(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】ポリエステル基材用離型コート剤、離型シート及び積層体
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20240610BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240610BHJP
C09D 5/20 20060101ALI20240610BHJP
C09D 103/00 20060101ALI20240610BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20240610BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240610BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20240610BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20240610BHJP
C08G 18/62 20060101ALI20240610BHJP
C08G 18/65 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D5/02
C09D5/20
C09D103/00
B32B7/06
B32B27/00 L
C08G18/00 C
C08G18/32 018
C08G18/62 004
C08G18/65 011
(21)【出願番号】P 2023046788
(22)【出願日】2023-03-23
【審査請求日】2024-03-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 文弥
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-99095(JP,A)
【文献】特開2019-156441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
C08G 18/00-18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系分散媒にポリウレタン樹脂が分散してなる水系分散体を含む、ポリエステル基材用離型コート剤であって、
前記ポリウレタン樹脂は、構成成分として、ポリブタジエンポリオール及び/又は水添ポリブタジエンポリオールと、ポリイソシアネートとを含み、
前記水系分散体は、水酸基価が450mgKOH/g以下のショ糖脂肪酸エステルを含む、ポリエステル基材用離型コート剤。
【請求項2】
前記ポリウレタン樹脂100質量部に対する前記ショ糖脂肪酸エステルの含有量が5~80質量部である、請求項1に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
【請求項3】
前記ポリブタジエンポリオール及び/又は水添ポリブタジエンポリオールの数平均分子量が1000~3000である、請求項1に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂は、構成成分として、更にアニオン性基含有ポリオールを含む、請求項1に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
【請求項5】
前記水系分散体の固形分1gあたりの酸価が8.5~40mgKOH/gである、請求項1に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
【請求項6】
ポリエステル基材と、前記ポリエステル基材上に設けられた請求項1~5のいずれか1項に記載の離型コート剤からなる離型層と、を含む離型シート。
【請求項7】
請求項6に記載の離型シートと、前記離型シートの前記離型層上に剥離可能に設けられた樹脂層と、を含む積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ポリエステル基材に塗布して用いられる離型コート剤、並びに、該離型コート剤を用いて得られる離型シート及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム等のポリエステル基材に離型コート剤を塗布してなる離型層を設けた離型シート(剥離シートとも称される。)が知られている。例えば、特許文献1には、離型ベース基材の表面に塗布されて離型層を形成する離型コート剤として、シリコーン樹脂とアルコキシ基含有シラン変性ポリウレタン樹脂と溶媒を含有する離型剤組成物が開示されている。このような離型コート剤としては、シリコーン系の他、シリコーン移行を回避することを可能にする非シリコーン系の離型コート剤もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリエステル基材に塗布して用いられる離型コート剤においては、離型シートとして保護すべき粘着剤皮膜や離型シート上に成膜した樹脂皮膜などの樹脂層から剥離しやすいこと、即ち剥離性が求められるとともに、ポリエステル基材に対する接着性が求められる。
【0005】
本発明の実施形態は、剥離性に優れるとともにポリエステル基材に対する接着性に優れるポリエステル基材用離型コート剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 水系分散媒にポリウレタン樹脂が分散してなる水系分散体を含む、ポリエステル基材用離型コート剤であって、前記ポリウレタン樹脂は、構成成分として、ポリブタジエンポリオール及び/又は水添ポリブタジエンポリオールと、ポリイソシアネートとを含み、前記水系分散体は、水酸基価が450mgKOH/g以下のショ糖脂肪酸エステルを含む、ポリエステル基材用離型コート剤。
[2] 前記ポリウレタン樹脂100質量部に対する前記ショ糖脂肪酸エステルの含有量が5~80質量部である、[1]に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
[3] 前記ポリブタジエンポリオール及び/又は水添ポリブタジエンポリオールの数平均分子量が1000~3000である、[1]又は[2]に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
[4] 前記ポリウレタン樹脂は、構成成分として、更にアニオン性基含有ポリオールを含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
[5] 前記水系分散体の固形分1gあたりの酸価が8.5~40mgKOH/gである、[1]~[4]のいずれか1項に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
[6] ポリエステル基材と、前記ポリエステル基材上に設けられた[1]~[5]のいずれか1項に記載の離型コート剤からなる離型層と、を含む離型シート。
