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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】検知装置及び検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/34 20200101AFI20240610BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240610BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
G01R31/34 D
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021144877
(22)【出願日】2021-09-06
(65)【公開番号】P2023038008
(43)【公開日】2023-03-16
【審査請求日】2023-03-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電基盤技術開発/石炭火力の負荷変動対応技術開発/タービン発電設備次世代保守技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(72)【発明者】
【氏名】井上 和弘
(72)【発明者】
【氏名】司城 徹
(72)【発明者】
【氏名】兼清 靖弘
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0302862(US,A1)
【文献】特開平10-322824(JP,A)
【文献】特開平04-296673(JP,A)
【文献】特開2006-058166(JP,A)
【文献】特開2013-054031(JP,A)
【文献】特開2005-189226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/34
G01R 31/12
G01M 99/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象機器における放電現象に伴って発生する電磁波を検知する複数の一対の導体と、
前記複数の一対の導体に電気的に接続され、前記複数の一対の導体により検知された信号を伝送する伝送部と、
前記伝送部により伝送された信号を測定し、前記信号の測定結果に基づき、前記放電現象の発生の有無を決定する測定部と、
を備え、
前記複数の一対の導体は、前記電磁波が発生しうる前記対象機器の近傍界領域に配置されており、
前記複数の一対の導体は、前記対象機器から異なる距離に配置されており、
前記測定部は、前記複数の一対の導体により検知された前記電磁波の振幅の過渡応答に共通に含まれる遠方界成分の応答を除去し除去後の前記過渡応答に含まれる互いに異なる近傍界成分の振幅の時間特性を用いて、前記放電現象の発生の有無を決定する
検知装置。
【請求項2】
対象機器における放電現象に伴って発生する電磁波を検知する複数の一対の導体と、
前記複数の一対の導体に電気的に接続され、前記複数の一対の導体により検知された信号を伝送する伝送部と、
前記伝送部により伝送された信号を測定し、前記信号の測定結果に基づき、前記放電現象の発生の有無を決定する測定部と、を備え、
前記複数の一対の導体は、前記電磁波が発生しうる前記対象機器の近傍界領域に配置されており、
前記複数の一対の導体は、前記対象機器に対して異なる向きに配置されており、
前記測定部は、前記複数の一対の導体により検知された前記電磁波の振幅の過渡応答に共通に含まれる遠方界の成分の応答を除去し除去後の前記過渡応答に含まれる互いに異なる近傍界成分の振幅の時間特性を用いて、前記放電現象の発生の有無を決定する
検知装置。
【請求項3】
前記複数の一対の導体は、前記電磁波の振幅を前記一対の導体の電位差によって検知する
請求項1又は2に記載の検知装置。
【請求項4】
前記複数の一対の導体は金属を含む
請求項1~3のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項5】
前記対象機器と前記複数の一対の導体との距離は、前記電磁波の中心周波数に対応する波長以下である
請求項1~4のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項6】
各前記一対の導体は、点対称、線対称または面対称の形状である
請求項1~5のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項7】
各前記一対の導体は、平面形状を有する
請求項1~6のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項8】
