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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】Li及びMnに基づくフッ素化酸化物
(51)【国際特許分類】
   C01G 45/06 20060101AFI20240610BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240610BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240610BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240610BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240610BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240610BHJP
【FI】
C01G45/06
C01G53/00 A
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M4/131
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020558629
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2019060659
(87)【国際公開番号】W WO2019207065
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】18305518.5
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508079739
【氏名又は名称】ローディア オペレーションズ
(73)【特許権者】
【識別番号】516296522
【氏名又は名称】ル セントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】517218815
【氏名又は名称】コレージュ ドゥ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】タラスコン, ジーン-マリー
(72)【発明者】
【氏名】マー, ジウェイ
(72)【発明者】
【氏名】バートリー, ローラ
(72)【発明者】
【氏名】アミス, ロバン
(72)【発明者】
【氏名】ブライダ, マルク-ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】ル メルシェ, ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ビュイセット, ヴァレリー
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-250549(JP,A)
【文献】特開2015-130343(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0367609(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 45/06
C01G 53/00
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/62
H01M 4/131
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn並びに任意選択でNi及び/又はCoに基づく層状酸化物の調製プロセスであって、
式(II):
[LiMnIV NiIV CoIV ]O2-u (II)
(式中、
・0<x<2/3、
・0<y≦2/3、
・z≧0、
・w≧0、
・1/3<y+z+w<2/3、
・0<u<2/3であり、
フッ素はフッ素化剤によって提供される)の酸素欠乏酸化物の酸素空孔に前記フッ素を組み込むことからなり、
前記酸素欠乏酸化物を、フッ素化剤の熱分解によって生成されたフッ素化反応種を含む雰囲気と接触させることからなり、前記フッ素化剤は、HF、F、XeF、TbF、CeF、CoF、AgF、MoF、AgF、CuF、FeF、CuF、VF及びCrFからなる群において選択されるか、又は、前記フッ素化剤はフッ素化有機化合物であり、
Fが前記層状酸化物の結晶内に組み込まれているプロセス。
【請求項2】
前記層状酸化物は、式(I):
[LiMnIV Nin’ Con’’ ]O2-u (I)
(式中、
・0<x<2/3、
・0<y≦2/3、
・z≧0、
・w≧0、
・1/3<y+z+w<2/3、
・0<u<2/3、
・0<t≦uであり、
n’とn’’は、それぞれNi及びCoの平均酸化状態に対応し、n’は、+IIから+IVの範囲であり、n’’は、+IIIから+IVの範囲である)のものである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記層状酸化物の粒子は、100nm未満からなるD50によって特徴付けられ、D50は、レーザー回折によって得られた分布(体積で)から決定される中位径である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記層状酸化物は、O1型の層状構造を示す、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記層状酸化物は、式Li Mn 2/3 2-u のものである、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
Mn並びに任意選択でNi及び/又はCoに基づく、フッ素化酸化物の調製プロセスであって、
式(II):
[LiMnIV NiIV CoIV ]O2-u (II)
(式中、
・0<x<2/3、
・0<y≦2/3、
・z≧0、
・w≧0、
