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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20240610BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240610BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240610BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20240610BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20240610BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20240610BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K3/013
C08K3/34
C08L23/00
C08L27/12
C08L51/04
G02B1/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021533063
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2020027189
(87)【国際公開番号】W WO2021010366
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019131720
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019169277
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 晃司
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-174121(JP,A)
【文献】特開2007-308529(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033783(WO,A1)
【文献】特開2015-203049(JP,A)
【文献】特開平11-071316(JP,A)
【文献】国際公開第2019/073818(WO,A1)
【文献】特開2007-320980(JP,A)
【文献】特開2011-168633(JP,A)
【文献】特開2014-185262(JP,A)
【文献】特開2019-059813(JP,A)
【文献】特開2015-131876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08K 3/00-40
C08L 23/00-36
C08L 27/12
C08L 51/04
G02B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、平均粒径0.1~10μmの充填材(B)1~50質量部、オレフィン・無水マレイン酸共重合体(C)1.1~5質量部、エラストマー(D)1~25質量部、及び含フッ素樹脂(E)0.05~10質量部を含有し、エラストマー(D)と含フッ素樹脂(E)の含有量の比(D)/(E)が1を超え250以下であるポリカーボネート樹脂組成物であって、平均粒径が10μmを超える充填材を含有する場合はその含有量が樹脂組成物中7質量%未満であり、かつリン系難燃剤を含有する場合の含有量が樹脂組成物中2%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
充填材(B)と含フッ素樹脂(E)の含有量の比(B)/(E)が1を超え500以下である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
充填材(B)が板状の充填材である請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
充填材(B)が板状の充填剤であり、タルク、マイカ、ガラスフレーク、モンモリロナイト、ハイドロタルク石、セリサイト、カオリン、アルミナ、クレー、グラファイトから選ばれる少なくとも1種である請求項1~3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
充填材(B)がタルクである請求項1~4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
エラストマー(D)がコア/シェル型エラストマーである請求項1~5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
エラストマー(D)が、ブタジエン系ゴムコアのコア/シェル型エラストマーである請求項1~6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
ISO179に基づき測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m以上である請求項1~7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
ISO179に基づき測定した、温度85℃、相対湿度85%の条件で100時間処理後のノッチ付きシャルピー衝撃強度が10kJ/m以上である請求項1~8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
ISO75 A法に基づき測定した荷重たわみ温度が120℃以上である請求項1~9のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体。
【請求項12】
請求項11に記載の成形体を含む光学モジュール。
【請求項13】
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、平均粒径0.1~10μmの充填材(B)1~50質量部、オレフィン・無水マレイン酸共重合体(C)1.1~5質量部、エラストマー(D)1~25質量部、及び含フッ素樹脂(E)0.05~10質量部を含有し、エラストマー(D)と含フッ素樹脂(E)の含有量の比(D)/(E)が1を超え250以下であり、平均粒径が10μmを超える充填材を含有する場合はその含有量が樹脂組成物中7質量%未満であり、かつリン系難燃剤を含有する場合の含有量が樹脂組成物中2%以下であるポリカーボネート樹脂組成物からなり、ISO179に基づき測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m以上である成形体を含むことを特徴とする光学モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及び光学モジュールに関し、詳しくは、剛性と耐衝撃性に優れ、且つ低異方性を示し、さらに耐湿熱性に優れるポリカーボネート樹脂組成物及び光学モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は優れた機械特性を有し、エンジニアリングプラスチックとして広く使用されており、利用分野によってはその性質、特に機械的物性を改善する目的で、様々の強化剤、添加剤を配合することが行われてきた。そして高い機械的強度、剛性の要求される分野においては、ガラス繊維等の繊維状の強化材を用いることが行われている。しかし、ポリカーボネート樹脂にガラス繊維を配合した樹脂組成物は機械的強度、剛性は優れるものの、繊維の配向による成形収縮率の異方性が生じてしまう欠点を有している。
【0003】
近年、例えばカメラ等のレンズを備える撮像又は光学機器においては、軽量化や低コスト化のため鏡胴用筒状体(鏡筒)等の光学モジュールの樹脂化が図られており、ポリカーボネート樹脂をガラス繊維で強化された材料も使用されている。レンズ鏡筒においては、合焦やズーム駆動時において、光学系の光軸がずれないように、鏡筒の材質には十分な剛性と高い寸法精度が要求される。
【0004】
特定の断面形状を有するガラス繊維を用いて寸法精度を改善することも行われている。
特許文献1ではポリカーボネート樹脂と特定の断面形状を有する扁平断面ガラス繊維とリン酸エステル系難燃剤からなる機械強度と難燃性の改良された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提案されている。その実施例では、扁平断面ガラス繊維と厚さ5μmのガラスフレークを特定の量比で配合し、さらにリン酸エステル系難燃剤及びポリテトラフルオロエチレンを含有するポリカーボネート樹脂組成物が記載されているが、その異方性は十分満足できるものとはいえず、またリン系難燃剤を使用しているためポリカーボネート樹脂を可塑化することによる衝撃強度及び耐熱性の低下が発生しやすいことから、衝撃強度と耐熱性と異方性は不十分であり満足できるものではなかった。
