(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】電荷を帯びた粒子に対する除去能に優れた正電荷ろ材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/16 20060101AFI20240610BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240610BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240610BHJP
B01D 71/60 20060101ALI20240610BHJP
B01D 71/82 20060101ALI20240610BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240610BHJP
D06M 10/02 20060101ALI20240610BHJP
D06M 13/325 20060101ALI20240610BHJP
D06M 15/61 20060101ALI20240610BHJP
D06M 13/11 20060101ALI20240610BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
B01D39/16 A
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/60
B01D71/82 510
B01D69/02
D06M10/02 C
D06M13/325
D06M15/61
D06M13/11
D06M15/55
(21)【出願番号】P 2023504862
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(86)【国際出願番号】 KR2021007791
(87)【国際公開番号】W WO2022025434
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】10-2020-0094011
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520080171
【氏名又は名称】東レ尖端素材株式会社
【氏名又は名称原語表記】TORAY ADVANCED MATERIALS KOREA INC.
【住所又は居所原語表記】(Imsu-dong)300,3gongdan 2-ro,Gumi-si,Gyeongsangbuk-do 39389(KR)
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リー デ ウォン
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-197410(JP,A)
【文献】特開2011-131208(JP,A)
【文献】特開昭57-202330(JP,A)
【文献】特開2004-156163(JP,A)
【文献】特開2011-054295(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0079152(KR,A)
【文献】特開昭53-012573(JP,A)
【文献】特表平04-504379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D39/00-39/20
B01D61/00-71/82
C02F1/44
D04H1/00-18/04
D06M10/00-16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面改質された複合不織布を含む多孔性支持体と、前記多孔性支持体の表面及び内部にコーティングされて形成される正電荷コーティング層と、を含み、
前記表面改質された複合不織布は、ポリプロピレン(PP)繊維、ポリエチレン(PE)繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維及びセルロース繊維の中から選ばれる1種以上の繊維を含み、
前記複合不織布は、上下層がスパンボンド(spun bond)不織布、中間層がメルトブロー(melt blown)不織布の層状構造を有する複合不織布であり、
前記正電荷コーティング層は、前記正電荷コーティング層を形成するための正電荷コーティング組成物として、C
2~C
5のアルコール、アセトン及び水(H
2O)の中から選ばれる1種以上の溶媒、多官能性アミン化合物、及び前記多官能性アミン化合物とエポキシ反応を行う
ことができる架橋剤を含
み、
前記正電荷コーティング層の重量が前記多孔性支持体の重量の5%~15%である、正電荷ろ材。
【請求項2】
前記上下層の
スパンボンド不織布の平均繊維径が10μm~30μmであり、前記中間層の平均繊維径が1μm~30μmであり、前記複合不織布の平均繊維径が5μm~25μmであることを特徴とする、請求項
1に記載の正電荷ろ材。
【請求項3】
前記多官能性アミン化合物は、前記正電荷コーティング組成物100重量部に対して1~10重量部の含量で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の正電荷ろ材。
【請求項4】
前記正電荷コーティング組成物は、下記条件式1)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の正電荷ろ材。
1)0.4≦C
amine/C
cl≦6
前記条件式1)において、C
amineは、前記正電荷コーティング組成物に対する前記多官能性アミン化合物の重量基準含量、C
clは、前記架橋剤の重量基準含量をそれぞれ表す。
【請求項5】
前記多官能性アミン化合物は、ジフェニルアミン(Diphenyl amine)、ポリエチレンイミン(Polyethylene imine)、ジエチレントリアミン(Diethylene triamine)、ジメチレンピペラジン(Dimethylene piperazine)及びピペラジン(Piperazine)からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の正電荷ろ材。
【請求項6】
前記多官能性アミン化合物は、第3級アミンが30モル%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の正電荷ろ材。
【請求項7】
前記架橋剤は、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(Polyethylene glycol diglycidyl Ether)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(Sorbitol polyglycidyl ether)、
ジエチレングリコールジグリシジルエーテル(Diethylene glycol diglycidyl Ether)、及びプロピレングリコールジグリシジルエーテル(Propylene glycol diglycidyl Ether)の中から選ばれる1種以上を含む脂肪族エポキシ化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の正電荷ろ材。
