(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】高い耐摩耗性を有する反射コーティングを備えた光学物品
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20240610BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20240610BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20240610BHJP
G02C 7/00 20060101ALI20240610BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/26
G02B5/08 Z
G02C7/00
G02C7/10
(21)【出願番号】P 2021535077
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 EP2019086066
(87)【国際公開番号】W WO2020127564
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-16
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】598142955
【氏名又は名称】エシロール アンテルナショナル
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL
【住所又は居所原語表記】147,rue de Paris,F-94277 Charenton-le-Pont,France
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【氏名又は名称】赤木 啓二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ウイリアム トロティエ-ラポワント
(72)【発明者】
【氏名】アレクシ テオダン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ロマン
(72)【発明者】
【氏名】スリン マイダム
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-066149(JP,A)
【文献】特開平07-246366(JP,A)
【文献】特開2015-035000(JP,A)
【文献】特表2015-520412(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03242150(EP,A1)
【文献】特表2009-541808(JP,A)
【文献】国際公開第2018/033687(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
G02B 5/26
G02B 5/08
G02C 7/00
G02C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.55より高い屈折率を有する少なくとも1つの高屈折率層と1.55以下の屈折率を有する少なくとも1つの低屈折率層との積層体を含む可視範囲の反射コーティングでコーティングされた少なくとも1つの主面を有する基材を含む光学物品であって、
前記反射コーティングが少なくとも4つの層を含み、
- 前記反射コーティングの最も外側の低屈折率層が、少なくとも10nmの厚さThoを有し、
- 前記反射コーティングの最も外側の高屈折率層が、75nm以下の厚さを有し、
- 前記反射コーティングの
最も外側の低屈折率層から2番目の低屈折率層が、少なくとも150nmの厚さThpを有し、
- 前記反射コーティングの
最も外側の高屈折率層から2番目の高屈折率層が、5nm~90nmの範囲の厚さを有し、
- Tho/4+Thp≧200nmであ
り、
ここで、
- 前記反射コーティングの最も外側の高屈折率層から2番目の高屈折率層が、5nm~40nmの厚みを有し、又は
- 前記反射コーティングの最も外側の低屈折率層が、少なくとも200nmの厚みThoを有し、
かつ、ここで、
2つ以上の隣接する高屈折率層は、各層の厚さの合計と等しい厚さを有する1つの高屈折率層であるとみなされ、かつ2つ以上の隣接する低屈折率層は、各層の厚さの合計と等しい厚さを有する1つの低屈折率層であるとみなされる、
光学物品。
【請求項2】
ASTM F735-81規格に準拠して決定される5.5以上のバイエル値を有する、請求項1に記載の光学物品。
【請求項3】
前記反射コーティングが4つ以上の層の数を有し、その最も外側の低屈折率層が、少なくとも70nmの範囲の厚さを有する、請求項1又は2に記載の光学物品。
【請求項4】
前記反射コーティングが4つ以上の層の数を有し、その最も外側の低屈折率層が、130nm~300nmの範囲の厚さを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項5】
前記反射コーティングが4つ以上の層の数を有し、その
最も外側の低屈折率層から2番目の低屈折率層が、175nm~400nmの範囲の厚さを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項6】
前記反射コーティングが4つ以上の層の数を有し、その
最も外側の高屈折率層から2番目の高屈折率層が、10nm~40nmの範囲の厚さを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項7】
前記反射コーティングが4つ以上の層の数を有し、その
最も外側の低屈折率層から2番目の低屈折率層がその最も外側の低屈折率層より厚い、請求項1~6のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項8】
前記反射コーティングが少なくとも4つの層を含み、
- 前記反射コーティングの最も外側の低屈折率層が、少なくとも200nmの厚さを有し、
- 前記反射コーティングの最も外側の高屈折率層が、40nmn以下の厚さを有し、
- 前記反射コーティングの
最も外側の低屈折率層から2番目の低屈折率層が、少なくとも220nmの厚さを有し、
- 前記反射コーティングの
最も外側の高屈折率層から2番目の高屈折率層が、5nm~40nmの範囲の厚さを有する、
請求項1~
7のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項9】
前記反射コーティングが少なくとも4つの層を含み、
- 前記反射コーティングの最も外側の低屈折率層が、少なくとも230nmの厚さを有し、
- 前記反射コーティングの最も外側の高屈折率層が、25nm以下の厚さを有し、
- 前記反射コーティングの
最も外側の低屈折率層から2番目の低屈折率層が、少なくとも300nmの厚さを有し、
- 前記反射コーティングの
最も外側の高屈折率層から2番目の高屈折率層が、5nm~20nmの範囲の厚さを有する、
請求項1~
8のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項10】
前記少なくとも1つの主面上の
380~780nmの可視領域の平均光反射率Rvが8%以上である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項11】
前記反射コーティングが10個以下の層の数を有する、請求項1~
10のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項12】
前記反射コーティングが300nm~1μmの範囲の厚さを有する、請求項1~
11のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項13】
1.55より高い屈折率を有する前記高屈折率層は前記反射コーティングの厚さの20%未満を占める、請求項1~
12のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項14】
前記反射コーティングが、105nm以上の厚さを有する高屈折率層を一切含まない、請求項1~
13のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項15】
前記光学物品が眼用レンズである、請求項1~
14のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項16】
前記反射コーティングがTi
3O
5を含む少なくとも1層を有する、請求項1~
15のいずれか一項に記載の光学物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視範囲で反射する多層透明コーティングでコーティングされた基材を含む光学物品であって、改善された耐摩耗性を有する光学物品、特には眼用レンズ、及びそのような光学物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
