に印加される電圧を所定時間(例えば数十秒から数分)オン/オフ制御(PID制御)した後、温度センサ23の検出温度に基づいて定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が目標温度になるようにヒータ22に印加される電圧をオン/オフ制御するのが好ましい。この際、上記設定温度は、周囲温度に応じて設定されるものであり、周囲温度が低温であるほど高く設定される。また、定電位電解式ガスセンサ12の使用上限温度とは、素子の性能や構成などによって異なり、大気雰囲気での使用が可能な上限温度を示すものである。
【0061】
具体例として、目標温度が45℃、定電位電解式ガスセンサ12の使用上限温度が60℃の場合、周囲温度が低い環境下で定電位電解式ガスセンサ12を使用するときは、電源投入時に例えば54℃を設定温度としてヒータ22に印加される電圧を例えば30秒だけオン/オフ制御する。これに対し、周囲温度が高く、設定温度に近い環境下で定電位電解式ガスセンサ12を使用するときは、電源投入時に例えば45℃を設定温度としてヒータ22に印加される電圧を例えば30秒だけオン/オフ制御する。そして、定電位電解式ガスセンサ12の素子内部まで十分に温まった後、温度センサ23の検出温度に基づいて定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が目標温度の45℃になるようにヒータ22に印加される電圧をオン/オフ制御する。これにより、素早く目標温度での制御が行え、定電位電解式ガスセンサ12の素子から安定した出力が得られ、定電位電解式ガスセンサ12の素子の温度が十分温まらないうちにデータを取得するのを防ぐことができる。
【0062】
表示部3cは、例えば液晶表示器などで構成され、制御部3bにて算出される大気雰囲気中の検知対象ガスのガス濃度の測定結果を表示画面上に表示する。
【0063】
[検知センサと基準センサを備えたガス濃度測定装置の配置例について]
図5~7は2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)を備えたガス濃度測定装置1の配置例を示している。これらの配置例によるガス濃度測定装置1は、例えば成果物が保存・収納された倉庫61において、成果物が発生するガス(例えばエチレンガス)を検知対象ガスとしてガス濃度を測定する。
【0064】
図5では、検知センサ12Aと基準センサ12Bを備えたガス濃度測定装置1を倉庫61内に配置する。この配置において、検知センサ12Aは、倉庫61内の検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスをガス導入管28から導入し、ガス排出管29から倉庫61内の検知対象ガスを含む大気雰囲気に排出する。これにより、検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスを倉庫61内と検知センサ12Aとの間で循環させる。また、基準センサ12Bは、ガス導入管28とガス排出管29を倉庫61外に引き延ばし、倉庫61外の検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスをガス導入管28から導入し、ガス排気管29から倉庫61外の検知対象ガスを含まない大気雰囲気に排出する。これにより、検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスを倉庫61外と基準センサ12Bとの間で循環させる。
【0065】
図6では、検知センサ12Aと基準センサ12Bを備えたガス濃度測定装置1を倉庫61外に配置する。この配置において、検知センサ12Aは、ガス導入管28とガス排出管29を倉庫61内に引き延ばし、倉庫61内の検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスをガス導入管28から導入し、ガス排出管29から倉庫61内の検知対象ガスを含む大気雰囲気に排出する。これにより、検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスを倉庫61内と検知センサ12Aとの間で循環させる。また、基準センサ12Bは、倉庫61外の検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスをガス導入管28から導入し、ガス排気管29から倉庫61外の検知対象ガスを含まない大気雰囲気に排出する。これにより、検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスを倉庫61外と基準センサ12Bとの間で循環させる。
【0066】
図7では、検知センサ12Aと基準センサ12Bを備えたガス濃度測定装置1を倉庫61外に配置する。この配置において、倉庫61内の異なる複数箇所(
図7の例では3箇所)までガス導入管28を延出して分岐させた一端が検知センサ12Aと接続される複数のガス採気口28aを形成している。また、制御部3bは、複数のガス採気口28aと検知センサ12Aとの間のガス流路を選択的に切替制御する。検知センサ12Aは、倉庫61内の複数のガス採気口28aのうち、制御部3bにて選択的にガス流路が切り替えられた1つのガス採気口28aから検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスをガス導入管28を介して導入し、ガス排出管29から倉庫61内の検知対象ガスを含む大気雰囲気に排出する。これにより、検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスを倉庫61内と検知センサ12Aとの間で循環させる。また、基準センサ12Bは、倉庫61外の検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスをガス導入管28から導入し、ガス排気管29から倉庫61外の検知対象ガスを含まない大気雰囲気に排出する。これにより、検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスを倉庫61外と基準センサ12Bとの間で循環させる。
