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特許7500875運動ニューロン疾患及び神経筋接合部障害の処置のためのN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[D]イミダゾール-2-アミン硫酸塩及びそれらの溶媒和物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】運動ニューロン疾患及び神経筋接合部障害の処置のためのN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[D]イミダゾール-2-アミン硫酸塩及びそれらの溶媒和物の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/496 20060101AFI20240610BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240610BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
A61K31/496
A61P21/00
A61P25/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023521379
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-23
(86)【国際出願番号】 EP2021077641
(87)【国際公開番号】W WO2022074093
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】20306168.4
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515176357
【氏名又は名称】アルツプロテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ノエル・キャリツォト
(72)【発明者】
【氏名】セシリア・エストレラ
(72)【発明者】
【氏名】マチュー・バリエ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ヴェルワルド
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-503813(JP,A)
【文献】特表2008-519825(JP,A)
【文献】特表2018-507906(JP,A)
【文献】ACS Chem. Neurosci.,2015年,6(4),559-569
【文献】Bioorg. Med. Chem. Lett.,2003年,13,3783-3787
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/496
A61P 21/00
A61P 25/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、神経ラチリズム、コンゾ、テイ-サックス病、サンドホフ病、進行性筋萎縮症(PMA)、単肢筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)、ポリオ後症候群、放射線照射後症候群、スティッフパーソン症候群、事故に起因する運動単位の障害、重症筋無力症、イートン・ランバート症候群から選択される、運動ニューロン疾患及び神経筋接合部障害を処置及び/又は予防する際の使用のための、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンの硫酸塩又はその薬学的に許容される溶媒和物を含む、医薬
【請求項2】
非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、神経ラチリズム、コンゾ、テイ-サックス病、サンドホフ病、進行性筋萎縮症(PMA)、単肢筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)、ポリオ後症候群、放射線照射後症候群、スティッフパーソン症候群、事故に起因する運動単位の障害、重症筋無力症、イートン・ランバート症候群から選択される、運動ニューロン疾患及び神経筋接合部障害の発症を患者において遅らせる際の使用のための、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンの硫酸塩又はその薬学的に許容される溶媒和物を含む、医薬
【請求項3】
前記硫酸塩が、式I
【化1】
[式中、xは0.5~4である]
を有する、請求項1又は2に記載の医薬
【請求項4】
xが約2である、請求項3に記載の医薬
【請求項5】
前記硫酸塩が、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン二硫酸塩である、請求項4に記載の医薬
【請求項6】
前記運動ニューロン疾患及び神経筋接合部障害が、非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、進行性筋萎縮症(PMA)、単肢筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)、重症筋無力症、イートン・ランバート症候群、事故に起因する運動単位の障害から選択される、請求項1又は2に記載の医薬
【請求項7】
前記運動ニューロン疾患が、非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)から選択される、請求項6に記載の医薬
【請求項8】
前記運動ニューロン疾患が、非FTD筋萎縮性側索硬化症である、請求項7に記載の医薬
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動ニューロン疾患及び神経筋接合部障害の処置及び/又は予防における、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩及びそれらの薬学的に許容される溶媒和物の新規な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
運動ニューロン疾患(MND)及び神経筋接合部障害(NJD)は両方とも、時間と共により顕著になる、筋力低下及び倦怠につながる神経筋障害と考えられている。
【0003】
運動ニューロンは、中枢神経系(運動皮質、脳幹、脊髄…)、並びに筋肉及び腺のような器官の制御を担う末梢神経系に存在するニューロン細胞である。運動ニューロンは、上位又は下位運動ニューロンとして分類される。上位運動ニューロン(UMN)は大脳皮質及び脳幹に位置しており、それらはグルタミン酸作動性神経伝達を介して介在ニューロン及び下位運動ニューロン(LMN)にシグナルを伝達する。LMNは脊髄に位置し、骨格筋線維(神経筋接合部)を神経支配しており、そこで、アセチルコリンが放出され、筋細胞膜を横断してシグナルを運び、筋肉に収縮又は弛緩をシグナル伝達する。UMN及びLMNは両方とも、随意運動、バランス、身体姿勢調節及び筋肉制御全般に必要不可欠である。
【0004】
進行性運動ニューロン変性は、運動ニューロン疾患の特徴であり、これは、運動ニューロンアポトーシス、及び運動単位(運動ニューロン-その軸索-神経筋接合部-これが神経支配する個々の筋線維を全体で規定する単位)の線維束性収縮を最終的に引き起こし、筋肉を制御する神経流入の伝達を阻止する。運動ニューロンの細胞体の死は、MNDにおける一次過程であり、これは、運動ニューロン及びオリゴデンドロサイトにおける凝集タンパク質の沈着、並びに神経炎症と共に起こる。UMN又はLMNのいずれか、更には両方に影響を及ぼし得るこれらの疾患は、筋力低下、筋緊張低下、運動低下、反射障害、及び筋萎縮を引き起こす。
【0005】
