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特許7500380皮膚光老化予防改善剤のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】皮膚光老化予防改善剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20240610BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240610BHJP
   C12Q 1/44 20060101ALI20240610BHJP
   A61K 8/9783 20170101ALN20240610BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALN20240610BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/44
A61K8/9783
A61Q19/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020168210
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060643
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-06-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)掲載年月日 令和2年9月10日 (2)掲載アドレス http://ifscc2020.com/scientific_program.html
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 奈緒美
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/138023(WO,A1)
【文献】特開2017-178899(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0116927(US,A1)
【文献】芋川玄爾,光老化によるシワの形成機序とその予防,Skin Cancer,2003年,18(2),pp.157-164
【文献】大澤俊彦,代謝性疾患と食品因子,生物機能開発研究所紀要,2007年,7,pp.75-90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48~33/98
A61K 8/00~ 8/99
A61Q 1/00~90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性エラスチン量を指標とした光老化予防改善剤のスクリーニング方法であって、前記変性が、ニトロ化、カルボニル化、糖化及び熱変性から選択される少なくとの1種であることを特徴とする前記スクリーニング方法。
【請求項2】
変性エラスチン量を指標としたシワ、タルミの形成、ハリ低下の予防改善剤のスクリーニング方法であって、前記変性が、ニトロ化、カルボニル化、糖化及び熱変性から選択される少なくとの1種であることを特徴とする前記スクリーニング方法
【請求項3】
変性エラスチン量を指標とした皮膚の弾力性低下抑制剤及び/又は皮膚の硬化抑制剤のスクリーニング方法であって、前記変性が、ニトロ化、カルボニル化、糖化及び熱変性から選択される少なくとの1種であることを特徴とする前記スクリーニング方法。
【請求項4】
前記変性エラスチン量の指標が、変性エラスチンの分解促進である請求項1乃至のいずれか1項に記載のスクリーニング方法
【請求項5】
前記変性エラスチンの分解促進が、変性エラスチンの直接分解及び/又は細胞外基質分解酵素による分解の促進である請求項に記載のスクリーニング方法
【請求項6】
前記変性エラスチン量の指標が、ニトロ化エラスチンの生成抑制である請求項1乃至のいずれか1項に記載のスクリーニング方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光老化に起因する皮膚の硬化、皮膚弾力性の低下を抑制することにより、皮膚のシワ、タルミの形成、ハリの低下を予防又は改善することができる物質のスクリーニング方法に関する。
【0002】
皮膚は、加齢に伴い老化して弾力を喪失し、ハリの低下や、シワ、タルミ等の形成といった変化を生じる。特に顔面など慢性的な紫外線の影響を受けやすい部位では、顕著にシワやタルミが形成する。これら紫外線暴露部で起こる皮膚老化は特に光老化と呼ばれ、この防止および改善は皮膚外用剤研究者にとって、最も大きな課題の一つである。
【0003】
皮膚の支持組織である真皮はコラーゲンからなる膠原線維、エラスチンからなる弾性線維等の細胞外基質が主となり構成され、膠原線維は皮膚の強度、弾性線維は皮膚の柔軟性や弾力性に寄与する。光老化部真皮では、コラーゲンの減少、エラスチンの異常沈着(線維肥厚や無定形塊蓄積など)が生じていることが知られており、これら線維の異常は皮膚の強度や柔軟性の喪失をもたらす。特に異常沈着したエラスチンは、光老化部位の皮膚の弾力性の低下および真皮の硬度の増加に寄与する可能性が報告されている(非特許文献1、2)。
【0004】
