(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】モータ軸受摩耗監視装置、断線検出プログラム、断線推定プログラム、および断線検出方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/04 20190101AFI20240610BHJP
F04D 29/04 20060101ALI20240610BHJP
G01B 7/00 20060101ALI20240610BHJP
H02K 11/20 20160101ALI20240610BHJP
【FI】
G01M13/04
F04D29/04 U
G01B7/00 W
H02K11/20
(21)【出願番号】P 2024033576
(22)【出願日】2024-03-06
【審査請求日】2024-03-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】田中 琢也
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特許第7314434(JP,B1)
【文献】特開2023-162577(JP,A)
【文献】特開平03-238317(JP,A)
【文献】特開平09-113527(JP,A)
【文献】特開平11-014691(JP,A)
【文献】特開2003-139812(JP,A)
【文献】特開2001-021383(JP,A)
【文献】特開2004-240611(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111983452(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/04
F04D 29/04
G01B 7/00
H02K 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルそれぞれの検出信号に基づいて、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置であって、
複数の前記検出コイルは、
前記回転軸のラジアル方向における前記磁束変化を検出する一組のラジアル検出コイルと、
前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を検出する一組のスラスト検出コイルと、
を含み、
前記スラスト方向において、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト検出コイルとは、前記ステータの一方向側または他方向側の端部に配置されて、
前記ラジアル検出コイルは、前記ラジアル検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたラジアル合成信号が流れるラジアル信号経路に電気的に接続されて、
前記スラスト検出コイルは、前記スラスト検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたスラスト合成信号が流れるスラスト信号経路に電気的に接続されて、
前記ラジアル合成信号の電圧値より小さくなるように設定されるラジアル閾値と、前記スラスト合成信号の電圧値より小さくなるように設定されるスラスト閾値と、を記憶する閾値記憶部と、
前記ラジアル信号経路を流れるラジアル経路信号と、前記スラスト信号経路を流れるスラスト経路信号と、を取得する取得部と、
前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれの断線の有無を検出する断線検出部と、
を有してなり、
前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれが断線していないとき、
前記ラジアル合成信号は、前記ラジアル経路信号として前記ラジアル信号経路を流れて、
前記スラスト合成信号は、前記スラスト経路信号として前記スラスト信号経路を流れて、
前記断線検出部は、
前記ラジアル経路信号の電圧値と前記ラジアル閾値とに基づいて、前記ラジアル検出コイルと前記ラジアル信号経路との前記断線の有無を検出して、
前記スラスト経路信号の電圧値と前記スラスト閾値とに基づいて、前記スラスト検出コイルと前記スラスト信号経路との前記断線の有無を検出する、
モータ軸受摩耗監視装置。
【請求項2】
前記ラジアル合成信号の電圧値のうち、最大値となるラジアル最大電圧値と、
前記スラスト合成信号の電圧値のうち、最大値となるスラスト最大電圧値と、
を更新して記憶する電圧値記憶部、
を有してなり、
前記ラジアル閾値は、前記ラジアル最大電圧値に基づいて設定されて、
前記スラスト閾値は、前記スラスト最大電圧値に基づいて設定される、
請求項1に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項3】
前記ラジアル閾値は、前記ラジアル経路信号に含まれるノイズ成分の信号レベルに基づいて、設定されて、
前記スラスト閾値は、前記スラスト経路信号に含まれるノイズ成分の信号レベルに基づいて、設定される、
