(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】拡散強調磁気共鳴測定を行う方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240610BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20240610BHJP
G01R 33/54 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
A61B5/055 382
A61B5/055 311
G01N24/00 510Y
G01R33/54
(21)【出願番号】P 2021563252
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 SE2020050414
(87)【国際公開番号】W WO2020218966
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-03-30
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】522437360
【氏名又は名称】ランダム ウォーク イメージング アーベー
【氏名又は名称原語表記】RANDOM WALK IMAGING AB
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】テ、アービン
(72)【発明者】
【氏名】ラシック、サモ
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】スチェパンキーウィチ、フィリップ
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0033410(US,A1)
【文献】国際公開第2013/025487(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0372828(US,A1)
【文献】国際公開第2019/050462(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/088954(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/088955(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/116300(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/119569(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0234956(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0348325(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0187649(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0004137(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0291113(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0277169(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00
G01R 33/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルに拡散強調磁気共鳴測定を行うための方法であって、
前記サンプルに拡散符号化シーケンスを適用するために磁気共鳴スキャナを動作させることと、
前記サンプルから1または複数のエコー信号を取得するために前記磁気共鳴スキャナを動作させることと、
を備え、
前記拡散符号化シーケンスは、少なくとも2つの直交方向yおよびzに沿って非ゼロ成分g
l(t)を有する拡散符号化時間依存磁場勾配g(t)と、少なくとも2つの非ゼロ固有値を有するbテンソルとを備え、前記磁場勾配は、第1の符号化ブロックおよび後続する第2の符号化ブロックを備え、
方向l∈(y,z)に沿ったn次勾配モーメントの大きさは、
【数1】
によって求められ、
前記第1の符号化ブロックは、前記第1の符号化ブロックの終了時に、
前記方向yに沿って、T
nが
所望の程度の動き補償が実現されるように選択された所定のn次閾値である場合、各0≦n≦mについて|M
ny(t)|≦T
n、
前記方向zに沿って、各0≦n≦
m-1について|M
nz(t)|≦T
n、n=mについて|M
nz(t)|>T
n、をもたらすように適合され、
前記第2の符号化ブロックは、前記第2の符号化ブロックの終了時に、
前記方向l∈(y,z)の各々に沿って、各0≦n≦mについて|M
nl(t)|≦T
n、をもたらすように適合され、
mは、1以上の整数次数である、方法。
【請求項2】
mは1に等しい、請求項1の方法。
【請求項3】
mは2以上である、請求項1の方法。
【請求項4】
前記磁場勾配g(t)は、
前記第1の符号化ブロックの開始と前記第1の符号化ブロックの終了との間に、前記方向yに沿ったm+1個のゼロ交差および前記方向zに沿ったm個のゼロ交差を提示し、
前記第2の符号化ブロックの開始と前記第2の符号化ブロックの終了との間に、前記方向yに沿ったm+1個のゼロ交差および前記方向zに沿ったm個のゼロ交差を提示するように適合される、請求項1~3のうちのいずれか1項の方法。
【請求項5】
前記第1および第2の符号化ブロックの持続期間はτ
Bであり、それぞれ時間t
B1およびt
B2に開始し、0≦t´≦τ
Bの場合、
g
y(t
B1+t´)=±g
y(t
B2+t´)、かつ
g
z(t
B1+t´)=-g
z(t
B2+t´)、
である、請求項1~4のうちのいずれか1項の方法。
【請求項6】
前記磁場勾配g(t)は、前記第1および第2の符号化ブロックの間にサイレントブロックを備え、その間g(t)はゼロであり、前記拡散符号化シーケンスは、前記サイレントブロック中に前記サンプルに印加される少なくとも1つの無線周波数パルスを更に備える、請求項1~5のうちのいずれか1項の方法。
【請求項7】
前記bテンソルは、丁度2つの非ゼロ固有値を有する、請求項1~6のうちのいずれか1項の方法。
【請求項8】
前記bテンソルは、丁度3つの非ゼロ固有値を有し、前記磁場勾配g(t)は、3つの直交方向x、y、およびzに沿って非ゼロ成分g
l(t)を有し、
前記第1の符号化ブロックは、前記第1の符号化ブロックの終了時に、
前記方向xに沿って、各0≦n≦mについて|M
nx(t)|≦T
nをもたらすように更に適合され、
前記第2の符号化ブロックは、前記第2の符号化ブロックの終了時に、
前記方向xに沿って、各0≦n≦mについて|M
nx(t)|≦T
