(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】血管マップの傾きに基づく血流測定
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20240101AFI20240610BHJP
A61B 6/50 20240101ALI20240610BHJP
A61B 5/0215 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
A61B6/00 530A
A61B6/50 511E
A61B5/0215 C
(21)【出願番号】P 2021505246
(86)(22)【出願日】2019-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2019070854
(87)【国際公開番号】W WO2020025780
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-08-01
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ハーゼ クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】グラス ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ガウリアウ ロマーヌ イザベル マリエ‐ベルナルド
(72)【発明者】
【氏名】ファン ラヴィーレン マルテイン アン
【審査官】後藤 昌夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-231524(JP,A)
【文献】特開2012-130648(JP,A)
【文献】特開2018-061883(JP,A)
【文献】特表2017-509371(JP,A)
【文献】特表2017-522063(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101005803(CN,A)
【文献】特表2017-512104(JP,A)
【文献】特表2014-532509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00ー6/58
A61B 5/02-5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冠血管系を評価するための装置であって、前記装置は、
前記冠血管系内の複数の血管の診断画像の第1の時系列及び前記冠血管系内の複数の血管の診断画像の第2の時系列を受け取る入力ユニットであって、第1の時系列と第2の時系列とは、患者の異なる状態及び/又は造影剤動態の異なる状態を指す異なる獲得状態で獲得されたものであり、第1の時系列の診断画像の各々及び第2の時系列の診断画像の各々は、特定の時点についての造影剤動態の視覚化をそれぞれ表す、入力ユニットと、
前記診断画像の第1の時系列について、複数の血管を表す第1の動的血管マップの血管マップ特徴値の第1の時系列を算出し、前記診断画像の第2の時系列について、複数の血管を表す第2の動的血管マップの血管マップ特徴値の第2の時系列を算出し、前記血管マップ特徴値は、血管によって占められる前記診断画像のエリアを示し、前記血管マップ特徴値の第1の時系列及び前記血管マップ特徴値の第2の時系列が、時間に伴う造影剤の進展を示す、算出ユニットと、
前記血管マップ特徴値の第1の時系列と前記血管マップ特徴値の第2の時系列とを比較し、その比較に基づいて、少なくとも1つの大域的血行動態パラメータを導出する分析ユニットと、を備える、
装置。
【請求項2】
前記診断画像の第1の時系列及び前記診断画像の第2の時系列は、X線血管造影を使用して取得される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記患者の異なる状態は、安静状態及び充血状態であり、第1の動的血管マップは、前記安静状態下での時間の関数としての複数の血管への造影剤の流入を表し、第2の動的血管マップは、前記充血状態下での時間の関数としての複数の血管への造影剤の流入を表す、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記造影剤動態の異なる状態は、それぞれ複数の血管への造影剤の流入及び流出に対応する流入の状態及び流出の状態であり、第1の動的血管マップは、時間の関数としての複数の血管への造影剤の前記流入を表し、第2の動的血管マップは、時間の関数としての複数の血管からの造影剤の前記流出を表す、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記分析ユニットは、前記血管マップ特徴値の第1の時系列についての第1の傾き値を決定すること、前記血管マップ特徴値の第2の時系列についての第2の傾き値を決定すること、及び、少なくとも1つの大域的血行動態パラメータを導出するために第1の傾き値と第2の傾き値とを比較することにより、前記血管マップ特徴値の第1の時系列と前記血管マップ特徴値の第2の時系列とを比較する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記分析ユニットは、前記
第1の傾き値
及び前記第2の傾き値を比較すること及び関心対象である前記少なくとも1つの大域的血行動態パラメータに関連するグラウンドトゥルースで訓練された分類器ユニットをさらに備え、前記グラウンドトゥルースに基づいて、前記分析ユニットは、経験関数を使用して前記少なくとも1つの大域的血行動態パラメータを取得することを可能にされる、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記入力ユニットは、複数の血管のうち関心血管内部の近位測定位置において前記安静状態下で獲得された第1の圧力値を備える第1の血管内測定データを受け取り、前記関心血管内部の前記近位測定位置において前記充血状態下で獲得された第1の圧力値を備える第2の血管内測定データを受け取り、
前記装置は、前記安静状態下で獲得された第1の圧力値と、前記充血状態下で獲得された第1の圧力値との間のずれを決定し、前記ずれを所定の閾値と比較し、前記ずれが前記所定の閾値より大きい場合、対応する指示を出力する比較ユニットをさらに備える、
請求項3に記載の装置。
【請求項8】
第1の血管内測定データは、前記関心血管内部の遠位測定位置において前記安静状態下で獲得された第2の圧力値をさらに備え、第2の血管内測定データは、前記関心血管内部の前記遠位測定位置において前記充血状態下で獲得された第2の圧力値をさらに備え、
前記装置は、前記関心血管内部の前記近位測定位置と前記遠位測定位置との間の静水圧差を示す値を決定する決定ユニットと、第1の血管内測定データの第1及び第2の圧力値、第2の血管内測定データの第1及び第2の圧力値、並びに、前記静水圧差を示す値に基づいて、少なくとも1つの局所的血行動態パラメータを計算する計算ユニットとをさらに備える、
請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記静水圧差を示す前記少なくとも1つの値は、前記近位測定位置と前記遠位測定位置との間の高さの差を含む、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記静水圧差を示す値の決定は、前記診断画像の第1の時系列及び前記診断画像の第2の時系列の少なくとも一方から取得される少なくとも1つの診断画像に基づいて行われる、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
入力ユニットと、算出ユニットと、分析ユニットとを備える冠血管系を評価する
ための装置の作動方法であって、前記
作動方法は、
前記入力ユニットが、前記冠血管系内の複数の血管の診断画像の第1の時系列を受け取るステップと、
前記入力ユニットが、前記冠血管系内の複数の血管の診断画像の第2の時系列を受け取るステップであって、1の時系列と第2の時系列とは、患者の異なる状態及び/又は造影剤動態の異なる状態を指す異なる獲得状態で獲得されたものであり、第1の時系列の診断画像の各々及び第2の時系列の診断画像の各々は、特定の時点についての造影剤動態の視覚化をそれぞれ表す、第2の時系列を受け取るステップと、
前記算出ユニットが、前記診断画像の第1の時系列について、複数の血管を表す第1の動的血管マップの血管マップ特徴値の第1の時系列を算出するステップと、
前記算出ユニットが、前記診断画像の第2の時系列について、複数の血管を表す第2の動的血管マップの血管マップ特徴値の第2の時系列を算出するステップであって、前記血管マップ特徴値は、血管によって占められる前記診断画像のエリアを示し、前記血管マップ特徴値の第1の時系列及び前記血管マップ特徴値の第2の時系列が、時間に伴う造影剤の進展を示す、第2の時系列を算出するステップと、
前記分析ユニットが、前記血管マップ特徴値の第1の時系列と前記血管マップ特徴値の第2の時系列とを比較するステップと、