エラスチンは、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)や好中球エラスターゼ、線維芽細胞エラスターゼ等の細胞外基質分解酵素により切断・分解されることが知られている。しかしながら、光老化部では細胞外基質分解酵素の発現量が増加しているにも関わらず、エラスチンの異常沈着が生じていることが報告されている(非特許文献3、4)。光老化部でこの異常沈着が生じるメカニズムはこれまで明らかになっていなかった。
【0005】
一方で従来、シワ、タルミの形成、ハリ低下等を予防又は改善する光老化予防改善剤としては、コラーゲン、エラスチンを増加させる又はそれらの分解を抑制することを目的としたものが用いられてきた(特許文献1―4)。特に、エラスチンを対象にしたものに於いては、エラスターゼによるエラスチンの分解を抑制する方法が広く利用されている。これは、エラスチンの分解抑制により皮膚内のエラスチン量を増加させ、光老化部位で生じた弾力性の低下を補うことを目的としたものである。また、この方法はエラスチン分解産物の異常沈着も抑制できる可能性がある。しかしながら、すでに変性して異常沈着してしまったエラスチン自体に対する効力は報告されておらず、従来の技術では、変性エラスチンによる異常沈着を抑制する手段は知られていなかった。つまり、従来技術だけでは光老化部位で生じるエラスチンの異常沈着を十分に抑制出来ず、またそれに伴う光老化症状の進行に対しても根本的に予防および改善することは出来ていなかった。
【0006】
他方、タンパク質のニトロ化修飾は、生体内で発生した活性窒素種によって生じるタンパク質翻訳後修飾のひとつであり、タンパク質を構成する芳香族アミノ酸のチロシン、トリプトファンの残基中のベンゼン環にニトロ基が付与されたものである。ニトロ化反応はアミノ酸中のベンゼン環が、活性窒素種により形成されるニトロニウムイオン(NO )や二酸化窒素ラジカルなどと求電子置換反応をおこすことで生じる(非特許文献5)。生体内に存在する多くのタンパク質中のトリプトファンの含有率はチロシンのそれよりもはるかに小さく、タンパク質のニトロ化修飾は主にチロシン残基に生じると考えられている(非特許文献6)。タンパク質にニトロ化修飾が生じると、酵素やチロシンキナーゼ型受容体の機能低下を引き起こすことで、細胞機能に影響を及ぼすことが知られる(非特許文献7)。また、タンパク質中のニトロチロシンは動脈硬化や脳虚血疾患などで蓄積することが知られており、これらの疾患に関与することが報告されている(非特許文献8)。ニトロチロシンは皮膚中にも存在することが知られており、特に角層中に存在するニトロチロシンは皮膚色と関連する(特許文献5)。しかしながら光老化部皮膚でのエラスチンの異常沈着との関係については知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-69332号
【文献】特開2012-56933号
【文献】特開2001-316221号
【文献】特開2012-207015号
【文献】特開2017-181423号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Exp. Dermatol.、2019、28(8):914-921
【文献】Exp. Dermatol.、2019、28(8):981-984
【文献】Biochimie、2016、128-129:163-73
【文献】J. Invest. Dermatol.、2004、122(6):1448-55
【文献】Chem. Res. Toxicol.、2009、22(5):894-898
【文献】Front. Chem.、2016、3:70
【文献】Diabetes、2008、57(4):889-98
【文献】Science、2000、290(5493):985-9
【発明の概要】
【0009】
このような状況下、本発明者は光老化皮膚症状の予防改善には、エラスチンの異常沈着の抑制が重要であるとの認識に至った。そこで本発明者は、光老化部皮膚でエラスチン異常沈着が生じる機序についての考察を行った。光老化部では、細胞外基質分解酵素の発現量が増加しているにも関わらずエラスチンの異常沈着が生じているが、この現象は、何らかの原因により増加した分解酵素の機能が正常に発揮されず、エラスチンが正常に分解されないために生じると考えた。具体的には、紫外線暴露によりエラスチンに何れかの変性が生じ本来であれば増加しているはずの分解酵素による分解が抑制されているとの発想に至った。
【0010】
そこで、本発明者は光老化部皮膚でのエラスチンの分解抑制に係る新たな因子を探索したところ、光老化部皮膚で異常沈着しているエラスチンの構成アミノ酸にはニトロ化修飾が生じていることを見出した。さらに鋭意検討の結果、ニトロ化エラスチンは凝集を促進する特性があり、エラスターゼによる分解に対して抵抗性を獲得すること、さらには硬度が増加し、弾力性が低下することを見出した。
【0011】
つまり、光老化部では積年の紫外線照射によりエラスチンにニトロ化修飾等の変性が生じており、これがエラスチンの凝集を惹起するとともに分解酵素によるエラスチンの分解低下をもたらし、結果、光老化部でエラスチンの異常沈着が引き起こされることを見出した。さらには、光老化皮膚でのエラスチンの硬化等の物性変化や、弾力性低下等の機能低下の一要因であることを突き止めた。
【0012】
さらに本発明者は、ニトロ化のみならず糖化、カルボニル化修飾等のタンパク質翻訳後修飾をうけたエラスチンは、エラスターゼによる分解に対して抵抗性を獲得することを確認した。
