(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】作業機の油圧システム
(51)【国際特許分類】
F15B 21/045 20190101AFI20240610BHJP
F15B 11/00 20060101ALI20240610BHJP
F15B 11/08 20060101ALI20240610BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
F15B21/045
F15B11/00 M
F15B11/08 A
E02F9/22 R
(21)【出願番号】P 2021214869
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】福田 祐史
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-190581(JP,A)
【文献】特開2016-125560(JP,A)
【文献】特開2003-343269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 21/045
F15B 11/00
F15B 11/08
E02F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、
油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータの作動を制御する制御弁と、
前記原動機の動力により駆動して、前記制御弁を切り換えるためのパイロット油を吐出する第1油圧ポンプと、
前記原動機の動力により駆動して、前記油圧アクチュエータを作動させるための作動油を吐出する可変容量の第2油圧ポンプと、
前記第2油圧ポンプを制御して、前記第2油圧ポンプの吐出圧と前記油圧アクチュエータの作動時の最高負荷圧との圧力差であるLS(ロードセンシング)差圧を設定する油圧制御部と、
前記第1油圧ポンプから吐出されたパイロット油が流れる第1パイロット油路と、
前記第1パイロット油路から分岐して前記油圧制御部に接続される第2パイロット油路と、
前記第2パイロット油路に設けられ、且つ、前記油圧制御部に作用するパイロット油の圧力であるパイロット圧を変更する電磁弁と、
前記電磁弁と前記油圧制御部との間に設けられ、且つ、パイロット油を含む作動油の温度が低下するに連れて前記LS差圧を大きくする圧力補償部と、
を備えている作業機の油圧システム。
【請求項2】
前記圧力補償部は、
前記第2パイロット油路における前記電磁弁と前記油圧制御部との間の分岐点から分岐し、且つ、パイロット油を排出する排出油路と、
前記第2パイロット油路における前記電磁弁と前記分岐点との間に配置された第1絞り部と、
前記排出油路に配置され、且つ、前記第1絞り部とは流量特性の異なる第2絞り部と、を備えている請求項1に記載の作業機の油圧システム。
【請求項3】
前記第1絞り部と前記第2絞り部とは、絞りの穴径及び絞りの長さの少なくとも一方が異なる請求項2に記載の作業機の油圧システム。
【請求項4】
前記第1絞り部及び前記第2絞り部は、両方ともチョーク形絞りであり、前記絞りの穴径としてのチョークの内径及び前記絞りの長さとしてのチョークの長さの少なくとも一方が異なる請求項3に記載の作業機の油圧システム。
【請求項5】
前記第1絞り部及び前記第2絞り部は、両方ともオリフィス形絞りであり、前記絞りの穴径としてのオリフィスの穴径及び前記絞りの長さとしての径を絞っている箇所の長さであるオリフィス刃の寸法の少なくとも一方が異なる請求項3に記載の作業機の油圧システム。
【請求項6】
前記第1絞り部及び前記第2絞り部は、一方がチョーク形絞りであり、他方がオリフィス形絞りである請求項3に記載の作業機の油圧システム。
【請求項7】
前記第1絞り部はチョーク形絞りであり、前記第2絞り部はオリフィス形絞りである請求項6に記載の作業機の油圧システム。
【請求項8】
前記油圧アクチュエータの作動時の最高負荷圧が作用可能な第1油路と、
前記第2油圧ポンプからの前記作動油の吐出圧が作用可能な第2油路と、
前記電磁弁の作動を制御して前記パイロット圧を調整することにより、前記LS差圧を
変更する制御装置と、を備えている請求項1~7のいずれか1項に記載の作業機の油圧システム。
【請求項9】
前記制御装置は、前記電磁弁の作動を制御することにより、前記電磁弁に流入するパイロット油の第1圧力と、当該電磁弁から出力されるパイロット油の第2圧力との圧力差であるパイロット差圧を変更する請求項8に記載の作業機の油圧システム。
【請求項10】
前記第2パイロット油路における前記電磁弁と前記油圧制御部との間に第1絞り部が設けられ、
前記制御装置は、前記パイロット差圧を変更し、
前記圧力補償部は、前記第2圧力と、前記第1絞り部から出力されるパイロット油の第3圧力との差圧を、パイロット油の温度が低下するに連れて変更する請求項9に記載の作業機の油圧システム。
【請求項11】
前記第1油圧ポンプは、前記原動機の回転数に応じて吐出流量が変動する定容量の油圧ポンプであり、
前記油圧制御部は、
前記第2油圧ポンプに備わる斜板の角度を変更する斜板変更部と、
前記第1油路に接続され、前記斜板変更部に前記作動油を供給して前記斜板変更部を作動させる流量補償弁と、
前記第2パイロット油路に接続され、前記流量補償弁の開度を変更する開度変更部と、を含み、
前記制御装置は、前記電磁弁の作動を制御して、前記開度変更部が前記流量補償弁の開度を変更することにより、前記LS差圧を変更する請求項8~10のいずれか1項に記載の作業機の油圧システム。
【請求項12】
前記圧力補償部は、パイロット油の温度が第1温度よりも低い第2温度に変化すると、前記第1温度のときの前記パイロット圧よりも高い、前記第2温度のときの前記パイロット圧に変更し、
前記開度変更部は、前記圧力補償部によって変更された前記第2温度のときの前記パイロット圧に応じて前記流量補償弁の開度を変更し、
前記流量補償弁は、変更された前記開度に応じて前記斜板の角度を変更させるように前記斜板変更部を作動させ、前記第2油圧ポンプからの作動油の吐出量が変更される請求項11に記載の作業機の油圧システム。
【請求項13】
前記原動機の実際の回転数である実回転数を測定する第1測定装置を備え、
前記制御装置は、前記第1測定装置により測定された前記実回転数に基づいて前記LS差圧を変更する請求項8~12のいずれか1項に記載の作業機の油圧システム。
【請求項14】
前記原動機の実際の回転数である実回転数を測定する第1測定装置を備え、
前記制御装置は、前記第1測定装置により測定された前記実回転数と所定の目標回転数との差に基づいて前記LS差圧を変更する請求項8~12のいずれか1項に記載の作業機の油圧システム。
【請求項15】
前記原動機の実際の回転数である実回転数を測定する第1測定装置を備え、
前記制御装置は、前記第1測定装置により測定された前記実回転数が所定の目標回転数より低下したときに前記LS差圧を減少させる請求項8~12のいずれか1項に記載の作業機の油圧システム。
【請求項16】
前記原動機は、噴射された燃料を燃焼させることで駆動する内燃機関から成り、
前記制御装置は、前記内燃機関に対する燃料の噴射量又は前記内燃機関の負荷率に基づいて前記LS差圧を変更する請求項8~12のいずれか1項に記載の作業機の油圧システム。
【請求項17】
前記LS差圧の変更を指令する指令部材を備え、
前記制御装置は、前記指令部材により前記LS差圧の変更の指令が発せられたときに、前記LS差圧を大きくなるように変更する請求項8~12のいずれか1項に記載の作業機の油圧システム。
【請求項18】
前記原動機の回転数を設定可能なアクセル部材を備え、
前記アクセル部材は、指示部材として兼用され、
前記制御装置は、前記アクセル部材の操作状態に基づいて、前記原動機の回転数の設定値を判断し、前記LS差圧を変更する請求項17に記載の作業機の油圧システム。
【請求項19】
作業機に設けられた流路を流れる前記作動油、冷却水、又は前記原動機のオイルのうち、少なくとも一方の流体の温度を測定する第2測定装置を備え、
前記制御装置は、前記第2測定装置により測定された前記流体の温度に基づいて前記LS差圧を変更する請求項8~12のいずれか1項に記載の作業機の油圧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキッドステアローダ、コンパクトトラックローダ等の作業機の油圧システム及びこの油圧システムを備えた作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業負荷に応じて油圧ポンプから吐出する作動油の吐出量を制御するロードセンシングシステムを搭載した作業機が知られている。
例えば特許文献1に開示された作業機は、油圧アクチュエータの作動を制御する制御弁を切り換えるためのパイロット油を吐出する第1油圧ポンプと、油圧アクチュエータを作動させるための作動油を吐出する第2油圧ポンプと、油圧アクチュエータの作動時の最高負荷圧が作用可能な第1油路と、第2油圧ポンプからの作動油の吐出圧が作用可能な第2油路と、第1油圧ポンプからパイロット油が吐出されるパイロット油路と、第2油圧ポンプを制御する油圧制御部とを備えている。
【0003】
上記油圧制御部は、第1油路に作用する最高負荷圧と第2油路に作用する第2油圧ポンプの吐出圧とのLS(ロードセンシング)差圧が一定になるように、第2油圧ポンプからの作動油の吐出量を制御する。また、上記油圧制御部は、パイロット油路に設けられた絞り部の差圧(つまり、絞り部の上流側の端部箇所(第1取出部)から取り出されたパイロット油の第1圧力と、絞り部の下流側の端部箇所(第2取出部)から取り出されたパイロット油の第2圧力との差圧)に基づいて、第2油圧ポンプからの作動油の吐出量を制御(所謂、絞り式ゲイン制御)することで、第1油圧ポンプの馬力制御を行って、馬力ロスを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
第2油圧ポンプ(LSポンプ)は、LS(ロードセンシング)差圧が一定になるように作動油の吐出量が調整されているが、決められたスプールの開口面積においてLS差圧が一定であったとしても、作動油の温度によってポンプの吐出流量が変わってしまう。つまり、作動油の温度が変化すると、作動油の粘性が変化するので、スプールの開口面積が一定で且つLS差圧が一定であったとしても、通過する流量が変わるからである。上記の絞り式ゲイン制御の場合には、低温になると絞り部の前後差圧が増えるため、低温時は常温又は高温時よりもLS差圧が高く設定されることになり、第2油圧ポンプの吐出は温度影響が低減されていた。これに対して、上記の絞り部に替えて比例弁を用いて馬力制御を行う構成にすると、低温では第2油圧ポンプの吐出量が減り、高温では第2油圧ポンプの吐出量が増えてしまうという問題が生じる。したがって、比例弁を用いて馬力制御を行う構成では、パイロット圧の温度補正を行うことができないのが実状である。
【0006】
本発明は、比例弁を用いて馬力制御を行う構成において、簡易な構成でパイロット圧の温度補正を行うことができ、馬力制御の精度を向上させることができる作業機の油圧システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決するための本発明の技術的手段は、以下の通りである。
本発明の作業機の油圧システムは、原動機と、油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータの作動を制御する制御弁と、前記原動機の動力により駆動して、前記制御弁を切り換えるためのパイロット油を吐出する第1油圧ポンプと、前記原動機の動力により駆動して、前記油圧アクチュエータを作動させるための作動油を吐出する可変容量の第2油圧ポンプと、前記第2油圧ポンプを制御して、前記第2油圧ポンプの吐出圧と前記油圧アクチュエータの作動時の最高負荷圧との圧力差であるLS(ロードセンシング)差圧を設定する油圧制御部と、前記第1油圧ポンプから吐出されたパイロット油が流れる第1パイロット油路と、前記第1パイロット油路から分岐して前記油圧制御部に接続される第2パイロット油路と、前記第2パイロット油路に設けられ、且つ、前記油圧制御部に作用するパイロット油の圧力であるパイロット圧を変更する電磁弁と、前記電磁弁と前記油圧制御部との間に設けられ、且つ、パイロット油を含む作動油の温度が低下するに連れて前記LS差圧を大きくする圧力補償部と、を備えている。
