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特許7500449プラント運転計画システムおよびプラント運転計画支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】プラント運転計画システムおよびプラント運転計画支援方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
G05B23/02 301Q
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021005166
(22)【出願日】2021-01-15
(65)【公開番号】P2022109706
(43)【公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(72)【発明者】
【氏名】村山 大
(72)【発明者】
【氏名】大谷 圭子
(72)【発明者】
【氏名】山根 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 佳子
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-256000(JP,A)
【文献】特開2001-346333(JP,A)
【文献】特開平1-144101(JP,A)
【文献】特開2000-259238(JP,A)
【文献】特表2018-506260(JP,A)
【文献】特開2002-230099(JP,A)
【文献】特開2010-3284(JP,A)
【文献】特開2022-62252(JP,A)
【文献】特開2012-10455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント機器の出力状態を示す運転データと、前記プラント機器の性能を定めた設定データと、を収集するデータ収集部と、
前記プラント機器の出力値と、前記プラント機器の単位時間当たりの出力値の変化量を示す出力変化率と、をそれぞれ軸とするグラフ上に、前記運転データおよび前記設定データに基づいて設定される前記プラント機器の運転可能範囲を表示する表示部と、
を備
前記プラント機器の出力に関連する需要が増加する場合の運転可能範囲が、前記需要が減少する場合の運転可能範囲と異なっている、プラント運転計画システム。
【請求項2】
前記データ収集部は、複数のプラント機器の各々について、前記運転データおよび前記設定データを収集し、
前記表示部は、前記複数のプラント機器の組み合わせに応じた前記運転可能範囲を表示する、請求項1に記載のプラント運転計画システム。
【請求項3】
前記データ収集部は、前記プラント機器の過去の運転データを収集し、
前記表示部は、前記過去の運転データを前記グラフ上に表示する、請求項1または2に記載のプラント運転計画システム。
【請求項4】
前記データ収集部に収集された前記プラント機器の過去のデータを用いて、前記プラント機器の将来の運転データを予測する演算部をさらに備え、
前記表示部は、前記演算部の予測データを前記グラフ上に表示する、請求項1から3のいずれかにプラント運転計画システム。
【請求項5】
前記演算部は、前記プラント機器に対して見込まれる出力変化率を示す想定デマンド変化率を用いて、前記プラント機器の運転計画を作成する、請求項4に記載のプラント運転計画システム。
【請求項6】
複数種の前記想定デマンド変化率と、各種の想定デマンド変化率の運転コストが前記演算部に入力される場合、前記表示部は、それぞれの運転コストを表示する、請求項5に記載のプラント運転計画システム。
【請求項7】
前記プラント機器が、蒸気を出力するボイラであり、
前記出力値が、前記ボイラの蒸気流量であり、
前記出力変化率が、単位時間当たりの前記蒸気流量の変化率である、請求項1から6のいずれか1項に記載のプラント運転計画システム。
【請求項8】
前記プラント機器が、蓄電池であり、
前記出力値が、前記蓄電池のSoC(State of Charge: 残容量)であり、
前記出力変化率が、前記蓄電池の放電レートである、請求項1から6のいずれか1項に記載のプラント運転計画システム。
【請求項9】
プラント機器の出力状態を示す運転データと、前記プラント機器の性能を定めた設定データと、を収集し、
前記プラント機器の出力値と、前記プラント機器の単位時間当たりの出力値の変化量を示す出力変化率と、をそれぞれ軸とするグラフ上に、前記運転データおよび前記設定データに基づいて設定される前記プラント機器の運転可能範囲を表示する、プラント運転計画支援方法であって、
