(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】テトラフルオロエチレン及びビニル部分コポリマーを含む液体組成物及び多孔質硬化材料
(51)【国際特許分類】
A61L 27/16 20060101AFI20240610BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20240610BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240610BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240610BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240610BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240610BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240610BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20240610BHJP
A61K 47/08 20060101ALI20240610BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240610BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240610BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240610BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240610BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240610BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240610BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240610BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20240610BHJP
C08J 9/26 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
A61L27/16
A61K9/00
A61K9/08
A61K31/7088
A61K35/12
A61K35/76
A61K38/02
A61K47/06
A61K47/08
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/18
A61K47/20
A61K47/32
A61K48/00
A61K49/00
C08J9/26 102
(21)【出願番号】P 2022527741
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 US2020060419
(87)【国際公開番号】W WO2021097210
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-06-21
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391028362
【氏名又は名称】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
【氏名又は名称原語表記】W.L. GORE & ASSOCIATES, INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】ポール ディー.ドラムヘラー
(72)【発明者】
【氏名】アーディル エルモームニ
(72)【発明者】
【氏名】セリム アーゲン
(72)【発明者】
【氏名】エリック エー.モケルク
(72)【発明者】
【氏名】ミッチェル トラウトマン
(72)【発明者】
【氏名】ラクエル サンチェス
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-528381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン部分と、アセテート、アルコール、アミン及びアミドから選ばれる少なくとも1つの官能基を有するビニル部分とを有するフッ素化コポリマーを含む複数のフィラメント構造を含んでなる多孔質材料であって、該フィラメント構造が協働して、1μmより大きな平均直径を有し、かつ、少なくとも20%のボイド体積を占める複数のマクロポアを画定している多孔質材料であって、
前記フッ素化コポリマーは、ポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ビニルアセテート)(TFE-VAc)及びポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ビニルアルコール)(TFE-VOH)のうちの1つであり、かつ
前記フッ素化コポリマーは、テトラフルオロエチレン部分のモル含有量が15.5%~23.5%であり、かつ、ビニル部分のモル含有量が76.5%~84.5%である
ことを特徴とする、多孔質材料。
【請求項2】
前記マクロポアの平均直径が15μm~45μmである、請求項1記載の多孔質材料。
【請求項3】
前記マクロポアの平均直径が17μm~44μmである、請求項2記載の多孔質材料。
【請求項4】
前記マクロポアは20%~80%のボイド体積を占める、請求項1~3のいずれか1項記載の多孔質材料。
【請求項5】
前記マクロポアは34%~80%のボイド体積を占める、請求項4記載の多孔質材料。
【請求項6】
前記マクロポアの平均直径が、少なくとも0.5mmの厚さにわたって均一である、請求項1~5のいずれか1項記載の多孔質材料。
【請求項7】
各フィラメント構造は複数のミクロポアを含む、請求項1~6のいずれか1項記載の多孔質材料。
【請求項8】
前記ミクロポアは、1μm以下の平均直径を有し、かつ、少なくとも1%のボイド体積を占める、請求項7記載の多孔質材料。
【請求項9】
前記ミクロポアは、0.1μm~0.6μmの平均直径を有し、かつ、1%~20%のボイド体積を占める、請求項7又は8記載の多孔質材料。
【請求項10】
前記フィラメント構造内に溶解されたか、前記フィラメント構造に物理吸着もしくは化学吸着されたか、前記フィラメント構造に生体共役結合されたか、又は、前記マクロポア内に含まれた、少なくとも1つの治療剤をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項記載の多孔質材料。
【請求項11】
前記多孔質材料は生物学的基材に導入、堆積又は適用される、請求項1~10のいずれか1項記載の多孔質材料。
【請求項12】
前記複数のマクロポアは相互接続されている、請求項1~11のいずれか1項記載の多孔質材料。
【請求項13】
前記多孔質材料は、フッ素化コポリマー、生体適合性溶媒系及び治療剤から本質的になる製剤から形成されている、請求項1~12のいずれか1項記載の多孔質材料。
【請求項14】
生体適合性溶媒系、及び
該生体適合性溶媒系に2質量/体積%~20質量/体積%の濃度で溶解されたフッ素化コポリマー、
を含んでなる製剤であって、
該フッ素化コポリマーは、テトラフルオロエチレン部分と、アセテート、アルコール、アミン及びアミドから選ばれる少なくとも1つの官能基を有するビニル部分とを含み、
該生体適合性溶媒系は、体液と接触すると該フッ素化コポリマーから拡散して多孔質塊を残すように構成され、該多孔質塊は、1μmより大きな平均直径を有する複数のマクロポアを画定するために協働する複数のフィラメント構造を含む、
前記フッ素化コポリマーは、ポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ビニルアセテート)(TFE-VAc)及びポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ビニルアルコール)(TFE-VOH)のうちの1つであり、
前記フッ素化コポリマーは、テトラフルオロエチレン部分のモル含有量が15.5%~23.5%であり、かつ、ビニル部分のモル含有量が76.5%~84.5%であり、かつ、