nをもたらすように更に適合される、請求項1~7のうちのいずれか1項の方法。
【請求項9】
前記磁場勾配g(t)は、
前記第1の符号化ブロックの開始と前記第1の符号化ブロックの終了との間に、前記方向xおよびyの各々に沿ったm+1個のゼロ交差および前記方向zに沿ったm個のゼロ交差を提示し、
前記第2の符号化ブロックの開始と前記第2の符号化ブロックの終了との間に、前記方向xおよびyの各々に沿ったm+1個のゼロ交差および前記方向zに沿ったm個のゼロ交差を提示するように適合される、請求項8の方法。
【請求項10】
前記第1および第2の符号化ブロックの持続期間はτ
Bであり、それぞれ時間t
B1およびt
B2に開始し、0≦t´≦τ
Bの場合、
gx(tB1+t´)=gx(tB2+t´)、
gy(tB1+t´)=-gy(tB2+t´)、かつ
gz(tB1+t´)=-gz(tB2+t´)、
である、請求項8~9のうちのいずれか1項の方法。
【請求項11】
ディフェージングベクトル
【数2】
の軌道は、前記磁場勾配g(t)の間、2つの直交平面に限定される、請求項8~10のうちのいずれか1項の方法。
【請求項12】
前記拡散符号化シーケンスは、前記サンプル内に等方性拡散符号化をもたらすように適合される、請求項8~11のうちのいずれか1項の方法。
【請求項13】
前記サンプルは、前記方向zに沿って配向された静磁場B
0=(0,0、B
0)内に配置され、前記磁場勾配g(t)は、
【数3】
がゼロであるように静磁場に対し配向され、
【数4】
である、請求項8~12のうちのいずれか1項の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の概念は、サンプルに対して拡散強調磁気共鳴測定を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
拡散強調磁気共鳴画像法(dMRI)は、組織微細構造を調べるために用いることができ、科学的および臨床的な用途を有する。拡散符号化磁場勾配によって、拡散に関して増感されたMR測定が可能であり、これは、スピン担持粒子の拡散に関する拘束/規制を表し得る、構成コンパートメントの組織微細構造、異方性、形状およびサイズに関する情報を推測するために用いられ得る。
【0003】
いわゆるbテンソル符号化における最近の発展により、撮像データから微細構造がより特異的に再現され得ることが示された。特に、bテンソル符号化は、たとえば拡散テンソルイメージング(DTI)において従来用いられた線形/指向性拡散符号化(1D)の範囲を超えて、平面(2D)符号化および楕円形および球形(3D)符号化を含む他次元拡散符号化にも及ぶ符号化スキームを可能にする。たとえば“Measurement Tensors in Diffusion MRI:Generalizing the Concept of Diffusion Encoding”(Westin C-F、Szczepankiewicz F、Pasternak O他、Med Image Comput Comput Assist Interv 2014;17:209-216)に開示されるように、そのようなスキームは、複数の非ゼロ固有値を有する拡散符号化/強調テンソルによって説明することができ、様々な程度で、配向分散の混乱影響を低減または排除し、コンパートメント(拡散テンソル)異方性に特有の感度を提供することができる。
【0004】
一例として、“Microanisotropy imaging:quantification of microscopic diffusion anisotropy and orientational order parameter by diffusion MRI with magic-angle spinning of the q-vector”(Lasic S、Szczepankiewicz F、Eriksson S、Nilsson M、 Topgaard D、Front Phys 2014;2:1-14)に開示されるアプローチは、コンパートメント(拡散テンソル)異方性および配向分散の影響を最大限分離し、指向性(1D)符号化と等方性(3D)符号化とを組み合わせて、微視的異方性度(μFA)を定量化するものである。
【0005】
しかし、現在の多次元拡散符号化法は、典型的には、測定中のサンプルの大きな動きがないものと仮定する。サンプルの大きな動きは、信号の欠落ならびに信号および画像のアーチファクトをもたらし得る。いくつかのアプリケーションにおいて、たとえば対象物が、たとえば心臓など患者の動く臓器の組織である場合、サンプルの大きな動きは回避できない。この理由から、現在のbテンソル符号化スキームを用いて、動く臓器の組織の微細構造をdMRIベースで分析することは、今のところ困難である。
【発明概念の概要】
【0006】
本発明の概念の目的は、サンプルのバルクモーションが存在する場合でも、四両サンプルの正確な拡散重み付け磁気共鳴測定を可能にする方法を提供することである。さらなる目的および代替的な目的は、以下から理解され得る。
本発明の概念の一態様によれば、サンプルの拡散強調磁気共鳴測定を行うための方法が提供され、この方法は、
前記サンプルに拡散符号化シーケンスを適用するために磁気共鳴スキャナを動作させることと、
前記サンプルから1または複数のエコー信号を取得するために前記磁気共鳴スキャナを動作させることと、を具備し、
前記拡散符号化シーケンスは、少なくとも2つの直交方向yおよびzに沿って非ゼロ成分g
l(t)を有する拡散符号化時間依存磁場勾配g(t)と、少なくとも2つの非ゼロ固有値を有するbテンソルとを備え、前記磁場勾配は、第1の符号化ブロックおよび後続する第2の符号化ブロックを備え、
方向l∈(y,z)に沿ったn次勾配モーメントの大きさは、
【数1】
によって求められ、
前記第1の符号化ブロックは、前記第1の符号化ブロックの終了時に、
前記方向yに沿って、T
nが所定のn次閾値である場合、各0≦n≦mについて|M
ny(t)|≦T
n、
前記方向zに沿って、各0≦n≦mについて|M
nz(t)|≦T
n、n=mについて|M
nz(t)|>T
n、をもたらすように適合され、
前記第2の符号化ブロックは、前記第2の符号化ブロックの終了時に、
前記方向l∈(y,z)の各々に沿って、各0≦n≦mについて|M
nl(t)|≦T
n、をもたらすように適合され、
mは、1以上の整数次数である。
拡散強調磁気共鳴測定のための発明的な方法によると、多次元拡散符号化シーケンスは、たとえば(m=1の場合)速度または(m=2の場合)速度および加速度に対する低減した感度(すなわち補償)を提示するように適合され得る。以下で詳述するように、この方法は、平面拡散符号化(2D)ならびに楕円形および球形拡散符号化(3D)を可能にする。
【0007】
閾値Tnの値が小さいほど、大きな程度の動き補償が実現され得る。動き補償の程度を最大化するという観点から、(各次数0≦n≦mに関してTn=0に対応する)第2の符号化ブロックの終了時、各方向に沿った勾配モーメントの大きさがゼロ値をとる、すなわち「ヌル化」されることが好適であり得る。しかし、たとえば磁場勾配g(t)に対する他の要件の観点から、いくつかの例において厳密性の低い動き補償が許容され得ることが考えられる。すなわち、実際の閾値は、所望の程度の動き補償が実現されるように、各測定の詳細に依存して選択され得る。
