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特許7500406モータ制御装置、モータ駆動システム、油圧発生装置、及びモータ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】モータ制御装置、モータ駆動システム、油圧発生装置、及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/00 20160101AFI20240610BHJP
   H02P 6/28 20160101ALI20240610BHJP
   H02P 6/08 20160101ALI20240610BHJP
【FI】
H02P23/00
H02P6/28
H02P6/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020201132
(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公開番号】P2022088975
(43)【公開日】2022-06-15
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 未也
(72)【発明者】
【氏名】深代 晃汰
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-210780(JP,A)
【文献】特開平03-207285(JP,A)
【文献】特開2000-003204(JP,A)
【文献】特開2008-057611(JP,A)
【文献】特開2016-111838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/00
H02P 6/28
H02P 6/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプ用であるモータ制御装置であって、
前記モータ制御装置は、
駆動デューティに基づいてインバータを制御し、前記駆動デューティに応じた駆動電流をモータに与えるモータ駆動部と、
前記モータを始動させる電流制御を行う前記駆動デューティを前記モータ駆動部に供給する電流制御部と、
上位ECUからの指令回転数に基づいて、目標回転数を取得する目標値取得部と、
指令電圧に基づいてデューティ算出処理を実行し、前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う駆動デューティを前記モータ駆動部に供給する速度制御部と、
回転センサからのセンサ情報に基づいて、前記モータの実回転数を算出する回転数算出部と、を備え、
電流制御部は、
上位ECUから供給される指令電流と電流センサからの相電流との偏差に基づいて指令電圧を算出する電流PI制御部と、
前記電流PI制御部により算出された前記指令電圧に基づいて、前記モータを始動させる前記電流制御を行う前記駆動デューティを算出するデューティ算出処理部と、を備え、
速度制御部は、
目標値取得部により取得された目標回転数と、回転数算出部により算出された実回転数との偏差に基づいて、指令電流を算出する速度PI制御部と、
前記速度PI制御部の算出した前記指令電流と、電流センサからの相電流との偏差に基づいて、前記デューティ算出処理を実行する前記指令電圧を算出する電流PI制御部と、を備え、
前記速度PI制御部は、
前記目標値取得部により取得された前記目標回転数と前記回転数算出部により算出された前記モータの前記実回転数との偏差を算出する偏差算出部と、
偏差算出部により算出された前記偏差に基づいて、前記モータに対する指令電流である操作量を算出する操作量算出部と、を備え、
前記操作量算出部は、
前記偏差算出部により算出された前記偏差に比例ゲインを乗算した第1の値を算出する第1算出部と、
前記偏差算出部により算出された前記偏差を時間積算して得られる積算値に積分ゲインを乗算して算出した値と、所定上限値のうちの、小さい方の値を第2の値とする第2算出部と、
前記第1算出部により算出された前記第1の値と、前記第2算出部により算出された前記第2の値を合計して算出した合計値と、指令電流の上限値に対応する操作量上限値のうち、小さい方を、速度制御部の電流PI制御部への指令電流とする第3算出部と、を備え、
前記所定上限値は、前記操作量上限値から、前記第1算出部により算出された前記第1の値を減算して得られる値よりも大きく、
モータ駆動部に供給される前記駆動デューティが、所定遷移条件を満たすと、電流制御部のモータを始動させる電流制御を行う前記駆動デューティから速度制御部の速度制御を行う駆動デューティに遷移し、
前記所定遷移条件が、前記回転数算出部により算出された前記実回転数が閾値を超えた場合、電流制御部による電流制御状態が所定時間以上継続した場合、又は、前記モータの回転量が閾値を超えた場合である、モータ制御装置。
【請求項2】
油圧ポンプ用であるモータ制御装置であって、
前記モータ制御装置は、
駆動デューティに基づいてインバータを制御し、前記駆動デューティに応じた駆動電流をモータに与えるモータ駆動部と、
前記モータを始動させる電流制御を行う前記駆動デューティを常に最大の固定値として前記モータ駆動部に供給する電流制御部と、
上位ECUからの指令回転数に基づいて、目標回転数を取得する目標値取得部と、
指令電圧に基づいてデューティ算出処理を実行し、前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う駆動デューティを前記モータ駆動部に供給する速度制御部と、
回転センサからのセンサ情報に基づいて、前記モータの実回転数を算出する回転数算出部と、を備え、
速度制御部は、
目標値取得部により取得された目標回転数と、回転数算出部により算出された実回転数との偏差に基づいて、指令電流を算出する速度PI制御部と、
前記速度PI制御部の算出した前記指令電流と、電流センサからの相電流との偏差に基づいて、前記デューティ算出処理を実行する前記指令電圧を算出する電流PI制御部と、を備え、
前記速度PI制御部は、
前記目標値取得部により取得された前記目標回転数と前記回転数算出部により算出された前記モータの前記実回転数との偏差を算出する偏差算出部と、
偏差算出部により算出された前記偏差に基づいて、前記モータに対する指令電流である操作量を算出する操作量算出部と、を備え、
前記操作量算出部は、
