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特許7500613ガスセンサのセンサ素子およびセンサ素子への保護層形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】ガスセンサのセンサ素子およびセンサ素子への保護層形成方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240610BHJP
   G01N 27/41 20060101ALI20240610BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20240610BHJP
   G01N 27/409 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/41 325J
G01N27/419 327J
G01N27/409 100
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021565501
(86)(22)【出願日】2020-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2020045674
(87)【国際公開番号】W WO2021124987
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019227572
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】小木曽 裕佑
(72)【発明者】
【氏名】近藤 好正
(72)【発明者】
【氏名】上西 克尚
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-173146(JP,A)
【文献】特開2017-187482(JP,A)
【文献】特開2012-173147(JP,A)
【文献】国際公開第2020/144827(WO,A1)
【文献】特開2020-165813(JP,A)
【文献】国際公開第2020/065952(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/41
G01N 27/419
G01N 27/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセンサのセンサ素子であって、
一方端部にガス導入口が設けられてなるとともに前記ガス導入口から長手方向に連通するガス流通部を内部に有してなるセラミックス構造体であって、測定対象ガス成分を含む被測定ガスが前記ガス導入口を通じて前記ガス流通部に導入され、前記測定対象ガス成分が前記ガス流通部内に設けられた検知部によって検知される素子基体と、
前記素子基体の前記一方端部から所定範囲の外周部に設けられた先端保護層と、
を備え、
前記先端保護層が、
それぞれに気孔径が10nm以上1μm未満の細孔が設けられてなる多孔質個片にて骨格構造が構成されてなるマトリックス領域内に、1μm以上のサイズの粗大空隙が存在する、内側先端保護層と、
前記内側先端保護層を覆うように設けられてなり、前記内側先端保護層よりも気孔率が小さい外側先端保護層と、
が積層された構造を有してなり、
前記内側先端保護層においては、
全体気孔率が40%以上90%以下であり、
前記粗大空隙の気孔率に相当する粗大空隙率が1%以上55%以下である、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ素子であって、
前記全体気孔率が50%以上90%以下である、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項3】
請求項2に記載のセンサ素子であって、
前記全体気孔率が60%以上90%以下であり、
前記粗大空隙率が10%以上55%以下である、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のセンサ素子であって、
前記内側先端保護層と前記素子基体との接触面積が、前記素子基体のうち前記内側先端保護層によって囲繞されている部分の全面積の10%以上である、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のセンサ素子であって、
前記素子基体の前記内側先端保護層によって囲繞されている全範囲のうち、前記内側先端保護層が接触している部分においては、前記内側先端保護層の厚みが50μm以上1000μm以下である、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のセンサ素子であって、
前記内側先端保護層を厚み方向において表面に近い表面側領域と前記素子基体に近い基体側領域とに仮想的に二分した場合の、前記表面側領域のみにおける粗大空隙率を表面側粗大空隙率x1とし、前記基体側領域のみにおける粗大空隙率を基体側粗大空隙率x2とするとき、粗大空隙率比x2/x1が1よりも大きい、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項7】
請求項6に記載のセンサ素子であって、
x2/x1≧2.4である、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項8】
ガスセンサのセンサ素子に保護層を形成する方法であって、
一方端部にガス導入口が設けられてなるとともに前記ガス導入口から長手方向に連通するガス流通部を内部に有してなるセラミックス構造体であって、測定対象ガス成分を含む被測定ガスが前記ガス導入口を通じて前記ガス流通部に導入され、前記測定対象ガス成分が前記ガス流通部内に設けられた検知部によって検知される素子基体を用意する準備工程と、
前記素子基体の前記一方端部から所定範囲の外周部に内側先端保護層を形成する第1の形成工程と、
前記内側先端保護層よりも気孔率が小さい外側先端保護層を前記内側先端保護層を覆うように形成する第2の形成工程と、
を備え、
前記第1の形成工程においては、それぞれに気孔径が10nm以上1μm未満の細孔が設けられてなる多孔質個片を含むスラリーに前記素子基体をディップすることにより前記内側先端保護層の形成範囲に前記スラリーを付着させることにより、
前記多孔質個片にて骨格構造が構成されてなるマトリックス領域内に1μm以上のサイズの粗大空隙が存在してなり、
全体気孔率が40%以上90%以下であり、
前記粗大空隙の気孔率に相当する粗大空隙率が1%以上55%以下である、
前記内側先端保護層を形成する、
ことを特徴とするセンサ素子への保護層形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサのセンサ素子に関し、特にその表面保護層に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関からの排ガスなどの被測定ガス中に含まれる所望ガス成分の濃度を知るためのガスセンサとして、ジルコニア(ZrO)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質からなる基体の表面や内部にいくつかの電極を備えるセンサ素子(ガスセンサ素子)を有するものが、広く知られている。係るセンサ素子として、長尺板状の形状を有する基体の、被測定ガスを導入する部分が備わる側の端部に、多孔質体からなる保護層(多孔質保護層)が設けられるものが、公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
センサ素子の表面に保護層を設けるのは、ガスセンサの使用時におけるセンサ素子の耐被水性を確保するためである。具体的には、センサ素子の表面に付着した水滴からの熱(冷熱)に起因する熱衝撃がセンサ素子に作用することによりセンサ素子の表面にクラックが発生し、さらにはセンサ素子が割れてしまう、被水割れを防止するためである。
【0004】
また、ジルコニア粒子とその表面に存在する異種材料とを骨格として有し、かつ、気孔径がナノオーダーである多数の細孔を有する、断熱性能の優れた多孔質材料も、すでに公知である(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献1に開示されているような、従来のセンサ素子の保護層においては通常、粒径がサブミクロンからミクロンオーダーの多数のセラミックス粒子が三次元的にランダムに連続(連接)することにより骨格構造が構成されており、それらセラミックス粒子同士の間に形成される空隙が気孔として機能する。
【0006】
被水割れを抑制するという観点からは、保護層の断熱性が優れている(熱伝導率が小さい)ことが好ましいが、特許文献1に開示されているような構成の保護層を設ける場合、熱伝導率を下げるには気孔率を高めざるを得ない。しかしながら、保護層の気孔率を高めた場合、保護層自体の強度が不足するという問題が生じる。
【0007】
