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特許7500576環状炭酸塩を製造するための触媒系及びそれに関連する方法
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  • 特許-環状炭酸塩を製造するための触媒系及びそれに関連する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】環状炭酸塩を製造するための触媒系及びそれに関連する方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/26 20060101AFI20240610BHJP
   C07C 211/63 20060101ALI20240610BHJP
   C07D 317/36 20060101ALI20240610BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240610BHJP
【FI】
B01J31/26 Z
C07C211/63
C07D317/36
C07B61/00 300
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021539329
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 TH2019000041
(87)【国際公開番号】W WO2020060498
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】62/732,987
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521111157
【氏名又は名称】ピーティーティー・エクスプロレイション・アンド プロダクション・パブリック・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピロムチャート、タラドン
(72)【発明者】
【氏名】デリア、ヴァレリオ
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0119584(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102775378(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0145233(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102838583(CN,A)
【文献】ZHANG Xiaowen et al.,Cationic organobismuth complex as an effective catalyst for conversion of CO2 into cyclic carbonates,Front. Environ. Sci. Engin. China,中国,高等教育出版社,2008年08月15日,3(1),32-37,DOI 10.1007/a11783-008-0068-y
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 211/63
C07D 317/36
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素(CO2)とエポキシド塩基化合物から環状炭酸塩を生成するための触媒系であって、
プレ触媒および助触媒を含み、
前記プレ触媒はBiClからなり、
前記助触媒は、臭化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu Br)、ヨウ化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu I)またはそれらの混合物のうちから選択される、ことを特徴とする触媒系。
【請求項2】
前記助触媒は、臭化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu Br)である、請求項1に記載の触媒系。
【請求項3】
前記プレ触媒と前記助触媒とのモル比は1:1~1:3の範囲にある、請求項1に記載の触媒系。
【請求項4】
前記プレ触媒と前記助触媒とのモル比は1:2である、請求項3に記載の触媒系。
【請求項5】
二酸化炭素(CO2)とエポキシド塩基化合物から環状炭酸塩を生成するための触媒系の使用であって、
前記触媒系は、プレ触媒および助触媒を含み、
前記プレ触媒はBiClからなり、
前記助触媒は、臭化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu Br)、ヨウ化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu I)またはそれらの混合物のうちから選択される、ことを特徴とする触媒系の使用。
【請求項6】
前記助触媒は、臭化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu Br)である、請求項5記載の触媒系の使用。
【請求項7】
前記プレ触媒と前記助触媒とのモル比は1:1~1:3の範囲にある、請求項5記載の触媒系の使用。
【請求項8】
前記プレ触媒と前記助触媒とのモル比は1:2である、請求項7記載の触媒系の使用。
【請求項9】