前記偏差算出部により算出された前記偏差に比例ゲインを乗算した第1の値を算出する第1算出部と、
前記偏差算出部により算出された前記偏差を時間積算して得られる積算値に積分ゲインを乗算して算出した値と、所定上限値のうちの、小さい方の値を第2の値とする第2算出部と、
前記第1算出部により算出された前記第1の値と、前記第2算出部により算出された前記第2の値を合計して算出した合計値と、指令電流の上限値に対応する操作量上限値のうち、小さい方を、速度制御部の電流PI制御部への指令電流とする第3算出部と、を備え、
前記所定上限値は、前記操作量上限値から、前記第1算出部により算出された前記第1の値を減算して得られる値よりも大きく、
モータ駆動部に供給される前記駆動デューティが、所定遷移条件を満たすと、電流制御部のモータを始動させる電流制御を行う前記駆動デューティから速度制御部の速度制御を行う駆動デューティに遷移し、
前記所定遷移条件が、前記回転数算出部により算出された前記実回転数が閾値を超えた場合、電流制御部による電流制御状態が所定時間以上継続した場合、又は、前記モータの回転量が閾値を超えた場合である、モータ制御装置。
【請求項3】
前記所定上限値は、前記操作量上限値と略同一である、請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記第3算出部は、前記第1算出部により算出された第1の値がP項となり、かつ、前記第2算出部により算出された第2の値がI項となる態様で、PI制御が実現されるように前記操作量を算出する、請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
油圧ポンプ用であるモータと、
請求項1、又は、請求項2に記載のモータ制御装置と、
を備える、モータ駆動システム。
【請求項6】
油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動するモータと、
請求項1、又は、請求項2に記載のモータ制御装置と、を備える、油圧発生装置。
【請求項7】
油圧ポンプ用であるモータのモータ制御方法であって、
前記モータ制御方法は、
駆動デューティに基づいてインバータを制御し、前記駆動デューティに応じた駆動電流をモータに与えるモータ駆動ステップと、
前記モータを始動させる電流制御を行う前記駆動デューティを前記モータ駆動ステップに供給する電流制御ステップと、
上位ECUからの指令回転数に基づいて、目標回転数を取得する目標値取得ステップと、
指令電圧に基づいてデューティ算出処理を実行し、前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う駆動デューティを前記モータ駆動ステップに供給する速度制御ステップと、
回転センサからのセンサ情報に基づいて、前記モータの実回転数を算出する回転数算出ステップと、を備え、
電流制御ステップは、
上位ECUから供給される指令電流と電流センサからの相電流との偏差に基づいて指令電圧を算出する電流PI制御ステップと、
前記電流PI制御ステップにより算出された前記指令電圧に基づいて、前記モータを始動させる前記電流制御を行う前記駆動デューティを算出するデューティ算出処理ステップと、を備え、
速度制御ステップは、
目標値取得ステップにより取得された目標回転数と、回転数算出ステップにより算出された実回転数との偏差に基づいて、指令電流を算出する速度PI制御ステップと、
前記速度PI制御ステップの算出した前記指令電流と、電流センサからの相電流との偏差に基づいて、前記デューティ算出処理を実行する前記指令電圧を算出する電流PI制御ステップと、を備え、
前記速度PI制御ステップは、
前記目標値取得ステップにより取得された前記目標回転数と前記回転数算出ステップにより算出された前記モータの前記実回転数との偏差を算出する偏差算出ステップと、
偏差算出ステップにより算出された前記偏差に基づいて、前記モータに対する指令電流である操作量を算出する操作量算出ステップと、を備え、
前記操作量算出ステップは、
前記偏差算出ステップにより算出された前記偏差に比例ゲインを乗算した第1の値を算出する第1算出ステップと、
前記偏差算出ステップにより算出された前記偏差を時間積算して得られる積算値に積分ゲインを乗算して算出した値と、所定上限値のうちの、小さい方の値を第2の値とする第2算出ステップと、
前記第1算出ステップにより算出された前記第1の値と、前記第2算出ステップにより算出された前記第2の値を合計して算出した合計値と、指令電流の上限値に対応する操作量上限値のうち、小さい方を、速度制御ステップの電流PI制御ステップへの指令電流とする第3算出ステップと、を備え、
前記所定上限値は、前記操作量上限値から、前記第1算出ステップにより算出された前記第1の値を減算して得られる値よりも大きく、
モータ駆動ステップに供給される前記駆動デューティが、所定遷移条件を満たすと、電流制御ステップのモータを始動させる電流制御を行う前記駆動デューティから速度制御ステップの速度制御を行う駆動デューティに遷移し、
前記所定遷移条件が、前記回転数算出ステップにより算出された前記実回転数が閾値を超えた場合、電流制御ステップによる電流制御状態が所定時間以上継続した場合、又は、前記モータの回転量が閾値を超えた場合である、モータ制御方法。
【請求項8】
油圧ポンプ用であるモータのモータ制御方法であって、
前記モータ制御方法は、
駆動デューティに基づいてインバータを制御し、前記駆動デューティに応じた駆動電流をモータに与えるモータ駆動ステップと、
前記モータを始動させる電流制御を行う前記駆動デューティを常に最大の固定値として前記モータ駆動ステップに供給する電流制御ステップと、
上位ECUからの指令回転数に基づいて、目標回転数を取得する目標値取得ステップと、
指令電圧に基づいてデューティ算出処理を実行し、前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う駆動デューティを前記モータ駆動ステップに供給する速度制御ステップと、
回転センサからのセンサ情報に基づいて、前記モータの実回転数を算出する回転数算出ステップと、を備え、
速度制御ステップは、
目標値取得ステップにより取得された目標回転数と、回転数算出ステップにより算出された実回転数との偏差に基づいて、指令電流を算出する速度PI制御ステップと、