【請求項8】
(1)ポリプロピレン(PP)繊維、ポリエチレン(PE)繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維及びセルロース繊維の中から選ばれる1種以上の繊維を含む多孔性支持体を常圧プラズマ処理して表面改質する段階、
(2)前記表面改質された多孔性支持体をC
2~C
5のアルコール、アセトン及び水(H
2O)の中から選ばれる1種以上の溶媒、多官能性アミン化合物及び前記多官能性アミン化合物とエポキシ反応を行う架橋剤を含む正電荷コーティング組成物に接触させて前記正電荷コーティング組成物を前記多孔性支持体にコーティングさせる段階、及び
(3)前記
正電荷コーティング組成物をコーティングした多孔性支持体を熱架橋処理して正電荷性コーティング層を形成する段階を含
み、
表面改質前の前記多孔性支持体は、複合不織布であり、
前記複合不織布は、上下層がスパンボンド(spun bond)不織布、中間層がメルトブロー(melt blown)不織布の層状構造を有する複合不織布である、正電荷ろ材の製造方法。
【請求項9】
前記(3)段階は、下記条件式2)、3)または4)を満たして行われることを特徴とする、請求項
8に記載の正電荷ろ材の製造方法。
2)60℃≦T
r<90℃、250s≦t
r≦600s
3)90℃≦T
r<110℃、100s≦t
r≦300s
4)110℃≦T
r<130℃、60s≦t
r≦150s
前記条件式2)~4)において、T
rは、熱架橋温度(℃)を表し、t
rは、熱架橋時間(sec)を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷を帯びた粒子に対する除去能に優れた正電荷ろ材及びその製造方法に関し、より具体的には、水中で負電荷を帯びた有機/無機粒子、重金属イオン及び病原性微生物に対して選択的な除去能に優れた正電荷ろ材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に水中には天然有機物質(Natural Organic Matter;NOM)をはじめとする数多くのイオン性物質、化学物質が存在し、これらは上水処理過程で除去されず、新たな汚染物質を発生させる原因物質として作用する。
【0003】
また、最近では、塩素消毒によって除去されない病原性微生物に対する存在の有無が議論となっている。一例として、ウイルス(Virus)、クリプトスポリジウム(Crytosphoridium)、ジャイアルディア(Giardia)などに分類される病原性微生物は、人体及び動物の糞便を通じて環境中に排出され、下水だけでなく地表水と地下水にも存在する。このようなウイルスをはじめとする病原性微生物の場合、サイズが非常に小さいため、一般的なろ過によってはほとんど処理されず、塩素に耐性の強い嚢胞(Cyst)を形成することにより、水で数ヶ月以上安定して生きることができる。
【0004】
また、飲料水として飲用可能な水は、アルミニウム、鉄、鉛、水銀などの重金属に対する基準及び規制が環境部から告示されて活用されており、様々な外的環境変化に対応するために継続的な分析管理が進行中である。
【0005】
一方、上述したように水中に残存する微量の汚染物質を除去するため、上水処理過程で高度凝集処理または活性炭吸着、膜ろ過が提示されているが、最近、膜を使用した浄水処理段階に対する国家単位の大規模研究が進行中である。特に、膜ろ過については、最近、多くの研究が行われて高度浄水処理の過程で実用化が打診されているが、依然として経済的な費用と技術的な問題により幅広く利用されていない。
【0006】
例えば、大韓民国特許公開番号10-2004-0088046では、抗ウイルスろ材の製造のためにガラス繊維を基本ろ材とし、ガラス繊維の製造時に正電荷を帯びる無機化合物を添加する方式で製造して正電荷フィルタを製造し、これを用いてウイルスを吸着除去する技術を紹介しているが、ガラス繊維を使用するという点で発がんなどの有害性論議で水処理工程の適合性が懸念されるという問題点と、ガラス繊維を使用して製造時に添加される化合物により製品群において多様化できないという問題点とがあった。
【0007】
そこで負電荷を帯びた微粒子、重金属イオン及び病原性微生物に対する除去能に優れながらも有害性が低く、流量及びろ過圧力も優れた正電荷ろ材に対する開発の必要性が高まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するために案出されたもので、本発明の第1の解決しようとする課題は、水中に含まれる負電荷を帯びた有機/無機粒子、重金属イオン及び病原性微生物に対する除去能に優れながらも有害性が低く、流量及びろ過圧力も優れた正電荷ろ材を提供することである。
【0009】
また、本発明の第2の解決しようとする課題は、上述した選択的除去能に優れた正電荷
ろ材を製造する方法として、生産性が向上した製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明は、ポリプロピレン(PP)繊維、ポリエチレン(PE)繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維及びセルロース繊維の中から選ばれる1種以上の繊維を含み、常圧プラズマ表面処理で表面改質された多孔性支持体、及びC2~C5のアルコール、アセトン及び水(H2O)の中から選ばれる1種以上の溶媒、多官能性アミン化合物及び前記多官能性アミン化合物とエポキシ反応を行う架橋剤を含む正電荷コーティング組成物が前記多孔性支持体の表面及び内部にコーティングされて形成される正電荷コーティング層を含み、前記正電荷コーティング層の重量が前記多孔性支持体重量の5%~15%である正電荷ろ材を提供する。
【0011】
本発明の好ましい一実施例において、前記多孔性支持体は、上下層がスパンボンド(spun bond)不織布、中間層がメルトブロー(melt blown)不織布の層状構造を有する複合不織布であってもよい。
【0012】
本発明の好ましい一実施例において、前記上下層の平均繊維径が10μm~30μmであり、前記中間層の平均繊維径が1μm~30μmであり、前記複合不織布の平均繊維径が5μm~25μmであってもよい。
【0013】
本発明の好ましい一実施例において、前記多官能性アミン化合物は、前記正電荷コーティング組成物100重量部に対して1~10重量部の含量で含まれてもよい。
【0014】
本発明の好ましい一実施例において、前記正電荷コーティング組成物は、下記条件式1)を満たすことができる。
【0015】
1)0.4≦Camine/Ccl≦6
【0016】
前記条件式1)において、Camineは、前記正電荷コーティング組成物に対する前記多官能性アミン化合物の重量基準含量、Cc1は、前記架橋剤の重量基準含量をそれぞれ表す。
【0017】
