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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】電極、電池、及び電池パック
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20240610BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240610BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240610BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240610BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/36 B
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/62 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023518517
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2021031554
(87)【国際公開番号】W WO2023026482
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 夏希
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 卓哉
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/031677(WO,A1)
【文献】特開2013-65468(JP,A)
【文献】特開2009-295307(JP,A)
【文献】特開2018-137107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む活物質粒子と、導電剤と、結着剤とを含んだ合材粒子を含む活物質含有層を具備し、
前記活物質粒子の破壊強度Bに対する前記合材粒子の破壊強度Aの強度比A/Bが0.01以上0.1以下の範囲内にあり、前記活物質含有層の密度が3.2g/cm以上3.8g/cm以下の範囲内にある、電極。
【請求項2】
前記合材粒子の前記破壊強度Aは2MPa以上10MPa以下の範囲内にあり、前記活物質粒子の前記破壊強度Bは30MPa以上300MPa以下の範囲内にある、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記活物質粒子の平均粒子径は2μm以上6μm以下の範囲内にある、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記活物質含有層の粒度分布における小粒子径側からの累積頻度が10%となる粒子径D10に対する小粒子径側からの累積頻度が90%となる粒子径D90の比D90/D10が4以下である、請求項1から3の何れか1項に記載の電極。
【請求項5】
前記リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、一般式LiaNi1-x-y-zCoxMnyz2で表され、0.9<a≦1.25、0<x<1、0<y<1、0<z<0.2、及びx+y+z<1であり、MはNi、Co、Mn以外の1以上の金属元素を含む、請求項1から4の何れか1項に記載の電極。
【請求項6】
前記金属元素は、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、及びWからなる群より選択される1以上を含む、請求項5に記載の電極。
【請求項7】
前記活物質粒子と前記導電剤と前記結着剤との合計質量に対する前記導電剤の含有割合が3質量%以上20質量%以下の範囲内にある、請求項1から6の何れか1項に記載の電極。
【請求項8】
正極と、
負極と
を具備し、前記正極は請求項1から7の何れか1項に記載の電極を含む、電池。
【請求項9】
請求項8に記載の電池を具備する、電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電極、電池、及び電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池などの二次電池は近年、ハイブリッド自動車や電気自動車のほか、電動航空機や電力貯蔵用などの大型システムへの適用が期待されている。それに伴い、二次電池には、大容量、大電流出力、また高温環境下における長寿命性能などの性能向上が求められている。二次電池に用いられる大容量性能に優れる活物質としては、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムなどが知られている。しかし、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムには、充放電のサイクルに伴い粒子割れや岩塩型等の劣化構造への変化などが発生するため寿命が短いという課題がある。
【0003】
上述の課題に対し、例えば、特定の粒子径を有するリチウム複合酸化物の一次粒子が集合して構成され、且つ、特定の圧縮破壊強度を有する二次粒子を主成分とする正極活物質を用いることで、二次電池のサイクル特性を改善できることが知られている。また、クーパープロット法による体積減少率の変曲点が特定の数値まで現れない単分散の一次粒子の粉体状のリチウム複合酸化物を用いることで、正極成型時のプレスや充放電時の膨張収縮による粒子の割れを起こさない正極を得るという思想がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2004-355824号公報
【文献】日本国特開2016-157677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実施形態は、出力性能に優れた長寿命な電池を実現できる電極、並びに出力性能に優れた長寿命な電池および電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、活物質含有層を具備する電極が提供される。活物質含有層は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む活物質粒子と、導電剤と、結着剤とを含んだ合材粒子を含む。活物質粒子の破壊強度Bに対する合材粒子の破壊強度Aの強度比A/Bが0.01以上0.1以下の範囲内にある。活物質含有層の密度が3.2g/cm以上3.8g/cm以下の範囲内にある。
【0007】
他の実施形態によれば、正極と、負極とを具備する電池が提供される。正極は、上記実施形態に係る電極を含む。
【0008】
更に他の実施形態によれば、上記実施形態に係る電池を具備する電池パックが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る一例の電極を概略的に示す平面図である。
図2図2は、実施形態に係る電池の一例を示す一部切欠き斜視図である。
図3図3は、図2に示す電池のE部の拡大断面図である。
図4図4は、実施形態に係る電池の他の例を示す一部切欠き斜視図である。
図5図5は、実施形態に係る電池のさらに他の例を示す一部切欠き斜視図である。
図6図6は、図5に示す電池のF部の拡大断面図である。
図7図7は、実施形態に係る電池パックの一例を示す分解斜視図である。
図8図8は、図7に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
【実施形態】
【0010】
正極にニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用いた従来の電池セル等では、充放電のサイクルを繰り返した際に正極のニッケルコバルトマンガン酸リチウム粒子の割れが発生し寿命が良くないという課題がある。また、従来のニッケルコバルトマンガン酸リチウムには、粒子形状の細かい一次粒子が凝集した、二次粒子を形成する多結晶系の材料が用いられることが一般的である。このような比表面積の高い正極を用いると、特に高電位を使用するサイクルやカレンダ(貯蔵、保存)において正極と電解液との酸化反応が起こりやすく、顕著なガス発生や抵抗上昇が見られることがある。
【0011】
以下に、実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解とを促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0012】