前記速度PI制御ステップの算出した前記指令電流と、電流センサからの相電流との偏差に基づいて、前記デューティ算出処理を実行する前記指令電圧を算出する電流PI制御ステップと、を備え、
前記速度PI制御ステップは、
前記目標値取得ステップにより取得された前記目標回転数と前記回転数算出ステップにより算出された前記モータの前記実回転数との偏差を算出する偏差算出ステップと、
偏差算出ステップにより算出された前記偏差に基づいて、前記モータに対する指令電流である操作量を算出する操作量算出ステップと、を備え、
前記操作量算出ステップは、
前記偏差算出ステップにより算出された前記偏差に比例ゲインを乗算した第1の値を算出する第1算出ステップと、
前記偏差算出ステップにより算出された前記偏差を時間積算して得られる積算値に積分ゲインを乗算して算出した値と、所定上限値のうちの、小さい方の値を第2の値とする第2算出ステップと、
前記第1算出ステップにより算出された前記第1の値と、前記第2算出ステップにより算出された前記第2の値を合計して算出した合計値と、指令電流の上限値に対応する操作量上限値のうち、小さい方を、速度制御ステップの電流PI制御ステップへの指令電流とする第3算出ステップと、を備え、
前記所定上限値は、前記操作量上限値から、前記第1算出ステップにより算出された前記第1の値を減算して得られる値よりも大きく、
モータ駆動ステップに供給される前記駆動デューティが、所定遷移条件を満たすと、電流制御ステップのモータを始動させる電流制御を行う前記駆動デューティから速度制御ステップの速度制御を行う駆動デューティに遷移し、
前記所定遷移条件が、前記回転数算出ステップにより算出された前記実回転数が閾値を超えた場合、電流制御ステップによる電流制御状態が所定時間以上継続した場合、又は、前記モータの回転量が閾値を超えた場合である、モータ制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置、モータ駆動システム、油圧発生装置、モータ制御方法、及びモータ制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
相電流の推定値(出力)と相電流の目標値との偏差が所定値になるようにPI制御するモータ制御技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-098861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PI制御のようなフィードバック制御においては、目標値と出力との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続すると、I項の値(積算値)が過大となりうるため、これを防止するために、I項の値に対して上限値を設定する場合がある。このとき、当該上限値は、例えば、操作量の上限値から、そのときのP項の値を引いた値に、設定される場合がある。しかしながら、このようなI項の値に対する上限値を用いると、I項の値がその上限値にある状態で偏差が急減又は反転した場合に、操作量が即応答し短い時間で減少しやすくなる。このような操作量の応答性は、モータの回転数を急減させる要因(及びそれに伴い、負荷に負けてモータの所望の回転状態が実現されなくなる要因)となりうる。
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、目標値と出力との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続したあとに偏差が急減又は反転した場合でも、モータの回転数が急減しないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、モータに係る制御パラメータの目標値を取得する目標値取得部と、
前記モータに対する操作量を算出する操作量算出部と、
前記操作量算出部により算出された操作量に基づき前記モータを駆動したときに前記モータから出力される前記制御パラメータの出力を取得する出力取得部と、
前記目標値取得部により取得された前記目標値と前記出力取得部により取得された前記出力との偏差を算出する偏差算出部と、
を備え、
前記操作量算出部は、
前記偏差算出部により算出された前記偏差に応じた第1の値を算出する第1算出部と、
前記偏差を時間積算して得られる積算値に基づいて、所定上限値を超えない範囲で第2の値を算出する第2算出部と、
前記第1算出部により算出された第1の値と、前記第2算出部により算出された第2の値とに基づいて、操作量上限値を超えない範囲で前記操作量を算出する第3算出部と、
を備え、
前記所定上限値は、前記操作量上限値から、前記第1算出部により算出された第1の値を減算して得られる値よりも大きい、モータ制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、目標値と出力との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続したあとに偏差が急減又は反転した場合でも、モータの回転数が急減しないようにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】油圧発生装置の一実施形態を概略的に示す図である。
図2】モータ制御装置の一実施形態を概略的に示す機能ブロック図である。
図3】電流制御部により実現される電流制御を説明する概略的なブロック図である。
図4】目標値取得部により目標回転数の取得態様を説明する概略的なブロック図である。
図5】速度制御部により実現される速度制御を説明する概略的なブロック図である。
図6】速度PI制御部の機能を説明する概略的なブロック図である。
図7】速度PI制御部により実行される処理フローの一例である。
図8】第1比較例による速度制御に基づく各種の時系列波形を示す図である。
図9】第2比較例による速度制御に基づく各種の時系列波形を示す図である。
図10】第2比較例による速度制御における課題を説明する図である。
図11】本実施形態による速度制御に基づく各種の時系列波形を示す図である。
図12】本実施形態による速度制御に基づく各種の時系列波形を示す図である。
図13】本実施形態による速度制御に基づく各種の時系列波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、油圧発生装置1の一実施形態を概略的に示す図である。
【0011】
