(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】蓄電素子の充電率推定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/3842 20190101AFI20240610BHJP
G01R 31/388 20190101ALI20240610BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
G01R31/3842
G01R31/388
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2020198173
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 直広
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-122622(JP,A)
【文献】特開2018-141665(JP,A)
【文献】特開2021-71319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開回路電圧変化の相対的に小さな平坦領域と大きな変化領域とが充電率変化に対して現れる開回路電圧特性を有する蓄電素子に流れる電流を測定する電流測定部と、
前記蓄電素子の端子間電圧を測定する電圧測定部と、
前記蓄電素子の充電率を推定する充電率推定部と、
前記充電率推定部によって推定された前記蓄電素子の充電率を補正する充電率補正部と、
前記蓄電素子に流れる電流が所定の期間にわたって前記電流測定部によって測定されないで前記蓄電素子が休止期間に入ったかを判定する休止期間判定部と、
前記蓄電素子が前記休止期間に入ったと前記休止期間判定部によって判定されるときに前記充電率推定部によって推定される充電率を初期充電率として記憶する推定充電率記憶部と、
前記休止期間中に前記蓄電素子に電流が流れ始めるのが前記電流測定部によって測定されて前記休止期間が終了したかを判定する休止期間終了判定部と、
前記休止期間中に前記蓄電素子に流れ始める前記電流と
そのときに前記電圧測定部によって測定される前記蓄電素子の端子間電圧とから前記蓄電素子の内部抵抗値を算出する内部抵抗値算出部と、
前記内部抵抗値算出部によって算出される内部抵抗値が所定値以下の場合、
前記推定充電率記憶部に記憶される前記初期充電率を前記休止期間の終了時における前記蓄電素子の充電率とする充電率是正部と
を備える蓄電素子の充電率推定装置
。
【請求項2】
前記充電率補正部によって補正される充電率を
補正充電率として記憶する補正充電率記憶
部を備え
、
前記充電率是正部は、前記内部抵抗値算出部によって算出される内部抵抗値が前記所定値
を超える場合、前記
補正充電率記憶部に記憶される
前記補正充電率を前記休止期間の終了時における前記蓄電素子の充電率とする
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄電素子の充電率推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開回路電圧変化の小さな平坦領域と大きな変化領域とが充電率変化に対して現れる蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の充電率推定装置および充電率推定方法としては、例えば、特許文献1に開示された状態推定装置、状態推定方法がある。
【0003】
同文献に開示された状態推定装置、状態推定方法は、同文献の
図2に示される二次電池のSOC-OCV特性を利用する。このSOC-OCV特性は、横軸をSOC(充電率)、縦軸をOCV(開回路電圧)として表され、SOC変化に対するOCV変化を二次電池の開回路電圧特性として表す。二次電池は、このSOC-OCV特性に示されるように、SOC変化に対するOCV変化が相対的に小さな平坦領域と大きな変化領域とを有する。同文献に開示された状態推定装置、状態推定方法では、同文献の
図6に示されるように、SOC変化に対するOCV変化が大きな変化領域では、電流積算法によって推定されるSOCをカルマンフィルタを用いて補正する。また、SOC変化に対するOCV変化が小さな平坦領域では、電流積算法によって推定されるSOCを補正せず、電流積算法によって推定されるSOCをその時点におけるSOCとする。
【0004】
