(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】熱線反射用光学体
(51)【国際特許分類】
G02B 5/00 20060101AFI20240610BHJP
G02B 5/04 20060101ALI20240610BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240610BHJP
E06B 9/24 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
G02B5/00 Z
G02B5/04 A
G02B5/18
E06B9/24 E
(21)【出願番号】P 2023036851
(22)【出願日】2023-03-09
(62)【分割の表示】P 2018186824の分割
【原出願日】2018-10-01
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2017194943
(32)【優先日】2017-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】太田 栄治
(72)【発明者】
【氏名】長浜 勉
(72)【発明者】
【氏名】大河原 重久
(72)【発明者】
【氏名】播磨 龍哉
(72)【発明者】
【氏名】土井 克浩
(72)【発明者】
【氏名】野田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】柴田 章広
(72)【発明者】
【氏名】後藤 一夫
(72)【発明者】
【氏名】工藤 泰之
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-530959(JP,A)
【文献】特開2011-128512(JP,A)
【文献】特開2010-224528(JP,A)
【文献】特表2008-521054(JP,A)
【文献】特開2008-146025(JP,A)
【文献】特開2010-20132(JP,A)
【文献】特開2012-3027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00
B32B 3/30
B32B 7/023
E06B 9/24
G02B 5/02
G02B 5/28
G02B 5/12
G02B 5/122
G02B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延在された
三角柱状の凸部の複数が一方向に向かって一次元配列されている凸形状の表面を有する第1の光学層と、
前記第1の光学層の前記凸形状を有する側の前記表面の上に配置された無機層と、
前記無機層側に、前記凸形状が埋没するように配置された第2の光学層と、
を有し
、
前記凸形状が、以下の(1)~(2)の少なくともいずれかを満たすことを特徴とする熱線反射用光学体。
(1)各
三角柱状の凸部において、高さが、延在方向において変化し
、振幅が、15μm以上40μm以下であり、隣り合う三角柱状の凸部の高さの周期的な変化のずれが、1/4周期以上3/4周期以下である。
(2)各
三角柱状の凸部において、頂部が、延在方向及び前記凸部の高さ方向の両方と直交する方向において蛇行し
、振幅が、20μm以上40μm以下である。
【請求項2】
前記無機層が、波長選択反射層である請求項1に記載の熱線反射用光学体。
【請求項3】
前記無機層が、半透過性である請求項1に記載の熱線反射用光学体。
【請求項4】
前記第1の光学層及び前記第2の光学層が、透明性を有する請求項1から3のいずれかに記載の熱線反射用光学体。
【請求項5】
窓ガラスに貼付して使用される請求項1から3のいずれかに記載の熱線反射用光学体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱線反射用光学体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、入射光に対して吸収や反射などの様々な効果を与えることを目的とした光学フィルムは広く知られている。この光学フィルムには、目的とする機能によって様々な構成のものがある。その一つとして、凹凸形状の界面を内部に有し、この界面に薄膜が形成されたものがある。例えば、特許文献1には、上記構成の光学フィルムとして、複数のプリズムが一次元配列された凹凸面を有する第1の基材と、この凹凸面上に形成された積層膜と、この積層膜上に形成された第2の基材とを備える再帰反射偏光子が開示されている。
【0003】
このような光学フィルムの凹凸形状の一例は、特許文献2の
図3A~
図3Cに記載のように、一方向に延在された柱状の凸部の複数が、一方向に向かって一次元配列されている形状である。ここで、柱状の凸部の高さは、どの位置においても同じであり、かつ隣り合う凸部の頂の間の距離は、どの位置においても同じである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-78234号公報
【文献】特開2011-128512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記形状を有する光学フィルムは、例えば、日光を再帰反射する熱線反射フィルムとして、1次元配列されている方向が水平方向と平行になるように、窓ガラスに配される。
この際、太陽から挿し込む光は、例えば、東南の上方からの入射は、西南の上方へ反射される。この反射光は、光源となる太陽光が局所的に反射されているため、熱線再帰性の機能の場合には、熱線を反射させることとなる。仮に、その反射光の直進方向に建築物が存在する場合には、熱線を受けることとなり、熱害を受けることとなってしまう。
また、反射光が可視光の場合には、まぶしさを感じてしまい、窓からの眺望性を損なう恐れがあった。
そのため、光学体において、正反射における局所的な強い反射を低減することが求められているのが現状である。
【0006】
本発明は、一方向に延在された柱状の凸部の複数が一方向に向かって一次元配列されている凸形状を有する光学体において、正反射における局所的な強い反射を低減することができる光学体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 一方向に延在された柱状の凸部の複数が一方向に向かって一次元配列されている凸形状の表面を有する第1の光学層と、
前記第1の光学層の前記凸形状を有する側の前記表面の上に配置された無機層と、
前記無機層側に、前記凸形状が埋没するように配置された第2の光学層と、
を有し、
前記凸形状が、以下の(1)~(4)の少なくともいずれかを満たすことを特徴とする光学体である。
(1)各柱状の凸部において、高さが、延在方向において変化している。
(2)各柱状の凸部において、頂部が、延在方向及び前記凸部の高さ方向の両方と直交する方向おいて蛇行している。
(3)隣り合う柱状の凸部の高さが、異なる。
(4)三角柱状の凸部と、曲面を有する柱状の凸部とが隣り合う。
<2> 前記無機層が、波長選択反射層である前記<1>に記載の光学体である。
<3> 前記無機層が、半透過性である前記<1>に記載の光学体である。
<4> 前記第1の光学層及び前記第2の光学層が、透明性を有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の光学体である。
<5> 窓ガラスに貼付して使用される前記<1>から<4>のいずれかに記載の光学体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一方向に延在された柱状の凸部の複数が一方向に向かって一次元配列されている凸形状を有する光学体において、正反射における局所的な強い反射を低減することができる光学体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、
図3Aに示す熱線再帰性の構造を有する光学フィルムが貼付された窓に太陽光が反射する状態を説明するための図である(その1)。
【
図1B】
図1Bは、
図3Aに示す熱線再帰性の構造を有する光学フィルムが貼付された窓に太陽光が反射する状態を説明するための図である(その2)。
【
図2A】
図2Aは、
図4Aに示す熱線再帰性の構造を有する光学フィルムが貼付された窓に太陽光が反射する状態を説明するための図である(その1)。
【
図2B】
図2Bは、
図4Aに示す熱線再帰性の構造を有する光学フィルムが貼付された窓に太陽光が反射する状態を説明するための図である(その2)。
【
図3A】
図3Aは、従来例における第1の光学層の斜視図である。
【
図3B】
図3Bは、従来例における第1の光学層の上面図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の光学体の第1の光学層の一例の斜視図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の光学体の第1の光学層の一例の上面図である。
【
図5A】
図5Aは、本発明の光学体の第1の光学層の他の一例の斜視図である。
【
図5B】
図5Bは、本発明の光学体の第1の光学層の他の一例の上面図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の光学体の第1の光学層の他の一例の斜視図である。
【
図6B】
図6Bは、本発明の光学体の第1の光学層の他の一例の上面図である。
【
図7A】
図7Aは、本発明の光学体の第1の光学層の他の一例の斜視図である。
【
図7B】
図7Bは、本発明の光学体の第1の光学層の他の一例の上面図である。
【
図8A】
図8Aは、本発明の光学体の第1の光学層の他の一例の斜視図である。
【
図8B】
図8Bは、本発明の光学体の第1の光学層の他の一例の上面図である。
【
図9A】
図9Aは、本発明の光学体の第1の光学層の他の一例の斜視図である。
【
図9B】
図9Bは、本発明の光学体の第1の光学層の他の一例の上面図である。
【
図10A】
図10Aは、第1の光学層の凸部の高さを説明するための断面図である(その1)。
【
図10B】
図10Bは、第1の光学層の凸部の高さを説明するための断面図である(その2)。
【
図11A】
図11Aは、第1の光学層の隣り合う凸部の距離(ピッチ)を説明するための断面図である(その1)。
【
図11B】
図11Bは、第1の光学層の隣り合う凸部の距離(ピッチ)を説明するための断面図である(その2)。
【
図13A】
図13Aは、本発明の光学体の機能の一例を説明するための断面図である。
【
図13B】
図13Bは、本発明の光学体の機能の一例を説明するための断面図である。
【
図14】
図14は、波長選択反射性を有する光学体に対して入射する入射光と、光学体により反射された反射光との関係を示す斜視図である。
【
図15A】
図15Aは、本発明の一実施形態に係る光学体の製造方法の一例を説明するための工程図である(その1)。
【
図15B】
図15Bは、本発明の一実施形態に係る光学体の製造方法の一例を説明するための工程図である(その2)。
【
図15C】
図15Cは、本発明の一実施形態に係る光学体の製造方法の一例を説明するための工程図である(その3)。
【
図16A】
図16Aは、本発明の一実施形態に係る光学体の製造方法の一例を説明するための工程図である(その4)。
【
図16B】
図16Bは、本発明の一実施形態に係る光学体の製造方法の一例を説明するための工程図である(その5)。
【
図16C】
図16Cは、本発明の一実施形態に係る光学体の製造方法の一例を説明するための工程図である(その6)。
【
図17A】
図17Aは、本発明の一実施形態に係る光学体の製造方法の一例を説明するための工程図である(その7)。
【
図17B】
