IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧

<>
  • 特許-半導体装置の製造方法 図1
  • 特許-半導体装置の製造方法 図2
  • 特許-半導体装置の製造方法 図3
  • 特許-半導体装置の製造方法 図4
  • 特許-半導体装置の製造方法 図5
  • 特許-半導体装置の製造方法 図6
  • 特許-半導体装置の製造方法 図7
  • 特許-半導体装置の製造方法 図8
  • 特許-半導体装置の製造方法 図9
  • 特許-半導体装置の製造方法 図10
  • 特許-半導体装置の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20240610BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240610BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240610BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20240610BHJP
   H01L 21/324 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
H01L29/78 658F
H01L29/78 652T
H01L29/78 652K
H01L21/316 P
H01L21/324 X
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021150894
(22)【出願日】2021-09-16
(65)【公開番号】P2023043338
(43)【公開日】2023-03-29
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】清水 達雄
(72)【発明者】
【氏名】中林 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】太田 千春
(72)【発明者】
【氏名】深津 茂人
(72)【発明者】
【氏名】西尾 譲司
(72)【発明者】
【氏名】飯島 良介
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-048198(JP,A)
【文献】特開2015-177073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31、21/316
21/324、21/336、
29/12、29/739、29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素層の表面に酸化シリコン膜を形成し、
前記酸化シリコン膜を形成した後に、窒素ガスを含む雰囲気で、1200℃以上1600℃以下の温度で第1の熱処理を行い、
前記第1の熱処理の後に、窒素酸化物ガスを含む雰囲気で、750℃以上1050℃以下の温度で第2の熱処理を行い、
前記第1の熱処理の雰囲気中の前記窒素ガスの分圧は99%以上である、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記酸化シリコン膜は、気相成長により形成する請求項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記酸化シリコン膜を形成する前に、前記炭化珪素層に、プラズマ化した水素ガスを含む雰囲気中で、第1の温度で第3の熱処理を更に行う、請求項1又は請求項2いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1の温度は0℃以上150℃以下である請求項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記酸化シリコン膜を形成した後、前記第1の熱処理の前に、前記炭化珪素層に、水素ガスを含む雰囲気中で、第2の温度で第4の熱処理を更に行う、請求項1ないし請求項いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第2の温度は1200℃以上1600℃以下である請求項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記酸化シリコン膜を形成する前に、プラズマ化した水素ガスを含む雰囲気中で、前記炭化珪素層に、第1の温度で第3の熱処理を更に行い、
前記酸化シリコン膜を形成した後、前記第1の熱処理の前に、前記炭化珪素層に、水素ガスを含む雰囲気中で、前記第1の温度よりも高い第2の温度で第4の熱処理を更に行う、請求項1又は請求項2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記酸化シリコン膜を形成する前に、前記炭化珪素層に、アルミニウム(Al)及び炭素(C)のイオン注入を更に行う請求項1ないし請求項いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記酸化シリコン膜の厚さは30nm以上100nm以下である請求項1ないし請求項いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記酸化シリコン膜の上にゲート電極を更に形成する請求項1ないし請求項いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の半導体デバイス用の材料として炭化珪素(SiC)が期待されている。炭化珪素はシリコン(Si)と比較して、バンドギャップが3倍、破壊電界強度が約10倍、熱伝導率が約3倍と優れた物性を有する。この特性を活用すれば低損失かつ高温動作可能な半導体デバイスを実現することができる。
【0003】
例えば、炭化珪素を用いてMetal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor(MOSFET)を形成する場合、キャリアの移動度の低下や、閾値電圧の変動が生じるという問題がある。キャリアの移動度の低下や閾値電圧の変動が生じる一つの要因は、ゲート絶縁層中に存在する窒素欠陥や炭素欠陥であると考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】K.Tachiki et al.,“Formation of high-quality SiC(0001)/SiO2 structures by excluding oxidation process with H2 etching before SiO2 deposition and high-temperature N2 annealing”,Appl.Phys.Express 13,121002(2020).
【文献】K.Tachiki et al.,“Mobility improvement of 4H-SiC(0001)MOSFETs by three-step process of H2 etching, SiO2 deposition, and interface nitridation”,Appl.Phys.Express 14,031001(2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、絶縁層中の窒素欠陥及び炭素欠陥の量を低減する半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の半導体装置の製造方法は、炭化珪素層の表面に酸化シリコン膜を形成し、前記酸化シリコン膜を形成した後に、窒素ガスを含む雰囲気で、1200℃以上1600℃以下の温度で第1の熱処理を行い、前記第1の熱処理の後に、窒素酸化物ガスを含む雰囲気で、750℃以上1050℃以下の温度で第2の熱処理を行い、前記第1の熱処理の雰囲気中の前記窒素ガスの分圧は99%以上である
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置の模式断面図。
図2】SiC半導体の結晶構造を示す図。
図3】第1の実施形態の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置の元素濃度分布の一例を示す図。
図4】第1の実施形態の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置の窒素原子の結合状態を示す模式図。
図5】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の工程フロー図。
図6】窒素欠陥の説明図。