油圧発生装置1は、油圧を発生する装置であり、車両に搭載されるのが好適である。油圧発生装置1は、図1に示すように、モータ駆動システム2と、油圧ポンプ3とを備えている。
【0012】
モータ駆動システム2は、モータ制御装置10と、モータ12とを備えている。
【0013】
モータ制御装置10は、モータ12を制御することで、油圧ポンプ3を制御する。モータ制御装置10は、例えばマイクロコンピュータ等を含んでなる処理装置である。モータ制御装置10のハードウェア構成は任意であり、車載ECU(Electronic Control Unit)と同様であってよい。
【0014】
モータ12は、出力軸12aが油圧ポンプ3の駆動軸として機能する。モータ12は、3相のブラシレスモータであるが、相数はこれに限定されず、また、詳細な構成は任意である。なお、モータ12は、油圧ポンプ3に直結されてもよいし、他の機構(図示せず)等を介して接続されてもよい。
【0015】
油圧ポンプ3は、電動式ポンプであり、駆動時に、タンク31内の油を吸引して供給路32に吐出する。
【0016】
このようにして、本実施形態の油圧発生装置1は、モータ駆動システム2を介して油圧ポンプ3を駆動することで、油圧を発生する。なお、油圧ポンプ3により発生される油圧(すなわち油圧ポンプ3から吐出される油)は、アクチュエータの駆動や、各種車載電子機器の発熱部品の冷却、可動部の潤滑等に利用できる。
【0017】
図2は、モータ制御装置10の一実施形態を概略的に示す機能ブロック図である。なお、図2には、関連する構成として、モータ12や回転センサ13、電流センサ14とともに、上位ECU4が併せて示されている。
【0018】
上位ECU4は、モータ制御装置10よりも上位の制御装置であり、モータ制御装置10に対して各種指令を与える。回転センサ13は、モータ12の回転数に応じた電気信号をセンサ情報としてモータ制御装置10に供給する。電流センサ14は、モータ12の各相を流れる相電流を検出する。
【0019】
モータ制御装置10は、図2に示すように、モータ駆動部110と、電流制御部112と、回転数算出部114(出力取得部の一例)と、目標値取得部116と、速度制御部118と、を備えている。
【0020】
モータ駆動部110は、例えばIC(Integrated Circuit)やインバータを含んでなり、電流制御部112や速度制御部118から指示される駆動デューティに基づいてインバータ(図示せず)を制御し、駆動デューティに応じた駆動電流(例えば3相の駆動電流)をモータ12に与える。
【0021】
電流制御部112は、モータ12を停止状態から回転させるための電流制御を行う。すなわち、電流制御部112は、モータ12を始動させる電流制御を行う。電流制御部112による電流制御は、例えば図3に示す態様で実現できる。図3は、電流制御部112により実現される電流制御を説明する概略的なブロック図である。図3に示す例では、電流制御部112には、上位ECU4から供給される指令電流と、電流センサ14からの相電流(検出値)との偏差に基づいて、電流PI制御部1121により指令電圧が算出される。そして、デューティ算出処理部1122において、指令電圧に基づいて、モータ駆動部110に供給される駆動デューティ(図3等では「駆動Duty」と表記)が算出される。なお、他の例では、駆動デューティは、常に最大(例えば100%)の固定値であってもよい。
【0022】
回転数算出部114は、回転センサ13からのセンサ情報に基づいて、モータ12の回転数(実回転数)を算出する。なお、他の例では、回転数算出部114は、駆動電流のようなパラメータに基づいて、モータ12の実回転数を算出(推定)してもよい。
【0023】
目標値取得部116は、モータ12の回転数に係る目標値である目標回転数を取得する。目標値取得部116は、上位ECU4からの指令回転数に基づいて、目標回転数を取得(算出)する。例えば、目標値取得部116は、上位ECU4からの指令回転数を目標回転数としてそのまま利用してもよい。あるいは、目標値取得部116による目標回転数の取得は、例えば図4に示す態様で実現できる。図4は、目標値取得部116により目標回転数の取得態様を説明する概略的なブロック図である。図4に示す例では、目標値取得部116では、上位ECU4からの指令回転数と、フィルタ処理後の指令回転数との差分が算出され、当該差分にフィルタゲインが乗じられる(図4の矢印500参照)。そして、フィルタゲインが乗じられた差分と、フィルタ処理後の指令回転数とが、足し合わされることで、フィルタ処理後の指令回転数が、目標回転数として取得される。すなわち、フィルタ処理後の指令回転数が目標回転数として取得される。
【0024】
速度制御部118は、回転数算出部114により算出されるモータ12の実回転数が、目標値取得部116により取得された目標回転数になるようにモータ12の速度制御を行う。速度制御部118による速度制御は、例えば図5に示す態様で実現できる。図5は、速度制御部118により実現される速度制御を説明する概略的なブロック図である。図5に示す例では、速度制御部118において、目標値取得部116により取得された目標回転数と、回転数算出部114により算出された実回転数との偏差に基づいて、速度PI制御部1181により指令電流が算出される。そして、指令電流と、電流センサ14からの相電流(検出値)との偏差に基づいて、電流PI制御部1182により指令電圧が算出される。そして、指令電圧に基づいてデューティ算出処理が実行されることで、モータ駆動部110に供給される駆動デューティが算出される。
【0025】
モータ12の始動時において、速度制御部118による速度制御は、上述した電流制御部112による電流制御に後続して実行される。本実施形態では、モータ制御装置10の制御状態は、速度制御部118による速度制御状態と、電流制御部112による電流制御状態とを選択的に含み、モータ12の始動時において電流制御から速度制御状態への遷移は、所定遷移条件が満たされた場合に実現される。所定遷移条件は、例えば、回転数算出部114により算出された実回転数が閾値を超えた場合に満たされる。あるいは、所定遷移条件は、電流制御部112による電流制御状態が所定時間以上継続した場合に満たされてもよい。あるいは、所定遷移条件は、モータ12の回転量が閾値(例えば1回転)を超えた場合にも満たされてもよい。
【0026】
次に、図6以降に基づいて、速度PI制御部1181の好ましい構成について説明する。以下で説明する速度PI制御部1181の好ましい構成は、電流PI制御部1121や電流PI制御部1182に適用されてもよい。
