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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】耐熱アルミニウム粉末材料
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20240610BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240610BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240610BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20240610BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20240610BHJP
   B22F 10/38 20210101ALI20240610BHJP
   B22F 10/64 20210101ALI20240610BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240610BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240610BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240610BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240610BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20240610BHJP
【FI】
C22C21/00 N
B22F1/00 N
B22F1/052
B22F9/08 A
B22F10/28
B22F10/38
B22F10/64
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
C22F1/00 621
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 682
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/04 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022535623
(86)(22)【出願日】2020-11-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 RU2020050339
(87)【国際公開番号】W WO2021133227
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】2019144429
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】521365037
【氏名又は名称】オブシュチェストボ・エス・オグラニチェノイ・オトベツトベノスティウ“オベディネナヤ・コンパニヤ・ルサール・インツェネルノ-テフノロギチェスキー・ツェントル”
【氏名又は名称原語表記】OBSHCHESTVO S OGRANICHENNOY OTVETSTVENNOST’YU OBEDINENNAYA KOMPANIYA RUSAL INZHENERNO-TEKHNOLOGICHESKIY TSENTR
【住所又は居所原語表記】UL.POGRANICHNIKOV,D.37,STR.1,G.KRASNOYARSK,660111,RUSSIA
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【弁理士】
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】マン、ビクトル・フリスティアノビッチ
(72)【発明者】
【氏名】クロヒン、アレクサンドル・ユーレビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ルイアボフ、ドミトリー・コンスタンティノビッチ
(72)【発明者】
【氏名】バフロモフ、ローマン・オレゴビッチ
(72)【発明者】
【氏名】コロレフ、ウラジミール・アレクサンドロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ミハイロフ、イバン・ユーレビッチ
(72)【発明者】
【氏名】セフェリアン、アレクサンドル・ガレギノビッチ
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-184659(JP,A)