【0013】
以上の新知見から、変性したエラスチンの分解を促進、又は変性エラスチンの生成自体を抑制することにより、光老化部位に生じるエラスチンの異常沈着を抑制でき、皮膚の硬化および皮膚弾力性の低下、それに伴うシワ、タルミの形成、ハリの低下等を予防し又はこれらを改善することができると確信し、本発明に至った。
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
光老化部で生じるエラスチンの異常沈着を抑制し、皮膚の硬化、皮膚弾力性の低下を抑制、光老化に伴う皮膚のシワ、タルミの形成、ハリの低下等を予防し又はこれらを改善することができる物質のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
変性エラスチンの分解促進又は生成抑制を指標とすることで上記課題を解決した。
【0016】
本発明は、以下のスクリーニング方法を提供するものである。
〔1〕変性エラスチン量を指標とした光老化予防改善剤のスクリーニング方法
〔2〕変性エラスチン量を指標としたシワ、タルミの形成、ハリ低下の予防改善剤のスクリーニング方法
〔3〕変性エラスチン量を指標とした皮膚の弾力性低下抑制剤及び/又は皮膚の硬化抑制剤のスクリーニング方法
〔4〕変性エラスチン量を指標としたエラスチンの異常沈着抑制剤のスクリーニング方法
〔5〕前記変性エラスチン量の指標が、変性エラスチンの分解促進である〔1〕乃至〔4〕のいずれか1項に記載のスクリーニング方法
〔6〕前記変性エラスチンの分解促進が、変性エラスチンの直接分解及び/又は細胞外基質分解酵素による分解の促進である〔5〕に記載のスクリーニング方法
〔7〕前記変性エラスチン量の指標が、変性エラスチンの生成抑制である〔1〕乃至〔4〕のいずれか1項に記載のスクリーニング方法
〔8〕前記変性が、ニトロ化修飾に起因するものである〔1〕乃至〔7〕のいずれか1項に記載のスクリーニング方法
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、変性エラスチンの分解の促進又は生成の抑制を指標に用いることにより、光老化に伴うエラスチンの異常沈着を抑制する新たな物質のスクリーニング方法が提供される。加えて、皮膚の硬度の増加、皮膚弾力性の低下も抑制することができるため、それに伴うシワ、タルミの形成、ハリの低下を予防し、これらを改善する新たな物質のスクリーニング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】光老化部(露光部)、自然老化部(非露光部)皮膚切片中の細胞核、ニトロチロシン、エラスチンの局在を示す図である。
図2】ニトロ化エラスチンの凝集を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明で用いるエラスチンは、特に限定されないが、例えばトロポエラスチンタンパク質或いはエラスチンタンパク質が挙げられる。これらは天然物でも人工的に作製したものでも良く、天然物としては、ヒト、ラット、ウシ、ウサギ、サケ等を含む脊椎動物から抽出されたものを用いることができ、人工的に作製したものとしては、上記生物由来のトロポエラスチン遺伝子を大腸菌や酵母等の微生物細胞にトランスフェクションし産生させた、或いは大腸菌やコムギ胚芽、加えて培養細胞などの抽出液中の酵素を用いた無細胞系にて産生させたものを用いることができる。エラスチンはタンパク質として存在する状態でも良いし、複数のエラスチンが架橋して構成された線維状の構造物であっても良く、例えば上記生物から回収される弾性線維やエラウニン線維等の弾性系線維のほか、人工的に架橋操作を行い線維状構造物に成形したエラスチンファイバーなどの状態であってもよい。更に、これらのタンパク質或いは線維状のエラスチンはそのまま用いることも出来るし、加水分解や酵素分解等の操作を加えて断片化した状態のものを用いても良い。またこれらのエラスチンには、分解を評価するために色素や蛍光物質などの化学標識が施されていても良い。
【0020】
本発明の変性とは、エラスチンに生じる変性を指しており、例えばニトロ化修飾、糖化修飾、カルボニル化修飾等の翻訳後修飾の付加や、ミスフォールディングによる立体構造の変化、或いは他タンパク質・分子との異常結合、これらを原因とする凝集物の形成などが挙げられる。本願では、エラスチンが上記の変性のうちいずれか1種以上の変性を有すエラスチンを「変性エラスチン」と呼ぶ。
【0021】
エラスチンに変性を生じさせる変性処理の方法としては、特に限定されない。例えばエラスチンに試薬を添加することによりニトロ化修飾や酸化、糖化、カルボニル化といった翻訳後修飾を生じさせる方法のほか、エラスチンに熱処理を加えて熱変性を生じさせる方法、酸又はアルカリの添加により構造的な変性を生じさせる方法、紫外線照射や太陽光の暴露により光変性を生じさせる方法、経年により加齢変性を生じさせる方法等を用いることができる。これらの処理により、ニトロ化修飾、糖化修飾、カルボニル化修飾等の翻訳後修飾の付加や、ミスフォールディングによる立体構造の変化、或いは他のエラスチンやタンパク質・分子との異常結合、またこれらを原因とした凝集物の形成、などに代表される変化をエラスチンに生じさせることができる。もっとも、エラスチンに直接変性処理を行うだけでなく、エラスチンの産生元であるヒト、ラット、ウシ、ウサギ、サケ等を含む脊椎動物や、大腸菌や酵母等の微生物細胞に対し、これらの生物が生きているうちに上述の変性処理、例えば翻訳後修飾を生じさせる試薬等を与えることができることは言うまでもない。