多くの運動ニューロン疾患が存在し、筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、UMN及びLMNに影響を及ぼし得る最も一般的な後天性運動ニューロン疾患である。孤発性ALSは、該疾患に罹患している既知の家族がいない患者において診断される、最も一般的な形態のALS(症例の≧90%)である。家族性ALSは、遺伝的起源で、家系に伝わるものであり、幾つかの遺伝子変異が同定されていて、それらに関連付けられている。最も一般的なものは、9番染色体オープンリーディングフレーム72(C9ORF72)にあり、患者に認知欠陥の罹患も引き起こす可能性がある:ALS-FTDは、特定の形態のALSであり、患者は前頭側頭型認知症(FTD)にも罹患する。パーキンソニズム-認知症複合症1を伴う筋萎縮性側索硬化症(ALS-PDC)又はリティコ・ボディグ病は、ALSの一形態であり、患者はALS、認知症、及びパーキンソン病(PD)の症状を経験する。家族性及び孤発性ALSに関連する他の公知の遺伝子としては、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)、43kDaのTAR DNA結合タンパク質(TDP-43)、RNA結合タンパク質(FUS/TLS:肉腫で融合した/肉腫で移行した)及びユビキリン2(UBQLN2)をコードする遺伝子が挙げられる。これらの変異は、これらのタンパク質の毒性蓄積を運動ニューロン及び星状細胞において引き起こし、よってその後、ニューロン死につながる可能性がある。43kDaのTAR DNA結合タンパク質(TDP-43)は、ALSの大部分の症例で、運動ニューロンの細胞質内に蓄積することが示されている。TDP-43は、核及び細胞質の間を能動的に行き来するRNAプロセシングの幾つかの側面に関与する核RNA結合タンパク質である。ALSでは、TDP-43が核から排除されるが、そのような細胞質誤局在はニューロンの損傷又はストレスでは一般的であり、TDP-43陽性封入体は運動ニューロン疾患における二次的病理を示し得る。
【0006】
その他の運動ニューロン疾患は、原発性側索硬化症(PLS)のようにUMNにのみ、又は進行性筋萎縮症(PMA)のようにLMNにのみ影響を及ぼし得る。更に、LMN変性及びALSは、神経筋接合部に影響を及ぼし得る(Dupuis Lら、Curr Drug Targets 2010;第11巻(第10号):1250~1261頁-Gromova Aら、Trends Neurosci. 2020年9月;第43巻(第9号):709~724頁-Hashizume Aら、J Neurol Neurosurg Psychiatry 2020年10月;第91巻(第10号):1085~1091頁)。NJDはこの重要な領域を標的とし、筋肉に運動又はその収縮を促進するために通常は伝達される神経インパルスをブロックする。筋無力症候群(重症筋無力症及びイートン・ランバート症候群)は、免疫学的又は遺伝的プロセスのいずれかを通じてシナプス伝達の効力に影響を及ぼす。これらの病理では、NMJの絶対数はほぼ同じままであるが、運動ニューロン刺激に応答して筋活動電位をトリガーするそれらの効力が減少し、疲労性筋力低下につながる(Gilhus NEら、Curr Opin Neurol. 2012年10月;第25巻(第5号):523~9頁)。加えて、残存するNMJを強化及び安定化するための処置を設計することが、LMN変性を伴う疾患の一般的な最終経路であり、ALS、脊髄性筋萎縮症(SMA)及び球脊髄性筋萎縮症(SBMA)患者にとって等しく有益であることが認識される。
【0007】
現在、米国食品医薬品局(FDA)及び欧州医薬品庁(EMA)によりALS患者のために承認されているのは、1つの処置のみである。リルゾールは、CNSにおけるグルタミン酸作動性神経伝達をブロックする経口薬物である。これらの効果は、部分的にはグルタミン酸作動性神経終末上の電位依存性ナトリウムチャネルの不活性化に起因し得ると考えられている。リルゾールはまた、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体の非競合的遮断により、グルタミン酸のシナプス後効果の一部もブロックする。更に、リルゾールは、運動及び呼吸機能に対して効果がなく、進行した形態のALSにも、他の運動ニューロン疾患にも適さない。
【0008】
静脈内注射されたフリーラジカルスカベンジャーであるエダラボン(Edavarone)は、フェーズ3臨床試験においてALSを有する人々の小さなサブセットで効力を示した。研究は、プラセボと比較して、ALS機能評価スケール改訂版スコアの有意に小さい低下を示した。現在まで、基準を満たさないALS患者のより広範な集団においてエダラボンが有効であり得るという指摘はなく(Abeら、Lancet Neurol. 2017、第16巻(第7号)、505~512頁)、ALS処置に関するEMAからの販売承認に対する申請は、取り下げられた。
【0009】
重篤な副作用を有し得るコルチコステロイド又は免疫抑制剤以外に、神経筋接合部障害に利用可能な特定の処置はない。
【0010】
WO 2014/102339に既に開示されている、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩及びそれらの溶媒和物は、神経変性疾患、アミロイドパチー、タウオパチー及び発達疾患の処置及び/又は予防に有用である。これらの化合物は、特に、アルツハイマー病、パーキンソン病及びタウオパチーのための対象である:進行性核上性麻痺(PSP)に罹患している患者のためのN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン二硫酸塩によるフェーズ2A臨床試験が進行中である。これらの塩は、タウリン酸化を調節すること、及びプログラニュリン(PGRN)神経栄養因子レベルを増加させることができ、プログラニュリン(PGRN)神経栄養因子レベルの不足は、ヒトタウ発現マウスで証明される通り、タウ沈着及びリン酸化を加速させることが知られている(J. Neuropathol. Exp. Neurol. 第74巻、158~165頁(2015))。したがって、これらの化合物は、前頭側頭型認知症等のタウオパチーの処置に特に有用であり、よって特にALS-FTDを処置することが提案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】WO 2014/102339
【文献】WO 2006/051489
【非特許文献】
【0012】
【文献】DupuisLら、Curr Drug Targets 2010;第11巻(第10号):1250~1261頁
【文献】Gromova Aら、Trends Neurosci. 2020年9月;第43巻(第9号):709~724頁
【文献】Hashizume Aら、J Neurol Neurosurg Psychiatry 2020年10月;第91巻(第10号):1085~1091頁
【文献】Gilhus NEら、Curr Opin Neurol. 2012年10月;第25巻(第5号):523~9頁
【文献】Abeら、Lancet Neurol. 2017、第16巻(第7号)、505~512頁
【文献】J. Neuropathol. Exp. Neurol. 第74巻、158~165頁(2015)
【文献】Van Eijkら、Current opinion in neurology 2020、第33巻(第5号)、655頁
【文献】Remington's Pharmaceutical Sciences
【文献】Martinouら、Neuron. 1992年4月;第8巻(第4号)、737~44頁
【文献】Wangら、Hum. Mol. Genet.、2013年12月1日;第22巻(第23号)、4706~19頁
【文献】Ferraiuoloら、Brain 2011:第134巻;2627~2641頁
【文献】Nagaiら、The Journal of Neuroscience、2001年12月1日、第21巻(第23号):9246~9254頁
【文献】Ferrucciら、Neurobiology of Disease 37(2010)370~383頁
【文献】Avossaら、Neuroscience 138(2006)1179~1194頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
運動ニューロン疾患又は神経筋接合部障害に罹患している患者が利用可能な処置は限られ、これらの疾患の処置又は予防において使用され得る新規な化学的実体が当技術分野で依然として求められており、したがって、本出願人は、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩及びそれらの溶媒和物をそのような目的のために使用する可能性について調査した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンの硫酸塩が運動ニューロン及び神経筋接合部に対して神経保護効果を有するという予想外の知見に基づくものである。
【0015】
したがって、本発明は、運動ニューロン疾患及び神経筋接合部障害の処置及び/又は予防における使用のための、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩及びそれらの溶媒和物に関する。
【0016】