各前記一対の導体は、立体形状を有する
請求項1~のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項9】
各前記一対の導体は、互いに異なる形状を有する
請求項1~5のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項10】
前記測定部は、前記信号に基づき前記電磁波の振幅変化を表すデータを表示する
請求項1~9のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項11】
前記対象機器は発電機である
請求項1~10のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項12】
前記放電現象は、前記発電機における固定子巻線で発生する部分放電であり、
各前記一対の導体は、前記電磁波が発生しうる前記固定子巻線の近傍界領域に配置されている
請求項11に記載の検知装置。
【請求項13】
前記放電現象は、前記発電機におけるコレクタリングで発生するアーク放電であり、
各前記一対の導体は、前記電磁波が発生しうる前記コレクタリングの近傍界領域に配置されている
請求項11に記載の検知装置。
【請求項14】
前記放電現象は、火花放電、コロナ放電、グロー放電、及びアーク放電の少なくともいずれかである
請求項1~13のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項15】
前記伝送部により伝送された信号に基づき、前記対象機器の故障又は故障予兆を予測する予測部
をさらに備えた請求項1~14のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項16】
前記故障予兆の予測結果を監視装置に送信する送信部
をさらに備えた請求項15に記載の検知装置。
【請求項17】
対象機器における放電現象に伴って発生する電磁波を複数の一対の導体により検知する検知ステップと、
前記複数の一対の導体により検知された信号を伝送する伝送ステップと、
伝送された信号を測定し、前記信号の測定結果に基づき、前記放電現象の発生の有無を決定する測定ステップと、を備え、
前記複数の一対の導体は、前記電磁波が発生しうる前記対象機器の近傍界領域に配置されており、
前記複数の一対の導体は、前記対象機器から異なる距離に配置されており、
前記測定ステップは、前記複数の一対の導体により検知された前記電磁波の振幅の過渡応答に共通に含まれる遠方界の成分の応答を除去し除去後の前記過渡応答に含まれる互いに異なる近傍界成分の振幅の時間特性を用いて、前記放電現象の発生の有無を決定する、
検知方法。
【請求項18】
対象機器における放電現象に伴って発生する電磁波を複数の一対の導体により検知する検知ステップと、
前記複数の一対の導体により検知された信号を伝送する伝送ステップと、
伝送された信号を測定し、前記信号の測定結果に基づき、前記放電現象の発生の有無を決定する測定ステップと、を備え、
前記複数の一対の導体は、前記電磁波が発生しうる前記対象機器の近傍界領域に配置されており、
前記複数の一対の導体は、前記対象機器に対して異なる向きに配置されており、
前記測定ステップは、前記複数の一対の導体により検知された前記電磁波の振幅の過渡応答に共通に含まれる遠方界の成分の応答を除去し除去後の前記過渡応答に含まれる互いに異なる近傍界成分の振幅の時間特性を用いて、前記放電現象の発生の有無を決定する
検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、検知装置及び検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電機等の機器において発生する放電現象を検知する装置として、接触型の検知装置(電圧パルス検知)がある。接触型の検知装置は、発電機等の機器に後付けするのが困難である。また、接触型の検知装置は、熟練した技術者によるメンテナンスを必要とし、高コストになる。
【0003】
非接触型の検知装置は、既存の機器への後付けが容易である利点があり、非接触型の検知装置を用いることのニーズが高い。しかしながら、非接触型の検知装置は、通常の無線通信と同様に、高レベルの環境雑音が広帯域に分布する場所(例えば発電所等)での検知の信頼性は低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-54575号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】“発電機のオンライン絶縁診断”東芝レビュー_63_4_42(2008)