また、このような二次電池を蓄電素子とする電池パックの実際の運用として、充放電が休止期間を挟んで繰り返される各充放電サイクルにおいて、充電期間または放電期間から休止期間に移行するタイミングでOCVが測定される場合がある。そして、測定されたOCVに対応するSOCが、予め記憶されているSOC-OCV対応表から特定され、特定されたSOCが休止期間の終了タイミングにおけるSOCと推定されて、休止期間移行タイミングにおける初期のSOCが補正される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、二次電池のSOC-OCV特性は、SOC変化に対するOCV変化が相対的に小さな平坦領域では、OCVのわずかな変化に対応してSOCは大きく変化する。また、OCVの値は、二次電池の充放電の履歴によってヒステリシスが生じ、そのヒステリシスに起因して充放電の経過サイクル数に応じてその測定値が変化する。したがって、OCV変化が相対的に小さな平坦領域で、OCVの測定値からSOC-OCV特性に基づいてSOCを推定すると、推定するSOCに誤差が生じる。この誤差は、充放電1サイクル毎に上記のヒステリシスの影響を受けて、推定するSOCに大きく生じる。
【0007】
この現象は、特にオリビン系のリチウムイオン二次電池において顕著に現れ、オリビン系のリチウムイオン二次電池が持つSOC-OCV特性の平坦領域では、OCVが数mVずれるだけで、SOCには数10%の誤差が生じる。このため、OCV変化が相対的に小さな平坦領域で、OCVの測定値からSOC-OCV特性に基づいてSOCを推定し、推定したSOCに基づいて二次電池のそのときのOCV特性が平坦領域にあるか変化領域にあるかを判定すると、その正確な判定を行えない。
【0008】
よって、上記従来の特許文献1に開示された、オリビン系リチウムイオン二次電池がSOC-OCV特性の平坦領域にあるか変化領域にあるかに基づいてSOCを推定する状態推定装置、状態推定方法では、SOCを信頼性高く推定することができない。
また、上記従来の電池パックの実際の運用では、OCV値の測定がOCV変化の相対的に小さな平坦領域で行われると、予め記憶されているSOC-OCV対応表からOCVの測定値によって特定されるSOCは、誤差を大きく含んだものとなる。
【0009】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたもので、OCV変化の小さな平坦領域と大きな変化領域とがSOC変化に対して現れる蓄電素子について、SOCを信頼性高く推定することのできる充電率推定装置および充電率推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このために本発明は、
開回路電圧変化の相対的に小さな平坦領域と大きな変化領域とが充電率変化に対して現れる開回路電圧特性を有する蓄電素子に流れる電流を測定する電流測定部と、
蓄電素子の端子間電圧を測定する電圧測定部と、
蓄電素子の充電率を推定する充電率推定部と、
充電率推定部によって推定された蓄電素子の充電率を補正する充電率補正部と、
蓄電素子に流れる電流が所定の期間にわたって電流測定部によって測定されないで蓄電素子が休止期間に入ったかを判定する休止期間判定部と、
蓄電素子が休止期間に入ったと休止期間判定部によって判定されるときに充電率推定部によって推定される充電率を初期充電率として記憶する推定充電率記憶部と、
休止期間中に蓄電素子に電流が流れ始めるのが電流測定部によって測定されて休止期間が終了したかを判定する休止期間終了判定部と、
休止期間中に蓄電素子に流れ始める電流とそのときに電圧測定部によって測定される蓄電素子の端子間電圧とから蓄電素子の内部抵抗値を算出する内部抵抗値算出部と、
内部抵抗値算出部によって算出される内部抵抗値が所定値以下の場合、推定充電率記憶部に記憶される初期充電率を休止期間の終了時における蓄電素子の充電率とする充電率是正部と
を備える蓄電素子の充電率推定装置を構成した。
【0012】
本構成によれば、内部抵抗値算出部によって算出される内部抵抗値が所定値以下の場合、蓄電素子は、充電率に対する開回路電圧の特性が開回路電圧変化の小さな平坦領域の状態にあると、判断される。充電率に対する開回路電圧の特性が開回路電圧変化の小さな平坦領域では、蓄電素子の内部抵抗値は、開回路電圧変化の大きな変化領域に比べて小さくなる。また、蓄電素子の内部抵抗値には、充電率のように充放電の履歴によって大きなヒステリシスは生じない。
【0013】
