(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】燃料電池発電システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04858 20160101AFI20240610BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20240610BHJP
H01M 8/00 20160101ALN20240610BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240610BHJP
【FI】
H01M8/04858
H01M8/04537
H01M8/00 Z
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2020188914
(22)【出願日】2020-11-12
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】斎宮 久幸
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 崇之
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/179661(WO,A1)
【文献】特開2011-76943(JP,A)
【文献】特開昭61-21516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力調整が可能な燃料電池発電装置と、電力供給先における電力負荷を検知する負荷検知装置と、前記燃料電池発電装置の発電出力を制御する出力制御装置とを備え、
前記出力制御装置は、前記燃料電池発電装置の発電出力が、前記負荷検知装置が検知した電力負荷未満のときに、予め定めた出力増加速度で前記燃料電池発電装置の発電出力を上昇させるとともに、
前記出力制御装置は、前記燃料電池発電装置の発電出力が、前記負荷検知装置が検知した電力負荷以上のときに、予め定めた出力低下速度であって、実際の電力負荷の低下速度以下の出力低下速度である調整低下速度にて、前記燃料電池発電装置の発電出力を低下させ
、
前記調整低下速度は、次のような出力低下速度であって、すなわち、前記電力供給先の電力負荷変動を表すグラフに対して、前記出力増加速度及び当該出力低下速度に従った前記燃料電池発電装置の発電出力のグラフを当てはめたとき、所定期間において、前記電力負荷変動を表すグラフが前記出力増加速度に従った前記発電出力のグラフを上回っている領域の面積と、前記電力負荷変動を表すグラフが当該出力低下速度に従った前記発電出力のグラフを下回っている領域の面積との合計が最小値となるような出力低下速度である、燃料電池発電システム。
【請求項2】
前記調整低下速度は、候補となる出力低下速度及び前記電力負荷の低下速度のうちから選ばれる、請求項
1に記載の燃料電池発電システム。
【請求項3】
出力調整が可能な燃料電池発電装置と、電力供給先における電力負荷を検知する負荷検知装置と、前記燃料電池発電装置の発電出力を制御する出力制御装置とを備え、
前記出力制御装置は、前記燃料電池発電装置の発電出力が、前記負荷検知装置が検知した電力負荷未満のときに、予め定めた出力増加速度で前記燃料電池発電装置の発電出力を上昇させるとともに、
前記出力制御装置は、前記燃料電池発電装置の発電出力が、前記負荷検知装置が検知した電力負荷以上のときに、予め定めた出力低下速度であって、実際の電力負荷の低下速度以下の出力低下速度である調整低下速度にて、前記燃料電池発電装置の発電出力を低下させ、
前記電力供給先の電力負荷変動を表すグラフに対して、前記出力増加速度及び前記電力負荷の低下速度を下回る所定の前記調整低下速度に従った前記燃料電池発電装置の発電出力のグラフを当てはめたとき、所定期間において、前記電力負荷変動を表すグラフが前記出力増加速度に従った前記発電出力のグラフを上回っている領域の面積と、前記電力負荷変動を表すグラフが前記調整低下速度に従った前記発電出力のグラフを下回っている領域の面積との合計が所定の閾値以下である場合は、前記出力制御装置は、前記調整低下速度で前記燃料電池発電装置を制御し、
前記合計が前記所定の閾値を超える場合は、前記出力制御装置は、前記電力負荷の低下速度で前記燃料電池発電装置を制御する
、燃料電池発電システム。
【請求項4】
出力調整が可能な燃料電池発電装置と、電力供給先における電力負荷を検知する負荷検知装置と、前記燃料電池発電装置の発電出力を制御する出力制御装置とを備え、
前記出力制御装置は、前記燃料電池発電装置の発電出力が、前記負荷検知装置が検知した電力負荷未満のときに、予め定めた出力増加速度で前記燃料電池発電装置の発電出力を上昇させるとともに、
前記出力制御装置は、前記燃料電池発電装置の発電出力が、前記負荷検知装置が検知した電力負荷以上のときに、予め定めた出力低下速度であって、実際の電力負荷の低下速度以下の出力低下速度である調整低下速度にて、前記燃料電池発電装置の発電出力を低下させ、
所定期間における前記電力供給先の電力負荷変動を表すグラフに対して、電力負荷のピークの数が所定の閾値以上である場合は、前記出力制御装置は、前記電力負荷の低下速度を下回る所定の前記調整低下速度で前記燃料電池発電装置を制御し、
前記ピークの数が前記所定の閾値未満である場合は、前記出力制御装置は、前記電力負荷の低下速度で前記燃料電池発電装置を制御する
、燃料電池発電システム。
【請求項5】