【0027】
図6は、速度PI制御部1181の機能を説明する概略的なブロック図である。
【0028】
速度PI制御部1181は、目標値取得部116により取得された目標回転数と、回転数算出部114により算出された実回転数との偏差に基づいて、操作量上限値を超えない範囲で、指令電流である操作量を算出する。操作量上限値I1limitは、指令電流の上限値に対応し、適宜設定できる。
【0029】
本実施形態では、速度PI制御部1181は、図6に示すように、偏差算出部211と、操作量算出部212とを備える。
【0030】
偏差算出部211は、目標値取得部116により取得された目標回転数(目標値の一例)から実回転数(出力の一例)を減算した偏差Δrpmを算出する。
【0031】
操作量算出部212は、偏差算出部211により算出された偏差Δrpmに基づいて、指令電流である操作量を算出する。
【0032】
操作量算出部212は、第1算出部2121と、第2算出部2122と、第3算出部2123と備える。
【0033】
第1算出部2121は、偏差算出部211により算出された偏差Δrpmに基づいて、偏差Δrpmに応じた第1の値を算出する。本実施形態では、第1算出部2121は、偏差Δrpmに比例ゲインKpを乗算することで、第1の値(=Δrpm×Kp)を算出する。このような第1の値は、PI制御に関連して、P項の値とも称される。
【0034】
第2算出部2122は、偏差算出部211により算出された偏差Δrpmに基づいて、偏差Δrpmを時間積算して得られる積算値ΣΔrpmに基づいて、所定上限値I2limitを超えない範囲で第2の値を算出する。偏差Δrpmの積算値の初期値は、0であってよい。本実施形態では、第2の値は、積算値に積分ゲインKiを乗算した値(=ΣΔrpm×Ki)と、所定上限値I2limitのうちの、小さい方の値である。このような第2の値は、PI制御に関連して、I項の値とも称される。
【0035】
所定上限値I2limitは、操作量上限値I1limitから、第1算出部2121により算出された第1の値を減算して得られる値よりも大きい。すなわち、I2limit>I1limit-Δrpm×Kpである。本実施形態では、所定上限値I2limitは、操作量上限値I1limitと等しい。所定上限値I2limitの更なる詳細は、後述する。
【0036】
第3算出部2123は、第1算出部2121により算出された第1の値と、第2算出部2122により算出された第2の値とに基づいて、操作量上限値I1limitを超えない範囲で操作量(指令電流)を算出する。例えば、第3算出部2123は、第1の値と第2の値の合計値に応じた操作量を算出し、算出した操作量と、操作量上限値I1limitのうちの、小さい方を、最終的な操作量として出力する。
【0037】
図7は、速度PI制御部1181により実行される処理フローの一例である。図7に示す処理フローは、速度制御部118による速度制御状態において周期的に繰り返し実行される。以下では、各種パラメータの値に関して、今回周期の値を“(k)”で表し、前回周期の値を“(k-1)”で表す。
【0038】
速度PI制御部1181は、今回周期の各種のセンサ情報(回転センサ13や電流センサ14からのセンサ情報)を取得するとともに、上位ECU4から各種の指令を取得する(ステップS600)。
【0039】
ついで、速度PI制御部1181は、センサ情報に基づいてモータ制御装置10の実回転数を算出するとともに、目標回転数を取得する(ステップS602)。
【0040】
ついで、速度PI制御部1181は、ステップS602で算出/取得した今回周期の実回転数と目標回転数とに基づいて、今回周期の偏差Δrpm(k)を算出する(ステップS604)。
【0041】
ついで、速度PI制御部1181は、ステップS604で算出した偏差Δrpm(k)に基づいて、今回周期の第1の値(=Δrpm×Kp)を算出する(ステップS606)。
【0042】
ついで、速度PI制御部1181は、ステップS604で算出した偏差Δrpm(k)と、前回周期の積算値ΣΔrpm(k-1)とに基づいて、今回周期の積算値ΣΔrpm(k)を算出する。具体的には、ΣΔrpm(k)=ΣΔrpm(k-1)+Δrpm(k)、とする(ステップS608)。なお、初回の周期では、前回周期の積算値ΣΔrpm(k-1)は、0である。
【0043】
ついで、速度PI制御部1181は、今回周期の積算値ΣΔrpm(k)に積分ゲインKiを乗算することで、今回周期の第2の値(=ΣΔrpm(k)×Ki)を算出する(ステップS610)。
【0044】
ついで、速度PI制御部1181は、今回周期の第2の値(=ΣΔrpm(k)×Ki)が所定上限値I2limitを超えたか否かを判定する(ステップS612)。今回周期の第2の値(=ΣΔrpm(k)×Ki)が所定上限値I2limitを超えた場合(ステップS612の“YES”)は、今回周期の第2の値を、所定上限値I2limitにセット(補正)し(ステップS614)、ステップS616に進む。他方、今回周期の第2の値(=ΣΔrpm(k)×Ki)が所定上限値I2limitを超えない場合(ステップS612の“NO”)は、ステップS614を経由することなく、ステップS616に進む。
【0045】
ついで、速度PI制御部1181は、今回周期の第1の値と、今回周期の第2の値とに基づいて、操作量を算出する(ステップS616)。なお、操作量の算出方法は、第3算出部2123に関連して上述したとおりである。
【0046】
このようにして、図7に示す処理によれば、第2の値が所定上限値I2limitを超えないように制限しつつ、PI制御を実現できる。なお、変形例では、PI制御に代えて、PID制御が実現されてもよい。
【0047】
図8は、第1比較例による速度制御に基づく各種の時系列波形を示す図であり、横軸は時間であり、縦軸は回転数と電流である。各種の時系列波形は、目標回転数、実回転数(出力)、操作量(指令電流)、P項、I項、及び操作量上限値I1limitある。なお、図8に示す例では、上位ECU4からの指令回転数が目標回転数としてそのまま利用されている。
【0048】