請求項2に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項4】
前記ラジアル閾値は、前記スラスト閾値よりも小さい、
請求項3に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項5】
前記ラジアル閾値と、前記スラスト閾値それぞれを設定する閾値設定部、
を有してなる、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項6】
複数の前記検出コイルは、
一組の前記ラジアル検出コイルとして機能する一組の第1ラジアル検出コイルおよび一組の第2ラジアル検出コイルと、
一組の前記スラスト検出コイルとして機能する一組の第1スラスト検出コイルおよび一組の第2スラスト検出コイルと、
を含み、
前記第1ラジアル検出コイルと前記第1スラスト検出コイルとは、前記ステータの前記一方向側の端部に配置されて、
前記第2ラジアル検出コイルと前記第2スラスト検出コイルとは、前記ステータの前記他方向側の端部に配置されて、
前記ラジアル信号経路は、
前記第1ラジアル検出コイルと電気的に接続されて、前記第1ラジアル検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成された第1合成信号が前記ラジアル合成信号として流れる第1経路と、
前記第2ラジアル検出コイルと電気的に接続されて、前記第2ラジアル検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成された第2合成信号が前記ラジアル合成信号として流れる第2経路と、
を備えて、
前記スラスト信号経路は、
前記第1スラスト検出コイルと電気的に接続されて、前記第1スラスト検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成された第3合成信号が前記スラスト合成信号として流れる第3経路と、
前記第2スラスト検出コイルと電気的に接続されて、前記第2スラスト検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成された第4合成信号が前記スラスト合成信号として流れる第4経路と、
を備えて、
前記ラジアル閾値は、
前記第1合成信号の電圧値より小さくなるように設定される第1閾値と、
前記第2合成信号の電圧値より小さくなるように設定される第2閾値と、
を含み、
前記スラスト閾値は、
前記第3合成信号の電圧値より小さくなるように設定される第3閾値と、
前記第4合成信号の電圧値より小さくなるように設定される第4閾値と、
を含み、
前記取得部は、
前記第1経路を流れる第1信号と前記第2経路を流れる第2信号それぞれを前記ラジアル経路信号として取得して、
前記第3経路を流れる第3信号と前記第4経路を流れる第4信号それぞれを前記スラスト経路信号として取得して、
前記検出コイルと、前記第1経路と、前記第2経路と、前記第3経路と、前記第4経路それぞれが断線していないとき、
前記第1合成信号は、前記第1信号として前記第1経路を流れて、
前記第2合成信号は、前記第2信号として前記第2経路を流れて、
前記第3合成信号は、前記第3信号として前記第3経路を流れて、
前記第4合成信号は、前記第4信号として前記第4経路を流れて、
前記断線検出部は、
前記第1信号の電圧値と前記第1閾値とに基づいて、前記第1ラジアル検出コイルと前記第1経路との前記断線の有無を検出して、
前記第2信号の電圧値と前記第2閾値とに基づいて、前記第2ラジアル検出コイルと前記第2経路との前記断線の有無を検出して、
前記第3信号の電圧値と前記第3閾値とに基づいて、前記第1スラスト検出コイルと前記第3経路との前記断線の有無を検出して、
前記第4信号の電圧値と前記第4閾値とに基づいて、前記第2スラスト検出コイルと前記第4経路との前記断線の有無を検出する、
請求項1に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項7】
キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルそれぞれの検出信号に基づいて、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置であって、
複数の前記検出コイルは、
前記回転軸のラジアル方向における前記磁束変化を検出する一組のラジアル検出コイルと、
前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を検出する一組のスラスト検出コイルと、
を含み、
前記スラスト方向において、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト検出コイルとは、前記ステータの一方向側または他方向側の端部に配置されて、
前記ラジアル検出コイルは、前記ラジアル検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたラジアル合成信号が流れるラジアル信号経路に電気的に接続されて、
