(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】処理装置、光学装置、製造装置、処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20240610BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
G01N21/41 Z
G01N21/27 A
(21)【出願番号】P 2021151132
(22)【出願日】2021-09-16
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 博司
(72)【発明者】
【氏名】碓井 隆
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-121499(JP,A)
【文献】特開2019-211246(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0059468(US,A1)
【文献】OHNO, Hitoshi,Points-connecting neural network ray tracing,Optics Letters,2021年08月19日,Vol.46, No.17,pp.4116-4119,https://doi.org/10.1364/OL.434109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/74
G01M 11/00 - G01M 11/08
G01J 3/00 - G01J 3/52
G06F 18/00 - G06F 18/40
G06N 3/00 - G06N 99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線経路を示す光線データを推定モデルに入力して算出される推定出力、前記光線データ及び前記推定出力に基づいて算出される更新出力、及び、前記光線経路が従う時間に依存しない
、あるいは、時間に依存するパラメータに依存しない光線方程式から算出した、前記推定モデルの評価指標に基づいて、前記光線経路を形成する屈折率分布を算出する演算部
を具備する、処理装置。
【請求項2】
前記光線方程式は、光線の空間座標に対する発展方程式である、
請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記光線データは、前記光線経路を離散化した空間要素の座標を媒介パラメータとして表される、
請求項1に記載の処理装置。
【請求項4】
前記光線方程式は、前記媒介パラメータを用いて表され、
前記屈折率分布は、前記空間要素の屈折率として算出される、
請求項3に記載の処理装置。
【請求項5】
前記空間要素の前記座標は、直交座標空間で定められ、
前記媒介パラメータは、前記直交座標空間において定められる座標の1つの成分である、
請求項4に記載の処理装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記評価指標に基づいて前記推定モデルを反復的に最適化する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項7】
前記推定モデルは、ニューラルネットワークモデルであり、
前記ニューラルネットワークモデルは、前記評価指標を誤差として誤差逆伝搬法に基づいて最適化される、
請求項6に記載の処理装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記屈折率分布を前記光線経路から解析的に解くことができない場合であっても、前記光線経路の空間座標から前記屈折率分布を算出し得る、請求項1~7のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項9】
請求項1に記載の処理装置と、
前記光線経路を形成する照明光を物体に照明する照明部と、
前記物体に照明された前記照明光を撮像する撮像部と、
前記撮像部が撮像した撮像データに基づいて、前記照明光の光線方向を前記光線経路として算出する処理部と、
を具備する、光学装置。
【請求項10】
前記照明部からの前記照明光が照射される背景パターンをさらに具備し、
前記背景パターンに照射された前記照明光が前記物体を照明する、
請求項9に記載の光学装置。
【請求項11】
複数の選択領域のそれぞれの波長領域に対応した光線を通過させる光線選択部をさらに具備し、