完成品に追加の又は改善された光学的又は機械的特性を付与するために、光学基材の少なくとも1つの主面を複数のコーティングでコーティングすることは当該技術分野における一般的な慣行である。これらのコーティングは、一般的に機能性コーティングと呼ばれている。
【0003】
複数の機械的及び/又は光学的特性を付与するために使用され得る様々なコーティングは、耐衝撃性コーティング層、耐摩耗性及び/若しくは耐擦り傷性コーティング層、反射防止及び/若しくは反射コーティング層、防汚層及び/若しくは防曇層とすることができる。
【0004】
反射コーティングは通常、光学物品の表面に設けられ、それによって前記光学物品を通じて見える像のコントラストが改善されるだけでなく、可視光、紫外線、又は赤外線の透過が低減される。これらはまた、光学物品に色付きの外観を付与し、これは審美的目的のために望ましいかもしれない。
【0005】
それでも、これらのコーティングの摩耗及び/又は擦り傷に対する耐性は通常、十分でなく、これは古典的な非太陽レンズや反射防止レンズと比較して、反射前面を有するサングラス用太陽レンズの場合に重大である。実際、太陽レンズの反射前面の擦り傷は着用者又は観察者にとって気付きやすく、これは擦り傷で反射された光とコーティングの無傷の表面で反射された光との間の色と明るさの違いによる。装着者は見え方の質の低下を感じ、他方で観察者は擦り傷のある太陽レンズでは審美的魅力が落ちることに気付き得る。これは特に、ミラー効果を示す反射レンズに当てはまる。ミラーコーティングは通常、耐摩耗性が低く、そのため傷付きやすい。
【0006】
環境からの擦り傷を受けやすい光学部品の耐摩耗性を改善するための様々な方法を文献の中で見ることができる。例えば、特開2003-195003号公報や特開2003-294906号公報の中のように反射防止コーティングの総厚さを増やすことが提案されており、この中ではレンズがプライマーコーティングと、ハードコートと、SiO2及びTiO2の交互の層を含む7層の反射防止コーティングとでコーティングされていることが記載されており、後者はイオン支援により堆積されており、また光分解し易いことが知られていることが記載されている。
【0007】
米国特許第8982466号明細書は、ハードコートと多層反射防止コーティングとを有し、TiO2から作られた高屈折率層が一体となり40nm未満の厚さを有する光学レンズに関する。
【0008】
米国特許第2008/002260号明細書には、低屈折率層/高屈折率層の物理的厚さの比率が通常2.1よりも大きい多層反射防止コーティングでコーティングされた少なくとも1つの主面を有する基材を含む、反射防止特性及び高い耐熱性を有する光学物品が開示されている。
【0009】
米国特許出願公開第2008/206470号明細書は、副層、副層、及び多層積層体を含む、反射防止特性又は反射特性を有する光学物品を製造するための方法に関する。光学物品の耐摩耗性を高めるために、副層は、堆積工程中に追加のガスを供給しながら真空チャンバー内で堆積されなければならず、また、多層積層体を堆積する前に副層の露出面に対してイオン衝撃処理を行わなければならない。
【0010】
欧州特許出願第3392680号明細書では、光学物品の耐摩耗性を高めるために、干渉コーティングの中の層の厚さを制御すること、すなわち2以上の外的な低屈折率層/外的な高屈折率層の物理的厚さの比率を使用することが提案されている。
【0011】
米国特許出願公開第2004/191682号明細書は、高及び低屈折率が交互に配置される複数の誘電材料層を含む、光学基材の表面のための反射コーティングを開示しており、層の厚さ及び/又は数は反射コーティングが擦り傷マスキングとなるように選択され、これは、光学基材の表面から反射される光の強度と色が、例えばコーティングに傷が付いた場合等、コーティングの厚さの変化に伴って実質的に変化しないことを意味する。それゆえ、この反射コーティングは視覚的にマスクされるにすぎず、擦り傷の発生を回避又は限定することはできない。
【0012】
国際公開第2018/033687号パンフレットは、特定の厚さの少なくとも1つの高屈折率層と交互に配置された少なくとも2つの低屈折率層を含む積層体からなり、特定のプロセスを通じて堆積される可視スペクトルでの多層無機反射コーティングでコーティングされた前主面を有する基材を含む、サングラスのための眼用レンズに関し、前記コーティングの厚さは600nmより薄いか、それと等しく、そのバイエルISTM耐摩耗性値は10より高い。反射コーティングが3層コーティングである場合、その厚さは比較的弱く(<300nm)、基材に一番近いその層は、120~170nmの厚さを有する低屈折率層である。反射コーティングが4つの層又はそれ以上を有する場合、その最後から2番目の低屈折率層は40~80nmの範囲と薄い厚さを有する。
【0013】
その他の干渉コーティングは欧州特許第3282292号明細書(近赤外領域で高い反射率を有し、可視領域で強力に低減された反射率を有する反射防止コーティング)、欧州特許第3242150号明細書(反射)及び欧州特許第3118658号明細書(反射)において開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、反射コーティングを担持する有機又は鉱物ガラス基材を含む透明な光学物品、好ましくはレンズ、より好ましくはサングラスのための眼用レンズを提供することであり、前記反射コーティングは、既知の反射コーティングを有する光学物品より改善された耐摩耗及び/又は耐擦り傷性、基材との高い接着性、並びに熱及び温度変化に対する高い耐性を有する。これらの特性は、前記物品の光学性能及びその他の機械性能、例えば反射性能を低下させずに得られるべきである。
【0015】
もう1つの目的は、反射コーティングで被覆された光学物品の耐摩耗性を改善するための技術的解決策を提供することであり、これは前記反射コーティングが表すすべての残留色及び様々なコーティング厚さについて有効であるべきである。
【0016】
本発明のまた別の目的は、上で規定した物品を製造する方法を提供することであり、これは、従来の製造チェーンに容易に組み込むことができ、基材の加熱が回避されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、光学物品の耐摩耗性の強化を可能にするいくつかの手段を特定した。また、耐摩耗性の増大は、反射コーティング内の特定の層の厚さを最適化することによって実現できることを見出した。本発明者らが発見した設計ルールによれば、いくつかの層の厚さは最大化する必要があり、他方でいくつかの層の厚さは最小化する必要がある。
【0018】
したがって、本発明は、1.55より高い屈折率を有する少なくとも1つの高屈折率層と1.55以下の屈折率を有する少なくとも1つの低屈折率層との積層体を含む反射コーティングでコーティングされた少なくとも1つの主面を有する基材を含む光学物品であって、
a)反射コーティングは少なくとも4つの層を含み、
- 反射コーティングの最も外側の低屈折率層が、少なくとも10nmの厚さThoを有し、
- 反射コーティングの最も外側の高屈折率層が、75nm以下の厚さを有し、
- 反射コーティングの最後から2番目の低屈折率層が、少なくとも150nmの厚さThpを有し、
- 反射コーティングの最後から2番目の高屈折率層が、5nm~90nmの範囲の厚さを有し、
- Tho/4+Thp≧200nmである、又は、
b)反射コーティングは3つの層を有し、
- 反射コーティングの最も外側の層が、70nm以下の厚さを有する低屈折率層であり、
- 反射コーティングの最後から2番目の層が、50nm以下の厚さを有する高屈折率層であり、
- 反射コーティングの第一の層が、少なくとも200nmの厚さを有する低屈折率層である、
光学物品に関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
用語「含む(comprise)」(並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などのその文法的変形形態)、「有する(have)」(並びに「有する(has)」及び「有する(having)」などのその文法的変形形態)、「含む(contain)」(並びに「含む(contains)」及び「含む(containing)」などのその文法的変形形態)、並びに「含む(include)」(並びに「含む(includes)」及び「含む(including)」などのその文法的変形形態)は、オープンエンドの連結動詞である。これらは、述べられる特徴、整数、工程、若しくは構成要素、又はこれらの群の存在を規定するために使用されるが、1つ以上のその他の特徴、整数、工程、若しくは構成要素、又はこれらの群の存在又は追加を排除するものではない。結果として、1つ以上の工程又は要素を「含む(comprises)」、「有する」、「含む(contains)」、又は「含む(includes)」方法又は方法内の工程は、それらの1つ以上の工程又は要素を有するが、それらの1つ以上の工程又は要素のみを有することに限定されない。
【0020】