・1/3<y+z+w<2/3、
・0<u<2/3、
・0<t≦uであり
ッ素はフッ素化剤によって提供される)の酸素欠乏酸化物の酸素空孔に前記フッ素を組み込むことからなり、
前記酸素欠乏酸化物を、フッ素化剤の熱分解によって生成されたフッ素化反応種を含む雰囲気と接触させることからなり、前記フッ素化剤は、HF、F、XeF、TbF、CeF、CoF、AgF、MoF、AgF、CuF、FeF、CuF、VF及びCrFからなる群において選択されるか、又は、前記フッ素化剤はフッ素化有機化合物であり、
Fが、式(I):
[LiMnIV Nin’ Con’’ ]O2-u (I)
(式中、
・0<x<2/3、
・0<y≦2/3、
・z≧0、
・w≧0、
・1/3<y+z+w<2/3、
・0<u<2/3、
・0<t≦uであり、
・n’とn’’は、それぞれNiとCoの平均酸化状態に対応し、n’は、+IIから+IVの範囲であり、n’’は、+IIIから+IVの範囲である)の酸化物の結晶内に組み込まれているプロセス。
【請求項7】
前記フッ素化酸化物の粒子は、100nm未満からなるD50によって特徴付けられ、D50は、レーザー回折によって得られた分布(体積で)から決定される中位径である、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記フッ素化酸化物は、O1型の層状構造を示す、請求項6又は7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記フッ素化酸化物は、式Li Mn 2/3 2-u のものである、請求項6~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
t=uである、請求項2又はに記載のプロセス。
【請求項11】
前記酸素欠乏酸化物及び前記フッ素化剤が密閉容器に入れられ、前記フッ素化反応種を生成するように前記フッ素化剤が分解される、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
uが1/2未満である、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
1/3≦y≦2/3である、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
・w=z=0、又は
・w=0、又は
・z=0である、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
y=2/3及びw=z=0である、請求項2~14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
Fが、式(I):
[LiMnIV Nin’ Con’’ ]O2-u (I)
(式中、
・0<x<2/3、
・0<y≦2/3、
・z≧0、
・w≧0、
・1/3<y+z+w<2/3、
・0<u<2/3、
・0<t≦uであり、
n’とn’’は、それぞれNiとCoの平均酸化状態に対応し、n’は、+IIから+IVの範囲であり、n’’は、+IIIから+IVの範囲である)の酸化物の結晶内に組み込まれており、
以下の比:
0<ILiF/I≦0.50
(式中、
・ILiFは、LiFのピークの強度を示し、
・Iは、フッ素化酸化物の結晶内に組み込まれたフッ素のピークの強度を示す)によって特徴付けられ、
両方の強度は、19F固相MAS NMR分光法によって得られる、Mn並びに任意選択でNi及び/又はCoに基づく層状酸化物。
【請求項17】
Fが、式(I):
[LiMnIV Nin’Con’’]O2-u (I)
(式中、
・0<x<2/3、
・0<y≦2/3、
・z≧0、
・w≧0、
・1/3<y+z+w<2/3、
・0<u<2/3、
・0<t≦uであり、
n’とn’’は、それぞれNiとCoの平均酸化状態に対応し、n’は、+IIから+IVの範囲であり、n’’は、+IIIから+IVの範囲である)の酸化物の結晶内に組み込まれており、
以下の比:
0<ILiF/I≦0.50
(式中、
・ILiFは、LiFのピークの強度を示し、
・Iは、フッ素化酸化物の結晶内に組み込まれたフッ素のピークの強度を示す)によって特徴付けられ、
両方の強度は、19F固相MAS NMR分光法によって得られる、Mn並びに任意選択でNi及び/又はCoに基づくフッ素化層状酸化物。
【請求項18】
uが1/2未満である、請求項16又は17に記載の酸化物。
【請求項19】
1/3≦y≦2/3である、請求項1618のいずれか一項に記載の酸化物。
【請求項20】
t=uである、請求項1619のいずれか一項に記載の酸化物。
【請求項21】
・w=z=0、又は
・w=0、又は
・z=0、又は
・y=2/3及びw=z=0である、請求項1620のいずれか一項に記載の酸化物。
【請求項22】
D50は、レーザー回折によって得られた分布(体積で)から決定される中位径である、100nm未満からなるD50によって特徴付けられるナノ粒子の形態の請求項1621のいずれか一項に記載の酸化物。
【請求項23】
請求項1622のいずれか一項に記載の酸化物と、少なくとも1つの導電性材料と、任意選択で少なくとも1つのポリマーバインダーとを含む複合材料を含む、又はこれからなるカソード。
【請求項24】
請求項23に記載のカソードを含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年4月26日出願の欧州特許出願第18305518号の優先権を主張するものであり、その内容は、あらゆる目的のため参照により本明細書に全て援用される。本出願と本欧州出願との間に用語又は表現の明確さに影響を与えるいかなる矛盾がある場合、本出願のみが参照されるべきである。
【0002】
本発明は、Mn並びに任意選択でNi及び/又はCoに基づくLiに富む層状酸化物を調製する新しいプロセスに関し、この場合、Fが、酸化物(又は「フッ素化酸化物」)の結晶内に組み込まれている。また、電池のカソードの構成要素としての新しいフッ素化酸化物その使用に関する。
【背景技術】
