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  • 特許-プレガバリン製剤およびその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】プレガバリン製剤およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/197 20060101AFI20240610BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240610BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20240610BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20240610BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240610BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240610BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20240610BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
A61K31/197
A61K47/22
A61K47/46
A61K47/04
A61K47/12
A61K9/08
A61P25/22
A61P25/20
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021557220
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-14
(86)【国際出願番号】 FI2020050193
(87)【国際公開番号】W WO2020193864
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】20195226
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】300046083
【氏名又は名称】オリオン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フフチネン、ミルヤ
(72)【発明者】
【氏名】ランミネン、テルッツ
(72)【発明者】
【氏名】サルミア、ユッカ
(72)【発明者】
【氏名】テルバプロ、ヨハンナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルクリュッセ、ユルゲン
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-534764(JP,A)
【文献】特表2007-514728(JP,A)
【文献】特表2003-510355(JP,A)
【文献】国際公開第2009/087682(WO,A1)
【文献】Frontiers in Veterinary Science,2018年,Vol.5,Article No.136, p.1-6
【文献】Journal of the American Veterinary Medical,2016年,Vol.249, No.2,p.202-207
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも35mg/mlの濃度の活性成分としてのプレガバリン;
(ii)酵母抽出物、加水分解酵母またはエチルマルトールである風味剤;
(iii)保存剤;および
(iv)水
を含み、
組成物のpHが約3.0~約4.4である
経口投与に適合された液体医薬組成物。
【請求項2】
組成物のpHが約3.1~約4.3である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
組成物のpHが約3.2~約4.2である請求項2記載の組成物。
【請求項4】
組成物のpHが約3.5~約4.0である請求項3記載の組成物。
【請求項5】
活性成分としてプレガバリンを少なくとも40mg/mlの濃度で含む請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
活性成分としてプレガバリンを少なくとも45mg/mlの濃度で含む請求項5記載の組成物。
【請求項7】
組成物が、コンパニオン・アニマルへの経口投与に適合された獣医用液体医薬組成物である請求項1記載の組成物。
【請求項8】
コンパニオン・アニマルがネコである、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