【文献】“マイクロストリップアンテナによる発電機のオンライン絶縁診断技術” 電気評論_102_6_66(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態は、放電現象の検知の信頼性を高めた非接触型の検知装置及び検知方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る検知装置は、対象機器における放電現象に伴って発生する電磁波を検知する一対の導体を備え、前記一対の導体は、前記電磁波が発生しうる前記対象機器の近傍界領域に配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る検知システムのブロック図。
図2】一対の導体にそれぞれ信号線を接続した時の一対の導体間の入力インピーダンス特性を示す図。
図3】一対の導体の第1の具体例を示す図。
図4】一対の導体の第2の具体例を示す図。
図5】一対の導体の第3の具体例を示す図。
図6】一対の導体の第4の具体例を示す図。
図7】一対の導体の第5の具体例を示す図。
図8】一対の導体の第6の具体例を示す図。
図9】一対の導体の第7の具体例を示す図。
図10】一対の導体の第8の具体例を示す図。
図11】一対の導体の第9の具体例を示す図。
図12】第2の実施形態に係る検知システムのブロック図。
図13】オシロスコープにより各対の導体から取得された波形データの図。
図14】電磁界シミュレーションによる時間応答波形の解析例を示す図。
図15】6対の導体を対象機器に対して異なる向きに配置した例を示す図。
図16】第4の実施形態に係る放電監視システムのブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図面において同一の構成要素は、同じ番号を付し、説明は、適宜省略する。
【0010】
図1は、第1の実施形態に係る検知システム10のブロック図である。検知システム10は、対象機器1と、対象機器1で発生する放電現象を検知する非接触型の検知装置11とを備える。対象機器1は、動作時に放電現象を発生させる可能性がある機器である。対象機器1の代表例として、発電機(例えばタービン発電機、水力発電機、水車発電機等)又はモータ等がある。例えば、発電機における回転機の運転中に固定子巻線で絶縁性の低下により発生する部分放電やコレクタリングで発生するアーク放電等の放電現象は、発電機の故障の原因の一つとなっている。本実施形態は、対象機器1における放電現象の発生を高信頼度で検知する。
【0011】
検知装置11は、一対の導体21A、21Bと、測定部41と、一対の導体21A、21Bと測定部41との間を接続する信号線31A、31Bとを備える。一対の導体321A、321Bは、接地することなく、信号線331A、331Bを介して、測定部41に接続される。測定部41は、回路、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、又はコンピュータ等により構成されることができる。
【0012】
一対の導体21A、21Bは、対象機器において放電現象に伴って発生する電磁波を一対の導体間の電位差として検知する。一対の導体21A、21Bは、例えば銅などの金属で構成されている。放電現象では、しばしば火花を伴うため、一対の導体21A、21Bを金属で構成することで難燃性を実現できる。また、適切な金属加工を選択すること、あるいは、既存のアンテナ製作技術を利用することで、高信頼かつ低コストに一対の導体を実現できる。
【0013】
一対の導体21A、21Bは、発生した電磁波に関して、対象機器1(電磁波の発生源)の近傍界領域内に配置されている。近傍界領域内に一対の導体21A、21Bが配置されることで、一対の導体21A、21Bは、放電現象に伴って発生した電磁波の振幅の過渡応答(時間領域の過渡応答)を検知することができる。過渡応答において、検知される信号の振幅(電位差)は大きく変化し、過渡応答の期間後、振幅は小さくなる。
【0014】
対象機器1の近傍界領域内に一対の導体21A、21Bを配置する具体例として、対象機器1と一対の導体21A、21Bとの距離について記載する。放電現象に伴って発生する電磁波の中心周波数をfc、中心周波数fcに対応する波長をλcとする。放電現象に伴って発生する電磁波の周波数は基本的に機器固有に定まり、予め分かっている。このとき、一対の導体21A、21Bと対象機器1との距離(最近接距離)がλc以下となるように、一対の導体21A、21Bを配置する。放電現象の発生源が発電機の固定子巻線であれば、一対の導体21A、21Bは、放電現象(部分放電)の発生源となる当該固定子巻線との距離(最近接距離)がλc以下となるように配置する。この方法で一対の導体21A、21Bを配置することで、一対の導体21A、21Bを近傍界領域に含めることができる。放電現象に伴って発生する電磁波の発生源に近いほど、近傍界での検知特性が良好となり、放電現象の検知性能が向上する。
