(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】土留め構造
(51)【国際特許分類】
E02D 5/06 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
E02D5/06
(21)【出願番号】P 2020216907
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】井上 直史
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 洋介
(72)【発明者】
【氏名】重松 慶樹
(72)【発明者】
【氏名】坂梨 利男
(72)【発明者】
【氏名】平 陽兵
(72)【発明者】
【氏名】永谷 英基
(72)【発明者】
【氏名】大野 進太郎
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-127822(JP,A)
【文献】特開2008-248503(JP,A)
【文献】特開2005-139755(JP,A)
【文献】特開2000-045247(JP,A)
【文献】米国特許第04917543(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/04 - 5/08
E02B 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に開削側と地山側とを仕切るように打ち込まれた第1の壁体と、
前記第1の壁体より地山側の地盤に、前記第1の壁体に対し間隔をあけて打ち込まれた第2の壁体と、
前記第1の壁体の頭部と前記第2の壁体の頭部とを連結する頭部連結部と、
前記第2の壁体の下端
部に設けられ
て前記第2の壁
体の地盤に対する
上昇変位を抑制可能に構成された
上昇変位抑制部材と、
を備え
る土留め構造
であって、
前記第2の壁体は、鋼矢板の列により形成され、
前記鋼矢板は、鉛直方向に延在するウェブと、該ウェブの両端に連続して形成された一対のフランジと、を有し、
前記上昇変位抑制部材は、上蓋部、本体部、及び、テーパ部により構成され、
前記本体部は矩形の平板状であり、前記本体部は、前記鋼矢板の下端部にて前記鋼矢板の前記一対のフランジ間に跨るように両端部が当該フランジに固定され、
前記上蓋部は板状であり、前記上蓋部は、前記鋼矢板の下端部にて前記鋼矢板と前記本体部とによって囲まれる空間を上方から塞ぐように設けられ、
前記テーパ部は板状であり、前記テーパ部は、前記鋼矢板の下端部にて前記鋼矢板と前記本体部とによって囲まれる空間を下方から塞ぐように設けられ、
前記上昇変位抑制部材は、その鉛直断面が、前記テーパ部にて、下方に向かって先細のテーパ状をなす、
土留め構造。
【請求項2】
前記上昇変位抑制部材の鉛直方向の長さが0.5m~1mの範囲内である、請求項1に記載の土留め構造。
【請求項3】
前記第1の壁体の下端部に設けられて前記第1の壁体の地盤に対する下降変位を抑制可能に構成された下降変位抑制部材を更に備え、
前記
下降変位抑制部材は、前記第1の壁体の下端部から側方に張り出している、
請求項1又は請求項2に記載の土留め構造。
【請求項4】
前記第1の壁体は
、鋼矢板の列により形成される、請求項1~
請求項3のいずれか1つに記載の土留め構造。
【請求項5】
前記第2の壁体の鉛直方向の長さは、前記第1の壁体の鉛直方向の長さよりも短い、請求項1~
請求項4のいずれか1つに記載の土留め構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の開削工事に際し、開削側(開削予定領域)と地山側(非開削領域)とを仕切って、施工場所に対する土留め(及び止水)を行う、土留め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の土留め構造は、地盤に開削側と地山側とを仕切るように打ち込まれた第1の壁体と、第1の壁体より地山側の地盤に、第1の壁体に対し間隔をあけて打ち込まれた第2の壁体と、第1の壁体の頭部と第2の壁体の頭部とを連結する頭部連結部と、を備えている。特許文献1では、第1の壁体及び第2の壁体と頭部連結部とが剛接合してラーメン構造をなしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の土留め構造において、その周辺から土圧がかかると、その力が、第1の壁体を下方に押し込むように(換言すれば地盤に沈み込ませるように)作用すると共に、第2の壁体を地盤から上方に引き抜くように作用する。それゆえ、第2の壁体については、これら作用を考慮し、その分、第2の壁体の鉛直方向の長さを計画よりも長く構築するなどの対策が必要であった。