前記物体に照明された前記照明光は、前記光線選択部を通過した後に撮像される、
請求項9に記載の光学装置。
【請求項12】
請求項1に記載の処理装置が算出した前記屈折率分布に基づいて光学素子を作成する素子作成部を具備する、
製造装置。
【請求項13】
光線経路を示す光線データを推定モデルに入力して推定出力を取得し、
前記光線データ及び前記推定出力に基づいて更新出力を算出し、
前記光線経路が従う時間に依存しない
、あるいは、時間に依存するパラメータに依存しない光線方程式に基づいて、前記推定モデルの評価指標を算出し、
前記推定出力、前記更新出力、及び前記評価指標に基づいて、前記光線経路を形成する屈折率分布を算出させる、
処理方法。
【請求項14】
前記屈折率分布を前記光線経路から解析的に解くことができない場合であっても、前記光線経路の空間座標から前記屈折率分布を算出させる、請求項13に記載の処理方法。
【請求項15】
コンピュータに、
光線経路を示す光線データを推定モデルに入力して得られる推定出力、前記光線データ及び前記推定出力に基づいて算出される更新出力、及び、前記光線経路が従う時間に依存しない
、あるいは、時間に依存するパラメータに依存しない光線方程式から算出した、前記推定モデルの評価指標に基づいて、前記光線経路を形成する屈折率分布を算出させる、
プログラム。
【請求項16】
前記屈折率分布を前記光線経路から解析的に解くことができない場合であっても、前記光線経路の空間座標から前記屈折率分布を算出させる、請求項15に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、処理装置、光学装置、製造装置、処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な産業において、物体の情報を取得する検査が実施されている。当該検査では、物体又は媒体に光を入射させ、光の入射方向に対する光の進行方向の変化(偏向)を取得する。そして、光の偏向を解析することにより、物体の情報を取得する。このような方法により物体の情報が取得できる場合は、光線経路を数式として定式化でき、かつ、物体情報を光線経路から解析的に逆計算できるときに限られている。そこで、光線経路に基づいて物体の情報を取得する方法を汎用的に使用できる技術が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Applied Optics, (米), 1984, Vol. 23, No. 14, p. 2449-2460
【文献】Applied Optics, (米), 2018,Vol. 57, No. 30,p. 9062-9069
【文献】Optics Letters, (米), 2021, Vol. 46. No. 17, p. 4116-4119
【文献】Journal of the Optical Society of America A, (米), 2020, Vol. 37, No. 3, p.411-416
【文献】OSA Continuum, (米), 2021, Vol. 4, No. 3, p. 840-848
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、光線経路に基づいて物体の情報を汎用的に取得できる処理装置、光学装置、製造装置、処理方法、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、処理装置は演算部を具備する。演算部は、光線経路を示す光線データを推定モデルに入力して算出される推定出力、光線データ及び推定出力に基づいて算出される更新出力、及び、光線経路に従う時間に依存しない、あるいは、時間に依存するパラメータに依存しない光線方程式から算出した、推定モデルの評価指標に基づいて、光線経路を形成する屈折率分布を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る処理装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る屈折率の算出方法において用いられる離散化された空間について説明する説明図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る屈折率を算出する処理の一例を模式的に示す模式図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る処理装置で実行される屈折率の演算処理の一例を説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、第2の実施形態に係る光学装置の一例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、第3の実施形態に係る光学装置の一例を示す概略図である。