【0015】
信号線31A,31Bは、一対の導体21A、21Bに電気的に接続され、一対の導体21A、21Bにより検知された信号(電磁波の振幅(電位差)の過渡応答を含む信号)を測定部41に伝送する。信号線31A,31Bにより伝送される信号は測定部41に入力される。伝送される信号は時間領域の信号である。信号線31A,31Bは、一対の導体21A、21Bにより検知された信号を伝送する伝送部に相当する。
【0016】
測定部41は、信号線31A、31Bを介して、一対の導体21A、21Bで検知された信号を受信する。測定部41は信号の解析機能及び信号が示すデータを表示する機能等を備えている。一例として測定部41は、オシロスコープ及びスペクトルアナライザ等を含む。測定部41は、受信した信号が示すデータ(例えば過渡応答の時間波形)を画面に表示する。対象機器の管理者または作業員等のユーザは、表示された時間波形を確認し、対象機器1に放電現象が発生しているか等を確認できる。
【0017】
また、測定部41は、受信した信号を測定し、放電現象の有無を決定する。例えば閾値以上の振幅が発生していれば、放電現象が発生していると判断してもよい。測定部41は、放電現象の発生有無の情報を、発生時刻の情報とともに出力してもよい。あるいは、測定部41は時間波形から放電現象の有無を判断するモデルを備えていてもよく、モデルに基づき放電現象の有無を判断してもよい。モデルとしては、例えばニューラルネットワーク等の回帰モデルを用いてもよい。測定部41は、放電現象の有無の判断結果を示す情報を、発生時刻の情報とともに画面に表示してもよい。また測定部41は、放電現象の有を決定した場合、アラートを画面又はスピーカを介して出力してもよい。
【0018】
図2は、信号線31A、31Bで接続された一対の導体21A,21Bとの間の入力インピーダンス特性を示す。
【0019】
放電現象に伴って発生する電磁波の中心周波数fcにおける入力インピーダンスZinをZcとする。入力インピーダンスZinが、Zcの1/2となる周波数範囲の下限の周波数をfl、上限の周波数をfu(fl<fu)とする。下限の周波数flと上限の周波数fuとの間の周波数範囲は、fc±fc/2の周波数範囲よりも広い(fl<fc/2, 3fc/2<fu)。つまり、一対の導体は、広い周波数範囲において、インピーダンスの変動が小さく、広帯域特性を持つといえる。
【0020】
入力インピーダンスの変動が小さいという特性により、過渡応答の信号(電磁波の振幅変動の信号)をより安定して取得できる。本実施形態における近傍界で電波を検知する一対の導体は、入力インピーダンスを50Ωに整合させる一般のアンテナと比較して考えれば、比帯域(=帯域幅/中心周波数)100%を凌駕する広帯域特性である。また本実施形態における一対の導体は、一般のアンテナと異なり、バランを必須としない。
【0021】
本実施形態では導体を一対用いているが、複数対の導体を用いてもよい。これにより、放電現象に伴って発生する電磁波をより多面的に(多方向で)検知でき、検知の信頼性が向上する。詳細は第2の実施形態の説明で記載する。
【0022】
以下、一対の導体21A,21Bの具体例について記載する。
【0023】
図3は、一対の導体21A,21Bの第1の具体例を示す。図3(A)は平面図、図3(B)は側方断面図である。誘電体基板151の一方の面上に銅箔のパターニングで一対の導体121A、121Bが形成されている。誘電体基板151に形成されたビア(スルーホール)141A、141Bを介して、誘電体基板151の他方の面に信号線131A、131Bが形成される。
【0024】
図4は、一対の導体21A,21Bの第2の具体例を示す。図4の例では、一対の導体221A,221Bが形成されている面と同一面に信号線231A、231Bが形成されている。一対の導体221A,221B側に近い信号線231A、231Bの一部は棒状の導体であるが、残りの一部は、棒状の導体に接続されたケーブル231A_1、231B_1によって構成されている。
【0025】
図5は、一対の導体21A,21Bの第3の具体例を示す。配置された一対の導体21A,21Bの形状は点対称または線対称である。図5(A)は同一形状の導体321A、321Bを、対称点または対称線に対して対称となるように配置されている。導体321A、321Bが線L1に対称に配置されている。図5(B)は同一形状の導体321A、321Bが、点対称に配置されている。導体321A、321Bが点P1に関して対称に配置されている。その他の例として、同一形状の導体321A、321Bが、対称面に配置されてもよい。このような対称構造とすることで、一対の導体間の入力インピーダンスについて広帯域に平坦な特性が実現する。