【文献】特開2017-066432(JP,A)
【文献】特開平05-093205(JP,A)
【文献】特開2008-255461(JP,A)
【文献】特開平04-107236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
B22F 1/00-12/90
C22F 1/00- 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品を製造するためのアルミニウム合金粉末であって、
ニッケル、マンガン、鉄、ジルコニウム、セリウムと、銅、マグネシウム、亜鉛の群からの少なくとも1種の元素、およびケイ素、カルシウムの群からの少なくとも1種の元素を下記の組成(重量%):
ニッケル 2.5~5.5
マンガン 1.0~3.5
鉄 0.15~2.0
ジルコニウム 0.2~1.0
セリウム 0.05~0.4
銅、マグネシウム、亜鉛を含む群からの少なくとも1種の元素 合計で0.05~1.5、ならびに
ケイ素、カルシウムを含む群からの少なくとも1種の元素 合計で0.1~2.0
アルミニウムおよび不可避不純物 残部
で含有し、ニッケル、マンガンおよび鉄の含有量が条件Ni>Mn+Feを満たし、前記合金が、AlNi、Al16MnNiおよびAlFeNiの熱的に安定している1種以上の共晶相と、AlZr型の分散質とを含有し、これらのことが、印刷または内部応力を緩和するためのアニーリング後に結果として得られる製品に、少なくとも370MPaの引張強度を確保する、アルミニウム合金粉末。
【請求項2】
10~150μmの範囲内の粒径分布を有することを特徴とする、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
付加製造技術を使用してアルミニウム合金粉末から製品を製造する方法であって、請求項1または2に記載のアルミニウム合金粉末を使用することを特徴とする、方法。
【請求項4】
製品が少なくとも1000K/sの凝固速度で製造されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冶金の分野に関し、即ち、付加製造技術を用いた部品の製造に使用されるアルミニウム合金をベースとする材料、およびそれから作製される粉末に関する。
【0002】
付加製造技術、または多層溶融の技術は、現在、3D印刷のためのデジタル製造の先端分野である。いくつかのタイプの付加製造技術が公知であり、これらのそれぞれは、異なる生産目的に使用されている。例えば、これらの技術は、航空宇宙工学において、とりわけ頑丈な製品を創出するために金属部品の製造に使用されている。主な利点は、製造の速度と精度、供給原料の節約、および廃棄物の削減である。
【0003】
付加製造技術の中には、金属粉末を供給原料として使用して、様々な部品を製造するものがある。同時に、機械製造およびエンジン製造産業の一部の製品の個々の部品は、動作の過程で加熱されるため、耐熱特性を高めた材料を使用する必要がある。
【0004】
アルミニウム粉末の3D印刷は、材料をそれ自体で多層溶融堆積させるもので、高速冷却と組み合わされている。そのため、良好な鋳造特性を有し、高温割れを形成しにくく、固液状態で良好な延性を有する材料を使用する必要がある。
【0005】
付加製造技術に使用される最も普及したアルミニウム合金は、粉末形態のAlSi10Mgであり、例えば、https://www.3dsystems.hu/content/pdf/3D-Systems_Laserform_AlSi10Mg(A)_DATASHEET_A4-us_2018.03.20_WEB.pdfを参照されたい。
【0006】
合金は、9~11%のケイ素と、0.2~0.5%のマグネシウムを含有してもよい。
【0007】
組成物中のケイ素の存在により、良好な鋳造特性と、高温割れの非発生が担保されるため、印刷過程において高品質の構造の形成がもたらされ、一方、マグネシウムの添加は、強度を向上させる。このような場合、内部応力緩和アニーリング後の材料の機械的特性のレベルは、320MPaを超えることはない。作動温度の上昇は強度をかなり低下させるため、この材料を長時間高温で使用することはできない。
【0008】
下記の成分(重量%):
銅 5.8~6.8
マンガン 0.2~0.4
ジルコニウム 0.1~0.25
鉄 0.3以下
ケイ素 0.2以下
バナジウム 0.05~0.15
チタン 0.02~0.1
亜鉛 0.1以下
マグネシウム 0.02以下
不純物 元素 0.15以下
残部はアルミニウム
を含む耐熱性を高めたアルミニウム合金2219が公知であり、例えば、https://www.makeitfrom.com/material-properties/2219-AlCu6Mn-A92219-Aluminumを参照されたい。