【0008】
また、本発明の一態様では、前記圧力補償部は、前記第2パイロット油路における前記電磁弁と前記油圧制御部との間の分岐点から分岐し、且つ、パイロット油を排出する排出油路と、前記第2パイロット油路における前記電磁弁と前記分岐点との間に配置された第1絞り部と、前記排出油路に配置され、且つ、前記第1絞り部とは流量特性の異なる第2絞り部と、を備えている。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記第1絞り部と前記第2絞り部とは、絞りの穴径及び絞りの長さの少なくとも一方が異なる。
また、本発明の一態様では、前記第1絞り部及び前記第2絞り部は、両方ともチョーク形絞りであり、前記絞りの穴径としてのチョークの内径及び前記絞りの長さとしてのチョークの長さの少なくとも一方が異なる。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記第1絞り部及び前記第2絞り部は、両方ともオリフィス形絞りであり、前記絞りの穴径としてのオリフィスの穴径及び前記絞りの長さとしての径を絞っている箇所の長さであるオリフィス刃の寸法の少なくとも一方が異なる。
また、本発明の一態様では、前記第1絞り部及び前記第2絞り部は、一方がチョーク形絞りであり、他方がオリフィス形絞りである。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記第1絞り部はチョーク形絞りであり、前記第2絞り部はオリフィス形絞りである。
また、本発明の一態様では、前記作業機の油圧システムは、前記油圧アクチュエータの作動時の最高負荷圧が作用可能な第1油路と、前記第2油圧ポンプからの前記作動油の吐出圧が作用可能な第2油路と、前記電磁弁の作動を制御して前記パイロット圧を調整することにより、前記LS差圧を変更する制御装置と、を備えている。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記制御装置は、前記電磁弁の作動を制御することにより、前記電磁弁に流入するパイロット油の第1圧力と、当該電磁弁から出力されるパイロット油の第2圧力との圧力差であるパイロット差圧を変更する。
また、本発明の一態様では、前記第2パイロット油路における前記電磁弁と前記油圧制御部との間に第1絞り部が設けられ、前記制御装置は、前記パイロット差圧を変更し、前記圧力補償部は、前記第2圧力と、前記第1絞り部から出力されるパイロット油の第3圧力との差圧を、パイロット油の温度が低下するに連れて変更する。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記第1油圧ポンプは、前記原動機の回転数に応じて吐出流量が変動する定容量の油圧ポンプであり、前記油圧制御部は、前記第2油圧ポンプに備わる斜板の角度を変更する斜板変更部と、前記第1油路に接続され、前記斜板変更部に前記作動油を供給して前記斜板変更部を作動させる流量補償弁と、前記第2パイロット油路に接続され、前記流量補償弁の開度を変更する開度変更部と、を含み、前記制御装置は、前記電磁弁の作動を制御して、前記開度変更部が前記流量補償弁の開度を変更することにより、前記LS差圧を変更する。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記圧力補償部は、パイロット油の温度が第1温度よりも低い第2温度に変化すると、前記第1温度のときの前記パイロット圧よりも高い、前記第2温度のときの前記パイロット圧に変更し、前記開度変更部は、前記圧力補償部によって変更された前記第2温度のときの前記パイロット圧に応じて前記流量補償弁の開度を変更し、前記流量補償弁は、変更された前記開度に応じて前記斜板の角度を変更させるように前記斜板変更部を作動させ、前記第2油圧ポンプからの作動油の吐出量が変更される。
【0015】
また、本発明の一態様では、前記作業機の油圧システムは、前記原動機の実際の回転数である実回転数を測定する第1測定装置を備え、前記制御装置は、前記第1測定装置により測定された前記実回転数に基づいて前記LS差圧を変更する。
また、本発明の一態様では、前記作業機の油圧システムは、前記原動機の実際の回転数
である実回転数を測定する第1測定装置を備え、前記制御装置は、前記第1測定装置により測定された前記実回転数と所定の目標回転数との差に基づいて前記LS差圧を変更する。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記作業機の油圧システムは、前記原動機の実際の回転数である実回転数を測定する第1測定装置を備え、前記制御装置は、前記第1測定装置により測定された前記実回転数が所定の目標回転数より低下したときに前記LS差圧を減少させる。
また、本発明の一態様では、前記原動機は、噴射された燃料を燃焼させることで駆動する内燃機関から成り、前記制御装置は、前記内燃機関に対する燃料の噴射量又は前記内燃機関の負荷率に基づいて前記LS差圧を変更する。
【0017】
また、本発明の一態様では、前記作業機の油圧システムは、前記LS差圧の変更を指令する指令部材を備え、前記制御装置は、前記指令部材により前記LS差圧の変更の指令が発せられたときに、前記LS差圧を大きくなるように変更する。
また、本発明の一態様では、前記作業機の油圧システムは、前記原動機の回転数を設定可能なアクセル部材を備え、前記アクセル部材は、指示部材として兼用され、前記制御装置は、前記アクセル部材の操作状態に基づいて、前記原動機の回転数の設定値を判断し、前記LS差圧を変更する。
【0018】
また、本発明の一態様では、前記作業機の油圧システムは、作業機に設けられた流路を流れる前記作動油、冷却水、又は前記原動機のオイルのうち、少なくとも一方の流体の温度を測定する第2測定装置を備え、前記制御装置は、前記第2測定装置により測定された前記流体の温度に基づいて前記LS差圧を変更する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、比例弁を用いて馬力制御を行う構成において、簡易な構成でパイロット圧の温度補正を行うことができ、馬力制御の精度を向上させることができる作業機の油圧システムを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】第1実施形態の作業機の作業系の油圧システムの全体図である。
【
図1B】第1実施形態の油圧制御部の周辺の拡大図である。
【
図1C】第1実施形態の変形例の油圧制御部の周辺の拡大図である。
【
図1D】第1実施形態の変形例の油圧制御部の周辺の拡大図である。
【
図2A】第1実施形態のエンジン回転数とLS差圧とポンプ吐出量との関係をグラフで示す図である。
【
図2B】第1実施形態のエンジン回転数とLS差圧とポンプ吐出量との関係を表で示す図である。
【
図2C】第1実施形態の低温時及び常温時の開度変更部への圧力とLS差圧との関係をグラフで示す図である。
【
図3】第2実施形態の作業機の作業系の油圧システムの全体図である。
【
図4A】第2実施形態のエンジン回転数とLS差圧とポンプ吐出量との関係をグラフで示す図である。
【
図4B】第2実施形態のエンジン回転数とLS差圧とポンプ吐出量との関係を表で示す図である。
【
図5】第3実施形態のエンジン回転数とLS差圧とポンプ吐出量との関係をグラフで示す図である。
【
図6】第3実施形態のエンジン回転数とLS差圧とポンプ吐出量との関係を表で示す図である。
【
図7】第4実施形態の作業機の油圧システムの全体図である。
【
図8】第4実施形態の第1変形例の油圧回路図である。
【
図10】本発明の実施形態の作業機の機体の内部構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る作業機の油圧システム及びこの油圧システムを備えた作業機の好適な実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
[作業機の全体構成]
図9は、本発明の実施形態の作業機1の側面図である。作業機1は、機体2と、キャビン3と、作業装置4と、走行装置5とを備えている。本実施形態では、作業機1の一例としてコンパクトトラックローダを示しているが、本発明に係る作業機はコンパクトトラックローダに限定されず、例えば、トラクタ、スキッドステアローダ、バックホー等であってもよい。
【0022】
機体2には、キャビン3が搭載されている。キャビン3の内部には、運転席8が設けられている。作業機1の運転席に着座した運転者の前側(
図9の左側)を前方、運転者の後側(
図9の右側)を後方、運転者の左側(
図9の手前側)を左方、運転者の右側(
図9の奥側)を右方とする。
図10は、作業機1の機体2の内部構造を示す側面図である。
図10に示すように、キャビン3は、連結軸6などにより機体2と連結されていて、連結軸6を中心に上方へ回動可能である。
【0023】
機体2の内部には、油圧ポンプ(例えば、第1油圧ポンプP1と第2油圧ポンプP2)と、原動機(例えば、エンジン32)とが搭載されている。原動機は、石油系の燃料によって駆動する内燃機関であるエンジン32(ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン)から構成されている。他の例として、原動機は、電力によって駆動する電気モータから構成されるとしてもよい。本実施形態では、原動機をエンジン32として以降の説明を進める。
【0024】
図9において、作業装置4は機体2に装着されている。作業装置4は、ブーム10と、作業具の一例であるバケット11と、リフトリンク12と、制御リンク13と、ブームシリンダ14と、バケットシリンダ15とを有している。
ブーム10は、キャビン3の右側及び左側に上下へ揺動自在に設けられている。バケット11は、ブーム10の先端部(前端部)に上下へ揺動自在に設けられている。リフトリンク12及び制御リンク13は、ブーム10の基部(後部)を支持している。
【0025】
左右の各ブーム10の前部同士は、異形の連結パイプで連結されている。各ブーム10の基部(後部)同士は、円形の連結パイプで連結されている。
リフトリンク12、制御リンク13、及びブームシリンダ14は、左右の各ブーム10に対応するように、機体2の左側と右側にそれぞれ設けられている。
リフトリンク12は、各ブーム10の基部の後部に、縦向きに設けられている。このリフトリンク12の上部は、各ブーム10の基部の後部寄りに枢支軸(第1枢支軸16)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。また、リフトリンク12の下部は、機体2の後部寄りに枢支軸(第2枢支軸17)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第2枢支軸17は、第1枢支軸16の下方に設けられている。
【0026】
ブームシリンダ14の上部は、枢支軸(第3枢支軸18)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第3枢支軸18は、各ブーム10の基部であって、当該基部の前部に設けられている。ブームシリンダ14の下部は、枢支軸(第4枢支軸19)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第4枢支軸19は、機体2の後部の下部寄りであって第3枢支軸18の下方に設けられている。
【0027】
制御リンク13は、リフトリンク12の前方に設けられている。この制御リンク13の一端は、枢支軸(第5枢支軸20)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第5枢支軸20は、機体2であって、リフトリンク12の前方に対応する位置に設けられている。制御リンク13の他端は、枢支軸(第6枢支軸21)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第6枢支軸21は、ブーム10であって、第2枢支軸17の前方で且つ第2枢支軸17の上方に設けられている。
【0028】
ブームシリンダ14が伸縮することにより、ブーム10の基部がリフトリンク12及び制御リンク13によって支持されながら、ブーム10が第1枢支軸16回りに上下へ揺動し、ブーム10の先端部が昇降する。制御リンク13は、ブーム10の上下への揺動に伴