図7】第1の比較例の半導体装置の製造方法の工程フロー図。
図8】第1の比較例の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置の元素濃度分布の一例を示す図。
図9】第2の比較例の半導体装置の製造方法の工程フロー図。
図10】第2の比較例の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置の元素濃度分布の一例を示す図。
図11】第2の実施形態の半導体装置の製造方法の工程フロー図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の部材などには同一の符号を付し、一度説明した部材などについては適宜その説明を省略する。
【0009】
また、以下の説明において、n、n、n及び、p、p、pの表記がある場合は、各導電型における不純物濃度の相対的な高低を表す。すなわちnはnよりもn型不純物濃度が相対的に高く、nはnよりもn型不純物濃度が相対的に低いことを示す。また、pはpよりもp型不純物濃度が相対的に高く、pはpよりもp型不純物濃度が相対的に低いことを示す。なお、n型、n型を単にn型、p型、p型を単にp型と記載する場合もある。各領域の不純物濃度は、別段の記載がある場合を除き、例えば、各領域の中央部の不純物濃度の値で代表させる。
【0010】
不純物濃度は、例えば、Secondary Ion Mass Spectrometry(SIMS)により測定することが可能である。また、不純物濃度の相対的な高低は、例えば、Scanning Capacitance Microscopy(SCM)で求められるキャリア濃度の高低から判断することも可能である。また、不純物領域の幅や深さ等の距離は、例えば、SIMSで求めることが可能である。また。不純物領域の幅や深さ等の距離は、例えば、SCM像から求めることが可能である。
【0011】
トレンチの深さ、絶縁層の厚さ等は、例えば、SIMSやTransmission Electron Microscope(TEM)の画像上で計測することが可能である。
【0012】
炭化珪素層中のシリコン原子、炭素原子、窒素原子、及び、酸素原子の結合状態は、例えば、X線光電子分光法(XPS法)を用いることで同定できる。また、各種結合状態の濃度、及び、濃度の大小関係は、例えば、X線光電子分光法(XPS法)を用いることで決定できる。
【0013】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の半導体装置の製造方法は、炭化珪素層の表面に酸化シリコン膜を形成し、酸化シリコン膜を形成した後に、窒素ガスを含む雰囲気で、1200℃以上1600℃以下の温度で第1の熱処理を行い、第1の熱処理の後に、窒素酸化物ガスを含む雰囲気で、750℃以上1050℃以下の温度で第2の熱処理を行う。
【0014】
図1は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置の模式断面図である。半導体装置は、MOSFET100である。MOSFET100は、pウェルとソース領域をイオン注入で形成する、Double Implantation MOSFET(DIMOSFET)である。また、MOSFET100は、電子をキャリアとするnチャネル型のMOSFETである。
【0015】
MOSFET100は、炭化珪素層10、ゲート絶縁層28、ゲート電極30、層間絶縁膜32、ソース電極34、ドレイン電極36、及び、界面終端領域40を備える。
【0016】
炭化珪素層10は、ドレイン領域12、ドリフト領域14、pウェル領域16、ソース領域18、pウェルコンタクト領域20を備える。
【0017】
炭化珪素層10は、例えば、4H-SiCの単結晶である。炭化珪素層10は、ソース電極34とドレイン電極36との間に位置する。
【0018】
図2は、SiC半導体の結晶構造を示す図である。SiC半導体の代表的な結晶構造は、4H-SiCのような六方晶系である。六角柱の軸方向に沿うc軸を法線とする面(六角柱の頂面)の一方が(0001)面である。(0001)面と等価な面を、シリコン面(Si面)と称し{0001}面と表記する。シリコン面の最表面にはシリコン原子(Si)が配列している。
【0019】
六角柱の軸方向に沿うc軸を法線とする面(六角柱の頂面)の他方が(000-1)面である。(000-1)面と等価な面を、カーボン面(C面)と称し{000-1}面と表記する。カーボン面の最表面には炭素原子(C)が配列している。
【0020】
一方、六角柱の側面(柱面)が、(1-100)面と等価な面であるm面、すなわち{1-100}面である。また、隣り合わない一対の稜線を通る面が(11-20)面と等価な面であるa面、すなわち{11-20}面である。m面及びa面の最表面には、シリコン原子(Si)及び炭素原子(C)の双方が配列している。
【0021】
以下、炭化珪素層10の表面がシリコン面に対し0度以上8度以下傾斜した面、裏面がカーボン面に対し0度以上8度以下傾斜した面である場合を例に説明する。炭化珪素層10の表面がシリコン面に対し0度以上8度以下のオフ角を備える。
【0022】
ドレイン領域12は、n型のSiCである。ドレイン領域12は、例えば、窒素(N)をn型不純物として含む。ドレイン領域12のn型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である。
【0023】
ドリフト領域14は、ドレイン領域12の上に設けられる。ドリフト領域14は、n型のSiCである。ドリフト領域14は、例えば、窒素をn型不純物として含む。
【0024】
ドリフト領域14のn型不純物濃度は、ドレイン領域12のn型不純物濃度より低い。ドリフト領域14のn型不純物濃度は、例えば、1×1015cm-3以上2×1016cm-3以下である。ドリフト領域14は、例えば、ドレイン領域12の上にエピタキシャル成長により形成されたSiCのエピタキシャル成長層である。
【0025】
ドリフト領域14の厚さは、例えば、5μm以上100μm以下である。
【0026】
pウェル領域16は、ドリフト領域14の一部表面に設けられる。pウェル領域16は、p型のSiCである。pウェル領域16は、例えば、アルミニウム(Al)をp型不純物として含む。pウェル領域16のp型不純物濃度は、例えば、1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下である。
【0027】
pウェル領域16の深さは、例えば、0.4μm以上0.8μm以下である。pウェル領域16は、MOSFET100のチャネル領域として機能する。
【0028】
ソース領域18は、pウェル領域16の一部表面に設けられる。ソース領域18は、n型のSiCである。ソース領域18は、例えば、リン(P)をn型不純物として含む。ソース領域18のn型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1022cm-3cm以下である。
【0029】
ソース領域18の深さは、pウェル領域16の深さよりも浅い。ソース領域18の深さは、例えば、0.2μm以上0.4μm以下である。
【0030】
pウェルコンタクト領域20は、pウェル領域16の一部表面に設けられる。pウェルコンタクト領域20は、ソース領域18の側方に設けられる。pウェルコンタクト領域20は、p型のSiCである。
【0031】
pウェルコンタクト領域20は、例えば、アルミニウムをp型不純物として含む。pウェルコンタクト領域20のp型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1022cm-3以下である。
【0032】
pウェルコンタクト領域20の深さは、pウェル領域16の深さよりも浅い。pウェルコンタクト領域20の深さは、例えば、0.2μm以上0.4μm以下である。
【0033】
ゲート絶縁層28は、炭化珪素層10とゲート電極30との間に設けられる。ゲート絶縁層28は、ドリフト領域14及びpウェル領域16と、ゲート電極30との間に設けられる。ゲート絶縁層28は、ドリフト領域14及びpウェル領域16の上に設けられる。ゲート絶縁層28は、ドリフト領域14及びpウェル領域16の表面に、連続的に形成される。
【0034】
ゲート絶縁層28は、酸化シリコンである。
【0035】
ゲート絶縁層28の厚さは、例えば、30nm以上100nm以下である。ゲート絶縁層28は、MOSFET100のゲート絶縁層として機能する。ゲート絶縁層28の厚さは、例えば、40nm以上50nm以下である。
【0036】