図17Bは、本発明の一実施形態に係る光学体の製造方法の一例を説明するための工程図である(その8)。
【
図17C】
図17Cは、本発明の一実施形態に係る光学体の製造方法の一例を説明するための工程図である(その9)。
【
図18A】
図18Aは、平均高さ(AH)、振幅(A)、周期(Pe)、最大変化量となる傾斜角(E)を説明するための図である。
【
図19】
図19は、振幅(Ab)、周期(Peb)、最大変化量となる傾斜角(Eb)、周期的な変化のずれ(ΔPhb)を説明するための図である。
【
図20】
図20は、振幅と反射光強度の相対値との関係を示すグラフである。
【
図21】
図21は、振幅/周期と反射光強度の相対値との関係を示すグラフである。
【
図22】
図22は、最大変化角度と反射光強度の相対値との関係を示すグラフである。
【
図23】
図23は、振幅と上方反射成分の相対値との関係を示すグラフである。
【
図24】
図24は、振幅/周期と上方反射成分の相対値との関係を示すグラフである。
【
図25】
図25は、最大変化角度と上方反射成分の相対値との関係を示すグラフである。
【
図26】
図26は、光学体をフロートガラスに粘着材を用いて張り合わせた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(光学体)
本発明の光学体は、第1の光学層と、無機層と、第2の光学層とを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
【0011】
一方向に延在された柱状の凸部の複数が一方向に向かって一次元配列されている凸形状を有する従来の光学フィルム100Aを、窓ガラスに、1次元配列されている方向が水平方向と平行になるように配した場合に、窓100へ太陽101から挿し込んだ光は、通常正反射されて、光が窓100に挿し込んだ箇所で、一方向に延在された柱状の配列方向を軸として天空側に反射される(
図1A及び
図1B)。
このような場合には、太陽光線は、局所的に反射される(
図1A及び
図1B)。そのため、隣接する建築物102が存在する場合には、建築物102は反射された光線にさらされることとなる。そのため、熱線が反射される場合には、建築物102においては本来太陽光が刺し込まない箇所や太陽光が射し込んでいる箇所に、反射された熱線が照射されることとなり、熱害を受けることとなる(
図1A)。
【0012】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、光学体における、一方向に延在された柱状の凸部の複数が一方向に向かって一次元配列されている凸形状おいて、均一性を乱れさせること、具体的には、光学体における、一方向に延在された柱状の凸部の複数が一方向に向かって一次元配列されている凸形状が、以下の(1)~(4)の少なくともいずれかを満たすことにより、正反射の局所的な強い反射を減少させることができることを見出し、本発明の完成に至った。
(1)各柱状の凸部において、高さが、延在方向において変化している。
(2)各柱状の凸部において、頂部が、延在方向及び前記凸部の高さ方向の両方と直交する方向おいて蛇行している。
(3)隣り合う柱状の凸部の高さが、異なる。
(4)三角柱状の凸部と、曲面を有する柱状の凸部とが隣り合う。
【0013】
一方向に延在された柱状の凸部の複数が一方向に向かって一次元配列されている凸形状を有し、前記凸形状が、上記(1)~(4)の少なくともいずれかを満たす本発明の光学フィルム100Bを、窓ガラスに、1次元配列されている方向が水平方向と平行になるように配した場合に、窓100へ太陽101から挿し込んだ光は、光が窓100に挿し込んだ箇所で、一方向に延在された柱状の配列方向を軸として天空側に反射される(
図2A及び
図2B)。
このような場合には、通常、太陽光線は局所的に強く正反射される(
図1A及び
図1B)。一方、本発明の光学フィルム100Bを用いた場合には、局所的は正反射が緩和される(
図2A及び
図2B)。そのため、隣接する建築物102が存在する場合にも、建築物102は熱害を受けにくくなる。
【0014】
前記凸形状が上記(1)~(4)の少なくともいずれかを満たす態様を、製造方法の一例とともに説明する。
【0015】
まず、従来例の第1の光学層について説明する。
図3Aは、従来例における第1の光学層91の斜視図である。
図3Bは、従来例における第1の光学層91の上面図である。
図3A、及び
図3Bに示す第1の光学層91においては、一方向に延在された柱状の凸部91Aの複数が一方向に向かって一次元配列されている。
図3Bにおいて、太い直線状の実線は柱状の凸部91Aの頂を示し、破線は柱状の凸部間の谷底を示す。
図3A及び
図3Bに示すように、従来の第1の光学層91においては、柱状の凸部91Aの高さは、どの位置においても同じであり、かつ隣り合う凸部の頂の間の距離は、どの位置においても同じである。
図3A及び
図3Bの第1の光学層91は、例えば、以下のようにして作製される。
第1の光学層91は、凸形状が形成された原盤の前記凸形状を転写することにより作製される。
図3Cに示すように、原盤95は、例えば、ロール状である。原盤95を回転させつつ、原盤95に、所定形状の先端部を有する切削具96を所定の深さを削るように当てて原盤95を削る。原盤95の一周分の切削が終了したら、回転方向と直交方向に所定の距離だけ切削具96を移動させ、原盤95の切削を再開する。この際、切削深さは、先程と同じ深さにする。これを繰り返し行うことで、所定の凸形状を有する原盤95が得られる。
図3Dは、原盤95を平板状に表した場合の斜視図である。
また、或いは、ロール状の原盤95を回転させつつ、原盤95に、所定形状の先端部を有する切削具96を所定の深さを削るように当てて原盤95を削る際に、らせん状に切削が出来るように、ロールの回転数、切削工具の移動距離を決めて作成することによって、連続的に加工が可能となり、加工効率も上げた加工が可能である。
この原盤95を、未硬化の樹脂シートに押し付け、或いは、この原盤95に未硬化の樹脂シートを押し付け、原盤95の凸形状を前記樹脂シートに転写し、樹脂シートを硬化させることで、第1の光学層を得ることができる。
【0016】
次に、本発明の第1の光学層の一態様を説明する。
図4A、及び
図4Bに示す第1の光学層11においては、一方向に延在された柱状の凸部11Aの複数が一方向に向かって一次元配列されている。
図4Bにおいて、太い直線状の実線は柱状の凸部11Aの頂を示し、破線は柱状の凸部間の谷底を示す。
図4A及び
図4Bに示すように、本発明の一態様の第1の光学層11においては、柱状の凸部11Aの高さは、連続的に変化している。なお、
図4Bの上面図では、頂も谷底も直線状である。
図4A及び
図4Bの第1の光学層11は、例えば、以下のようにして作製される。
第1の光学層11は、凸形状が形成された原盤の前記凸形状を転写することにより作製される。
図4Cに示すように、原盤15は、例えば、ロール状である。原盤15を回転させつつ、原盤15に、所定形状の先端部を有する切削具16を当てて原盤15を削る。切削の際に、切削具16に上下動を与えることで、切削深さが連続的に異なる切削溝が得られる。原盤15の一周分の切削が終了したら、回転方向と直交方向に所定の距離だけ切削具16を移動させ、原盤15の切削を再開する。この際、切削具16の上下動が先程と同じようなタイミングになるようにして切削を行う。即ち、切削により生じる複数の切削溝において、原盤15の回転方向と直交する方向では切削深さが同じになるように上下動のタイミングを同じにする。これを繰り返し行うことで、柱状の凸部の高さが連続的に変化している凸形状を有する原盤15が得られる。上下動のタイミングを同じにしていることで、柱状の凸部の頂は、上面から見た場合、直線状となる。
図4Dは、原盤15を平板状に表した場合の斜視図である。
なお、切削具16の上下動は、例えば、ピエゾ素子やソレノイドアクチュエータなどの駆動手段を用いることで行うことができる。
この原盤15を、未硬化の樹脂シートに押し付け、或いは、この原盤15に未硬化の樹脂シートを押し付け、原盤15の凸形状を前記樹脂シートに転写し、樹脂シートを硬化させることで、第1の光学層11を得ることができる。
また、上記の転写方法に代えて、この原盤15の凸形状が転写された、反転形状を有する金型(レプリカ)を作製し、この金型を未硬化の樹脂シートに押し付けることで原盤15の凸形状を前記樹脂シートに写し取り、樹脂シートを硬化させることで、第1の光学層11を得ることもできる。
【0017】
次に、本発明の第1の光学層の他の一態様を説明する。
図5A、及び
図5Bに示す第1の光学層21においては、一方向に延在された柱状の凸部21Aの複数が一方向に向かって一次元配列されている。
図5Bにおいて、太い波状の実線は柱状の凸部21Aの頂を示し、破線は柱状の凸部間の谷底を示す。
図5A及び
図5Bに示すように、本発明の一態様の第1の光学層21においては、柱状の凸部21Aの高さは、連続的に変化している。なお、
図5Bの上面図では、頂は蛇行しており、谷底は直線状である。
図5A及び
図5Bの第1の光学層21は、例えば、以下のようにして作製される。
第1の光学層21は、凸形状が形成された原盤の前記凸形状を転写することにより作製される。
図5Cに示すように、原盤25は、例えば、ロール状である。原盤25を回転させつつ、原盤25に、所定形状の先端部を有する切削具26を当てて原盤25を削る。切削の際に、切削具26に上下動を与えることで、切削深さが連続的に異なる切削溝が得られる。原盤25の一周分の切削が終了したら、回転方向と直交方向に所定の距離だけ切削具26を移動させ、原盤25の切削を再開する。この際、上下動が先程と異なるタイミングになるように切削具26に上下動を与えながら切削を行う。即ち、切削により生じる複数の切削溝において、原盤25の回転方向と直交する方向では切削深さが常に同じ深さの状態にはならないように上下動のタイミングをずらす。これを繰り返し行うことで、柱状の凸部の高さが連続的に変化している凸形状を有する原盤25が得られる。上下動のタイミングをずらしていることで、柱状の凸部の頂は、上面から見た場合、蛇行し波状となる。
図5Dは、原盤25を平板状に表した場合の斜視図である。
また、或いは、ロール状の原盤25を回転させつつ、原盤25に、所定形状の先端部を有する切削具26を所定の深さを削るように当てて原盤25を削る際に、らせん状に切削が出来るように、ロールの回転数、切削工具の移動距離を決めて作成することによって、連続的に加工が可能となり、加工効率も上げた加工が可能である。この際、原盤25の回転方向と直交する方向では切削深さが常に同じ深さの状態にはならないようにタイミングをずらしながら切削具26に上下動を与えることで、
図5Dのような切削溝が得られる。
この原盤25の凸形状が転写された、反転形状を有する金型(レプリカ)を作製し、この金型を未硬化の樹脂シートに押し付けることで原盤25の凸形状を前記樹脂シートに写し取り、樹脂シートを硬化させることで、第1の光学層21を得ることができる。
なお、この原盤25を、未硬化の樹脂シートに押し付け、或いは、この原盤25に未硬化の樹脂シートを押し付け、原盤25の凸形状を前記樹脂シートに転写し、樹脂シートを硬化させることで、第1の光学層21を得ることもできる。ただし、この場合、第1の光学層21の上面図は、
図5Bにおいて、実線と破線とが入れ替わった状態となる。即ち、柱状の凸部の頂は、上面から見た場合、直線上であり、柱状の凸部間の谷底は、上面から見た場合、蛇行し波状である。
【0018】
次に、本発明の第1の光学層の他の一態様を説明する。
図6A、及び
図6Bに示す第1の光学層31においては、一方向に延在された柱状の凸部31Aの複数が一方向に向かって一次元配列されている。
図6Bにおいて、太い波状の実線は柱状の凸部31Aの頂を示し、破線は柱状の凸部間の谷底を示す。
図6A及び