【0003】
今日の社会は、電気化学エネルギー貯蔵、主に充電式リチウムイオン電池の使用に依存しており、携帯用電子機器及び電気自動車などの多くの物体に電力を供給している。電気移動度、再生可能エネルギー源の統合、及び接続された物体に関連する継続的な技術革命により、電池への依存度はこれまでになく大きくなるであろう。
電池の世界的な需要が高まるにつれ、エネルギー密度(Wh.L-1)及び寿命(年数)の点で、これまでの電池(鉛酸、ニッケルカドミウム、及びニッケル水素)を凌駕する普及しているリチウムイオン技術に特別な焦点が当てられている。継続的な性能の向上とコストの低下のおかげで、より一層普及してきている(2025年までに100ユーロkW.h-1を下回ると推定されている)。
【0004】
これらの高い期待は、今日のカソードが主に地政学的及び倫理的懸念のある化学元素であるコバルトに主として基づいていることを念頭に置いて、エネルギー密度と持続可能性を継続的に改善することによってその優位性を維持しなければならないリチウムイオン技術に圧力をかけている。これらの目標に向けて、我々のグループによる陰イオンレドックス化学の最近の発見により、ライトは緑色に戻り(the lights are back to green)、これにより、リガンドの電気化学的活性を介して更なるエネルギー貯蔵が可能になり、こうして、Li1.2Ni0.13Mn0.54Co0.13(別名Liに富むNMC)及びLi1.2Ni0.2Mn0.6などの、Liに富むMn系層状酸化物の容量がほぼ2倍になることができ、これは、今日のLiCoO及びLiNi1/3Mn1/3Co1/3(NMC)カソードに置き換わる、コバルトが少ない代替品として機能する。
【0005】
リチウムに富む層状酸化物は、陽イオンと陰イオンの両方のレドックスプロセスに依存する、高エネルギー密度のリチウムイオン電池用の次世代カソード材料として大きな期待を集めている。しかしながら、次世代のリチウムイオン電池での実際の実装は、酸化中の元の酸素の放出とともにサイクル時の電圧減衰を低下させその後容量が減少することの困難さに悩まされており、この影響はMnなどの実用的で持続可能な3D金属でより顕著になる。Liに富む層状酸化物を満たす中で、安価で環境に優しい良性のMn4+を有するLiMnOは、約460mAh g-1の理論容量を示すことができ、但し、2つのリチウムを除去できるという条件である。カソードの材料の分野で通常使用される層表記では、LiMnOは、Li[Li1/3Mn2/3]Oと書くことができ、この場合、Mn平面の位置の3分の1がLiに置き換えられ、Liスラブ間層スタック(Li inter-slab layer stack)とともにC2/m空間群に、順序付けられたLiMnスラブが形成される。今まで、このような材料は、Pralongら(Nat.Mater.2016,15,173-177)によって報告された純粋な無秩序の岩塩構造と同様に、サイクル時に劇的に減衰する魅力的な初期容量を示した。Liに富む酸化物の詳細については、Electrochimica Acta 2013,105,200-208にも見ることができる。
【0006】
材料表面の劣化を克服するために長年に渡って広く行われている古典的な方法は、フッ素による処理を採用することである(LiNi0.5Mn0.5、LiMn4-x、及び多数の他のものを参照されたい)。材料の電圧を上げ、FでO を置換することによって遷移金属の原子価を下げるために、Mn並びに任意選択でNi及び/又はCoに基づくLiに富む層状酸化物へのFの組み込みが探求されている。ほとんどの場合、Fの組み込みにはセラミックプロセスが伴い、主にLiFをフラックスとして使用するため、酸化物の粒子の周囲での共焦点堆積(confocal deposit)が可能になる。場合によっては、Fの酸化物への組み込みは、層状酸化物(Li1.15Ni0.45Ti0.3Mo0.11.850.15)において、スピネルについて報告されているように(Amatucci及びTarascon、米国特許第5,674,645号明細書(1997))、又は近年Cederのグループによって主張されているように(Nat.Commun.2017,8,981)、小さい格子パラメータの変化によって提供され得る。しかしながら、酸化物へのFの組み込みは証明されていない。FをLiMn12に組み込むことを目指す最近の取り組みでは、近年、機械的粉砕(Energy Environ.Sci.2018,11,926-932)を介してP.G.Bruceによって試みられた。.この機械的プロセスの硬度により、Fが整数であり、変更できない新しい相が形成される。更に、ボールミル粉砕は、材料の結晶化度に影響を与え、粒子のサイズを小さくしすぎる可能性がある。
【0007】
更に、リチウムとフッ素の親和性が高いため、LiMnOでの高温による直接フッ素化が失敗し、酸化物の格子置換の代わりにLiFが直接形成され、一方、ボールミル粉砕は、NMRによって推定される格子間のFの形跡なしに、相の完全な非晶化をもたらす。
【0008】
Electrochimica Acta 2013,105,200-208では、一般式Li[Li0.2Mn0.54Ni0.13Co0.13]O2-xの生成物が調製される。この生成物では、Liの量は1.2であるが、請求項1の式(II)及び請求項2の式(I)では、xは2/3未満である。更に、このような生成物の詳細な調製プロセスは、出発物質として酸素欠乏酸化物を伴わない。同じことが米国特許出願公開第2014/367609号明細書に当てはまる。
【0009】
[発明が解決しようとする課題]
従って、この文脈で解決すべき課題は、Mn並びに任意選択でNi及び/又はCoに基づく層状酸化物にFを組み込むための便利でクリーンなプロセスを見つけることである。別の課題は、Mn並びに任意選択でNi及び/又はCoに基づく新しい層状酸化物を調製することであり、この場合、高エネルギー密度のリチウムイオン電池で効率的に使用できる酸化物の結晶内にFが挿入される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】走査型電子顕微鏡(SEM)によって決定された、ソルボサーマル沈殿によって調製された式Li4/3Mn2/3の酸化物の形態と粒子サイズを示している。