【0067】
なお、
図7において、ガス濃度測定装置1を倉庫61内に配置してもよい。この場合、検知センサ12Aは、上述したように、倉庫61内の複数箇所のガス採気口28aのうち、制御部3bにて選択的にガス流路が切り替えられた1つのガス採気口28aから検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスをガス導入管28を介して導入し、ガス排出管29から倉庫61内の検知対象ガスを含む大気雰囲気に排出する。これにより、検知対象ガスを含む大気雰囲気中のガスを倉庫61内と検知センサ12Aとの間で循環させる。また、基準センサ12Bは、ガス導入管28およびガス排出管29を倉庫61外へ引き延ばし、倉庫61外の検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスをガス導入管28から導入し、ガス排気管29から倉庫61外の検知対象ガスを含まない大気雰囲気に排出する。これにより、検知対象ガスを含まない大気雰囲気中のガスを倉庫61外と基準センサ12Bとの間で循環させる。
【0068】
[ガス濃度測定装置の動作について]
次に、上記のように構成されるガス濃度測定装置1の動作について簡単に説明する。
【0069】
まず、定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度を一定温度にするための目標温度を設定する。そして、制御装置3の制御部3bは、電源が投入されると、定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度を検出する温度センサ23の検出信号を取得し、取得した検出信号から現在の定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度を認識する。
【0070】
そして、制御装置3の制御部3bは、目標温度以上で定電位電解式ガスセンサ12の使用上限温度以下の範囲(例えば45~54℃)内の設定温度でヒータ22に印加される電圧を所定時間(例えば数十秒から数分)オン/オフ制御(PID制御)する。その後、制御部3bは、認識した現在の定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度に応じてヒータ22に印加される電圧をオン/オフ制御(PID制御)し、定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が目標温度(一定温度)になるようにヒータ22を制御する。
【0071】
そして、制御装置3の制御部3bは、定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が目標温度(一定温度)になると、そのときの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)の素子出力と記憶部3aに記憶された目標温度に対応する検量線に基づいて前述した式(1)と式(2)から検知センサ12Aによる測定時のガス濃度Cx1と基準センサ12Bによる測定時のガス濃度Cx2をそれぞれ算出する。続いて、算出した検知センサ12Aによる測定時のガス濃度Cx1と基準センサ12Bによる測定時のガス濃度Cx2に基づいて前述した式(3)から検知センサ12Aと基準センサ12Bによる測定時のガス濃度Cxを算出する。そして、最終的に算出された測定時のガス濃度Cxの値を表示部3cの表示画面上に表示する。
【0072】
[定電位電解式ガスセンサの分解能について]
制御装置3にてヒータ22を制御して目標温度を0℃から10℃間隔で60℃まで変化させたときの2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)のケース31の周囲温度(目標温度)に対する分解能について測定を行った。その結果、
図4に示すように、2つの定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が0℃~60℃(固体電解質のイオン伝導を利用した固体電解質式ガスセンサで通常使用される温度500~600℃よりも低温領域)において1ppm以下の分解能が得られた。具体的な数値を示すと、
図4に示すように、周囲温度0℃では分解能0.33ppm、周囲温度10℃では分解能0.15ppm、周囲温度20℃では分解能0.06ppm、周囲温度30℃では分解能0.025ppm、周囲温度40℃では分解能0.01ppm、周囲温度50℃では分解能0.008ppm、周囲温度60℃では分解能0.007ppmという結果が得られた。
【0073】
なお、目標温度は、所望とする定電位電解式ガスセンサ12の検出精度と定電位電解式ガスセンサ12の耐久性がトレードオフの関係にあり、これらを満足する温度に設定するのが好ましい。
【0074】
[大気雰囲気に対する定電位電解式ガスセンサの指示値のゼロ点ドリフトについて]
定電位電解式ガスセンサ12の2つのサンプルNo1、No2を用い、前述した目標温度への温度制御を行った状態で各サンプル毎に大気雰囲気の検知対象ガス(例えばエチレンガス)のガス濃度を測定したときの結果を
図8(a),(b)に示す。
図8(a),(b)に示すように、定電位電解式ガスセンサ12を単体で用いて大気雰囲気のガス濃度を測定した場合には、定電位電解式ガスセンサ12のサンプルNo1とサンプルNo2の何れにおいても最大で0.63ppmのゼロ点ドリフトが生じるという結果が得られた。このときのゼロ点ドリフトは、検知対象ガス以外のガスの干渉による影響が大きいものと考えられる。
【0075】
これに対し、定電位電解式ガスセンサ12のサンプルNo1を基準センサ12B、サンプルNo2を検知センサ12Aとして用い、前述した目標温度への温度制御を行った状態で大気雰囲気の検知対象ガス(例えばエチレンガス)のガス濃度を測定したときの結果を
図9に示す。