前記分析ユニットが、前記比較するステップに基づいて、少なくとも1つの大域的血行動態パラメータを導出するステップと
を有する、
作動方法。
【請求項12】
前記診断画像の第1の時系列及び第2の時系列を獲得するための前記患者の異なる状態は、それぞれ安静状態及び充血状態である、請求項11に記載の
作動方法。
【請求項13】
前記装置は、さらに、決定ユニットと、計算ユニットとを備え、
前記入力ユニットが、前記複数の血管のうち関心血管内部の近位測定位置において前記安静状態下で獲得された第1の圧力値、及び、前記関心血管内部の遠位測定位置において前記安静状態下で獲得された第2の圧力値を備える、第1の血管内測定データを受け取るステップと、
前記入力ユニットが、前記関心血管内部の前記近位測定位置において前記充血状態下で獲得された第1の圧力値、及び、前記関心血管内部の前記遠位測定位置において前記充血状態下で獲得された第2の圧力値を備える、第2の血管内測定データを受け取るステップと、
前記決定ユニットが、前記診断画像の第1の時系列及び前記診断画像の第2の時系列の少なくとも一方から取得される少なくとも1つの診断画像に基づいて、前記関心血管内部の前記近位測定位置と前記遠位測定位置との間の静水圧差を示す値を決定するステップと、
前記計算ユニットが、第1の血管内測定データの第1及び第2の圧力値、第2の血管内測定データの第1及び第2の圧力値、並びに、前記静水圧差を示す値に基づいて、少なくとも1つの局所的血行動態パラメータを計算するステップと
をさらに有する、請求項12に記載の
作動方法。
【請求項14】
請求項1から10のいずれか一項に記載の装置を制御するためのコンピュータプログラムであって、処理ユニットによって実行されたときに、請求項11又は13に記載の
作動方法を実施する、コンピュータプログラム。
【請求項15】
請求項14に記載のコンピュータプログラムが記憶された、コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冠血管系を評価するための装置、対応する方法、及びそれぞれのコンピュータプログラムに関する。特に、本発明は、診断画像の2つの時系列を介して追跡される造影剤動態を使用して、流動に関連する血行動態パラメータを直接決定することを可能にすることにより、冠動脈疾患を大域的に評価するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冠血流測定は、冠動脈病変の理解を向上することを可能にするため、冠動脈疾患を評価するための重要な手段である。より詳細には、そのような測定は、虚血の可能性など、冠動脈疾患の転帰の判定を可能にすると共に、患者に対する治療指針も提供する。この目的のために、冠血流測定は通例、安静状態と充血状態両方についての流速又はボリューメトリック流量などの流動に関連する特性を決定するために、安静状態下及び充血状態下で行われる。
【0003】
それらの測定に基づいて、様々な流動に関連する指標を求めることができる。1つの重要な指標はいわゆる冠血流予備能(CFR)であり、これは、正常な安静時ボリュームを上回る血管系を通る血流の最大の増加を定義する。CFRは、充血時流速vHと安静時流速vRとの比から計算される。
【0004】
これらの測定値のよく知られた利益にも関わらず、日常的な流動測定は、複雑性の増加と、流動に関連するパラメータを測定するために利用可能な測定技術の堅牢性の欠如とのために、臨床的な実践には移されていない。
【0005】
米国特許出願公開第2013/0116739(A1)号は、患者の心臓の関心領域における心臓の機械的動作を検出し、分析するための方法及び装置を開示している。同方法は、一心周期の少なくとも一部にわたって関心領域の2次元X線画像の時間シーケンスを獲得するステップ、X線画像内で冠血管を検出するステップ、画像のシーケンスにわたって冠血管を追跡することにより冠血管の移動を特定するステップ、及び冠血管の移動を分析することにより関心領域における心臓壁の動きを特徴付ける少なくとも1つのパラメータを定量化するステップを有する。
【0006】
米国特許出願公開第2015/0327780(A1)号は、処理回路を含む画像処理装置を開示し、処理回路は、対象者の血管の画像を含む時系列内の画像と、血管の物理的指標と血管血行動態に関連する血管の機能指標との間の相関関係を示す相関情報とを取得し、時系列内の画像に基づいて、対象者の血管の形態を示す時系列中の血管形態指標を計算し、血管形態指標から取得される対象者の血管の物理的指標を使用して、相関情報に基づいて対象者の血管の機能指標を特定するように構成される。
【0007】
よって、これらの流動に関連する特性を安静状態及び充血状態で直接測定する必要性を避け、代わりにこれらの特性を流動測定以外の測定から導出することを可能にするための手法がなされている。
【0008】
1つの特定の手法は、流速値などの流動に関連する特性値を、一連の血管造影の連続するフレーム中の造影剤動態から直接導出するものである。そのような手法の一例は、いわゆるTIMIフレームカウント(TFC)である。TFCでは、造影剤が血管中の標準化された遠位冠動脈標識点に到達するために必要とされる画像データのフレーム数が計数され、流速を導出するために使用される。しかし、造影剤動態に基づく手法は通例、時間がかかり、複雑であり、使用される動脈セグメントのフォレショトニング(短縮遠近法)に影響される。さらに、それらの手法は、一般に、流動に関連する特性の評価を大域的な形で、すなわち冠動脈樹全体(又はその一部分)について可能にする。
【0009】
特定の患者の流動に関連する特性をより部位に固有の形で決定するための可能な方式の1つは、冠動脈又は血管の幾何学的モデルを使用してそれらの特性を近似し、その幾何学的モデル内でモデル化される血管を通る血流をモデル化する流体動態モデルを使用して、対応する流動に関連する特性を算出するものである。しかし、正確に言えば、そのような手法は、境界条件を適切に決定することを必要とし、よって十分な知識と経験を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、流動に関連する特性のより正確且つ直截な決定を可能にするシステム及び方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、CFRなどの流動に関連する指標の大域的な評価を、直接的且つ時間効率的な形で提供することを可能にするシステム及び方法を提供することである。本発明のさらに他の目的は、流動に関連する指標の局所的な評価を直截且つ堅牢な形で提供することを可能にするシステム及び方法を提供することである。より詳細には、本発明の目的は、血流速度、ボリューメトリック流量等の流動に関連する特性の、したがって、CFRなどの流動に関連する指標の評価を、流体動態モデルの必要なしに可能にするシステム及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、冠血管系を評価するための装置によって達成され、この装置は、冠血管系内の複数の血管の診断画像の第1の時系列及び冠血管系内の複数の血管の診断画像の第2の時系列を受け取るように構成された入力ユニットであって、第1の時系列と第2の時系列とは、異なる獲得状態で獲得されたものであり、第1の時系列の診断画像の各々及び第2の時系列の診断画像の各々は、特定の時点についての造影剤動態の視覚化をそれぞれ表す、入力ユニットと、診断画像の第1の時系列について、複数の血管を表す第1の動的血管マップの血管マップ特徴値の第1の時系列を算出し、診断画像の第2の時系列について、複数の血管を表す第2の動的血管マップの血管マップ特徴値の第2の時系列を算出するように構成され、血管マップ特徴値の第1の時系列及び血管マップ特徴値の第2の時系列が、時間に伴う造影剤の進展を示す、算出ユニットと、血管マップ特徴値の第1の時系列と血管マップ特徴値の第2の時系列とを比較し、その比較に基づいて、少なくとも1つの大域的血行動態パラメータを導出するように構成された分析ユニットと、を備える。
【0012】
このコンテキストにおいて、時系列という用語は、時間と共に獲得された複数の診断画像を指す。より詳細には、これらの時系列は、血管系を通る造影剤動態を視覚化することを可能にする複数の診断画像を備え、この視覚化を用いて造影剤動態を追跡することができる。診断画像は、ここにおいて、血管系内の造影剤を視覚化することが可能な任意の医療イメージングモダリティによって獲得される。診断画像の獲得を可能にする1つの特定のイメージング方法は、X線イメージングである。
【0013】
第1の時系列及び第2の時系列の診断画像の各々は、ここにおいて、特定の時点についての造影剤動態の視覚化を表す。このために、時点という用語は、造影剤の注入の瞬間に相対的な特定の測定時点を指すものと理解されるべきである。言い換えると、測定ごとに、造影剤が注入される瞬間から開始して、時間が測定される。それ故に、診断画像の獲得は、造影剤が注入されると開始する。ここにおいて、特定の時系列の最初の方の診断画像は、造影剤がまだ血管のいずれにも到達していないため、及び/又は血管のいずれをも完全に満たしていないため、血管系のうち小さな部位のみを視覚化する。時間と共に、造影剤は次第に多くの血管に到達する。よって、診断画像内で見える血管の量が時間と共に増え、血管マップを表すようになる。