別段の指示がない限り、本明細書で使用される成分の量、範囲、反応条件などを指す全ての数字又は表現は、全ての場合において用語「約」によって修飾されているものとして理解される。
光学物品が1つ以上の表面コーティングを含む場合、「光学物品上にコーティング又は層を堆積する」という語句は、コーティング又は層が光学物品の最も外側のコーティング、すなわち空気に最も近いコーティング上に堆積されることを意味する。
【0021】
レンズの片面の「上」にあるコーティングは、(a)その面の上方に配置されており、(b)その面と接触する必要がなく、すなわち1つ以上の介在するコーティングがその面と対象のコーティングとの間に配置されていてもよく(ただし好ましくはその面と接触している)、(c)その面を完全に被覆している必要はない、コーティングとして定義される。
【0022】
「コーティング」という用語は、基材と、及び/又は別のコーティング、例えば、ゾル-ゲルコーティング若しくは有機樹脂製のコーティングと接触し得る任意の層、層積層体若しくは膜を意味することが理解される。コーティングは、湿式プロセス、ガス状プロセス及びフィルム複写を含む種々の方法によって堆積又は形成されてよい。
【0023】
本発明に従って作製される光学物品は、透明な光学物品、好ましくは光学レンズ又はレンズブランク、より好ましくは眼用レンズ又はレンズブランクであり、これらは、サングラス用の修正又は非修正ソーラーレンズを作成するために理想的に使用される。光学物品は、その凸状の主面(前面)、凹状の主面(背面/後面)、又は両方の面を、好ましくは凸状(前面)の主面を、本発明による多層反射コーティングでコーティングされていてもよい。本明細書で使用される場合、基材の後面は、レンズの場合は物品を使用する時に着用者の目から最も近い面を意味するように意図される。これは一般的には凹面である。逆に基材の前面は、物品を使用する時に、着用者の目から最も遠く離れている表面である。これは一般的に凸面である。光学物品は、平面物品であることも可能である。
【0024】
本明細書において、「レンズ」という用語は、様々な性質の1つ以上のコーティングでコーティングされ得るレンズ基材を含む有機又は無機ガラスレンズを意味する。
【0025】
「眼用レンズ」という用語は、目を保護し、且つ/又は視力を矯正するために眼鏡フレームに合わせられたレンズを意味するために使用される。前記レンズは、無限焦点、一焦点、二焦点、三焦点、累進レンズから選択することができる。眼用の光学系が本発明の好ましい分野であるものの、本発明は、例えば、写真又は天文学における光学機器用のレンズ、光学照準レンズ、眼用バイザー、照明システムの光学系などの他のタイプの光学物品に適用できることが理解されるであろう。
【0026】
本明細書では、別段の明記がない限り、光学物品/材料は、前記光学物品を介した画像の観察がコントラストの有意な損失なく知覚される場合、すなわち前記光学物品を通した画像の形成が画像の品質に悪影響を及ぼすことなく得られる場合、透明であると理解される。「透明」という用語のこの定義は、別段の明記がない限り、説明においてそのように修飾された全てのものに対して適用される。
【0027】
基材は、本発明の意味において、未コーティングの基材を意味するものとして理解されるべきであり、且つ一般に2つの主面を有する。基材は、特に、光学物品、例えばガラスに取り付けられる眼用レンズの形状を有する光学的に透明な材料であり得る。これに関連して、「基材」という用語は、光学レンズ、特に眼用レンズのベース成分材料を意味するものとして理解される。この材料は、1つ以上の機能性コーティング又は層の積層体のための支持体として機能する。
【0028】
基材は、無機ガラス製であっても有機ガラス製であってもよく、好ましくは有機ガラス製である。有機ガラスは、ポリカーボネートや熱可塑性ポリウレタンなどの熱可塑性材料、又はジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)ポリマーやコポリマー(特にはPPG IndustriesのCR-39(登録商標))などの熱硬化性(架橋)材料、熱硬化性ポリウレタン、ポリチオウレタン、好ましくは、1.60又は1.67の屈折率を有するポリチオウレタン樹脂、ポリエポキシド、1.74の屈折率を有するものなどのポリエピスルフィド、(メタ)アクリルポリマー及びビスフェノール-A由来のコポリマーを含む基材などのポリ(メタ)アクリレート及びコポリマーに基づく基材、ポリチオ(メタ)アクリレート、並びにこれらのコポリマー及びこれらのブレンドのいずれかであってもよい。レンズ基材に好ましい材料は、ポリカーボネート(PC)及びジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)ポリマー、特にポリカーボネート製の基材である。
【0029】
本発明に適した基材の具体例は、Mitsui Toatsu Chemicals companyからMRシリーズとして販売されている熱硬化性ポリチオウレタン樹脂、特にMR6(登録商標)、MR7(登録商標)、及びMR8(登録商標)樹脂から得られるものである。これらの基材並びにそれらの製造に使用されるモノマーは、米国特許第4,689,387号明細書、米国特許第4,775,733号明細書、米国特許第5,059,673号明細書、米国特許第5,087,758号明細書、及び米国特許第5,191,055号明細書に特に記載されている。
【0030】
反射コーティング、又は他の機能性コーティングを堆積する前に、堆積される層の接着性を改善するために、物品の表面に対して、国際公開第2013/013929号パンフレットに開示されているような物理的又は化学的な表面活性化及び洗浄前処理が通常行われる。この前処理は、通常、耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティング(ハードコート)の表面上で行われる。
【0031】
この前処理は、通常真空下で行われる。これは、エネルギー種による衝撃、例えば、イオンビーム衝撃(「イオンプレクリーニング」又は「IPC」)若しくは電子ビーム処理、コロナ処理、イオン破砕処理、紫外線処理、又は典型的には酸素若しくはアルゴンプラズマを使用する真空化下でのプラズマ処理であってもよい。これは、超音波処理あり又はなしの酸若しくは塩基による表面処理及び/又は溶媒による表面処理(水又は有機溶媒を使用)であってもよい。多くの処理方法を組み合わせることができる。これらの洗浄処理により、基材表面の清浄性が最適化される。
【0032】
エネルギー種とは、1~300eV、好ましくは10~150eV、より好ましくは10~150eV、最も好ましくは40~150eVの範囲のエネルギーを有する種を意味する。エネルギー種は、イオンやラジカルなどの化学種、又は光子や電子などの種とすることができる。
【0033】
好ましい前処理は、例えばイオン銃から発せられるアルゴンイオンビームを使用することによるイオン衝撃である。このような物理的又は化学的活性化処理(好ましくはイオン衝撃処理)はまた、多層反射コーティングの1つ又は複数の層の露出面上に、前記多層反射コーティングのその後の層を堆積させる前にも行われ得る。
【0034】
反射コーティングは、物品の表面上に堆積され、可視範囲内、すなわち380~780nm領域内の少なくとも1つの波長範囲内での最終物品の反射特性を向上させるコーティングである。これは通常、物品/空気界面での可視スペクトルの比較的広い部分にわたる光の反射を増大させる。このようなコーティングは、例えばサングラスレンズのミラー効果を得るために使用できる。任意選択的に、反射コーティングは紫外線及び/又は赤外線の反射を増大させることができる。
【0035】
本発明の多層反射コーティングは、1.55より高い屈折率を有する少なくとも1つの高屈折率層と1.55以下の屈折率を有する少なくとも2つの低屈折率層との積層体を含む。
【0036】
一実施形態では、反射コーティングは、交互に配置された低屈折率(LI)を有する2つの層と高屈折率(HI)を有する1つの層を含む3層積層体である。
【0037】
ほかの実施形態では、反射コーティングは、交互に配置された低屈折率(LI)を有する少なくとも2つの層と高屈折率(HI)を有する少なくとも2つの層を含む少なくとも4層、例えば4層、5層、又は6層の積層体である。
【0038】
反射コーティング内の層の総数は好ましくは以下の値のいずれか1つ以下である:10、8、7、6。
【0039】
本明細書で使用される場合、反射コーティングの層とは1nm以上の厚さを有すると定義される。したがって、厚さが1nm未満の層は、反射コーティング内の層の数をカウントする際に考慮されない。
【0040】
本願では、2つのHI層(又はそれより多い)が相互に堆積される場合、これらは、反射積層体の層の数をカウントする際、各層の厚さの合計と等しい厚さを有する1つのHI層であるとみなされる。同じことが2つ以上の隣接するLI層の積層体にも当てはまる。したがって、本発明の反射層ではHI層とLI層が相互に配置される必要がある。
【0041】