前記生体適合性溶媒系は、水を含むか、又は、酢酸、アセトン、アニソール、1-ブタノール、2-ブタノール、酢酸ブチル、tert-ブチルメチルエーテル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、酢酸エチル、エチルエーテル、ギ酸エチル、ギ酸、ヘプタン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸メチル、3-メチル-1-ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-メチル-1-プロパノール、ペンタン、1-ペンタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、酢酸プロピル、酢酸メチル、トリエチルアミン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシドのうちの少なくとも1つを含む、製剤。
【請求項15】
前記多孔質塊は、50Pa~500,000Paのゲル化貯蔵弾性率を有する、請求項14記載の製剤。
【請求項16】
治療剤をさらに含む、請求項14
又は15記載の製剤。
【請求項17】
前記製剤は、フッ素化コポリマー、生体適合性溶媒系及び治療剤から本質的になる、請求項
16記載の製剤。
【請求項18】
前記治療剤は、造影剤、タンパク質、ペプチド、抗凝固剤、血管細胞増殖阻害剤、プロテインキナーゼ及びチロシンキナーゼ阻害剤、鎮痛剤、抗炎症剤、細胞、哺乳動物細胞、真核生物、原核生物、体細胞、生殖細胞、赤血球、血小板、ウイルス、プリオン、DNA、RNA、ベクター、細胞画分、ミトコンドリア、抗腫瘍剤/抗増殖剤/抗有糸分裂剤及び麻酔剤から選ばれる、請求項
16又は
17記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2019年11月13日に出願された米国仮特許出願番号第62/934,650号の優先権を主張し、その開示の全体を、参照により本明細書に明示的に組み込む。
【0002】
本開示は、フッ素化コポリマー、より具体的には、医療用途のためのテトラフルオロエチレン(TFE)部分とビニル部分とを含むフッ素化コポリマーに関する。
【背景技術】
【0003】
TFEコポリマーは当該技術分野でよく知られている。TFEコポリマーは多くの産業で非常に有用であるが、その不活性及び生体適合性のために、医療用途で特に有用である。
【0004】
多くの点で有用であるが、医療用途のための溶液として、溶解した又は他の方法で調製されたTFEコポリマーを利用することは困難をもたらす。水溶性のTFEコポリマーは、不活性でなく、又は、水性環境での溶解に耐性でないので、多くの医療用途のために有用ではない。他方、水、又は血液、血清、脳脊髄液、間質液などの生体液に不溶性であるTFEコポリマーは、しばしば非常に疎水性であり、これもまた問題がある。特に、これらのタイプのテトラフルオロエチレンコポリマーを溶解させ又は他の方法で可溶化するために使用される溶媒は、インビボでの使用には不適切である可能性がある。該溶媒の例としては、ハロゲン化溶媒、フッ素化灯油溶媒、芳香族溶媒及び鉱酸溶媒が挙げられる。
【0005】
細孔を含むゲル及びヒドロゲルなどの多孔質硬化材料は、生物学的基材の機械的特性に近いそれらの機械的特性のために、医療用途において有用である。これらの機械的特性としては、レオロジー係数、細孔サイズ及び細孔分布が挙げられる。
【0006】
したがって、親水性であるが水に溶解せず、生体適合性溶媒、生体適合性溶媒の非水性混合物又は生体適合性溶媒の水性混合物などの、生体適合性溶媒系に溶解できるTFEコポリマーを作成する必要性が引き続き存在する。さらに、親水性であるが水又は生体液に溶解しないTFEコポリマーを含む液体組成物を作成する必要性が引き続き存在する。さらに、上記の制限なしに、親水性であるが水に可溶ではなく、多孔質硬化構造を含むTFEコポリマーを作成する必要性が引き続き存在する。
【発明の概要】
【0007】
多孔質硬化材料は、生物学的基材の強化、支持、移動、分離、単離、補強及び/又はバルク化を含む、様々な医療用途のために提供される。硬化材料は、フッ素化コポリマーと、生体適合性有機溶媒、生体適合性有機溶媒の混合物又は生体適合性有機溶媒の水性混合物を含む生体適合性溶媒系とを含む液体組成物から形成される。フッ素化コポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)部分及びビニル部分を含み、該ビニル部分は、アセテート、アルコール、アミン及びアミドから選ばれる少なくとも1つの官能基を含む。
【0008】
1つの例(「例1」)によれば、テトラフルオロエチレン部分と、アセテート、アルコール、アミン及びアミドから選ばれる少なくとも1つの官能基を有するビニル部分とを有するフッ素化コポリマーを含む複数のフィラメント構造を含んでなる多孔質材料が開示される。該フィラメント構造は協働して、平均直径が1μmより大きく、かつ、少なくとも20%のボイド体積を占める複数のマクロポアを画定することができる。
【0009】
例1において、マクロポアの平均直径は、15μm~45μm、又は17μm~44μmであることができる。
【0010】
例1において、マクロポアは、20%~80%のボイド体積、又は34%~80%のボイド体積を占めることができる。
【0011】
例1において、マクロポアの平均直径は、少なくとも0.5mmの厚さにわたって均一であることができる。
【0012】
例1において、フッ素化コポリマーは、ポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ビニルアセテート)(TFE-VAc)又はポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ビニルアルコール)(TFE-VOH)であることができる。
【0013】
例1において、フッ素化コポリマーは、テトラフルオロエチレン部分のモル含有量が15.5%~23.5%であり、かつ、ビニル部分のモル含有量が76.5%~84.5%であることができる。
【0014】
例1において、各フィラメント構造は、複数のミクロポアを含むことができる。ミクロポアは、0.1μm~0.6μmなどの1μm以下の平均直径を有することができ、そして1%~20%のボイド体積などの少なくとも1%のボイド体積を占めることができる。
【0015】
例1において、多孔質材料はまた、フィラメント構造内に溶解され、フィラメント構造に物理吸着又は化学吸着され、フィラメント構造に生体共役結合され、又はマクロポア内に含まれる少なくとも1つの治療剤を含むことができる。
【0016】
例1において、多孔質材料は、生物学的基材に導入され、堆積され又は適用されうる。
【0017】
例1において、複数のマクロポアは相互接続されうる。
【0018】
例1において、多孔質材料は、フッ素化コポリマー、生体適合性溶媒系及び治療剤から本質的になる製剤から形成されうる。
【0019】
別の例(「例2」)によれば、生体適合性溶媒系、及び、該生体適合性溶媒系に2質量/体積%~20質量/体積%の濃度で溶解されたフッ素化コポリマーを含む製剤であって、該フッ素化コポリマーはテトラフルオロエチレン部分と、アセテート、アルコール、アミン及びアミドから選ばれる少なくとも1つの官能基を有するビニル部分とを含む、製剤が開示される。生体適合性溶媒系は、体液と接触するとフッ素化コポリマーから拡散し、多孔質塊を残すように構成されうる。
【0020】
例2において、多孔質塊は、50Pa~500,000Paのゲル化貯蔵弾性率を有することができる。
【0021】
例2において、生体適合性溶媒系は水を含むことができる。
【0022】
例2において、製剤は、治療剤をさらに含むことができる。
【0023】
例2において、製剤は、フッ素化コポリマー、生体適合性溶媒系及び治療剤から本質的になることができる。
【0024】
例2において、治療剤は、造影剤、タンパク質、ペプチド、抗凝固剤、血管細胞増殖阻害剤、プロテインキナーゼ及びチロシンキナーゼ阻害剤、鎮痛剤、抗炎症剤、細胞、哺乳動物細胞、真核生物、原核生物、体細胞、生殖細胞、赤血球、血小板、ウイルス、プリオン、DNA、RNA、ベクター、細胞画分、ミトコンドリア、抗腫瘍剤/抗増殖剤/抗有糸分裂剤及び麻酔剤から選ばれることができる。
【0025】