[第1の実施形態]
第1の実施形態によれば、合材粒子を含む活物質含有層を具備する電極が提供される。合材粒子は、活物質粒子と、導電剤と、結着剤とを含む。活物質粒子は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む。活物質粒子の破壊強度Bに対する合材粒子の破壊強度Aの強度比A/Bが0.01以上0.1以下の範囲内にある。活物質含有層の密度が3.2g/cm以上3.8g/cm以下の範囲内にある。
【0013】
上記構成によると、電極活物質の粒子と電極の活物質含有層(所謂、電極合材層)を構成する合材粒子との間で強度のバランス(上記強度比A/B)について適切な条件を満たすとともに、活物質含有層の密度(電極密度)を適正な範囲にすることで、良好なサイクル寿命性能が得られる。また、合材粒子の破壊強度Aの強弱によって、出力性能が変化する。
【0014】
即ち、係る電極では、合材粒子の破壊強度Aと活物質粒子の破壊強度Bとの強度比A/Bを0.01以上0.1以下の範囲内とし、さらに電極密度を3.2g/cm以上3.8g/cm以下の範囲内とすることで、二次電池についての優れた出力性能と寿命性能の両立を達成した。具体的には、電極の破壊強度を小さくすることで、活物質粒子間の結合力や導電剤および結着剤との結合力が小さく、充放電に伴う活物質の体積変化を緩和しやすくなる。そうすることで、活物質-活物質間に隙間が生じやすくなり、例えば、液状の電解質の浸透が良好となり、良好な出力性能を達成することができる。
【0015】
通常は、電極密度を高めるに伴い正極の破壊強度は大きくなり出力性能は低減してしまう。実施形態に係る電極は、電極における副部材(導電剤および結着剤等)の比率や電極作製用スラリーの調製条件、電極作製におけるプレス条件等を工夫することで、比較的高い電極密度でも電極合材の破壊強度の小さい電極を得たものである。また、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)活物質の破壊強度が大きいことで、プレス時や充放電時に粒子割れが起こりにくくなり、寿命性能の向上が達成されている。
【0016】
合材粒子の破壊強度Aと活物質粒子の破壊強度Bとの強度比A/Bが0.01以上であることで、合材粒子の破壊強度Aが比較的高く、安定した電極製造および電池の組み立てを行うことができる。また、合材粒子の圧縮破壊強度Aが高いので、活物質含有層内の結着性が充放電に伴う電極の体積変化に耐えることができる。従って、電極の電子伝導性を維持することができる。さらに、NCM活物質の破壊強度(B)が高過ぎず、活物質粒子内の固体内拡散が良好になる。
【0017】
強度比A/Bが0.1以下であることは、合材粒子の破壊強度Aが適度に抑えられていることを示す。つまり、活物質と導電剤と結着剤との結着性が過剰ではなく、それらの凝集が適度であるため、例えば、液状の電解質が浸透しやすく、出力性能が向上している。また、NCM活物質の破壊強度(B)が高く、充放電に伴う粒子割れが抑制されているため、寿命性能が高い。
【0018】
活物質含有層の密度、つまり電極密度が3.2g/cm以上であることで、電極の電子伝導性を高くでき、電極を用いた電池における電気抵抗を少なくできる。また、電極密度が3.8g/cm以下であることで、例えば、液状の電解質が電極に浸み込みやすいため、入出力性能が良好になる。電極の高密度化に伴って液状電解質の浸み込みが悪化し得るが、その場合は電極反応が不均一に生じ、充放電を繰り返すと活物質等の劣化が局所的に進行する。そのため、電極密度が高過ぎると充放電サイクル性能が低下してしまう。また、電極密度が高過ぎると、過充電や異常高温に曝された際に、局所的な発熱が生じて電池の安全性が低下するという問題を生じる恐れもある。
【0019】
第1の実施形態に係る電極では、合材粒子の破壊強度AはNCM活物質粒子の破壊強度Bよりも適度に小さく、NCM活物質粒子の破壊強度Bは適度に大きい。また電極密度を適度に高くすることで、電極の電子伝導性を担保しつつ、電解質の浸透を阻害しない。このように電極を設計することで、電池に組み込んだ際に電極内部に均一に電解質が浸透し、且つ充放電に伴う活物質の粒子割れを抑制することができる。以上のことから、第1の実施形態に係る電極を用いることで、電池の出力性能および寿命性能を高めることができる。
【0020】
係る電極は、例えば、電池用の電極であり得る。より具体的には、電極は電池に用いられる正極であり得る。つまり電極は、電池用正極であり得る。
【0021】
係る電極は、集電体をさらに含むことができる。活物質含有層は、集電体の少なくとも一面に形成され得る。集電体が、例えば、シート形状を有する場合、活物質含有層は、集電体の表裏のうち少なくとも一方の主面上に担持され得る。
【0022】
集電体は、その表面に活物質含有層を担持していない部分を含むことができる。この部分は、例えば、電極集電タブとして働くことができる。或いは、電極は、電極集電体とは別体の電極集電タブをさらに具備することもできる。別体の電極集電タブは、電極に電気的に接続され得る。
【0023】
活物質含有層は、例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を正極活物質として含む正極活物質含有層であり得る。活物質含有層は、活物質以外の副部材として、少なくとも導電剤および結着剤を含む。活物質、導電剤、及び結着剤は、合材粒子の形態で活物質含有層に含まれる。
【0024】
上記リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、粒子の形態で活物質含有層内の合材粒子に含まれる。活物質粒子として、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の単結晶粒子を用いてもよく、そのような一次粒子が凝集した二次粒子を用いてもよく、或いは一次粒子と二次粒子との混合物を用いてもよい。より好ましい活物質粒子の形態としては、単結晶粒子の形態が挙げられる。
【0025】
活物質粒子の平均粒子径は、2μm以上6μm以下の範囲にすることができる。平均粒子径を2μm以上にすることにより、電極の比表面積を小さくすることができる。それにより、電極と電解質との副反応が寿命性能に及ぼす影響を少なくすることができる。一方、平均粒子径を6μm以下にすることにより、粒子内で生じ得るリチウムイオンの濃度勾配を緩和し、濃度勾配による寿命性能に及ぼす影響を少なくすることができる。よって、平均粒子径を2μm以上6μm以下にすることにより、電池の寿命性能をさらに向上することができる。平均粒子径のより好ましい範囲は3.5μm以上4.5μm以下である。
【0026】
電極の活物質含有層についてのレーザー回折散乱法による粒度分布(粒子径分布)において、小粒子径側からの累積頻度が10%となる粒子径D10に対する小粒子径側からの累積頻度が90%となる粒子径D90の比D90/D10が4以下であることが好ましい。比D90/D10は、粒度分布の広がりを示す指標である。このように活物質粒子の粒子径が揃っている方が電極内の反応分布が生じにくく、均一に充放電反応が進行するため寿命性能が向上する。
【0027】
上記リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、例えば、一般式LiaNi1-x-y-zCoxMnyz2で表される。上記一般式における各添字の範囲は、0.9<a≦1.25、0<x<1、0<y<1、0<z<0.2、及びx+y+z<1である。一般式中のMは、Ni、Co、Mn以外の1以上の金属元素を含む。当該金属元素(M)は、例えば、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、及びWからなる群より選択される1以上を含み得る。また、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物における金属元素のうち、ニッケルの含有割合が60モル%以上であることが好ましい。つまり、上記添字x,y,zの合計が0.4以下(x+y+z≦0.4)であることが好ましい。また、金属元素のうちのニッケルの含有割合が85%以下である、つまりx,y,zの合計が0.15以上(x+y+z≧0.15)であることが好ましい。好ましい組成の具体例として、LiNi0.8Co0.1Mn0.12を挙げることができる。
【0028】