前記プラント機器の出力に関連する需要が増加する場合の運転可能範囲が、前記需要が減少する場合の運転可能範囲と異なっている、プラント運転計画支援方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プラント運転計画システムおよびプラント運転計画支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラント運転計画システムは、需要に対してプラントの運転を安定に保ったまま、効率よく運転するためのシステムである。このようなプラント運転計画システムには、例えば、運転データに基づいてプラントの自動制御運転を行う際、最適化対象の変数を選択するものが提案されている。このシステムによれば、プラントの安定な運転を損なうことなく運転コストを最少化することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5017019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラントの運転状態は、需要に応じて変化する。そのため、単に運転データ(出力データ)に基づいてプラントの運転計画を作成すると、プラントの性能によっては、運転の安定性や効率性が悪化する可能性がある。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、安定性および効率性に優れたプラント運転計画を支援することが可能なプラント運転計画システムおよびプラント運転計画支援方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係るプラント運転システムは、データ収集部および表示部を備える。データ収集部は、プラント機器の出力状態を示す運転データと、プラント機器の性能を定めた設定データと、を収集する。表示部は、プラント機器の出力値と、プラント機器の単位時間当たりの出力値の変化量を示す出力変化率と、をそれぞれ軸とするグラフ上に、運転データおよび設定データに基づいて設定されるプラント機器の運転可能範囲を表示する。
【発明の効果】
【0007】
本実施形態によれば、安定性および効率性に優れたプラントの運転計画を支援することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るプラント運転計画システムの概略的な構成を示すブロック図である。
図2】プラント機器のトレンドグラフの一例を示す図である。
図3】デマンド変化率マップの一例を示す図である。
図4】プラント機器の現在の出力状態が異なる場合のトレンドグラフである。
図5】変形例に係るデマンド変化率マップの一例を示す図である。
図6】プラント機器の運転判断の支援方法の一例を説明するための図である。
図7】第2実施形態に係るプラント運転計画システムの概略的な構成を示すブロック図である。
図8】(a)は、一方のプラント機器のデマンド変化率マップの一例を示し、(b)は、他方のプラント機器のデマンド変化率マップの一例を示す。
図9】2台のプラント機器を組み合わせたデマンド変化率マップの一例を示す。
図10】(a)は、一方のプラント機器のデマンド変化率マップの別の一例を示し、(b)は、他方のプラント機器のデマンド変化率マップの別の一例を示す。
図11】2台のプラント機器を組み合わせたデマンド変化率マップの別の一例を示す。
図12】(a)は、一方のプラント機器のデマンド変化率マップのさらに別の一例を示し、(b)は、他方のプラント機器のデマンド変化率マップのさらに別の一例を示す。
図13】2台のプラント機器を組み合わせたデマンド変化率マップのさらに別の一例を示す。
図14】組み合わせ1、2、3のデマンド変化率マップを重ねて示した図である。
図15】第3実施形態に係るプラント運転計画システムの概略的な構成を示すブロック図である。
図16】第4実施形態に係るデマンド変化率マップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。下記の実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るプラント運転計画システムの概略的な構成を示すブロック図である。図1に示すプラント運転計画システム1は、プラント100の運転計画の作成を支援するシステムである。
【0011】
