(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】二次電池の負極材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20240610BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240610BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20240610BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/1393
(21)【出願番号】P 2021145188
(22)【出願日】2021-09-07
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慎也
(72)【発明者】
【氏名】山村 英行
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-193886(JP,A)
【文献】特開2004-273443(JP,A)
【文献】特開2009-181767(JP,A)
【文献】特開2010-272503(JP,A)
【文献】特開2003-249219(JP,A)
【文献】特開2016-154121(JP,A)
【文献】特開2009-231113(JP,A)
【文献】特開2003-017051(JP,A)
【文献】特開2021-101421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/133-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層に非晶質炭素を含有する炭素材料及び金属酸化物を混合して混合物を得る混合工程と、
非酸化性雰囲気下において前記非晶質炭素と前記金属酸化物との酸化還元反応が進行する加熱温度で前記混合物を焼成して複合材料を形成する焼成工程と、
負極集電箔上に前記複合材料を含む負極合材層を形成する合材層形成工程と、
を有
し、
前記複合材料は、
前記炭素材料の表面が前記金属酸化物から生成された金属で島状に被覆された海島構造を有する二次電池の負極材の製造方法。
【請求項2】
前記炭素材料の表面に対する前記金属酸化物から生成された金属の被覆率が0.1体積%~0.5体積%である請求項
1に記載の二次電池の負極材の製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物は、Fe
2O
3である請求項
1又は
2に記載の二次電池の負極材の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程では、
前記炭素材料に対して1.0質量%未満の前記金属酸化物を混合する請求項
3に記載の二次電池の負極材の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程では、
前記炭素材料に対して0.1質量%~0.5質量%の前記金属酸化物を混合する請求項
3又は
4に記載の二次電池の負極材の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程では、
不活性雰囲気下において1100K~1300Kの加熱温度で前記混合物を焼成する請求項
3から
5のいずれか1項に記載の二次電池の負極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池の負極材及び二次電池の負極材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繰り返し充放電可能な二次電池は、パソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源や車両駆動用電源として広く用いられている。二次電池の中でも、特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車等の車両の駆動用高出力電源として好適に用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出する正極および負極の間を、電解質中のリチウムイオンが移動することで充放電可能な二次電池である。リチウムイオン二次電池に用いられる正極材及び負極材は、それぞれ導電性を有する集電箔と、集電箔上に保持された活物質等を含む合材層と、を備えている。
