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特許7500851シュリンクフィルム用水性インクジェットインキ及び印刷物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】シュリンクフィルム用水性インクジェットインキ及び印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20240610BHJP
【FI】
C09D11/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023188675
(22)【出願日】2023-11-02
【審査請求日】2023-12-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野村 高教
(72)【発明者】
【氏名】砂押 和志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紀雄
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-189867(JP,A)
【文献】特開2003-246136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤と、界面活性剤と、樹脂とを含むシュリンクフィルム用水性インクジェットインキであって、
前記有機溶剤が、SP値が11~13.5(cal/cm31/2であり、水酸基を1個以上有する有機溶剤(A-1)を、前記水性インクジェットインキの全量中5~30質量%含み、
前記界面活性剤が、アセチレンジオール系界面活性剤、及び、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の界面活性剤(B-1)を含み、
前記樹脂及び前記界面活性剤のSP値の加重平均値が9~11.5(cal/cm31/2である、シュリンクフィルム用水性インクジェットインキ。
【請求項2】
前記アセチレンジオール系界面活性剤、及び、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の界面活性剤(B-1)が、HLB値が3~12である界面活性剤(B-1-1)を含む、請求項1に記載のシュリンクフィルム用水性インクジェットインキ。
【請求項3】
前記有機溶剤の、1気圧下における沸点(加重平均値)が、150~190℃である、請求項1または2に記載のシュリンクフィルム用水性インクジェットインキ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の水性インクジェットインキが、インクジェット印刷方式によって、シュリンクフィルム上に印刷されてなる印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュリンクフィルムに対する印刷に使用される水性インクジェットインキ、及び、当該水性インクジェットインキを用いて、上記シュリンクフィルム上に印刷されてなる印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル印刷方式は、有版印刷方式とは違い、刷版を必要としない。そのため、デジタル印刷方式の採用により、印刷装置の小型化、コスト削減等が可能となる。デジタル印刷方式の一種であるインクジェット印刷方式は、上述した特徴に加え、印刷装置からの騒音が小さい、カラー化が容易である等の利点もあり、オフィス用途及び家庭用途だけでなく、産業用途においても、その利用が進んでいる。
【0003】
これまで、産業用途でインクジェット印刷方式を使用する際は、溶剤インキや紫外線硬化型インキが採用されてきた。しかし近年は、作業者に対する安全性及び健康、ならびに、環境に対する配慮の観点から、水性インキの需要が高まっている。
【0004】
なお本願では、インクジェット印刷方式で使用する水性インキのことを、単に「水性インクジェットインキ」と称する。
【0005】
ところで、上記産業用途で使用される印刷基材として、シュリンクフィルムが存在する。シュリンクフィルムとは、加熱することでシュリンク(収縮)する樹脂フィルムである。被収縮物の形状によらず密着させることが可能であり、当該被収縮物の形状のデザインを損なうことがない点、容器から剥がしやすく被収縮物のリサイクル性が高められる点等から、シュリンクフィルムは主に包装用途で使用されている。また、シュリンクフィルムに対する印刷物(シュリンクフィルム印刷物)を包装用途で使用する場合、当該シュリンクフィルムへの印刷後に、シュリンクフィルム印刷物をシュリンクさせ、被収縮物(被包装物)に密着させる。
【0006】
なお本願における「印刷物」という記載は、シュリンクフィルム、水性インクジェットインキの層(インキ層)、及び、併用される場合は、前処理液(詳細は後述する)によって形成される層(インキ凝集層)の積層体を指すものとする。また、上記印刷物に含まれるインキ層は、例えば複数種の水性インクジェットインキ(後述する、水性インクジェットインキのセット)によって形成される、複数層からなるインキ層であってもよい。
【0007】
上述した通り、シュリンクフィルムを使用する際は、当該シュリンクフィルムをシュリンクさせる前に、印刷が行われる。すなわち、シュリンクフィルム上のインキ層も、上記シュリンクに伴い、収縮することになる。従って、インキ層が上記シュリンクに対して追随できない場合、当該インキ層にシワ、ヒビ、ワレ等が発生する、シュリンク度合いが不均一になる、等の問題が発生する恐れがある。
【0008】
またそもそも、シュリンクフィルムは樹脂フィルム基材の一種である。このような印刷基材に、水性インクジェットインキを印刷する場合、液体成分の印刷基材内部への浸透による乾燥が起きず、当該水性インクジェットインキの液滴同士が合一して滲みが発生する、という問題も発生しやすい。
【0009】
従って、シュリンクフィルムに対して水性インクジェットインキで印刷を行う際には、シュリンク等の変形に対する追随性を確保したうえで、滲みがなく印刷画質に優れた印刷物の製造を実現する必要がある。
【0010】
しかしながらこれまでは、シュリンクフィルムに対する水性インクジェットインキでの印刷に関する検討は、あまり行われていないのが現状である。
例えば特許文献1は、ブロック型イソシアネートと、カルボジイミド化合物及び/またはオキサゾリン化合物とを含む、インクジェット記録用水性組成物に関する。また、当該水性組成物は、顔料を含むインクジェット記録用水系インク(本願における「水性インクジェットインキ」に相当)と併用されるとの記載もある(段落番号0010、0041等)。更に、特許文献1の実施例では、顔料及び水に加え、樹脂(ポリマー粒子);有機溶剤である、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、ジエチレングリコールモノ(ノルマル)ブチルエーテル、及びN-メチルジエタノールアミン;ならびに、界面活性剤である、アルキレングリコール変性ポリジメチルシロキサンを含む水系インクが、実際に製造されている(段落番号0084~0094、表4)。そして、上記水系インク及び水性組成物を組み合わせ、シュリンクPETフィルムに対して印刷を行っている(段落番号0099~0101)。
【0011】
一方、特許文献1では、水系インクに含まれ得る界面活性剤に関する、具体的な説明がない。すなわち、当該特許文献1内では、任意成分の一つとして「界面活性剤」が列挙されているに過ぎない(段落番号0063)。また上述した通り、特許文献1に記載されている水系インクは、上記水性組成物と組み合わせて使用することが前提となっている。そのため、当該水系インクのみを、シュリンクフィルムに印刷した場合、上述した、変形追随性に優れ、滲みが抑制された印刷物が得られるかどうかに関しては、特許文献1内には記載がない。実際に、本発明者らが、上記水系インクの具体例で使用されている、有機溶剤及び界面活性剤の構成を模した水性インクジェットインキを作製し、評価を行ったところ、特に印刷物の変形追随性が不十分であるとの結果が得られた(詳細は、後述する実施例を参照)。
【0012】
また、特許文献2は、溶解度パラメータ(SP値)が8~13(cal/cm31/2である樹脂を溶融したのち、冷却ドラム上に押し出すことで作製される未延伸シートを、更に延伸処理して製造される、インクジェット記録用シュリンクフィルムに関する。また特許文献2の実施例では、カーボンブラック;水;アクリル樹脂;ならびに、有機溶剤である、グリセリン、エチレングリコール、N-メチルピロリドン、イソプロピルアルコール等を含む、黒色インクB(本願における「水性インクジェットインキ」に相当)が製造され、種々のシュリンクフィルムに対する印刷に使用されている(段落番号0058~0070、0072~0074、表2)。
【0013】
一方、表2や段落番号0072から明らかなように、特許文献2内では、黒色インクBは比較例として使用されている。実際に表2では、「画像の耐熱性」評価(段落番号0069~0070の記載より、本願における変形追随性に類似した項目といえる)において、実用可能レベルに到達している例は一つも存在していない。また特許文献2内には、水性インクジェットインキの構成に関する具体的な記載は存在しない。すなわち、どのような構成の水性インクジェットインキであれば、変形に対する追随性が確保され、滲みもない印刷物が得られるか、ということに関しては、特許文献2内には記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2019-189867号公報
【文献】特開2003-246136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のように、変形追随性が良好であり、かつ、滲みがない印刷物が得られ、更には、インクジェット印刷方式で使用されるうえでの必須要件である、吐出安定性にも優れた、水性インクジェットインキに関しては、これまで十分な検討が行われていない状況であった。
【0016】
そこで、本発明の一実施形態では、シュリンクフィルムのシュリンク等の変形に対する追随性が良好であり、かつ、滲みのない印刷物を得ることができ、更には吐出安定性も良好である、水性インクジェットインキを提供することを目的としている。また、本発明の別の一実施形態では、上述した特性に加えて、リサイクル性にも優れた印刷物が得られる、水性インクジェットインキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、下記構成を有する水性インクジェットインキによって、上述した課題のすべてが、同時かつ高いレベルで解決できることを見出した。
【0018】
すなわち本発明の一実施形態は、以下[1]~[3]に示す水性インクジェットインキ、ならびに、以下[4]に示す、上記水性インクジェットインキを用いてなる印刷物に関する。
[1]有機溶剤と、界面活性剤と、樹脂とを含むシュリンクフィルム用水性インクジェットインキであって、
前記有機溶剤が、SP値が11~13.5(cal/cm31/2であり、水酸基を1個以上有する有機溶剤(A-1)を、前記水性インクジェットインキの全量中5~30質量%含み、
前記界面活性剤が、アセチレンジオール系界面活性剤、及び、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の界面活性剤(B-1)を含み、
前記樹脂及び前記界面活性剤のSP値の加重平均値が9~11.5(cal/cm31/2である、シュリンクフィルム用水性インクジェットインキ。
[2]前記アセチレンジオール系界面活性剤、及び、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の界面活性剤(B-1)が、HLB値が3~12である界面活性剤(B-1-1)を含む、[1]に記載のシュリンクフィルム用水性インクジェットインキ。
[3]前記有機溶剤の、1気圧下における沸点(加重平均値)が、150~190℃である、[1]または[2]に記載のシュリンクフィルム用水性インクジェットインキ。
[4][1]または[2]に記載の水性インクジェットインキが、インクジェット印刷方式によって、シュリンクフィルム上に印刷されてなる印刷物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一実施形態である水性インクジェットインキは、シュリンクフィルムのシュリンク等の変形に対する追随性が良好であり、かつ、滲みのない印刷物を得ることができ、更には吐出安定性も良好である、という効果を奏する。また、本発明の別の一実施形態である水性インクジェットインキは、上述した特性に加えて、リサイクル性にも優れた印刷物が得られる、という効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態である水性インクジェットインキ(以下では単に「本実施形態の水性インクジェットインキ」とも称する)について説明する。なお本発明は、以下に記載する実施形態に限定されるものではなく、当該本発明の本質的部分を変更しない範囲内で変形実施できる形態を含む。
【0021】
上述した通り、本実施形態の水性インクジェットインキは、シュリンクフィルム用途である。上述したように、シュリンクフィルム印刷物は、印刷後に、印刷基材であるシュリンクフィルムをシュリンクさせる。従って、インキ層には、シワ、ヒビやワレを起こすことなく、上記変形に追随できることが求められる。そして、上記追随を実現するためには、印刷基材であるシュリンクフィルムに対して、均一な厚みを有するインキ層が得られること、当該シュリンクフィルムに対して水性インクジェットインキが十分に濡れ広がること、ならびに、上記インキ層がシュリンクフィルムに対する親和性及び密着性を有していること、が必要となる。
【0022】
そこで、本発明者らが鋭意検討を進めた結果、上述した構成を有する、本実施形態の水性インクジェットインキによって、上述した課題が解決できること、更には、上記水性インクジェットインキが、印刷物の滲み抑制性及び吐出安定性にも優れることを見出した。以下に、本発明の機序について説明するが、これらは本発明者らによる推測であり、本発明は以下に示す機序によって限定解釈されるものではない。
【0023】
まず、本実施形態の水性インクジェットインキは、SP値が11~13.5(cal/cm31/2であり、水酸基を1個以上有する有機溶剤(A-1)を、上記水性インクジェットインキの全量中5~30質量%含む。一般に、水性インクジェットインキに含まれる有機溶剤は、乾燥性(湿潤性)や表面張力等の調整を目的として使用される。一方、シュリンクフィルムを構成する樹脂は、本実施形態の水性インクジェットインキの主成分である水との親和性に劣るうえ、紙基材等と異なり当該水性インクジェットインキが全く浸透しない。そこで、本実施形態の水性インクジェットインキでは、有機溶剤(A-1)のSP値を11~13.5(cal/cm31/2とすることで、上記水性インクジェットインキと、上記シュリンクフィルムを構成する樹脂との親和性を向上させているとともに、水性インクジェットインキの表面張力の好適化にも寄与させている。また、上記有機溶剤(A-1)として、水酸基を有する化合物を使用することで、水との親和性を確保している。そして、上記有機溶剤(A-1)を一定量使用することで、上述した効果を確実に発現させている。このように、有機溶剤(A-1)の使用により、インキ層の厚みの均一化、シュリンクフィルムに対する水性インクジェットインキの濡れ広がり、及び、シュリンクフィルムに対する親和性の確保を実現している。
【0024】
また上記有機溶剤(A-1)の存在により、水性インクジェットインキの湿潤性が確保され、吐出安定性が向上する。
【0025】