更に、本出願人は、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩及びそれらの溶媒和物が、大部分のALS症例において観察される病理学的特徴である、運動ニューロンにおける核から細胞質へのTDP43の異常な移行を低減できたことを示した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本出願人は、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩及びそれらの薬学的に許容される溶媒和物が、野生型ラット及びSOD1G93A tgラットの両方の脊髄運動ニューロンの初代培養物に対して、グルタミン酸誘発性損傷後のそれらの生存度及びそれらの神経突起ネットワークの完全性を促進することにより有益な効果を発揮することを示した。更に、運動ニューロンの核から細胞質へのTDP-43の異常な移行は、大部分のALS症例において観察される病理学的特徴である。実施例セクションで提示される結果は、前記硫酸塩が、グルタミン酸作動性ストレス下、核から細胞質へのTDP-43の異常な移行を逆転させることもできることを示している。
【0018】
更に、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩及びそれらの薬学的に許容される溶媒和物は、筋芽細胞と脊髄外植片との共培養物において、神経筋接合部及び神経突起ネットワークをグルタミン酸作動性ストレスから成功裏に保護した。
【0019】
これらの知見はすべて、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩及びそれらの薬学的に許容される溶媒和物が、ALS、SMA及びSBMA等の運動ニューロン疾患、並びに重症筋無力症及びイートン・ランバート症候群のような神経筋接合部障害を改善するための有効な治療法となり得ることを支持するものである。
【0020】
運動ニューロン疾患及び神経筋接合部障害としては、限定するものではないが、非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、神経ラチリズム、コンゾ、テイ-サックス病、サンドホフ病、進行性筋萎縮症(PMA)、単肢筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)、ポリオ後症候群、放射線照射後症候群、スティッフパーソン症候群、事故に起因する運動単位の障害、重症筋無力症及びイートン・ランバート症候群が挙げられる。
【0021】
非FTD筋萎縮性側索硬化症は、前頭側頭型認知症を伴わない孤発性又は家族性筋萎縮性側索硬化症の形態を示し、パーキンソニズム-認知症複合症1を伴う筋萎縮性側索硬化症(ALS-PDC)、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)、43kDaのTAR DNA結合タンパク質(TDP-43)、RNA結合タンパク質(FUS/TLS:肉腫で融合した/肉腫で移行した)又はユビキリン2(UBQLN2)をコードする遺伝子のうちの1つの変異により引き起こされる家族性筋萎縮性側索硬化症を含む。ALSにおいて、球発症の患者は、四肢発症又はLMN提示の患者よりも急速に進行する。領域変異体の最近の記載は、一部の患者が、上腕の筋萎縮性両麻痺、脚の筋萎縮性両麻痺、及び孤立性球麻痺(これらのすべてが本明細書において非FTD筋萎縮性側索硬化症の変異体である)を含む単一の脊髄領域に孤立したALSを有することを示唆する。非FTD ALSにはまた、ALSのすべての症例の約3%を占める稀な変異体である呼吸器発症ALSが含まれ、その初期症状は、安静時の労作を伴う呼吸困難である。
【0022】
原発性側索硬化症(PLS)は、脳内の神経をゆっくりと破壊させる、運動ニューロン疾患の一種である。これにより、神経は、筋肉を制御する脊髄における運動ニューロンを活性化できなくなる。
【0023】
家族性痙性対麻痺(FSP)としても公知である遺伝性痙性対麻痺(HSP)は、ゆっくりと変性する上位運動ニューロンにより引き起こされ、進行性痙縮及び脚の脱力を引き起こす。これは歩行困難につながる。変性が継続するにつれて、視覚障害、運動失調、てんかん、認知障害、末梢性ニューロパチー、及び/又は難聴を含む症状が悪化する。
【0024】
神経ラチリズムは、高濃度のグルタミン酸類似体神経毒β-オキサリル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸(ODAP)を含有するレンリソウ(Lathyrus)属のある特定のマメ科植物を大量に摂取することから生じる毒素により引き起こされる。ODAPは、ミトコンドリアに対する毒物であり、特に運動ニューロンにおける過剰の細胞死につながる;この毒素は、下肢の筋力欠如又は運動不能により特徴付けられる麻痺を引き起こし、この毒素には、上位運動ニューロン損傷の徴候を生じさせる錐体路が関与し得る。
【0025】
デュシェンヌ-アラン型筋萎縮症としても公知である進行性筋萎縮症(PMA)は、下位運動ニューロン機能不全の徴候により臨床的に特徴付けられ、ALSに発展する場合がある。PMAの症状としては、萎縮症、筋力低下、反射の欠如及び痙縮の欠如が挙げられ、症状は、腕、脚、又はその両方に限定され得る。
【0026】
良性限局性筋萎縮症、若年性髄節性萎縮症及び平山病としても公知である単肢筋萎縮症は、青年期の上肢遠位部における筋力低下及び消耗、続いて症状の進行及び安定化における自発的な停止により特徴付けられる、稀な良性下位運動ニューロン障害である。
【0027】
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、脊髄における運動神経細胞に影響を及ぼすことにより人々から体力を奪い、歩行、摂食、又は呼吸する能力を奪う疾患である。SMAは、筋肉を制御する神経の機能にとって重要な生存運動ニューロン遺伝子1(SMN1)における変異により引き起こされる。これがなければ、神経細胞は適切に機能することができず、最終的には死滅し、衰弱性の、時には致命的な筋力低下につながる。
【0028】
球脊髄性筋萎縮症(bulbospinal muscular atrophy)及びケネディ病としても公知である球脊髄性筋萎縮症(Spinal-bulbar muscular atrophy)(SBMA)は、運動ニューロンの喪失が、特に、顔面筋及び嚥下筋、並びに腕及び脚の筋肉、特に身体の中心に最も近い筋肉における随意筋運動に影響を及ぼす遺伝的障害である。
【0029】
進行性球麻痺(PBP)には、上位及び下位運動の両方が関与する。この形態のMNDにより、発語又は嚥下に困難を生じることが多い。下位運動ニューロンが影響を受ける場合、舌は、可視性線維束性収縮及び可動性低下を伴って萎縮する傾向がある。この結果、やや鼻型の発語になる。上位運動ニューロンが影響を受ける場合、舌は、痙性であり、発語機構に困難が伴う構音障害を引き起こす傾向がある。
【0030】
スティッフパーソンスペクトラム障害としても公知であるスティッフパーソン症候群は、変動する体幹及び四肢の硬直、疼痛性筋痙縮、作業特異的恐怖症、過剰驚愕反応、並びに強直性変形、例えば固定腰椎過前弯を引き起こす、脳及び脊髄に影響を及ぼす神経学的障害である。
【0031】
「事故に起因する運動単位の障害」は、本明細書で使用される場合、事故、例えば家庭内事故又は交通事故後の神経病変により運動単位が損なわれている障害を指す。
【0032】
重症筋無力症は、神経筋接合部におけるアセチルコリン伝達を損なう自己免疫障害、すなわち、アセチルコリン受容体を攻撃して筋力低下を生じさせる抗体である。重症筋無力症の最も一般的な症状は、衰弱した下垂眼瞼、衰弱した眼筋であり、これらは、複視、及び罹患筋肉を使用した後の罹患筋肉の過剰な衰弱を引き起こす。
【0033】
イートン・ランバート症候群は、神経筋接合部での神経伝達物質アセチルコリン受容体の放出に抗体が干渉する、自己免疫疾患である。これは、筋力低下を引き起こし、この筋力低下は、臀部及び大腿部の筋肉で始まり、次いで典型的には肩の筋肉に広がり、次いで腕及び脚から手及び足に下りていく傾向がある。頭部、顔面、眼、鼻、筋肉、及び耳を脳に接続する神経(脳神経)が、最後に影響を受ける。
【0034】
一実施形態において、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンの硫酸塩は、式I
【0035】
【化1】
【0036】
[式中、xは0.5~4であり、好ましくは、xは0.5~3.5であり、より好ましくは、xは0.9~3である]
のものである。
【0037】
言い換えると、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンの硫酸塩は、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンの1分子に対して、0.5~4当量、好ましくは0.5~3.5当量、より好ましくは0.9~3当量の硫酸塩を含有する。