界面終端領域40は、炭化珪素層10とゲート絶縁層28との間に位置する。界面終端領域40は、ドリフト領域14及びpウェル領域16と、ゲート絶縁層28との間に位置する。界面終端領域40は、炭化珪素層10のダングリングボンドを終端する終端元素として窒素(N)を含む。
【0037】
界面終端領域40の窒素濃度は、例えば、1×1021cm-3以上である。
【0038】
図3は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置の元素濃度分布の一例を示す図である。図3は、ゲート絶縁層28、界面終端領域40、及び、炭化珪素層10の中の、元素濃度分布を示す図である。図3は、窒素と炭素の濃度分布を示す。
【0039】
窒素の濃度分布は、界面終端領域40にピークを有する。ピークの窒素濃度は、例えば、1×1022cm-3以上である。窒素の濃度分布のピークに対する半値全幅は、例えば、1nm以下である。窒素は、炭化珪素層10とゲート絶縁層28との間の界面に偏析している。
【0040】
窒素の濃度分布のピークからゲート絶縁層28の側に1nm離れた第1の位置Xにおける窒素濃度は、例えば、1×1018cm-3以下である。また、窒素の濃度分布のピークから炭化珪素層10の側に1nm離れた第2の位置Yにおける窒素濃度は、例えば、1×1018cm-3以下である。
【0041】
図4は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置の窒素原子の結合状態を示す模式図である。図4(a)は窒素原子が3配位の場合、図4(b)は窒素原子が4配位の場合である。
【0042】
図4(a)に示す3配位の場合、窒素原子は3個のシリコン原子と結合する。図4(b)に示す4配位の場合、窒素原子は4個のシリコン原子と結合する。
【0043】
界面終端領域40において、3個のシリコン原子と結合する窒素原子の量が、4個のシリコン原子と結合する窒素原子の量よりも多い。言い換えれば、界面終端領域40において、3配位の窒素原子の量が、4配位の窒素原子の量よりも多い。
【0044】
例えば、界面終端領域40に存在する窒素原子の90%以上が、3配位の窒素原子である。3配位の窒素原子の濃度は、例えば、1×1022cm-3以上である。
【0045】
界面終端領域40に存在する3配位の窒素原子は、炭化珪素層10の表面のダングリングボンドを終端している。
【0046】
窒素原子は炭化珪素層10の最上層を構成するバイレイヤの炭素原子を置換する。終端元素である窒素は、炭化珪素層10と3配位で結合している。窒素原子は、炭化珪素の結晶構造の炭素原子の位置にある。炭化珪素層10の最表面のシリコン原子の一部がゲート絶縁層28を構成することになり、窒素原子は、炭化珪素層10のシリコン原子と3配位することになる。
【0047】
炭化珪素層10のバルク中に存在し、炭化珪素の結晶構造の炭素サイトを置換している窒素原子は、4配位となる。4配位の窒素原子は、n型のドーパントになる。したがって、4配位の窒素原子はMOSFET100の閾値電圧を低下させる。
【0048】
第2の位置Yにおける4個のシリコン原子と結合する窒素原子の濃度は、例えば、1×1018cm-3以下である。言い換えれば、第2の位置Yにおける4配位の窒素原子の濃度は、例えば、1×1018cm-3以下である。
【0049】
炭素の濃度分布は、界面終端領域40からゲート絶縁層28に向かって減少する。第1の位置Xにおける炭素濃度は、例えば、1×1018cm-3以下である。
【0050】
ゲート電極30は、ゲート絶縁層28の上に設けられる。ゲート電極30は、炭化珪素層10との間にゲート絶縁層28を挟む。ゲート電極30は、ドリフト領域14との間にゲート絶縁層28を挟む。ゲート電極30は、pウェル領域16との間にゲート絶縁層28を挟む。
【0051】
ゲート電極30には、例えば、n型不純物又はp型不純物を含む多結晶シリコンである。
【0052】
層間絶縁膜32は、ゲート電極30上に形成される。層間絶縁膜32は、例えば、酸化シリコン膜である。
【0053】
ソース電極34は、ソース領域18とpウェルコンタクト領域20とに電気的に接続される。ソース電極34は、pウェル領域16に電位を与えるpウェル電極としても機能する。
【0054】
ソース電極34は、例えば、ニッケル(Ni)のバリアメタル層と、バリアメタル層上のアルミニウムのメタル層との積層で構成される。ニッケルのバリアメタル層と炭化珪素層は、反応してニッケルシリサイドを形成しても構わない。ニッケルシリサイドは、例えば、NiSi又はNiSiである。ニッケルのバリアメタル層とアルミニウムのメタル層とは、反応により合金を形成しても構わない。
【0055】
ドレイン電極36は、炭化珪素層10のソース電極34と反対側、すなわち、裏面側に設けられる。ドレイン電極36は、例えば、ニッケルである。ニッケルは、ドレイン領域12と反応して、ニッケルシリサイドを形成しても構わない。ニッケルシリサイドは、例えば、NiSi又はNiSiである。
【0056】
なお、第1の実施形態のMOSFET100において、n型不純物は、例えば、窒素やリンである。n型不純物としてヒ素(As)又はアンチモン(Sb)を適用することも可能である。
【0057】
また、第1の実施形態のMOSFET100において、p型不純物は、例えば、アルミニウムである。p型不純物として、ボロン(B)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)を適用することも可能である。
【0058】
次に、第1の実施形態の半導体装置の製造方法について説明する。
【0059】
図5は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の工程フロー図である。
【0060】
図5に示すように、第1の実施形態の半導体装置の製造方法は、炭化珪素層準備(ステップS100)、p型不純物イオン注入(ステップS101)、n型不純物イオン注入(ステップS102)、p型不純物イオン注入(ステップS103)、活性化アニール(ステップS104)、酸化シリコン膜形成(ステップS105)、第1の熱処理(ステップS106)、第2の熱処理(ステップS107)、ゲート電極形成(ステップS108)、層間絶縁膜形成(ステップS109)、ソース電極形成(ステップS110)、及び、ドレイン電極形成(ステップS111)を備える。
【0061】
ステップS100では、炭化珪素層10を準備する。炭化珪素層10は、n型のドレイン領域12とn型のドリフト領域14を備える。ドリフト領域14は、例えば、ドレイン領域12上にエピタキシャル成長法により形成される。
【0062】
ドレイン領域12は、n型不純物として窒素を含む。ドレイン領域12のn型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である。
【0063】
ドリフト領域14は、n型不純物として、窒素を含む。ドリフト領域14のn型不純物濃度は、例えば、1×1015cm-3以上2×1016cm-3以下である。ドリフト領域14の厚さは、例えば、5μm以上100μm以下である。
【0064】
ステップS101では、最初に、フォトリソグラフィーとエッチングによるパターニングにより、第1のマスク材を形成する。そして、第1のマスク材をイオン注入マスクとして用いて、p型不純物であるアルミニウム(Al)をドリフト領域14にイオン注入する。イオン注入によりpウェル領域16が形成される。
【0065】
ステップS102では、最初に、フォトリソグラフィーとエッチングによるパターニングにより、第2のマスク材を形成する。そして、第2のマスク材をイオン注入マスクとして用いて、n型不純物であるリン(P)をドリフト領域14にイオン注入し、ソース領域18を形成する。
【0066】
ステップS103では、最初に、フォトリソグラフィーとエッチングによるパターニングにより、第3のマスク材を形成する。第3のマスク材をイオン注入マスクとして用いて、p型不純物であるアルミニウム(Al)をドリフト領域14にイオン注入し、pウェルコンタクト領域20を形成する。
【0067】
次に、炭化珪素層10の表面に炭素膜を形成する。炭素膜は、例えば、スパッタ法により形成される。炭素膜は、次に行われる活性化アニールの際に、炭化珪素層10の表面が荒れることを抑制する。
【0068】
ステップS104では、活性化アニールを行う。活性化アニールにより、炭化珪素層10にイオン注入したp型不純物及びn型不純物を活性化する。活性化アニールは、例えば、アルゴン雰囲気中で行われる。活性化アニールの温度は、例えば、1600℃以上1800℃以下である。
【0069】
次に、炭化珪素層10の表面の炭素膜を除去する。炭素膜は、例えば、酸素プラズマを用いたアッシング処理により除去される。