【0004】
例えば、負極材に含まれる活物質として、黒鉛等の炭素材料が用いられる。さらに、電池の充放電時の出力特性を向上するために、炭素材料の表面を金属酸化物で被覆することが考えられる。
【0005】
特許文献1には、正極合剤層を有する正極板と、負極合剤層を有する負極板と、を有するリチウムイオン二次電池であって、負極合剤層は、黒鉛系材料と、金属酸化物と、導電助剤とを含有し、該導電助剤は、リチウムイオンをドープ・脱ドープしない炭素材料からなり、かつ、負極合剤層の重量に対し0.4重量%以上1.2重量%未満であるリチウムイオン二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されるリチウムイオン二次電池では、負極合材層(負極合剤層)に含まれる金属酸化物自体の導電性が低いため、負極合材層に導電性を向上させるための導電材(導電助剤)が混合される。これにより、負極における電気抵抗の増加を抑制し、出力特性の向上が図られる。一方、導電材の分だけ負極合材層に含まれる活物質の総量が減少するため、負極のエネルギー密度が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、電気抵抗の増加を抑制しつつ高エネルギー密度化した二次電池の負極材及び二次電池の負極材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施の形態にかかる二次電池の負極材は、負極集電箔と、負極集電箔上に形成され複合材料を含む負極合材層と、を有し、複合材料は、少なくとも表層に非晶質炭素を含有する炭素材料の表面が金属酸化物から生成された金属で島状に被覆された海島構造を有する。
【0010】
また、一実施の形態にかかる二次電池の負極板の製造方法は、少なくとも表層に非晶質炭素を含有する炭素材料及び金属酸化物を混合して混合物を得る混合工程と、非酸化性雰囲気下において非晶質炭素と金属酸化物との酸化還元反応が進行する加熱温度で混合物を焼成して複合材料を形成する焼成工程と、負極集電箔上に複合材料を含む負極合材層を形成する合材層形成工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、電気抵抗の増加を抑制しつつ高エネルギー密度化した二次電池の負極材及び二次電池の負極材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1にかかる負極材の断面の一部を示す模式図である。
【
図2】
図1に示す負極材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】評価用電池セルのIV抵抗を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。図中に示したものは、全体の一部であり、図示しないその他の構成が実際には多く含まれる。さらに、以下の説明において同一又は同等の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
まず、
図1を参照して、本実施形態にかかる二次電池の負極材(以下、単に「負極材1」という場合がある)の概要を説明する。本実施形態にかかる負極材1の好適な実施形態の一つとして、リチウムイオン二次電池に用いられる負極材1に具体化して説明する。
図1は、実施の形態1にかかる負極材の断面の一部を示す模式図である。
【0015】
図1に示す負極材1は、正極材とともにリチウムイオン二次電池の電極として用いられる。リチウムイオン二次電池は、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、電極である正極と負極との間における電荷の移動により充放電が実現される二次電池である。
【0016】
負極材1は、負極集電箔10と、負極集電箔10上に形成された負極合材層20と、を有する。負極集電箔10は、板状又は箔状に形成され、導電性の良好な金属により構成される。負極集電箔10を構成する金属は、例えば銅、銅合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0017】
負極合材層20は、負極集電箔10の幅方向の一方の縁に沿った縁部を除いて、負極集電箔10の少なくとも一方の表面上に形成される。また、負極材1は、負極集電箔10の当該縁部に、負極合材層20が形成されず負極集電箔10が露出した露出部を有する。
【0018】
(負極合材層20)
負極合材層20は、少なくとも複合材料30を含み、負極集電箔10に保持される。複合材料30は、活物質を主体として構成されるものである。負極合材層20は、複合材料30の他に、必要に応じて結着剤及び増粘剤等の添加剤を含んでも良い。本実施形態では、負極合材層20が複合材料30を含有することにより、活物質間の導電性、及び活物質と負極集電箔10との間の導電性を確保することができるため、導電材を必要としない。但し、導電材を用いる場合は、例えば、各種カーボンブラック、各種黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等を用いることができる。
【0019】
負極合材層20の密度は、例えば、1.09g/cm3~1.31g/cm3である。負極合材層20の厚さは、例えば、38μm~44μmである
【0020】
負極合材層20全体に占める複合材料30の割合は、高出力特性及び高エネルギー密度を実現する観点から、例えば、70質量%~99質量%であり、好ましくは90質量%~98質量%である。負極合材層20全体に占める添加剤の割合は、例えば、1質量%~30質量%であり、好ましくは2質量%~10質量%である。
【0021】
(複合材料30)
複合材料30は、活物質としての炭素材料31の表面が金属32で島状に被覆された形態を有する。炭素材料31は、導電性を有し、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能である。炭素材料31としては、例えば表面が非晶質炭素でコーティングされた黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、活性炭等の少なくとも表層に非晶質炭素を含有した炭素材料を用いることができる。炭素材料31は、全体として結晶質炭素を含有していても良いが、導電性と後述する酸化還元の反応性の観点から、結晶質炭素を含まない非晶質炭素で構成される表層を有することが好ましい。なお、非晶質炭素はその表面にエッジ面が多く露出しており、リチウムイオン受入性が高い。
【0022】
炭素材料31の形状は、例えば、球状、板状等の粒子形態である。また、炭素材料31の粒径は、例えば平均粒径が5μm~15μmであることが好ましく、7μm~10μmであることがより好ましい。ここで、平均粒径とは、炭素材料31の一次粒子の平均粒径であり、SEM(Scanning Electron Microscope)や粒度分布測定により測定することができる。
【0023】
炭素材料31の表面を被覆する金属32は、炭素材料31と混合された金属酸化物と炭素材料31の表層に存在する非晶質炭素との酸化還元反応によって、金属酸化物が還元されて生成したものである。
【0024】
炭素材料31と混合される金属酸化物は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な金属を含み、還元性を有する。金属酸化物は、酸素との反応性を示すエリンガム図(例えば、
図3)に基づいて選択可能である。
【0025】
金属酸化物としては、例えば、酸化鉄(Fe2O3、Fe3O4、FeO)、酸化スズ(SnO、SnO2)、酸化チタン(Ti2O3、Ti2O、Ti3O5、TiO2)、酸化コバルト(CoO、Co3O4)、酸化マンガン(MnO2、Mn2O3、MnO)、酸化銅(CuO、Cu2O)、酸化ニッケル(NiO)、酸化ニオブ(Nb2O3、NbO2、NbO)、酸化バナジウム(V2O5、VO2、V2O3、VO)、酸化クロム(CrO2、Cr2O3)、酸化タングステン(WO3、WO2)等が挙げられる。
【0026】
金属酸化物の粒径は炭素材料31の粒径より小さい。金属酸化物の粒径は、例えば平均粒径が10nm~100nmであることが好ましく、30nm~80nmであることがより好ましい。ここで、平均粒径とは、金属酸化物の一次粒子の平均粒径であり、SEMや粒度分布測定により測定することができる。
【0027】
金属酸化物から生成される金属32は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能であり、例えばFe、Sn、Ti、Co、Mn、Cu、Ni、Nb、V、Cr、W等である。
【0028】