【
図7】
図7は、第4の実施形態に係る光学装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、実施の形態について図面を参照しつつ説明する。図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。既出の内容に関して、詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、処理装置10の構成の一例を示す図である。処理装置10は、例えば、コンピュータである。処理装置10は、例えば、プロセッサ101、記憶媒体102、ユーザインタフェース103、及び通信モジュール104を備える。プロセッサ101、記憶媒体102、ユーザインタフェース103、及び通信モジュール104は、互いに対してバス105を介して接続される。
【0009】
プロセッサ101は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイコン、FPGA(Field Programmable Gate Array)、及び、DSP(Digital Signal processor)等のいずれかを含む。記憶媒体102には、メモリ等の主記憶装置に加え、補助記憶装置が含まれ得る。
【0010】
主記憶装置は、非一時的な記憶媒体である。主記憶装置は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の書き込み及び読み出しが随時に可能な不揮発性メモリ、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリ等である。また、これらの不揮発性メモリが組み合わせて使用されているものであってもよい。補助記憶装置は、有形の記憶媒体である。補助記憶装置は、前述の不揮発性メモリ、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリが組み合わせて使用されるものである。処理装置10では、プロセッサ101及び記憶媒体102のそれぞれは、1つのみ設けられてもよく、複数設けられてもよい。
【0011】
処理装置10では、プロセッサ101は、記憶媒体102に記憶されるプログラム等を実行することにより、処理を行う。また、処理装置10では、プロセッサ101によって実行されるプログラムは、インターネット等のネットワークを介して接続されたコンピュータ(サーバ)又はクラウド環境のサーバ等に格納されてもよい。この場合、プロセッサ101は、ネットワークを経由でプログラムをダウンロードする。
【0012】
ユーザインタフェース103では、処理装置10の使用者によって各種の操作等が入力されるとともに、使用者に告知する情報等が表示等によって告知される。ユーザインタフェース103は、ディスプレイなどの表示部であったり、タッチパネルやキーボード等の入力部であったりする。なお、入力部として処理装置10に接続されたデバイスが使用されてもよく、ネットワークを介して通信可能な他の処理装置の入力部が使用されてもよい。
【0013】
次に、第1の実施形態の処理装置10で実現される、光の偏向に基づいて物体の情報を取得する機能について説明する。処理装置10は、演算部20を備える。演算部20の機能は、例えば、プロセッサ101によって実現される。なお、演算部20で実行される処理のすべてがプロセッサ101によって実行されなくてもよい。ある一例では、ネットワークを介して接続された別の処理装置によって演算部20で実行される処理の一部が実行されてもよい。別のある一例では、ネットワークを介して接続された別の処理装置によって、演算部20の機能のすべてが実現されてもよい。このようにネットワークを介して接続された別の処理装置が利用される場合、処理装置10がプライマリとして機能することで別の処理装置をレプリカとして使用してもよく、処理装置10が別の処理装置のレプリカとして機能してもよい。処理装置10は、別の処理装置で実現される演算部20の機能によって、適宜プライマリ/レプリカを選択することができる。
【0014】
