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  • 特許-トリクロロシランの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】トリクロロシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/107 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
C01B33/107 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020164273
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056490
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】523119425
【氏名又は名称】高純度シリコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】澤田 佳則
(72)【発明者】
【氏名】花上 康宏
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-098494(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0264362(US,A1)
【文献】特開2014-198663(JP,A)
【文献】特開2000-178282(JP,A)
【文献】特開2003-247701(JP,A)
【文献】特開昭58-011042(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0022713(US,A1)
【文献】国際公開第2019/098347(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動層反応器中で金属シリコン粒子と塩化水素ガスを反応させることによりトリクロロシランを製造する方法において、
前記金属シリコン粒子の平均粒径より平均粒径が小さく前記金属シリコン粒子より密度が高く前記塩化水素ガスに対して不活性であって非吸湿性である伝熱媒体粒子を前記流動層反応器中で前記金属シリコン粒子に混合し、
前記伝熱媒体粒子が、鉄粒子であるか、又は酸素、クロム及びニッケルからなる群より選ばれた1種以上の元素を含む鉄を主成分とする鉄化合物粒子であることを特徴とするトリクロロシランの製造方法。
【請求項2】
前記金属シリコン粒子の平均粒径が200μm~500μmであって、前記伝熱媒体粒子の平均粒径が前記金属シリコン粒子の平均粒径より小さくかつ10μm以上である請求項1記載のトリクロロシランの製造方法。
【請求項3】
前記流動層反応器中の流動層を構成する全粒子を100体積%とするとき、前記伝熱媒体粒子を1体積%~3体積%の割合で前記金属シリコン粒子に混合する請求項1又は2記載のトリクロロシランの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度シリコンの中間原料として用いられるトリクロロシランの製造方法に関する。更に詳しくは、流動層反応器における反応熱を伝導するための伝熱媒体粒子を混合するトリクロロシランの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリクロロシランは金属シリコンと呼ばれる98%前後の純度のシリコン原料と塩化水素ガスとを反応させて得ることができる。その際の塩化反応には大きな発熱を伴うため、炉内温度を制御するため均熱性の高い流動層反応器が用いられている。
【0003】
本来、塩化反応では不可避的に四塩化ケイ素も生成するため、以前から四塩化ケイ素の発生は抑制しつつ、トリクロロシランの選択性を高めるための方法が開示されている(例えば、特許文献1(請求項1~6、段落[0008]、段落[0025]、段落[0026])参照及び特許文献2(請求項1、請求項3、請求項4、段落[0021])参照)。
【0004】
特許文献1には、流動床リアクター中の、攪拌床リアクター中の又は固形床リアクター中の、250℃ないし1100℃の温度での、及び0.5ないし30atmの絶対圧力での、ケイ素とHClガスとの反応によるトリクロロシランの製造法が開示されている。この製造法では、リアクターに供給されるケイ素は、40ないし10000質量ppmのバリウム及び所望により40ないし10000質量ppmの銅を含有することを特徴とする。
【0005】
特許文献1には、この製造法によれば、トリクロロシランの選択性を高めることができる旨が記載され、バリウム及び所望の銅は、ケイ素とともに合金化されているか、或いはバリウム又はバリウム化合物は、ケイ素がリアクターに供給される前に機械的にケイ素と混合されるか、或いは銅又は銅化合物は、ケイ素がリアクターに供給される前に機械的にケイ素と混合される旨が記載され、更にバリウム又はバリウム化合物は、ケイ素とは別々にリアクターに添加される旨が記載されている。その一方、銅のみをケイ素とともに合金化した場合には、トリクロロシランの選択性に効果を与えなかった旨が記載されている。