保護層を厚く形成することで、素子基体への熱衝撃の到達を抑制し、かつ保護層の強度を確保する対応も考えられるが、保護層の厚みの増大はセンサ素子の比熱(熱容量)を増大させ、ひいては素子昇温時間の増大につながるため、好ましくない。
【0008】
なお、保護層内に形成される空隙のサイズが大きいほど、センサ素子の比熱(熱容量)が小さくなり、素子昇温時間が短縮されるという効果があるが、特許文献1に開示されているような保護層は、その材質および製法上、大サイズの空隙は形成されにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-98590号公報
【文献】特許第6407887号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、優れた耐被水性を具備するとともに、保護層の熱伝導率が低減されたガスセンサのセンサ素子を提供することを目的とする。
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、ガスセンサのセンサ素子であって、一方端部にガス導入口が設けられてなるとともに前記ガス導入口から長手方向に連通するガス流通部を内部に有してなるセラミックス構造体であって、測定対象ガス成分を含む被測定ガスが前記ガス導入口を通じて前記ガス流通部に導入され、前記測定対象ガス成分が前記ガス流通部内に設けられた検知部によって検知される素子基体と、前記素子基体の前記一方端部から所定範囲の外周部に設けられた先端保護層と、を備え、前記先端保護層が、それぞれに気孔径が10nm以上1μm未満の細孔が設けられてなる多孔質個片にて骨格構造が構成されてなるマトリックス領域内に、1μm以上のサイズの粗大空隙が存在する、内側先端保護層と、前記内側先端保護層を覆うように設けられてなり、前記内側先端保護層よりも気孔率が小さい外側先端保護層と、が積層された構造を有してなり、前記内側先端保護層においては、全体気孔率が40%以上90%以下であり、前記粗大空隙の気孔率に相当する粗大空隙率が1%以上55%以下である、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るセンサ素子であって、前記全体気孔率が50%以上90%以下である、ことを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の態様は、第2の態様に係るセンサ素子であって、前記全体気孔率が60%以上90%以下であり、前記粗大空隙率が10%以上55%以下である、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1ないし第3の態様のいずれかに係るセンサ素子であって、前記内側先端保護層と前記素子基体との接触面積が、前記素子基体のうち前記内側先端保護層によって囲繞されている部分の全面積の10%以上である、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の第5の態様は、第1ないし第4の態様のいずれかに係るセンサ素子であって、前記素子基体の前記内側先端保護層によって囲繞されている全範囲のうち、前記内側先端保護層が接触している部分においては、前記内側先端保護層の厚みが50μm以上1000μm以下である、ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第6の態様は、第1ないし第5の態様のいずれかに係るセンサ素子であって、前記内側先端保護層を厚み方向において表面に近い表面側領域と前記素子基体に近い基体側領域とに仮想的に二分した場合の、前記表面側領域のみにおける粗大空隙率を表面側粗大空隙率x1とし、前記基体側領域のみにおける粗大空隙率を基体側粗大空隙率x2とするとき、粗大空隙率比x2/x1が1よりも大きい、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第7の態様は、第6の態様に係るセンサ素子であって、x2/x1≧2.4である、ことを特徴とする。
【0018】
本発明の第8の態様は、ガスセンサのセンサ素子に保護層を形成する方法であって、一方端部にガス導入口が設けられてなるとともに前記ガス導入口から長手方向に連通するガス流通部を内部に有してなるセラミックス構造体であって、測定対象ガス成分を含む被測定ガスが前記ガス導入口を通じて前記ガス流通部に導入され、前記測定対象ガス成分が前記ガス流通部内に設けられた検知部によって検知される素子基体を用意する準備工程と、前記素子基体の前記一方端部から所定範囲の外周部に内側先端保護層を形成する第1の形成工程と、前記内側先端保護層よりも気孔率が小さい外側先端保護層を前記内側先端保護層を覆うように形成する第2の形成工程と、を備え、前記第1の形成工程においては、それぞれに気孔径が10nm以上1μm未満の細孔が設けられてなる多孔質個片を含むスラリーに前記素子基体をディップすることにより前記内側先端保護層の形成範囲に前記スラリーを付着させることにより、前記多孔質個片にて骨格構造が構成されてなるマトリックス領域内に1μm以上のサイズの粗大空隙が存在してなり、全体気孔率が40%以上90%以下であり、前記粗大空隙の気孔率に相当する粗大空隙率が1%以上55%以下である、前記内側先端保護層を形成する、ことを特徴とする。
【0019】
本発明の第1ないし第8の態様によれば、センサ素子において20μL以上という少なくとも従来と同等以上の耐被水性を得ることができ、かつ、層自体の強度を確保しつつも、内側先端保護層の熱容量を低減させることができる。
【0020】
特に、第2、第3、および第7の態様によれば、30μL以上という従来に比して十分に大きな値の耐被水性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】センサ素子(ガスセンサ素子)10の概略的な外観斜視図である。
図2】センサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。
図3】内側先端保護層21の詳細な構成を説明するための模式図である。
図4】ある内側先端保護層21の一部についての断面SEM像およびその部分高倍率像である。
図5】水銀圧入法(水銀ポロシメータ)により気孔径分布を測定した結果を、示す図である。
図6】層状の空隙21Gが顕著に形成された内側先端保護層21を例示するSEM像である。
図7】空隙21Gの最大サイズが多孔質個片211の最大サイズと同程度に留まる内側先端保護層を例示するSEM像である。
図8】センサ素子10を作製する際の処理の流れを示す図である。
図9】内側保護層用スラリーを作製する際の処理の流れを示す図である。
図10】変形例に係るガスセンサ100Bの構成の概略図である。
図11】No.1-33の試料における内側先端保護層21の断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<センサ素子およびガスセンサの概要>
図1は、本発明の実施の形態に係るセンサ素子(ガスセンサ素子)10の概略的な外観斜視図である。また、図2は、センサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。センサ素子10は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知しその濃度を測定するガスセンサ100の、主たる構成要素であるセラミックス構造体である。センサ素子10は、いわゆる限界電流型のガスセンサ素子である。
【0023】
ガスセンサ100は、センサ素子10のほか、ポンプセル電源30と、ヒータ電源40と、コントローラ50とを主として備える。
【0024】
図1に示すように、センサ素子10は概略、長尺板状の素子基体1の一方端部側が、先端保護層2にて被覆された構成を有する。
【0025】
素子基体1は概略、図2に示すように、長尺板状のセラミックス体101を主たる構造体とするとともに、該セラミックス体101の2つの主面上には主面保護層170を備え、さらに、センサ素子10においては、一先端部側の端面(セラミックス体101の先端面101e)および4つの側面の外側に先端保護層2が設けられてなる。なお、以降においては、センサ素子10(もしくは素子基体1、セラミックス体101)の長手方向における両端面を除く4つの側面を単に、センサ素子10(もしくは素子基体1、セラミックス体101)の側面と称する。
【0026】
セラミックス体101は、酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)を主成分とするセラミックスからなる。また、係るセラミックス体101の外部および内部には、センサ素子10の種々の構成要素が設けられてなる。係る構成を有するセラミックス体101は、緻密かつ気密なものである。なお、図2に示すセンサ素子10の構成はあくまで例示であって、センサ素子10の具体的構成はこれに限られるものではない。
【0027】