本実施形態の処理装置10は、光の偏向に基づいて、物体の情報として屈折率分布を取得する。ここで、光は、波長が限定されない電磁波として定義される。光は、例えば、可視光、X線、赤外線、遠赤外線、ミリ波、及びマイクロ波等のいずれかであってよい。可視光は、例えば、波長が430nm以上750nm以下である。また、空間において光が伝搬する媒体(空間媒体)を含むあらゆる物体では、屈折率nが光の波長に基づいて定められる。ただし、空間媒体は真空であってもよい。また、空間媒体は、光がその中を伝搬する際、光を徐々に吸収するものであってもよい。例えば、真空中では光の屈折率はいずれの波長領域に対しても1であり、空気中でも光の屈折率はいずれの波長領域に対してもほぼ1である。ガラスの屈折率は可視光の波長領域対して約1.5であり、水の屈折率は、可視光の波長領域において約1.3である。
【0015】
光の屈折率をn、光の単位方向ベクトルをUとすると、光の運動量ベクトルPは式(1)のように書ける。
【0016】
【0017】
このとき、光の位置ベクトルをQとすると、光の光線方程式は式(2)のように書ける(非特許文献3及び非特許文献4を参照)。
【0018】
【0019】
ここで、cは真空中の光の速度であり、tは時間である。
【0020】
式(2)において、空間直交座標を(x,y,z)とすると、微少時間要素dtは式(3)のように書ける。
【0021】
【0022】
ここで、dzは微小空間要素である。また、x’及びy’はzに対する微分係数であることから、式(4)及び式(5)のように書ける。
【0023】
【0024】
マクスウェル方程式から導かれる光の特性から、真空中の光の速度cは常に定数であり、時間及び空間位置に依存しない。一方、一般的な物体を考えたとき、速度は時間に依存する。例えばボールを遠方に投げたとき、ボールの速度は時間に依存して徐々に減衰する。つまり、速度cが常に一定であることは光の特別な性質である。
【0025】
式(3)の右辺において、x’及びy’はx及びyの空間座標zによる微分係数であり、dzは微少空間要素であり、いずれも屈折率nは時間に依存しない量である。よって、式(3)において、微少時間要素dtは空間要素のみで記述される。また、式(2)で表される光線方程式に式(1)及び式(3)を代入すると式(6)のように書ける。よって、式(2)で表される光線方程式は、時間に依存しない方程式である。このように光線方程式が、時間ではなく空間座標に対する発展方程式として表せることは、光の特別な性質である。
【0026】
【0027】
ここで、3次元位置ベクトルQを、2次元位置ベクトルqと空間座標zとを用いて、式(7)のように定める。
【0028】
【0029】
同様に、3次元単位方向ベクトルUを、2次元方向ベクトルuと空間座標uzとを用いて式(8)のように定める。
【0030】
【0031】
式(8)において、空間座標uzは、3次元単位方向ベクトルUの大きさが1であることにより、定まる量である。そのため、空間座標uzは、2次元方向ベクトルuから式(8)の右辺のように算出される。式(7)及び式(8)を用いると、式(6)は式(9)のように書くことができる。
【0032】
【0033】
式(9)からわかるように、光線方程式は、直交座標空間内で定義され、1つの座標変数(ここでは空間座標z)を媒介パラメータとして記述される。
【0034】
式(9)より、光線経路が定まることで、光線の位置ベクトルq、方向ベクトルu、及び空間座標uzが決定される。このようにq、u、uzが定まると、式(9)における未知数はnのみである。したがって、屈折率nを未知数とする方程式として式(9)を解くことで、光線経路から屈折率nを決定することができる。
【0035】
式(9)から屈折率nを求めるため、本実施形態では式(9)を離散化する。すなわち、
図2に示すように、空間において格子点(グリッド)を定義し、各格子点における光の位置ベクトルq及び方向ベクトルuを定める。また、各格子点において屈折率nを定める。格子点の番号をi(iは整数)とすると、格子点番号iにおける位置ベクトルはq
i、方向ベクトルはu
i、屈折率はn
iとする。光線経路を離散化した空間要素の座標は、直交座標空間で定められる。
【0036】
図3は、屈折率を算出する処理の一例を模式的に示す模式図である。本実施形態の処理装置10の演算部20は、前述した式(9)の屈折率nを、
図3に示す模式図にしたがって算出する。演算部20は、前述した位置ベクトルq
i、方向ベクトルu
i、媒介パラメータzを光線データDとして扱う。すなわち、光線データDは、位置ベクトルq
i、方向ベクトルu
i、媒介パラメータzを含む。位置ベクトルq