また、本実施形態の水性インクジェットインキは、アセチレンジオール系界面活性剤、及び、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の界面活性剤(B-1)を含む。後述するように、水性インクジェットインキで使用される界面活性剤として、上述したもの以外にも、シロキサン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が知られている。一方、上記シロキサン系界面活性剤中に存在するケイ素(Si)原子、及び、上記フッ素系界面活性剤中に存在するフッ素(F)原子は、疎水性を有していることもあり、過剰に使用すると、得られるインキ層の厚みの均一性、ならびに、シュリンクフィルムに対する親和性及び密着性に悪影響を及ぼす恐れがある。それに対して、本実施形態の水性インクジェットインキで使用する、アセチレンジオール系界面活性剤及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤は、炭素原子、酸素原子、水素原子が分子構造の大部分を占めるため、シュリンクフィルムを構成する樹脂との親和性が高いと考えられる。また、これら界面活性剤は、両方とも水酸基を有しており、上記シュリンクフィルムを構成する樹脂との間にOH-π相互作用及び水素結合を形成し得るため、インキ層の密着性の向上にも寄与していると考えられる。更に、アセチレンジオール系界面活性剤及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤は、上記有機溶剤(A-1)との親和性に優れるため、水性インクジェットインキ内に均一に存在できるうえ、そもそも界面への配向性も高いことから、水性インクジェットインキの均一な濡れ広がりには必須な材料である。なおインキ層の形成後は、配向後の上記界面活性剤がその表面に多く残存するため、上述した親和性及び密着性の向上が発現しやすいと考えられる。このように、界面活性剤(B-1)は、上述した、シュリンクフィルムの変形への追随に求められる要求の全てに寄与していると考えられる。
【0026】
上述した、OH-π相互作用、水素結合等の相互作用は、当然ながら界面活性剤(B-1)分子の間でも生じ得る。また上述した通り、界面活性剤(B-1)は界面への配向性が高いため、水性インクジェットインキが印刷基材上に付与された後、上記界面活性剤(B-1)は速やかに界面に配向すると考えられる。その結果、隣接する水性インクジェットインキとの合一が抑制され、印刷物における滲みが抑制されると考えられる。
【0027】
一方で、インクジェットヘッド内に存在する水性インクジェットインキでも、上述した相互作用及び界面(ノズル口)への配向が発生し得ると考えられ、それによって吐出安定性が悪化する恐れも考えられる。しかしながら、インクジェットヘッド内では、水性インクジェットインキの、吐出による流出及びインキタンク(容器)からの流入が発生しており、印刷基材上に存在する場合と異なり、水性インクジェットインキは流動していることが多い。その結果、上述した相互作用の発生及び界面への配向よりも、水や有機溶剤(A-1)との相互作用及び親和が優位に発生すると考えられる。また、この優位に発生する相互作用により、水性インクジェットインキ全体の粘弾性が好適化し、吐出安定性が向上すると考えられる。
【0028】
更に、本実施形態の水性インクジェットインキでは、含有する樹脂及び界面活性剤のSP値の加重平均値が、9~11.5(cal/cm31/2である。樹脂及び界面活性剤は、インキ層中に残存する成分である。従って、これらの成分のSP値を上記範囲内とすることで、上述した有機溶剤(A-1)の場合と同様に、シュリンクフィルムを構成する樹脂との親和性を確保している。
【0029】
なお、シュリンクフィルムを構成する樹脂と、インキ層との親和性を確保し、当該樹脂の種類によらず、変形追随性に優れた印刷物が得られるという観点から、上記樹脂及び界面活性剤のSP値の加重平均値は、9.3~11.2(cal/cm31/2であることが好ましく、9.6~11.0(cal/cm31/2であることが特に好ましい。
【0030】
以上のように、上述した本発明の課題を解決するためには、本実施形態の水性インクジェットインキの構成は必須不可欠であるといえる。
【0031】
続いて以下に、本発明の一実施形態である水性インクジェットインキを構成する各成分について、詳細に説明する。
【0032】
<有機溶剤>
本実施形態の水性インクジェットインキは、有機溶剤を含む。また上述した通り、上記有機溶剤として、SP値が11~13.5(cal/cm31/2であり、水酸基を1個以上有する有機溶剤(A-1)を、水性インクジェットインキの全量中5~30質量%含む。
上記有機溶剤として、水に対する溶解度が小さい有機化合物が含まれていてもよいが、上述した水との親和性を確保することで、水性インクジェットインキの濡れ広がりの向上、及び、得られるインキ層の厚みの均一化が容易となり、結果として、当該インキ層の変形追随性が向上する、という観点から、水溶性有機溶剤を使用することが好適である。
【0033】
なお、本願における「有機溶剤」とは、25℃において液体である有機化合物を指し、「水溶性有機溶剤」とは、有機溶剤のうち、25℃の水に対する溶解度が1質量%以上である有機化合物を指す。
【0034】
また、本願における「SP値」とは、「溶解度パラメータ(Solubility Parameter)」の略語である。SP値の求め方として、化合物の物性値から算出する方法、分子構造から計算する方法、実験により実測する方法、等が知られている。本願では、SP値として、下記式1によって表される、Fedorの推算法により算出される値を用いる。またSP値の単位としては、(cal/cm31/2を使用する。
【0035】

式1:
(SP値)=(ΣEcoh/ΣV)1/2
【0036】
上記式1において、Ecohは、官能基ごとに定められた凝集エネルギーを表し、Vは、官能基ごとに定められたモル分子容を表す。上記Ecoh及びVは、R.F.Fedors、「Polymer Engineering&Science」(第14巻、第2号、1974年、p.147~154)に記載されている。
【0037】
≪SP値が11~13.5(cal/cm31/2であり、水酸基を1個以上有する有機溶剤(A-1)≫
上記有機溶剤(A-1)として、例えば、1,2-プロパンジオール(13.5、188℃)、1,2-ブタンジオール(12.8、193℃)、1,3-ブタンジオール(12.8、208℃)、1,4-ブタンジオール(12.9、230℃)、2,3-ブタンジオール(12.5、182℃)、1,2-ペンタンジオール(12.2、210℃)、1,5-ペンタンジオール(12.4、239℃)、2,4-ペンタンジオール(12.0、198℃)、1,2-ヘキサンジオール(11.8、223℃)、2,5-ヘキサンジオール(11.6、218℃)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(12.8、213℃)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(12.1、203℃)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(11.8、250℃)、2-メチル-1,3-ペンタンジオール(11.6、218℃)、2-メチル-2,4-ペンタンジオール(11.5、198℃)等のアルカンジオール類;
ジエチレングリコール(13.0、244℃)、トリエチレングリコール(12.1、287℃)、テトラエチレングリコール(11.6、314℃)、ジプロピレングリコール(11.7、231℃)等のポリアルキレングリコール類;
エチレングリコールモノメチルエーテル(12.0、125℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(11.5、136℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(11.2、193℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(11.3、121℃)等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;
エタノール(12.6、78℃)、ノルマルプロパノール(11.8、97℃)、イソプロパノール(11.6、83℃)、ノルマルブタノール(11.3、117℃)、2-ブタノール(11.1、100℃)等のモノアルキルアルコール類;
ジメチルエタノールアミン(11.3、135℃)、N-メチルエタノールアミン(12.5、156℃)、N-メチルジエタノールアミン(12.3、247℃)、1-アミノ-2-プロパノール(12.6、159℃)、3-アミノ-1-プロパノール(13.3、188℃)、2‐アミノイソブタノール(12.2、166℃)等のアルカノールアミン類;
等が挙げられる。これらの化合物は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、上記カッコ内の数値は、各化合物のSP値(単位:(cal/cm31/2)、及び、1気圧下における沸点である。また、本願における「(ポリ)アルキレングリコール」という記載は、「アルキレングリコール」及び「ポリアルキレングリコール」からなる群から選択される少なくとも1種を表す。
【0038】
本実施形態の水性インクジェットインキでは、上記有機溶剤(A-1)として、水酸基を2個以上有する化合物が好適に使用できる。水酸基が多いほど、上記水性インクジェットインキの主成分である水との親和性が増すため、水性インクジェットインキの濡れ広がりの向上、及び、得られるインキ層の厚みの均一化が容易となり、当該インキ層の変形追随性が向上するためである。
【0039】
また、シュリンクフィルムを構成する樹脂との親和性が高まり、当該シュリンクフィルムに対する、水性インクジェットインキの濡れ広がり及び親和性が向上することで、得られるインキ層の変形追随性が良化する、という観点から、上記有機溶剤(A-1)のSP値と、印刷物の作製に使用するシュリンクフィルムを構成する樹脂のSP値との差は、1.3(cal/cm31/2以下であることが好ましく、1.0(cal/cm31/2以下であることが特に好ましい。なお、シュリンクフィルムとして、種類の異なる樹脂を積層させたフィルムを使用した場合、上記樹脂のSP値として、水性インクジェットインキと接触する面を構成する樹脂のSP値を使用する。例えば、シュリンクフィルムを構成する樹脂がポリエチレンテレフタレート(SP値:13.2(cal/cm31/2)である場合、有機溶剤(A-1)として、SP値が11.9~13.5(cal/cm31/2である化合物を使用することが好ましく、12.2~13.5(cal/cm31/2である化合物を使用することが特に好ましい。また、シュリンクフィルムを構成する樹脂がポリスチレン樹脂(SP値:10.6(cal/cm31/2)である場合、有機溶剤(A-1)として、SP値が11~11.9(cal/cm31/2である化合物を使用することがより好ましく、11~11.6(cal/cm31/2である化合物を使用することが特に好ましい。
なお、水性インクジェットインキが2種類以上の有機溶剤(A-1)を含む場合、当該有機溶剤(A-1)の1種以上が、上述した、シュリンクフィルムを構成する樹脂のSP値との差の要件を満たすことが好ましく、上記水性インクジェットインキに含まれる、全ての有機溶剤(A-1)が、上記SP値差の要件を満たすことが特に好ましい。
【0040】
特に、シュリンクフィルムを構成する樹脂の種類によらず、印刷物の変形追随性を向上させるという観点から、本実施形態の水性インクジェットインキでは、有機溶剤(A-1)として、SP値が12.0~13.5(cal/cm31/2である化合物と、SP値が11~11.9(cal/cm31/2である化合物とを併用することが極めて好ましい。
【0041】
更に、得られる印刷物の滲み抑制、及び、吐出安定性の向上の両立を考慮すると、1気圧下における有機溶剤(A-1)の沸点は、120~210℃であることが好ましく、120~200℃であることが特に好ましい。
【0042】
本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる、有機溶剤(A-1)の含有量は、当該水性インクジェットインキの全量中5~30質量%であり、8~27質量%であることが好ましく、10~25質量%であることが特に好ましい。有機溶剤(A-1)の含有量を上記範囲内とすることで、当該有機溶剤(A-1)を含む水性インクジェットインキと、シュリンクフィルムを構成する樹脂との親和性が良好なものとなり、印刷物の変形追随性が向上する。また、水性インクジェットインキの吐出安定性が良化する点でも、上記含有量範囲が好ましく選択される。
【0043】
≪その他有機溶剤≫
本実施形態の水性インクジェットインキは、有機溶剤(A-1)以外の有機溶剤(本願では「その他有機溶剤」と称する)を含んでもよい。ただしその含有量は、上述した有機溶剤(A-1)の作用を阻害しない程度であることが好ましい。具体的には、その他有機溶剤の含有量は、本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる有機溶剤の全量中50質量%以下である(0質量%であってもよい)ことが好ましく、35質量%以下である(0質量%であってもよい)ことがより好ましく、20質量%以下である(0質量%であってもよい)ことが特に好ましい。
【0044】
上記その他有機溶剤として使用できる化合物として、例えば、1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、1,3-プロパンジオール等のアルカンジオール類;
トリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;
グリセリン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール等のアルカントリオール類;
エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、プロピレングリコールモノノルマルブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノノルマルブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノノルマルブチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル(3-メトキシ-1-ブタノール)等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;
エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテル類;
tert-ブタノール等のモノアルキルアルコール類;
トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;
2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1-(2-ヒドロキシメチル)-2-ピロリドン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、2-ピペリドン(δ-バレロラクタム)、N-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-2-ピペリドン、ε-カプロラクタム、N-ビニル-ε-カプロラクタム等のラクタム類;
等が挙げられる。これらの化合物は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
一実施形態において、本実施形態の水性インクジェットインキがその他有機溶剤を含む場合、SP値が10(cal/cm31/2以上11(cal/cm31/2未満であり、かつ、水酸基を1個以上有する有機溶剤(A-2)を使用することが好適である。有機溶剤(A-1)の存在下で、当該有機溶剤(A-2)を一定量使用することで、水性インクジェットインキと、シュリンクフィルムを構成する樹脂との親和性が特段に向上し、当該シュリンクフィルムを構成する樹脂の種類によらず、印刷物の変形追随性が良好なものとなるためである。
【0046】