【0005】
本発明は、このような実状に鑑み、周辺からの土圧に対して良好に抵抗可能な土留め構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため本発明に係る土留め構造は、地盤に開削側と地山側とを仕切るように打ち込まれた第1の壁体と、第1の壁体より地山側の地盤に、第1の壁体に対し間隔をあけて打ち込まれた第2の壁体と、第1の壁体の頭部と第2の壁体の頭部とを連結する頭部連結部と、第2の壁体の下端部に設けられて第2の壁体の地盤に対する上昇変位を抑制可能に構成された上昇変位抑制部材と、を備える。第2の壁体は、鋼矢板の列により形成され、鋼矢板は、鉛直方向に延在するウェブと、ウェブの両端に連続して形成された一対のフランジと、を有する。上昇変位抑制部材は、上蓋部、本体部、及び、テーパ部により構成される。本体部は矩形の平板状であり、本体部は、鋼矢板の下端部にて鋼矢板の一対のフランジ間に跨るように両端部が当該フランジに固定される。上蓋部は板状であり、上蓋部は、鋼矢板の下端部にて鋼矢板と本体部とによって囲まれる空間を上方から塞ぐように設けられる。テーパ部は板状であり、テーパ部は、鋼矢板の下端部にて鋼矢板と本体部とによって囲まれる空間を下方から塞ぐように設けられる。上昇変位抑制部材は、その鉛直断面が、テーパ部にて、下方に向かって先細のテーパ状をなす。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第2の壁体の下端部に上昇変位抑制部材が設けられているので、土留め構造は、その周辺からの土圧に対して良好に抵抗することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態における二重土留め壁を用いた開削工事の施工例を示す図である。
【
図2】前記第1実施形態における鋼矢板を用いた二重土留め壁の一例の断面図であり、
図1のA-A断面に対応する図である。
【
図3】前記第1実施形態における鋼矢板を用いた二重土留め壁の一例の断面図であり、
図1のB-B断面に対応する図である。
【
図4】前記第1実施形態における鋼矢板及び変位抑制部材の概略構成を示す図である。
【
図5】前記第1実施形態における二重土留め壁に作用する力を示す図である。
【
図6】本発明の第2実施形態における鋼矢板の下端部及び変位抑制部材の概略構成を示す図である。
【
図7】前記第2実施形態の第1変形例を示す図である。
【
図8】前記第2実施形態の第2変形例を示す図である。
【
図9】前記第2実施形態の第3変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、本発明の第1実施形態における二重土留め壁を用いた開削工事の施工例を示す図である。
図2及び
図3は、鋼矢板20を用いた二重土留め壁の一例の断面図である。ここで、
図2は
図1のA-A断面に対応する。
図3は
図1のB-B断面に対応する。
図4は、本実施形態における鋼矢板20及び変位抑制部材30の概略構成を示す図である。詳しくは、
図4(ア)は、鋼矢板20及び変位抑制部材30の正面図である。
図4(イ)は、鋼矢板20及び変位抑制部材30の側面図である。
図4(ア)のC-C断面と
図4(イ)のE-E断面とは、
図1のA-A断面及び
図2に対応する。
図4(ア)のD-D断面と
図4(イ)のF-F断面とは、
図1のB-B断面及び
図3に対応する。尚、
図4(ア)及び(イ)では、図示簡略化のため、鋼矢板20の継手23の図示を省略している。
【0011】