図6Bに示すように、本発明の一態様の第1の光学層31においては、柱状の凸部31Aの高さ同じものの、各柱状の凸部31Aにおいて、頂が延在方向及び高さ方向と直交する方向に蛇行している。なお、
図6Bの上面図では、頂も谷底も蛇行している。
図6A及び
図6Bの第1の光学層31は、例えば、以下のようにして作製される。
第1の光学層31は、凸形状が形成された原盤の前記凸形状を転写することにより作製される。
図6Cに示すように、原盤35は、例えば、ロール状である。原盤35を回転させつつ、原盤35に、所定形状の先端部を有する切削具36を当てて原盤35を削る。切削の際に、切削具36を水平に左右動させることで、切削深さは変わらずに、蛇行した切削溝が得られる。原盤35の一周分の切削が終了したら、回転方向と直交方向に所定の距離だけ切削具36を移動させ、原盤35の切削を再開する。この際、左右動のタイミングは、先程と同じタイミングである。即ち、切削により生じる複数の切削溝が切削開始から切削終了まで同じ形状で蛇行するように左右動のタイミングを同じにする。これを繰り返し行うことで、各柱状の凸部31Aにおいて、頂が延在方向及び高さ方向と直交する方向に蛇行している凸形状を有する原盤35が得られる。そして、この原盤35では、柱状の凸部31Aの高さは同じになる。
図6Dは、原盤35を平板状に表した場合の斜視図である。
この原盤35を、未硬化の樹脂シートに押し付け、或いは、この原盤35に未硬化の樹脂シートを押し付け、原盤35の凸形状を前記樹脂シートに転写し、樹脂シートを硬化させることで、第1の光学層31を得ることができる。
また、上記の転写方法に代えて、この原盤35の凸形状が転写された、反転形状を有する金型(レプリカ)を作製し、この金型を未硬化の樹脂シートに押し付けることで原盤35の凸形状を前記樹脂シートに写し取り、樹脂シートを硬化させることで、第1の光学層31を得ることができる。
【0019】
次に、本発明の第1の光学層の他の一態様を説明する。
図7A、及び
図7Bに示す第1の光学層41においては、一方向に延在された柱状の凸部41Aの複数が一方向に向かって一次元配列されている。
図7Bにおいて、太い波状の実線は柱状の凸部41Aの頂を示し、破線は柱状の凸部間の谷底を示す。
図7A及び
図7Bに示すように、本発明の一態様の第1の光学層41においては、柱状の凸部41Aの高さ同じものの、各柱状の凸部41Aにおいて、頂が延在方向及び高さ方向と直交する方向に蛇行している。なお、
図7Bの上面図では、頂は蛇行しているものの、谷底は直線状である。
図7A及び
図7Bの第1の光学層41は、例えば、以下のようにして作製される。
第1の光学層41は、凸形状が形成された原盤の前記凸形状を転写することにより作製される。
図7Cに示すように、原盤45は、例えば、ロール状である。原盤45を回転させつつ、原盤45に、所定形状の先端部を有する切削具46を当てて原盤45を削る。切削の際に、切削具46を、先端部を軸として振り子運動させることで、切削先端部は直線状でありつつ、蛇行した切削溝が得られる。原盤45の一周分の切削が終了したら、回転方向と直交方向に所定の距離だけ切削具46を移動させ、原盤45の切削を再開する。この際、振り子運動のタイミングは、先程と同じタイミングである。即ち、切削により生じる複数の切削溝が切削開始から切削終了まで同じ形状で蛇行するように振り子運動のタイミングを同じにする。これを繰り返し行うことで、各柱状の凸部41Aにおいて、頂が延在方向及び高さ方向と直交する方向に蛇行している凸形状を有する原盤45が得られる。そして、この原盤45では、柱状の凸部41Aの高さは同じになる。
図7Dは、原盤45を平板状に表した場合の斜視図である。
この原盤45の凸形状が転写された、反転形状を有する金型(レプリカ)を作製し、この金型を未硬化の樹脂シートに押し付けることで原盤45の凸形状を前記樹脂シートに写し取り、樹脂シートを硬化させることで、第1の光学層41を得ることができる。
【0020】
次に、本発明の第1の光学層の他の一態様を説明する。
図8A、及び
図8Bに示す第1の光学層51においては、一方向に延在された柱状の凸部51Aの複数が一方向に向かって一次元配列されている。
図8Bにおいて、太い直線状の実線は柱状の凸部51Aの頂を示し、破線は柱状の凸部間の谷底を示す。
図8A及び
図8Bに示すように、本発明の一態様の第1の光学層51においては、隣り合う柱状の凸部51Aの高さが異なっている。なお、
図8Bの上面図では、頂も谷底も直線状である。
図8及び
図8Bの第1の光学層51は、例えば、以下のようにして作製される。
第1の光学層51は、凸形状が形成された原盤の前記凸形状を転写することにより作製される。
図8Cに示すように、原盤55は、例えば、ロール状である。原盤55を回転させつつ、原盤55に、所定形状の先端部56Aを有する切削具56を当てて原盤55を削る。原盤55の一周分の切削が終了したら、回転方向と直交方向に所定の距離だけ移動した位置から、先端部56Aと異なる先端形状を有する先端部56Bを備えた切削具56を用いて、原盤55の切削を再開する。これを繰り返し行うことで、隣り合う柱状の凸部51Aの高さが異なる凸形状を有する原盤55が得られる。
図8Dは、原盤55を平板状に表した場合の斜視図である。
この原盤55を、未硬化の樹脂シートに押し付け原盤55の凸形状を前記樹脂シートに転写し、樹脂シートを硬化させることで、第1の光学層51を得ることができる。
【0021】
次に、本発明の第1の光学層の他の一態様を説明する。
図9A、及び
図9Bに示す第1の光学層61においては、一方向に延在された柱状の凸部61Aの複数が一方向に向かって一次元配列されている。
図9Bにおいて、太い直線状の実線は三角柱状の凸部の頂を示し、太い直線状の一点鎖線は曲面を有する柱状の凸部の頂を示し、破線は柱状の凸部間の谷底を示す。
図9A及び
図9Bに示すように、本発明の一態様の第1の光学層61においては、三角柱状の凸部と、曲面を有する柱状の凸部とが隣り合っている。
図9及び
図9Bの第1の光学層61は、例えば、以下のようにして作製される。
第1の光学層61は、凸形状が形成された原盤の前記凸形状を転写することにより作製される。
図9Cに示すように、原盤65は、例えば、ロール状である。原盤65を回転させつつ、原盤65に、所定の三角形状の先端部66Aを有する切削具66を当てて原盤65を削る。原盤65の一周分の切削が終了したら、回転方向と直交方向に所定の距離だけ移動した位置から、先端部66Aと異なる曲線状の先端形状を有する先端部66Bを備えた切削具66を用いて、原盤65の切削を再開する。これを繰り返し行うことで、三角柱状の凸部と、曲面を有する柱状の凸部とが隣り合う凸形状を有する原盤65が得られる。
図9Dは、原盤65を平板状に表した場合の斜視図である。
この原盤65の凸形状が転写された、反転形状を有する金型(レプリカ)を作製し、この金型を未硬化の樹脂シートに押し付けることで原盤65の凸形状を前記樹脂シートに写し取り、樹脂シートを硬化させることで、第1の光学層61を得ることができる。
【0022】
<第1の光学層>
前記第1の光学層は、一方向に延在された柱状の凸部の複数が一方向に向かって一次元配列されている凸形状の表面を有する。
前記第1の光学層は、該凹凸面上に形成された無機層を支持し、かつ保護する。
前記第1の光学層は、上述のとおりの凸形状を有する。即ち、前記凸形状は、以下の(1)~(4)の少なくともいずれかを満たす。
(1)各柱状の凸部において、高さが、延在方向において変化している。
(2)各柱状の凸部において、頂部が、延在方向及び前記凸部の高さ方向の両方と直交する方向おいて蛇行している。
(3)隣り合う柱状の凸部の高さが、異なる。
(4)三角柱状の凸部と、曲面を有する柱状の凸部とが隣り合う。
【0023】
前記第1の光学層において、凸部の高さの平均値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm~1,000μmが好ましく、10μm~300μmがより好ましく、20μm~100μmが特に好ましい。
ここで、前記高さを、図を用いて説明する。
図10A及び
図10Bは、複数の凸部が一次元配列されている方向に直交する方向における第1の光学層の断面模式図である。
前記高さ(H)とは、
図10A及び
図10Bに示すように、複数の凸部が一次元配列されている方向に直交する方向の、第1の光学層71の断面において、凸部における底から頂までの高さを指す。ここで、凸部の底(B)とは、凸部を挟む2つの谷間を結ぶ仮想線に相当する。そして、凸部の頂から第1の光学層71の平面への垂線における、凸部の頂から前記垂線と凸部の底(B)との交点までの距離が前記高さ(H)になる。
【0024】
前記第1の光学層において、複数の凸部間の距離(ピッチ)の平均値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm~3,000μmが好ましく、20μm~900μmがより好ましく、40μm~300μmが更により好ましく、45μm~90μmが特に好ましい。
ここで、前記距離(ピッチ)を、図を用いて説明する。
図11A及び
図11Bは、複数の凸部が一次元配列されている方向に直交する方向における第1の光学層の断面模式図である。
前記距離(ピッチ)(P)とは、
図11A及び
図11Bに示すように、複数の凸部が一次元配列されている方向に直交する方向の、第1の光学層71の断面において、隣り合う凸部の頂間の距離を指す。ここで、隣り合う凸部の頂の高さが異なる場合、前記距離(ピッチ)(P)とは、一の凸部の頂から第1の光学層71の平面への垂線(L
l)と、前記一の凸部に隣り合う他の凸部の頂から第1の光学層71の平面への垂線(L
r)との距離を指す。
【0025】
前記高さ、及び前記距離は、例えば、断面図の電子顕微鏡写真を観察することで求めることができる。
前記平均値は、前記(1)~(4)の少なくともいずれかを満たす凸形状の箇所の50箇所を任意に測定することで求めることができる。
【0026】
前記凸部の形状は、例えば、延在方向に直交する断面において、三角形状である。
【0027】
<凸形状が前記(1)を満たす場合>
凸形状が前記(1)を満たす場合、各柱状の凸部の平均高さ(AH)は、例えば、15μm~45μmであってもよいし、25μm~35μmであってもよい。
凸形状が前記(1)を満たす場合、例えば、各柱状の凸部の高さの変化は周期的であり、変化における周期(Pe)は、例えば、400μm~1,200μmであってもよいし、600μm~1,000μmであってもよいし、700μm~900μmであってもよい。
凸形状が前記(1)を満たす場合、例えば、各柱状の凸部の高さの変化は周期的であり、変化における振幅(A)は、上方反射の局所反射の軽減の観点から、5μm~65μmが好ましい。また、上方反射の局所反射の軽減に加え、原盤作成の加工性や原盤への樹脂成分の流入の観点を加味すると、振幅(A)は、5μm~40μmがより好ましく、10μm~30μmが特に好ましい。
凸形状が前記(1)を満たす場合、振幅(A)と、周期(Pe)との比率〔振幅(μm)/周期(μm)〕としては、0.6%~7.8%が好ましく、上方反射の局所反射の低減と加工性の観点からは、0.6%~5.0%がより好ましく、1.2%~3.8%が特に好ましい。
振幅の変化範囲については、例えば、正弦波、或いはサイクロイド曲線、インボリュート曲線のように曲率が次第に大きくなる波状の曲線、或いは高次の高調波の正弦波の組合せによる曲線、及びこれらの組合せによる曲線などが適用可能であり、その際の最大変化量となる傾斜角(E)としては、1.1deg~13.7degの範囲とすることが好ましい。角度範囲として、更に大きい範囲となると、切削刃の刃先を食い込んで切削する際に、切削角度よりも大きいために、加工後に切削刃にて傷をつけることとなり望ましくない。そのため、原盤加工上の理由からも、1.1deg~13.7degが好ましく、1.1deg~9.9degがより好ましく、2.2deg~6.7degが特に好ましい。