組成物の重量に対して、3.5~15%のプレガバリンを含む請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
組成物の重量に対して、約4~10%のプレガバリンを含む請求項9記載の組成物。
【請求項11】
組成物の重量に対して、約4.5~8%のプレガバリンを含む請求項10記載の組成物。
【請求項12】
風味剤がエチルマルトールである請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
保存剤が安息香酸塩である請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
保存剤が安息香酸ナトリウムである請求項13記載の組成物。
【請求項15】
組成物が、プレガバリン自体以外の緩衝剤を含まない請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
(i)少なくとも35mg/mlの濃度の活性成分としてのプレガバリン;
(ii)エチルマルトール;
(iii)安息香酸ナトリウム;および
(iv)水
を含み、
組成物のpHが約3.0~約4.4である
請求項1~15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
(i)組成物の重量に対して、3.5~15%のプレガバリン;
(ii)組成物の重量に対して、0.002~1%の、酵母抽出物、加水分解酵母またはエチルマルトールである風味剤;
(iii)組成物の重量に対して、0.01~1%の保存剤;および
(iv)組成物の重量に対して、75~96.5%の滅菌水
を含み、
組成物のpHが約3.0~約4.4である
請求項1~16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
(i)組成物の重量に対して、3.5~15%のプレガバリン;
(ii)組成物の重量に対して、0.001~0.05%のエチルマルトール;
(iii)組成物の重量に対して、0.05~0.5%の安息香酸ナトリウム;および
(iv)組成物の重量に対して、85~96.5%の滅菌水
を含み、
組成物のpHが約3.0~約4.4である
請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
コにおける輸送や獣医訪問に対する不安や恐れの治療または予防方法であって、それを必要とする対象に活性成分としてプレガバリンを含む組成物を有効量投与することを含む方法であって、組成物が請求項1~18のいずれか1項に記載されたものである方法
【請求項20】
コにおける輸送や獣医訪問に対する不安や恐れ治療または予防するための医薬の製造における、活性成分としてプレガバリンを含む組成物の使用であって、組成物が請求項1~18のいずれか1項に記載されたものである使用
【請求項21】
コにおける輸送や獣医訪問に対する不安や恐れの治療または予防において使用するための、請求項1~18のいずれか1項に記載された組成物。
【請求項22】
a)活性成分としてプレガバリンを含む経口投与に適合された液体医薬組成物、b)前記組成物を含むパッケージ、およびc)輸送や獣医訪問に対する不安や恐れの治療または予防のために、前記組成物をネコに投与するための取扱説明書を含む医薬キットであって、組成物が請求項1~18のいずれか1項に記載されたものである医薬キット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレガバリンを活性成分として含む経口送達可能な液体医薬組成物の形態の医薬組成物、およびネコなどのコンパニオン・アニマルにおける輸送や獣医訪問(veterinary visit)に対する不安や恐れの治療および予防におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ペットの飼い主は、その57%が、ネコが獣医に行くことに抵抗すると報告していることなどから、彼らの飼いネコを獣医に連れて行くことが、そのネコおよび彼ら自身にとって非常にストレスの多いものであると感じている。さらに、ネコも獣医に行くのがストレスフルであると感じている。調査研究の結果によれば、ネコの飼い主、なによりネコは、クリニックに訪れるすべての段階:入口を入る前、待合室で、診察室に移動、診察台上で、および家に帰った後、のあいだ安寧が損なわれている。極度の不安は、すべてのさらなる経験により悪化し、他の状況でも旅行や対応に否定的な影響を及ぼす。拘束、痛みおよび不安は、獣医や飼い主への攻撃性の原因となる。多くの猫がキャリアに入れられ動物クリニックに運ばれるのに攻撃的に抵抗し、獣医訪問のあいだストレスの兆候を示すので、ネコの飼い主は、彼らの猫を獣医に連れて行くのを先送りする。獣医医療利用の調査によれば、イヌの15%と比べて、40%のネコは過去一年間以内に獣医に行っていない。