【0008】
本発明者によって実現されるように、磁場勾配g(t)の振動の数が多いほど、高次の勾配モーメントのヌル化が可能である。しかし、多数の振動は、磁気共鳴スキャナに対する要求を増加させる。したがって、単一の符号化ブロックにおいて各方向に沿った動き補償を提供することは、特にそれ自体がハードウェアを必要とし得る多次元拡散符号化と組み合わせる場合、容易に実現できない可能性がある。したがって、本発明の方法は、2つの符号化ブロックを提供し、方向の1つ(すなわちy方向)に沿ってm次勾配モーメントの大きさが閾値Tmを満たす/下回ることを必要とするが、他の方向(すなわちz方向)に沿ってm次勾配モーメントの大きさが閾値Tmを超過することを許容する。これにより、より広範囲の磁気共鳴スキャナに動き補償多次元拡散符号化が実装され得る。
【0009】
本明細書で言及される場合、磁場勾配g(t)は、特に示されない限り、有効磁場勾配を指す。したがってg(t)は、たとえばリフォーカスパルスなど、拡散符号化シーケンスの一部を形成する任意の数の無線周波数(RF)パルスを印加した後のスピンディフェージング方向を考慮した勾配波形ベクトルを表す。
【0010】
方向l∈(y,z)に沿ったn次勾配モーメントは、
【数2】
によって求められる。このn次勾配モーメントの定義は、3つの直交方向l∈(x,y,z)に沿った非ゼロ成分g
l(t)の場合にも適用される。
【0011】
したがって、n次勾配モーメントベクトルは、
【数3】
によって求められる。
【0012】
0次勾配モーメントベクトル
【数4】
であり、ここで、q(t)はディフェージングベクトル
【数5】
であり、γは磁気回転比である。
【0013】
(有効)磁場勾配g(t)のテンソル表現b、省略すると「bテンソル」は、
【数6】
によって求められ、ここで、
【数7】
はテンソル積を表し、τ
Eは、スピンエコー測定に関するエコー時間に相当する、t=0とt=τ
Eとの間の合計符号化時間を表す。
【0014】
たとえばx、y、およびzなどの方向または軸への言及は、単なる符号として理解すべきであり、特に示されない限り、スキャナの勾配コイルチャネルの特定の軸に言及するものと解釈してはならない。
【0015】
上記で言及された整数次数mは、どの次数の動きを補償すべきかに依存して選択された所定の値であってよい。いくつかの実施形態において、mは1に等しくてよい。これにより速度補償が可能である。いくつかの実施形態において、mは2に等しくてよい。これにより、速度および加速度補償が可能である。いくつかの実施形態において、mは2より大きい数であってよい。これにより、速度および加速度補償ならびにより高次の動き補償が可能である。
【0016】
いくつかの実施形態によると、前記磁場勾配g(t)は、
前記第1の符号化ブロックの開始と前記第1の符号化ブロックの終了との間に、前記方向yに沿ったm+1個のゼロ交差および前記方向zに沿ったm個のゼロ交差を提示し、
前記第2の符号化ブロックの開始と前記第2の符号化ブロックの終了との間に、前記方向yに沿ったm+1個のゼロ交差および前記方向zに沿ったm個のゼロ交差を提示するように適合される。
【0017】
各符号化ブロック内の方向に沿ってm+1個のゼロ交差を提示するようにg(t)を適合することにより、上記方向に沿って次数mまでの動き補償が可能である。これは、以下でより厳密に示される。m+1を超えるまでゼロ交差の数を増やすこと(すなわち、勾配振動数を増やすこと)は可能であるが、スキャナに高い要求を課し、拡散強調の効率を低下させる。
【0018】
gl(t)にm+1個のゼロ交差を提供することにより、各符号化ブロックにおいてgl(t)をm+2個のサブインターバルに細分化することが可能であり、ここで、各サブインターバルの開始および終了時においてgl(t)=0である。
【0019】
前記第1および第2の符号化ブロックの持続期間はτBであり、それぞれ時間tB1およびtB2に開始し、0≦t´≦τBの場合、
gy(tB1+t´)=±gy(tB2+t´)、かつ
gz(tB1+t´)=-gz(tB2+t´)、
である
【0020】
本発明者によって実現されるように、第2の符号化ブロック中に勾配成分g
z(t)の符号/極性を反転させることにより、z方向に沿った任意の残留m次勾配モーメントの大きさが低減されて閾値T
m以下になる、すなわちz方向に沿って
【数8】
となることが可能である。勾配成分の符号は、y方向に沿って変更されても変更されなくてもよい。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記磁場勾配g(t)は、前記第1および第2の符号化ブロックの間にサイレントブロックを備え、その間g(t)はゼロであり、前記拡散符号化シーケンスは、前記サイレントブロック中に前記サンプルに印加される少なくとも1つの無線周波数パルスを更に備える。
【0022】
たとえば、サイレントブロックの間に180°リフォーカスパルスが印加され得る。この場合、エコー信号は、エコー時間τEにおけるスピンエコーとして、または拡散準備済みのパルスシーケンスの一部として取得され得る。
【0023】
上述したように、2Dおよび3D拡散符号化シーケンスの両方が可能である。2D符号化は、丁度2つの非ゼロ固有値を有するbテンソルを用いて実現され得る。3D符号化は、丁度3つの非ゼロ固有値を有するbテンソルを用いて実現され得る。
【0024】
実施形態において、前記bテンソルは、丁度3つの非ゼロ固有値を有し、前記磁場勾配g(t)は、3つの直交方向x、y、およびzに沿って非ゼロ成分gl(t)を有してもよく、
前記第1の符号化ブロックは、前記第1の符号化ブロックの終了時に、
前記方向xに沿って、各0≦n≦mについて|Mnx(t)|≦Tnをもたらすように更に適合され、
前記第2の符号化ブロックは、前記第2の符号化ブロックの終了時に、
前記方向xに沿って、各0≦n≦mについて|Mnx(t)|≦Tnをもたらすように更に適合される。
【0025】
したがって、第1および第2の符号化ブロック中の2つの方向x、yに沿って各次数0≦n≦mに関して閾値Tnが強制されるが、第1の符号化ブロック中の方向zに沿って次数0≦n≦m-1に関してのみ強制される。このアプローチにより、原理的に任意の形状のbテンソル(たとえば扁長、扁円、球形)が可能でありながら、次数mまでの動き補償が可能である。
【0026】
前記磁場勾配g(t)は、
前記第1の符号化ブロックの開始と前記第1の符号化ブロックの終了との間に、前記方向xおよびyの各々に沿ったm+1個のゼロ交差および前記方向zに沿ったm個のゼロ交差を提示し、
前記第2の符号化ブロックの開始と前記第2の符号化ブロックの終了との間に、前記方向xおよびyの各々に沿ったm+1個のゼロ交差および前記方向zに沿ったm個のゼロ交差、を提示するように適合され得る。