触媒系の存在下でエポキシド塩基化合物を二酸化炭素(CO2)と反応させることを含む環状炭酸塩を製造するための方法であって、
前記触媒系は、プレ触媒および助触媒を含み、
前記プレ触媒はBiClからなり、
前記助触媒は、臭化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu Br)、ヨウ化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu I)またはそれらの混合物のうちから選択される
前記方法は、プレ触媒:助触媒:エポキシド塩基化合物が1:1:10~1:3:100の範囲にあるモル比を用いて、1~100バール範囲の二酸化炭素の圧力と、10~200℃範囲の温度と、1~8時間の範囲の反応時間とで実行される、ことを特徴とする環状炭酸塩の製造方法。
【請求項10】
前記プレ触媒:助触媒:エポキシド塩基化合物のモル比は、1:1:10~1:3:50の範囲にある、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記プレ触媒:助触媒:エポキシド塩基化合物のモル比が1:2:50である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記二酸化炭素の圧力が1~50バールの範囲にある、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記二酸化炭素の圧力が1~10バールの範囲である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記温度が25~200℃の範囲にある、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記温度が25~120℃の範囲にある、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記反応時間が1~6時間の範囲にある、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記反応時間が2~4時間の範囲にある、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記助触媒は、臭化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu Br)である、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状炭酸塩を製造するための触媒系、および触媒系を用いて環状炭酸塩を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業プロセスおよび燃料燃焼などからの二酸化炭素(CO)排出量は、気候変動の主な要因と見なされているため、世界中で深刻な問題になっている。国際エネルギ機関(TAE)が発表したグローバルエネルギ&COステータスレポート2017によれば、世界のエネルギ関連のCO排出量は過去最高の32.5ギガトンに到達した。世界中の立法府議員は大気中へのCOの無制限の放出に対して制限を設け始めている。この問題を解決するためのアプローチのなかで、COの高価値化学物質への化学変換が近年かなりの注目を集めている。環状炭酸塩は、穏やかな条件下でCOのエポキシドへの付加環化反応から容易に生成できるため、その1つに挙げられている。環状炭酸塩は、ポリカーボネート、グリコール、およびポリエステルを含む数十億米ドルの市場の中心にある。しかし、COは速度論的および熱力学的に安定しているので、環状炭酸塩を含む他の化学物質にCOを変換するためには大量のエネルギが必要になる。このような背景から、有望なアプローチは、より低い温度でより高いCOを可能にする効果的な触媒を開発することにある。
【0003】
環状炭酸塩は、エポキシドへの付加環化反応によってCOから生成される。このような反応を実行するための触媒系はいくつか存在するが、大気圧下で不純なCOを用いて操作できる触媒系はほとんど存在しない。ガス混合物からCOを回収する能力は、煙道ガスを対象として容易に適用することができ有利であり、環状炭酸塩の製造に商業的に魅力的なものである。前記触媒の例には、エナジーエンバイロンSci., 2010,3, 212-215に開示されているバイメタルアルミニウム(サレン)錯体が含まれる。これは、CO中の不純物として水分およびNOxを含むCOを利用する環状炭酸塩の製造に用いられている。しかしながら、この錯体は、非常に高分子量であり、その調製は、有機フレームワークを配位するアルミニウム原子の精巧な構造のために、いくつかの合成工程を伴うものである。
【0004】
米国特許第9,586,926 B2公報は、COによるエポキシドの炭酸化から環状炭酸塩を生成する方法を開示している。この方法は、YCl,Y,Y(NO),ScCl,またはLaClから選択されるプレ触媒と、臭化テフラブチルアンモニウム、4-ジメチルアミノピリジン、またはビス(トリフェニルホスフィン)イミニウムクロリドのうちから1:1~1:2の範囲内のモル比で選択される助触媒(共触媒)とを含む均一触媒系(均一系触媒システム)を介して行われる。しかしながら、不純なCOまたは希釈されたCOを伴うこの系の触媒は、大気圧条件下では触媒活性が比較的に低い。
【0005】