【0014】
このために、血管マップという用語は、広く解釈されるべきであり、また注入の開始時に診断画像内で見えている単一の血管も指し得ることが理解されるべきである。時間と共に、造影剤は次第に多くの血管内に流入し、血管マップは、診断画像内で次第に多くのエリアを占めるようになる。造影剤動態が、血流と同じ狭窄化及び摩擦によって影響されると仮定すると、造影剤流入の間の血管マップの時間進展は、血管系内部の血行動態に関する指示を提供する。
【0015】
よって、血管マップ特徴という用語は、診断画像内で視覚化された血管マップの特定の特徴を指す。いくつかの実施形態では、血管マップのこの特徴は、特に、診断画像内で血管によって占められるエリアである。いくつかの実施形態では、血管マップの特徴は、映像の中で見える血管の量であってもよい。時間と共に血管系を通る造影剤の進展の追跡を可能にする限り、他の血管マップ特徴も構想される。
【0016】
血管マップ特徴値の時系列という用語は、ここにおいて、診断画像の時系列の対応する複数の診断画像内で視覚化された血管マップから導出される複数の血管マップ特徴値を指す。言い換えると、特定の測定時点に獲得された時系列内の各診断画像について、血管マップ特徴値が導出され、これは、よって、その特定の測定時点に対応する。
【0017】
このようにして導出された血管マップ特徴の第1の時系列及び血管マップ特徴の第2の時系列は、互いと比較され、この比較に基づいて、大域的血行動態パラメータが導出される。このコンテキストにおいて、大域的という用語は、血行動態パラメータが、1つの特定の血管又は血管位置に対して指定されるものではない、すなわち、その位置において局所的に発生し得るパラメータではなく、血管系全体を表す血行動態パラメータであることを意味する。
【0018】
このために、血管系という用語は、特に、1つの血管樹の複数の血管を指す。いくつかの実施形態では、血管系という用語は、1つの血管樹のLAD又はLCXなどの、部分枝も指し得る。血行動態パラメータという用語は、血管内部の血流特性を示す任意の種類のパラメータを指す。いくつかの実施形態では、血行動態パラメータは、特に、流動に関連する血行動態パラメータである。いくつかの実施形態では、血行動態パラメータは冠血流予備能である。
【0019】
第1及び第2の時系列は、異なるそれぞれの状態下で獲得されたものである。一例として、第1の時系列は、患者の安静状態下で獲得され、第2の時系列は、充血状態下で獲得される。代替として又は追加として、異なる状態は、造影剤流入中に獲得された時系列と、造影剤流出下の他方の時系列とを指す場合もあり、ここで、第1の時系列に関する測定時間は、造影剤の注入の時点に対して測定され、第2の時系列に関する測定時間は、造影剤の流出の開始の時点に対して測定される。
【0020】
装置は、したがって、大域的血行動態パラメータを用いた冠血管系の大域的な評価を可能にし、ここで、大域的血行動態パラメータは、診断画像のセグメント化及び個々の血管を特定する必要なしに、イメージングデータから直接導出される。
【0021】
いくつかの実施形態では、診断画像の第1の時系列及び診断画像の第2の時系列は、X線血管造影を使用して取得される。
【0022】
指摘されたように、造影剤を視覚化することが可能な任意の医療イメージングモダリティが、関心血管系を通る造影剤動態を監視するために使用されてよい。いくつかの特定の実施形態では、X線血管造影、特に侵襲的X線血管造影を使用して、診断画像の第1及び第2の時系列を取得する。ここにおいて、第1の時系列及び第2の時系列の診断画像はそれぞれ、両方の状態について比較可能な診断画像を取得するなどのために、同じ投影方向から収集されるべきである。侵襲的X線血管造影を使用した第1及び第2の時系列の獲得は、血管系への造影剤注入カテーテルの挿入及び造影剤の注入を包含する。注入が行われると、X線画像の獲得が開始され、複数のX線血管造影画像が予め定められた間隔で収集される。いくつかの実施形態では、これら画像の獲得は、10~200msごと、より具体的には20~100msごと、さらにより具体的には50msごとに行われる。これにより、1秒当たり15~30画像のレートを達成する。
【0023】
いくつかの実施形態では、第1の動的血管マップは、安静状態下での時間の関数としての複数の血管への造影剤の流入を表し、第2の動的血管マップは、充血状態下での時間の関数としての複数の血管への造影剤の流入を表す。
【0024】
第1及び第2の時系列は、2つの比較可能なデータセットを取得するなどのために、異なる状態下で獲得されるべきである。いくつかの実施形態では、これらの異なる状態は、特に患者の状態を指す。いくつかの実施形態では、2つの状態の一方は患者の状態であり、そこでは患者は安静状態にあり、2つの状態の他方は患者の状態であり、そこでは患者は充血状態にある。この充血状態は、特に、血管拡張剤を患者に投与することによって誘発される。
【0025】
この実施形態では、大域的血行動態パラメータは、2つの異なる身体状態下での時間に伴う血管系を通る造影剤の進展を確かめるための2つの時間分解測定に基づいて決定される。すなわち、両方の場合とも、血管マップ特徴は、値がコンスタントに上昇しているか注視され、2つの異なる生理学的状態に対応する値同士の差が、流動に関連する大域的血行動態パラメータを示す。
【0026】
いくつかの実施形態では、第1の動的血管マップは、時間の関数としての複数の血管への造影剤の流入を表し、第2の動的血管マップは、時間の関数としての複数の血管からの造影剤の流出を表す。
【0027】
いくつかの実施形態では、状態は、造影剤動態の状態である。いくつかの実施形態では、診断画像の第1の時系列は、特に、血管系への造影剤の流入中に獲得され、診断画像の第2の時系列は、流出中に獲得される。この特定の実施形態の信頼性及び比較可能性を向上させるために、造影剤の輸液率が知られているべきであり、またボーラス長も知られているべきである。
【0028】
この実施形態では、患者は、特に、造影剤によって誘発される充血状態にあり、すなわち、充血は、血管内部の造影剤によって引き起こされる。この場合、第1の時系列は、診断画像内で視覚化される血管マップの増大を追跡し、第2の時系列はその縮小を追跡する。両方の場合とも、それぞれの血管マップ特徴値が、獲得され、その後比較される。
【0029】
いくつかの実施形態では、血管マップ特徴値の第1の時系列は、時間の関数として診断画像の第1の時系列の各診断画像内で複数の血管によって占められるエリアを示す第1の複数の値を備え、血管マップ特徴値の第2の時系列は、時間の関数として診断画像の第2の時系列の各診断画像内で複数の血管によって占められるエリアを示す第2の複数の値を備える。
【0030】
いくつかの実施形態では、血管マップの特徴は、特に、診断画像内で調査されるべき血管系の血管によって占められるエリアを指す。すなわち、これらの実施形態では、診断画像ごとに、すなわち各(測定)時点ごとに、画像のエリアのうちどれほどが血管によって占められているかを示す値が決定される。このエリアは、造影剤流入と共に増大し、造影剤流出と共に減少するはずであり、それにより、造影剤動態に関する結論を引き出すことを可能にする。
【0031】
血管によって占められるエリアを示す値は、特に相対値であってよく、その場合、0.0は、占められているエリアがないことを意味し、1.0は、診断画像エリアの全体が血管によって覆われていることを意味することが理解されるべきである。相対値は、診断画像エリア全体に対して決定されるのではなく、前記診断画像エリアの一区画、例えば診断画像エリアの内側の90%~70%について決定されてもよいことがさらに理解されるべきである。
【0032】
そのために、診断画像内で血管によって占められるエリアを示す値は、第1の時系列の各診断画像と、第2の時系列の各診断画像とについて獲得されるべきである。これらの値を比較可能なものに保つために、診断画像エリア又はその一区画は、両方の時系列に対して等しく選択されなければならない。これにより、造影剤流入(又は流出)に関する、及びそれにより血管系内の血管内部の大域的流動動態に関する正確な情報を取得することが可能になる。
【0033】
いくつかの実施形態では、分析ユニットは、時間の関数として複数の血管によって占められるエリアを示す第1の複数の値についての第1の傾き値を決定すること、時間の関数として複数の血管によって占められるエリアを示す第2の複数の値についての第2の傾き値を決定すること、及び、少なくとも1つの大域的血行動態パラメータを導出するために第1の傾き値と第2の傾き値とを比較することにより、血管マップ特徴値の第1の時系列と血管マップ特徴値の第2の時系列とを比較するように構成される。