前記スラスト検出コイルは、前記スラスト検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたスラスト合成信号が流れるスラスト信号経路に電気的に接続されて、
前記ラジアル合成信号の電圧値のうち、最大値となるラジアル最大電圧値と、
前記スラスト合成信号の電圧値のうち、最大値となるスラスト最大電圧値と、
を更新して記憶する電圧値記憶部と、
前記ラジアル信号経路を流れるラジアル経路信号と、前記スラスト信号経路を流れるスラスト経路信号と、前記ラジアル最大電圧値と、前記スラスト最大電圧値と、を取得する取得部と、
前記ラジアル経路信号の電圧値と前記ラジアル最大電圧値とが入力されたとき、前記ラジアル検出コイルと前記ラジアル信号経路との断線の有無を推定するように機械学習された学習済みのラジアル学習モデルと、
前記スラスト経路信号の電圧値と前記スラスト最大電圧値とが入力されたとき、前記スラスト検出コイルと前記スラスト信号経路との断線の有無を推定するように機械学習された学習済みのスラスト学習モデルと、
を記憶する学習モデル記憶部と、
前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれの断線の有無を推定する断線推定部と、
を有してなり、
前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれが断線していないとき、
前記ラジアル合成信号は、前記ラジアル経路信号として前記ラジアル信号経路を流れて、
前記スラスト合成信号は、前記スラスト経路信号として前記スラスト信号経路を流れて、
前記断線推定部は、
前記ラジアル経路信号の前記電圧値と前記ラジアル最大電圧値とを前記ラジアル学習モデルに入力して、前記ラジアル検出コイルと前記ラジアル信号経路それぞれの断線の有無を推定して、
前記スラスト経路信号の前記電圧値と前記スラスト最大電圧値とを前記スラスト学習モデルに入力して、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト信号経路それぞれの断線の有無を推定する、
モータ軸受摩耗監視装置。
【請求項8】
コンピュータを請求項1に記載のモータ軸受摩耗監視装置として機能させる、
断線検出プログラム。
【請求項9】
コンピュータを請求項7に記載のモータ軸受摩耗監視装置として機能させる、
断線推定プログラム。
【請求項10】
キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルそれぞれの検出信号に基づいて、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置により実行される断線検出方法であって、
複数の前記検出コイルは、
前記回転軸のラジアル方向における前記磁束変化を検出する一組のラジアル検出コイルと、
前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を検出する一組のスラスト検出コイルと、
を含み、
前記スラスト方向において、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト検出コイルとは、前記ステータの一方向側または他方向側の端部に配置されて、
前記ラジアル検出コイルは、前記ラジアル検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたラジアル合成信号が流れるラジアル信号経路に電気的に接続されて、
前記スラスト検出コイルは、前記スラスト検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたスラスト合成信号が流れるスラスト信号経路に電気的に接続されて、
前記モータ軸受摩耗監視装置は、
前記ラジアル合成信号の電圧値より小さくなるように設定されるラジアル閾値と、前記スラスト合成信号の電圧値より小さくなるように設定されるスラスト閾値と、を記憶する閾値記憶部、
を備えて、
前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれが断線していないとき、
前記ラジアル合成信号は、ラジアル経路信号として前記ラジアル信号経路を流れて、
前記スラスト合成信号は、スラスト経路信号として前記スラスト信号経路を流れて、
前記断線検出方法は、
前記モータ軸受摩耗監視装置が、前記ラジアル信号経路から前記ラジアル経路信号を取得して、前記スラスト信号経路から前記スラスト経路信号を取得する、取得ステップと、
前記モータ軸受摩耗監視装置が、前記ラジアル経路信号の電圧値と前記ラジアル閾値とに基づいて、前記ラジアル検出コイルと前記ラジアル信号経路それぞれの前記断線を検出して、前記スラスト経路信号の電圧値と前記スラスト閾値とに基づいて、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト信号経路それぞれの前記断線を検出する、断線検出ステップと、
を含む、