炭素材料31の表面に対する金属32の被覆率は、0.1体積%~0.5体積%であることが好ましい。この範囲の被覆率であると、高い導電性と高いリチウムイオン受入性とを両立し得る複合材料30を形成することができる。金属32の被覆率が0.1体積%未満では、複合材料30の導電性が低下傾向となる。金属32の被覆率が0.5体積%を超えると複合材料30のリチウムイオン受入性が低下傾向となる。
【0029】
金属32の被覆率は、例えば、炭素材料31に対する金属酸化物の添加量によって調節することができる。金属32の被覆率は、SEM像やラマン分光分析によるマッピング像における二値化像等から測定することができる。
【0030】
このように、複合材料30の表面は、金属32が被覆している領域と炭素材料31の表層(非晶質炭素)が露出している領域とを所定の割合で有する。そして、複合材料30は、表面に導電性が高い金属32が島状に点在するとともに、表面に非晶質炭素が海状に存在する海島構造を有する。
【0031】
このような構造によれば、複合材料30の表面に点在する金属32により炭素材料31の粒子間及び炭素材料31と負極集電箔10との間の導電性が確保され、負極材1における電気抵抗の増加が抑制される。また、複合材料30の表面には、非晶質炭素が露出しているため、炭素材料31と電解液との界面で生じる電気化学反応のための反応面積が確保される。これにより、界面抵抗の増加が抑制され、電池の高速充放電が可能となる。
【0032】
複合材料30の全体としての形状は、例えば、球状、板状等の粒子形態である。また、複合材料30の粒径は、例えば平均粒径が、5μm~15μmであることが好ましく、7μm~10μmであることがより好ましい。ここで、平均粒径とは、複合材料30の一次粒子の平均粒径であり、SEMや粒度分布測定により測定することができる。
【0033】
(添加剤)
結着剤としては、後述する溶媒中に溶解又は分散する材料であれば、特に制限されない。結着剤には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。
【0034】
次に、
図2を参照して負極の製造方法について説明する。
図2は、
図1に示す二次電池用負極材の製造方法を示すフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態にかかる負極の製造方法は、ステップS1~S3の工程を有する。
【0035】
ステップS1は、少なくとも表層に非晶質炭素を含有する炭素材料31及び金属酸化物を混合して混合物を得る混合工程である。ステップS2は、非酸化性雰囲気下において非晶質炭素と金属酸化物との酸化還元反応が進行する加熱温度で混合物を焼成して複合材料30を形成する焼成工程である。ステップS3は、負極集電箔10上に複合材料30を含む負極合材層20を形成する合材層形成工程である。
【0036】
上記の各工程の詳細について、必要に応じて炭素材料31として天然黒鉛、金属酸化物としてFe2O3を用いた場合に具体化して説明する。天然黒鉛等の黒鉛系材料は、単位体積当たりの容量が大きく、体積膨張が小さく、低コストであるため、本実施形態に好適である。Fe2O3等の酸化鉄は、単位体積当たりの容量が大きく、低コストであるため、本実施形態に好適である。
【0037】
さらに、C(炭素)の電気抵抗率は、1.64×10-5Ω・mである。これに対し、Fe(鉄)は、電気抵抗率が1.00×10-7Ω・mであるため、Cよりも電気抵抗が低いという特徴を有する。
【0038】
まず、混合工程における、炭素材料31と金属酸化物との混合方法は、炭素材料31の表面に金属酸化物を付着させ、金属酸化物によって炭素材料31の表面を所定の割合で被覆することができれば特に限定されない。混合方法としては、例えば乳鉢やボールミル等の方法を採用することができる。
【0039】
炭素材料31と混合する際の金属酸化物の添加量は、炭素材料31に対して好ましくは1.0質量%未満であることが好ましく、0.1質量%~0.5質量%であることがより好ましい。この範囲の添加量により、金属32による被覆率が0.1体積%~0.5体積%の範囲を達成することができる。
【0040】
続く、焼成工程は、反応中の金属酸化物の酸素による酸化を抑制できる非酸化性雰囲気下で行なわれる。非酸化性雰囲気とは、酸素分圧が大気の酸素分圧未満であればよく、不活性雰囲気、真空、水素ガス雰囲気等の還元性雰囲気が挙げられる。特に、ヘリウムガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等の不活性雰囲気であることが好ましい。