したがって、本構成によれば、算出される内部抵抗値が所定値と比べられることで、充電率に対する開回路電圧の特性が開回路電圧変化の小さな平坦領域の状態にあるか大きな変化領域の状態にあるかが、充電率是正部によって正確に判断される。そして、開回路電圧の特性が開回路電圧変化の小さな平坦領域の状態にあると判断されると、充電率補正部によって補正されて得られる補正充電率には大きな誤差が含まれるものとされて、充電率推定部によって推定される充電率が、蓄電素子の充電率とされる。
【0014】
このため、開回路電圧変化の小さな平坦領域と大きな変化領域とが充電率変化に対して現れる蓄電素子について、充電率を信頼性高く推定することのできる充電率推定装置を提供することが可能となる。
【0017】
また、本構成によれば、蓄電素子が休止期間に入ったと休止期間判定部によって判定されるときに充電率推定部によって推定される充電率が初期充電率として推定充電率記憶部に記憶される。また、休止期間終了判定部によって休止期間が終了したものと判断されるときの内部抵抗値が内部抵抗値算出部によって算出され、算出される内部抵抗値が所定値以下か、判定される。内部抵抗値が所定値以下と判定される場合、充電率是正部により、推定充電率記憶部に記憶される初期充電率が休止期間の終了時における蓄電素子の充電率とされる。
【0018】
このため、開回路電圧変化の小さな平坦領域と大きな変化領域とが充電率変化に対して現れる蓄電素子を用いて構成される電池パックの実際の運用において、電池パックの休止期間の終了時における充電率を信頼性高く推定することができるようになる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、上記のように、開回路電圧変化の小さな平坦領域と大きな変化領域とが充電率変化に対して現れる蓄電素子について、充電率を信頼性高く推定できる充電率推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態による蓄電素子の充電率推定装置を備える電池パックの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法で参照される二次電池のSOC-OCV特性を示すグラフである。
【
図3】一実施形態による蓄電素子の充電率推定装置に記憶される、
図2に示すSOC-OCV特性に対応するSOC-OCVテーブルを示す図である。
【
図4】
図2に示すSOC-OCV曲線に二次電池のSOC-DCR曲線を重ねて表したグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態による蓄電素子の充電率推定方法における処理の概略を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の一実施の形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法について説明する。
【0028】
図1は、一実施形態による蓄電素子の充電率推定装置1を備える電池パック2の概略構成を示すブロック図である。
【0029】
電池パック2は、例えば、電気自動車や小型船舶等における、電気エネルギーで作動する動力源に電力を供給する。電池パック2は、組電池3、電流センサ4、および組電池3を管理するバッテリ・マネジメント・ユニット(BMU)5を有する。これら電流センサ4およびBMU5は充電率推定装置1を構成する。
【0030】
組電池3は、二次電池31から構成されるラミネートセルが複数積層されて直列に接続されて構成されており、各二次電池31を蓄電素子としている。本実施形態では、各二次電池31はオリビン系(リン酸鉄)リチウムイオン二次電池(LFP)であり、充電率(SOC)変化に対する開回路電圧(OCV)変化が、
図2のグラフに示すSOC-OCV特性を示す。同グラフの横軸はSOC[%]、縦軸はOCV[mV]であり、同グラフにはSOC-OCV曲線Aが表されている。各二次電池31は、このSOC-OCV特性に示されるように、SOC変化に対するOCV変化が相対的に小さな平坦領域Lと大きな変化領域Hとを有する開回路電圧特性を示す。平坦領域Lは、SOC変化に対するOCV変化が例えば0.5[mV/%]以下の領域に設定される。
【0031】
なお、充電率とは、二次電池31の満充電容量に対する残存容量の比率[%]であり、SOC(State Of Charge)と呼ばれる。また、開回路電圧とは、二次電池31に電流が流れていないときにおける二次電池31の端子間電圧であり、OCV(Open Circuit Voltage)と呼ばれる。
【0032】
各二次電池31および電流センサ4は配線6を介して直列に接続されており、例えば電気自動車等に搭載された充電器7、または電気自動車等の内部に設けられた動力源等の負荷7に接続される。充電器7は組電池3を充電し、また、負荷7は組電池3から電力の供給を受けて電力を消費する。