ここで、先にプラント100について説明する。プラント100は、プラント機器101およびプラント機器102を備える。なお、本明細書において、プラントとは、蒸気、電気、および水素等のエネルギーを製造、貯蔵、または供給する複数のプラント機器を電気回路または配管などで接続した設備を言う。このプラントには、発電プラント等が含まれる。
【0012】
本実施形態では、プラント機器101は、蒸気を出力するボイラである。一方、プラント機器102は、配管111を介してプラント機器101に連結されたタービンである。プラント100の運転データは、プラント運転計画システム1に提供される。
【0013】
次に、プラント運転計画システム1の構成について説明する。プラント運転計画システム1は、図1に示すように、データ収集部11と、運転データベース12と、設定データベース13と、表示部14と、を備える。なお、これらの構成要素は、1つのパッケージ内に配置されていてもよいし、異なる場所に配置されてネットワークを介して互いに接続されていてもよい。
【0014】
データ収集部11は、運転データベース12から運転データを収集するとともに、設定データベース13から設定データを収集する。また、データ収集部11は、収集した運転データおよび設定データを表示部14へ送出する。
【0015】
運転データベース12は、プラント100から提供された各プラント機器の運転データを格納する。この運転データは、例えばプラント機器101から出力された1時間当たりの蒸気の重量(t)を示す蒸気流量F(t/h)を含む。
【0016】
設定データベース13は、各プラント機器の性能を定めた設定データを格納する。この設定データは、例えばプラント機器101から出力される蒸気流量の上限値Fmaxおよび下限値Fminや、その蒸気流量Fの単位時間当たりの変化量を示す出力変化率の上限値MAXおよび下限値MINを含む。
【0017】
表示部14は、プラント機器101の運転可能範囲を示すデマンド変化率マップを作成して表示する。
【0018】
図2は、プラント機器101のトレンドグラフの一例を示す図である。図2では、横軸は時間を示し、縦軸は、プラント機器101の出力(蒸気流量)を示す。本実施形態のように、1台のプラント機器101(ボイラ)で構成された系では、需要とプラント機器101の出力は一致する。そのため、現在の運転時点において、プラント機器101が追従可能な需要は、出力変化率上限値MAXと出力変化率下限値MINとの間にある条件と、出力上限値Fmaxと出力下限値Fminとの間にある条件と、を満たす範囲内である。そのため、プラント機器101は、図2に〇印で示された需要には追従できる一方で、×印で示された需要には追従できない。
【0019】
本実施形態では、プラント機器101の出力と、出力変化の傾きを示す出力変化率との2種類のスカラ変数でプラント機器101の運転可能範囲を表現する。上記2種類のスカラ変数で需要に対するプラント機器101の運転可能範囲を表示したものが、デマンド変化率マップである。
【0020】
図3は、デマンド変化率マップの一例を示す図である。図3では、横軸は、プラント機器101の出力を示し、縦軸は、プラント機器101の出力変化率を示す。プラント機器101が定常運転中である場合、プラント機器101の出力変化率は0である。この場合、現在の蒸気の需要を示す現在需要は、出力変化率上限値MAXと出力変化率下限値MINとの間で横軸に沿って一定となる。
【0021】
また、プラント機器101が、需要増加に伴って出力を増加させる場合または需要減少に伴って出力を減少させる場合、プラント機器101の運転可能範囲は、図3のデマンド変化率マップに示した範囲内に限定される。すなわち、プラント機器101の運転可能範囲は、出力変化率上限値MAX、出力変化率下限値MIN、出力上限値Fmax、および出力下限値Fminに基づいて設定される範囲となる。
【0022】
例えば、プラント運転計画システム1の外部で見積もられたプラント機器101の想定デマンド変化率が、図3のデマンド変化率マップに示した運転可能範囲の条件を満たさないとする。この場合、図1に示すプラント100は、想定デマンド変化率に示された需要の変化を満たすことはできない。したがって、プラント100は、想定デマンド変化率に応じた運転を行うことできない。
【0023】
本実施形態では、図1に示す単純な系のプラント100において、プラント機器101の出力が急激に変化すると、その変化率が、プラント機器101の出力変化率の上限値と下限値との範囲外になる場合がある。この場合、プラント機器101の運転は、不安定になり、また効率も悪化する。そこで、本実施形態では、表示部14が、出力および出力変化率の2種類のスカラ変数で運転可能範囲を表示する。すなわち、図3に示すデマンド変化率マップは、需要の変化がどの程度であればプラント機器101が問題なく運転を継続できるかを示している。