って、第5枢支軸20回りに上下へ揺動する。リフトリンク12は、制御リンク13の上下への揺動に伴って、第2枢支軸17回りに前後へ揺動する。
【0029】
ブーム10の前部には、バケット11に代えて、別の作業具が装着可能である。別の作業具としては、例えば、油圧圧砕機、油圧ブレーカ、アングルブルーム、アースオーガ、パレットフォーク、スイーパー、モア、スノウブロア等の予備アタッチメントがある。
左側のブーム10の前部には、油圧取出部(図示省略)が設けられている。油圧取出部は、予備アタッチメントに装備された油圧アクチュエータ(図示省略)と、ブーム10に設けられた油圧パイプ等の配管(図示省略)とを接続する。油圧取出部と予備アタッチメントの油圧アクチュエータとは、別の油圧パイプで接続される。油圧取出部に供給された作動油は、当該別の油圧パイプを通過して、油圧アクチュエータに供給される。
【0030】
バケットシリンダ15は、各ブーム10の前部寄りにそれぞれ配置されている。バケットシリンダ15を伸縮することで、バケット11が上下へ揺動する。
走行装置5は機体2の外側に設けられている。左側及び右側の各走行装置5は、本実施形態ではクローラ型(セミクローラ型を含む)の走行装置から成る。なお、当該走行装置5に代えて、前輪及び後輪を有する車輪型の走行装置を採用してもよい。
ブームシリンダ14が伸縮することにより、ブーム10が上下へ揺動する。バケットシリンダ15が伸縮することにより、バケット11が上下へ揺動する。
【0031】
[第1実施形態]
図1Aは、第1実施形態の作業機1の作業系の油圧システム30Aを示す図である。
図1Aに示すように、油圧システム30Aは、第1油圧ポンプP1と第2油圧ポンプP2とを備えている。第1油圧ポンプP1は、エンジン32の動力によって駆動する油圧ポンプである。第1油圧ポンプP1は、作動油タンク22に貯留された作動油を吐出可能である。第1油圧ポンプP1は、エンジン32の回転数に応じて吐出流量が変動する定容量型のギヤポンプによって構成されている。
【0032】
第2油圧ポンプP2は、エンジン32の動力によって駆動するポンプであって、第1油圧ポンプP1とは異なる位置に設置された油圧ポンプである。この第2油圧ポンプP2は、斜板形の可変容量アキシャルポンプから構成されている。第2油圧ポンプP2は、作動油タンク22に貯留された作動油を吐出可能である。
第2油圧ポンプP2は、作業機1で作業を行うための油圧アクチュエータ(ブームシリンダ14、バケットシリンダ15、予備アタッチメントに設けられた油圧アクチュエータ、走行装置5に設けられた油圧アクチュエータなど)を作動させる作動油を吐出する。第1油圧ポンプP1は、作業機1に備わる油圧機器(油圧弁及び油圧アクチュエータなど)の作動を制御する制御弁(
図1Aの制御弁56など)を切り換えるためのパイロット油を吐出する。
【0033】
油圧システム30Aは、ブーム10、バケット11、予備アタッチメント等を作動させる油圧システムであって、複数の制御弁56を備えている。複数の制御弁56は、第2油圧ポンプP2の吐出ポートに接続された油路39に設けられている。複数の制御弁56は、ブーム制御弁56A、バケット制御弁56B、及び予備制御弁56Cである。ブーム制御弁56Aは、ブームシリンダ14の作動を制御するための弁である。バケット制御弁56Bは、バケットシリンダ15の作動を制御するための弁である。予備制御弁56Cは、予備アタッチメントに設けられた油圧アクチュエータの作動を制御するための弁である。
【0034】
ブーム10の操作とバケット11の操作は、運転席8の周囲に設けられたレバー型等の操作部材58によって行うことができる。操作部材58は、操作装置(作業操作装置)52に含まれている。操作部材58は、中立位置から、前、後ろ、左、右、左斜め前方向、左斜め後ろ方向、右斜め前方向、及び右斜め後ろ方向にそれぞれ傾動可能に支持されている。操作部材58をいずれかの方向に傾動操作することにより、操作部材58の下部に設けられた複数の操作弁59(下降用操作弁59A、上昇用操作弁59B、操作弁59C、操作弁59D)を操作することができる。複数の操作弁59は、第1油圧ポンプP1に接続された第1パイロット油路40に接続され、第1油圧ポンプP1からの作動油が供給可能である。
【0035】
操作部材58を前側に傾動させると、下降用操作弁59Aが操作されて、当該下降用操作弁59Aからパイロット圧が出力される。このパイロット圧がブーム制御弁56Aの受圧部に作用することで、ブーム10が下降する。
操作部材58を後側に傾動させると、上昇用操作弁59Bが操作されて、当該上昇用操作弁59Bからパイロット圧が出力される。このパイロット圧がブーム制御弁56Aの受圧部に作用することで、ブーム10が上昇する。
【0036】
操作部材58を右側に傾動させると、バケットダンプ用の操作弁59Cが操作され、バケット制御弁56Bの受圧部にパイロット油が作用する。その結果、バケット制御弁56Bがバケットシリンダ15を伸長させる方向に作動し、操作部材58の傾動量に比例した速度で、バケット11がダンプ動作する。
操作部材58を左側に傾動させると、バケットスクイ用の操作弁59Dが操作され、バケット制御弁56Bの受圧部にパイロット油が作用する。その結果、バケット制御弁56Bがバケットシリンダ15を縮小させる方向に作動し、操作部材58の傾動量に比例した速度で、バケット11がスクイ動作する。
【0037】
予備アタッチメントの操作は、運転席8の周囲に設けられた操作スイッチ24によって行うことができる。操作スイッチ24は、例えば、揺動自在なシーソ型スイッチ、スライド自在なスライド型スイッチ、或いは、押圧自在なプッシュ型スイッチで構成されている。操作スイッチ24の操作に応じた電気信号が、制御装置25に入力される。
制御装置25は、CPU、MPU、又はメモリ等の半導体と、電気電子回路等から構成されている。制御装置25は、操作スイッチ24の操作量に応じた指令(電気信号)を第1電磁弁60A及び第2電磁弁60Bに出力する。第1電磁弁60A及び第2電磁弁60Bは、制御装置25から出力された指令に応じて、即ち操作スイッチ24の操作量に応じて、開作動する。その結果、第1電磁弁60A及び第2電磁弁60Bに接続された予備制御弁56Cにパイロット油が供給され、予備アタッチメントの予備アクチュエータが予備制御弁56Cから供給された作動油によって作動する。
【0038】
油圧システム30Aは、作業機1で行う作業に応じて第2油圧ポンプP2の吐出量を制御するロードセンシングシステムを備えている。当該ロードセンシングシステムには、第1油路70、第2油路71、油圧制御部75、電磁弁81、及び圧力補償部90が備わっている。油圧制御部75は、流量補償弁72、斜板変更部73、及び開度変更部76を含んでいる。なお、圧力補償部90については後述する。
【0039】
第1油路70(「PLS油路」とも言う。)は、各制御弁56(ブーム制御弁56A、バケット制御弁56B、予備制御弁56C)と流量補償弁72とに接続されている。第1油路70は、各制御弁56(ブーム制御弁56A、バケット制御弁56B、予備制御弁56C)の作動時に、各制御弁56(ブーム制御弁56A、バケット制御弁56B、予備制御弁56C)にかかる作動油の圧力である負荷圧を検出するための油路である。第1油路70は、各制御弁56(ブーム制御弁56A、バケット制御弁56B、予備制御弁56C)の負荷圧のうち、最高負荷圧であるPLS信号圧を流量補償弁72に伝達する。即ち、第1油路70には、各油圧アクチュエータ(ブームシリンダ14、バケットシリンダ15など)の作動時の最高負荷圧が作用可能である。
【0040】
第2油路71(「PPS油路」とも言う。)は、第2油圧ポンプP2の吐出ポートと流量補償弁72とに接続されている。第2油路71は、第2油圧ポンプP2から吐出される作動油の圧力(吐出圧)であるPPS信号圧を流量補償弁72に伝達する。即ち、第2油路71には、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出圧が作用可能である。第2油圧ポンプP2は、制御弁56(ブーム制御弁56A、バケット制御弁56B、予備制御弁56C)のスプールの開口状態に応じて、第2油路71、油路39に作動油を吐出する。
【0041】
図1Bは、油圧システム30Aの油圧制御部75の周辺の拡大図である。
斜板変更部73は、例えば油圧シリンダから成る。斜板変更部73は、ピストン73A、ピストン73Aを収容する収容部73B、及びピストン73Aに連結したロッド(移動部)73Cを有している。ロッド73Cの一端部は、ピストン73Aに接続され、ロッド73Cの他端部は、第2油圧ポンプP2の斜板に接続されている。斜板変更部73のボトム側の収容部73B内に流量補償弁72から作動油が供給されることで、ピストン73Aが移動して、ロッド73Cが伸縮し、第2油圧ポンプP2の斜板の角度が変更可能になる。即ち、斜板変更部73は、第2油圧ポンプP2の斜板の角度を変更する。なお、収容部73B内に供給された作動油は、例えば収容部73Bのトップ側(ピストン73Aに対してロッド73C側)に接続された油路(図示省略)から作動油タンク22に排出される。
【0042】
流量補償弁72は、制御弁から成り、第1油路70と第2油路71に接続されている。流量補償弁72は、PLS信号圧及びPPS信号圧に基づいて、斜板変更部73の作動を制御可能な制御弁である。流量補償弁72は、PPS信号圧とPLS信号圧との圧力差であるLS差圧(=PPS信号圧-PLS信号圧)を一定にするように、斜板変更部73に対する作動油の供給ポートの開度が設定される。流量補償弁72は、設定された開度に応じて、斜板変更部73に作動油を供給して油圧をかけることにより、斜板変更部73のピストン73Aを移動させて、ロッド73Cを伸縮させる。
【0043】
上記のようなロードセンシングシステムによれば、PPS信号圧とPLS信号圧との圧力差であるLS差圧が一定になるように、流量補償弁72と斜板変更部73などにより第2油圧ポンプP2の斜板の角度が変更されて、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量が調整される。
油圧システム30Aは馬力制御回路を備えている。当該馬力制御回路には、油圧制御部75が含まれている。油圧制御部75は、第1油圧ポンプP1から吐出されるパイロット油によっても作動し、LS差圧を一定にするように第2油圧ポンプP2を制御する。
【0044】
第1油圧ポンプP1から吐出されたパイロット油は第1パイロット油路40を流れる。第1パイロット油路40から分岐する第2パイロット油路41は、油圧制御部75に接続されている。第2パイロット油路41には、電磁弁81が設けられている。電磁弁81は、油圧制御部75に作用するパイロット油の圧力であるパイロット圧を変更する。電磁弁81は、例えば電磁比例弁、パイロットチェック弁、或いは可変リリーフ弁等で構成されている。
図1A、
図1Bの例では、電磁弁81は電磁比例弁から成る。電磁弁81に備わるソレノイド等が励磁されることで、電磁弁81の開度が任意に変更可能である。電磁弁81の作動(開度の変更)は、制御装置25によって電気的に制御される。
【0045】
第2パイロット油路41より第1パイロット油路40の上流側(第1油圧ポンプP1側)にある中途部分には、フィルタ49が設けられている。第1パイロット油路40のフィルタ49より上流側にある部分から分岐して作動油タンク22に到る油路40Aには、リリーフ弁42が設けられている。
第1油圧ポンプP1から第1パイロット油路40へ吐出されたパイロット油は、フィルタ49、第2パイロット油路41、及び電磁弁81を通って開度変更部76に流れて行く。電磁弁81は、開度が変更されることで、第2パイロット油路41を通って開度変更部76に到るパイロット油の流量を変化させ、開度変更部76にかかるパイロット圧を調整する。詳しくは、電磁弁81の開度が小さくなるに連れて、開度変更部76に流れるパイロット油の流量が減少し、開度変更部76に作用するパイロット圧が大きくなる。フィルタ49によっても、第1パイロット油路40、第2パイロット油路41から開度変更部76に作用するパイロット圧が大きくなる。
【0046】
このように電磁弁81は、開度変更部76を作動させるパイロット油のパイロット圧を調整する。また、電磁弁81の開度が変更されることで、第2パイロット油路41を流れるパイロット油のうち、電磁弁81に流入するパイロット油の第1圧力Piと、電磁弁81から流出するパイロット油の第2圧力PAとにパイロット差圧(パイロット油の圧力差;PA-Pi)が生じ、且つ当該パイロット差圧が変化する。つまり、第2圧力PAは、電磁弁81から流出して後述する第1絞り部91までの区間(電磁弁81と第1絞り部91との間の区間)の圧力である。