【0038】
好ましい一実施形態において、xは1.7~2.3であり、好ましくは、xは1.9~2.1であり、より好ましくは、xは約2であるか、又はxは2である。
【0039】
特に好ましい一実施形態において、硫酸塩は、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン二硫酸塩である。
【0040】
一実施形態において、式Iの硫酸塩は、薬学的に許容される溶媒和物、好ましくは水和物の形態である。溶媒和物化学量論は、式Iの硫酸塩の1分子に対して、0.5~5、好ましくは1~4、より好ましくは1.5~2.5、更により好ましくは1.8~2.2、更により好ましくは2又は約2分子の溶媒和物である。
【0041】
したがって、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩及び薬学的に許容される溶媒和物は、特に、運動ニューロン疾患、神経筋接合部障害、及び運動ニューロンにおける核から細胞質へのTDP43の異常な移行が観察されるすべての疾患を処置又は予防するための医薬として有用である。
【0042】
したがって、本発明はまた、特に、非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、神経ラチリズム、コンゾ、テイ-サックス病、サンドホフ病、進行性筋萎縮症(PMA)、単肢筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)、ポリオ後症候群、放射線照射後症候群、スティッフパーソン症候群、事故に起因する運動単位の障害、重症筋無力症、イートン・ランバート症候群から選択される、運動ニューロン疾患及び神経筋接合部障害を処置及び/又は予防する際の使用のための、本明細書で定義される通りのN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンの硫酸塩又はその薬学的に許容される溶媒和物に関する。好ましくは、疾患は、非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、進行性筋萎縮症(PMA)、単肢筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)、重症筋無力症、イートン・ランバート症候群、事故に起因する運動単位の障害から選択される。より好ましくは、疾患は、非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)から選択される。更により好ましくは、疾患は、非FTD筋萎縮性側索硬化症である。
【0043】
言い換えると、本発明はまた、運動ニューロン疾患又は神経筋接合部障害、特に、上記で挙げたもの及びそれらの具体例を処置及び/又は予防する方法であって、本明細書に記載される通りのN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の薬学的有効量を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、方法を提供する。特定の実施形態において、疾患は、非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)から選択される。
【0044】
言い換えると、本発明はまた、運動ニューロン疾患又は神経筋接合部障害、特に、上記で挙げたもの及びそれらの具体例を処置及び/又は予防するための医薬の製造における、本明細書に記載される通りのN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の使用を提供する。特定の実施形態において、疾患は、非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)から選択される。
【0045】
特定の一実施形態において、本発明はまた、特に、非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、神経ラチリズム、コンゾ、テイ-サックス病、サンドホフ病、進行性筋萎縮症(PMA)、単肢筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)、ポリオ後症候群、放射線照射後症候群、スティッフパーソン症候群、事故に起因する運動単位の障害、重症筋無力症、イートン・ランバート症候群から選択される、運動ニューロン疾患及び神経筋接合部障害の発症を患者において遅らせる際の使用のための、本明細書で定義される通りのN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩又はその薬学的に許容される溶媒和物に関する。好ましくは、疾患は、非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、進行性筋萎縮症(PMA)、単肢筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)、重症筋無力症、イートン・ランバート症候群、事故に起因する運動単位の障害から選択される。より好ましくは、疾患は、非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)から選択される。更により好ましくは、疾患は、非FTD筋萎縮性側索硬化症である。
【0046】
言い換えると、本発明は、運動ニューロン疾患又は神経筋接合部障害、特に、上記で挙げたもの及びそれらの具体例の発症を患者において遅らせるための方法であって、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の薬学的有効量を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、方法を提供する。特定の実施形態において、疾患は、非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)から選択される。
【0047】
言い換えると、本発明はまた、運動ニューロン疾患又は神経筋接合部障害、特に、上記で挙げたもの及びそれらの具体例の発症を患者において遅らせるための医薬の製造における、本明細書に記載される通りのN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の使用を提供する。特定の実施形態において、疾患は、非FTD筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症(PLS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、進行性球麻痺(PBP)から選択される。
【0048】
本発明の更なる特徴によれば、そのような処置を必要とする患者、好ましくは温血動物、更により好ましくはヒトにおいて、運動ニューロンにおける核から細胞質へのTDP43の異常な移行を低減させるための方法であって、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン硫酸塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の有効量を、前記患者に投与する工程を含む、方法が提供される。
【0049】
一実施形態によれば、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンの硫酸塩、及びそれらの薬学的に許容される溶媒和物は、併用療法の一部として投与され得る。したがって、活性成分としてのN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンの硫酸塩又はその薬学的に許容される溶媒和物に加えて、追加の治療剤及び/又は活性成分を含有する組成物及び医薬の共投与を含む実施形態が、本発明の範囲内に含まれる。そのような多剤レジメンは、しばしば「併用療法」と称され、任意の運動ニューロン疾患又は神経筋接合部障害の処置及び/又は予防に使用され得る。治療剤のそのような組合せの使用は、処置を必要とする患者又はそのような患者になるリスクのある患者において、上述の運動ニューロン疾患の処置に関して特に適切である。
【0050】