活物質粒子は、上記リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物以外の更なる活物質を含んでいてもよい。ここでは、上述したリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を便宜上“第1活物質”と呼び、それ以外の更なる活物質を“第2活物質”と呼ぶことがある。第1活物質に加え第2活物質をさらに含む場合、第1活物質と第2活物質との総質量に対する第2活物質の質量割合は、5質量%以上40質量%以下の範囲内にあることが好ましく、10質量%以上30質量%以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0029】
第2活物質としては、例えば、リチウム含有コバルト酸化物(例えば、LiCoO)、二酸化マンガン、リチウムマンガン複合酸化物(例えば、LiMn、LiMnO)、リチウム含有ニッケル酸化物(例えば、LiNiO)、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物(例えば、LiNi0.8Co0.2)、リチウム含有鉄酸化物、リチウムを含むバナジウム酸化物や、二硫化チタン、二硫化モリブデンなどのカルコゲン化合物などを含んでいてもよい。使用する第2活物質の種類は1種類または2種類以上にすることができる。
【0030】
活物質粒子の破壊強度Bが30MPa以上300MPa以下の範囲内にあることが望ましい。より好ましい活物質粒子の破壊強度Bは、120MPa以上である。活物質粒子の破壊強度は、活物質合成時の温度条件の制御や元素ドープによって調整することができる。具体的には、カチオンミキシング等の結晶構造の歪みを防止するために、焼成温度を900℃以下にしたり、Liソース添加に反応性がより高いLiOHやLiNO3等を用いたり、Liソース添加量をLi過剰となるような組成としたり、焼成を酸素雰囲気下で実施したり、焼成を複数回行ったりすることで、結晶性に優れ、破壊強度の高い活物質を得ることができる。
【0031】
また、電極密度を高めても合材粒子の破壊強度Aの増大が抑制された一例として、導電剤および結着剤の分散性に優れる電極が挙げられる。導電剤および結着剤の分散性に優れる電極を得る手法の一例としては、スラリー作製時の混練条件やビーズミルによる分散条件の適正化が挙げられる。具体例として、次のような工夫が挙げられる。活物質と導電剤との複合材(コンパウンド)及び溶媒に結着剤を溶解または分散させたバインダー溶液を準備する。コンパウンドをバインダー溶液に投入する際に、粘度が急激に上昇しないよう、複数回に分けて粉投入を行う。
【0032】
合材粒子の破壊強度Aは、2MPa以上10MPa以下の範囲内にすることが望ましい。合材粒子の破壊強度Aが2.5MPa以上10MPa以下の範囲内にあることがより好ましい。合材粒子の破壊強度Aを活物質粒子の破壊強度Bで除算した強度比A/Bは、0.01以上0.1以下とする。強度比A/Bのより好ましい範囲は0.01以上0.04以下である。
【0033】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑え得る。導電剤としては、カーボン材料を含むことが好ましい。カーボン材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維などを挙げることができる。活物質含有層は、上記カーボン材料の1種若しくは2種以上を含むことができる。
【0034】
導電剤は、例えば、粒子または繊維の形状を有する。導電剤粒子の平均粒径は、20nm以上100nm以下であることが好ましい。活物質粒子と導電剤と結着剤との合計質量に対する導電剤の含有割合は、3質量%以上20質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0035】
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、又はフッ素系ゴムが含まれる。使用する結着剤の種類は、1種又は2種以上にすることができる。活物質粒子と導電剤と結着剤との合計質量に対する結着剤の含有割合は、1質量%以上1.8質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0036】
集電体としては、例えば金属箔又は合金箔を用いることができる。金属箔の例としては、アルミニウム箔、ステンレス箔及びニッケル箔などを挙げることができる。合金箔の例としては、アルミニウム合金、銅合金及びニッケル合金などを挙げることができる。
【0037】
係る電極は、例えば、以下の方法で作製される。活物質、導電剤及び結着剤を溶媒(例えば、N-メチルピロリドン(NMP))とともに混練してスラリーを調製する。スラリー調製の際、上述した混練条件や分散条件の適正化を行う。得られたスラリーを集電体に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより電極を得る。また、必要に応じ、プレス前か、プレス後に所定の幅に裁断する工程を行っても良い。
【0038】
<各種測定方法>
以下、活物質の組成、破壊強度、及び粒度分布の測定方法を記載する。先ず、電池から電極を取り出す方法について説明する。
【0039】
先ず、測定対象の電池を用意する。測定対象の電池は、定格容量の80%以上の放電容量を有するものとする。すなわち、劣化が過剰に進行した電池は測定対象としない。
【0040】
次に、用意した電池を、開回路電圧が2.0V~2.2Vになるまで放電する。次に、放電した電池を、内部雰囲気の露点が-70℃である、アルゴンを充填したグローブボックス内に移す。このようなグローブボックス内で、電池を開く。
【0041】
電極は、例えば、後段の実施形態のように、対極およびセパレータと共に電極群を構成した形態で電池に含まれ得る。対極は、例えば、電極が正極である場合は、負極である。
【0042】
切り開いた電池から、電極群を取り出す。取り出した電極群が正極リード及び負極リードを含む場合は、正極と負極とを短絡させないように注意しながら、正極リード及び負極リードを切断する。
【0043】
次に、電極群を解体し、正極、負極及びセパレータに分解する。このようにして得られた電極(例えば、正極)を、メチルエチルカーボネートを溶媒として用いて洗浄する。この洗浄では、分解して得られた部材をメチルエチルカーボネート溶媒に完全に浸し、その状態で10分間放置する。
【0044】
洗浄後、電極を真空乾燥に供する。真空乾燥に際しては、25℃環境において、大気圧から-97kpa以上となるまで減圧し、その状態を60分間保持する。このような手順で取り出した電極について、以下の方法で測定を行う。
【0045】
[活物質の組成]
上記手順で取り出した正極及び負極の表面をそれぞれ蛍光X線(XRF)により測定することで、活物質の組成を知ることができる。
【0046】
[破壊強度]
合材粒子の破壊強度Aは、以下の方法によって測定される。電池を解体して得られた電極(例えば、正極)をメチルエチルカーボネート溶媒中で洗浄および乾燥したのちに、電極から電極成分、つまり活物質含有層をスパチュラ等を用いて集電体より掻き出す。掻き出された電極片から10 μm-30 μmのサイズものを選別し、合材粒子試料を得る。測定装置には島津微小圧縮試験機MCT-510を用い、その加圧板の上に合材粒子試料を極少量だけ散布し、合材粒子1粒子ずつ圧縮を行う。
【0047】
活物質粒子(例えば、NCM粒子)の破壊強度Bは、以下の方法によって測定される。電池を分解して得られた電極(例えば正極)をN-メチル-2-ピロリドン溶液中に浸漬および撹拌することで、電極成分が集電箔から剥がれる。
【0048】
この剥がれた電極成分から2 μm-6 μmのサイズのものを選別し、活物質粒子試料を得る。測定装置には島津微小圧縮試験機MCT-510を用い、その加圧板の上に活物質粒子試料を極少量だけ散布し、1 粒子ずつ圧縮を行う。なお、2 μm-6 μmのサイズの電極成分がNCMを含むか否かは、この試料に対し前述のXRFによる元素分析を行うことで確認できる。
【0049】
破壊強度は、合材粒子(破壊強度A)および活物質粒子(破壊強度B)の何れについても次の式で計算する。
【0050】
Cs=2.8P/πd
ここで、Csは破壊強度(数値単位:N/mm、或いはMPa)を示し、Pは試験力(数値単位:N)、dは粒子径(数値単位:mm)を示す。
【0051】
[粒度分布]
レーザー回折散乱法により、電極に含まれる活物質粒子および導電剤粒子の粒度分布を取得することができる。粒度分布から、上述した比D90/D10のみならず、活物質粒子の平均粒子径を求めることができる。
【0052】