【0047】
開度変更部76は、例えば油圧シリンダから成る。開度変更部76は、ピストン76A、ピストン76Aを収容する収容部76B、及びピストン76Aに連結したロッド76Cを有している。ロッド76Cの一端部は、ピストン76Aに接続され、ロッド76Cの他端部は、流量補償弁72に接続されている。収容部76Bのボトム側(ロッド76Cと反対側)には、第2パイロット油路41が接続されている。
【0048】
第2パイロット油路41から収容部76Bのボトム側(ロッド76Cと反対側)の内部に流入するパイロット油のパイロット圧(第2圧力PA)により、ピストン76Aが収容部76B内で移動する。詳しくは、第2パイロット油路41から収容部76B内に流入するパイロット油のパイロット圧が小さくなると、ピストン76Aがロッド76Cを縮小させる方向(流量補償弁72から離れる方向)に移動する。第2パイロット油路41から収容部76B内に流入するパイロット油のパイロット圧が大きくなると、ピストン76Aがロッド76Cを伸長させる方向(流量補償弁72に近づく方向)に移動する。ロッド76Cが伸縮することにより、流量補償弁72の開度が変更される。即ち、開度変更部76は、電磁弁81により調整されたパイロット圧に応じて作動して、流量補償弁72の開度を変更する。開度変更部76の収容部76B内にあるパイロット油は、収容部76Bのロッド76C側に接続された排出油路41Aから排出される。
【0049】
流量補償弁72は、PLS信号圧とPPS信号圧との差圧であるLS差圧が一定となるように開度が設定されるだけでなく、開度変更部76のピストン76Aの移動に応じて開度が変更される。流量補償弁72の開度が変更されることで、流量補償弁72から斜板変更部73に供給される作動油の流量と圧力も変更される。
開度変更部76の非作動時は、流量補償弁(制御弁)72に内蔵されたスプール(図示省略)がスプリング72Aにより所定方向に付勢されることで、LS差圧が一定になるように、流量補償弁72の開度は設定されている。開度変更部76が作動して、ロッド76Cが伸縮することで、流量補償弁72のスプールがスプリング72Aの弾性力に抗して移動し、流量補償弁72の開度が変更される。これにより、流量補償弁72から斜板変更部73へ供給される作動油の流量と圧力が変更され、当該変更に応じて、斜板変更部73のピストン73Aが移動して、ロッド73Cが伸縮し、第2油圧ポンプP2の斜板の角度が変更される。
【0050】
図1Aに示す制御装置25は、電磁弁81の作動を制御することによって、油圧制御部75及び第2油圧ポンプP2も制御し、流量補償弁72が一定にするLS差圧を変更する。以下、LS差圧の変更について詳しく説明する。
制御装置25には、エンジン32の回転数を測定する第1測定装置82が接続されている。以下、エンジン32の回転数を、単に「エンジン回転数」と言い、第1測定装置82の測定値を実回転数と言う。制御装置25は、第1測定装置82により測定されたエンジン回転数(実回転数)に応じて、電磁弁81に制御信号(電流信号)を出力して、電磁弁81の開度を制御する。この電磁弁81の開度に応じて、開度変更部76に作用するパイロット圧(第2圧力PA)が変更されて、開度変更部76により流量補償弁72の開度が変更される。そして、流量補償弁72の開度の変更に応じて、流量補償弁72から斜板変更部73に作用する作動油の圧力が変更され、斜板変更部73により第2油圧ポンプP2の斜板の角度が変更され、第2油圧ポンプP2が吐出する作動油の流量が変更される。これにより、第1油路70に作用するPLS信号圧と第2油路71に作用するPPS信号圧との差圧(圧力差)であるLS差圧が変更される。変更後のLS差圧は、流量補償弁72などにより一定に保たれる。
【0051】
図2Aは、作業機1のエンジン回転数とLS差圧とポンプ吐出量の関係をグラフで示す図である。
図2Bは、
図2Aと同一の関係を表で示す図である。
図2A及び
図2Bにおいて、ポンプ吐出量とは、制御弁56(ブーム制御弁56A、バケット制御弁56B、予備制御弁56C)のスプールの開口面積を一定(最大)にした場合の、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量のことである。
【0052】
図2A及び
図2Bに示すエンジン回転数とLS差圧とポンプ吐出量の関係は、例えば、予め行われた実験又はシミュレーションの結果などに基づいて導出される。また、当該関係を示すデータが、制御装置25に設けられた記憶部26に記憶されている。当該関係を示すデータとしては、例えば
図2Aに示すようなグラフのデータであってもよいし、
図2Bに示すような表のデータであってもよいし、或いはエンジン32の実回転数からLS差圧を算出する関数のデータであってもよい。即ち、エンジン回転数とLS差圧とポンプ吐
出量の関係は、エンジン32の実回転数から対応するLS差圧を求めることが可能なデータであれば、形式はなんでもよい。以降、説明の便宜上、
図2A及び
図2Bに示すエンジン回転数とLS差圧とポンプ吐出量の関係のことを制御マップという。
【0053】
図2Aに破線で示す制御線L1は、エンジン回転数に応じたLS差圧の変化を表していて、
図2Bに示すエンジン回転数とLS差圧との1対1の関係と対応している。また、
図2Aに示す太い実線は、エンジン回転数に応じたポンプ吐出量の変化を表していて、
図2Bに示すエンジン回転数とポンプ吐出量との1対1の関係と対応している。
図2Aの制御マップの第1制御線L1又は
図2Bの制御マップの左から1列目と2列目は、エンジン回転数がアイドリング時の回転数(1200rpm)から最大回転数(2600rpm)まで変化した場合の、LS差圧の変化を示している。なお、アイドリングとは、作業機1においてエンジン回転数を低く抑制した状態のことである。
図2Aの第1制御線L1及び
図2Bでは、エンジン回転数が増加するに連れて、LS差圧も増加している。
【0054】
制御装置25は、第1測定装置82で測定されたエンジン32の実回転数を第1測定装置82から取得すると、
図2A又は
図2Bの制御マップに基づいて、当該実回転数に対応するLS差圧を設定する。そして、制御装置25は、設定したLS差圧に対応する制御信号を電磁弁81に出力し、電磁弁81の開度を変更する。制御装置25が設定したLS差圧に対応する制御信号は、予め記憶部26に記憶された演算式又は制御データに基づいて、制御装置25が生成してもよい。上記のように制御装置25からの制御信号に応じて電磁弁81の開度が変更されると、開度変更部76に作用するパイロット圧(第2圧力PA)が変更されて、開度変更部76と流量補償弁72と斜板変更部73により第2油圧ポンプP2が制御されて、制御信号に対応するLS差圧が実現される。即ち、制御装置25は、第1測定装置82により測定されたエンジン32の実回転数に基づいて、油圧制御部75によりLS差圧を変更する。
【0055】
このようにLS差圧が変更されることで、第2油圧ポンプP2の斜板の角度が変更されて、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量が調整される。即ち、作業機1のエンジン32の駆動に連動して、第2油圧ポンプP2の出力が調整される。このため、作業機1の作業系の馬力制御の精度を向上させることができ、当該制御可能な馬力の範囲で、第2油圧ポンプP2の出力を最大限に引き出すことが可能となる。
【0056】
また、制御装置25が電磁弁81の開度を制御することによって、開度変更部76に作用するパイロット圧(第2圧力PA)が変更されて、開度変更部76と流量補償弁72と斜板変更部73によりLS差圧が変更されて、第2油圧ポンプP2の出力が調整される。このため、第2油圧ポンプP2の出力調整の自由度が高くなり、作業機1の作業系の馬力制御の精度を一層向上させることができる。
【0057】
さて、ここでは、圧力補償部90について説明する。圧力補償部90は、電磁弁81と油圧制御部75との間に設けられ、且つ、パイロット油の温度が低下するに連れてパイロット圧を高くする。具体的には、圧力補償部90は、排出油路41C、第1絞り部91、及び第2絞り部92を備えている。排出油路41Cは、第2パイロット油路41における電磁弁81と油圧制御部75との間の分岐点41Bから分岐し、且つ、パイロット油の一部を作動油タンク22に排出する。第1絞り部91は、例えば、絞りであり、第2パイロット油路41における電磁弁81と分岐点41Bとの間に配置されている。第2絞り部92は、第1絞り部91とは流量特性の異なる絞りであり、排出油路41Cに配置されている。圧力補償部90は、第2圧力PAと、第1絞り部91から出力されるパイロット油の第3圧力との差圧を、パイロット油の温度が低下するに連れて高くする。
【0058】
第1絞り部91と第2絞り部92とは、絞りの穴径及び絞りの長さの少なくとも一方が異なっている。このため、第1絞り部91と第2絞り部92とは、パイロット油の温度が低下するに連れてパイロット油の流れ易さに違いが生じる絞りとなっている。つまり、第1絞り部91と第2絞り部92との流路抵抗は、パイロット油の温度が低下するに連れて大きくなるものの、両方の流路抵抗の増加量に違いが生じる。言い換えれば、両者は粘性感度が異なる絞りとなっている。この実施形態では、第1絞り部91はチョーク形絞りで
あり、第2絞り部92はオリフィス形絞りであるとする。
【0059】
チョーク形絞り(第1絞り部91)は、作動油の粘性の影響を受けやすい。一方、オリフィス形絞り(第2絞り部92)は、作動油(パイロット油)の粘性の影響を受けにくい。このため、第1絞り部91は、第2絞り部92に比べて低温では圧損が大きく、高温では圧損が小さくなる。そのため、電磁弁81(比例弁)が一定の圧力を出力していても、低温の場合と高温の場合とで下記の通り、開度変更部76のピストン76A(つまり、ゲイン制御ピストン)にかかる圧力が変わる。
ここで、作動油が低温である場合と、高温である場合とについて説明する。なお、低温である場合と高温である場合とで、電磁弁81(比例弁)への制御信号は同値であるとする。
【0060】
(低温の場合)
作動油(パイロット油)が低温である場合、チョーク形絞り(第1絞り部91)の圧損が大きく(流量に対して圧損が大きく)なり、高温時に比べて、開度変更部76のピストン76A(つまり、ゲイン制御ピストン)に流れる作動油の流量が減る。このため、開度変更部76のピストン76A(つまり、ゲイン制御ピストン)にかかる圧力は、高温の場合よりも小さくなる。そして、ピストン76Aがロッド76Cを収縮させる方向(流量補償弁72から遠ざかる方向)に移動し、流量補償弁72の開度が変更される。そして、斜板変更部73のピストン73Aが移動して、ロッド73Cが収縮し、第2油圧ポンプP2の斜板の角度が大きくなり、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量が、高温時に比べて多くなる。このため、低温時は、高温時よりもLS差圧が大きくなる。
【0061】
(高温の場合)
作動油(パイロット油)が高温である場合、チョーク形絞り(第1絞り部91)の圧損が小さく(流量に対して圧損が小さく)なり、低温の場合に比べて、電磁弁81(比例弁)から開度変更部76のピストン76A(つまり、ゲイン制御ピストン)に流れる作動油の流量が増える。このため、開度変更部76のピストン76A(つまり、ゲイン制御ピストン)にかかる圧力は、低温の場合よりも大きくなる。このため、開度変更部76のピストン76A(つまり、ゲイン制御ピストン)にかかる圧力は、低温の場合よりも上がる。つまり、第2パイロット油路41から収容部76B内に流入するパイロット油のパイロット圧が、高温時に比べて大きくなり、ピストン76Aがロッド76Cを伸長させる方向(流量補償弁72に近づく方向)に移動し、流量補償弁72の開度が変更される。そして、斜板変更部73のピストン73Aが移動して、ロッド73Cが伸長し、第2油圧ポンプP2の斜板の角度が小さくなり、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量が、低温時に比べて少なくなる。このため、高温時は、低温時よりもLS差圧が小さくなる。
【0062】