【0034】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの大域的血行動態パラメータの決定は、特に、第1の時系列及び第2の時系列それぞれについての、時間の関数として血管によって占められるエリアの傾きを示す傾き値の比較に基づく。この目的のために、血管によって占められるエリアに対して両方の時系列の診断画像ごとに決定される値が、時間の関数とみなされ、すなわち、これらの値の過程が測定時間の関数として計算され、ここで、測定時間は、造影剤の注入の時点に相対的に、又は造影剤流出の開始の時点に相対的に決定される。その後、診断画像ごとに傾き値が決定される。この傾き値は、特に、最大の傾き又は平均の傾きに対応する。このようにして決定された傾き値(特定の時点に獲得された診断画像の各々に対して決定された)は、両方の時系列について比較される。すなわち、造影剤の注入に相対的な1つの特定の測定時点に獲得された第1の時系列のうち特定の1つの診断画像に対して決定された傾き値は、それに対応する測定時点、すなわち造影剤の注入又は造影剤の流出の開始に相対的に、獲得された第2の時系列のうちの対応する診断画像に対して決定された傾き値と比較される。この比較に基づいて、異なる状態下での傾き同士の差が決定され、それにより、血管内部の流動動態に関する結論を引き出すことが可能になる。
【0035】
いくつかの実施形態では、分析ユニットは、少なくとも1つの大域的血行動態パラメータに関するグラウンドトゥルースで訓練された分類器ユニットをさらに備え、分類器ユニットは、上記比較すること及びグラウンドトゥルースに基づいて、少なくとも1つの大域的血行動態パラメータを導出するように構成される。
【0036】
いくつかの実施形態では、分析ユニットは、機械学習アルゴリズムを実施する。すなわち、分析ユニットは、傾きの比較及び関心対象であるそれぞれの大域的血行動態パラメータ値に関連するグラウンドトゥルースで訓練された分類器ユニットを備える。分類器の訓練は、特に、同じ患者又は複数の異なる患者の以前の測定値から導出された訓練データセットを使用して行われてよい。このグラウンドトゥルースに基づいて、分析ユニットは、それぞれ安静状態及び充血状態下で時間の関数として画像内で占められる血管エリアの傾きを比較することにより、経験関数を使用して少なくとも1つの大域的血行動態パラメータを取得することを可能にされる。
【0037】
いくつかの実施形態では、入力ユニットは、複数の血管のうち関心血管内部の近位測定位置において安静状態下で獲得された第1の圧力値を備える第1の血管内測定データを受け取り、関心血管内部の近位測定位置において充血状態下で獲得された第1の圧力値を備える第2の血管内測定データを受け取るようにさらに構成され、上記装置は、比較ユニットであって、安静状態下で獲得された第1の圧力値と、充血状態下で獲得された第1の圧力値との間のずれを決定し、そのずれを所定の閾値と比較し、ずれが所定の閾値より大きい場合、対応する指示を出力するように構成された、比較ユニットをさらに備える。
【0038】
少なくとも1つの大域的血行動態パラメータの精度は、冠動脈疾患の評価において重要な因子である。よって、いくつかの実施形態では、分析ユニットによって決定された少なくとも1つの大域的血行動態パラメータの潜在的な不正確性/非信頼性を検出することを可能にする手法が実施される。
【0039】
いくつかの実施形態では、血管系に造影剤を注入するために使用されるカテーテルが、そのカテーテルが導入される血管内の大動脈圧力値を決定することを可能にする。すなわち、カテーテルは、血管内に導入され、近位位置に対応する第1の測定位置に配置され、安静状態及び充血状態両方の下でこの位置における圧力値を取得するために使用される。これは、注入カテーテルの外部に接続された圧力センサを用いて達成され、ここで、圧力は注入カテーテルの中空の長さを通って伝搬する。いくつかの実施形態では、圧力測定は、カテーテルによって行われるのではなく、関心血管に導入される追加的なプレッシャーワイヤによって行われる。
【0040】
そのコンテキストにおいて、近位という用語は、その従来の意味で、すなわち身体の主要な質量に近い位置を定義するものとして、理解されるべきである。冠血管に関して言えば、近位位置は、冠血管の長手方向に沿って見られたときに、それぞれの遠位位置よりも、心臓により近い、通例は大動脈に近い位置である。それ故に、近位測定位置という用語は、侵襲的測定によって圧力値が測定される大動脈に相対的に近い又は大動脈の中の血管内位置を特に指す。この圧力値は、ここにおいて、同じ近位測定位置において、安静状態下で1回及び充血状態下で1回測定される。
【0041】
近位測定位置においてカテーテルによって取得されたそれらの圧力値は、次いで互いと比較されて、安静状態下での測定と充血状態下での測定との間に(大動脈)圧力又は心拍数の著しい変化が発生したかどうかを検出する。すなわち、安静状態下で取得された圧力値と充血状態下で取得された圧力値との間のずれが、所定の閾値と比較される。ずれが閾値を超えると判定される場合、その指示が生成される。この尺度として適切な閾値は、15~5mmHgの範囲内であり得る。特定の閾値は、ここにおいて、10mmHgであり得る。
【0042】
このコンテキストにおいて、指示という用語は、ずれの発生をユーザに通知するためにユーザに出力される警告を指し得る。いくつかの実施形態では、指示という用語は、代替として又は追加として、少なくとも1つの大域的血行動態パラメータを補正するために生成されて分析ユニットに提供される補正係数を指し得る。この補正係数は、特に、訓練又はモデルに基づく補正に関して提供される。
【0043】
これらの実施形態によれば、決定される大域的血行動態パラメータの不正確性が低減され、及び/又はそのような不正確性の可能性がある場合にユーザが警告され、それにより評価プロセスを改良する。
【0044】
いくつかの実施形態では、第1の血管内測定データは、関心血管内部の遠位測定位置において安静状態下で獲得された第2の圧力値をさらに備え、第2の血管内測定データは、関心血管内部の遠位測定位置において充血状態下で獲得された第2の圧力値をさらに備える。装置は、関心血管内部の近位測定位置と遠位測定位置との間の静水圧差を示す値を決定するように構成された決定ユニットと、第1の血管内測定データの第1及び第2の圧力値、第2の血管内測定データの第1及び第2の圧力値、並びに静水圧差を示す値に基づいて、少なくとも1つの局所的血行動態パラメータを計算するように構成された計算ユニットと、をさらに備える。いくつかの実施形態では、静水圧差を示す少なくとも1つの値は、近位測定位置と遠位測定位置との間の高さの差を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの局所的血行動態パラメータは、冠血流予備能(CFR)を含む。
【0045】
上記で引用された実施形態は、大域的血行動態パラメータの決定を可能にする。この大域的血行動態パラメータは、通例、流動に関連する血行動態パラメータ、すなわち、関心血管系内の流動動態を大域的に評価する血行動態パラメータである。いくつかの実施形態では、血管系内の特定の血管の局所的な評価を行うことも有用であり得る。それは、血管が、狭窄等を有するものと特定される場合に特に該当する。よって、少なくとも1つの局所的血行動態パラメータを決定することが望ましい場合がある。より具体的には、少なくとも1つの局所的流動に関連する血行動態パラメータを決定することが望ましい場合がある。さらにより具体的には、冠血流予備能に関する局所的値が決定されてよい。
【0046】
ここにおいて、臨床的に非常に有用な血行動態パラメータである冠血流予備能(CFR)の決定がしばしば望まれる。CFRは、充血時流速v
Hと安静時流速v
Rとの比として定義される。
【数1】
【0047】
よって、CFRを決定するために、流速を決定するための流動測定が、充血
状態及び安静
状態下でそれぞれ行われなければならない。そのために、圧力測定を使用してCFRの決定を可能にすることは可能でなかった。その理由は、血管内部の2つの測定位置における圧力値間の圧力勾配が、血管内の摩擦損失、及び2つの測定が通例は同じ高度で行われないために発生する静水圧差、という2つの因子によって影響されるためである。すなわち、ベルヌーイの原理によれば、測定された圧力勾配は、次のように記述される。
【数2】
ここで、ρは血液濃度であり、gは重力定数であり、Δhは高度の差(又は高さの差)に対応し、v
1及びv
2は、圧力測定が行われた測定位置におけるそれぞれの流速である。圧力勾配
【数3】
は、流速同士が通常は非常に似ているため、通例は無視できる。血管内の摩擦損失は、
Δp
friction=R*v
に従って流速に相関付けられ、ここで、Rは、特定の関心血管の流体動的抵抗を記述し、vは流速に対応する。よって、
【数4】
及びΔp
friction=R*vであるので、以下を導出することができる。
【数5】
【0048】
よって、関心血管内で局所的にCFRを決定するためには、圧力測定の静水圧寄与と摩擦に関連する寄与とを互いから分離することが必要である。
【0049】
この目的を達成するために、血管内圧力測定を使用して取得された情報が、他の医療測定モダリティを用いて取り込まれた静水圧差を示す値と組み合わせられる。そのために、適切な医療測定モダリティは、特に、コンピュータ断層撮影、X線血管造影又はプレッシャーワイヤの任意種類の3次元追跡、例えば、電磁気追跡、超音波追跡、インピーダンスに基づく追跡等を包含する。さらに、光学形状感知も、値を決定するために用いられ得る。
【0050】