【0026】
複数対の導体を配置する場合、複数対の全導体(5対の場合は10個の導体)が全体として空間を対称的に補完し合う補対構造(例えば導体間の隙間が格子状になる構造)としてもよい。
【0027】
上述の図3図5では、一対の導体が平面形状(板状)を有していたが、以下では、図6図11を用いて、一対の導体の少なくとも一方又は両方が立体形状を有する具体例を示す。
【0028】
図6は、一対の導体21A,21Bの第4の具体例を示す。図6(A)は正面図、図6(B)は斜視図である。一対の導体421A、421Bはそれぞれ、中心軸Cに沿った部分(中心軸部)から放射状に形成される4つの導体板を含む。平面視において、これら4つの導体板は略90度ずつずれている。すなわち、隣り合う2つの導体板は略90度をなす。一対の導体421A、421Bの中心軸部は互いに対向する方向に一部突出しており、突出した部分431A、431Bにはそれぞれ信号線31A、31B(図示せず)が接続される。一対の導体421A、421Bのサイズ・形状は同じであるが、異なっていてもよい。一対の導体421A、421Bは板金等により容易に作製できる利点がある。
【0029】
図7は、一対の導体21A,21Bの第5の具体例を示す。図7(A)は正面図、図7(B)は斜視図である。一対の導体521A、521Bはそれぞれ、円錐の形状を有する。一対の導体521A、521Bは概ね円錐の形状を有していればよく、必ずしも正確な円錐の形状を有している必要は無い。一対の導体521A、521Bは、円錐の先端の一部を欠いた円錐筒状の形状でもよい。この場合、先端部分は開口していても、閉口していてもよい。導体521A、521Bの底面部分は開口しており、導体521A、521Bの内側は中空状である。円錐の頂点は間隔を開けて互いに対向している。一対の導体521A、521Bのサイズ・形状は同じであるが、異なっていてもよい。
【0030】
図8は、一対の導体21A,21Bの第6の具体例を示す。図8(A)は正面図、図8(B)は斜視図である。一対の導体621A、621Bのうち、導体621Bは平面形状を有する。導体621Bは、矩形の導体板641Bと、矩形の導体板の一辺の中心部から外側に突出する細板状の導体631Bとを含む。細板状の導体には信号線31B(図示せず)が接続される。
【0031】
導体621Aは、円錐状の導体651Aと、円錐の互いに対向する2つの母線に沿って結合された導体板641Aと、円錐の先端に結合された細板状の導体631Aとを含む。細板状の導体631Aには信号線31A(図示せず)が接続される。円錐状の導体651Aは、概ね円錐の形状を有していればよい。細板状の導体631Aは、円錐状の導体の先端の外形に沿って外側から結合されていてもよい。あるいは、円錐状の導体651Aの先端を一部切り欠いて円錐筒状とし、円錐筒状の導体の先端に細板状の導体を結合してもよい。円錐筒状の導体とする場合、作製が容易になる利点がある。
【0032】
図9は、一対の導体21A,21Bの第7の具体例を示す。一対の導体における各導体は異なる形状である。図9(A)は正面図、図9(B)は斜視図である。一対の導体721A、721Bのうち導体721Bは、図8の導体621Bと同じである。導体721Aは、図8の導体621Aに対してさらに、さらに2つの導体板641Aを、円錐の互いに対向する2つの母線に沿って結合したものである。したがって、円錐状の導体に結合される導体板641Aは4つである。平面視において、これら4つの導体板は略90度ずつずれている。
【0033】
図10は、一対の導体21A,21Bの第8の具体例を示す。一対の導体における各導体は異なる形状である。図10(A)は正面図、図10(B)は斜視図である。一対の導体821A、821Bのうち、導体821Aは図9の導体721Aと同じであり、導体821Bは、図6の導体421Bと同じである。
【0034】
図11は、一対の導体21A,21Bの第9の具体例を示す。図11(A)、図11(B)、図11(C)はいずれも斜視図であり、それぞれ異なる例を示している。一対の導体における各導体は異なる形状である。
【0035】
図11(A)において、一対の導体921A、921Bにおける導体921Bは図8の導体621Bと同じである。導体921Aは、図7と同様の円錐(または先端の細い円錐筒)状の導体941Aを高さ方向に沿って中心線で半分に分割したものを、導体931A(導体921Bと同じ形状を有する)の両面から、両先端部分が細板951Aを挟むように、結合したものに相当する。導体921Aは、図8の導体621Aに類似しているが、円錐状の導体941Aの内側が中空ではなく、導体板(導体931Aの一部)が含まれている点が異なる。円錐状の導体の母線に沿って結合された2つの導体板を円錐の内側の中心線まで伸ばして互いにつなげることで、1枚の導体板となったものと考えることも可能である。