電池を解体し取り出した電極(例えば、正極)から、活物質含有層を、例えばスパチュラを用いて剥がす。剥がした粉状の活物質含有層試料を、N-メチルピロリドンで満たした測定セル内に、測定可能濃度になるまで投入する。なお、粒度分布測定装置により、測定セルの容量及び測定可能濃度は異なる。N-メチルピロリドン及び活物質含有層試料を入れた測定セルに対し、出力40 Wの超音波を5分間照射する。このような超音波照射によると、導電剤粒子と活物質粒子との凝集を解くことができる。
【0053】
超音波処理を行った測定セルをレーザー回折散乱法による粒度分布測定装置に装入し、粒度分布の測定を行う。粒度分布測定装置の一例としては、Microtrac3100を挙げることができる。
【0054】
かくして、活物質含有層の粒度分布を得ることができる。
【0055】
得られた粒度分布にて、小粒子径側からの累積頻度が10%となる粒子径および累積頻度が90%となる粒子径をそれぞれD10及びD90とし、比D90/D10を算出する。小粒子径側からの累積頻度が50%となる粒子径D50を活物質粒子の平均粒子径とする。
【0056】
次に、第1の実施形態に係る電極の具体例を、図面を参照しながら説明する。
【0057】
図1は、実施形態に係る電極の一例を概略的に示す一部切欠平面図である。ここで、電極の例として一例の正極を図示する。
【0058】
図1に示す正極3は、正極集電体3aと、正極集電体3aの表面に設けられた正極活物質含有層3bとを具備する。正極活物質含有層3bは、正極集電体3aの主面上に担持されている。
【0059】
また、正極集電体3aは、その表面に正極活物質含有層3bが設けられていない部分を含んでいる。この部分は、例えば、正極集電タブ3cとして働く。図示する例では、正極集電タブ3cは、正極活物質含有層3bよりも幅の狭い狭小部となっている。正極集電タブ3cの幅は、このように正極活物質含有層3bの幅より狭くてもよく、或いは、正極活物質含有層3bの幅と同じであってもよい。正極集電体3aの一部である正極集電タブ3cの代わりに、別体の導電性の部材を正極3に電気的に接続し、電極集電タブ(正極集電タブ)として用いてもよい。
【0060】
第1の実施形態に係る電極は、合材粒子を含む活物質含有層を具備する。合材粒子は、活物質粒子と、導電剤と、結着剤とを含む。活物質粒子は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む。活物質粒子の破壊強度Bに対する合材粒子の破壊強度Aの強度比A/Bが0.01以上0.1以下の範囲内にある。活物質含有層の密度が3.2g/cm以上3.8g/cm以下の範囲内にある。当該電極は、出力性能に優れた長寿命な電池を実現できる。
【0061】
[第2の実施形態]
第2の実施形態によると、正極と負極とを具備する電極群が提供される。正極は、第1の実施形態に係る電極を含む。係る電極群は、例えば、二次電池用の電極群であり得る。当該電池は、例えば、リチウムイオン二次電池であり得る。
【0062】
係る電極群は、正極と負極との間に配されたセパレータを更に具備することもできる。
【0063】
電極群の構造は、特に限定されない。例えば、電極群はスタック構造を有することができる。スタック構造は、先に説明した正極及び負極を間にセパレータを挟んで積層した構造を有する。或いは、電極群は捲回構造を有することができる。捲回構造は、先に説明した正極と負極とをその間にセパレータを挟んで積層し、かくして得られた積層体を渦巻状に捲回した構造である。
【0064】
以下、正極、負極、及びセパレータについて、説明する。
【0065】
(1)正極
正極としては、上述した第1の実施形態に係る電極を用いることができる。詳細が重複するため、説明を省略する。
【0066】
(2)負極
負極は、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質含有層とを含み得る。また、負極活物質含有層は、負極活物質に加え、導電剤及び結着剤を含むことができる。
【0067】
以下に、負極活物質、導電剤、結着剤及び負極集電体について説明する。
【0068】
負極活物質は、Li反応電位に対し0.5V(vs. Li/Li+)以上高い電位で反応する活物質を含むことが好ましい。このような負極を具備した電池は、充放電によるリチウムの析出を抑えることができる。よって、このような電池は、入出力性能により優れる。Li反応電位は、リチウムイオンが吸蔵放出される電位で、標準水素電極の電位を基準とした場合に-3.045V(vs.SHE)で表される。負極活物質としては、例えば、Li4+wTi512(wは充放電反応により-1≦w≦3の範囲で変化する)で表されるスピネル型チタン酸リチウム(Li反応電位に対する反応電位が1.55V(vs. Li/Li+))、Li2+wTi37(wは充放電反応により-1≦w≦3の範囲で変化する)で表されるラムスデライト型チタン酸リチウム(Li反応電位に対する反応電位が1.75V(vs. Li/Li+))、Nb2TiO7で表されるニオブチタン複合酸化物(Li反応電位に対する反応電位が1.0V~1.7V(vs. Li/Li+))、又は、P、V、Sn、Cu、NiおよびFeからなる群より選択される少なくとも1種類の元素とTiとを含有する金属複合酸化物などを用いる。P、V、Sn、Cu、Ni及びFeからなる群より選択される少なくとも1種類の元素とTiとを含有する金属複合酸化物は、例えば、TiO2-P25、TiO2-V25、TiO2-P25-SnO2、又は、TiO2-P25-MO(MはCu、Ni及びFeからなる群より選択される少なくとも1つの元素)である。これらの金属複合酸化物は、充電によりリチウムが挿入されることでリチウムチタン複合酸化物に変化する。リチウムチタン複合酸化物のうち、スピネル型チタン酸リチウムがサイクル寿命性能に優れ、好ましい。
【0069】
負極活物質は、例えば、粒子の形態を有し得る。粒子の形態は、一次粒子であっても、一次粒子が凝集した二次粒子であっても良い。負極活物質に単独の一次粒子と、二次粒子の双方が含まれていても良い。負極活物質の平均一次粒子径は、例えば、0.15μm以上1μm以下の範囲にすることができる。平均一次粒子径を0.15μm以上にすることにより、ガス発生が寿命性能に及ぼす影響を少なくすることができる。一方、平均一次粒子径を1μm以下にすることにより、負極の自己放電量が適切なものとなり、過放電抑制による寿命性能の向上が顕著になる。よって、負極活物質粒子の平均一次粒子径を0.15μm以上1μm以下にすることにより、電池の寿命性能をさらに向上することができる。負極活物質粒子の平均一次粒子径のより好ましい範囲は0.3μm以上0.8μm以下である。
【0070】
負極活物質含有層の密度は2.0g/cm3以上2.4g/cm3以下にすることができる。
【0071】
導電剤の例としては、アセチレンブラック、カーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が挙げられる。
【0072】
結着剤の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、及びスチレンブタジェンゴムが挙げられる。
【0073】
負極活物質がリチウムイオンを吸蔵及び放出できる物質である場合、負極集電体としては、負極活物質のリチウムイオン吸蔵及び放出電位において電気化学的に安定である材料を用いることができる。負極集電体は、銅、ニッケル、ステンレス及びアルミニウムから選択される少なくとも1種類から作られる金属箔、又はMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される少なくとも1種類の元素を含むアルミニウム合金から作られる合金箔であることが好ましい。負極集電体の形状は、電池の用途に応じて、様々なものを用いることができる。
【0074】
負極集電体は、表面に負極活物質含有層を担持していない部分を含むことができる。この部分は、例えば、負極集電タブとして働くことができる。或いは、負極は、負極集電体とは別体の負極集電タブをさらに具備することもできる。別体の負極集電タブは、負極に電気的に接続され得る。
【0075】
負極は、例えば、以下の方法によって作製することができる。まず、負極活物質、結着剤及び必要な場合には導電剤を、汎用されている溶媒、例えばN-メチルピロリドン(NMP)中で懸濁させ、負極作製用スラリーを調製する。得られたスラリーを、負極集電体上に塗布する。塗布したスラリーを乾燥させ、乾燥後の塗膜をプレスをすることによって、負極集電体と、この負極集電体上に形成された負極活物質含有層とを含む負極を得ることができる。また、必要に応じ、プレス前か、プレス後に所定の幅に裁断する工程を行っても良い。
【0076】
(3)セパレータ