例2において、生体適合性溶媒系は、酢酸、アセトン、アニソール、1-ブタノール、2-ブタノール、酢酸ブチル、tert-ブチルメチルエーテル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、酢酸エチル、エチルエーテル、ギ酸エチル、ギ酸、ヘプタン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸メチル、3-メチル-1-ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-メチル-1-プロパノール、ペンタン、1-ペンタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、酢酸プロピル、酢酸メチル、トリエチルアミン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシドのうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0026】
さらに別の例(「例3」)によれば、生体適合性溶媒系、及び該生体適合性溶媒系に2質量/体積%~20質量/体積%の濃度で溶解されたフッ素化コポリマーを含む製剤を、生物学的基材及び体液を含む治療部位に注入すること、及び、該生体適合性溶媒系を該フッ素化コポリマーから体液に拡散させることによって多孔質塊を形成することを含む方法が開示される。多孔質塊は、1μmより大きな平均直径を有し、かつ、該多孔質塊の少なくとも20%のボイド体積を占める複数のマクロポアを画定するために協働する複数のフィラメント構造を含むことができる。
【0027】
例3において、該生物学的基材は、患者の心臓、血管、食道、胃、肝臓、腸、脊椎、洞、脳溝、皮膚組織、骨組織、筋肉組織又は神経組織から選ばれることができる。生物学的基材は、束、線維、神経節、筋肉束、筋周膜、筋内膜、筋外膜、筋鞘、インターカレーション、細胞外マトリックスなどの器官構造又は組織構造からさらに選ばれることができる。
【0028】
例3において、この方法は、インプラント処置されたメディカルデバイスを多孔質塊内に固定することをさらに含むことができる。
【0029】
例3において、該治療部位は、患者の乳頭筋の下、患者の血管壁内、又は、患者の隣接する器官構造又は組織構造の間にあることができる。
【0030】
例3において、注入工程中に、該製剤は治療剤を含むことができ、形成工程中に、該治療剤は、該フィラメント構造内に溶解され、該フィラメント構造に物理吸着又は化学吸着され、該フィラメント構造に生体共役結合され、又はマクロポア内に含まれている。
【0031】
さらに別の例(「例4」)によれば、生物学的基質及び体液を含む治療部位に製剤を注入することを含む方法であって、該製剤は、生体適合性溶媒系及び該生体適合性溶媒系に2質量/体積%~20質量/体積%の濃度で溶解されたフッ素化コポリマーを含み、該フッ素化コポリマーはテトラフルオロエチレン部分と、アセテート、アルコール、アミ及びアミドから選ばれる少なくとも1つの官能基を有するビニル部分とを含む、方法が開示される。この方法はまた、生体適合性溶媒系をフッ素化コポリマーから体液に拡散させることによって多孔質塊を形成することを含み、多孔質塊は、1μmより大きな平均直径を有し、かつ、少なくとも20%のボイド体積%を占める複数のマクロポアを画定するように協働する複数のフィラメント構造を含む。この方法は、インプラント処置されたメディカルデバイスを多孔質塊に固定することをさらに含む。
【0032】
さらに別の例(「例5」)によれば、患者の隣接する器官構造又は組織構造の間にあり、そして体液を含む治療部位に製剤を注入することを含む方法であって、ここで、該製剤は、生体適合性溶媒系、及び、該生体適合性溶媒系に2質量/体積%~20質量/体積%の濃度で溶解されたフッ素化コポリマーを含み、該フッ素化コポリマーは、テトラフルオロエチレン部分と、アセテート、アルコール、アミン及びアミドから選ばれる少なくとも1つの官能基を有するビニル部分とを含む、方法は開示される。この方法はまた、該生体適合性溶媒系を該フッ素化コポリマーから体液に拡散させることによって多孔質塊を形成することを含み、該多孔質塊は、1μmより大きな平均直径を有し、かつ、該多孔質塊の少なくとも20%のボイド体積を占める複数のマクロポアを画定するように協働する複数のフィラメント構造を含み、該多孔質塊は、患者の隣接する器官構造又は組織構造を分離する。
【0033】
上述の例はまさに実施例であり、本開示によって他の方法で提供される本発明の概念のいずれかの範囲を制限又は他の方法で狭めるために読まれるべきではない。複数の例が開示されているが、さらに他の実施形態は、例示的な例を示して説明する以下の詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。したがって、図面及び詳細な説明は、本質的に限定的なものではなく、本質的に例示的なものと考えられるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
添付の図面は、本開示のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれ、その一部を構成し、実施形態を示し、記載とともに、本開示の原理を説明するのに役立つ。
【0035】
【
図1】
図1は、1つの実施形態による液体組成物の概略図である。
【0036】
【
図2】
図2は、1つの実施形態による、治療部位にデリバリーされ、治療部位で硬化して、硬化多孔質材料を形成する液体組成物の概略図である。
【0037】
【
図3】
図3は経時的な硬化プロセスを示すグラフ表示である。
【0038】
【
図4】
図4は、1つの実施形態による、インプラント処置されたデバイスを固定するための患者の心臓壁を強化する多孔質硬化材料の第一の用途の概略図である。
【0039】
【
図5】
図5は、1つの実施形態による、患者の乳頭筋を支持する多孔質硬化材料の第二の用途の概略図である。
【0040】
【
図6】
図6は、1つの実施形態による、インプラント処置されたデバイスを受け入れるための患者の血管壁を補強する多孔質硬化材料の第三の用途の概略図である。
【0041】
【
図7】
図7は、1つの実施形態による、患者の骨格筋の隣接する筋肉束を分離及び/又は単離させる多孔質硬化材料の第四の用途の概略図である。
【0042】
【
図8】
図8は、例Dによる硬化材料サンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図9】
図9は、例Dによる硬化材料サンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図10】
図10は、例Dによる硬化材料サンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図11】
図11は、例Dによる硬化材料サンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【0043】
【
図12】
図12は、例Dによる硬化材料サンプルのレオロジーデータのグラフ表示である。
【
図13】
図13は、例Dによる硬化材料サンプルのレオロジーデータのグラフ表示である。
【0044】
【
図14】
図14は、例Gによる骨格筋における硬化材料のSEM画像である。
【0045】
【
図15】
図15は、例Hによる骨格筋における硬化材料のSEM画像である。
【
図16】
図16は、例Hによる骨格筋における硬化材料のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
定義及び用語
本開示は、限定的な方法で読まれることが意図されていない。例えば、本出願で使用される用語は、その分野における用語がそのような用語に帰する意味の関係で広く読まれるべきである。
【0047】
不正確さの用語に関して、「約」及び「およそ」という用語は、互換的に、記載された測定値を含み、また、記載された測定値に合理的に近い測定値を含む測定値を指すために使用されうる。記載された測定値に合理的に近い測定値は、関連技術の当業者によって理解され、容易に確認されるように、合理的に少量だけ記載された測定値から逸脱している。このような逸脱は、測定誤差、測定及び/又は製造装置の校正における差異、測定値の読み取り及び/又は設定の人為的エラー、他の構成要素に関連する測定値の違いを考慮した性能及び/又は構造パラメータを最適化するために行われる調整、特定の実装シナリオ、又は人又は機械による対象物の不正確な調整及び/又は操作などに起因する可能性がある。関連技術の当業者がそのような合理的に小さな差異の値を容易に確認できないと判断された場合、「約」及び「およそ」という用語は、記載された値の±10%を意味すると理解することができる。
【0048】