前記所定期間は、前記燃料電池発電装置の起動工程の間の期間である、請求項
1から請求項
4までのいずれか1項に記載の燃料電池発電システム。
【請求項6】
前記所定期間は、前記燃料電池発電装置の発電開始直後からの期間である、請求項
1から請求項
4までのいずれか1項に記載の燃料電池発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池発電システム、特に固体酸化物型の燃料電池発電装置を用いる燃料電池発電システムにおいて、発電寄与率の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の固体酸化物型燃料電池発電システムでは、電力負荷が低下した際には、瞬時に発電出力を追従して低下させる制御を行っている。一方、電力負荷が上昇した際には、負荷に追従するように発電出力を上昇させる。しかし、特に固体酸化物型の燃料電池発電装置を用いた燃料電池発電システムにおいては、発電出力を上昇させる速度(すなわち、単位時間当たりの発電出力の上昇幅)には、燃料電池発電装置の構造に起因する上限がある。
【0003】
特許文献1では、運転開始から発電までにかかる起動時間を考慮して、前もって起動をかけることで、電力負荷が増大したタイミングには、燃料電池システムから電力供給できるようにすることで電力負荷パターンに対する燃料電池システムの電力寄与率を向上させることを図っている。
【0004】
特許文献2では、負荷電力が急激に低下してから設定時間の間、発電電力が一定に保持されるように固体酸化物型燃料電池を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-044714号公報
【文献】特開2007-294443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電力負荷の変動量が大きい場合、あるいは、電力負荷の変動頻度が多い場合は、システムの発電出力が低下した状態から急激に電力負荷が上昇すると、システムの発電出力が実際の電力負荷に追いつけないため、発電寄与率が低下することがあった。
【0007】
特許文献1では前もってシステムを起動しておくことで、電力供給をより早期に行うこととしているが、電力負荷の変動に対応することについての言及はない。
【0008】
特許文献2では負荷電力が急激に低下してもしばらくの間発電電力を一定に保持して、負荷電力の再度の上昇に備えることとしているが、その再度の上昇が起こらない場合には発電電力が無駄になる。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、既存の燃料電池発電装置を用いつつ、電力供給先での負荷電力に対する燃料電池発電装置の発電寄与率の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1態様に係る燃料電池発電システムは、出力調整が可能な燃料電池発電装置と、電力供給先における電力負荷を検知する負荷検知装置と、前記燃料電池発電装置の発電出力を制御する出力制御装置とを備え、前記出力制御装置は、前記燃料電池発電装置の発電出力が、前記負荷検知装置が検知した電力負荷未満のときに、予め定めた出力増加速度で前記燃料電池発電装置の発電出力を上昇させるとともに、前記出力制御装置は、前記燃料電池発電装置の発電出力が、前記負荷検知装置が検知した電力負荷以上のときに、予め定めた出力低下速度であって、実際の電力負荷の低下速度以下の出力低下速度である調整低下速度にて、前記燃料電池発電装置の発電出力を低下させる。
【0011】
すなわち、第1態様に係る燃料電池発電システムは、燃料電池発電装置と、負荷検知装置と、出力制御装置とを備える。燃料電池発電装置は、少なくとも後述の出力増加速度で発電出力を上昇させるとともに、後述の調整低下速度で発電出力を低下させる、出力調整が可能な構造を有する。具体的には、既存の燃料電池発電装置、例えば、固体酸化物燃料電池を備えた発電装置を第1態様の燃料電池発電装置とすることができる。
【0012】
電力供給先とは、燃料電池発電装置で発電した電力が供給されてその電力が消費されるところであり、例えば、家庭、事業所、又は工場等を挙げることができる。電力供給先では、燃料電池発電装置が発電した電力とともに、実際の電力負荷に対する不足分はその他の電力供給元、例えば電力供給会社又は、電力供給先が備えるその他の発電施設(例えば、太陽光発電若しくは燃料電池発電装置以外の自家発電装置、バッテリー等)から得られた電力により賄われる。
【0013】
負荷検知装置とは、電力供給先における電力負荷を検知する装置である。たとえば、電力供給先の分電盤に取り付けられる無線変流器若しくは無線変流器又は電力スマートメーターをこの負荷検知装置とすることができる。
【0014】
出力制御装置は、燃料電池発電装置の発電出力の上昇及び低下を制御する装置である。例えば、燃料電池発電装置に装着された、CPU、RAM及びROM等を備えたコンピュータをこの出力制御装置とすることができる。この出力制御装置は、負荷検知装置と有線又は無線で接続され、負荷検知装置が検知した電力供給先の電力負荷変動がリアルタイムで入力される。
【0015】
出力制御装置は、燃料電池発電装置の発電出力が、負荷検知装置が検知した電力負荷未満のとき、換言すると、電力供給先における電力負荷に燃料電池発電装置の発電出力が足りていないときに、予め定めた出力増加速度で燃料電池発電装置の発電出力を上昇させる。ここで、「予め定めた出力増加速度」とは、燃料電池発電装置の構造的な制約から定まる限度の出力増加速度であっても良いし、その限度に満たない任意の出力増加速度であっても良い。