[7] [6]に記載の離型シートと、前記離型シートの前記離型層上に剥離可能に設けられた樹脂層と、を含む積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、剥離性に優れるとともに、ポリエステル基材に対する接着性に優れるポリエステル基材用離型コート剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態に係るポリエステル基材用離型コート剤(以下、単に離型コート剤ともいう。)は、ポリウレタン樹脂の水系分散体を含む離型コート剤であって、該水系分散体が特定のショ糖脂肪酸エステルを含むものである。そのため、該離型コート剤は、水系分散媒と、該水系分散媒に分散したポリウレタン樹脂と、ショ糖脂肪酸エステルと、を含む。
【0009】
[水系分散媒]
水系分散媒は、水を含む分散媒であり、水、又は、水と親水性有機溶媒との混合媒体が挙げられる。水系分散体の分散安定性の観点から、水系分散媒は水が好ましく、有機溶媒は含まれてもよいが少量であることが好ましい。一実施形態において、水系分散媒は水を70質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは水を80質量%以上含むことであり、より好ましくは水を90質量%以上含むことであり、水が100質量%でもよい。すなわち、水系分散媒において、水/親水性有機溶媒は、質量比で、70/30~100/0であることが好ましく、より好ましくは80/20~100/0であり、更に好ましくは90/10~100/0である。
【0010】
親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級1価アルコール、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0011】
[ポリウレタン樹脂]
ポリウレタン樹脂は、ポリオールとポリイソシアネートを反応させて得られるものであり、分子内にウレタン結合を有する重合体である。本実施形態において、ポリウレタン樹脂としては、その構成成分として、ポリブタジエンポリオール及び/又は水添ポリブタジエンポリオール(以下、両者をまとめて「(水添)ポリブタジエンポリオール」ということがある。)と、ポリイソシアネートとを含むものを用いる。ここで、構成成分として含むとは、ポリウレタン樹脂を合成する原料(モノマー)として用いることをいい、これに由来する構造をポリウレタン樹脂に有する。このようにポリオールとして(水添)ポリブタジエンポリオールを用いたポリウレタン樹脂を、特定のショ糖脂肪酸エステルと組み合わせることにより、接着性を持ちながら離型性を付与することができる。
【0012】
ポリブタジエンポリオールは、非水添(即ち、水素添加されていない)のポリブタジエンポリオールである。ポリブタジエンポリオールとしては、分子中に1,4-結合型、1,2-結合型又はそれらが混在したポリブタジエン構造と少なくとも2つのヒドロキシ基を有するものが好ましく、ポリブタジエン構造の両末端にそれぞれヒドロキシ基を有するものがより好ましい。
【0013】
水添ポリブタジエンポリオールは、ポリブタジエンポリオールに対して水素添加した構造を持つものであり、ポリブタジエンポリオールに含まれている不飽和二重結合の一部又は全てが水添されている。水添ポリブタジエンポリオールの水添の度合いは特に限定されず、例えばヨウ素価が50g/100g以下でもよく、30g/100g以下でもよい。本明細書において、ヨウ素価はJIS K0070:1992に準じて測定される。
【0014】
(水添)ポリブタジエンポリオールの数平均分子量(Mn)は1000~3000であることが好ましく、より好ましくは1500~2900であり、更に好ましくは1800~2800である。
【0015】
本明細書において、数平均分子量(Mn)は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)により測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出した値である。詳細には、GPCの条件として、カラム:東ソー(株)製「TSKgel G4000HXL+TSKgel G3000HXL+TSKgel G2000HXL+TSKgel G1000HXL+TSKgel G1000HXL」、移動相:THF(テトラヒドロフラン)、移動相流量:1.0mL/min、カラム温度:40℃、試料注入量:50μL、試料濃度:0.2質量%として測定することができる。
【0016】
(水添)ポリブタジエンポリオールの官能基数は特に限定されないが、好ましくは1.5~2.8であり、より好ましくは1.7~2.5である。ここで、官能基数とは、(水添)ポリブタジエンポリオールの1分子当たりのヒドロキシ基の数であり、下記式により算出される。式中の水酸基価は、JIS K1557-1:2007のA法に準じて測定される。
官能基数={(水酸基価)×(Mn)}/(56.1×1000)
【0017】
(水添)ポリブタジエンポリオールとしては、ポリブタジエンポリオール又は水添ポリブタジエンポリオールのいずれか一方のみを用いてもよく、双方を用いてもよい。接着性及び剥離性の観点から、より好ましくはポリブタジエンポリオールを用いることである。
【0018】
ポリウレタン樹脂を構成するポリオールは、(水添)ポリブタジエンポリオールのみでもよく、(水添)ポリブタジエンポリオールとともに他のポリオールを含んでもよい。ポリオール中における(水添)ポリブタジエンポリオールの量は特に限定されず、例えば、ポリオール100質量%に対して60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70~99質量%であり、更に好ましくは75~97質量%であり、80~95質量%でもよい。
【0019】
本明細書において、ポリオールを構成する各成分の量について、その基準とするポリオール100質量%は、ポリオールが後述するアニオン性基を含む場合、当該アニオン性基を酸型として計算される。アニオン性基含有ポリオールの量についても同様に、アニオン性基を酸型として計算される。
【0020】
上記他のポリオールとしては、後述するアニオン性基含有ポリオール及び/又は親水性セグメント含有ポリオールが挙げられ、また、例えば、ポリエステルポリオール(例えば、脂肪族ポリエステルポリオール、芳香族ポリエステルポリオール)、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール(例えば、ポリテトラメチレングリコール)等の重合体ポリオールが挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ここで、重合体ポリオールの分子量は、特に限定されず、例えば、数平均分子量(Mn)が500~5000でもよく、800~4000でもよく、1000~3000でもよい。
【0021】