図2に示すセンサ素子10は、セラミックス体101の内部に第一の内部空室102と第二の内部空室103と第三の内部空室104とを有する、いわゆる直列三室構造型のガスセンサ素子である。すなわち、センサ素子10においては概略、第一の内部空室102が、セラミックス体101の一方端部E1側において外部に対し開口する(厳密には先端保護層2を介して外部と連通する)ガス導入口105と第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120を通じて連通しており、第二の内部空室103が第三の拡散律速部130を通じて第一の内部空室102と連通しており、第三の内部空室104が第四の拡散律速部140を通じて第二の内部空室103と連通している。なお、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでの経路を、ガス流通部とも称する。本実施の形態に係るセンサ素子10においては、係る流通部がセラミックス体101の長手方向に沿って一直線状に設けられてなる。
【0028】
第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140はいずれも、図面視上下2つのスリットとして設けられている。第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140は、通過する被測定ガスに対して所定の拡散抵抗を付与する。なお、第一の拡散律速部110と第二の拡散律速部120の間には、被測定ガスの脈動を緩衝する効果を有する緩衝空間115が設けられている。
【0029】
また、セラミックス体101の外面には外部ポンプ電極141が備わり、第一の内部空室102には内部ポンプ電極142が備わっている。さらには、第二の内部空室103には補助ポンプ電極143が備わり、第三の内部空室104には、測定対象ガス成分の直接の検知部である測定電極145が備わっている。加えて、セラミックス体101の他方端部E2側には、外部に連通し基準ガスが導入される基準ガス導入口106が備わっており、該基準ガス導入口106内には、基準電極147が設けられている。
【0030】
例えば、係るセンサ素子10の測定対象が被測定ガス中のNOxである場合であれば、以下のようなプロセスによって、被測定ガス中のNOxガス濃度が算出される。
【0031】
まず、第一の内部空室102に導入された被測定ガスは、主ポンプセルP1のポンピング作用(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)によって、酸素濃度が略一定に調整されたうえで、第二の内部空室103に導入される。主ポンプセルP1は、外部ポンプ電極141と、内部ポンプ電極142と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101aとによって構成される電気化学的ポンプセルである。第二の内部空室103においては、同じく電気化学的ポンプセルである、補助ポンプセルP2のポンピング作用により、被測定ガス中の酸素が素子外部へと汲み出されて、被測定ガスが十分な低酸素分圧状態とされる。補助ポンプセルP2は、外部ポンプ電極141と、補助ポンプ電極143と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101bとによって構成される。
【0032】
外部ポンプ電極141、内部ポンプ電極142、および補助ポンプ電極143は、多孔質サーメット電極として形成されてなる。なお、被測定ガスに接触する内部ポンプ電極142および補助ポンプ電極143は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。
【0033】
補助ポンプセルP2によって低酸素分圧状態とされた被測定ガス中のNOxは、第三の内部空室104に導入され、第三の内部空室104に設けられた測定電極145において還元ないし分解される。測定電極145は、第三の内部空室104内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する多孔質サーメット電極である。係る還元ないし分解の際には、測定電極145と基準電極147との間の電位差が、一定に保たれている。そして、上述の還元ないし分解によって生じた酸素イオンが、測定用ポンプセルP3によって素子外部へと汲み出される。測定用ポンプセルP3は、外部ポンプ電極141と、測定電極145と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101cとによって構成される。測定用ポンプセルP3は、測定電極145の周囲の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出す電気化学的ポンプセルである。
【0034】
主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3におけるポンピング(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)は、コントローラ50による制御のもと、ポンプセル電源(可変電源)30によって各ポンプセルに備わる電極の間にポンピングに必要な電圧が印加されることにより、実現される。測定用ポンプセルP3の場合であれば、測定電極145と基準電極147との間の電位差が所定の値に保たれるように、外部ポンプ電極141と測定電極145との間に電圧が印加される。ポンプセル電源30は通常、各ポンプセル毎に設けられる。
【0035】
コントローラ50は、測定用ポンプセルP3により汲み出される酸素の量に応じて測定電極145と外部ポンプ電極141との間を流れるポンプ電流Ip2を検出し、このポンプ電流Ip2の電流値(NOx信号)と、分解されたNOxの濃度との間に線型関係があることに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を算出する。
【0036】
なお、好ましくは、ガスセンサ100は、それぞれのポンプ電極と基準電極147との間の電位差を検知する、図示しない複数の電気化学的センサセルを備えており、コントローラ50による各ポンプセルの制御は、それらのセンサセルの検出信号に基づいて行われる。
【0037】
また、センサ素子10においては、セラミックス体101の内部にヒータ150が埋設されている。ヒータ150は、ガス流通部の図2における図面視下方側において、一方端部E1近傍から少なくとも測定電極145および基準電極147の形成位置までの範囲にわたって設けられる。ヒータ150は、センサ素子10の使用時に、セラミックス体101を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるべく、センサ素子10を加熱することを主たる目的として、設けられてなる。より詳細には、ヒータ150はその周囲を絶縁層151に囲繞される態様にて設けられてなる。
【0038】
ヒータ150は、例えば白金などからなる抵抗発熱体である。ヒータ150は、コントローラ50による制御のもと、ヒータ電源40からの給電により発熱する。
【0039】
本実施の形態に係るセンサ素子10はその使用時、ヒータ150によって、少なくとも第一の内部空室102から第二の内部空室103に至る範囲の温度が500℃以上となるように、加熱される。さらには、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでのガス流通部全体が500℃以上となるように、加熱される場合もある。これらは、各ポンプセルを構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高め、各ポンプセルの能力が好適に発揮されるようにするためである。係る場合、最も高温となる第一の内部空室102付近の温度は、700℃~800℃程度となる。
【0040】
以降においては、セラミックス体101の2つの主面のうち、図2において図面視上方側に位置する、主に主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3が備わる側の主面(あるいは当該主面が備わるセンサ素子10の外面)をポンプ面と称し、図2において図面視下方に位置する、ヒータ150が備わる側の主面(あるいは当該主面が備わるセンサ素子10の外面)をヒータ面と称することがある。換言すれば、ポンプ面は、ヒータ150よりもガス導入口105、3つの内部空室、および各ポンプセルに近接する側の主面であり、ヒータ面はガス導入口105、3つの内部空室、および各ポンプセルよりもヒータ150に近接する側の主面である。
【0041】
セラミックス体101のそれぞれの主面上の他方端部E2側には、センサ素子10と外部との間の電気的接続を図るための複数の電極端子160が形成されてなる。これらの電極端子160は、セラミックス体101の内部に備わる図示しないリード線を通じて、上述した5つの電極と、ヒータ150の両端と、図示しないヒータ抵抗検出用のリード線と、所定の対応関係にて電気的に接続されている。よって、センサ素子10の各ポンプセルに対するポンプセル電源30から電圧の印加や、ヒータ電源40からの給電によるヒータ150の加熱は、電極端子160を通じてなされる。