本実施形態の土留め構造体10は、本発明の「土留め構造」に対応するものである。本実施形態の土留め構造体10は、第1の壁体11と、第2の壁体12との二重構造(二重土留め壁)である。本実施形態では、第1の壁体11及び第2の壁体12を構成する壁部材として、鋼矢板(シートパイル)20を使用する。
【0012】
鋼矢板20は、
図2~
図4に示すように、断面が台形形状に屈曲し、表裏の一方の面が凸面21、他方の面が凹面22をなし、両端に継手23を有している。従って、鋼矢板20を表と裏を逆にして互い違いに列設し、隣り合う鋼矢板20を継手23同士でつなげることで、鋼矢板20の列により土留め壁(壁体)を構築できる。
【0013】
第1の壁体11は、地盤(開削前の地盤G)に、開削側と地山側とを仕切るように打設される(打ち込まれる)。第2の壁体12は、第1の壁体11より地山側の地盤に、第1の壁体11に対し例えば1m程度の間隔をあけて平行に打設される(打ち込まれる)。尚、第1の壁体11の打設工程と第2の壁体12の打設工程とは、いずれが先でもよいし、同時に並行して行うようにしてもよい。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の土留め構造体10は、更に、第1の壁体11の頭部(上端部)と第2の壁体12の頭部(上端部)とを連結固定する頭部連結部13を含む。
【0015】
本実施形態では、第1の壁体11及び第2の壁体12が地盤に打設された後に、第1の壁体11の頭部と第2の壁体12の頭部とを頭部連結部13により連結するが、第1の壁体11の頭部と第2の壁体12の頭部とを頭部連結部13により連結する時期は第1の壁体11及び第2の壁体12の地盤への打設後に限らない。例えば、第1の壁体11及び第2の壁体12が地盤に打設されるに先立って、地上で、第1の壁体11の頭部と第2の壁体12の頭部とを頭部連結部13により連結して一体化してもよい。
【0016】
ここにおいて、第1の壁体11及び第2の壁体12と頭部連結部13とは、剛接合して、ラーメン構造(門型ラーメン構造)をなすと共に、第1の壁体11と第2の壁体12との間の地盤を拘束する。
【0017】
尚、二重土留め壁の深さ方向(鉛直方向)の長さは、設計上の観点、施工性の観点、経済性の観点等から現場の条件に応じて設定される。通常、内側に配置される第1の壁体11の鉛直方向の長さは、設計上の土留め壁の根入れの安定で長さが決まり、外側に配置される第2の壁体12の鉛直方向の長さは、壁体としての剪断抵抗力を確保することが必要な範囲で決まる。このため、一般には、
図1に示しているように、第2の壁体12の長さの方が第1の壁体11の長さより少し短くなる。しかし、必ずしもこれに限らない。第1の壁体11の長さと第2の壁体12の長さとが同じになる場合もあるし、第1の壁体11の長さの方が第2の壁体12の長さよりも短くなる場合もある。
【0018】
前述の剛接合のための頭部連結部13は、例えばクロス型の接合鋼材13a,13bを含んで構成され得る。接合鋼材13a,13bは例えばアングル材で構成され得る。尚、頭部連結部13として採用可能な様々な態様については特許文献1に開示されており、周知であるので、その説明を省略する。
【0019】
図2及び
図3に示す二重土留め壁の一例では、複数枚の鋼矢板20からなる第1の壁体11と複数枚の鋼矢板20からなる第2の壁体12とは、凸形状が反対方向となる逆位相に配置している。この点、当該凸形状が同じ方向となる同位相に配置してもよい。つまり、平面視での第1の壁体11と第2の壁体12との凸形状の位相関係は、
図2及び
図3に図示のものに限らない。
【0020】
図2~
図4に示すように、本実施形態では、鋼矢板20はU形鋼矢板である。鋼矢板20は、鉛直方向に延在するウェブ24と、ウェブ24の両端に連続して形成された一対のフランジ25,25と、これら一対のフランジ25,25の先端に形成された継手23,23とを有する。前述の凸面21は、ウェブ24の一方の面24aとフランジ25の一方の面25aとによって構成されている。前述の凹面22は、ウェブ24の他方の面24bとフランジ25の他方の面25bとによって構成されている。
【0021】
鋼矢板20の下端部には、鋼矢板20の凹面22側で鋼矢板20と面対称となるように、変位抑制部材30が取り付けられている。変位抑制部材30は例えば鋼板を屈曲させて形成される。変位抑制部材30は、断面が台形形状に屈曲し、表裏の一方の面が凸面31、他方の面が凹面32をなし、両端が継手23に固定されている。鋼矢板20の下端部では、