断線検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ軸受摩耗監視装置、断線検出プログラム、断線推定プログラム、および断線検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャンドモータポンプは、ポンプとモータとが一体で、取扱液の漏洩が無い構造を有している。一般的に、キャンドモータポンプの回転構造部分(ロータ、回転軸、軸受、およびインペラ)は、取扱液で満たされるキャンに密封されている。そのため、キャンドモータポンプの内部構造は、外部から目視により監視できない。したがって、このような構造を有するキャンドモータポンプを効率よく運用するために、軸受の摩耗状態を監視する装置(以下「監視装置」という。)が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている監視装置は、検出コイルを用いてロータの回転時の磁束変化を測定することにより、軸受の摩耗により生じるロータ(回転軸)の半径方向および軸方向の変位を監視している。検出コイルは、ステータの長手方向の両端に埋め込まれるように取り付けられている。そのため、検出コイルの断線の有無は、キャンドモータポンプの外部からは視覚的に確認できず、電気的に確認せざるを得ない。電気的な確認には、端子台へのアクセスが必要となる。しかしながら、作業者の安全面の観点から、動作中のキャンドモータポンプの端子台へのアクセスは難しく、防爆雰囲気下では端子台の露出も制限される。したがって、電気的な確認には、キャンドモータポンプの停止が必要となるが、キャンドモータポンプの停止は、製造設備やプラントの停止に繋がるため、容易ではない。
【0005】
本発明は、キャンドモータポンプを停止させることなく安全に検出コイルの断線の有無を確認可能なモータ軸受摩耗監視装置、断線検出プログラム、断線推定プログラム、および断線検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様におけるモータ軸受摩耗監視装置は、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルそれぞれの検出信号に基づいて、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置であって、複数の前記検出コイルは、前記回転軸のラジアル方向における前記磁束変化を検出する少なくとも一組のラジアル検出コイルと、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を検出する少なくとも一組のスラスト検出コイルと、を含み、前記スラスト方向において、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト検出コイルとは、前記ステータの一方向側または他方向側の端部に配置されて、前記ラジアル検出コイルは、前記ラジアル検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたラジアル合成信号が流れるラジアル信号経路に電気的に接続されて、前記スラスト検出コイルは、前記スラスト検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたスラスト合成信号が流れるスラスト信号経路に電気的に接続されて、前記ラジアル合成信号の電圧値より小さくなるように設定されるラジアル閾値と、前記スラスト合成信号の電圧値より小さくなるように設定されるスラスト閾値と、を記憶する閾値記憶部と、前記ラジアル信号経路を流れるラジアル経路信号と、前記スラスト信号経路を流れるスラスト経路信号と、を取得する取得部と、前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれの断線の有無を検出する断線検出部と、を有してなり、前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれが断線していないとき、前記ラジアル合成信号は、前記ラジアル経路信号として前記ラジアル信号経路を流れて、前記スラスト合成信号は、前記スラスト経路信号として前記スラスト信号経路を流れて、前記断線検出部は、前記ラジアル経路信号の電圧値と前記ラジアル閾値とに基づいて、前記ラジアル検出コイルと前記ラジアル信号経路との前記断線の有無を検出して、前記スラスト経路信号の電圧値と前記スラスト閾値とに基づいて、前記スラスト検出コイルと前記スラスト信号経路との前記断線の有無を検出する。
【0007】