上記列挙したその他有機溶剤のうち、有機溶剤(A-2)に属する化合物であって、かつ、当該有機溶剤(A-2)として好ましく使用できるものとして、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル(10.8、171℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(10.9、196℃)、ジエチレングリコールモノノルマルプロピルエーテル(10.7、214℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(10.7、214℃)、ジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(10.5、231℃)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(10.4、217℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(10.9、133℃)、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル(10.7、150℃)、プロピレングリコールモノノルマルブチルエーテル(10.4、170℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(10.4、188℃)、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル(10.3、198℃)、ジプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル(10.1、212℃)、ブチレングリコールモノメチルエーテル(10.9、158℃)等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;
tert-ブタノール(10.9、83℃)等のモノアルキルアルコール類;
等が挙げられる。これらの化合物は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、上記カッコ内の数値は、各化合物のSP値(単位:(cal/cm31/2)、及び、1気圧下における沸点である。
【0047】
特に、得られる印刷物の滲み抑制、及び、吐出安定性の向上の両立を考慮すると、1気圧下における有機溶剤(A-2)の沸点は、135~235℃であることが好ましく、170~215℃であることが特に好ましい。
【0048】
また、上記有機溶剤(A-2)の作用が好適に発現し、変形追随性に優れる印刷物が得られるうえ、吐出安定性にも優れた水性インクジェットインキとなる、という観点から、上記有機溶剤(A-2)の含有量は、本実施形態の水性インクジェットインキ中に含まれるその他有機溶剤の全量中50質量%以上である(100質量%であってもよい)ことが好ましく、75質量%以上である(100質量%であってもよい)ことがより好ましく、90質量%以上である(100質量%であってもよい)ことが特に好ましい。
【0049】
本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる有機溶剤は、1気圧下における沸点(加重平均値)が150~190℃であることが好ましく、155~180℃であることがより好ましい。上記有機溶剤の沸点(加重平均値)を上記範囲内とすることで、滲みのない印刷物が得られるうえ、吐出安定性が向上する。また、インキ層が十分に形成される前に水性インクジェットインキが乾燥してしまう、あるいは、上記インキ層の形成後に有機溶剤の一部が残存することがなくなることから、シュリンクフィルムを構成する樹脂の種類によらず、変形追随性に優れた印刷物が作製できる。
【0050】
本願における「有機溶剤の沸点(加重平均値)」という記載は、水性インクジェットインキ中に含まれる有機溶剤が1種類のみである場合は、当該有機溶剤の沸点を指し、2種類以上の有機溶剤が含まれる場合は、当該2種類以上の有機溶剤の沸点の加重平均値を指すものとする。また、1気圧下における沸点の加重平均値とは、それぞれの有機溶剤について算出した、1気圧下での沸点と、有機溶剤の全含有量に対する質量割合との乗算値を、足し合わせることで得られる値である。
【0051】
本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる有機溶剤の総量は、当該水性インクジェットインキの全量中5~45質量%であることが好ましく、8~36質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが特に好ましい。有機溶剤の総量を上記範囲内とすることで、変形追随性に優れ滲みが抑制された印刷物を得ることができるうえ、水性インクジェットインキの吐出安定性も向上する。
【0052】
<界面活性剤>
本実施形態の水性インクジェットインキは、界面活性剤を含む。また上述した通り、上記界面活性剤として、アセチレンジオール系界面活性剤、及び、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の界面活性剤(B-1)を含む。
【0053】
一実施形態において、上記界面活性剤(B-1)は、HLB値が3~12である界面活性剤(B-1-1)を含むことが好ましい。HLB値が3~12である界面活性剤(B-1-1)は、上記有機溶剤(A-1)との親和性に優れるうえ、界面への配向性も高いため、水性インクジェットインキの均一な濡れ広がり、及び、シュリンクフィルムを構成する樹脂との親和性の向上に好適に寄与する。その結果、上記水性インクジェットインキを使用して作製した印刷物の変形追随性が向上するとともに、当該印刷物における滲みも抑制される。
【0054】
また、上記効果が好適に発現し、変形追随性及び滲み抑制性に優れた印刷物が得られる観点から、水酸基を2個有する化合物であるアセチレンジオール系界面活性剤を、HLB値が3~12である界面活性剤(B-1-1)として使用する場合、そのHLB値は、3~10であることがより好ましく、4~9であることが特に好ましい。また同様の観点から、水酸基を1個有する化合物であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤を、HLB値が3~12である界面活性剤(B-1-1)として使用する場合、そのHLB値は、6~12であることがより好ましく、9~12であることが特に好ましい。
【0055】
本願における「HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値」とは、材料の親水性及び疎水性の程度を表すパラメータの一つである。上記HLB値が小さいほど材料の疎水性が高く、大きいほど当該材料の親水性が高い。HLB値の求め方として、実験により実測する方法、及び、分子構造から計算する方法が知られており、当該分子構造から計算する方法として、グリフィン法、デイビス法、川上法等がある。本願では、HLB値として、下記式2によって表される、グリフィン法により算出される値を用いる。
【0056】

式2:
(HLB値)=20×(親水性部分の分子量の総和)÷(材料の分子量)
【0057】
一実施形態において、本実施形態の水性インクジェットインキは、界面活性剤(B-1)として、HLB値が3~12である界面活性剤(B-1-1)と、HLB値が12超20以下である界面活性剤(B-1-2)とを含むことが好適である。上述した通り、HLB値が3~12である界面活性剤(B-1-1)は、有機溶剤(A-1)との親和性に優れるうえ、界面への配向性も高い。それに対して、HLB値が12超20以下である界面活性剤(B-1-2)は、水性インクジェットインキの主成分である水との親和性に特段に優れる。そのため、例えば、インクジェットヘッド内での、上記HLB値が3~12である界面活性剤(B-1-1)の配向を抑制することができ、結果として、吐出安定性にも優れた水性インクジェットインキを得ることができる。また、印刷物の滲みが抑制される点でも、界面活性剤(B-1-1)及び界面活性剤(B-1-2)の併用は好適である。更には、本実施形態の水性インクジェットインキが、界面活性剤(B-1-1)に加えて、界面活性剤(B-1-2)を含むことで、後述する塩基性溶液との親和性が向上し、当該水性インクジェットインキを用いて作製されたインキ層が、シュリンクフィルムから脱離しやすくなる。その結果、当該シュリンクフィルムのリサイクルが容易になる。
【0058】
本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる、アセチレンジオール系界面活性剤、及び、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の界面活性剤(B-1)の含有量は、水性インクジェットインキの濡れ広がり性及び吐出安定性、インキ層とシュリンクフィルムを構成する樹脂との親和性及び密着性、ならびに、印刷物のリサイクル性の全てが良好なものとなる、という観点から、当該水性インクジェットインキの全量中0.2~3.0質量%であることが好ましく、0.5~2.5質量%であることがより好ましく、0.7~2.0質量%であることが特に好ましい。
【0059】
≪アセチレンジオール系界面活性剤≫
上記アセチレンジオール系界面活性剤として、例えば、2,3,6,7-テトラメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、2,5-ジメチル-ヘキサ-3-イン-2,5-ジオール、3,6-ジメチル-オクタ-4-イン-3,6-ジオール、6,9-ジメチル-テトラデカ-7-イン-6,9-ジオール、7,10-ジメチルヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、ならびに、これらの化合物のオキシエチレン及び/またはオキシプロピレン付加物が挙げられる。また、特開2001-215690号公報及び特開2002-356451号公報に記載の方法により製造した化合物を、上記アセチレンジオール系界面活性剤として使用することもできる。以上の化合物は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
これらの化合物の中でも、得られる印刷物とシュリンクフィルムとの親和性及び密着性が向上する結果、当該印刷物の変形追随性が良化するという観点、ならびに、界面への配向性に優れるという観点から、アセチレンジオール系界面活性剤を界面活性剤(B-1)として使用する場合、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、ならびに、これらの化合物のオキシエチレン及び/またはオキシプロピレン付加物が好適に使用できる。
【0061】
一実施形態において、シュリンクフィルムを構成する樹脂が芳香環構造を有する場合(例えば、当該樹脂がポリエチレンテレフタレートまたはポリスチレン樹脂である場合)、かつ、アセチレンジオール系界面活性剤を界面活性剤(B-1)として使用する場合、当該アセチレンジオール系界面活性剤としてオキシエチレン基及び/またはオキシプロピレン基を有している化合物を使用することが好ましい。詳細な理由は不明ながら、オキシエチレン基及び/またはオキシプロピレン基に存在する酸素原子に隣接する炭素原子に結合した水素原子が、シュリンクフィルムを構成する樹脂構造中に存在する芳香環構造と相互作用(CH-π相互作用)を起こし、シュリンクフィルムに対する親和性及び密着性が向上した結果、変形追随性に優れた印刷物が得られるためである。
【0062】
上述した観点、水性インクジェットインキの粘弾性が好適化し、吐出安定性が向上するという観点、ならびに、印刷物のリサイクル性が向上するという観点から、アセチレンジオール系界面活性剤を界面活性剤(B-1)として使用する場合、当該アセチレンジオール系界面活性剤分子中の、オキシエチレン基及び/またはオキシプロピレン基の付加モル数は、1~10モルであることが好ましく、3~8モルであることが特に好ましい。
【0063】
特に、アセチレンジオール系界面活性剤をHLB値が3~12である界面活性剤(B-1-1)として使用する場合、上記HLB値範囲と、オキシエチレン基及び/またはオキシプロピレン基の付加モル数範囲とをともに満たすという観点から、アセチレンジオール系界面活性剤として、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのオキシエチレン及びオキシプロピレン付加物、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオールのオキシエチレン付加物、及び、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオールのオキシエチレン及びオキシプロピレン付加物からなる群から選択される1種以上の化合物を使用することが極めて好ましい。
【0064】
≪ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤≫
一方、上記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤として、下記一般式3で表される化合物が使用できる。
【0065】

一般式3:
1-O-(R2-O)n-H
【0066】
上記一般式3中、R1は分岐していてもよい、炭素数8~18のアルキル基または炭素数8~18のアルケニル基を表し、R2は分岐していてもよい炭素数2または3のアルキレン基を表し、nは2~100の整数を表す。
【0067】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤は、アセチレンジオール系界面活性剤と異なり水酸基を1個しか有しない。そのため、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤の親水性を確保するという観点で、上記一般式3におけるR2はエチレン基である、すなわち、上記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを使用することが好適である。親水性の高いポリオキシエチレンアルキルエーテルを使用することで、有機溶剤(A-1)との親和性が向上し、インキ層の厚みの均一化、及び、シュリンクフィルムに対する親和性の向上が容易となる。またその結果、印刷物の変形追随性が良化する。
【0068】
また、シュリンクフィルムを構成する樹脂が芳香環構造を有する場合(例えば、当該樹脂がポリエチレンテレフタレートまたはポリスチレン樹脂である場合)、かつ、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤を界面活性剤(B-1)として使用する場合、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤に含まれる、オキシエチレン基及び/またはオキシプロピレン基の数(上記一般式3におけるnの値)は、4~50であることが好ましく、5~30であることがより好ましく、5~20であることが特に好ましい。なお、推測ではあるが、上述したアセチレンジオール系界面活性剤の場合よりも、1分子中に存在するオキシエチレン基及び/またはオキシプロピレン基の好ましい数が多い理由として、水酸基を1個しか有しないポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤は、水酸基を2個有するアセチレンジオール系界面活性剤よりも、当該水酸基に起因する水素結合の数が少なく、シュリンクフィルムとの親和性を向上させるために、CH-π相互作用の量を増やす必要があることが挙げられる。
【0069】
更に、シュリンクフィルムを構成する樹脂との親和性及び密着性、ならびに、界面への配向性が向上し、印刷物の変形追随性の向上及び滲みの抑制が容易になる、という観点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤の分子末端に存在するアルキル基(上記一般式3におけるR1)は、分岐していてもよい、炭素数10~18のアルキル基または炭素数10~18のアルケニル基であることが好ましく、分岐していてもよい、炭素数12~18のアルキル基または炭素数12~18のアルケニル基であることが特に好ましい。
【0070】
≪その他界面活性剤≫
本実施形態の水性インクジェットインキは、界面活性剤(B-1)以外の界面活性剤(本願では「その他界面活性剤」と称する)を含んでもよい。ただしその含有量は、上述した界面活性剤(B-1)の作用を阻害しない程度であることが好ましい。具体的には、その他界面活性剤の含有量は、本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる界面活性剤の全量中70質量%以下である(0質量%であってもよい)ことが好ましく、65質量%以下である(0質量%であってもよい)ことがより好ましく、50質量%以下である(0質量%であってもよい)ことが特に好ましい。