本発明の好ましい一実施例において、前記多官能性アミン化合物は、ジフェニルアミン(Diphenyl amine)、ポリエチレンイミン(Polyethy1ene imine)、ジエチレントリアミン(Diethy1ene triamine)、ジメチレンピペラジン(Dimethy1ene piperazine)及びピペラジン(Piperazine)からなる群から選ばれる1種以上であってもよい。
【0018】
本発明の好ましい一実施例において、前記多官能性アミン化合物は、第3級アミンのモル分率が30モル%以下であってもよい。
【0019】
本発明の好ましい一実施例において、前記架橋剤は、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(Polyethy1ene glycol diglycidyl Ether)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(Sorbitol polyglycidyl ether)、ジエチレングリコールグリシジルジエーテル(Diethylene glycol diglycidyl Ether)及びプロピレングリコールジグリシジルエーテル(Propylene glycol diglycidyl Ether)の中から選ばれる1種以上を含む脂肪族エポキシ化合物であってもよい。
【0020】
また、上述した課題を解決するため、本発明は、(1)ポリプロピレン(PP)繊維、
ポリエチレン(PE)繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維及びセルロース繊維の中から選ばれる1種以上の繊維を含む多孔性支持体を常圧プラズマ処理して表面改質する段階、(2)前記表面改質された多孔性支持体をC2~C5のアルコール、アセトン及び水(H2O)の中から選ばれる1種以上の溶媒、多官能性アミン化合物及び前記多官能性アミン化合物とエポキシ反応を行う架橋剤を含む正電荷コーティング組成物に接触させて前記正電荷コーティング組成物を前記多孔性支持体にコーティングさせる段階、及び(3)前記電荷コーティング組成物をコーティングした多孔性支持体を熱架橋処理して正電荷コーティング層を形成する段階を含む正電荷ろ材の製造方法を提供する。
【0021】
本発明の好ましい一実施例において、前記(3)段階は、下記条件式2)、3)または4)を満たして行われるものであってもよい。
【0022】
2)60℃≦Tr<90℃、250s≦tr≦600s
【0023】
3)90℃≦Tr<110℃、100s≦tr≦300s
【0024】
4)110℃≦Tr<130℃、60s≦tr≦150s
【0025】
前記条件式2)~4)において、Trは、熱架橋温度(℃)を表し、trは、熱架橋時間(sec)を表す。
【発明の効果】
【0026】
本発明による正電荷ろ材は、負電荷を有する有機/無機粒子、重金属イオン及び病原性微生物に対する選択的除去性能に優れており、人体に有害性が少なく、流量及びろ過圧力も従来のろ材と同等のレベルで具現できる。
【0027】
本発明の製造方法により正電荷ろ材を製造する場合、正電荷コーティング層を均一に形成でき、生産性も向上させることができるという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例による正電荷ろ材の断面を撮影した写真である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例による正電荷ろ材の層状構造を概略的に示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例による正電荷ろ材に含まれる複合不織布に正電荷コーティング組成物をコーティングする前の様子をSEM撮影した写真である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例による正電荷ろ材の様子をSEM撮影した写真である。
【発明を行うための最良の形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例について、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。本発明は、様々な異なる形態で具現されてもよく、ここで説明する実施例に限定されるものではない。
【0030】
一般に水処理用として広く使用されるマイクロファイバフィルタは、ろ過面積が小さく静電気力がないため、ろ過効率が低下するという短所があり、メンブレンフィルタはろ過効率は高いが、圧力損失は大きいという短所がある。
【0031】
また、従来の正電荷ろ材は、人体に有害性があると疑われる物質を使用して安全性において問題があり、病原性微生物に対する選択的除去性能が十分でない、または製造時の生産性が悪いという短所があった。
【0032】
本発明では、このような問題点を解決するため、ポリプロピレン(PP)繊維、ポリエチレン(PE)繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維及びセルロース繊維の中から選ばれる1種以上の繊維を含み、常圧プラズマ表面処理で表面改質された多孔性支持体、及びC2~C5のアルコール、アセトン及び水(H2O)の中から選ばれる1種以上の溶媒、多官能性アミン化合物及び前記多官能性アミン化合物とエポキシ反応を行う架橋剤を含む正電荷コーティング組成物が前記多孔性支持体の表面及び内部にコーティングされて形成され、重量変化率が5%~15%の正電荷コーティング層を含む正電荷ろ材を提供し、このような問題点の解決を模索した。
【0033】
本発明による正電荷ろ材は、多孔性支持体としてガラス繊維の代わりにポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維及びセルロース繊維の中から選ばれる1種以上の繊維を含む支持体を使用することにより、ガラス繊維による人体有害性から安全であり、多様な製品群に適用が可能であるという長所がある。
【0034】
また、前記のような多孔性支持体の表面は、一般的に疎水性を有するので、親水性を有する前記正電荷コーティング組成物が均一にコーティングされにくかったが、本発明はプラズマ表面処理を通じて前記多孔性支持体表面の親水性特性を向上させることにより、このような問題を解決し、前記正電荷コーティング組成物をより均一に形成できるという長所がある。
【0035】
また、本発明による正電荷ろ材に含まれる正電荷コーティング層の重量は、前記多孔性支持体の重量に対して5%~15%の範囲を有する。
【0036】
重量比が5%未満の場合、相対的に少なくコーティングされた部分において使用周期が減少するという問題があり、重量比が15%を超える場合には製造工程において乾燥効率が低下し、効率性及び経済性の側面で不利に作用し得る。
【0037】
以下、各構成ごとに詳細に説明する。まず、本発明による正電荷ろ材について説明する。
【0038】
本発明による正電荷ろ材は、ポリプロピレン(PP)繊維、ポリエチレン(PE)繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維及びセルロース繊維の中から選ばれる1種以上の繊維を含み、常圧プラズマ表面処理で表面改質された多孔性支持体を含む。
【0039】