i、方向ベクトルu
i、媒介パラメータzは、それぞれ、直交座標空間において定められる座標の1つの成分である。演算部20は、屈折率n
iを算出するため、推定モデルMを利用する。推定モデルMは、例えば、ニューラルネットワークモデル(NNモデル)である。ニューラルネットワークモデルは、入力層(input layer)、隠れ層(hidden layer)、出力層(output layer)を備える。演算部20は、ニューラルネットワークモデルの入力層に光線データDを入力する。演算部20は、ニューラルネットワークモデルを利用することにより、光線データDに基づいて推定出力PRを算出する。演算部20は、光線データD及び現在の推定出力PRに基づいて、更新出力UPとして屈折率n
iを算出する。更新出力UPは、例えば、式(10)により算出される。なお、式(10)において、aは推定出力PRであり、ニューラルネットワークモデルから出力される値である。また、aは、格子点番号iごとにそれぞれ定まる量である。そのため、aはa
iと読み替えてもよい。
【0037】
【0038】
演算部20は、式(11)に基づいて、評価指標Eを算出する。
【0039】
【0040】
この評価指標Eは、現在の推定出力PRにおいて求められる屈折率niと、光線データDを形成する光線経路における実際の屈折率とのずれ(誤差)を表す。すなわち、式(11)の値が0になると式(9)が成立し、光線データDを形成する光線経路における実際の屈折率が決定される。本実施形態の演算部20は、評価指標Eを誤差逆伝搬法(back-propagation)に基づいてニューラルネットワークモデルに伝達する。ニューラルネットワークモデルでは、当該評価指標を小さくするように所定の演算が実行される。演算部20は、再びニューラルネットワークモデルから推定出力PRを取得する。演算部20は、光線データD及び更新された推定出力PRに基づいて、更新出力UPとして更新された屈折率niを算出する。演算部20は、評価指標Eを再び算出する。演算部20は、これらの演算を繰り返し実行する。演算部20は、評価指標Eがあらかじめ設定された閾値未満になるまで、これらの演算を実行する。閾値は、例えば、1以下である。このように、演算部20は、評価指標Eに基づいてニューラルネットワークモデル(推定モデル)を反復的に最適化する。以上の処理により、演算部20は、光線データDに基づいて、光線データDを形成する光線経路における屈折率を算出する。
【0041】
図4は、演算部20で実行される処理の一例を説明するフローチャートである。演算部20は、光線データDを取得する(S41)。光線データDは、処理装置10に設けられるユーザインタフェースを介して入力されてもよく、通信モジュールを介して外部から取得されてもよい。演算部20は、光線データDをニューラルネットワークモデルにおいて処理し(S42)、出力として推定出力PRを得る(S43)。演算部20は、推定出力PRに基づいて更新出力UPとしての屈折率を算出する(S44)。演算部20は、式(11)に基づいて評価指標Eを算出する(S45)。演算部20は、算出された評価指標Eが所定の閾値未満であるか否かを判定する(S46)。評価指標Eが所定の閾値以上である場合(S46-No)、演算部20は評価指標Eを誤差逆伝搬法によりニューラルネットワークモデルに伝達し、ニューラルネットワークモデルを最適化する(S47)。そして、処理はS42に戻り、演算部20はS43以降の処理を実行する。評価指標Eが所定の閾値未満である場合(S46-Yes)、入力された光線データDを形成する光線経路における屈折率が求まったとして、演算部20は、最終的な更新出力UPを算出した屈折率として出力する(S48)。以上のようにして、本実施形態の演算部20は光線データDに基づいて屈折率を算出する。
【0042】
前述のように本実施形態では、処理装置10は演算部20を具備する。演算部20は、光線経路を示す光線データDを推定モデルMに入力して算出される推定出力PR、光線データD及び推定出力PRに基づいて算出される更新出力UP、及び、光線経路が従う、時間に依存しない光線方程式から算出した評価指標Eに基づいて、光線経路を形成する屈折率分布を算出する。したがって、本実施形態では、屈折率分布を光線経路から解析的に解くことができない場合であっても、光線方程式が座標の発展方程式として表され、光線経路が座標で決まる情報として扱うことができる。これにより、その光線経路を実現する屈折率を算出することができる。
【0043】