図2】実施例1の酸化物で調製されたカソードを含む、電流速度C/20(1C=460mA g-1)でのLi電池のサイクル性能を開示している。
図3】式Li4/3Mn2/3の酸化物、式LiMn2/32-uの酸素欠乏酸化物、及び式LiMn2/32-uのフッ素化酸化物の19F固相MAS NMRスペクトルを開示している。
図4】式Li4/3Mn2/3の酸化物、式LiMn2/32-uの酸素欠乏酸化物、及び式LiMn2/32-uのフッ素化酸化物のLi固相MAS NMRスペクトルを開示している。
図5】式Li4/3Mn2/3の酸化物及び実施例4のフッ素化酸化物のサイクル性能の比較を開示している。
図6】Niの含有量を伴う式Li4/3MnNiの酸化物のX線回折(XRD)パターンの発生を示している。図6では、酸化物は表1に示すパラメータy及びzによって特徴付けられる。
図7】Coの含有量を伴う式Li4/3MnCoの酸化物のX線回折(XRD)パターンの発生を示している。図7では、酸化物は表2に示すパラメータy及びwによって特徴付けられる。
図8】式Li4/3Mn2/3の酸化物、式LiMn2/32-uの酸素欠乏酸化物、及び式実施例4のフッ素化酸化物のXRDパターンに対応する。
図9】式Li4/3Mn2/3の酸化物、式LiMn2/32-uの酸素欠乏酸化物、及び実施例4のフッ素化酸化物の高分解能O1s X線光電子スペクトル(XPS)に対応する。
【0011】
表1
【0012】
表2
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、請求項1~14に記載されるプロセス及び請求項15~23に記載される酸化物に関する。本発明はまた、請求項24で記載されるカソード、請求項25で記載される電池、及び請求項26で記載される酸素欠乏酸化物の使用に関する。
【0014】
このプロセスにより、Mn並びに任意選択でNi及び/又はCoに基づくLiに富む層状酸化物を調製することができ、この場合、Fが酸化物の結晶内に組み込まれ、フッ素が式(II)の酸素欠乏酸化物の酸素空孔に組み込まれることからなる:
[LiMnIV NiIV CoIV ]O2-u (II)
(式中、
・0<x<2/3、
・0<y≦2/3、
・z≧0、
・w≧0、
・1/3<y+z+w<2/3、
・0<u<2/3であり、
フッ素はフッ素化剤によって提供される)。
【0015】
本発明の文脈において、Fが酸化物の結晶内に組み込まれる、Mn並びに任意選択でNi及び/又はCoに基づくLiに富む層状酸化物は、本出願を通して(特許請求の範囲を含む)、「フッ素化酸化物」という用語によって指定される。
【0016】
フッ素化酸化物の調製プロセスは又、式(II)の酸素欠乏酸化物と接触することからなる:
[LiMnIV NiIV CoIV ]O2-u (II)
(式中、
・0<x<2/3、
・0<y≦2/3、
・z≧0、
・w≧0、
・1/3<y+z+w<2/3、
・0<u<2/3であり、
雰囲気は、フッ素化剤の熱分解によって生成されたフッ素化反応種を含む)。
【0017】
フッ素化酸化物は、より具体的には、式(I)によって特徴付けられ得る:
[LiMnIV Nin’ Con’’ ]O2-u (I)
(式中、
・0<x<2/3、
・0<y≦2/3、
・z≧0、
・w≧0、
・1/3<y+z+w<2/3、
・0<u<2/3、
・0<t≦uであり、
n’とn’’は、それぞれNi及びCoの平均酸化状態に対応し、n’は、+IIから+IVの範囲であり、n’’は、+IIIから+IVの範囲である)。
【0018】
フッ素化酸化物は中性化合物である。これは、より具体的には、x、y、z、w、n’、n’’、u、及びtが相関して電気的中性を確証することを意味する。従って、以下の数学的関係が適用されることができる:
x+4y+n’z+n’’w=2(2-u)+t。
uは、式(II)の酸素欠乏酸化物に存在する、結晶へのフッ素の組み込みに必要な酸素空孔の数に対応する。uは2/3未満(u<2/3)、より具体的には1/2(u<1/2)未満、更により具体的には1/3未満(u<1/3)である。実施例4のフッ素化酸化物について明らかなように、uは0.2未満、より具体的には0.15未満であり得る。酸素空孔の存在は、EXAFS(拡張X線吸収微細構造)、中性子回折、及びTEM(透過型電子顕微鏡)などの分析技術、又はこれらの技術の組み合わせによって確認されることができる。
【0019】
フッ素化酸化物では、Mnの酸化状態は+IVである。Mnは、フッ素化酸化物と酸素欠乏酸化物を安定化するために存在する。Mn、yの化学量論は、好ましくは、フッ素化酸化物及び酸素欠乏酸化物が層状構造の形態で存在するように十分に高い必要があり、yは、0<y≦2/3であるものである。より具体的には、1/3≦y≦2/3である。
【0020】
n’はNiの平均酸化状態に対応する。n’’はCoの平均酸化状態に対応する。フッ素化酸化物では、n’は+IIから+IVの範囲であり得、好ましくは+IVである。n’’は+IIIから+IVの範囲であり得、好ましくは+IVである。
【0021】
Fが、フッ素化酸化物の結晶内に組み込まれている。
フッ素化酸化物は、XRDによって確認できるO1型の層状構造を示す。フッ素化酸化物中のFの量は、酸素欠乏酸化物中の酸素空孔の数(u)に依存する。従って、以下の関係が適用される:0<t≦u。また、Fの量は、酸素欠乏酸化物とフッ素化反応種を含む雰囲気との間の接触の時間又はフッ素化が行われる温度などのプロセスの条件に依存する。調査した条件下で、t=uを得ることができた。
【0022】
フッ素化酸化物は、Mnのみ(w=z=0)、MnとNiのみ(w=0)、又はMnとCoのみ(z=0)に基づくことができる。Mnが存在する必要がある(y>0)。フッ素化酸化物は、実施例に開示されているものであり得る。Mnのみに基づくフッ素化酸化物の例は、LiMn2/32-uである。