【0071】
上記その他界面活性剤として、アセチレンモノオール系界面活性剤、シロキサン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、等が使用できる。これらのその他界面活性剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0072】
一実施形態において、滲みのない印刷物が得られる観点から、その他界面活性剤としてシロキサン系界面活性剤を使用することが好ましい。また、界面活性剤(B-1)及び有機溶剤(A-1)との親和性が高く、水性インクジェットインキの濡れ広がり、及び、インキ層とシュリンクフィルムを構成する樹脂との親和性の向上に寄与するため、印刷物の変形追随性に悪影響を及ぼさない、という観点から、上記シロキサン系界面活性剤として、ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤を使用することが好ましく、当該ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤として、オキシエチレン基を有するポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤を使用することがより好ましい。
【0073】
本実施形態の水性インクジェットインキでは、上記オキシエチレン基を有するポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤として、例えば、下記一般式4で表される化合物が好適に使用できる。
【0074】

一般式4:
【化1】
【0075】
なお、一般式4中、pは0~80の整数を表し、qは0~50の整数を表し、R3は下記一般式5で表される構造であるか、炭素数2~6のアルキル基であり、R4は下記一般式5で表される構造であるか、炭素数1~6のアルキル基である。ただし、p及びqがともに0であること;qが0であり、R4が炭素数1~6のアルキル基であること;または、qが1~50の整数であり、R3が炭素数2~6のアルキル基であり、R4が炭素数1~6のアルキル基であることはない。
【0076】

一般式5:
【化2】
【0077】
なお、一般式5中、rは1~6の整数、sは1~100の整数、tは0~50の整数を表し、R5は-OHであるか、-OR6(ただしR6は炭素数1~4のアルキル基である)である。また、[ ]内のオキシエチレン基(OC24)及びオキシプロピレン基(OC36)の付加様式は、ブロックでもランダムでもよい。
【0078】
更に、本実施形態の水性インクジェットインキにおいて、オキシエチレン基を有するポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤を使用する場合、分子中に存在するケイ素(Si)原子の数に対する、当該分子中に存在するオキシエチレン基の数の比が、0.5~2である、オキシエチレン基を有するポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤を使用することが特に好ましい。このようなポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤を含む水性インクジェットインキでは、親水性を有するオキシエチレン基が、ケイ素(Si)原子による疎水性の発現を抑えることで、印刷物の変形追随性が悪化することがない。また、界面への配向性、ならびに、界面活性剤(B-1)及び有機溶剤(A-1)との親和性に優れることから、滲み抑制性及び吐出安定性に優れた水性インクジェットインキとなる。
【0079】
本実施形態の水性インクジェットインキが、オキシエチレン基を有するポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤(好ましくは、分子中に存在するケイ素(Si)原子の数に対する、当該分子中に存在するオキシエチレン基の数の比が、0.5~2である、オキシエチレン基を有するポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤)を使用する場合、その好適な含有量は0.1~3.0質量%であり、より好適な含有量は0.2~2.5質量%であり、特に好適な含有量は0.3~2.0質量%である。
【0080】
<樹脂>
本実施形態の水性インクジェットインキは、樹脂を含む。また、当該水性インクジェットインキ中に含まれる、樹脂及び界面活性剤のSP値の加重平均値が9~11.5(cal/cm31/2である。上述した通り、インキ層中に残存する成分である、樹脂及び界面活性剤のSP値を上記範囲内とすることで、シュリンクフィルムを構成する樹脂との親和性、そして、印刷物の変形追随性が向上する。
【0081】
上記樹脂及び界面活性剤のSP値は、上述した有機溶剤の場合と同様に、上記式1によって表される、Fedorの推算法により算出される値を用いる。またSP値の単位としては、(cal/cm31/2を使用する。
なお、本願では、樹脂のSP値の算出にあたっては、重合している状態の重合性単量体の分子構造を使用することとする。例えばポリエチレンの場合、重合前の重合性単量体であるエチレン(CH2=CH2)ではなく、当該エチレンが重合している状態の構造式(-CH2-CH2-)を使って、SP値を算出する。
【0082】
一般に、水性インクジェットインキに使用される樹脂の形態として、水溶性樹脂と樹脂微粒子とが知られている。本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる上記樹脂は、水溶性樹脂であってもよいし、樹脂微粒子であってもよい。また、水溶性樹脂と樹脂微粒子とを組み合わせて使用してもよい。
【0083】
なお本願では、25℃の水100gに対する溶解度が1g以上である樹脂を「水溶性樹脂」と称し、当該溶解度が1g未満である樹脂を「非水溶性樹脂」と称する。また、上記非水溶性樹脂のうち、水中で粒子状に分散している樹脂であって、体積基準でのメジアン径(本願では「D50」とも記載する)が、10~1,000nmである上記樹脂を、「樹脂微粒子」と称する。当該樹脂微粒子のD50は、マイクロトラック・ベル社製「ナノトラックUPA-EX150」等の、動的光散乱法粒度分布測定装置を用い、水を分散媒として25℃環境下で測定できる値である。
【0084】
本実施形態の水性インクジェットインキで使用できる樹脂の種類として、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン-(無水)マレイン酸系樹脂、オレフィン-(無水)マレイン酸系樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0085】
なお、本願における「アクリル樹脂」とは、重合性単量体として、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、及び、メタクリル酸エステルからなる群から選択される1種以上を用いた樹脂(更にスチレン系単量体を用いてもよい)を表す。また、「(無水)マレイン酸」とは、無水マレイン酸及び/またはマレイン酸を表す。
【0086】
樹脂は、任意の用途、例えば、顔料分散用途、バインダー用途、ワックス用途等で使用される。また上記樹脂は、一つの用途で使用されるものであってもよいし、複数の用途を兼ねるものであってもよい。
本実施形態の水性インクジェットインキでは、インキ層に対し、強固性(堅牢性)、ならびに、シュリンクフィルムを形成する樹脂に対する親和性及び密着性を付与し、変形に対する追随性に優れた印刷物を得ることができるという観点から、上記樹脂はバインダー用途で使用されるものであることが好ましい。また、吐出安定性が向上できることから、本実施形態の水性インクジェットインキが着色剤として顔料を含む場合、上記バインダー用途で使用される樹脂とは別に顔料分散用途で使用される樹脂が含まれている、かつ/または、上記バインダー用途で使用される樹脂が顔料分散用途でも使用されるものである(言い換えると、後述するバインダー樹脂が顔料分散樹脂を兼ねるものである)ことが好ましい。
【0087】
本願における「バインダー用途での使用」とは、インキ層に対し、強固性、及び/または、シュリンクフィルムを形成する樹脂に対する密着性を付与する用途での使用を指す。上記バインダー用途で使用されている樹脂の例として、乾燥後の水性インクジェットインキの層の主成分を構成する樹脂、具体的には、本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる樹脂の全量中40質量%以上(好ましくは50質量%以上)含まれる樹脂が挙げられる。
【0088】
また、顔料分散用途で使用される樹脂として、例えば、顔料を内包する樹脂微粒子、及び、以下に示す要件を満たす水溶性樹脂が挙げられる。
【0089】
対象となる水溶性樹脂が、上記要件を満たすかどうか確認する方法を示す。まず、一次粒子径15~25nm、窒素吸着比表面積120~260m2/g、DBP吸収量(粒状)40~80cm3/100gであるカーボンブラックを600gと、対象となる樹脂を300gと、水を2,100gとをよく混合(プレミキシング)する。次いで、プレミキシング後の混合物を、摩砕用ビーズ(例えば、直径0.5mmのジルコニアビーズ)1,800gが充填された、容積0.6Lのビーズミル(例えば、シンマルエンタープライゼス社製「ダイノーミル」)を用いて、4時間分散処理する。そして、分散処理後、得られたカーボンブラック分散液の25℃における粘度を、E型粘度計(例えば、東機産業社製「TVE25L型粘度計」)を用いて測定したのち、上記カーボンブラック分散液を70℃に設定した送風定温恒温器内に1週間保存し、再度粘度を測定する。このとき、分散直後の分散液の粘度が100mPa・s以下であり、かつ、保存前後でのカーボンブラック分散液の粘度変化率の絶対値が10%以下であれば、上記樹脂は顔料分散用途として機能していると判断する。
【0090】
また、上記「ワックス用途」とは、加熱時及び/または加圧時に液体となり、水性インクジェットインキの層の耐擦過性を向上させる用途を指す。この観点から、 融点が50~160℃であり、当該融点を上回る温度環境下では分解することなく溶融し、かつ、上記融点よりも10℃高い温度における溶融粘度が10Pa・s以下である樹脂は、ワックス用途として機能すると判断する。
【0091】
≪バインダー樹脂≫
上述した通り、一実施形態において、水性インクジェットインキは、変形に対する追随性に優れた印刷物が得られる点から、バインダー用途で使用される樹脂(本願では「バインダー樹脂」とも称する)を含むことが好ましい。本実施形態の水性インクジェットインキがバインダー樹脂を含む場合、当該バインダー樹脂として使用される樹脂の種類は、上記列挙したもののうち、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及び、ポリエステル樹脂からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0092】
シュリンクフィルムを構成する樹脂が芳香環構造を有する場合(例えば、当該樹脂がポリエチレンテレフタレートまたはポリスチレン樹脂である場合)、バインダー樹脂は、芳香環構造を含有することが好ましい。バインダー樹脂が有する芳香環構造と、上記シュリンクフィルムを構成する樹脂が有する芳香環構造との間に相互作用(π-π相互作用)が発生し、インキ層が、上記シュリンクフィルムと親和及び密着することで、印刷物の変形追随性が向上するためである。上記芳香族構造を有する官能基の例として、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、アニシル基等が挙げられる。
【0093】
また、上記と同様の理由に加えて、バインダー樹脂分子同士の間で生じる上記相互作用により、水性インクジェットインキの粘弾性が好適化し、吐出安定性にも優れた上記水性インクジェットインキが得られるという理由から、バインダー樹脂が芳香環構造を含む場合、その含有量は、1~25質量%であることが好ましく、2~20質量%であることが特に好ましい。
【0094】
本願では、樹脂を構成する重合性単量体の種類及び含有率が判明している場合、上記芳香環構造の含有量として、下記式により算出された値が使用できる。また、樹脂を構成する重合性単量体の種類及び含有率が不明である場合、例えばNMR(核磁気共鳴)測定により、芳香環構造を有する重合性単量体の含有率、及び、当該芳香環構造の含有モル数を測定したのち、下記式6により、当該芳香環構造の含有量が算出できる。
【0095】

式6:
(芳香環構造の含有量)(質量%)=Σ[(ni×MS÷Mi)×Wi]
【0096】
上記式6において、niは、樹脂を構成する重合性単量体のうち、芳香環構造を有する重合性単量体における、当該芳香環構造の含有モル数(例えばスチレンの場合、ni=1となる)であり、MSは、対象となる構造(芳香環構造)の分子量(78.1)であり、Miは、当該芳香環構造を有する重合性単量体の分子量であり、Wiは、当該芳香環構造を有する重合性単量体の、樹脂を構成する重合性単量体の全量に対する含有率(質量%)である。
【0097】
バインダー樹脂の酸価は1~80mgKOH/gであることが好ましく、2~60mgKOH/gであることがより好ましく、3~50mgKOH/gであることが更に好ましく、5~40mgKOH/gであることが特に好ましい。酸価を上記範囲内とすることで、変形追随性に優れ、滲みのない印刷物が得られるうえ、仮に、インクジェットヘッドのノズル近傍において水性インクジェットインキの一部が乾燥したとしても、当該水性インクジェットインキの大幅な増粘を抑制することができるため、吐出安定性を向上させることが可能となる。また、上記範囲内の酸価を有するバインダー樹脂を含むインキ層は、後述する塩基性溶液への浸漬によって、シュリンクフィルムから脱離しやすい。その結果、当該シュリンクフィルムのリサイクルが容易になる。
【0098】
本願における「樹脂の酸価」とは、当該樹脂1g中に含まれる酸基を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)のmg数である。本願では、酸価として、以下方法により算出される値を使用する。例えば、樹脂が、1分子中にva価の酸基をna個有し、分子量がMaである重合性単量体を、当該樹脂を構成する重合性単量体中Wa質量%含む場合、その酸価(mgKOH/g)は、下記式7によって求められる。
【0099】

式7:
(酸価)={(va×na×Wa)÷(100×Ma)}×56.11×1000
【0100】
上記式7において、数値「56.11」は、水酸化カリウムの分子量である。
【0101】
また、上記バインダー樹脂のSP値は、9~13(cal/cm31/2であることが好ましく、9.5~12(cal/cm31/2であることが特に好ましい。上記SP値を有するバインダー樹脂を使用することで、樹脂及び界面活性剤のSP値の加重平均値を、上述した範囲内に調整しやすくなり、シュリンクフィルムを構成する樹脂との親和性、及び、印刷物の変形追随性の向上が容易になる。
【0102】
本実施形態の水性インクジェットインキに含まれるバインダー樹脂の含有量は、吐出安定性、ならびに、印刷物の変形追随性及びリサイクル性に優れた水性インクジェットインキが得られるという観点から、当該水性インクジェットインキの全量中、固形分換算で0.5~16質量%であることが好ましく、1~14質量%であることがより好ましく、2.5~12質量%であることが特に好ましい。
【0103】
≪顔料分散樹脂≫
本実施形態の水性インクジェットインキが、着色剤として顔料を含む場合、顔料分散用途で使用される樹脂(本願では「顔料分散樹脂」とも称する)を使用することもできる。その場合、当該顔料分散樹脂として使用される樹脂の種類は、上記列挙したもののうち、アクリル樹脂、スチレン-(無水)マレイン酸樹脂、及び、オレフィン-(無水)マレイン酸樹脂からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0104】