【0027】
上述したゼロ交差の数に関する利点は、この3D符号化の例にも適用される。
【0028】
前記第1および第2の符号化ブロックの持続期間はτBであり、それぞれ時間tB1およびtB2に開始し、0≦t´≦τBの場合、
gx(tB1+t´)=gx(tB2+t´)、
gy(tB1+t´)=-gy(tB2+t´)、かつ
gz(tB1+t´)=-gz(tB2+t´)、
である。
【0029】
上述したように、第2の符号化ブロック中に勾配成分g
z(t)の符号/極性を反転させることにより、z方向に沿った任意の残留m次勾配モーメントの大きさが低減されて閾値T
m以下になる、すなわちz方向に沿って
【数9】
となることが可能である。一方、他の2方向のうち1つのみ符号を反転させることにより、3D符号化が得られることが可能である。
【0030】
ディフェージングベクトル
【数10】
の軌道は、前記磁場勾配g(t)の間、2つの直交平面に限定され得る。ディフェージングベクトルの軌道を直交する2つの平面に限定することにより、磁場勾配g(t)の設計における拡散強調効率が改善され、所望の動き補償が実現され得る。
【0031】
上述したように、本アプローチは、原理的に任意の形状のbテンソルを可能にする。動き補償は、サンプル内の等方性拡散符号化と組み合わせられ得ることが想定される。
【0032】
いくつかの実施形態において、前記サンプルは、前記方向zに沿って配向された静磁場B0=(0,0、B
0)内に配置され、前記磁場勾配g(t)は、
【数11】
がゼロであるように静磁場に対し配向され、ここで、
【数12】
である。
【0033】
本発明者によって実現されるように、Kを最小化する回転を伴って勾配ベクトルg(t)に適用することによって、付随磁場の影響を無視できるレベルまで低減することが可能である。よって磁場勾配g(t)は、言わば「マクスウェル補償」されたものと称され得る。したがって、位置依存補正勾配を用いることなく、測定アーチファクトをもたらし得る付随磁場勾配に起因する信号減衰が緩和または回避され得る。
【0034】
この方法はさらに、処理デバイスによって、たとえばdMRI画像などのサンプルの画像を生成するために、サンプルから取得された1または複数のエコー信号を表すデータを処理することを備えてよい。
【0035】
磁場勾配g(t)の第1および第2の符号化ブロックは、各々が、台形パルスまたは正弦波パルスを備えてよい。より一般的には、各符号化ブロックは、台形パルスと正弦波パルスとの組み合わせを備えてよい。
【0036】
上述したように、各Tnはゼロ閾値であってよく、すなわちゼロに等しくてよい。そのような場合、本明細書における|Mny(t)|≦Tnの任意の記述は、|Mny(t)|がゼロである、またはヌル化されたと解釈され得る。逆に、本明細書における|Mny(t)|>Tnの任意の記述は、|Mny(t)|がゼロより大きい、すなわちヌル化されていないと解釈され得る。
【0037】
mが1以上である実施形態によると、T1は1.20E-5、好適には1.18E-5、さらに好適には1.17E-5(T.s2.m-1単位)であってよい。mが2以上である実施形態によると、T2は4.8E-7、好適には4.7E-7、さらに好適には4.6E-7(T.s3.m-1単位)であってよい。T0は、任意の値のmについて1.20E-2、好適には1.18E-2、さらに好適には1.17E-2(T.s.m-1単位)であってよい。これらの閾値は、サンプルが患者の心臓または他の動く臓器の場合など、様々な用途のために使用可能な程度の動き補償を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
本発明概念の上記ならびに追加の目的、特徴、および利益は、添付図面を参照し、以下に示す本発明概念の好適な実施形態の例示的かつ非限定的な詳細な説明を通して、より深く理解される。図面において、特に記載しない限り、同様の参照番号が同様の要素に用いられる。
【0039】
【
図1】
図1は、符号化シーケンスのフォーマットを概略的に示す。
【
図2a】
図2aは、有効拡散符号化磁気勾配波形の例および結果として生じる第0~第2の勾配モーメントを示す。
【
図2b】
図2bは、有効拡散符号化磁気勾配波形の例および結果として生じる第0~第2の勾配モーメントを示す。
【
図2c】
図2cは、有効拡散符号化磁気勾配波形の例および結果として生じる第0~第2の勾配モーメントを示す。
【
図3a】
図3aは、付随磁場勾配をヌル化するための勾配の回転を伴わない、
図2の波形に関するq軌道を示す。
【
図3b】
図3bは、付随磁場勾配をヌル化するための勾配の回転を伴う、
図2の波形に関するq軌道を示す。
【
図4a】
図4aは、回転を伴わない、
図2に示す波形に関する付随モーメント行列要素K
ij(t)の時間発展を示す。
【
図4b】
図4bは、回転を伴う、
図2に示す波形に関する付随モーメント行列要素K
ij(t)の時間発展を示す。
【
図5a】
図5aは、有効拡散符号化磁場勾配波形の更なる例および結果として生じる第0~第2の勾配モーメントを示す。
【
図5b】
図5bは、有効拡散符号化磁場勾配波形の更なる例および結果として生じる第0~第2の勾配モーメントを示す。
【
図5c】
図5cは、有効拡散符号化磁場勾配波形の更なる例および結果として生じる第0~第2の勾配モーメントを示す。
【
図6】
図6は、付随磁場勾配をヌル化するための勾配波形の回転を伴う、
図5の波形に関するq軌道を示す。
【
図7】
図7は、回転を伴う、
図5に示す波形に関する付随モーメント行列要素K
ij(t)の時間発展を示す。
【
図8a】
図8aは、有効拡散符号化磁場勾配波形の更なる例および結果として生じる第0~第2の勾配モーメントを示す。
【
図8b】
図8bは、有効拡散符号化磁場勾配波形の更なる例および結果として生じる第0~第2の勾配モーメントを示す。
【
図8c】
図8cは、有効拡散符号化磁場勾配波形の更なる例および結果として生じる第0~第2の勾配モーメントを示す。
【
図10】
図10は、磁気共鳴スキャナの機能ブロックを概略的に示す。
【詳細な説明】
【0040】
たとえばdMRIなどの拡散強調磁気共鳴測定技術において、たとえば組織などのサンプルの微細構造は、サンプル内のスピン担持粒子、典型的には水分子の拡散を介して調べられ得る。「拡散」という用語は、サンプル内のスピン担持粒子のランダムまたは確率的な運動プロセスを意味する。拡散は、熱エネルギ、化学エネルギ、および/または濃度差によって生じるランダムな分子運動を含み得る。そのような拡散は、自己拡散としても知られる。拡散は、サンプル内のランダムに配向された微細構造内部での分子の分散流またはインコヒーレント流または乱流(すなわち、速度分散を伴う流れ)を含み得る。そのような拡散は、「偽拡散」としても知られる。したがって、サンプル内のインコヒーレント流の影響は、本開示の方法において用いられる拡散符号化磁場勾配シーケンスによる信号減衰をもたらすこともある。たとえば心臓などの動いている器官に測定を行う場合のように、サンプルの大きな運動が存在する場合、大きな運動は、実際の拡散による信号減衰をマスクし、または歪ませ得る。