本明細書では、便宜上、特定の用語を使用している。例えば、「上(top)」、「下(bottom)」、「上(upper)」、「下(lower)」、「左」、「右」、「水平」、「垂直」、「上向き」、「下向き」などの単語は、単に、図中に示される構成又は取り付け位置での部品の向きを記載する。実際、参照される構成要素は、あらゆる方向に向けることができる。同様に、プロセス又は方法が示され又は説明される本開示全体を通して、方法が最初に実行される特定の動作に依存することが文脈から明らかでない限り、方法は任意の順序で又は同時に実行されることができる。
【0049】
座標系は、図に示され、記載において参照され、「Y」軸は垂直方向に対応し、「X」軸は水平又は横方向に対応し、「Z」軸は内/外方向に対応する。
【0050】
様々な実施形態の説明
当業者は、本開示の様々な態様が、意図された機能を発揮するように構成された任意の数の方法及び装置によって実現できることを容易に理解するであろう。本明細書で参照される添付の図面は、必ずしも一定の縮尺で描かれているわけではなく、本開示の様々な態様を説明するために誇張されていることがあり、その点で、図面は限定として解釈されるべきではないことにも留意されたい。
【0051】
液体組成物
最初に
図1を参照すると、液体組成物100は、生体適合性溶媒系104に溶解又は乳化されたフッ素化コポリマー102を含む。液体組成物100は、生体適合性溶媒系104に溶解又は乳化された任意選択的な治療剤108をさらに含むことができる。液体組成物100の各要素を以下でさらに説明する。
【0052】
液体組成物100のフッ素化コポリマー102は、テトラフルオロエチレン(TFE)部分とビニル部分とを含み、該ビニル部分は、アセテート、アルコール、アミン及びアミドから選ばれる少なくとも1つの官能基を含む。適切なフッ素化コポリマー102としては、限定するわけではないが、例えば、ポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ビニルアセテート)(TFE-VAc)、ポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ビニルアルコール)(TFE-VOH)及び/又はポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ビニルアルコール-コ-ビニル[アミノブチルアルデヒドアセタール])(TFE-VOH-AcAm)が挙げられる。フッ素化コポリマー102は、約10:90、約20:80、約30:70、約40:60、約50:50、約60:40、約70:30、約80:20、又は約90:10のTFE部分モル含有量/ビニル部分モル含有量を有することができる。特定の実施形態において、フッ素化コポリマー102は、約15.5%~約23.5%のTFE部分モル含有量、及び約76.5%~約84.5%のビニル部分モル含有量を有することができる。
【0053】
生体適合性溶媒系104中のフッ素化コポリマー102の濃度(以下、「固形分含有量」)は、意図される用途に応じて変化することができる。例えば、生体適合性溶媒系104中のフッ素化コポリマー102の濃度は、約2質量/体積%~約20質量/体積%であることができ、例えば、約2質量/体積%、約4質量/体積%、約6質量/体積%、約8質量/体積%、約10質量/体積%、約12質量/体積%、約14質量/体積%、約16質量/体積%、約18質量/体積%、又は約20質量/体積%である。特定の実施形態において、濃度は、約4質量/体積%~約10質量/体積%、より具体的には約4質量/体積%~約8質量/体積%であることができる。他の実施形態において、濃度は約6質量/体積%~約14質量/体積%、より具体的には約8質量/体積%~約12質量/体積%であることができる。以下でさらに議論されるように、濃度は、所望の機械的特性、レオロジー、多孔性及び/又は治療効果を有する硬化材料202(
図2)を生成するように制御されうる。
【0054】
液体組成物100の生体適合性溶媒系104は、フッ素化コポリマー102を溶解することができる低毒性水混和性溶媒であることができる。適切な低毒性溶媒としては、「クラス3溶媒」及び/又は「米国食品医薬品局(FDA)又はヒト用医薬品の登録に関する技術要件の調和に関する国際会議(ICH)によって定義されている「一般的に安全であると認識されている」溶媒(GRAS)が挙げられる。低毒性有機溶媒の例としては、酢酸、アセトン、アニソール、1-ブタノール、2-ブタノール、酢酸ブチル、tert-ブチルメチルエーテル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、酢酸エチル、エチルエーテル、ギ酸エチル、ギ酸、ヘプタン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸メチル、3-メチル-1-ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-メチル-1-プロパノール、ペンタン、1-ペンタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、酢酸プロピル、酢酸メチル、トリエチルアミン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PG)、ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。他の実施形態において、生体適合性溶媒系104としては、アセトニトリル、ジオキサン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ピリジン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、メチオキシメタノール、ピリジン、ピペリジン、スルホラン、テトラヒドロフラン、トリクロロ酢酸などを挙げることができる。
【0055】
液体組成物100の粘度及び/又は溶媒特性(例えば、希釈)を制御するために、生体適合性溶媒系104に水を含めることができる。例えば、生体適合性溶媒系104は、約5vol%、約10vol%、約20vol%、約30vol%、約40vol%、約50vol%又はそれ以上の水を含むことができ、例えば米国特許第10,092,653号明細書に記載されているとおりである。
【0056】
任意選択的な治療剤108は、例えば、診断的、外科的又は介入的であるかどうかにかかわらず、治療手順及び/又は治療結果を支援するために液体組成物100に含まれることができる。適切な治療剤108としては、例えば、イオヘキソール、イオパミドールイオプロミド、金ナノ粒子、タンタル微粒子などの造影剤、平滑筋細胞の増殖を阻止することができるモノクローナル抗体、阻害抗体、成長因子に対する抗体、及びチミジンキナーゼ阻害剤などのタンパク質及びペプチド、D-Phe-Pro-Arg、クロロメチルケトン、RGDペプチド含有化合物、ヘパリン、ヒルジン、抗トロンビン化合物、血小板受容体拮抗剤、抗血小板抗体、抗血小板受容体抗体、プロスタグランジン阻害剤、血小板阻害剤、抗血小板ペプチドなどの抗凝固剤、成長因子などの血管細胞成長促進剤などの成長因子、転写活性化因子、翻訳促進剤、成長因子阻害剤、成長因子受容体拮抗剤、転写抑制因子、翻訳抑制因子、複製阻害剤、成長因子と細胞毒素からなる二機能性分子、抗体と細胞毒素からなる二機能性分子などの血管細胞成長阻害剤、プロテインキナーゼ及びチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、チルホスチン、ゲニスタイン、キノキサリン)、プロスタサイクリン類似体、コレステロール低下剤、スタチン、アンギオポイエチン、内因性血管作用機構に干渉する薬剤、モノクローナル抗体などの白血球動員の阻害剤、サイトカイン、β-エストラジオール3-(β-D-グルクロニド)ナトリウム塩、β-エストラジオール3-硫酸ナトリウム塩、-β-エストラジオール17-(β-D-グルクロニド)ナトリウム塩、エストロン3-硫酸ナトリウム塩、エストロン3-硫酸カリウム塩、酢酸エストラジオール、エストラジオールシピオネートなどのホルモン、アセチルサリチル酸、α-メチル-4-(イソブチル)フェニル酢酸、ジクロフェナクナトリウム塩、ベータヒドロキシ酸、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、ナプロキセンナトリウム、抗生物質などの鎮痛剤、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、酢酸デキサメタゾンナトリウム、エストラジオール、プレドニゾロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルファサラジン及びメサラミン、シロリムス及びエベロリムス(及び関連する類似体)及びそれらの組み合わせなどの抗炎症剤、細胞、哺乳動物細胞、真核生物、原核生物、体細胞、生殖細胞、赤血球、血小板、ウイルス、プリオン、DNA、RNA、ベクター、細胞画分、ミトコンドリアなど、パクリタキセル、ジクマロール及びその類似体、ラパマイシン及びその類似体、ベータラパコン及びその類似体、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、エンドスタチン、アンギオスタチン、アンギオペプチン及びそれらの組み合わせなどの抗腫瘍剤/抗増殖剤/抗有糸分裂剤、アスピリン、リドカイン、ケタミン塩、ブピバカイン及びロピバカインなどの麻酔剤、プロスタグランジン阻害剤、血小板阻害剤、ドセタキセル、ドキソルビシン、パクリタキセル及びフルオロウラシル及びそれらの類似体などの細胞毒性剤、細胞静止剤、細胞増殖エフェクター、血管拡張剤、シロスタゾール、カルベジロール、抗生物質、エタノールなどの硬化剤、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0057】
液体組成物100は特定の添加剤を含むことができる。そのような添加剤の1つは、診断又は視覚化の目的で使用されうる造影媒体(例えば、バリウム塩、イオヘキソール)である。別のそのような添加剤は、標的化サーマルアブレーションに使用されうるエネルギー吸収体(例えば、金ナノ粒子)である。
【0058】
幾つかの実施形態によれば、液体組成物100は、フッ素化コポリマー102、生体適合性溶媒系104及び治療剤108のみからなるか、又はそれらから本質的になる。他の実施形態において、液体組成物100は、フッ素化コポリマー102及び生体適合性溶媒系104のみからなるか、又はそれらから本質的になる。
【0059】
液体組成物100は、意図される用途に応じてカスタマイズすることができる。例えば、液体組成物100は、所望の機械的特性、レオロジー、多孔性及び/又は治療効果を有する硬化材料202(
図2)を生成しながら、所望の粘度及び/又は貯蔵安定性を有するようにカスタマイズすることができる。
【0060】
硬化性/硬化材料
次に
図2を参照すると、液体組成物100は、患者の治療部位にインビボで注入又は他の方法でデリバリーすることができる。液体組成物100は、デリバリーデバイス200(例えば、注射器、カテーテル)から治療部位にデリバリーされうる。治療部位は、患者の組織又は器官(以下、生物学的基材Sと呼ぶ)を含むことができる。
図2の示された実施形態において、基材Sは患者の血管であるが、他の適切な生物学的基材S及び用途は、以下でさらに説明される。
【0061】
図2に示されるように、基材Sにデリバリーされた後に、液体組成物100は、血液又は他の体液Fと接触することができる。本明細書で「硬化(hardening)」、「ゲル化」、又は「硬化(curing)」と呼ばれるプロセスにおいて、液体組成物100の生体適合性溶媒系104(
図1)は患者の体内に放散し、基材S及び/又は体液F及び液体組成物100の水不溶性フッ素化コポリマー102(
図1)は、治療部位で沈殿及び/又はゲル化して、硬化材料202を形成する。「硬化材料」という用語は、固体状態又はゲル状態でコヒーレント塊又はコヒーレント多孔質塊に沈殿及び/又はゲル化されるフッ素化コポリマーを定義することが意図される。
【0062】
次に
図3を参照すると、硬化プロセスは、時間の経過とともにグラフ表示されている。デリバリー中、液体組成物100は、初期レオロジーゲル化貯蔵弾性率300を有する。デリバリー後に、硬化が始まる前に活性化期間302が存在しうる。活性化期間302の持続時間は様々であることができる。幾つかの実施形態において、活性化期間302は、例えば、約60秒、約90秒、約120秒、約150秒、約180秒、約210秒、約240秒又はそれ以上であることができる。活性化期間302の後に、材料は、液体組成物100の初期レオロジーゲル化貯蔵弾性率300から硬化材料202の最終レオロジーゲル化貯蔵弾性率308まで連続的に進行することができる(
図3に示されるとおり)。
【0063】
図2に戻ると、得られる硬化材料202は粘弾性材料であることができ、固体状態又はゲル状態のコヒーレント塊又はコヒーレント多孔質塊で存在することができる。硬化材料202の最終的なレオロジーゲル化貯蔵弾性率は、意図された用途及び意図された基材S(
図2)に応じて変化することができる。例えば、硬化材料202のゲル化貯蔵弾性率は、約50Pa~約5000,000Pa(500kPa)、例えば、約50Pa、約100Pa、約500Pa、約1,000Pa、約5,000Pa、約10,000Pa、約50,000Pa、約100,000Pa、約200,000Pa又は約500,000Paであることができる。幾つかの実施形態において、硬化材料202のゲル化貯蔵弾性率は、約10,000Pa~約200,000Paである。硬化材料202の最終レオロジーゲル化貯蔵弾性率は、意図された基材S(
図2)の柔らかさ又は硬さと適合することができる。例えば、意図された基材Sが非常に柔らかい場合(例えば、脳)、約50Pa~約500Paの低い弾性率が望ましい場合があり、意図された基材Sが柔らかい場合(心臓、血管)、約500Pa~約5,000Paの中程度の弾性率が望ましい場合があり、意図された基材Sが硬い場合(例えば、脊椎骨)、約5,000Pa~約500,000Paの高い弾性率が望ましい場合がある。
【0064】
硬化材料202は、マクロポーラス及び/又はミクロポーラス構造を有する多孔質塊であることができる。硬化材料202の細孔構造及び多孔性は、意図される用途に応じて変化しうる。特定の実施形態において、硬化材料202は、硬化材料202にわたって実質的に均一な多孔性を有する、ボーラス又はプラグなどのコヒーレントな等方性多孔質塊であることができる。他の実施形態において、硬化材料202は、拡散異方性多孔質塊であることができ、例えば、直径が約100μm以下の離散粒子であり、又は厚さが約100μm以下の薄いマトリックスであり、多孔性が拡散塊全体で実質的に均一である。硬化材料202の多孔性の性質は、特定の実施形態において、生体適合性及び組織の内部成長を促進することができる。
【0065】
マクロポーラス構造は、
図2に示されるように、複数の相互接続された又は分離されたマクロポア206を画定するために協働する複数のフッ素化コポリマーフィラメント構造204を含むことができる。マクロポア206の平均直径は、約5μm、約10μm、約20μm、約30μm、約40μm、約50μm又はそれ以上など、約1μmより大きくすることができる。幾つかの実施形態では、マクロポア206の平均直径は、約10μm~約50μm、より具体的には約15μm~約45μm、より具体的には約20μm~約25μmである。マクロポア206は、硬化材料202の約20%以上を占めることができ(これは、ポア面積比として測定されうる)、例えば、硬化材料202の約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%又はそれ以上を占める。特定の実施形態において、マクロポア206は、硬化材料202の約20%~約80%、より具体的には約30%~約50%を占める。
【0066】
ミクロポア構造は、
図2に示されるように、複数の相互接続又は分離されたミクロポア210を画定するために協働する複数のフッ素化コポリマーフィラメント構造208を含むことができる。ミクロポア210の平均直径は、約1μm以下、例えば、約0.01μm、約0.1μm、約0.2μm、約0.4μm、約0.6μm、約0.8μm又は約1μmであることができる。幾つかの実施形態において、ミクロポア210の平均直径は、約0.1μm~約0.6μm、より具体的には、約0.1μm~約0.2μmである。ミクロポア210は、硬化材料202の約1%以上を占めることができ(ポア面積比として測定されうる)、例えば、硬化材料202の約1%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%以上を占める。特定の実施形態において、ミクロポア210は、硬化材料202の約1%~約20%を占める。
【0067】