【0041】
焼成工程における加熱温度は、
図3に示すエリンガム図に基づいて決定することができる。
図3は、エリンガム図の一例を示すグラフである。エリンガム図とは、各元素の酸化物の標準反応ギブズエネルギーと温度との関係を表す図である。各元素の酸化物の標準反応ギブズエネルギーは、各元素の酸素分子(1mol)に対するギブズの生成自由エネルギーΔGである。エリンガム図から、還元剤である非晶質炭素を作用させて金属酸化物を金属32に還元するために必要な加熱温度を把握することができる。
【0042】
例えば、
図3における線L1は、Cの酸素分子(1mol)に対するΔGの温度に対する変化を示し、線L2は、Feの酸素分子(1mol)に対するΔGの温度に対する変化を示している。
【0043】
エリンガム図にしたがえば、ΔGが大きいほど還元されやすい。焼成工程では、エリンガム図にしたがった下記式(1)、(2)に示す酸化還元反応が生じる加熱温度の条件下且つ非酸化性雰囲気下で、CはFe2O3をFeに還元する。なお、水素等の雰囲気ガスもFe2O3を還元する還元剤として作用してもよい。一方、下記式(1)、(2)に示す酸化還元反応が生じる加熱温度の条件下且つ非酸化性雰囲気下で、Fe2O3はCをCO2に酸化する。
2/3Fe2O3→4/3Fe+O2・・・式(1)
C+O2→CO2・・・式(2)
【0044】
式(1)、(2)に示す酸化還元反応が生じる焼成時の加熱温度は、Feの酸素分子(1mol)に対するΔG>Cの酸素分子(1mol)に対するΔGを満たす範囲内である。エリンガム図によれば、CによりFe2O3をFeに還元するためには、加熱温度が1100K~1300Kの範囲であることが好ましい。焼成工程における加熱時間は、適宜設定されるものである。
【0045】
続く合材層形成工程における負極合材層20の形成方法は、特に限定されないが、例えば、少なくとも焼成工程で得られた複合材料30と溶媒とを含む負極用ペーストを調製する。負極用ペーストは、複合材料30、及び必要に応じて結着剤、増粘剤等の添加剤を含む粉体に、結着剤を均一に溶解又は分散し得る溶媒を添加し、これらを混錬することにより得られる。そして、調製した負極用ペーストを負極集電箔10の少なくとも片面の表面上に塗工して乾燥する。このようにして、負極集電箔10上に負極合材層20が形成された負極材1を製造することができる。
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、実施例は、本発明を限定するものではない。
【0047】
(実施例)
[負極の作製]
複合材料30を形成するにあたっては、混合工程において、表面を非晶質炭素でコーティング処理した天然黒鉛(5g)及びFe2O3粉末(0.025g)をそれぞれ秤量し、天然黒鉛とFe2O3粉末とを乳鉢で10分間混合することにより混合物を得た。すなわち、実施例では、天然黒鉛に対して0.5質量%のFe2O3添加量に相当する割合で混合工程を行った。天然黒鉛の平均粒径は10μm、Fe2O3粉末の平均粒径は50nmであった。次いで、焼成工程では、ヘリウムガス雰囲気下において、加熱温度:1100K、加熱時間:3.5時間の条件で混合物を焼成した。これにより複合材料30を形成した。
【0048】
続いて、複合材料30とCMCとSBRとの質量比が、98:1:1となるようにそれぞれ秤量し、これらの電極材料に所要量の溶媒(イオン交換水)を加えて混練することにより負極用ペーストを調製した。そして、負極集電箔10として厚さ10μmの銅箔の片面に負極用ペーストを塗工した後、乾燥することにより負極材1を製造した。なお、負極用ペーストの塗工量は3.9mg/cm2とした。
【0049】
さらに、打ち抜き機を用いて負極材1を15mmφとなるように打ち抜いた後、プレス機を用いて負極合材層20の密度が1.17g/cm3となるようにプレスした。プレス後の負極合材層20の厚さは、42μmであった。
【0050】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:1:1で混合した混合溶媒に、1mol/Lの濃度で支持塩LiPF6を溶解して電解液を調製した。
【0051】
[評価用電池セルの構築]
プレス後の負極材1の負極合材層20側と18mmφに打ち抜いたリチウム金属箔(リチウム金属対極)との間にポリプロピレン製のセパレータで挟み込んで積層した積層体を電池ケース内に収納し、電解液を加えて密封することにより、評価用電池セル(ハーフセル)を構築した。