本出願において、反射コーティングの層は、その屈折率が1.55以上、好ましくは1.6以上、更に好ましくは1.8又は1.9以上、最も好ましくは2以上である場合に、高屈折率(HI)の層であるとされる。前記HI層は、好ましくは、2.2又は2.1以下の屈折率を有する。反射コーティングの層は、その屈折率が1.55以下、好ましくは1.52以下、より好ましくは1.48又は1.47以下である場合に、低屈折率層(LI)であるとされる。前記LI層は、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.3又は1.35以上の屈折率を有する。
【0042】
よく知られているように、反射コーティングは従来、誘電材料(通常、1つ又は複数の金属酸化膜)及び/又はゾル-ゲル材料及び/又は国際公開第2013/098531号パンフレットにおいて開示されているような有機/無機層で構成される多層積層体を含む。
【0043】
HI層は、通常、限定するものではないが、ジルコニア(ZrO2)、二酸化チタン(TiO2)、Ti3O5などの化学量論以下の酸化チタン、アルミナ(Al2O3)、五酸化タンタル(Ta2O5)、ネオジム酸化物(Nd2O5)、プラセオジム酸化物(Pr2O3)、チタン酸プラセオジム(PrTiO3)、La2O3、Nb2O5、Y2O3、好ましくはZrO2及びTa2O5などの1種以上の金属酸化物を含む。本発明のいくつかの態様では、反射コーティングの最も外側の高屈折率層は、チタン酸化物を含まない。好ましい実施形態では、反射コーティングは、TiO2、又はより一般的にはチタン酸化物を含むあらゆる層を含まない。本明細書において、チタン酸化物は、二酸化チタン又は準化学量論的なチタン酸化物(TiOx、x<2)を意味することが意図されている。チタン酸化物含有層は実際光劣化しやすい。
【0044】
任意選択的には、HI層は、上で示したように、1.55より高い屈折率を有するという条件で、低屈折率のシリカ又は他の材料を更に含んでいてもよい。好ましい材料としては、ZrO2、PrTiO3、Nb2O5、Ta2O5、Ti3O5、Y2O3、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0045】
一実施形態において、反射コーティングはTi3O5を含む少なくとも1つの層を有する。
【0046】
LI層もよく知られており、限定するものではないが、SiO2、MgF2、又はシリカとアルミナとの混合物、特にアルミナでドープされたシリカが含まれ得る。後者は反射コーティングの耐熱性の増加に寄与する。LI層は、好ましくは、層の総重量に対して、少なくとも80重量%のシリカ、より好ましくは少なくとも90重量%のシリカを含む層であり、更に好ましくは、シリカ層からなる。
【0047】
任意選択的には、得られる層の屈折率が1.55以下であるという条件で、LI層は、高屈折率の材料を更に含んでいてもよい。
【0048】
SiO2とAl2O3との混合物を含むLI層が使用される場合、これは好ましくはそのような層の中のSiO2+Al2O3の合計重量に対して1~10重量%、より好ましくは1~8重量%、更に好ましくは1~5重量%のAl2O3を含む。
【0049】
例えば、4重量%のAl2O3でドープされたSiO2、又は8%のAl2O3でドープされたSiO2を使用することができる。Umicore Materials AG社が販売しているLIMA(登録商標)(550nmで屈折率n=1.48~1.50)又はMerck KGaA社が販売しているL5(登録商標)(500nmで屈折率n=1.48)などの、市販のSiO2/Al2O3混合物を使用することができる。
【0050】
反射コーティングの外層、すなわち基材から最も遠いその層は、通常、層の総重量に対して、好ましくは少なくとも80重量%のシリカ、より好ましくは少なくとも90重量%のシリカを含むシリカに基づく層(例えばアルミナでドープされたシリカ層)であり、更に好ましくはシリカ層からなる。
【0051】
通常、HI層は4~100nm、好ましくは5~70nm、より好ましくは8~40nmの範囲の物理的な厚さを有する。
【0052】
通常、LI層は、5~500nm、好ましくは10~350nm、より好ましくは30~300nmの範囲の物理的な厚さを有する。
【0053】
本発明者らは、光学物品の耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性は、厚さの点での反射コーティング内の低屈折率層の高屈折率層と比較した割合を高くすることによって改善できることを見出した。したがって、1.55より高い屈折率を有する高屈折率層は、好ましくは反射コーティングの厚さの20%未満、より好ましくは15%未満を占める。一実施形態において、高屈折率層は、好ましくは反射コーティングの厚さの2~40%、より好ましくは4~30%又は5~20%、さらにより好ましくは5~12%又は5~10%を占める。ほかの実施形態において、低屈折率層は、好ましくは反射コーティングの厚さの60~98%、より好ましくは70~96%又は80~95%、さらにより好ましくは88~95%又は90~95%を占める。同じ点に関して、反射コーティングは好ましくは、105nm、100nm、90nm、80nm、75nm、70nm、又は50nm以上の厚さを有する高屈折率層を一切含まない。
【0054】
通常、反射コーティングの総厚さは1マイクロメートル以下、好ましくは800nm以下、より好ましくは750nm以下である。反射コーティングの総厚さは通常、250nm以上、好ましくは350nm以上である。一実施形態において、その厚さは300nm~1μmの範囲である。
【0055】
本発明者らは、光学物品の耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性を最適化するための設計ルールを発見した。
【0056】
反射コーティングが3つの層を有する(すなわち、その層の数が3と等しい)場合、その最も外側の層は70nm以下の厚さを有する低屈折率層であり、その最後から2番目の層は50nm以下の厚さを有する高屈折率層であり、その第一の層(最後から3番目の層)は少なくとも200nmの厚さを有する低屈折率層である。
【0057】
3層反射コーティングの場合、反射コーティングの最後から2番目の層の厚さ(最小化されるべきである)は非常に敏感なパラメータであり、これは、それが耐摩耗性に与える影響が他の層の厚さよりはるかに大きいからである。反射コーティングの最も外側の層の厚さ(最小化されるべきである)と反射コーティングの第一の層の厚さ(最大化されるべきである)によっても耐摩耗性を強化できるが、その程度はより低い。
【0058】
好ましい実施形態において、よりよい耐摩耗性を有するために、反射コーティングは3つの層を有し、その最も外側の層は50nm以下の厚さを有する低屈折率層であり、その最後から2番目の層は50nm以下の厚さを有する高屈折率層であり、その第一の層は少なくとも250nmの厚さを有する低屈折率層である。ほかの好ましい実施形態において、はるかに高い耐摩耗性を有するために、反射コーティングは3つの層を有し、その最も外側の層は50nm以下の厚さを有する低屈折率層であり、その最後から2番目の層は40nm(又は35nm以下)の厚さを有する高屈折率層であり、その第一の層は少なくとも250nmの厚さを有する低屈折率層である。
【0059】
反射コーティングが3つの層を有する場合、その第一の層は好ましくは200nm~400nm、より好ましくは250nm~350nmの範囲の厚さを有し、及び/又はその最後から2番目の層は好ましくは20~50nm、好ましくは30~40nmの範囲の厚さを有し、及び/又はその最も外側の層は好ましくは20~50nm、好ましくは30~40nmの範囲の厚さを有する。
【0060】
反射コーティングが4つの層又はそれ以上を有する場合、その最も外側の低屈折率層は少なくとも10nmの厚さThoを有し、その最も外側の高屈折率層は75nm以下の厚さを有し、その最後から2番目の低屈折率層は少なくとも150nmの厚さThpを有し、その最後から2番目の高屈折率層は5nm~90nmの範囲の厚さを有し、Tho/4+Thp≧200nmである。
【0061】
反射コーティングの最も外側の高又は低屈折率層とは、反射コーティングのうち基材から最も遠い層を意味する。最後2番目の高又は低屈折率層とは、反射コーティングのうち基材から最も遠いが、上で規定された反射コーティングの最も外側の高又は低屈折率層の直前に位置付けられる層を意味する。
【0062】
4つ以上の層を有する反射コーティングの場合、耐摩耗性は、最後の4層の厚さ、すなわち基材から最も離れた4層の厚さを調整することによって制御できることがわかった。反射コーティングの最後から2番目の低屈折率層の厚さ(最大化されるべきである)は非常に敏感なパラメータであり、耐摩耗性に大きな影響を与え、他方で、最後から2番目の高屈折率層の厚さ(最小化されるべきである)は敏感なパラメータである。反射コーティングの最も外側の低屈折率層の厚さ(最大化されるべきである)と反射コーティングの最も外側の高屈折率層の厚さ(最小化されるべきである)もまた耐摩耗性を強化できるが、その程度はより低い。
【0063】