上記他のポリオールとしては、また、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の低分子の多価アルコール(好ましくは、二価アルコール、三価アルコール)が挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ポリウレタン樹脂を構成するポリイソシアネートとしては、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートが挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0024】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、水添キシリレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0025】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0026】
また、これらのポリイソシアネートのイソシアヌレート体、アダクト体、ビュレット体、アロフェネート体、カルボジイミド体などを用いてもよい。また、これらのポリイソシアネートは、いずれか1種用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0027】
ポリウレタン樹脂としては、アニオン性ポリウレタン樹脂、カチオン性ポリウレタン樹脂、及びノニオン性ポリウレタン樹脂等の各種水系ポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0028】
アニオン性ポリウレタン樹脂は、アニオン性基を有する水系ポリウレタン樹脂である。アニオン性基としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、及びリン酸基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0029】
ここで、アニオン性基は、酸型(カルボキシ基の場合:-COOH)だけでなく、塩型(カルボキシ基の場合:-COOXで表されるカルボン酸塩基。但し、Xはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、1級アミン、2級アミン、3級アミン等のアミン塩が挙げられる。
【0030】
酸型のアニオン性基は中和して塩にすることにより、最終的に得られるポリウレタン樹脂を水分散性にすることができる。そのため、ポリウレタン樹脂の水系分散体において、アニオン性基は塩型として存在してもよい。一方、該水系分散体を乾燥させて得られた塗膜の状態においては、中和剤として不揮発性塩基を用いた場合は塩型として存在し、揮発性塩基を用いた場合は酸型として存在してもよい。塗膜の状態において酸型として存在することにより、塗膜の耐水性が向上する傾向がある。
【0031】
カチオン性ポリウレタン樹脂は、カチオン性基を有する水系ポリウレタン樹脂である。カチオン性基としては、例えば第四級アンモニウム基等が挙げられる。
【0032】
ノニオン性ポリウレタン樹脂は、アニオン性基及びカチオン性基を有しない、非電荷の水系ポリウレタン樹脂である。ノニオン性ポリウレタン樹脂としては、例えばポリオキシエチレン基等の親水性セグメントを持つポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0033】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂としては、(水添)ポリブタジエンポリオール及びアニオン性基含有ポリオールを含むポリオールと、ポリイソシアネートと、を反応させることにより得られるアニオン性ポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。かかるアニオン性ポリウレタン樹脂としては、例えば、下記(A)及び(B)が挙げられる。
【0034】
(A)(水添)ポリブタジエンポリオール及びアニオン性基含有ポリオールを含むポリオールとポリイソシアネートからイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該ウレタンプレポリマーを鎖伸長剤により鎖伸長してなるアニオン性ポリウレタン樹脂。
【0035】
(B)(水添)ポリブタジエンポリオール及びアニオン性基含有ポリオールを含むポリオールとポリイソシアネートを反応させて得られるヒドロキシ基含有アニオン性ポリウレタン樹脂。
【0036】
アニオン性基含有ポリオールとしては、分子内にカルボキシ基、スルホン酸基、及びリン酸基からなる群から選択される少なくとも1種を含むポリオールが好ましく、より好ましくは分子内にカルボキシ基を有するカルボキシ基含有ポリオールである。カルボキシ基含有ポリオールとしては、例えば、ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、ジオキシマレイン酸、2,6-ジオキシ安息香酸、3,4-ジアミノ安息香酸等のカルボン酸含有化合物及びこれらの誘導体並びにそれらの塩が挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを鎖伸長させる鎖伸長剤としては、特に限定されず、例えば、水が挙げられ、また、脂肪族ポリアミン化合物(例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン)、芳香族ポリアミン化合物(例えば、メタキシレンジアミン、トリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン)、脂環式ポリアミン化合物(例えば、ピペラジン、イソホロンジアミン)、ポリヒドラジド化合物(例えば、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド)等の多価アミン化合物が挙げられる。
【0038】
アニオン性ポリウレタン樹脂において、ポリオール中における(水添)ポリブタジエンポリオールの量は、特に限定されず、例えば、ポリオール100質量%に対して80~99質量%でもよく、85~97質量%でもよく、90~95質量%でもよい。ポリオール中におけるアニオン性基含有ポリオールの量は、特に限定されず、例えば、ポリオール100質量%に対して1~20質量%でもよく、3~15質量%でもよく、5~10質量%でもよい。
【0039】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂としては、(水添)ポリブタジエンポリオール及び親水性セグメント含有ポリオールを含むポリオールと、ポリイソシアネートと、を反応させることにより得られるノニオン性ポリウレタン樹脂を用いてもよい。かかるノニオン性ポリウレタン樹脂として、例えば下記(C)が挙げられる。
【0040】
(C)(水添)ポリブタジエンポリオール及び親水性セグメント含有ポリオールを含むポリオールとポリイソシアネートからイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該ウレタンプレポリマーを鎖伸長剤により鎖伸長してなるノニオン性ポリウレタン樹脂。
【0041】
親水性セグメント含有ポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレン基のようなノニオン性の親水性セグメントを持つポリオールが挙げられる。
【0042】