この構成によれば、圧力補償部90は、パイロット油を含む作動油(パイロット油又は作動油)の温度が低下するに連れてパイロット圧を小さくする。このため、電磁弁81(比例弁)を用いて馬力制御を行う構成において、簡易な構成でパイロット圧の温度補正を行うことができる。つまり、電磁弁81(比例弁)を用いて馬力制御を行う構成にした場合でも、低温時に第2油圧ポンプP2の吐出量を増やすことができ、高温時に第2油圧ポンプP2の吐出量を減らすことができる。したがって、低温時のLS差圧を、常温時よりも大きくすることができる。また、圧力補正制御のために油圧システムの構成が複雑化することもない。例えば、パイロット油の温度を検出する温度検出装置と、温度検出装置による検出値に基づいて、電磁弁81に対するパイロット油の温度に応じた圧力補正制御を行う装置とを備える必要がない。つまり、電磁弁81に対するパイロット油の温度に応じた圧力補正制御を行う必要がない。また、第1実施形態では、電磁弁81(比例弁)の圧力が大きくなるに従って(つまり、開度変更部76の収容部76Bへの圧力が大きくなるに従って)、LS差圧を小さくする構成となっている。フェールセーフの観点から、電磁弁81が破損して、電磁弁81が出力できなくなった場合に、アクチュエータが動かなくなることを防止している。
【0063】
また、排出油路41Cと第1絞り部91と第2絞り部92といった簡易な油圧部品を付加するだけで、パイロット圧の温度補正を行うことができる。
また、第1絞り部91と第2絞り部92とは、絞りの穴径及び絞りの長さの少なくとも一方が異なる。このため、第1絞り部91と第2絞り部92とで流量特性(言い換えれば、両部品の粘性感度)を異ならせることができる。これにより、第1絞り部91と第2絞り部92といった簡易な油圧部品を付加するだけで、パイロット圧の温度補正を行うことができる。
【0064】
また、流量特性(粘性感度)の異なるチョーク形絞り(第1絞り部91)及びオリフィス形絞り(第2絞り部92)を好適に配置することにより、パイロット圧の温度補正をより好適に行うことができる。
なお、
図1A及び
図1Bでは、第1絞り部91はチョーク形絞りとし、第2絞り部92はオリフィス形絞りとしているが、これに限定されない。
【0065】
例えば、
図1Cに示すように、第1絞り部91A及び第2絞り部92Aは、両方ともチョーク形絞りであり、第1絞り部91Aは、その絞りの長さとしてのチョークの長さCL1が、第2絞り部92Aのチョークの長さCL2よりも長いとしている。このため、第1絞り部91Aは、第2絞り部92Aに比べて、作動油の粘性の影響を受けやすい。言い換えれば、第2絞り部92Aは、第1絞り部91Aに比べて、作動油の粘性の影響を受けにくい。なお、第1絞り部91Aは、その絞りの穴径としてのチョークの内径CD1が、第2絞り部92Aのチョークの内径CD2よりも小さいとしてもよい。また、第1絞り部91Aは、そのチョークの長さCL1が第2絞り部92Aのチョークの長さCL2よりも長く、且つ、チョークの内径CD1が第2絞り部92Aのチョークの内径CD2よりも小さいとしてもよい。このように流量特性(粘性感度)の異なるチョーク形絞り(つまり、第1絞り部91A及び第2絞り部92A)を用いることにより、パイロット圧の温度補正を好適に行うことができる。
【0066】
また、
図1Dに示すように、第1絞り部91B及び第2絞り部92Bは、両方ともオリフィス形絞りであり、第1絞り部91Bは、その絞りの長さとしての径を絞っている箇所の長さであるオリフィス刃の寸法OL1が、第2絞り部92Bのオリフィス刃の寸法OL2よりも長いとしてもよい。このため、第1絞り部91Bは、第2絞り部92Bに比べて、作動油の粘性の影響を受けやすい。言い換えれば、第2絞り部92Bは、第1絞り部91Bに比べて、作動油の粘性の影響を受けにくい。なお、第1絞り部91Bは、その絞りの穴径としてのオリフィスの穴径OD1が、第2絞り部92Bのオリフィスの穴径OD2よりも小さいとしてもよい。また、第1絞り部91Bは、オリフィス刃の寸法OL1が第2絞り部92Bのオリフィス刃の寸法OL2よりも長く、且つ、オリフィスの穴径OD1が第2絞り部92のBオリフィスの穴径OD2よりも小さいとしてもよい。このように流量特性(粘性感度)の異なるオリフィス形絞り(つまり、第1絞り部91B及び第2絞り部92B)を用いることにより、パイロット圧の温度補正を好適に行うことができる。
【0067】
なお、
図2A及び
図2Bでは、制御装置25は、エンジン32の実回転数に基づいてLS差圧を変更しているが、これに限定されない。例えば、他の例として、制御装置25が、エンジン32の実回転数と目標エンジン回転数(目標回転数)とに基づいて、LS差圧を変更してもよい。目標エンジン回転数は、アクセル部材84(
図1A)を操作することによって設定値として設定可能である。
【0068】
アクセル部材84は、第1アクセル部材84aと第2アクセル部材84bとを含んでいる。アクセル部材84は、例えば指示部材として兼用されている。第1アクセル部材84a及び第2アクセル部材84bは、運転席8の近傍に設けられていて、制御装置25に接続されている。第1アクセル部材84aは、回転自在な摘み部を有するダイヤル式の操作部材である。運転者(オペレータ)が第1アクセル部材84aの摘み部を把持した状態で回すことによって、目標エンジン回転数が設定可能である。第2アクセル部材84bは、揺動自在な踏み込み部を有するペダル式の操作部材である。運転者が第2アクセル部材84bの踏み込み部を踏み込むことによっても、目標エンジン回転数が設定可能である。
【0069】
第1アクセル部材84a及び第2アクセル部材84bの操作量はそれぞれ、例えばポテンショメータ又はその他の等により検出されて、制御装置25に入力される。制御装置25は、第1アクセル部材84aで設定された目標エンジン回転数(第1目標エンジン回転数という。)と、第2アクセル部材84bで設定された目標エンジン回転数(第2目標エンジン回転数という。)のうち、大きい方の目標エンジン回転数を採用する。例えば、第1目標エンジン回転数が1300rpmであって、第2目標エンジン回転数が2200rpmである場合、制御装置25は、第2アクセル部材84bで設定された第2目標エンジン回転数を目標エンジン回転数EP2として設定し、当該目標エンジン回転数EP2に基づいてエンジン32の駆動を制御する。
【0070】
この際、第1測定装置82により測定されたエンジン32の実回転数EP1が目標エンジン回転数EP2以上である場合(実回転数EP1≧目標エンジン回転数EP2)、制御装置25は、
図2Aの第1制御線L1と実回転数EP1とに基づいてLS差圧を設定し、当該LS差圧に応じた制御信号を電磁弁81に出力する。即ち、エンジン32の実回転数EP1が目標エンジン回転数EP2以上である場合、制御装置25は、エンジン32の実回転数EP1に応じてLS差圧を変更する。
【0071】
一方、第1測定装置82により測定されたエンジン32の実回転数EP1が目標エンジン回転数EP2より低い場合(実回転数EP1<目標エンジン回転数EP2)、又は目標エンジン回転数EP2から所定値A1を減算した回転数よりも実回転数EP1が低い場合(実回転数EP1<目標エンジン回転数EP2-所定値A1、例えばA1=100rpm)、制御装置25は、
図2Aに示すように、第1制御線L1をLS差圧が下がる方向にシフトさせた第2制御線L2を算出する。そして、制御装置25は、第2制御線L2と実回転数EP1とに基づいてLS差圧を設定し、当該LS差圧に応じた制御信号を電磁弁81に出力する。即ち、エンジン32の実回転数EP1が目標エンジン回転数EP2より低下すると、制御装置25はLS差圧を減少させる。なお、
図2Aに太い実線で示すポンプ吐出量は、第1制御線L1に対応していて、第2制御線L2には対応していない。
【0072】
制御装置25は、例えば次の式(1)に基づいて第2制御線L2を算出する。
第2制御線L2=第1制御線L1×e2[定数 ×最大負荷率(負荷率-定数,0)]・・・(1)
式(1)中の「負荷率」はエンジン32の負荷率であり、「最大負荷率」はエンジン32の最大負荷率である。エンジン32の負荷率とは、作業機1に搭載された機器(作業装置4又は走行装置5)が作動していない場合(無負荷状態)のエンジン32の出力に対する、当該機器が作動している場合(作動負荷状態)のエンジン32の出力の割合(比率)のことである。エンジン32の出力とは、エンジン32のトルクにエンジン32の回転数を乗算した仕事量のことである(単位:kW又はPS(馬力))。エンジン32のトルクは、トルクセンサ(図示省略)により検出される。式(1)中の「負荷率-定数」がマイナス値の場合、「最大負荷率 (負荷率 - 定数)」の値はゼロとする。
【0073】
例えば、作業装置4の油圧アクチュエータ(ブームシリンダ14、バケットシリンダ15、予備アタッチメントの油圧アクチュエータ)が停止し、且つ走行装置5が停止しているときに、制御装置25は、エンジン32が無負荷状態にあると判断する。そして、制御装置25は、このときのエンジン32の出力を算出して、当該算出値を無負荷状態のエンジン32の出力として記録する。この無負荷状態のエンジン32の出力の算出と記録とを、制御装置25が所定の周期で実行してもよい。他の例として、予め無負荷状態のエンジン32の出力を設定して、記憶部26に記憶させておいてもよい。
【0074】
また、作業装置4の油圧アクチュエータと走行装置5のうちの少なくともいずれか1つが作動したときに、制御装置25は、エンジン32が作動負荷状態にあると判断する。そして、制御装置25は、エンジン32の出力を所定の周期で算出し、当該算出値を作動負荷状態のエンジン32の出力とする。また、制御装置25は、作動負荷状態のエンジン32の出力を算出する毎に、既に記録された無負荷状態のエンジン32の出力に対する、当該作動負荷状態のエンジン32の出力の割合を、エンジン32の負荷率として算出し、当該負荷率を記録する。さらに、制御装置25は、記録されたエンジン32の負荷率のうち、最大負荷率を検出する。
【0075】
他の例として、制御装置25が、次の式(2)に基づいて第2制御線L2を算出してもよい。
第2制御線L2=第1制御線L1×e2 -(α × ΔE )・・・(2)
式(2)中の「ΔE」は、目標エンジン回転数と実回転数との回転数差である(回転数差ΔE=目標エンジン回転数EP2-実回転数EP1)。「α」は、作業機1が、走行を優先する走行優先モードと、作業機1の作業を優先する作業優先モードのうち、いずれのモードにあるかによって変わる係数である。走行優先モードのときの係数αより、作業優先モードのときの係数αの方が小さい値である。運転席の周囲に設けられたスイッチ等を操作することで、走行優先モードと作業優先モードとを切り換えることができる。また、走行優先モードと作業優先モードとの間に、作業より走行を若干優先する若干走行優先モード、走行より作業を若干優先する若干作業優先モードを設けて、これら4つのモード毎に係数αを変えてもよい。
【0076】
また、他の例として、エンジン32の実回転数が目標エンジン回転数から僅かに(例えば、数回転未満)減少したときに、制御装置25が、上記式(2)を採用せず、次の式(3)或いは式(4)を採用して、第2制御線L2を算出してもよい。
第2制御線L2=第1制御線L1×e2 -(α × ΔE2 )・・・(3)
第2制御線L2=第1制御線L1×e2 -{α × 最大負荷率(ΔE-定数,0)}・・・(4)
上述した例では、エンジン32の実回転数が目標エンジン回転数より低下した場合に、制御装置25が第1制御線L1をLS差圧が下がる方向にシフトさせることで第2制御線L2を算出しているが、これに代えて、第2制御線L2を予め設定して記憶部26に記憶させておいてもよい。
【0077】
上述したように、エンジン32の実回転数が目標エンジン回転数よりも低下した場合に、制御装置25が第2制御線L2と実回転数に基づいてLS差圧を変更することで、エンジン32に何らかの負荷が掛かって、実回転数が低下しても、当該負荷に応じて第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量を減少させることができる。また、制御装置25がエンジン32の負荷又は回転数に応じて第2制御線L2を算出することで、エンジン32の負荷に応じて第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量を減少させることができる。さらにこれらの結果、作業機1の作業系の馬力制御の精度を向上させることが可能となる。
【0078】