【0070】
ステップS105では、炭化珪素層10の表面に酸化シリコン膜を形成する。酸化シリコン膜は、最終的に、ゲート絶縁層28となる。
【0071】
酸化シリコン膜は、例えば、気相成長により形成される。酸化シリコン膜は、例えば、Chemical Vapor Deposition法(CVD法)、又は、Physical Vapor Deposition法(PVD法)により形成される。酸化シリコン膜は、堆積膜である。酸化シリコン膜の厚さは、例えば、30nm以上100nm以下である。酸化シリコン膜の厚さは、例えば、40nm以上50nm以下である。
【0072】
酸化シリコン膜は、例えば、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)をソースガスとしてCVD法により形成される酸化シリコン膜である。また、酸化シリコン膜は、例えば、ジクロロシランガス(SiHCl)と一酸化二窒素ガス(NO)をソースガスとしてCVD法により形成される酸化シリコン膜である。
【0073】
酸化シリコン膜は、例えば、600℃以下の温度で形成される。
【0074】
ステップS106では、第1の熱処理が行われる。第1の熱処理は、窒素ガス(N)を含む雰囲気で行われる。
【0075】
第1の熱処理の雰囲気中の窒素ガスの分圧は、例えば、99%以上である。
【0076】
第1の熱処理の雰囲気中の酸素を含むガスの分圧は、例えば、10ppm以下である。第1の熱処理の雰囲気中の酸素ガスの分圧は、例えば、10ppm以下である。
【0077】
例えば、炭化珪素層10が入れられた反応炉に、窒素ガス(N)を供給して第1の熱処理を行う。第1の熱処理において、反応炉には酸素を含むガスを積極的には供給しない。
【0078】
第1の熱処理の温度は、例えば、1200℃以上1600℃以下である。
【0079】
第1の熱処理により、窒素を含む界面終端領域40が、炭化珪素層10と酸化シリコン膜との界面に形成される。
【0080】
第1の熱処理は、酸化シリコン膜のデンシファイアニールとしても機能する。第1の熱処理により、酸化シリコン膜が高密度な膜となる。
【0081】
第1の熱処理に、例えば、窒素ガスと不活性ガスの混合ガスを用いることも可能である。第1の熱処理に、例えば、窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用いることも可能である。
【0082】
ステップS107では、第2の熱処理が行われる。第2の熱処理は、窒素酸化物ガス(NOx)を含む雰囲気で行われる。窒素酸化物ガスは、例えば、一酸化窒素ガス(NO)である。また、窒素酸化物ガスは、例えば、一酸化二窒素ガス(NO)である。
【0083】
例えば、炭化珪素層10が入れられた反応炉に、窒素酸化物ガス(NOx)を供給して第2の熱処理を行う。
【0084】
第2の熱処理の温度は、750℃以上1050℃以下である。第2の熱処理の温度は、第1の熱処理の温度よりも低い。
【0085】
第2の熱処理の雰囲気の窒素酸化物ガスの分圧は、例えば、10%以上である。
【0086】
第2の熱処理により、酸化シリコン膜の中の窒素が除去される。第2の熱処理により、窒素欠陥の低減された酸化シリコン膜が形成される。
【0087】
ステップS108では、ゲート絶縁層28の上に、ゲート電極30を形成する。ゲート電極30は、例えば、n型不純物又はp型不純物を含む多結晶シリコンである。
【0088】
ステップS109では、ゲート電極30の上に、層間絶縁膜32が形成される。層間絶縁膜32は、例えば、酸化シリコン膜である。
【0089】
ステップS110で、ソース電極34が形成される。ソース電極34は、ソース領域18、及び、pウェルコンタクト領域20の上に形成される。ソース電極34は、例えば、ニッケル(Ni)とアルミニウム(Al)のスパッタにより形成される。
【0090】
ステップS111では、ドレイン電極36が形成される。ドレイン電極36は、炭化珪素層10の裏面側に形成される。ドレイン電極36は、例えば、ニッケルのスパッタにより形成される。
【0091】
以上の製造方法により、図1に示すMOSFET100が形成される。
【0092】
次に、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果について説明する。
【0093】
第1の実施形態の製造方法で製造されるMOSFET100は、窒素濃度の高い界面終端領域40を備える。界面終端領域40は、窒素ガス(N)を含む雰囲気で行われる第1の熱処理(ステップS106)で形成される。したがって、第1の実施形態の製造方法により、キャリアの移動度の低下が抑制されたMOSFETが実現される。
【0094】
また、第1の実施形態の製造方法で製造されるMOSFET100は、ゲート絶縁層28の中の窒素欠陥及び炭素欠陥の量が低減されている。ゲート絶縁層28の中の窒素欠陥の量は、窒素酸化物ガス(NOx)を含む雰囲気で行われる第2の熱処理(ステップS107)で、低減される。また、ゲート絶縁層28の中の炭素欠陥の量は、界面終端領域40の形成に、窒素ガス(N)を含む雰囲気で行われる第1の熱処理(ステップS106)を用いることで低減されている。したがって、ゲート絶縁層28の中の窒素欠陥や炭素欠陥に起因する、キャリアの移動度の低下、閾値電圧の低下、閾値電圧の変動、ゲート絶縁層のリーク電流の増大、又は、ゲート絶縁層の信頼性の低下が抑制されたMOSFETが実現される。
【0095】
以下、詳述する。
【0096】
炭化珪素を用いてMOSFETを形成する場合、キャリアの移動度が低下するという問題がある。キャリアの移動度が低下する一つの要因は、炭化珪素層とゲート絶縁層との間の界面準位(intersurface state)であると考えられている。界面準位は、炭化珪素層の表面に存在するダングリングボンドによって生じると考えられる。
【0097】
また、炭化珪素を用いてMOSFETを形成する場合、キャリアの移動度の低下や、閾値電圧の変動が生じるという問題がある。また、ゲート絶縁層のリーク電流が増大したり、ゲート絶縁層の信頼性が低下したりするという問題がある。上記の問題が生じる一つの要因は、ゲート絶縁層の中に存在する窒素欠陥や炭素欠陥であると考えられている。
【0098】
窒素欠陥や炭素欠陥は、ゲート絶縁層の中にトラップ準位を形成することで、上記の問題を生じさせる要因となると考えられる。
【0099】
絶縁層中の窒素欠陥には、様々な形態がある。
【0100】
図6は、窒素欠陥の説明図である。図6(a)は、酸素原子に結合する炭素原子と、酸素原子に結合する窒素原子を含む複合体を示す。図6(a)は、C-O-N結合を示す。C-O-N結合の炭素原子及び窒素原子は、酸化シリコンのシリコンサイトに入っている。
【0101】
図6(b)は、窒素原子が少なくとも2個のシリコン原子に結合する構造を含む窒素欠陥である。図6(b)の窒素欠陥では、酸化シリコンの酸素サイトに窒素原子が入っている。
【0102】
炭素欠陥には、様々な形態がある。例えば、炭素原子同士の二重結合、3個のシリコン原子が配位した三配位炭素、炭素原子に酸素原子が二重結合した構造などである。これらの炭素欠陥は、Pz軌道に起因するトラップ準位を形成することが、発明者らの第一原理計算により明らかになっている。これらの炭素欠陥は、酸化シリコンの酸素サイトに炭素原子が入ることにより形成される。
【0103】
図7は、第1の比較例の半導体装置の製造方法の工程フロー図である。第1の比較例の半導体装置の製造方法は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の第1の熱処理(ステップS106)が省略されている。また、第2の熱処理(ステップS107)にかえて、熱処理(ステップS901)を行う。
【0104】
ステップS901の熱処理は、第2の熱処理(ステップS107)と同様、窒素酸化物ガス(NOx)を含む雰囲気で行われる。窒素酸化物ガスは、例えば、一酸化窒素ガス(NO)である。また、窒素酸化物ガスは、例えば、一酸化二窒素ガス(NO)である。
【0105】
熱処理(ステップS901)は、第2の熱処理(ステップS107)よりも高温の熱処理である。熱処理の温度は、例えば、1100℃以上1450℃以下である。
【0106】
ステップS901の熱処理により、窒素を含む界面終端領域が炭化珪素層と酸化シリコン膜との界面に形成される。
【0107】
図8は、第1の比較例の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置の元素濃度分布の一例を示す図である。第1の比較例の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置は、図7に示す製造方法で製造されたMOSFETである。