グループとして、ネコは、主に飼い主が獣医訪問の苦痛にネコをさらしたがらないことにより、満たされていない医療ニーズを有しており、そうでない場合よりも深刻な病気となる可能性がある。恐れは、ネコが獣医専門職による十分なサービスが受けられない原因となっている。ベンゾジアゼピン類(例えば、アルプラゾラム、ミダゾラム、ロラゼパム)、ガバペンチン、セロトニンアンタゴニスト、セロトニン再取り込み阻害剤(例えばトラゾドン)およびクロニジンなどの抗不安または鎮静薬剤が、ネコ科の患者に対して輸送や獣医訪問のストレスを軽減する試みに使用されている。一般に提案されている薬物療法は長期の発現(数週間)を伴うか、または有害作用として鎮静および/または運動失調を生じる。現在、アメリカ合衆国または欧州において、ネコにおける輸送および獣医訪問の不安を治療するための登録されている獣医用医薬はない。
【0003】
プレガバリンは、ある電圧依存性カルシウムチャネルの阻害剤であり、てんかん、神経因性疼痛および全般性不安の治療用としてヒトにおいて登録されている。ネコの痛みの治療におけるプレガバリンの使用が報告されている(非特許文献1)。プレガバリンは、ヒトへの治療用に錠剤、カプセル剤および経口溶液として入手可能である。市販のヒト用プレガバリンの経口溶液は、20mg/mlの濃度であり、これは非現実的に多量の溶液をネコに経口投与する必要がある。
【0004】
特許文献1は、pH5.5~7.0を有し、少なくとも1種の多価アルコールを含むプレガバリンの安定な液体組成物を記載している。この特許出願の著者は、プレガバリンの分解(ラクタム形成)がこのpH範囲において実質的に回避できることを見出した。一般的な保存剤が、冷蔵保存温度(2℃~8℃)でのこのpH範囲におけるそれらの低い水溶性により適切でないことが見出されたため、多価アルコールが保存剤として使用される。
【0005】
特許文献2は、保存剤および味マスキング剤を含むプレガバリンの安定な液体組成物を記載している。組成物のpHは、この場合もやはりラクタム形成をできる限り減らすため5.5~7.0の範囲にある。多くの一般的な保存剤および味マスキング剤は、このpH範囲において冷蔵保存温度では水溶性が不十分であるため適切でないことが見出された。保存剤としてはメチルパラベンまたはエチルパラベンが、味マスキング剤としてはサッカリンナトリウムが適切であることが見出された。プレガバリン濃度15mg/mlが製剤例に記載されている。
【0006】
ネコ科の動物の輸送および獣医訪問の不安を、作用の迅速な発現とペットの飼い主により投与できるような簡単な投与で治療するための有効な医薬であって、目立った運動失調または過剰な鎮静を引き起こさない医薬が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2002/94220号
【文献】国際公開第2005/63229号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Lamont, L., Vet Clin Small Anim 38 (2008) 1187-1203
【発明の概要】
【0009】
プレガバリンが、特に経口液体医薬組成物の形態で、ネコなどのコンパニオン・アニマルにおける輸送(transportation)および獣医訪問(veterinary visit)の不安および恐れ(fear)を治療するための有効な医薬であることが見出された。例えばネコにおける輸送および獣医訪問の不安および恐れを治療するために好適な経口液体医薬組成物は、少なくとも35mg/ml、好ましくは少なくとも40mg/ml、より好ましくは少なくとも45mg/mlの濃度のプレガバリンを含む。文献では、プレガバリンの安定性を保証するために5.5~7.0のpH範囲を推奨しているが、このpH範囲ではプレガバリンの水溶性は、ネコにおける経口送達のために必要とされる高濃度の液体組成物とするには不十分である。しかしながら、本願の組成物は、驚くべきことに、約3.0~約4.5のpH範囲で安定であり、かなり多量のプレガバリンを溶解することが可能である。したがって、本発明の組成物は、ネコにおける経口送達に特に好適である。その組成物は、ネコ科の輸送および獣医訪問の不安および恐れに迅速な作用発現を示す。それは目立った運動失調または過剰な鎮静を引き起こさない。その組成物は、動物に良好な口当たりであり、ペットの飼い主により簡単に投与することができる。
【0010】
本発明の一実施態様によれば、本発明は、
(i)少なくとも35mg/ml、好ましくは少なくとも40mg/ml、より好ましくは少なくとも45mg/mlの濃度の活性成分としてのプレガバリン;
(ii)風味剤;
(iii)保存剤;および
(iv)水
を含み、
組成物のpHが約3.0~約4.4、好ましくは約3.1~約4.3、より好ましくは約3.2~約4.2、なおより好ましくは約3.5~約4.0である