【0024】
上記のように、図3に示すデマンド変化率マップを用いることで、想定される需要に対して、プラント100が安定的かつ効率的に運転可能であるか否かを判断する情報を提供することができる。
【0025】
以下、第1実施形態の変形例について説明する。
【0026】
図4は、プラント機器101の現在の出力状態が異なる場合のトレンドグラフである。図4に示すように、本変形例では、プラント機器101は上限値Fmax(t/h)まで蒸気流量を出力できる。ここでは、プラント機器101の現在の出力値が蒸気流量F1a(t/h)である場合と蒸気流量F1b(t/h)である場合の2種類について説明する。
【0027】
プラント機器101の1分当たりの出力変化率の最大値ΔF(t/h/分)は、下記の式(1)で示すことができる。
ΔF=(Fmax-F1a)/Δt (1)
【0028】
現在の出力値が蒸気流量F1aである場合、蒸気流量は、時間変化Δtの期間内で上限値Fmaxまで増加している。一方、現在の出力値が蒸気流量F1b(t/h)である場合、蒸気流量は、時間変化Δtの経過前に、上限値Fmaxに達している。したがって、蒸気流量F1bが蒸気流量F1aよりも大きい場合、以下の不等式(2)および式(3)の関係が成立する。
(Fmax-F1b)/Δt<ΔF (2)
ΔF=(Fmax-F1a)/Δt (3)
【0029】
蒸気流量F1bが蒸気流量F1aより大きい場合、時間変化Δtに対する蒸気流量F1bの出力変化の範囲は、蒸気流量F1aよりも小さくなる。
【0030】
図5は、本変形例に係るデマンド変化率マップの一例を示す図である。図5に示すように、プラント機器101の出力変化率は、(Fmax-F1b)とΔFの小さい方となるから、この値をΔF’とすると、ΔF’は、下記の式(4)で表すことができる。
ΔF’=Min(Fmax-F1b,ΔF)Δt (4)
【0031】
同様に、プラント機器101の出力下限値についても説明できる。現在の運転時点と時間変化Δtにより、蒸気流量F1aと蒸気流量F1bとの間で出力変化率下限値MINが異なる。上述した第1実施形態では、プラント機器101は、図3に示すデマンド変化率マップの運転可能範囲内であるという条件を満たさなければ、需要の変化に対処することができなかった。一方、本変形例では、時間変化Δtが微小でない場合には、デマンド変化率マップは、図5のように示される。
【0032】
図6は、プラント機器101の運転判断の支援方法の一例を説明するための図である。図6には、過去数日分の運転データがデマンド変化率マップに重ねて表示されている。図6に示す過去の運転データは、データ収集部11によって、運転データベース12から抽出される。データ収集部11は、運転データベース12に格納された運転データのうち、現在需要との差が一定以下であり、時間変化Δtに変化したデータを抽出する。図6によれば、全ての運転点データが運転可能範囲に含まれているため、プラント機器101の運転が問題ないことを確認することができる。
【0033】
また、図6によれば、現時点よりも出力下限値側に位置する運転データ数は、上限値側に位置する運転データ数よりも少ない。そのため、例えば、蒸気量下限値Fminがプラント機器101よりも大きなプラント機器(ボイラ)に変更するといったことを検討することができる。
【0034】
以上説明した本実施形態では、表示部14が、1台のプラント機器101(ボイラ)のデマンド変化率マップを表示する。このデマンド変化率マップには、プラント機器101の蒸気出力と蒸気出力変化率をそれぞれ軸とするグラフに、現在の出力値とともに、運転可能範囲が表示される。この運転可能範囲は、プラント機器101の出力の上限値および下限値だけでなく、出力変化率の上限値および下限値といった性能も含めて設定される。
【0035】
したがって、プラント機器101がデマンド変化率マップに示された運転可能範囲内で運転できるように運転計画を作成することによって、優れた安定性および効率性を実現することが可能となる。
【0036】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係るプラント運転計画システムの概略的な構成を示すブロック図である。上述した第1実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。本実施形態では、図7に示すように、プラント運転計画システム2の構成は、第1実施形態と同じである一方で、プラント100の構成が第1実施形態と異なる。