【0005】
そして、鏡筒等では筒状に成形した際の円周方向の均一性(真円度)が求められるため樹脂材料には低異方性が必要であり、さらに樹脂材料とアルミニウムやマグネシウム等の金属(または合金)と複合化されているため、広い使用環境温度においても熱膨脹差に基づく光軸のずれを防止する必要があり、樹脂材料はこれら金属に線膨脹係数を近づけることが求められる。一方で、スマートフォンなど携帯デバイスのカメラモジュールに用いられるような光学モジュールでは、その構造からレンズと鏡筒が一体化した形をとり、光軸ずれを防止する為に鏡筒の樹脂材料は線膨張係数をレンズに合わせることが求められる。このような光学モジュールのレンズは殆どがポリカーボネートのような樹脂で構成されていることから、この用途においては、線膨張係数はそれら樹脂に近づけることが望ましい。このように、鏡筒用途では、デバイスによって線膨張係数を制御できるような材料系が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5021918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、その目的(課題)は剛性と耐衝撃性に優れ、さらに低異方性を示すポリカーボネート樹脂組成物及び光学モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ポリカーボネート樹脂に平均粒径が特定の微小な充填材を配合すると剛性と低異方性が向上すること、そしてその際、平均粒径が10μm以上という大きい平均粒径の充填材やリン系難燃剤は特定の量以上は配合しないことがよいことを見出した。
また、さらに、オレフィン・無水マレイン酸共重合体、エラストマー及び含フッ素樹脂を特定の量比で組み合わせることにより、衝撃強度が飛躍的に向上し、高剛性と高耐衝撃性の特性が発現すること、且つ低異方性を示すこと、さらにはポリカーボネート樹脂の劣化が抑制され耐湿熱性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物、成形体、及び光学モジュールに関する。
【0009】
[1]ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、平均粒径0.1~10μmの充填材(B)1~50質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、平均粒径が10μmを超える充填材を含有する場合はその含有量が樹脂組成物中10質量%未満であり、かつリン系難燃剤を含有する場合の含有量が樹脂組成物中2%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
[2]さらに、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、オレフィン・無水マレイン酸共重合体(C)0.1~5質量部、エラストマー(D)1~25質量部、及び含フッ素樹脂(E)0.05~10質量部を含有し、
エラストマー(D)と含フッ素樹脂(E)の含有量の比(D)/(E)が1を超え250以下であることを特徴とする上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3]充填材(B)と含フッ素樹脂(E)の含有量の比(B)/(E)が1を超え500以下である上記[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[4]充填材(B)が板状の充填材である上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[5]充填材(B)が板状の充填剤であり、タルク、マイカ、ガラスフレーク、モンモリロナイト、ハイドロタルク石、セリサイト、カオリン、アルミナ、クレー、グラファイトから選ばれる少なくとも1種である上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[6]充填材(B)がタルクである上記[1]~[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[7]エラストマー(D)がコア/シェル型エラストマーである上記[2]~[6]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[8]エラストマー(D)が、ブタジエン系ゴムコアのコア/シェル型エラストマーである上記[2]~[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[9]ISO179に基づき測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m以上である上記[1]~[8]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[10]ISO179に基づき測定した、温度85℃、相対湿度85%の条件で100時間処理後のノッチ付きシャルピー衝撃強度が10kJ/m以上である上記[1]~[9]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[11]ISO75 A法に基づき測定した荷重たわみ温度が120℃以上である上記[1]~[10]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[12]上記[1]~[11]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体。
[13]上記[12]に記載の成形体を含む光学モジュール。
【0010】
[14]ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、平均粒径0.1~10μmの充填材(B)1~50質量部を含有する樹脂組成物からなり、ISO179に基づき測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m以上である成形体を含むことを特徴とする光学モジュール。
[15]前記樹脂組成物が、さらに、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、オレフィン・無水マレイン酸共重合体(C)0.1~5質量部、エラストマー(D)1~25質量部、及び含フッ素樹脂(E)0.05~10質量部を含有し、エラストマー(D)と含フッ素樹脂(E)の含有量の比(D)/(E)が1を超え250以下である上記[14]に記載の光学モジュール。
[16]前記樹脂組成物が、平均粒径が10μmを超える充填材を含有する場合はその含有量が樹脂組成物中10質量%未満である上記[15]に記載の光学モジュール。
[17]充填材(B)と含フッ素樹脂(E)の含有量の比(B)/(E)が1を超え500以下である上記[15]または[16]に記載の光学モジュール。
[18]充填剤(B)がタルクである上記[14]~[17]のいずれかに記載の光学モジュール。
[19]エラストマー(D)がコア/シェル型エラストマーである上記[15]~[18]のいずれかに記載の光学モジュール。
[20]エラストマー(D)が、ブタジエン系ゴムコアのコア/シェル型エラストマーである上記[15]~[19]のいずれかに記載の光学モジュール。
[21]前記樹脂組成物は、ISO179に基づき測定した、温度85℃、相対湿度85%の条件で100時間処理後のノッチ付きシャルピー衝撃強度が10kJ/m以上である上記[14]~[20]のいずれかに記載の光学モジュール。
[22]前記樹脂組成物は、ISO75 A法に基づき測定した荷重たわみ温度が120℃以上である上記[14]~[21]のいずれかに記載の光学モジュール。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、剛性と耐衝撃性に優れ、且つ低異方性を示し、さらに耐湿熱性にも優れる。
本発明において、平均粒径が0.1~10μmの微小な充填材(B)を配合することと剛性と低異方性が向上し、光学モジュール等に使用された場合でも光学性能の低下を抑制できる。そして、好ましくは、オレフィン・無水マレイン酸共重合体(C)を配合して充填材(B)によるポリカーボネート樹脂の樹脂劣化を抑制し、エラストマー(D)によりさらに耐衝撃性を向上させ、さらには含フッ素樹脂(E)の配合は界面活性剤のような作用を奏し耐衝撃性の向上をさせ、剛性と耐衝撃性、低異方性、さらに耐湿熱性を発現させることができる。