経口投与に適合された液体医薬組成物を提供する。
【0011】
本発明の別の実施態様によれば、本発明は、コンパニオン・アニマル、特にネコにおける輸送や獣医訪問に対する不安や恐れの治療または予防方法であって、それを必要とする対象に活性成分としてプレガバリンを含む組成物を有効量投与することを含む方法を提供する。
【0012】
本発明の別の実施態様によれば、本発明は、コンパニオン・アニマル、特にネコにおける輸送や獣医訪問に対する不安や恐れの治療または予防するための医薬の製造における、活性成分としてプレガバリンを含む組成物の使用を提供する。
【0013】
本発明の別の実施態様によれば、本発明は、コンパニオン・アニマル、特にネコにおける輸送や獣医訪問に対する不安や恐れの治療または予防において使用するための、活性成分としてプレガバリンを含む組成物を提供する。
【0014】
本発明の一実施態様によれば、本発明は、a)活性成分としてプレガバリンを含む経口投与に適合された液体医薬組成物、b)前記組成物を含むパッケージ、およびc)輸送や獣医訪問に対する不安や恐れの治療または予防のために、前記組成物をコンパニオン・アニマル、特にネコに投与するための取扱説明書を含む医薬キットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】プレガバリンそれ自体および2.0mg/mlの安息香酸ナトリウムの添加を伴うプレガバリンの水溶性を5℃でのpHの関数として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において使用される場合、用語「輸送の不安および恐れ」は、コンパニオン・アニマル、特にネコの、その動物が運搬用車両に移動されるまたは運搬用車両、例えば車、バス、電車または飛行機で移動している際に、苦痛、恐れ、恐怖症、または攻撃性の兆候により特徴づけられる行動症状を意味する。そのような兆候は、例えば、声を上げること(vocalisation)、落ち着きがないこと、破壊行動、隠れること、凍り付くこと、うずくまること、浅速呼吸、および脚の発汗などを含む。
【0017】
本明細書において使用される場合、用語「獣医訪問の不安および恐れ」は、コンパニオン・アニマル、特にネコの、その動物が獣医を訪れる、または獣医により診察されるか処置される場合に、苦痛、恐れ、恐怖症、または攻撃性の兆候により特徴づけられる行動症状を意味する。そのような兆候は、例えば、声を上げること、落ち着きがないこと、もがくこと、逃走すること、凍り付くこと、うずくまること、浅速呼吸をすることなどを含む。
【0018】
本明細書において使用される場合、用語「コンパニオン・アニマル」は、人間によってペットとして飼われることに適している動物を意味し、イヌおよびネコを含む。
【0019】
本明細書において使用される場合、用語「プレガバリン」は、遊離型のプレガバリン(双性イオン)、およびその薬学的に許容され得る塩、錯体、溶媒和物、水和物およびエナンチオマーを意味する。
【0020】
本明細書において使用される場合、用語「保存剤」は、それが添加される溶液において微生物および/または真菌の増殖を阻害する化合物を意味する。
【0021】
本明細書において使用される場合、用語「緩衝剤(buffering agent)」または「バッファー(buffer)」は、水に溶解された場合、酸または塩基の添加の際、同じ酸および塩基を同じ量添加した際に緩衝剤を含まない水に比べてpHの変化に抵抗する化合物または化合物の組合せを意味する。
【0022】
本明細書において使用される場合、用語「液体医薬組成物」は、水などの液体担体を含む医薬組成物であって、プレガバリンなどの活性成分が少なくとも部分的に、好ましくは完全に可溶化されている医薬組成物を意味する。したがって、好ましい実施態様では、「液体医薬組成物」は、水溶液である。
【0023】
本発明は、
(a)少なくとも35mg/ml、好ましくは少なくとも40mg/ml、より好ましくは少なくとも45mg/mlの濃度の活性成分としてのプレガバリン;
(b)風味剤;
(c)保存剤;および
(d)水
を含み、
組成物のpHが約3.0~約4.4、好ましくは約3.1~約4.3、より好ましくは約3.2~約4.2、なおより好ましくは約3.5~約4.0である
経口投与に適合された液体医薬組成物を提供する。
【0024】
本発明の一実施態様によれば、上記組成物は、コンパニオン・アニマル、特にネコへの経口投与に適合された獣医用液体医薬組成物である。その組成物は、特に、そのまま、または食品と混合したものとしてネコが自発的に消費するのに適合されている。その組成物は、コンパニオン・アニマル、特にネコにおける輸送や獣医訪問に対する不安や恐れの治療または予防のために特に有用である。
【0025】