ノニオン性ポリウレタン樹脂において、ポリオール中における(水添)ポリブタジエンポリオールの量は、特に限定されず、例えば、ポリオール100質量%に対して60~95質量%でもよく、65~90質量%でもよく、70~85質量%でもよい。親水性セグメント含有ポリオールの量は、特に限定されず、例えば、ポリオール100質量%に対して5~40質量%でもよく、10~35質量%でもよく、15~30質量%でもよい。
【0043】
[ショ糖脂肪酸エステル]
ショ糖脂肪酸エステルとしては、水酸基価が450mgKOH/g以下のものが用いられ、これにより離型性を向上することができる。ショ糖脂肪酸エステルの水酸基価は低い方が離型性の観点から好ましい。ショ糖脂肪酸エステルの水酸基価は、20~430mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは50~300mgKOH/gであり、更に好ましくは80~200mgKOH/gであり、更に好ましくは100~150mgKOH/gである。
【0044】
本明細書において、ショ糖脂肪酸エステルの水酸基価は医薬部外品原料規格2021に準拠して測定される。
【0045】
ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数が8以上25以下である中鎖又は長鎖の脂肪酸であることが好ましく、ショ糖脂肪酸エステルに疎水性を付与してポリウレタン樹脂との親和性を向上することができる。該脂肪酸は飽和脂肪酸でもよく、不飽和脂肪酸でもよいが、好ましくは飽和脂肪酸である。該脂肪酸としては、炭素数8~25の飽和及び/又は不飽和の脂肪酸をいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。該脂肪酸の炭素数は、10~22であることが好ましく、より好ましくは12~20であり、更に好ましくは14~18である。
【0046】
[ポリウレタン樹脂の水系分散体]
ポリウレタン樹脂の水系分散体は、水系分散媒にポリウレタン樹脂が分散してなる水系分散体であって、上記ショ糖脂肪酸エステルを含む。このようにポリウレタン樹脂の水系分散体に上記ショ糖脂肪酸エステルを配合したことにより、ポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤において、当該離型コート剤を用いて得られた離型シートでの剥離性を向上することができるとともに、ポリエステル基材への接着性に優れる。
【0047】
ポリウレタン樹脂の水系分散体における上記ショ糖脂肪酸エステルの存在形態は特に限定されないが、上記ショ糖脂肪酸エステルは、ポリウレタン樹脂の粒子に含まれていることが好ましい。ここで、粒子に含まれるとは、粒子内部に存在すること、及び/又は、粒子表面に存在することを包含する概念である。
【0048】
水系分散体におけるポリウレタン樹脂の含有量は、特に限定されず、水系分散体の全質量に対して、例えば10~50質量%でもよく、15~45質量%でもよく、20~40質量%でもよい。
【0049】
上記ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、ポリウレタン樹脂100質量部に対して5~80質量部であることが好ましく、より好ましくは7~50質量部であり、更に好ましくは8~40質量部であり、更に好ましくは10~30質量部であり、15~25質量部でもよい。
【0050】
ポリウレタン樹脂がアニオン性ポリウレタン樹脂を含む場合、上記水系分散体の固形分の酸価は、当該固形分1gあたり8.5~40mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは13~40mgKOH/gであり、更に好ましくは17~35mgKOH/gである。酸価が8.5mgKOH/g以上であることにより、水系分散媒への乳化分散性を向上することができる。ここで、水系分散体の固形分とは、水系分散体中における水等の揮発成分を除いたものをいい、ポリウレタン樹脂、ショ糖脂肪酸エステルおよび界面活性剤等を含む。
【0051】
本明細書において、酸価は、JIS K0070-1992に準拠して、ポリウレタン樹脂の水系分散体の固形分1g中に含まれる遊離カルボキシル基を中和するのに要するKOH量(mg)より求めることができる。
【0052】
水系分散体におけるポリウレタン樹脂の粒子(詳細には、ショ糖脂肪酸エステルを含む樹脂粒子)の大きさは、特に限定されず、例えば平均粒子径が0.001~0.5μmでもよい。ここで、平均粒子径は、日機装(株)製「Microtrac UPA-UZ152」を用いて測定される50%累積の粒子径(d50)である。
【0053】
ポリウレタン樹脂の水系分散体には、その効果が損なわれない限り、他の成分を含んでもよい。例えば、ポリウレタン樹脂を架橋するための架橋剤、及び/又は、ポリウレタン樹脂を水系分散媒に分散させるための界面活性剤が含まれてもよい。
【0054】
架橋剤としては、ポリウレタン樹脂が有するヒドロキシ基、第1級アミノ基、第2級アミノ基及びチオール基からなる群から選ばれる少なくとも1種の活性水素含有基と反応し得る反応性基を分子内に2個以上有する化合物が挙げられる。これにより離型コート剤により形成される離型層の耐水性を向上することができる。架橋剤は、ポリウレタン樹脂がカルボキシ基を有する場合、そのカルボキシ基と架橋反応させることもできる。
【0055】
架橋剤としては、例えば、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、ブロックイソシアネート化合物、エポキシ化合物等が挙げられ、これらはいずれか1種を用いても2種以上を併用してもよい。
【0056】
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤が好ましく用いられる。非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
【0057】
[水系分散体の製造方法]
ポリウレタン樹脂の水系分散体を製造する方法は特に限定されず、例えば下記工程(1)~(3)を含む方法により製造してもよい。
【0058】
工程(1):ポリオールとポリイソシアネートを反応させる工程。
工程(2):工程(1)により得られたポリウレタン樹脂とショ糖脂肪酸エステルを混合する工程。
工程(3):工程(2)により得られた混合物と水系分散媒を用いてポリウレタン樹脂を水系分散媒に分散させる工程。
【0059】
このようにポリウレタン樹脂とショ糖脂肪酸エステルを混合してから水系分散媒に分散させることにより、ショ糖脂肪酸エステルをポリウレタン樹脂の粒子に効率良く含ませることができる。
【0060】
上記工程(1)において、ポリオールとポリイソシアネートとの反応は、有機溶媒なしで実施してもよく、メチルエチルケトンやアセトン等の活性水素基を有しない有機溶媒中で実施してもよい。工程(1)の反応により得られるポリウレタン樹脂は、鎖伸長等する前のウレタンプレポリマーも包含する概念である。そのため、工程(2)では、かかるウレタンプレポリマーとショ糖脂肪酸エステルを混合してもよい。
【0061】
また、ポリウレタン樹脂がアニオン性基を有する場合、工程(2)においてポリウレタン樹脂とショ糖脂肪酸エステルとを混合する前又は混合した後に、中和剤により当該アニオン性基を中和してもよい。
【0062】