【0052】
続いて、比較例及び参考例1~3の評価用電池セルについて説明する。比較例及び参考例1~3の評価用電池セルでは、負極材を製造する際に、天然黒鉛に対しFe2O3粉末を種々の割合で混合した。
【0053】
(比較例)
混合工程において、Fe2O3粉末を添加せず、天然黒鉛(5g)のみを乳鉢で混合したこと、及び焼成工程を省略したことを除き、実施例1と同様にして評価用電池セルを作製した。すなわち、比較例は、天然黒鉛に対して0.0質量%のFe2O3添加量に相当する割合で混合工程を行った。
【0054】
(参考例1)
混合工程において、天然黒鉛(5g)及びFe2O3粉末(0.05g)を混合したことを除き、実施例1と同様にして評価用電池セルを作製した。すなわち、参考例1は、天然黒鉛に対して1.0質量%のFe2O3添加量に相当する割合で混合工程を行った。
【0055】
(参考例2)
混合工程において、天然黒鉛(5g)及びFe2O3粉末(0.25g)を混合したことを除き、実施例1と同様にして評価用電池セルを作製した。すなわち、参考例1は、天然黒鉛に対して5.0質量%のFe2O3添加量に相当する割合で混合工程を行った。
【0056】
(参考例3)
混合工程において、天然黒鉛(5g)及びFe2O3粉末(0.5g)を混合したことを除き、実施例1と同様にして評価用電池セルを作製した。すなわち、参考例1は、天然黒鉛に対して10.0質量%のFe2O3添加量に相当する割合で混合工程を行った。
【0057】
以上の実施例、比較例、参考例1~3の各評価用電池セルについて、IV抵抗を測定した結果を
図4に示す。
図4は、評価用電池セルのIV抵抗を示すグラフである。
図4の横軸は、Fe
2O
3粉末の添加量(質量%)を示している。
図4の縦軸は、比較例の評価用電池セル(0.0質量%のFe
2O
3添加量)についての抵抗値を100%として、各評価用電池セルのIV抵抗を相対値で示している。
【0058】
IV抵抗の測定では、まず、25℃の環境下において、各評価用電池セル(実施例、比較例、参考例1~3)をSOC(State of Charge)が50%となるように調整した。次いで、1Cのレートで、10秒間の定電流放電を行った後の電圧降下量を放電電流値で除した値としてIV抵抗を算出した。IV抵抗の相対値が小さいほど、電池の内部抵抗が低減されているものと考えられる。
【0059】
図4に示すように、比較例の評価用電池セル(0.0質量%のFe
2O
3添加量)のIV抵抗を100%とした場合、実施例の評価用電池セル(0.5質量%のFe
2O
3添加量)ではIV抵抗が98%であった。同様に、参考例1の評価用電池セル(1.0質量%のFe
2O
3添加量)ではIV抵抗が101%、参考例2の評価用電池セル(5.0質量%のFe
2O
3添加量)ではIV抵抗が104%、参考例3の評価用電池セル(10.0質量%のFe
2O
3添加量)ではIV抵抗が108%であった。
【0060】
この結果から、電池の内部抵抗を低減するために必要とされるFe2O3粉末の添加量は、天然黒鉛に対して1.0質量%未満が好ましく、0.1質量%~0.5質量%がより好ましいことがわかった。
【0061】
一方、Fe2O3粉末の添加量が1.0質量%以上である場合は、天然黒鉛の表層をなす非晶質炭素に対してFe2O3が過剰であると考えられる。Fe2O3粉末が過剰に存在する場合、Fe2O3との酸化還元反応により非晶質炭素が消費された結果、それ以上のFe2O3を還元することができず、負極合材層20中に導電性の低いFe2O3が残存するため、電池の内部抵抗が上昇するものと推定される。
【0062】
以上説明したように、本実施形態にかかる負極材1は、負極集電箔10と、負極集電箔10上に形成され複合材料30を含む負極合材層20と、を有し、複合材料30は、少なくとも表層に非晶質炭素を含有する炭素材料31の表面が金属酸化物から生成された金属32で島状に被覆された海島構造を有する。
【0063】
ここで、例えば、炭素材料に対して導電性の低い金属酸化物を混合して付着させるだけでは、負極合材層における良好な導電性を確保することが困難であるため、導電材を混合する必要がある。導電材を用いる場合、相対的に活物質としての炭素材料の総量が減少するため、二次電池における負極のエネルギー密度が低下するという問題がある。
【0064】