【0006】
また特許文献2には、珪素とHClガスとを、流動床反応器、攪拌床反応器または固定床反応器中で、250℃ないし1100℃の範囲の温度及び0.5-30気圧の絶対圧力の条件下で反応させることによってトリクロルシランを製造する際、反応器に供給される珪素が30ないし10000ppmの範囲のクロムを含有することを特徴とするトリクロルシランの製造法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、クロムの珪素への添加によってトリクロルシランの製造におけるTCSの選択性を改善し得る旨が記載され、クロムが珪素と合金化されているか、又は珪素を反応器に供給する前に、クロムを珪素と機械的に混合する旨が記載されている。
【0008】
また、非特許文献1には、金属シリコンに鉄合金を添加し合金化する方法において、合金層の部分が反応活性サイトとなり、反応性の向上により、反応開始温度が低下することで、トリクロロシランの選択性の向上の結果が報告されている一方、非特許文献2には、金属シリコンに添加するリン(P)の影響により、逆にトリクロロシランの選択性が低下する結果も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2013-535399号公報
【文献】特表2007-527352号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Reactor studies of the trichlorosilane process, G. Andersen, J. Hoel, H. A. Oye, Silicon for Chemical Industry V, (2000) 198-199
【文献】Study on selectivity in trichlorosilane producing reaction, S. Wakamatsu, K. Hirota, K. Sakata, Silicon for Chemical Industry IV, (1998) 129-131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の方法で、バリウム又は銅をケイ素とともに合金化する場合、特許文献2の方法で、クロムをケイ素とともに合金化する場合、或いは非特許文献1に示されるように金属シリコンに鉄合金を添加し合金化する場合には、リアクターに投入する前に、バリウム又は銅を溶解するか、クロムを溶解するか、或いは鉄合金を予め容易しておく必要があり、製造工程が複雑化する課題があった。
【0012】
また、非特許文献2の報告と合致して、特許文献1の実施例1(従来技術)に示されるように、銅のみをケイ素に混合してもトリクロロシランの選択性を高めることができない課題があった。
【0013】
本発明の目的は、上記特許文献1、2及び非特許文献1の技術的思想とは全く別の観点からのアプローチを行って、上記課題を解決したもので、トリクロロシランの収率を向上することができるトリクロロシランの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の観点は、流動層反応器中で金属シリコン粒子と塩化水素ガスを反応させることによりトリクロロシランを製造する方法において、前記金属シリコン粒子の平均粒径より平均粒径が小さく前記金属シリコン粒子より密度が高く前記塩化水素ガスに対して不活性であって非吸湿性である伝熱媒体粒子を前記流動層反応器中で前記金属シリコン粒子に混合し、前記伝熱媒体粒子が、鉄粒子であるか、又は酸素、クロム及びニッケルからなる群より選ばれた1種以上の元素を含む鉄を主成分とする鉄化合物粒子であることを特徴とするトリクロロシランの製造方法である。
【0016】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記金属シリコン粒子の平均粒径が200μm~500μmであって、前記伝熱媒体粒子の平均粒径が前記金属シリコン粒子の平均粒径より小さくかつ10μm以上であるトリクロロシランの製造方法である。
【0017】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、前記流動層反応器中の流動層を構成する全粒子を100体積%とするとき、前記伝熱媒体粒子を1体積%~3体積%の割合で前記金属シリコン粒子に混合するトリクロロシランの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の観点の方法では、流動層反応器中で金属シリコン粒子と塩化水素ガスを反応させるときに、金属シリコン粒子の平均粒径より平均粒径が小さく金属シリコン粒子より密度が大きく塩化水素ガスに対して不活性であって非吸湿性である伝熱媒体粒子を金属シリコン粒子に混合することにより、この伝熱媒体粒子は塩化反応に関与せずに、後述する流動層反応器内の熱伝導にのみ寄与する。このため、流動層反応器内の局所的な温度上昇を抑制し、トリクロロシランの収率を向上することができる。非特許文献1には炉内温度が高いと、トリクロロシランの収率は悪化することが報告されている。