N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンの硫酸塩又はそれらの薬学的に許容される溶媒和物に加えて活性成分の使用を必要とし得る治療効力の必要条件に加え、補助療法、すなわち、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンの硫酸塩又はそれらの薬学的に許容される溶媒和物により遂行される機能を補完及び補充する補助療法に相当する、活性成分を伴う薬物の組合せの使用を強制する又は強く推奨する追加の理論的根拠が存在し得る。補助処置の目的のために使用される好適な補助治療剤は、運動ニューロン変性、神経筋接合部変性、及び/又は運動ニューロンの細胞質におけるTDP-43の病理学的蓄積が媒介する又は関連する疾患又は状態を直接処置及び/又は予防する代わりに、前記変性から直接もたらされる又はそれらが間接的に付随する疾患又は状態を処置する薬物を含む。
【0051】
本発明の更なる特徴によれば、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンのコハク酸塩、その薬学的に許容される溶媒和物は、運動ニューロン疾患、例えば、ALS、SMA、SBMA、並びに神経筋接合部障害、例えば、重症筋無力症及びイートン・ランバート症候群を処置するために使用される他の薬物との併用療法で使用され得る。より詳細には、式Iの化合物、及びその薬学的に許容される溶媒和物は、リルゾール、エダラボン(Edavarone)、ピリドスチグミン、グルコシルセラミド分解の阻害剤、例えばアンブロキソール及びコンズリトールBエポキシド、アセチルコリン放出誘導剤、例えばグアニジン、コルチコステロイド、例えばプレドニゾロン、抗発作薬、例えばカルバマゼピン及びフェニトイン、又はVan Eijkら、Current opinion in neurology 2020、第33巻(第5号)、655頁に開示されている通りの、現在、ALSの処置のために臨床試験中の薬物と組み合わせて、補助療法として使用され得る。
【0052】
したがって、本発明の処置方法及び医薬組成物は、運動ニューロン疾患及び神経筋接合部障害の単剤療法において、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン又はその薬学的に許容される溶媒和物を用い得る。しかし、前記方法及び組成物はまた、1つ若しくは複数のN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物が、1つ又は複数の他の治療剤と組み合わせて共投与される、多剤療法に使用することもできる。
【0053】
上記の実施形態において、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物と他の治療活性剤との組合せは、剤形に関しては、互いに別々に又は一緒に、それらの投与時間に関しては、順次に又は同時に投与することができる。したがって、1つの成分剤の投与は、他の成分剤の投与の前、同時、又は後であってもよい。
【0054】
一般的に、薬学的使用のために、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンの硫酸塩又はそれらの薬学的に許容される溶媒和物は、少なくとも1つのN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミンの硫酸塩又はその薬学的に許容される溶媒和物と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤及び/又はアジュバントと、場合により1つ又は複数の更なる治療剤及び/又は活性成分とを含む医薬組成物として製剤化することができる。
【0055】
非限定的な例として、医薬組成物は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内、筋肉内若しくは皮下注射、又は静脈内注入によるもの)、局所投与、吸入、皮膚パッチ、インプラント、座剤等による投与に適している剤形であってもよい。そのような好適な投与形態-投与様式に応じて固体、半固体又は液体であり得る-、並びにそれらの調製における使用のための方法及び担体、希釈剤及び賦形剤は、当業者に明らかとなるものであり;Remington's Pharmaceutical Sciencesの最新版が参照される。医薬組成物は、固体形態に製剤化し、使用前に再溶解又は懸濁させてもよい。
【0056】
幾つかの好ましいが、非限定的な剤形の例としては、錠剤、丸剤、散剤、ロゼンジ剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤、エアロゾル剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、軟質及び硬質ゼラチンカプセル剤、座剤、ドロップ剤、ボーラス投与及び/又は連続投与のための滅菌注射用液剤及び滅菌包装散剤(これらは通常、使用前に再構成される)が挙げられ、これらの剤形は、そのような製剤にそれ自体が適している担体、賦形剤、及び希釈剤、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、寒天、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、セルロース、(滅菌)水、メチルセルロース、メチル-及びプロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、食用油、植物油及び鉱物油、又はそれらの好適な混合物と共に製剤化されてもよい。医薬組成物は、医薬製剤において一般的に使用される他の物質、例えば、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤、分散剤、崩壊剤、安定化剤、等張剤、増量剤、充填剤、保存剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、着色剤、抗菌剤及び/又は抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、分配剤、流動調節剤、放出剤等を場合により含有することができる。組成物はまた、その中に含有されている活性化合物の急速、持続又は遅延放出を提供するように製剤化されてもよい。
【0057】
本発明の医薬組成物は、好ましくは単位剤形であり、例えば、箱、ブリスター、バイアル、ボトル、サシェ、アンプルの中に、又は任意の他の好適な単回用量若しくは複数回用量のホルダー若しくは容器(これらに適切にラベルをつけてもよい)の中に;場合により、製品情報及び/又は使用説明書を含む1つ又は複数のリーフレットと共に、好適に包装されてもよい。一般的に、そのような単位剤形は、1単位剤形当たり、0.05~1000mg、通常は1~500mg、例えば、約10、25、50、100、200、300又は400mgの少なくとも1つの本発明の化合物を含有することになる。
【0058】
通常は、予防又は処置すべき状態及び投与経路に応じて、本発明の活性化合物は、通常、1日当たり、患者の体重1kg当たり、0.01~100mg、より頻繁には0.1~50mg、例えば1~25mg、例えば、約0.5、1、2、5、10、15、20又は25mgが投与され、これは、1回の1日用量として投与されてもよく、1回以上の1日用量に分けて投与されてもよく、又は例えば点滴注入を使用して本質的に連続的に投与されてもよい。
【0059】
式Iの化合物へのすべての言及には、それらの溶媒和物、特に水和物、多成分複合体及び液晶への言及が含まれる。
【0060】
本出願全体を通して開示される化合物は、ChemDraw(登録商標)Ultraバージョン11.0(CambridgeSoft社、Cambridge、MA、USA)を使用して命名した。
【0061】
N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン遊離塩基は、WO 2006/051489に開示されている通りに得ることができ、その硫酸塩及びそれらの溶媒和物は、WO 2014/102339に報告されている手順に従って調製した。
【0062】
定義
以下の定義及び説明は、本明細書、図及び特許請求の範囲の両方を含む本出願全体を通して使用される用語に関するものである。
【0063】
用語「投与」、又はその変形(例えば、「投与する」)は、状態、症状、又は疾患が処置又は予防されるべき患者に、単独で又は薬学的に許容される組成物の一部として、活性薬剤又は活性成分(例えば、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)を提供することを意味する。
【0064】
用語「ヒト」は、両方の性別及びあらゆる発育段階(すなわち、新生児、乳幼児、若年、青年、成人)の対象を指す。
【0065】