また、隣り合う柱状の凸部の高さの周期的な変化のずれ(ΔPh)としては、1/4周期~3/4周期が好ましく、1/3周期~2/3周期がより好ましく、2/5周期~3/5周期が更により好ましく、1/2周期が特に好ましい。
ここで、平均高さ(AH)、振幅(A)、周期(Pe)、最大変化量となる傾斜角(E)、周期的な変化のずれ(ΔPh)を、図を用いて説明する。
図18Aに、平均高さ(AH)、振幅(A)、周期(Pe)、最大変化量となる傾斜角(E)を説明するための図を示す。この図は、柱状の凸部を、延在方向及び厚み方向と直交方向からみた断面図である。
平均高さ(AH)は、凸部における底から凸部の高さまでの平均値である。
振幅(A)は、変化する高さの最高高さと最低高さとの差である。
周期(Pe)は、変化する高さの周期である。
最大変化量となる傾斜角(E)は、高さの変化が最大になる位置における高さの変化の微分値である。
図18Bに、周期的な変化のずれ(ΔPh)を説明するための図を示す。
図18Bにおいて、実線の曲線は、第1の柱状の凸部の稜線であり、破線の曲線は、第1の柱状の凸部に隣り合う第2の柱状の凸部の稜線である。
周期的な変化のずれ(ΔPh)は、隣り合う2つの柱状の凸部の高さの周期的な変化のずれである。
図18Bにおいて、周期的な変化のずれ(ΔPh)は、1/2周期である。
【0028】
<凸形状が前記(2)を満たす場合>
凸形状が前記(2)を満たす場合、各柱状の凸部の平均高さは、例えば、15μm~45μmであってもよいし、25μm~35μmであってもよい。
凸形状が前記(2)を満たす場合、例えば、蛇行は周期的であり、蛇行の周期(Peb)は、例えば、400μm~1,200μmであってもよいし、600μm~1,000μmであってもよいし、700μm~900μmであってもよい。
凸形状が前記(2)を満たす場合、例えば、蛇行は周期的であり、蛇行の振幅(Ab)は、上方反射の局所反射の軽減の観点から、5μm~65μmが好ましい。また、上方反射の局所反射の軽減に加え、原盤作成の加工性や原盤への樹脂成分の流入の観点を加味すると、振幅(Ab)は、5μm~40μmがより好ましく、10μm~30μmが特に好ましい。
凸形状が前記(2)を満たす場合、振幅(Ab)と、周期(Peb)との比率(振幅/周期)としては、0.6%~7.8%が好ましく、上方反射の局所反射の低減と加工性の観点からは、0.6%~5.0%がより好ましく、1.2%~3.8%が特に好ましい。
蛇行の変化範囲については、例えば、正弦波、或いはサイクロイド曲線、インボリュート曲線のように曲率が次第に大きくなる波状の曲線、或いは高次の高調波の正弦波の組合せによる曲線、及びこれらの組合せによる曲線などが適用可能であり、その際の最大変化量となる傾斜角(Eb)としては、1.1deg~13.7degの範囲とすることが好ましい。角度範囲として、更に大きい範囲となると、切削刃の刃先を食い込んで切削する際に、切削角度よりも大きいために、加工後に切削刃にて傷をつけることとなり好ましくない。そのため、原盤加工上の理由からも、1.1deg~13.7degが好ましく、1.1deg~9.9degがより好ましく、1.1deg~6.7degが特に好ましい。
また、隣り合う柱状の凸部の蛇行の周期的な変化のずれ(ΔPhb)としては、1/4周期~3/4周期が好ましく、1/3周期~2/3周期がより好ましく、2/5周期~3/5周期が更により好ましく、1/2周期が特に好ましい。
ここで、振幅(Ab)、周期(Peb)、最大変化量となる傾斜角(Eb)、周期的な変化のずれ(ΔPhb)を、図を用いて説明する。
図19に、振幅(Ab)、周期(Peb)、最大変化量となる傾斜角(Eb)、周期的な変化のずれ(ΔPhb)を説明するための図を示す。この図は、柱状の凸部を、上面からみた上面図である。
図19において、実線の曲線は、柱状の凸部の稜線であり、一点鎖線は、2つの凸部間の谷底を示す。
振幅(Ab)は、蛇行の幅である。
周期(Peb)は、周期的な蛇行における周期である。
最大変化量となる傾斜角(Eb)は、蛇行の変化が最大になる位置における蛇行の変化の微分値である。
図19において、周期的な変化のずれ(ΔPhb)は、1/2周期である。
【0029】
<凸形状が前記(3)を満たす場合>
凸形状が前記(3)を満たす場合、隣り合う柱状の凸部の高さの差の絶対値としては、例えば、5μm~65μmが好ましく、5μm~40μmがより好ましく、5μm~30μmが特に好ましい。
【0030】
前記(1)における高さの変化、前記(2)における蛇行、前記(3)における高さの違い、及び前記(4)における三角柱状の凸部と曲面を有する柱状の凸部との並びは、周期的であることが好ましい。理由は以下の通りである。
構造体(凸部)の変化について、ランダム的に配置することも可能である。しかしながら、ランダムに配置した結果、構造体の高さのサイズが大きいものと、構造体の高さのサイズが小さいものとのそれぞれが連続して並んだ場合には、一度高さのある構造体で反射された光が、再度高さのある構造体にて反射される構造体に当たるまでには、長い距離を透明体の樹脂中を透過することにより、吸収率が増す可能性があり、反射効率を低減させる可能性がある。特に、窓ガラスにて熱線の再帰反射を目的とした際には、吸収率が大きくなると局所的な温度の上昇を招き、もともとガラス自体が持っていた欠陥を起点にしての“熱割れ”現象を起こす危険性がある。“熱割れ”のリスクを軽減させるには、より最短経路で反射させることが望ましく、反射構造体の高さのムラを軽減させることが望ましい。その点から、周期性を持って、反射構造体の変化を生じさせるなどにより、そのような不具合を軽減させることも可能となる。
【0031】
前記凸形状の斜面の傾斜としては、45°以上の角度を設けるのが好ましい。日射反射の効率を損なわないためであり、傾斜が緩い場合には、平面での反射性のように一次反射され、複数回の反射による再帰性を得ることが難しくなる。
【0032】
前記光学体においては、前記第1の光学層の一表面の全体が上記所定の凸形状を有していてもよいし、前記第1の光学層の一表面の一部分が上記所定の凸形状を有していてもよい。前記第1の光学層の一表面の一部分が上記所定の凸形状を有する場合には、正反射における局所的な強い反射を低減させたい箇所において、上記所定の凸形状を有することが好ましい。
【0033】
本発明の光学体の1態様として、第1の光学層の一の表面には一次元配列されている凸形状のみが存在する態様を挙げたが、本発明の光学体の他の態様としては、前記一次元配列が2つ組み合わされた二次元配列により第1の光学層の一の表面が構成されている態様も挙げられる。
前記二次元配列は、前記一次元配列が2つ組み合わされて構成されている。前記二次元配列は、一方の一次元配列された凸形状と、その延在方向と角度の異なるもう一方の一次元配列された凸形状とが組み合わされた二次元配列である。この場合、一次元配列された凸形状の一方、もしくは両方において、前述した以下の(1)~(4)の少なくともいずれかを満たす。
(1)各柱状の凸部において、高さが、延在方向において変化している。
(2)各柱状の凸部において、頂部が、延在方向及び前記凸部の高さ方向の両方と直交する方向おいて蛇行している。
(3)隣り合う柱状の凸部の高さが、異なる。
(4)三角柱状の凸部と、曲面を有する柱状の凸部とが隣り合う。
【0034】
コーナーキューブ体では、反射面で3回反射することで再帰反射を実現するが、コーナーキューブ体では、多重反射により日射吸収が生じ易くなるのに対して、前記一次元配列のみ、又は前記二次元配列の凸形状を有する光学層の場合には、反射回数が少なくなり日射吸収を抑えることができる。
また、コーナーキューブ体では、反射面で3回反射することで再帰反射を実現するが、コーナーキューブ体では、一部の光が2回反射により再帰反射以外の方向に漏れるのに対して、前記一次元配列のみ、又は前記二次元配列の場合では、より天空側へ反射させる形状が可能となる。
【0035】
前記第1の光学層は、光学部材や窓材などに意匠性を付与する観点から、可視光に対する透明性を阻害しない範囲で、可視領域における特定の波長の光を吸収する特性を有していてもよい。
意匠性の付与、即ち可視領域における特定の波長の光を吸収する特性は、例えば、前記第1の光学層に顔料を含有させることにより行うことができる。
前記顔料は、樹脂中に分散させることが好ましい。
前記樹脂中に分散させる顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機系顔料、有機系顔料などが挙げられるが、特に顔料自体の耐候性が高い無機系顔料とすることが好ましい。
前記無機系顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジルコングレー(Co、NiドープZrSiO4)、プラセオジムイエロー(PrドープZrSiO4)、クロムチタンイエロー(Cr、SbドープTiO2又はCr、WドープTiO2)、クロムグリーン(Cr2O3など)、ピーコック((CoZn)O(AlCr)2O3)、ビクトリアグリーン((Al、Cr)2O3)、紺青(CoO・Al2O3・SiO2)、バナジウムジルコニウム青(VドープZrSiO4)、クロム錫ピンク(CrドープCaO・SnO2・SiO2)、陶試紅(MnドープAl2O3)、サーモンピンク(FeドープZrSiO4)などが挙げられる。
前記有機系顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料などが挙げられる。
【0036】
<<第1の光学層の材料>>
前記第1の光学層の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、活性エネルギー線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などの樹脂が挙げられる。
前記第1の光学層は、例えば、透明性を有する。前記第1の光学層は、例えば、樹脂組成物を硬化することにより得られる。前記樹脂組成物としては、製造の容易性の観点からすると、光又は電子線などにより硬化するエネルギー線硬化型樹脂、または熱により硬化する熱硬化型樹脂を用いることが好ましい。前記エネルギー線硬化型樹脂としては、光により硬化する感光性樹脂組成物が好ましく、紫外線により硬化する紫外線硬化型樹脂組成物が最も好ましい。前記樹脂組成物は、前記第1の光学層と、前記無機層との密着性を向上させる観点から、リン酸を含有する化合物、コハク酸を含有する化合物、ブチロラクトンを含有する化合物をさらに含有することが好ましい。前記リン酸を含有する化合物としては、例えばリン酸を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはリン酸を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。前記コハク酸を含有する化合物としては、例えば、コハク酸を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはコハク酸を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。前記ブチロラクトンを含有する化合物としては、例えば、ブチロラクトンを含有する(メタ)アクリレート、好ましくはブチロラクトンを官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。
【0037】
前記紫外線硬化型樹脂組成物は、例えば、(メタ)アクリレートと、光重合開始剤とを含有している。また、前記紫外線硬化型樹脂組成物が、必要に応じて、光安定剤、難燃剤、レベリング剤、及び酸化防止剤などをさらに含有するようにしてもよい。
【0038】