本発明の一実施態様におけるモータ軸受摩耗監視装置は、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルそれぞれの検出信号に基づいて、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置であって、複数の前記検出コイルは、前記回転軸のラジアル方向における前記磁束変化を検出する一組のラジアル検出コイルと、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を検出する一組のスラスト検出コイルと、を含み、前記スラスト方向において、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト検出コイルとは、前記ステータの一方向側または他方向側の端部に配置されて、前記ラジアル検出コイルは、前記ラジアル検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたラジアル合成信号が流れるラジアル信号経路に電気的に接続されて、前記スラスト検出コイルは、前記スラスト検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたスラスト合成信号が流れるスラスト信号経路に電気的に接続されて、前記ラジアル合成信号の電圧値のうち、最大値となるラジアル最大電圧値と、前記スラスト合成信号の電圧値のうち、最大値となるスラスト最大電圧値と、を更新して記憶する電圧値記憶部と、前記ラジアル信号経路を流れるラジアル経路信号と、前記スラスト信号経路を流れるスラスト経路信号と、前記ラジアル最大電圧値と、前記スラスト最大電圧値と、を取得する取得部と、前記ラジアル経路信号の電圧値と前記ラジアル最大電圧値とが入力されたとき、前記ラジアル検出コイルと前記ラジアル信号経路との断線の有無を推定するように機械学習された学習済みのラジアル学習モデルと、前記スラスト経路信号の電圧値と前記スラスト最大電圧値とが入力されたとき、前記スラスト検出コイルと前記スラスト信号経路との断線の有無を推定するように機械学習された学習済みのスラスト学習モデルと、を記憶する学習モデル記憶部と、前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれの断線の有無を推定する断線推定部と、を有してなり、前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれが断線していないとき、前記ラジアル合成信号は、前記ラジアル経路信号として前記ラジアル信号経路を流れて、前記スラスト合成信号は、前記スラスト経路信号として前記スラスト信号経路を流れて、前記断線推定部は、前記ラジアル経路信号の前記電圧値と前記ラジアル最大電圧値とを前記ラジアル学習モデルに入力して、前記ラジアル検出コイルと前記ラジアル信号経路それぞれの断線の有無を推定して、前記スラスト経路信号の前記電圧値と前記スラスト最大電圧値とを前記スラスト学習モデルに入力して、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト信号経路それぞれの断線の有無を推定する。
【0008】
本発明の一実施態様における断線検出プログラムは、コンピュータを上記1つ目の実施態様におけるモータ軸受摩耗監視装置として機能させる。
【0009】
本発明の一実施態様における断線推定プログラムは、コンピュータを上記2つ目の実施態様におけるモータ軸受摩耗監視装置として機能させる。
【0010】
本発明の一実施態様における断線検出方法は、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルそれぞれの検出信号に基づいて、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置により実行される断線検出方法であって、複数の前記検出コイルは、前記回転軸のラジアル方向における前記磁束変化を検出する一組のラジアル検出コイルと、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を検出する一組のスラスト検出コイルと、を含み、前記スラスト方向において、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト検出コイルとは、前記ステータの一方向側または他方向側の端部に配置されて、前記ラジアル検出コイルは、前記ラジアル検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたラジアル合成信号が流れるラジアル信号経路に電気的に接続されて、前記スラスト検出コイルは、前記スラスト検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたスラスト合成信号が流れるスラスト信号経路に電気的に接続されて、前記モータ軸受摩耗監視装置は、前記ラジアル合成信号の電圧値より小さくなるように設定されるラジアル閾値と、前記スラスト合成信号の電圧値より小さくなるように設定されるスラスト閾値と、を記憶する閾値記憶部、を備えて、前記検出コイルと、前記ラジアル経路と、前記スラスト経路それぞれが断線していないとき、前記ラジアル合成信号は、ラジアル経路信号として前記ラジアル信号経路を流れて、前記スラスト合成信号は、スラスト経路信号として前記スラスト信号経路を流れて、前記断線検出方法は、前記モータ軸受摩耗監視装置が、前記ラジアル信号経路から前記ラジアル経路信号を取得して、前記スラスト信号経路から前記スラスト経路信号を取得する、取得ステップと、前記モータ軸受摩耗監視装置が、前記ラジアル経路信号の電圧値と