特定の実施形態において、硬化材料202は、マクロポーラス/ミクロポーラス構造の組み合わせを有することができ、ミクロポア210は、マクロポア206を取り囲むフッ素化コポリマーフィラメント構造204内に存在することができる。この構成において、各フッ素化コポリマーフィラメント構造は、複数のより小さなフッ素化コポリマーフィラメント構造208及びそれらの対応するミクロポア210を含む。したがって、より大きなマクロポア206は、複数のより小さなミクロポア210によって取り囲まれることができる。
【0068】
上記のように、液体組成物100は、硬化材料202の機械的特性、レオロジー、多孔性及び/又は治療効果を制御するようにカスタマイズすることができる。例えば、より低い濃度のフッ素化コポリマー102(例えば、4質量/体積%)を有する第一の液体組成物100は、より高濃度のフッ素化コポリマー102(例えば、6質量/体積%)を有する第二の液体組成物100よりも多くのボイド体積及びより大きな細孔を有する硬化材料202を生成することができる。このようにして、硬化材料202の多孔性は、液体組成物100の濃度及び他の特性を変えることによって制御することができる。
【0069】
治療剤108が液体組成物100中に存在するならば、治療剤108は、硬化材料202にも存在することができる。少なくとも最初に、治療剤108は、フッ素化コポリマーフィラメント構造204、208内に溶解され、フッ素化コポリマーフィラメント構造204、208に物理吸着又は化学吸着され、フッ素化コポリマーフィラメント構造204、208に生体共役結合され、及び/又は硬化材料202のマクロポア206及び/又はミクロポア210内に含まれることができる。時間経過とともに、治療剤108の一部又はすべては、硬化材料から患者内に分散されうる。別の実施形態において、時間経過とともに、治療剤108の一部又はすべては、硬化材料202から患者内に分散しない可能性がある。
【0070】
医療用途
硬化材料202は、異なる医療用途のために異なる治療部位にデリバリーされることができる。硬化材料202を受け入れるように構成された適切な生物学的基材Sは、患者の心臓血管系(例えば、心膜、心膜腔、心筋又は心臓の乳頭筋)、血管系(例えば、血管の内膜、中膜又は外膜)、筋肉系(例えば、骨格筋組織、心臓筋組織、平滑筋組織)及び神経系(例えば、心臓神経、末梢神経)を含めて、患者の体にわたって見出すことができる。他の適切な生物学的基材Sとしては、例えば、患者の食道、胃、肝臓、腸、脊椎、洞、脳溝、皮膚組織及び他の任意の生物学的組織又は器官が挙げられる。他の適切な生物学的基材Sとしては、例えば、器官構造及び組織構造、例えば、束、神経節、線維、筋肉束、筋周膜、筋内膜、筋外膜、筋鞘、インターカレーション、細胞外マトリックス及び任意の他の構造が挙げられる。所望の用途に応じて、硬化材料202は、基材Sを強化、支持、移動、補強、分離、単離及び/又はバルク化することができる。
【0071】
図4の例示された実施形態において、基材Sは、患者の心臓Hの壁Wである。インプラント処置されたデバイスは、アンカー端部402(例えば、らせんねじ)を有する人工コード400の形態で提供される。硬化材料202は、患者の心臓壁Wの心膜、心膜腔及び/又は心筋内などに、当該技術分野で知られている方法を使用して、患者の心臓壁W内の1つ以上の場所に導入され、堆積され、又は他の方法で適用されることができる。アンカー端部402を硬化材料202に固定することは、人工コード400と心臓壁Wとの間の接続を強化し、人工コード400に作用する引き抜き力に抵抗することができる。他の実施形態において、硬化材料202は、他の基材Sを強化するために及び/又は他のインプラント処置されたデバイスを固定するために使用されうる。
【0072】
図5の例示された実施形態において、基材Sは、患者の肥大した心臓Hの乳頭筋Pである。乳頭筋Pは、水平方向に下向きに垂れ下がりやすく(
図5に幻線で示される)、これは「テザリング」とも呼ばれる。硬化材料202は、乳頭筋Pの下に配置されて、乳頭筋Pをその法線垂直方向で動かして支持し(
図5に実線で示される)、それによって乳頭筋Pのバットレスとして機能することができる。硬化材料202は、乳頭筋Pに対して内部及び/又は外部に配置することができる。他の実施形態において、硬化材料202を使用して、他の基材Sを移動及び/又は支持することができる。
【0073】
図6の例示された実施形態において、基材Sは、半径方向及び/又は周方向の強度が低い患者の弱くなった血管壁Vである。硬化材料202は、血管壁Vの内膜、中膜及び/又は外膜内などの当該技術分野で知られている方法を使用して、血管壁V内の1つ以上の位置に導入され、堆積され又は他の方法で適用され、それによって血管壁Vを補強することができる。硬化材料202は、血管壁Vを通る血管疾患の進行を阻害することができる。幾つかの用途において、硬化材料202はまた、
図6の例示のステントグラフト600のような、血管壁Vに対してインプラント処置されたデバイスを支持することができる。他の実施形態において、硬化材料202を使用して、他の基材Sを補強することができる。
【0074】
図7の例示された実施形態において、基材Sは、患者の骨格筋Mの筋肉束Fである。硬化材料202は、1つ以上の筋肉束Fの間に配置されて、隣接する筋肉束Fを分離及び/又は単離することができる。このようにして、硬化材料202は、隣接する筋肉束F間の動き(例えば、収縮、滑り)を促進し、筋肉束Fの伸長を減少させることができる。硬化材料202はまた、隣接する筋肉束F間の瘢痕組織又は他の障害物を破壊することができる。したがって、硬化材料202は、梗塞を含む細胞外マトリックスのリモデリングを介して治癒及び肉腫形成を誘導することができる。患者の骨格筋Mが
図7に示されているが、そのような分離及び/又は単離はまた、心筋組織又は平滑筋組織において実施されうる。さらに、そのような分離及び/又は単離はまた、神経組織において、例えば、心臓神経において、筋肉束の崩壊を軽減して正常な細胞間伝導及び信号伝達を回復し、そして、末梢神経において、神経対応プロテーゼの標的としそしてインターフェース形成し、神経痛を軽減するように実施されうる。
【0075】
硬化材料202の他の用途としては、例えば、弁輪のバルク化及び偽大動脈内腔解離などの血管解離の充填が挙げられる。
【0076】
図4~7に示される用途は、本開示の様々な特徴の例として提供され、これらの図示された特徴の組み合わせは明らかに本発明の範囲内であるが、これらの例及びその図は、本明細書で提供される本発明の概念がより少ない特徴、追加の特徴、又は
図4~7に示されるそれらの機能のうちの1つ以上に対する代替特徴から限定されることを示唆することは意図されない。例えば、様々な実施形態において、
図4を参照して記載された固定特徴はまた、
図6を参照して記載された補強特徴を含むことができる。逆もまた真であることも理解されるべきである。別の例では、様々な実施形態において、硬化材料202は、治療剤108を含むことができ、時間の経過とともに、治療剤108の一部又はすべては、硬化材料202から患者内に分散することができる。別の例では、様々な実施形態において、硬化材料202は、治療剤108を含むことができ、時間の経過とともに、治療剤108の一部又はすべては、硬化材料202から患者内に分散しない。
【実施例】
【0077】
例A:テトラフルオロエチレン及び官能基を含む酢酸ビニルを含むフッ素化コポリマー(TFE-VAc)の合成
酢酸ビニル/テトラフルオロエチレン(VAc:TFE)の様々なモル比を含むコポリマーを、以下の一般的な合成スキームに従って調製した。真空下で窒素パージした1L圧力反応器に、500gのDI水、2.0gの20%水性界面活性剤、30mlの蒸留酢酸ビニル、10gのn-ブタノール及び0.2gの過硫酸アンモニウムを加えた。次に、テトラフルオロエチレンモノマーを、反応器の圧力が1500KPaに達するまで反応器に供給した。混合物を撹拌し、50℃に加熱した。圧力降下が観察されたときに、25mlの追加の酢酸ビニルをゆっくりと反応器に供給した。酢酸ビニル添加後に、圧力がさらに150KPa低下したときに反応を停止させた。コポリマーは、ラテックスエマルジョンの凍結融解凝固から得られ、メタノール/水抽出で洗浄され、空気乾燥された。
【0078】
コポリマーの組成及び分子量は以下の表1に記載されている。
【表1】
【0079】
例B:テトラフルオロエチレン及び官能基を含むアルコールを含むフッ素化コポリマー(TFE-VOH)の合成
例Aのコポリマー#100-0の酢酸ビニル基を、以下のようにビニルアルコールに加水分解した。50mlの丸底フラスコに、0.5gのコポリマー#100-0(10mlのメタノールに予備溶解)及び0.46gのNaOH(2mlのDI水に予備溶解)を加えた。混合物を撹拌し、60℃に5時間加熱した。次に、反応混合物を酸性化してpH4とし、DI水中に沈殿させ、メタノール中に溶解し、再びDI水中に沈殿させ、そして風乾した。得られた生成物はTFE-VOHのコポリマーであった。