中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の不揮発性塩基、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類、アンモニア等の揮発性塩基等が挙げられる。
【0063】
工程(3)においてポリウレタン樹脂を水系分散媒中に分散させる方法は特に限定されず、例えば、(i)水系分散媒をホモジナイザーやホモミキサー等によって攪拌しながら、ポリウレタン樹脂又はその樹脂溶液を添加する方法、(ii)ポリウレタン樹脂又はその樹脂溶液をホモジナイザーやホモミキサー等によって攪拌しながら、水系分散媒を添加する方法等が挙げられる。なお、ポリウレタン樹脂が自己乳化できないものである場合、ポリウレタン樹脂を水系分散媒に乳化分散させるために界面活性剤を添加してもよい。
【0064】
工程(1)においてウレタンプレポリマーを合成した場合、工程(3)でウレタンプレポリマーを水系分散媒に分散させた後に、鎖伸長剤により鎖伸長させてもよい。また、工程(1)においてポリオールとポリイソシアネートとの反応を有機溶媒中で行った場合、工程(3)でポリウレタン樹脂を水系分散媒に分散させた後に、当該有機溶媒を除去してもよい。
【0065】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂として上記(A)のアニオン性ポリウレタン樹脂を用いる場合、下記工程(a1)~(a5)により製造してもよい。
工程(a1):(水添)ポリブタジエンポリオール、アニオン性基含有ポリオール、及び、ポリイソシアネートを反応させて、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成する工程。
工程(a2):前記イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのアニオン性基を中和する工程。
工程(a3):前記イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーとショ糖脂肪酸エステルを混合する工程。
工程(a4):工程(a3)により得られた混合物と水系分散媒を用いて、前記イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水系分散媒に分散させる工程。
工程(a5):水系分散媒に分散させたイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを鎖伸長剤により鎖伸長する工程。
【0066】
工程(a1)が上記工程(1)に相当し、工程(a3)が上記工程(2)に相当し、工程(a4)が上記工程(3)に相当し、工程(a2)及び(a5)は追加の工程である。
【0067】
工程(a1)において、ポリイソシアネートは、ポリオールに含まれるヒドロキシ基の量よりも、イソシアネート基が化学量論的に過剰、例えばヒドロキシ基とイソシアネート基との当量比(NCO/OH)が1.05~1.70(より好ましくは1.10~1.60)となるように用いられる。
【0068】
工程(a2)と工程(a3)の順番は問わず、アニオン性基を中和剤で中和してからショ糖脂肪酸エステルを加えてもよく、ショ糖脂肪酸エステルを加えてからアニオン性基を中和してもよい。
【0069】
工程(a5)において、鎖伸長剤の添加は、工程(a4)におけるポリウレタンプレポリマーの水系分散媒への分散後でもよく、分散中でもよい。鎖伸長剤については、上述したとおりであり、水も鎖伸長剤となる。水を鎖伸長剤とする場合、水系分散媒としての水が鎖伸長剤を兼ねる。
【0070】
工程(a1)の反応を有機溶媒中で行った場合、工程(a5)で鎖伸長した後に当該有機溶媒を除去してもよい。
【0071】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂として上記(B)のアニオン性ポリウレタン樹脂を用いる場合、下記工程(b1)~(b4)により製造してもよい。
工程(b1):(水添)ポリブタジエンポリオール、アニオン性基含有ポリオール、及び、ポリイソシアネートを反応させて、ヒドロキシ基含有ポリウレタン樹脂を合成する工程。
工程(b2):ヒドロキシ基含有ポリウレタン樹脂のアニオン性基を中和する工程。
工程(b3):前記ヒドロキシ基含有ポリウレタン樹脂とショ糖脂肪酸エステルを混合する工程。
工程(b4):工程(b3)により得られた混合物と水系分散媒を用いて、前記ヒドロキシ基含有ポリウレタン樹脂を水系分散媒に分散させる工程。
【0072】
工程(b1)が上記工程(1)に相当し、工程(b3)が上記工程(2)に相当し、工程(b4)が上記工程(3)に相当し、工程(b2)は追加の工程である。
【0073】
工程(b1)において、ポリオールは、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基の量よりも、ヒドロキシ基が化学量論的に過剰、例えばヒドロキシ基とイソシアネート基との当量比(NCO/OH)が0.70~0.95(より好ましくは0.75~0.90)となるように用いられる。
【0074】
工程(b2)及び(b3)の順番は問わず、アニオン性基を中和剤で中和してからショ糖脂肪酸エステルを加えてもよく、ショ糖脂肪酸エステルを加えてからアニオン性基を中和してもよい。
【0075】
工程(b1)の反応を有機溶媒中で行った場合、工程(b4)でポリウレタン樹脂を水系分散媒に分散させた後に、当該有機溶媒を除去してもよい。
【0076】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂として上記(C)のノニオン性ポリウレタン樹脂を用いる場合、下記工程(c1)~(c4)により製造してもよい。
工程(c1):(水添)ポリブタジエンポリオール、親水性セグメント含有ポリオール、及び、ポリイソシアネートを反応させて、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成する工程。
工程(c2):前記イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーとショ糖脂肪酸エステルを混合する工程。
工程(c3):工程(c2)により得られた混合物と水系分散媒を用いて、前記イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水系分散媒に分散させる工程。
工程(c4):水系分散媒に分散させたイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを鎖伸長剤により鎖伸長する工程。
【0077】
工程(c1)が上記工程(1)に相当し、工程(c2)が上記工程(2)に相当し、工程(c3)が上記工程(3)に相当し、工程(c4)は追加の工程である。工程(c1)におけるヒドロキシ基とイソシアネート基との当量比、工程(c4)における鎖伸長剤の添加時機及び水を鎖伸長剤とする場合、並びに有機溶媒の除去については、上記工程(a1)及び(a5)と同じである。
【0078】
[ポリエステル基材用離型コート剤]