前記ラジアル閾値とに基づいて、前記ラジアル検出コイルと前記ラジアル信号経路それぞれの前記断線を検出して、前記スラスト経路信号の電圧値と前記スラスト閾値とに基づいて、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト信号経路それぞれの前記断線を検出する、断線検出ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、キャンドモータポンプを停止させることなく安全に検出コイルの断線の有無を確認可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図1のキャンドモータポンプが備えるモータ部の縦断面を示す模式断面図である。
【
図3】
図2のモータ部のうち、A部の模式拡大断面図である。
【
図4】本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【
図5】
図4のモータ軸受摩耗監視装置が備える検出コイルの配置を示すステータコアの模式斜視図である。
【
図7】
図5の検出コイルが出力する検出信号の一例を示す模式図である。
【
図8】
図4のモータ軸受摩耗監視装置が備えるRAMに記憶されている情報の一例を示す模式図である。
【
図9】
図4のモータ軸受摩耗監視装置が備える表示部の外観の一例を示す模式図である。
【
図10】
図4のモータ軸受摩耗監視装置が備えるオフセット処理部の機能ブロック図である。
【
図11】
図4のモータ軸受摩耗監視装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図12】
図11の動作に含まれる更新処理の一例を示すフローチャートである。
【
図13】
図11の動作に含まれるラジアル側断線検出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図14】
図11の動作に含まれるスラスト側断線検出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図15】
図11の動作に含まれる摩耗量検出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図16】本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置の別の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【
図17】
図16のモータ軸受摩耗監視装置が備える記憶部に記憶されている情報の一例を示す模式図である。
【
図18】
図16のモータ軸受摩耗監視装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図19】
図20の動作に含まれるラジアル側断線推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図20】
図20の動作に含まれるスラスト側断線推定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、キャンドモータポンプのモータ軸受摩耗監視装置に、検出コイルおよびその信号経路の断線を自動的に検出する機能を具備させることにより、キャンドモータポンプを停止させることなく安全に検出コイルおよびその信号経路の断線の有無を確認可能とするものである。各用語の詳細は、後述される。
【0014】
本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置(以下「本装置」という。)、本発明に係る断線検出プログラム(以下「本検出プログラム」という。)、本発明に係る断線推定プログラム(以下「本推定プログラム」という。)、および本発明に係る断線検出方法(以下「本検出方法」という。)の実施の形態が、以下に説明される。以下の説明において、各図面は、適宜参照される。各図面において、同一の部材および要素については同一の符号が付されて、重複する説明は省略される。また、各要素の寸法比率は、説明の便宜上、誇張されている場合が有り、各図面に示されている比率に限定されない。
【0015】
●キャンドモータポンプ●
●キャンドモータポンプの構成
【0016】
図1は、キャンドモータポンプの側面図である。
同図は、説明の便宜上、キャンドモータポンプ1の上半部を断面図として示している。
【0017】
キャンドモータポンプ1(以下単に「ポンプ1」という。)は、取扱液の漏洩が無い構造を有していて、特に、高温の液体、または危険性の高い液体(例えば、爆発性、引火性、または毒性を有する液体)の送液に用いられているポンプである。ポンプ1は、ポンプ部2、モータ部3、アダプタ4、および本装置5を有してなる。
【0018】
ポンプ1の構成のうち、ポンプ部2、モータ部3、およびアダプタ4の構成は、公知のキャンドモータポンプの構成と共通している。そのため、以下の説明において、ポンプ部2、モータ部3、およびアダプタ4の構成は、概略のみが説明されて、詳細な説明は省略される。
【0019】