【0023】
本発明のプロセスは、フッ素化反応種を生成するフッ素化剤の熱分解を伴う。理論に拘束されることなく、フッ素化反応種は、例えばラジカルF°又はイオン性フッ素Fであり得る。フッ素化剤は、HF、F、XeF、TbF、CeF、CoF、AgF、MoF、AgF、CuF、FeF、CuF、VF及びCrFからなる群において選択され得る。フッ素化剤はまた、フッ素化有機化合物であり得る。これは、例えば、PVDF又はPTFEなどのフッ素化ポリマーであり得る。XeFは、100℃未満の温度でフッ素化反応種が生成されるため、良好なフッ素化剤であることが証明されている。また、TbF及びCeFは、Tb又はCeを含む分解生成物をフッ素化剤の調製にリサイクルできるため、良好なフッ素化剤である。
【0024】
従って、このプロセスは、式(II)の酸素欠乏酸化物を、フッ素化剤の熱分解によって生成されたフッ素化反応種を含む雰囲気と接触させることによって実行される。フッ素化剤の熱分解は、30℃~500℃からなる温度で行うことができる。フッ素化剤がXeFの場合、分解温度はより具体的には80℃~100℃からなり得る。フッ素化剤がTbF又はCeFの場合、分解温度は、より具体的には100℃~500℃であり得る。フッ素化の時間は、フッ素化剤の性質及びフッ素化反応種の大気中の濃度に依存する。フッ素化剤がXeFの場合、時間は10時間~72時間であり得る。
【0025】
式(II)の酸素欠乏酸化物は、O又はHOに敏感であり得ることから、雰囲気は、好ましくはフッ素化剤の分解によって生成されたフッ素化反応種を含む不活性ガスからなる。不活性ガスは、例えば、アルゴン又は窒素であり得る。
【0026】
フッ素化酸化物の特定の調製プロセスは、フッ素化反応種を生成するために、式(II)の酸素欠乏酸化物及びフッ素化剤を密閉容器に入れること、及びフッ素化剤を分解することからなる。
【0027】
このプロセスは、酸素欠乏酸化物自体を使用することによって実行することができる。また、このプロセスは、以下に記載される式(III)の酸化物を含む複合材料に適用される電気化学的脱リチウム化によって得られる酸素欠乏酸化物を含む複合材料を使用することによって実行され得る。実施例4は、この特定のプロセスを示している。
【0028】
既知のプロセスとは異なり、本発明のプロセスはまた、少量のLiFを有するフッ素化酸化物を得ることを可能にする。これは、フッ素化酸化物のXRD図が結晶性LiFの寄与を示していないXRDから推定できる。これは、19F固相MAS NMR分光法によって得られたスペクトルからも推定でき、このスペクトルでは、LiF(ILiF)のピークの強度は次のようになる:
0<ILiF/I≦0.50、より具体的には≦0.30
(式中、
・ILiFは、LiFのピークの強度を示し、
・Iは、フッ素化酸化物の結晶内に組み込まれたフッ素のピークの強度を示す)。
【0029】
従って、本発明はまた、請求項17又は請求項18に記載のフッ素化酸化物に関する。
【0030】
フッ素の組み込みに続いて、結晶内のフッ素は、そのすぐ近傍にある金属に囲まれている。従って、フッ素化酸化物の結晶内に組み込まれたフッ素のピークは、約-150ppmの化学シフトδを示す。δは、-140ppm~-160ppmであり得る。
【0031】
LiFのピークは、通常、約-204ppmの化学シフトδを中心としている。δFは、-200ppm~-210ppmであり得る。LiFのピークの位置は、同じ分析条件で実行された純粋なLiFのスペクトルによって確認できる。強度は、対応するピークのベースラインから測定される。ピークが他のピークと重なっている場合は、デコンボリューションを適用できる。
【0032】
結晶におけるフッ素の組み込みは、Li NMRによって得られたスペクトルから推定することもでき、このスペクトルでは、広いピークが存在し、正の化学シフト(δLi>0ppm)を中心としている。ピークは、100ppm~200ppmからなる化学シフトδLiを中心としている。半ピークでの幅は、150ppm~200ppmであり得る。
【0033】
酸素欠乏酸化物(II)はXRDによって特徴付けられる。酸素欠乏酸化物(II)は、層状の角柱状構造を示し得る。式(II)の酸素欠乏酸化物は、式(III)の酸化物の電気化学的脱リチウム化によって調製することができる:
Li[Lix’MnIV Nin’ Con’’ ]O (III)
(式中、
・0<x’<1/3であり、
・y、z、及びwは、式(I)と同じ値を有し、
・n’は+IIから+IVの範囲であり得、好ましくは+IIであり、
・n’’は+IIIから+IVの範囲であり得、好ましくは+IIIである)。
【0034】
式(III)の酸化物は中性である。これは、x’、y、z、w、n’、n’’が相関して電気的中性を確証していることを意味する。従って、以下の数学的関係が適用され得る:
x’+4y+n’z+n’’w=3。
【0035】
電気化学的脱リチウム化は、式(III)の酸化物に酸素空孔の生成を引き起こす。式(II)の酸素欠乏酸化物は、X線光電子分光法(XPS)によって確認できるように、ペルオキソ様種(O m-、m=1又は2)の存在によって特徴付けられる。これらの種は、フッ素化後に安定であることが示され、結果、フッ素化酸化物は又、ペルオキソ様種を含み得る。
【0036】
式(III)の酸化物の例は、Li[Li1/3Mn2/3]O(x’=1/3、w=z=0)に対応するLiMnO(実施例1)である。
【0037】
電気化学的脱リチウム化は、式(III)の酸化物を、酸化物の構造に不可逆的に損傷を与えることなく遷移金属を完全に酸化することを可能にする電位まで電気化学的酸化にさらすことからなる。この電位は、好ましくは4.5V~5.0V対Li/Liの範囲であり得る。実際には、電気化学的脱リチウム化は、便利には式(III)の酸化物を含む複合材料から作製された電極を使用することからなり得る。複合材料は、式(III)の酸化物を導電性炭素と配合することによって調製される。複合材料は、通常、50.0重量%以上の式(III)の酸化物を含む。複合材料は、50.0重量%未満の導電性材料を含み得る。酸化物の割合は、70.0重量%~90.0重量%からなり得る。導電性材料の割合は、10.0重量%~30.0重量%からなり得る。固体が緊密に混合された複合材料が得られるように、2つの固体を完全に配合することが好ましい。実施例(実施例4)に開示されているように、便利にはボールミル粉砕を使用して複合材料を調製することができる。