顔料分散樹脂の酸価は80~400mgKOH/gであることが好ましく、100~350mgKOH/gであることがより好ましく、特に好ましくは110~300mgKOH/gである。酸価を上記範囲内とすることで、顔料の分散安定性を保つことが可能であり、使用条件によらず、インクジェットヘッドから安定して吐出することができる。また、顔料分散樹脂の水に対する溶解性が確保できるうえ、当該顔料分散樹脂間での相互作用が好適なものとなることで、顔料分散液の粘度を抑えることができ、水性インクジェットインキの吐出安定性を更に向上できる点からも好適である。
【0105】
本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる顔料分散樹脂の含有量は、顔料の分散安定性及び吐出安定性の観点から、顔料の含有量に対して、固形分換算で1~60質量%であることが好ましく、2~50質量%であることがより好ましい。
【0106】
≪ワックス樹脂≫
本実施形態の水性インクジェットインキは、印刷物の耐擦過性を向上させるため、ワックス用途で使用される樹脂(本願では「ワックス樹脂」とも称する)を使用することもできる。その場合、当該ワックス樹脂として使用される樹脂の種類は、上記列挙したもののうち、ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。ワックス樹脂としてポリオレフィン樹脂を使用し、かつ、シュリンクフィルムを構成する樹脂が、後述するポリオレフィン樹脂である場合、当該シュリンクフィルムに対する変形追随性が特段に向上する。
【0107】
本実施形態の水性インクジェットインキがワックス樹脂を含み、当該ワックス樹脂としてポリオレフィン樹脂を使用する場合、当該ポリオレフィン樹脂として、酸化ポリオレフィン樹脂及び/または酸変性ポリオレフィン樹脂を使用することが好ましい。酸化ポリオレフィン樹脂及び酸変性ポリオレフィン樹脂は、酸性基や酸素原子含有官能基を有するため、これらのポリオレフィン樹脂が、シュリンクフィルムを構成する樹脂と相互作用を形成し、インキ層が、上記シュリンクフィルムと親和及び密着することで、印刷物の変形追随性が向上するためである。
【0108】
本実施形態の水性インクジェットインキに含まれるワックス樹脂の含有量は、吐出安定性、ならびに、印刷物の変形追随性及びリサイクル性に優れた水性インクジェットインキが得られるという観点から、当該水性インクジェットインキの全量中、固形分換算で0.3~5質量%であることが好ましく、0.6~4質量%であることがより好ましく、0.8~3質量%であることが特に好ましい。
また、互いの効果を阻害し合わない、という観点から、本実施形態の水性インクジェットインキが、バインダー樹脂及びワックス樹脂を含む場合、当該ワックス樹脂の含有量は、上記バインダー樹脂の含有量に対して5~35質量%であることが好ましく、8~30質量%であることがより好ましく、10~25質量%であることが特に好ましい。
【0109】
<着色剤>
本実施形態の水性インクジェットインキは、着色剤を含んでもよい。また、濃度または隠蔽性が高く、耐光性、耐水性等にも優れた印刷物が得られる点から、当該着色剤として顔料を使用することが好ましい。
【0110】
≪顔料≫
上記顔料として、従来既知の有機及び無機顔料を任意に使用することができ、例えば、下記のカラーインデックス名で表される顔料が使用できる。
すなわち、レッド顔料として、C.I.ピグメントレッド2、5、7、9、12、17、22、23、31、48:1、48:2、48:3、48:4、49:1、49:2、57:1、57:2、112、122、123、146、147、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、184、185、188、202、207、209、254、255、260、264、266、269、282;
バイオレット顔料として、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、32、36、37、42、50;
オレンジ顔料として、C.I.ピグメントオレンジ1、2、3,5、7、13、14、15、16、22、34、36、38、40、43、47、48、49、51、52、53、60、61、62、64、65、66、69、71、73;
ブルー顔料として、C.I.ピグメントブルー15、15:3、15:4、15:6、16、60、64、79;
グリーン顔料として、C.I.ピグメントグリーン7、10、36、48;
イエロー顔料として、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、5、12、13,14、16、17、24、73、74、83、87、93、94、95、97、98、109、110、111、112、120、126、127、128、129、137、138、139、147、150、151、154、155、166、167、168、170、180、185、213;
ブラック顔料として、C.I.ピグメントブラック1、7、11;ならびに、
ホワイト顔料として、C.I.ピグメントホワイト4,5、6、21等である。
これらの顔料は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、上記列挙した顔料の2種以上からなる固溶体を、顔料として使用することもできる。
【0111】
本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる顔料の含有量は、当該水性インクジェットインキを用いて作製される印刷物の使用用途によって調整されるが、例えば、水性インクジェットインキの全量中、0.5~30質量%であることが好ましい。また、白色の水性インクジェットインキ(水性ホワイトインキ)の場合以外では、水性インクジェットインキの吐出安定性を悪化させることなく、濃度が高い印刷物が得られる点から、上記顔料の含有量は、1~15質量%であることがより好ましく、1.5~10質量%であることが特に好ましい。一方で水性ホワイトインキの場合は、当該水性ホワイトインキの吐出安定性を悪化させることなく、隠蔽性が高い印刷物が得られる点から、上記顔料の含有量は、5~25質量%であることがより好ましく、10~20質量%であることが特に好ましい。
【0112】
<水>
本実施形態の水性インクジェットインキは、主成分として水を含む。当該水は、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)または蒸留水であることが好ましい。また、本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる水の含有量は、当該水性インクジェットインキの全量中、40~95質量%であることが好ましく、50~90質量%であることがより好ましい。
【0113】
<その他成分>
本実施形態の水性インクジェットインキは、上述した成分以外に、pH調整剤、防腐剤、架橋剤、紫外線吸収剤、及び、赤外線吸収剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、それぞれ、従来既知の化合物を1種、または2種以上使用することができる。
【0114】
≪pH調整剤≫
例えば、上述したアルカノールアミン類は、水性インクジェットインキを塩基性化することができる、pH調整剤としての機能も有する。その他、水性インクジェットインキを塩基性化できるpH調整剤として、例えば、アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸(水素)塩;等が挙げられる。また、水性インクジェットインキを酸性化できるpH調整剤として、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸;酢酸、プロピオン酸、酪酸、(無水)マレイン酸、マロン酸、コハク酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルタミン酸等の有機酸;等が挙げられる。
【0115】
<水性インクジェットインキの製造方法>
本実施形態の水性インクジェットインキは、従来既知の方法によって製造することができる。一例を挙げると、着色剤として顔料を使用する場合は、あらかじめ、当該顔料を、少なくとも水を含む媒体(水性媒体)中に分散させた、顔料分散液を製造する。一方、着色剤として水溶性染料を使用する場合は、あらかじめ、当該水溶性染料を、水性媒体中に溶解させた、水溶性染料水溶液を製造する。そして、当該顔料分散液及び/または水溶性染料水溶液に、水、SP値が11~13.5(cal/cm31/2であり、水酸基を1個以上有する有機溶剤(A-1)、アセチレンジオール系界面活性剤、及び、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の界面活性剤(B-1)、樹脂等を添加し、十分に撹拌及び混合したのち、濾過、遠心分離等の手法によって粗大粒子を除去する、という方法が挙げられる。ただし、本実施形態の水性インクジェットインキの製造方法は、上述した方法に限定されるものではない。
【0116】
<水性インクジェットインキの特性>
本実施形態の水性インクジェットインキは、25℃における粘度が3~15mPa・sであることが好ましい。この粘度領域であれば、吐出周波数が4~10KHz程度であるインクジェットヘッドからだけではなく、20~70KHz程度という高い吐出周波数を有するインクジェットヘッドからも、水性インクジェットインキの液滴を安定して吐出することができる。特に、本実施形態の水性インクジェットインキの25℃における粘度が4~10mPa・sである場合は、600dpi以上の設計解像度を有するインクジェットヘッドを使用した場合であっても、安定的に水性インクジェットインキを吐出させることができる。なお本願では、粘度として、東機産業社製「TVE25L型粘度計」等のコーンプレート型回転粘度計(E型粘度計、コーン角度1°34’)を用いて、25℃環境下で測定された値を使用する。
【0117】
また、吐出安定性及び印刷物の印刷画質に優れた水性インクジェットインキを得る点から、本実施形態の水性インクジェットインキの、25℃における静的表面張力は18~35mN/mであることが好ましく、21~32mN/mであることが特に好ましい。なお本願では、静的表面張力として、協和界面科学社製「自動表面張力計CBVP-Z」等の、ウィルヘルミー法(プレート法)を用いて、25℃環境下で測定された値を使用する。
【0118】
また、本実施形態の水性インクジェットインキが着色剤として顔料を含む場合、吐出安定性と、印刷物の濃度または隠蔽性とを高いレベルで両立する点から、当該顔料の体積基準でのメジアン径(D50)が、30~450nmであることが好ましく、50~400nmであることがより好ましく、70~350nmであることが特に好ましい。なお、顔料のD50は、上述した樹脂微粒子のD50と同様の方法で測定できる。
【0119】
<水性インクジェットインキのセット>
本実施形態の水性インクジェットインキは1種のみを単独で使用してもよいが、2種以上の水性インクジェットインキを組み合わせた、水性インクジェットインキのセットとして使用することもできる。当該水性インクジェットインキのセットとして、例えば、シアン色の水性インクジェットインキ(水性シアンインキ)、マゼンタ色の水性インクジェットインキ(水性マゼンタインキ)、イエロー色の水性インクジェットインキ(水性イエローインキ)、及び、ブラック色の水性インクジェットインキ(水性ブラックインキ)からなる、4色の水性インクジェットインキのセット(プロセスカラーインキセット);当該プロセスカラーインキセットに、更に水性ホワイトインキを追加した、5色の水性インクジェットインキのセット;等が挙げられる。なお、水性インクジェットインキのセットを構成するすべての水性インクジェットインキが、上述した本発明の実施形態の要件を満たすことが好ましい。
【0120】
<インキ-前処理液セット>
本実施形態の水性インクジェットインキ、及び、上記水性インクジェットインキのセットは、凝集剤を含む前処理液と組み合わせた形態(インキ-前処理液セットの形態)で使用することもできる。凝集剤を含む前処理液を、水性インクジェットインキの印刷前に印刷基材上に付与することで、当該水性インクジェットインキ中に含まれる固体成分を意図的に凝集させる層(インキ凝集層)を形成することができる。そして当該インキ凝集層上に上記水性インクジェットインキを着弾させることで、当該水性インクジェットインキの液滴同士の合一及び滲みを防止し、印刷物の印刷画質を著しく向上できる。
【0121】
上記凝集剤として、例えば、多価金属イオンを含む水溶性の無機塩または有機塩、ならびに、1級アミノ基、2級アミノ基、及び、3級アミノ基、及び、4級アンモニウム基からなる群から選択される1種以上のカチオン性基を有し、アミン価が酸価よりも大きい樹脂(カチオン性樹脂)が使用できる。
【0122】
その際、シュリンクフィルム及びインキ凝集層の間、ならびに、インキ凝集層及びインキ層の間の密着性を高めることができ、変形に対する追随性に特段に優れた印刷物を得ることができるという観点から、凝集剤として多価金属イオンを含む水溶性の無機塩または有機塩を使用する場合、水酸基を有するアニオン(例えば、乳酸イオン、リンゴ酸イオン、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸イオン、グルコン酸イオン、及び、パントテン酸イオン)と多価金属イオン(例えば、マグネシウムイオン及びカルシウムイオン)との塩が好適に使用できる。
【0123】
上記前処理液に含まれる凝集剤の含有量をカチオン当量濃度で表す場合、変形追随性に優れ滲みが抑制された印刷物が得られるという観点から、当該前処理液のカチオン当量濃度は0.07~1.40meq/gであることが好ましく、0.11~1.10meq/gであることがより好ましく、0.15~0.80meq/gであることが特に好ましい。
【0124】
上記「前処理液のカチオン当量濃度」とは、前処理液1g中に存在する、カチオン性を有する成分(多価金属イオン、及び、カチオン性樹脂中のカチオン性基)の当量数である。例えば、酢酸カルシウム(無水物)を5質量%含む前処理液のカチオン当量濃度は、{(5/100)×2/158.17}×1000≒0.63(meq/g)と算出できる。ただし上記式中、「2」はカチオン成分であるカルシウムイオンの価数であり、「158.17」は酢酸カルシウム(無水物)の分子量である。
【0125】
一実施形態において、上記前処理液は、バインダー用途で使用される樹脂を含むことが好ましい。なお本願では、前処理液に含まれる、バインダー用途で使用される樹脂を「前処理液用バインダー樹脂」と称する。前処理液が前処理液用バインダー樹脂を含むことで、シュリンクフィルム及びインキ凝集層の間、ならびに、インキ凝集層及びインキ層の間の親和性及び密着性を高めることができ、変形に対する追随性に特段に優れた印刷物を得ることができるためである。
【0126】
前処理液用バインダー樹脂は、上述した、水性インクジェットインキ中に含まれ得るバインダー樹脂と同様の特性を有することが好適である。具体的には、変形に対する追随性に優れた印刷物が得られる観点から、シュリンクフィルムを構成する樹脂が芳香環構造を有する場合(例えば、当該樹脂がポリエチレンテレフタレートまたはポリスチレン樹脂である場合)、前処理液用バインダー樹脂が芳香環構造を含有することが好ましい。またその含有量は、1~25質量%であることが好ましく、2~20質量%であることが特に好ましい。
【0127】
また、後述する塩基性溶液への浸漬によって、インキ層(及びインキ凝集層)がシュリンクフィルムから脱離しやすくなることで、当該シュリンクフィルムのリサイクルが容易になる観点から、前処理液用バインダー樹脂の酸価は1~80mgKOH/gであることが好ましく、2~60mgKOH/gであることがより好ましく、3~50mgKOH/gであることが更に好ましく、5~40mgKOH/gであることが特に好ましい。
【0128】
上記前処理液用バインダー樹脂として使用できる樹脂の種類として、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上の樹脂を併用してもよい。特に、併用される水性インクジェットインキがバインダー樹脂を含む場合、インキ層との親和性及び密着性が向上し、印刷物の変形追随性が向上する観点から、当該水性インクジェットインキに含まれるバインダー樹脂と同種の樹脂を使用することが好適である。
【0129】