例えば、炭素材料に対して金属酸化物の代わりに金属を単体で混合して付着させた場合もまた、金属同士が凝集するため、負極合材層における良好な導電性を確保することができないという問題がある。
【0065】
一方、本実施形態にかかる負極材1では、炭素よりも電気抵抗が低い金属32が炭素材料31の表面に付着して複合材料30が構成されるため、金属32に電子が通ることにより、導電材を用いることなく負極材1における電気抵抗の増加を抑制することができる。負極材1に導電材を用いない場合、相対的に活物質としての炭素材料31の総量を増やせるため、高いエネルギー密度を実現することができる。
【0066】
また、金属32は炭素材料31の表面に島状に存在することから、複合材料30の表面に非晶質炭素が露出するため、複合材料30の反応面積を確保できる。その結果、負極材1が用いられた二次電池の内部抵抗は低減され、出力特性が向上する。
【0067】
さらに、本実施形態では、炭素材料31の表面に対して金属32が0.1体積%~0.5体積%の被覆率で被覆することにより、複合材料30の反応面積を十分に確保できる。このような構成によれば、負極材1が用いられた二次電池の内部抵抗は低減され、出力特性が向上する。
【0068】
さらに、本実施形態では、金属酸化物としてFe2O3を用いることにより、二次電池の高容量化が可能な負極材1を低コストで製造することができる。
【0069】
そして、上記した負極材1を製造するための負極材1の製造方法は、少なくとも表層に非晶質炭素を含有する炭素材料31及び金属酸化物を混合して混合物を得る混合工程と、非酸化性雰囲気下において非晶質炭素と金属酸化物との酸化還元反応が進行する加熱温度で混合物を焼成して複合材料30を形成する焼成工程と、負極集電箔10上に複合材料30を含む負極合材層20を形成する合材層形成工程と、を有する。
【0070】
本実施形態にかかる負極材1の製造方法では、炭素よりも電気抵抗が低い金属32が炭素材料31の表面に付着した複合材料30が形成されるため、金属32に電子が通ることにより、導電材を用いることなく負極材1における電気抵抗の増加を抑制することができる。負極材1に導電材を用いない場合、相対的に活物質としての炭素材料31の総量を増やせるため、高いエネルギー密度を実現することができる。
【0071】
そして、炭素材料31を被覆する金属32は、焼成工程での加熱により表面の酸化被膜が除去された状態であるため、焼成を施さず酸化被膜が形成された状態の金属と比べて導電性の向上効果が高い。
【0072】
さらに、本実施形態では、炭素材料31の表面に対して金属32が0.1体積%~0.5体積%の被覆率で被覆することにより、複合材料30の反応面積を十分に確保できる。このような構成によれば、負極材1が用いられた二次電池の内部抵抗は低減され、出力特性が向上する。
【0073】
さらに、本実施形態では、金属酸化物としてFe2O3を用いることにより、二次電池の高容量化が可能な負極材1を低コストで製造することができる。
【0074】
さらに、本実施形態における混合工程では、炭素材料31に対して1.0質量%未満の金属酸化物を混合することが好ましい。これにより、炭素材料31に対して金属32が0.5体積%以下の被覆率で被覆された複合材料30を形成することができる。
【0075】
さらに、本実施形態における混合工程では、炭素材料31に対して0.1質量%~0.5質量%の金属酸化物を混合することが特に好ましい。これにより、炭素材料31に対して金属32が0.1体積%~0.5体積%の被覆率で被覆された複合材料30を形成することができる。
【0076】
さらに、本実施形態における焼成工程では、不活性雰囲気下において1100K~1300Kの加熱温度で混合物を焼成することが好ましい。このような構成により、反応中の金属酸化物の酸素による酸化を抑制する効果が一層高められるとともに、非晶質炭素と金属酸化物との酸化還元反応を確実に進行させることができる。その結果、効率的に金属32を生成することができる。
【0077】
上記の負極材1は、例えば高エネルギー密度を要する大型電池や、組電池等の形態の二次電池に対して好適に用いることができる。特に、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車等の高出力が求められる車両の動力源となる二次電池の負極材として利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 負極材
10 負極集電箔
20 負極合材層
30 複合材料
31 炭素材料
32 金属