【0009】
この合金は十分な鋳造特性を有し、溶接可能である。主な合金化元素は銅であり、時効の過程でAlCu型分散質を形成し、これが効果的な強化剤となる。
【0010】
このため、この合金は、最大の性能を確保するには、焼き入れとその後の人工時効を必要とする。同時に、250℃超える温度では、強化相の凝固のために材料の強度がかなり低下し、そのため、250℃の温度での構造物における長期使用は不可能である。加えて、この合金は、付加製造技術を用いた印刷に使用してもよいが、印刷中に高温割れを形成しやすい。例えば、https://www.wlt.de/lim/Proceedings/Stick/PDF/Contribution146_final.pdfを参照されたい。
【0011】
粒径が20~90μmの粉末として従来の粉末冶金用途に使用され、下記の質量分率(重量%):
ケイ素 10~30
鉄 1~5
ニッケル 2~8
銅 0.2~5
マグネシウム 0.2~5
以下を含む群からの少なくとも1種の元素:
マンガン 0.1~2
ジルコニウム 0.2~2
クロム 0.05~0.4
Fe/Ni比は、1:1.25~1:1.2の範囲内である
の成分を含む耐熱特性を高めたアルミニウム材料(特許JP3845035号、2006年11月15日)が公知である。
【0012】
残部はアルミニウムである。
【0013】
この合金は、多量の遷移金属、例えばニッケル、鉄およびマンガンのため、熱安定性の高い金属間化合物を形成し、元素、例えばジルコニウムおよびクロムとのさらなる合金化が、熱処理中に分散質を形成することで強度のさらなる向上を可能にする。同時に、材料中のケイ素の含有量が高く、一般的な過剰合金化のために、金属間相の含有量が高く、それが延性の極端な低下をもたらし、高い内部応力のために印刷中に割れの形成を引き起こすため、この合金を印刷に使用することはできない。
【0014】
0.1~2.5重量%のマンガンと5.5~7.0重量%のニッケルを含有し、残部がアルミニウムおよび不可避不純物元素である、高温での強度が良好なアルミニウム合金が公知である(JPH02295640、1990年12月06日)。
【0015】
この合金は、良好な鋳造特性と、高温での高い強度を有するが、変形時の転位の移動を防げる小さな分散質を持たないため、室温での強度は低い。
【0016】
良好な鋳造特性と高い装飾的特性を有するアルミニウム鋳造合金(WO2010083245、2010年7月22日)が公知であり、この合金は、下記の成分(重量%):
ニッケル 6.6~8.0
マンガン 0.5~3.5
鉄/ケイ素 それぞれ0~0.25
銅/亜鉛/マグネシウム それぞれ0~0.5
チタン/ジルコニウム/スカンジウム それぞれ0~0.2
ホウ素/炭素を0.1%を超えない量で添加してもよい
を含む。
【0017】
残りの元素は0.05%を超えず、微量元素の総含有量は0.15%超えてはならず、残部はアルミニウムである。
【0018】
組成中に共晶形成元素(マンガンおよびニッケル)が存在するため、材料は、良好な鋳造特性を有し、高温割れが発生する傾向が小さい。また、これらの相は熱的に安定しており、経時的に強い凝固も起こしにくい。この合金の欠点は、アニーリング(時効)の過程中に分散質を形成する元素の濃度が低いことに起因する低い強度、および重合金化元素の量が多いいことに起因する大きい比重であり、このことは、完成部品の特定の特性を低下させる。
【0019】
良好な鋳造特性と、高い作動温度を有するアルミニウム合金(WO2015144387、2015年10月1日)が公知であり、合金は、下記の成分(重量%):
ニッケル 1~6
マンガン 1~5
ジルコニウム 0.1~0.4
バナジウム 0.1~1
タングステンおよび/またはモリブデン 0.1~1.0
鉄 2以下(任意)
チタン 1以下(任意)
マグネシウム 2以下(任意)
ケイ素 0.5以下(任意)
銅 0.5以下(任意)
亜鉛 0.5以下(任意)
ストロンチウム、スカンジウム、ランタン、イットリウム、ハフニウム、ニオブ、タンタルおよび/またはクロムの群からの遷移金属- 5%以下(任意)。
を含む。
【0020】
残部はアルミニウムおよび不可避不純物元素である(不純物元素の体積は1%を超えない)。
【0021】
多数の共晶が形成されるため、材料は良好な鋳造特性を有し、タングステン、モリブデンおよび遷移金属のうちからの金属を導入することで、高温での高い強度が形成される。しかし、大きな欠点は、それらの元素の量が過剰になると、延性の喪失につながり、高い内部応力のために適正な品質での材料の印刷ができなくなることである。さらに、タングステン、モリブデン、スカンジウムなどの元素は非常に高価なため、完成品のコストが大幅に上昇する。
【0022】