図3に示すように、台形状に屈曲する鋼矢板20と、台形状に屈曲する変位抑制部材30とが連結することで、断面が略六角形状の筒状体となっている。また、鋼矢板20の下端部では、凹面22が変位抑制部材30の凹面32に対向している。
【0022】
図4(イ)に示すように、変位抑制部材30は、鋼矢板20の下端部から側方に張り出している。ゆえに、変位抑制部材30は、第1の壁体11の下端部から側方に張り出し得る(
図3参照)。また、変位抑制部材30は、第2の壁体12の下端部から側方に張り出し得る(
図3参照)。
【0023】
ここで、第1の壁体11を構成する鋼矢板20の下端部に設けられる変位抑制部材30は「第1の変位抑制部材」と称され得る。一方、第2の壁体12を構成する鋼矢板20の下端部に設けられる変位抑制部材30は「第2の変位抑制部材」と称され得る。
【0024】
変位抑制部材30の鉛直方向の長さL1は例えば0.5m~1m程度の範囲内である。
【0025】
鋼矢板20の下端部に変位抑制部材30が設けられることで、鋼矢板20の下端部には前述の筒状体が形成される。鋼矢板20の地盤への打設時には、この筒状体内に土砂が入り込んで締め固められ、これにより筒状体内が閉塞される。この結果、鋼矢板20の先端支持力が向上する。
【0026】
次に、土留め構造体10を構成する鋼矢板20の下端部に変位抑制部材30を設けたことによる効果について
図5を用いて説明する。
図5は二重土留め壁に作用する力を示す。
【0027】
土留め構造体10については、その周辺から土圧がかかると、その力が、第1の壁体11を下方に押し込むように(換言すれば地盤に沈み込ませるように)作用すると共に、第2の壁体12を地盤から上方に引き抜くように作用する。
【0028】
この点、本実施形態では、第1の壁体11を構成する鋼矢板20の下端部と、第2の壁体12を構成する鋼矢板20の下端部とに、それぞれ、変位抑制部材30が設けられている。それゆえ、第1の壁体11については、それを構成する鋼矢板20の下端部に設けられた変位抑制部材(第1の変位抑制部材)30によって、前述の押し込みに対する抵抗を増強させることができる。従って、第1の壁体11を構成する鋼矢板20の下端部に設けられた変位抑制部材(第1の変位抑制部材)30は、第1の壁体11の地盤に対する下降変位を抑制する機能と実現し得る。一方、第2の壁体12については、それを構成する鋼矢板20の下端部に設けられた変位抑制部材(第2の変位抑制部材)30によって、前述の引き抜きに対する抵抗を増強させることができる。従って、第2の壁体12を構成する鋼矢板20の下端部に設けられた変位抑制部材(第2の変位抑制部材)30は、第2の壁体12の地盤に対する上昇変位を抑制する機能と実現し得る。
【0029】
ゆえに、変位抑制部材30は、土留め構造体10(第1の壁体11、第2の壁体12、及び頭部連結部13)の地盤に対する変位を抑制する機能を実現し得る。
【0030】
尚、本実施形態では、変位抑制部材30を第1の壁体11の下端部と第2の壁体12の下端部との双方に設けているが、これに代えて、変位抑制部材30を第1の壁体11の下端部と第2の壁体12の下端部とのいずれか一方に設けてもよい。
【0031】
本実施形態によれば、土留め構造体10(土留め構造)は、地盤に開削側と地山側とを仕切るように打ち込まれた第1の壁体11と、第1の壁体11より地山側の地盤に、第1の壁体11に対し間隔をあけて打ち込まれた第2の壁体12と、第1の壁体11の頭部と第2の壁体12の頭部とを連結する頭部連結部13と、第1の壁体11の下端部と第2の壁体12の下端部との少なくとも一方に設けられて第1の壁体11と第2の壁体12との少なくとも一方の地盤に対する変位を抑制可能に構成された変位抑制部材30と、を備える。ゆえに、土留め構造体10は、その周辺からの土圧に対して良好に抵抗することができる。
【0032】