【0033】
電流センサ4は各二次電池31に流れる電流を測定する電流測定部を構成する。電流センサ4は、各二次電池31の電流値を一定周期で計測し、計測した電流計測値のデータをBMU5内の制御部51に対して送信する。BMU5は、制御部51、電圧検出回路52および温度センサ53を備える。制御部51は、中央処理装置(CPU)51a、メモリ51bおよび通信部51cを含んで構成される。通信部51cは、電気自動車や小型船舶等に搭載されるECU(Electronic Control Unit)8と通信し、二次電池31に関する情報をECU8へ送信したりする。電圧検出回路52は、検出ラインを介して各二次電池31の両端にそれぞれ接続され、制御部51からの指示に応答して各二次電池31の端子間電圧を測定する電圧測定部を構成する。温度センサ53は、接触式あるいは非接触式で、各二次電池31の温度T[℃]を測定する。
【0034】
制御部51内のメモリ51bには、一実施形態による蓄電素子の充電率推定方法を実行するためのコンピュータプログラム、およびそのプログラムを実行するのに必要なデータが予め記憶されている。このコンピュータプログラムにしたがったCPU51aの回路各部に対する制御により、制御部51内には各種の機能ブロックが構成される。この機能ブロックには、充電率推定部51d、充電率補正部51e、内部抵抗値算出部51f、および充電率是正部51gがある。
【0035】
充電率推定部51dは、各二次電池31の充電率を推定する機能を果たす。また、充電率補正部51eは、充電率推定部51dによって推定された各二次電池31の充電率を補正する機能を果たす。内部抵抗値算出部51fは、電流センサ4によって測定される二次電池31に流れる電流と、電圧検出回路52によって測定される二次電池31の端子間電圧とから、各二次電池31の直流内部抵抗(DCR)値を算出する機能を果たす。充電率是正部51gは、内部抵抗値算出部51fによって算出される直流内部抵抗値が後述する所定値y以下の場合、充電率推定部51dによって推定される充電率を二次電池31の充電率とする機能を果たす。
【0036】
また、メモリ51bは、充電率推定部51dによって推定される充電率を記憶する推定充電率記憶部、および、充電率補正部51eによって補正される充電率を記憶する補正充電率記憶部を構成する。また、メモリ51bは、
図2に示される開回路電圧特性を記憶する開回路電圧特性記憶部を構成し、メモリ51bには、
図3に示されるように、各充電率(SOC[%])の値に対して開回路電圧OCV[mV]の値を対応づけるSOC-OCVテーブルが予め記憶されている。
図2に示す平坦領域Lは、同テーブルに示すSOCが40~70[%]のときの各OCV[mV]の値で表される特性に相当する。さらに、メモリ51bには、各充電率(SOC[%])の値に対して測定される直流内部抵抗(DCR)[mΩ]の値を記憶する、図示しないSOC-DCRテーブルが予め記憶されている。
【0037】
図4に示すグラフには、メモリ51bが記憶するSOC-DCRテーブルの各値によってプロットされるSOC-DCR曲線Bが、
図2に示すSOC-OCV曲線Aに重ねて表されている。SOC-OCV曲線Aは実線で表され、SOC-DCR曲線Bは破線で表されている。同グラフの横軸はSOC[%]、左側の縦軸はOCV[mV]、右側の縦軸はDCR[mΩ]である。同グラフ中における矢印は、各曲線A,Bが左右どちらの縦軸に対応しているかを示している。
【0038】
同グラフに示されるSOC-DCR曲線Bから、二次電池31の直流内部抵抗値は、開回路電圧の平坦領域Lにおいては、開回路電圧の変化領域Hに比べて小さく、一定値y[mΩ]より小さくなることが、理解される。平坦領域Lは、SOC-OCV曲線Aにおいて、充電率変化に対する開回路電圧変化が所定範囲、例えば0.5[mV/%]以下となる領域に設定される。一定値y[mΩ]は、このようにSOC-OCV曲線Aにおいて設定された平坦領域LをSOC-DCR曲線Bにおいて画定するものであり、本実施形態では、充電率是正部51gが比較する直流内部抵抗値の所定値とされる。しかし、本発明は、直流内部抵抗値の所定値の定め方はこれに限定されるものでなく、SOC-DCR曲線Bにおいて、平坦領域Lの充電率変化に対応して二次電池31が呈する、一定値y[mΩ]より小さな範囲の直流内部抵抗値から、直流内部抵抗値の所定値を必要に応じて変更するようにしてもよい。
【0039】