本実施形態に係るポリエステル基材用離型コート剤は、上記ポリウレタン樹脂の水系分散体を含むものであり、従って、水系分散媒と、該水系分散媒中に分散したポリウレタン樹脂と、ショ糖脂肪酸エステルを含む。該離型コート剤は、上記ポリウレタン樹脂の水系分散体のみからなるものでもよく、上記ポリウレタン樹脂の水系分散体とともに、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤、消泡剤、表面調整剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0079】
離型コート剤におけるポリウレタン樹脂の含有量は特に限定されず、離型コート剤の全質量に対して、例えば10~50質量%でもよく、15~45質量%でもよく、20~40質量%でもよい。
【0080】
[離型シート]
一実施形態に係る離型シートは、ポリエステル基材と、該ポリエステル基材上に設けられた離型層とを含み、該離型層が上記離型コート剤により形成される。
【0081】
ポリエステル基材としては、ジカルボン酸とジオールとを構成成分(モノマー)とする各種ポリエステルにより形成されたものを用いることができる。ポリエステル基材の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材、ポリエチレンナフタレート(PEN)基材、ポリエチレンフラノエート(PEF)基材、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)基材、ポリブチレンテレフタレート(PBT)基材、ポリブチレンナフタレート(PBN)基材等が挙げられる。これらの中でも、芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとを構成成分とするポリエステルにより形成されたポリエステル基材、具体的にはPET基材、PEN基材、PEF基材等が、より好ましく用いられる。
【0082】
ポリエステル基材は、フィルム状でもよく、板状でもよく、厚みは特に限定されない。また、ポリエステル基材としては、コロナ表面処理等の表面処理が施されたものであってもよい。
【0083】
離型層は、ポリエステル基材の表裏少なくとも一方の面に積層された樹脂層であり、ポリエステル基材に離型コート剤を塗布し、乾燥することにより形成することができる。なお、離型コート剤が上記架橋剤を含む場合、離型コート剤を塗布後、乾燥等の熱処理を行うことで、ポリウレタン樹脂は架橋される。
【0084】
離型層の厚み(乾燥膜厚)は特に限定されず、例えば0.01~50μmでもよく、0.05~10μmでもよい。
【0085】
[積層体]
一実施形態に係る積層体は、上記離型シートと、その離型層上に剥離可能に設けられた樹脂層とを含む。離型シートは、例えば、(1)粘着剤皮膜を保護するための保護シートとして、あるいはまた、(2)樹脂皮膜を成膜するための支持シートとして用いられる。
【0086】
上記(1)の保護シートの場合、表面に粘着剤皮膜が形成された製品に対して該粘着剤皮膜を保護するために上記離型シートが用いられ、該製品の粘着剤皮膜が設けられた粘着面に離型シートが貼り付けられる。そのため、該粘着剤皮膜が上記樹脂層に相当し、該製品とその粘着面に貼り付けられた離型シートとにより上記積層体が構成される。離型シートは、上記製品の使用時に粘着面から剥がされる。上記製品としては、例えば、液晶の偏光板等が挙げられる。
【0087】
上記(2)の支持シートの場合、上記離型シートの離型層上に、樹脂液を塗布ないし流し込んで乾燥等により硬化させて樹脂皮膜を形成する。そのため、該樹脂皮膜が上記樹脂層に相当し、該樹脂皮膜が設けられた離型シートが上記積層体に相当する。離型シートは、樹脂皮膜を使用する際に該樹脂皮膜から剥がされる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例及び比較例に基づいて、より詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0089】
実施例で使用した各成分の詳細は以下のとおりである。
【0090】
[ポリオール]
・ポリブタジエンポリオール1:エボニック社製「POLYVEST HT」(官能基数:2.4、数平均分子量:2700)
・ポリブタジエンポリオール2:CRAY VALLEY社製「Krasol LBH-P2000」(官能基数:1.9、数平均分子量:2000)
・水添ポリブタジエンポリオール:CRAY VALLEY社製「Krasol HLBH-P2000」(官能基数:1.9、数平均分子量:2000)
・ジメチロールプロピオン酸:Perstorp社製「Bis-MPA(登録商標)」(官能基数:2、分子量:134.1)
・POE含有ポリオール:ポリオキシエチレン基含有ノニオン性ポリオール、Perstorp社製「Ymer N180」(官能基数:2、数平均分子量:600)、
・ポリエステルポリオール:芳香族ポリエステルジオール(官能基数:2、数平均分子量:2000)。合成方法は以下の通り。
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、イソフタル酸52.41質量部、アジピン酸8.77質量部、1,6-ヘキサンジオール26.58質量部、及びエチレングリコール12.24質量部を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら250℃まで昇温した。酸価が5mgKOH/g以下になるまで反応し、芳香族ポリエステルジオールを得た。
【0091】
[ポリイソシアネート]
・IPDI:イソホロンジイソシアネート(官能基数:2、分子量:222.3)、エボニック社製「VESTANAT(登録商標)IPDI」
・MDI:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(官能基数:2、分子量:250.3)、東ソー(株)製「ミリオネートMT-F」
・HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート(官能基数:2、分子量:168.2)、旭化成(株)製「デュラネート(登録商標)50M-HDI」
【0092】
[ショ糖エステル]
・ショ糖脂肪酸エステル1:下記合成例1により得られた、ショ糖と炭素数18の脂肪酸とのエステル化合物(水酸基価:114mgKOH/g)
【0093】
(合成例1)
反応器にジメチルスルホキシド(DMSO)345.7質量部を仕込み、90℃、3.7kPaの条件下で、DMSOの水分含有量が0.06質量%となるまで全還流を行った。ここに、炭酸カリウム0.26質量部、ショ糖67.2質量部およびステアリン酸メチル292.53質量部を加え、95℃、3.7kPaの条件下で、DMSOを留出させながら反応を行い、DMSOの留出量が42.9質量部に到達して以降は、DMSOを留出させずに全還流の下反応を行った。合計8時間反応させた後、pHが6.0になるように90質量%乳酸水溶液を加えて、反応を停止した。
攪拌槽を用いて、上記反応混合物の固形分が84.0質量%となるまで、DMSOを減圧留去し、濃縮した。
得られた濃縮物に0.1質量%硫酸カリウム水溶液240質量部およびイソブチルアルコール(IBA)240質量部を添加し、30分間撹拌した。この混合液を静置して2層に分離させ、上層(IBA相)を分取した。続いて、IBAを減圧下で留去し、ショ糖脂肪酸エステルを得た。