そして、本発明の光学モジュールは、上記ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体を含む光学モジュールであり、剛性、耐衝撃性と低異方性に優れるため、変形しない、寸法精度が極めて良好であり、落としても割れない高性能の光学モジュールとして有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のポリカーボネート樹脂組成物、及び光学モジュールを構成する樹脂組成物に使用する各成分等につき、詳細に説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いてその前後を数値又は物性値で挟んで範囲を表現する場合、その前後の値を含む範囲を意味する。
【0013】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
ポリカーボネート樹脂は、式:-[-O-X-O-C(=O)-]-で示される炭酸結合を有する基本構造の重合体である。式中、Xは一般には炭化水素であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
また、ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、いずれを用いることもできる。中でも、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0014】
ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限はないが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなるポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法を用いてもよい。またポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このようなポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0015】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、
1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0016】
2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0017】
2,2’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0018】
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)、
2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、
1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)(4-プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0019】
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,4-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,5-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-プロピル-5-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0020】
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0021】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0022】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0023】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
等が挙げられる。
【0024】
これらの中ではビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0025】
また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーの例を挙げると、
エタン-1,2-ジオール、プロパン-1,2-ジオール、プロパン-1,3-ジオール、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール、2-メチル-2-プロピルプロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,4-ジオール、ペンタン-1,5-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、デカン-1,10-ジオール等のアルカンジオール類;
【0026】
シクロペンタン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4-(2-ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、2,2,4,4-テトラメチル-シクロブタン-1,3-ジオール等のシクロアルカンジオール類;
【0027】
エチレングリコール、2,2’-オキシジエタノール(即ち、ジエチレングリコール)、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、スピログリコール等のグリコール類;
【0028】
1,2-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジエタノール、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,3-ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、1,6-ビス(ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、4,4’-ビフェニルジメタノール、4,4’-ビフェニルジエタノール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビスフェノールAビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル、ビスフェノールSビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル等のアラルキルジオール類;
【0029】
1,2-エポキシエタン(即ち、エチレンオキシド)、1,2-エポキシプロパン(即ち、プロピレンオキシド)、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,4-エポキシシクロヘキサン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、2,3-エポキシノルボルナン、1,3-エポキシプロパン等の環状エーテル類;等が挙げられる。
【0030】
ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0031】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0032】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0033】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0034】
ポリカーボネート樹脂の好ましい例としては、ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールA又はビスフェノールAと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とを併用したポリカーボネート樹脂、ビスフェノールC又はビスフェノールCと他の芳香族ジヒドロキシ化合物(特にビスフェノールA)とを併用したポリカーボネート樹脂、さらにこれら樹脂のブレンド物が挙げられる。
【0035】
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、粘度平均分子量(Mv)で、16000~50000の範囲にあることが好ましく、より好ましくは18000以上、さらに好ましくは20000以上であり、より好ましくは45000以下、さらに好ましくは40000、特に好ましくは38000以下である。粘度平均分子量を粘度平均分子量が16000より小さいと、成形品の耐衝撃性が低下しやすく、割れが発生する虞があるので好ましくなく、50000より大きいと流動性が悪くなり成形性に問題が生じやすいので好ましくない。