前記繊維の中で、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維及びナイロン繊維は、表面に親水性基がほとんどなく疎水性を有し、これによって前記親水性を有する正電荷コーティング組成物をコーティングするとき、親水性組成物と疎水性支持体間の化学的な反発により均一なコーティングが困難であった。常圧プラズマ表面処理を行う場合、前記多孔性支持体表面が改質されて親水性が向上し、より均一な正電荷コーティング組成物のコーティングが可能である。
【0040】
前記多孔性支持体は、ろ材、フィルタにおいて骨格を提供して形態を一定に維持できるようにする役割を果たし、表面及び内部に多数の空隙を有し、ここから処理水に含まれる各種の汚染源を除去できる。
【0041】
前記多孔性支持体に含まれる繊維は、好ましくは、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維及びポリエチレン繊維からなる群から選ばれる1種以上を含んでもよい。これらの繊維は紡糸操業性がよく、均一な太さを有するように紡糸が可能であり、孔径のサイズのばらつきを小さくすることができ、したがって、一定レベルのろ
過能力を具現しやすい。
【0042】
上述したように、前記多孔性支持体は、ガラス繊維の代わりにポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維及びセルロース繊維の中から選ばれる1種以上の繊維を含むことにより、ガラス繊維を支持体として使用する場合に比べて人体有害性が著しく減少するという長所があり、繊維の脆性(brittleness)がガラス繊維に比べて少ないため、ろ材の耐久性も実質的に向上するという効果がある。
【0043】
また、前記多孔性支持体は、好ましくは、上述した繊維を用いて製造した不織布であってもよい。不織布の種類は、通常、使用する不織布の中から選ばれてもよく、例えば、サーマルボンディング(Thermal Bonding)不織布、エアレイ(Air Ray)不織布、ウェットレイ(Wet Ray)不織布、ニードルパンチング(Niddle Punching)不織布、スパンレス(水流結合法-Water Zet)不織布、スパンボンド(Spun Bond)不織布、メルトブロー(Melt Blown)不織布、ステッチボンド(Stitch Bond)不織布及びエレクトロスピニング(Electro Spinning)不織布の中から選ばれるいずれかの不織布またはこれらの構造を2つ以上含む複合不織布であってもよい。
【0044】
より好ましくは、前記不織布は、上層と下層とがスパンボンド不織布、中間層がメルトブロー不織布である層状構造の複合不織布であってもよい。上下層がスパンボンド不織布、中間層がメルトブロー不織布である3層構造の不織布は、従来の単層構造不織布に比べて機械方向(machine direction、MD)、及び機械横方向(cross direction、CD)のどちらも引張強度が著しく向上し、同等レベルの物性を有する不織布の製造時の生産速度とコーティング時のコーティング速度とが向上するという長所がある。
【0045】
図2は、本発明の好ましい一実施例による正電荷ろ材の層状構造、特にその中でも多孔性支持体層の層状構造を示す図である。
図2を参照すると、本発明による正電荷ろ材の多孔性支持体層100は、スパンボンド不織布10、メルトブロー不織布20、スパンボンド不織布10の3層構造からなることが分かる。
【0046】
ここで、前記上下層のスパンボンド不織布は、メルトブロー不織布の中間層の上下面に付着して前記メルトブロー不織布の引張強度を強化する役割を果たす。
【0047】
前記3層構造の複合不織布は、より好ましくは、前記上下層のスパンボンド不織布が10μm~30μmの平均繊維径を有するものであってもよい。より好ましくは、15μm~20μmの平均繊度を有するものであってもよい。もし、前記上下層のスパンボンド不織布の平均繊維径が15μm未満の場合には、スパンボンド不織布の引張及び引裂強度が低下し、全体の複合不織布の強度が低下し、製造工程の生産性も低下するおそれがあり、逆に、前記スパンボンド層の平均繊維径が30μmを超える場合には、ろ材の透過圧力が低くなるという問題が発生することがある。
【0048】
前記中間層のメルトブロー不織布は、1μm~30μmの平均繊維径を有してもよい。より好ましくは、1μm~7μmの平均繊維径を有してもよい。もし、前記メルトブロー不織布の平均繊維径が1μmより低い場合、多孔性支持体層の引張及び引裂強度が減少して製造過程で生産性が低下し、正電荷ろ材の耐久性及び使用周期が減少するなどの問題があり、逆に平均繊度が30μmより大きい場合には、相対的に繊維径が小さい場合に比べて内部孔径も大きくなるため、除去能が低下するという短所を持つ。
【0049】
前記複合不織布は、全体として平均繊維径が5μm~25μmであってもよい。もし、
全体の平均繊維径が5μm未満の場合、多孔性支持体層の引張及び引裂強度が減少し、製造過程で生産性が低下し、正電荷ろ材の耐久性及び使用周期が減少するなどの問題があり、逆に全体の平均繊維径が25μmを超える場合には、不織布の加工性が低下し、差圧発生により正電荷ろ材の使用寿命が減少するなど耐久性及び安全性の側面で問題が発生することがある。
【0050】
本発明による正電荷ろ材において、前記多孔性支持体は、0.5μm~300μmの平均孔径のサイズを有するものであってもよい。より好ましくは、10μm~150μmの平均孔径のサイズを有するものであってもよい。もし、前記複合不織布の平均孔径のサイズが0.5μm未満の場合、瞬間流量及び使用周期の側面で低下するという問題が発生することがある。また、前記複合不織布の平均孔径のサイズが300μmを超える場合、正電荷コーティングを行っても処理水内に存在する微生物除去性能の均一性及び安定性において問題が発生することがある。
【0051】
本発明による多孔性支持体は、好ましくは、0.2mm~2mmの平均厚さを有してもよく、より好ましくは、0.3mm~1mmの平均厚さを有してもよい。平均厚さは、好ましくは、互いに異なる10個の地点に対して厚さを測定した値を算術平均(arithmetic mean)した値であってもよい。もし、多孔性支持体の平均厚さが0.2mm未満の場合、深さろ過のための十分な厚さが形成されず、処理水の速い流速による吸着性能の減少という問題が発生することがあり、もし、前記多孔性支持体の平均厚さが2mmを超える場合、前記多孔性支持体の加工性が低下し、差圧発生により正電荷ろ材の使用寿命が減少するなどの耐久性及び安定性の側面で問題が発生することがある。
【0052】
前記多孔性支持体が、上述したように、上下層のスパンボンド不織布と中間層のメルトブロー不織布とを含む複合不織布の場合、前記メルトブロー不織布の中間層の平均厚さは、好ましくは、0.15mm~1.5mmであってもよい。より好ましくは、0.25mm~0.7mmの平均厚さを有してもよい。もし、前記メルトブロー不織布の中間層の平均厚さが0.15mm未満の場合、深さろ過のための十分な厚さが形成されず、処理水の速い流速による吸着性能の減少という問題が発生することがある。また、前記メルトブロー不織布の中間層の平均厚さが1.5mmを超える場合、全体の多孔性支持体の厚さが厚くなり、多孔性支持体の加工性が低下し、差圧発生により使用寿命が減少するなど耐久性及び安定性の側面で問題が発生することがある。