また本実施形態によれば、変位抑制部材(第2の変位抑制部材)30は、第2の壁体12の下端部に設けられている。変位抑制部材(第2の変位抑制部材)30は、第2の壁体12の地盤に対する上昇変位を抑制可能に構成されている。換言すれば、変位抑制部材(第2の変位抑制部材)30は、第2の壁体12が地盤に対して上昇する方向に変位することを抑制可能である。すなわち、変位抑制部材(第2の変位抑制部材)30は、第2の壁体12に関する前述の引き抜きに対する抵抗を増強させる機能を実現する。
【0033】
また本実施形態によれば、変位抑制部材(第2の変位抑制部材)30は、第2の壁体12の下端部から側方に張り出している(
図3参照)。ゆえに、変位抑制部材(第2の変位抑制部材)30は、簡易な構成で、第2の壁体12の地盤に対する変位を抑制する機能を実現することができる。
【0034】
また本実施形態によれば、変位抑制部材(第1の変位抑制部材)30は、第1の壁体11の下端部に設けられている。変位抑制部材(第1の変位抑制部材)30は、第1の壁体11の地盤に対する下降変位を抑制可能に構成されている。換言すれば、変位抑制部材(第1の変位抑制部材)30は、第1の壁体11が地盤に対して下降する方向に変位することを抑制可能である。すなわち、変位抑制部材(第1の変位抑制部材)30は、第1の壁体11に関する前述の押し込みに対する抵抗を増強させる機能を実現する。
【0035】
また本実施形態によれば、変位抑制部材(第1の変位抑制部材)30は、第1の壁体11の下端部から側方に張り出している(
図3参照)。ゆえに、変位抑制部材(第1の変位抑制部材)30は、簡易な構成で、第1の壁体11の地盤に対する変位を抑制する機能を実現することができる。
【0036】
また本実施形態によれば、第2の壁体12の鉛直方向の長さは、第1の壁体11の鉛直方向の長さよりも短い(
図1及び
図5参照)。このような第2の壁体12については、従来、前述の引き抜き分を考慮し、第2の壁体12の鉛直方向の長さを計画よりも長く構築するなどの対策をとっていたが、本実施形態では、変位抑制部材(第2の変位抑制部材)30が、第2の壁体12に関する前述の引き抜きに対する抵抗を増強させる機能を実現するので、当該対策は不要となり、第2の壁体12の鉛直方向の長さを計画どおりに構築することができる。
【0037】
また本実施形態によれば、第1の壁体11及び第2の壁体12は、それぞれ、鋼矢板20の列により形成される(
図2及び
図3参照)。このような鋼矢板20からなる二重土留め壁において、その下端部に簡素な構成の変位抑制部材30を適用することにより、周辺からの土圧に対して良好に抵抗することができる。
【0038】
次に、本発明の第2実施形態について、
図6を用いて説明する。
図6は、本実施形態における鋼矢板20の下端部及び変位抑制部材40の概略構成を示す図である。詳しくは、
図6(ア)は、鋼矢板20の下端部及び変位抑制部材40の正面図である。
図6(イ)は
図6(ア)のH-H断面図である。
図6(ウ)は
図6(ア)のI-I断面図である。尚、
図6(ア)~(ウ)では、図示簡略化のため、鋼矢板20の継手23の図示を省略している。
前述の第1実施形態と異なる点について説明する。
【0039】
本実施形態では、鋼矢板20の下端部に変位抑制部材40が取り付けられている。変位抑制部材40は例えば鋼板により形成される。変位抑制部材40は、上蓋部41、本体部42、及び、テーパ部43により構成される。
【0040】
本体部42は矩形の平板状であり、鋼矢板20の下端部にてフランジ25,25間に跨るように両端部が鋼矢板20のフランジ25,25に固定されている。また、鋼矢板20の下端部では、鋼矢板20のウェブ24の他方の面24bが、本体部42の内面42aに対向している。
【0041】
鋼矢板20の下端部にて、凹面22と、本体部42の内面42aとによって囲まれる空間Sを上方から塞ぐように、板状の上蓋部41が設けられている。尚、この上蓋部41については、省略してもよい。
【0042】
鋼矢板20の下端部にて、凹面22と、本体部42の内面42aとによって囲まれる空間Sを下方から塞ぐように、板状のテーパ部43が設けられている。
図6(イ)に示すように、変位抑制部材40の鉛直断面については、このテーパ部43にて、下方に向かって先細のテーパ状をなしている。
【0043】