なお、ポリカーボネート樹脂(A)は、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0036】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、
η=1.23×10-4Mv0.83 から算出される値を意味する。また極限粘度[η]は、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0037】
また、本発明においては、さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマー又はポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマー又はポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマー又はポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマー又はポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマー又はポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0038】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量(Mv)は、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。ポリカーボネートオリゴマーを含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、特に10質量部以下とすることが好ましく、含有する際の下限としては、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、特に好ましくは3質量部以上である。
【0039】
さらにポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂(A)のうち、80質量%以下であることが好ましく、中でも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0040】
[充填材(B)]
充填材(B)としては、平均粒径が0.1~10μmの充填材を使用する。充填材(B)の平均粒径は、好ましくは9μm以下、より好ましくは8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、4μm以下、中でも3μm以下、特には2.5μm以下が好ましい。
また、好ましくは0.12μm以上、より好ましくは0.15μm以上、0.18μm以上、中でも0.2μm以上、特には0.25μm以上が好ましい。
【0041】
なお、充填材(B)の平均粒子径はレーザー回折法により求めるD50平均粒径である。
【0042】
充填材(B)は、無機充填材が好ましく、板状の充填材がより好ましく、具体的にはタルク、マイカ、ガラスフレーク、モンモリロナイト、ハイドロタルク石、セリサイト、カオリン、アルミナ、クレー、グラファイト等が好ましく、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
これらの中では、タルクやマイカが好ましい。
【0043】
[タルク]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、充填材(B)として、特にタルクを含有することが好ましい。タルクを後記する各成分と共に含有することで、樹脂組成物をより低異方性かつ低線膨張とすることができ、より剛性も向上させることができる。
【0044】
タルクは、周知のとおり、層状構造を持つ含水ケイ酸マグネシウムである。
タルクとしては、平均粒子径が0.1~10μmであるものが使用される。平均粒径は、好ましくは0.3~8μm、特に0.7~5μmであれば更に好ましい。平均粒子径を0.1μm以上とすることで樹脂組成物の熱安定性がより向上する傾向にあり、また平均粒子径を10μm未満とすることで樹脂組成物の成形品外観や剛性がより向上する。
【0045】
タルクは、ポリカーボネート樹脂(A)との親和性を高めるために、表面処理が施されていることも好ましい。表面処理剤としては、具体的には例えば、トリメチロ-ルエタン、トリメチロ-ルプロパン、ペンタエリスリト-ル等のアルコ-ル類、トリエチルアミン等のアルカノ-ルアミン、オルガノポリシロキサン等の有機シリコ-ン系化合物、ステアリン酸等の高級脂肪酸、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩、ポリエチレンワックス、流動パラフィン等の炭化水素系滑剤、リジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸、ポリグリセリン及びそれらの誘導体、シラン系カップリング剤、チタネ-ト系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等のカップリング剤から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0046】
また、タルクは、樹脂組成物に含有させたときの表面外観性および熱安定性の観点から、バインダーを用いて造粒した顆粒状のものであることも好ましい。顆粒状タルクである場合の嵩密度は0.4~1.5g/mlであることが好ましい。
【0047】
充填材(B)の好ましい含有量は、ポリカーボネート樹脂脂(A)100質量部に対し、1~50質量部である。このような範囲であることで、低線膨張かつ十分な機械物性が得られる。充填材(B)の含有量が、1質量部を下回ると、低線膨張とすることができず、また剛性が不足し、50質量部を上回ると、生産安定性が低下しまた靱性も低下する。充填材の含有量は、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらには35質量部以下、特には30質量部以下が好ましい。
【0048】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、平均粒径が10μmを超える充填材を含有する場合はその含有量が樹脂組成物中10質量%未満であることを特徴とする。
ここで、平均粒径が10μmを超える充填材(以下、充填材(BX)ということもある)としては、使用された充填材(B)と同種のもので平均粒径が10μmを超えるものが配合される場合であってもよく、また、使用された充填材(B)とは別種の充填材で平均粒径が10μmを超える充填材であってもよい。充填材(BX)を含有しないか、含有する場合の含有量が樹脂組成物中10質量%未満とする。
【0049】
充填材(BX)は、充填材(B)とは別種のものの例としては、例えばチタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム等のウィスカー状充填材、炭素繊維やガラス繊維等の繊維状充填材等が好ましく例示できる。本発明では、充填材(BX)の平均粒径は、充填材(BX)がウィスカー状、針状、繊維状等の場合は、その平均繊維長が適用される。
【0050】
充填材(BX)を含有する場合、ポリカーボネート樹脂組成物中の割合は、樹脂組成物中10質量%未満であり、好ましくは0質量%または10質量%未満であり、より好ましくは0質量%または7質量%未満、0質量%または5質量%未満、0質量%または3質量%未満、である。充填材(BX)の含有割合が上記上限値以上になると、光学モジュールのレンズユニットの光学性能を悪化させるなどの問題が生じる。
【0051】
[オレフィン・無水マレイン酸共重合体(C)]
オレフィン・無水マレイン酸共重合体(C)を上記及び後記各成分と共に含有することにより、ポリカーボネート樹脂と充填材(B)の直接的な接触が阻害され、樹脂組成物の熱安定性や機械物性を改良することができ、耐衝撃性をより向上させることができる。
【0052】
オレフィン・無水マレイン酸共重合体(C)としては、オレフィン・無水マレイン酸共重合体及び/又は無水マレイン酸変性オレフィン重合体が好ましい。
【0053】
オレフィン・無水マレイン酸共重合体は、無水マレイン酸と、α-オレフィンの共重合体、共役ジエン系単量体との共重合体、共役ジエン・芳香族ビニル系単量体との共重合体などが挙げられる。
【0054】
α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1、1-デセン等の炭素数2~10のα-オレフィンが好ましく挙げられ、これらを単独または複数以上であってもよい。これらの中でもエチレン、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1がより好ましく、エチレンにプロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1またはオクテン-1を組み合わせたものが特に好ましい。