【0108】
図8は、ゲート絶縁層、界面終端領域、及び、炭化珪素層の中の、元素濃度分布を示す図である。図8は、窒素と炭素の濃度分布を示す。
【0109】
窒素の濃度分布は、界面終端領域にピークを有する。ピークの窒素濃度は、例えば、1×1021cm-3以上1×1022cm-3未満である。窒素は、炭化珪素層と、ゲート絶縁層との間の界面に偏析している。
【0110】
第1の比較例の窒素酸化物ガスを含む雰囲気中での高温の熱処理(ステップS901)では、炭化珪素層の表面の酸化と窒化が同時に起こる。酸化により酸化シリコン膜と炭化珪素層の界面が炭化珪素層側に移動する。このため、界面終端領域の窒素濃度が高くならず、窒素濃度が1×1022cm-3未満に抑制されてしまう。窒素濃度が、1×1022cm-3未満の場合、界面に界面準位が残留し、キャリアの移動度の劣化を招くおそれがある。
【0111】
第1の比較例のMOSFETは、ゲート絶縁層の中の窒素濃度が高い。例えば、図8に示すように、窒素の濃度分布のピークからゲート絶縁層の側に1nm離れた第1の位置Xにおける窒素濃度は1×1018cm-3より高い。
【0112】
ゲート絶縁層の中の窒素は、熱処理(ステップS901)の窒素酸化物ガスに由来する。ゲート絶縁層の中の窒素は、窒素欠陥を形成する。
【0113】
第1の比較例のMOSFETは、ゲート絶縁層の中の炭素濃度が高い。例えば、図8に示すように、窒素の濃度分布のピークからゲート絶縁層の側に1nm離れた第1の位置Xにおける炭素濃度は1×1018cm-3より高い。
【0114】
ゲート絶縁層の中の炭素は、熱処理(ステップS901)で炭化珪素層の表面が酸化される際に、炭化珪素層から放出される炭素に由来すると考えられる。また、窒素酸化物ガスの窒素が、炭化珪素層から放出される炭素と結合し、C-O-N結合を形成することで、ゲート絶縁層の中に残留すると考えられる。ゲート絶縁層の中の炭素は、炭素欠陥を形成する。
【0115】
第1の比較例のMOSFETでは、ゲート絶縁層の中の窒素欠陥や炭素欠陥に起因するトラップにより、キャリアの移動度の低下、閾値電圧の低下、閾値電圧の変動、ゲート絶縁層のリーク電流の増大、又は、ゲート絶縁層の信頼性の低下が問題となる。
【0116】
第1の比較例のMOSFETは、炭化珪素層の中の窒素濃度が高い。例えば、図8に示すように、窒素の濃度分布のピークから炭化珪素層の側に1nm離れた第2の位置Yにおける窒素濃度は1×1018cm-3より高い。
【0117】
熱処理(ステップS901)において、炭化珪素層の表面が酸化され、炭化珪素層中の炭素が抜けて炭素空孔が生じる。生じた炭素空孔中に窒素原子が入る。炭素空孔中に入った窒素原子は、n型のドーパントとして機能し、MOSFETの閾値電圧を低下させる。
【0118】
以上のように、第1の比較例の半導体装置の製造方法で製造されるMOSFETでは、界面終端領域の窒素濃度不足により残留している界面準位、及びゲート絶縁層の中の窒素欠陥や炭素欠陥に起因するトラップにより、キャリアの移動度の低下、閾値電圧の低下、閾値電圧の変動、ゲート絶縁層のリーク電流の増大、又は、ゲート絶縁層の信頼性の低下が問題となる。
【0119】
図9は、第2の比較例の半導体装置の製造方法の工程フロー図である。第2の比較例の半導体装置の製造方法は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の第2の熱処理(S107)が省略されている。
【0120】
図10は、第2の比較例の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置の元素濃度分布の一例を示す図である。第2の比較例の半導体装置の製造方法で製造される半導体装置は、図9に示す製造方法で製造されたMOSFETである。
【0121】
図10は、ゲート絶縁層、界面終端領域、及び、炭化珪素層の中の、元素濃度分布を示す図である。図10は、窒素と炭素の濃度分布を示す。
【0122】
窒素の濃度分布は、界面終端領域にピークを有する。ピークの窒素濃度は、例えば、1×1022cm-3以上である。窒素は、炭化珪素層と、ゲート絶縁層との間の界面に偏析している。
【0123】
第1の熱処理(ステップS106)が窒素ガス雰囲気中で行われることにより、第1の比較例の製造方法よりも、界面終端領域の窒素濃度を高くできる。第1の熱処理(ステップS106)が、酸素を含まない窒素ガス雰囲気中で行われるため、炭化珪素層の表面の酸化が抑制されるためである。したがって、第2の比較例のMOSFETでは、界面準位に起因するキャリアの移動度の低下は、第1の比較例のMOSFETに比べ抑制される。
【0124】
第2の比較例のMOSFETは、第1の比較例のMOSFETに比べ、ゲート絶縁層の中の窒素濃度が高い。窒素の濃度分布のピークからゲート絶縁層の側に1nm離れた第1の位置Xにおける窒素濃度は、例えば、1×1018cm-3より高い。特に、膜中全体に亘って、窒素が大量に分布しており、例えば、1×1022cm-3以上になっている。
【0125】
第2の比較例のMOSFETは、ゲート絶縁層の中の窒素濃度が、第1の比較例のMOSFETに比べ非常に高い。第2の比較例の製造方法では、第1の熱処理(ステップS106)の際の雰囲気中の窒素濃度が、第1の比較例の製造方法の熱処理(ステップS901)と比べ高濃度になるため、ゲート絶縁層の中の窒素濃度が高くなる。ゲート絶縁層の中の窒素は、窒素欠陥を形成する。
【0126】
第2の比較例のMOSFETは、ゲート絶縁層の中の炭素濃度が低い。例えば、図10に示すように、窒素の濃度分布のピークからゲート絶縁層の側に1nm離れた第1の位置Xにおける炭素濃度は1×1018cm-3より低い。炭素の濃度分布は、界面終端領域からゲート絶縁層に向かって減少する。
【0127】
第2の比較例の製造方法では、炭化珪素層の表面は酸化されず、炭化珪素層から炭素が放出されない。このため、ゲート絶縁層の中の炭素濃度は、第1の比較例のMOSFETより低下する。このため、第2の比較例のMOSFETは、第1の比較例のMOSFETよりも、ゲート絶縁層の中の炭素欠陥が低減する。さらに、ゲート絶縁層の中の炭素濃度が低いため、C-O-N結合を有する窒素欠陥も、第1の比較例のMOSFETより低減する。
【0128】
したがって、第2の比較例のMOSFETでは、ゲート絶縁層の中の炭素欠陥やC-O-N結合を有する窒素欠陥に起因するキャリアの移動度の低下、閾値電圧の変動、ゲート絶縁層のリーク電流の増大、又は、ゲート絶縁層の信頼性の低下の問題は、第1の比較例のMOSFETに比べて抑制される。しかし、ゲート絶縁層の中の窒素欠陥に起因するキャリアの移動度の低下、閾値電圧の低下、閾値電圧の変動、ゲート絶縁層のリーク電流の増大、又は、ゲート絶縁層の信頼性の低下の問題は、第1の比較例のMOSFETに比べ悪化する。
【0129】
第2の比較例のMOSFETは、炭化珪素層の中の窒素濃度が低い。例えば、図10に示すように、窒素の濃度分布のピークから炭化珪素層の側に1nm離れた第2の位置Yにおける窒素濃度は1×1018cm-3より低い。
【0130】
第2の比較例の製造方法では、界面終端領域の形成に酸化性ガスを用いない。このため、炭化珪素層の表面は酸化されず、炭化珪素層から炭素が放出されない。
【0131】
したがって、第2の比較例の製造方法では、第1の比較例の製造方法と比較して、炭化珪素層の中の炭素空孔の形成が抑制され、炭化珪素層の中の窒素濃度が低下する。よって、第2の比較例のMOSFETの閾値電圧の低下が抑制される。
【0132】
以上のように、第2の比較例の製造方法では、第1の比較例の製造方法と比較して、界面終端領域の窒素濃度を高くできる。また、ゲート絶縁層の中の炭素欠陥やC-O-N結合を有する窒素欠陥は低減できる。しかし、ゲート絶縁層の中の窒素欠陥の量は、多くなる。よって、ゲート絶縁層の中の窒素欠陥に起因する、キャリアの移動度の低下、閾値電圧の低下、閾値電圧の変動、ゲート絶縁層のリーク電流の増大、又は、ゲート絶縁層の信頼性の低下が問題となる。
【0133】
第1の実施形態の製造方法では、ステップS105で酸化シリコン膜を形成した後に、ステップS106で第1の熱処理が行われる。第1の熱処理は、窒素ガス(N)を含む雰囲気で行われる。
【0134】
第1の熱処理により界面終端領域40が形成された直後の元素濃度分布は、図10に示した第2の比較例のMOSFETの元素濃度分布と同様である。
【0135】
ステップS106の第1の熱処理の直後は、酸化シリコン膜の中の窒素濃度が高い。酸化シリコン膜の中の窒素は、例えば、窒素原子が少なくとも2個のシリコン原子に結合する構造を含む窒素欠陥を形成している。この窒素欠陥では、窒素原子が酸化シリコンの酸素サイトを置換している