図9に示すように、2つの定電位電解式ガスセンサ12の一方を検知センサ12A、他方を基準センサ12Bに用いて大気雰囲気の検知対象ガスのガス濃度を測定した場合には、最大で0.18ppmのゼロ点ドリフトに留まり、
図8(a),(b)の定電位電解式ガスセンサ12を単体で用いた場合と比較して、ゼロ点ドリフトを大幅に低減することができる。
【0076】
なお、
図8(a),(b)および
図9は最初に算出したガス濃度の指示値を0ppmとして時間経過に伴うガス濃度の指示値の変化を示している。
【0077】
このように、本実施の形態によれば、センサユニット2として、2つの定電位電解式ガスセンサ12を実装し、一方を検知センサ12A、他方を基準センサ12Bとして用い、検知センサ12Aにて検知対象ガスが存在する大気雰囲気のガスを検知し、基準センサ12Bにて検知対象ガスが存在しない大気雰囲気のガスを検知し、検知センサ12Aと基準センサ12Bの出力を引き算してゼロ点ドリフトを低減する構成を採用している。これにより、フィルタを使用せず、大気雰囲気に対するゼロ点ドリフトを低減でき、低濃度の検知対象ガスを高精度で測定することができる。
【0078】
具体的な数値を示すと、1つの定電位電解式ガスセンサ12の大気雰囲気に対するゼロ点ドリフトが約0.7ppmであるに対し、本実施の形態の2つの定電位電解式ガスセンサ(検知センサ12A、基準センサ12B)を用いて差分を取ることでゼロ点ドリフトが0.2ppm以下になる。
【0079】
また、ガス導入管28を介して検知センサ12Aと接続される複数のガス採気口28aが検知対象ガスを含む大気雰囲気の異なる位置に設けられる
図7の配置を採用し、制御部3bにより複数のガス採気口28aと検知センサ12Aとの間のガス流路を選択的に切替制御すれば、ゼロ点ドリフトを低減させた状態で大気雰囲気中の複数箇所における検知対象ガスのガス濃度の測定を選択的に行うことができる。
【0080】
さらに、本実施の形態では、制御装置3がヒータ22を制御して均熱ブロック21を温めることにより、センサユニット2が設置される環境温度に左右されずに定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度を一定温度(目標温度)に制御する構成なので、電極および電解液を含めて定電位電解式ガスセンサ全体が一定温度に保持され、従来のような温度補正が不要となり、センサ感度も向上して従来では計測限界とされてきた1ppm以下の高分解能によるガス濃度の計測も可能になる。
【0081】
また、電源投入時に目標温度以上で定電位電解式ガスセンサ12の使用上限温度以下の範囲(例えば45~54℃)内の設定温度でヒータ22に印加される電圧を所定時間(例えば数十秒から数分)オン/オフ制御(PID制御)した後、温度センサ23の検出温度に基づいて定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が目標温度になるようにヒータ22に印加される電圧をオン/オフ制御すれば、電源投入後に定電位電解式ガスセンサ12の素子内部まで十分に温めた状態から目標温度に素早く制御が行え、定電位電解式ガスセンサ12の出力を早く安定させることができる。
【0082】
さらに、センサユニット2において、第1のガス導入治具24Aと検知センサ12Aのケース31との間、第2のガス導入治具24Bと基準センサ12Bのケース31との間には、ガス導入路26から導入されるガスを定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度と同等の温度に加熱するための予熱空間25が形成されるので、導入されるガスの温度が定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度と同等の温度に保つことができ、定電位電解式ガスセンサ12がガスの温度の影響を受けることなく安定したガス濃度の測定を行うことができる。
【0083】
また、第1のガス導入治具24Aと第2のガス導入治具24Bは、定電位電解式ガスセンサ12のケース31に着脱自在に設け、予熱空間25の容積が調整可能な構成とすれば、測定雰囲気からガス導入路26を介して導入されるガスの温度に応じて予熱空間25の容積を調整してガスの予熱を制御することができる。
【0084】
例えばアルミニウムのビーズ(球体)などの温度変動抑制部材30を予熱空間25に収容する構成とすれば、大気雰囲気からガス導入路26を介して導入されるガスの温度変動を抑制することができる。
【0085】
さらに、2つの定電位電解式ガスセンサ12(検知センサ12A、基準センサ12B)それぞれの電解液保持体36が内部に中空の空間部37を有する構成とすれば、電解液の体積変化、特に吸湿などによる体積の増加による電解液の漏れを防ぐことができる。
【0086】
以上、本発明に係るガス濃度測定装置の最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0087】
1 ガス濃度測定装置
2 センサユニット
3 制御装置
3a 記憶部
3b 制御部
3c 表示部
4A,4B 吸引ポンプ
5A,5B 流量計
11 本体
11a 収容部
12 定電位電解式ガスセンサ
12A 検知センサ
12B 基準センサ
13 シール部材
14 蓋部材
15 部品取付板
15a 開口
16,18,20 スペーサ部材
17 回路基板
19 ホルダ
19a 開口部
19b 収容部
21 均熱ブロック
22 ヒータ
23 温度センサ
24A 第1のガス導入治具
24B 第2のガス導入治具
24a 凹部
25 予熱空間
26 ガス導入路
27 ガス排出路
28 ガス導入管
28a ガス採気口
29 ガス排出管
30 温度変動抑制部材
31 ケース
32 電解液室
33 検知極
34 参照極
35 対極
36 電解液保持体
37 空間部
38 ピン
41 外ケース
42 上部内キャップ
43 下部内キャップ
44 上キャップ
45 下キャップ
46 シール部材
47 開口
48 空間
51,52,53 保液濾紙
54,55 集電体
56,57 多孔性ガス拡散層
61 倉庫