請求項に係る解決策に最も近いのは、出願公開JPH04107236(A)、1992年4月08日、C22C21/00による発明であり、下記の質量分率(重量%):
マンガン 1.5~2.5
ニッケル 0.5~3.0
鉄 0.2~0.8
ケイ素 0.2~0.8
銅 0.4~1.0
マグネシウム 0~0.3
ホウ素 0.0005~0.005
クロム 0.05~0.25
ジルコニウム 0.05~0.25
残部はアルミニウムである
の成分を含む耐熱アルミニウム合金を開示する。
【0023】
この合金は、強度が向上し、鋳造またはろう付け時の加工性が高く、温度上昇に伴う強度劣化の割合が低いことを特徴とする。しかし、合金化材料の含有量が少ないため、十分な量の鋳物由来の金属間化合物および分散質が存在せず、強度の向上は担保されない。
発明の簡単な説明
本発明の技術的目的は、付加製造技術を使用した部品の製造に粉末の形態で使用される新しい耐熱アルミニウム材料であって、印刷時に良好な加工性を有し、印刷後の室温での強度特性が向上(最大抗張力350MPa以上)し、内部応力を緩和するためのアニーリング後も強度が有意に減少しない材料の開発である。また、材料は、300~350℃以下の温度で性能特性を維持しなければならない。
【0024】
技術的成果は、設定された課題の解決と、示された利点の達成である。
【0025】
設定された課題を解決し、示された利点を達成するため、下記の成分含有量(重量%)
ニッケル 2.5~5.5
マンガン 1.0~3.5
鉄 0.15~2.0
ジルコニウム 0.2~1.0
セリウム 0.05~0.4
銅、マグネシウム、亜鉛を含む群からの少なくとも1種の元素 合計で0.05~1.5、ならびに
ケイ素、カルシウムを含む群からの少なくとも1種の元素 合計で0.1~2.0
アルミニウムおよび不可避不純物 残部
の新しい耐熱アルミニウム合金が提案される。
【0026】
加えて、合金中のニッケル、マンガンおよび鉄の含有量の比を以下:
Ni>Mn+Fe
に維持することが特に有利である。
発明の詳細な説明
合金にニッケルとマンガンを導入すると、高マンガン含有量では、共晶相、例えばAlNiまたはAl16MnNiの形成により、印刷時の材料の十分な加工性が確保される。材料中の共晶の含有量が高いと、十分な流動性と、印刷時の高温割れの形成や急速な結晶化に対する耐性が確保される。また、凝固中に生じる相は、高い熱安定性を有し、高温で材料の組織と強度を保持する。冷却速度が高いと、マンガンもアルミニウム中に過飽和固溶体を形成し、それは、強度の上昇をほとんど伴わずに分解する可能性がある。鉄の導入は、多くの金属間相の形成により高温でのさらなる強化につながる。付加製造技術の特徴である高い凝固速度を考慮し、高温での強度特性の向上と同時に延性指標の保持を可能にするコンパクトな形態で形成される多数の相を形成するためにニッケル含有量を増やしている。指定された量のジルコニウムの添加は、公知の改質効果により粒度を低下させるために必要である。また、アルミニウムに対するジルコニウムの溶解度が可変であることを考慮すると、さらなる熱処理中にAlZr型の分散質が形成され、室温でのさらなる強化が確保され、アニーリングの過程での材料の強度特性の保持が可能となる。これらの分散質は、高い安定性のために、350℃以下の作業温度でそのサイズを保持する。この範囲の上限は、ジルコニウムの濃度をさらに上昇させると完全溶融温度が950℃を超えて上昇し、粉末を噴霧化する前に溶融物を加熱し過熱するための余分なコストが必要となるという事実に関連する。
【0027】
指定された範囲で鉄を導入すると、組織内のAlFeNi型の球形粒子の存在が確保され、それは、延性特性を悪化させず、温度上昇に伴う強度の低下率も低く抑えられる。さらに、鉄は、材料の熱間引裂特性を悪化させず、そのため、印刷時の十分な加工性の保持を可能にする。
【0028】
合金中のニッケル、鉄およびマンガンの含有量の比率の条件は、Ni>Mn+Feでなければならず、そうすると、印刷のための材料の強度と延性特性の最適な組み合わせが実現される。マンガンと鉄の含有量が過剰であると、鉄とマンガンに基づく金属間相が過剰に形成されるため、材料は相対伸びと降伏応力の値が低下し、効果的な強化が確保されない。
【0029】
セリウムは、鉄含有相に溶解するか、印刷の過程において、結晶粒の境界に沿って生じやすい、より好ましい形態を有する鉄との三元相を形成できるため、鉄の悪影響を部分的に排除するために導入される。ここで、組成物中のセリウムの存在は、相凝固速度を低下させ、したがって、組織の熱安定性を向上させる。
【0030】
銅、マグネシウムおよび亜鉛の群からの元素は、高温および室温でアルミニウムマトリックスに良好に溶解し、急速凝固中に過飽和固溶体を形成する傾向がある。濃度が低いと、これらの元素は、アルミニウムマトリックスの固溶体強化を確実なものとする。この効果は、材料の加熱および熱処理とは関係なく持続し、これらの元素の含有量は、室温でのアルミニウム中の元素の平衡濃度を大きく超えないように選択された。これらの元素の含有量が増加すると、結晶化間隔の拡大と印刷過程での亀裂形成につながる。