一方、光線方程式が時間に依存する場合、光線経路の空間座標情報のみから屈折率を算出することができない。つまり、屈折率の算出には、時間発展する光線経路の情報が必要となる。これは、仮に光線方程式が時間に依存するとした場合、その光線方程式を満たすためには、時間に依存する光線経路と、屈折率の情報とが少なくとも必要であることからわかる。このとき、仮に時間に依存しない光線経路と屈折率とで光線方程式が満たされれば、光線方程式が時間に依存しないと言える。これに対し、本実施形態のように光線方程式が空間座標のみに依存する場合、その光線方程式を満たすためには、空間座標に依存する光線経路と屈折率の情報とがあれば十分である。言い換えれば、光線方程式を空間座標の発展方程式として表すことができてはじめて、光線経路の空間座標情報から屈折率が理論上算出できる。よって、本実施形態の処理装置10では、光線経路に基づいて、物体の情報を汎用的に取得できる。
【0044】
本実施形態では、光線データDが、光線経路を離散化した空間要素の座標を媒介パラメータとして表されることが好ましい。このように光線データを離散化して取り扱うことにより、本実施形態の処理装置10では、式(9)に基づく方程式を数値的に解くことができ、光線経路を解析的に表すことができない場合であっても、光線経路に基づいて物体の情報を汎用的に取得することができる。
【0045】
本実施形態では、光線方程式が媒介パラメータを用いて表されるとともに、屈折率分布が空間要素の屈折率として算出されることが好ましい。このように光線方程式及び屈折率を表すことにより、光線方程式を数値的に解いた結果に基づいて、屈折率分布を空間要素ごとに算出することができる。したがって、例えば、空間要素の大きさを適切に調整することにより、算出結果に求められる精度を満たす屈折率分布を出力することができる。
【0046】
本実施形態では、推定モデルがニューラルネットワークモデルであるとともに、ニューラルネットワークモデルが評価指標を誤差として誤差伝搬法に基づいて最適化されることが好ましい。このようにニューラルネットワークモデルを推定モデルとして用いることで、所定の光線経路を形成する屈折率分布を適切に算出することができる。
【0047】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態に係る光学装置の一例を示す概略図である。第2の実施形態に係る光学装置30は、照明部31、撮像部32、処理部33、及び背景パターン34を備える。処理部33は、経路解析部35及び屈折率算出部36を備える。本実施形態でも、第1の実施形態と同様に光は電磁波として定義される。照明部31の光源は、例えば、LED(Light Emitting Device)である。照明部31は、光(照明光)を背景パターン34に向けて照射する。撮像部32は、背景パターン34で反射された光を撮像し、撮像データを生成する。撮像データは、例えば、モノクロ画像でもよく、RGBなどの3チャンネルの色を持つカラー画像でもよい。画像は複数の画素を持ち、各画素は例えば0から255までの間の画素値を持つ。カラー画像の場合は、各画素において色に対するチャンネルの数に対応する画素値を持つ。処理部33は、撮像部32から入力される撮像データに基づいて所定の処理を実行する。処理部33は、例えばコンピュータであり、第1の実施形態の処理装置10の構成と同様であってよい。
【0048】
経路解析部35は、撮像部32から入力される撮像データに基づいて、光線経路が算出される。光線経路の算出方法は、例えば、非特許文献2に記載される背景シュリーレン法である。算出された光線経路に基づいて、処理部33は、第1の実施形態で定義した格子点(x,y,z)のそれぞれにおける、光の位置ベクトルq及び方向ベクトルuを算出する。屈折率算出部36は、処理部33が算出した光の位置ベクトルq及び方向ベクトルuに基づいて、光線経路を形成する屈折率分布を算出する。屈折率算出部36は、第1の実施形態に係る処理装置10である。すなわち、屈折率算出部36は、光の位置ベクトルq及び方向ベクトルuを光線データとして推定モデルに入力するとともに第1の実施形態と同様の演算処理を実行することで、各格子点における屈折率niを算出する。
【0049】