【0022】
エラスチンに翻訳後修飾を生じさせるために用いるニトロ化修飾試薬としては、公知のものを用いることができ、例えばペルオキシナイトライト等の活性窒素種を直接用いるほか、試験系中に活性窒素種を発生させることができる化合物群を混合して用いても良い。例えば、一酸化窒素とスーパーオキシドアニオンを混合する、又はミエロペルオキシダーゼ(MPO)とNaNO、過酸化水素等と混合することによる。加えて、ニトロニウムイオンを発生させるテトラニトロメタンや硝酸などの試薬等を用いることもできる。このほか、塩化ニトロイルやニトロソペルオキシカルボキシレート、またアジ化ナトリウムおよびカタラーゼ等の試薬を用いることもできる。ニトロ化修飾自体は公知の手法を用いることができる。上記試薬の利用により、エラスチン中に含まれるチロシンやトリプトファン、フェニルアラニン、システイン残基にニトロ基が導入され、ニトロチロシンやジニトロチロシン、ニトロトリプトファン、ニトロフェニルアラニン、ジニトロフェニルアラニン、ニトロシステイン等を含むエラスチンが形成される。
【0023】
エラスチンに翻訳後修飾を生じさせるために用いる酸化試薬としては公知のものを用いることができ、例えば過酸化水素や次亜塩素酸、スーパーオキサイドやヒドロキシラジカルを直接用いるほか、試験系中に活性酸素種を発生させることができる化合物群を混合して用いても良い。また、糖化試薬としては公知のものを用いることができ、例えばリボースやグルコース、グリセルアルデヒドやグリオキサールを用いることができる。カルボニル化試薬としては例えばアクロレインやヒドロキシノネナール等を用いることができる。
【0024】
本発明で用いる変性エラスチンは、上述のような操作を行い、人為的にエラスチンに変性処理を加えたものを用いることができほか、上述のように変性処理を行わずとも、すでに変性が生じているエラスチンも変性エラスチンとして用いることができる。すでに変性が生じているエラスチンとしては、例えば長期間紫外線にさらされた上記生物から抽出したエラスチンや、経年により高齢となった上記生物から抽出したエラスチンを用いることができる。
【0025】
変性エラスチンの存在量を測定する方法としては、変性エラスチンを直接測定する方法、又は変性エラスチン中の変性部位を特異的に検出しこれを変性エラスチンの存在量として測定する方法が挙げられる。例えば、吸光度、蛍光強度、液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー、質量分析、核磁気共鳴(NMR)、免疫染色、電気泳動、ウエスタンブロッティング、放射免疫測定(Radioimmunoassay)、Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)、ゲル浸透クロマトグラフィー、限外濾過、タンパク質定量、重量測定等により直接的に変性エラスチンの存在量を測定することができる。また変性エラスチン中に存在するニトロ基、糖化物、カルボニル基の存在量や、ミスフォールディングによる立体構造の変化、或いは他のエラスチンやタンパク質・分子との分子間架橋構造、またこれらを原因とする凝集物の形成を上述の方法や公知の手法により測定し、これらの存在量を変性エラスチンの存在量とすることも出来る。なお凝集物とは、エラスチン線維又はエラスチンタンパク質の分子若しくは複合体を含む重合集合体をさし、可視的な沈殿物が形成される程度にまで達したものも含まれる。エラスチンの重合集合体の重合形態は、分子間イオン結合、疎水相互作用、ファンデルワールス力等によるものを含む。凝集物の評価方法としては、電気泳動やゲル浸透クロマトグラフィー、限外濾過法、質量分析計等にてタンパク質の重合集合体の分子量を評価する方法、チオフラビンT等の凝集分子間に保持される凝集指示薬等を用いることで凝集の程度を評価する方法、或いは凝集にともなう溶液の屈折率の変化や凝集沈殿物の発生を光散乱法や吸光度法、又は凝集に伴う分子・線維形態の変化を顕微鏡等にて目視で直接評価することで凝集物の量を判断する方法が挙げられる。測定方法は、上記に限定されない。
【0026】
本発明のスクリーニング方法は、変性エラスチン量を指標とすることで、エラスチンの異常沈着を抑制し、皮膚の硬化および皮膚弾力性の低下、それに伴うシワ、タルミの形成、ハリの低下といった光老化の兆候を予防又は改善することができる物質を評価、選択する方法である。本願の「抑制剤」は、「予防改善」を含む概念として用いる。
【0027】
本発明の変性エラスチン量を指標とするとは、任意の方法を用いて測定した変性エラスチンの存在量を効果判定の基準にするという趣旨である。例えば、被験物質の存在により、変性エラスチン量を無添加群より減少させることができる場合、効果ありと判定することができる。なおこの時の変性エラスチン量の減少は、既存の変性エラスチンの分解の促進による場合、又は変性エラスチンの新規生成の抑制による場合のどちらでもあり得る。
【0028】