【0042】
さらに、センサ素子10においては、セラミックス体101のポンプ面およびヒータ面に、上述した主面保護層170(170a、170b)が備わっている。主面保護層170は、アルミナからなる、厚みが5μm~30μm程度であり、かつ20%~40%程度の気孔率にて気孔が存在する層であり、セラミックス体101の主面(ポンプ面およびヒータ面)や、ポンプ面側に備わる外部ポンプ電極141に対する、異物や被毒物質の付着を防ぐ目的で設けられてなる。それゆえ、ポンプ面側の主面保護層170aは、外部ポンプ電極141を保護するポンプ電極保護層としても機能するものである。
【0043】
図2においては、電極端子160の一部を露出させるほかはポンプ面およびヒータ面の略全面にわたって主面保護層170が設けられてなるが、これはあくまで例示であり、図2に示す場合よりも、主面保護層170は、一方端部E1側の外部ポンプ電極141近傍に偏在させて設けられてもよい。
【0044】
<先端保護層>
センサ素子10においては、上述のような構成を有する素子基体1の一方端部E1から所定範囲の最外周部に、先端保護層2が設けられてなる。
【0045】
先端保護層2を設けるのは、素子基体1のうちガスセンサ100の使用時に高温(最高で700℃~800℃程度)となる部分を囲繞することによって、当該部分における耐被水性を確保し、当該部分が直接に被水することによる局所的な温度低下に起因した熱衝撃により素子基体1にクラック(被水割れ)が生じることを、抑制するためである。
【0046】
加えて、先端保護層2は、センサ素子10の内部にMgなどの被毒物質が入り込むことを防ぐ、耐被毒性の確保のためにも、設けられてなる。
【0047】
図2に示すように、本実施の形態に係るセンサ素子10においては、先端保護層2が、内側先端保護層(内側保護層とも称することがある)21と、外側先端保護層(外側保護層とも称することがある)22の積層構造を有する。
【0048】
内側先端保護層21と外側先端保護層22は、素子基体1の一方端部E1側の先端面101eと4つの側面とを覆うように(素子基体1の一方端部E1側の外周に)、内側から順に設けられてなる。概略的にいえば、内側先端保護層21は主に、耐被水性の確保につながる、外部から素子基体1への熱伝達の抑制(断熱性の確保)を担う層であり、外側先端保護層22は主に被毒物質のトラップと内側先端保護層21の保護とを担う層である。
【0049】
内側先端保護層21は概略、多数の微細な細孔を有する多孔質個片が骨格構造(マトリックス領域)を構成してなるとともに、多孔質個片内の細孔に比して十分に大きい空隙(粗大空隙)がランダムに存在する、多孔質セラミックス層である。内側先端保護層21についての詳細は後述する。
【0050】
外側先端保護層22は、従来公知の手法で形成される、例えばアルミナなどからなる多孔質セラミックス層である。外側先端保護層22は、内側先端保護層21よりも気孔率の小さい層として設けられる。
【0051】
<内側先端保護層の詳細>
図3は、内側先端保護層21の詳細な構成を説明するための模式図である。図2においては、図示の簡単のため、内側先端保護層21をあたかも一様に均一な層であるかのように描いているが、実際の内側先端保護層21は、従来公知のものとは異なる構成を有する。より詳細には、図3(c)に示すのが、本実施の形態に係るセンサ素子10に備わる内側先端保護層21であり、図3(a)および図3(b)には、対比の目的で、当該内側先端保護層21とは異なる態様の層を示している。
【0052】
まず、図3(a)には、素子基体1の上に、内側先端保護層に相当する層として、従来公知の一般的な多孔質セラミックス層(以下、従来保護層21α)を、設けた場合の様子を示している。
【0053】
従来保護層21αは、粒径がμmオーダーである多数の緻密な(内部に実質的に空隙のない)セラミックス粒子(例えばアルミナ粒子)が3次元的に連接することで構成されてなるマトリックス領域21αm内に、セラミックス粒子同士の間隙である気孔21αpがランダムに存在する態様にて構成される。なお、図3(a)においては図示の都合上、個々の気孔21αpが離散的に存在しているが、実際には、三次元的に連続する態様の気孔21αpが存在してもよい。従来保護層21αは、数百μm程度の厚みに形成される。
【0054】
係る従来保護層21αは、例えば、緻密なセラミックス粒子を含むスラリーを素子基体1の表面に溶射やディップなどの手法により付着させ、乾燥させることにより形成される。あるいはさらに、焼成がなされてもよい。
【0055】
また、加熱によって消失する造孔材をスラリーに含有させ、素子基体1の表面に付着させた後、素子基体1ともども焼成を行うことによって造孔材を消失させることで、気孔率の高い従来保護層21αを形成することも可能である。
【0056】
上述のように、内側先端保護層21は主として外部から素子基体1への熱伝達を抑制させるべく設けられることから、その厚み方向における熱伝導率が小さい方が好ましい。そして、熱伝導率は内側先端保護層21の気孔率が大きいほど低下する。
【0057】
しかしながら、従来保護層21αの場合、許容される気孔率の上限はせいぜい70%程度である。また、気孔率が高いほど層自体の強度は低下し、気孔率が70%を超えると、十分な強度が確保されなくなり、それゆえ耐被水性も確保されなくなる。なお、本実施の形態では、被水割れが生じない範囲の最大滴下水量の多少にて、耐被水性の良否を表すものとする。従来保護層21αを内側先端保護層として設けたセンサ素子10の場合、耐被水性の値は最大でもせいぜい、20μL程度に留まる。
【0058】
また、例えばガスセンサ100の駆動開始時などにおける、センサ素子10の昇温時間の短縮化という点からは、内側先端保護層の熱容量が小さい方が好ましい。内側先端保護層の熱容量は、厚みが小さいほど、また、空隙が多いかあるいは気孔率が高いほど、小さくなる傾向があるが、従来保護層21αにおいてはその製法上、気孔21αpの気孔率は最大でもせいぜい70%程度に留まる。そのため、気孔率を高めることによる熱容量の低減には限界がある。
【0059】
次に、図3(b)には、素子基体1の上に、内側先端保護層に相当する層として、粒径がナノオーダーの酸化物粒子にてマトリックス領域21βmが構成されてなるとともに、気孔径がナノオーダーの多数の細孔21βpがマトリックス領域21βm内に分散してなる、多孔質構造のセラミックス層(以下、微細孔保護層21β)を、設けた場合の様子を示している。
【0060】
マトリックス領域21βmは、例えば、特許文献2に開示されているような、粒径がナノオーダーのZrO粒子と、ZrO粒子の表面(好ましくは粒子間)にあるいはZrO粒子に固溶して存在しかつ当該ZrO粒子よりも粒径の小さい異種材料(例えばSiO、TiO、La、LaZrなど)粒子を骨格として構成される。係る場合、微細孔保護層21βは、それらZrO粒子および異種材料粒子とナノオーダーのサイズの造孔材(例えばカーボンブラックなど)とを含むスラリーを素子基体1の表面に溶射やディップなどの手法により付着させたうえで、素子基体1ともども焼成することにより形成される。
【0061】
図3(b)に示すように微細孔保護層21βを内側先端保護層として設ける場合に許容される気孔率の最大値は、従来保護層21αにおいて許容される最大の気孔率と同様、70%程度であるが、細孔21βpを分散させた構成を有することにより、層自体の強度は、同程度の気孔率を有する従来保護層21αよりも高い傾向がある。加えて、微細孔保護層21βは従来保護層21αよりも気孔径が小さいために熱伝導率が低く、それゆえ、係る微細孔保護層21βを内側先端保護層として設けたセンサ素子10は、耐被水性の点でも優れている。例えば、最大で25μL程度という値も実現可能である。
【0062】
しかしながら、微細孔保護層21βには、その製法上、焼成時にクラックが生じやすいため、厚肉化が困難であり、形成厚みはせいぜい100μm程度に留まるというデメリットがある。それゆえ、微細孔保護層21βを厚膜化することによる耐被水性の向上は困難である。また、微細孔保護層21βには、素子基体1との密着性が十分に得られず、強度が確保されないというデメリットもある。
【0063】
図3(c)に示す、本実施の形態に係るセンサ素子10に備わる内側先端保護層21は、上述した、従来保護層21αと微細孔保護層21βのデメリットを踏まえたものである。図4は、ある内側先端保護層21の一部についての断面SEM像およびその部分高倍率像である。
【0064】
図3(c)に示すように、内側先端保護層21は、多数の多孔質個片211が3次元的に連接することで骨格構造が構成されてなるマトリックス領域21M内に、多孔質個片211同士の間隙である空隙(粗大空隙)21Gをランダムに存在させた構成を有する。係る場合において、空隙21Gは、従来保護層21αの気孔21αpに相当する。図4においても、μmオーダーのサイズを有する白色または灰色の粒子間に、黒色の領域が介在していることが確認される。前者の白色または灰色の粒子が多孔質個片211に相当し、後者の黒色領域が空隙21Gに相当する。