前記(メタ)アクリレートとしては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はオリゴマーを用いることが好ましい。このモノマー及び/又はオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレートなどを用いることができる。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基及びメタアクリロイル基のいずれかを意味するものである。ここで、オリゴマーとは、分子量500以上60000以下の分子をいう。
【0039】
前記紫外線硬化型樹脂組成物に使用しうる多官能モノマーとしては、例えば、エタンジオールジアクリレート、1,3-プロパンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,14-テトラデカンジオールジアクリレート、1,15-ペンタデカンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、2-ブチル-2-エチルプロパンジオールジアクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジアクリレート、ポリエチレンオキシド変性ビスフェノールAジアクリレート、ポリエチレンオキシド変性水添ビスフェノールAジアクリレート、プロピレンオキシド変性ビスフェノールAジアクリレート、ポリプロピレンオキシド変性ビスフェノールAジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールエステルジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールエステルのカプロラクトン付加物ジアクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸ジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレートモノステアレート、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ポリオキシエチレンエピクロロヒドリン変性ビスフェノールAジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリエチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリプロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸トリアクリレート、エチレンオキシド変性グリセロールトリアクリレート、ポリエチレンオキシド変性グリセロールトリアクリレート、プロピレンオキシド変性グリセロールトリアクリレート、ポリプロピレンオキシド変性グリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられる。
【0040】
前記光重合開始剤としては、公知の材料から適宜選択したものを使用できる。公知の材料としては、例えば、ベンゾフェノン誘導体、アセトフェノン誘導体、アントラキノン誘導体などを単独で、または併用して用いることができる。前記重合開始剤の配合量は、固形分中0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満であると、光硬化性が低下し、実質的に工業生産に適さないことがある。一方、10質量%を超えると、照射光量が小さい場合に、塗膜に臭気が残る傾向にある。ここで、固形分とは、硬化後のハードコート層を構成する全ての成分をいう。具体的には例えば、(メタ)アクリレート、及び光重合開始剤などを固形分という。
【0041】
<無機層>
前記無機層は、前記第1の光学層の前記凸形状を有する側の前記表面の上に配置された層である。
前記無機層としては、少なくとも近赤外線を反射する反射層が好ましい。前記反射層としては、例えば、下記積層膜などが挙げられる。前記反射層の一例の詳細については、後述する。
【0042】
前記無機層の平均膜厚としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。前記平均膜厚が20μm以下であると、透過光が屈折する光路が短くなり、透過像が歪んで見えるのを防止することができる。
【0043】
前記無機層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スパッタ法、蒸着法、ディップコーティング法、ダイコーティング法などを用いることができる。
【0044】
前記無機層の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、積層膜、透明導電層、機能層、半透過層などが挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上でもよい。
【0045】
前記無機層は、例えば、半透過性である。
ここで、半透過性とは、波長500nm以上1,000nm以下における透過率が5%以上70%以下、好ましくは10%以上60%以下、更に好ましくは15%以上55%以下であることを示す。また、半透過層とは、波長500nm以上1,000nm以下における透過率が5%以上70%以下、好ましくは10%以上60%以下、更に好ましくは15%以上55%以下である反射層を示す。
【0046】
<<積層膜>>
前記積層膜としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(i)屈折率の異なる低屈折率層及び高屈折率層を交互に積層してなる積層膜、(ii)赤外領域において反射率の高い金属層と、可視領域において屈折率が高く反射防止層として機能する光学透明層、または透明導電層とを交互に積層してなる積層膜、などが挙げられる。
【0047】
-金属層-
前記金属層には、赤外領域において反射率の高い金属が使用される。
赤外領域において反射率の高い金属としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Cr、Ti、Pd、Co、Si、Ta、W、Mo、Geなどの単体、これらの単体を2種以上含む合金、などが挙げられる。これらの中でも、実用性の点で、Ag系、Cu系、Al系、Si系、Ge系が好ましい。
前記合金としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、AlCu、AlTi、AlCr、AlCo、AlNdCu、AlMgSi、AgPdCu、AgPdTi、AgCuTi、AgPdCa、AgPdMg、AgPdFe、Ag、SiB、などが好ましい。
前記金属層の腐食を抑えるために、金属層に対してTi、Ndなどの材料を添加することが好ましい。特に、金属層の材料としてAgを用いる場合には、上記材料を添加することが好ましい。
【0048】
-光学透明層-
前記光学透明層は、可視領域において屈折率が高く反射防止層として機能する光学透明層である。
前記光学透明層の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化チタン等の高誘電体、などが挙げられる。
【0049】
前記光学透明層成膜時の下層金属の酸化劣化を防ぐ目的で、成膜する光学透明層の界面に数nm程度のTiなどの薄いバッファー層を設けてもよい。ここで、バッファー層とは、上層成膜時に、自らが酸化することで下層である金属層などの酸化を抑制するための層である。
【0050】
<<透明導電層>>
前記透明導電層は、可視領域において透明性を有する導電性材料を主成分とする透明導電層である。
前記透明導電層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、アンチモンドープ酸化錫、カーボンナノチューブ含有体等の透明導電物質、などが挙げられる。
また、前記透明導電層として、前記透明導電物質のナノ粒子や金属などの導電性を持つ材料のナノ粒子、ナノロッド、ナノワイヤーを樹脂中に高濃度に分散させた層を用いてもよい。
【0051】
<<機能層>>
前記機能層は、外部刺激により反射性能などが可逆的に変化するクロミック材料を主成分とする層である。
前記クロミック材料は、例えば、熱、光、侵入分子などの外部刺激により構造を可逆的に変化させる材料である。
前記クロミック材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フォトクロミック材料、サーモクロミック材料、ガスクロミック材料、エレクトロクロミック材料、などが挙げられる。
【0052】
前記フォトクロミック材料は、光の作用により構造を可逆的に変化させる材料である。
前記フォトクロミック材料は、紫外線等の光照射により、反射率、色等の物性を可逆的に変化させることができる材料である。
前記フォトクロミック材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Cr、Fe、NiなどをドープしたTiO2、WO3、MoO3、Nb2O5等の遷移金属酸化物、などを挙げることができる。また、これらの層と屈折率の異なる層を積層することで波長選択性を向上させることもできる。
【0053】
前記サーモクロミック材料とは、熱の作用により構造を可逆的に変化させる材料である。
前記サーモクロミック材料は、加熱により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる。
前記サーモクロミック材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、VO2、などが挙げられる。また、転移温度や転移カーブを制御する目的で、W、Mo、Fなどの元素を添加することもできる。
また、VO2などのサーモクロミック材料を主成分とする薄膜を、TiO2やITOなどの高屈折率体を主成分とする反射防止層で挟んだ積層構造としてもよい。
【0054】
または、コレステリック液晶などのフォトニックラティスを用いることもできる。前記コレステリック液晶は層間隔に応じた波長の光を選択的に反射することができ、この層間隔は温度によって変化するため、加熱により、反射率や色などの物性を可逆的に変化させることができる。この時、層間隔の異なるいくつかのコレステリック液晶層を用いて反射帯域を広げることも可能である。
【0055】
エレクトロクロミック材料とは、電気により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる材料である。
前記エレクトロクロミック材料としては、例えば、電圧の印加により構造を可逆的に変化させる材料を用いることができる。前記エレクトロクロミック材料の具体例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プロトンなどのドープまたは脱ドープにより、反射特性が変わる反射型調光材料、などが挙げられる。
前記反射型調光材料とは、具体的には、外部刺激により、光学的な性質を透明な状態と、鏡の状態、及び/又はその中間状態に制御することができる材料である。前記反射型調光材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マグネシウム及びニッケルの合金材料、マグネシウム及びチタンの合金材料を主成分とする合金材料、WO3やマイクロカプセル中に選択反射性を有する針状結晶を閉じ込めた材料、などが挙げられる。
【0056】
前記機能層の具体的構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(i)第2の光学層上に、上記合金層、Pdなどを含む触媒層、薄いAlなどのバッファー層、Ta2O5などの電解質層、プロトンを含むWO3などのイオン貯蔵層、透明導電層が積層された構成、(ii)第2の光学層上に透明導電層、電解質層、WO3などのエレクトロクロミック層、透明導電層が積層された構成、などが挙げられる。