また、上記前処理液用バインダー樹脂は、水溶性樹脂であってもよいし、樹脂微粒子であってもよいし、水溶性樹脂と樹脂微粒子とを組み合わせて使用してもよい。
【0130】
前処理液に含まれる前処理液用バインダー樹脂の含有量は、変形追随性及びリサイクル性に優れた印刷物が得られるうえ、上述した凝集剤の効果(滲みの抑制等)を阻害することもないという観点から、上記前処理液の全量中、固形分換算で1~20質量%であることが好ましく、2~15質量%であることがより好ましく、2.5~12質量%であることが特に好ましい。
【0131】
上記前処理液は、有機溶剤及び/または界面活性剤を含んでもよい。なお本願では、前処理液に含まれる有機溶剤を「前処理液用有機溶剤」と称し、当該前処理液に含まれる界面活性剤を「前処理液用界面活性剤」と称する。また、前処理液用有機溶剤及び前処理液用界面活性剤として使用できる化合物は、上述した、本実施形態の水性インクジェットインキで使用できる有機溶剤及び界面活性剤と同様である。
【0132】
一実施形態において、前処理液を、後述するインクジェット印刷方式でシュリンクフィルムに付与させる場合、当該前処理液に関しても、上述した、本実施形態の水性インクジェットインキと同様の構成とすることが好ましい。具体的には、凝集剤と、SP値が11~13.5(cal/cm31/2であり、水酸基を1個以上有する前処理液用有機溶剤と、アセチレンジオール系界面活性剤、及び、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の前処理液用界面活性剤と、前処理液用バインダー樹脂とを含み、上記前処理液用有機溶剤の含有量が、前処理液の全量中5~30質量%であり、上記前処理液用バインダー樹脂及び前処理液用界面活性剤のSP値の加重平均値が9~11.5(cal/cm31/2であることが好ましい。このような構成を有する前処理液を使用することで、シュリンクフィルムに対する変形追随性に優れたインキ凝集層が得られるうえ、当該シュリンクフィルム上に均一に濡れ広がらせることができるため、滲みのない、印刷画質に優れた印刷物が得られる。また、前処理液の吐出安定性も良好なものとなる。
【0133】
<印刷物>
本発明の一実施形態である印刷物(以下では単に「本実施形態の印刷物」とも称する)は、上述した本実施形態の水性インクジェットインキを、インクジェット印刷方式によって、シュリンクフィルム上に印刷されてなるものである。また、2種以上の水性インクジェットインキを組み合わせた、水性インクジェットインキのセットを使用する場合、本実施形態の印刷物は、当該水性インクジェットインキのセットによって形成される、複数層からなるインキ層を有していてもよい。更に、本実施形態の水性インクジェットインキと、上述した前処理液とを併用する場合、本実施形態の印刷物は、当該前処理液によって形成されるインキ凝集層を有する。
【0134】
<印刷物の製造方法>
本実施形態の印刷物を製造する場合、シュリンクフィルムに対して、本実施形態の水性インクジェットインキを印刷する工程(1)と、当該印刷した後のシュリンクフィルムを乾燥する工程(2)とを、この順に行うことが好ましい。また、本実施形態の水性インクジェットインキが、上述した前処理液と組み合わせて使用される場合、上記工程(1)の前に、シュリンクフィルム上に前処理液を付与する工程(0)を実施することが好ましい。
【0135】
<シュリンクフィルム>
これまで説明したように、本実施形態の水性インクジェットインキは、シュリンクフィルムに対して使用される。本願における「シュリンクフィルム」とは、具体的には、JIS Z 1709で規定された方法に従い、100℃で20秒間加熱した際の収縮率が、機械方向(MD)及び/または横方向(TD)において10%以上であるフィルムを指す。
【0136】
上述した通り、本実施形態の水性インクジェットインキを使用して作製した印刷物は、変形に対する追随性に優れる。そのため、本実施形態の水性インクジェットインキは、上記収縮率が、機械方向(MD)及び/または横方向(TD)において20%以上であるシュリンクフィルムに対して好適に使用でき、40%以上であるシュリンクフィルムに対して特に好適に使用できる。
【0137】
一実施形態において、上記シュリンクフィルムは、MDまたはTDのどちらか一方向に強く収縮するものであることが好ましい。収縮が主として一方向のみで発生するため、本発明の水性インクジェットインキを使用して作製した印刷物が有する、変形に対する追随性を十分に活かすことができ、収縮後のインキ層にシワやワレが発生することがない。なおこの場合、強い収縮を起こさない方向における、上述した条件で測定した収縮率は、25%以下、かつ、強い収縮を起こす方向における収縮率よりも小さいことが好ましく、15%以下、かつ、強い収縮を起こす方向における収縮率よりも小さいことがより好ましく、10%以下、かつ、強い収縮を起こす方向における収縮率よりも小さいことが特に好ましい。また、強い収縮を起こす方向における収縮率と、強い収縮を起こさない方向における収縮率との比が、3~100倍であることが好ましく、5~100倍であることがより好ましく、8~100倍であることが特に好ましい。
【0138】
上記シュリンクフィルムを構成する樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET、13.2)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE、8.6)、ポリプロピレン(PP、8.0)、ポリエチレン-ポリプロピレン複合体等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン樹脂(PS、10.6);ポリ乳酸樹脂(PLA、12.1)等が挙げられる。また、種類の異なる樹脂を積層させたフィルム(積層フィルム)を使用することもできる。当該積層フィルムの例として、ポリスチレンとPETとを積層させたフィルムが挙げられる。なお、上記カッコ内の数値は、各樹脂のSP値(単位:(cal/cm31/2)である。
特に、SP値が9.0~14.5(cal/cm31/2である樹脂から構成されたシュリンクフィルムを使用することで、上述した有機溶剤(A-1)との親和性が高まり、本実施形態の水性インクジェットインキを使用して作製した印刷物が有する、変形追随性を十分に活かすことができる。具体的には、上記列挙した樹脂のうち、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン樹脂、及び、ポリ乳酸樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂から構成されたシュリンクフィルムが、好ましく使用できる。
【0139】
<前処理液の付与工程(0)>
工程(0)において、前処理液をシュリンクフィルム上に付与する方法は、インクジェット印刷方式のような、シュリンクフィルムに対して上記前処理液を非接触で印刷する方式であってもよいし、当該シュリンクフィルムに対し前処理液を当接させて塗工する方式であってもよい。なお、上記インクジェット印刷方式の具体例については、水性インクジェットインキの場合と同様であり、詳細は後述する。一方、前処理液の付与方法として、当該前処理液を当接させる塗工方法を選択する場合、グラビアコーター、オフセットグラビアコーター、ドクターコーター、バーコーター、ブレードコーター、フレキソコーター、エアドクターコーター、ロールコーター等が使用できる。中でも、シュリンクフィルムを構成する樹脂の種類によらず、安定、均一かつ容易に付与できること、ならびに、塗工量の調整が容易であり、例えば印刷基材によって当該塗工量を調整することで、変形追随性及びリサイクル性に優れ、滲みのない印刷物が得られる点から、グラビアコーター、オフセットグラビアコーター、フレキソコーターが好適に使用できる。
【0140】
なお本願において「前処理液の付与」は、非接触での前処理液の印刷、及び、印刷基材に当接させての前処理液の塗工、を総称する用語として使用される。
【0141】
変形追随性及びリサイクル性に優れ、滲みのない印刷物が得られるという観点から、付与直後の前処理液の層の厚さは1~10μmであることが好ましく、2~8μmであることがより好ましく、3~7μmであることが特に好ましい。
【0142】
<前処理液付与後の乾燥工程(0A)>
上記工程(0)の後、かつ、水性インクジェットインキを印刷する際の、シュリンクフィルム上の前処理液の乾燥状態は任意に選択できる。
【0143】
一実施形態において、水性インクジェットインキを印刷する前に前処理液を乾燥させる、すなわち、水性インクジェットインキの液滴が着弾する直前の状態において、シュリンクフィルム上の前処理液に含まれる揮発性成分(水及び有機溶剤)の総残存量を、当該シュリンクフィルムへの付与前の前処理液に含まれる揮発性成分の総量中15質量%以下とする(なお、より好ましくは10質量%以下とし、更に好ましくは5質量%以下とし、特に好ましくは2質量%以下とする)ことが好ましい。前処理液が乾燥した後で水性インクジェットインキを印刷することで、後から着弾する当該水性インクジェットインキが乾燥不良を起こすことなく、変形追随性に優れた印刷物が得られるためである。
【0144】
その場合、工程(0)の後かつ工程(1)の前に、シュリンクフィルム上の前処理液を乾燥する工程(以下では「乾燥工程(0A)ともいう」)を設けることが好ましい。当該乾燥工程(0A)における、前処理液の乾燥方法に特に制限はなく、例えば、加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法、高周波誘電加熱法等、従来既知の方法を使用することができる。これらの乾燥法は単独で用いても、複数を併用してもよいが、シュリンクフィルムへのダメージを軽減し効率よく乾燥させるため、熱風乾燥法及び/または赤外線乾燥法を用いることが好ましい。
【0145】
<前処理液付与後の仮乾燥工程(0B)>
一方、別の実施形態では、水性インクジェットインキは、ウェット状態の前処理液の層に印刷されてもよい。なお本願において「前処理液がウェット状態である」とは、水性インクジェットインキの液滴が着弾する直前の状態において、シュリンクフィルム上の前処理液に含まれる揮発性成分(水及び有機溶剤)の総残存量が、当該シュリンクフィルムへの付与前の前処理液に含まれる揮発性成分の総量中50質量%以上である(なお、より好ましくは75質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である)ことを指す。ウェット状態の前処理液に水性インクジェットインキを印刷することで、リサイクル性に優れ、滲みのない印刷物を得ることが可能となる。
【0146】
その場合、工程(0)の後かつ工程(1)の前に、乾燥工程を設けないか、シュリンクフィルム上の前処理液の一部のみを乾燥する工程(以下では「仮乾燥工程(0B)ともいう」)を設けることが好ましい。当該仮乾燥工程(0B)における、前処理液の乾燥方法としては、当該前処理液の過剰な乾燥を防ぐ観点から、例えば、常温風乾燥法、可視光線乾燥法等が好ましく使用できる。また、印刷物に与えるエネルギーを調整したうえで、上述した、乾燥工程(0A)で使用できる方法として例示した方法を採用してもよい。更に、これらの乾燥法は単独で用いても、複数を併用してもよい。
【0147】
<水性インクジェットインキの印刷工程(1)>
本実施の水性インクジェットインキが前処理液と併用される場合、本発明の効果を発現させるため、工程(1)において、水性インクジェットインキの少なくとも一部が、前処理液が付与された部分に重なるように印刷されることが好ましく、当該前処理液が付与された部分のみに水性インクジェットインキが重なるように印刷されることが更に好ましい。
【0148】
工程(1)では、同一の水性インクジェットインキが複数個のインクジェットヘッドに充填され、それぞれの当該インクジェットヘッドから、上記水性インクジェットインキがシュリンクフィルム上に印刷されてもよい。また、インクジェットヘッドに充填された水性インクジェットインキが、加熱された状態で、当該インクジェットヘッドから吐出されてもよい。この場合、インクジェットヘッド内での水性インクジェットインキの加熱温度は、30~50℃であることが好ましく、30~45℃であることが特に好ましい。更に、例えば裏面(水性インクジェットインキが印刷される面とは反対の面)からシュリンクフィルムを加熱しながら、水性インクジェットインキが印刷されてもよい。この場合、水性インクジェットインキが印刷される面の温度が、30~55℃となるように加熱することが好ましく、35~50℃となるように加熱することが特に好ましい。
【0149】
また上述したように、水性インクジェットインキは、複数の水性インクジェットインキを含むものであってもよい(水性インクジェットインキのセット)。その場合、当該水性インクジェットインキのセットを構成する水性インクジェットインキの1種以上が、それぞれ複数個のインクジェットヘッドに充填され、かつ、それぞれの当該インクジェットヘッドから、上記水性インクジェットインキがシュリンクフィルム上に印刷されてもよい。
【0150】
一実施形態において、水性インクジェットインキのセットが水性ホワイトインキを含む場合、少なくとも当該水性ホワイトインキは、複数個のインクジェットヘッドに充填され、かつ、それぞれの当該インクジェットヘッドから、上記水性ホワイトインキが印刷されることが好ましい。このようにすることで、滲みのない本実施形態の印刷物を、視認性に優れた状態で提供することができる。
【0151】
<インクジェット印刷方式>
上述した通り、水性インクジェットインキは、インクジェット印刷方式によりシュリンクフィルム上に印刷される。また、本実施形態の水性インクジェットインキが前処理液と組み合わせて使用される場合、当該前処理液をシュリンクフィルム上に付与する方法として、インクジェット印刷方式を選択してもよい。その際、これらの印刷に使用するインクジェット印刷方式として、シュリンクフィルムに対し、水性インクジェットインキ等を1回だけ吐出するシングルパス方式を採用してもよいし、シュリンクフィルムの搬送方向と直行する方向に、短尺のシャトルヘッドを往復走査させながら、水性インクジェットインキ等を吐出するシリアル型方式を採用してもよい。またシングルパス方式の具体例として、停止している印刷基材に対しインクジェットヘッドを一度だけ走査させる方式(本願では「ヘッド走査型シングルパス方式」と呼ぶ)、及び、固定されたインクジェットヘッドの下部に印刷基材を一度だけ通過させて印刷する方式(本願では「ヘッド固定型シングルパス方式」と呼ぶ)がある。本発明では、上述した方式のいずれを採用してもよいが、インクジェットヘッドの走査に対する、水性インクジェットインキ等の吐出タイミングの調整が不要であり、着弾位置のずれが生じにくいため、滲みがなく、優れた印刷画質を有する印刷物が得られる、という観点から、ヘッド固定型シングルパス方式が好ましく用いられる。
【0152】
なお、ヘッド固定型シングルパス方式で使用するインクジェットヘッドの設計解像度は、印刷画質に優れた画像が得られる点から、600dpi(Dots Per Inch)以上であることが好ましく、720dpi以上であることがより好ましい。
【0153】
<水性インクジェットインキ印刷後の乾燥工程(2)>
【0154】
シュリンクフィルム上に印刷された水性インクジェットインキ(前処理液を併用している場合は、更に当該前処理液)は、乾燥工程(2)を経て、本実施形態の印刷物となる。
当該乾燥工程(2)における、水性インクジェットインキ等の乾燥方法の具体例は、上述した、前処理液付与後の乾燥工程(0A)にて使用できる方法と同様である。また、これらの乾燥法は単独で用いても、複数を併用してもよい。特に、シュリンクフィルムへのダメージを軽減し効率よく乾燥させるため、熱風乾燥法及び/または赤外線乾燥法を用いることが好ましい。
【0155】
一実施形態において、上記乾燥工程(2)における乾燥温度(シュリンクフィルムの温度)は、JIS Z 1709で規定された方法に従い、10秒間加熱した際の収縮率が、機械方向(MD)及び横方向(TD)において25%以下となる温度とすることが好ましい。上記収縮率は、好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。このようにすることで、シュリンクフィルムの機能を損なわせることなく印刷物の作成が可能となり、当該シュリンクフィルムの変形に対する追随性に優れるという本実施形態の印刷物の効果を、十分に活用することができる。