【0041】
以下、任意の程度かつ最大で1桁以上の動き補償が可能な拡散符号化スキーム、および任意の形状のbテンソルを用いた多次元拡散符号化が開示される。以下の説明および例は、3D拡散符号化(すなわち、3つの非ゼロ固有値を有するbテンソルを用いる)に言及するが、当業者に理解されるように、それらは適切に適応させることによって2D拡散符号化(すなわち、2つの非ゼロ固有値のみを有するbテンソルを用いる)にも適用され得る。
【0042】
図1は、磁気共鳴スキャナによって実装され得る、拡散強調に適合した符号化シーケンス1の概略図である。符号化シーケンスは時間依存磁場勾配を備え、これは効果的な形式において、有効勾配波形ベクトル
【数13】
として表され得る。ここで、l∈(x,y,z)である。有効勾配波形ベクトルg(t)は、符号化シーケンスの任意の数のリフォーカスRFパルスを印加した後のスピンディフェージング方向を考慮に入れる。有効勾配波形ベクトルg(t)は、
【数14】
によって、臨床勾配波形ベクトルと関連付けられ、ここで、l∈(x,y,z)であり、符号関数h(t)は、リフォーカスパルスまたは90°のパルスペアによって区切られた各符号化期間に関して1または-1の値を想定するので、リフォーカスパルスによって区切られた隣り合う期間は反対の符号を有する。本開示において、「勾配波形ベクトルg(t)」および「磁場勾配g(t)」という用語は同義語として用いられてよく、特に記載されない限り常にベクトル/勾配の効果的な形式を指す。
【0043】
符号化シーケンス1は、RF励起パルスと共に時間t=0に開始し、エコー取得時間t=τEに終了する。したがって、τEは合計符号化時間を表し得る。
【0044】
符号化シーケンス1の磁場勾配g(t)は、第1の符号化ブロック10および第2の符号化ブロック20を備える。斜線模様は、磁場勾配g(t)がゼロである、すなわち拡散符号化磁気勾配が存在しない間の符号化シーケンス1の「サイレント時間」を示す。したがって、
図1に示すように、符号化シーケンス1は、第1および第2の符号化ブロック10、20の間にサイレントブロックを備え得る。よって第1の符号化ブロック10は、サイレントブロックの前の磁場勾配g(t)部分を示し、第2の符号化ブロック20は、サイレントブロックの後の磁場勾配g(t)部分を示す。
【0045】
第1の符号化ブロック10は時間t=τB1、すなわち磁場勾配g(t)が励起パルスの後に最初に非ゼロになる時間に開始する。第1の符号化ブロック10の持続期間はτBである。第1の符号化ブロック10は、t=τB1+τB、すなわち磁場勾配g(t)がサイレントブロックの前に最後にゼロになる時間に開始する。第2の符号化ブロック20は、時間t=τB2、すなわち磁場勾配g(t)がサイレントブロックの後に最初に非ゼロになる時間に開始する。第1の符号化ブロック10の開始と第2の符号化ブロック20の開始との間の時間間隔は、δによって求められる。第2の符号化ブロック20の持続期間はτBである。第2の符号化ブロック20は、時間t=τB2+τB、すなわち磁場勾配g(t)が符号化シーケンス1の終了t=τEの前に最後にゼロになる時間に終了する。
【0046】
サイレントブロックの間、1または複数のRFパルス、たとえば単一の180°リフォーカスRFパルスまたは連続した2つ以上の90°RFパルスがサンプルに印加され得る。
図1において、パラメータuは、第1の符号化ブロック10の終了とRFパルス(複数も可)の開始との間の時間を示し、パラメータvは、RFパルス(複数も可)の終了と第2の符号化ブロック20の開始との間の時間を示す。uおよびvは、互いに等しくても異なってもよい。したがって符号化ブロックは、RFパルス(複数も可)に対して対称的に(u=v)または非対称的に(u≠v)適用され得る。
【0047】
図1は、同じ持続期間τ
Bの第1および第2の符号化ブロック10、20を示すが、第1および第2の符号化ブロックは異なる持続期間であってもよいことが考えられる。また、
図1は、2つの符号化ブロックの存在を示すが、符号化シーケンスは、たとえば3、4、またはそれより多い数の符号化ブロックなど、2より多い数の符号化ブロックを備えてよいことが考えられる。以下の説明は、第1および第2の符号化ブロック10、20が拡張符号化シーケンスの連続した最後の符号化ブロックペアを表す場合、そのような拡張符号化シーケンスにも適用可能である。
【0048】
勾配波形ベクトルg(t)に基づいて、時間依存のn番目の勾配モーメントベクトルは、
【数15】
と定義され得る。M
0(t)の発展はq軌道に比例し、そのように称されることがある。拡散符号化テンソルは、
【数16】
によって求められ、ここで、
【数17】
はテンソル積を表し、γは磁気回転比である。
【0049】
以下の分析のために、相対的ブロック時間t´は、各符号化ブロック10、20のローカル時間として定義されてよく、すなわち符号化ブロックの開始におけるt´=0に開始し、符号化ブロックの終了におけるt´=τBに終了する。
【0050】
図1に示すような任意の符号化ブロックは、v個のブロックサブインターバルI
1、I
2、I
3などに分割され得る。i番目のサブインターバルI
iが相対時間t´
i(1)に開始し、t´
i(2)に終了するものとし、0≦t´
i(1),(2)≦τ
Bとする。サブインターバル持続期間はΔt´
i=t´
i(2)-t´
i(1)であるため、全てのt´∈I
iに関して、
【数18】
かつt´
i(1)≦t´≦t´
i(2)である。
【0051】
符号化ブロック10、20の各サブインターバルI
i内のベクトルg(t)の成分が
【数19】
によって求められるものとし、C
iは正または負の実定数であり、
【数20】
は正規化波形であり、
【数21】
であるとする。よって、ブロック内の有効勾配の全成分は、サブインターバルごとに定義された区分的関数f(t)によって求められる。f(t)が連続的であるための些細な条件は、各サブインターバルの開始および終了時に
【数22】
であることである。i番目のサブインターバルI
iにおけるn番目の勾配モーメントベクトルM
n(t)の成分の増分は、
【数23】
によって求められる。符号化ブロック内のM
n(t)の成分の増分全体は、
【数24】
である時、ゼロである。
【0052】
M
n(t)の成分、すなわちM
nl(t)l∈(x,y,z)は、各符号化ブロックに関してΔM
n=0である時、または全ての符号化ブロックからのΔM
nがゼロである時、t=τ
Eでヌル化する。まず、単一の符号化ブロックにおいてΔM
n=0となる条件を考える。条件(7)を満たすためには、v個の調整可能なパラメータが必要である。ここで、最大nの全てのモーメントに関して(7)を満たすために最低限必要なサブインターバルの数vが何かを推論することが可能であり、すなわち、
【数25】
である。
【0053】
モーメントをヌル化するために、符号化ブロック内の波形全体を任意にスケーリングすることが可能であるので、(7)においてC
1=1と設定すると、v-1個の調整可能なパラメータを有する条件