【0053】
前記多孔性支持体は、好ましくは、30g/m2~150g/m2の平均重量(坪量)を有してもよく、好ましくは、50g/m2~100g/m2の坪量を有してもよい。もし、前記多孔性支持体の坪量が30g/m2未満の場合、不織布の破断強度が低下してコーティング及び加工中に破断するという問題が生じ、工程上の難点があり、多孔性支持体の坪量が150g/m2を超える場合、支持体の体積中の繊維密度が増加し、稠密な構造による差圧発生など使用寿命が急激に減少するなどの問題が発生することがある。
【0054】
前記多孔性支持体が上述した層状の複合不織布の場合、前記上下層のスパンボンド不織布は、好ましくは、坪量が30g/m2~300g/m2であってもよい。もし、前記スパンボンド不織布の坪量が30g/m2未満の場合、引張強度が低くなるという問題が発生することがある。
【0055】
また、前記メルトブロー不織布は、1g/m2~10g/m2の坪量を有してもよい。もし、前記メルトブロー不織布の坪量が1g/m2未満の場合、除去率が低くなるという問題があり、逆に坪量が10g/m2を超える場合、引張強度が低くなるという問題が発生することがある。
【0056】
以下、前記多孔性支持体の表面及び内部にコーティングされて形成される正電荷コーティング層について説明する。
【0057】
正電荷コーティング層は、前記多孔性支持体の表面及び内部に正電荷コーティング組成物をコーティングし、これを熱架橋して形成される層であり、好ましくは、前記多孔性支持体の表面及び内部に含まれる繊維の表面及び鎖にコーティングされているものであってもよい。
【0058】
正電荷性コーティング層により上述した疎水性を有する多孔性支持体層に電荷を付与して処理水内に含まれた負電荷を帯びた有機/無機粒子、重金属イオン及び病原性微生物に対して選択的な除去性能を発揮しうる。
【0059】
前記正電荷性コーティング層は、好ましくは、0.01μm~3μmの平均厚さを有してもよい。好ましくは、0.05μm~1μmの平均厚さを有してもよい。もし、前記正電荷性コーティング層の平均厚さが0.01μmの場合、正電荷コーティング層の均一度の減少による物性偏差の問題が発生することがあり、もし、前記正電荷コーティング層の平均厚さが3μmを超える場合、後述する正電荷コーティング組成物が十分にコーティングされず溶出するという問題が発生し、耐久性及び安定性の側面で問題が発生することがある。
【0060】
以下、前記正電荷コーティング層を形成するための正電荷コーティング組成物について詳細に説明する。
【0061】
前記正電荷コーティング組成物は、C2~C5のアルコール、アセトン及び水のうち1つ以上を含む溶媒、多官能性アミン化合物、前記多官能性アミン化合物とエポキシ反応を行うことができる架橋剤を含む。前記正電荷コーティング組成物は、好ましくは、浸透剤をさらに含んでもよい。
【0062】
以下、各成分ごとに詳細に説明する。
【0063】
溶媒は、C2~C5のアルコール、アセトン及び水の中から選ばれる一つ以上の溶媒を使用し、従来の正電荷ろ材において、ポリプロピレン繊維など疎水性成分の多孔性支持体を有するろ材の場合、支持体の濡れ性を向上させるために界面活性剤及び有機溶媒を使用してコーティングの効率性を向上させたが、これは完成した正電荷ろ材内に界面活性剤または有機溶媒などを残留させて正電荷ろ材の初期の溶出性が不安になり、追加洗浄を必要とするなど生産性が低下するという問題があり、不織布の引張強度も低いという問題があった。本発明では、上述した親水性の溶媒を使用することにより、界面活性剤の使用が不要となり、残留溶媒も最小化できるようになって生産性を著しく向上させ、不織布の引張強度が低下するという問題も解決されてろ材の耐久性及び使用周期を延ばすことができるという効果がある。前記溶媒は、好ましくは、水を使用してもよく、組成物100重量部に対して溶媒の含量が85重量部~98.85重量部であってもよく、より好ましくは、94重量部~98.7重量部であってもよい。
【0064】
多官能性アミン化合物は、正電荷コーティング組成物及び前記組成物がコーティングされた正電荷ろ材に正電荷を付与する役割を果たし、前記多孔性支持体の物性に影響を及ぼさないものを使用しなければならない。好ましくは、前記多官能性アミン化合物は、ジフェニルアミン(Diphenyl amine)、ポリエチレンイミン(Polyethylene imine)、ジエチレントリアミン(Diethylene triamine)、ジメチレンピペラジン(Dimethylene piperazine)及びピペラジン(Piperazine)からなる群から選ばれる1種以上であってもよく
、好ましくは、高い正電荷密度を有し、架橋剤と反応して正電荷を付与しやすいポリエチレンイミンが使用されてもよい。
【0065】
このとき、前記多官能性アミン化合物は、重量平均分子量が1,000g/mol~1,000,000g/molのものを使用してもよく、好ましくは、2,000g/mol~700,000g/molのものを使用してもよい。もし、前記多官能性アミン化合物の重量平均分子量が1,000g/mol未満の場合、耐久性の問題のために水圧による溶出問題が発生することがあり、前記多官能性アミン化合物の重量平均分子量が1,000,000g/molを超える場合、粘度上昇によるコーティングの均一性の低下及び耐久性の低下による性能のばらつきが発生し、製品の信頼性が低下するという問題が発生することがある。
【0066】
また、前記多官能性アミン化合物は、前記正電荷コーティング組成物100重量部に対して1~10重量部で含まれてもよく、好ましくは、1~4重量部で含まれてもよい。もし、前記多官能性アミン化合物が正電荷コーティング組成物100重量部に対して1重量部未満で含まれる場合、正電荷コーティング組成物の量的不足によるコーティング性の低下及びコーティング均一性低下のおそれがあり、また、もし、前記多官能性アミン化合物が正電荷コーティング組成物100重量部に対して10重量部を超えて含まれる場合、正電荷コーティング組成物の粘度が過度に高くなり、多孔性支持体の内部までコーティングされないことがあり、さらに不織布の平均孔径のサイズの低下による流量及び使用寿命の低下の問題が発生することがある。
【0067】
本発明の好ましい一実施例において、前記多官能性アミン化合物は、第1級アミン及び第2級アミンを含んでもよく、第3級アミンも含んでもよいが、第3級アミンのモル分率が30モル%以下であってもよい。第1級アミン及び第2級アミンは、第3級アミン化合物に対して立体障害が少なくエポキシ反応を行いやすく、未反応残留アミン化合物を最小化することができ、均一な正電荷コーティング層の形成が容易になるという長所がある。前記第1級アミン、第2級アミンまたは第3級アミンは、一分子内にすべて含まれていてもよい。この場合、各アミン官能基の数を比較して、第3級窒素のモル分率が50モル%以上であることを意味する。
【0068】