また、本実施形態では、充電率推定部51dは、電流積算法で二次電池31の充電率を推定する。充電率補正部51eは、充電率推定部51dによって推定された二次電池31の充電率を、電圧検出回路52によって測定される開回路電圧の値に対応して開回路電圧特性記憶部に記憶される充電率(
図3参照)に、補正する。
【0040】
また、本実施形態では、メモリ51bに記憶されるコンピュータプログラムにより、制御部51内には
図1に示すように休止期間判定部51hおよび休止期間終了判定部51iの機能ブロックが構成される。休止期間判定部51hは、二次電池31に流れる電流が所定の期間にわたって電流センサ4によって測定されないで、二次電池31が休止期間に入ったかを判定する機能を果たす。休止期間終了判定部51iは、休止期間中に二次電池31に電流が流れ始めるのが電流センサ4によって測定されて、休止期間が終了したかを判定する機能を果たす。
【0041】
推定充電率記憶部には、二次電池31が休止期間に入ったと休止期間判定部51hによって判定されるときに充電率推定部51dによって推定される充電率が、初期充電率として記憶される。内部抵抗値算出部51fは、休止期間中に二次電池31に流れ始める電流と、そのときに電圧検出回路52によって測定される二次電池31の端子間電圧とから、二次電池31の直流内部抵抗値を算出する。充電率是正部51gは、内部抵抗値算出部51fによって算出される内部抵抗値が所定値y以下の場合、推定充電率記憶部に記憶される初期充電率を休止期間の終了時における二次電池31の充電率とする。
【0042】
図5は、一実施形態による蓄電素子の充電率推定方法の処理の概略を示すフローチャートである。
【0043】
最初に、CPU51aによって各二次電池31の現在のSOC値が取得される(ステップ101参照)。次に、充電率推定部51dによって各二次電池31のSOC値が電流積算法で推定される(ステップ102参照)。このステップ102の充電率推定ステップにおいて推定される充電率は推定充電率記憶部に記憶される。次に、各二次電池31に流れる電流値が電流センサ4によって測定されて、取得される(ステップ103参照)。そして、各二次電池31に流れる電流が所定の期間にわたってゼロになって電流センサ4によって測定されないで、各二次電池31が休止期間に入ったか否かが、休止期間判定部51hによって判定される(ステップ104参照)。本実施形態では、ステップ103で取得される電流値が一定時間以上、例えば2時間以上ゼロであるか否かが、制御部51内の図示しないクロック部が発生するクロックによって判定される。ステップ103で取得される電流値が一定時間以上ゼロでなくて、ステップ104の判定結果がNoである場合には、処理はステップ102に戻ってステップ102~ステップ104の処理が繰り返される。
【0044】
一方、ステップ103で取得される電流値が一定時間以上ゼロになって、ステップ104の判定結果がYesになると、次に、各二次電池31が既に休止期間に入ったことが判定済みであるか否か、判断される(ステップ105参照)。最初にこのステップ105の処理が実行されるときには、各二次電池31が既に休止期間に入ったことが判定済みでないため、ステップ105の判断結果はNoとなる。この場合、各二次電池31が休止期間に入ったとステップ105の休止期間判定ステップにおいて判定される。そして、ステップ102の充電率推定ステップにおいて推定される充電率が休止期間突入時の充電率として取得され、取得されたこの充電率が推定充電率記憶部に初期充電率RSOCとして記憶される(ステップ106参照)。ステップ106のこの処理により、推定充電率記憶部に記憶される充電率SOCが初期充電率RSOCとされる(SOC=RSOC)。
【0045】
一方、各二次電池31が既に休止期間に入ったことが判定済みで、ステップ105の判定結果がYesの場合、次に、電圧検出回路52によって測定される二次電池31の端子間電圧から、開回路電圧(OCV)値が取得される(ステップ107参照)。次に、ステップ102の充電率推定ステップにおいて推定された各二次電池31の充電率が、ステップ107で取得される開回路電圧の値に対応して開回路電圧特性記憶部にSOC-OCV特性として記憶される充電率VSOCに、補正される(ステップ108参照)。ステップ108のこの処理により、補正充電率記憶部に記憶される充電率SOCが補正充電率VSOCとされる(SOC=VSOC)。ステップ108は、ステップ102の充電率推定ステップにおいて推定された二次電池31の充電率を補正する充電率補正ステップ、および、この充電率補正ステップにおいて補正される充電率を補正充電率記憶部に記憶する補正充電率記憶ステップを構成する。なお、開回路電圧特性記憶部には、図示しない開回路電圧特性記憶ステップにおいて、予め、各二次電池31について、各充電率の値に対する開回路電圧の値が開回路電圧特性として記憶されている。