【0019】
また、鉄粒子であるか、又は酸素、クロム及びニッケルからなる群より選ばれた1種以上の元素を含む鉄を主成分とする鉄化合物粒子である伝熱媒体粒子を用いるため、伝熱性が高く、流動層反応器内の局所的な温度上昇を抑制することができ、これによりトリクロロシランの収率を向上することができる。
【0020】
本発明の第2の観点の方法では、伝熱媒体粒子の平均粒径が、金属シリコン粒子の平均粒径より小さくかつ10μm以上であるため、流動層反応器内で金属シリコン粒子とともに円滑に流動し、流動層反応器内に均一に行きわたるため、より効率良く反応器内の局所的な温度上昇を抑制することができ、これによりトリクロロシランの収率を向上することができる。
【0021】
本発明の第3の観点の方法では、流動層反応器中の流動層を構成する全粒子を100体積%とするとき、伝熱媒体粒子を1体積%~3体積%の割合で金属シリコン粒子に混合するため、伝熱媒体粒子が過不足なく金属シリコン粒子と混ざり合って、より効率良く反応器内の局所的な温度上昇を抑制することができ、これによりトリクロロシランの収率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係るトリクロロシラン製造用の流動層反応器の構成図である。
図2】本発明の実施例1におけるトリクロロシランの収率の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態のトリクロロシランを製造するための流動層反応器10は、概略円筒状をなす胴部12と底板部13と天板部14とを有する装置本体11を備えている。装置本体11の胴部12の下部には、金属シリコン粒子を装置本体11内に供給する粒子供給口15が形成されている。この粒子供給口15には、キャリアガスの導入配管30が接続され、このキャリアガス導入配管30にフィードホッパー31から金属シリコン粒子及び伝熱媒体粒子が供給され、この粒子供給口15を経由して装置本体11内に供給されるようになっている。また、装置本体11の天板部14には、反応によって生成したトリクロロシランのガスを外部へと取り出すガス取出口17が設けられ、ガス取出口17はサイクロン33に接続されている。
【0025】
サイクロン33はフィードホッパー31に接続され、フィードホッパー31には、外部から金属シリコン粒子を供給するシリコン粒子供給系40が接続されている。また、この装置本体11の下側には、塩化水素ガスを装置本体11内部に導入するための塩化水素ガス導入手段20が設けられている。塩化水素ガス導入手段20は、塩化水素ガスが貯留されるガス室21と、このガス室21内に塩化水素ガスを供給するガス供給口22とを備えている。ここで、ガス室21は、装置本体11の底板部13によって装置本体11内部と仕切られている。
【0026】
本実施形態の流動層反応器10の特徴ある構成は、シリコン粒子供給系40に伝熱媒体粒子を供給するための伝熱媒体粒子供給系41が接続されたところにある。
【0027】
次に、このような構成の流動層反応器10によるトリクロロシランの製造方法について説明する。金属シリコン粒子は、シリコン粒子供給系40からフィードホッパー31に供給される。また伝熱媒体粒子は、伝熱媒体粒子供給系41からシリコン粒子供給系40を介してフィードホッパー31に供給される。シリコン粒子と伝熱媒体粒子とは、このフィードホッパー31からバルブ32を介してキャリアガスを導入するためのキャリアガス導入配管30内に導入され、気流移送により粒子供給口15を通じて装置本体11の内部に供給されて、混合される。このとき、塩化水素ガスを気流移送のキャリアガスとして用いている。また、キャリアガスは一定の圧力で導入されている。
【0028】
また、塩化水素ガス導入手段20により装置本体11の内部に塩化水素ガスを導入する。塩化水素ガスは、装置本体11の底板部13に複数配置された図示しない塩化水素ガス噴出用部材を介して装置本体11内に向けて噴出され、噴出された塩化水素ガスは金属シリコン粒子と伝熱媒体粒子との混合粒子中に導入される。
【0029】
このようにして装置本体11内の金属シリコン粒子に塩化水素ガスが噴出されることによって、金属シリコン粒子と伝熱媒体粒子とが装置本体11内を流動することになる。金属シリコン粒子が流動しながら塩化水素ガスと接触することで、金属シリコン粒子と塩化水素ガスとが所定温度で反応し、トリクロロシランのガスが生成される。一方、金属シリコン粒子と一緒に流動している伝熱媒体粒子は、その熱伝導性により金属シリコン粒子と塩化水素ガスとの反応による発熱を吸収し、かつ炉内全体にわたって流動することにより、炉内における局所的な温度上昇を抑制し、均熱性を保つ役割を果たす。