これらの構成では、透明導電層と対向電極の間に電圧を印加することにより、電解質層に含まれるプロトンが合金層にドープまたは脱ドープされる。これにより、合金層の透過率が変化する。また、波長選択性を高めるために、エレクトロクロミック材料をTiO2やITOなどの高屈折率体と積層することが望ましい。
また、その他の構成として、第2の光学層上に透明導電層、マイクロカプセルを分散した光学透明層、透明電極が積層された構成、が挙げられる。この構成では、両透明電極間に電圧を印加することにより、マイクロカプセル中の針状結晶が配向した透過状態にしたり、電圧を除くことで針状結晶が四方八方を向き、波長選択反射状態にすることができる。
【0057】
<<半透過層>>
前記半透過層は、例えば、単層または複数層の金属層からなり、半透過性を有するものである。
前記金属層の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上述の積層膜の金属層と同様のものを用いることができる。
【0058】
<第2の光学層>
前記第2の光学層は、前記無機層側に、前記凸形状が埋没するように配置された層である。
前記第2の光学層は、例えば、前記無機層を保護する。
前記第2の光学層の材料としては、例えば、前記第1の光学層の説明において例示した材料などが挙げられる。
【0059】
前記第2の光学層の両主面のうち、例えば、一方の面は平滑面であり、他方の面は凹形状である。前記第1の光学層の前記凸形状と前記第2の光学層の前記凹形状とは、互いに凹凸を反転した関係にある。
【0060】
前記光学体は、例えば、光学フィルムである。
【0061】
前記光学体は、透明性を有している。透明性としては、後述する透過像鮮明度の範囲を有するものであることが好ましい。前記第1の光学層と前記第2の光学層との屈折率差としては、好ましくは0.010以下、より好ましくは0.008以下、さらに好ましくは0.005以下である。前記屈折率差が0.010を超えると、透過像がぼけて見える傾向がある。前記屈折率差が、0.008を超え0.010以下の範囲であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。前記屈折率差が、0.005を超え0.008以下の範囲であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。前記屈折率差が、0.005以下であれば、回折パターンは殆ど気にならない。前記第1の光学層及び前記第2の光学層のうち、窓材などと貼り合わせる側となる光学層は、粘着剤を主成分としてもよい。このような構成とすることで、粘着材を主成分とする第1の光学層、または第2の光学層により光学体を窓材などに貼り合わせることができる。なお、このような構成にする場合、粘着剤の屈折率差が上記範囲内であることが好ましい。
【0062】
前記第1の光学層と前記第2の光学層とは、屈折率などの光学特性が同じであることが好ましい。より具体的には、前記第1の光学層と前記第2の光学層とが、可視領域において透明性を有する同一材料からなることが好ましい。前記第1の光学層と前記第2の光学層とを同一材料により構成することで、両者の屈折率が等しくなるので、可視光の透明性を向上させることができる。ただし、同一材料を出発源としても、成膜工程における硬化条件などにより最終的に生成する層の屈折率が異なることがあるので、注意が必要である。これに対して、前記第1の光学層と前記第2の光学層とを異なる材料により構成すると、両者の屈折率が異なるので、前記無機層(例えば、波長選択反射層)を境界として光が屈折し、透過像がぼやける傾向がある。特に、遠くの電灯など点光源に近い物を観察すると回折パターンが顕著に観察される傾向がある。なお、屈折率の値を調整するために、第1の光学層及び/又は第2の光学層に添加剤を混入させてもよい。
【0063】
前記第1の光学層と前記第2の光学層は、可視領域において透明性を有することが好ましい。ここで、透明性の定義には2種類の意味があり、光の吸収がないことと、光の散乱がないことである。一般的に透明と言った場合に前者だけを指すことがあるが、前記光学体では両者を備えることが好ましい。現在利用されている再帰反射体は、道路標識や夜間作業者の衣服など、その表示反射光を視認することを目的としているため、例えば散乱性を有していても、下地反射体と密着していれば、その反射光を視認することができる。例えば、画像表示装置の前面に、防眩性の付与を目的として散乱性を有するアンチグレア処理をしても、画像は視認できるのと同一の原理である。しかしながら、前記光学体の一実施形態は、指向反射する特定の波長以外の光を透過する点に特徴を有しており、この透過波長を主に透過する透過体に接着し、その透過光を観察するため、光の散乱がないことが好ましい。但し、その用途によっては、第2の光学層に意図的に散乱性を持たせることも可能である。
【0064】
前記光学体は、好ましくは、透過した特定波長以外の光に対して主に透過性を有する剛体、(例えば、窓材)に粘着剤などを介して貼り合わせて使用される。窓材としては、高層ビルや住宅などの建築用窓材、車両用の窓材などが挙げられる。建築用窓材に前記光学体を適用する場合、特に東~南~西向きの間のいずれかの向き(例えば南東~南西向き)に配置された窓材に前記光学フィルムを適用することが好ましい。このような位置の窓材に適用することで、より効果的に熱線を反射することができるからである。前記光学体は、単層の窓ガラスのみならず、複層ガラスなどの特殊なガラスにも用いることができる。また、窓材は、ガラスからなるものに限定されるものではなく、透明性を有する高分子材料からなるものを用いてもよい。光学層が、可視領域において透明性を有することが好ましい。このように透明性を有することで、前記光学体を窓ガラスなどの窓材に貼り合せた場合、可視光を透過し、太陽光による採光を確保することができるからである。また、貼り合わせる面としてはガラスの内面のみならず、外面にも使用することができる。
【0065】
また、前記光学体は他の熱線カットフィルムと併用して用いることができ、例えば空気と前記光学体との界面(すなわち、光学体の最表面)に光吸収塗膜を設けることもできる。また、前記光学体は、ハードコート層、紫外線カット層、表面反射防止層などとも併用して用いることができる。これらの機能層を併用する場合、これらの機能層を前記光学体と空気との間の界面に設けることが好ましい。ただし、紫外線カット層については、前記光学体よりも太陽側に配置する必要があるため、特に室内の窓ガラス面に内貼り用として用いる場合には、該窓ガラス面と前記光学体の間に紫外線カット層を設けることが望ましい。この場合、窓ガラス面と前記体の間の接合層中に、紫外線吸収剤を練りこんでおいてもよい。
【0066】
また、前記光学体の用途に応じて、前記光学体に対して着色を施し、意匠性を付与するようにしてもよい。このように意匠性を付与する場合、透明性を損なわない範囲で光学層が特定の波長帯の光のみ吸収する構成とすることが好ましい。
【0067】
ここで、図を用いて本発明の光学体の一例を説明する。
図12は、本発明の第1の実施形態に係る光学体の一例の断面図である。
図12の光学体は、
図4A、及び
図4Bに示す第1の光学層11を有する。
図12において、光学体10は、凸形状の表面を有する第1の光学層11と、第1の光学層11の前記凸形状を有する側の前記表面の上に配置された無機層12と、無機層12側に、前記凸形状が埋没するように配置された第2の光学層13と、第1の光学層11の前記凸形状を有する表面と対向する面上に配置された第1の基材14とを備える。
【0068】
<波長選択反射性>
図13A、
図13Bは、光学体の機能の一例を説明するための断面図である。ここでは、例として、凸部の形状が傾斜角45°のプリズム形状である場合を例として説明する。
図13Aに示すように、この光学体10に入射した太陽光のうち上空に反射する光L
1の一部は、入射した方向と同程度の上空方向に指向反射するのに対して、上空に反射しない光L
2は光学体10を透過する。
また、
図13Aに示すように、光学体10に入射し、無機層12(波長選択反射層)の反射膜面で反射された光は、入射角度に応じた割合で、上空に反射する光L
1と、上空に反射しない光L
2とに分離する。そして、上空に反射しない光L
2は、第2の光学層13と空気との界面で全反射した後、最終的に入射方向とは異なる方向に反射する。
光の入射角度をα、第2の光学層13の屈折率をn、波長選択反射層の反射率をRとすると、全入射成分に対する上空に反射する光L
1の割合xは以下の式(1)で表される。
x=(sin(45-α')+cos(45-α’)/tan(45+α'))/(sin(45-α')+cos(45-α'))×R
2 ・・・(1)
但し、α'=sin
-1(sinα/n)
上空に反射しない光L
1の割合が多くなると、入射光が上空に反射する割合が減少する。上空に反射する割合を向上するためには、波長選択反射層の形状、すなわち、第1の光学層11の凸形状の形状を工夫することが有効である。
【0069】
図14は、波長選択反射性を有する光学体10に対して入射する入射光と、光学体10により反射された反射光との関係を示す斜視図である。光学体10は、光Lが入射する入射面S1を有する。光学体10は、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lのうち、特定波長帯の光L
1を選択的に正反射(-θ、φ+180°)以外の方向に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光L
2を透過する。また、光学体10は、上記特定波長帯以外の光に対して透明性を有する。透明性としては、後述する透過像鮮明度の範囲を有するものであることが好ましい。但し、θ:入射面S1に対する垂線l
1と、入射光Lまたは反射光L
1とのなす角である(以下、「θ」を垂直方向角と称することがある)。φ:入射面S1内の特定の直線l
2と、入射光Lまたは反射光L
1を入射面S1に射影した成分とのなす角である(以下、「φ」を方位角と称することがある)。ここで、入射面内の特定の直線l
2とは、入射角(θ、φ)を固定し、光学体10の入射面S1に対する垂線l
1を軸として光学体10を回転したときに、φ方向への反射強度が最大になる軸である。但し、反射強度が最大となる軸(方向)が複数ある場合、そのうちの1つを直線l
2として選択するものとする。なお、垂線l
1を基準にして時計回りに回転した角度θを「+θ」とし、反時計回りに回転した角度θを「-θ」とする。直線l
2を基準にして時計回りに回転した角度φを「+φ」とし、反時計回りに回転した角度φを「-φ」とする。
【0070】
選択的に指向反射する特定の波長帯の光、及び透過させる特定の光は、光学体10の用途により異なる。例えば、外部支持体としての窓材に対して光学体10を適用する場合、選択的に指向反射する特定の波長帯の光は近赤外光であり、透過させる特定の波長帯の光は可視光であることが好ましい。具体的には、選択的に指向反射する特定の波長帯の光が、主に波長帯域780nm以上2100nm以下の近赤外線であることが好ましい。近赤外線を反射することで、光学体をガラス窓などの窓材に貼り合わせた場合に、建物内の温度上昇を抑制することができる。したがって、冷房負荷を軽減し、省エネルギー化を図ることができる。ここで、指向反射とは、正反射以外のある特定の方向への反射光強度が、正反射光強度より強く、かつ、指向性を持たない拡散反射強度よりも十分に強いことを意味する。ここで、反射するとは、特定の波長帯域、例えば近赤外域における反射率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上であることを示す。透過するとは、特定の波長帯域、例えば可視光域における透過率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上であることを示す。