既存の変性エラスチンの分解の促進による変性エラスチン量の減少剤をスクリーニングする場合は、任意の方法を用いて測定した変性エラスチンの分解の程度を効果判定の基準にする。例えば、被験物質の存在により、変性エラスチンの分解を無添加群よりも増加させることができる場合、効果ありと判定することができる。変性エラスチンを用いてエラスチンの分解を評価する系において、被験物質の有無により系中で生じる変性エラスチンの分解を増加させる物質を選択すれば良く、例えば、被験物質の無添加に対して好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上、変性エラスチンの分解を増加させる物質を選択すればよい。このときの変性エラスチンの分解は、変性エラスチンの直接的な分解又は細胞外基質分解酵素による分解のどちらでも良い。
【0029】
変性エラスチンの直接的な分解とは、酵素などを介さず分解することを意味する。変性エラスチンの直接的な分解には、公知の方法を用いることができるが、例えば、任意の変性エラスチンと被験物質を混合し、一定時間後に変性エラスチンの存在量或いは変性エラスチンの分解産物量を測定することで確認することができる。変性エラスチンと被験物質を混合する順番やタイミングは問わず、両者が試験系中で共存するタイミングがあればよい。
【0030】
細胞外基質分解酵素による変性エラスチンの分解には、公知の方法を用いることができる。例えば、好中球エラスターゼ、線維芽細胞エラスターゼ、膵エラスターゼのほか、マトリクスメタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ等の酵素を用いるほか、これらの酵素を産生する培養細胞や細胞破砕物或いは培養上清等を用いることができる。変性エラスチンと酵素を反応させる、又は変性エラスチンを培養細胞に添加或いは培養上清と混合して反応させたのちに変性エラスチンの存在量或いは変性エラスチンの分解産物量を測定することで、変性エラスチンの分解を確認することができる。なお変性エラスチンと細胞外基質分解酵素、及び被験物質を混合する順番やタイミングは問わず、両者が試験系中で共存するタイミングがあればよい。
【0031】
変性エラスチンの分解の有無や程度は、特に限定されないが、公知の方法で測定することができる。例えば、変性エラスチンの存在量を測定する、或いは変性エラスチンの分解産物量を測定することで、変性エラスチンの分解を算出することができる。変性エラスチンの存在量を測定する方法としては、前述の方法を用いることができる。他方、変性エラスチンの分解の測定方法として、系中に存在する分解産物量を測定し算出することもできる。変性エラスチンの分解産物量の測定方法は、特に限定されないが、公知の方法で行うことができる。例えば、色素結合不溶性エラスチンに変性処理を行い不溶性の変性エラスチンを調製したのちに上述の方法を用いて分解反応を行い、上清中に遊離した分解産物の色素を吸光度或いは蛍光強度にて測定する方法が挙げられる。また、可溶性の変性エラスチンを用いて上述の方法で分解反応を行ったのち、電気泳動又はゲル浸透クロマトグラフィー等を用いて分子量を測定し、検出された可溶性の変性エラスチンよりも分子量が小さい物質を分解産物として定量することもできる。さらに、変性処理を行ったエラスチンペプチドに上述の方法にて分解反応を行ったのち、系中に存在するペプチド断片分解産物をHPLCにて測定する方法などがある。測定方法は、上記に限定されない。
【0032】
変性エラスチンの新規生成の抑制による変性エラスチン量の減少剤をスクリーニングする場合は、変性エラスチンの新規生成の有無や程度を効果判定の基準にする。例えばエラスチンに前述の変性処理を行い変性エラスチンを生成させる系において、被験物質の存在により、変性エラスチンの存在量を無添加群よりも減少させることができる場合、効果ありと判定することができる。変性エラスチンの存在量を評価する系において、被験物質の有無により系中に存在する変性エラスチンの存在量を減少させる物質を選択すればよく、例えば、被験物質の無添加に対して被験物質の無添加に対して好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上、変性エラスチンの存在量を減少させる物質を選択すればよい。エラスチンと被験物質を混合する順番やタイミングは問わず、両者が試験系中で共存したのちに変性処理を実施すればよい。
【0033】
変性エラスチンの新規生成の有無や程度は、特に限定されないが、公知の方法で測定することができる。例えば、生成する変性エラスチンの存在量を測定することで、変性エラスチンの新規生成を評価することができる。変性エラスチンの存在量を測定する方法としては、前述の方法を用いることができる。
【0034】
用いる被験物質には、特に制限はない。動植物由来エキス、菌類の培養物、又はこれらの酵素等処理物、化合物又はその誘導体等であっても被検物質として用いることが出来、液状の他、粉末状、ジェル状等であっても差し支えない。被験物質に応じて変性エラスチンの分解の分析方法、および変性エラスチンの生成抑制の分析方法を適宜選択すればよい。
【実施例
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0036】
<実験1>光老化部および自然老化部皮膚切片中のエラスチンおよびニトロチロシンの局在
以下の手順で、皮膚切片中のエラスチン、ニトロチロシンを検出した。
インフォームドコンセントを得た90代女性から得た光老化部皮膚(露光部、頬部)、自然老化部皮膚(非露光部、臀部)のホルマリン固定パラフィン包埋切片を作成し、一次抗体に抗ニトロチロシン抗体(Stressmarq社)、エラスチン抗体(Abcam社)、二次抗体にAlexaFluor(R)488標識抗マウス抗体(Abcam社)、AlexaFluor(R)594標識抗ウサギ抗体(Abcam社)を用いて免疫染色し、蛍光顕微鏡(キーエンス社)にて蛍光像を観察した(倍率10倍)。