他の例として、制御装置25が、目標エンジン回転数と実回転数との差(回転数差ΔE)に基づいてLS差圧を変更してもよい。この場合、まず制御装置25は、アクセル部材84によって設定された目標エンジン回転数と、第1測定装置82により測定された実回転数との回転数差(ΔE)を求める。次に、制御装置25は、回転数差ΔEに応じて第1制御線L1をLS差圧が小さくなる方向にシフトさせる。このとき、制御装置25は、回転数差ΔEが大きいほど、第1制御線L1のシフト量を大きくする。また、制御装置25は、予め定められた定数A(圧力、単位:MPa)に回転数差ΔEを乗算して、シフト量を求める(シフト量=A×ΔE)。次に、制御装置25は、求めたシフト量だけLS差圧が小さくなる方向に、第1制御線L1をシフトさせた第2制御線L2を算出する。そして、制御装置25は、第2制御線L2とエンジン32の実回転数とに基づいてLS差圧を設定し、当該LS差圧に応じた制御信号を電磁弁81に出力する。
【0079】
上記によれば、エンジン32の負荷によって、目標エンジン回転数に対して実回転数が低下しても、当該低下量(回転数差ΔE)に応じて、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量を減少させることができる。この結果、エンジン32の負荷に応じて、作業機1の作業系の馬力制御を精度良く行うことが可能となる。
また、他の例として、予めシフト量毎に対応する第2制御線L2を設定して、記憶部26に記憶させておいてもよい。
【0080】
また、制御装置25は、エンジン32に対する燃料の噴射量に基づいてLS差圧を変更してもよい。この場合、制御装置25は、エンジン32の駆動を制御する際に、インジェクタ(図示省略)から噴射する燃料の噴射量を演算する。噴射量の演算は、制御装置25に入力された目標エンジン回転数、実回転数、又はクランク角度などの様々な条件に基づいて実行されるが、具体的な演算方法は公知技術と同様であるため、説明を省略する。なお、燃料の噴射量とは、エンジン32がディーゼルエンジンから成る場合、エンジン32
の出力を発生させるための燃料の噴射量(メイン噴射量)であって、DPF再生(粒子燃焼)等を行うためのポスト噴射量ではない。
【0081】
制御装置25は、燃料の噴射量を演算すると、当該噴射量が所定の噴射閾値より大きいか否かを判定する。噴射閾値は、エンジン回転数に応じて定められた標準的な噴射量よりも大きな値に設定されている。制御装置25は、演算した燃料の噴射量が噴射閾値より大きい場合、第1制御線L1をLS差圧が下がる方向にシフトさせて第2制御線L2を算出する。そして、制御装置25は、当該第2制御線L2とエンジン32の実回転数とに基づいてLS差圧を設定し、当該LS差圧に応じた制御信号を電磁弁81に出力する。これによれば、エンジン32の負荷が大きくて、燃料の噴射量が噴射閾値より大きくなっても、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量を減少させることができる。この結果、エンジン32の負荷に応じて、作業機1の作業系の馬力制御を精度良く行うことが可能となる。
【0082】
また、電磁弁81は、エンジン32の負荷率に基づいてLS差圧を変更してもよい。この場合、制御装置25は、前述したようにエンジン32の負荷率を演算し、当該負荷率が所定の閾値より大きいか否かを判定する。ここで、エンジン32の負荷率が閾値よりも大きい場合、制御装置25は、第1制御線L1をLS差圧が下がる方向にシフトさせて第2制御線L2を算出する。そして、制御装置25は、当該第2制御線L2とエンジン32の実回転数とに基づいてLS差圧を設定し、当該LS差圧に応じた制御信号を電磁弁81に出力する。これによれば、エンジン32の負荷が大きくて、負荷率が大きくなっても、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量を減少させることができる。この結果、エンジン32の負荷に応じて、馬力制御を精度良く行うことが可能となる。
【0083】
また、作業機1に設けられた作動油(パイロット油を含む。)、作業機1に搭載された各種機器を冷却するための冷却水、及びエンジン32の内部に入っているエンジンオイルのうちの少なくともいずれか1つの流体の温度が高くなるに連れて、制御装置25が第1制御線L1のシフト量を大きくして、第2制御線L2を算出してもよい。そして、制御装置25が、当該第2制御線L2とエンジン32の実回転数とに基づいてLS差圧を設定し、当該LS差圧を油圧制御部75により実現してもよい。
【0084】
また、作業機1に設けられた作動油、冷却水、及びエンジンオイルのうちの少なくともいずれか1つの流体の温度に基づいて、制御装置25がLS差圧を変更してもよい。制御装置25には、作業機1に設けられた流路を流れる流体の温度を測定する第2測定装置83(
図1A)が接続されている。第2測定装置83は、作業機1に設けられた油路を流れる作動油、水路を流れるエンジン32等の機器の冷却用の冷却水、又はエンジン32に設けられた油路を流れるエンジンオイルのうち、少なくとも一方の流体の温度を測定する。制御装置25は、第2測定装置83により測定された流体の温度を取得すると、当該流体の温度が対応する所定の下限閾値以下であるか否かを判定する第1判定と、当該流体の温度が対応する所定の上限閾値以上であるか否かを判定する第2判定のうちの、少なくともいずれか1つの判定を実行する。
【0085】
上記の下限閾値及び上限閾値は、流体の温度に基づいて作業機1のヒートバランスが良好であるか否かを判断するために設定された流体の所定の温度である。例えば、作動油の温度又はエンジンオイルの温度が-20℃以下である場合、作動油又はエンジンオイルの粘性が高いため、制御装置25は、ヒートバランスが良好ではないと判断する。また、作動油又はエンジンオイルの温度が60℃以上である場合も、制御装置25は、ヒートバランスが良好でないと判断する。
【0086】
上記のように、制御装置25は、第2測定装置83によって測定された流体(作動油、冷却水、及びエンジンオイルのうちの少なくとも1つ)の温度を取得し、当該流体の温度と上限閾値又は下限閾値とを比較し、当該比較結果に基づいて作業機1のヒートバランスが良好であるか否かを判断する。そして、ヒートバランスが良好でない場合、即ち、流体の温度が下限閾値以下である場合、又は流体の温度が上限閾値以上である場合、制御装置25は、第1制御線L1をLS差圧が下がる方向にシフトさせて、第2制御線L2を算出する。この際、制御装置25は、流体の温度と上限閾値又は下限閾値との差が大きくなるに連れて、第1制御線L1のシフト量を多くして、第2制御線L2を算出してもよい。制
御装置25は、第2制御線L2を算出すると、当該第2制御線L2とエンジン32の実回転数とに基づいてLS差圧を設定し、当該LS差圧に応じた制御信号を電磁弁81に出力して、当該LS差圧を実現する。
【0087】
上記によれば、作業機1のヒートバランスが良好でないときに、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量を減少させることができる。この結果、エンジン32の負荷に応じて、作業機1の作業系の馬力制御を精度良く行うことが可能となり、また作業機1のヒートバランスが良好になるように誘導することが可能となる。
図2Cは、作業機1のエンジン回転数と、作動油の低温時のLS差圧を示す第1制御線L11と、作動油の常温時のLS差圧を示す第2制御線L21と、低温時の収容部76Bの圧力を示すラインL31と、常温時の収容部76Bの圧力を示すラインL41と、電磁弁81の電流特性を示すラインL51との関係を示す図である。
図2Cにおいて、ポンプ吐出量とは、制御弁56(ブーム制御弁56A、バケット制御弁56B、予備制御弁56C)のスプールの開口面積を一定(最大)にした場合の、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量のことである。上記低温時は、作動油の低温時だけでなく、低温環境下を含む。
【0088】
図2Cに示すエンジン回転数と低温時及び常温時のLS差圧とポンプ吐出量と低温時及び常温時の収容部76Bの圧力の関係は、例えば、予め行われた実験又はシミュレーションの結果などに基づいて導出される。また、当該関係を示すデータが、制御装置25に設けられた記憶部26に記憶されている。当該関係を示すデータとしては、例えば
図2Cに示すようなグラフのデータであってもよいし、
図2Bに示すような表のデータであってもよいし、或いはエンジン32の実回転数からLS差圧を算出する関数のデータであってもよい。即ち、エンジン回転数とLS差圧とポンプ吐出量の関係は、エンジン32の実回転数から対応するLS差圧を求めることが可能なデータであれば、形式は問わない。以降、説明の便宜上、
図2Cに示すエンジン回転数と低温時及び常温時のLS差圧とポンプ吐出量と低温時及び常温時の収容部76Bの圧力の関係のことを制御マップという。
【0089】
図2Cに破線で示す低温時のLS差圧を示す第1制御線L11と、常温時のLS差圧を示す第2制御線L21とは、エンジン回転数に応じたLS差圧の変化を表している。また、
図2Cに示す太い実線は、作動油が低温時の場合で且つエンジン回転数に応じたポンプ吐出量の変化を表している。
図2Cに示すように、第1制御線L11と第2制御線L21とは、エンジン回転数が増加するに連れて、LS差圧も増加している。また、低温時の収容部76Bの圧力を示すラインL31は、エンジン回転数が増加するに連れて、減少している。また、常温時の収容部76Bの圧力を示すラインL41は、エンジン回転数が増加するに連れて、減少している。また、電磁弁81の電流は、エンジン回転数が増加するに連れて、減少している。
【0090】
制御装置25は、第1測定装置82で測定されたエンジン32の実回転数を第1測定装置82から取得すると、
図2Cの制御マップに基づいて、当該実回転数に対応するLS差圧を設定する。具体的には、エンジン回転数が2000rpmである場合、制御装置25は、ラインL51を用いてエンジン回転数(ここでは2000rpm)に対応する電磁弁81の制御信号を設定する。ここでは、制御装置25は、エンジン回転数(2000rpm)に対応する電磁弁81の電流値P51(1000mA)を示す制御信号を設定し、この設定した制御信号を電磁弁81に出力し、電磁弁81の開度を変更する。なお、制御装置25が設定した電磁弁81への制御信号は、予め記憶部26に記憶された演算式又は制御データに基づいて、制御装置25が生成してもよい。
【0091】
上記のように制御装置25からの制御信号に応じて電磁弁81の開度が変更されると、電磁弁81からのパイロット油が開度変更部76の収容部76Bに供給され、開度変更部76に作用するパイロット圧(第2圧力PA)が変更される。作動油が常温である場合には、収容部76Bの圧力がラインL41の圧力値P41となり、開度変更部76と流量補償弁72と斜板変更部73により第2油圧ポンプP2が制御されて、電磁弁81の電流値P51(1000mA)に対応するLS差圧が値P21に設定される。一方、低温時であれば、収容部76Bの圧力がラインL31の圧力値P31となり、開度変更部76と流量
補償弁72と斜板変更部73により第2油圧ポンプP2が制御されて、電磁弁81の電流値P51(1000mA)に対応するLS差圧が値P11に設定される。このように、電磁弁81の電流値P51(1000mA)を常温時と低温時とで変更することなく、
図2Cに示すように、作動油の低温時のLS差圧を示す第1制御線L11は、作動油の常温時のLS差圧を示す第2制御線L21よりも大きくなっている。つまり、低温時のLS差圧を、常温時よりも大きくすることができる。
【0092】
このように、制御装置25は、作動油が常温又は低温の何れであっても、電磁弁81の電流値について温度に応じた制御(例えば、作動油の温度に応じて電流値を補正又は修正するなどの制御)を行わない。つまり、電磁弁81への電流値は、温度に応じた制御が不要である。
[第2実施形態]
図3は、第2実施形態の作業機1の油圧システム30Bを示す図である。第2実施形態において、第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0093】
図3に示す第2実施形態の油圧システム30Bでは、LS差圧の変更を指令する指令部材88が制御装置25に接続されている。指令部材88は、運転席8の近傍に設けられた操作スイッチである。指令部材88がオン操作されると、指令部材88と連動する電気回路から、LS差圧の変更を指令する電気信号が発せられて、当該電気信号(以下、単に「変更指令」という。)が制御装置25に入力される。指令部材88がオン操作されていないとき、即ちオフ操作状態にあるときは、LS差圧の変更指令が発せられず、当該変更指令が制御装置25に入力されることもない。