投与されるべき組成物の量は、好適には、輸送や獣医訪問に対する不安や恐れの十分な軽減効果を提供するが、治療された動物において目立った運動失調および過剰な鎮静を引き起こさないように選択される。それにより、コンパニオン・アニマル、特にネコにおける輸送や獣医訪問に対する不安や恐れの治療または予防のため、プレガバリンは、通常、約0.5~20mg/kg、好ましくは約1~10mg/kg、より好ましくは約2~8mg/kg、および典型的には約4~6mg/kg、例えば約5mg/kgの量で投与される。組成物は、好適には、輸送や獣医訪問発生の約0.5~約2時間前に投与される。
【0026】
本発明の一実施態様によれば、本発明による組成物は、単一の活性成分としてプレガバリンを含む。
【0027】
本発明の他の一実施態様によれば、本発明による組成物は、プレガバリンに加えて1または2以上の活性成分、特に、コンパニオン・アニマル、特にネコにおける輸送や獣医訪問に対する不安や恐れの治療または予防において有用な活性成分を含んでもよい。
【0028】
本発明による組成物は、好ましくは、コンパニオン・アニマル、特にネコの経口投与に適合した水溶液の形態である。プレガバリンの濃度は、コンパニオン・アニマル、特にネコに非現実的に大量の溶液を経口投与する必要がないように十分に高くすべきである。したがって、水溶液組成物中のプレガバリンの濃度は、少なくとも35mg/ml、好ましくは少なくとも40mg/ml、より好ましくは少なくとも45mg/mlである。例えば、プレガバリンの濃度は、通常、約35mg/ml~約150mg/ml、好ましくは約40mg/ml~約100mg/ml、より好ましくは約45mg/ml~約80mg/mlの範囲内、例えば約50mg/mlである。
【0029】
プレガバリンの水溶性は、低いpHの値を有する本発明の組成物において改善されるということが分かった。組成物のpHは、適切には、約3.0~約4.4、好ましくは3.1~4.3、より好ましくは約3.2~約4.2、なおより好ましくは約3.5~約4.0の範囲、例えば約3.7である。このpH範囲では、プレガバリンは、冷蔵庫の条件で本発明の組成物において安定であることが分かった。組成物のpHは、例えばpH調整剤を用いて所望の範囲に調整することができる。pH調整剤は、それ自身によりpH緩衝能を有さない単純な塩基または酸、例えばNaOHまたはHClなどであってよい。あるいは、pH調整剤は、溶液のpHを所望のpHの値に緩衝する能力を有する緩衝剤とすることもできる。適切な緩衝剤としては、例えば、乳酸/乳酸塩、クエン酸/クエン酸塩、または酢酸/酢酸塩バッファーなどが挙げられる。バッファーは、適切には、組成物の重量に対して、約0.1~5%、好ましくは約0.2~3%、例えば約0.5~2%で使用される。バッファーは、ネコなどのコンパニオン・アニマルへの製剤の口当たりの良さにそれらが何らかの負の作用を示さないように選択すべきである。しかしながら、本発明によるプレガバリン溶液は、プレガバリン自身の緩衝能力により追加の緩衝剤がなくてもそのpHを良好に維持することが分かった。
【0030】
組成物はまた、適切には、溶液に微生物および/または真菌の増殖を阻害するために保存剤も含む。保存剤は、要求されるpH範囲において物理化学的に安定かつ活性であり、製剤の口当たりの良さに何らの負の影響を有さず、製剤の他の成分と適合する剤から選択される。保存剤の例としては、安息香酸および安息香酸ナトリウムまたは安息香酸カリウムなどのその塩、ソルビン酸およびソルビン酸カリウムなどのその塩などが挙げられる。保存剤は、一般に、組成物の重量に対して、0.01~1%、好ましくは0.05~0.5%、例えば0.1~0.2%の量で使用される。安息香酸ナトリウムなどの安息香酸塩は、特に好ましい保存剤であることが分かった。保存剤活性を有することに加えて、安息香酸ナトリウムなどの安息香酸塩は、本発明の組成物においてプレガバリンの沈殿を阻害することにより、プレガバリンの物理的安定性を改善することが分かった。安息香酸ナトリウムなどの安息香酸塩は、好ましくは、組成物の重量に対して約0.05~0.2%の量で使用される。
【0031】
プレガバリンは強い苦味を有するため、組成物は、好ましくは1または2以上の風味剤を含む。風味剤は、適切には、それがコンパニオン・アニマル、特にネコに対して溶液の口当たりの良さを改良するように選択される。組成物を溶液の形態に維持するために、風味剤も水溶性であり、安定であり、かつ組成物の他の成分と適合するものであるべきである。風味剤は、通常、組成物の重量に対して約0.001~10%の量で、好ましくは約0.002~5%の量で、より好ましくは約0.002~1%の量で使用される。
【0032】