【0030】
生成したトリクロロシランのガスは、装置本体11の天板部14に設けられたガス取出口17から取り出され、後工程へと供給される。また、装置本体11内部において未反応の金属シリコン粒子は、トリクロロシランのガスとともにガス取出口17から排出され、後工程のサイクロン33で回収されてフィードホッパー31へと供給されてキャリアガス導入配管30内に導入され、再度装置本体11内に供給される。サイクロン33で回収されなかった金属シリコン粒子は、後工程のフィルター34で除去される。
【0031】
ここで、本実施形態の特徴ある伝熱媒体粒子について詳しく説明する。伝熱媒体粒子は、金属シリコン粒子の平均粒径より平均粒径が小さく金属シリコン粒子より密度が大きく塩化水素ガスに対して不活性であって非吸湿性である。具体的には、伝熱媒体粒子は、平均粒径が200μm~500μmの金属シリコン粒子よりも、平均粒径が小さくかつ10μm以上であることが好ましい。伝熱媒体粒子が金属シリコン粒子より平均粒径が大きいと、流動層反応器中で流動しにくく、また10μm未満であると、キャリアガスとともに、図1に示すガス取出口17から装置本体11外に排出され易い。いずれの場合も、伝熱媒体粒子による熱伝導が低下し、伝熱媒体としての機能が劣って、炉内の局所的な温度上昇が生じ易くなる。伝熱媒体粒子の平均粒径は、10μm~499μmであることが更に好ましい。ここで、金属シリコン粒子及び伝熱媒体粒子の各平均粒径は、レーザー回折型の粒度分布測定装置(マイクロトラック:MT3300)により測定したものの平均値である。
【0032】
また伝熱媒体粒子は、20℃における金属シリコンの密度(2.336g/cm3)よりも、密度が大きい。流動層で流動できる粒子の粒径は一定の範囲内の粒子であるため、一般的に、粒径が大き過ぎるものは流動せず、細か過ぎるものは、キャリアガスとともに装置本体外に排出されてしまう。しかし金属シリコンの密度より高い密度の粒子であれば、比較的細かい粒子まで排出されずに流動層に残留することができる。このため、伝熱媒体粒子を金属シリコン粒子に同伴して流動させるのに好ましい伝熱媒体粒子の密度は、3g/cm3~16g/cm3であることが好ましく、5g/cm3~10g/cm3であることが更に好ましい。
【0033】
また伝熱媒体粒子は、流動層反応器中で塩化水素ガスと接触しても反応せずに化合物を生成せず不活性であり、非吸湿性である。伝熱媒体粒子が塩化水素ガスに対して活性であって、塩化水素ガスと反応を引き起こして化合物を生成すると、トリクロロシランの収率が低下するからである。また非吸湿性な伝熱媒体粒子は、流動層反応器中で塩酸中の残留水分や金属シリコン粒子表面の吸着水が伝熱媒体粒子表面に付着しても、ダマにならず、流動を低下させない。
【0034】
こうした特性を有する伝熱媒体粒子は、例示すれば、鉄粒子であるか、又は酸素、クロム及びニッケルからなる群より選ばれた1種以上の元素を含む鉄を主成分とする鉄化合物粒子である。これ以外に、伝熱媒体粒子には炭化タングステン粒子、酸化ジルコニウム粒子、炭化ケイ素粒子、窒化アルミニウム粒子、ムライト粒子、アルミナ粒子が挙げられる。
上記伝熱媒体粒子のうち、代表的な伝熱媒体粒子の密度、塩化水素ガスに対する活性度及び吸湿度を以下の表1に示す。表1における粒子の塩化水素ガスに対する活性度は、塩化反応終了後に炉内から取り出した伝熱媒体粒子をX線回折法で分析し、化合物が生成したことを示す塩化物のピークが認められなかった場合を『不活性』と判定し、塩化物のピークが認められた場合を『活性』と判定した。また粒子の吸湿度は、粒子を22%相対湿度下、25℃で1日間放置し、日本薬局方、一般試験法、水分測定法(カール・フィッシャー法)に従って水分含量を測定した。水分含量の増加率が0.01%以下の場合を『非吸湿性』と判定し、0.01%を超える場合を『吸湿性』と判定した。
【0035】
【表1】
【0036】
図1に示す伝熱媒体粒子供給系41からシリコン粒子供給系40への伝熱媒体粒子の供給は、流動層反応器中の流動層を構成する全粒子を100体積%とするとき、伝熱媒体粒子が1体積%~3体積%の割合になるように、行うことが好ましい。伝熱媒体粒子の密度を考慮して伝熱媒体粒子の含有割合を求めると、流動層反応器中の流動層を構成する全粒子を100質量%とするとき、伝熱媒体粒子が3質量%~10質量%の割合で含まれるように、伝熱媒体粒子を供給することが好ましい。上記範囲の下限値未満では、炉内の局所的な温度上昇を抑制させるための伝熱媒体としての機能を果たしにくい。また上記範囲の上限値を超えると、相対的に金属シリコン粒子の割合が低下し、金属シリコン粒子と塩化水素ガスとの反応効率が悪化して、未反応の塩酸量が増加し易くなる。
【実施例
【0037】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0038】