【0036】
図11(B)において、一対の導体1021A、1021Bにおける導体1021Bは図11(A)の導体921Bと同じである。導体1021Aは、図11(A)の導体921Aと同様の変形を、図9の導体721Aに対して行ったものである。すなわち、導体721Aにおける円錐状の導体の外側に結合された4つの板状の導体を円錐の内側の中心線まで伸ばして互いにつなげることで、4つの板状の導体を一体化させものと考えることができる。
【0037】
図11(C)において、一対の導体1121A、1121Bにおける導体1121Aは図11(B)の導体1021Aと同じであり、導体1121Bは、図10の導体821Bと同じである。
【0038】
以上、本実施形態によれば、過渡的な電磁界変化を近傍界で検知することで、発電機において発生する放電現象を高精度に検知できる。遠方界からの電波が一対の導体21A、21Bで検知されたとしても、遠方界からの電波は振幅の小さい安定した波形として検知されるため、遠方界から受信した電波信号を、近傍界で検知された過渡的な電磁波の信号と区別できる(後述する図14の下図を参照)。遠方界からの電波の例として、遠方から受信される放送波や通信波、あるいは対象機器1から離れた他の装置・機器から受信される電磁妨害波がある。
【0039】
本実施形態では、アンテナで遠方界の電磁波を受信する一般的な通信システムと異なり、近傍界の電磁波の検知では一対の導体を、ある特定のインピーダンス(例えば50Ω)に整合させる必要がない。よって、本実施形態では、バラン(平衡-不平衡変換回路)は必須ではなく、通常のアンテナを用いた電波の受信構成とは異なる。また本実施形態の技術は、遠方界を前提として利得向上を図る、複数アンテナを用いたアレーアンテナ技術とも異なる技術である。
【0040】
本実施形態によれば、検知装置11は対象機器1と非接触であるため、対象機器1が発電機のように大型な機器であっても、後からの設置(後付け)が容易である。このため、低コストが実現される。
【0041】
(変形例)
図1の構成において1対の導体における1つの導体をグランドに接続する構成も排除されない。ただし、この場合、グランドを介してノイズ信号が混入する可能性がある。このため、測定部41等にノイズ除去フィルタなどを追加して、グランドから混入したノイズ信号を除去又は低減もよい。
【0042】
(第2の実施形態)
図12は、第2の実施形態に係る検知システム60のブロック図である。検知システム60における検知装置61は、第1の実施形態の検知装置11に対して一対の導体71A、71Bと、信号線61A、61Bを追加したものである。つまり第2の実施形態では2対の導体を備える。信号線61A、61Bは、一対の導体71A、71Bを測定部41に接続する。
【0043】
一対の導体71A、71Bは、対象機器1に対して一対の導体21A、21Bと異なる距離に配置されている。一対の導体21A、21Bは、一対の導体71A、71Bよりも対象機器1に近くに配置されている。対象機器1に対する一対の導体21A、21Bの向きは、一対の導体71A、71Bと同じであっても、異なってもよい。3対以上の導体を、互いに異なる距離に配置することも可能である。3対以上の導体の向きは、同じであっても、異なってもよい。
【0044】
放電現象に伴って発生する電磁波の過渡応答の時間特性は、対象機器1からの距離に応じて、電波の遅延と減衰とにより、異なる応答となる。このため、複数対の導体を用いることで、各対の導体から、異なる応答を取得できる。遠方界から到来する放送波や通信波および他の機器・装置からの電磁妨害波は、各対の導体で同様の特性で受信されるが、対象機器1からの近傍界の電磁波は異なる時間特性の応答として取得できるため、分離性能が向上する。
【0045】
図13は、オシロスコープ(測定部41)により各対の導体から取得された波形データである。図13の波形データは、アーク溶接機を用いてアーク放電に伴う電磁波発生の時間波形を計測することにより得られたものである。時間波形G1が、対象機器1に近い一対の導体21A、21Bの電位差(振幅)の過渡応答を表す。時間波形G2が、対象機器1から遠い一対の導体71A、71Bの電位差(振幅)の過渡応答を表す。時間波形G1は、アーク放電開始後に急激に立ち上がり、時間とともに振幅(電位差)が減少している。時間は計G2では、距離に応じた遅延の後に、時間波形G1よりも振幅の小さい波形が立ち上がり、その後、時間波形G1と同様に、時間とともに振幅が減少している。
【0046】