【数26】
が生じる。要件(8)は条件(9)と共に、
【数27】
によって求められる連立方程式として定式化することができ、ここで、ΔMは要素
【数28】
を有するn×vの行列であり、Cは1×vベクトルであり、C=(1,C
2,C
3,...,C
v)
Tでありv-1個の自由パラメータを有する。Cを解くためには、v=n+2である時が重要である。速度補償の場合、n=1であるため、v=3である。速度および加速度補償の場合、n=2であり、v=4である。各サブインターバルの開始および終了時に
【数29】
である場合、これは、符号化ブロックの開始と終了との間のゼロ交差の数、すなわちn+1に関して表され得る。よって、速度補償の場合、n=1であるため、ゼロ交差の数は2となる。速度および加速度補償の場合、n=2であり、ゼロ交差の数は3となる。換言すると、n+1個のゼロ交差(または等価的にn+2個のサブインターバル)を表すように勾配波形ベクトルg(t)の成分g
l(t)を設計することにより、(式(10)を用いて決定され得るように、
【数30】
の適切なスケーリングC
iを用いて)任意に小さな閾値T
n以下の大きさ/絶対値を有する方向lに沿ったΔM
nを実現することができる。
【0054】
ここで、たとえばそれぞれt
B1、t
B2に開始時間を有する符号化ブロック10、20などの複数の符号化ブロックの例を考える。まず、等しい持続期間τ
Bであるブロックの例を考察する。任意の勾配ベクトル成分に関して、第2のブロック20の後にn次までの全てのモーメントがヌル化されるために、符号化ブロック10、20の各々においてn-1次までの条件(9)を満たすだけでよい。このために、第2のブロック20において、第1のブロック10と逆の極性を有する同一の有効勾配を適用する必要がある。2つのブロックが等しい持続期間ではない場合、2つのブロックにおいて異なる勾配スケーリングが必要となる。第1のブロック10の後に、n未満の全ての程度のモーメント増分がゼロであると仮定すると、第2のブロック20における勾配極性の反転によってモーメント増分の符号が反転するので、第1の符号化ブロック10の後の任意の残留モーメントは、第2のブロック20における勾配極性を反転することによって相殺され得る。これは任意の有効勾配ベクトル成分g
i(t)に当てはまると示すことができ、この場合、
【数31】
であり、ここで、0≦t´≦τ
Bである。第1のブロックによる勾配モーメント増分全体は、
【数32】
である。第2のブロックによる勾配モーメント増分全体は、
【数33】
である。式(11)を式(13)で考えると、
【数34】
となり、ここで、δ=t
B2-t
B1である。第2の因数を展開すると、
【数35】
となり、ここで、
【数36】
は二項係数である。全てのk<nに関してΔM
k,B1=0である場合、
【数37】
であるため、全モーメントM
n=ΔM
n,B1+ΔM
n,B2=0である。たとえば、ΔM
n,B1≠0である場合、式(15)から、
【数38】
が導かれ、2つの後続する符号化ブロックにおける有効勾配が単純な極性反転の関係ではないことが必要となる。よって、第2の符号化ブロック20における勾配ベクトル成分g
i(t)の極性切換えは、各々が個々にn-1までだけのモーメントを最小化する第1および第2の符号化ブロック10、20によってn次モーメントまでを最小化する単純かつ効率的な方法を提供する。
【0055】
有効勾配ベクトルg(t)およびそれに伴う全てのモーメントMn(t)は、g´(t)=Rg(t)として任意に回転することができ、ここで、Rはユニタリ回転行列であり、テンソルbの任意の回転をもたらす。ただし、多次元(テンソル)拡散符号化は一般に、複数の直交方向に沿って適用されるインコヒーレントな勾配波形を伴うものであり、すなわち直交方向に沿った勾配の比率は一定ではない。同様に、ベクトルg(t)およびそれに伴う全てのモーメントMn(t)は、g´(t)=Sg(t)として任意にスケーリングすることができ、ここで、Sは対角行列であり、任意の形状(固有値比)およびサイズ(トレース)のbをもたらす。任意の方向uに沿ったg(t)´の投影は[RSg(t)]・uによって求められるので、全てのMn(τE)=0である場合、モーメント投影もゼロであり、[RSg(t)]Mn(τE)・u=0である。
【0056】
所望の拡散強調勾配は、外部磁場のアイソセンタに対する位置および外部磁場密度B
0に依存する、付随磁場勾配g
c(t,r)として知られる付加的な不所望の成分を得ることがある。アイソセンタにおける外部磁場がz軸に沿って整合されると仮定すると、付随磁場勾配は、
【数39】
によって近似することができ、ここで、
【数40】
は付随勾配行列であり、勾配の回転に依存するため、拡散符号化テンソルbの回転にも依存する。k空間シフト量は
【数41】
に比例する。付随磁場の影響を最小化またはヌル化するために、Kが最小化されること、またはK=0であることが必要である。これは、主要磁場ベクトルB
0に対して勾配が適切に回転されるとすれば、任意のbテンソル符号化波形によって実現され得る。
【0057】
(任意のモーメントまでの)勾配モーメントのヌル化を伴うbテンソル符号化の具体的な実現は、q軌道が、法線ベクトルn1およびn2によって特徴付けられる2つの固定直交平面の1つに常に平行であるように制約される場合に実現され得る。Kを最小化またはK=0であるようにKをヌル化することは、勾配波形の適切な回転を適用することによって実現され得る。
【0058】
ここで、上記に従って設計された有効勾配ベクトル波形g(t)の複数の例が説明される。
【0059】
図2a~cは、軸XYZに沿った有効勾配ベクトル成分を実線で示す。ここでは軸は、実験室基準系の軸(「XYZ実験室軸」)を指す。簡潔性のために、第1の符号化ブロックτ
B1の開始は、t=0に設定される。また、第2の符号化ブロックの開始が第1の符号化ブロックの終了t=τ
B1の直後になるように、サイレント期間の長さはゼロに設定されている。両方の符号化ブロックの持続期間はτ
B=0.5である。第2の符号化ブロックは、t=τ
E=1に終了する。ゼロ次勾配モーメント「m0」、1次勾配モーメント「m1」、および2次勾配モーメント「m2」は各軸についてそれぞれ破線、一点鎖線、および点線で示される。勾配波形g(t)は、速度(m1)および加速度(m2)が補償されている。符号化ブロックは、符号化ブロックの中心に対して対称的に(z軸に沿った)2つのサブインターバルまたは(XおよびY軸に沿った)3つのサブインターバルに細分され、それぞれ
【数42】
および
【数43】
となる。勾配波形は、複数の台形パルスを備える。具体的には、XおよびY成分は各符号化ブロックにおいて4つの台形パルスを備え、Z成分は3つの台形パルスを備える。示されるように、軸XおよびYに関して、m0、m1、およびm2の各々は、各符号化ブロックの終了時に(すなわち、t=0.5およびt=1において)ゼロになる。しかし、軸Zに関して、第1の符号化ブロックの終了時にm0およびm1のみがゼロになり、第2の符号化ブロックの終了時にm0、m1、およびm2の各々がゼロになる。第2の符号化ブロックの終了時におけるm2のヌル化は、