【0031】
ケイ素およびカルシウムの群からの元素は、追加の共晶相を形成し、それが印刷時の加工性を向上させる。また、これらの元素は低密度であるため、材料の密度を低下させ、比強度特性の向上につながる。
【0032】
ホウ素は、溶融物を調製する高温でジルコニウムと反応して固溶体中のジルコニウムの濃度を低下させる難溶性ホウ化物を形成するため、ホウ素の添加は合金の組成から除外されている。さらに、これらのホウ化物は、噴霧化温度でも固体状態のままであり、そのため、粉末の品質を低下させる。
【0033】
ジルコニウムの濃度が高いほどクロムベースの金属間化合物よりも効率的な強化が確保されるため、クロムの添加も除外されている。また、ジルコニウムの含有量を増やすと、ジルコニウムとは対照的に材料の延性特性を低下させる元素、例えばモリブデンまたはタングステンの追加導入の必要が排除される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、例1の通りにガス流での溶融物の噴霧化により製造された、請求項に関わる合金に由来する粉末粒子である。
図2図2は、プラットフォーム上で印刷された立方体である
図3図3は、光学顕微鏡での材料組織の画像(A、B、C、D、E、F)である。
【0035】
[発明の態様の例]
例1
表1に従う様々な組成のアルミニウム合金の粉末を、ガス噴霧化技法により製造した。
【0036】
溶融物をガス加熱炉で調製した。調製には、GOST11069-2001によるグレードA8のアルミニウム、GOST804-93によるグレードMG90のマグネシウム、GOST859-2001によるグレードM1の銅、GOST2169-69によるグレード4001のケイ素、Mn80F20およびNi80F20合金タブレット、ならびに残りの元素の二元マスター合金を使用した。
【0037】
溶融物を調製し、その化学組成を制御した後、合金を平衡液相線に関して少なくとも100℃高い温度に過熱し、次いで、制御された酸化を確実にするため、0.8%を超えない量の酸素を添加した窒素中で噴霧化した。
【0038】
結果として得られた粉末をふるいにかけ、D50=40±3μmの画分を分離した。走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した粉末の写真を図1に示す。
【0039】
粉末の選択的レーザー溶融を、EOS M290(https://www.eos.info/eos-m290)を使用してアルゴン環境で行った。試験のため、長さ80mm、直径12mmの円筒を印刷し、その後、機械加工した。
【0040】
【表1】
【0041】
造形方向と平行に成長させたサンプルの室温引張試験を、GOST1497の要件に従い行った。熱処理(内部応力緩和のためのアニーリング)を、強制空気循環型炉において、アルミニウム合金に典型的な250℃乃至300℃の温度で行った。
【0042】
印刷後の伸長試験の結果を表2に示し、アニーリング後の伸長試験の結果を表3に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
表の比較から、指定範囲では、提案された材料は印刷直後は強度特性が向上しており、さらに、内部応力を緩和するためのアニーリング時でも、強度劣化の傾向が低いことが明らかである。
【0046】
例2
表4に示す化学組成を有するアルミニウム合金から、先の例に記載の技術を使用して粉末を製造したが、窒素の代わりに高純度アルゴンを使用した。これらの合金の主な違いは、ニッケル、マンガン、および鉄の比率である。
【0047】
【表4】
【0048】
EOS M290 3Dプリンタを選択的レーザー溶融法に使用した。印刷後の残留応力を低減するため、300℃でアニーリングを実施した。寸法が10×10×10mmの立方体を空隙率を判定するためのサンプル(図2)として使用し、そのサンプルから、GOST1497の要件に従って引張試験を遂行するために円筒を切り出した。空隙率は、化学エッチングを行わずにコロイド混合物を使用して研磨した後の検鏡用薄切片を使用して判定した。
【0049】
組織の画像を図3に示す。画像からわかるように、比率に関係なく、材料の空隙率
は0.09~0.21体積%であり、組織中に高温割れは見られなかった。
【0050】
また、表5は、各合金についてのアニーリング後の室温での引張試験の結果を示す。
【0051】
【表5】
【0052】