セパレータとしては、絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、ポリオレフィン、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、及びビニロンのようなポリマーで作られた多孔質フィルム又は不織布を用いることができる。セパレータの材料は1種類であってもよいし、又は2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0077】
セパレータの厚さは、5μm以上20μm以下にすることができる。
【0078】
第2の実施形態に係る電極群は、正極と負極とを含む。正極は、第1の実施形態に係る電極を含む。従って、係る電極群を用いた電池は優れた出力性能および長寿命を示す。
【0079】
[第3の実施形態]
第3の実施形態によると正極と負極とを具備する電池が提供される。正極は、第1の実施形態に係る電極を含む。係る電池は、例えば、二次電池であり得る。具体的には、係る電池は、例えば、リチウムイオン二次電池であり得る。
【0080】
電池は、正極と負極との間に配されたセパレータを更に具備することもできる。正極、負極、及びセパレータは、例えば、電極群を構成することができる。つまり、第3の実施形態に係る電池は、第2の実施形態に係る電極群を具備することができる。
【0081】
電極群の構造は、特に限定されない。電極群は、例えば、第2の実施形態にて説明したスタック構造または捲回構造を有することができる。
【0082】
係る電池は、電解質をさらに具備し得る。電解質としては、例えば、非水電解質を含むことができる。即ち、実施形態に係る電池は、非水電解質電池であり得る。電解質は、例えば、電極群に保持され得る。例えば、電極群に、電解質を含浸させることができる。
【0083】
また、係る電池は、電極群及び電解質を収容する外装部材を更に具備することができる。加えて、実施形態に係る電池は、正極に電気的に接続された正極端子と、負極に電気的に接続された負極端子とを更に具備することができる。正極端子の少なくとも一部及び負極端子の少なくとも一部は、外装部材の外側に延出し得る。その他、電池は電極リードを更に具備することができる。電極リードは、例えば、正極と正極端子とを電気的に接続する正極リードであり得る。或いは、電極リードは、例えば、負極と負極端子とを電気的に接続する負極リードであり得る。
【0084】
以下、電解質、外装部材、正極端子、及び負極端子について、説明する。なお、正極、負極、及びセパレータについては、第2の実施形態にて説明した詳細と重複するため、省略する。
【0085】
(I)電解質
電解質には、例えば、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解される電解質塩とを含む非水電解質を用いることができる。非水電解質の例として、液状非水電解質およびゲル状非水電解質が挙げられる。
【0086】
電解質塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、Li(CF3SO2)2N(ビストリフルオロメタンスルホニルアミドリチウム;通称LiTFSI)、LiCF3SO3(通称LiTFS)、Li(C25SO2)2N(ビスペンタフルオロエタンスルホニルアミドリチウム;通称LiBETI)、LiClO4、LiAsF6、LiSbF6、LiB(C24)2(ビスオキサラトホウ酸リチウム;通称LiBOB)、LiBF2OCOOC(CF3)2(ジフルオロ(トリフルオロ-2-オキシド-2-トリフルオロ-メチルプロピオナト(2-)-0,0)ホウ酸リチウム;通称LiBF2(HHIB))のようなリチウム塩を用いる。これらの電解質塩は一種類で使用してもよいし二種類以上を混合して用いてもよい。電解質塩としては、LiPF6、LiBF4又はこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0087】
非水電解質における電解質塩濃度は、1モル/L以上3モル/L以下の範囲内にすることが好ましい。電解質塩の濃度がこの範囲内にあると、非水電解質において電解質塩濃度の上昇による粘度増加の影響を抑えつつ、高負荷電流を流した場合の性能をより向上することが可能になる。
【0088】
非水溶媒は、特に限定されない。非水溶媒には、例えば、プロピレンカーボネート(PC)やエチレンカーボネート(EC)などの環状カーボネート;ジエチルカーボネート(DEC)やジメチルカーボネート(DMC)或いはメチルエチルカーボネート(MEC)若しくはジプロピルカーボネート(DPC)などの鎖状カーボネート;ジフルオロリン酸塩;1,2-ジメトキシエタン(DME);γ-ブチロラクトン(GBL);テトラヒドロフラン(THF);2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF);1,3-ジオキソラン;スルホラン;又は、アセトニトリル(AN)を用いる。これらの溶媒は一種類で使用してもよいし二種類以上を混合して用いてもよい。
【0089】
非水溶媒は、ジエチルカーボネートおよびジフルオロリン酸塩を含むことが望ましい。特に高電位を使用する充放電サイクル及びカレンダ(貯蔵、保存)において、正極と非水電解質との酸化反応が起こりやすく、ガス発生や抵抗上昇が顕著である。ジエチルカーボネートは、正極上での非水電解質の酸化反応によるガス発生を抑制することができる。一方、ジフルオロリン酸塩は、非水電解質におけるLi塩の分解反応を抑制することができる。ジエチルカーボネートおよびジフルオロリン酸塩を含む非水電解質を含む電池は、正極と非水電解質の酸化反応および支持塩の分解反応を抑制することができるため、寿命性能をさらに改善することができる。ジフルオロリン酸塩の例に、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO22)、ジフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸カリウムが含まれる。
【0090】
(II)外装部材
外装部材には、例えば、ラミネートフィルム又は金属製容器が用いられる。ラミネートフィルムの板厚、金属製容器の板厚は、それぞれ、0.5mm以下にし得る。また、外装部材としては、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレン系樹脂、フッ素系樹脂等からなる樹脂製容器を用いてもよい。
【0091】
外装部材の形状すなわち電池形状は、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、ボタン型等が挙げられる。また、電池は、例えば、携帯用電子機器等に搭載される小型用途、二輪乃至四輪の自動車等に搭載される大型用途のいずれにも適用することができる。
【0092】
ラミネートフィルムの例には、樹脂層と、樹脂層間に介在された金属層とを含む多層フィルムが挙げられる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装部材の形状に成形することができる。
【0093】
金属製容器は、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。合金中に鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属を含む場合、その量は質量比で100ppm以下にすることが好ましい。
【0094】
(III)正極端子
正極端子は、その一部が正極の一部に電気的に接続されることによって、正極と外部回路との間で電子が移動するための導体として働くことができる。正極端子は、例えば、正極集電体、特に正極集電タブに接続することができる。または、正極端子は、例えば、正極リードを介して正極集電タブに接続され得る。
【0095】
正極端子は、例えば、Li反応電位に対し3.0V以上4.5V以下(vs. Li/Li+)高い電位において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成されることが好ましい。正極端子は、アルミニウム、又はMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiからなる群より選択される1以上を含むアルミニウム合金から形成されることが好ましい。
【0096】
正極端子は、電気伝導性の高い材料から形成されていることが好ましい。正極集電体に接続する場合、正極端子が集電体と同様の材料からなることが好ましい。同じ材料を用いることで、正極端子と正極集電体との間の接触抵抗を低減させることができる。正極リードも同様に、正極端子および正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0097】