【0136】
第1の実施形態の製造方法では、第1の熱処理の後に、ステップS107で第2の熱処理が行われる。第2の熱処理は、窒素酸化物ガス(NOx)を含む雰囲気で行われる。
【0137】
第2の熱処理の雰囲気中に窒素酸化物ガス(NOx)を含むことにより、酸化シリコン膜の中の窒素欠陥が低減される。酸化シリコンの酸素サイトを置換している窒素原子が、窒素酸化物ガス(NOx)の酸素原子で置換され、窒素原子が窒素ガス(N)となって酸化シリコン膜中から放出されると考えられる。
【0138】
したがって、第2の熱処理により、酸化シリコン膜の中の窒素欠陥が低減され、酸化シリコン膜の窒素濃度が低減する。
【0139】
第2の熱処理の温度は、1050℃以下である。第2の熱処理の温度は低いため、第2の熱処理による炭化珪素層10の表面の酸化の進行は抑制される。したがって、第2の熱処理により、酸化シリコン膜の中の炭素濃度が増加することが抑制される。また、界面終端に寄与していた窒素が、酸化シリコン膜の中に拡散してしまい、界面終端領域の窒素濃度が減少してしまうことが抑制される。つまり、界面終端領域の窒素濃度は保たれる。
【0140】
第1の実施形態の製造方法で製造されるMOSFET100は、図3に示すように、第2の比較例のMOSFETと同様、界面終端領域40の窒素濃度が高い。したがって、キャリアの移動度の低下が抑制される。
【0141】
また、第1の実施形態の製造方法で製造されるMOSFET100は、図3に示すように、ゲート絶縁層28の中の窒素濃度や炭素濃度が、第1の比較例のMOSFETに比べて低い。また、ゲート絶縁層28の中の窒素濃度が、第2の比較例のMOSFETに比べて低い。したがって、ゲート絶縁層28の中の炭素欠陥及び窒素欠陥の量が、第1の比較例のMOSFET及び第2の比較例のMOSFETに比べ少ない。
【0142】
よって、第1の実施形態のMOSFET100では、ゲート絶縁層の中の窒素欠陥及び炭素欠陥に起因するキャリアの移動度の低下、閾値電圧の低下、閾値電圧の変動、ゲート絶縁層のリーク電流の増大、又は、ゲート絶縁層の信頼性の低下が抑制される。
【0143】
第1の実施形態の製造方法によれば、界面終端領域40の窒素濃度が高く、かつ、ゲート絶縁層28の中の窒素欠陥及び炭素欠陥の量が低減されたMOSFET100が実現できる。
【0144】
第1の熱処理は、1300℃以上であることが好ましく、1400℃以上であることがより好ましい。第1の熱処理の温度を高くすることで、界面終端領域40の窒素濃度を更に高くできる。
【0145】
第1の熱処理の雰囲気中の窒素ガスの分圧は99%以上であることが好ましく、99.9%以上であることがより好ましく、100%であることが更に好ましい。第1の熱処理の雰囲気中の窒素ガスの分圧を高くすることにより、界面終端領域40の窒素濃度を更に高くできる。
【0146】
第1の熱処理の時間は1時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましい。第1の熱処理の時間を長くすることにより、界面終端領域40の窒素濃度を更に高くできる。一方で、第1の熱処理の長時間化は、ゲート絶縁層28中の窒素欠陥量を増やすことになる。つまり、第1の熱処理の長時間化により、界面終端領域40の窒素濃度を高くできるが、ゲート絶縁層28中の窒素欠陥量を増やすことになる。第1の熱処理の処理時間の調整だけでは、界面終端領域40の窒素濃度の向上とゲート絶縁層中の窒素濃度の低減との両立はできない。第2の熱処理により、界面終端を維持しつつ、膜中の窒素欠陥を取り除くことができるため、第1の熱処理の長時間化による界面終端領域40の窒素濃度の向上を維持しつつ、ゲート絶縁層中の窒素濃度の低減を実現可能となった。
【0147】
第2の熱処理の温度は、800℃以上であることが好ましく、850℃以上であることがより好ましく、925℃以上であることが更に好ましい。第2の熱処理の温度を高くすることにより、酸化シリコン膜の中の窒素欠陥を更に低減できる。
【0148】
第2の熱処理は、950℃、30分以上の処理を行うことが好ましく、950℃、1時間以上の処理を行うことがより好ましく、950℃、2時間以上の処理を行うことが更に好ましい。上記条件で熱処理を行うことで、酸化シリコン膜の中の窒素濃度を更に低減できる。
【0149】
また、第2の熱処理の温度は、1000℃以下であることが好ましく、950℃以下であることがより好ましい。第2の熱処理の温度を低くすることで、炭化珪素層10の酸化を更に抑制することができる。
【0150】
第2の熱処理の窒素酸化物ガスは、酸化力の高い一酸化二窒素ガス(NO)であることが好ましい。酸化力の高い窒素酸化物ガスを用いることにより、酸化シリコン膜の中の窒素欠陥を更に低減できる。
【0151】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法において、ステップS105で形成される酸化シリコン膜は、気相成長により形成されることが好ましい。熱酸化ではなく気相成長で形成することで、炭化珪素層の酸化を更に抑制できる。よって、酸化シリコン膜の中の炭素濃度を更に低減することができる。
【0152】
酸化シリコン膜は、600℃以下の温度で形成することが好ましく、500℃以下の温度で形成することがより好ましく、450℃以下の温度で形成することが更に好ましい。酸化シリコン膜を低温で形成することにより、炭化珪素層の表面の酸化が抑制され、酸化シリコン膜中の炭素濃度が更に低減される。
【0153】
ステップS105で形成される酸化シリコン膜は、成長時の酸素分圧を低くすることで、膜全体がシリコンリッチな酸化シリコン膜とすることが好ましい。SiO2-δとして、0.01≦δ≦0.1が好ましい。つまり、酸素欠損が0.5%以上、5%以下となるように調整することが好ましい。第1の熱処理において、余分な酸素が酸化シリコン膜中にあると、高温処理の際に、基板酸化の恐れがあるので、余分な酸素がない状態とすることが好ましいためである。第2の熱処理を行うことで、絶縁膜中の酸素欠損に酸素が供給されるので、最終的には、酸素欠損のない、良好な酸化シリコン膜となる。
【0154】
以上、第1の実施形態によれば、界面終端領域の窒素濃度が高く、かつ、絶縁層中の窒素欠陥及び炭素欠陥の量が低減する半導体装置の製造方法が実現される。
【0155】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、酸化シリコン膜を形成する前に、炭化珪素層に、水素ガスを含む雰囲気中で、第1の温度で第3の熱処理を行う点で、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と異なる。また、第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、酸化シリコン膜を形成した後、第1の熱処理の前に、炭化珪素層に、水素ガスを含む雰囲気中で、第2の温度で第4の熱処理を行う点で、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と異なる。また、第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、酸化シリコン膜を形成する前に、炭化珪素層に、アルミニウム(Al)及び炭素(C)のイオン注入を行う点で、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と異なる。以下、第1の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
【0156】
図11は、第2の実施形態の半導体装置の製造方法の工程フロー図である。第2の実施形態の半導体装置の製造方法により、図1に示すMOSFET100が形成される。
【0157】
図11に示すように、第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、炭化珪素層準備(ステップS100)、p型不純物イオン注入(ステップS101)、炭素イオン注入(ステップS201)、n型不純物イオン注入(ステップS102)、p型不純物イオン注入(ステップS103)、活性化アニール(ステップS104)、第3の熱処理(ステップS202)、酸化シリコン膜形成(ステップS105)、第4の熱処理(ステップS203)、第1の熱処理(ステップS106)、第2の熱処理(ステップS107)、ゲート電極形成(ステップS108)、層間絶縁膜形成(ステップS109)、ソース電極形成(ステップS110)、及び、ドレイン電極形成(ステップS111)を備える。