本実施形態では、撮像部32と背景パターン34との間に屈折率分布を算出する媒体(物体)を測定対象Aとして配置する。媒体は、背景パターン34で反射される照明部31の光に対して透明であれば特に限定されるものではない。例えば光が可視光である場合、媒体は、水、ガラス、空気等である。測定対象Aに温度分布が存在する場合(測定対象Aの温度が位置によって異なる場合)、温度分布に対応する屈折率分布が測定対象Aに生じる。本実施形態では、前述のようにして撮像部32から撮像データが経路解析部35に入力されることで光線経路が算出され、屈折率算出部36は、光線経路から求められる光線データに基づいて、光線経路における各格子点の屈折率niを算出する。よって、本実施形態の光学装置30を用いることにより、光線経路における屈折率分布を算出することができる。したがって、本実施形態の光学装置30では、光線経路上に配置される測定対象Aとしての媒体の屈折率分布を決定することができる。
【0050】
(第3の実施形態)
図6は、第3の実施形態に係る光学装置の一例を示す概略図である。第3の実施形態に係る光学装置40は、照明部41、撮像部42、及び処理部43を備える。撮像部42は、結像光学素子44、光線選択部45、及びイメージセンサ46を備える。処理部43は、経路解析部47及び屈折率算出部48を備える。本実施形態でも、第1の実施形態と同様に光は電磁波として定義される。照明部41は第2の実施形態の照明部31と同様の構成であり、処理部43は第2の実施形態の処理部33と同様の構成であり、経路解析部47は第2の実施形態の経路解析部35と同様の構成であり、屈折率算出部48は屈折率算出部36と同様の構成である。そのため、屈折率算出部48は、第1の実施形態に係る処理装置10である。本実施形態では、撮像部42において光が入射する側から順に、結像光学素子44、光線選択部45、及びイメージセンサ46がこの順で配置される。
【0051】
結像光学素子44は、撮像部42に入射した光をイメージセンサ46上に結像させる。光線選択部45は、波長の選択領域を備える。光線選択部45の各選択領域は、例えば、固有の波長領域の光を透過させ、その波長領域から外れる波長領域の光の透過を遮断するカラーフィルタである。本実施形態では、3つの選択領域を備え、各選択領域が光を透過させる波長領域は異なる。よって、各選択領域を透過した光は、選択領域に対する光の入射方向に応じて色分けされる。イメージセンサ46は、光線選択部45により光線方向に応じて色分けされた光に基づく撮像データを取得する。
【0052】
経路解析部47は、撮像部42から入力される撮像データに基づいて、光線経路が算出される。光線経路の算出方法は、例えば、非特許文献5に記載される、光線方向をカラーマッピングする手法である。処理部33は、第2の実施形態と同様にして、光の位置ベクトルq及び方向ベクトルuを算出する。屈折率算出部36は、光の位置ベクトルq及び方向ベクトルuを光線データとして推定モデルに入力するとともに第1の実施形態と同様の演算処理を実行することで、各格子点における屈折率niを算出する。
【0053】
本実施形態では、照明部41との間に屈折率分布を算出する物体を測定対象Aとして配置する。物体は、照明部31の光に対して透明であれば特に限定されるものではない。例えば光が可視光である場合、物体は、ガラス、透明プラスチック、光を透過する薄い金属等である。例えば、測定対象Aに微小な欠陥DFが存在する場合、この欠陥DFにより、照明部41から測定対象Aに照明された光が偏向される。撮像部42は、前述のようにしてカラーマッピングされた撮像データを取得する。経路解析部47は、当該撮像データに基づいて、前述の手法等を利用することにより光線経路を算出する。屈折率算出部48は、光線経路から求められる光線データに基づいて、光線経路における各格子点の屈折率niを算出する。よって、本実施形態の光学装置30を用いることにより、光線経路における屈折率分布を算出することができる。したがって、本実施形態の光学装置30では、測定対象Aとしての物体の欠陥に起因する屈折率分布(屈折率の空間分布)を取得できる。
【0054】
ある一例では、本実施形態の光学装置40を用いて、欠陥が実質的にない測定対象(基準となる測定対象)における屈折率分布(基準となる屈折率分布)を予め測定する。次に、本実施形態の光学装置40を用いて、検査する測定対象Aの屈折率分布を測定する。そして、基準となる屈折率分布と検査する測定対象の屈折率分布とを比較することで、検査する測定対象の欠陥が検知できる。
【0055】
(第4の実施形態)