図2cに明示される、Z軸に沿った有効勾配成分の極性切換えによって実現される。勾配振幅は、球形bテンソルをもたらすように調整され、すなわち等方性拡散強調が実現される。
【0060】
図3a、
図3bは、
図2に示す速度および加速度が補償された波形に関するq軌道を示す。
図3aは、付随磁場勾配をヌル化するための回転を伴わないq軌道を示す。
図3bは、付随磁場勾配をヌル化するための回転を伴うq軌道を示す。q軌道を中心とする破線、一点鎖線、および点線は、q軌道が拘束された平面に対する法線の向き、およびそれらの外積を示す。影付きの領域は、視覚化を容易にするために示され、原点とM
n(t)点とを結ぶことによって構成される。
【0061】
図4a、
図4bは、付随磁場勾配のヌル化を伴う場合(
図4a)および伴わない場合(
図4b)の回転に関して、
図2に示す波形に関する付随モーメント行列要素K
ij(t)の時間発展を示す。
【0062】
図5a~cは、軸XYZに沿った有効勾配ベクトル成分を実線で示す。符号化ブロックは、
図2のように細分される。
図5a~cの波形は、正弦波形状を有するという点で、
図2a~cの波形と異なる。具体的には、XおよびY成分は、各符号化ブロック内に4つの正弦波「突出部」を備えるが、Z成分は3つの「突出部」を備える。示されるように、軸XおよびYに関して、m0、m1、およびm2の各々は、各符号化ブロックの終了時に(すなわち、t=0.5およびt=1において)ゼロになる。しかし、軸Zに関して、第1の符号化ブロックの終了時にm0およびm1のみがゼロになり、第2の符号化ブロックの終了時にm0、m1、およびm2の各々がゼロになる。第2の符号化ブロックの終了時におけるm2のヌル化は、
図5cに明示される、Z軸に沿った有効勾配成分の極性切換えによって実現される。勾配振幅は、球形bテンソルをもたらすように調整され、すなわち等方性拡散強調が実現される。
【0063】
図6は、q軌道を示し、
図7は、
図5に示す速度および加速度補償波形に関する付随モーメント行列要素K
ij(t)(右)を示す。
図7から分かるように、付随磁場のヌル化を実現するために回転が適用されている。
【0064】
図8a~cは、軸XYZに沿った有効勾配ベクトル成分を実線で示す。
図5の波形のように、波形は正弦波形状を有する。ただし
図8a~cの波形は、符号化ブロックの中心に対して符号化ブロックが非対称的に(Z軸に沿った)2つのサブインターバルまたは(XおよびY軸に沿った)3つのサブインターバルに細分されている点で
図5a~cの波形と異なっており、それぞれ
【数44】
および
【数45】
となる。示されるように、軸XおよびYに関して、m0、m1、およびm2の各々は、各符号化ブロックの終了時に(すなわち、t=0.5およびt=1において)ゼロになる。しかし、軸Zに関して、第1の符号化ブロックの終了時にはm0およびm1のみがゼロになるが、第2の符号化ブロックの終了時にはm0、m1、およびm2の各々がゼロになる。第2の符号化ブロックの終了時におけるm2のヌル化は、
図8cに明示される、Z軸に沿った有効勾配成分の極性切換えによって実現される。勾配振幅は、球形bテンソルをもたらすように調整され、すなわち、等方性拡散強調が実現される。
【0065】
図9は、
図8に示す速度および加速度補償波形に関するq軌道を示す。
【0066】
上記波形例の勾配振幅は球形bテンソルをもたらすように調整されるが、上記分析から、速度および加速度補償は非球形bテンソルの場合にも得られ得ることが理解され得る。さらに、上記例は3D符号化に関するが、速度および加速度補償は、2D符号化の場合、すなわちbテンソルが2つの非ゼロ固有値のみを備える場合にも実現され得る。
【0067】
さらに留意すべき点として、勾配モーメントがゼロになるように強制することは好適であるが、必須ではない。むしろ、測定要件に依存して、保証されるべきm≧1までの各運動次数に関して閾値Tnを確立してよく、この閾値は、第2の符号化ブロックの終了時の許容可能な最大勾配モーメントの大きさ|Mnl(t)|を表す。
【0068】
したがって、第1の符号化ブロックの終了時における条件は、以下のように定義され得る。
【0069】
上記方向xに沿って、各0≦n≦mについて、|Mnx(t)|≦Tn、
上記方向yに沿って、各0≦n≦mについて、|Mny(t)|≦Tn、および
上記方向zに沿って、各0≦n≦m-1について、|Mnz(t)|≦Tnかつn=mについて|Mnz(t)|>Tn。
【0070】
第2の符号化ブロックの終了時における条件は、以下のように定義され得る。
【0071】
方向の各々に沿って、各0≦n≦mについて、l∈(x,y,z):|Mnl(t)|≦Tn。
【0072】
実際、上記例の波形は、0または実質的に0に設定された閾値Tnを仮定すると、これらの条件を満たす。
【0073】
2D符号化スキームの場合にも同様の条件セットが確立され得る。
【0074】
図10は、スキャナ100内に載置されたサンプルSに磁気共鳴測定を行うために動作し得る、たとえばMRIスキャナなどの磁気共鳴スキャナ100の機能ブロック例を高度に概略的に示す。サンプルSは、たとえば、心臓、腎臓、または肝臓などの患者の臓器を含む、患者の関心領域に対応し得る。具体的には、スキャナ100は、符号化シーケンスの任意のRFパルスと共に上述した特性を有する有効勾配g(t)を提供する、拡散符号化時間依存磁場勾配g
lab(t)を備える拡散符号化シーケンスをサンプルSに適用するために動作し得る。
【0075】
磁場勾配は、スキャナ100の勾配コイル120によって生成され得る。勾配コイル120は、勾配glab(t)の各成分を生成するためのコイル部を備えてよい。勾配glab(t)の向きは、磁場勾配成分の相対配向、およびスキャナ100の主要磁石110によって生成される静的な主要地場B0によって制御され得る。スキャナ100は、スキャナ100の動作、具体的には磁石110、勾配コイル120、RF伝送および受信システム140、160、および信号取得などを制御するためのコントローラ240を備えてよい。コントローラ240は、スキャナ100の1または複数のプロセッサに実装されてよく、ここで、符号化シーケンスの磁場勾配およびRFシーケンスを生成するための制御データは、コンピュータ可読媒体に(たとえば非一時的コンピュータ可読記憶媒体に)格納され、1または複数のプロセッサによって実行され得るソフトウェア命令を用いて実装され得る。ソフトウェア命令は、たとえば、1または複数のプロセッサがアクセス可能なコントローラ240のメモリのプログラム/制御部に格納され得る。ただし、数例を挙げると、たとえば1または複数の集積回路、1または複数の特定用途向け集積回路(ASIC)またはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などの専用回路の形式でコントローラ240の機能を実装することも可能である。
【0076】