モンテイロ他(アプライドカタラシスA:ジェネラル(2017)、544(25)、46-54)は、環状炭酸塩を合成するためのプレ触媒としてのチタン酸ナノチューブ(TNT)またはナノワイヤ(TNW)に担持された1-メチル-3-(3-トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリドイオン液体触媒、および助触媒としてのZnBrを含む触媒系を開示している。この触媒は、COに対する触媒の選択性は高いが、高圧での純粋なCOのみに用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような事情から、とくに希釈されたCO源および/または不純なCO源を用いることにより、高い触媒活性および高い選択性を有する穏やかな条件下でCOから環状炭酸塩を生成するための新世代の触媒系を開発する必要がある。そこで、本発明は、高い触媒活性を有し、費用対効果が高い純粋および不純なCOを使用して、穏やかな条件下でCOおよびエポキシドを環状炭酸塩に変換するための触媒系を提供することを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態では、本発明は、二酸化炭素(CO)およびエポキシド塩基化合物から環状炭酸塩を生成するための触媒系であって、
式BiXzをもつ化合物から選択されるプレ触媒;
式Rをもつアンモニウム塩または式Rをもつホスホニウム塩から選択される助触媒;
但し、Nは窒素、Pはリン、XとYはそれぞれ独立のハロゲン化物、Zは1~3の整数、R,R,R,およびRは1~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基から独立に選択され、
置換または非置換のシクロアルキル基;置換または非置換のアリール基;または置換または非置換ヘテロアリール基;を有する触媒系に関する。
【0008】
本発明の他の実施形態において、本発明は、触媒系の存在下でエポキシド塩基化合物を二酸化炭素と反応させることを含む、環状炭酸塩を生成するための方法であって、
前記触媒系は、
式BiXzをもつ化合物から選択されるプレ触媒;
式Rをもつアンモニウム塩または式Rをもつホスホニウム塩から選択される助触媒;
但し、Nは窒素、Pはリン、XとYはそれぞれ独立のハロゲン化物、Zは1~3の整数、R、R、R、およびRは1~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基から独立に選択され、
置換または非置換サイクルアルキル基;置換または非置換のアリール基; または置換または非置換ヘテロアリール基;を含み、
前記方法は、プレ触媒:助触媒:エポキシド塩基化合物のモル比が約1:1:10~1:3:100範囲のプレ触媒、助触媒、およびエポキシド塩基化合物を用いて、約1~100バール範囲の二酸化炭素の圧力で;約10~200℃範囲の温度で;約1~8時間範囲の反応時間で実施される触媒系の生成方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、室温および1バールの圧力で純粋なCOを使用して周囲条件下で様々な触媒系のHNMRによって同定された酸化プロピレンの炭酸プロピレンへの変換を示す図。
図2図2は、室温および1バールの圧力で純粋なCOを使用して周囲条件下で様々な触媒系のin situ IR分析法によって決定された炭酸プロピレンの初期形成速度を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、COおよびエポキシド塩基化合物を環状炭酸塩に変換するための費用対効果が高く、高い触媒活性を有する環状炭酸塩製造用の触媒系を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、純粋なCOおよび不純なCOを使用する穏やかな条件で触媒系を用いることにより、環状炭酸塩を製造する方法を提供するものである。本発明の詳細は、本明細書に従って以下のように解明することができる。本明細書で使用される技術用語または科学用語は、特に明記しない限り、当業者によって理解されるような定義を有する。
【0012】
本明細書で言及される装置、装置、方法、または化学物質は、それらが本発明で特に使用される装置、装置、方法、または化学物質であると明示的に別段の記載がない限り、当業者によって一般的に操作または使用される設備、装置、方法、または化学物質を意味する。
【0013】
本願の請求項または明細書における「有する」という用語を伴う単数形または複数形の名詞の使用は、「1つ」および「1つ以上」、また「少なくとも1つ」、および「1つ以上」を指す。
【0014】
開示および特許請求されるすべての組成物および/またはプロセスは、本発明とは著しく異なる実験を行うことなく、作動、操作、修正、または任意のパラメータの変更から本発明の態様を含むこと、および、特許請求の範囲に特に言及していなくても当業者によれば本発明の同じ有用性および結果を有する同様の物体を取得することを目的としている。したがって、当業者によって明確に見い出すことができるマイナーな修正または変更を含む、本発明の置換または類似の目的は、添付の特許請求の範囲として本発明の範囲、精神、および概念の範囲内で考慮されるべきである。
【0015】
本願明細書全体を通して、「約」という用語は、ここに提示された値が潜在的に変化するか又は逸脱する可能性があることを示すために使用される。そのような変動または逸脱は、装置、計算に使用される方法のエラー、または装置または方法を実施する個々のオペレータに起因する可能性がある。これらには、物性の変化によって引き起こされる変動または逸脱が含まれる。
【0016】
以下は、本発明の範囲を限定することを意図することなく、本発明の詳細な説明である。
【0017】
一実施形態では、本発明は、環状炭酸塩を製造するための触媒系であって、