用語「患者」は、医療を受けるのを待っている、若しくは受けている、又は医療処置の対象であるか、今後対象となる、温血動物、より好ましくはヒトを指す。
【0066】
「薬学的に許容される」とは、医薬組成物の成分が互いに適合性であり、その患者に対して有害でないことを意味する。
【0067】
用語「予防する」、「予防すること」及び「予防」は、本明細書で使用される場合、状態若しくは疾患及び/又はその付随する症状の発症を遅らせる又は妨げる方法、患者が状態又は疾患に罹患するのを防ぐ方法、或いは状態又は疾患に罹患する患者のリスクを低減させる方法を指す。
【0068】
表現「低減させること」は、本明細書で使用される場合、部分的低減又は完全な低減を指す。
【0069】
用語「溶媒和物」は、化学量論量又は亜化学量論量の1つ又は複数の薬学的に許容される溶媒分子、例えばエタノールを含有する、本発明における化合物について記載するために本明細書において使用される。用語「水和物」は、前記溶媒が水である場合に用いられる。薬学的に許容される溶媒分子は、本発明の化合物と共に共結晶化されてもよく、且つ/又はその固体の結晶及び/若しくは非晶質相中に存在してもよく、且つ/又はそれに吸着されてもよい。
【0070】
用語「治療有効量」(又はより簡単に「有効量」)は、本明細書で使用される場合、投与される患者において所望の治療又は予防効果を達成するのに十分な活性薬剤又は活性成分(例えば、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)の量を意味する。
【0071】
用語「処置する」、「処置すること」及び「処置」は、本明細書で使用される場合、状態若しくは疾患及び/又はその付随する症状を緩和、軽減又は抑止することを含むことが意図される。
【0072】
本発明は、以下の実施例を参照すればより良く理解されるであろう。これらの実施例は、本発明の具体的な実施形態を表すことを意図するものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】ラット脊髄運動ニューロンの初代培養物における、MAP-2陽性MNの生存度(A)、神経突起ネットワーク(B)及び核外TDP-43(eTDP43)(C)に対する、20分間のグルタミン酸損傷後の48時間のN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩のインキュベーションの効果を示す図である。結果は、平均±SEM(n=5~6/群)として、対照に対する百分率として表される。一元配置ANOVA、続いてPLSDフィッシャー検定。
図2】MAP-2陽性MNの生存度(A)、神経突起ネットワーク(B)及び核外TDP-43(eTDP43)(C)に対する、20分間のグルタミン酸損傷前のN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩の24時間プレインキュベーション+損傷後の24時間インキュベーションの効果を示す図である。結果は、平均±SEM(n=5~6/群)として、対照に対する百分率として表される。一元配置ANOVA、続いてPLSDフィッシャー検定。
図3】グルタミン酸で損傷を受けたSOD1G93A Tgラット脊髄運動ニューロンの初代培養物における、リルゾール(Ril)及びエダラボン(Edavarone)(Eda)と比較した、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩の効果を示す図である。(A)ニューロンの数(A)、神経突起ネットワークの完全性(B)及びTDP43の移行(C)。結果は、平均+/-SEM(n=4~6)として、対照に対する百分率として表される。一元配置ANOVA、続いてPLSDフィッシャー検定。
図4】グルタミン酸により損傷を受けた脊髄外植片と筋芽細胞との共培養物における、リルゾール(Riluzone)(Ril)と比較した、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩の効果:(A)NMJの数、(B)NMJのサイズ、及び(C)NFH (+) MNの神経突起ネットワークを示す図である。結果は、平均+/-SEM(n=4~6)として、対照に対する百分率として表される。一元配置ANOVA、続いてPLSDフィッシャー検定。
【実施例
【0074】
生物学的実施例
(実施例1)
グルタミン酸で損傷を受けたラット初代運動ニューロンに対するN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩の効果
初代運動ニューロンの培養
ラット運動ニューロン(MN)を、Martinouら、Neuron. 1992年4月;第8巻(第4号)、737~44頁及びWangら、Hum. Mol. Genet.、2013年12月1日;第22巻(第23号)、4706~19頁により既に記載されている通りに培養した。妊娠14日目の妊娠雌性ラット(ラットウィスター;Janvier Labs社 フランス)を、CO2による深麻酔、続いて頸部脱臼を使用して屠殺した。次いで、胎児を子宮から取り出し、2%ペニシリン(10,000U/mL)及びストレプトマイシン(10mg/mL)溶液(PS)並びに1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む、氷冷L15ライボビッツ培地に直ちに入れた。脊髄を、37℃で20分間、0.05%トリプシン及び0.02%EDTAの最終濃度にてトリプシン-エチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液で処理した。DNアーゼIグレードII(最終濃度0.5mg/mL)及び10%ウシ胎児血清(FCS)を含有する、4.5g/リットルのグルコースを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の添加により、解離を停止させた。細胞を、10mMピペットの先端に通す3回の強制通過により機械的に解離させた。次いで、細胞を、L15培地中、BSA(3.5%)の層上で、+4℃にて180×gで10分間遠心分離した。上清を廃棄し、B27サプリメントの2%溶液、2mmol/リットルのL-グルタミン、2%のPS溶液、及び10ng/mLの脳由来神経栄養因子(BDNF)を含むNeurobasal培地からなる規定培養培地に、ペレットを再懸濁させた。生存細胞を、トリパンブルー排除試験を使用してNeubauerサイトメーターで計数した。細胞を、ポリ-L-リジンでプレコートした96ウェルプレート(免疫染色)中に1ウェル当たり20,000個の密度で播種し、37℃にて空気(95%)-CO2(5%)インキュベーター中で培養した。培地を2日毎に交換した。13日間の培養後、運動ニューロンをグルタミン酸で損傷させた。
【0075】
化合物処理
培養の13日目に、グルタミン酸を5μMの最終濃度まで添加し、硫酸塩の存在下の対照培地に20分間希釈した。20分後、グルタミン酸を洗浄し、硫酸塩を含む新鮮な培養培地を48時間添加した。
【0076】
エンドポイント評価-48時間共インキュベーション
14又は15日間の培養後(グルタミン酸損傷の48時間後)、細胞培養上清を収集し、脊髄MNを、エタノール(95%)及び酢酸(5%)の冷溶液により、-20℃で5分間固定した。0.1%のサポニンによる透過化後、細胞を、1%ウシ胎児血清を含有するPBSで2時間ブロックした。次いで、細胞を以下と共にインキュベートした:
a)1%ウシ胎児血清及び0.1%のサポニンを含有するPBS中1/400の希釈のマウスモノクローナル抗体抗微小管結合タンパク質2(MAP-2)。この抗体は、すべてのMNの細胞体及び神経突起に存在するMAP-2に特異的に結合する。この抗体は、Alexa Fluor 488ヤギ抗マウスIgGで明らかにした。ニューロンの核を蛍光マーカー(ヘキスト溶液)により標識した。
b)1%ウシ胎児血清及び0.1%のサポニンを含有するPBS中1/100の希釈のウサギポリクローナル抗体抗TDP43。TDP43の細胞質局在を調査した。この抗体は、Alexa Fluor 568ヤギ抗ウサギIgGで明らかにした。
【0077】
各条件について、ImageXpress(Molecular Devices社)を使用して20×の倍率で、1ウェル当たり30枚の写真(ウェル領域の90%を表す)を自動的に撮影した。すべての画像を、同じ条件(露光時間、利得及びレーザー強度)下で撮影した。異なるエンドポイントの分析は、カスタムモジュールエディター(Molecular Devices社)を使用して自動的に実施した。運動ニューロン(MAP-2)は、以下の形態学的基準を使用して介在ニューロン(MAP-2染色)と区別した:細胞体直径>15mm、及び最低でも3つの神経突起の存在(Ferraiuoloら、Brain 2011:第134巻;2627~2641頁)。