【0158】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法に加えて、炭素イオン注入(ステップS201)、第3の熱処理(ステップS202)、及び第4の熱処理(ステップS203)を行う。
【0159】
ステップS101では、まず、フォトリソグラフィーとエッチングによるパターニングにより、第1のマスク材を形成する。そして、第1のマスク材をイオン注入マスクとして用いて、p型不純物であるアルミニウム(Al)をドリフト領域14にイオン注入する。イオン注入によりpウェル領域16が形成される。
【0160】
ステップS105で酸化シリコン膜を形成する前に、炭化珪素層に対して、アルミニウム(Al)及び炭素(C)のイオン注入が行われる。pウェル領域16には、アルミニウム(Al)及び炭素(C)が含まれることになる。
【0161】
ステップS202では、第3の熱処理が行われる。第3の熱処理は、酸化シリコン膜を形成する前に、第1の温度で行われる。第3の熱処理は、活性化アニールの後に行われる。
【0162】
第3の熱処理は、プラズマ化した水素ガス(H)を含む雰囲気で行われる。第3の熱処理の雰囲気中の水素ガスの分圧は、例えば、0.1%以上、4%以下である。0.2%以上、1%以下が好ましく、0.3%以上、0.5%以下が更に好ましい。典型的には、0.3%程度を用いる。アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどで希釈する。
【0163】
例えば、炭化珪素層10が入れられた反応炉に、プラズマ化した水素ガス(H)を供給して熱処理を行う。
【0164】
第3の熱処理の第1の温度は、例えば、0℃以上、150℃以下である。10℃以上、100℃以下が好ましく、20℃以上50℃以下が更に好ましい。典型的には50℃程度である。プラズマ化した水素の濃度を4%以下に抑えているので、150℃以下では基板表面エッチングが抑制され、100℃以下では基板エッチングはほぼ起こらず、50℃以下では基板エッチングが全く起こらない。
【0165】
水素濃度と処理温度には相関があり、水素濃度が高ければ高いほど、低温での処理が必要になる。たとえば、水素濃度が4%以下では、処理温度50℃以下が好ましい。水素濃度が1%以下では、処理温度100℃以下が好ましい。水素濃度が0.5%以下では、処理温度150℃以下が好ましい。
【0166】
また、処理温度は、高いほどプラズマがエネルギーを持つので、有効である。0℃以上であり、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。典型的には、プラズマ化した水素の濃度0.3%、50℃を用いる。
【0167】
第3の熱処理により、炭化珪素層10の表面から炭素が脱離し、炭化珪素層10の表面がシリコンに富んだ表面となる。
【0168】
水素濃度が0.1%より低いと炭素を十分に離脱させることが困難であり、0.2%以上が好ましく、0.3%以上がより好ましい。1%を超えるとシリコンも離脱し、基板表面がエッチングされ始め、4%を超えると、基板表面が大きくエッチングされてしまう。つまり、0.1%以上、4%以下であり、0.2%以上、1%以下が好ましく、0.3%以上、1%以下がより好ましい。典型的には0.3%程度を用いる。第3の熱処理では、表面のエッチングを起こさせず、表面がシリコンに富んだ表面を得る。
【0169】
プラズマ化した水素は、表面にてCを剥ぎ取り、主にCHガスとして表面から離脱する。水素は優先的にCと反応するため、Siを残留させることになる。プラズマ化した水素は、表面近傍でCと反応して失活するので、膜表面を荒らすことなく、表面のCを選択的に取り除くことができる。シリコンに富んだ表面が1nm~5nm程度できた後、シリコンに富んだ表面にて、プラズマ化した水素は失活するので、シリコンに富んだ表面よりも奥には影響を及ぼさず、反応がストップする。必要な熱処理時間は0.5分以上、25分以下であり、それ以上続けても変化はない。よって、典型的な処理時間は、たとえば30分である。
【0170】
表面のシリコンに富んだ層を形成したことで、その後の酸化シリコン形成時の酸化剤(酸素、水、オゾンなど)、及び、第1熱処理時に酸化シリコン膜中の余分な酸素、による、基板酸化を防ぐことができる。そして、余ったシリコンは、第2の熱処理を行うことで、酸素が供給されるので、最終的には、酸素欠損のない、良好な酸化シリコン膜へと変換される。余ったシリコンは、第2の熱処理によって酸化シリコンに変換されるので、表面のシリコンに富んだ層の中のシリコン量は、余裕をもって多めに作っておけば良い。
【0171】
ステップS203では、第4の熱処理が行われる。第4の熱処理は、酸化シリコン膜を形成した後、第1の熱処理の前に第2の温度で行われる。
【0172】
第4の熱処理は、水素ガス(H)を含む雰囲気で行われる。第4の熱処理の雰囲気中の水素ガスの分圧は、例えば、0.1%以上、10%以下である。0.2%以上、5%以下が好ましく、0.3%以上、5%以下がより好ましい。
【0173】
例えば、炭化珪素層10が入れられた反応炉に、水素ガス(H)を供給して熱処理を行う。
【0174】
第4の熱処理の第2の温度は、例えば、1200℃以上1600℃以下である。第2の温度は、例えば、第1の温度より高い。
【0175】
第4の熱処理により、酸化シリコン膜の中から一部の酸素を脱離させる。酸化シリコン膜は、酸素が不足した膜となる。
【0176】
低温で成膜したシリコン酸化膜中には、シリコンと弱く結合した余分な酸素が残っている可能性がある。シリコンと弱く結合した酸素は、第1の熱処理中に基板に到達し、基板を酸化する危険性があるが、第4の熱処理により弱く結合した酸素をシリコン酸化膜中から離脱させることが可能である。こうして、酸化シリコン膜は、酸素が不足した膜となる。酸化シリコン膜を、酸素が不足した膜とすることで、第1の熱処理中に基板が酸化されることを抑制することができる。
【0177】
水素濃度が0.01%より低いと酸化膜中の酸素を十分に離脱させることが困難であり、0.03%以上が好ましく、0.05%以上が更に好ましい。5%を超えると、シリコン酸化膜自体が極微量であるがエッチングされはじめ、10%を超えるとシリコン酸化膜が大きくエッチングされてしまう。つまり、0.01%以上、10%以下であり、0.03%以上、5%以下が好ましく、0.05%以上、5%以下がより好ましい。
【0178】
温度が高ければ高いほど、水素濃度は低くすることが好ましい。水素は高温ほど装置チャンバーなどへダメージを与えるため、低濃度の水素が求められる。1500℃以上では、H濃度は0.1%以下が好ましい。1350℃以上では、H濃度は0.5%以下が好ましい。1200℃以上では、H濃度は1.0%以下が好ましい。
【0179】
本プロセスにて作成した、低温堆積酸化膜中では、シリコンのダングリングボンドが大量にあり、水素への電子供給がなされ、水素は解離して反応性が高まるため、低温、低濃度での処理で十分な効果がある。典型的には1250℃、0.3%を用いる。第4の熱処理では、シリコン酸化膜のエッチングを起こさせず、シリコン酸化膜中の弱く結合した酸素を離脱させ、酸素の不足したシリコン酸化膜を得る。
【0180】
酸素の不足したシリコン酸化膜は、言い換えれば、シリコンリッチな酸化膜である。酸素の不足したシリコン酸化膜を形成したことで、その後の第1熱処理時に酸化シリコン膜中の余分な酸素による、基板酸化を防ぐことができる。一方で、第1熱処理時には、余ったシリコンは窒化されやすく、より多くの窒素がシリコン酸化膜中に導入されることになる。しかし、第2の熱処理を行うことで、不足した酸素が供給され、窒素は酸素により置換され、窒素は外部に放出される。最終的には、窒素欠陥がなく、酸素欠損のない、良好な酸化シリコン膜へと変換される。余ったシリコンがあるために、第1熱処理による酸化膜中の窒素は多くなるが、第2の熱処理によって窒素が取り除かれるので、第4の熱処理によって、シリコン酸化膜中の弱く結合した酸素を確実に取り除き、十分にシリコンリッチなシリコン酸化膜を作ることが望ましい。
【0181】
炭素イオン注入(ステップS201)、第3の熱処理(ステップS202)、及び第4の熱処理(ステップS203)以外の製造方法は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と同様である。
【0182】
以上の製造方法により、図1に示すMOSFET100が形成される。
【0183】
次に、第2の実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果について説明する。
【0184】