式BiXzをもつ化合物から選択されるプレ触媒;
式Rをもつアンモニウム塩または式Rをもつホスホニウム塩から選択される助触媒;但し、Nは窒素、Pはリン、XとYはそれぞれ独立のハロゲン化物、Zは1~3の整数、R,R,R,およびRは1~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基から独立に選択され、
置換または非置換のシクロアルキル基;置換または非置換のアリール基;あるいは置換または非置換ヘテロアリール基;を含む触媒系を提供する。
【0018】
他の実施形態では、Xは塩化物であり、MはBi3+である。
【0019】
好ましい実施形態では、プレ触媒はBiClである。
【0020】
他の実施形態では、Yは臭化物またはヨウ化物である。
【0021】
他の実施形態では、R,R,R,およびRは1~8個の炭素原子をもつ直鎖または分岐アルキル基から独立に選択される。
【0022】
好ましい実施形態では、R,R,R,およびRは1~4個の炭素原子をもつ直鎖または分岐アルキル基から独立に選択される。
【0023】
他の実施形態では、助触媒は、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAB)、ヨウ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAI)、臭化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBuBr)、ヨウ化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBuI)またはそれらの混合物から選択される。
【0024】
他の実施形態では、プレ触媒と助触媒とのモル比は1:1~1:3の範囲にある。
【0025】
好ましい実施形態では、プレ触媒と助触媒とのモル比は1:2である。
【0026】
本発明の他の実施形態では、本発明は、COおよびエポキシド塩基化合物から環状炭酸塩を製造するための触媒系の使用に関する。
【0027】
本発明の他の実施形態では、本発明は、触媒系の存在下でエポキシド塩基化合物を二酸化炭素と反応させることを含む環状炭酸塩を製造するための方法であって、
前記触媒系は、
式BiXzをもつ化合物から選択されるプレ触媒;
式Rをもつアンモニウム塩または式Rをもつホスホニウム塩から選択される助触媒;但し、Nは窒素、Pはリン、XとYの各々は独立にハロゲン化物、Zは1~3の整数、R,R,R,Rは1~8個の炭素原子をもつ直鎖または分岐アルキル基から独立に選択され、
置換または非置換のシクロアルキル基;置換または非置換のアリール基;または置換または非置換ヘテロアリール基;を有し、
前記方法は、プレ触媒:助触媒:エポキシド塩基化合物が約1:1:10~1:3:100の範囲にあるモル比を用いて、約1~100バール範囲の二酸化炭素の圧力で、約10~200℃範囲の温度で、約1~8時間の範囲の反応時間で、実行される。
【0028】
他の例示的な実施形態では、プレ触媒:助触媒:エポキシド塩基化合物のモル比は、約1:1:10~1:3:50の範囲にある。
【0029】
好ましい例示的な実施形態では、プレ触媒:助触媒:エポキシド塩基化合物のモル比が約1:2:50である。
【0030】
他の例示的な実施形態では、二酸化炭素の圧力が約1~50バールの範囲である。
【0031】
好ましい例示的な実施形態では、二酸化炭素の圧力が約1~10バールの範囲である。
【0032】
他の例示的な実施形態では、温度が約25~200℃の範囲である。
【0033】
好ましい例示的な実施形態では、温度が約25~120℃の範囲である。
【0034】
他の例示的な実施形態では、反応時間が1~6時間の範囲である。
【0035】
好ましい例示的な実施形態では、反応時間が2~4時間の範囲である。
【0036】
他の例示的な実施形態では、Xは塩化物である。
【0037】
好ましい例示的な実施形態では、プレ触媒はBiClである。
【0038】
他の例示的な実施形態では、Yは臭化物またはヨウ化物から選択される。
【0039】
他の例示的な実施形態では、R,R,R,およびRは、1~8個の炭素原子をもつ直鎖または分岐アルキル基から独立して選択される。
【0040】
好ましい例示的な実施形態では、R,R,R,およびRは、1~4個の炭素原子をもつ直鎖または分岐アルキル基から独立して選択される。
【0041】
他の例示的な実施形態では、助触媒は、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAB)、ヨウ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAI)、臭化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBuBr)、ヨウ化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBuI)またはそれらの混合物から選択される。
【0042】
以下、本発明の例は、本発明の範囲を限定する目的なしに示されている。
[実施例]
[化学薬品および消耗品]
すべての化学薬品は商業的供給元から購入し、受け取ったままの状態で使用した。初期の遷移金属ハロゲン化物は、グローブボックス内に保管し、取り扱った。金属を含まない化合物は、化学薬品キャビネットに保管し、それ以上の予防措置なしに使用した。純粋で希釈されたCO(空気中の約50%の濃度のCO)を金属シリンダ内に入れ、レギュレータを介して投与した。