【0094】
・ショ糖脂肪酸エステル2:下記合成例2により得られた、ショ糖と炭素数18の脂肪酸とのエステル化合物(水酸基価:425mgKOH/g)
(合成例2)
ステアリン酸メチルの添加量を104.3質量部とした以外は合成例1と同じ方法によりショ糖脂肪酸エステルを調製した。
【0095】
・ショ糖安息香酸エステル(比較材料):下記合成例3により得られた、ショ糖安息香酸エステル(水酸基価:40mgKOH/g)
【0096】
(合成例3)
撹拌棒、温度計、冷却コンデンサー、滴下漏斗、及びpHメーターに接続したpH電極を備えた1L五つ口フラスコに、ショ糖34.2質量部と水70.0質量部を仕込み溶解させた後、水浴で10℃以下に冷却しながら、シクロヘキサノン100質量部に塩化ベンゾイル106.7質量部を溶解させた溶液を徐々に加えた。その後、20℃以下の温度に保ちながら、48質量%苛性ソーダ水溶液69.0質量部を滴下漏斗よりpHが10~11に保たれるような速度で加えた。水浴を取り去り20~30℃の室温で1時間撹拌を続け熟成して反応を完結させた後、若干量の炭酸ソーダを加え加熱して、微量に残っている塩化ベンゾイルを安息香酸ソーダに変換した。その後、約30分間静置させて、水相を分離させ、除去した。新たに水70質量部を加え、湯浴で40~50℃に昇温させ、30分撹拌した後、約30分間静置させて、水相を分離させ、除去した。同操作をさらに3回繰り返した後(合計の水洗回数:4回)、120℃に昇温し、減圧下溶媒を留去し、ショ糖安息香酸エステルを得た。
【0097】
・ショ糖脂肪酸エステルC1(比較材料):下記合成例4により得られた、ショ糖脂肪酸エステル(水酸基価:465mgKOH/g)
(合成例4)
ステアリン酸メチルの添加量を93.8質量部とした以外は合成例1と同じ方法によりショ糖脂肪酸エステルを調製した。
【0098】
[界面活性剤]
・界面活性剤1:非イオン界面活性剤、第一工業製薬(株)製「ノイゲン(登録商標)EA-157」
【0099】
離型コート剤の評価方法は以下のとおりである。
【0100】
[接着性]
離型コート剤の塗膜とPET基材との接着性を以下の方法で評価した。PETフィルム(「ルミラーT-60」、東レ(株)製)をイソプロピルアルコールにより脱脂し、次いで、該PETフィルム上に離型コート剤をバーコーターで乾燥膜厚10μmになるように塗布し、80℃で10分間乾燥し、さらに120℃で10分間乾燥して、離型コート剤の塗膜が形成された試験片を得た。この試験片をサンプルとして、JIS K5400-8.5:1990に準拠した2mm碁盤目試験を実施し、塗膜とPET基材との接着性を、下記式により算出した。
接着性(%)=100-(剥がれたマス目の数)
【0101】
[剥離性1(粘着テープからの剥離性)]
PET基材としてコロナ放電処理されたPET基材(「ルミラーT-60」、東レ(株)製)を用いた。該PET基材に離型コート剤をバーコーターで乾燥膜厚1μmになるように塗布し、80℃で10分間乾燥し、さらに120℃で10分間乾燥して、離型コート剤の塗膜が形成された試験片(コーティングフィルム)を得た。該試験片の塗膜に日東電工(株)製粘着テープ「No.31B」を、2kgローラーを用いて貼付し、3時間後の剥離強度(単位:mN/25mm)を測定した。剥離強度の測定は、JIS Z0237:2009に準拠した180°剥離試験(300mm/分)とした。剥離強度が小さいほど剥離性に優れる。剥離強度は500mN/25mm未満が好ましく、より好ましくは300mN/25mm未満である。
【0102】
[剥離性2(樹脂皮膜からの剥離性)]
剥離性1と同様にして離型コート剤の塗膜が形成された試験片を得た。該試験片の塗膜上にのり付きバッカ―で5cm×10cmの矩形の枠を作り、乾燥膜厚が250μmになるように水系ウレタン樹脂(第一工業製薬(株)製「スーパーフレックス460」(不揮発分38質量%))を流し込んだ。次いで、20℃で15時間、80℃で6時間、更に120℃で30分間乾燥して、該水系ウレタン樹脂からなる樹脂皮膜を上記試験片上に作製した。得られた樹脂皮膜を手で剥がせるか否かを評価し、樹脂皮膜を剥離できたものを「○」、樹脂皮膜を剥離できなかったものを「×」で評価した。
【0103】
[耐水性]
フッ素樹脂コーティングされたフライパン上に離型コート剤を乾燥膜厚が500μmとなるように注ぎ、次いで40℃で15時間、80℃で6時間、更に120℃で20分間乾燥して、離型コート剤からなる皮膜を作製した。該皮膜を試験片とし、40℃の温水に該試験片を24時間浸漬し、浸漬後の皮膜の質量を測定した。浸漬前の初期質量に対する浸漬後の質量の増加率(%)を求めた。増加率が小さいほど、水による膨潤が小さく、耐水性に優れる。
【0104】
[実施例1]
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、71.8質量部のポリブタジエンポリオール1、5.5質量部のジメチロールプロピオン酸、及びメチルエチルケトン100質量部を加え十分に攪拌溶解し、次いでIPDIを22.7質量部加え、固形分に対する遊離イソシアネート基の含有量が2.75質量%になるまで75℃で反応させて、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。このプレポリマー溶液を45℃まで冷却し、中和剤としてトリエチルアミン4.15質量部を加えることにより中和した後、20質量部のショ糖脂肪酸エステル1をメチルエチルケトン20質量部で溶解させた液(60℃に加温)を添加し攪拌した。ホモジナイザーを用いて攪拌しながら、分散媒として蒸留水308質量部を添加して乳化分散させた。その後、乳化体を40℃で1時間攪拌し、水による鎖伸長反応を完了させた。これを加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去して、固形分調整用の水を添加し、固形分30質量%のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0105】
[実施例2,3,5~11,15,比較例2~4]
ポリオール、ポリイソシアネート、及びショ糖エステルの種類及び仕込み量を、下記表1に示す通りに変更し、その他は実施例1と同様にして、実施例2,3,5~11,15,比較例2~4のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。但し、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得る際のウレタン反応終了時の遊離イソシアネート基の量を、実施例2,3,6では2.85質量%、実施例5では2.70質量%、実施例10では3.90質量%、実施例11では1.85質量%、実施例15では3.48質量%、比較例2では2.90質量%とした。また、分散媒としての蒸留水の添加量は、水系分散体の固形分濃度が30質量%になるように調整した。
【0106】
[実施例4]