表5の分析からわかることであるが、マンガンと鉄の元素の合計がニッケルの含有量より多い場合、材料は、相対伸びの指標の25~40%低下によって特徴付けられ、これは、材料の延性の低下の間接的な証拠となる。より脆弱な材料は、交互に荷重がかかる条件では性能が低下し、それは、印刷製品の性能にとっては望ましいことではない。さらに、鉄とマンガンの含有量が増加すると、降伏強度が10%低下する。これらの効果は、材料中の相の比率の変化によって説明される。鉄とマンガンの濃度の上昇は、追加の相の形成につながり、その量のために、延性の指標が低下する。また、マンガンと鉄を含む相は、少量のニッケルを結合することができ、それがAlNi型の相よりも強化効果が低い相の形成につながる。
【0053】
この点で、ニッケル含有量は鉄とマンガンの含有量の合計よりも多くなければならないという条件を満たすことが特に有利となる。
【0054】
例3
表6に従う化学組成の粉末である。粉末は、0.3%の酸素を添加した窒素の環境において、液相線温度より80度高い温度で噴霧化することにより製造した。粉末をふるいにかけ、+15\-63μmの画分を分離した。
【0055】
【表6】
【0056】
EOS M290 3Dプリンタを選択的レーザー溶融法に使用した。印刷過程はアルゴン環境において実施し、粉末表面のレーザービーム走査速度は400~1200mm/s、レーザー出力は280~320Wであった。最大層厚は45μmであった。使用した製品は、直径12~30mm、長さ80mmの円筒24個であった。印刷過程の最後に製造した製品を機械加工して、GOST1497(室温での試験用)およびGOST9651(高温での試験用)の要件に適合する引張試験用のサンプル形状を得た。機械加工の前に、レーザービームでの溶融後の高い(1000K/sを超える)冷却速度に関連する印刷時の内部応力を緩和するために、製品をアニーリングした。引張試験の結果を表7に示す。
【0057】
【表7】
【0058】
試験の結果から明らかであるが、提案された材料は、加熱時の強度の低下率が低く、これは、その組織中に最適な量の難溶融性の熱的に安定した相が存在すること、および印刷時の加工性が良好で、細孔の形態の欠陥が最小限であり、高温割れのない製品の印刷が可能であることと関連している。
【0059】
記載された説明および例に従い、法的保護の範囲は、下記の主題に求められる:
アルミニウム合金粉末であって、
ニッケル、マンガン、鉄、ジルコニウムを含有し、これに加えて、銅、マグネシウム、亜鉛の群からの少なくとも1種の元素、およびケイ素、カルシウムからの群からの少なくとも1種の元素を、下記の組成(重量%):
ニッケル 2.5~5.5
マンガン 1.0~3.5
鉄 0.15~2.0
ジルコニウム 0.2~1.0
セリウム 0.05~0.4
銅、マグネシウム、亜鉛を含む群からの少なくとも1種の元素 合計で0.05~1.5、ならびに
ケイ素、カルシウムを含む群からの少なくとも1種の元素 合計で0.1~2.0
アルミニウムおよび不可避不純物 残部
で含有することを特徴とし、合金中のニッケル、マンガンおよび鉄の含有量が条件Ni>Mn+Feを満たし、このことが、印刷のための材料の強度と延性特性の最適な組み合わせを確保する、アルミニウム合金粉末。
【0060】
粉末は、好ましくは、10~150μmの範囲内の粒径分布、最も好ましくは10~63μmの範囲内の粒径分布を有する。粉末は、窒素またはアルゴンの環境におけるガス噴霧化、および0.1~0.8重量%の量の酸素を添加した窒素またはアルゴンの環境におけるガス噴霧化によって製造することができる。
【0061】
また、請求項に係るのは、付加製造技術を使用して製品を製造する方法であって、提案されたアルミニウム粉末材料を使用することを特徴とする、方法である。
【0062】
請求項には、アルミニウム合金粉末であって、ニッケル、マンガン、鉄、ジルコニウムを含有し、これに加えて、銅、マグネシウム、亜鉛の群からの少なくとも1種の元素、およびケイ素、カルシウムの群からの少なくとも1種の元素を、下記の組成(重量%):
ニッケル 2.5~5.5
マンガン 1.0~3.5
鉄 0.15~2.0
ジルコニウム 0.2~1.0
セリウム 0.05~0.4
銅、マグネシウム、亜鉛を含む群からの少なくとも1種の元素 合計で0.05~1.5、ならびに
ケイ素、カルシウムを含む群からの少なくとも1種の元素 合計で0.1~2.0
アルミニウムおよび不可避不純物 残部
で含有し、
合金中のニッケル、マンガンおよび鉄の含有量が条件Ni>Mn+Feを満たし、このことが、印刷のための材料の強度と延性特性の最適な組み合わせを確保する、アルミニウム合金粉末から作られた製品も含まれる。
【0063】
示したアルミニウム粉末合金から作られた製品が、1000K/s以上の凝固速度で製造され、印刷または応力緩和アニーリング後に室温で少なくとも370MPaの最大抗張力を有することは、合理的である。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F