【0156】
<シュリンクラベル>
本実施形態の印刷物は、例えば、シュリンクラベルとして使用できる。当該シュリンクラベルが使用される被収縮物として、例えば、飲料、固体食品、化粧品、洗剤、医薬品等の収容容器が挙げられる。また、当該収容容器の材質として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチック;アルミ、鉄等の金属;ガラス;等が挙げられる。
【0157】
<印刷物及びシュリンクラベルのリサイクル方法>
上述した好ましい要件を満たす、本実施形態の印刷物、及び、当該印刷物を用いて製造されたシュリンクラベルは、容易にリサイクルが可能である。
【0158】
本実施形態の印刷物、及び、当該印刷物を使用して製造されたシュリンクラベルのリサイクル方法の例として、当該印刷物及びシュリンクラベルからシュリンクフィルムを分離したのち、再生プラスチック製品を製造する方法が挙げられる。また、上記再生プラスチック製品を製造する方法として、例えば、分離後のシュリンクフィルムを粉砕する等して作製した、フレークやペレットを使用する方法、及び、当該分離後のシュリンクフィルムを化学的に分解する等して重合性単量体を再生し、当該重合性単量体を使用して再合成したプラスチックを使用する方法、が挙げられる。
【0159】
更に、上記シュリンクフィルムを分離する方法として、例えば、塩基性溶液への浸漬工程を含む方法が挙げられる。当該浸漬工程では、印刷物等を塩基性溶液に浸漬し、シュリンクフィルムを分離する。なお、分離効率の向上のため、事前に破砕、粉砕等した印刷物等を使用してもよい。また、本願における「印刷物等」とは、印刷物及び当該印刷物を使用して製造されたシュリンクラベルを指す。
【0160】
上記塩基性溶液は、少なくとも、液体媒体と塩基性材料とを含む。印刷物等を溶解することなく保持することができ、リサイクル性が向上するという点から、上記液体媒体は、水を含むことが好ましい。またその場合、水の量を、液体媒体全量中80質量%以上とすることが好ましく、90質量%以上とすることが特に好ましい。
【0161】
また、上記塩基性材料として、例えばアルカリ金属の水酸化物が使用できる。中でも、塩基性の強さ(pKb値の大きさ)、水性媒体に対する溶解性の高さ、入手容易性等の観点から、上記アルカリ金属の水酸化物として、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが好適に使用できる。塩基性材料の量(濃度)は、塩基性溶液全量中0.2~15質量%とすることが好ましく、0.5~12質量%とすることがより好ましく、1~10質量%とすることが特に好ましい。濃度が上記範囲内にあることで、塩基性溶液が分離に充分な塩基性を保持することが可能となる。また、印刷物内部への塩基性溶液の浸漬がなくても、例えば当該印刷物の表面や端部からの浸透により、シュリンクフィルムの分離が容易となる。
【0162】
浸漬工程時における、印刷物等及び塩基性溶液の混合物の温度は、20~120℃とすることが好ましく、25~110℃とすることがより好ましく、28~90℃とすることが更に好ましく、30~80℃とすることが特に好ましい。更に、上記好適な温度範囲で実施する浸漬工程の時間は、1分~24時間とすることが好ましく、1分~12時間とすることが更に好ましく、1分~6時間とすることが特に好ましい。
【0163】
なお、浸漬時には撹拌をしながら分離を行うことが好ましい。例えば、回転羽根で撹拌する場合、その回転数は80~250rpmであることが好ましく、80~200rpmであることが更に好ましい。
【0164】
また、塩基性溶液の使用量は、印刷物等の質量の100~100万倍量とすることが好ましい。なお、塩基性溶液の使用量を削減するため、当該塩基性溶液の循環が可能な分離装置を使用してもよい。
【0165】
リサイクル時に塩基性溶液の影響を受けにくく、リサイクルに適した印刷物(または当該印刷物を使用して製造されたシュリンクラベル)が得られる、という観点から、当該印刷物(または当該印刷物を使用して製造されたシュリンクラベル)を構成するシュリンクフィルムの材質は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレンであることが好ましい。
【0166】
なお、上記シュリンクラベルの被収縮物の材質がプラスチックである場合、当該シュリンクラベルが装着された物品ごとリサイクルに使用することもできる。その場合のリサイクル方法の例として、当該物品を粉砕したのち、粉砕物からシュリンクフィルム及び被収縮物を分離したのち、再生プラスチック製品を製造する方法が挙げられる。
【0167】
シュリンクラベルが装着された物品ごとリサイクルする場合、リサイクル時の効率の良さ、すなわち、分離後のシュリンクフィルム及び被収縮物を更に分離することなく、そのまま再生プラスチック製品の製造に利用できる、という点から、上記シュリンクフィルムと上記被収縮物とが、同一種の樹脂であることが好ましい。この観点から、シュリンクラベルが装着された物品ごとリサイクルする場合における、シュリンクフィルムを構成する樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、及び、ポリプロピレンからなる群から選択される1種以上の樹脂を使用することが好適である。また上述した、本実施形態の印刷物が有する変形追随性を十分に活かすことができる材質である、という点も考慮すれば、上記シュリンクフィルムを構成する樹脂として、ポリエチレンテレフタレートを使用することが特に好適である。
【実施例
【0168】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本実施形態の水性インクジェットインキについて、更に具体的に説明する。なお、以下の記載において「部」及び「%」とあるものは、特に断らない限り、それぞれ「質量部」、「質量%」を表す。
【0169】
また、以下で使用されている、樹脂の質量平均分子量は、JIS K 7252に準拠した方法によって測定されたポリスチレン換算値である。具体的には、東ソー社製「TSKgel(登録商標)カラム」及びRI検出器を装備した、東ソー社製「HLC-8320GPC」を使用し、テトラヒドロフランを展開溶媒として測定した値である。
【0170】
<顔料分散液の製造>
顔料として、トーヨーカラー社製LIONOL BLUE 7919(C.I.ピグメントブルー15:3)を450gと、顔料分散樹脂として、全ての酸基がジメチルアミノエタノールで中和された、スチレン/アクリル酸/ベヘニルアクリレート=45/30/25(質量比)のランダム重合体(酸価233.6mgKOH/g、SP値11.7(cal/cm31/2、質量平均分子量20,000)を90gと、イオン交換水を2,460gとを、撹拌機を備えた混合容器(容積10L)中に投入し、1時間撹拌(プレミキシング)を行った。次いで、直径0.5mmのジルコニアビーズ1,800gを充填したシンマルエンタープライゼス社製「ダイノーミル」(容積0.6L)を用いて、混合物の循環分散を開始した。そして、一定時間(例えば1時間)ごとに、上述した装置を使って上記混合物のD50を測定し、当該D50が150nm以下になったところで循環分散を終了することで、シアン顔料分散液を製造した。
【0171】
また、顔料として、DIC社製FASTGEN SUPER MAGENTA RG(C.I.ピグメントレッド122)を使用した以外は、上記シアン顔料分散液と同様の原料及び方法により、マゼンタ顔料分散液を製造した。
【0172】
<アクリル樹脂1~9の水性化溶液の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた、容量10Lの反応容器に、ブタノール2,800gを投入したのち、窒素ガスで置換し、内温を110℃に昇温した。次いで、この反応容器内に、重合性単量体として、メタクリル酸120g、スチレン300g、メチルメタクリレート330g、ブチルアクリレート750g、ブチルメタクリレート600g、ステアリルメタクリレート450g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート450g;ならびに、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル(富士フイルム和光純薬社製「V-601」)180g;の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、反応容器の内温を110℃に保持したまま3時間重合反応を行った後、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチルを18g添加し、更に、内温を110℃に保持した状態で1時間重合反応を継続した。その後、反応容器内が常温になるまで冷却した後、ジメチルエタノールアミンを125g投入して反応物を中和したのち、イオン交換水を1,000g投入した。そして、混合溶液を加熱してブタノールを留去したのち、イオン交換水を用いて固形分濃度が30質量%になるように調整することで、アクリル樹脂1の水性化溶液(固形分濃度30質量%)を得た。
上述した方法で算出した、アクリル樹脂1の酸価は26.1mgKOH/gであり、また、当該アクリル樹脂1に含まれる、芳香環構造の含有量は、7.5質量%であった。更に、アクリル樹脂1のSP値は、10.7(cal/cm31/2であった。
【0173】
なお、本願において「水性化溶液」とは、水性溶媒と、当該水性溶媒に分散及び/または溶解した成分とを含む溶液を表す。
【0174】
また、重合性単量体の種類及び使用量、ならびに、反応容器内の冷却後に投入したジメチルエタノールアミンの量を表1記載のように変更した以外は、上記アクリル樹脂1と同様の操作によって、アクリル樹脂2~9の水性化溶液(それぞれ固形分濃度30質量%)を得た。なお表1には、アクリル樹脂1の製造時に使用した、重合性単量体及びジメチルエタノールアミンの量、ならびに、アクリル樹脂1~9の酸価、芳香環構造の含有量、及び、SP値についても記載した。
【0175】
【表1】
【0176】
表1中、「GLM」は、グリセリンモノメタクリレート(日油社製「GLM-EX」)を表す。
【0177】
<アクリル樹脂10~12の水分散液の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、撹拌器を備えた、容量10Lの反応容器に、イオン交換水2,480gと、乳化剤として、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製「ラテムルE-150」)1.2部とを投入した。一方、撹拌機を備えた別の混合用容器を準備し、重合性単量体として、メタクリル酸16g、スチレン200g、メチルメタクリレート284g、ブチルアクリレート500g、ブチルメタクリレート400g、ステアリルメタクリレート400g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート200g;イオン交換水1,280g;ならびに、乳化剤として、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製「ラテムルE-150」)16gを投入したのち、撹拌混合して乳化液とした。
次いで、上記乳化液を160g分取し、反応容器内に投入したのち、内温を80℃に昇温し、また当該反応容器内を窒素ガスで十分に置換した。その後、過硫酸カリウムの5%水溶液を80gと、無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液を160gとを添加し、重合反応を開始した。当該重合反応の開始後、反応容器の内温を80℃に保ちながら、上記乳化液の残りと、過硫酸カリウムの5%水溶液を24gと、無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液を50gとを、1.5時間かけて滴下し、更に2時間撹拌を継続した。そして、反応容器内が常温になるまで冷却した後、ジメチルエタノールアミンを17g添加したのち、イオン交換水を用いて固形分濃度が30質量%になるように調整することで、アクリル樹脂10の水分散液(固形分濃度30質量%)を得た。
【0178】
また、重合性単量体の種類及び使用量、ならびに、反応容器内の冷却後に投入したジメチルエタノールアミンの量を表2記載のように変更した以外は、上記アクリル樹脂10と同様の操作によって、アクリル樹脂11~12の水性化溶液(それぞれ固形分濃度30質量%)を得た。なお表2には、アクリル樹脂10の製造時に使用した、重合性単量体及びジメチルエタノールアミンの量、ならびに、アクリル樹脂10~12の酸価、芳香環構造の含有量、及び、SP値についても記載した。
【0179】
【表2】
【0180】
<ウレタン樹脂13~14の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた、容量10Lの反応容器に、重合性単量体として、ポリプロピレングリコール(分子量1,000)870g、イソホロンジイソシアネート890g;ならびに、ジブチル錫ジラウレート0.14gを投入し、窒素ガスで置換したのち、上記反応容器の内温を100℃に昇温し、5時間重合反応を行った。次いで、当該反応容器の内温が60℃程度になるまで冷却した後、重合性単量体としてジメチロールプロピオン酸180g、ネオペンチルグリコール60g;ならびに、メチルエチルケトン3,000gを添加し、再度、反応容器内を80℃に昇温したのち、重合反応を行った。その後、反応容器内が常温になるまで冷却した後、メタノール400gを添加し、反応を停止させた。次いで、水を添加し、更に水酸化カリウム水溶液を撹拌しながら添加し、中和した。そして、減圧下で混合溶液を加熱し、メチルエチルケトン及び未反応のメタノールを留去したのち、水を用いて固形分が10質量%になるように調整することで、ウレタン樹脂13の水性化溶液(固形分濃度10質量%)を得た。
【0181】
また、重合性単量体の種類及び使用量を表4記載のように変更した以外は、上記ウレタン樹脂13と同様の操作によって、ウレタン樹脂14の水性化溶液(固形分濃度10質量%)を得た。なお表3には、ウレタン樹脂13の製造時に使用した重合性単量体の量、ならびに、ウレタン樹脂13~14の酸価、芳香環構造の含有量、及び、SP値についても記載した。
【0182】
【表3】
【0183】
表3中、「PPG1000」は、ポリプロピレングリコール(分子量1,000)を、「PTMG2000」は、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(分子量2,000)を、それぞれ表す。
【0184】
<水性インクジェットインキの製造>
下表4の各列に記載した配合処方になるように、撹拌機を備えた混合容器中に、各原料を投入した。また全ての原料の投入後、室温(25℃)にて、混合物が十分に均一になるまで撹拌を継続した。その後、孔径0.65μmのメンブレンフィルターで濾過を行うことで、水性インクジェットインキ1~93を製造した。なお、水性インクジェットインキの製造にあたっては、表4の各列において、上の行に記載されている成分から順番に、混合容器中に投入するようにした。ただし、これらの成分を含まない場合は、当該成分を飛ばして次の成分を添加し、また、2種類以上の原料を含む成分に関しては、当該成分内での投入順序は任意とした。更に、混合容器内の混合物を撹拌しながら、各原料を投入した。
【0185】
【表4】
【0186】
【表4】
【0187】
【表4】
【0188】
【表4】
【0189】
【表4】
【0190】
【表4】
【0191】
表4に記載された原料のうち、略称及び商品名で記載されたものの詳細は、以下に示すとおりである。また表4中に記載されているSP値の単位は「(cal/cm31/2」であり、酸価の単位は「mgKOH/g」である。
≪界面活性剤≫
サーフィノール104:エボニック社製2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、SP値10.4(cal/cm31/2、HLB値3.0
サーフィノール420:エボニック社製2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのオキシエチレン(1.3モル)付加物、SP値10.3(cal/cm31/2、HLB値4.0