【0055】
共役ジエン系単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン(すなわち、2-メチル-1,3-ブタジエン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等の共役ジエン単量体が単独あるいは複数組み合わせて使用できる。これらはその重合体中に存在する不飽和結合の一部または全部が水添により還元されたものも好ましく使用できる。
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられ、なかでもスチレンが好ましく使用できる。
【0056】
α-オレフィン・無水マレイン酸共重合体としては、無水マレイン酸-エチレン-プロピレン共重合体、無水マレイン酸-エチレン-ブテン-1共重合体が特に好ましい。
【0057】
無水マレイン酸変性オレフィン重合体におけるオレフィン系重合体としては、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1等のα-オレフィンの単独重合体もしくはエチレン系共重合体、共役ジエン系重合体(ジオレフィン系単量体の単独重合体又は共重合体)、共役ジエン・芳香族ビニル炭化水素系共重合体、非共役系ジエンなどが挙げられ、これらは2種以上混合して用いることができる。
【0058】
ここでいう単独重合体としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられる。ポリエチレンとしてはLDPE、LLDPE、HDPEなどいずれの分子構造を持ったものも好ましく使用できる。
さらにエチレン系共重合体とは、エチレンと他の単量体との共重合体および多元共重合体を指す。エチレン系共重合体において、エチレンの共重合量は50~99モル%であることが好ましい。エチレンと共重合する他の単量体としては炭素数3以上のα-オレフィン、非共役ジエン、酢酸ビニルなどの中から選択することができる。
炭素数3以上のα-オレフィンとしては、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、3-メチルペンテン-1、オクテン-1などであり、プロピレン、ブテン-1が好ましく使用できる。
【0059】
これらのエチレン系共重合体の中では、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンとの共重合体が好ましく、具体的にはエチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体などが特に好ましく挙げられる。
【0060】
非共役系ジエンとしては、5-メチリデン-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-プロペニル-2-ノルボルネン、5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、5-クロチル-2-ノルボルネン、5-(2-メチル-2-ブテニル)-2-ノルボルネン、5-(2-エチル-2-ブテニル)-2-ノルボルネン、5-メチル-5-ビニルノルボルネンなどのノルボルネン化合物、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、4,7,8,9-テトラヒドロインデン、1,5-シクロオクタジエン、1,4-ヘキサジエン、イソプレン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、11-トリデカジエンなどであり、好ましくは5-メチリデン-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエンなどが挙げられる。
【0061】
共役ジエン系重合体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等の共役ジエン単量体の単独重合体あるいは共重合体が挙げられる。これらの重合体中に存在する不飽和結合の一部または全部が水添により還元されたものも好ましく使用できる。
【0062】
さらに、共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素との共重合体を使用することもできる。例えば、共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素との比がさまざまのブロック共重合体またはランダム共重合体であり、これを構成する共役ジエンの例としては前記の単量体が挙げられ、特に1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましい。芳香族ビニル炭化水素の例としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられ、なかでもスチレンが好ましく使用できる。また、共役ジエン・芳香族ビニル炭化水素系共重合体の芳香環以外の不飽和結合の一部または全部が水添により還元されているものも好ましく使用できる。好ましい例として、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体を部分水添してなる共重合体が挙げられる。
【0063】
以上説明したオレフィン系重合体としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体を部分水添してなる共重合体等を好ましい例として挙げることができ、エチレン・プロピレン共重合体が特に好ましい。
【0064】
無水マレイン酸変性オレフィン重合体は、前記オレフィン系重合体に、無水マレイン酸をグラフト変性したものである。グラフト変性の方法については公知の手法を用いることができる。例えば、押出機を用いて溶融状態のオレフィン系重合体に所定量の不飽和カルボン酸類を混合して反応させることができる。
グラフト反応する無水マレイン酸の量は、無水マレイン酸変性オレフィン重合体100質量%基準で、通常0.005~25質量%、好ましくは0.01~20質量%の範囲である。
【0065】
オレフィン・無水マレイン酸共重合体(C)の好ましい含有量は、ポリカーボネート樹脂脂(A)100質量部に対し、0.1~5質量部である。このような範囲であることで、ポリカーボネート樹脂の樹脂劣化を抑制でき、耐衝撃性が高く、また発生ガスによる金型汚染が少なくなる。共重合体(C)の含有量が、0.1質量部を下回ると、成形品の耐衝撃性が低下し、5質量部を上回ると、成形品の剛性が低下し、また成形時の発生ガスに起因する金型汚染が増加する。共重合体(C)の好ましい含有量は、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは4.5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、さらには3.5質量部以下、中でも3質量部以下、とりわけ2.5質量部以下、特には2質量部以下が好ましい。
【0066】
[エラストマー(D)]
エラストマー(D)を上記各成分と含フッ素樹脂(E)と組み合わせて含有することで、樹脂組成物の耐衝撃性を改良することができ、そして、エラストマー(D)と含フッ素樹脂(E)の含有量の比(D)/(E)を好ましくは1超~250とすることで、衝撃強度が飛躍的に向上し、高剛性と高耐衝撃性のポリカーボネート樹脂組成物とすることができる。
【0067】
本発明に用いるエラストマーは、ゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分とをグラフト共重合したグラフト共重合体が好ましい。グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
【0068】
ゴム成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも-20℃以下が好ましく、更には-30℃以下が好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレートやポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン-アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴムやエチレン-ブテンゴム、エチレン-オクテンゴムなどのエチレン-α-オレフィン系ゴム、エチレン-アクリルゴム、フッ素ゴムなど挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。
これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエンゴム、ポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴムが好ましい。
【0069】
ゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を挙げることができる。
【0070】
ゴム成分を共重合したグラフト共重合体は、耐衝撃性や表面外観の点からコア/シェル型グラフト共重合体タイプのものが好ましい。なかでもポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル層からなる、コア/シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。上記コア/シェル型グラフト共重合体において、ゴム成分を40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸は、10質量%以上含有するものが好ましい。
【0071】
エラストマー(D)は、上記した中でも、コア/シェル型エラストマーであることが好ましく、中でもシリコーン・アクリル複合系、アクリル系ゴム、またはブタジエン系ゴムがコアのコア/シェル型エラストマーが好ましく、特にブタジエン系ゴムがコアのコア/シェル型エラストマーが好ましい。
【0072】
尚、本発明におけるコア/シェル型とは必ずしもコア層とシェル層が明確に区別できるものではなくてもよく、コアとなる部分の周囲にゴム成分をグラフト重合して得られる化合物を広く含む趣旨である。
【0073】
これらコア/シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート-アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体、ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートとを含むシリコーン-アクリル複合ゴム等が挙げられ、ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートとを含むシリコーン-アクリル複合ゴムおよびメチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(MB)が特に好ましい。このようなゴム性重合体は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0074】
エラストマー(D)の好ましい含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、1~25質量部であり、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは2.5質量部以上、特に好ましくは3質量部以上であり、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは18質量部以下、特に好ましくは15質量部以下である。
エラストマー(D)は1種類のみ含んでいてもよいし、2種類以上含んでいてもよい。2種類以上含む場合は、合計量が上記範囲となる。
【0075】
[含フッ素樹脂(E)]
含フッ素樹脂を上記した各成分と共に含有することで、含フッ素樹脂は界面活性剤のような作用を奏し耐衝撃性の向上をさせ、樹脂組成物の機械物性をより改良することができ、また燃焼時の滴下防止性を向上させ難燃性をより向上させることができる。そして、エラストマー(D)と含フッ素樹脂(E)の含有量の比(D)/(E)を好ましくは1超~250とすることで、衝撃強度が飛躍的に向上し、高剛性と高耐衝撃性を発現させることができる。
【0076】
含フッ素樹脂としては、フルオロオレフィン樹脂が好ましい。フルオロオレフィン樹脂は、通常フルオロエチレン構造を含む重合体あるいは共重合体であり、具体例としては、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられるが、なかでもテトラフルオロエチレン樹脂が好ましい。
また、この含フッ素樹脂としては、フィブリル形成能を有するものが好ましく、具体的には、フィブリル形成能を有するフルオロオレフィン樹脂が挙げられる。フィブリル形成能を有することで、耐衝撃性、曲げ弾性率が著しく向上し、また燃焼時の滴下防止性が向上する傾向にある。
【0077】
また、含フッ素樹脂として、有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂も好適に使用することができる。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂を用いることで、分散性が向上し、成形品の表面外観が向上し、表面異物を抑制できる。
有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂は、公知の種々の方法により製造でき、例えば(1)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(2)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で、有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(3)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、等が挙げられる。
【0078】
フルオロオレフィン樹脂を被覆する有機系重合体を生成するための単量体としては、ポリカーボネート樹脂に配合する際の分散性の観点から、ポリカーボネート樹脂との親和性が高いものが好ましく、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体がより好ましい。
【0079】
含フッ素樹脂(E)は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0080】
含フッ素樹脂(E)の好ましい含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.05~10質量部であり、その上限は好ましくは8質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらには3質量部以下、特には2質量部以下が好ましい。
含フッ素樹脂(E)の含有量を0.05質量部以上とすることで、十分な機械物性向上効果が得られ、10質量部以下とすることにより樹脂組成物を成形した成形品の含フッ素樹脂の分散不良に起因する外観不良が起こりにくく、機械的強度を高く保つことができる。
【0081】
[各成分の含有量の比]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、エラストマー(D)と含フッ素樹脂(E)の含有量の比(D)/(E)は、好ましくは1超~250であるが、より好ましくは2以上であり、より好ましくは200以下、さらには150以下、特に好ましくは100以下である。
充填材(B)と含フッ素樹脂(E)の含有量の比(B)/(E)は好ましくは1超~500であることが、耐衝撃性発現の点から好ましく、より好ましくは400以下、さらには300以下、特に好ましくは250以下である。
エラストマー(D)とオレフィン・無水マレイン酸共重合体(C)の含有量の比(D)/(C)は0.2~250であることが、耐衝撃性発現の点から好ましく、より好ましくは1超であり、より好ましくは200以下、さらには100以下、中でも50以下、とりわけ30以下、特に好ましくは10以下である。
オレフィン・無水マレイン酸共重合体(C)と含フッ素樹脂(E)の含有量の比(C)/(E)は0.1~50であることが、耐衝撃性発現の点から好ましく、より好ましくは0.5以上であり、より好ましくは30以下、さらには20以下、特には15以下であることが好ましい。
【0082】
[難燃剤]
ポリカーボネート樹脂組成物は、難燃剤を含有することも好ましい。好ましい含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01~30質量部、より好ましくは0.03~20質量部である。
難燃剤としては、例えば、有機金属塩系難燃剤、シロキサン系難燃剤、リン系難燃剤、ホウ素系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤等が挙げられるが、本発明では特に有機金属塩系難燃剤が好ましい。
【0083】
有機金属塩化合物としては、有機スルホン酸金属塩が特に好ましい。