【0065】
多孔質個片211は、10μm~200μm程度のサイズを有する。そして、内側先端保護層21は、係る多孔質個片にて、厚みTが50μm~1000μmなる範囲内の値となるように、かつ、層内に1μm以上のサイズを有する多数の空隙21Gが介在するように、設けられる。
【0066】
なお、内側先端保護層21に備わる空隙21Gのサイズは、内側先端保護層21の断面SEM(走査電子顕微鏡)像を公知の手法にて画像解析することで特定される、多孔質個片211が存在していない領域の最大内接円直径の値にて定義されるものとする。
【0067】
それぞれの多孔質個片211は、粒径がナノオーダーの酸化物粒子にてマトリックス領域211mが構成されてなるとともに、当該マトリックス領域211m内に気孔径がナノオーダーの多数の細孔211pが分散した、構成を有する。多孔質個片211は例えば、微細孔保護層21βの構成材料を個片化することで得られる。係る場合、細孔211pは、微細孔保護層21βの細孔21βpに相当する。図4においては、右側の高倍率像にて、細孔211pを例示している。
【0068】
内側先端保護層21においては、空隙21Gと、多孔質個片211内の細孔211pとがともに、気孔として機能する。それゆえ、内側先端保護層21においては、空隙21Gの存在比率を従来保護層21αの気孔率と同程度とした場合であっても、細孔211pの存在により、層全体としての気孔率は、従来保護層21αよりも大きくなる。その結果、本実施の形態に係る内側先端保護層21においては、従来保護層21αや微細孔保護層21βにおいて許容される気孔率よりも高い気孔率を有する場合であっても、層全体の強度を確保することが可能とされてなる。具体的には、最大で90%程度という気孔率が許容される。
【0069】
そして、係る構造の内側先端保護層21を設けたセンサ素子10においては、30μL以上という従来に比して十分に大きな値の耐被水性を得ることが可能となる。
【0070】
しかも、本実施の形態においては、強度の高い多孔質個片211にて骨格構造を構成することにより、層自体の強度を確保しつつ、内側先端保護層21内に数百μm程度(少なくとも1μm以上)いう比較的サイズの大きな空隙21Gを設けることが、可能となっている。係る場合、従来保護層21αや微細孔保護層21βを内側先端保護層とする場合に比して、熱容量が低減される。
【0071】
図5は、ある条件にて調製した内側先端保護層21の構成材料からなる試験片を対象に、水銀圧入法(水銀ポロシメータ)により気孔径分布を測定した結果を、示す図である。図5においては、横軸に取った気孔径(図5においてはPore Diameter)の値が10μm弱のところにピークPk1が存在し、約0.1μm(100nm)のところに、最大ピークPk2が存在する。ピークPk2には、気孔径が小さい側にサブピークも存在する。一方で、図5からは、気孔径がピークPk1とピークPk2の間の1μm程度であるような気孔は、ほぼ存在しないことも、確認される。
【0072】
係る結果は、内側先端保護層21に上述した構成を採用した場合、層内に実際に存在する気孔が、1μm以上のサイズを有する空隙21Gと、多孔質個片211内に存在するナノオーダーの細孔211pとに二極化していることを示唆している。すなわち、ピークPk1が空隙21Gに相当し、ピークPk2およびそのサブピークが多孔質個片211内の細孔211pに相当するものと判断される。
【0073】
より詳細にいえば、実際の内側先端保護層21においては形成条件によって空隙21Gのサイズは様々である。それゆえ、図5には気孔径が10μm弱のところにピークPk1が存在するものの、実際の内側先端保護層21においては、ピークPk1を与える気孔径のサイズは様々となる。ただし、製法上の困難さがあるため、1μmを下回るサイズの空隙21Gが形成されることはまれである。
【0074】
一方で、細孔211pは、多孔質個片211の形成過程からわかるように、ナノオーダーのサイズを有するように設けられる。そのため、1μmを上回るサイズの細孔211pが形成されることもまれである。
【0075】
ゆえに、内側先端保護層21においては事実上、1μm以上のサイズの気孔は空隙21Gであり、1μm未満のサイズの気孔は細孔211pである。
【0076】
そして、本実施の形態においては、これら空隙21Gと細孔211pの形成態様を含む内側先端保護層21の形成態様を好適に定めることで、強度を確保しつつ、センサ素子10における耐被水性の向上と、内側先端保護層21における熱容量の低減とが、実現されてなる。
【0077】
具体的には、内側先端保護層21は、気孔率(全体気孔率)が40%~90%なる範囲内の値となり、かつ、サイズが1μm以上である気孔(実質的にはほぼ粗大空隙21G)の気孔率に相当する粗大空隙率が1%~55%となるように設けられる。係る場合、センサ素子10においては20μL以上という、最低でも、従来保護層21αを備えるような従来構成の一般的なセンサ素子と同程度以上の耐被水性が実現されるとともに、内側先端保護層21における熱伝導率の低減も、実現される。すなわち、耐被水性と内側先端保護層21における低熱伝導率とが両立したセンサ素子10が実現される。
【0078】
ここで、気孔率(全体気孔率)は、細孔211pと空隙21Gとの双方を含む、内側先端保護層21に備わる全ての気孔を対象とする気孔率であり、水銀圧入法(水銀ポロシメータ)により求めるものとする。一方、粗大空隙率は、内側先端保護層21の断面SEM(走査電子顕微鏡)像を公知の手法にて画像解析することにより特定される。粗大空隙率は、従来保護層21αにおける気孔率に相当する値である。また、全体気孔率から粗大空隙率を差し引いた値が、多孔質個片211の細孔211pのみの気孔率(細孔気孔率)に相当する。
【0079】
好ましくは、内側先端保護層21は、全体気孔率が50%~90%なる範囲内の値となるように設けられる。係る場合、内側先端保護層21における熱伝導率の低減を実現しつつ、センサ素子10において25μL以上というさらに優れた耐被水性が実現される。
【0080】
さらに好ましくは、全体気孔率が60%~90%なる範囲内の値となり、かつ、粗大空隙率が10%~55%となるように設けられる。係る場合、内側先端保護層21における熱伝導率の低減を実現しつつ、センサ素子10において30μL以上という極めて優れた耐被水性が実現される。
【0081】
また、内側先端保護層21と素子基体1との接触面積は、素子基体1のうち内側先端保護層21によって囲繞されている部分の全面積の10%以上であることが好ましい。ただし、内側先端保護層21において接触面積の対象となるのは、素子基体1に対する先端保護層2の密着性の確保に寄与している部分、換言すれば、素子基体1と接触しかつ先端保護層2を支持(保持)している部分とする。それゆえ、たとえ内側先端保護層21の構成成分からなる粒子であっても、単に素子基体1の表面に付着しているのみで支持に寄与しないものは、接触面積の対象から除外されるものとする。係る接触面積が小さいほど熱伝達は低減されるが、当該接触面積が10%未満であると先端保護層2の強度が確保されず、ガスセンサ100の使用時に水滴が付着した場合に先端保護層2がクラックの発生などによって破損しやすくなるほか、そもそも内側先端保護層21の形成自体が困難となるため、好ましくない。
【0082】
内側先端保護層21と素子基体1との接触面積は、例えば後述する内側先端保護層21の形成に使用するスラリー(内側保護層用スラリー)におけるバインダーの混合比率や、スラリーの粘度、内側先端保護層21を形成するべく該バインダーに素子基体1をディップ等により付着させた後の乾燥時間、乾燥温度、乾燥時の素子基体1の姿勢に依存する値であり、バインダーの混合比率を高めることや、スラリー粘度を高くすること、乾燥時間を長くすること、乾燥温度を高くすること、乾燥時の素子基体1の姿勢を工夫することにより、増やすことが出来る。
【0083】
なお、素子基体1に対する内側先端保護層21の接触面積の割合は、断面SEMの画像解析により評価することが出来る。
【0084】
また、上述したように、内側先端保護層21の厚みTは50μm~1000μmなる範囲内の値とされ、空隙21Gは、上述した全体気孔率および粗大空隙率をみたしつつ、1μm以上のサイズにて存在する。当然ながら、厚み方向における空隙21Gのサイズが内側先端保護層21の厚みTを超えることはなく、通常はせいぜい、厚み方向における空隙21Gのサイズは厚みTの30%~50%以下のサイズに留まる。
【0085】
一方で、内側先端保護層21を厚み方向において表面に近い領域(表面側領域)と素子基体1に近い領域(基体側領域)とに仮想的に二分した場合、空隙21Gは、全体気孔率および粗大空隙率が大きいほど、表面側領域よりも基体側領域に形成されやすい傾向がある。
【0086】