好ましい実施形態において、Tho/4+Thpは好ましくは210~500nm、より好ましくは225~425nm、さらにより好ましくは250~400nmの範囲である。実際に、本発明者らは、最後から2番目の低屈折率層の厚さが光学物品の耐摩耗性に与える影響は最も外側の低屈折率層の厚さよりはるかに大きいことを見出した。
【0064】
好ましい実施形態において、よりよい耐摩耗性を有するために、反射コーティングは4層以上を有し、その最も外側の低屈折率層は少なくとも200nmの厚さを有し、その最も外側の高屈折率層は40nm以下の厚さを有し、その最後から2番目の低屈折率層は少なくとも220nmの厚さを有し、その最後から2番目の高屈折率層は5nm~40nmの範囲の厚さを有する。ほかの好ましい実施形態において、はるかによりよい耐摩耗性を有するために、反射コーティングは4層以上を有し、その最も外側の低屈折率層は少なくとも230nmの厚さを有し、その最も外側の高屈折率層は25nm以下の厚さを有し、その最後から2番目の低屈折率層は少なくとも300nmの厚さを有し、その最後から2番目の高屈折率層は5nm~20nmの範囲の厚さを有する。
【0065】
反射コーティングが4層以上を有する場合、その最も外側の低屈折率層は好ましくは10~350nm、より好ましくは10~300nm、さらにより好ましくは130~300nm、150~300nm、又は200~300nmの範囲の厚さを有し、及び/又はその最も外側の高屈折率層は10~100nm、より好ましくは10~75nm、さらにより好ましくは12~40nm又は12~30nmの範囲の厚さを有し、及び/又はその最後から2番目の低屈折率層は好ましくは150~400nm又は175~400nm、より好ましくは175~350nm又は180~325nmの範囲の厚さを有し、及び/又はその最後から2番目の高屈折率層は好ましくは5~100nm、より好ましくは5~75nm、さらにより好ましくは5~55nm、10~50nm、又は10~40nmの範囲の厚さを有する。
【0066】
反射コーティングが4層以上を有する場合、その最も外側の低屈折率層は好ましくは少なくとも70nmの厚さを有する。その最後から2番目の低屈折率層は、好ましくはその最も外側の低屈折率層より厚い。
【0067】
一般的に、反射コーティングの最も外側の層は好ましくは低屈折率層である。
【0068】
反射コーティング(クロム又はニオブに基づく層など)又は当業者に公知の任意の他の層を設ける前に、接着性を改善するために少なくとも1つの薄い(1nmから数nm、通常は1~6nmの厚さ)接着層を基材上に設けることができる。
【0069】
本発明の光学物品は、物品の表面に存在する積層体の中に、好ましくは反射コーティングの中に少なくとも1つの導電層を組み込むことによって、帯電防止に、すなわち、多量の静電荷を保持及び/又は発生させないようにすることができる。
【0070】
布切れでこすったり、任意の他の手段を使用して静電荷(コロナによって加えられた電荷…)を生成した後に得られた静電荷をレンズが除去する能力は、前記電荷が散逸するために要する時間を測定することによって定量化することができる。したがって、帯電防止レンズは約数百ミリ秒、好ましくは500ms以下の放電時間を有する一方で、静電レンズではこれは約数十秒である。本出願では、放電時間は、仏国特許第2943798号明細書に公開されている方法に従って測定される。
【0071】
本明細書において、「導電層」又は「帯電防止層」は、これが基材の表面上に存在することに起因して、電荷蓄積により埃/粒子を引き付ける光学物品の能力を低下させる層を意味することが意図されている。好ましくは、非帯電性の基材(すなわち500msより長い放電時間を有する)の上に設けられる場合、帯電防止層は、光学物品が多量の静電荷を保持及び/又は発生させないように、例えばその表面上に静電荷が加えられた後に500ms以下の放電時間を有するようにすることができ、その結果、静電気の影響を防ぐことにより小さな埃の光学物品への付着が防止される。
【0072】
導電層は、その反射特性が影響を受けないことを条件として、積層体内の様々な位置に、通常は反射コーティング内に、又は反射コーティングと接触して、配置することができる。これは、好ましくは反射コーティングの2つの層(通常は2つのLI層)の間に配置される、及び/又は好ましくはそのような反射コーティングの高屈折率層に隣接している。一実施形態では、導電層は、反射コーティングの低屈折率層のすぐ下に配置され、最も好ましくは、反射コーティングのLI外層のすぐ下に配置されることによる反射コーティングの最後から2番目の層である。
【0073】
導電層は、反射コーティングの透明性を変えないように十分に薄くする必要がある。導電層は、好ましくは、導電性且つ透明性の高い材料、通常は任意選択的にドープされていてもよい金属酸化物から製造される。この場合、その厚さは、好ましくは1~15nm、より好ましくは1~10nm、理想的には2~8nmの範囲である。好ましくは、導電層は、インジウム、スズ、亜鉛酸化物、及びこれらの混合物から選択される、任意選択的にドープされていてもよい金属酸化物を含む。スズ-インジウム酸化物(In2O3:Sn、スズでドープされたインジウム酸化物)、アルミニウムでドープされた亜鉛酸化物(ZnO:Al)、インジウム酸化物(In2O3)、及びスズ酸化物(SnO2)が好ましい。最も好ましい実施形態では、導電性且つ光学的に透明な層は、スズ-インジウム酸化物層であり、ITO層又はスズ酸化物層と呼ばれる。
【0074】
通常、導電層は、積層体内で、ただしその薄い厚さのために限定的な形で、反射特性を得ることに寄与し、典型的には、前記コーティングにおいて高屈折率の層となる。これは、ITOやSnO2層などの導電性且つ透明度の高い材料から製造された層の場合である。したがって、これが存在する場合には、導電層は、好ましくは、反射コーティングの最も外側の高屈折率層、又は1つ以上の高屈折率層に隣接する場合には反射コーティングの最も外側の高屈折率層の一部である。
【0075】
導電層は、任意の適切な方法に従って、例えば真空蒸着によって、好ましくは、その透明性を高めるためにイオンビーム支援(IAD、以下で説明)によって、又はカソードスパッタリングによって、堆積することができる。
【0076】
導電層は、典型的には厚さ1nm未満、好ましくは厚さ0.5nm未満の貴金属(Ag、Au、Ptなど)の非常に薄い層であってもよい。
【0077】
反射コーティングの様々な層は、好ましくは、i)蒸着によって、任意選択的にはイオンビーム支援下で;ii)イオンビーム噴霧によって;iii)カソードスパッタリングによって;iv)プラズマ支援化学蒸着によって;のいずれかの方法に従って真空下で気相堆積により真空蒸着室で堆積される。これらの様々な方法は、参考文献「Thin Film Processes」及び「Thin Film Processes II」、Vossen & Kern編、Academic Press、1978年及び1991年にそれぞれ記載されている。特に推奨される方法は、真空下での蒸着である。好ましくは、上述した各層の堆積は、真空下での蒸着によって行われる。そのようなプロセスは、基材の加熱を有利に回避し、これは、有機ガラスなどの熱の影響を受けやすい基材をコーティングするために特に興味深い。
【0078】
反射コーティングの様々な層のうちの1つ以上を堆積するのと同時に上で規定したようなエネルギー種による処理工程を行うこともできる。特に、イオン支援下で作業することで、前記層が形成されている間にこれらをパッキングすることができ、これらの圧縮率及び屈折率が増加する。層の堆積中にイオン支援を使用すると、イオン支援なしで堆積された層とは構造的に異なる層が生成される。
【0079】
イオン支援堆積法又はIADは、特に、米国特許出願公開第2006/017011号明細書及び米国特許第5,268,781号明細書に記載されている。イオン支援下での気相堆積は、それが形成されている間、好ましくはイオン銃によって得られるイオン衝撃下で、前記層にイオンビームによって同時に衝撃を与えることによって材料の層を基材上に堆積することを含み、ここで、イオンは、1つ又は複数の電子が抽出されるガス原子で構成される粒子である。イオン衝撃により、形成されるコーティングで原子の再配列が生じ、これによってその密度が増加する。IADは、堆積された層の接着性を改善するだけでなく、それらの屈折率も増加させることができる。これは、好ましくは、酸素イオンで処理される表面に衝撃を与えることからなる。他のイオン化ガスは、酸素と組み合わせて、又は組み合わせずに、例えばアルゴン、窒素、特に2:1~1:2の範囲の体積比率によるO2とアルゴンとの混合物を使用することができる。
【0080】
本発明の一実施形態によれば、1.55を超える屈折率を有する反射コーティングの全ての高屈折率層の堆積は、イオン支援下で行われた。すなわち、これらの層は、これらの層の形成中にイオン源の支援下で堆積された。
【0081】
反射コーティングの最も外側の低屈折率層は、好ましくは、イオン支援なしで、好ましくはエネルギー種を用いた付随処理なしで堆積される。別の実施形態では、反射コーティングの低屈折率層は、イオン支援なしで、好ましくはエネルギー種を用いた付随処理なしで堆積される。