【0037】
図1に示すように、露光部皮膚の真皮では非露光部の真皮よりもニトロチロシンが多く検出され、光老化部皮膚では真皮の細胞外基質にニトロチロシンが存在することが示された。また、露光部皮膚のニトロチロシンはエラスチンとほぼ同じ局在を示しており、光老化部皮膚にはニトロ化エラスチンが存在することが示唆された。
【0038】
<実験2>エラスターゼによるニトロ化エラスチンタンパク質の分解
以下の手順で、ニトロ化修飾処理したエラスチンのエラスターゼによる分解を測定した。
<Peroxynitrite処理エラスチン溶液の調製>
オルセイン標識不溶性エラスチン(SIGMA社)を20mg/mLの濃度になるようReaction Buffer(0.2M Tris-HCl(pH7.5)、20mM CaCl)によく懸濁し、Peroxynitrite溶液を100μM、300μM、1mMの濃度になるよう添加し、37℃で1日間インキュベートし、これを3回繰り返した。
<テトラニトロメタン処理エラスチン溶液の調製>
オルセイン標識不溶性エラスチン(SIGMA社)を40mg/mLの濃度になるようReaction Buffer(0.2M Tris-HCl(pH7.5)、20mM CaCl)によく懸濁し、EtOHに溶解した10%テトラニトロメタン(TNM)溶液を0.1%の濃度になるよう添加した。5分間混合後、尿素水溶液を終濃度2Mになるよう添加して5分間混合し反応を停止した。遠心分離後に上清を捨て、再度Reaction Bufferを添加し洗浄し、この操作を計6回繰り返した。最後の遠心分離後、沈査にReaction Bufferを添加し溶液を調製した。
<エラスターゼによるエラスチン分解試験>
Peroxynitrite処理エラスチン溶液又はテトラニトロメタン処理エラスチン溶液に、好中球エラスターゼ(SIGMA)を0.5units/mLになるよう添加、或いは培養線維芽細胞より回収した線維芽細胞エラスターゼ溶液を1/6量添加し、37℃で6日間インキュベートした。遠心分離後に上清を96well-plateに回収し、エラスチン分解産物量を595nmの吸光度で測定し、数式1に従って無変性のエラスチン分解を1としたときのニトロ化エラスチンの分解を算出した。
【0039】
【数1】
【0040】
表1に示すように、Peroxynitrite処理およびTNM処理は、無変性エラスチンに比べて好中球エラスターゼ又は線維芽細胞エラスターゼによるエラスチンの分解を低下させた。つまり、ニトロ化エラスチンではエラスターゼによる分解が抑制されることが確認された。
【0041】
【表1】
【0042】
<実験2>エラスターゼによる変性エラスチンタンパク質の分解
以下の手順で、各種の変性処理を行ったエラスチンのエラスターゼによる分解を測定した。
<各種変性エラスチン溶液の調製>
オルセイン標識不溶性エラスチン(SIGMA社)を40mg/mLの濃度になるようReaction Buffer(0.2M Tris-HCl(pH7.5)、20mM CaCl)によく懸濁し、Peroxynitrite溶液を100μMの濃度になるよう添加、或いはリボース水溶液を300mMの濃度になるよう添加、或いはアクロレイン溶液を1mMの濃度になるようそれぞれ添加し、37℃で3日間インキュベートした。遠心分離後に上清を捨て、再度Reaction Bufferを添加し洗浄し、この操作を計3回繰り返した。最後の遠心分離後、沈査にReaction Bufferを添加した。
<エラスターゼによるエラスチン分解試験>
各種変性エラスチン溶液に、好中球エラスターゼ(SIGMA)を0.2units/mLになるよう添加し、37℃で1日間インキュベートした。遠心分離後に上清を96well-plateに回収し、エラスチン分解産物量を595nmの吸光度で測定し、数式2に従って無変性のエラスチン分解を1としたときの各種変性エラスチンの分解を算出した。
【0043】
【数2】
【0044】
表2に示すように、ニトロ化(Peroxynitrite)処理、糖化(リボース)処理、カルボニル化(アクロレイン)処理を行ったエラスチンは、すべて無変性エラスチンよりも好中球エラスターゼによるエラスチンの分解が低下した。つまり、変性エラスチンではエラスターゼによる分解が抑制されることが確認された。中でも、ニトロ化処理は最もエラスチンの分解を低下させた。
【0045】
【表2】
【0046】
<実験3>ニトロ化処理によるエラスチンの凝集
以下の手順で、Peroxynitrite処理したエラスチン線維の形態変化を観察した。
エラスチンファイバーシート(細胞外基質研究所社)を0.2Mリン酸緩衝液(pH7.5)に浸し、Peroxynitrite(Dojindo社)を100μMになるよう添加した。37℃で3日間インキュベートした後、蒸留水にてエラスチンファイバーシートを洗浄・乾燥し、Au蒸着後、走査型電子顕微鏡(JEOL社)にて線維形態を観察した。
【0047】
図2に示すように、Peroxynitrite処理によりエラスチンファイバーは線維が束なり合一した様相を呈しており、ニトロ化処理はエラスチンの凝集を生じさせることが示された。
【0048】
<実験4>ニトロ化処理によるエラスチンゲルシートの硬度および弾力性の変化