第1比較例による速度制御は、PI制御に基づく速度制御である点で本実施形態と同じであるが、所定上限値I2limitを設定しない点で、本実施形態とは異なる。このような第1比較例では、図8に示すように、例えばモータ12の負荷(本実施形態では油圧ポンプ3の吐出圧)が比較的大きいことに起因して、目標回転数と実回転数(出力)との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続すると(例えば時点t1からの期間)、操作量が操作量上限値I1limitに到達した状態においてI項の値(積算値)が過大となりうる。このような場合、その後、偏差が急減又は反転したときに、その直前までのI項の値が過大であるがゆえに、操作量が操作量上限値I1limitに張り付いたままの状態が続き、応答性が悪くなるという問題点がある。
【0049】
図9及び図10は、第2比較例による速度制御に基づく各種の時系列波形を示す図であり、横軸は時間であり、縦軸は回転数と電流である。各種の時系列波形は、目標回転数、実回転数(出力)、操作量(指令電流)、P項、I項、及び操作量上限値I1limitある。なお、図9及び図10に示す例では、上位ECU4からの指令回転数が目標回転数としてそのまま利用されている。
【0050】
第2比較例による速度制御は、PI制御に基づく速度制御である点で本実施形態と同じであるが、所定上限値I2limitに対応する上限値が、操作量上限値I1limitからP項の値を差分した値である点、本実施形態とは異なる。このような第2比較例では、前述の第1比較例とは異なり、目標回転数と実回転数(出力)との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続してもI項の値が際限なく大きくなることが防止される。しかしながら、このような第2比較例では、その反面として、目標回転数と実回転数(出力)との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続し、その後、偏差が急減又は反転したときに、操作量が即応答し短い時間で減少しやすくなる。
【0051】
具体的には、図10に示す例では、目標回転数と実回転数(出力)との偏差が比較的大きい状態が時点t3まで継続し、時点t3より前の時点t2からI項の値が、上限値によって制限されている。そして、その後、時点t4で、目標回転数が急減することで偏差が急減している。この場合、図10のグラフの下側に模式的に棒グラフで示すように、P項の値が時点t3から時点t4にかけて急減し(矢印R1参照)、その結果、操作量が時点t3から時点t4にかけて急減する。このような操作量の応答性は、モータ12の回転数を急減させる要因(及びそれに伴い、負荷に負けてモータ12の所望の回転状態が実現されなくなる要因)となりうる。
【0052】
特に、モータ12は前述のとおり油圧ポンプ3を駆動しているので、目標回転数と実回転数(出力)との偏差が比較的大きい状態は、油圧が比較的高い状態において実現されやすい。油圧が比較的高い状態において、モータ12の実回転数が急減すると、比較的高い油圧による負荷に負けてモータ12の所望の回転状態が実現されなくなるおそれがある。その結果、図10では生じていないが、モータ12が停止してしまう事態(実回転数が0になってしまう事態)も生じうる。
【0053】
これに対して、本実施形態によれば、以下で、図11から図13を参照して説明するように、上述した第1比較例や第2比較例において生じる問題点を低減できる。
【0054】
図11から図13は、本実施形態による速度制御に基づく各種の時系列波形を示す図であり、横軸は時間であり、縦軸は回転数と電流である。各種の時系列波形は、目標回転数、実回転数(出力)、操作量(指令電流)、第1の値(P項)、第2の値(I項)、及び操作量上限値I1limitある。なお、図11から図13に示す例では、上位ECU4からの指令回転数が目標回転数としてそのまま利用されている。
【0055】
図11から図13に示す例では、上述した第1比較例や第2比較例の場合と同様、目標回転数と実回転数(出力)との偏差が比較的大きい状態が時点t3まで継続し、時点t3より前の時点t2’からI項の値が、所定上限値I2limitによって制限されている。
【0056】
図11に示す例では、時点t2’の後、時点t4で、目標回転数が急減することで偏差が急減している。この場合、上述した第2比較例の場合と同様、P項の値が時点t3から時点t4にかけて急減する。しかしながら、本実施形態では、図11に示すように、時点t3から時点t4にかけて、第2の値(I項の値)が所定上限値I2limitに張り付いたままであるので、上述した第2比較例の場合とは異なり、操作量が操作量上限値I1limitを維持する(すなわち、時点t3から時点t4にかけて急減することはない)。
【0057】
このようにして本実施形態によれば、第2の値(I項の値)に対する所定上限値I2limitを、上述した第2比較例の場合の上限値よりも有意に大きい操作量上限値I1limitに設定することで、上述した第2比較例とは異なり、操作量が時点t3から時点t4にかけて急減することがなくなる。すなわち、モータ12の回転数を急減させるような過敏な応答性を無くし、それに伴い、負荷に負けてモータ12の所望の回転状態が実現されなくなる可能性を低減できる。
【0058】
図12に示す例では、時点t2’の後、時点t4で、目標回転数が図11に示した例よりも大きく急減することで偏差が急減し反転している。この場合、P項の値は、時点t3から時点t4にかけて、上述した図11に示した例よりも大きく、急減する。しかしながら、本実施形態では、図12に示すように、時点t3では、第2の値(I項の値)が比較的大きい値である所定上限値I2limitであるので、第2の値(I項の値)が、偏差が反転したことによって低減するものの、操作量が操作量上限値I1limitを維持する(すなわち、時点t3から時点t4にかけて急減することはない)。また、偏差が反転した状態がさらに継続した時点t5からは、操作量が操作量上限値I1limitよりも小さい値へと減少していく。これにより、時点t3から時点t4までの目標回転数の急激かつ比較的大きい減少に対して、操作量が適切な遅れを伴って低減する。
【0059】
このようにして本実施形態によれば、第2の値(I項の値)に対する所定上限値I2limitを、上述した第2比較例の場合の上限値よりも有意に大きい操作量上限値I1limitに設定しつつ、過大な値に設定しないことで、上述した第2比較例の場合のような過敏な応答性を回避しつつ、上述した第1比較例の場合のような過大な応答遅れを回避できる。すなわち、本実施形態によれば、図12に示すような目標回転数と実回転数との関係(時系列)に対して、最適な応答性で、操作量を変化させることができる。これにより、上述した第1比較例や第2比較例で生じうる問題点を解消することができる。