図7は、第4の実施形態に係る製造装置の一例を示す概略図である。第4の実施形態に係る製造装置50は、データ生成部51と、素子作成部52とを具備する。データ生成部51は、第1の実施形態の処理装置10、第2の実施形態の光学装置30、又は第3の実施形態の光学装置40のいずれかである。データ生成部51は、第1の実施形態~第3の実施形態と同様にして、屈折率分布(屈折率分布データ)を生成する。素子作成部52は、データ生成部51が生成した屈折率分布に基づいて、光学素子を作成する。すなわち、本実施形態の製造装置では、データ生成部51に入力データとして所定の光線経路を入力することで、素子作成部52が、当該光線経路を生成する屈折率分布を有する光学素子を作成する。光学素子の作成方法は、例えば、ガラス加工等である。なお、素子作成部52がネットワークに接続されている場合、素子作成部52はネットワークを介して屈折率分布を取得してもよい。
【0056】
これらの少なくとも一つの実施形態の処理装置10は、演算部20を具備する。演算部20は、光線経路を示す光線データDを推定モデルMに入力して算出される推定出力PR、光線データD及び推定出力PRに基づいて算出される更新出力UP、及び、光線経路に従う時間に依存しない光線方程式から算出した、推定モデルMの評価指標Eに基づいて、光線経路を形成する屈折率分布を算出する。これにより、光線経路に基づいて物体の情報を汎用的に取得できる処理装置、光学装置、処理方法、及びプログラムを提供することができる。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下、特許出願時の特許請求の範囲を付記する。
[付記]
[1]
光線経路を示す光線データを推定モデルに入力して算出される推定出力、前記光線データ及び前記推定出力に基づいて算出される更新出力、及び、前記光線経路が従う時間に依存しない光線方程式から算出した、前記推定モデルの評価指標に基づいて、前記光線経路を形成する屈折率分布を算出する演算部
を具備する、処理装置。
[2]
前記光線方程式は、光線の空間座標に対する発展方程式である、
付記1に記載の処理装置。
[3]
前記光線データは、前記光線経路を離散化した空間要素の座標を媒介パラメータとして表される、
付記1に記載の処理装置。
[4]
前記光線方程式は、前記媒介パラメータを用いて表され、
前記屈折率分布は、前記空間要素の屈折率として算出される、
付記3に記載の処理装置。
[5]
前記空間要素の前記座標は、直交座標空間で定められ、
前記媒介パラメータは、前記直交座標空間において定められる座標の1つの成分である、
付記4に記載の処理装置。
[6]
前記演算部は、前記評価指標に基づいて前記推定モデルを反復的に最適化する、
付記1~5のいずれか1に記載の処理装置。
[7]
前記推定モデルは、ニューラルネットワークモデルであり、
前記ニューラルネットワークモデルは、前記評価指標を誤差として誤差逆伝搬法に基づいて最適化される、
付記6に記載の処理装置。
[8]
付記1に記載の処理装置と、
前記光線経路を形成する照明光を物体に照明する照明部と、
前記物体に照明された前記照明光を撮像する撮像部と、
前記撮像部が撮像した撮像データに基づいて、前記照明光の光線方向を前記光線経路として算出する処理部と、
を具備する、光学装置。
[9]
前記照明部からの前記照明光が照射される背景パターンをさらに具備し、
前記背景パターンに照射された前記照明光が前記物体を照明する、
付記8に記載の光学装置。
[10]
複数の選択領域のそれぞれの波長領域に対応した光線を通過させる光線選択部をさらに具備し、
前記物体に照明された前記照明光は、前記光線選択部を通過した後に撮像される、
付記8に記載の光学装置。
[11]
付記1に記載の処理装置が算出した前記屈折率分布に基づいて光学素子を作成する素子作成部を具備する、
製造装置。
[12]
光線経路を示す光線データを推定モデルに入力して推定出力を取得し、
前記光線データ及び前記推定出力に基づいて更新出力を算出し、
前記光線経路が従う時間に依存しない光線方程式に基づいて、前記推定モデルの評価指標を算出し、
前記推定出力、前記更新出力、及び前記評価指標に基づいて、前記光線経路を形成する屈折率分布を算出させる、
処理方法。
[13]
コンピュータに、
光線経路を示す光線データを推定モデルに入力して得られる推定出力、前記光線データ及び前記推定出力に基づいて算出される更新出力、及び、前記光線経路が従う時間に依存しない光線方程式から算出した、前記推定モデルの評価指標に基づいて、前記光線経路を形成する屈折率分布を算出させる、
プログラム。
【符号の説明】
【0058】
10…処理装置、20…演算部、30,40…光学装置、31,41…照明部、32,42…撮像部、33,43…処理部、34…背景パターン、45…光線選択部、50…製造装置、52…素子作成部、D…光線データ、E…評価指標、M…推定モデル、PR…推定出力、UP…更新出力。