以下の説明において、「フロント方向」はモータ部3に対してポンプ部2が位置する方向(前方)であり、「リア方向」はポンプ部2に対してモータ部3が位置する方向(後方)である。
【0020】
ポンプ部2は、取扱液を吸引・吐出する。ポンプ部2は、筐体20、インペラ21、ポンプ室22、吸引管部23、および吐出管部24を備える。筐体20は、インペラ21を収容するポンプ室22、ポンプ室22に吸引される取扱液の経路である吸引管部23、およびポンプ室22から吐出される取扱液の経路である吐出管部24を形成している。ポンプ室22は、吸引管部23および吐出管部24に連通している。
【0021】
モータ部3は、所定の駆動条件(例えば、200V、60Hz)で駆動して、インペラ21を回転させる。モータ部3は、筐体30、回転軸31、2つの軸受32,33、2つのスラストワッシャ34,35、ロータ36、ステータ37、キャン38、およびターミナル端子39を備える。モータ部3は、本発明におけるモータの一例である。
【0022】
図2は、モータ部3の縦断面を示す模式断面図である。
図3は、
図2のモータ部3のうち、A部の模式拡大断面図である。
以下の説明において、
図1は、適宜参照される。
【0023】
筐体30は、ステータ37およびキャン38を液密に収容している。
【0024】
回転軸31は、ロータ36の回転により回転して、回転動力をインペラ21に伝達する。回転軸31の形状は、円柱状である。回転軸31は、ロータ36に挿通されていて、ロータ36に固定されている。回転軸31の前端部はポンプ室22内に突出していて、同前端部にはインペラ21が取り付けられている。回転軸31は、回転軸31のフロント部およびリア部を保護する円筒状のスリーブ31a,31bを備える。
【0025】
以下の説明において、「スラスト方向」は回転軸31の軸方向であり、「ラジアル方向」「径方向」は回転軸31の半径方向であり、「周方向」は回転軸31の円周方向である。
【0026】
軸受32は、ロータ36のフロント方向に配置されていて、回転軸31を回転自在に支持している。軸受33は、ロータ36のリア方向に配置されていて、回転軸31を回転自在に支持している。軸受32,33は、例えば、滑り軸受である。スラストワッシャ34は、回転軸31のうち、軸受32とロータ36との間に取り付けられていて、回転軸31のフロント方向への移動を制限している。スラストワッシャ35は、回転軸31のうち、軸受33とロータ36との間に取り付けられていて、回転軸31のリア方向への移動を制限している。
【0027】
軸受32,33とスラストワッシャ34,35との間には、長さL1の間隔が形成されている。軸受32,33とスリーブ31a,31bとの間には、長さL2の間隔が形成されている。
【0028】
ロータ36は、ステータ37に生じる回転磁界により回転する。ロータ36の形状は、円筒状である。ロータ36は、周方向においてロータ36の外周縁部に等間隔で埋設されている複数(本実施の形態では28個)の棒状のロータバー36aを備える。
【0029】
ステータ37は、ロータ36を回転させる回転磁界を生成する。ステータ37の形状は、略円筒状である。ステータ37は、ステータコア37a、および複数のモータ巻線37bを備える。
【0030】
ステータコア37aは、モータ巻線37bを保持している。ステータコア37aの形状は、円筒状である。ステータコア37aは、複数の歯部37c(
図6参照。以下同じ。)を備える。
【0031】
歯部37cは、モータ巻線37bが挿通されるスロット37d(
図6参照。以下同じ。)を形成している。周方向において、歯部37cは、ステータコア37aの内周面に等間隔で配置されている。モータ巻線37bは、スロット37dに挿通されていて、ターミナル端子39を介して、例えば、インバータなどの電源装置(不図示)に接続されている。
【0032】
キャン38は、回転軸31、軸受32,33、スラストワッシャ34,35、ロータ36を液密に収容している。キャン38の形状は、円筒状である。吸引管部23から導入された取扱液の一部は、キャン38内に導入されて、軸受32,33およびモータ部3の冷却に用いられて、吐出管部24に排出される。
【0033】
アダプタ4は、ポンプ部2のリア側の端部とモータ部3のフロント側の端部とに接続されていて、ポンプ部2とモータ部3とを連結している。
【0034】
本装置5は、ステータ37に対するロータ36の機械的な位置変化に対応する磁束変化を検出することにより、回転軸31を支持する軸受32,33の摩耗状態を監視する。本装置5の具体的な構成は、後述される。
【0035】
●モータ軸受摩耗監視装置(1)●
●モータ軸受摩耗監視装置(1)の構成
次に、本装置5の構成が、以下に説明される。以下の説明において、
図1~
図3は、適宜参照される。
【0036】
図4は、本装置5の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【0037】