[大気条件(室温、CO)での環状炭酸塩の合成]
100mLの3つ口丸底フラスコ内で実験をおこなった。磁気攪拌棒を備えた反応容器に触媒(約2ミリモル)と助触媒(約4ミリモル)を加えた。約2リットルのCO(または空気中の約50%の濃度で希釈されたCO)で満たされたバルーンを、in-situ赤外線プローブとともにフラスコに接続した。約100ミリモルのプロピレンオキシドの添加により反応を初期化し、約800rpmで約3時間撹拌した。生成物を重水素化クロロホルム(CDCl)で希釈し、HNMRで同定した。
[オートクレーブを用いた環状炭酸塩の合成(圧力1バール超え)]
75mLオートクレーブ内で実験をおこなった。磁気攪拌棒を備えたオートクレーブに、約2ミリモルの触媒および約4ミリモルの助触媒および約100ミリモルのプロピレンオキシドをそれぞれ加えることによって、反応をグローブボックス内で調製した。COの添加で反応を初期化した。オートクレーブを目標温度の油浴にセットし、約800rpmで撹拌した。約3時間後、容器を室温まで冷却させた。反応から得られた炭酸プロピレンは、CDCl中のH-NMRによって同定した。
[純粋なCOによる初期触媒スクリーニング]
均一系触媒システム(金属ハロゲン化金属のペア、およびアンモニウム塩またはホスホニウム塩)は、炭酸プロピレンを得るための酸化プロピレンへのCOの付加環化反応について、大気条件下(室温、圧力下で約1バールのCOをニードルでバルーンに充填)で約3時間の初期スクリーニング手順を受けた。約3時間の反応時間でのプロピレンオキシドからプロピレンカーボネートへの変換を図1に示す。反応の最初の15分間にin situ赤外線プローブで測定した炭酸プロピレン形成の初期速度を図2に示す。
【0043】
観察された結果に基づいて判明した点を述べる。BiCl/PBuBrは、約3時間の反応時間で、純粋なCOを使用した大気条件下で最高の変換率を示した(図1)。これに代えて、プロピレンカーボネート形成の初期速度を考察してみると(図2)、ZnCl/TBAIが最も高い初期速度を示した。BiCl/TBAIおよびYCl/TBABは、ZnCl/TBAIよりもわずかに低い初期速度を示した。約3時間の変換結果と初期速度を合わせると、BiCl/PBuBr、BiCl/TBAI、YCl/TBAB、ZnCl/TBAIなどの金属ベース系が最も有望な性能を示すように見えた。特に、エポキシドへのCOの付加環化のためのビッツベース触媒(Bids based catalyst)は、これまでに報告されていない。これらの理由から、以下の実験では金属ベースの触媒に焦点を絞っている。
【0044】
[大気条件下で約50%濃度のCOによる触媒スクリーニング]
純粋なCOを用いた大気条件下での初期スクリーニング後に、希釈されたCO(空気中の約50%濃度)の使用について研究した。このスクリーニング結果を表1に示す。
【0045】
表1から、データは、BiCl/PBuBrおよびZnCl/TBAIがプロピレンオキシドからプロピレンカーボネートへの変換を促進するための最良の均質な候補であることを示唆している。
【0046】
【表1】
【0047】
[オートクレーブ中の約50%濃度の純粋なCO2による触媒スクリーニング]
純粋なCO2と希釈されたCO2を含む大気条件下での研究に続いて、室温から約120℃の範囲の温度と純粋な希釈された空気中の%)約5~10バール圧力のCO2(約50の濃度)でのいくつかの反応条件下での触媒活性の最適化に注目が集まった。その結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
当業者が容易に理解するように、本願明細書においてした上記の説明は、本発明の原理の実施の例示として意図されている。本願明細書での説明は、以下の特許請求の範囲で定義されるように、本発明の精神から逸脱することなく、本発明が修正、変更、および変更を受けやすいという点で、本発明の範囲または適用を制限することを意図するものではない。
[発明の最良のモード]
本発明の最良のモードは、本発明の記述説明において提供される通りである。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]二酸化炭素(CO 2 )とエポキシド塩基化合物から環状炭酸塩を生成するための触媒系であって、
式BiXzを有する化合物から選択されるプレ触媒;
式R をもつアンモニウム塩または式R をもつホスホニウム塩から選択される助触媒;
但し、Nは窒素、Pはリン、XとYはそれぞれ独立のハロゲン化物、Zは1~3の整数、R ,R ,R ,およびR は1~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基から独立に選択され、
置換または非置換のシクロアルキル基;置換または非置換のアリール基;または置換または非置換ヘテロアリール基;
を有することを特徴とする触媒系。
[2]Xは塩化物である、[1]に記載の触媒系。
[3]前記プレ触媒はBiCl である、[1]に記載の触媒系。
[4]Yは臭化物またはヨウ化物から選択される、[1]に記載の触媒系。
[5]R ,R ,R ,およびR は、1~8個の炭素原子をもつ直鎖または分岐アルキル基から独立に選択される、[1]に記載の触媒系。
[6]R ,R ,R ,およびR は、1~4個の炭素原子をもつ直鎖または分岐アルキル基から独立に選択される、[5]に記載の触媒系。