【0060】
図13に示す例では、時点t2’の後、時点t4’で、実回転数が大きく急増することで偏差が急減し反転している。なお、この場合、図12に示した例とは異なり、実回転数が変化することで、偏差が急減し反転している。この場合も、図12に示した例と基本的には同じであり、第2の値(I項の値)は、時点t4’から、偏差が反転したことによって低減するものの、操作量が操作量上限値I1limitを維持する(すなわち、時点t3から時点t4’にかけて急減することはない)。また、偏差が反転した状態がさらに継続した時点t5’からは、操作量が操作量上限値I1limitよりも小さい値へと減少していく。これにより、時点t3から時点t4までの実回転数の急激かつ比較的大きい増加に対して、操作量が適切な遅れを伴って低減する。
【0061】
このようにして本実施形態によれば、目標回転数と実回転数との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続したあとに偏差が急減又は反転した場合でも、モータ12に対する操作量を適切な応答性で変化させることができる。この結果、目標回転数と実回転数との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続したあとに偏差が急減又は反転した場合でも、モータ12の回転数が比較的過敏な応答性で急減してしまうことや、モータ12の回転数が比較的長い時間にわたって応答しないこと(又は過大な応答遅れをもって急減してしまうこと)を、回避できる。
【0062】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0063】
例えば、上述した実施形態では、所定上限値I2limitは、操作量上限値I1limitに設定されるが、操作量上限値I1limitからP項の値を差分した値よりも大きい限り、他の値に設定されてもよい。例えば、所定上限値I2limitは、操作量上限値I1limitに対して略同じ(例えば10%以内)の一定値に設定されてもよい。また、所定上限値I2limitは、操作量上限値I1limitから所定パラメータの値を差分した値であってもよい。この場合、所定パラメータの値は、P項の値に所定係数を乗じた値であってよく、所定係数は、1よりも有意に小さい正の数である。例えば、所定係数は、0.1程度の値であってもよい。
【0064】
なお、以上の本発明の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0065】
[付記1]
モータに係る制御パラメータの目標値を取得する目標値取得部(116)と、
前記モータに対する操作量を算出する操作量算出部(212)と、
前記操作量算出部により算出された操作量に基づき前記モータを駆動したときに前記モータから出力される前記制御パラメータの出力を取得する出力取得部(回転数算出部114)と、
前記目標値取得部により取得された前記目標値と前記出力取得部により取得された前記出力との偏差を算出する偏差算出部(211)と、
を備え、
前記操作量算出部は、
前記偏差算出部により算出された前記偏差に応じた第1の値を算出する第1算出部(2121)と、
前記偏差を時間積算して得られる積算値に基づいて、所定上限値を超えない範囲で第2の値を算出する第2算出部(2122)と、
前記第1算出部により算出された第1の値と、前記第2算出部により算出された第2の値とに基づいて、操作量上限値を超えない範囲で前記操作量を算出する第3算出部(2123)と、
を備え、
前記所定上限値は、前記操作量上限値から、前記第1算出部により算出された第1の値を減算して得られる値よりも大きい、モータ制御装置(10)。
【0066】
付記1に記載の構成によれば、目標値と出力との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続したあとに偏差が急減又は反転した場合でも、モータの回転数が急減しないようにすることが可能なモータ制御装置を提供することができる。
【0067】
[付記2]
前記所定上限値は、前記操作量上限値と略同一である、付記1に記載のモータ制御装置。
【0068】
付記2に記載の構成によれば、所定上限値が操作量上限値と略同一であるであることから、目標値と出力との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続したあとに偏差が急減又は反転した場合でも、操作量がすぐに操作量上限値よりも減少する可能性は低くなり、操作量が操作量上限値を維持する可能性が高くなる。従って、目標値と出力との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続したあとに偏差が急減又は反転した場合でも、モータの回転数が急減しないようにすることができる。
【0069】
[付記3]
前記第3算出部は、前記第1算出部により算出された第1の値がP項となり、かつ、前記第2算出部により算出された第2の値がI項となる態様で、PI制御が実現されるように前記操作量を算出する、付記1又は付記2に記載のモータ制御装置。
【0070】
付記3に記載の構成によれば、PI制御に基づいて、モータを適切な応答性で駆動できる。
【0071】
[付記4]
前記モータは、油圧ポンプ用である、付記1から付記3のうちのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【0072】
目標値と出力との偏差が比較的大きい状態は、モータの負荷が比較的大きい状態に対応するが、油圧ポンプ用のモータの場合、モータの負荷が比較的大きい状態で、モータの回転数が急減すると、当該比較的大きい負荷に起因してモータが停止状態となってしまう可能性がある。これに対して、付記4に記載の構成によれば、油圧ポンプ用の場合であっても、当該比較的大きい負荷に起因してモータが停止状態となってしまう可能性を、低減できる。
【0073】
[付記5]
モータと、
前記モータを制御するモータ制御装置と、
を備え、
前記モータ制御装置は、
前記モータに係る制御パラメータの目標値を取得する目標値取得部と、
前記モータに対する操作量を算出する操作量算出部と、