【0037】
本実施形態に係るプラント100には、2台のプラント機器101a、101bが配管111を介してプラント機器102に連結されている。このプラント100では、需要とプラント機器101a、101bの出力値の合計は一致する。すなわち、プラント機器101aの出力値F1(t/h)と、プラント機器101bの出力値F2(t/h)との合計値F1+F2(t/h)が、需要と一致する。これにより、合計値F1+F2が需要と一致する条件内で、出力値F1、F2の組み合わせには、自由度がある。
【0038】
図8(a)は、プラント機器101aのデマンド変化率マップの一例を示す。図8(b)は、プラント機器101bのデマンド変化率マップの一例を示す。図9に示すように、プラント機器101aを基準とすると、プラント機器101bは、その出力変化率の許容範囲が小さい一方でその出力範囲が大きい。このように、プラント機器(ボイラ)の種類によって、デマンド変化率マップの形状が異なる。
【0039】
さらに、本実施形態において、プラント機器101a、101bの出力合計値F1+F2は、各プラント機器の出力値を合成すればよいため、横軸方向にベクトルを合成して表すことができる。同様に、縦軸方向についても、各プラント機器の出力変化率を合成すればよい。
【0040】
図9は、2台のプラント機器101a、101bを組み合わせたデマンド変化率マップの一例を示す。2台のプラント機器101a、101bから成る系のデマンド変化率マップは、例えば図9のように示すことができる。図9に示すプラント機器101a、101bの組み合わせ1では、需要増加時の運転可能範囲、需要減少時の運転可能範囲ともに、出力変化率の制限(上限と下限)の合計値よりも絶対値が小さい。
【0041】
以下、図10図14を参照して、プラント機器101a、101bの組み合わせの別の例(組合せ2、組合せ3)の場合とその差異について説明する。
【0042】
図10(a)は、プラント機器101aのデマンド変化率マップの別の一例を示す。図10(b)は、プラント機器101bのデマンド変化率マップの別の一例を示す。
【0043】
図10(a)および図10(b)に示すプラント機器101a、101bの組み合わせ2を上述した組み合わせ1(図8(a)および図8(b)参照)と比較すると、プラント機器101aの出力は小さい一方で、プラント機器101bの出力は大きい。プラント機器101aの出力値F1と、プラント機器101bの出力値F2との合計値F1+F2は、需要と一致するため、一方(プラント機器101b)が増加すれば他方(プラント機器101a)が減少するためである。
【0044】
図10(a)に示すプラント機器101aのデマンド変化率マップを参照すると、出力上限値F1maxと、現在の出力値との差が大きくなっている。この場合、出力増加範囲の上限が、出力変化率上限値MAXと一致している。
【0045】
図8(b)に示す組み合わせ1では、出力増加範囲の上限値が出力変化率上限値MAXと一致している。一方、図10(b)に示す組み合わせ2では、プラント機器101bの出力値F2が増加したことによって、出力上限値F2maxとの差が小さくなる。そのため、上述した式(3)に基づいて、出力増加範囲が、出力変化率上限値MAXよりも小さくなっている。
【0046】
図11は、2台のプラント機器101a、101bを組み合わせたデマンド変化率マップの別の一例を示す。図11は、図10(a)および図10(b)にそれぞれ示すプラント機器101a、101bを組み合わせたデマンド変化率マップを示す。この組み合わせ2でも、需要増加時の運転可能範囲、需要減少時の運転可能範囲ともに、出力変化率の制限(上限と下限)の合計値よりも絶対値が小さい。
【0047】
図12(a)は、プラント機器101aのデマンド変化率マップのさらに別の一例を示す。図12(b)は、プラント機器101bのデマンド変化率マップのさらに別の一例を示す。図12(a)および図12(b)に示すプラント機器101a、101bの組み合わせ3を上述した組み合わせ1と比較すると、プラント機器101aの出力は大きい一方で、プラント機器101bの出力は小さい。組み合わせ3においても、プラント機器101aの出力値F1と、プラント機器101bの出力値F2との合計値F1+F2は需要と一致するから、一方(プラント機器101a)が増加すれば他方(プラント機器101b)が減少するためである。