そして、係る傾向がより顕著になると、空隙21Gは素子基体1の表面に沿って層状に形成されるようになる。図6は、そのような層状の空隙21Gが顕著に形成された内側先端保護層21を例示するSEM像である。図7は、対比のために示す、空隙21Gの最大サイズが多孔質個片211の最大サイズと同程度に留まる内側先端保護層を例示するSEM像である。図7に示す内側先端保護層21の場合、多孔質個片211の最大サイズは200μm程度であり、空隙21Gの最大サイズも概ね同程度である。これに対し、図6に示す内側先端保護層21の場合、素子基体1に近い図面視下半分側に、高さ(厚み)は層の半分程度であるものの素子基体1の表面に沿う方向(図面視左右方向)においては大きさが数百μmから1mmを超えるような、多孔質個片211のサイズに比して非常に大きな層状の空隙21Gが存在している。以下、このような空隙21Gを特に、巨大層状空隙21GLとも称する。
【0087】
いま、表面側領域のみにおける粗大空隙率を表面側粗大空隙率x1とし、基体側領域のみにおける粗大空隙率を基体側粗大空隙率x2とすると、上述のように内側先端保護層21において基体側領域に空隙21Gが偏在する場合、粗大空隙率比x2/x1は1よりも大きくなる。そして、巨大層状空隙21GLの形成が顕著なほど、粗大空隙率比x2/x1の値は1を大きく上回る。
【0088】
なお、確認的にいえば、表面側粗大空隙率x1と基体側粗大空隙率x2とはいずれも、内側先端保護層21の断面SEM像において、それぞれの対象領域の総面積に対し空隙21Gが占める面積の比率である。それゆえ、x2/x1>1が成り立つ場合、x2の値は内側先端保護層21の全体についての粗大空隙率を上回ることがある。以降においては区別のため、内側先端保護層21の全体についての粗大空隙率を特に、全体粗大空隙率と称することがある。
【0089】
x2/x1>1となる場合、ひいては図6に示すような巨大層状空隙21GLが形成される場合、内側先端保護層21のうち、素子基体1と接触し先端保護層2を支持する部分が少なくなって離散的に存在するようになり、結果として、内側先端保護層21と素子基体1との接触面積が小さくなる。これは、センサ素子10における断熱性の確保(熱伝達の低減)ひいては耐被水性の向上という点において好適である。特に、x2/x1≧2.4をみたす場合、極めて優れた耐被水性が実現される。
【0090】
好ましくは、内側先端保護層21の厚みTは400μm~1000μmなる範囲内の値とされ、より好ましくは、500μm~1000μmなる範囲内の値とされる。
【0091】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、上述のような構成および特徴を有するセンサ素子10を製造するプロセスの一例について説明する。図8は、センサ素子10を作製する際の処理の流れを示す図である。
【0092】
初めに、素子基体1を作製する。素子基体1の作製に際しては、まず、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含み、かつ、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示省略)を、複数枚用意する(ステップS1)。
【0093】
ブランクシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パターン形成に先立つブランクシートの段階で、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、セラミックス体101の対応する部分に内部空間が形成されることになるグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、それぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はなく、最終的に形成される素子基体1におけるそれぞれの対応部分に応じて、厚みが違えられていてもよい。
【0094】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対してパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、各種電極のパターンや、ヒータ150および絶縁層151のパターンや、電極端子160のパターンや、主面保護層170のパターンや、図示を省略している内部配線のパターンなどが、形成される。また、係るパターン印刷のタイミングで、第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140を形成するための昇華性材料(消失材)の塗布あるいは配置も併せてなされる。
【0095】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。
【0096】
各ブランクシートに対するパターン印刷が終わると、グリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0097】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。
【0098】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断して、それぞれが最終的に個々の素子基体1となる単位体に切り出す(ステップS5)。
【0099】
続いて、得られた単位体を、1300℃~1500℃程度の焼成温度で焼成する(ステップS6)。これにより、素子基体1が作製される。すなわち、素子基体1は、固体電解質からなるセラミックス体101と、各電極と、主面保護層170とが、一体焼成されることによって、生成されるものである。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、素子基体1においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。
【0100】
以上の手順にて素子基体1が作製されると、続いて、係る素子基体1に対し、内側先端保護層21と外側先端保護層22とを形成する。
【0101】
内側先端保護層21の形成は、あらかじめ用意した、多孔質個片211を含む内側先端保護層形成用のスラリー(内側保護層用スラリー)を用いて行う。
【0102】
図9は、内側保護層用スラリーを作製する際の処理の流れを示す図である。内側保護層用スラリーの作製に際しては、まず、粒径がナノオーダーのZrO粒子と、当該ZrO粒子よりも粒径の小さい異種材料(例えばSiO、TiO、La、LaZrなど)粒子と、ナノオーダーサイズの造孔材材料(例えばカーボンブラック)と、所定のバインダー、可塑剤、溶剤などを、所望する細孔気孔率の値に応じた比率にて混合し、個片作製用スラリーを作製する(ステップS71)。
【0103】
係る個片作製用スラリーを50μm~200μm程度の厚みのテープ状に成形(ステップS72)し、得られた成形体を1000℃~1200℃程度の温度で焼成する(ステップS73)。これにより得られた焼成体を所定の粉砕(解砕)手段にて粉砕(解砕)することにより、10μm~200μm程度のサイズを有し、かつ、ナノオーダーの細孔が多数形成された無数の多孔質個片211が、得られる(ステップS74)。図4に示すように、多孔質個片211の形状は特に限定されず、球状、板状など、種々の形状であってよい。
【0104】
そして、多孔質個片211と、所定のバインダー、可塑剤、溶剤などを、所望する粗大空隙率の値に応じた比率にて混合することで、内側保護層用スラリーが得られる(ステップS75)。なお、内側保護層用スラリーには、多孔質個片211とは別個のセラミックス材料がさらに混合される態様であってもよい。
【0105】
内側先端保護層21の形成は、このような手順にてあらかじめ作製された内側保護層用スラリーに素子基体1をディップ(浸漬)し(ステップS7)、素子基体1の内側先端保護層形成範囲に内側保護層用スラリーを所定の厚みに付着させた後、所定の時間乾燥させたうえで800℃~900℃程度の温度で焼成する(ステップS8)ことにより行う。
【0106】
なお、係る態様にて内側先端保護層21を設ける場合、外周部分近傍よりも素子基体1に近い側に空隙21Gが形成されやすい傾向がある。図4に示した内側先端保護層21の断面SEM像においても、そのような傾向が確認される。これは、内側保護層用スラリーを付着させた後の乾燥の際、外周側から先行して該スラリーの乾燥さらには有機成分ガスの発生が進むために、素子基体1に近い側において発生する有機成分ガスの外部への脱離は起こりにくくなり、結果として、層内に粗大な気泡が形成されていくことによる。上述したように、全体気孔率および粗大空隙率が大きいほど層状の空隙21Gさらには巨大層状空隙21GLが形成されやすくなるのも、この理由による。
【0107】
内側先端保護層21が形成されると、続いて、同じくあらかじめ用意した、外側先端保護層形成用の粉末(例えばアルミナ粉末)を、素子基体1における外側先端保護層22の形成対象位置に対し狙いの形成厚みに応じて溶射する(ステップS9)ことにより、所望の気孔率の外側先端保護層22を形成する。外側先端保護層形成用のアルミナ粉末には造孔材は含まれない。係る溶射についても、公知の技術を適用可能である。あるいは、内側先端保護層21と同様、外側先端保護層22についても、あらかじめ作製された外側保護層用スラリーへのディップ(浸漬)にて形成される態様であってもよい。