それ自体が当技術分野において知られるように、拡散符号化磁気勾配は、たとえばクラッシャー勾配、スライス選択のための勾配、撮像補正勾配などの非拡散符号化磁気勾配(すなわち、拡散符号化以外の目的で適用される勾配)で補足され得る。
【0077】
符号化シーケンスに検出ブロックが後続してよく、検出ブロックの間、スキャナ100は、サンプルSからの1または複数のエコー信号を取得するために動作し得る。具体的には、エコー信号は、先行する拡散符号化シーケンスの結果生じる拡散減衰エコー信号であってよい。検出ブロックは、任意の従来の信号取得技術を用いて実装されてよく、エコープラナーイメージング(EPI)はその一例である。エコー信号は、スキャナ100のRF受信システム160によって取得され得る。取得されたエコー信号は、サンプリングおよびデジタル化され、スキャナ100のメモリ180に測定データとして格納され得る。測定データは、たとえば、スキャナ100の処理デバイス200によって処理され得る。dMRI用途において、処理は、たとえばスキャナ100に接続されたモニタ220上に表示され得るサンプルSのデジタル画像を生成することを備えてよい。また、スキャナ100から遠隔で取得されたエコー信号を処理することも可能である。スキャナ100は、たとえば、たとえばLAN/WLANなどの通信ネットワークを介して、または他の何らかの直列または並列通信インタフェースを介してコンピュータと通信するように構成されてよく、コンピュータは、所望に応じて受信測定データを処理してよい。
【0078】
理解され得るように、たとえばdMRI画像の生成によるサンプルSの正確な特徴付けは、様々な強度の拡散強調および/または様々な相対配向の静磁場および拡散符号化勾配glab(t)、様々な形状および/または次元のbテンソルなどに関して、複数の後続する測定中に取得されたエコー信号データに基づいてよい。
【0079】
上記において、本発明概念は主に、限られた数の例を参照して説明された。しかし、当業者には容易に理解されるように、上記で開示したもの以外の例も、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明概念の範囲内で等しく可能である。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[付記1]
サンプルに拡散強調磁気共鳴測定を行うための方法であって、
前記サンプルに拡散符号化シーケンスを適用するために磁気共鳴スキャナを動作させることと、
前記サンプルから1または複数のエコー信号を取得するために前記磁気共鳴スキャナを動作させることと、
を備え、
前記拡散符号化シーケンスは、少なくとも2つの直交方向yおよびzに沿って非ゼロ成分g
l
(t)を有する拡散符号化時間依存磁場勾配g(t)と、少なくとも2つの非ゼロ固有値を有するbテンソルとを備え、前記磁場勾配は、第1の符号化ブロックおよび後続する第2の符号化ブロックを備え、
方向l∈(y,z)に沿ったn次勾配モーメントの大きさは、
【数5】
によって求められ、
前記第1の符号化ブロックは、前記第1の符号化ブロックの終了時に、
前記方向yに沿って、T
n
が所定のn次閾値である場合、各0≦n≦mについて|M
ny
(t)|≦T
n
、
前記方向zに沿って、各0≦n≦mについて|M
nz
(t)|≦T
n
、n=mについて|M
nz
(t)|>T
n
、をもたらすように適合され、
前記第2の符号化ブロックは、前記第2の符号化ブロックの終了時に、
前記方向l∈(y,z)の各々に沿って、各0≦n≦mについて|M
nl
(t)|≦T
n
、をもたらすように適合され、
mは、1以上の整数次数である、方法。
[付記2]
mは1に等しい、付記1の方法。
[付記3]
mは2以上である、付記1の方法。
[付記4]
前記磁場勾配g(t)は、
前記第1の符号化ブロックの開始と前記第1の符号化ブロックの終了との間に、前記方向yに沿ったm+1個のゼロ交差および前記方向zに沿ったm個のゼロ交差を提示し、
前記第2の符号化ブロックの開始と前記第2の符号化ブロックの終了との間に、前記方向yに沿ったm+1個のゼロ交差および前記方向zに沿ったm個のゼロ交差を提示するように適合される、付記1~3のうちのいずれか1項の方法。
[付記5]
前記第1および第2の符号化ブロックの持続期間はτ
B
であり、それぞれ時間t
B1
およびt
B2
に開始し、0≦t´≦τ
B
の場合、
g
y
(t
B1
+t´)=±g
y
(t
B2
+t´)、かつ
g
z
(t
B1
+t´)=-g
z
(t
B2
+t´)、
である、付記1~4のうちのいずれか1項の方法。
[付記6]
前記磁場勾配g(t)は、前記第1および第2の符号化ブロックの間にサイレントブロックを備え、その間g(t)はゼロであり、前記拡散符号化シーケンスは、前記サイレントブロック中に前記サンプルに印加される少なくとも1つの無線周波数パルスを更に備える、付記1~5のうちのいずれか1項の方法。
[付記7]
前記bテンソルは、丁度2つの非ゼロ固有値を有する、付記1~6のうちのいずれか1項の方法。
[付記8]
前記bテンソルは、丁度3つの非ゼロ固有値を有し、前記磁場勾配g(t)は、3つの直交方向x、y、およびzに沿って非ゼロ成分g
l
(t)を有し、
前記第1の符号化ブロックは、前記第1の符号化ブロックの終了時に、
前記方向xに沿って、各0≦n≦mについて|M
nx
(t)|≦T
n
をもたらすように更に適合され、
前記第2の符号化ブロックは、前記第2の符号化ブロックの終了時に、
前記方向xに沿って、各0≦n≦mについて|M
nx
(t)|≦T
n
をもたらすように更に適合される、付記1~7のうちのいずれか1項の方法。
[付記9]
前記磁場勾配g(t)は、
前記第1の符号化ブロックの開始と前記第1の符号化ブロックの終了との間に、前記方向xおよびyの各々に沿ったm+1個のゼロ交差および前記方向zに沿ったm個のゼロ交差を提示し、
前記第2の符号化ブロックの開始と前記第2の符号化ブロックの終了との間に、前記方向xおよびyの各々に沿ったm+1個のゼロ交差および前記方向zに沿ったm個のゼロ交差を提示するように適合される、付記8の方法。
[付記10]
前記第1および第2の符号化ブロックの持続期間はτ
B
であり、それぞれ時間t
B1
およびt
B2
に開始し、0≦t´≦τ
B
の場合、
gx(tB1+t´)=gx(tB2+t´)、
gy(tB1+t´)=-gy(tB2+t´)、かつ
gz(tB1+t´)=-gz(tB2+t´)、
である、付記8~9のうちのいずれか1項の方法。
[付記11]
ディフェージングベクトル
【数6】
の軌道は、前記磁場勾配g(t)の間、2つの直交平面に限定される、付記8~10のうちのいずれか1項の方法。
[付記12]
前記拡散符号化シーケンスは、前記サンプル内に等方性拡散符号化をもたらすように適合される、付記8~11のうちのいずれか1項の方法。
[付記13]
前記サンプルは、前記方向zに沿って配向された静磁場B
0
=(0,0、B
0
)内に配置され、前記磁場勾配g(t)は、
【数7】
がゼロであるように静磁場に対し配向され、
【数8】
である、付記8~12のうちのいずれか1項の方法。