【0094】
図4Aは、作業機1においてLS差圧の変更指令の有無に応じたエンジン回転数とLS差圧とポンプ吐出量の関係をグラフで示す図である。
図4Bは、
図4Aと同一の関係を表で示す図である。
図4A及び
図4Bに示す制御マップは、記憶部26に予め記憶されている。
図4A及び
図4Bに示すように、指令部材88から制御装置25に対してLS差圧の変更指令が入力されていない(変更指令無しの)場合、エンジン回転数とLS差圧とポンプ吐出量の関係(
図4Aに破線で示す制御線L1、
図4Bの左から1~3列目)は、
図2A及び
図2Bに示したエンジン回転数とLS差圧とポンプ吐出量の関係と同じである。指令部材88から制御装置25に対してLS差圧の変更指令が入力された(変更指令有りの)場合は、変更指令が無い場合(
図4Aに1点鎖線で示す制御線L1、
図4Bの左から1列目と4列目と5列目)より、エンジン回転数に対応するLS差圧及びポンプ吐出量が高くなっている。
【0095】
制御装置25は、指令部材88からの変更指令の有無、第1測定装置82で測定されたエンジン32の実回転数、及び
図4A又は
図4Bに示す制御マップに基づいてLS差圧を設定し、当該LS差圧に応じた制御信号を電磁弁81に出力する。これにより、電磁弁81の開度が当該制御信号に応じて変更されて、当該制御信号に対応するLS差圧が実現される。即ち、指令部材88からのLS差圧の変更指令が有るときに、第1測定装置82により測定されたエンジン32の実回転数に応じてLS差圧が変更される。
【0096】
また、
図4A及び
図4Bに示すように、制御装置25は、指令部材88からのLS差圧の変更指令が有る場合のLS差圧を、当該変更指令が無い場合のLS差圧より大きな値に設定する。即ち、指令部材88によりLS差圧の変更指令が有る場合は、当該変更指令が無い場合より、LS差圧が増加する。
上記によれば、例えば、作業機1の運転者が作業装置4のアタッチメントの動作、即ち、油圧アクチュエータ(ブームシリンダ14、バケットシリンダ15、予備アタッチメントの油圧アクチュエータ)の動作を通常よりも素早くしたい場合に、指令部材88をオン操作することで、LS差圧が高くなって、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量が増加する。この結果、作業機1がハイスピードモードになって、作業装置4の油圧アクチュエータを素早く動作させることが可能となる。
【0097】
[第3実施形態]
第3実施形態では、アクセル部材84を指令部材として兼用する。即ち、アクセル部材
84に含まれる第1アクセル部材84a及び第2アクセル部材84bのうちの少なくともいずれか1つを操作することにより、エンジン32の回転数が設定可能で且つLS差圧の変更指令を発することが可能である。第3実施形態の作業機1の油圧システムの構成は、
図1Aに示した第1実施形態の油圧システム30Aの構成と同様であるため、説明を省略する。
例えば、第1アクセル部材84a及び第2アクセル部材84bのうちの少なくともいずれか1つが操作されると、当該アクセル部材と連動した電気回路(図示省略)から所定の電気信号が制御装置25に入力される。制御装置25は、当該電気信号に基づいて、目標エンジン回転数を設定し、且つLS差圧の変更指令が有ったと判断する。
【0098】
第1アクセル部材84a及び第2アクセル部材84bが両方とも操作された場合、制御装置25は、第1アクセル部材84aの操作に応じて入力された電気信号に基づいて第1目標エンジン回転数を設定し、第2アクセル部材84bの操作に応じて入力された電気信号に基づいて第2目標エンジン回転数を設定する。そして、制御装置25は、第1目標エンジン回転数と第2目標エンジン回転数のうち、大きい方の回転数を目標エンジン回転数として採用する。また、制御装置25は、採用した目標エンジン回転数とエンジン32の実回転数とに基づいて、エンジン32の回転数を目標エンジン回転数に合わせるように、エンジン32の駆動を制御する。さらに、制御装置25は、第1目標エンジン回転数と第2目標エンジン回転数のうち、目標エンジン回転数として採用しなかった回転数、即ち小さい方の回転数に基づいてLS差圧(LS差圧の変更値)を設定する。
【0099】
例えば、第1アクセル部材84aが最大量又は最大量より若干少ない所定量以上操作されて、第1目標エンジン回転数が最大値又は最大値より若干小さい値に設定され、且つ第2アクセル部材84bが第1アクセル部材84aの操作量より少ない操作量だけ操作されて、第2目標エンジン回転数が第1目標エンジン回転数より小さい値に設定される。この場合、制御装置25は、第1目標エンジン回転数を目標エンジン回転数として採用し、第2目標エンジン回転数に基づいてLS差圧を設定する。
【0100】
逆に、第2アクセル部材84bが最大量又は最大量より若干少ない所定量以上操作されて、第2目標エンジン回転数が最大値又は最大値より若干小さい値に設定され、且つ第1アクセル部材84aが第2アクセル部材84bの操作量より少ない操作量だけ操作されて、第1目標エンジン回転数が第2目標エンジン回転数より小さい値に設定される。この場合、制御装置25は、第2目標エンジン回転数を目標エンジン回転数として採用し、第1目標エンジン回転数に基づいてLS差圧を設定する。
【0101】
図5は、第1アクセル部材84aと第2アクセル部材84bのうち、一方アクセル部材の操作量が最大又は所定量以上である場合の、他方のアクセル部材の操作量とLS差圧とポンプ吐出量の関係をグラフで示す図である。
図6は、
図5と同一の関係を表で示す図である。
図5及び
図6に示す制御マップは、記憶部26に予め記憶されている。
第1アクセル部材84aと第2アクセル部材84bのうち、一方のアクセル部材の操作量が少なめの(0%より若干多い)所定量(10%)以下であり、且つ他方アクセル部材の操作量が最大(100%)又は多めの(100%より若干少ない)所定量(90%)以上である場合、
図5及び
図6に示す制御マップでは、LS差圧は最小値の1.50MPaである。このLS差圧の最小値(1.50MPa)は、第1実施形態(
図2A、
図2B)及び第2実施形態(
図4A、
図4B)に示したように、エンジン回転数が最大値(2600rpm)である場合(第2実施形態では、変更指令無しで且つエンジン回転数が最大値の場合)のLS差圧(1.50MPa)と同値である。即ち、一方のアクセル部材が操作されていなくても、他方アクセル部材の操作量が最大又は多めの所定量以上であれば、LS差圧は最小値に設定される。
【0102】
また、
図5及び
図6に示す制御マップでは、一方のアクセル部材の操作量が大きくなるに連れて、LS差圧は大きくなる。また、一方のアクセル部材の操作量が多めの(100%より若干少ない)所定量(90%)以上になると、LS差圧は最大値の1.80MPaになる。
制御装置25は、第1アクセル部材84aと第2アクセル部材84bのうち、操作量が
小さい方(操作量0%も含む。)のアクセル部材の操作量と、
図5又は
図6の制御マップとに基づいてLS差圧を設定し、当該LS差圧に応じた制御信号を電磁弁81に出力する。これにより、電磁弁81の開度が当該制御信号に基づいて変更されて、当該制御信号に対応するLS差圧が実現される。
【0103】
つまり、作業機1の運転者が第1アクセル部材84aと第2アクセル部材84bとを両方とも操作した場合、操作量が大きい一方のアクセル部材の操作に応じて、エンジン32の回転数を変更して、作業機1の走行速度を操作することができる。また、操作量が小さい他方のアクセル部材の操作に応じてLS差圧を変更して、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量も変更することができる。特に、作業者が第1アクセル部材84aと第2アクセル部材84bとを両方とも大きな操作量で操作することで、LS差圧を高くして、第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量を多くすることができる。これらの結果、アクセル部材84(第1アクセル部材84a及び第2アクセル部材84b)の操作状態に応じて、作業機1の馬力制御を精度良く行うことが可能となる。
【0104】
上述した実施形態では、油圧制御部75により第2油圧ポンプP2からの作動油の吐出量を多くすることで、油圧アクチュエータの動作速度を向上(上昇)させることができる。
[第4実施形態]
第4実施形態の作業機1は、バックホーである。バックホーは、左右一対のクローラ型走行装置を装備した走行機台の上部に、エンジン及び搭乗運転部が装備された旋回台が縦軸心周りに全旋回可能に搭載され、この旋回台の前部に、ブーム、アーム及びバケットを順次連結してなるフロント作業装置が装備されるとともに、走行機台の前部にドーザ作業用の排土板が装備されている。
【0105】
図7は、第4実施形態の作業機の油圧システムの全体図である。第4実施形態の作業機の油圧システム30Cは、走行用油圧モータML,MR、旋回用油圧モータMT、各種シリンダC1~C5、各種の制御バルブV1~V11、V13、V14、インレット用ブロックB1、アウトレット用ブロックB2、中間のスペーサブロックB3、圧油供給ユニット150、及び圧力補償部90を備える。左右の走行装置は、それぞれ走行用油圧モータML,MRによって正逆転駆動されるとともに、旋回台は旋回用油圧モータMTによって左右に旋回駆動されるようになっている。フロント作業装置のブーム、アーム及びバケットは、それぞれブームシリンダC1、アームシリンダC2、及び、バケットシリンダC3によって駆動されるとともに、フロント作業装置の全体がスイングシリンダC4によって、旋回台に対して縦軸心周りに左右に揺動駆動されるようになっている。また、排土板は、ドーザシリンダC5によって上下駆動されるようになっている。
【0106】
左右の走行用の制御バルブV1,V2は、運転座席の前方の操縦塔に配備された左右の走行レバーによってそれぞれ直接にスプールを切換え操作する人為操作式の制御バルブである。ドーザ用、スイング用、及び、補助作業用の各制御バルブV4,V8,V9は、レバー操作やペダル操作によって直接にスプールを操作する人為操作式の制御バルブである。また、旋回用、アーム用、ブーム用、及び、バケット用の各制御バルブV3,V5,V6,V7は、油圧パイロット操作式の制御バルブであり、操縦塔に十字操作可能に配備された左右一対の作業用レバーによって操作される図示しないパイロットバルブから供給されるパイロット圧によって、レバー操作量に応じた開度に操作されるようになっている。
【0107】
各制御バルブV1~V9のバルブブロック群は、インレット用ブロックB1、アウトレット用ブロックB2、及び、中間のスペーサブロックB3とともに並列されて互いに連結されて内部油路によって接続されている。ここで、インレット用ブロックB1は左走行用の制御バルブV1のバルブブロックと右走行用の制御バルブV2のバルブブロックとの間に介在されるとともに、アウトレット用ブロックB2は補助作業用の制御バルブV9のバルブブロックの外側に終端ブロックとして連結されている。
【0108】
圧油供給ユニット150には、エンジン32によって駆動される3つの油圧ポンプPa,Pb,Pcが備えられている。圧油供給ユニット150に設けられた4個の吐出ポートp1~p4とインレット用ブロックB1とが配管接続されている。ポンプPaは、単一のロータに2組のプランジャ群を組付けて、独立した一対の吐出ポートp1,p2からそれぞれ同量ずつ圧油を吐出するアキシャルプランジャ型のポンプであり、斜板の角度変更によって両吐出ポートp1,p2からの吐出量を変更可能な可変容量型に構成されている。そして、このポンプPaは、ロードセンシングシステムによって流量制御されるようになっている。第4実施形態の作業機の油圧システム30Cは、ロードセンシングシステムを備えている。ロードセンシングシステムは、流量制御部160を備えている。流量制御部160は、インレット用ブロックB1に配管接続されている。ポンプPbは主として旋回及びドーザ作業用に使用されるものであり、例えば定容量のギヤポンプである。また、ポンプPcは定容量のギヤポンプからなるパイロット圧供給用ポンプであり、走行セクションのバルブスプールに連通接続されたパイロット油路a1、旋回及びドーザセクションのバルブスプールに連通接続されたパイロット油路a2、及び、ロードセンシング系のセクションのバルブスプールに連通接続されたパイロット油路a3にパイロット圧を供給している。