【0046】
次に、休止期間中に各二次電池31に電流が流れ始めるのが電流センサ4によって測定されて、各二次電池31に始動電流が流れたか否かが判断される(ステップ109参照)。このステップ109は、各二次電池31の休止期間が終了したか否かを判定する休止期間終了判定ステップを構成する。各二次電池31に始動電流が流れるのが検出されなくて、ステップ109の判断結果がNoである場合、処理はステップ105に戻ってステップ105~ステップ109の処理が繰り返される。
【0047】
各二次電池31に始動電流が流れることにより生じる過渡応答が検出されて、ステップ109の判断結果がYesである場合、各二次電池31の休止期間が終了したと判断される。この場合、次に、電流センサ4によって測定される二次電池31に流れる電流と、電圧検出回路52によって測定される二次電池31の端子間電圧とから、内部抵抗値算出部51fによって二次電池31の直流内部抵抗値が算出される(ステップ110参照)。
【0048】
次に、ステップ110のこの内部抵抗値算出ステップにおいて算出される内部抵抗値が、平坦領域Lの充電率変化に対応して二次電池31が呈する範囲の内部抵抗値から選択される所定値y以下であるか否かが、判断される(ステップ111参照)。ステップ110で算出される内部抵抗値が所定値y以下の場合、ステップ111の判断結果はYesとなり、二次電池31の充電率SOCは、充電率是正部51gにより、推定充電率記憶部に記憶される初期充電率RSOCとされる(ステップ112参照)。また、ステップ110で算出される内部抵抗値が所定値y以下でない場合、ステップ111の判断結果はNoとなり、二次電池31の充電率SOCは、充電率是正部51gにより、補正充電率記憶部に記憶される補正充電率VSOCとされる(ステップ113参照)。ステップ111,112は、ステップ110の内部抵抗値算出ステップにおいて算出される内部抵抗値が所定値y以下の場合、ステップ102の充電率推定ステップにおいて推定される充電率を二次電池31の充電率とする充電率是正ステップを構成する。
【0049】
このような本実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法によれば、内部抵抗値算出部51fおよびステップ110の内部抵抗値算出ステップによって算出される内部抵抗値が所定値y以下の場合、二次電池31は、充電率に対する開回路電圧の特性が開回路電圧変化の小さな平坦領域Lの状態にあると、判断される。充電率に対する開回路電圧の特性が開回路電圧変化の小さな平坦領域Lでは、二次電池31の内部抵抗値は、
図4のグラフに示すように、開回路電圧変化の大きな変化領域Hに比べて小さくなる。また、二次電池31の内部抵抗値には、充電率のように充放電の履歴によって大きなヒステリシスは生じない。
【0050】
したがって、本実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法によれば、算出される内部抵抗値が所定値yと比べられることで、充電率に対する開回路電圧の特性が開回路電圧変化の小さな平坦領域Lの状態にあるか大きな変化領域Hの状態にあるかが、充電率是正部51gおよびステップ111,112の充電率是正ステップによって正確に判断される。ステップ102での電流積算法により推定される充電率は時間の経過とともに誤差が蓄積する。本発明では、例えば、特許文献1のように、推定した充電率からSOC-OCV特性を参照して平坦領域Lにあるか変化領域Hにあるかが判定される場合に比べて、領域判定の精度を高めることができる。そして、開回路電圧の特性が開回路電圧変化の小さな平坦領域Lの状態にあると判断されると、充電率補正部51eおよびステップ108の充電率補正ステップによって補正されて得られる補正充電率には、大きな誤差が含まれるものとされて、充電率推定部51dおよびステップ102の充電率推定ステップによって推定される充電率が、そのときの二次電池31の充電率とされる。
【0051】
このため、開回路電圧変化の小さな平坦領域Lと大きな変化領域Hとが充電率変化に対して現れる二次電池31について、充電率を信頼性高く推定することのできる充電率推定装置および充電率推定方法を提供することが可能となる。
【0052】