【0082】
一実施形態では、導電層を除いて(反射コーティング中に存在する場合)、いずれの反射コーティングの層もイオン支援下で堆積されない(好ましくは、いずれの反射コーティングの層もエネルギー種を用いた付随処理下で堆積されない)。
【0083】
任意選択的には、前記層の1つ以上の堆積は、米国特許出願公開第2008/206470号明細書に開示されているように、真空チャンバー内での層の堆積工程中に(補助)ガスを供給することによって行われる。具体的には、希ガス、例えばアルゴン、クリプトン、キセノン、ネオンなどの追加のガス;酸素、窒素、又はこれらのうちの2つ以上のガスの混合物などのガスが、層が堆積されている間に真空蒸着チャンバーの中に導入される。この堆積工程中に使用されるガスは、イオン化ガスではなく、より好ましくは活性化ガスではない。
【0084】
このガス供給により圧力の調整が可能になり、これはイオン支援などのイオン衝撃処理とは異なる。これは、通常、反射コーティングの応力を制限し、層の接着を強化することを可能する。ガス圧調整下での堆積と呼ばれるこのような堆積方法を使用する場合には、酸素雰囲気(いわゆる「パッシブ酸素」)下で作業することが好ましい。層の堆積中に追加のガス供給を使用すると、追加のガス供給なしで堆積された層とは構造的に異なる層が生成される。
【0085】
本発明の一実施形態では、副層の堆積は、真空チャンバー内で、以下の値のいずれか1つよりも低い圧力下で行われる:1.6×10-4mBar、1.5×10-4mBar、1.4×10-4mBar、1.3×10-4mBar、1.2×10-4mBar、1.1×10-4mBar、好ましくは10-4mBar未満、より好ましくは8.10-5mBar未満、更に好ましくは7.10-5mBar、6.10-5mBar、5.10-5mBar、4.10-5mBar、3.10-5mBarの値のうちのいずれか1つ未満。典型的には、この好ましい実施形態では、圧力は約1.6×10-5mBarである。
【0086】
反射コーティングは、裸の基材の上に直接堆積することができる。いくつかの用途では、本発明の反射コーティングを堆積する前に、基材の主面を、その光学的及び/又は機械的特性を改善する1つ以上の機能性コーティングでコーティングすることが好ましい。光学において従来使用されているこれらの機能性コーティングは、限定するものではないが、耐衝撃性プライマー層、耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティング(ハードコート)、偏向コーティング、帯電防止コーティング、フォトクロミックコーティング、着色コーティング、又はそのようなコーティングの2つ以上から作られた積層体であってもよい。
【0087】
本発明で使用され得る耐衝撃性プライマーコーティングは、完成した光学物品の耐衝撃性を改善するために典型的に使用される任意のコーティングであってもよい。定義上は、耐衝撃性プライマーコーティングは、同じ光学物品であるが耐衝撃性プライマーコーティングがない物品と比較して、完成した光学物品の耐衝撃性を改善するコーティングである。
【0088】
典型的な耐衝撃性プライマーコーティングは、(メタ)アクリル系コーティング及びポリウレタン系コーティングである。特に、本発明による耐衝撃性プライマーコーティングは、ポリ(メタ)アクリルラテックス、ポリウレタンラテックス、又はポリエステルラテックスなどのラテックス組成物から製造することができる。
【0089】
好ましいプライマー組成物としては、特開昭63-141001号公報及び特開昭63-87223号公報に記載されているものなどの熱可塑性ポリウレタンに基づく組成物、米国特許第5,015,523号明細書及び米国特許第6,503,631号明細書に記載されているものなどのポリ(メタ)アクリルプライマー組成物、欧州特許第0404111号明細書に記載されているものなどの熱硬化性ポリウレタンに基づく組成物、並びに米国特許第5,316,791号明細書及び欧州特許第0680492号明細書に記載されているものなどのポリ(メタ)アクリルラテックス又はポリウレタンラテックスに基づく組成物が挙げられる。好ましいプライマー組成物は、ポリウレタンに基づく組成物及びラテックスに基づく組成物、特にポリウレタンラテックス、ポリ(メタ)アクリルラテックス、及びポリエステルラテックス、並びにこれらの組み合わせに基づく組成物である。一実施形態では、耐衝撃性プライマーはコロイド状フィラーを含む。
【0090】
ポリ(メタ)アクリルラテックスは、例えばスチレンなどの少なくとも1種の他のコモノマーを典型的には少量で含む、例えばエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、又はエトキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレートから本質的に製造されたコポリマーに基づくラテックスである。
【0091】
本発明における使用に適した市販のプライマー組成物としては、Witcobond(登録商標)232、Witcobond(登録商標)234、Witcobond(登録商標)240、Witcobond(登録商標)242組成物(BAXENDEN CHEMICALSから販売)、Neorez(登録商標)R-962、Neorez(登録商標)R-972、Neorez(登録商標)R-986、及びNeorez(登録商標)R-9603(ZENECA RESINSから販売)、並びにNeocryl(登録商標)A-639(DSM coating resinsから販売)が挙げられる。
【0092】
硬化後の耐衝撃性プライマーコーティングの厚さは、典型的には0.05~30μm、好ましくは0.2~20μm、より具体的には0.5~10μm、更には0.6~5μm又は0.6~3μm、最も好ましくは0.8~1.5μmの範囲である。
【0093】
耐衝撃性プライマーコーティングは、好ましくは、耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティングと直接接触している。
【0094】
耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティングは、眼用レンズの分野で耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティングとして従来使用されている任意の層であってもよい。
【0095】
耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティングは、好ましくは、ポリ(メタ)アクリレート又はシランに基づくハードコーティングであり、通常、硬化後のコーティングの硬度及び/又は屈折率を高めることを目的とした1種以上の無機フィラーを含む。
【0096】
耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性のコーティングは、好ましくは、少なくとも1種のアルコキシシラン及び/又は例えば塩酸溶液並びに任意選択的な縮合及び/又は硬化触媒を用いた加水分解によって得られるその加水分解物を含有する組成物から作製される。
【0097】
本発明に推奨される適切なコーティングとしては、欧州特許第0614957号明細書、米国特許第4211823号明細書、及び米国特許第5015523号明細書に記載されているものなどのエポキシシラン加水分解物に基づくコーティングが挙げられる。
【0098】
好ましい耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティング組成物は、出願人の名義の欧州特許第0614957号明細書に開示されているものである。これは、エポキシトリアルコキシシラン及びジアルキルジアルコキシシランの加水分解物、コロイド状シリカ、及び触媒量のアルミニウムアセチルアセトネートなどのアルミニウム系硬化触媒を含み、残部はそのような組成物を配合するために従来使用されている溶媒から本質的に構成される。好ましくは、使用される加水分解物は、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)γ及びジメチルジエトキシシラン(DMDES)の加水分解物である。
【0099】
耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティング組成物は、公知の方法によって堆積することができ、その後、好ましくは熱又は紫外線照射を使用して硬化される。(硬化した)耐摩耗性及び/又は耐擦り傷性コーティングの厚さは、通常2~10μm、好ましくは3~5μmで様々である。
【0100】
本発明による光学物品は、疎水性及び/又は疎油性コーティング(防汚トップコート)などの、反射コーティング上に形成されており且つその表面特性を変更することができるコーティングも含んでいてもよい。これらのコーティングは、好ましくは、反射コーティングの外層上に堆積される。通常、それらの厚さは10nm以下であり、好ましくは1~10nm、より好ましくは1~5nmの範囲である。汚防トップコートは、一般にフルオロシラン又はフルオロシラザン型のコーティングであり、好ましくはフルオロポリエーテル部分、より好ましくはパーフルオロポリエーテル部分を含むものである。これらのコーティングに関するより詳細な情報は、国際公開第2012076714号パンフレットに開示される。