ネコは、糖および甘味に引き付けられず、おそらく関連する受容体遺伝子がないため糖の甘みを味わうことができない(Li, X. et al., (2005), PLoS Genet., 1(1), e3, 0027-0035)。対照的に、酵母抽出物および加水分解酵母は、イヌおよびネコのいずれにとっても良好な口当たりを有することが示されている。しかしながら、最も入手しやすい酵母製品は、特に医薬の剤形の好適な成分ではない。それらは、典型的には、天然源から製造された多成分製品であり、剤形の医薬的分析を難しくしている。それらはまた、有意なバッチ間変動に苦しんでおり、医薬溶液の変色を引き起こし得る。
【0033】
エチルマルトールは、本発明の医薬溶液のための風味剤として特に適しているということが見出された。エチルマルトールは、溶液の他の成分と適合し、水溶性であり、安定でかつ、甘い風味により特徴づけられるにもかかわらず予想外にコンパニオン・アニマル、特にネコの口に合うものである。さらに、組成物を口当たり良くするためには非常に少量で使用する必要がある。エチルマルトールは、適切には、組成物の重量に対して約0.001~約0.05%、好ましくは約0.002~0.01%、例えば約0.002~約0.006%の量で使用される。
【0034】
組成物は、さらにブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)またはブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)などの抗酸化剤、エデト酸2ナトリウムなどのキレート化剤、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどの増粘剤、および経口投与用溶液の製剤化に一般に使用される他の成分を含んでもよい。
【0035】
一実施態様によれば、本発明は、
(i)組成物の重量に対して、約3.5~15%、好ましくは約4~10%、より好ましくは約4.5~8%のプレガバリン;
(ii)組成物の重量に対して、約0.001~10%、好ましくは約0.002~5%、より好ましくは約0.002~1%の風味剤;
(iii)組成物の重量に対して、約0.01~1%、好ましくは、約0.05~0.5%、より好ましくは0.1~0.2%の保存剤;および
(iv)組成物の重量に対して、約75~96.5%、好ましくは約85~96%、より好ましくは90~95.5%の水
を含み、
組成物のpHが約3.0~約4.4、好ましくは約3.1~約4.3、より好ましくは約3.2~約4.2、なおより好ましくは約3.5~約4.0である
コンパニオン・アニマル、特にネコへの経口投与に適合された獣医用液体医薬組成物を提供する。
【0036】
もう一つの実施態様によれば、本発明は、
(i)組成物の重量に対して、約3.5~15%、好ましくは約4~10%、より好ましくは約4.5~8%のプレガバリン;
(ii)組成物の重量に対して、約0.001~0.05%、好ましくは約0.002~0.01%、より好ましくは約0.002~0.006%のエチルマルト―ル;
(iii)組成物の重量に対して、約0.05~0.5%、より好ましくは0.1~0.2%の安息香酸塩;および
(iv)組成物の重量に対して、約85~96.5%、好ましくは90~96%、より好ましくは約92~95.5%の水
を含み、
組成物のpHが約3.0~約4.4、好ましくは約3.1~約4.3、より好ましくは約3.2~約4.2、なおより好ましくは約3.5~約4.0である
コンパニオン・アニマル、特にネコへの経口投与に適合された獣医用液体医薬組成物を提供する。
【0037】
なお別の実施態様によれば、本発明は、
(i)少なくとも35mg/ml、好ましくは少なくとも40mg/ml、より好ましくは少なくとも45mg/mlの濃度の活性成分としてのプレガバリン;
(ii)エチルマルト―ル;
(iii)安息香酸ナトリウム;および
(iv)水
を含み、
組成物のpHが約3.0~約4.4、好ましくは約3.1~約4.3、より好ましくは約3.2~約4.2、なおより好ましくは約3.5~約4.0である
コンパニオン・アニマル、特にネコへの経口投与に適合された獣医用液体医薬組成物を提供する。
【0038】
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、上記実施態様のいずれかの液体医薬組成物は、水溶液、すなわちプレガバリンが完全に溶解した形態である組成物である。
【0039】
本発明の液体医薬組成物は、例えば、活性成分および賦形剤を撹拌下、水に溶解し、その後、必要に応じてpHを調整し、ろ過することにより製造することができる。
【0040】
組成物は、a)活性成分としてプレガバリンを含む経口投与に適合された液体医薬組成物、b)前記組成物を含むパッケージ、およびc)輸送や獣医訪問に対する不安や恐れの治療または予防のために、前記組成物をコンパニオン・アニマル、特にネコに投与するための取扱説明書を含む医薬キットの形態で提供することができる。
【0041】
本発明は、以下の実施例によりさらに説明されるが、それらは本発明の範囲を限定することを意味するものではない。
【0042】
製剤例1.