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、60.7質量部のポリブタジエンポリオール1、20質量部のPOE含有ポリオール、及びメチルエチルケトン100質量部を加え十分に攪拌溶解し、次いでIPDIを19.3質量部加え、固形分に対する遊離イソシアネート基の含有量が2.40質量%になるまで75℃で反応させて、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。このプレポリマー溶液を45℃まで冷却した後、20質量部のショ糖脂肪酸エステル1をメチルエチルケトン20質量部で溶解させた液(60℃に加温)を添加し攪拌した。ホモジナイザーを用いて攪拌しながら、分散媒として蒸留水308質量部を添加して乳化分散させた。その後、乳化体を40℃で1時間攪拌し、水による鎖伸長反応を完了させた。これを加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去して、固形分調整用の水を添加し、固形分30質量%のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0107】
[実施例12]
乳化分散後の乳化体に鎖伸長剤としてのエチレンジアミン1.21質量部を添加してから40℃で1時間攪拌して鎖伸長反応を完了させ、その他は実施例1と同様にして、実施例12のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0108】
[実施例13]
分散媒としての蒸留水308質量部に代えて、蒸留水280質量部とN-メチルピロリドン(NMP)28質量部を添加し、乳化分散、鎖伸長反応及びメチルエチルケトンの留去後に、固形分調整用の水を添加して分散媒組成を蒸留水/NMP=90/10(質量比)とし、その他は実施例1と同様にして、実施例13のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0109】
[実施例14]
トリエチルアミンによる中和後、ショ糖脂肪酸エステルのメチルエチルケトン溶液とともに、5質量部の界面活性剤1をメチルエチルケトン5質量部に溶解した液を添加して攪拌し、その他は実施例1と同様にして、実施例14のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0110】
[比較例1]
ショ糖脂肪酸エステル1を添加せず、その他は実施例1と同様にして、比較例1のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0111】
実施例1~15及び比較例1~4の離型コート剤について、接着性、剥離性1、剥離性2、及び、耐水性を評価した。結果を表1に示す。なお、表1中において、インデックス(NCO/OH)は、ウレタンプレポリマーにおけるヒドロキシ基とイソシアネート基との当量比である(表2において同じ)。「水系分散体固形分の酸価」は、水系分散体の固形分1gあたりの酸価(mgKOH/g)である(表2において同じ)。「ショ糖脂肪酸エステル含有量(質量部)」は、離型コート剤における、ポリウレタン樹脂100質量部に対するショ糖脂肪酸エステル(比較例3はショ糖安息香酸エステル)の質量部である(表2において同じ)。
【0112】
表1に示されるように、比較例1では、ショ糖脂肪酸エステルを配合していないため、剥離性に劣っていた。ショ糖脂肪酸エステルを配合したものの、ポリウレタン樹脂のポリオールにポリブタジエンポリオールを用いていない比較例2では、ショ糖脂肪酸エステルが析出し、乳化できなかった。また、ショ糖脂肪酸エステルの代わりにショ糖安息香酸エステルを配合した比較例3では、比較例1に対して接着性は向上したものの、剥離性は改善しなかった。水酸基価が規定よりも高いショ糖脂肪酸エステルを配合した比較例4では、剥離性の改善効果が不十分であった。
【0113】
これに対し、ポリウレタン樹脂のポリオールに(水添)ポリブタジエンポリオールを用い、かつ規定内の水酸基価を持つショ糖脂肪酸エステルを配合した実施例1~15であると、接着性と剥離性に優れていた。また、比較例1に対して同等以上の耐水性を持つものであった。
【0114】
【0115】
[実施例16]
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、81.3質量部のポリブタジエンポリオール1、5.5質量部のジメチロールプロピオン酸、及びメチルエチルケトン100質量部を加え十分に攪拌溶解し、次いでIPDIを13.2質量部加え、固形分に対する遊離イソシアネート基の含有量が0.05質量%以下になるまで75℃で反応させて、ヒドロキシ基含有ポリウレタン樹脂のメチルエチルケトン溶液を得た。このポリウレタン樹脂溶液を45℃まで冷却し、中和剤としてトリエチルアミン4.15質量部を加えることにより中和した後、20質量部のショ糖脂肪酸エステル1をメチルエチルケトン20質量部で溶解させた液(60℃に加温)を添加し攪拌した。ホモジナイザーを用いて攪拌しながら、分散媒として蒸留水308質量部を添加して乳化分散させた。その後、乳化体を40℃で1時間攪拌した。これを加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去して、固形分調整用の水を添加し、固形分30質量%のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0116】
[実施例17~20]
ポリオール、ポリイソシアネート、及びショ糖エステルの種類及び仕込み量を、下記表2に示す通りに変更し、その他は実施例16と同様にして、実施例17~20のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0117】
[比較例5]
ショ糖脂肪酸エステル1を添加せず、その他は実施例16と同様にして、比較例5のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0118】
実施例16~20及び比較例5の離型コート剤について、接着性、剥離性1、剥離性2、及び、耐水性を評価した。結果を表2に示す。
【0119】
【0120】
表2に示されるように、比較例5では、ショ糖脂肪酸エステルを配合していないため、剥離性に劣っていた。これに対し、ポリウレタン樹脂のポリオールに(水添)ポリブタジエンポリオールを用い、かつ規定内の水酸基価を持つショ糖脂肪酸エステルを配合した実施例16~20であると、接着性と剥離性に優れており、また耐水性も改善されていた。
【0121】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0122】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【要約】
【課題】離型シートとしての剥離性に優れるとともにポリエステル基材に対する接着性に優れるポリエステル基材用離型コート剤を提供する。
【解決手段】実施形態に係るポリエステル基材用離型コート剤は、水系分散媒にポリウレタン樹脂が分散してなる水系分散体を含む。前記ポリウレタン樹脂は、構成成分として、ポリブタジエンポリオール及び/又は水添ポリブタジエンポリオールと、ポリイソシアネートとを含む。前記水系分散体は、水酸基価が450mgKOH/g以下のショ糖脂肪酸エステルを含む。
【選択図】なし