架橋剤は、多官能性アミン化合物間の架橋剤の役割、バインダーの役割だけでなく、本発明の好ましい一実施例において、前記架橋剤は、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(Polyethylene glycol diglycidyl Ether)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(Sorbitol polyglycidy1 ether)、ジエチレングリコールグリシジルエーテル(Diethylene
glycol diglycidyl Ether)及びプロピレングリコールジグリシジルエーテル(Propylene glycol diglycidyl Ether)の中から選ばれる1種以上を含む脂肪族エポキシ化合物であってもよい。
【0069】
前記架橋剤は、前記正電荷コーティング組成物100重量部に対して0.1~2重量部で含まれてもよく、好ましくは、0.2~1重量部で含まれてもよい。もし、正電荷コーティング組成物100重量部に対して前記架橋剤が0.1重量部未満で含まれる場合、多官能性アミン化合物との架橋反応のための含量が不足して未反応の多官能性アミン化合物に対する残留物が発生し得るという問題が発生することがあり、また、もし、正電荷コーティング組成物100重量部に対して前記架橋剤が2重量部を超えて含まれる場合、表面エネルギーが低下してウイルス及びアニオン性粒子または微生物に対する吸着能が低下するという問題が発生することがある。
【0070】
また、前記多官能性アミン化合物と架橋剤化合物の含量は、下記条件式1)を満たすこ
とができる。
【0071】
1)0.4≦Camine/Ccl≦6
【0072】
前記条件式1)において、Camineは、前記正電荷コーティング組成物に対する前記多官能性アミン化合物の重量基準含量、Cclは、前記架橋剤の重量基準含量をそれぞれ表す。
【0073】
もし、Camine/Cclが0.4より小さいか6より大きい場合、それぞれ未反応の残留多官能性アミン化合物または架橋剤の量が過多になり、これを洗浄するための工程がさらに必要となり、これは生産性の減少につながる。
【0074】
一方、一般的に前記多官能性アミン化合物及び架橋剤は、親水特性を有する物質であるため、ポリエチレン繊維など疎水性を有する繊維を含む多孔性支持体の表面及び内部にコーティング層を形成しにくい問題があり、これによって本発明では、前記多孔性支持体の表面を常圧プラズマ処理して表面を親水性改質するほか、親水性官能基及び疎水性官能基の両方を含むことにより、親水及び疎水特性を同時に発現できる浸透剤を使用してもよい。
【0075】
前記浸透剤は、前記正電荷コーティング組成物内に含まれてもよく、前記浸透剤が多官能性アミン化合物及び架橋剤とともに前記溶媒に溶解して多孔性支持体にコーティング層の形成時、多孔性支持体との化学的物性差を低減することにより、より均一なコーティング層の形成を誘導しうる。
【0076】
前記浸透剤は、本発明に正電荷コーティング層及び多孔性支持体の物性に影響を及ぼさない公知のアニオン性、カチオン性またはノニオン性浸透剤であってよく、例えば、ソジウムジオクチルスルホサクシネート(Sodium dioctyl sulfosuccinate)、ポタシウムココイルグリシネート(Potassium cocoyl
glycinate)、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(2-ethyl-1,3-hexanediol)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール(2,2,4-trimethyl-1,3-pentanediol)、アルキルポリグリコシド(alkyl polyglucoside)及びアルキルグルカミド(alkyl glucamide)の中から選ばれる1種以上を含んでもよい。ただし、添加される量に対して多孔性支持体の濡れ(wetting)特性を最大化することができ、洗浄工程が必要な場合、前記洗浄段階の効率を向上させることができるように、好ましくは、ソジウムジオクチルスルホサクシネートを使用してもよい。
【0077】
このとき、前記浸透剤は、正電荷コーティング組成物100重量部に対して0.05~1重量部の含量で含まれてもよく、好ましくは、0.07~1重量部の含量で含まれてもよい。もし、正電荷コーティング組成物100重量部に対して前記浸透剤が0.05重量部未満で含まれる場合、正電荷コーティング組成物と多孔性支持体の表面エネルギーの差によって均一に塗布する作業が難しくなり、これによりコーティング組成物が多孔性支持体上で凝集するという問題が発生することがある。また、もし、前記正電荷コーティング組成物100重量部に対して前記浸透剤が1重量部を超えて含まれる場合、コーティング後の多孔性支持体の表面エネルギー性能は、一定レベルを維持することが可能であるが、除去されなければならない浸透剤の量が増加して不純物などの問題が発生することがあり、工程の効率が減少して生産性が低下するという問題が発生することがある。
【0078】
また、上述した正電荷コーティング組成物を通じて形成された正電荷コーティング層に
より本発明による正電荷ろ材は、pH7の条件で15mV~40mVの表面電荷を有してもよく、好ましくは、15mV~30mVの表面電荷を有してもよい。
【0079】
このように前記多孔性支持体の表面電荷が正電荷を示すことにより負電荷を有する有機物または粒子を吸着及び捕集できる能力があるが、もし、前記多孔性支持体の表面電荷が15mV未満の場合、ウイルスなどその他の有機物に対する吸着能が低下するという問題が発生することがあり、また、もし、前記多孔性支持体の表面電荷が40mVを超える場合、ウイルス吸着能は、一定レベル以上に保つことができるが、製造工程時に高い表面電荷を示すための反応時間及び濃度増加による生産コストが増加し、経済性の側面で好ましくない。
【0080】
次に、本発明による正電荷ろ材の製造方法について説明する。
【0081】
本発明による正電荷ろ材は、(1)ポリプロピルペン(PP)繊維、ポリエチレン(PE)繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維及びセルロース繊維の中から選ばれる1種以上の繊維を含む多孔性支持体を常圧プラズマ処理して表面改質する段階、(2)前記表面改質された多孔性支持体をC2~C5のアルコール、アセトン及び水(H2O)の中から選ばれる1種以上の溶媒、多官能性アミン化合物及び前記多官能性アミン化合物とエポキシ反応を行う架橋剤を含む正電荷コーティング組成物に接触させて前記正電荷コーティング組成物を前記多孔性支持体にコーティングさせる段階、及び(3)前記電荷コーティング組成物をコーティングした多孔性支持体を熱架橋処理して正電荷コーティング層を形成する段階を含んで行われる。
【0082】
好ましくは、前記(4)段階以降には洗浄及び乾燥段階をさらに含んでもよい。
【0083】
まず、(1)多孔性支持体の表面を常圧プラズマ処理して表面を改質する段階を行う。多孔性支持体の成分及び種類、厚みに関する内容は、上述した正電荷ろ材の内容と同一なので、説明を省略する。
【0084】