以下の手順で、テトラニトロメタン処理したエラスチンゲルシートの硬度および弾力性を測定した。
エラスチンゲルシート(細胞外基質研究所社)を0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)に浸漬し、EtOHに溶解した10%テトラニトロメタン(TNM)溶液を0.1%の濃度になるよう添加した。室温にて3時間インキュベートした後、溶液を捨て、シートをリン酸緩衝液にて洗浄した。ゲル硬度(ヤング率)は引張試験機(細胞外基質研究所社)を用いて測定した。総伸長および弾力性は、Cutometer(Courage+Khazaka社)にて測定した。具体的には、得られたUf値(減圧吸引後の総伸長)およびUr値(減圧開放直後の収縮)を用い、弾力性は数式3に従って算出した。
【0049】
【数3】
【0050】
表3に示すように、テトラニトロメタン(TNM)処理したエラスチンゲルシートでは硬度(ヤング率)が増加し、また表4に示すように、伸長率(Uf)および弾力性(Ur/Uf)が低下することが確認された。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
前述の結果より、光老化部皮膚ではニトロ化修飾された変性エラスチンが増していること、またニトロ化修飾はエラスターゼによるエラスチンの分解を抑制し、かつエラスチンの凝集を促進する特性があることを見出した。加えて、これらのエラスチンの性質変化の結果、エラスチンは硬化し弾力性が減少することも見出した。つまり、長年の紫外線暴露により生じたニトロ化修飾により生じた変性エラスチンは、エラスターゼによるエラスチンの分解を低下させ、光老化部皮膚のエラスチンの異常沈着に寄与することを突き止めた。つまり、変性エラスチン量を減少させることにより、皮膚の硬化および皮膚弾力性の低下、それに伴うシワ、タルミの形成、ハリの低下といった光老化の兆候を予防又は改善することができると考えられ、本発明の変性エラスチンの分解促進を評価及び/又は選択する方法、或いは変性エラスチンの生成抑制を評価及び/又は選択する方法は、上記知見に基づくものである。
【0054】
<実施例1>ニトロ化エラスチンの分解促進物質のスクリーニング方法
以下の手順で、エラスターゼによるニトロ化エラスチンの分解を測定し、光老化予防改善剤を選択した。
<被験物質の調製>
複数の乾燥植物原体にそれぞれ10倍の重量の50%(v/v)エタノール水溶液を加えて室温で1週間抽出した。抽出物の乾燥残分に対して、エタノール、水を重量比で1:50:49となるように加えて希釈したものを被験物質とした。対照物質としては50%エタノール溶液を用いた。
<ニトロ化エラスチンの分解試験>
オルセイン標識不溶性エラスチン(SIGMA社)を20mg/mLの濃度になるようReaction Buffer(0.2M Tris-HCl(pH7.5)、20mM CaCl)によく懸濁し、Peroxynitrite溶液を0、100μMの濃度になるよう添加し、37℃で1日間インキュベートしてニトロ化エラスチンを調製した。ここに被験物質又は対照物質を100ppmの濃度になるよう添加した後、さらに好中球エラスターゼ(SIGMA)を0.5units/mLになるよう添加し、37℃で2日間インキュベートした。遠心分離後に上清を96well-plateに回収し、エラスチン分解産物量を595nmの吸光度で測定した。数式4に従って対照物質添加を100%としたときの各被験物質のニトロ化エラスチンの分解度を算出し、対照物質添加に対し分解が5%以上増加した被験物質を効果成分と判定した。
【0055】
【数4】
【0056】
被験物質を添加したときのエラスターゼによるニトロ化エラスチンの分解が、対照物質を添加したときに対して5%以上増加していれば、被験物質にはニトロ化エラスチンの分解促進作用が十分あると判断でき、エラスチンの異常沈着の抑制、皮膚の硬化抑制、皮膚の弾力性低下抑制、シワ、タルミの形成、ハリ低下の予防改善等、光老化症状の予防改善が期待される。
【0057】
<実施例2>熱変性エラスチンの分解促進物質のスクリーニング方法
以下の手順で、線維芽細胞由来分解酵素による熱変性エラスチンの分解を測定し、光老化予防改善剤を選択した。
<被験物質の調製>
実施例1と同様に調製した。
熱変性エラスチンの分解試験>
FITC標識不溶性エラスチン(AnaSpec社)を100mg/mLの濃度になるようReaction Buffer(0.2M Tris-HCl(pH8.5)、20mM CaCl2)によく懸濁し、95℃で10分間加熱したのちに冷却し、熱変性エラスチンを調製した。24well-plateに、10%FBS含有D-MEMに懸濁した成人由来ヒト真皮線維芽細胞を500μLずつ播種、又は10%FBS含有D-MEMのみを500μLずつ分注し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で3日間培養した。培地を捨て、10%FBSを加えたフェノールレッド不含有D-MEMを300μLずつ分注したのち、各ウェルに被験物質又は対照物質を100ppmの濃度になるよう添加した後、調製した熱変性エラスチンをそれぞれ30μLずつ添加した。37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で3日間培養し、プレートの培養上清を回収した。培養上清を遠心分離した後、96well-plateに上清を分注し、分解産物量を、蛍光プレートリーダー(TECAN社)を用いて励起波長495nm、測定波長515nmの蛍光で測定した。数式5に従って対照物質添加を100%としたときの各被験物質の熱変性エラスチンの分解を算出し、分解が5%以上増加した被験物質を効果成分と判定した。