(IV)負極端子
負極端子は、その一部が負極の一部に電気的に接続されることによって、負極と外部回路との間で電子が移動するための導体として働くことができる。負極端子は、例えば、負極集電体、特に負極集電タブに接続することができる。または、負極端子は、例えば、負極リードを介して負極集電タブに接続され得る。
【0098】
負極端子は、Li反応電位に対し0.5V以上3.0V以下(vs. Li/Li+)高い電位において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成されることが好ましい。負極端子は、アルミニウム、又はMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiからなる群より選択される1以上を含むアルミニウム合金から形成されることが好ましい。
【0099】
負極端子は、電気伝導性の高い材料から形成されていることが好ましい。負極集電体に接続する場合、負極端子が集電体と同様の材料からなることが好ましい。同じ材料を用いることで、負極端子と負極集電体との間の接触抵抗を低減させることができる。負極リードも同様に、負極端子および負極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0100】
次に、実施形態に係る電池の例を、図面を参照しながら更に詳細に説明する。
【0101】
図2は、実施形態に係る電池の一例を示す一部切欠き斜視図である。図3は、図2に示す電池のE部の拡大断面図である。
【0102】
図2及び図3に示す電池100は、扁平型の電極群1を具備する。扁平型の電極群1は、負極2と、正極3と、セパレータ4とを含む。電極群1は、負極2及び正極3をその間にセパレータ4を介在させて偏平形状となるように渦巻状に捲回した構造を有する。
【0103】
負極2は、図3に示すように、負極集電体2aと、負極集電体2a上に担持された負極活物質含有層2bとを具備する。正極3は、図3に示すように、正極集電体3aと、正極集電体3a上に担持された正極活物質含有層3bとを具備する。
【0104】
図2に示すように、電池100において、負極2には帯状の負極端子5が電気的に接続されている。より具体的には、負極端子5が負極集電体2aに接続されている。また、正極3には帯状の正極端子6が電気的に接続されている。より具体的には、正極端子6が正極集電体3aに接続されている。
【0105】
また、電池100は、容器としてのラミネートフィルム製の外装容器7を更に具備している。即ち、電池100は、ラミネートフィルム製の外装容器7からなる外装部材を具備する。
【0106】
電極群1は、ラミネートフィルム製の外装容器7内に収容されている。ただし、負極端子5及び正極端子6の端部が外装容器7から延出している。ラミネートフィルム製の外装容器7内には、図示しない電解質が収容されている。電解質は、電極群1に含浸されている。外装容器7は、周縁部がヒートシールされており、それにより、電極群1及び電解質が封止されている。
【0107】
次に、実施形態に係る電池の他の例を、図4を参照しながら詳細に説明する。図4は、実施形態に係る電池の他の例を示す一部切欠き斜視図である。
【0108】
図4に示す電池100は、外装部材が金属製容器17a及び封口板17bから構成されている点で、図2及び図3に示す電池100と異なる。
【0109】
扁平型の電極群1は、図2及び図3に示す電池100における電極群1と同様に、負極と、正極と、セパレータとを含む。また、図2図4との間で、電極群1は同様な構造を有している。ただし図4では、後述するとおり負極端子5及び正極端子6に代わって、負極リード15a及び正極リード16aが、それぞれ、負極及び正極に電気的に接続されている。
【0110】
図4に示す電池100では、このような電極群1が、金属製容器17aの中に収容されている。金属製容器17aは、図示しない電解質をさらに収容している。金属製容器17aは、金属製の封口板17bにより封止されている。金属製容器17aと封口板17bとは、例えば、外装部材としての外装缶を構成する。
【0111】
負極リード15aは、その一端が負極集電体に電気的に接続され、他端が負極端子15に電気的に接続されている。正極リード16aは、その一端が正極集電体に電気的に接続され、他端が封口板17bに固定された正極端子16に電気的に接続されている。正極端子16は、封口板17bに絶縁部材17cを介して固定されている。正極端子16と封口板17bとは、絶縁部材17cにより電気的に絶縁されている。
【0112】
図5及び図6に、電池のさらに他の例として、スタック型の電極群を含む電池を示す。図5は、実施形態に係る電池のさらに他の例を示す一部切欠き斜視図である。図6は、図5に示す電池のF部の拡大断面図である。
【0113】
図5及び図6に示す例の電池100は、図5及び図6に示す電極群1と、図5及び図6に示す外装容器7と、図5及び図6に示す正極端子6と、図5に示す負極端子5とを具備している。
【0114】
図5及び図6に示す電極群1は、複数の正極3と、複数の負極2と、1枚のセパレータ4とを備える。
【0115】
各正極3は、図6に示すように、正極集電体3aと、この正極集電体3aの両面に形成された正極活物質含有層3bとを備えている。また、図6に示すように、正極集電体3aは、表面に正極活物質含有層3bが形成されていない部分を含んでいる。この部分は、正極集電タブ3cとして働く。正極集電タブ3cは、例えば、図1に示した正極集電タブ3cと同様に、正極活物質含有層3bよりも幅の狭い狭小部であり得る。
【0116】
各負極2は、負極集電体2aと、この負極集電体2aの両面に形成された負極活物質含有層2bとを備えている。また、負極集電体2aは、表面に負極活物質含有層2bが形成されていない部分を含んでいる(図示せず)。この部分は、負極集電タブとして働く。
【0117】
図6に一部を示すように、セパレータ4は九十九折にされている。九十九折にされたセパレータ4の互いに対向する面によって規定される空間には、正極3又は負極2がそれぞれ配置されている。それにより、正極3と負極2とは、図6に示すように、正極活物質含有層3bと負極活物質含有層2bとがセパレータ4を間に介在させて対向するように積層されている。かくして、電極群1が形成されている。
【0118】
電極群1の正極集電タブ3cは、図6に示すように、正極活物質含有層3b及び負極活物質含有層2bのそれぞれの端部よりも外まで延出している。これらの正極集電タブ3cは、図6に示すように、1つにまとめられて、正極端子6に接続されている。また、図示はしていないが、電極群1の負極集電タブも正極活物質含有層3b及び負極活物質含有層2bのそれぞれの他方の端部よりも外まで延出している。これらの負極集電タブは、図示していないが、1つにまとめられて、図5に示す負極端子5に接続されている。
【0119】
このような電極群1は、図5及び図6に示すように、ラミネートフィルム製の外装容器7からなる外装部材に収容されている。
【0120】
外装容器7は、アルミニウム箔71とその両面に形成された樹脂フィルム72及び73とからなるアルミニウム含有ラミネートフィルムから形成されている。外装容器7を形成するアルミニウム含有ラミネートフィルムは、折り曲げ部7dを折り目として、樹脂フィルム72が内側を向くように折り曲げられて、電極群1を収容している。また、図5及び図6に示すように、外装容器7の周縁部7bにおいて、樹脂フィルム72の互いに向き合った部分が、間に正極端子6を挟み込んでいる。同様に、外装容器7の周縁部7cにおいて、樹脂フィルム72の互いに向き合った部分が、間に負極端子5を挟み込んでいる。正極端子6及び負極端子5は、外装容器7から、互いに反対の向きに延出している。
【0121】
正極端子6及び負極端子5を挟み込んだ部分を除く外装容器7の周縁部7a、7b及び7cにおいて、樹脂フィルム72の互いに対向した部分が熱融着されている。
【0122】
また、電池100では、正極端子6と樹脂フィルム72との接合強度を向上させるために、図6に示すように、正極端子6と樹脂フィルム72との間に絶縁フィルム9が設けられている。また、周縁部7bにおいて、正極端子6と絶縁フィルム9とが熱融着されており、樹脂フィルム72と絶縁フィルム9とが熱融着されている。同様に、図示していないが、負極端子5と樹脂フィルム72との間にも絶縁フィルム9が設けられている。また、周縁部7cにおいて、負極端子5と絶縁フィルム9とが熱融着されており、樹脂フィルム72と絶縁フィルム9とが熱融着されている。すなわち、図5に示す電池100では、外装容器7の周縁部7a、7b及び7cの全てがヒートシールされている。