図6(イ)及び(ウ)に示すように、変位抑制部材40は、鋼矢板20の下端部から(特に、鋼矢板20の下端部におけるウェブ24の他方の面24bから)側方に張り出している。ゆえに、変位抑制部材40は、第1の壁体11の下端部から側方に張り出し得る。また、変位抑制部材40は、第2の壁体12の下端部から側方に張り出し得る。
【0044】
ここで、本実施形態によれば、変位抑制部材40の鉛直断面について、テーパ部43にて、下方に向かって先細のテーパ状をなしている。ゆえに、鋼矢板20の地盤への打設時に変位抑制部材40が抵抗となる度合いを減少することができる。
【0045】
ここで、第1の壁体11を構成する鋼矢板20の下端部に設けられる変位抑制部材40は「第1の変位抑制部材」と称され得る。一方、第2の壁体12を構成する鋼矢板20の下端部に設けられる変位抑制部材40は「第2の変位抑制部材」と称され得る。
【0046】
変位抑制部材40の鉛直方向の長さL2は例えば0.5m~1m程度の範囲内である。
【0047】
本実施形態では、第1の壁体11を構成する鋼矢板20の下端部と、第2の壁体12を構成する鋼矢板20の下端部とに、それぞれ、変位抑制部材40が設けられている。それゆえ、第1の壁体11については、それを構成する鋼矢板20の下端部に設けられた変位抑制部材(第1の変位抑制部材)40によって、前述の押し込みに対する抵抗を増強させることができる。従って、第1の壁体11を構成する鋼矢板20の下端部に設けられた変位抑制部材(第1の変位抑制部材)40は、第1の壁体11の地盤に対する下降変位を抑制する機能と実現し得る。一方、第2の壁体12については、それを構成する鋼矢板20の下端部に設けられた変位抑制部材(第2の変位抑制部材)40によって、前述の引き抜きに対する抵抗を増強させることができる。従って、第2の壁体12を構成する鋼矢板20の下端部に設けられた変位抑制部材(第2の変位抑制部材)40は、第2の壁体12の地盤に対する上昇変位を抑制する機能と実現し得る。
【0048】
ゆえに、変位抑制部材40は、土留め構造体10(第1の壁体11、第2の壁体12、及び頭部連結部13)の地盤に対する変位を抑制する機能を実現し得る。
【0049】
尚、本実施形態では、変位抑制部材40を第1の壁体11の下端部と第2の壁体12の下端部との双方に設けているが、これに代えて、変位抑制部材40を第1の壁体11の下端部と第2の壁体12の下端部とのいずれか一方に設けてもよい。
【0050】
特に本実施形態によれば、変位抑制部材40は、その鉛直断面が、下方に向かって先細のテーパ状をなす(
図6(イ)参照)。ゆえに、鋼矢板20の地盤への打設時に変位抑制部材40が抵抗となる度合いを減少することができる。
【0051】
尚、本実施形態において、第1の壁体11を構成する鋼矢板20の下端部に設けられる変位抑制部材40と、第2の壁体12を構成する鋼矢板20の下端部に設けられる変位抑制部材40とのいずれか一方を、前述の変位抑制部材30に置き換えてもよい。つまり、前述の第1実施形態の変位抑制部材30と第2実施形態の変位抑制部材40とを組み合わせた態様であってもよい。
【0052】
図7~
図9は、第2実施形態の第1~第3変形例を示している。詳しくは、
図7(ア)は、第1変形例における鋼矢板20の下端部及び変位抑制部材40の正面図である。
図7(イ)は
図7(ア)のJ-J断面図である。
図7(ウ)は
図7(ア)のK-K断面図である。
図8(ア)は、第2変形例における鋼矢板20の下端部及び変位抑制部材40の正面図である。
図8(イ)は
図8(ア)のM-M断面図である。
図8(ウ)は
図8(ア)のN-N断面図である。
図9(ア)は、第3変形例における鋼矢板20の下端部及び変位抑制部材40の正面図である。
図9(イ)は
図9(ア)のP-P断面図である。尚、
図7~
図9では、図示簡略化のため、鋼矢板20の継手23の図示を省略している。
【0053】
第1~第3変形例では、変位抑制部材40は、本体部42のみで構成されている。鋼矢板20の下端部にて、凹面22と、本体部42の内面42aとによって囲まれる空間Sについては、その上面及び下面がそれぞれ開放されている。
【0054】
図7に示す第1変形例と、
図8に示す第2変形例とでは、本体部42は矩形の平板状である。一方、
図9に示す第3変形例では、本体部42は、半円形断面を有する板状である。しかしながら、本体部42の断面形状は、