【0048】
図12(a)に示すプラント機器101aのデマンド変化率マップを参照すると、出力上限値Fmaxと、現在の出力値との差が小さくなっている。この場合、組合せ1と比較すると、出力増加範囲の上限値と出力変化率上限値MAXとの差が大きくなっている。
【0049】
図12(b)に示すプラント機器101bのデマンド変化率マップを参照すると、組合せ1と同様に、出力増加範囲の上限値が出力変化率上限値MAXと一致している。
【0050】
図13は、2台のプラント機器101a、101bを組み合わせたデマンド変化率マップのさらに別の一例を示す。図13は、図12(a)および図12(b)にそれぞれ示すプラント機器101a、101bを組み合わせたデマンド変化率マップを示す。この組み合わせ3でも、需要増加時の運転可能範囲、需要減少時の運転可能範囲ともに、出力変化率の制限(上限と下限)の合計値よりも絶対値が小さい。
【0051】
図14は、図9図11および図13に示した組み合わせ1、2、3のデマンド変化率マップを重ねて示した図である。図14は、組み合わせ1の運転可能範囲を実線で示し、組み合わせ2の運転可能範囲を点線で示し、組み合わせ3の運転可能範囲を一点鎖線で示す。図14に示すように、運転可能範囲は、組合せ1、組合せ2、および組合せ3でそれぞれ異なる。プラント機器101aの出力値F1と、プラント機器101bの出力値F2との合計値F1+F2は、いずれの組み合わせでも同じである。そのため、出力値F1と出力値F2との組み合わせによって、運転可能範囲が異なる。
【0052】
以上説明した本実施形態では、表示部14が複数台のプラント機器101a、101bのデマンド変化率マップを表示する。このデマンド変化率マップには、各プラント機器の蒸気出力と蒸気出力変化率をそれぞれ軸とするグラフに、現在出力とともに、運転可能範囲が表示される。
【0053】
また、本実施形態では、各プラント機器の出力の組み合わせ毎に運転可能範囲を設定し、各組合せの運転可能範囲が重ねて表示される。そのため、複数台のプラント機器から成る系において、需要に対して安定性および効率性の観点で最適な出力を組み合わせた運転計画を作成することができる。
【0054】
(第3実施形態)
図15は、第3実施形態に係るプラント運転計画システムの概略的な構成を示すブロック図である。上述した第1実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0055】
本実施形態に係るプラント運転計画システム3は、第1実施形態に係るプラント運転計画システム1の構成要素に加えて、コストデータベース15および演算部16をさらに備える。コストデータベース15は、プラント100の運転コストに関する情報を格納する。運転コストには、例えば燃料単価が含まれる。一方、演算部16は、コスト最少化機能161およびデマンド変化率マップ計算機能162を有する。これらの機能は、ハードウェアで構成されていてもよいし、少なくとも1つの機能がソフトウェアで構成されていてもよい。演算部16は、これらの機能を用いて、プラント100の運転計画を作成する。
【0056】
本実施形態では、まず、データ収集部11が、運転データベース12および設定データベース13から、運転計画を立案する対象のデータを収集する。演算部16が現時点での運転計画を作成する場合、データ収集部11は、直近の運転データを収集する。また、演算部16が将来の運転計画を作成する場合、データ収集部11は、当該時間帯の過去の運転データを収集する。
【0057】
次に、演算部16のコスト最少化機能161が、データ収集部11で収集されたデータから需要量を抽出する。この需要量は、例えば、プラント機器101aの出力値F1と、プラント機器101bの出力値F2との合計値F1+F2に相当する。また、コスト最少化機能161には、コストデータベース15から燃料単価などのコスト情報が入力される。
さらに、想定デマンド変化率もプラント運転計画システム1の外部からコスト最少化機能161に入力される。想定デマンド変化率は、運転計画を作成する際に、どのような出力変化率が見込まれるかを示している。
【0058】
コスト最少化機能161は、需要量(合計値F1+F2)やコスト情報に基づいてプラント100の運転計画を作成する。例えば、将来の運転計画を作成する場合、コスト最少化機能161は、過去の運転データを用いて将来の運転データを予測する。運転計画を作成する際、合計値F1+F2、コスト情報、および想定デマンド変化率が制約条件となる。
【0059】