【0108】
以上の手順によりセンサ素子10が得られる。得られたセンサ素子10は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
【0109】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、センサ素子の素子基体のうち使用時に高温となる部分を保護するための先端保護層の1つとして、それぞれに多数の微細気孔が備わる多数の多孔質個片によって構成されたマトリックス領域内に、多孔質個片同士の間隙である空隙をランダムに存在させた構成を有する内側先端保護層を採用することで、センサ素子において30μL以上という従来に比して十分に大きな値の耐被水性を得ることができ、かつ、層自体の強度を確保しつつも、内側先端保護層の熱容量を低減させることができる。
【0110】
<変形例>
上述の実施の形態においては、3つの内部空室を備えたセンサ素子を対象としているが、センサ素子が3室構造であることは必須ではない。すなわち、センサ素子が、内部空室を2つあるいは1つ備える態様であってもよい。
【0111】
上述の実施の形態においては、内側保護層用スラリーへのディップによって素子基体1に対し直接に内側先端保護層21を設ける態様を示しているが、これは必須の態様ではない。例えば、あらかじめキャップ状に形成した内側先端保護層21を素子基体1に被せ、素子基体1に固定する(固着させる)ことによって、内側先端保護層21を設けるようにしてもよい。係る場合、キャップ状の内側先端保護層21は、素子基体1に類似した形状を有する樹脂製の素子ダミー(ダミー棒)を用意し、該素子ダミーを内側保護層用スラリーにディップすることによってダミー棒の外周にスラリー膜を形成した後、係るスラリー膜を素子ダミーともども焼成し、これによって該素子ダミーを焼失させることにより、作製することができる。この場合も、外側先端保護層22の形成は、上述の実施の形態と同様に行うことができる。
【0112】
また、上述の実施の形態にて示すように、空隙21Gがx2/x1>1なる関係をみたす構成さらには素子基体1に沿って層状に形成される構成は、センサ素子10における断熱性の確保(熱伝達の低減)ひいては耐被水性の向上という点において好適である。これを踏まえ、素子基体1と先端保護層2との間に意図的に層状の空間を設けるようにしてもよい。
【0113】
図10は、そのような構成を有する、変形例に係るガスセンサ100Bの構成の概略図である。図10は、センサ素子10Bの長手方向に沿った断面図を含んでいる。ガスセンサ100Bは、センサ素子10Bの構成の一部がセンサ素子10と異なるほかは、ガスセンサ100と同一の構成を有している。
【0114】
具体的には、センサ素子10Bは、素子基体1の一方端部側に、内側先端保護層21と外側先端保護層22の積層構造を有する先端保護層2を備える点でセンサ素子10と共通するものの、素子基体1の一方端部E1および側面における該一方端部E1側から素子長手方向の所定範囲全般にわたって、内側先端保護層21と素子基体1とが離隔しており、両者の間に層状の内部空間3が形成されてなる点で、センサ素子10と相違する。内側先端保護層21は、その素子長手方向における形成範囲のうち、他方端部E2側に設けられた接続部21aにおいてのみ、素子基体1と接続されてなる。
【0115】
係る場合、内側先端保護層21の内側の大部分にて、断熱空間が形成されていることになるので、耐被水性が極めて優れたセンサ素子が実現される。
【0116】
なお、係るセンサ素子10Bの場合、内側先端保護層21と素子基体1との接触面積は素子基体1のうち内側先端保護層21によって囲繞されている部分の全面積の10%以上である、という要件は、接続部21aにおいてみたされればよい。
【0117】
また、内部空間3の形成には種々の手法が適用可能である。例えば、内側保護層用スラリーの素子基体1のディップによる内側先端保護層21の形成に先立ってあらかじめ、素子基体1の表面における内部空間3の形成対象位置に昇華性材料を塗布しておき、その後の焼成に際して係る昇華性材料を消失させることによって、内部空間3を形成することが出来る。あるいは、上述したキャップ状の内側先端保護層21を形成するに際して、内部空間3の分だけ素子ダミーの先端形状を拡幅させるようにしてもよい。
【実施例
【0118】
(実施例1)
内側先端保護層21の構成がセンサ素子10の耐被水性に与える影響を評価した。試料として、内側先端保護層21の全体気孔率と粗大空隙率の組み合わせが異なる12種類のセンサ素子10(試料No.1-1~1-12)を作製し、先端保護層2の形成状態をX線CTにて確認するとともに、係る形成状態に問題のなかったセンサ素子10を対象に、耐被水性試験を行った。
【0119】
内側先端保護層21の厚みTは500μmとし、多孔質個片211における細孔211pの気孔径は、10nm以上1μm未満の範囲に収まるようにした。
【0120】
なお、外側先端保護層22は、アルミナにより、30%の気孔率にて200μmの厚みに形成した。
【0121】
また、比較のため、内側先端保護層21の代わりに従来保護層21αを設けたセンサ素子を、気孔率の相異なる7通りに作製し(試料No.2-1~2-7)、同様の評価を行った。
【0122】
従来保護層21αを構成するセラミックス粒子は細孔を有さず、気孔21αpは内側先端保護層21の空隙21Gに相当するので、従来保護層21αは仮想的に、内側先端保護層21のマトリックス領域21Mを構成する多孔質個片211の細孔気孔率を0%とし、粗大空隙率を全体気孔率と一致させたものとみなすことができる。
【0123】
従来保護層21αの厚みは500μmとし、気孔21αpの気孔径は1μm~50μmの範囲内に収まるようにした。
【0124】
耐被水性の評価は、ヒータ150によってそれぞれのセンサ素子10をおよそ500℃~900℃に加熱した状態で、主ポンプセルP1におけるポンプ電流を測定しつつセンサ素子10のポンプ面側に対し0.1μLずつ水滴を滴下し、測定出力に異常が生じない範囲における最大水量を、耐被水性の指標値とすることにより行った。
【0125】
表1に、各試料の個片内細孔の有無と、全体気孔率と、粗大空隙率と、内側先端保護層21の形成状態と、耐被水性の評価結果とを、一覧にして示す。
【0126】
【表1】
【0127】
なお、上述のように内側先端保護層21として従来保護層21αを設けた場合、全体気孔率は粗大空隙率にも相当するので、表1の試料No.2-1~2-7の「粗大空隙率」欄には、「全体気孔率」欄と同一の数値を括弧書きにて示している。
【0128】
また、「層形成状態」欄においては、内側先端保護層21の形成に問題のなかった試料につき、「〇」(丸印)を付し、内側先端保護層21が形成できなかった試料、および、形成された内側先端保護層21にクラックが生じていた試料につき、「×」(バツ印)を付している。
【0129】
具体的には、No.1-12、No.2-6、およびNo.2-7を除く試料については、内側先端保護層21の形成に特段の問題は見出されなかった。
【0130】
より詳細にいえば、内側先端保護層21として多孔質個片211を用いていない従来保護層21αを設ける場合、内側先端保護層21の形成に問題がなかったのは全体気孔率が70%以下の試料のみであったのに対し、多孔質個片211を用いて内側先端保護層21を設ける場合には、全体気孔率が90%以下の範囲であれば、内側先端保護層21の形成は問題なく行えた。係る結果は、多孔質個片211を用いることで、全体気孔率が大きい場合であっても内側先端保護層21の強度が確保されることを示唆している。
【0131】
一方、耐被水性の評価に関しては、耐被水性の値が30μL以上であった試料につき、耐被水性が極めて優れていると評価し、「耐被水性」欄において「◎」(二重丸印)を付している。耐被水性の値が25μL以上30μL未満であった試料については、耐被水性が優れていると評価し、「耐被水性」欄において「〇」(〇印)を付している。耐被水性の値が20μL以上25μL未満であった試料については、従来公知の一般的なセンサ素子10と同程度の耐被水性があると評価し、「△」(三角印)を付している。いずれの評価にもあてはまらない、耐被水性の値が20μL未満であった試料については、「×」(バツ印)を付している。
【0132】
表1からは、細孔211pを有さないセラミックス粒子からなる従来保護層21αを採用した場合には、粗大空隙率にも相当する全体気孔率を作製上の上限に近い60~70%としてようやく、25μL以上という優れた耐被水性が得られるようになるのに対し、多孔質個片211を用いて内側先端保護層21を構成した場合には、全体気孔率が50%~90%なる範囲をみたせば、粗大空隙率が1%~55%なる範囲であっても、25μL以上という優れた耐被水性が実現されることがわかる。しかも、これらの範囲をみたす試料においては、粗大空隙率に相当する全体気孔率が当該試料の粗大空隙率と同程度となるように従来保護層21αを設けた場合よりも、耐被水性が優れていることもわかる。これは、別の見方をすれば、多孔質個片211を用いて細孔気孔率を確保することによって全体気孔率を高めることで、粗大空隙率が小さい範囲においても優れた耐被水性が実現されることを、指し示している。