また、金属塩化合物の金属としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であることが好ましく、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属;マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属が挙げられる。なかでも特に、ナトリウム、カリウム、セシウムが好ましい。
【0084】
有機スルホン酸金属塩の例を挙げると、有機スルホン酸リチウム塩、有機スルホン酸ナトリウム塩、有機スルホン酸カリウム塩、有機スルホン酸ルビジウム塩、有機スルホン酸セシウム塩、有機スルホン酸マグネシウム塩、有機スルホン酸カルシウム塩、有機スルホン酸ストロンチウム塩、有機スルホン酸バリウム塩等が挙げられる。このなかでも特に、有機スルホン酸ナトリウム塩、有機スルホン酸カリウム塩、有機スルホン酸セシウム塩等の有機スルホン酸アルカリ金属塩が好ましい。
【0085】
有機スルホン酸金属塩化合物のうち、好ましいものの例としては、含フッ素脂肪族スルホン酸又は芳香族スルホン酸の金属塩が挙げられる。中でも好ましいものの具体例を挙げると、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム等の、分子中に少なくとも1つのC-F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩;パーフルオロブタンスルホン酸マグネシウム、パーフルオロブタンスルホン酸カルシウム、パーフルオロブタンスルホン酸バリウム、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム、トリフルオロメタンスルホン酸バリウム等の、分子中に少なくとも1つのC-F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ土類金属塩;等の、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩、
【0086】
ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸カリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸セシウム、(ポリ)スチレンスルホン酸セシウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸セシウム、トリクロロベンゼンスルホン酸セシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩;パラトルエンスルホン酸マグネシウム、パラトルエンスルホン酸カルシウム、パラトルエンスルホン酸ストロンチウム、パラトルエンスルホン酸バリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩;等の、芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられる。
【0087】
上述した例示物のなかでも、含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩、芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩がより好ましく、含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩が特に好ましく、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩がさらに好ましく、具体的にはパーフルオロブタンスルホン酸カリウム等が好ましい。
なお、金属塩化合物は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0088】
有機金属塩系難燃剤を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.01~1.5質量部が好ましく、より好ましくは0.02質量部以上であり、さらに好ましくは0.03質量部以上であり、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下、中でも0.3質量部以下、特に好ましくは0.15質量部以下である。
【0089】
[着色剤]
ポリカーボネート樹脂組成物は、着色剤を含有することも好ましい。
着色剤としての染顔料として、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料等を挙げることができる。
【0090】
無機顔料として、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青等の珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛-鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅-クロム系ブラック、銅-鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青等のフェロシアン系顔料等を挙げることができる。
また、着色剤としての有機顔料および有機染料として、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の縮合多環染顔料;キノリン系、アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料等を挙げることができる。
そして、これらの中では、熱安定性の点から、カーボンブラック、酸化チタン、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系染顔料等が好ましい。尚、染顔料は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
【0091】
また、染顔料は、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良の目的のために、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂とマスターバッチ化されたものも用いてもよい。
【0092】
着色剤を含有する場合の量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、例えば5質量部以下、好ましくは4.8質量部以下、より好ましくは4.5質量部以下である。着色剤の含有割合が多すぎると耐衝撃性が十分でなくなる可能性がある。
【0093】
[添加剤等]
ポリカーボネート樹脂組成物は、上記した以外の他の添加剤、例えば、安定剤、離型剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、可塑剤、相溶化剤などの添加剤を含有することができる。これらの添加剤あるいは他の樹脂は1種または2種以上を配合してもよい。
【0094】
また、ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)及びオレフィン・無水マレイン酸共重合体(C)、エラストマー(D)以外の他の樹脂を含有することもできる。その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂等が挙げられる。その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
ただし、ポリカーボネート樹脂(A)以外の他の樹脂を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下がより好ましく、さらには5質量部以下、特には3質量部以下が好ましい。
【0095】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造]
ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、上記した必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常260~320℃の範囲である。
【0096】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記したポリカーボネート樹脂組成物をペレタイズしたペレットを各種の成形法で成形して各種成形品を製造することができる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、成形して成形品にすることもできる。
【0097】
ポリカーボネート樹脂組成物は、ISO179に基づき測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が、好ましくは20kJ/m以上、より好ましくは25kJ/m以上であり、好ましくは100kJ/m以下、より好ましくは80kJ/m以下である。