【0101】
疎水性コーティングの代わりに、防曇特性を付与する親水性コーティング(防曇コーティング)、又は界面活性剤と結び付いた際に防曇特性を付与する防曇コーティング前駆体が使用されてもよい。そのような防曇前駆体コーティングの例は、国際公開第2011/080472号パンフレットに記載されている。
【0102】
プライマー、ハードコート、及び防汚トップコートなどの追加のコーティングは、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、蒸着、スパッタリング、化学蒸着、及びラミネーションなどの当該技術分野で公知の方法を使用して、基材の主面に堆積させることができる。
【0103】
典型的には、本発明による光学物品は、耐衝撃性プライマー層、耐摩耗性及び/若しくは耐擦り傷性層、並びに本発明による反射コーティング、並びに疎水性及び/若しくは疎油性コーティング、又は防曇特性を付与する親水性コーティング、又は防曇前駆体コーティングで連続的にコーティングされた基材を含む。
【0104】
本発明による反射コーティングの特定の設計のため、本発明の光学物品は、以降に記載するバイエルASTM(バイエルサンド)操作プロトコルに従って、すなわちASTM F735-81規格に従って測定される高い値の耐摩耗性を示す。
【0105】
本発明によれば、その主面、好ましくは前面が本発明の反射積層体によって覆われている光学物品は、5.5以上、好ましくは6、6.5、7、7.5、8のうちのいずれか1つ以上の、ASTM F735-81規格に従って測定されるバイエル値(サンドバイエル値)をある実施形態において示す。したがって、本発明は、光学物品の典型的なサンドバイエル値が5未満、さらに3未満であることから、高い耐摩耗性を有する光学物品を提供する。
【0106】
一実施形態では、本発明による光学物品は、可視光を吸収しないかあまり吸収しない。これは、本出願との関係においては、可視スペクトルにおけるその相対光透過係数Tvが、87%、88%、89%、90%、92%、95%、96%、97%のうちのいずれか1つの値以上であることを意味する。前記Tv係数は、好ましくは75%~95%又は97%、より好ましくは80%~94%、更に良好には85%~93%の範囲である。別の実施形態では、Tvは、87%~92%の範囲である。
【0107】
系の「視感透過率」とも呼ばれるTv係数は、規格ISO 13666:1998で定義されているものであり、規格ISO 8980-3に従って測定される。これは、各波長範囲における目の感度に応じて重み付けされた380~780nmの波長の範囲の平均として定義され、D65照明条件(昼光)で測定される。
【0108】
「視感反射率」とも呼ばれる、Rvで表される「平均光反射率」は、ISO 13666:1998規格で定義されているものであり、ISO 8980-4規格に従って測定される(17°未満、典型的には15°の入射角について)。つまり、これは380~780nmの可視スペクトル全体にわたる重み付けされたスペクトル反射平均である。
【0109】
物品の、本発明による反射コーティングによりコーティングされた面の平均光反射率Rvは、物品の前記面上で、好ましくは2.5%より高く、好ましくは4%、5%、又は8%以上であり、より好ましくは10%以上であり、さらにより好ましくは15%又は20%以上である。
【0110】
国際表色CIE L*a*b*での、本発明の光学物品の表色係数C*及びhは、標準光源D65及び観察者を考慮して(入射角θ:15°)、380~780nmで計算される。観察者は、国際表色系CIE L*a*b*で定義される「標準観察者」(10°)である。
【0111】
本発明のレンズの表色係数は、良好なロバスト性を有する。国際公開第2015/000534号パンフレットで定義されている光学物品のロバスト性σhは満足できるものであり、緑色に対応する色相角hについては、好ましくは8°以下、より好ましくは7.5°以下である。
【0112】
反射コーティングによって表される残留色に関する好ましくは40°~300°、より好ましくは50°~290°の範囲のそれらの色相角h(0°~360°)に関して制限なしに反射コーティングを作製することが可能である。いくつかの実施形態では、光学物品は、240°~300°、好ましくは250°~290°、より好ましくは260°~280°の範囲の色相角(h)を有し、したがって知覚される残留反射色は青色から紫色、好ましくは紫色に近くなる。別の実施形態では、光学物品は、135°以上、より好ましくは140°以上、更に好ましくは140°~160°の範囲の色相角(h)を有し、したがって緑色の反射を有する反射コーティングが得られる。別の実施形態では、光学物品は、40°~90°、好ましくは50°~90°、更に好ましくは50°~70°の範囲の色相角(h)を有し、そのため金色の反射を有する反射コーティングが得られる。反射コーティングの層の数と層の屈折率を調整することによって、特に、層の数及び/又は高屈折率層の屈折率を増大させることによって、あらゆる残留色を実現することが可能である。
【0113】
本発明のいくつかの態様では、反射コーティングは、15未満(入射角15°について)、より好ましくは13未満の彩度(C*)を有する。レンズの場合には、装着者の快適な視点に関して、及び反射において心地よい審美性を持つメタリック風のニュートラルな外観を得ることに関して、低い残留色強度(彩度)の物品を得ることが好ましい。
【0114】
本発明は、更に、
- 少なくとも1つの主面を有する基材を含む光学物品を提供すること、
- 基材の主面に、1.55より高い屈折率を有する少なくとも1つの高屈折率層と、1.55以下の屈折率を有する少なくとも1つの低屈折率層の積層体を含む、前述の反射コーティングを堆積すること、
を含む本明細書で上述した光学物品の製造方法に関する。
【0115】
いくつかの実施形態において、基材の露出面にイオン衝突処理を施してから前記反射コーティングが堆積され、及び/又は多層反射コーティングの少なくとも1つの層の露出面にイオン衝突処理を施してから前記多層反射コーティングのその後の層が堆積される。
【0116】
一実施形態では、本光学物品は、基材上にプライマーコーティング並びに/又は耐摩耗性及び/若しくは耐擦り傷性コーティングを第1の製造場所で形成し、別のコーティングを第2の製造場所で形成することによって製造される。
【0117】
以下の実施例は、より詳細であるが、非限定的な様式で本発明を例示する。別段の規定がない限り、本出願で開示される全ての厚さは、物理的な厚さに関する。表中で与えられる百分率は、重量百分率である。別段の規定がない限り、本出願で言及される屈折率は、550nmの波長について20~25℃で表される。
【実施例】
【0118】
1.基本手順
実施例で使用した物品は、高屈折率コロイドの添加により屈折率が1.6になるように変更された国際公開第2010/109154号パンフレットの実験項に開示されているW234(商標)ポリウレタン材料に基づく耐衝撃性プライマーコーティングと、欧州特許第0614957号明細書の実施例3に開示されている耐摩耗性及び耐擦り傷性コーティング(ハードコート)(高屈折率コロイドの添加により1.5ではなく1.6の屈折率を有するように変更)と、反射コーティングと、特許出願国際公開第2010/109154号パンフレットの実験項に開示されている防汚コーティング、すなわちDaikin Industriesから販売されているOptool DSX(登録商標)化合物の真空下での蒸着による防汚コーティング(厚さ:2~5nm)とでその凸面がコーティングされている、球面度数-2.00及び厚さ1.2mmを有する直径65mmのポリチオウレタンMR8(登録商標)レンズ基材(Mitsui Toatsu Chemicals Inc.より、屈折率=1.59)を含む。
【0119】
様々な層は、真空蒸着によって、任意選択的には指定されている場合には酸素ビーム及び場合によってはアルゴンイオンにより堆積中に支援された(IAD)真空蒸着によって(蒸着源:電子銃)、及び任意選択的には指示されている場合にはチャンバーの中に(パッシブ)O2ガスを供給することによる圧力制御下での蒸着によって、基材を加熱せずに堆積した。
【0120】
様々な反射層を堆積させることを可能にする真空蒸着装置は、材料を蒸発させるための2つのシステム、電子銃蒸着システム及び熱蒸着器(ジュール効果蒸着システム)を有するLeybold LAB1100+真空コーター、並びにアルゴンイオン衝撃による基材表面の準備の予備段階(IPC)及び層のイオン支援堆積(IAD)において使用するためのKaufman & Robinson Inc.のKRI EH 1000 Fイオン銃であった。
【0121】
2.光学物品の作製
レンズは、凹面を蒸着源及びイオン銃に向けて、処理するレンズを収容することを目的とした円形の開口部を備えたカルーセル上に置いた。
【0122】