【0123】
外装容器7は、図示していない電解質を更に収容している。電解質は、電極群1に含浸されている。
【0124】
図5及び図6に示す電池100では、図6に示すように、電極群1の最下層に複数の正極集電タブ3cをまとめている。同様に、図示していないが、電極群1の最下層に複数の負極集電タブをまとめている。しかしながら、例えば、電極群1の中段付近に複数の正極集電タブ3c及び複数の負極集電タブを、それぞれ1つにまとめて、正極端子6及び負極端子5のそれぞれに接続することもできる。
【0125】
第3の実施形態に係る電池は、正極と負極とを含む。正極は、第1の実施形態に係る電極を含む。従って、係る電池は優れた出力性能および長寿命を示す。
【0126】
[第4の実施形態]
第4の実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第3の実施形態に係る電池を具備する。
【0127】
係る電池パックは、複数の電池を備えることもできる。複数の電池は、電気的に直列に接続することもできるし、又は電気的に並列に接続することもできる。或いは、複数の電池を、直列及び並列の組み合わせで電気的に接続することもできる。また、電気的に接続された電池は、組電池を構成することができる。即ち、実施形態に係る電池パックは、組電池を具備することもできる。複数の組電池を具備することができる。複数の組電池は、直列、並列、又は直列及び並列の組み合わせで電気的に接続することができる。
【0128】
電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、電池の充放電を制御する機能を有する。また、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用することができる。
【0129】
また、電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、電池からの電流を外部に出力するため、及び電池に電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車の動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
【0130】
以下に、係る電池パックの一例を、図7及び図8を参照しながら説明する。図7は、実施形態に係る電池パックの一例を示す分解斜視図である。図8は、図7に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
【0131】
図7及び図8に示す電池パック20は、複数個の単電池21を備える。単電池21は、例えば、図2を参照しながら説明した実施形態に係る一例の扁平型の電池100であり得る。
【0132】
複数の単電池21は、外部に延出した負極端子5及び正極端子6が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ22で締結されることにより、組電池23を構成している。これらの単電池21は、図8に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0133】
プリント配線基板24は、単電池21の負極端子5及び正極端子6が延出する側面に対向するように配置されている。プリント配線基板24には、図8に示すようにサーミスタ25、保護回路26及び通電用の外部端子27が搭載されている。なお、プリント配線基板24には、組電池23と対向する面に、組電池23の配線との不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0134】
正極側リード28は、組電池23の最下層に位置する正極端子6に接続され、その先端はプリント配線基板24の正極側コネクタ29に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード30は、組電池23の最上層に位置する負極端子5に接続され、その先端はプリント配線基板24の負極側コネクタ31に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ29及び31は、プリント配線基板24に形成された配線32及び33を通して保護回路26に接続されている。
【0135】
サーミスタ25は、単電池21の温度を検出し、その検出信号は保護回路26に送信される。保護回路26は、所定の条件で保護回路26と通電用の外部端子27との間のプラス側配線34a及びマイナス側配線34bを遮断できる。所定の条件の一例としては、サーミスタ25の検出温度が所定温度以上になったときを挙げられる。また、所定の条件の他の例とは、単電池21の過充電、過放電、又は過電流等を検出したときが挙げられる。この過充電等の検出は、個々の単電池21もしくは組電池23全体について行われる。なお、個々の単電池21を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図7及び図8の電池パック20は、単電池21それぞれに電圧検出のための配線35が接続されている。これら配線35を通して検出信号が保護回路26に送信される。
【0136】
正極端子6及び負極端子5が突出する側面を除く組電池23の三側面には、ゴム若しくは樹脂からなる保護シート36がそれぞれ配置されている。
【0137】
組電池23は、各保護シート36及びプリント配線基板24と共に収容容器37内に収容される。即ち、収容容器37の長辺方向に沿う両方の内側面と短辺方向に沿う内側面それぞれに保護シート36が配置され、組電池23を介して反対側にある他方の短辺方向に沿う内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池23は、保護シート36及びプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置する。蓋38は、収容容器37の上面に取り付けられている。
【0138】
なお、組電池23の固定には粘着テープ22に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0139】
図7及び図8では単電池21を電気的に直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには電気的に並列に接続してもよい。さらに、組み上がった電池パックを直列及び/又は並列に電気的に接続することもできる。
【0140】
また、係る電池パックの態様は用途により適宜変更される。実施形態に係る電池パックの用途としては、大電流の充放電におけるサイクル性能が望まれるものが好ましい。具体的な用途としては、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、及びアシスト自転車等の車載用が挙げられる。実施形態に係る電池パックの用途としては、特に、車載用が好適である。
【0141】
第4の実施形態に係る電池パックは、第3の実施形態に係る電池を備えている。従って、実施形態に係る電池パックは優れた出力性能および長寿命を示す。
【0142】
[実施例]
以下に例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、発明の主旨を超えない限り本発明は以下に掲載される実施例に限定されるものでない。
【0143】
(実施例1)
(正極の作製)
活物質粒子として4.0μmの平均粒子径を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物LiNi0.8Co0.1Mn0.12(Ni:Co:Mn = 8:1:1)の粒子を準備した。導電剤としてアセチレンブラック、並びに、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを準備した。これら活物質粒子、導電剤、及び結着剤は、質量比が93:5:2となる分量でそれぞれ準備した。準備した活物質粒子および導電剤をヘンシェルミキサーを用いて混合し、活物質と導電剤との複合材(コンパウンド)を形成した。得られた複合材と結着剤をN-メチルピロリドン(NMP)に分散し、20Lの容積を有するプラネタリーミキサーを用いて混練した。この際、急激な粘度上昇を避けるために、各材料を少しずつNMPに加えた。混練は、固形分濃度(Non-Volatile content;NV)が79%の固練り条件で行った。次いで、混練物を310mLの容積を有するビーズミル装置に移し、1100rpmのビーズ回転速度で混合を行って、スラリーを調製した。