量 mg/ml
プレガバリン 50
安息香酸ナトリウム 2.0
エチルマルトール 0.04
塩酸10%および/または pH3.7とするのに十分な量
水酸化ナトリウム 2M
精製水 1mlとするまで
【0043】
製剤例2.
量 mg/ml
プレガバリン 50
安息香酸ナトリウム 2.0
エチルマルトール 0.04
乳酸 1.8
塩酸10%および/または pH3.7とするのに十分な量
水酸化ナトリウム 2M
精製水 1mlとするまで
【0044】
製剤例3.
量 mg/ml
プレガバリン 50
安息香酸ナトリウム 2.0
酵母抽出物 5
塩酸10%および/または pH3.7とするのに十分な量
水酸化ナトリウム 2M
精製水 1mlとするまで
【0045】
製剤例4.
量 mg/ml
プレガバリン 50
安息香酸ナトリウム 2.0
酵母抽出物 5
乳酸 1.8
塩酸10%および/または pH3.7とするのに十分な量
水酸化ナトリウム 2M
精製水 1mlとするまで
【0046】
上記製剤は、賦形剤および薬物を精製水に溶解し、必要に応じてpHを調整することにより製造した。
【0047】
実験1.プレガバリンの溶解性
プレガバリンそれ自体および2.0mg/mlの安息香酸ナトリウムの添加を伴うプレガバリンの5℃での水溶性を、pHの関数として測定した。結果を図1に示す。プレガバリンの水溶性は、pHが約4.4よりも低い場合に有意に増加した。また、安息香酸ナトリウムがプレガバリンの沈殿を阻害することによりプレガバリンの物理的安定性を改善したことも分かった。
【0048】
実験2.溶解性試験
製剤例1の化学的および物理的安定性を、ガラス瓶中、2~8℃で市販のプレガバリン20mg/mlヒト経口溶液(Lyrica(登録商標))と比較した。プレガバリン50mg/mlを含みpH約3.7の製剤例1の安定性が、プレガバリン20mg/mlを含みpH約6.1の市販のプレガバリン製品(Lyrica(登録商標))の安定性に匹敵した。
【0049】
【表1】
【0050】
実験3.口当たりの良さ(Palatability)の試験
製剤例2、3および4のネコ(n=12)における口当たりの良さの試験を行った。製剤を5mg/kgの用量でネコに与えた。ネコが、5分以内に食べ物なしで全量を自発的に消費しなかった場合(用量残部50%超)、製品は食べ物と共に与えた。ネコが、5分以内に食べ物と一緒の製品を自発的に消費しなかった場合(ペレット残部50%超)、製品はシリンジで与えられた。試験の結果を表1に示す。各動物について、消費された容量の部分が示される。製剤例2(エチルマルト―ルを含む)の製剤が最も口当たりが良いように見えることがわかる。
【0051】
【表2】
【0052】
実験4.ネコにおける臨床試験
ネコにおける輸送や獣医訪問に対する不安や恐れの治療または予防のためのプレガバリンの有効性および安定性を評価するために無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間多施設臨床試験を実施した。ネコを無作為化し、プレガバリン5mg/kg(n=108)またはプラセボ(n=101)のいずれかを、輸送や獣医訪問のおおよそ90分前に単回用量として経口投与した。
【0053】
試験は2つの主要な有効性に関する変数を有した。第1の主要な変数はネコにおける輸送中のネコのストレス、不安および/または恐れに基づく治療効果の飼い主の評価であった。第2の主要な変数は、獣医での診察中のネコのストレス、不安および/または恐れに基づく治療効果の治験責任医師の評価であった。両方ともスコア1~5の数値化スケールを用いて評価した。
【0054】
主要変数の結果を表3に表す。プラセボに対してプレガバリン5mg/kgを支持する統計学的に有意な治療効果が両方の主要な変数:輸送のあいだの飼い主の治療効果の評価(p=0.0010)およびクリニック診察のあいだの治験担当医師の治療効果の評価(p=0.0003)において見られた。プレガバリン5mg/kgは、目立った運動失調または過剰な鎮静を引き起こさなかった。
【0055】
【表3】
図1