コスト最少化機能161が運転計画を作成すると、デマンド変化率マップ計算機能162が、運転計画に基づいて、各プラント機器のデマンド変化率マップを計算する。続いて、コスト最少化機能161が、デマンド変化率マップを想定デマンド変化率と比較する。
【0060】
想定デマンド変化率が、デマンド変化率マップの運転可能範囲内に含まれていれば、制約条件を満たした最適運転指示値が得られる。反対に、コスト最少化機能161がどのように運転計画を変換しても想定デマンド変化率が運転可能範囲外になる場合には、制約条件を満たすことができず、最適運転指示値を得ることができない。
【0061】
なお、複数種の想定デマンド変化率と、各種類の想定デマンド変化率の運転コストがコスト最少化機能161に入力される場合、表示部14がそれぞれの運転コストを表示してもよい。この場合、想定デマンド変化率に対してプラント100が運転可能であるか否かや、運転コストがどの程度上昇するかといったことを見極めることができる。
【0062】
また、表示部14は、過去の運転データや、演算部16が過去の運転データに基づいて算出したプラント機器101の予測データをデマンド変化率マップに表示してもよい。
【0063】
さらに、想定デマンド変化率は、複数台のプラント機器のうち、1台以上が故障した場合に他のプラント機器によって、供給を維持できるか否かを評価することもできる。この場合、表示部14は、故障したプラント機器を除いたプラント機器から成る系のデマンド変化率マップを表示する。そして、運転可能範囲と故障したプラント機器が停止するまでの時間変化Δtと、故障したプラント機器の出力値Fを想定デマンド変化率として、評価すればよい。
【0064】
以上説明した本実施形態によれば、運転コストも考慮して運転計画を作成することができる。また、想定デマンド変化率とデマンド変化率マップとを比較して運転計画を作成できるため、将来の出力需用の変化に対して最適な運転計画を作成することができる。
【0065】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。本実施形態では、プラント運転計画システムの構成は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。その一方で、本実施形態では、プラント100の構成が他の実施形態と異なる。
【0066】
第1実施形態では、プラント機器101は、ボイラであった。一方、本実施形態では、プラント機器101は、蓄電池である。そのため、プラント機器101の出力は、蓄電池のSoC(State of Charge: 残容量)(kWh)に相当する。また、プラント機器101の出力変化率は、蓄電池の放電レートに相当する。放電レートは、電池定格容量(kWh)に対する放電量(kW)であるから、時間変化Δtに対して、以下の式(5)が成り立てば、時間変化Δtの期間に渡って放電量を維持できる。
放電量×時間変化Δt<(SoC上限値-SoC下限) (5)
【0067】
反対に式(5)を満たさない場合は、プラント機器101(蓄電池)は、時間変化Δtの期間に渡って放電量を維持できない。これは、放電の途中でSoCが下限値に達してしまうからである。なお、充電についても放電と同様に考えることができる。
【0068】
図16は、第4実施形態に係るデマンド変化率マップを示す。図16では、縦軸は、プラント機器101の充放電量を示す。この縦軸では、プラスを充電、マイナスを放電とそれぞれ定義する。一方、横軸は、プラント機器101のSoCを示す。充電上限値、放電上限値、SoC上限値、およびSoC下限値は、設定データとして設定データベース13に格納され、データ収集部11によって抽出される。
【0069】
以上説明した本実施形態によれば、ボイラだけでなく蓄電池の運転計画も作成することができる。また、運転計画を作成する際、デマンド変化率マップを活用することで、優れた安定性および効率性を実現することが可能となる。
【0070】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規なシステムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明したシステムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0071】
1~3:プラント運転計画システム
11:データ収集部
14:表示部
16:演算部
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