<実施例1>
図1に示す胴部12の内径が800mmの流動層反応器10の装置本体11内に、シリコン粒子供給系40、フィードホッパー31及び粒子供給口15を介して、キャリアガスとともに、平均粒径が250μmの金属シリコン粒子を約3000kg供給した。塩化水素ガス導入手段20のガス供給口22から600Nm3/hの割合で塩化水素ガスを導入して、胴部12内で金属シリコン粒子と塩化水素ガスとを反応させた。この反応で生じる平均粒径が10μm以上の粒子は、ガス取出口17からサイクロン33に回収して、フィードホッパー31に戻すようにした。
【0039】
装置本体11内で生成するガスの一部をサンプリングして、ガスクロマトグラフィー(ジェイサイエンス社製、型式GC7000T)でガスに含まれる成分を10分毎に分析した。初日でのトリクロロシランの収率は、84質量%程度であった。これ以降の上記分析は週2回の頻度で行った。
【0040】
二日目以降、反応で消費される金属シリコン粒子を補給するのに同伴させて、伝熱媒体粒子供給系41から、伝熱媒体粒子として、平均粒径50μmの金属鉄からなる鉄粒子を装置本体11内に供給した。鉄粒子の供給量が約10kgに達した時点からトリクロロシランの収率の上昇が見られた。鉄粒子の供給量は累計で20kgに達した1週目の時点で、更にトリクロロシランの収率が88質量%近くまで上昇した。
【0041】
反応で消費される金属シリコン粒子を補給するのに同伴させて、同一の鉄粒子を装置本体11内に供給し続けた。鉄粒子を累計で30kg供給した2週目の時点では、トリクロロシランの収率は90質量%近くまで上昇した。その後、3週目から6週目にかけて、トリクロロシランの収率は90質量%程度で増減し、累計35kgに達する5週目頃からは、未反応塩酸の増加が見られた。このため、鉄粒子は、その供給量の累計が45kgになった時点で、供給を停止し、塩化水素ガスの供給も停止した。装置本体11が60℃まで降温した後に、装置本体11内に残留している金属シリコン粒子を回収し、磁石で金属シリコン粒子中に存在していた鉄粒子を回収した。これらの粒子を計測した結果、この時点での鉄粒子の金属シリコン粒子中の含有割合は約3体積%であった。
図2に、ガス成分に含まれる成分分析を開始した初日から6週目までのトリクロロシラン(TCS)の収率を、四塩化ケイ素(STC)及びジクロロシラン(DCS)の各収率とともに、示す。
【0042】
<比較例1>
二日目以降、伝熱媒体粒子を装置本体11内に供給しない以外、実施例1と同様に、平均粒径が250μmの金属シリコン粒子を供給し続け、また塩化水素ガスを導入し続けて金属シリコン粒子と塩化水素ガスとを反応させ続けた。供給を始めてから6週目でのトリクロロシランの収率は、84質量%程度であった。
【0043】
以下の表2に、実施例1の伝熱媒体粒子を供給したときの特性と比較例1の伝熱媒体粒子を供給しないときの特性と、実施例1及び比較例1におけるトリクロロシランの収率及びその向上率を示す。トリクロロシランの収率の向上率は、伝熱媒体粒子を供給する前のトリクロロシランの収率をX質量%とし、伝熱媒体粒子を供給した後のトリクロロシランの収率をY質量%とするとき,次の式(1)で算出した。
トリクロロシランの収率の向上率(%)= [(Y-X)/X]×100 (1)
【0044】
【表2】
【0045】
表2から明らかなように、比較例1では、伝熱媒体粒子を全く使用しなかったため、金属シリコン粒子と塩化水素ガスの反応を開始した初日におけるトリクロロシランの収率は84質量%程度と低く,また6週目のトリクロロシランの収率も84質量%程度と変わらず、その向上率は0%であった。
【0046】
これに対して、実施例1では、金属シリコン粒子と混合される粒子が本発明の第1の観点の要件を満たした伝熱媒体粒子であったため、初日におけるトリクロロシランの収率は84質量%であったのに対して、6週目でのトリクロロシランの収率がそれぞれ90質量%であり、その向上率はそれぞれ6.7%であった。実施例1で用いた鉄粒子以外の酸素、クロム及びニッケルからなる群より選ばれた1種以上の元素を含む鉄を主成分とする鉄化合物粒子、又は炭化タングステン粒子、酸化ジルコニウム粒子、炭化ケイ素粒子、窒化アルミニウム粒子、ムライト粒子、アルミナ粒子も、炉内において本発明の第1の観点の要件を満たすため、トリクロロシランの収率を向上させる蓋然性が非常に高い。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の製造方法は、トリクロロシランの収率を向上させるために利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 流動層反応器
11 装置本体
12 胴部
13 底板部
14 天板部
20 塩化水素ガス導入手段
30 キャリアガス導入手段
31 フィードホッパー
40 シリコン粒子供給系
41 伝熱媒体粉末供給系

図1
図2