p型不純物イオン注入(ステップS101)で、炭化珪素層中にアルミニウム(Al)をイオン注入する際、イオンの運動エネルギーにより炭化珪素層中に炭素空孔が形成される。
【0185】
炭化珪素層中に炭素空孔が存在すると、炭化珪素層中のキャリアのホール移動度(Hall mobility)が低下する。ホール移動度が低下するとMOSFETのオン抵抗が増大する。
【0186】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、炭素イオン注入(ステップS201)を備える。炭化珪素層中に炭素を導入することで、活性化アニールの際に炭素空孔に炭素原子が入りやすくなる。したがって、炭化珪素層中の炭素空孔の量が低減する。よって、MOSFETのオン抵抗の増大が抑制される。
【0187】
ステップS105で酸化シリコン膜を形成する際、炭化珪素層の表面が酸化される。例えば、酸化シリコン膜を低温の気相成長で形成する場合でも、雰囲気中に存在する酸素により、炭化珪素層の表面が酸化される。炭化珪素層が酸化されると、炭化珪素層中に炭素空孔が形成される。
【0188】
炭化珪素層中に炭素空孔が形成されると、例えば、窒素ガスを含む雰囲気で行われる第1の熱処理で、炭素空孔に窒素が入りn型のドーパントとなる。したがって、MOSFETの閾値電圧が低下する。
【0189】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、第3の熱処理(ステップS202)を備える。第3の熱処理は、酸化シリコン膜を形成する前に、水素ガス(H)を含む雰囲気で行われる。
【0190】
第3の熱処理により、炭化珪素層10の表面から炭素が脱離し、炭化珪素層10の表面がシリコンに富んだ表面となる。炭化珪素層10の表面がシリコンに富んだ表面となることで、酸化シリコン膜を形成する際、炭化珪素層に炭素空孔が形成されることが抑制される。したがって、MOSFETの閾値電圧の低下が抑制される。
【0191】
酸素が炭化珪素層の表面に達した際、シリコンが優先的に酸化されるため、シリコンに富んだ表面では、炭化珪素層が酸化されるまでに猶予が与えられる。その猶予期間の中で絶縁膜形成が終了すれば、炭化珪素層が酸化されることなく、よって、炭化珪素層に炭素空孔が形成されることなく、酸化シリコン膜を形成することができる。
【0192】
第3の熱処理の雰囲気中の水素ガスの分圧は、0.1%以上であることが好ましく、0.2%であることがより好ましく、0.3%以上であることが更に好ましい。雰囲気中の水素ガスの分圧が高くなることで、炭化珪素層10の表面からの炭素の脱離が更に促進される。
【0193】
窒素ガスを含む雰囲気で行われる第1の熱処理で、ステップS105で形成された酸化シリコン膜の中の酸素(特に、シリコンに弱く結合した余分な酸素)が炭化珪素層の表面に達し、炭化珪素層10の表面が酸化されることが考えられる。炭化珪素層10の表面が酸化されると、炭化珪素層の表面に炭素空孔が形成される。炭化珪素層中に炭素空孔が形成されると、炭素空孔に窒素が入りn型のドーパントとなる。したがって、MOSFETの閾値電圧が低下する。
【0194】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、第4の熱処理(ステップS204)を備える。第4の熱処理は、第1の熱処理を行う前に、水素ガス(H)を含む雰囲気で行われる。
【0195】
第4の熱処理により、ステップS105で形成された酸化シリコン膜の中から一部の酸素を脱離させる。第4の熱処理により、酸化シリコン膜の中の酸素量が低減する。酸化シリコン膜は、酸素が不足した膜となる。酸化シリコン膜には酸素空孔が形成される。
【0196】
酸化シリコン膜の中の酸素量が低減することにより、窒素ガスを含む雰囲気で行われる第1の熱処理の際の、炭化珪素層10の表面の酸化が抑制される。したがって、炭化珪素層の表面に炭素空孔が形成されることが抑制される。したがって、MOSFETの閾値電圧の低下が抑制される。
【0197】
なお、第4の熱処理により酸化シリコン膜に形成された酸素空孔には、窒素ガスを含む雰囲気で行われる第1の熱処理の際に窒素が入り、窒素欠陥を形成する。形成された窒素欠陥は、窒素酸化物ガス(NOx)を含む雰囲気で行われる第2の熱処理により低減される。
【0198】
また、第4の熱処理を備えることで、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と比較して、第1の熱処理の温度を高くしたり、時間を長くしたりすることができる。第1の熱処理の際の炭化珪素層10の表面の酸化が抑制されるためである。第1の熱処理の温度を高くしたり、時間を長くしたりすることで、界面終端領域40の窒素濃度を、更に高くすることが可能となる。
【0199】
第4の熱処理の雰囲気中の水素ガスの分圧は、0.1%であることが好ましく、0.2%以上であることがより好ましく、0.3%以上であることが更に好ましい。雰囲気中の水素ガスの分圧が高くなることで、酸化シリコン膜の中の酸素の脱離が更に促進される。
【0200】
第4の熱処理の第2の温度は、1200℃以上であることが好ましく、1300℃以上であることがより好ましく、1400℃以上であることが更に好ましい。第1の温度を上記範囲とすることで、酸化シリコン膜の中の酸素の脱離が更に促進される。
【0201】
第4の熱処理の第2の温度は、1600℃以下であることが好ましく、1500℃以下であることがより好ましい。第2の温度を上記範囲とすることで、酸化シリコン膜の膜厚の減少が抑制される。
【0202】
第4の熱処理の第2の温度は、第3の熱処理の第1の温度よりも高いことが好ましい。第2の温度を高くすることで、酸化シリコン膜の膜厚がより減少するが、酸化シリコン膜中の余分な酸素を確実に取り除くことができる。
【0203】
第3の熱処理によって、十分な量のシリコンが余った、シリコンに富んだ酸化珪素基板表面を形成することが好ましい。第4の熱処理によって、十分な量のシリコンが余った、シリコンに富んだ酸化シリコン膜を形成することが好ましい。それぞれ、第1の熱処理の時に、炭化珪素基板表面の酸化を防ぐ効果があるため、第1の熱処理のより長時間の処理が可能となり、界面窒素量の増加をもたらす。一方で、第1の熱処理の時に、酸化シリコン膜中の窒素量も増えるが、第2の熱処理により、界面窒素量を変えることなく、酸化シリコン膜中の窒素を取り除くことができる。第1の熱処理の後にも、界面や酸化シリコン膜中にシリコンが余らせるように第3の熱処理、第4の熱処理を行うことが好ましい。余ったシリコンは、第2の熱処理により酸化され酸化シリコンに変換される。
【0204】
以上、第2の実施形態によれば、界面終端領域の窒素濃度が高く、かつ、絶縁層中の窒素欠陥及び炭素欠陥の量が低減する半導体装置の製造方法が実現される。
【0205】
以上、第1及び第2の実施形態では、炭化珪素の結晶構造として4H-SiCの場合を例に説明したが、本発明は、6H-SiC、3C-SiCなど、その他の結晶構造の炭化珪素に適用することも可能である。
【0206】
また、第1及び第2の実施形態では、炭化珪素層のシリコン面、又は、m面にゲート絶縁層28を設ける場合を例に説明したが、炭化珪素のその他の面、例えば、カーボン面、a面、(0-33-8)面などにゲート絶縁層28を設ける場合にも本発明を適用することは可能である。
【0207】
また、第1及び第2の実施形態では、プレーナゲート構造のMOSFETの製造方法を例に説明したが、ゲート電極が炭化珪素層のトレンチ内に形成されるトレンチゲート構造のMOSFETの製造方法に本発明を適用することが可能である。
【0208】
また、第1及び第2の実施形態では、nチャネル型のMOSFETの製造方法を例に説明したが、nチャネル型のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の製造方法にも本発明を適用することは可能である。
【0209】
また、第1及び第2の実施形態では、nチャネル型のMOSFETの製造方法を例に説明したが、nチャネル型に限らず、pチャネル型のMOSFET又はpチャネル型のIGBTの製造方法にも本発明を適用することは可能である。
【0210】
また、第1及び第2の実施形態では、MOSFETの製造方法を例に説明したが、例えば、素子領域の周囲に設けられる終端領域の製造方法にも本発明を適用することは可能である。
【0211】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0212】
10 炭化珪素層
28 ゲート絶縁層
30 ゲート電極
40 界面終端領域
100 MOSFET(半導体装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11