図14は、電磁界シミュレーションによる時間応答波形の解析例を示す。ここでは導体の対を1対のみを用いた場合を示す。時間波形G3は放電現象に伴って発生する電磁波の波源を模擬した入射パルスを示す。時間波形G3における大きな振幅の変化は、火花等の放電現象の発生を表す。時間波形G4は、一対の導体間の電位差の時間応答波形を示す。入射パルスの発生に遅れて、振幅の変化が始まっている。対象機器(電磁波の波源)からの距離に応じた遅延および減衰の周波数特性によって、検知される電位差の波形が変化する様子がわかる。すなわち、入射パルスにはメインとなる複数の周波数成分が含まれ、これらの周波数成分の距離に応じた遅延及び減衰特性の違いによって、検知される波形が時間の経過に応じて変化している。
【0047】
電磁波の減衰特性は、一般的に以下の式(1)で表すことができる。
【数1】
【0048】
1番目(左)の項は静電項、2番目の項はビオサバール項、3番目(右)の項は放射項である。静電項とビオサバール項は近傍界の特性を表し、放射項が遠方界を表す。時間波形G4において時間の経過後は短い定常的な振動の波形となっているが、この波形は遠方界から受信される電磁波を表している。したがって、遠方界から受信した電磁波に相当する成分を時間波形G4から除くことで、近傍界で受信した電磁波の成分を特定し、放電現象の発生有無等を高精度に判断できる。
【0049】
(第3の実施形態)
図15は、一対の導体を6組(P1,P2,P3,P4,P5,P6)、対象機器1に対して異なる向きに配置した例を示す。各対を識別しやすくするため、各組を破線の枠で囲んでいる。6組の導体は、直方体又は立方体を仮定した場合に、直方体又は立方体の面に沿って配置されている。6対の導体に囲まれた空間には測定部41等が配置されてもよい。各対P1~P6の各導体は信号線を介して測定部41に接続されている。各対の導体は同じ形状を有するが、前述した第1の実施形態のように、各対の導体の形状・サイズ等は、様々なバリエーションが可能である。
【0050】
一対の導体の検知性能には方向性があるため、対象機器1に対して異なる向きで複数対の導体を配置することで、様々な方向に対する検知性能を高めることができる。よって、放電現象に伴って発生する電磁波の過渡的な変化の検出性能を向上させることができる。
【0051】
(第4の実施形態)
図16は、第4の実施形態に係る放電監視システムのブロック図である。2対の導体(導体21A、21Bの対P1と、導体71A、71Bの対P2)と、2対P1,P2に対応する無線機1501、1502と、コンピュータ装置1400と、測定装置1200と、監視装置1300とを備えている。測定装置1200は、スペクトルアナライザ及びオシロスコープを備えている。測定装置1200は図1の測定部41と同様の機能を備えている。2対の導体を用いているが、3対以上の導体(例えば6対の導体)を用いてもよい。この場合、導体の対の個数に応じて、無線機の数を増やせばよい。2対P1、P2は、対象機器1(図示せず)の近傍界領域内に配置されている。
【0052】
対P1における導体21A、21Bは、信号線31A_1、31B_1を介して測定装置1200に接続されている。また、対P2における導体71A、71Bは、信号線71A_1、71B_1を介して測定装置1200に接続されている。信号線31A_1、31B_1、71A_1、71B_1として、それぞれ同軸ケーブルなど任意の伝送ケーブルを用いることができる。測定装置1200は、対P1からの検知信号と、対P2から検知信号に基づいて、対象機器1において放電現象が発生しているかを解析する。解析は、例えば、一定時間毎に行う。例えば、いずれかの対の検知信号において、閾値以上の振幅が発生していれば、放電現象が発生していると判断してもよい。測定装置1200は、放電現象の発生有無の情報を、発生時刻の情報とともに出力してもよい。測定装置1200は、各対の検知信号を画面に表示し、監視員または作業員等のユーザに、放電現象の発生の有無を判断させてもよい。複数の対を用いることで検知性能の方向性の問題を解消または低減し、高精度な判断が可能となる。
【0053】
対P1における導体21A、21Bは、信号線31A_2、31B_2を介して無線機1501に接続されている。無線機1501は、対P1からの検知信号をデジタル信号に変換して、USB(Universal Serial Bus)ケーブル等の通信ケーブル1601を介して、コンピュータ装置1400に出力する。同様に、対P2における導体71A、71Bは、信号線71A_2、71B_2を介して無線機1502に接続されている。無線機1502は、対P2からの検知信号をデジタル信号に変換して、USBケーブル等の通信ケーブル1602を介して、コンピュータ装置1400に出力する。なお、無線機1501は、導体21A、21Bからの検知信号をデジタル化したデジタル信号をそれぞれ個別に出力してもよいし、両デジタル信号の差分から振幅(電位差)を算出し、振幅のデジタル信号を出力してもよい。