【0016】
また、出力制御装置は、燃料電池発電装置の発電出力が、負荷検知装置が検知した電力負荷以上のとき、換言すると、電力供給先における電力負荷に燃料電池発電装置の発電出力が達したときに、予め定めた出力低下速度である調整低下速度で燃料電池発電装置の発電出力を低下させる。ここで、「調整低下速度」とは、電力供給先で実際に電力負荷が低下する速度(以下、「実低下速度」とする。)以下の出力低下速度であり、好ましくは、電力供給先で実際に電力負荷が低下する速度より緩やかな出力低下速度である。なお、実低下速度は、たとえば、燃料電池発電装置へのメタンガス及び改質水の供給を停止することで発電出力を瞬時に低下させるときの出力低下速度である。
【0017】
この構成によると、電力供給先において電力負荷が低下した際に、燃料電池発電装置の発電出力を瞬時に追従するように低下させるのではなく、低下速度を実低下速度以下とすることで、その後電力負荷が再上昇した際に、電力負荷と発電出力との差を小さくすることができる。
【0018】
第2態様に係る燃料電池発電システムは、第1態様に係る燃料電池発電システムにおいて、前記調整低下速度は、次のような出力低下速度であって、すなわち、電力供給先の電力負荷変動を表すグラフに対して、前記出力増加速度及び当該出力低下速度に従った前記燃料電池発電装置の発電出力のグラフを当てはめたとき、所定期間において、前記電力負荷変動を表すグラフが前記出力増加速度に従った前記発電出力のグラフを上回っている領域の面積と、前記電力負荷変動を表すグラフが当該出力低下速度に従った前記発電出力のグラフを下回っている領域の面積との合計が最小値となるような出力低下速度である。
【0019】
すなわち、第2態様に係る燃料電池発電システムは、まず、電力供給先の電力負荷変動を示すグラフに、第1態様に規定する出力増加速度と、ある出力低下速度とに従った発電出力のグラフを当てはめる。ここで、電力供給先の電力負荷変動を示すグラフとは、好ましくは、電力供給先においてモデルとなる所定期間における電力負荷変動である。このようにグラフを当てはめると、所定期間において、電力負荷変動を表すグラフが出力増加速度に従った発電出力を上回っている領域の面積(以下、「第1面積」とする。)が求められる。同時に、所定期間において、電力負荷変動を表すグラフがその出力低下速度に従った発電出力のグラフを下回っている領域の面積(以下、「第2面積」とする。)も求められる。なお、ここでいう「グラフ」は実際に二次元平面上に描かれる必要はなく、計算上の数値としてのみ存在するものであってもよい。
【0020】
このようなグラフの当てはめを、複数の出力低下速度についてそれぞれ行い、それぞれについて求められた第1面積と第2面積との和が最小値となるような出力低下速度を、出力制御装置は調整低下速度とする。
【0021】
ここで、第1面積とは、燃料電池発電装置の発電出力が電力供給先の負荷変動に足りていない電力量を表す。また、第2面積とは、燃料電池発電装置の発電出力が電力供給先の負荷変動に対し過剰な電力量を表す。このような第1面積と第2面積との和を最小にする様な出力低下速度を調整低下速度とすることで、電力供給先の負荷変動に対する発電寄与率をできるだけ大きくしつつ、過剰な電力量をなるべく小さくするような、燃料電池発電装置の発電出力制御が可能となる。
【0022】
第3態様に係る燃料電池発電システムは、第2態様に係る燃料電池発電システムにおいて、前記調整低下速度は、候補となる出力低下速度及び前記電力負荷の低下速度のうちから選ばれる。
【0023】
この構成によって、第2態様において、電力供給先の負荷変動に対する発電寄与率をできるだけ大きくしつつ、過剰な電力量をなるべく小さくするような、燃料電池発電装置の発電出力制御において、モデルとなる電力供給先の負荷変動によって、実低下速度も含めて適切な出力低下速度を調整低下速度とすることができる。また、候補となる出力低下速度は1つであっても、また複数であっても良い。
【0024】
第4態様に係る燃料電池発電システムは、第1態様に係る燃料電池発電システムにおいて、前記電力供給先の電力負荷変動を表すグラフに対して、前記出力増加速度及び前記電力負荷の低下速度を下回る所定の前記調整低下速度に従った前記燃料電池発電装置の発電出力のグラフを当てはめたとき、所定期間において、前記電力負荷変動を表すグラフが前記出力増加速度に従った前記発電出力のグラフを上回っている領域の面積と、前記電力負荷変動を表すグラフが前記調整低下速度に従った前記発電出力のグラフを下回っている領域の面積との合計が所定の閾値以下である場合は、前記出力制御装置は、前記調整低下速度で前記燃料電池発電装置を制御し、前記合計が前記所定の閾値を超える場合は、前記出力制御装置は、前記電力負荷の低下速度で前記燃料電池発電装置を制御する。
【0025】
すなわち、第4態様に係る燃料電池発電システムは、まず、電力供給先の電力負荷変動を示すグラフに、第1態様に規定する出力増加速度と、前記した実低下速度を下回る調整低下速度とに従った発電出力のグラフを当てはめる。ここで、電力供給先の電力負荷変動を示すグラフとは、好ましくは、電力供給先においてモデルとなる所定期間における電力負荷変動である。このようにグラフを当てはめると、所定期間において、電力負荷変動を表すグラフが出力増加速度に従った発電出力を上回っている領域の面積(以下、「第1面積」とする。)が求められる。同時に、所定期間において、電力負荷変動を表すグラフがその調整低下速度に従った発電出力のグラフを下回っている領域の面積(以下、「第2面積」とする。)も求められる。なお、ここでいう「グラフ」は実際に二次元平面上に描かれる必要はなく、計算上の数値としてのみ存在するものであってもよい。