血管内測定は、ここにおいて、特に、充血状態及び安静状態両方の下で行われ、ここで両方の場合について、近位測定位置で1つ、遠位測定位置で1つ、の少なくとも2つの圧力値が決定される。これにより、充血状態と安静状態の両方の下での近位測定位置と遠位測定位置との間の圧力差を決定することが可能になる。これらの血管内圧力測定は、特に、関心血管に導入されるプレッシャーワイヤを用いて行われる。プレッシャーワイヤは、少なくとも2つの測定位置、すなわち近位測定位置及び遠位測定位置、で圧力値を測定するために使用される。遠位測定位置という用語は、ここにおいて、身体の主要な質量から遠い、関心血管内部の血管内位置を指す。すなわち、冠血管系の場合、遠位位置は、冠血管の長手軸に沿って見られたときに、近位位置と比べて心臓からより遠い位置に関係する。
【0051】
すなわち、血管内測定データの2つのセットが取得される。第1の血管内測定データは、ここにおいて、安静状態下でそれぞれ近位測定位置及び遠位測定位置において取得された第1及び第2の圧力値を備える。第2の血管内測定データは、充血状態下で近位測定位置及び遠位測定位置において取得された第1及び第2の圧力値を備える。
【0052】
血管内測定データのこれら2つのセットは、次いで決定ユニットに提供される。決定ユニットは、追加的な医療測定モダリティからの測定データをさらに受け取る。この測定データは、特に、1つ若しくは複数の追跡画像及び/又は1つ若しくは複数の診断画像を指し、ここで、静水圧差を示す値が、これらの画像から導出される。一例として、電磁気追跡画像が取得される。決定ユニットは、次いでこの電磁気追跡画像を使用して静水圧差を示す値を決定する。そのような圧力差を示す値は、ここにおいて、特に高さの差Δhであってよい。
【0053】
ここにおいて、心周期中の止血作用の変動性を補正するために、高度、すなわち高さの差Δhの決定が、特に、少なくとも当該心周期にわたって行われるべきである。ワイヤ追跡が使用され、よって高度が継続的に追跡されるいくつかの実施形態では、呼吸の動きに起因する高さの差Δhの変動性を補正するための動き補正も行われてよい。
【0054】
高さの差Δhが既知であれば、Δp
frictionを、Δp
friction=Δp
meas-ρ*g*Δhとして近似することが可能である。これにより、以下に従ってCFRを決定することが可能になる。
【数6】
【0055】
この近似を用いて、それぞれの圧力測定値から流動に関連する指標として局所的CFR値を導出することが可能である。
【0056】
上記から認識され得るように、局所的CFR値のこの決定は、同じく装置によって行われる大域的CFR値の事前の決定を必要としない。必要なのは、装置に、それぞれ安静状態及び充血状態下で近位測定位置及び遠位測定位置において測定された第1及び第2の血管内測定データ、並びに2つの測定位置間の高度の決定を可能にする測定データが提供されることである。
【0057】
いくつかの実施形態では、静水圧差を示す値の決定は、診断画像の第1の時系列及び診断画像の第2の時系列の少なくとも一方から取得される少なくとも1つの診断画像に基づいて行われる。
【0058】
いくつかの実施形態では、決定ユニットは、特に、第1の時系列及び/又は第2の時系列からの少なくとも1つの診断画像を使用する。この手法の利益は、それがすでに装置に容易に入手可能になっていることである。ここにおいて、診断画像データは、特に、特定の投影角度で撮られた単一又は複数の血管造影画像である。いくつかの実施形態では、CTモデルなどのさらなる診断画像データが使用される。
【0059】
さらなる態様によれば、冠血管系を評価する方法が提供され、この方法は、冠血管系内の複数の血管の診断画像の第1の時系列を受け取るステップと、冠血管系内の複数の血管の診断画像の第2の時系列を受け取るステップであって、第1の時系列と第2の時系列とは、異なる獲得状態で獲得されたものであり、第1の時系列の診断画像の各々及び第2の時系列の診断画像の各々は、特定の時点についての造影剤動態の視覚化をそれぞれ表す、第2の時系列を受け取るステップと、診断画像の第1の時系列について、複数の血管を表す第1の動的血管マップの血管マップ特徴値の第1の時系列を算出するステップと、診断画像の第2の時系列について、複数の血管を表す第2の動的血管マップの血管マップ特徴値の第2の時系列を算出するステップであって、血管マップ特徴値の第1の時系列及び血管マップ特徴値の第2の時系列が、時間に伴う造影剤の進展を示す、第2の時系列を算出するステップと、血管マップ特徴値の第1の時系列と血管マップ特徴値の第2の時系列とを比較するステップと、比較するステップに基づいて、少なくとも1つの大域的血行動態パラメータを導出するステップと、を有する。
【0060】
いくつかの実施形態では、上記方法は、複数の血管のうち関心血管内部の近位測定位置において安静状態下で獲得された第1の圧力値、及び関心血管内部の遠位測定位置において安静状態下で獲得された第2の圧力値を備える、第1の血管内測定データを受け取るステップと、関心血管内部の近位測定位置において充血状態下で獲得された第1の圧力値、及び関心血管内部の遠位測定位置において充血状態下で獲得された第2の圧力値を備える、第2の血管内測定データを受け取るステップと、診断画像の第1の時系列及び診断画像の第2の時系列の少なくとも一方から取得される少なくとも1つの診断画像に基づいて、関心血管内部の近位測定位置と遠位測定位置との間の静水圧差を示す値を決定するステップと、第1の血管内測定データの第1及び第2の圧力値、第2の血管内測定データの第1及び第2の圧力値、並びに静水圧差を示す値に基づいて、少なくとも1つの局所的血行動態パラメータを計算するステップとをさらに有する。
【0061】
さらなる態様において、上記の実施形態のいずれかによる装置を制御するためのコンピュータプログラムが提供され、このコンピュータプログラムは、処理ユニットによって実行されたときに、その実施形態の1つ又は複数による方法を実施するように適合される。さらに他の態様において、このコンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ可読媒体が提供される。
【0062】
請求項1の装置、請求項12の方法、14に記載のコンピュータプログラム、及び請求項15のコンピュータ可読媒体は、特に従属請求項に定められる、同様の及び/又は同一の好ましい実施形態を有することが理解されるべきである。
【0063】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項又は上記実施形態と、それぞれの独立請求項との任意の組合せでもあり得ることが理解されるべきである。
【0064】
本発明のこれら及び他の態様は、本明細書の以降に記載される実施形態の参照から明らかになり、参照から解明されよう。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】第1の例示的実施形態に係る冠血管系を評価するための装置を概略的に示す図である。
【
図2】第1の例示的実施形態に係る冠血管系を評価する方法のフローチャートである。
【
図3】第1の例示的実施形態に係る、流動に関連する血行動態パラメータの決定の図像的表現である。
【
図4】第2の例示的実施形態に係る冠血管系を評価するための装置を概略的に示す図である。
【
図5】第2の例示的実施形態に係る冠血管系を評価する方法のフローチャートである。
【
図6】第3の例示的実施形態に係る冠血管系を評価する方法のフローチャートである。
【
図7】例示的実施形態に係る、流動に関連する血行動態パラメータを局所的に決定する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0066】
図面における図示は概略的なものである。異なる図面において、同様の又は同一の要素には同じ参照符号が与えられている。
【0067】
図1は、冠血管系を評価するために少なくとも1つの大域的血行動態パラメータを決定するための装置1の第1の例示的実施形態を概略的に表す。装置1は、入力ユニット100、算出ユニット200、及び分析ユニット300を備え、表示ユニット700に通信的に結合されている。
【0068】
入力ユニット100は、診断画像の第1の時系列10及び診断画像の第2の時系列20を医療イメージングモダリティから受け取るように構成される。
図1の例示的実施形態では、第1の時系列10は、安静
状態下で、すなわち患者が静止している間に、獲得される。第2の時系列20は、充血
状態下で、すなわち患者が充血を誘発させるための血管拡張剤を受けた状態で、獲得される。
【0069】
図1による例示的実施形態では、第1の時系列10及び第2の時系列20は各々、侵襲的X線血管造影を使用して造影剤流入の間に収集された複数の診断画像を備える。造影剤は、ここにおいて、造影剤注入カテーテルを患者の冠血管系内の血管に挿入し、このカテーテルを使用して造影剤を注入することによって導入される。
【0070】
診断画像の第1の時系列10の獲得は、ここにおいて、任意選択で、血管系への造影剤の注入の開始と同時に開始され、造影剤が完全に注入されると停止される。すなわち、第1の時系列10は、安静状態下での冠血管系への造影剤の最大の流入を示し、第2の時系列20は、充血状態下での造影剤の最大の流入を示す。