同様に、無線機1502は、導体71A、71Bからの検知信号をデジタル化したデジタル信号をそれぞれ個別に出力してもよいし、両デジタル信号の差分から振幅(電位差)を算出し、振幅のデジタル信号を出力してもよい。信号線31A_2、31B_2をバランに接続し、バランを1本の同軸ケーブルで無線機1501に接続してもよい。同様に、信号線71A_2、71B_2をバランに接続し、バランを1本の同軸ケーブルで無線機1502に接続してもよい。対P1及び対P2の検知信号を測定装置1200に出力するか、無線機1501、1502に出力するかは、無線機1501、1502の設定によって切り替え可能であってもよい。無線機1501、1502に対する切り替えの設定は、監視装置1300又は測定装置1200から無線機1501、1502に指示データを送信することで行ってもよい。あるいは、ユーザがコンピュータ装置1400を操作して、無線機1501,1502に対する切り替えの設定を行ってもよい。
【0054】
コンピュータ装置1400は、対P1からの検知信号をデジタル化したデジタル信号と、対P2からの検知信号をデジタル化したデジタル信号に基づき、対象機器1の故障の有無又は故障予兆の有無を予測する。コンピュータ装置1400は対象機器1の故障又は故障予兆の有無を予測する予測部1401を備える。
【0055】
例えば、予測部1401は、一定時間あたりのピーク(パルス)の数をカウントし、いずれか一方の対に関して、カウント数が閾値以上であれれば故障予兆有り等と判断する。
【0056】
または、故障予兆の有無(又は故障の有無)の予測モデルを機械学習により生成しておく。予測部1401は、予測モデルと、各対の検知信号をデジタル化したデジタルデータとに基づき、故障予兆の有無等を予測してもよい。予測モデルは、例えば、故障予兆有りのときの各検知信号のデジタルデータと、故障予兆が無いときの各検知信号のデジタルデータとを教師データ(訓練データ)として用いて、機械学習により生成できる。予測モデルはニューラルネットワーク、重回帰モデル、又は、ロジスティック回帰モデルなど、任意のモデルを用いてよい。
【0057】
コンピュータ装置1400は故障予兆の予測結果を示すデータを監視装置1300に無線ネットワークを介して送信する。コンピュータ装置1400は故障予兆の予測結果を示すデータを送信する送信部1402を備えている。無線ネットワークの例として、無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、又はセルラー通信ネットワークなどがある。無線ネットワークの代わりに、有線ネットワークを用いてもよい。有線ネットワークの例として、USBケーブル、HDMI(High-Definition Multimedia Interface)ケーブル、有線LANなどがある。
【0058】
監視装置1300の操作員又は監視員等のユーザは、監視装置1300のモニタで予測結果を確認し、故障予兆等が検出された場合は、対象機器1の設置現場に出向いて、対象機器1の実際の状態(故障または故障予兆)を確認してもよい。あるいは、ユーザは設置現場に出向いて、測定装置1200で放電現象の有無を確認してもよい。
【0059】
本実施形態によれば、放電現象に伴って発生する電磁波の検知を高信頼で実現できるため、微弱な初期の放電現象を検知可能であり、放電によって発生する対象機器の故障又は故障予兆を事前に予測できる。
【0060】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 対象機器
10 検知システム
11 検知装置
21A 導体
21B 導体
31A 信号線
31A_1 信号線
31A_2 信号線
31B 信号線
41 測定部
60 検知システム
61 検知装置
61A 信号線
71A 導体
71A_1 信号線
71A_2 信号線
121A 導体
131A 信号線
141A ビア(スルーホール)
151 誘電体基板
221A 導体
221B 導体
231A 信号線
231A_1 ケーブル
321A 導体
331A 信号線
421A 導体
421B 導体
431A 部分
521A 導体
621A 導体
621B 導体
631A 導体
631B 導体
641A 導体板
641B 導体板
651A 導体
721A 導体
721B 導体
821A 導体
821B 導体
921A 導体
921B 導体
931A 導体板
931A 導体
941A 導体
951A 細板
1021A 導体
1021B 導体
1121A 導体
1121B 導体
1200 測定装置
1300 監視装置
1400 コンピュータ装置
1401 予測部
1402 送信部
1501 無線機
1502 無線機
1601 通信ケーブル
1602 通信ケーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16