【0026】
ここで、第1面積とは、燃料電池発電装置の発電出力が電力供給先の負荷変動に足りていない電力量を表す。また、第2面積とは、燃料電池発電装置の発電出力が電力供給先の負荷変動に対し過剰な電力量を表す。
【0027】
このようにして求められた第1面積と第2面積との和が、所定の閾値以下である場合は、過剰な電力量の上昇を加味しても、電力供給先の負荷変動に対する燃料電池発電装置の発電寄与率の上昇は意義があるものとして、出力制御装置はこの調整低下速度に従って燃料電池発電装置を制御する。
【0028】
一方、このようにして求められた第1面積と第2面積との和が、所定の閾値を超える場合は、過剰な電力量の上昇を加味すると、電力供給先の負荷変動に対する燃料電池発電装置の発電寄与率の上昇には意義はないものとして、出力制御装置は前記した実低下速度に従って燃料電池発電装置を制御する。
【0029】
この構成によって、電力供給先の負荷変動に対する燃料電池発電装置の発電寄与率と、過剰な電力量との比較衡量によって、出力制御装置は、調整低下速度と実低下速度とのいずれを採用するかを適切に判断することができる。
【0030】
第5態様に係る燃料電池発電システムは、第1態様に係る燃料電池発電システムにおいて、所定期間における前記電力供給先の電力負荷変動を表すグラフに対して、電力負荷のピークの数が所定の閾値以上である場合は、前記出力制御装置は、前記電力負荷の低下速度を下回る所定の前記調整低下速度で前記燃料電池発電装置を制御し、前記ピークの数が前記所定の閾値未満である場合は、前記出力制御装置は、前記電力負荷の低下速度で前記燃料電池発電装置を制御する。
【0031】
すなわち、第5態様に係る燃料電池発電システムは、まず、電力供給先の電力負荷変動を示すグラフの所定期間において、電力負荷のピークの数を判定する。そして、そのピークの数が所定の閾値以上である場合、電力供給先の負荷変動が頻繁であると判断して、出力制御装置は、調整低下速度で燃料電池発電装置を制御する。一方、そのピークの数が所定の閾値未満である場合、電力供給先の負荷変動は頻繁でないと判断して、出力制御装置は、実低下速度で燃料電池発電装置を制御する。なお、「グラフ」の意義については第2態様と同様である。
【0032】
第6態様に係る燃料電池発電システムは、第2態様から第5態様までのいずれかに係る燃料電池発電システムにおいて、前記所定期間は、前記燃料電池発電装置の起動工程の間の期間である。
【0033】
すなわち、燃料電池発電装置は、起動行程に所定時間を要するが、その所定時間を第2態様から第5態様までのいずれかにおける「所定期間」として、その間に負荷検知装置が検知した電力供給先の負荷変動を表すグラフを用いて、調整低下速度が決定される。
【0034】
第7態様に係る燃料電池発電システムは、第2態様から第5態様までのいずれかに係る燃料電池発電システムにおいて、前記所定期間は、前記燃料電池発電装置の発電開始直後からの期間である。
【0035】
すなわち、燃料電池発電装置が、起動工程を終えた後、実際に発電が可能となってからの所定の期間を第2態様から第5態様までのいずれかにおける「所定期間」として、その間に負荷検知装置が検知した電力供給先の負荷変動を表すグラフを用いて、調整低下速度が決定される。なお、この「所定期間」における燃料電池発電装置の発電出力制御は、前記出力増加速度と実低下速度とに従って行うこととしても良い。
【発明の効果】
【0036】
本発明は上記のように構成されているので、既存の燃料電池発電装置を用いつつ、電力供給先での負荷電力に対する燃料電池発電装置の発電寄与率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の実施形態の燃料電池発電システムを模式的に示す。
【
図2】モデルとなる電力供給先における電力負荷変動を示すグラフである。
【
図3】
図2のグラフに実低下速度に従った燃料電池発電装置の発電出力を当てはめたグラフである。
【
図4】
図2のグラフに調整低下速度に従った燃料電池発電装置の発電出力を当てはめたグラフである。
【
図5】対照制御と低速制御との優劣を判断する手順を示すフローチャートである。
【
図6】対照制御と低速制御との優劣を判断する手順を示すフローチャートである。
【
図7】対照制御と低速制御との優劣を判断する手順を示すフローチャートである。
【
図8】サンプルグラフに対して対照制御と複数の出力低下速度による低速制御のグラフを重ね合わせて示す。
【
図9】サンプルグラフに対して対照制御と複数の出力低下速度による低速制御のグラフを重ね合わせて示す。
【
図10】サンプルグラフに対して対照制御と複数の出力低下速度による低速制御のグラフを重ね合わせて示す。
【
図11】所定期間においてピーク数が9であるサンプルグラフに対して対照制御と低速制御とのグラフを重ね合わせて示す。
【
図12】所定期間においてピーク数が8であるサンプルグラフに対して対照制御と低速制御とのグラフを重ね合わせて示す。
【
図13】所定期間においてピーク数が7であるサンプルグラフに対して対照制御と低速制御とのグラフを重ね合わせて示す。
【
図14】所定期間においてピーク数が6であるサンプルグラフに対して対照制御と低速制御とのグラフを重ね合わせて示す。
【