【0071】
第1の時系列10及び第2の時系列20は、次いで算出ユニット200に提供される。算出ユニット200は、第1の時系列10及び第2の時系列20を受け取るように構成され、また
図1による例示的実施形態では、第1の時系列10及び第2の時系列20の各診断画像に粗いセグメント化を適用する。このセグメント化は、それぞれ第1の時系列10及び第2の時系列20内の各診断画像に対して血管マップ特徴を決定することを可能にする。
【0072】
図1による例示的実施形態では、この血管マップ特徴は特に、診断画像の予め定められた部分の中で血管によって占められる(すなわち、血管系の特定の部位にすでに入り込んだ造影剤によって視覚化される)血管エリアである。したがって、血管マップエリアについての値が、第1の時系列10及び第2の時系列20内の各診断画像に対して計算される。これらの値は、次いで分析ユニット300に提供される。
【0073】
分析ユニット300は、第1の時系列10の診断画像内の血管マップエリアについての各値を時間の関数として、及び第2の時系列20の診断画像内の血管マップエリアについての各値を時間の関数として検討するように構成される。すなわち、分析ユニット300は、第1の時系列10に対して1つ及び第2の時系列20に対して1つの、2つのマッピングを血管マップエリア値に対して決定する。これにより、分析ユニット300が両方のマッピングについての傾きを導出し、それらの関数の傾きを互いと比較することが可能になる。
図1の例示的実施形態では、分析ユニットは、ここにおいて、最大の傾きを決定し、第1の時系列10の血管マップエリアについての最大の傾きを、第2の時系列の血管マップエリアについての最大の傾きと比較して、大域的流動に関連する血行動態パラメータを決定し、これは、
図1の例示的実施形態では冠血流予備能(CFR)についての大域的値である。いくつかの実施形態では、平均の傾きを使用して、CFRなどの大域的流動に関連する血行動態パラメータを決定することが理解されるべきである。
【0074】
この目的のために、分析ユニット300は、任意選択で、機械学習アルゴリズムを実施する。すなわち、分析ユニット300は、例えば複数の異なる患者から導出された訓練データセットを使用して、傾き関係及びそれぞれの大域的CFR値(又は他の大域的血行動態パラメータ値)に関連するグラウンドトゥルースで訓練された分類器ユニットを備えてよい。このグラウンドトゥルースに基づいて、分析ユニットは次いで、それぞれ安静状態時及び充血状態時に時間の関数として画像内で占められる血管エリアの傾きの比較によって示される、それぞれの大域的CFR値を決定する。分析ユニットは、任意選択で、決定された大域的CFR値を表示ユニット700に提供する
【0075】
表示ユニット700は、決定された大域的CFR値の図像的表現を算出し、この表現をユーザに提供する。
【0076】
図2は、
図1の例示的実施形態に係る装置1を使用して大域的流動に関連する血行動態パラメータを決定する方法のフローチャートを概略的に表す。
【0077】
ステップS101で、入力ユニット100は、診断画像の第1の時系列10を受け取り、第1の時系列10は、安静状態下で獲得されたものである。ステップS102で、入力ユニット100は、充血状態下で獲得された診断画像の第2の時系列20をさらに受け取る。
【0078】
ステップS201で、算出ユニット200は、診断画像の第1の時系列10を受け取り、第1の時系列10の各診断画像に粗いセグメント化を適用して、各診断画像の血管マップ特徴値、すなわち特徴マップの時間進展を表す値、を決定する。ステップS202で、算出ユニット200は、診断画像の第2の時系列20を受け取り、第2の時系列の各診断画像に粗いセグメント化を適用して、各診断画像のそれぞれの血管マップ特徴値を決定する。上記で述べたように、例示的実施形態では、血管マップ特徴は、診断画像の予め定められた部分の中で血管によって占められるエリアである。よって、血管マップエリアについての値が、ステップS201及びS202で第1の時系列10及び第2の時系列20内の各診断画像に対して計算され、その後、分析ユニット300に提供される。
【0079】
ステップS301で、分析ユニット300は、第1の時系列に対して決定された各値を時間の関数として検討してそれらの値の時系列について第1の傾きを導出することにより、第1の時系列10の診断画像内で血管によって占められるエリアを表す値についてのマッピングを決定する。
図2の例示的実施形態では、この第1の傾きは最大の傾きである。ステップS302で、分析ユニット300は、第2の時系列20についての各値を時間の関数として検討してそれらの値の時系列の第2の傾きを導出することにより、第2の時系列20の診断画像内で血管によって占められるエリアを表す値についてのマッピングを決定する。
図2の例示的実施形態では、この第2の傾きも最大の傾きである。
【0080】
ステップS303で、分析ユニット300は、第1及び第2の最大の傾きを互いと比較する。ステップS304で、分析ユニット300は、その比較を使用して、冠血流予備能(CFR)などの、大域的流動に関連する血行動態パラメータを決定する。ステップS701で、この決定の結果の図像的表現が表示ユニット700によって生成され、ユーザに提示される。
【0081】
図3は、第1の例示的実施形態に係る、流動に関連する血行動態パラメータの決定の図像的表現を示す。診断画像11、12、13及び14は、安静
状態についての時間に伴う造影剤注入中の血管マップの進展を視覚化している。充血
状態の診断画像は、これに対応する形で血管マップを視覚化することが理解されるべきである。
【0082】
診断画像11は、血管マップのうち小さな部位のみを示しており、すなわち、診断画像11内で血管マップによって占められるエリアは比較的小さい値を有する。それに対して、造影剤の最大の流入時に獲得された診断画像14は、大きい血管マップを視覚化しており、すなわち、診断画像14内で血管マップによって占められるエリアは比較的大きい値を有する。
【0083】
安静状態下で造影剤動態を適正に追跡するために、曲線15が決定され、ここで、診断画像内で血管マップによって占められるエリアについての値が時間の関数として算出される。さらに、充血状態下で造影剤動態を追跡するために、曲線16が設けられ、ここでも診断画像内で血管マップによって占められるエリアについての対応する値が時間の関数として算出される。これにより、両方の曲線の傾き値を導出することが可能になる。傾き値は、次いで、大域的流動に関連する血行動態パラメータを決定するために使用される。
【0084】
図4は、第2の例示的実施形態に係る冠血管系を評価するための装置2を概略的に示す。装置2は、入力ユニット100、算出ユニット200、分析ユニット300、及び比較ユニット400を備え、表示ユニット700に通信的に結合されている。
【0085】
図4の例示的実施形態では、入力ユニット100は、医療イメージングモダリティから診断画像の第1の時系列10及び診断画像の第2の時系列20を受け取り、さらに、血管内部の近位位置において血管内測定デバイスによって決定された第1の圧力値を備える第1の血管内測定データ30と、血管内部の近位位置において血管内測定デバイスによって決定された第2の圧力値を備える第2の血管内測定データ40とを受け取るように構成される。
図4による例示的実施形態では、血管内測定デバイスは、特に、造影剤を注入するための注入カテーテルであってよい。
【0086】
ここにおいて、診断画像の第1の時系列10及び第1の血管内測定データ30は、安静状態下で獲得される。すなわち、第1の血管内測定データ30は、第1の時系列10の収集のために造影剤を注入する際に、カテーテルを使用して決定される。同様に、診断画像の第2の時系列20及び第2の血管内測定データ40は、充血状態下で獲得され、すなわち、第2の血管内測定データ30は、第2の時系列20の収集のために造影剤を注入するためのカテーテルを使用して決定される。
【0087】
第1の時系列10及び第2の時系列20は、次いで、血管マップ特徴値の第1の時系列及び血管マップ特徴値の第2の時系列をそれぞれ算出するために、
図1に関連して説明されたように粗いセグメント化のために算出ユニット200に提供される。このようにして算出された血管マップ特徴値の第1及び第2の時系列は、その後、分析ユニット300に提供され、これも
図1に関連して説明されたようにそこで分析される。すなわち、分析ユニット300は、時間の関数としての第1の時系列10の診断画像内の血管マップエリアについての各値と、時間の関数としての第2の時系列20の診断画内の血管マップエリアについての各値とを検討し、両方の曲線の傾きを導出し、両方の曲線の傾きを互いと比較して、大域的流動に関連する血行動態パラメータを決定し、これは
図4の例示的実施形態では大域的CFR値である。
【0088】