光学物品を製造するための方法は、プライマー及び耐摩耗性コーティングを備えたレンズ基材を真空蒸着チャンバーの中に入れ、高真空が形成されるまでポンピング工程を行い、続いてイオン銃のコンディショニング工程(仏国特許第2957454号明細書に開示されているようなIGC、開始圧力として3.5×10-5mBar、140V、3.5A、アルゴン、60秒)を行い、平均圧力1.8×10-4mBarのアルゴンイオンビームによる衝撃を使用した基材表面活性化工程(IPC)(イオン銃を1.7Aの陽極電流放電、110V、60秒、ガス流:アルゴン10sccmに設定)を行い、イオン照射を停止し、その後2~3nm/s(防汚コーティングの場合は0.4nm/s)の範囲の速度で必要な数の層(反射コーティング層及び防汚コーティング)を逐次的に蒸着し、最後に通気工程を行うことを含む。高屈折率層は、O2圧力を用いないZrO2ペレット又はMerck社が供給する準化学量論的なチタン酸化物(「安定Ti3O5」)を蒸着することによって得た。
【0123】
代表的な光学物品(実施例4)の蒸着条件は以下のとおり:6.10-5mBarの圧力下でHI層(ZrO2)を堆積する工程、2.4×10-5mBarの圧力下でLI層(SiO2)を堆積する工程、6.1×10-5mBarの圧力下でHI層(ZrO2)を堆積する工程、アルゴンイオンビームを使用してこのZrO2層の表面を活性化する工程(すでに基材上で直接行われたIPCと同じ処理であるが、例外として処理時間:30秒、平均圧力:1.6×10-4mBar、及び陽極電圧:125V)、1.8×10-5mBarの圧力下でLI層(SiO2)を堆積する工程、そして最後にOptool DSX(登録商標)層を堆積する工程。これらの層はすべて、蒸着中に真空チャンバー内にガスを追加せずに堆積された。
【0124】
3.試験方法
本発明に従って作製した光学物品を評価するために以下の試験手順を使用した。各系の複数のサンプルを測定用に作製し、報告されたデータを様々なサンプルの平均を使用して計算した。
【0125】
本発明の積層体でコーティングされた面の(反射係数Rv、反射において測定)表色測定は、標準光源D65及び10°の標準観察者を考慮して、Zeiss分光計を用いて行った。これらは15°の入射角のために準備される。
【0126】
耐摩耗性は、国際公開第2012/173596号パンフレットに開示の通りに決定した。具体的には、耐摩耗性は、物品の製造から1週間後に、ASTM F735-81規格に従ってサンドバイエル試験により測定した。
【0127】
本発明者らは、物品を製造した後に物品のバイエル値が減少することに気付いた。値は、安定した後、例えば製造してから少なくとも1週間後に測定することが好ましい。本出願では、実施例のバイエル値は、物品を製造してから1週間後に測定した。
【0128】
4.結果
実施例で得た眼用レンズの構造的特徴、光学的、及び機械的性能を以下に詳述する。記載されている厚さは反射積層体の総厚さである。
【0129】
【0130】
【0131】
本発明による厚さの反射積層体を有する光学物品は、比較物品より高い耐摩耗性を示しながら、同程度の反射性能を保持している。例えば、実施例11の物品は、同じ色の反射光(シルバー)で、実施例16の物品より高い耐摩耗性を示している。本願に記載されている設計ルールに適合しない比較物品は、かなり低いバイエル値を示す。
【0132】
実施例7及び8を比較すると、4層積層体に下地層として追加の150nmの厚さのシリカの層を追加しても、サンドバイエル性能には影響しないことがわかる。これは、反射コーティングがすでに十分に厚かった(厚さほぼ600nm)ことによって説明できる。
【0133】
得られたいくつかのバイエル値は7以上であり、これは非常に高いレベルの耐摩耗性を示している。バイエル値の1~2ポイントの差は非常に有意であることに留意すべきである。
本開示には以下に例示する実施形態も開示される。
[実施形態1]
1.55より高い屈折率を有する少なくとも1つの高屈折率層と1.55以下の屈折率を有する少なくとも1つの低屈折率層との積層体を含む可視範囲の反射コーティングでコーティングされた少なくとも1つの主面を有する基材を含む光学物品であって、
a)前記反射コーティングが少なくとも4つの層を含み、
- 前記反射コーティングの最も外側の低屈折率層が、少なくとも10nmの厚さThoを有し、
- 前記反射コーティングの最も外側の高屈折率層が、75nm以下の厚さを有し、
- 前記反射コーティングの最後から2番目の低屈折率層が、少なくとも150nmの厚さThpを有し、
- 前記反射コーティングの最後から2番目の高屈折率層が、5nm~90nmの範囲の厚さを有し、
- Tho/4+Thp≧200nmである、
又は、
b)前記反射コーティングが3つの層を有し、
- 前記反射コーティングの最も外側の層が、70nm以下の厚さを有する低屈折率層であり、
- 前記反射コーティングの最後から2番目の層が、50nm以下の厚さを有する高屈折率層であり、
- 前記反射コーティングの第一の層が、少なくとも200nmの厚さを有する低屈折率層である、
光学物品。
[実施形態2]
ASTM F735-81規格に準拠して決定される5.5以上のバイエル値を有する、実施形態1に記載の光学物品。
[実施形態3]
前記反射コーティングが4つ以上の層の数を有し、その最も外側の低屈折率層が、少なくとも70nm、好ましくは130nm~300nmの範囲の厚さを有する、実施形態1又は2に記載の光学物品。
[実施形態4]
前記反射コーティングが4つ以上の層の数を有し、その最後から2番目の低屈折率層が、175nm~400nmの範囲の厚さを有する、実施形態1~3のいずれか一項に記載の光学物品。
[実施形態5]
前記反射コーティングが4つ以上の層の数を有し、その最後から2番目の高屈折率層が、10nm~40nmの範囲の厚さを有する、実施形態1~4のいずれか一項に記載の光学物品。
[実施形態6]
前記反射コーティングが4つ以上の層の数を有し、その最後から2番目の低屈折率層がその最も外側の低屈折率層より厚い、実施形態1~5のいずれか一項に記載の光学物品。
[実施形態7]
前記反射コーティングが3つの層を有し、その第一の層が200nm~400nmの範囲の厚さを有する、実施形態1又は2に記載の光学物品。
[実施形態8]
a)前記反射コーティングが少なくとも4つの層を含み、
- 前記反射コーティングの最も外側の低屈折率層が、少なくとも200nmの厚さを有し、
- 前記反射コーティングの最も外側の高屈折率層が、40nmn以下の厚さを有し、
- 前記反射コーティングの最後から2番目の低屈折率層が、少なくとも220nmの厚さを有し、
- 前記反射コーティングの最後から2番目の高屈折率層が、5nm~40nmの範囲の厚さを有する、
又は
b)前記反射コーティングが3つの層を有し、
- 前記反射コーティングの最も外側の層が、50nm以下の厚さを有する低屈折率層であり、
- 前記反射コーティングの最後から2番目の層が、50nm以下の厚さを有する高屈折率層であり、
- 前記反射コーティングの第一の層が、少なくとも250nmの厚さを有する低屈折率層である、
実施形態1~7のいずれか一項に記載の光学物品。
[実施形態9]
a)前記反射コーティングが少なくとも4つの層を含み、
- 前記反射コーティングの最も外側の低屈折率層が、少なくとも230nmの厚さを有し、
- 前記反射コーティングの最も外側の高屈折率層が、25nm以下の厚さを有し、
- 前記反射コーティングの最後から2番目の低屈折率層が、少なくとも300nmの厚さを有し、
- 前記反射コーティングの最後から2番目の高屈折率層が、5nm~20nmの範囲の厚さを有する、
又は、
b)前記反射コーティングが3つの層を含み、
- 前記反射コーティングの最も外側の層が、50nm以下の厚さを有する低屈折率層であり、
- 前記反射コーティングの最後から2番目の層が、35nm以下の厚さを有する高屈折率層であり、
- 前記反射コーティングの第一の層が、少なくとも250nmの厚さを有する低屈折率層である、
実施形態1~8のいずれか一項に記載の光学物品。
[実施形態10]
前記少なくとも1つの主面上の可視領域の平均光反射率Rvが8%以上である、実施形態1~9のいずれか一項に記載の光学物品。
[実施形態11]
前記反射コーティングが10個以下の層の数を有する、実施形態1~10のいずれか一項に記載の光学物品。
[実施形態12]
前記反射コーティングが300nm~1μmの範囲の厚さを有する、実施形態1~11のいずれか一項に記載の光学物品。
[実施形態13]
1.55より高い屈折率を有する前記高屈折率層は前記反射コーティングの厚さの20%未満、好ましくは15%未満を占める、実施形態1~12のいずれか一項に記載の光学物品。
[実施形態14]
前記反射コーティングが、105nm以上の厚さを有する高屈折率層を一切含まない、実施形態1~13のいずれか一項に記載の光学物品。
[実施形態15]
前記光学物品が眼用レンズである、実施形態1~14のいずれか一項に記載の光学物品。
[実施形態16]
前記反射コーティングがTi
3
O
5
を含む少なくとも1層を有する、実施形態1~15のいずれか一項に記載の光学物品。