[7]前記助触媒は、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAB)、ヨウ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAI)、臭化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu Br)、ヨウ化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu I)またはそれらの混合物のうちから選択される、[1]に記載の触媒系。
[8]前記プレ触媒と前記助触媒とのモル比は1:1~1:3の範囲にある、[1]に記載の触媒系。
[9]前記プレ触媒と前記助触媒とのモル比は1:2である、[8]に記載の触媒系。
[10]二酸化炭素(CO 2 )とエポキシド塩基化合物から環状炭酸塩を生成するための触媒系の使用であって、
前記触媒系は、
式BiXzを有する化合物から選択されるプレ触媒;
式R をもつアンモニウム塩または式R をもつホスホニウム塩から選択される助触媒;
但し、Nは窒素、Pはリン、XとYはそれぞれ独立のハロゲン化物、Zは1~3の整数、R ,R ,R ,およびR は1~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基から独立に選択され、
置換または非置換のシクロアルキル基;置換または非置換のアリール基;または置換または非置換ヘテロアリール基;
を有することを特徴とする触媒系の使用。
[11]Xは塩化物である、[10]記載の触媒系の使用。
[12]前記プレ触媒はBiCl である、[10]記載の触媒系の使用。
[13]Yは臭化物またはヨウ化物から選択される、[10]記載の触媒系の使用。
[14]R ,R ,R ,およびR は、1~8個の炭素原子をもつ直鎖または分岐アルキル基から独立に選択される、[10]記載の触媒系の使用。
[15]R ,R ,R ,およびR は、1~4個の炭素原子をもつ直鎖または分岐アルキル基から独立に選択される、[14]記載の触媒系の使用。
[16]前記助触媒は、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAB)、ヨウ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAI)、臭化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu Br)、ヨウ化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu I)またはそれらの混合物のうちから選択される、[10]記載の触媒系の使用。
[17]前記プレ触媒と前記助触媒とのモル比は1:1~1:3の範囲にある、[10]記載の触媒系の使用。
[18]前記プレ触媒と前記助触媒とのモル比は1:2である、[17]記載の触媒系の使用。
[19]触媒系の存在下でエポキシド塩基化合物を二酸化炭素(CO 2 )と反応させることを含む環状炭酸塩を製造するための方法であって、
前記触媒系は、
式BiXzをもつ化合物から選択されるプレ触媒;
式R をもつアンモニウム塩または式R をもつホスホニウム塩から選択される助触媒;但し、Nは窒素、Pはリン、XとYの各々は独立にハロゲン化物、Zは1~3の整数、R ,R ,R ,R は1~8個の炭素原子をもつ直鎖または分岐アルキル基から独立に選択され、
置換または非置換のシクロアルキル基;置換または非置換のアリール基;または置換または非置換ヘテロアリール基;を有し、
前記方法は、プレ触媒:助触媒:エポキシド塩基化合物が約1:1:10~1:3:100の範囲にあるモル比を用いて、約1~100バール範囲の二酸化炭素の圧力と、 約10~200℃範囲の温度と、約1~8時間の範囲の反応時間とで実行される、ことを特徴とする環状炭酸塩の製造方法。
[20]前記プレ触媒:助触媒:エポキシド塩基化合物のモル比は、約1:1:10~1:3:50の範囲にある、[19]に記載の方法。
[21]前記プレ触媒:助触媒:エポキシド塩基化合物のモル比が約1:2:50である、[20]に記載の方法。
[22]前記二酸化炭素の圧力が約1~50バールの範囲にある、[19]に記載の方法。
[23]前記二酸化炭素の圧力が約1~10バールの範囲である、[22]に記載の方法。
[24]前記温度が25~200℃の範囲にある、[19]に記載の方法。
[25]前記温度が25~120℃の範囲にある、[24]に記載の方法。
[26]前記反応時間が1~6時間の範囲にある、[19]に記載の方法。
[27]前記反応時間が2~4時間の範囲にある、[26]に記載の方法。
[28]前記Xは塩化物である、[19]に記載の方法。
[29]前記プレ触媒はBiCl である、[19]に記載の方法。
[30]前記Yは臭化物またはヨウ化物から選択される、[19]に記載の方法。
[31]R ,R ,R ,およびR は、1~8個の炭素原子をもつ直鎖または分岐アルキル基から独立して選択される、[19]に記載の方法。
[32]R ,R ,R ,およびR は、1~4個の炭素原子をもつ直鎖または分岐アルキル基から独立して選択される、[19]に記載の方法。
[33]前記助触媒は、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAB)、ヨウ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAI)、臭化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu Br)、ヨウ化テトラ-n-ブチルホスホニウム(PBu I)またはそれらの混合物のうちから選択される、[19]に記載の方法。
図1
図2