図15】所定期間においてピーク数が4であるサンプルグラフに対して対照制御と低速制御とのグラフを重ね合わせて示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。以下で言及する各図面における各部位の大きさ及び各部位間の比率は、模式的に表現されており、実際の各部位の大きさ及び各部位間の比率を必ずしも反映していない。
【0039】
<燃料電池発電システム10>
図1は、本実施形態の燃料電池発電システム10を模式的に示すものである。本実施形態の燃料電池発電システム10は、出力調整が可能な、固体酸化物型の燃料電池発電装置20と、電力供給先90における電力負荷を検知する負荷検知装置30と、燃料電池発電装置20の発電出力を制御する出力制御装置40とを備える。燃料電池発電システム10はその他、貯湯タンク50及びバックアップ熱源機55も備える。
【0040】
[燃料電池発電装置20]
燃料電池発電装置20内の図示しない気化器には、都市ガス供給路60から脱硫器61を経たメタンガスが供給され、また、改質水ポンプ77により改質水貯留槽76から改質水供給路75を経た改質水も供給される。気化器では、改質水は気化され水蒸気となる。メタンガス及び水蒸気は燃料電池発電装置20内の図示しない改質器に搬送され、ここでメタンガスは水蒸気改質を受け水素ガスが生成される。この水素ガスが燃料電池発電装置20内の図示しない燃料電池スタックで酸素と反応することで、発電が行われる。発電により生じた電力はインバータ81を経て電力供給路80により、家庭、事業所又は工場等の電力供給先90に配電盤82を介して供給される。また、発電により生じた電力の一部は、後述する自立ヒータ53へも供給される。
【0041】
配電盤82には、電力供給先90における電力負荷を検知する負荷検知装置30が装着される。負荷検知装置30は、検知した電力負荷に関する情報を有線又は無線にて出力制御装置40へ送信する。出力制御装置40は、受信した電力負荷に関する情報に基づき、後述するように燃料電池発電装置20の発電出力を制御する。
【0042】
発電により生じた水蒸気を含む排ガスは、排気路70から排気熱交換器71へ送られここで冷却され、水蒸気は凝結して再び改質水となり改質水貯留槽76へ貯留される。水蒸気が除かれた排ガスは排気路70から外部へ放出される。
【0043】
[貯湯タンク50]
開放式の貯湯タンク50には、発電により生じた排ガスによって加熱された湯が貯留される。貯湯タンク50の湯は、貯湯循環路51を通って上水熱交換器66へ送られ、ここで上水供給路65から供給された上水を加熱する。換言すると、貯湯タンク50の湯は、上水熱交換器66で上水により冷却される。冷却後の湯は予熱ポンプ52により貯湯循環路51からラジエータ72に送られ、必要に応じここで冷却され、熱回収ポンプ73により前記した排気熱交換器71へ送られ、ここで排ガスの熱により再び加熱される。加熱された湯は、必要に応じ自立ヒータ53で追加加熱された上で、再び貯湯タンク50へ貯留される。
【0044】
[バックアップ熱源機55]
上水熱交換器66で加熱された上水は、上水混合弁68を介してバックアップ熱源機55へ送られ、図示しない貯湯タンクに貯留される。そして、必要に応じ、都市ガス供給路60から供給された都市ガスを熱源とする図示しない加熱器で適温に加熱され、給湯路56を通じて電力供給先90へ給湯される。また、上水供給路65からの加熱されていない上水が、上水混合弁68を介して、バックアップ熱源機55を通って常温水として電力供給先90へ給湯路56を通じて供給される場合もある。なお、加熱された上水の一部は補水弁67を介して貯湯タンク50へ補充される。
【0045】
<出力制御>
出力制御装置40は、燃料電池発電装置20の発電出力が、負荷検知装置30が検知した電力負荷未満のときに、予め定めた出力増加速度で燃料電池発電装置20の発電出力を上昇させる。ただし、燃料電池発電装置20の発電出力には構造的な制約から定まる上限があるため、この上限に達するまでは、負荷検知装置30が検知した電力負荷に達するまで、出力制御装置40は燃料電池発電装置20の発電出力を上昇させる。
【0046】
前記出力制御装置40は、燃料電池発電装置20の発電出力が、負荷検知装置30が検知した電力負荷以上のときに、予め定めた出力低下速度であって、実際の電力負荷の低下速度である実低下速度以下の出力低下速度である調整低下速度にて、燃料電池発電装置20の発電出力を低下させる。
【0047】
ここで、電力供給先の電力負荷変動を表すグラフに対して、上記の出力増加速度及びある出力低下速度に従った前記燃料電池発電装置の発電出力のグラフを当てはめたとき、所定期間において、電力負荷変動を表すグラフが出力増加速度に従った発電出力のグラフを上回っている領域の面積と、電力負荷変動を表すグラフがその出力低下速度に従った前記発電出力のグラフを下回っている領域の面積との合計が最小値となるとき、その出力低下速度を調整低下速度とする。なお、この調整低下速度の基礎となる電力負荷変動は、燃料電池発電システム10が設置され現に電力供給がなされている電力供給先90から負荷検知装置30を介して得たものであってもよいし、他の電力供給先における過去の電力負荷変動であってもよい。
【0048】
たとえば、
図2に示すような、電力供給先90における電力負荷変動を示すグラフをサンプルとして、調整低下速度を決定する工程を説明する。
図2において、横軸の時刻t
0からt
nまでの間の時間が、上述の「所定時間」である。なお、
図2に示すグラフは、実際には、所定時間をn等分した時間間隔(t
Δ=(t
n-t
0)/n)ごとの一連の電力値データとして存在するものであり、