常圧プラズマ処理を通じて多孔性支持体の表面親水性と接着力とを向上させることができる。具体的に、常圧プラズマ処理は、前記多孔性支持体が大気圧のプラズマからなり、プラズマは、好ましくは、空気から形成されたプラズマであり、組成は、窒素70~85体積%、酸素15~25体積%の組成を有する。
【0085】
プラズマ処理は、好ましくは、繰り返し2回行われ、各処理時に1回当たり10秒ずつ前記多孔性支持体をプラズマに露出させることができる。
【0086】
常圧プラズマ表面処理は、150W~200Wの出力でプラズマを照射して行うものであってもよい。もし、プラズマ出力が150W未満の場合、前記多孔性支持体の表面改質が十分に行われず、正電荷コーティング層が均一に形成されにくいという問題点があり、200Wを超える場合、エネルギー過多により多孔性支持体の変形が起こり、空隙のサイズが小さくなり、透過圧力が低下するなどの問題点が発生することがある。
【0087】
(2)次に、プラズマ処理によって表面が改質された多孔性支持体を上述した正電荷コーティング組成物に接触させ、前記正電荷コーティング組成物を前記多孔性支持体にコーティングさせる。このとき、正電荷コーティング組成物の詳細な内容は、上述した通りである。
【0088】
前記(2)段階で正電荷コーティング組成物を多孔性支持体に接触させる方法としては、前記正電荷コーティング組成物を含む溶液に前記多孔性支持体を浸漬させるか、または
スプレー噴射方式を用いることができる。浸漬方式を用いる場合、前記正電荷コーティング組成物を含む溶液に常温で1秒~120秒間浸漬させることができ、好ましくは、5秒~30秒間浸漬させることができる。浸漬時間が1秒未満の場合、正電荷コーティング組成物を含む溶液が多孔性支持体の内部までに浸透する時間が不足してコーティングが均一に行われず、正電荷ろ材の物性が低下するという問題点が発生することがある。また、120秒を超える場合、コーティング時間の増加による物性の差は明確ではないので、工程効率性のために好ましくない。
【0089】
(3)次に、正電荷コーティング組成物がコーティングされた前記多孔性支持体を熱架橋処理して正電荷コーティング層を形成させる段階を行う。
【0090】
前記(3)段階は、多孔性支持体に処理された正電荷コーティング組成物の熱架橋反応を誘導するため、熱風乾燥機で60℃~130℃の温度で60秒~600秒間熱処理することができ、好ましくは、80℃~130℃の温度で60秒~300秒間熱処理することができる。このとき、前記熱処理温度と時間との関係で、低い温度では相対的に長い時間を露出させ、高い温度ではより短い時間を露出させることが好ましい。熱処理温度と時間が60℃未満または60秒未満であると、溶媒乾燥後に熱架橋反応が行われる時間が不足して未反応物が発生するという問題があり、130℃超過または600秒超過の場合、高い温度及び長時間にわたって多孔性支持体が溶融または延伸して構造的変形を引き起こし、不均一な物性を引き起こすという問題が発生することがある。
【0091】
前記(3)段階は、好ましくは、下記条件式2)、3)または4)を満たして行われるものであってもよい。
【0092】
2)60℃≦Tr<90℃、250s≦tr≦600s
3)90℃≦Tr<110℃、100s≦tr≦300s
4)110℃<Tr<130℃、60s≦tr≦150s
【0093】
前記条件式2)~4)において、Trは熱架橋温度(℃)を表し、trは熱架橋時間(
sec)を表す。すなわち、低い温度では熱架橋時間を長く、高い温度では熱架橋時間を短くすることが好ましく、前記各条件においてtrがそれぞれの範囲の下限より小さい場
合、熱架橋反応が行われる時間が不足し、未反応物が発生するという問題が発生することがあり、trがそれぞれの範囲上限より大きい場合、多孔性支持体が溶融または延伸して構造的変形を引き起こし、不均一な物性を引き起こすという問題が発生することがある。
【0094】
(4)次に、正電荷コーティング層が形成された多孔性支持体を洗浄及び乾燥する段階をさらに行ってもよい。(4)段階は、正電荷コーティング層が形成された多孔性支持体を洗浄する段階と乾燥する段階を含んでもよい。
【0095】
前記洗浄段階は、多孔性支持体の内部及び外部に含まれる未反応の固形物または浸透剤を除去する段階であり、好ましくは、25℃~60℃の温度で水または0.1重量%~10重量%のC2~C5の線状または分岐状アルコール水溶液、好ましくは、イソプロピルアルコール水溶液に1分~20分間浸漬させて洗浄することができ、好ましくは、25℃~45℃の温度で0.1重量%~10重量%のイソプロピルアルコール水溶液に2~15分間浸漬させて洗浄してもよい。このとき、もし、25℃未満の低い温度で洗浄段階を行う場合、物質交換が発生せず洗浄効果が減少するという問題が予想され、60℃を超える温度では、コーティング不織布が実際に使用される最大温度を超えて耐久性において問題が発生するおそれがある。また、もし、浸漬時間が1分未満の場合、十分な浸漬時間が提供されず、目的とする洗浄効果が得られることが困難な問題があり、20分を超える場合、時間に対して洗浄効果が十分に得られず、経済的な面で不利になりうる。このとき、工
程の洗浄効率を向上させるために空気を用いた曝気洗浄をさらに行ってもよい。
【0096】
次の乾燥段階は、60℃~130℃の温度で60秒~600秒間乾燥させることができ、好ましくは、80℃~110℃の温度で2分間~5分間乾燥させることができる。もし、乾燥温度が60℃未満であるか、または乾燥時間が60秒未満の場合、十分な乾燥が行われず、乾燥温度が130℃を超えるか、乾燥時間が600秒を超える場合、不織布が溶融または延伸して構造的変形を引き起こし、不均一な物性を引き起こすという問題が発生することがある。
【0097】
以下、本発明を下記実施例を通じてより詳細に説明する。
【0098】
下記実施例は、本発明を例示するために提示されたものであり、本発明の権利範囲が下記実施例によって限定されるものではない。
【発明の実施のための形態】
【0099】
<製造例>
【0100】
製造例1
溶媒として蒸留水96.4重量部、浸透剤としてジオクチルスルホサクシネート0.1重量部、多官能性アミン化合物として重量平均分子量70,000g/molの線状ポリエチレンイミン(化合物A)3重量部及び架橋剤としてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEG DE)0.5重量部を混合して正電荷コーティング組成物溶液を製造した。
【0101】
平均繊維径が2μmのポリプロピレン繊維を溶融紡糸して平均厚さ0.05mm及び坪量7g/m2のポリプロピレンメルトブロー不織布を製造した。また、平均繊度が17μmのポリプロピレン繊維を溶融紡糸して前記メルトブロー不織布の上下層に平均厚さ0.3mm及び坪量31g/m2のポリプロピレンスパンボンド不織布が積層されたポリプロピレン複合不織布を作製した。前記ポリプロピレン複合不織布は、全体の平均厚さ及び坪量がそれぞれ0.35mm及び38g/m2であった。
【0102】
前記ポリプロピレン複合不織布をMyPL Auto-200装備で180W条件で常圧プラズマ表面処理して表面を改質した。
【0103】
前記表面改質されたポリプロピレン複合不織布を前記正電荷コーティング組成物溶液に25℃で5秒間浸漬した後、これを取り出して熱風乾燥機を使用して125℃で2分間熱架橋及び乾燥を行って正電荷コーティング層を形成した。