【0038】
式(III)の酸化物は、以下に説明するソルボサーマル沈殿によって調製される:
a)攪拌下、LiOHの水溶液を、MnSO.HO、(NH、及び任意選択でNiIIの塩及び/又はCoIIの塩を含む水溶液に一滴ずつ加える。NiII及びCoIIの以下の塩を使用できる:NiSO.6HO及びCoSO.7HO。
【0039】
この溶液は、1.1~1.6、より具体的には1.1~1.3からなるモル比R=[S 2-]/([Mn2+]+[Ni2+]及び/又は[Co2+])によって特徴付けられる。
【0040】
加えられるLiOHの総量は、モル比R’=Li/([Mn2+]+[Ni2+]及び/又は[Co2+])が10より高く、好ましくは10~11からなるものである。R’が10未満の場合、少量のスピネルLiMn不純物相が形成されることができる。LiOHの溶液の添加時間は、5~15分からなる。溶液は、10~30℃からなる温度であり得る。
b)工程a)の終わりに得られた溶液を100℃より高い温度で加熱して、沈殿物を得る。混合物は、100℃~250℃の温度、より具体的には150℃~220℃の温度で加熱することができる。加熱の時間は、6時間~48時間からなり得る。温度と時間は、順序付けられたLi1/3Mn2/3シートの積み重ね内の粒子サイズと無秩序の度合いを制御するために変更できる。温度が200℃まで上昇すると、粒子サイズと積み重ねの無秩序が増加する傾向があるが、250℃では積み重ねの無秩序が減少する。同様に、反応時間については、時間を24時間まで増やすと粒子サイズが大きくなり、積み重ねの無秩序が増加し、対照的に、48時間まででは積み重ねの無秩序が減少する。
c)工程b)で得られた式(III)の酸化物を回収し乾燥させる。
【0041】
式(III)の酸化物は、任意選択で水で洗浄することができる。乾燥は50℃を超える温度で行われる。乾燥温度は、50℃~150℃からなり得る。物理的吸着水を除去するのを助けるために、乾燥中に真空を適用することもできる。10-3ミリバール未満の圧力の真空を適用することができる。
【0042】
ソルボサーマル沈殿により、形態とサイズが制御され、良好な電気伝導率を示すナノ粒子の形態で式(III)の酸化物を容易に得ることができるようになる(例えば、実施例1を参照されたい)。従って、ソルボサーマルプロセスは、高温(400℃)で長時間(3週間以上)アニーリングする必要があるセラミックプロセスよりも優れているように見える。このプロセスは、電気化学的脱リチウム化に使用される均一な酸化物の調製を助ける。式(III)の酸化物のナノ粒子は、10~50nmからなる平均サイズdXRDによって特徴付けられることができ、この場合、dXRDは、等方性の平均サイズの結晶ドメインである。dXRDは、Thompson-Cox-Hastings疑似-Voigtピーク形状を使用した構造精密化によるXRDによって決定される。
【0043】
又、式(III)の酸化物の粒子のサイズの制御は、フッ素化酸化物の粒子のサイズ及び形態の制御を確実に得る。従って、本発明のプロセスの利点は、フッ素化酸化物のサイズ及び形態を制御することである。従って、フッ素化酸化物は、ナノ粒子の形態であり得る。より具体的には、フッ素化酸化物の粒子は、100nm未満からなるD50によって特徴付けられ得、D50は、レーザー回折によって得られた分布(体積で)から決定された中位径である。Horiba LA-910などのレーザー粒径分析計を、製造者のガイドラインに従って使用することができる。更に、式(III)の酸化物に関しては、フッ素化酸化物のdXRDも10~50nmからなり得、この場合、dXRDは、等方性の平均サイズの結晶ドメインである。D50の決定は、酸化物が水に分散しているときに実行できる。
【0044】
式(III)の酸化物のナノ粒子は、凝集した一次粒子からなる二次粒子として記載されることができ、一次粒子のサイズdSEM(SEMで測定される)は、30~200nmである。二次粒子は、様々な形状(球、六角形、棒など)である。また、これはフッ素化酸化物に当てはまる。
【0045】
式(III)の酸化物は、O3状の構造を示す。
【0046】
上記に開示した無機酸化物(フッ素化酸化物、酸素欠乏酸化物、及び式(III)の酸化物)では、Liの一部を、Mg2+で置換することができ、電気的中性を確証するための組成物の調整を伴う。
【0047】
フッ素化酸化物の使用
フッ素化酸化物は、電池のカソードの構成要素として使用することができる。カソードは、典型的には、フッ素化酸化物と、少なくとも1つの導電性材料と、任意選択で少なくとも1つのポリマーバインダーとを含む複合材料Cを含む、又はこれからなる。複合材料Cは、通常、50.0重量%を超えるフッ素化酸化物を含む。複合材料Cは、50.0重量%未満の導電性材料を含み得る。フッ素化酸化物の割合は、70.0重量%~90.0重量%からなり得る。導電性材料の割合は、10.0重量%~30.0重量%からなり得る。
【0048】
導電性材料は、典型的には、カーボンブラックなどの導電性カーボンである(例えば、カーボンブラック、Alfa Aesarによって商品化されたSuper P(登録商標))。ポリマーバインダーは、典型的には、フッ化ビニリデン系(コ)ポリマーである。ポリマーバインダーは、例えば、VDFのポリマー、又はVDFがフッ化ビニリデンであり、HFPがヘキサフルオロプロピレンである、VDFとHFPのコポリマーであり得る。
【0049】
カソードは、以下の工程を含むプロセスによって調製することができる:
-フッ素化酸化物と、導電性材料と、ポリマーバインダーと(存在する場合)、適切な溶媒とを含むスラリーが、アルミホイルなどの集電体にコーティングされる。