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ISO178に基づき測定した曲げ弾性率が、好ましくは2500MPa以上であり、より好ましくは2800MPa以上であり、好ましくは5000MPa以下である。
【0098】
ポリカーボネート樹脂組成物は、耐湿熱性に優れ、ISO179に基づき測定した、温度85℃、相対湿度85%の条件で100時間処理後のノッチ付きシャルピー衝撃強度が、好ましくは10kJ/m以上、より好ましくは15kJ/m以上である。
【0099】
ポリカーボネート樹脂組成物は、耐熱性に優れ、ISO75 A法に基づき測定した荷重たわみ温度DTULが好ましくは120℃以上であり、より好ましくは121℃以上、さらに好ましくは122℃以上、特に好ましくは123℃以上である。
【0100】
ポリカーボネート樹脂組成物は、ISO 11359-2に基づいて測定されるMD方向とTD方向の線膨張係数比、すなわち異方性(MD/TD)が、好ましくは0.92以上、より好ましくは0.94以上であり、また、好ましくは1.08以下、より好ましくは1.06以下である。このように異方性を低くすることで、広い使用環境温度においても熱膨脹差に基づく真円度や光軸のずれ等を防止することが可能となる。
【0101】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形体は、耐衝撃性と曲げ弾性率に優れ、さらに低異方性を示すものである。
従って、その用途としては、例えば、カメラ、望遠鏡、顕微鏡、投影露光装置、光学測定装置等の筐体部品やレンズ鏡筒等、携帯電話用カメラ、スマートフォン用カメラ、タブレット用カメラ、車載カメラ、アクションカメラ、ノートPC用カメラ、ドライブレコーダー、監視カメラ、ドローン搭載用小型カメラ等の筐体部品や機構部品等、車の衝突防止センサー、バックモニター用センサー、車速センサー、温度センサー、防犯用センサー、ゲーム機用モーションセンサー等のセンサーの筐体や機構部品、自動車、バイク、自転車、車椅子等のフレーム部材や外板部材、家庭用テレビ、パソコン用ディスプレイ、車載モニター、スマートフォン、ヘッドマウントディスプレイのパネル部材や機構部品等、バーコードリーダー、スキャナー等の読み取り装置の筐体や機構部品、エアコン、空気清浄器、コンプレッサー等の筐体や機構部品、有線・無線LANルーター、WIFI受信機、WIFIストレージ、USBメモリ、メモリーカード、カードリーダー、データーサーバー保存機器等の情報機器の筐体や機構部品、光学機器、半導体パッケージ基板、半導体製造装置などの製造・加工設備部品、計測機器部品等が好ましく挙げられる。
【0102】
特に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形体は、光学機器部品に好適に用いることができ、光学モジュール、中でもレンズ保持部を有する光学モジュールに好適であり、特に成形体を含むカメラモジュール、例えばレンズユニットを構成するレンズ鏡筒(Barrel)や、レンズのホルダー、スペーサー、ストッパー等、アクチュエーターユニットを構成するスリーブや台座、ハウジング等のカメラモジュールに好適に用いられる。
【0103】
本発明の光学モジュールは、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、平均粒径0.1~10μmの充填材(B)1~50質量部を含有する樹脂組成物からなり、ISO179に基づき測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m以上である成形体を含むことを特徴とする。
本発明の光学モジュールは、上記したポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形体をその構成部材として含み、特にレンズユニットを構成するレンズ鏡筒(Barrel)や、レンズのホルダー、スペーサー、ストッパー等のレンズ支持部材、アクチュエーターユニットを構成するスリーブや台座、ハウジング等に用いられる。特に、本発明の光学モジュールは、携帯電話、モバイルパソコン等のような各種携帯端末に搭載される撮像モジュールや、LEDライトモジュール等に好適である。
【0104】
本発明の光学モジュールが含む成形体を成型するためのポリカーボネート樹脂組成物は、前述した通りである。
【0105】
成型体は、ISO179に基づき測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m以上であるポリカーボネート樹脂組成物からなる高度の耐衝撃性を有する成形体であり、また、好ましくは、ISO179に基づき測定した、温度85℃、相対湿度85%の条件で100時間処理後のノッチ付きシャルピー衝撃強度が10kJ/m以上という高度の耐湿熱性や、ISO75 A法に基づき測定した荷重たわみ温度が120℃以上という高い耐熱性を有し、剛性、耐衝撃性と低異方性に優れるため、変形しない、寸法精度が極めてよい、落としても割れない高性能の光学モジュールとして有効である。
【実施例
【0106】
以下、本発明を実施例により、更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0107】
以下の実施例及び比較例で使用した原料は、以下の表1の通りである。
【表1】
【0108】
(実施例1~11、比較例1~11)
[樹脂組成物ペレットの製造]
上記した各成分を、表2-3に記載した割合(全て質量部)で配合し、タンブラーミキサーにて均一混合した後、ホッパーから、押出機にフィードして溶融混練した。
押出機としては、日本製鋼所社製二軸押出機(TEX25αIII、L/D=52.5)を用い、スクリュー回転数200rpm、シリンダー温度280℃、吐出量25kg/hrの条件で溶融押出した。押出されたストランドを水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化した。
【0109】
上記製造方法で得られたペレットを、120℃で5時間乾燥させた後、日精樹脂工業社製のNEX80射出成形機を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度100℃、射出速度30mm/s、保圧90MPaの条件で、厚さ4mmのISOダンベル試験片成形品を成形した。また、同機種を用いて、シリンダー温度300℃、金型温度100℃、射出速度100mm/s、保圧80MPaの条件で、長さ100mm×幅100mm×厚さ2mmの平板状成形品を成形した。
【0110】
[曲げ弾性率の測定]
上記で得られたISOダンベル試験片(厚さ4mm)を用い、ISO178に基づき、曲げ弾性率(単位:MPa)を測定した。
【0111】
[シャルピー衝撃強度(ノッチ付き)の測定と耐湿熱性の評価]
上記で得られたISOダンベル片(厚さ4mm)を用い、ISO179に基づき、ノッチ付きシャルピー強度(単位:kJ/m)を測定した。
また、上記で得られたISOダンベル片(厚さ4mm)を、恒温恒湿槽を用いて、温度85℃、相対湿度85%の条件で、100時間処理し、ノッチつきシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m))を測定した。湿熱試験処理後のシャルピー衝撃強度の値の低下が小さいほど耐湿熱性に優れることを意味する。
【0112】
[耐熱性(荷重たわみ温度、DTUL)の測定]
上記で得られたISOダンベル片(厚さ4mm)を用い、ISO75 A法に基づき、荷重1.80MPaの条件で荷重たわみ温度(DTUL、単位:℃)を測定した。
【0113】
[異方性(MD/TD)の測定]
上記で得られた平板状成形品の中心部を、MD/TD方向にそれぞれ長さ15mm×幅10mm×厚さ2mmに切り出すことで試験片を得、異方性の測定に用いた。
測定機器としては、日立ハイテクサイエンス社製TMA/SS6100を用い、試験片の長さ部分を測定の対象にし、-30~+120℃まで20℃/分の速度で昇温し、温度変化量に対する寸法の変化量の傾きから線膨張係数(単位:/K)を算出した。
また、上記で算出したMD方向とTD方向との線膨張係数の比、すなわち異方性(MD/TD)を算出した。MD/TDが1に近いほど、異方性が少ないことを表す。
以上の評価結果を、以下の表2-表3に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、剛性と耐衝撃性に優れ、且つ低異方性を示し、さらに耐湿熱性に優れるので、光学機器部品他、各種の用途に好適に使用でき、また、本発明の光学モジュールは変形せず、寸法精度が極めて高く、落としても割れない高性能の各種光学モジュールとして有効である。