もしも、開回路電圧の特性が開回路電圧変化の小さな平坦領域Lの状態にあるときに、充電率補正部51eおよびステップ108の充電率補正ステップによって補正されて得られる補正充電率を採用すると、補正充電率には大きな誤差が含まれてしまう。つまり、
図3に示すテーブルから、充電期間または放電期間から休止期間に移行するタイミングでOCVが例えば3320mVと測定されるとSOCは70%と補正され、二次電池31の充放電があるサイクル数繰り返された後、休止期間が終了するタイミングでOCVが例えば3306mVと測定されるとSOCは40%と補正されることとなり、補正充電率には30[%]の大きな誤差が生じる。このSOCの誤差は、充放電1サイクル毎に平坦領域LでOCVにヒステリシスによってずれが生じることに起因する。
【0053】
また、本実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法によれば、二次電池31が休止期間に入ったと休止期間判定部51hおよびステップ105の休止期間判定ステップによって判定されるときに、充電率推定部51dおよびステップ102の充電率推定ステップによって推定される充電率が初期充電率RSOCとして、推定充電率記憶部に記憶される。また、休止期間終了判定部51iおよびステップ109の休止期間終了判定ステップによって休止期間が終了したものと判断されるときの内部抵抗値が、内部抵抗値算出部51fおよびステップ108の内部抵抗値算出ステップによって算出され、算出される内部抵抗値が所定値y以下であるか、判定される。内部抵抗値が所定値y以下と判定される場合、充電率是正部51gおよびステップ111,112の充電率是正ステップにより、推定充電率記憶部に記憶される初期充電率RSOCが休止期間の終了時における二次電池31の充電率とされる。
【0054】
このため、開回路電圧変化の小さな平坦領域Lと大きな変化領域Hとが充電率変化に対して現れる二次電池31を用いて構成される電池パック20の実際の運用において、電池パック20の休止期間の終了時における充電率を信頼性高く推定することができるようになる。
【0055】
なお、上記の実施形態では、充電率補正部51eおよびステップ108の充電率補正ステップによる充電率の補正は、充電率推定部51dおよびステップ102の充電率推定ステップによって電流積算法で推定された二次電池31の充電率が、電圧検出回路52によって測定される開回路電圧の値に対応して開回路電圧特性記憶部に記憶される充電率にされることで、行われる場合について、説明した。しかし、充電率補正部51eおよびステップ108の充電率補正ステップによる充電率の補正は、充電率推定部51dおよびステップ102の充電率推定ステップによって電流積算法で推定された二次電池31の充電率が、カルマンフィルタを用いて補正されることで、行われるように構成してもよい。この場合、充電率推定部51dおよび充電率推定ステップにおいて推定される充電率である「SOCの事前推定値」に対して、充電率補正部51eおよび充電率補正ステップにおいて、「カルマンゲイン」と「端子電圧の予測誤差」の積がカルマンフィルタによって加えられることにより、「SOCの事前推定値」が補正される。このような構成によっても、上記の実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法と同様な作用効果が奏される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
上記の実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法は、二次電池31がLFPである場合について、説明した。しかし、本発明は二次電池31がLFPである場合に限定されるものではなく、開回路電圧変化の相対的に小さな平坦領域と大きな変化領域とが充電率変化に対して現れる開回路電圧特性を有する他の蓄電素子にも同様に適用することができる。そして、その場合においても、上記の実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法と同様な作用効果が奏される。
【符号の説明】
【0057】
1:充電率推定装置
2:電池パック
3:組電池
31:二次電池(蓄電素子)
4:電流センサ(電流測定部)
5:バッテリ・マネジメント・ユニット(BMU)
51:制御部
51a:CPU
51b:メモリ(推定充電率記憶部、補正充電率記憶部、開回路電圧特性記憶部)
51d:充電率推定部
51e:充電率補正部
51f:内部抵抗算出部
51g:充電率是正部
51h:休止期間判定部
51i:休止期間終了判定部