図7~
図9に示すものに限らず、任意の形状であり得る。
【0055】
図7に示す第1変形例と、
図8に示す第2変形例とでは、変位抑制部材40(本体部42)の鉛直方向の長さが異なる。このように、変位抑制部材40(本体部42)の鉛直方向の長さは、短くても長くてもよい。この点は、
図9に示す第3変形例においても同様である。
【0056】
図7~
図9に示す変位抑制部材40は、鋼矢板20の下端部から(特に、鋼矢板20の下端部におけるウェブ24の他方の面24bから)側方に張り出している。ゆえに、変位抑制部材40は、第1の壁体11の下端部から側方に張り出し得る。また、変位抑制部材40は、第2の壁体12の下端部から側方に張り出し得る。
【0057】
図7~
図9に示した変位抑制部材40についても、
図6に示した変位抑制部材40と同様に、土留め構造体10(第1の壁体11、第2の壁体12、及び頭部連結部13)の地盤に対する変位を抑制する機能を実現し得る。
【0058】
前述の第1実施形態と第2実施形態及びその第1~第3変形例とでは、第1の壁体11及び第2の壁体12を構成する鋼矢板の一例としてU形鋼矢板を挙げて説明したが、この他、ハット形鋼矢板などであってもよいことは言うまでもない。
【0059】
前述の第1実施形態と第2実施形態及びその第1~第3変形例とでは、第1の壁体11及び第2の壁体12を鋼矢板20の列により形成しているが、第1の壁体11及び第2の壁体12の構成はこれに限らない。
【0060】
前述の第1実施形態と第2実施形態及びその第1~第3変形例とでは、変位抑制部材30,40を二重土留め壁に適用しているが、この他、三重土留め壁(例えば特許文献1参照)に適用してもよい。
【0061】
以上の説明から明らかなように、図示の実施形態はあくまで本発明を例示するものであり、本発明は、説明した実施形態により直接的に示されるものに加え、特許請求の範囲内で当業者によりなされる各種の改良・変更を包含するものであることは言うまでもない。
尚、出願当初の請求項は以下の通りであった。
[請求項1]
地盤に開削側と地山側とを仕切るように打ち込まれた第1の壁体と、
前記第1の壁体より地山側の地盤に、前記第1の壁体に対し間隔をあけて打ち込まれた第2の壁体と、
前記第1の壁体の頭部と前記第2の壁体の頭部とを連結する頭部連結部と、
前記第1の壁体の下端部と前記第2の壁体の下端部との少なくとも一方に設けられて前記第1の壁体と前記第2の壁体との少なくとも一方の地盤に対する変位を抑制可能に構成された変位抑制部材と、
を備える、土留め構造。
[請求項2]
前記変位抑制部材は、前記第2の壁体の下端部に設けられており、
前記変位抑制部材は、前記第2の壁体の地盤に対する上昇変位を抑制可能に構成された、請求項1に記載の土留め構造。
[請求項3]
前記変位抑制部材は、前記第2の壁体の下端部から側方に張り出している、請求項2に記載の土留め構造。
[請求項4]
前記変位抑制部材は、前記第1の壁体の下端部に設けられており、
前記変位抑制部材は、前記第1の壁体の地盤に対する下降変位を抑制可能に構成された、請求項1に記載の土留め構造。
[請求項5]
前記変位抑制部材は、前記第1の壁体の下端部から側方に張り出している、請求項4に記載の土留め構造。
[請求項6]
前記変位抑制部材は、その鉛直断面が、下方に向かって先細のテーパ状をなす、請求項1~請求項5のいずれか1つに記載の土留め構造。
[請求項7]
前記第2の壁体の鉛直方向の長さは、前記第1の壁体の鉛直方向の長さよりも短い、請求項1~請求項6のいずれか1つに記載の土留め構造。
[請求項8]
前記第1の壁体及び前記第2の壁体は、それぞれ、鋼矢板の列により形成される、請求項1~請求項7のいずれか1つに記載の土留め構造。
【符号の説明】
【0062】
10…土留め構造体、11…第1の壁体、12…第2の壁体、13…頭部連結部、13a,13b…接合鋼材、20…鋼矢板、21…凸面、22…凹面、23…継手、24…ウェブ、24a…一方の面、24b…他方の面、25…フランジ、25a…一方の面、25b…他方の面、30…変位抑制部材、31…凸面、32…凹面、40…変位抑制部材、41…上蓋部、42…本体部、42a…内面、43…テーパ部、G…地盤、L1,L2…長さ、S…空間