図2に示すような二次元平面上にプロットしたグラフを得ることは必ずしも必要ではない。還元すると、このグラフは、(t
i,s
i)(ただし、0≦i≦n、iは整数)という、n+1個の時刻データ(t
i)とこれに対応する電力値データ(s
i)との組み合わせとして理解することができる。
【0049】
図3は、
図2のグラフに、出力増加速度(v
u)及び実低下速度を用いた出力制御(以下、「対照制御」とする。)で燃料電池発電装置20を稼働させたと仮定した破線で示すグラフを当てはめたものである。この出力増加速度(v
u)は、単位時間当たりの電力増加量として定義される。なお、この対照制御のグラフは、実際には、(t
i,y
i)(ただし、0≦i≦n、iは整数)という、n+1個の時刻データ(t
i)とこれに対応する電力値データ(y
i)との組み合わせとして理解することができる。この対照制御では、電力負荷が低下するときはその低下に追随した実低下速度で発電出力を低下させるとともに、発電出力が電力負荷に満たないときは一定の上昇速度である出力増加速度で発電出力を上昇させることを示している。
【0050】
図3において、サンプルとなる電力負荷変動を示すグラフ(以下、「サンプルグラフ」とする。)が、対照制御のグラフを上回っている領域(すなわち、図中で左下がりハッチングにて示す領域)の面積の合計が、第1面積(A
y)である。なお、
図3においては、電力負荷変動を示すグラフが、対照制御のグラフを下回っている領域の面積の合計である第2面積(B
y)はゼロである。
【0051】
図4は、
図2のグラフに、上述の出力増加速度及び実低下速度より緩やかな出力低下速度(v
d)を用いた出力制御(以下、「低速制御」とする。)で燃料電池発電装置20を稼働させたと仮定した破線で示すグラフを当てはめたものである。この出力低下速度(v
d)は、単位時間当たりの電力減少量として定義される。なお、この低速制御のグラフは、実際には、(t
i,x
i)(ただし、0≦i≦n、iは整数)という、n+1個の時刻データ(t
i)とこれに対応する電力値データ(x
i)との組み合わせとして理解することができる。この低速制御は、電力負荷が低下するときは実低下速度より緩やかな出力低下速度で発電出力を低下させるとともに、発電出力が電力負荷に満たないときは一定の上昇速度である出力増加速度で発電出力を上昇させることを示している。
【0052】
図4において、サンプルグラフが、低速制御のグラフを上回っている領域(すなわち、図中で左下がりハッチングにて示す領域)の面積の合計が、第1面積(A
x)である。また、
図4においては、電力負荷変動を示すグラフが、低速制御のグラフを下回っている領域(すなわち、図中で右下がりハッチングにて示す領域)の面積の合計が、第2面積(B
x)である。
【0053】
そして、
図3に示される第1面積(A
y)と第2面積(B
y、ただしゼロのため図中には示されず)との合計(C
y)と、
図4に示される第1面積(A
x)と第2面積(B
x)との合計(C
x)とを比較すると、一見してC
xの方が小さい。したがって、このサンプルとなる電力負荷変動に基づけば、
図4に示すような、低速制御における出力低下速度が調整低下速度として採用され、出力制御装置40は、この調整低下速度に基づいて燃料電池発電装置20を駆動させる。なお、サンプルとなる電力負荷変動によっては、C
yの方がC
xより小さい場合もあり得る。その場合は、対照制御における実低下速度が調整低下速度として採用されることになる。
【0054】
ここで、第1面積がAyからAxに減少することは、電力負荷変動のピークにおける発電寄与率が、低速制御により向上したことを意味する。一方、第2面積がByからBxに増加したことは、電力負荷変動に対し過剰な電力量が生じていることを意味する。そこで、第1面積と第2面積の和、すなわちCyとCxとを比較することで、過剰な電力量を補って余りあるほどの発電寄与率の向上が見られるかどうかで、低速制御が有効であるかどうかが判断される。なお、第2面積の増加分に相当する電力は、例えば、自立ヒータ53の駆動に利用して、過剰な電力量を貯湯タンク50の湯として蓄積しておくことができる。
【0055】
<調整低下速度の決定工程(第1例)>
図3及び
図4で示した、調整低下速度を決定する工程においては、グラフ上の第1面積と第2面積との和(すなわち、C
y及びC
x)を算出することになるが、この面積の算出は、たとえば、面積測定ソフトウェアを使用して行っても良い。なお、その代替手段として、離散量である(t
i,y
i)(ただし、0≦i≦n、iは整数)及び(t
i,x
i)(ただし、0≦i≦n、iは整数)という各々n+1組の数値を用いて、下記式1及び式2を用いてC
y及びC
xをそれぞれ算出することとしても良い。
【0056】
【0057】
【0058】
上記式1及び式2を用いたC
y及びC
xの算出並びにこれらを用いた調整低下速度の出力制御装置40による決定について、
図5~
図7のフローチャートを用いて説明する。
【0059】
まず、
図5のフローチャートにて、式1に基づくC
yの算出を説明する。
【0060】
最初に、S100に示す段階で、時刻t
0における電力値y
0の初期値としてs
0を、及び、C
yの初期値として0を、それぞれ設定する。ここで、y
0の初期値としてs
0を設定するのは、
図3に示すように、t
0の時点ではサンプルグラフと対照制御のグラフとは一致しているからである。
【0061】
次に、S110に示す段階で、(ti,yi)及び(ti,si)の「i」の初期値として0を設定する。
【0062】