【0071】
波長選択反射性を有する光学体10において、指向反射する方向φoが-90°以上、90°以下であることが好ましい。光学体10を外部支持体に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空方向に戻すことができるからである。周辺に高い建物がない場合にはこの範囲の光学体10が有用である。また、指向反射する方向が(θ、-φ)近傍であることが好ましい。近傍とは、好ましく(θ、-φ)から5度以内、より好ましくは3度以内であり、さらに好ましくは2度以内の範囲内のずれのことをいう。この範囲にすることで、光学体10を外部支持体に貼った場合、同程度の高さが立ち並ぶ建物の上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を他の建物の上空に効率良く戻すことができるからである。このような指向反射を実現するためには、例えば球面や双曲面の一部や三角錐、四角錘、円錐などの3次元構造体を用いることが好ましい。(θ、φ)方向(-90°<φ<90°)から入射した光は、その形状に基づいて(θo、φo)方向(0°<θo<90°、-90°<φo<90°)に反射させることができる。または、一方向に伸びた柱状体にすることが好ましい。(θ、φ)方向(-90°<φ<90°)から入射した光は、柱状体の傾斜角に基づいて(θo、-φ)方向(0°<θo<90°)に反射させることができる。そのため、建物の高さが同じ程度の場合には、(φ,θ)入射を、(φ0,-θ)の方向へ反射させることが適用できる。本発明においては、建物高さが、日射が射す建物よりも高い、或いは近隣にて反射光が射す建物の場合には、日射の局所反射を本発明の要素を組み合わせることにより、緩和させることが可能となる。
【0072】
波長選択反射性を有する光学体10において、特定波長帯の光の指向反射が、再帰反射近傍方向、すなわち、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光に対する、特定波長帯の光の反射方向が、(θ、φ)近傍であることが好ましい。光学体10を外部支持体に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空に戻すことができるからである。ここで近傍とは5度以内が好ましく、より好ましくは3度以内であり、さらに好ましくは2度以内である。この範囲にすることで、光学体10を外部支持体に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空に効率良く戻すことができるからである。そのため、建物の高さが同じ程度の場合には、(φ,θ)入射を、(φ0,-θ)とすることで効率良く、上空へ反射させることが適用できる。本発明においては、建物高さが、日射が射す建物よりも高い、或いは近隣にて反射光が射す建物の場合には、日射の局所反射を本発明の要素を組み合わせることにより、緩和させることが可能となる。また、赤外線センサーや赤外線撮像のように、赤外光照射部と受光部が隣接している場合は、再帰反射方向は入射方向と等しくなければならないが、特定の方向からセンシングする必要がない場合は、厳密に同一方向とする必要はない。
【0073】
<透過像鮮明度>
前記光学体において、透過性を持つ波長帯に対する透過像鮮明度に関し、2.0mmの光学くしを用いたときの値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60%以上が好ましく、75%以上がより好ましい。
更に、前記光学体において、透過性を持つ波長帯に対する透過像鮮明度に関し、0.5mmの光学くしを用いたときの値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60%以上が好ましく、75%以上がより好ましい。透過像鮮明度の値が60%以上75%未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。透過像鮮明度の値が75%以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。
ここで、透過像鮮明度の値は、スガ試験機製ICM-1Tを用いて、JIS K-7374:2007に準じて測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合は、透過したい波長のフィルターを用いて校正した後に測定することが好ましい。
【0074】
<光学体の製造方法>
以下、
図15A~
図15、
図16A~
図16C、及び
図17A~
図17Dを参照して、本発明の一実施形態に係る光学体の製造方法の一例について説明する。なお、以下に示す製造プロセスの一部または全部は、生産性を考慮して、ロール・ツー・ロールにより行われることが好ましい。但し、金型の作製工程は除くものとする。
【0075】
ここでの作製例は、
図4A及び
図4Bに示す第1の光学層11を有する光学体の作製例である。
まず、
図15Aに示すように、例えばバイト加工またはレーザー加工などにより、第1の光学層11の凸形状と同一の凸形状の原盤15、またはその原盤15の反転形状を有する金型(レプリカ)を形成する。原盤15の作製方法は、
図4C及び
図4Dを用いて説明したとおりである。次に、
図15Bに示すように、例えば溶融押し出し法または転写法などを用いて、原盤15の凸形状をフィルム状の樹脂材料に転写する。転写法としては、型に光硬化性樹脂組成物を流し込み、エネルギー線を照射して硬化させる方法、樹脂に熱や圧力を加え、形状を転写する方法、または樹脂フィルムをロールから供給し、熱を加えながら型の形状を転写する方法(ラミネート転写法)などが挙げられる。これにより、
図15Cに示すように、一主面に凸形状を有する第1の光学層11が形成される。
【0076】
また、
図15Cに示すように、第1の基材14上に、第1の光学層11を形成するようにしてもよい。この場合には、例えば、フィルム状の第1の基材14をロールから供給し、該第1の基材14上に光硬化性樹脂組成物を塗布した後に型に押し当て、型の形状を転写し、紫外線等のエネルギー線を照射して光硬化性樹脂組成物を硬化させる方法が用いられる。
【0077】
次に、
図16Aに示すように、その第1の光学層11の一主面上に無機層12としての波長選択反射層(機能性層)を成膜する。無機層12としての波長選択反射層の成膜方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ディップコーティング法、ダイコーティング法、ウェットコーティング法、スプレーコーティング法などが挙げられ、これらの成膜方法から、凸形状の形状などに応じて適宜選択することが好ましい。次に、
図16Bに示すように、必要に応じて、無機層12としての波長選択反射層に対してアニール処理150を施す。アニール処理の温度は、例えば100℃以上250℃以下の範囲内である。
【0078】
次に、
図16Cに示すように、光硬化性樹脂組成物13Aを、無機層12としての波長選択反射層上に塗布する。
次に、
図17Aのように、コーター等で光硬化性樹脂組成物13Aを所定厚みに塗り広げて凸形状を埋めることにより、積層体を形成する。
次に、
図17Bに示すように、例えばエネルギー線160により光硬化性樹脂組成物13Aを硬化させるとともに、積層体に対して圧力170を加える。前記エネルギー線としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電子線、紫外線、可視光線、ガンマ線、電子線などが挙げられる。これらの中でも、生産設備の観点から、紫外線が好ましい。積算照射量としては、特に制限はなく、樹脂の硬化特性、樹脂や第1の基材14の黄変抑制などを考慮して、適宜選択することができる。積層体に加える圧力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01MPa以上1MPa以下が好ましい。積層体に加える圧力が、0.01MPa未満であると、フィルムの走行性に問題が生じ、一方、1MPaを超えると、ニップロールとして金属ロールを用いる必要があり、圧力ムラが生じ易い。
以上により、
図17Cに示すように、無機層12としての波長選択反射層上に第2の光学層13が形成され、光学体10が得られる。
更に、本発明の光学体は、第2の光学層13の無機層12側と反対側に第2の基材が配されていてもよい。
なお、第2の光学層13の無機層12側と反対側の面の平坦度は、コーターヘッド等の平坦度、及び、樹脂の厚さ(凹凸の埋まり具合)に起因する。
【実施例】
【0079】
次に、実施例、比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0080】
(実施例1)
光学体において凸形状を変化させた場合の上方反射指向性について、シミュレーションによりその効果を確認した。
【0081】
実施例1では、凸形状における三角断面高さが延在方向にて連続的に変化している光学体〔前記(1)を満たす光学体〕について、評価を行った。
凸形状に関しては、以下の特徴を有する。
・平均ピッチ(隣接する構造体の谷部間の距離) :67μm
・平均高さ(AH) :31μm
・高さ振幅(A) :5μm
・振幅タイプ :正弦波
・正弦波の周期(Pe) :800μm
・延在方向の頂部最大傾斜角(E) :1.1deg
・隣接する構造体とのズレ(位相)(ΔPh) :1/2周期
【0082】
反射面の形状による反射の効果を確認するため、光線追跡法によるシミュレーションを行なった。
光線は準並行光として、十分な本数の光線を光源からモンテカルロ法により反射面に向かって照射した(反射体の構造は実物と同じように、反射面を樹脂で包埋している。)。
シミュレーションでは、測定サンプルの表面に対しての法線方向から20degからの垂直方向角(θ)における近赤外線の上方反射率を計算した。入射のサンプルに対する方位角(φ)は、φ=0degとした。
反射光の評価は、後述する実測に使用したMini Diffと同様に、垂直方向角及び方位角それぞれ1deg毎における光線強度の強度を計算し、以下の比較をした。
【0083】
<上方反射>
光線追跡法によるシミュレーションにて得た反射強度の分布より、試験モデルの光線入射方向面における法線を含む水平線よりも天空側へ反射された上方反射成分をカウントし、後述する比較例1の三角柱における上方反射成分の数値の結果を100%とした際の、相対値%を上方反射の相対値として算出した。
この上方反射の相対値により、上方反射性能を損なわない度合を評価した。
【0084】
<局所反射>
光線追跡法によるシミュレーションにて得た反射強度の分布より、鏡面反射を除いた最も強度の高い数値(ピーク反射強度)を読み取り、後述する比較例1の三角柱の鏡面反射を除いた最も強度の高い数値(ピーク反射強度)の結果を100%とした際の、相対値%を局所反射強度比として算出した。
この鏡面反射を除いた最も強度の高い数値の相対値により、局所反射の抑制効果を評価した。
【0085】
実施例1の凸形状を表1-1に示した。実施例1の評価結果を表1-2に示した。
【0086】
局所反射の状態は、以下の評価基準で評価した。
〔評価基準〕
・×:光学体の表面に斜めに入射された光が、反射部より直線上に反射され、局所的な輝点を有するもの
・○:光学体の表面に斜めに入射された光は、反射部より非直線状に光が反射され、輝点は帯状、もしくは複数に分割されることで局所的な輝点が緩和されているもの
【0087】
(実施例2~実施例13、比較例1、2)