【0109】
ロードセンシングシステムは、作業負荷圧に応じてポンプ吐出量を制御して、負荷に必要とされる油圧動力をポンプから吐出させることで、動力の節約と操作性を向上することができるシステムである。この例では、フロント作業装置のアームセクション、ブームセクション、バケットセクション、スイングセクション、及び、補助作業セクションに対して機能するよう構成されている。そして、ここでは、各セクションにおける各制御バルブV5~V9のスプールの後に圧力補償弁CV5~CV9が接続されたアフターオリフィス型のロードセンシングシステムが利用されている。また、この例では、ロードセンシングシステムのアンロードバルブV10とシステムリリーフバルブV11が、最下流のアウトレット用ブロックB2に組込まれている。
【0110】
図7に示すように、流量制御部160には流量補償用バルブV12(流量補償弁)が装備されている。また、圧油供給ユニット150には、ポンプPaを流量調節するための流量補償用ピストンAcと馬力制御用ピストンApが備えられており、各セクションにおける負荷検出ラインのうちの最高負荷圧が制御信号圧PLSとして流量制御部160の流量補償用バルブV12に信号ラインを介して伝達されるようになっている。
【0111】
流量制御部160における流量補償用バルブV12にかけられる制御差圧は、
図7に示すように、開度変更部180によって与えられる。具体的には、開度変更部180は、差圧ピストン181と、差圧ピストン181を収容する収容部182と、バネ183とを有している。収容部182は、流量補償用バルブV12に近い側に位置する第1収容部182Aと、流量補償用バルブV12から遠い側に位置する第2収容部182Bとを備えている。排出油路41Aは、第2収容部182Bと作動油タンクTとを接続している。流量補償用バルブV12にかけられる制御差圧は、差圧ピストン181とバネ183とによって与えられるようになっている。エンジン32の回転速度が高くなってポンプPcの吐出量が多くなると、差圧ピストン181によって与えられる制御差圧成分が大きくなって、ポンプPaの流量が多くなるように制御される。逆に、エンジン32の回転速度が低くなってポンプPcの吐出量が少なくなると、差圧ピストン181によって与えられる制御差圧成分が小さくなって、ポンプPaの流量が少なくなるように制御されるようになっている。
【0112】
吐出ポートp4とインレット用ブロックB1とを接続する第1パイロット油路40の途中箇所には、第2パイロット油路41が接続されている。第2パイロット油路41には電磁弁81が設けられている。第2パイロット油路41は、開度変更部180の収容部182(具体的には、第1収容部182A)に接続されている。
第4実施形態の作業機の油圧システム30Cは、圧力補償部90を備えている。圧力補償部90は、排出油路41C、第1絞り部91、及び第2絞り部92を備えている。排出油路41Cは、第2パイロット油路41における電磁弁81と開度変更部180との間の分岐点41Bから分岐し、且つ、パイロット油の一部を作動油タンクTに排出する。第1絞り部91は、チョーク形絞りであり、第2パイロット油路41における電磁弁81と分岐点41Bとの間に配置されている。第2絞り部92は、第1絞り部91とは流量特性の
異なるオリフィス形絞りであり、排出油路41Cに配置されている。
【0113】
流量補償用バルブV12は、変更された開度に応じて流量補償用ピストンAcを移動させ、斜板の角度を変更させるように斜板変更部73を作動させ、ポンプPa(第2油圧ポンプ)からの作動油(パイロット油)の吐出量が変更される。流量補償用ピストンAcが押されるほど、ポンプPaの斜板の角度が小さくなり、ポンプPaからの作動油の吐出量が減少する。
【0114】
第4実施形態では、電磁弁81(比例弁)の圧力を大きくする程、開度変更部180の第1収容部182Aに流れるパイロット油が多くなり、流量補償用バルブV12(流量補償弁)から流量補償用ピストンAcに供給されるパイロット油が増加し、流量補償用ピストンAcが更に押されることになり、ポンプPaからの作動油の吐出量が減少していく。すなわち、第4実施形態の第1変形例の油圧システムは、電磁弁81(比例弁)の圧力を大きくする程(つまり、差圧ピストン181にかかる圧力が大きくなる程)、ポンプPaからの作動油の吐出量が減少する。このため、第4実施形態の油圧システム30Cは、電磁弁81の圧力を大きくする程、LS差圧が小さくなる構成となっている。
また、第4実施形態の油圧システムは、ハーネス断線などで電磁弁81(比例弁)が動かなくなった場合でも、ポンプPaから作動油を吐出させることができ、フェールセーフ側に作用させることができる構成となっている。
ここで、作動油が低温である場合と、高温である場合とについて説明する。
【0115】
(低温の場合)
作動油(パイロット油)が低温である場合、チョーク形絞り(第1絞り部91)の圧損が大きく(流量に対して圧損が大きく)なり、高温の場合に比べて、電磁弁81(比例弁)から開度変更部180の第1収容部182Aに流れる作動油の流量が減る。このため、開度変更部180の差圧ピストン181にかかる圧力は、高温の場合よりも小さくなる。そして、流量補償用バルブV12(流量補償弁)から流量補償用ピストンAcに供給されるパイロット油が減少し、流量補償用ピストンAcが高温時よりも押されなくなり、ポンプPaからの作動油の吐出量が増加する。このため、低温時は、高温時よりもLS差圧が大きくなる。
【0116】
(高温の場合)
作動油(パイロット油)が高温である場合、チョーク形絞り(第1絞り部91)の圧損が小さく(流量に対して圧損が小さく)なり、低温の場合に比べて、電磁弁81(比例弁)から開度変更部180の第2収容部182Bに流れる作動油の流量が増える。このため、開度変更部180の差圧ピストン181にかかる圧力は、低温の場合よりも大きくなる。流量補償用バルブV12(流量補償弁)から流量補償用ピストンAcに供給されるパイロット油が増加し、流量補償用ピストンAcが低温時よりも押されることになり、ポンプPaからの作動油の吐出量が減少する。このため、高温時は、低温時よりもLS差圧が小さくなる。
【0117】
第4実施形態の構成によれば、圧力補償部90は、パイロット油の温度が低下するに連れてパイロット圧を小さくする。このため、電磁弁81(比例弁)を用いて馬力制御を行う構成において、簡易な構成でパイロット圧の温度補正を行うことができる。つまり、電磁弁81(比例弁)を用いて馬力制御を行う構成にした場合でも、低温時にポンプPaの吐出量を増やすことができ、高温時にポンプPaの吐出量を減らすことができる。したがって、低温時のLS差圧を、常温時よりも大きくすることができる。また、電磁弁81(比例弁)の圧力が大きくなるに従って(つまり、開度変更部76の収容部76Bへの圧力が大きくなるに従って)LS差圧を小さくすることができる。
【0118】
[第4実施形態の第1変形例]
次に、第4実施形態の第1変形例の油圧システムについて、
図8を用いて説明する。第4実施形態の第1変形例の油圧システムは、上記第4実施形態の油圧システムにおける第1絞り部91をオリフィス形絞りとし、第2絞り部92をチョーク形絞りとした構成とし、更に開度変更部180への接続関係が異なっている。具体的には、
図8に示すように、開度変更部180への接続関係については、第2パイロット油路41は、開度変更部180の第2収容部182Bに接続されている。また、排出油路41Aは、第1収容部182Aと作動油タンクTとを接続している。
【0119】
圧力補償部90は、パイロット油の温度が第1温度よりも低い第2温度に変化すると、第1温度のときのパイロット圧よりも高い、第2温度のときのパイロット圧に変更する。
開度変更部180は、圧力補償部90によって変更された第2温度のときのパイロット圧に応じて流量補償用バルブV12(流量補償弁)の開度を変更する。
図8に示す第4実施形態の第1変形例では、電磁弁81(比例弁)の圧力を大きくする程、開度変更部180の第2収容部182Bに流れるパイロット油の圧力が高くなり、流量補償用バルブV12(流量補償弁)から流量補償用ピストンAcに供給されるパイロット油が減少し、流量補償用ピストンAcが更に押されなくなっていき、ポンプPaからの作動油の吐出量が増加していく。すなわち、第4実施形態の第1変形例の油圧システムは、電磁弁81(比例弁)の圧力を大きくする程(つまり、差圧ピストン181にかかる圧力が大きくなる程)、ポンプPaからの作動油の吐出量が増加する構成となっている。このため、第4実施形態の第1変形例の油圧システム30Cは、電磁弁81の圧力を大きくする程、LS差圧が大きくなる構成となっている。
次に、作動油が低温である場合と、高温である場合とについて説明する。
【0120】
(低温の場合)
作動油(パイロット油)が低温である場合、チョーク形絞り(第2絞り部92)の圧損が大きく(流量に対して圧損が大きく)なり、電磁弁81(比例弁)から排出油路41Cを経て作動油タンク22に流れる作動油の流量が減るため、第1絞り部91の前後差圧は小さくなる。このため、開度変更部180の差圧ピストン181にかかる圧力は、電磁弁81(比例弁)が出力する圧力に近づく。つまり、第2パイロット油路41から開度変更部180の第2収容部182B内に流入するパイロット油のパイロット圧が、高温時に比べて大きくなり、差圧ピストン181が伸長する方向(流量補償用バルブV12に近づく方向)に移動し、流量補償用バルブV12の開度が変更される。そして、流量補償用バルブV12(流量補償弁)から流量補償用ピストンAcに供給されるパイロット油が減少し、流量補償用ピストンAcが高温時よりも押されなくなり、ポンプPaからの作動油の吐出量が増加する。このため、低温時は、高温時よりもLS差圧が大きくなる。
【0121】
(高温の場合)
作動油(パイロット油)が高温である場合、チョーク形絞り(第2絞り部92)の圧損が小さく(流量に対して圧損が小さく)なり、低温の場合に比べて、電磁弁81(比例弁)から開度変更部180の第2収容部182Bに流れる作動油の流量が減る。このため、開度変更部180の差圧ピストン181にかかる圧力は、低温の場合よりも小さくなる。流量補償用バルブV12(流量補償弁)から流量補償用ピストンAcに供給されるパイロット油が増加し、流量補償用ピストンAcが低温時よりも押されることになり、ポンプPaからの作動油の吐出量が減少する。このため、高温時は、低温時よりもLS差圧が小さくなる。
【0122】
第4実施形態の第1変形例の構成によれば、圧力補償部90は、パイロット油の温度が低下するに連れてパイロット圧を高くする。このため、電磁弁81(比例弁)を用いて馬力制御を行う構成において、簡易な構成でパイロット圧の温度補正を行うことができる。つまり、電磁弁81(比例弁)を用いて馬力制御を行う構成にした場合でも、低温時にポンプPaの吐出量を増やすことができ、高温時にポンプPaの吐出量を減らすことができる。したがって、低温時のLS差圧を、常温時よりも大きくすることができる。また、電磁弁81(比例弁)の圧力が大きくなるに従って(つまり、開度変更部180の第2収容部182Bへの圧力が大きくなるに従って)、LS差圧を大きくすることができる。
【0123】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0124】
1 :作業機
14 :ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)
15 :バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)
25 :制御装置
30A、30B :作業機の油圧システム
32 :原動機
40 :第1パイロット油路
41 :第2パイロット油路
56、56A、56B、56C :制御弁
70 :第1油路
71 :第2油路
72 :流量補償弁
73 :斜板変更部
75 :油圧制御部
76 :開度変更部
81 :電磁弁
82 :第1測定装置
83 :第2測定装置
84 :アクセル部材(指令部材)
84a :第1アクセル部材(指令部材)
84b :第2アクセル部材(指令部材)
88 :指令部材
90 :圧力補償部
91、91A、91B :第1絞り部
92、92A、92B :第2絞り部
P1 :第1油圧ポンプ
P2 :第2油圧ポンプ