【0133】
さらには、全体気孔率が60%~90%なる範囲をみたし、かつ、粗大空隙率が10%~55%なる範囲をみたすように、内側先端保護層21を設けた場合、30μL以上という極めて優れた耐被水性が実現されることも、指し示している。
【0134】
(実施例2)
内側先端保護層21の構成が熱容量に与える影響を評価した。試料として、全体気孔率と粗大空隙率の組み合わせが異なる2種類の内側先端保護層21を模した評価用サンプル(試料No.1-13~1-14)を作製し、密度(見かけ密度)と熱容量の評価を行った。具体的には、それぞれの内側保護層用スラリーをセンサ素子10の作製時と同じ条件で乾燥さらには脱脂・焼成することにより、直径が10mmで厚みが1mmの密度測定用サンプルと、直径が5mmで厚みが1mmの比熱測定用サンプルとを作製した。多孔質個片211における細孔211pの気孔径は、10nm以上1μm未満の範囲に収まるようにした。なお、No.1-13のサンプルは実施例1のNo.1-2の試料の内側先端保護層21と概ね同等の条件で作製したものである。
【0135】
また、比較のため、従来保護層21αを模した評価用サンプルについても、気孔率の相異なる2通りに作製し(試料No.2-8~2-9)、同様の評価を行った。サンプルのサイズは上記と同様とした。ただし、No.2-8のサンプルはNo.2-3の試料の従来保護層21αと同条件にて作製したものである。なお、気孔21αpの気孔径は1μm~20μmの範囲内に収まるようにした。
【0136】
密度の評価は、水銀ポロシ法により行った。
【0137】
熱容量の評価は比熱をDSC法で測定し、膜体積を加味して熱容量に換算することにより行った。
【0138】
表2に、各試料の個片内細孔の有無と、全体気孔率と、粗大空隙率と、密度および熱容量の評価結果とを、一覧にして示す。
【0139】
【表2】
【0140】
表2に示すように、従来保護層21αを設けたサンプルについては、粗大空隙率に相当する全体気孔率が大きいNo.2-9の試料の方が、No.2-8の試料よりも密度、熱容量ともに小さい結果となった。
【0141】
これに対し、多孔質個片211を用いて内側先端保護層21を設けたサンプルについては、粗大空隙率がわずか1%であるNo.1-13の試料においても、全体気孔率が56%相当であるNo.2-9の試料の熱容量である840kJ/m・Kに近い890kJ/m・Kなる値が得られた。粗大空隙率を40%まで高めたNo.1-14の試料においては、全体気孔率はNo.1-13の試料よりも4%少ないにも関わらず、熱容量は570kJ/m・Kという非常に小さい値となった。
【0142】
係る結果は、多孔質個片211にて内側先端保護層21を構成した場合、全体気孔率を抑制しつつ粗大空隙率を高めることで、強度を確保しつつ内側先端保護層21の熱容量ひいては熱伝導率を低減できることを指し示している。さらには、従来保護層21αを用いた場合には全体気孔率を高めることで熱容量の低減は可能であるものの、その効果は多孔質個片211にて内側先端保護層21を構成した場合に比して限定的であることも、指し示している。
【0143】
(実施例3)
内側先端保護層21の素子基体1に対する接触面積の割合が、先端保護層2の強度に与える影響を、評価した。試料として、内側先端保護層21の素子基体1に対する接触面積の割合が異なる4種類のセンサ素子10(試料No.1-15~1-18)を作製し、それぞれのセンサ素子10について、素子基体1との接触面積割合を評価するとともに、先端保護層2における欠陥(典型的にはクラック)の有無を顕微鏡による外観検査にて確認した。
【0144】
内側先端保護層21の厚みTは500μmとし、多孔質個片211における細孔211pの気孔径は、10nm以上1μm未満の範囲に収まるようにした。また、全体気孔率は80%とし、粗大空隙率は45%とした。これらNo.1-15~1-18の試料は実施例1のNo.1-9の試料と概ね同等の条件で作製したものである。
【0145】
表3に、各試料の接触面積割合と、先端保護層2における欠陥の有無の観察結果とを、一覧にして示す。
【0146】
【表3】
【0147】
表3からわかるように、接触面積割合が5%であったNo.1-15の試料においてのみ、欠陥の発生が確認された。接触面積割合が10%以上であったNo.1-16~1-18の試料においては、欠陥の発生は確認されなかった。
【0148】
係る結果は、素子基体1に対する内側先端保護層21の接触面積割合が10%以上であれば、内側先端保護層21の破損は生じ難いことを、指し示している。
【0149】
(実施例4)
内側先端保護層21の厚みの相違が耐被水性に与える影響を評価した。試料として、内側先端保護層21の厚みTの大きさが異なる12種類のセンサ素子10(試料No.1-19~1-30)を作製し、それぞれについて、実施例1と同様の方法にて耐被水性試験を行った。
【0150】
内側先端保護層21の厚みTは10μm~1000μmの範囲で違えた。また内側先端保護層21の多孔質個片211における細孔211pの気孔径は、10nm以上1μm未満の範囲に収まるようにした。一方で、いずれの試料においても全体気孔率は76%とし、粗大空隙率は36%とした。なお、No.1-25の試料は実施例1のNo.1-7の試料と同条件で作製したものである。
【0151】
表4に、各試料の内側先端保護層21の厚みTと、耐被水性の評価結果とを、一覧にして示す。なお、耐被水性の良否の評価基準は実施例1と同様とした。
【0152】
【表4】
【0153】
表4からわかるように、内側先端保護層21の厚みTが50μm以上の試料において、耐被水性の値が20μL以上となった。特に、内側先端保護層21の厚みTが400μm以上の試料においては、耐被水性の値が25μL以上となった。さらには、内側先端保護層21の厚みTが500μm以上の試料においては、耐被水性の値が30μL以上となった。
【0154】
係る結果は、多孔質個片211にて内側先端保護層21を構成した場合、厚みTは400μm以上とすることで、優れた耐被水性が得られ、さらには厚みTを500μm以上とすることで、極めて優れた耐被水性が得られることを、指し示している。
【0155】
(実施例5)
粗大空隙率比x2/x1の相違が耐被水性に与える影響を評価した。試料として、全体粗大空隙率は同程度であるものの粗大空隙率比x2/x1の値が異なる5種類のセンサ素子10(試料No.1-31~1-35)を作製し、それぞれについて、実施例1と同様の方法にて耐被水性試験を行った。
【0156】
なお、内側先端保護層21の厚みTはいずれも500μmとした。また、内側先端保護層21の多孔質個片211における細孔211pの気孔径は、10nm以上1μm未満の範囲に収まるようにした。
【0157】
図11は、No.1-33の試料における内側先端保護層21の断面SEM像である。図11においては、基体側領域21Bに巨大層状空隙21GLが存在することが確認される。
【0158】
また、図11には、表面側粗大空隙率x1と基体側粗大空隙率x2とを求める際に用いる、内側先端保護層21の表面側領域21Aと基体側領域21Bとについても、例示している。粗大空隙率比x2/x1の値を得るべく表面側粗大空隙率x1と基体側粗大空隙率x2とを具体的に特定する際には、図11に示すような内側先端保護層21の可能な限り広範な断面SEM像を得る。そして、内側先端保護層21の形成範囲のほぼ全体を含む矩形範囲を特定し、当該矩形範囲を素子厚み方向において二分することにより、表面側領域21Aと基体側領域21Bとを特定する。特定されたそれぞれの領域を対象に、表面側粗大空隙率x1と基体側粗大空隙率x2とを得る。
【0159】
表5に、各試料の全体粗大空隙率と、表面側粗大空隙率x1と、基体側粗大空隙率x2と、粗大空隙率比x2/x1と、耐被水性の評価結果とを、一覧にして示す。
【0160】
【表5】
【0161】
表5からわかるように、x2/x1の値が1程度の試料(No.1-31)においても26μLという十分に優れた耐被水性が得られているところ、x2/x1の値が1より大きくなった試料(No.1-32~1-35)の場合、より具体的には2.4以上となった試料の場合、全体粗大空隙率についてはNo.1-31の試料とさほど大きな差はないにもかかわらず、32μL以上という、極めて優れた被水性が得られた。
【0162】
係る結果は、粗大空隙率比x2/x1が1より大きくなるように、表面側領域よりも基体側領域に空隙21Gが多く形成され、ひいては、巨大層状空隙21GLが形成されるように、内側先端保護層21を設けることで、好ましくは、x2/x1≧2.4となるように内側先端保護層21を設けることで、極めて優れた耐被水性が得られることを、指し示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11