実施例1において、凸部形状を表1-1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、評価を行った。結果を表1-2に示した。なお、実施例13の凸形状では、
図9Aに示すように、三角柱状の凸部と、曲面を有する柱状の凸部とが隣り合っている。
【0088】
【0089】
【0090】
上記結果をグラフにまとめ、
図20~
図25に示した。
図20は、振幅と反射光強度の相対値(局所反射強度比)との関係を示すグラフである。
図21は、振幅/周期と反射光強度(局所反射強度比)の相対値との関係を示すグラフである。
図22は、最大変化角度と反射光強度(局所反射強度比)の相対値との関係を示すグラフである。
図23は、振幅と上方反射成分の相対値との関係を示すグラフである。
図24は、振幅/周期と上方反射成分の相対値との関係を示すグラフである。
図25は、最大変化角度と上方反射成分の相対値との関係を示すグラフである。
図20~
図22から、比較例1の三角柱に対して、高さに振幅変化がある〔前記(1)の態様に相当〕、面内蛇行〔前記(2)の態様に相当〕、及び三角柱と曲面の組合せ〔前記(4)の態様に相当〕にて、局所反射を抑制する効果が高いことが確認できた。
特に、面内蛇行〔前記(2)の態様に相当〕、及び三角柱と曲面の組合せ〔前記(4)の態様に相当〕と比較して、高さに振幅変化がある〔前記(1)の態様に相当〕ほうが、局所反射を抑制する効果が高いことが確認できた。
図23~
図25から、曲面形状のみによる比較例2は、上方反射が低く、実施例13の三角柱と曲面形状を組み合わせることにより、上方反射を有しつつ、局所反射を抑制できることが確認できた。比較例2の曲面形状においては、上方へ向かうために必要な多重反射しないためと考えられる。
【0091】
(実施例14-1)
<光学体の作製>
図5Aに示す三角形の断面が延在している方向にて連続的に高さが異なる構造体を作成するため、原盤の加工を
図5Dのように、三角柱状構造体の延在方向にて高さが異なっているようにした。作成する光学体は前記(1)を満たす光学体である。
【0092】
・原盤加工仕様
平均形状間隔(隣接する構造体の谷部間の距離) :67μm
平均形状高さ(AH) :31μm
断面底角-D1 :35deg
断面底角-D2 :55deg
延在方向の高さ振幅(A) :10.5μm
延在方向の高さ変調 :正弦波
正弦波の周期(Pe) :800μm
隣接する構造体とのズレ(位相)(ΔPh) :1/2周期
(構造体の高さが最も高くなる場合に、隣接する構造体の高さが最も低くなるように、隣接する構造体の高さ変調を1/2周期分の位相を持たせる加工)
【0093】
この加工済み原盤を用い、転写法により、PET基材(東レ製、厚み75μm)上に、光硬化性樹脂組成物(硬化後の樹脂屈折率1.52)を用い、紫外線を照射して硬化させて、
図5Aに示す三角形の断面が延在している方向に連続的に高さが異なる構造体を表面に有する第1の光学層を形成した。硬化後の厚みは、110μmであった。
【0094】
形成した第1の光学層上に、近赤外線を反射させる下記構成の無機層を真空スパッタ法により形成した。形成した無機層上に、光硬化性樹脂組成物(硬化後の樹脂屈折率1.52)を塗布し、PET基材(東レ社製、厚み75um)上に、紫外線を照射して硬化させて第2の光学層を形成した。以上により、光学体を得た。得られた硬化後の光学体の厚みは、205μmであった。
得られた光学体を以下の試験・測定に供した。結果を表2-2に示す。
【0095】
<<無機層の構成>>
(第1の光学層)/Nb2O5(36nm)/AgPdCu(11nm)/Al2O3-ZnO(4nm)/Nb2O5(80nm)/AgPdCu(11nm)/Al2O3-ZnO(4nm)/Nb2O5(36nm)/Al2O3-ZnO(4nm)/(第2の光学層)
ここで、AgPdCuの成膜には、Ag/Pd/Cu=98.1質量%/0.9質量%/1.0質量%の組成を含有する合金ターゲットを使用した。
また、Al2O3-ZnOの成膜には、ZnOにAl2O3を2質量%添加したセラミックスターゲット〔ZnO:Al2O3=100:2(質量比)〕を使用し、Nb2O5の成膜にはNb2O5を使用した。ここで、各層の厚みは、形状の無い平坦面へ製膜した際の厚みを表記している。
【0096】
<可視光線透過率、可視光線反射率、遮蔽係数>
JIS A 5759に準じて試験を行った。具体的には、光学体を厚み3mmのフロートガラスへ市販の高透明粘着材にて貼合わせ、株式会社日立ハイテクサイエンス製分光光度計(UH4150)にて測定した。
得られた分光透過率、反射率値に対してJIS A5759に従い、可視光線透過率、可視光線反射率、遮蔽係数を算出した。
なお、光学体をフロートガラスに粘着材を用いて張り合わせた状態を
図26に示した。
図26において、符号110は、第2の基材を表し、符号111は、フロートガラスを表し、符号112は、粘着材を表す。符号D1は、断面底角-D1を表し、符号D2は、断面底角-D2を表す。
【0097】
<ヘイズ値>
前述のサンプルを用いてJIS K7136に準じて、試験を行った。具体的には、光学体を厚み3mmのフロートガラスへ市販の透明粘着材にて貼合わせ、日本電色工業株式会社製ヘイズメーター(NDH7000)にて測定した。
【0098】
<近赤外線上方反射率>
光学測定に用いたサンプルを用いて、環境省 平成27年度環境技術実証事業 実証番号 : 051-1506 に記載の4.4 指向性反射性能(http://www.env.go.jp/policy/etv/pdf/list/h27/051-1506a.pdf)に従い、測定サンプルの表面に対しての法線方向から60degの垂直方向角(θ)における近赤外線の上方反射率を測定した。入射光のサンプルに対する方位角(φ)は、サンプルの上方反射性能が最も効率良く発現される方向とした(垂直方位角(θ)に関しては、例えば、
図26参照)。
得られた分光反射率値をJIS A5759に従い、重荷係数を乗じて、近赤外線(780~2500nm)領域における上方反射成分を上方反射率として算出した。
【0099】
<上方反射指向性>
Light Tec社製のMiniDiffにより、反射指向性を測定し、局所反射の抑制効果を評価した。
Light Tec社製のMiniDiffは、可視光光源による評価機のため、近赤外線の反射分布の測定が困難である。そのため、実施例14-1の近赤外線を反射させる無機層を、Ag30nmの膜に変えた。また、前述の光学測定に用いた厚み3mmのフロートガラスのサイズを□10cm×10cmへ変更した。それ以外には、同様にしてサンプルを作成して、測定に使用した。
この方法により、可視光線を用いて反射分布の測定が可能となり、反射指向性を評価することができる。
測定では、測定サンプルの表面に対しての法線方向から20degからの垂直方向角(θ)における近赤外線の上方反射率を測定した。入射のサンプルに対する方位角(φ)は、サンプルの上方反射性能が最も効率良く発現される方向として、第1の光学層の三角柱の稜線方向から90deg回転させた方向をφ=0degとして、更に15deg回転させた方向をφ15degとした。
反射強度の分布より、鏡面反射を除いた最も強度の高い数値(ピーク反射強度)を読み取り、後述する比較例3-1の三角柱の鏡面反射を除いた最も強度の高い数値(ピーク反射強度)の結果を100%とした際の、相対値%を局所反射強度比として算出した。
この鏡面反射を除いた最も強度の高い数値の相対値により、局所反射の抑制効果を評価した。
【0100】
<局所反射の状態>
前述のLight Tec社製のMiniDiffにより、反射指向性を測定した際に得られた反射光の分布の状態を、以下の評価基準で評価した。
〔評価基準〕
・×:光学体の表面に斜めに入射された光が、反射部より直線上に反射され、局所的な輝点を有するもの
・○:光学体の表面に斜めに入射された光は、反射部より非直線状に光が反射され、輝点は帯状、もしくは複数に分割されることで局所的な輝点が緩和されているもの
【0101】
<輝線の外観評価>
□15cm×15cmの厚み3mmのフロートガラスへ粘着材を介して光学体を貼り付け、光学体の上部15cmより小型ライト光源を照射し、外観の観察を行った。
輝線の視認性について、以下の評価基準で評価をした。
〔評価基準〕
・×:光源の輝点からフロートガラスガラスの端部まで、明鏡な輝線が観察される
・〇:光源の輝点からフロートガラスの端部までに、輝線が非常に薄くなり、視認し難くなる
【0102】
(実施例14-2~14-15)
局所反射の評価にて、垂直方向角(θ)と方位角(φ)を表2-2の通りとした以外には、実施例14-1と同様に評価した。結果を表2-2に示した。
【0103】
(実施例15-1)
実施例14-1において、原盤加工仕様を以下のように変更した以外は、実施例14-1と同様にして、光学体を作成し、実施例14-1と同様に評価した。結果を表2-2に示した。
・原盤加工仕様
平均形状間隔(隣接する構造体の谷部間の距離) :67μm
平均形状高さ(AH) :31μm
断面底角-D1 :35deg
断面底角-D2 :55deg
延在方向の高さ振幅(A) :21μm
延在方向の高さ変調 :正弦波
正弦波の周期(Pe) :800μm
隣接する構造体とのズレ(位相)(ΔPh) :1/2周期
(構造体の高さが最も高くなる場合に、隣接する構造体の高さが最も低くなる
ように、隣接する構造体の高さ変調を1/2周期分の位相を持たせる加工)
【0104】
(実施例15-2~15-15)
局所反射の評価にて、垂直方向角(θ)と方位角(φ)を表2-2の通りとした以外には、実施例14-1と同様に評価した。結果を表2-2に示した。
【0105】
(比較例3-1)
実施例14-1において、原盤加工仕様を以下のように変更し、原盤の加工を
図3Dのように、三角断面が延在した構造体が並列した形状とした以外は、実施例14-1と同様にして、光学体を作成し、同様に評価した。
・原盤加工仕様
形状間隔(隣接する構造体の谷部間の距離) :67μm
形状高さ :31μm
断面底角-D1 :35deg
断面底角-D2 :55deg
【0106】
(比較例3-2~3-15)
局所反射の評価にて、垂直方向角(θ)と方位角(φ)を表2-2の通りとした以外には、実施例14-1と同様に評価した。結果を表2-2に示した。
【0107】
【0108】
【0109】
<得られた結果に対して>
<<可視光線特性、日射特性、近赤外線上方反射率>>
実施例14-1~14-15、実施例15-1~15-15においても、比較例3-1~3-15と同様に可視光線透過率、反射率、Haze値、遮蔽係数、近赤外線上方反射率は同等の性能が得られていた。
【0110】
<<反射指向性(局所反射抑制)>>
比較例3-1~3-15では、反射光が散乱せずに局所的な線上に反射されているのに対して、実施例14-1~14-15、実施例15-1~15-15では局所的な反射が抑えられているのが確認された。
また、反射強度の分布より、鏡面反射を除いた最も強度の高い数値を読み取り、同方位角、及び同入射角で測定した比較例の結果を100%とした結果に対して、本発明の光学体における鏡面反射を除いた最も強度の高い数値における反射強度の相対値による局所反射の強度比から、本発明の光学体においては局所的な反射が抑えられているのが判る。
また、規則的な構造起因により光源が照射された際に発生する輝線は、本発明の、構造体の延在方向にて高さを変調した反射構造体を有する光学体においては、比較例3-1~3-15に対して抑えられているのが判る。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の光学体は、窓ガラスに貼付され日光を再帰反射する熱線反射フィルムとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0112】
10 光学体
11 第1の光学層
12 無機層
13 第2の光学層
14 第1の基材