安静状態下で獲得された第1の圧力値を備える第1の血管内測定データ30と、充血状態下で獲得された第1の圧力値を備える第2の血管内測定データ40とは、比較ユニット400に提供される。比較ユニット400は、安静状態下で獲得された第1の圧力値と、充血状態下で獲得された第2の圧力値とを比較し、それら値の間にずれがあるかどうかを判定する。より具体的には、比較ユニット400は、このずれについての値を決定する。比較ユニット400は、次いで、このずれ値を所定の閾値と比較する。値が閾値を超える場合、比較ユニット400は、その指示を提供する。
【0089】
図4の例示的実施形態では、比較ユニット400は、特に、指示を表示ユニット700に送り、表示ユニット700は、警告又はアラーム信号などの、指示の図像的表現を算出して、決定された大域的流動に関連する血行動態パラメータが信頼できない可能性があることをユーザに示す。代替として又は追加として、比較ユニットは、その比較を使用して補正係数を決定してもよく、潜在的な非信頼性を克服するために、その補正係数を決定された大域的血行動態パラメータに適用するように構成されてもよい。その場合、補正が行われた旨の指示が、表示ユニット700に提供されてよく、表示ユニット700は、その指示の図像的表現を生成してよく、それによりユーザは補正に気が付く。そのために、表示ユニット700は、決定された大域的血行動態パラメータを受け取り、ユーザに提示するためにその表現を生成してもよいことが理解されるべきである。
【0090】
図5は、第2の例示的実施形態に係る冠血管系を評価する方法のフローチャートを表す。ステップS101及びS102は、第1の実施形態に係る
図2に関して説明されたステップS101及びS102に対応しており、すなわちこれらのステップでは、医療イメージングモダリティからの診断画像の第1の時系列10と診断画像の第2の時系列20とが、入力ユニット100で受け取られる。ステップS103で、入力ユニット100はさらに、安静
状態下で血管内部の近位位置において決定された第1の圧力値を備える第1の血管内測定データ30を受け取る。さらに、ステップS104で、入力ユニット100は、充血
状態下で血管内部の近位位置において測定された第1の圧力値を備える第2の血管内測定データ40を受け取る。
【0091】
図5のステップS201~S304で、第1の時系列10及び第2の時系列20が、大域的流動に関連する血行動態パラメータを決定するために、
図1との関連で説明されたように算出ユニット200及び分析ユニット300によって処理される。この大域的流動に関連する血行動態パラメータは、信頼できる場合も信頼できない場合もある。大域的流動に関連する血行動態パラメータの信頼性を決定するために、ステップS401~S403で、第1及び第2の血管内測定データ30、40が比較ユニット400によって使用される。
【0092】
すなわち、ステップS401で、比較ユニット400は、安静状態下で獲得された第1の圧力値と、充血状態下で獲得された第2の圧力値とを比較し、2つの圧力値のずれを示す値を決定する。ステップS402で、比較ユニット400は、このずれ値を所定の閾値を比較し、値が閾値を超える場合、決定された大域的血行動態パラメータが信頼できない可能性がある旨の指示をステップS403で提供する。この指示は、ステップS701で表示ユニット700によってユーザに対して図像的に表現され得る警告であってよい。
【0093】
代替として又は追加として、指示は、ステップS403における大域的血行動態パラメータ決定に適用され得る補正係数に対応してもよい。その場合、表示ユニット700は、補正が行われた旨の指示の図像的表現を生成し、前記表現をステップS701でユーザに提示してよい。
【0094】
図6は、第3の例示的実施形態に係る冠血管系を評価するための装置3を概略的に示す。装置3も同じく、入力ユニット100、算出ユニット200、分析ユニット300、及び比較ユニット400を備え、表示ユニット700に通信的に結合されている。これらユニットのそれぞれの機能は、
図4に関連して説明されたものに対応しており、不必要な繰り返しを避けるために以下では詳細に論じられない。それに加えて、装置3は、決定ユニット500及び計算ユニット600を備える。
【0095】
図6による例示的実施形態では、入力ユニット100は、医療イメージングモダリティからの診断画像の第1の時系列10及び診断画像の第2の時系列20を受け取り、さらに第1の血管内測定データ30及び第2の血管内測定データ40を受け取るように構成される。第1の血管内測定データ30は、ここにおいて、関心血管内部の近位位置において安静
状態下で獲得された第1の圧力値と、遠位位置において安静
状態下で獲得された第2の圧力値とを備える。同様に、第2の血管内測定データ40は、関心血管内部の近位位置において充血
状態下で獲得された第1の圧力値と、遠位位置において充血
状態下で獲得された第2の圧力値とを備える。
図6による例示的実施形態では、第1及び第2の血管内測定データは、特に、関心血管にプレッシャーワイヤを挿入し、安静
状態及び充血
状態下で近位位置及び遠位位置の2つの測定位置において圧力値を測定することによって取得されている。
【0096】
代替として又は追加として、入力ユニット100は、異なる医療測定モダリティからの1つ又は複数の測定結果も受け取ってよいことが理解されるべきである。一例として、入力ユニット100は、血管内圧力測定を行うためのプレッシャーワイヤの3次元追跡画像を受け取る。この特定の事例では、装置は、診断画像の第1及び第2の時系列を全く受け取らずに動作してもよい。
【0097】
診断画像の第1の時系列10及び診断画像の第2の時系列20は、本明細書の上記で詳細に説明されたように大域的血行動態パラメータを決定するために、算出ユニット200及び分析ユニット300によって処理される。さらに、第1の血管内測定データ30及び第2の血管内測定データ40は、任意選択で、大域的血行動態パラメータの信頼性についての入力を提供するために、及び/又は必要な場合に大域的血行動態パラメータを補正するために使用されてもよい。この目的のために、比較ユニット400は、安静状態下で獲得された第1の圧力値と充血状態下で獲得された第2の圧力値とを比較し、それらの値の間にずれがあるかどうかを判定する。比較ユニット400は、次いで、このずれの値を所定の閾値と比較して、閾値を超えるかどうかを判定する。超える場合、大域的血行動態パラメータの信頼性を示す指示が提供され、また指示は、大域的血行動態パラメータを補正するための補正係数も示し得る。
【0098】
さらに、装置3は、決定ユニット500を備える。第1の時系列10又は第2の時系列20からの1つ又は複数の診断画像が、決定ユニット500に提供される。代替として、それぞれの追跡モダリティによって取得された1つ又は複数の追跡画像が決定ユニット500に提供されてもよい。決定ユニット500は、診断画像又は追跡画像をセグメント化し、このセグメント化に基づいて、静水圧差を示す値を決定する。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の画像は、セグメント化に基づいて、関心血管の幾何学的3次元モデルを生成するために使用される。このモデルから、各圧力センサに1つずつ、2つの位置を決定することができる。これは、圧力センサが画像内で2つの異なる角度形成から見える場合に可能である。それら2つの位置から、静水圧差を示す値を決定することが可能である。
図6の例示的実施形態では、この値は、特に、血管内部における近位測定位置と遠位測定位置との間の高さの差Δhである。いくつかの実施形態では、高さの差は、単一の2次元X線画像などの単一の2D診断画像を使用して決定されてもよい。この目的のために、そのようなX線画像を収集するためのCアームは、適切な向きを有さなければならない。そのような適切な向きは、X線検出器の2つの軸のうちの一方が重力の引力に対して平行である場合に与えられる。いくつかの実施形態では、静水圧差、特に高さの差、を示す値は、3次元コンピュータ断層撮影(CT)のロードマップを使用して決定され、ここで、2つの血管内測定位置はロードマップ内に示される。次いで、CT解剖学的構造が、患者の解剖学的構造と位置合わせされ得る。このようにして決定された高さの差Δhは、次いで計算ユニット600に提供される。
【0099】
計算ユニット600は、高さの差Δh並びにさらに第1の血管内測定データ30及び第2の血管内測定データ40を受け取る。計算ユニット600は、第1の血管内測定データ30から、近位位置において決定された第1の圧力値と遠位位置において決定された第2の圧力値とを抽出し、安静状態下で取得された測定値についての圧力差Δpmeas_Rを決定する。さらに、計算ユニット600は、第2の血管内測定データ40から、近位位置において決定された第1の圧力値と遠位位置において決定された第2の圧力値とを抽出し、充血状態下で取得された測定値についての圧力差Δpmeas_Hを決定する。
【0100】
計算ユニット600は次いで、高さの差Δh及び安静
状態下での圧力差Δp
meas_R、並びに充血
状態下で測定された圧力差Δp
meas_Hを使用して、局所的流動に関連する血行動態パラメータを決定する。この局所的流動に関連する血行動態パラメータは、特に、冠血流予備能(CFR)に対応し得る。そのために、CFRは、上記から、
【数7】
に従って計算され、ここで、ρは血液濃度であり、gは重力定数である。
【0101】