【0078】
エンドポイントは以下のものとした:
- MNの生存度(MNの数)
- MNの全神経突起伸長(μmで表される)
- MNにおけるTDP43(核外、eTDP43)(領域eTDP43-μm2/MNの数として表される)
【0079】
統計分析
すべての値は、平均+/-SEMとして表される。統計分析は、一元配置ANOVA、続いてPLSD Fisher検定により実施した。Neuro-Sys社が、GraphPad Prismソフトウェアバージョン7.04を使用して、異なる条件に対してグラフ及び統計分析を実施した。*p<0.05を有意であるとみなした。
【0080】
結果
・運動ニューロン生存度:予期された通り、グルタミン酸中毒は、対照群と比較して、細胞生存度を有意に減少させた(平均生存率:55%;図1A)。低用量のN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩(10nM~30nM)は、グルタミン酸条件と比較して、生存度に対してプラスの有意な効果を示した。最大効果は30nMの用量で得られた(平均生存率:82%)。
・神経突起ネットワーク完全性:グルタミン酸は、神経突起ネットワークを有意に低減させた(図1B)。すべての調査した用量のN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩適用は、グルタミン酸損傷後の神経突起ネットワークを改善することができ、30nMで最大効果となった(平均長:80%)。
・核外TDP-43:グルタミン酸適用は、異常な細胞質TDP-43シグナルを有意に増加させた(図1C)。10、及び30nMの濃度の二硫酸塩は、細胞質におけるTDP-43の蓄積を防止することができた。
【0081】
(実施例2)
グルタミン酸で損傷を受けたラット初代運動ニューロンに対するN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩前処理 24時間前処理-損傷-24時間処理の効果
初代運動ニューロンの培養
培養を、実施例1に記載されている通りに行った。
【0082】
化合物処理-24時間プレインキュベーション+24時間共インキュベーション
培養の12日目に、初代運動ニューロンを硫酸塩で24時間処理した。培養の13日目に、グルタミン酸を5μMの最終濃度まで添加し、硫酸塩の存在下の対照培地に20分間希釈した。20分後、グルタミン酸を洗浄し、硫酸塩を含む新鮮な培養培地を更に24時間添加した。
【0083】
エンドポイント評価
エンドポイント評価を、実施例1に記載されている通りに行った。
【0084】
統計分析
統計分析を、実施例1に記載されている通りに行った。
【0085】
結果
・運動ニューロン生存度:予期された通り、グルタミン酸は、対照群と比較して、細胞生存度を有意に減少させた(平均生存率:65%;図2A)。低用量の硫酸塩(3nM~30nM)は、グルタミン酸条件と比較して、生存度に対してプラスの有意な効果を示した。最大効果は30nMの硫酸塩の用量で得られた(平均生存率:87%)。
・神経突起ネットワーク完全性:グルタミン酸により、脊髄運動ニューロンの神経突起ネットワークは強力に損なわれた(図1B)。すべての調査した用量の硫酸塩は、グルタミン酸損傷から神経突起ネットワークを保護することができ、30nMで最大効果となった(平均長:91%)。
・核外TDP-43:グルタミン酸適用は、細胞質TDP43シグナルを有意に増加させた(平均eTDP-43シグナル:対照と比較して128%、図1C)。硫酸塩(10nM~30nMの用量の)はまた、TDP-43の異常な分布を完全に防止することができた。
【0086】
(実施例3)
グルタミン酸損傷後のラット初代SOD1運動ニューロン成熟に対するN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩の効果
ヒト家族性ALSを引き起こすことが知られている変異を有するヒトスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)を過剰発現するラット(例えば、SOD1G93Aラット)を含む、遺伝的げっ歯類モデルを使用して、ALS病因を研究した。hSOD-1G93Aの変異形態を発現するALSラットモデルは、ヒト疾患の臨床的及び組織病理学的特徴を綿密に再現する特徴を示す(Nagaiら、The Journal of Neuroscience、2001年12月1日、第21巻(第23号):9246~9254頁)。ヒト又はげっ歯類研究(SOD1モデル)では、MN喪失の前に興奮性の増加がある。ニューロンの興奮性の増加は、樹状突起分枝及び樹状突起棘における構造変化と相関するため、線条体中型有棘ニューロン(MSN)における樹状突起分枝及び樹状突起棘喪失、並びに腰椎脊髄のMN低下が観察される(Ferrucciら、Neurobiology of Disease 37(2010)370~383頁;Avossaら、Neuroscience 138(2006)1179~1194頁)。
【0087】
SOD1運動ニューロンについての胚の遺伝子型決定
解剖(妊娠14日目の妊娠雌性から)の日、各胚頭部の1片(約3mm3)を新しいメスで2mLDNアーゼ不含チューブに入れた。DNAをSYBR Green Extract-N-Amp組織PCRキット(Sigma Aldrich社)で抽出した。簡潔には、120μLの抽出溶液を胚頭部の各片上に滴下した。次いで、それらを室温で10分間インキュベートした。このインキュベーション期間の終了時に、頭部を95℃で5分間インキュベートした。この最終インキュベーションの直後、100μLの中和溶液を添加した;各DNA抽出物を1/40で希釈し、使用まで+4℃で貯蔵した。SOD1G93A遺伝子を、ヒトSOD1プライマー(5'-CATCAGCCCTAATCCATCTGA-3';5'-CGCGACTAACAATCAAAGTGA-3')を有するゲノム断片を使用して決定した。SOD1プライマーを滅菌超純水中にて3μMで希釈した。簡潔には、PCR用混合物を、超純水(1試料当たり4μL)、3μMのプライマー(1試料当たり2μL)及びマスターミックス(1試料当たり10μL)を用いて調製した。PCR96ウェルプレートにおいて、16μLのPCR混合物を各ウェルに添加した。4μLの各希釈DNAを析出計画(plan deposit)に従って添加した。
RT-PCRを、CFX96 Biorad RT-PCRシステムを使用し、以下のプログラムを使用して実行した:
- 開始:95℃ - 20秒
- 45サイクル:95℃ - 10秒、65℃ - 10秒、72℃ - 30秒(データ取得)
- 融解曲線:95℃ - 15秒、64℃ - 1分、90℃ - 30秒(連続的なデータ取得)、60℃15秒
増幅プロット及び融解曲線をBioradソフトウェアによって分析した。
各試料についての結果を陰性対照(超純水)及び陽性対照と比較して、各胚の遺伝子型(WT又はTg)について結論を出した。
【0088】
脊髄SOD1運動ニューロンの培養
ラット脊髄(SC)運動ニューロンを、Martinouら、Neuron. 1992年4月;第8巻(第4号)、737~44頁及びWangら、Hum. Mol. Genet.、2013年12月1日;第22巻(第23号)、4706~19頁により記載されている通りに培養した。妊娠14日目の妊娠雌性ラットを頸部脱臼により屠殺した。胎児を回収し、2%ペニシリン(10,000U/mL)及びストレプトマイシン(10mg/mL)溶液(PS)並びに1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む、氷冷L15ライボビッツ培地に直ちに入れた。各胎児を、計数するペトリ皿(35mmの直径)に送った。胎児の尾を切断し、1.5mlDNアーゼ不含チューブ上に置いた;DNAをExtract-N-Amp組織キットで抽出した。
SOD tg胎児の遺伝子型決定を、キットFast SYBR Greenマスターミックスを用いて実施した。この遺伝子型決定は脊髄の解剖中に行い、したがって、解剖の終了時にSOD Tg脊髄及びWT脊髄の培養を行った。脊髄を取り出し、ライボビッツ(L15)の氷冷培地に入れた。