サーフィノール440:エボニック社製2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのオキシエチレン(3.5モル)付加物、SP値10.1(cal/cm31/2、HLB値8.1
サーフィノール2502:エボニック社製2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールの、オキシエチレン(5モル)及びオキシプロピレン(2モル)付加物、SP値9.7(cal/cm31/2、HLB値7.8
ダイノール607:エボニック社製2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオールのオキシエチレン(約7モル)付加物、SP値9.8(cal/cm31/2、HLB値11.0
サーフィノール465:エボニック社製2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのオキシエチレン(10モル)付加物、SP値9.8(cal/cm31/2、HLB値13.2
EMALEX 705:日本エマルジョン社製、上記一般式3において、R1が1-ラウリル基、R2がエチレン基、nが5である化合物、SP値9.6(cal/cm31/2、HLB値10.8
EMALEX 710:日本エマルジョン社製、上記一般式3において、R1が1-ラウリル基、R2がエチレン基、nが10である化合物、SP値9.5(cal/cm31/2、HLB値14.1
EMALEX 720:日本エマルジョン社製、上記一般式3において、R1が1-ラウリル基、R2がエチレン基、nが20である化合物、SP値9.5(cal/cm31/2、HLB値16.5
EMALEX 730:日本エマルジョン社製、上記一般式3において、R1が1-ラウリル基、R2がエチレン基、nが30である化合物、SP値9.5(cal/cm31/2、HLB値17.5
EMALEX 750:日本エマルジョン社製、上記一般式3において、R1が1-ラウリル基、R2がエチレン基、nが50である化合物、SP値9.4(cal/cm31/2、HLB値18.4
ノニオン S-207:日油社製、上記一般式3において、R1が1-ステアリル基、R2がエチレン基、nが7である化合物、SP値9.4(cal/cm31/2、HLB値10.7
ノニオン S-215:日油社製、上記一般式3において、R1が1-ステアリル基、R2がエチレン基、nが15である化合物、SP値9.4(cal/cm31/2、HLB値14.2
NIKKOL BB-10:日光ケミカルズ社製、上記一般式3において、R1が1-ベヘニル基、R2がエチレン基、nが10である化合物、SP値9.3(cal/cm31/2、HLB値11.5
NIKKOL BB-20:日光ケミカルズ社製、上記一般式3において、R1が1-ベヘニル基、R2がエチレン基、nが20である化合物、SP値9.3(cal/cm31/2、HLB値14.6
シロキサン系活性剤1:上記一般式4において、p=0、q=1であり、R 3 が上記一般式5で表される構造(ただし、r=3、s=5、t=0であり、R 5 が-OHである)であり、R 4 がメチル基である化合物、SP値8.9(cal/cm31/2、Si原子数に対するオキシエチレン基数の比=1.7
シロキサン系活性剤2:上記一般式4において、p=1、q=2であり、R 3 が上記一般式5で表される構造(ただし、r=3、s=3、t=0であり、R 5 が-OCH3である)であり、R 4 がメチル基である化合物、SP値8.1(cal/cm31/2、Si原子数に対するオキシエチレン基数の比=1.2
シロキサン系活性剤3:上記一般式4において、p=13、q=0であり、R 4 が上記一般式5で表される構造(ただし、r=3、s=5、t=0であり、R 5 が-OCH3である)である化合物、SP値7.9(cal/cm31/2、Si原子数に対するオキシエチレン基数の比=0.67
シロキサン系活性剤4:上記一般式4において、p=23、q=0であり、R 4 が上記一般式5で表される構造(ただし、r=3、s=6、t=1であり、R 5 が-OHである)である化合物、SP値8.1(cal/cm31/2、Si原子数に対するオキシエチレン基数の比=0.48
≪ワックス樹脂≫
ハイテックE-6400:東邦化学工業社製酸化ポリオレフィン樹脂微粒子(固形分濃度35質量%)、SP値8.6(cal/cm31/2
≪その他成分≫
BITaq:1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンの1%水溶液

【0192】
<前処理液の製造>
下表5の各列に記載した配合処方になるように、撹拌機を備えた混合容器中に、各原料を投入した。また全ての原料の投入後、室温(25℃)にて、混合物が十分に均一になるまで撹拌を継続した。その後、孔径100μmのナイロンメッシュにて濾過を行うことで、前処理液1~3を製造した。なお、前処理液の製造にあたっては、表5の各列において、上の行に記載されている成分から順番に、混合容器中に投入するようにした。ただし、2種類以上の原料を含む成分に関しては、当該成分内での投入順序は任意とした。また、混合容器内の混合物を撹拌しながら、各原料を投入した。
【0193】
【表5】
【0194】
<印刷物の作製1>
京セラ社製インクジェットヘッドKJ4B-1200(設計解像度1200dpi、ノズル径20μm)を2個、印刷基材の搬送方向に沿って並べて設置したインクジェット吐出装置を準備し、当該搬送方向の上流側から、シアンインキ、マゼンタインキの順番で、水性インクジェットインキのセットを充填した。また、あらかじめA4サイズ(幅21cm×長さ30cm)に切り出し、印刷面にコロナ処理を施したシュリンクフィルムを、コンベヤ上に固定した。その後、コンベヤを50m/分の速度で駆動させ、当該シュリンクフィルムがインクジェットヘッドの設置部の下方を通過する際に、水性インクジェットインキのセットを、それぞれ、ドロップボリューム2pLの条件で吐出し、画像を印刷した。そしてすぐに、55℃に設定した送風定温恒温器内に印刷後のシュリンクフィルムを投入し、2分間乾燥させることで、印刷物を作製した。
【0195】
なお、上記シュリンクフィルムとして、以下の3種類を使用した。
・PET製シュリンクフィルム:三菱ケミカル社製ヒシペット(厚さ40μm)
・PS製シュリンクフィルム:三菱ケミカル社製DXL(厚さ45μm)
・PP製シュリンクフィルム:興人フィルム&ケミカルズ社製コージンポリセットCX(厚さ20μm)
【0196】
また、上記方法によって作成した印刷物は、以下の2種類であった。そして、表4に示した水性インクジェットインキのそれぞれについて、上述した方法により、3種類のシュリンクフィルムのそれぞれに対して、下記2種類の画像を別々に印刷し、印刷物を作製した。
・シアンべた印刷物:水性シアンインキのみを使用して印刷した、印字率100%の印刷物(幅15cm×長さ30cm)
・2色十字印刷物:水性シアンインキを使用し、印刷基材の搬送方向と長辺とが平行になるように印刷した、幅5mm×長さ5cmの長方形、及び、水性マゼンタインキを使用し、印刷基材の搬送方向と長辺とが垂直になるように印刷した、幅5mm×長さ5cmの長方形が、互いに中心で、十字型に交差するように印刷したもの
【0197】
[実施例1~85、比較例1~8]
上記水性インクジェットインキ、及び、当該水性インクジェットインキを用いて作製した上記印刷物を使用し、以下に示す評価を行った。これらの評価の結果は、下表6に示した通りであった。
【0198】
<評価1:変形追随性の評価>
上記方法で製造したベタ印刷物を切り出したのち、インキ層が内側になるように丸め、直径9cm、高さ12cmの円筒状とした。この印刷物を、あらかじめ70℃の恒温槽内で予熱しておいた、直径75mmのガラス瓶(被収縮物)に被せたのち、100℃の恒温槽内に15秒間静置することで、当該印刷物をシュリンクさせた。そして、シュリンク後の印刷物に存在するシワやワレ等の程度を、目視で観察することで、変形追随性の評価を行った。評価基準は下記のとおりとし、2点以上を実使用可能とした。なお、上記3種類のシュリンクフィルムのそれぞれで評価を行った。
5:実施例13におけるシワやワレよりも良好であった
4:実施例13におけるシワやワレと同程度であった
3:実施例19におけるシワやワレよりも良好であったが、実施例13におけるシワやワレよりも不良であった
2:実施例19におけるシワやワレと同程度であった
1:実施例19におけるシワやワレよりも不良であった
【0199】
<評価2:滲みの評価>
印刷基材としてPET製シュリンクフィルムを使用して作製した2色十字印刷物を、ルーペ及び目視で観察し、交差部分の滲みの程度を確認することで、滲みを評価した。評価基準は下記のとおりとし、2点以上を実使用可能とした。
5:実施例13における滲みよりも良好であった
4:実施例13における滲みと同程度であった
3:実施例19における滲みよりも良好であったが、実施例13における滲みよりも不良であった
2:実施例19における滲みと同程度であった
1:実施例19における滲みよりも不良であった
【0200】
<評価3:吐出安定性の評価>
京セラ社製インクジェットヘッド「KJ4B-1200」(設計解像度1200dpi、ノズル径20μm)を搭載したインクジェット吐出装置に、上記で製造した水性シアンインキを、それぞれ充填した。ノズルチェックパターンを印刷し、ノズル抜け(ノズルから水性インクジェットインキが吐出されない現象)がないことを確認した後、25℃環境下で、インクジェット吐出装置を待機させた。そして所定時間が経過した後、再度ノズルチェックパターンを印刷し、ノズル抜け本数を目視でカウントすることで、吐出安定性を評価した。評価基準は下記のとおりとし、2点以上を実使用可能とした。
4:3時間待機させた後に印刷してもノズル抜けが全くなかった
3:2時間待機させた後に印刷してもノズル抜けが全くなかったが、3時間待機させた後に印刷すると、ノズル抜けが1本以上発生した
2:1時間待機させた後に印刷してもノズル抜けが全くなかったが、2時間待機させた後に印刷すると、ノズル抜けが1本以上発生した
1:1時間待機させた後に印刷するとノズル抜けが1本以上発生した
【0201】
【表6】
【0202】
【表6】
【0203】
表4及び表6から明らかなように、本発明の要件を満たす、水性インクジェットインキ1~18、22~25、27~40、42~86、89~92は、種々のシュリンクフィルムに対する変形追随性、滲み、及び、吐出安定性の全ての評価において、実使用可能なレベルを有していることが確認された。
【0204】
それに対して、有機溶剤(A-1)が含まれない水性インクジェットインキ19~20では、PET製シュリンクフィルム及びPS製シュリンクフィルムに対する変形追随性に劣っていた。有機溶剤(A-1)が存在しないために、水性インクジェットインキと、シュリンクフィルムを構成する樹脂とが十分に親和せず、インキ層が当該シュリンクフィルムの変形に追随できなかったものと考えられる。なお、有機溶剤(A-1)の含有量が5質量%未満であった水性インクジェットインキ21においても、同様の傾向が確認された。一方で、有機溶剤(A-1)の含有量が30質量%よりも多い水性インクジェットインキ26では、PP製シュリンクフィルムに対する変形追随性の悪化が確認されたうえ、印刷物においては強い滲みが確認された。水性インクジェットインキの表面張力のバランスが崩れたことで、滲みが悪化したものと考えられる。
【0205】
水性インクジェットインキ41は、界面活性剤(B-1)を含まない系であり、シュリンク基材を構成する樹脂の種類によらず、変形追随性が実使用可能なレベルに至らなかった。また、樹脂及び前記界面活性剤のSP値の加重平均値が9(cal/cm31/2未満であった水性インクジェットインキ87、及び、当該SP値の加重平均値が11.5(cal/cm31/2よりも大きかった水性インクジェットインキ88についても、やはり、一部のシュリンクフィルムにおいて変形追随性の悪化が見られた。
【0206】
以上の結果からも、シュリンクフィルムを構成する印刷基材の種類によらず、変形追随性に優れた印刷物を得るために、本実施形態の水性インクジェットインキの構成が必須不可欠であることが確認できる。
【0207】
なお、水性インクジェットインキ93は、特許文献1に具体的に示されている水系インクの構成(ただし、有機溶剤及び界面活性剤の構成のみ)を再現したものとなっており、評価の結果、シュリンク基材を構成する樹脂の種類によらず、変形追随性が悪化した。上記水性インクジェットインキ41と同様、水性インクジェットインキ93では、界面活性剤(B-1)が含まれておらず、シロキサン系界面活性剤のみが使用されている。そのため、インキ層の厚みの不均一化やシュリンクフィルムに対する親和性の悪化が生じ、変形追随性に悪影響が生じたものと考えられる。
【0208】
[実施例86~136]
また、上記水性インクジェットインキ13、15、42~86、89~92を使用し、上述した方法で作製したシアンべた印刷物を用いて、以下に示す評価4を行った。評価結果は表5に示した通りであった。
【0209】
<評価4:リサイクル性の評価>
印刷基材としてPET製シュリンクフィルムを使用し、上述した方法で作製したシアンべた印刷物について、水性シアンインキが印刷された箇所を4cm×4cm角に切り出した。次いで、2質量%の水酸化ナトリウム水溶液50gに切り出した印刷物を浸し、70℃に加温したのち60分間撹拌した。その後、水酸化ナトリウム水溶液から印刷物を取り出し、水洗及び乾燥した後、シュリンクフィルムからインキ層がどの程度分離したかを目視で確認することで、リサイクル性を評価した。評価基準は下記の通りとし、2点以上を実使用可能とした。
4:シュリンクフィルムからのインキ層の脱離が観察され、当該脱離の程度は、実施例86の場合よりも良好であった
3:シュリンクフィルムからのインキ層の脱離が観察され、当該脱離の程度は、実施例86の場合と同程度であった
2:シュリンクフィルムからのインキ層の脱離が観察されたが、当該脱離の程度は、実施例86の場合よりも不良であった
1:シュリンクフィルムからの、インキ層の脱離は観察されなかった
【0210】
【表7】
【0211】
<印刷物の作製2>
オーエスジーシステムプロダクツ社製ノンワイヤーバーコーター「250-OSP-04」を用い、上述した3種類のシュリンクフィルムのそれぞれに、前処理液1~3のそれぞれを、ウェット膜厚が4μmとなるように塗工した。その後、55℃のエアオーブンに塗工後のシュリンクフィルムを投入し、1分間乾燥させることで、前処理液を付与したシュリンクフィルムを作製した。
そして、印刷基材として、上記前処理液を付与したシュリンクフィルムを使用した以外は、上記「印刷物の作製1」に記載した方法及び条件と同様にして、シアンべた印刷物及び2色十字印刷物を作製した。
【0212】
[実施例137~142]
下表8に示した、前処理液と水性インクジェットインキとを組み合わせて、上述した方法でシアンべた印刷物及び2色十字印刷物を作製した。そして、作製した印刷物を使用して、上述した評価1及び評価2を行った。評価結果は表8に示した通りであった。
【0213】
【表8】
【0214】
表5及び表8から、前処理液であっても、本発明の要件を満たすことで、変形追随性に優れた印刷物が得られることが確認された。また、インキ凝集層を形成することができる前処理液を、水性インクジェットインキと併用したことで、滲みの評価において、◎レベルという特段に優れた結果が得られた。
【要約】
【課題】シュリンクフィルムのシュリンク等の変形に対する追随性が良好であり、かつ、滲みのない印刷物を得ることができ、更には吐出安定性も良好である、水性インクジェットインキを提供する。
【解決手段】有機溶剤と、界面活性剤と、樹脂とを含むシュリンクフィルム用水性インクジェットインキであって、前記有機溶剤が、SP値が11~13.5(cal/cm31/2であり、水酸基を1個以上有する有機溶剤(A-1)を、前記水性インクジェットインキの全量中5~30質量%含み、前記界面活性剤が、アセチレンジオール系界面活性剤、及び、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の界面活性剤(B-1)を含み、前記樹脂及び前記界面活性剤のSP値の加重平均値が9~11.5(cal/cm31/2である、シュリンクフィルム用水性インクジェットインキ。
【選択図】なし