次に、S120に示す段階で、「i」の値がnを超えたかが判断される。最初にこの段階の処理が実行されるときは「i」はゼロなので、S130に示す段階へ進む。
【0063】
S130に示す段階で、yiがsi以上であるかどうか、すなわち、時刻tiにおいて対照制御のグラフの値yiがサンプルグラフの値si以上であるかどうか(具体的には、yiがsiと一致しているかどうか)、が判断される。
【0064】
yiがsiと一致していると判断された場合は、S140に示す段階へ進み、次の時刻ti+1における対照制御のグラフの値yi+1としてsi+1が設定される。一方、yiがsiより小さいと判断された場合、すなわち、対照制御のグラフの値yiがサンプルグラフの値siに達していない場合は、S150に示す段階へ進み、次の時刻ti+1における対照制御のグラフの値yi+1として、出力増加速度(vu)と前記時間間隔(tΔ)との積をyiに加えた値が設定される。そして、いずれの場合もS160に示す段階へ進む。
【0065】
S160に示す段階で、Cyの値に、yiとsiとの差の絶対値が加算される。換言すると、Cyの値に、yiとsiとのうち大きい方から小さい方を減じた値が加算される。
【0066】
次に、S170に示す段階で、「i」に1が加算され、再びS120に示す段階へ進む。
【0067】
S120に示す段階では、再び、「i」の値がnを超えたかが判断される。ここで、nを超えたと判断されない限り、S120からS170までの段階が繰り返される。一方、nを超えたと判断されると、時刻t
0からt
nまでの、第1面積(A
y)と第2面積(B
y)との和(C
y)の算出が完了したことになり、
図6のS200に示す段階へ進む。
【0068】
次に、
図6のフローチャートにて、式2に基づくC
xの算出を説明する。
【0069】
最初に、S200に示す段階で、時刻t
0における電力値x
0の初期値としてs
0を、及び、C
xの初期値として0を、それぞれ設定する。ここで、x
0の初期値としてs
0を設定するのは、
図4に示すように、t
0の時点ではサンプルグラフと低速制御のグラフとは一致しているからである。
【0070】
次に、S210に示す段階で、(ti,xi)及び(ti,si)の「i」の初期値として0を設定する。
【0071】
次に、S220に示す段階で、「i」の値がnを超えたかが判断される。最初にこの段階の処理が実行されるときは「i」はゼロなので、S230に示す段階へ進む。
【0072】
S230に示す段階で、xiがsi以上であるかどうか、すなわち、時刻tiにおいて低速制御のグラフの値xiがサンプルグラフの値si以上であるかどうか(具体的には、xiがsiと一致しているかどうか)、が判断される。
【0073】
xiがsiと一致していると判断された場合は、S240に示す段階へ進み、次の時刻ti+1における低速制御のグラフの値xi+1として、出力低下速度(vd)と前記時間間隔(tΔ)との積をxiに加えた値が設定される。一方、xiがsiより小さいと判断された場合、すなわち、低速制御のグラフの値xiがサンプルグラフの値siに達していない場合は、S250に示す段階へ進み、次の時刻ti+1における低速制御のグラフの値xi+1として、出力増加速度(vu)と前記時間間隔(tΔ)との積をxiに加えた値が設定される。そして、いずれの場合もS260に示す段階へ進む。
【0074】
S260に示す段階で、Cxの値に、xiとsiとの差の絶対値が加算される。換言すると、Cxの値に、xiとsiとのうち大きい方から小さい方を減じた値が加算される。
【0075】
次に、S270に示す段階で、「i」に1が加算され、再びS220に示す段階へ進む。
【0076】
S220に示す段階では、再び、「i」の値がnを超えたかが判断される。ここで、nを超えたと判断されない限り、S220からS270までの段階が繰り返される。一方、nを超えたと判断されると、時刻t
0からt
nまでの、第1面積(A
x)と第2面積(B
x)との和(C
x)の算出が完了したことになり、
図7のS300に示す段階へ進む。
【0077】
S300に示す段階では、CxがCy以下であるかどうかが判断される。CxがCy以下であると判断されたときは、低速制御が発電寄与率の向上に貢献すると判断されたことを意味する。そして、S310に示す段階に進み、出力低下速度(Vd)を調整低下速度として、処理を完了する。以後、この調整低下速度に従って出力制御装置40は燃料電池発電装置20の発電出力を制御することとなる。
【0078】
一方、S300に示す段階で、CxがCyを超えると判断されたときは、低速制御が発電寄与率の向上に貢献しないと判断されたことを意味する。そして、S320に示す段階に進み、実低下速度を調整低下速度として、処理を完了する。以後、この調整低下速度に従って出力制御装置40は燃料電池発電装置20の発電出力を制御することとなる。
【0079】
<調整低下速度の決定工程(第2例)>
次に、上記第1例の出力低下速度(v
d)の候補が複数種類ある場合について、
図8~
図10に太い実線で示すサンプルグラフについて検証する。なお、
図8~
図10においては、実低下速度に従う制御を細い実線で示し、最も大きい出力低下速度(「最大低下速度」とする。)に従う制御を破線で示し、最も小さい出力低下速度(「最小低下速度」とする。)に従う制御を点線で示し、最大低下速度と最小低下速度との中間の出力低下速度(「中間低下速度」とする。)を一点鎖線で示している。
【0080】
まず、
図8に示すサンプルグラフは、時刻t
0からt