SCを、37℃で20分間、0.05%トリプシン及び0.02%EDTAの最終濃度にてトリプシン-EDTA溶液で処理した。DNアーゼIグレードII(最終濃度0.5mg/mL)及び10%ウシ胎児血清(FCS)を含有する、4.5g/リットルのグルコースを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の添加により、解離を停止させた。細胞を、10mlピペットの先端に通す3回の強制通過により機械的に解離させた。次いで、細胞を、L15培地中、BSA(3.5%)の層上で、+4℃にて180×gで10分間遠心分離した。上清を廃棄し、B27サプリメントの2%溶液、2mmol/リットルのL-グルタミン、2%のPS溶液、及び10ng/mLの脳由来神経栄養因子(BDNF)を含むNeurobasal培地からなる規定培養培地に、ペレットを再懸濁させた。生存細胞を、トリパンブルー排除試験を使用してNeubauerサイトメーターで計数した。細胞を、ポリ-L-リジンでプレコートした96ウェルプレート(免疫染色)中に1ウェル当たり20,000個の密度で播種し、37℃にて空気(95%)-CO2(5%)インキュベーター中で培養した。培地を2日毎に交換した。
【0089】
化合物処理-48時間共インキュベーション
13日目に、培地を取り出し、培養物を、規定培地中、37℃で20分間、リルゾール及びエダラボン(Edavarone)と比較した試験化合物:N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩、並びにグルタミン酸(5μM)に曝露した。グルタミン酸曝露後、培養物を、37℃にて規定培地で洗浄し、次いで試験化合物を含有する新鮮な培養培地に更に48時間入れた。
【0090】
エンドポイント評価
15日間の培養後(グルタミン酸損傷の48時間後)、細胞培養上清を取り出し、脊髄運動ニューロンを、エタノール(95%)及び酢酸(5%)の冷溶液により、-20℃で5分間固定した。
【0091】
0.1%のサポニンによる透過化後、細胞を以下と共に2時間インキュベートした:
- 1%ウシ胎児血清及び0.1%のサポニンを含有するPBS中1/400の希釈のマウスモノクローナル抗体抗微小管結合タンパク質2(MAP-2)(この抗体はすべての運動ニューロン、成熟及び早期分化したものを染色する)、この抗体はAlexa Fluor 488ヤギ抗マウスIgGで明らかになる。
- 1%ウシ胎児血清及び0.1%のサポニンを含有するPBS中1/100の希釈のウサギポリクローナル抗体抗TDP-43(この抗体は、ALSにおいて異常な移行が起こったタンパク質であるTDP43に結合する)。TDP-43(核及び細胞質)が考慮された。この抗体は、Alexa Fluor 568ヤギ抗ウサギIgGで明らかにした。ニューロンの核を蛍光マーカー(ヘキスト溶液)により標識する。
【0092】
エンドポイントは以下のものとした:
- MNの全生存(MAP-2陽性MNの数)、
- MAP-2陽性神経突起の全神経突起ネットワーク(μmで表される長さ)、
- 面積(μm2)として表されるMN中の細胞質TDP43(核外、eTDP-43)/MNの数。
【0093】
統計分析
統計分析を、実施例1に記載されている通りに行った。
【0094】
結果
グルタミン酸の適用は、MNの数を有意に低減させ、それらの神経突起ネットワークの長さを短縮させ、細胞質へのTDP-43の異常な分布を引き起こした(図3を参照)。
すべての調査した用量のN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩は、神経保護的であった。ニューロンの生存度及びTDP-43の分布に対する保護効果は、用量依存的であった。300nMの用量で、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩の保護効果は、より高いそれぞれ1μM及び5μMの濃度のリルゾール又はエダラボンの保護効果よりも大きかった。
【0095】
(実施例4)
グルタミン酸で損傷を受けた脊髄/筋肉神経筋接合部に対する、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩の効果。
ヒト筋芽細胞及びラット脊髄外植片の培養
すべての実験は、国立衛生研究所の実験動物の管理と使用に関する指針に従って行い、現在の欧州連合規則(指令2010/63/EU)に従った。
ヒト筋細胞株を、解離した細胞から樹立した(1ウェル当たり22000個の細胞)。それらを、48ウェルプレート上、水中0.1%でゼラチンコートした中にプレーティングし、グルタミン2mM、ヒトインスリン10μg/mL、ヒト組換え上皮成長因子10ng/mL(EGF)、ヒト組換え塩基性線維芽細胞成長因子2ng/mL(bFGF)、ウシ胎児血清10%(FCS)並びに2%のペニシリン10.000U/mL及びストレプトマイシン10.000μg/mL(PS)を補充した、62%のMEM培地及び25%のM199培地の混合物からなる増殖培地中で成長させた。培地を2日毎に交換する。
培養開始の5日後、衛星細胞の融合直後、4つの後根神経節(DRG)が付着した脊髄の横断切片全体を、13日齢のラットウィスター胚(Janvier Labs社、フランス)から採取し、筋肉単層上に置いた(中央領域で1ウェル当たり1つの外植片)。DRGの存在は、神経支配の良好な比率を達成するために必要である。神経支配された培養物を、5%FCS、インスリン5μg/ml、グルタミン2mM及び2%PSを補充したMEM及び培地199からなる混合(67%/25%)培地中に維持した。24時間の共培養後、脊髄外植片からの神経突起伸長が通常観察される。これらの神経突起が、筋管に接触し、神経筋接合部の形成を誘導し、最初の収縮が、共培養の約8日後に観察された。その直後、脊髄外植片に近接する神経支配された筋線維が、実質的に連続的に収縮していた。神経支配された線維は、神経支配されていない線維とは形態学的及び空間的に異なっており、それらとは容易に区別することができた。プレートを、空気(95%)-CO2(5%)の雰囲気中、加湿インキュベーター中にて37℃で維持した。
【0096】
化合物処理-48時間共インキュベーション
27日目(共培養)、共培養物をN-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩及びグルタミン酸適用と共にインキュベートした。グルタミン酸を60μMの最終濃度まで添加し、二硫酸塩の存在下、対照培地に20分間希釈した。
20分間の中毒後、上清を取り出し、N-(3-(4-(3-(ジイソブチルアミノ)プロピル)ピペラジン-1-イル)プロピル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン)二硫酸塩を含む新鮮な培養培地を更に48時間添加した。
【0097】
エンドポイント評価
免疫染色
48時間の中毒後、細胞を、培養培地中、37℃で15分間、Alexa 488と合わせた500nMα-ブンガロトキシンと共にインキュベートして、運動終板を検出した。PBS中で2回洗浄した後、細胞を、PBS中の4%のパラホルムアルデヒドの溶液、pH=7.3により、室温で20分間固定した。
細胞をPBS中で2回洗浄した。0.1%のサポニン及び1%FCSを含有するPBSの溶液を室温で15分間用いて、細胞を透過化し、非特異的部位をブロックした。
次いで、共培養物を、1%FCS、0.1%サポニンを含有するPBS中1/400の希釈のマウスモノクローナル抗ニューロフィラメント200KD抗体(NFH)と共に室温で2時間インキュベートした。NFHに対する抗体は、神経突起及び運動ニューロンの軸索を染色した。この抗体は、室温で1時間、1%FCS、0.1%サポニンを含有するPBS中1/400希釈のAlexa Fluor 568ヤギ抗マウスIgGで明らかにした。ニューロンの核を、同じ溶液中1μm/mlの核蛍光マーカーである、ヘキスト溶液により標識した。
【0098】
分析
1回の共培養を行った(1つの条件当たり6ウェル)。各条件について、ImageXpress(Molecular devices社)を使用して10×の倍率で、1ウェル当たり20枚の写真を自動的に撮影した。すべての画像を、同じ条件下で撮影した。
【0099】
以下のエンドポイントを自動的に測定した:
(1)NMJの数、
(2)NMJの平均サイズ(μm2単位でのNMJ面積)、
(3)全神経突起長(μm)(=神経支配ネットワーク)。
【0100】
統計分析
統計分析を、実施例1に記載されている通りに行った。
【0101】
結果
グルタミン酸の適用(60μM、20分)は、培地中のNMJの数(A)及び総面積(B)の有意な低減をもたらした。加えて、損傷は、神経突起(C)の有意な損失につながった。二硫酸塩(300nM)は、NMJの数、総面積、及び全神経突起ネットワークを増加させ、神経筋接合部及び神経突起ネットワークをグルタミン酸作動性ストレスから成功裏に保護したことから、用量依存的様式で神経保護効果を示した。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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