このようにして決定された局所的流動に関連する血行動態パラメータは、大域的流動に関連する血行動態パラメータと共に表示ユニット700に提供される。表示ユニット700は、大域的血行動態パラメータ及び局所的血行動態パラメータの図像的表現をそれぞれ生成し、前記図像的表現をユーザに提示するように構成される。
【0102】
図7は、本明細書の上記で説明されたように流動に関連する血行動態パラメータを局所的に決定する方法のフローチャートを表す。
【0103】
ステップS101で、医療測定データが入力ユニット100で受け取られる。この医療測定データは、特に、関心血管から取得された、診断画像又は追跡画像を指す。いくつかの実施形態では、診断画像は、第1の時系列10内の複数の診断画像のうちの1つ、又は第2の時系列20内の複数の診断画像のうちの1つである。いくつかの実施形態では、診断画像は、静水圧差及びしたがって局所的血行動態パラメータを決定するという唯一の目的のために診断画像を取得することに専用の測定中に取得された診断画像である。いくつかの実施形態では、追跡画像は、造影剤を導入するためのカテーテルを追跡するための、電磁気追跡又は光学追跡などの3D追跡方法を使用して取得される。いくつかの実施形態では、追跡画像は、専用のプレッシャーワイヤを追跡するための3D追跡方法を使用して取得される。
【0104】
ステップS103及びS104で、第1及び第2の血管内測定データがそれぞれ入力ユニット100で受け取られる。第1及び第2の血管内測定データは各々、近位測定位置において測定された第1の圧力値と、遠位測定位置において測定された第2の圧力値とを備え、ここで、第1の血管内測定データは安静状態下で獲得されたものであり、第2の血管内測定データは充血状態下で獲得されたものである。
【0105】
ステップS501で、医療測定データ、特に診断画像又は追跡画像が、決定ユニット500においてセグメント化され、このセグメント化に基づいて、静水圧差を示す値が決定される。
図7の例示的実施形態では、この値は、第1の圧力値が測定された近位測定位置と、第2の圧力値が測定された遠位測定位置との間の高さの差Δhに対応する。このようにして決定された高さの差Δhは、次いで計算ユニット600に提供される。
【0106】
ステップS601で、計算ユニット600は、第1の血管内測定データ30から、近位位置において決定された第1の圧力値と、遠位位置において決定された第2の圧力値とを抽出する。ステップS602で、計算ユニットは次いで、第1の血管内測定データの第1の圧力値と第2の圧力値との間の圧力差Δpmeas_Rを決定する。すなわち、安静状態下での圧力測定についての圧力差がステップS602で取得される。
【0107】
ステップS604で、計算ユニット600は、第2の血管内測定データ40から、近位位置において決定された第1の圧力値と、遠位位置において決定された第2の圧力値とを抽出する。ステップS605で、計算ユニットは次いで、充血状態下で行われた測定についての対応する圧力差Δpmeas_Hを決定する。
【0108】
ステップS606で、計算ユニットは、高さの差Δh、安静
状態下での圧力差Δp
meas_R、及び充血
状態下で測定された圧力差Δp
meas_Hに基づいて、局所的流動に関連する血行動態パラメータを決定する。
図7による特定の実施形態では、この局所的流動に関連する血行動態パラメータは、冠血流予備能(CFR)に対応し、本明細書の上記に示されたように計算される。その結果得られるCFR値は、次いでステップS701で表示ユニット700に提供され、表示ユニット700は、その図像的表現を生成してユーザに表示する。
【0109】
上記で説明された実施形態では、診断画像はX線血管造影を使用して取得されたが、他の実施形態では、診断画像は、ヘリカルコンピュータ断層撮影又はシーケンシャルコンピュータ断層撮影、磁気共鳴イメージング、超音波イメージング等の他のイメージング方法によって取り込まれてよいことが理解されるべきである。
【0110】
さらに、上記の実施形態では、入力ユニット、算出ユニット、分析ユニット、比較ユニット、決定ユニット及び計算ユニットは、いくつかの別個のエンティティとして実施されたが、これらのユニットは同じエンティティに対応してもよいことが理解されるべきである。より具体的には、それらは、それぞれのモジュール及び/又は処理デバイスによって実行されるコンピュータプログラムとして実施されてよい。
【0111】
さらに、上記の実施形態では、評価は冠動脈の生理機能に関して行われたが、他の実施形態では、モデル化は、人体の他の生理機能に対して同様に行われてよい。一例として、本手法は、人体内の末梢動脈を評価するために適用されてよい。
【0112】
上記の実施形態では、第1及び第2の時系列は安静状態及び充血状態下で取得されたが、第1及び第2の時系列は、造影剤の流入及び血管系からの流出などの、他の異なる状態に対応するように取得されてもよいことがさらに理解されよう。
【0113】
さらに、上記の実施形態では、大域的血行動態パラメータは、血管樹(左/右)ごとに決定されたが、装置は、部分枝(LAD/LCXなど)への造影剤注入を含むように実施されることも可能であり、また血管エリアごとの大域的血行動態パラメータの決定を可能にするセグメント化方式を含んでもよいことが理解されるべきである。ここにおいて、セグメント化方式は、血管セグメントごとに大域的血行動態パラメータを決定するため、又は領域単位での血管マップの分析のために、造影剤のピーク充填時の明示的な血管セグメント化を包含してもよいことが理解されるべきである。
【0114】
上記の実施形態では、傾きを使用して大域的血行動態値を決定したが、傾きは、傾きをモデルに追加することによる狭窄重篤度の推定などの他の用途に使用されてもよいことが理解されるべきである。
【0115】
上記の実施形態では、圧力測定値を使用して冠血流予備能を決定したが、測定値は、血管セグメント化に基づいて、血管の流体動的抵抗、及びそれから対応する流速値などの値を決定するためにも使用されてよいことが理解されるべきである。
【0116】
さらに、血管セグメント化を使用して局所的な血管直径を決定してもよく、それにより、圧力勾配
【数8】
を推定して、圧力に基づくCFRの決定の精度をさらに向上させ得ることが理解されるべきである。
【0117】
上記の実施形態では、1回の血管内圧力測定当たり2つのみの圧力値が取得されたが、上記方法は、圧力引き戻しデータにも等しく適用可能であり、それは後に、CFR引き戻しデータセットの決定を可能にすることが理解されるべきである。
【0118】
図面、本開示、及び添付の特許請求の範囲の考察から、特許請求される本発明を実施する際に、開示される実施形態に対する他の変形例が、当業者によって理解及び実施され得る。
【0119】
特許請求の範囲において、「~を備える/含む」という単語は、他の要素又はステップを除外せず、単数形は複数を除外しない。
【0120】
単一のユニット又はデバイスが、特許請求の範囲に記載されるいくつかの項目の機能を果たしてよい。ある手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、それら手段の組合せを有利に使用できないことを意味するものではない。
【0121】
1つ又はいくつかのユニット又はデバイスによって行われ得る、診断画像の時系列及び/又は血管内測定データの受け取り、血管マップ特徴の時系列の計算、特徴値の比較、大域的血行動態パラメータの導出、局所的血行動態パラメータの導出等のような手順は、任意の他の数のユニット又はデバイスによって行われ得る。本発明に従うこれらの手順は、ここにおいて、コンピュータプログラムのプログラムコード手段及び/又は専用ハードウェアとして実施され得る。
【0122】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと共に又はその一部として供給される光学記憶媒体又は固体状態媒体などの適切な媒体で記憶/配布することができるが、インターネット又は他の有線若しくは無線の遠隔通信システムを介するなど、他の形態で配布されてもよい。
【0123】
特許請求の範囲内に参照符号がある場合、範囲を制限するものとは解釈すべきでない。
【0124】
本発明は、冠血管系を評価するための装置に関し、この装置は、冠血管系内の複数の血管の診断画像の第1の時系列及び冠血管系内の複数の血管の診断画像の第2の時系列を受け取るように構成された入力ユニットと、診断画像の第1の時系列について、複数の血管を表す第1の動的血管マップの血管マップ特徴値の第1の時系列を算出し、診断画像の第2の時系列について、複数の血管を表す第2の動的血管マップの血管マップ特徴値の第2の時系列を算出するように構成された算出ユニットと、血管マップ特徴値の第1の時系列と血管マップ特徴値の第2の時系列とを比較し、その比較に基づいて、少なくとも1つの大域的血行動態パラメータを導出するように構成された分析ユニットと、を備える。
【0125】
この構成によって、冠動脈疾患の大域的な評価が可能にされ、それにより、個々の血管をセグメント化及び検出する必要なしに、診断画像の時間シーケンスからそれぞれの大域的流動に関連する血行動態パラメータを直接決定することが可能になる。