-溶剤が除去される。
【0050】
スラリーは、フッ素化酸化物、導電性材料、ポリマーバインダー(存在する場合)、及び溶媒を混合することによって調製される。ポリマーバインダーは、好ましくは溶媒に溶解される。溶媒は、ポリマーバインダーを溶解するのに適している。溶媒は、N-メチルピロリドンであり得る。カソードの調製プロセスの例は、より具体的には国際公開第2013/180781号パンフレットの19~20ページに見出され得る。
【0051】
また、本発明は、カソードを含む電池に関する。通常、電池は、カソードと、アノードと、電子絶縁及びイオン伝導を確証する電解質と、電解質が液体の場合はセパレーターとを含む。
【0052】
電解質は固体であり得、リチウム塩を含む又は含まない無機リチウム導体又はリチウム導電性ポリマーから構成され得る。又、電解質は、液体であり得、任意選択で添加剤を使用して、溶媒のブレンドに溶解されたリチウム塩から構成され得る。リチウム塩は、好ましくは、LiPF、LiBF、LiClO、リチウムビス(オキサラト)ボレート(「LiBOB」)、LiN(SOF)、LiN(CFSO、LiN(CSO、Li[N(CFSO)(RFSO)](RFは、C、C、CFOCFCFである)、LiAsF、LiC(CFSO及びこれらの混合物からなる群から選択される。より好ましくは、塩は、LiPFである。リチウム塩は、好ましくは、有機カーボネート系の溶媒に溶解される。有機カーボネート系の溶媒は、不飽和環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート及びフルオロプロピレンカーボネート)並びに不飽和非環状カーボネート(例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びフッ素化非環式カーボネート)からなる群において選択され得る。カーボネートと組み合わせて使用することができる他の適切な溶媒は、エステル(例えば、プロピオン酸プロピル(PP)、プロピオン酸エチル(EP))である。
【0053】
電解液が液体の場合、セパレーターが必要である。典型的には、セパレーターは、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン)の微孔性膜又は不織布セパレーターである。安全性を高めるために、セパレーターをセラミックでコーティングすることができる。
【0054】
通常、アノードは、特に米国特許第6,203,944号明細書又は国際公開第00/03444号パンフレットに記載されているものを含む、リチウム金属箔又はリチウム合金組成物からなる。リチウムイオン電池は、次のいずれかを使用して作製される:1)リチウムをホストする、粉末、フレーク、繊維又は球体(例えば、メソカーボンマイクロビーズ)などの形態で典型的に存在する、リチウムを挿入することができる黒鉛炭素。プレリチウム化(prelithiated)グラファイト(例えば、米国特許第5,759,715号明細書に記載されている)の使用が好ましい。2)式LiTi12のチタン酸リチウム、3)高いLi/Si比を有するケイ化リチウムとして一般的に知られているリチウム-シリコン合金、特に式Li4.4Siのケイ化リチウム、4)式Li4.4Geの結晶相を含むリチウム-ゲルマニウム合金。
【実施例
【0055】
実施例1:Li4/3Mn2/3の合成
Li4/3Mn2/3(又はLiMnO)は、ソルボサーマル沈殿プロセスにより調製される。プロトコルには、R=[S 2-]/[Mn2+]=1.5の固定比で0.003モルのMnSOO及び0.0045モルの(NHを有する5mLのMilliQ水を含む溶液を溶解することを含む。溶液を25mLのテフロンで裏打ちされた容器にて室温で10分間撹拌し、10mLの3MのLiOHを一滴ずつ加え、溶液を更に10分間撹拌した。密封後、溶液を200℃の固定温度で24時間加熱した。室温まで冷却した後、遠心分離を使用して粉末を溶液から回収し、MilliQ水で数回洗浄し、80℃で10時間乾燥させた。回収した粉末を更に100℃で真空下にて10時間ガス放出した。
【0056】
調製されたままの化合物の構造分析は、最初にX線回折(XRD)によって調査された。XRDパターンは、調製されたままの化合物の単斜晶系C2/m構造の特徴である。ICP-OESを使用した元素組成分析では、Li/Mn比が1.97であることが示され、化学式Li4/3Mn2/3を有する調製されたままの化合物が確認された。
形態と粒子サイズが、走査型電子顕微鏡(SEM)によって検討され、Li4/3Mn2/3の粒子は、図1に示すように、約50nmの平均粒子サイズのナノメートルであることを実証している。
【0057】
実施例2:実施例1で得られたLi4/3Mn2/3化合物の電気化学試験
カソードは、実施例1の化合物70重量%とSuper P(登録商標)炭素30重量%を混合し、SPEX高エネルギーボールミルで20分間混合することにより調製した。リチウムの脱挿入-挿入反応は以下の通り書かれている:
Li4/3Mn2/3=2/3MnO+4/3Li+4/3e+1/3O
4/3Liの抽出に基づき、保存できる理論容量(又は電荷量)は460mAh.g-1である。得られたカソードは、リチウム金属アノードを含み、エチレンカーボネート(EC)/プロピレンカーボネート(PC)/ジメチルカーボネート(DMC)(1:1:3体積%)の混合物中の1Mヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)の電解質を使用するリチウム電池で使用された。この電池は、2~4.8V対Li/Liの電位範囲内でC/20(1C=460mA.g-1)の電流密度で動作した。最初の充電容量は、約350mAh.g-1であるが、その後放電中に約250mAh.g-1に低下し、大きな不可逆的な容量損失を示す。図2に示すように、サイクル時、容量は40サイクルに渡って約150~160mAh.g-1で安定し、システムの良好な可逆性を実証している。
【0058】
実施例3:実施例1で得られたLi4/3Mn2/3のガス放出試験