【0058】
【数5】
【0059】
被験物質を添加したときの熱変性エラスチンの分解が、対照物質を添加したときに対して5%以上増加していれば、被験物質には熱変性エラスチンの分解促進作用が十分あると判断でき、エラスチンの異常沈着の抑制、皮膚の硬化抑制、皮膚の弾力性低下抑制、シワ、タルミの形成、ハリ低下の予防改善等、光老化症状の予防改善が期待される。
【0060】
<実施例3>糖化エラスチンの分解物質のスクリーニング方法
以下の手順で、糖化エラスチンの直接分解を測定し、光老化予防改善剤を選択した。
<被験物質の調製>
複数の乾燥植物原体にそれぞれ10倍の重量の1,3-ブチレングリコール溶液を加えて50℃、6時間加熱抽出したものを被験物質とした。対照物質としては1,3-ブチレングリコール溶液を用いた。
<糖化エラスチン分解試験>
50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)にブタ由来可溶性エラスチン-A(FUJIFILM社)を1mg/mLの濃度で溶解し、リボース(FUJIFILM社)を終濃度が100mMの濃度になるよう添加し、60℃で15日間インキュベートして糖化エラスチンを調製した。糖化エラスチンに被験物質又は対照物質を1000ppmの濃度になるよう添加したのち、蛍光プレートリーダーにて励起波長370nm、測定波長440nmで反応前の糖化エラスチンの蛍光を測定した。37℃で5日間インキュベートした後、反応溶液を96well-plateに200μLずつ分注し、反応後の糖化エラスチン量を蛍光プレートリーダーにて励起波長370nm、測定波長440nmの蛍光で測定した。数式6に従って対照物質添加を100%としたときの各被験物質の糖化エラスチンの分解を算出し、分解が5%以上増加した被験物質を効果成分と判定した。
【0061】
【数6】
【0062】
被験物質を添加したときの糖化エラスチンの分解が、対照物質を添加したときに対して5%以上増加していれば、被験物質には糖化エラスチンの分解促進作用が十分あると判断でき、エラスチンの異常沈着の抑制、皮膚の硬化抑制、皮膚の弾力性低下抑制、シワ、タルミの形成、ハリ低下の予防改善等、光老化症状の予防改善が期待される。
【0063】
<実施例4>エラスチンの凝集物の生成抑制物質のスクリーニング方法
以下の手順で、紫外線照射により生じるエラスチンの凝集を測定し、光老化予防改善剤を選択した。
<被験物質の調製>
複数の乾燥植物原体にそれぞれ100倍の重量の水を加えて80℃、8時間加熱抽出したものを被験物質とした。対照物質としては水を用いた。
<エラスチンの凝集抑制試験>
0.2Mリン酸緩衝液(pH7.5)にトロポエラスチンタンパク質(SIGMA社)を1mg/mLの濃度で溶解し、被験物質又は対照物質を終濃度が100ppmになるよう添加したのち、96well-plateに200μLずつ分注した。UVクロスリンカー(AnalytikJena社)を用いてUV-A(365nm)をプレートに100J/cm照射した。37℃で1日間インキュベート後、10×Blue native PAGE Sample Buffer(5%(w/v)CBB-G250、0.5M 6-aminocaproic acid、0.1M Bis-Tris(pH7.0)、50% Glycerol)を1/10量添加し、4℃で10分間静置した。4-16%ポリアクリルアミドグラジエントゲル(Invitrogen社)に20μLずつアプライし、泳動槽の陽極側にAnode Buffer(50mMBis-Tris(pH7.0))、陰極側にCathode Buffer(50mM Tricine(pH7.0)、15mM Bis-Tris(pH7.0)、0.02% CBB-G250)を満たし、泳動槽を冷却しながら150mAで電気泳動した。途中、泳動を停止しCathode BufferをCBB-G250を含まないものに置換し、再度電気泳動した。泳動終了後のゲルを固定液(50%メタノール、10%酢酸)に一晩浸漬して固定および脱色処理した後、銀染色キット(ATTO社)を用いて銀染色を行った。ゲルの写真を撮影後、ImageJ(National Institutes of Health)にてバンド強度を定量した。トロポエラスチンタンパク質は単量体では分子量約70kDaのタンパク質であるため、この分子量の2倍以上大きい分子量を示すバンドの強度を総和したものを凝集物量とした。対照物質添加の凝集物量を100%としたとき、凝集物量が5%以上減少した被験物質を効果成分と判定した。
【0064】
被験物質を添加したときのエラスチンの凝集物量が、対照物質を添加したときに対して5%以上減少していれば、被験物質にはエラスチンの凝集の生成抑制作用が十分あると判断でき、エラスチンの異常沈着の抑制、皮膚の硬化抑制、皮膚の弾力性低下抑制、シワ、タルミの形成、ハリ低下の予防改善等、光老化症状の予防改善が期待される。
【0065】
本発明のスクリーニング方法を用いることで、エラスチンの異常沈着の抑制剤、および皮膚の硬化抑制剤、皮膚の弾力性低下抑制剤、シワ、タルミの形成、ハリ低下の予防改善剤等の、光老化を予防改善する物質を選択することが可能である。
図1
図2