前記操作量算出部により算出された操作量に基づき前記モータを駆動したときに前記モータから出力される前記制御パラメータの出力を取得する出力取得部と、
前記目標値取得部により取得された前記目標値と前記出力取得部により取得された前記出力との偏差を算出する偏差算出部と、
を備え、
前記操作量算出部は、
前記偏差算出部により算出された前記偏差に応じた第1の値を算出する第1算出部と、
前記偏差を時間積算して得られる積算値に基づいて、所定上限値を超えない範囲で第2の値を算出する第2算出部と、
前記第1算出部により算出された第1の値と、前記第2算出部により算出された第2の値とに基づいて、操作量上限値を超えない範囲で前記操作量を算出する第3算出部と、
を備え、
前記所定上限値は、前記操作量上限値から、前記第1算出部により算出された第1の値を減算して得られる値よりも大きい、モータ駆動システム。
【0074】
付記5に記載の構成によれば、目標値と出力との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続したあとに偏差が急減又は反転した場合でも、モータの回転数が急減しないようにすることが可能なモータ駆動システムを提供することができる。
【0075】
[付記6]
油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動するモータと、
前記モータを制御するモータ制御装置と、
を備え、
前記モータ制御装置は、
前記モータに係る制御パラメータの目標値を取得する目標値取得部と、
前記モータに対する操作量を算出する操作量算出部と、
前記操作量算出部により算出された操作量に基づき前記モータを駆動したときに前記モータから出力される前記制御パラメータの出力を取得する出力取得部と、
前記目標値取得部により取得された前記目標値と前記出力取得部により取得された前記出力との偏差を算出する偏差算出部と、
を備え
前記操作量算出部は、
前記偏差算出部により算出された前記偏差に応じた第1の値を算出する第1算出部と、
前記偏差を時間積算して得られる積算値に基づいて、所定上限値を超えない範囲で第2の値を算出する第2算出部と、
前記第1算出部により算出された第1の値と、前記第2算出部により算出された第2の値とに基づいて、操作量上限値を超えない範囲で前記操作量を算出する第3算出部と、
を備え、
前記所定上限値は、前記操作量上限値から、前記第1算出部により算出された第1の値を減算して得られる値よりも大きい、油圧発生装置。
【0076】
付記6に記載の構成によれば、目標値と出力との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続したあとに偏差が急減又は反転した場合でも、モータの回転数が急減しないようにすることが可能な油圧発生装置を提供することができる。
【0077】
[付記7]
モータに係る制御パラメータの目標値を取得する目標値取得ステップと、
前記モータに対する操作量を算出する操作量算出ステップと、
前記操作量算出ステップにより算出された操作量に基づき前記モータを駆動したときに前記モータから出力される前記制御パラメータの出力を取得する出力取得ステップと、
前記目標値取得ステップにより取得された前記目標値と前記出力取得ステップにより取得された前記出力との偏差を算出する偏差算出ステップと、
を備え、
前記操作量算出ステップは、
前記偏差算出ステップにより算出された前記偏差に応じた第1の値を算出する第1算出ステップと、
前記偏差を時間積算して得られる積算値に基づいて、所定上限値を超えない範囲で第2の値を算出する第2算出ステップと、
前記第1算出ステップにより算出された第1の値と、前記第2算出ステップにより算出された第2の値とに基づいて、操作量上限値を超えない範囲で前記操作量を算出する第3算出ステップと、
を備え、
前記所定上限値は、前記操作量上限値から、前記第1算出ステップにより算出された第1の値を減算して得られる値よりも大きい、モータ制御方法。
【0078】
付記7に記載の構成によれば、目標値と出力との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続したあとに偏差が急減又は反転した場合でも、モータの回転数が急減しないようにすることが可能なモータ制御方法を提供することができる。
【0079】
[付記8]
モータに係る制御パラメータの目標値を取得する目標値取得処理と、
前記モータに対する操作量を算出する操作量算出処理と、
前記操作量算出処理により算出された操作量に基づき前記モータを駆動したときに前記モータから出力される前記制御パラメータの出力を取得する出力取得処理と、
前記目標値取得処理により取得された前記目標値と前記出力取得処理により取得された前記出力との偏差を算出する偏差算出処理と、
を、コンピュータに実行させ、
前記操作量算出処理は、
前記偏差算出処理により算出された前記偏差に応じた第1の値を算出する第1算出処理と、
前記偏差を時間積算して得られる積算値に基づいて、所定上限値を超えない範囲で第2の値を算出する第2算出処理と、
前記第1算出処理により算出された第1の値と、前記第2算出処理により算出された第2の値とに基づいて、操作量上限値を超えない範囲で前記操作量を算出する第3算出処理と、
を備え、
前記所定上限値は、前記操作量上限値から、前記第1算出処理により算出された第1の値を減算して得られる値よりも大きい、モータ制御プログラム。
【0080】
付記8に記載の構成によれば、目標値と出力との偏差が比較的大きい状態が比較的長く継続したあとに偏差が急減又は反転した場合でも、モータの回転数が急減しないようにすることが可能なモータ制御プログラムを提供することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 油圧発生装置
2 モータ駆動システム
3 油圧ポンプ
4 上位ECU
10 モータ制御装置
12 モータ
12a 出力軸
13 回転センサ
14 電流センサ
31 タンク
32 供給路
110 モータ駆動部
112 電流制御部
114 回転数算出部
116 目標値取得部
118 速度制御部
211 偏差算出部
212 操作量算出部
2121 第1算出部
2122 第2算出部
2123 第3算出部
1121 電流PI制御部
1122 デューティ算出処理部
1181 速度PI制御部
1182 電流PI制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13