【0080】
例C:フッ素化コポリマー液体組成物の調製
例Aのフッ素化コポリマー#100-0(TFE-VAc)及び例Bのフッ素化コポリマー(TFE-VOH)を使用して、以下の表2に従って8つの異なる液体組成物を調製した。端的には、バイアル内の生体適合性溶媒系にフッ素化コポリマーを添加し、バイアルのヘッドスペースを窒素でパージしてから蓋をし、蓋をしたバイアルを60℃の炉に入れ、蓋をしたバイアルを24時間穏やかに振盪させ、室温まで冷却させ、フッ素化コポリマー液体組成物を生成した。
【表2】
【0081】
例D:多孔性及びゲル化貯蔵弾性率に対するフッ素化コポリマー液体組成の影響
コヒーレント塊への硬化プロセス中の例Cのフッ素化コポリマー液体組成物のレオロジーを以下のように測定した。液体組成物をレオメーター(TA DHR-2, TA Instruments, New Castle, Delaware)の25mmプレート上に置き、コーンを5uN-mの応力で10rad/秒の周波数で振動モードで適用し、サンプルの貯蔵弾性率は、コヒーレント塊の硬化を開始するためにコーンプレートギャップに水が注入されたときに、1200秒の時間スウィープにわたって測定された。
【0082】
硬化したコヒーレント薄膜の形態の例Cのフッ素化コポリマー液体組成物の多孔度を以下のように測定した。約5mlの液体組成物をきれいなガラス板上に注ぎ、キャスティングナイフ(BYK, Columbia, Maryland)を液体組成物全体に引き、ガラス板を脱イオン水又は塩類溶液に少なくとも4時間浸漬し、そして取り出した。硬化したフィルムをガラス板から静かに持ち上げ、硬化したフィルムを室温で風乾して、約25μm~約100μmの厚さの乾燥硬化フィルムを製造した。
【0083】
乾燥硬化フィルムを走査型電子顕微鏡(Hitachi SU8200)下で画像化し、画像J画像分析ソフトウェア(国立衛生研究所、米国)を使用して、ボイド体積及び細孔サイズを測定するための当該技術分野で周知の方法を使用して分析した。端的には、SEM画像は約25μm2の総面積にわたって細孔についてスキャンした。細孔面積/約25μm2の総面積の比率はミクロボイド体積を構成し、細孔の平均直径はミクロポア直径を構成した。さらに、SEM画像は、約0.1mm2の総面積にわたって細孔についてスキャンした。細孔面積/約0.1mm2の総面積の比率はマクロボイド体積を構成し、細孔の平均直径はマクロポア直径を構成した。
【0084】
表3は、計算されたボイド体積、細孔サイズ及び貯蔵弾性率を提供する。データからわかるように、TFE-VAcサンプルのボイド体積及び細孔サイズは固形分含有量と負の相関があり、貯蔵弾性率は固形分含有量と正の相関があった。TFE-VOHサンプルのボイド体積及び細孔サイズは、生体適合性溶媒系にほぼ独立していたが、貯蔵弾性率はほぼ同じ大きさのままであった。
【表3】
【0085】
4つのサンプル-具体的には、サンプルP1(
図8(a)及び(b))、サンプルP2、サンプルP22(
図9(a)及び(b))及びサンプルP19は、マクロポーラス構造を有していた。これらの4つのサンプルのうち、2つのTFE-VAcサンプル-具体的には、サンプルP1(
図8(c))及びサンプルP2はまた、マクロポアを取り巻くフッ素化コポリマーフィラメント構造内にミクロポアが存在するミクロポーラス構造を有し、一方、2つのTFE-VOHサンプル-具体的にはサンプルP22(
図9(c))及びサンプルP19はマクロポーラス構造のみを有し、マクロポアを取り巻くフッ素化コポリマーフィラメント構造に追加の多孔性は見られなかった。
【0086】
表3及び
図10(a)~(e)に示されるように、固形分含有量パーセントは、TFE-VAcサンプルの多孔度に間接的な影響を及ぼした。サンプルP1は、最低のパーセント固形分含有量及び最高のマクロ多孔度を有していた(
図10(a))。サンプルP2は、サンプルP1よりも高いパーセント固形分含有量を有し、より低いマクロ多孔度を有した(
図10(b))。サンプルPP8は、サンプルP2よりも高いパーセント固形分含有量を有し、測定可能なマクロ多孔度はなく、ミクロ多孔度のみであった(
図10(c))。サンプルP4は、最高のパーセント固形分含有量及び最低のマクロ多孔度及びミクロ多孔度を有していた(
図10(e))。
【0087】
表3及び
図11(a)~(b)に示されるように、フッ素化コポリマータイプも多孔度に影響を与えた。サンプルP3は10%のTFE-VAc固形分を含み、約0%のマクロ多孔度及び0.5%のミクロ多孔度(
図11(a))を示し、一方、サンプルP22は10%のTFE-VOH固形分を含み、44%マクロ多孔度(
図11(b))を有し、測定可能なミクロ多孔度はなかった(
図9(c))。
【0088】
表3及び
図12及び
図13に示されるように、固形分含有量は貯蔵弾性率に直接影響を与えた。サンプルP4は、高いパーセント固形分含有量及び高い弾性率を有していたが、一方、サンプルP1は、低いパーセント固形分含有量及び低い弾性率を有していた。フッ素化コポリマータイプも貯蔵弾性率に影響を与えた。10%のTFE-VAc固形物を含むサンプルP3の貯蔵弾性率は、10%のTFE-VOHを含むサンプルP22よりも約2桁高い貯蔵弾性率を有していた。
【0089】
例E:TFE-VOHの注入可能な製剤の調製
例BのTFE-VOHを、80℃でプロピレングリコール中に、約48~72時間穏やかに振とうしながら溶解させた。リン酸緩衝塩類溶液(Invitrogen)を60:40のv/vの濃度で70℃にて約24時間穏やかに振とうしながら添加し、8%w/vのTFE-VOHを含む注入可能な製剤を形成した。
【0090】
例F:TFE-VOHの溶液を含む滅菌予備充填シリンジの調製
例Eの注射可能な製剤を、3mlの滅菌使い捨てルアーロックシリンジ(Beckton-Dickinson)に、1.5mlマークまで引き込んだ。次に、シリンジをルアースレッドキャップ(ThermoFisher)でシールした。蓋をしたシリンジを蒸気滅菌した。滅菌及び冷却後に、滅菌針を予備充填シリンジに取り付けた。結果として、TFE―VOHの溶液を含む滅菌予備充填シリンジとなった。
【0091】
例G:TFE-VOHを含む多孔質硬化材料の骨格筋へのインビボ注入
例Fの滅菌予備充填シリンジからのTFE―VOH溶液を、筋線維にほぼ平行に針挿入を向けて、棘筋に注入した。製剤をその場で2時間硬化させた後に、棘筋をH&E組織検査で評価した。
【0092】
図14は、注射部位14-102の境界における筋肉14-100の構造を示している。注入されなかった筋肉14-106は正常な組織構造を示した。TFE-VOHが注入された筋肉14-104は、筋内膜の周囲にTFE-VOHポリマーが存在し、個々の筋細胞を分離していることが観察された。
【0093】
例H:TFE-VOHを含む多孔質硬化材料の骨格筋へのインビボインプラント処置
標的筋肉の厚さ及びその筋線維の配向を検証するために、超音波(Vivid IQ; 35フレーム/秒、周波数4.0/8/0 MHz、深さ2.5cm)を使用して筋肉を事前にスキャンした。
【0094】
超音波ガイダンスを使用して、例Fの滅菌予備充填シリンジからの針を筋線維に平行に向けた。シリンジの内容物を5秒間にわたって注入した。製剤を1時間硬化させた。筋肉をH&E組織検査及び凍結切片組織検査について評価した。
【0095】
図15は、注入されたTFE-VOHに対する筋肉15-100の治癒反応をH&E組織検査によって評価して示している。筋細胞の変性/再生を伴う最小から軽度の炎症反応が観察され、筋周膜と筋外膜との空間15-102が拡大した。対照的に、塩類溶液を用いた対照注射は、筋周膜又は筋外膜の空間の拡大も示さなかった。
【0096】
図16は、凍結切片組織検査によって評価した、筋肉16-100におけるTFE―VOHの構造を示している。TFE-VOH16-102は、個々の筋肉束16-104が流れて分離していることが観察され、拡張された筋周膜及び筋外膜の空間16-106でしばしば確認された。対照的に、塩類溶液を用いた対照注射は、筋肉束の分離も、筋周膜又は筋外膜の空間の拡大も示さなかった。
【0097】
本出願の発明は、一般的に及び特定の実施形態に関しての両方で上記に記載されてきた。本開示の範囲から逸脱することなく、実施形態において様々な変更及び変形を行うことができることは、当業者に明らかであろう。したがって、実施形態は、それらが添付の特許請求の範囲及びそれらの均等形態の範囲内に入るかぎり、本発明の変更及び変形を網羅することが意図されている。以下、本発明の態様を列挙する。