nまでの所定期間(以下、単に「所定期間」とする。)において高出力の状態と低出力の状態とがパルス的に繰り返され、かつ、高出力の期間が低出力の期間を大きく上回っている。このサンプルグラフに対しては、実低下速度に基づく制御では発電寄与率が著しく低いのに対し、出力低下速度が小さくなるにつれて、発電寄与率の向上が認められる。そして、このサンプルグラフでは、最小低下速度を調整低下速度とする制御が、発電寄与率の向上の観点から最良であると認められる。
【0081】
次に、
図9に示すサンプルグラフは、所定期間において高出力の状態から低出力の状態に低下したあと、一定の電力量を保っている。このサンプルグラフに対しては、実低下速度に基づく制御では過剰な電力量が皆無であるのに対し、出力低下速度が小さくなるにつれて、過剰な電力量の増加が認められる。そして、このサンプルグラフでは、実低下速度を調整低下速度とする制御が、発電寄与率の向上の観点から最良であると認められる。
【0082】
最後に、
図10に示すサンプルグラフは、所定期間において低出力の状態が占める割合が
図8に示すサンプルグラフと
図9に示すサンプルグラフとの間である。このサンプルグラフに対しては、最大低下速度に基づく制御で第1面積と第2面積との和が最大で最も評価が低く、実低下速度に基づく制御の評価がそれよりもやや高く、中間低下速度に基づく制御と最小低下速度に基づく制御がほぼ同等で最も高い評価となった。従って、サンプルグラフの態様によっては、最小低下速度と実低下速度との間の出力低下速度を調整低下速度とする制御が最良となるような場合もあると推認される。
【0083】
<調整低下速度の決定工程(第3例)>
次に、所定期間におけるピークの数によって、低速制御を行うか対照制御を行うかを判断する場合を
図11~
図15のサンプルグラフによって検証する。
図11~
図15のサンプルグラフにおいては、ピークの形状はいずれも同一であるが、所定期間におけるピークの数が相違している。
図11~
図15においては、サンプルグラフを太い実線で示し、対照制御に基づくグラフは細い実線で、低速制御に基づくグラフは破線で示している。
【0084】
図11は、所定期間におけるピーク数が9であるサンプルグラフに対して、対照制御及び低速制御に基づくグラフを重ね合わせて示すものである。この例では、低速制御に基づくグラフの第1面積と第2面積との和は、対照制御に基づくグラフの第1面積と第2面積との和よりも明らかに小さい。よって、この例では、低速制御が対照制御に大きく優っている。
【0085】
図12は、所定期間におけるピーク数が8であるサンプルグラフに対して、対照制御及び低速制御に基づくグラフを重ね合わせて示すものである。この例では、低速制御に基づくグラフの第2面積が増大するものの、この例でもまた、低速制御が対照制御に優っている。
【0086】
図13は、所定期間におけるピーク数が7であるサンプルグラフに対して、対照制御及び低速制御に基づくグラフを重ね合わせて示すものである。この例では、低速制御に基づくグラフの第2面積がさらに増大するものの、この例でもまだ、低速制御が対照制御に僅かに優っている。
【0087】
図14は、所定期間におけるピーク数が6であるサンプルグラフに対して、対照制御及び低速制御に基づくグラフを重ね合わせて示すものである。この例では、低速制御に基づくグラフの第2面積がさらに増大することで、低速制御に基づくグラフの第1面積と第2面積との和が、対照制御に基づくグラフの第1面積と第2面積との和よりも僅かに上回っている。よって、この例では、対照制御が低速制御に優っている。
【0088】
図15は、所定期間におけるピーク数が4であるサンプルグラフに対して、対照制御及び低速制御に基づくグラフを重ね合わせて示すものである。この例では、対照制御に基づくグラフの第1面積と第2面積との和は、低速制御に基づくグラフの第1面積と第2面積との和よりも明らかに小さい。よって、この例では、対照制御が低速制御に大きく優っている。
【0089】
以上、
図11~15の結果から、所定期間におけるサンプルグラフのピーク数7を閾値として、この閾値以上のときには低速制御を行い、逆にこの閾値未満のときには対照制御を行うようにしても良い。
【0090】
<所定期間>
なお、上述の各例に示す時刻t0からtnまでの所定期間は、燃料電池発電システム10の接地環境、季節及び時間帯に応じ、適宜定めることとして良い。例えば、燃料電池発電装置20の起動工程の間の期間を所定期間として、その間に負荷検知装置30が検知した電力負荷をサンプルグラフとしてもよい。また、燃料電池発電装置20が起動行程を終えて、発電を開始した直後から所定期間を定め、その間に負荷検知装置30が検知した電力負荷をサンプルグラフとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、特に固体酸化物型の燃料電池発電装置を用いる燃料電池発電システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0092】
10 燃料電池発電システム
20 燃料電池発電装置
30 負荷検知装置
40 出力制御装置
50 貯湯タンク 51 貯湯循環路 52 予熱ポンプ
53 自立ヒータ
55 バックアップ熱源機 56 給湯路
60 都市ガス供給路 61 脱硫器
65 上水供給路 66 上水熱交換器 67 補水弁
68 上水混合弁
70 排気路 71 排気熱交換器 72 ラジエータ
73 熱回収ポンプ
75 改質水供給路 76 改質水貯留槽 77 改質水ポンプ
80 電力供給路 81 インバータ 82 配電盤
90 電力供給先