【0144】
調製したスラリーを正極塗液として、帯形状のアルミニウム箔からなる集電体の表裏両面に均一に塗布した。正極塗液の塗膜を乾燥させて正極活物質含有層を形成した。乾燥後の帯状体へのプレス成型を正極活物質含有層の密度が3.4g/cm3となるように行った。圧延後の電極を所定の寸法に裁断した。そこに集電タブを溶接して正極を得た。
【0145】
(負極の作製)
負極活物質として、Li4Ti512で表されるスピネル型のリチウムチタン酸化物、導電剤としてグラファイト、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを準備した。これら負極活物質、導電剤、結着剤を94:4:2の質量比で、NMPに溶解および混合させてスラリーを調製した。このスラリーを負極塗液として、帯形状のアルミニウム箔からなる負極集電体の表裏両面に均一に塗布した。負極塗液を乾燥させて負極活物質含有層を形成した。乾燥後の帯状体にプレス成型を負極活物質含有層の密度が2.2g/cm3となるように行った。帯状体を所定の寸法に裁断した。そこに集電タブを溶接して負極を得た。
【0146】
(電極群の作製)
セルロースからなる不織布セパレータを用意した。セパレータの厚みは10μmであった。次に、用意したセパレータを九十九折にし、当該セパレータ及び作製した正負極を、セパレータ、正極、セパレータ、及び負極の順で幾重にも重ねて積層体(スタック)を形成した。かくして、積層型(スタック型)電極群を作製した。
【0147】
(非水電解質の調製)
プロピレンカーボネート(PC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で1:2になるように混合して混合溶媒を調製した。この混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/Lの濃度で溶解し、液状非水電解質を得た。
【0148】
(電池の組み立て)
上記のようにして得られた積層型電極群の正極および負極にそれぞれ電極端子を装着した。ラミネートフィルム製の外装容器に電極群を入れた。この容器の中に前述の非水電解質を注液し、外装容器に封をして非水電解質電池を得た。なお、非水電解質電池には、容量が1.5Ahとなる設計を用いた。
【0149】
(実施例2-7及び比較例1-4)
実施例2-7及び比較例1-4のそれぞれにて、正極の作製条件を下記表1に示す条件に変更したことを除き、実施例1と同様の手順を行って非水電解質電池を得た。具体的には、正極に用いた活物質粒子の変更、プラネタリーミキサーを用いた固練りの際の固形分濃度(NV)の変更、ビーズミルを用いた混合の際のビーズ回転速度の変更、及びプレス成型時のプレス圧の調整による活物質含有層の密度の変更のうち少なくとも1つを行った。活物質粒子を変更する際は、活物質組成および平均粒子径の何れか1以上が異なる活物質粒子を選択した。表1では活物質組成については、LiaNi1-x-y-zCoxMnyMzO2で表され添字aは1及び添字zが0であるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物におけるNi、Co、及びMnの量論比を示す。即ち、活物質組成は、実施例1-3,6-7及び比較例1,3-4ではLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(Ni:Co:Mn = 8:1:1)、実施例4ではLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(Ni:Co:Mn = 6:2:2)、並びに実施例5及び比較例2ではLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(Ni:Co:Mn = 5:2:3)だった。
【0150】
【表1】
【0151】
実施例1-7及び比較例1-4にて得られた各々の非水電解質電池について、先に説明した方法により正極における合材粒子の破壊強度A及び活物質粒子の破壊強度Bを測定し、強度比A/Bを求めた。また、先に説明したレーザー回折散乱法を行い、活物質含有層中の粒度分布の広がり(D90/D10)を評価した。その結果を下記表2に示す。
【0152】
【表2】
【0153】
表2によれば、ビーズ回転速度が高い方が合材粒子の破壊強度Aが低くなる傾向が見られ、電極密度を増加させても構成材料の分散性を向上させることで電極合材の破壊強度の増加を抑えられたことを示している。また、活物質粒子の平均粒子径が大きい方が合材粒子の破壊強度Aが高くなる傾向も見られる。正極活物質粒子の破壊強度Bには、活物質組成による違いの他、粒子径による違いが見られるが、活物質の合成条件の差の影響が粒子径の差として見えているものと推測される。
【0154】
<評価>
実施例1-7及び比較例1-4にて得られた各々の非水電解質電池について、出力性能および寿命性能を評価した。具体的には、各電池に対し下記のとおり高出力(高レート)での容量維持率および充放電のサイクルを繰り返した際の容量維持率の測定をそれぞれ行った。
【0155】
(高出力容量維持率の測定)
電池に対し、25℃の環境下で100%の充電状態(State Of Charge;SOC)からSOC 0%まで、5Cレートの放電および0.2Cレートでの放電をそれぞれ行った。0.2Cレート放電の際の放電容量に対する5Cレート放電における放電容量を算出し、出力性能の指標たる高出力容量維持率として5C/0.2C放電容量維持率を求めた(5C/0.2C放電容量維持率=[5C放電容量/0.2C放電容量]×100%)。結果を下記表3に示す。
【0156】
(充放電サイクル容量維持率の測定)
電池に対し、次の条件で充放電サイクル試験を行い、充放電サイクル容量維持率を測定した。サイクル試験では、45℃の環境下で、電池をSOC範囲0%-100%で500回の充放電サイクルに供した。この際、充電及び放電は、共に2Cの電流値で行った。1サイクル目の放電容量と、500サイクル目の放電容量とを測定した。かくして得られた500サイクル目の容量を1サイクル目の容量で割って得られた値を、充放電サイクル容量維持率とした(充放電サイクル容量維持率=[1サイクル目の放電容量/500サイクル目の放電容量]×100%)。結果を下記表3に示す。
【0157】
【表3】
【0158】
表3が示すとおり、実施例1-7で得られた非水電解質電池は、優れた出力性能を示すとともに寿命性能が高かった。特に、実施例1-3で得られた非水電解質電池では、充放電サイクル容量維持率により優れる傾向が見られた。これは、実施例1-3の正極塗液のスラリー調製の際の固形分濃度が高いことに起因すると推測される。具体的には、電極合材の構成材料(特に導電剤)の分散性が良好であるため、正極内の電極反応が均一に進行することで優れた寿命性能を示したと推測される。対して比較例1に係る非水電解質電池では、出力性能および寿命が何れも低かった。比較例1では、活物質粒子の破壊強度Bに対する合材粒子の破壊強度Aの強度比A/Bが著しく高かったことから、正極の合材(活物質粒子、導電剤、結着剤)が密に凝集しており液状非水電解質の浸透性が低く、それに起因して出力性能が低かったものと推測される。また、比較例1にて強度比A/Bが高かったことから充放電に伴う正極の体積変化を緩和することができず、それに起因して寿命が短かったものと推測される。比較例2では、正極活物質含有層の密度が低かったことに起因して正極内の電気抵抗が高くなり、出力性能が低かったものと推測される。対して比較例3では、強度比A/B及び正極活物質含有層の密度が高かったことから液状非水電解質の浸透性が悪く、出力性能が低くなったとともに正極内の電極反応が不均一になって寿命性能が低くなったことが見られる。比較例4では、強度比A/Bが低かったことから、正極活物質含有層の強度が低く、寿命性能が低かったものと推測される。
【0159】
以上説明した1以上の実施形態および実施例によれば、電極が提供される。電極は活物質粒子と、導電剤と、結着剤とを含んだ合材粒子を含む活物質含有層を具備する。活物質粒子は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む。活物質粒子の破壊強度Bに対する合材粒子の破壊強度Aの強度比A/Bが0.01以上0.1以下の範囲内にある。活物質含有層の密度が3.2g/cm以上3.8g/cm以下の範囲内にある。上記構成によれば、出力性能に優れた長寿命な電池を実現できる電極、並びに出力性能に優れた長寿命な電池および電池パックを提供することができる。
【0160】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8