[態様1]
テトラフルオロエチレン部分と、アセテート、アルコール、アミン及びアミドから選ばれる少なくとも1つの官能基を有するビニル部分とを有するフッ素化コポリマーを含む複数のフィラメント構造を含んでなる多孔質材料であって、該フィラメント構造が協働して、1μmより大きな平均直径を有し、かつ、少なくとも20%のボイド体積を占める複数のマクロポアを画定していることを特徴とする、多孔質材料。
[態様2]
前記マクロポアの平均直径が15μm~45μmである、態様1記載の多孔質材料。
[態様3]
前記マクロポアの平均直径が17μm~44μmである、態様2記載の多孔質材料。
[態様4]
前記マクロポアは20%~80%のボイド体積を占める、態様1~3のいずれか1項記載の多孔質材料。
[態様5]
前記マクロポアは34%~80%のボイド体積を占める、態様4記載の多孔質材料。
[態様6]
前記マクロポアの平均直径が、少なくとも0.5mmの厚さにわたって均一である、態様1~5のいずれか1項記載の多孔質材料。
[態様7]
前記フッ素化コポリマーは、ポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ビニルアセテート)(TFE-VAc)及びポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ビニルアルコール)(TFE-VOH)のうちの1つである、態様1~6のいずれか1項記載の多孔質材料。
[態様8]
前記フッ素化コポリマーは、テトラフルオロエチレン部分のモル含有量が15.5%~23.5%であり、かつ、ビニル部分のモル含有量が76.5%~84.5%である、態様1~7のいずれか1項記載の多孔質材料。
[態様9]
各フィラメント構造は複数のミクロポアを含む、態様1~8のいずれか1項記載の多孔質材料。
[態様10]
前記ミクロポアは、1μm以下の平均直径を有し、かつ、少なくとも1%のボイド体積を占める、態様9記載の多孔質材料。
[態様11]
前記ミクロポアは、0.1μm~0.6μmの平均直径を有し、かつ、1%~20%のボイド体積を占める、態様9又は10記載の多孔質材料。
[態様12]
前記フィラメント構造内に溶解されたか、前記フィラメント構造に物理吸着もしくは化学吸着されたか、前記フィラメント構造に生体共役結合されたか、又は、前記マクロポア内に含まれた、少なくとも1つの治療剤をさらに含む、態様1~11のいずれか1項記載の多孔質材料。
[態様13]
前記多孔質材料は生物学的基材に導入、堆積又は適用される、態様1~12のいずれか1項記載の多孔質材料。
[態様14]
前記複数のマクロポアは相互接続されている、態様1~13のいずれか1項記載の多孔質材料。
[態様15]
前記多孔質材料は、フッ素化コポリマー、生体適合性溶媒系及び治療剤から本質的になる製剤から形成されている、態様1~14のいずれか1項記載の多孔質材料。
[態様16]
生体適合性溶媒系、及び
該生体適合性溶媒系に2質量/体積%~20質量/体積%の濃度で溶解されたフッ素化コポリマー、
を含んでなる製剤であって、
該フッ素化コポリマーは、テトラフルオロエチレン部分と、アセテート、アルコール、アミン及びアミドから選ばれる少なくとも1つの官能基を有するビニル部分とを含み、
該生体適合性溶媒系は、体液と接触すると該フッ素化コポリマーから拡散して多孔質塊を残すように構成されている、製剤。
[態様17]
前記多孔質塊は、50Pa~500,000Paのゲル化貯蔵弾性率を有する、態様16記載の製剤。
[態様18]
前記生体適合性溶媒系は水を含む、態様16又は17記載の製剤。
[態様19]
治療剤をさらに含む、態様16~18のいずれか1項記載の製剤。
[態様20]
前記製剤は、フッ素化コポリマー、生体適合性溶媒系及び治療剤から本質的になる、態様19記載の製剤。
[態様21]
前記治療剤は、造影剤、タンパク質、ペプチド、抗凝固剤、血管細胞増殖阻害剤、プロテインキナーゼ及びチロシンキナーゼ阻害剤、鎮痛剤、抗炎症剤、細胞、哺乳動物細胞、真核生物、原核生物、体細胞、生殖細胞、赤血球、血小板、ウイルス、プリオン、DNA、RNA、ベクター、細胞画分、ミトコンドリア、抗腫瘍剤/抗増殖剤/抗有糸分裂剤及び麻酔剤から選ばれる、態様19又は20記載の製剤。
[態様22]
前記生体適合性溶媒系は、酢酸、アセトン、アニソール、1-ブタノール、2-ブタノール、酢酸ブチル、tert-ブチルメチルエーテル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、酢酸エチル、エチルエーテル、ギ酸エチル、ギ酸、ヘプタン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸メチル、3-メチル-1-ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-メチル-1-プロパノール、ペンタン、1-ペンタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、酢酸プロピル、酢酸メチル、トリエチルアミン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシドのうちの少なくとも1つを含む、態様16~21のいずれか1項記載の製剤。
[態様23]
生物学的基材及び体液を含む治療部位に、態様16~22のいずれか1項記載の製剤を注入すること、及び
前記生体適合性溶媒系を前記フッ素化コポリマーから体液に拡散させることによって多孔質塊を形成すること、ここで、前記多孔質塊は、1μmより大きな平均直径を有し、かつ、前記多孔質塊の少なくとも20%のボイド体積を占める複数のマクロポアを画定するように協働する複数のフィラメント構造を含む、
を含む、方法。
[態様24]
前記生物学的基材は、患者の心臓、血管、食道、胃、肝臓、腸、脊椎、洞、脳溝、皮膚組織、骨組織、筋肉組織、神経組織、束、線維、神経節、筋肉束、筋周膜、筋内膜、筋外膜、筋鞘、インターカレーション又は細胞外マトリックスから選ばれる、態様23記載の方法。
[態様25]
インプラント処置されたメディカルデバイスを前記多孔質塊に固定することをさらに含む、態様23又は24記載の方法。
[態様26]
前記治療部位は患者の乳頭筋の下にある、態様23又は24記載の方法。
[態様27]
前記治療部位は患者の血管壁内にある、態様23又は24記載の方法。
[態様28]
前記治療部位は、患者の隣接する器官構造又は組織構造の間にある、態様23又は24記載の方法。
[態様29]
注入工程の間に、前記製剤は治療剤を含み、そして、
形成工程の間に、前記治療剤は、前記フィラメント構造内に溶解され、前記フィラメント構造に物理吸着又は化学吸着され、前記フィラメント構造に生体共役結合され、又は、前記マクロポア内に含まれている、態様23~28のいずれか1項記載の方法。
[態様30]
生物学的基材及び体液を含む治療部位に製剤を注入すること、ここで、該製剤は、
生体適合性溶媒系、及び、
該生体適合性溶媒系に2質量/体積%~20質量/体積%の濃度で溶解されたフッ素化コポリマー、ここで、該フッ素化コポリマーは、テトラフルオロエチレン部分と、アセテート、アルコール、アミン及びアミドから選ばれる少なくとも1つの官能基を有するビニル部分とを含む、
を含む、
該生体適合性溶媒系を該フッ素化コポリマーから体液に拡散させることによって多孔質塊を形成すること、ここで、該多孔質塊は、1μmより大きな平均直径を有し、かつ、該多孔質塊の少なくとも20%のボイド体積を占める複数のマクロポアを画定するように協働する複数のフィラメント構造を含む、及び、
インプラント処置されたメディカルデバイスを該多孔質塊に固定すること、
を含む、方法。
[態様31]
患者の隣接する器官構造又は組織構造の間にありそして体液を含む治療部位に製剤を注入すること、ここで、該製剤は、
生体適合性溶媒系、及び、
該生体適合性溶媒系に2質量/体積%~20質量/体積%の濃度で溶解されたフッ素化コポリマー、ここで、該フッ素化コポリマーは、テトラフルオロエチレン部分と、アセテート、アルコール、アミン及びアミドから選ばれる少なくとも1つの官能基を有するビニル部分とを含む、
を含む、及び、
該生体適合性溶媒系を該フッ素化コポリマーから体液に拡散させることによって多孔質塊を形成すること、ここで、該多孔質塊は、1μmより大きな平均直径を有し、かつ、該多孔質塊の少なくとも20%のボイド体積を占める複数のマクロポアを画定するように協働する複数のフィラメント構造を含み、該多孔質塊は患者の隣接する器官構造又は組織構造を分離する、
を含む、方法。