【0104】
その後、前記正電荷コーティング層が形成された複合不織布を30℃の温度で1重量%のイソプロピルアルコール水溶液に5分間浸漬して洗浄し、90℃の温度で3分間乾燥して正電荷ろ材を製造した。
【0105】
製造例2~9
製造例1と同様に行うが、下記表1-1及び表1-2に示すように、多孔性支持体及び正電荷コーティング組成物の組成などの変数を異にして正電荷ろ材を製造した。
【0106】
製造例10
製造例1と同様に行うが、前記熱架橋段階で熱架橋時間を3分に延ばした点を異にして正電荷ろ材を製造した。異なる内容は、下記表1-1及び表1-2に示した。
【0107】
製造例11
製造例1と同様に行うが、前記熱架橋段階で熱架橋温度を70℃に変えた点を異にして正電荷ろ材を製造した。異なる内容は、下記表1-1及び表1-2に示した。
【0108】
製造例13
製造例1と同様に行うが、多孔性支持体を前記3層構造の複合不織布ではない平均厚さ0.35mm及び坪量40g/m2のポリプロピレンメルトブロー不織布を使用した点を異にして正電荷ろ材を製造した。
【0109】
比較製造例1
製造例1と同様に行うが、前記正電荷コーティング組成物に架橋剤を添加しない点を異にして正電荷ろ材を製造した。
【0110】
比較製造例2
製造例1と同様に行うが、前記ポリプロピレン複合不織布に常圧プラズマ表面処理を行わずに正電荷コーティング組成物をコーティングした点を異にして正電荷ろ材を製造した。
【0111】
比較製造例3
製造例1と同様に行うが、前記ポリプロピレン複合不織布に正電荷コーティング組成物をコーティングしない点を異にして正電荷ろ材を製造した。
【0112】
<実験例1>
1)SEM撮影
図3は、製造例1による複合不織布をSEM(Maker:SeC、Model:SNE-3000M)撮影したイメージであり、
図4は、製造例1による正電荷ろ材をSEM撮影したイメージである。
【0113】
2)接触角の評価
前記製造例1~12及び比較製造例1~3で製造された正電荷ろ材の接触角を評価するために測定装備(Maker:KSV、Model:CAM100)を用いて測定し、これを下記表1-1及び表1-2に示した。
【0114】
3)表面電荷の評価
前記製造例1~12及び比較製造例1~3で製造された正電荷ろ材を表面流れ電位差測定装備(Maker:Anton、Model:SurPass)を用いて表面電荷を測定し、これを下記表1-1及び表1-2に示した。
【0115】
4)重量増減の評価
前記製造例1~12及び比較製造例1~3で製造された正電荷ろ材の重量増減を評価するため、電子天秤(Maker:OHAUS、Model:PAG4102)を用いて、未コーティング正電荷ろ材に対してコーティング後の正電荷ろ材の重量を比較して重量増加分を測定し、これを下記表1-1及び表1-2に示した。
【0116】
5)引張強度の評価
前記製造例1~12及び比較製造例1~3で製造された正電荷ろ材の引張強度をKS K 0520(グラブ法)により測定し、結果を下記表1-1及び表1-2に示した。
【0117】
【0118】
【0119】
前記表1-1及び表1-2を参照すると、正電荷コーティング組成物に架橋剤を含まない比較製造例1の正電荷ろ材は、正電荷コーティング層が製造例1に比べて著しく少なく形成され、重量増加率が5%未満で低いことが分かり、それによって表面電荷も低い値を持つことが分かる。
【0120】
比較製造例2による正電荷ろ材は、複合不織布にプラズマ表面処理を行わないため、表面の親水性が十分でなく、それによって正電荷コーティング層がよく形成されず、重量増加率及び表面電荷も低かった。
【0121】
比較製造例3は、正電荷コーティング層を全く形成しなかった結果、水滴の濡れ角が非常に大きく、表面電荷が非常に少ないことが分かる。
【0122】
比較製造例4及び5は、過度に多くの多官能性アミン化合物を投入することにより、正
電荷コーティング層が過度に形成されたものと考えられる。したがって、重量増加率が高すぎることが分かった。これらはろ材内の平均孔径のサイズが過度に減少し、透過圧力及び使用サイクルが減少するものと予想される。
【0123】
製造例2及び3は、多官能性アミン化合物と架橋剤間の比率が過度に差が出る組成物を使用して製造した正電荷ろ材である。
【0124】
製造例4は、第3級アミンのモル分率が30モル%以上の(分岐率が80%以上のポリエチレンイミンであるため)多官能性アミン化合物を使用したもので、コーティングが製造例1により十分に行われず、重量増加率が低く、接触角も大きいことが分かる。
【0125】
製造例5は、多官能性アミン化合物の含量が低すぎるので、接触角が大きく、表面電荷と重量増加率が低いことが分かる。
【0126】
製造例6は、浸透剤を含まない正電荷コーティング組成物を使用したもので、本発明の多孔性支持体は常圧プラズマにより表面改質を行った結果、浸透剤がなくても製造例1とほぼ類似した物性を有する正電荷ろ材が得られた。製造例7は、架橋剤の含量が0.05重量部で非常に低い正電荷コーティング組成物を使用し、架橋剤の含量が低すぎて多孔性支持体と反応しない未反応の多官能性アミン化合物が発生し、正電荷ろ材の重量増加率と表面電荷とが低いことが確認できた。
【0127】
製造例8は、架橋剤の含量が3重量部で多すぎるもので、表面電荷が約9mVで非常に低かった。
【0128】
製造例9は、スパンボンド不織布なしにポリプロピレンメルトブロー不織布を単独で多孔性支持体として使用して正電荷ろ材を製造したもので、引張強度が製造例1に比べて著しく低いことが分かった。
【0129】
製造例10及び製造例11は、熱架橋過程での温度と架橋時間とを互いに異ならせたもので、製造例10は、架橋反応による正電荷性コーティング層の形成が十分に行われていないことが分かった。製造例11は、現段階では、製造例1と大きな物性差を示さなかった。
【0130】
<実施例>
実施例1
前記製造例1で製造された正電荷フィルタを含むフィルタカートリッジを製造するため、14mmの外径を持つポリプロピレン材質のコアに3.5mの長さだけ不織布をローリング(rolling)して挿入し、47mmの外径及び116mmの長さになるように切断した後、上/下エンドキャッピング(end capping)を行った。このように製造されたカートリッジをハウジングに挿入し、流入部と透過部とが区別されるようにフィルタカートリッジを製造した。
【0131】
比較例1~3
正電荷ろ材を下記表2のように変更したことを除いては、前記実施例1と同様に行ってフィルタカートリッジを製造した。
【0132】
【0133】
<実験例2>
飲用水の水質工程試験基準の環境部の告示第2013-136号に基づき、韓国環境水道研究院に依頼し、分析した結果を下記表3に示した。
【0134】
【0135】
前記表3を参照すると、正電荷コーティング層が十分に形成されていない比較例1~3による正電荷ろ材は、実施例1による正電荷ろ材に比べて病原性生物に対する除去能が非常に良くないことが分かる。比較例4及び5は、過度に正電荷コーティング層が形成されて除去能は十分であったが、支持体の平均孔径のサイズが小さすぎて透過圧力が低くなるという問題点があった。