以前の検討によると、Liが豊富な層状酸化物電極の電荷で酸素損失が発生する場合がある。この点を確認するために、最初の充放電サイクルでガス圧分析を実施した。LiMn2/32-uが充電されると、圧力が上昇した。圧力上昇と質量分析から、初期のLi4/3Mn2/3当たり約0.157のガス分子が放出され、ガスの性質は、酸化の一番最後に、CO(m/z=44)及びO(m/z=32)であると推定できる。4電子O2-/O変換で予想されるように、これは約0.2電子の不可逆的な損失につながるため、帯電した生成物の化学量論は、Li0.27Mn2/31.9に近い。ICP-OES分析により、帯電した生成物のLi/Mn比は0.37(3)であり、電気化学とよく一致していることが確認された。
【0059】
実施例4:Li0.27Mn2/31.90.1の調製
70重量%のLi4/3Mn2/3と30重量%の炭素を含む電極を、4.80V対Li/Liで電流速度C/20で充電して、酸素欠乏Li0.27Mn2/31.9電極を得、電極を回収し、ジメチルエーテル(DME)で洗浄し、アルゴンを満たしたグローブボックスで真空乾燥した。次いで、回収したLi0.27Mn2/31.9電極粉末試料を、事前にフッ素化されたニッケルるつぼに入れ、所望の量のXeFを別々にテフロンの裏打ちされた容器に入れ、ニッケルるつぼをテフロンの裏打ちされた容器に入れ、次いでアルゴンを満たしたグローブボックス内のオートクレーブに密封した。オートクレーブを90℃で12時間加熱し、粉末をアルゴンを満たしたグローブボックスで回収した。
【0060】
ICP-OESを使用した元素組成分析により、Li/Mn比は、それぞれ0.37と0.36でフッ素化の前後で変化しないことが確認された。図3及び4に示すように、Li0.4MnO2.850.15試料の局所的な構造環境への洞察は、酸化物Li4/3Mn2/3及び酸素欠Li0.27Mn2/31.9試料と比較して、19F及びLi固相MAS NMR分光法を使用して得られる。図319F NMRスペクトルは、-80、-150、及び-204ppmに3つの異なる線を示しており、これらは、異なる環境の近傍のフッ素、即ち種LiPF、Mn-F、及びLiFに帰属されることができる。約-150ppmでの新しいフッ素の局所的な環境の出現は、酸素格子へのフッ素置換を示唆している。また、図4Li NMRスペクトルは、Li0.27Mn2/31.90.1試料の約150ppmのリチウムの新しい環境を確認している。
【0061】
実施例5:実施例4で得られたLi0.27Mn2/31.90.1の電気化学試験
カソードは実施例4に開示されており、XeFとの反応後に得られる。カソードは、リチウム金属アノードを含み、エチレンカーボネート(EC)/プロピレンカーボネート(PC)/ジメチルカーボネート(DMC)(1:1:3体積%)の混合物中の1Mヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)の電解質を使用するリチウム電池で使用された。
【0062】
電極は、C/20の電流密度で2V対Li/Liに放電することによって最初に活性化された。この電池は、2~4.5V対Li/Liの電位範囲内でC/20の電流密度で動作した。最初の充電容量は、約240mAh.g-1であり、放電中は約230mAh.g-1に維持され、良好な可逆的容量を示す。サイクル時、容量は20サイクルに渡って約190mAh.g-1で安定し、システムの良好な可逆性を実証している。
【0063】
比較例6:
また、作用電極が、実施例1で得られた純粋なLi4/3Mn2/3で調製されたことを除いて、Li電池は、実施例5及び比較例6のように電気化学的に特性評価された。実施例1で得られたLi4/3Mn2/3は、最初に、2~4.8V対Li/Liの電位範囲内でC/20の電流密度で1サイクルの間活性化される。この電池は、2~4.5V対Li/Liの電位範囲内でC/20の電流密度で動作した。実施例1の化合物(Li4/3Mn2/3)と活性化後の実施例4のフッ素化酸化物(Li0.27Mn2/31.90.1)は、初期サイクルの平均電位と容量がわずかに改善されているLi0.27Mn2/31.90.1の改質されたスムースな電気化学的特性を示している。
サイクル時、容量は、20サイクルに渡って約160mAh.g-1で安定している。他方、図5に見られるように、サイクル性能試験は、実施例1及び実施例4からなる電池で実施され、実施例4のフッ素化酸化物のより良いサイクル性能を実証している。
【0064】
実施例7:Ni置換及びCo置換されたLi4/3Mn2/3化合物の合成
また、Liに富むLi4/3Mn2/3に加えて、NiとCoによるMnの部分的置換の可能性が、上記で開示されたソフト化学合成(soft chemical synthesis)(ソルボサーマルプロセス)によって調査された。また、Ni置換及びCo置換されたLi4/3Mn2/3は、上記のソルボサーマル沈殿によって調製される。このプロトコルは、所望の量のMnSO.HO及びNiSO.6HO(又はCoSO.7HO)を有する5mLのMilliQ水を含む溶液を溶解することを含み、所望の量の(NHを、R=[S2-/M2+=1.5(M=Mn+Ni又はMn+Co)の固定比で加えて混合し、25mLのテフロンで裏打ちされた容器にて混合物を室温で10分間撹拌し、10mLの3MのLiOHを一滴ずつ加え、更に10分間撹拌した。密封後、溶液を200℃の固定温度で24時間加熱した。室温まで冷却した後、遠心分離を使用して粉末を溶液から回収し、MilliQ水で数回洗浄し、80℃で10時間乾燥させた。回収した粉末を更に100℃で真空下にて10時間ガス放出した。
【0065】
調製されたままの化合物の構造解析は、最初にX線回折(XRD)によって調査された。得られたXRDパターンを図6及び7に示し、これらは、モル比で50%までのNi及び30%までのCoの置換の調製されたままの化合物の層状構造が特徴である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9