本装置5は、8つの検出コイルC1,C2,C3,C4,C5,C6,C7,C8、接続部50、2つの共通経路Lc1,Lc2、6つの信号経路L11,L12,L13,L14,L15,L16、4つの信号処理回路51a,51b,51c,51d、A/D変換器52、制御部53、記憶部54、表示部55、およびオフセット処理部56を備える。A/D変換器52および制御部53は、例えば、マイクロコンピュータにより実現されている。
【0038】
図5は、検出コイルC1~C8の配置を示すステータコア37aの模式斜視図である。
図6は、
図5のうち、B部の拡大斜視図である。
【0039】
検出コイルC1~C8は、ステータ37に対するロータ36の位置変化(変位)に対応する磁束変化を検出して、磁束変化を示す検出信号(誘導電流)を生成して、出力する。ロータ36は、軸受32,33のラジアル方向の摩耗量に応じて回転軸31と共にラジアル方向に変位して、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量に応じて回転軸31と共にスラスト方向に変位する。すなわち、ロータ36の変位量は、軸受32,33の摩耗量とみなすことができる。そのため、本装置5は、検出コイルC1~C8を用いてロータ36の変位量を検出することにより、軸受32,33の摩耗量を検出できる。検出コイルC1~C8の形状は、扁平なボビン状である。検出コイルC1~C8は、ステータ37のフロント側およびリア側の端部の歯部37cに形成されている切欠き37eに嵌め込まれている。
【0040】
周方向において、検出コイルC1~C4は、ステータ37の歯部37cのフロント側の端部に等間隔(90°間隔)で取り付けられている。周方向において、検出コイルC1は検出コイルC3に対して「180°」の位置に向かい合うように配置され、検出コイルC2は検出コイルC4に対して「180°」の位置に向かい合うように配置されている。一方、周方向において、検出コイルC5~C8は、ステータ37の歯部37cのリア側の端部に等間隔(90°間隔)で取り付けられている。周方向において、検出コイルC5は検出コイルC7に対して「180°」の位置に向かい合うように配置され、検出コイルC6は検出コイルC8に対して「180°」の位置に向かい合うように配置されている。すなわち、ラジアル方向(径方向)において、検出コイルC1,C2,C5,C6は、対応する検出コイルC3,C4,C7,C8と向かい合うように配置されている。
【0041】
なお、本発明において、検出コイルC1,C2,C5,C6は対応する検出コイルC3,C4,C7,C8と向かい合うように配置されていればよく、その位置関係は正確な「180°」の位置に限定されない。すなわち、例えば、製造誤差、またはステータ37の形状などにより、周方向におけるその位置関係は「180°」から数度(例えば、1°~5°)程度ずれていてもよい。
【0042】
また、本発明において、周方向における検出コイルC1(検出コイルC3)と検出コイルC2(検出コイルC4)との間の角度は、0°~180°の間で適宜設定可能であり、90°に限定されない。すなわち、例えば、周方向において、検出コイルC2は、検出コイルC1と同じ位置(0°)に配置可能である。この場合、軸方向において、検出コイルC2は、検出コイルC1のリア方向(またはフロント方向)に並ぶように配置される。このような配置は、検出コイルC5(検出コイルC7)および検出コイルC6(検出コイルC8)についても同様である。
【0043】
【0044】
検出コイルC1~C8の検出信号は、モータ部3の主磁束の変化に対応する波形(以下「基本波成分」という。)、およびロータ36のロータバー36aに流れる誘導電流により発生する磁束の変化に対応する波形(以下「高調波成分」という。)を含んでいる。基本波成分はモータ部3の駆動電圧により発生して、その周波数は駆動電圧の駆動周波数と同じである。高調波成分はロータバー36aに流れる誘導電流により発生して、その周波数はロータ36の回転およびロータバー36aの数により定まる。すなわち、例えば、次の条件(駆動周波数:60Hz、ロータバー36aの数:28個)では、ロータ36が1回転する間に検出コイルC1~C8それぞれはロータバー36aによる磁束の変化を28回検出する。そのため、高調波成分の周波数は、「60Hz×28=1.68kHz」となる。このように、基本波成分は駆動周波数に基づいて定まり、高調波成分はロータ36の回転、駆動周波数、およびロータバー36aの数に基づいて定まる。
【0045】
以下の説明において、
図3~
図5が主に参照される。
検出コイルC1,C3,C5,C7は、軸受32,33とスリーブ31a,31bとの間の間隔(L2)が広がることによるロータ36のラジアル方向の変位に対応する磁束変化を検出することにより、ロータ36のラジアル方向の変位量(すなわち、軸受32,33のラジアル方向の摩耗量)を検出する。検出コイルC1は、共通経路Lc1および検出コイルC3に電気的に接続されている。検出コイルC3は、接続部50を介して信号経路L11に電気的に接続されている。検出コイルC1,C3は一組のラジアル検出コイルを構成していて、それぞれの検出信号が打ち消し合うように直列に接続されている。検出コイルC5は、共通経路Lc2および検出コイルC7に電気的に接続されている。検出コイルC7は、接続部50を介して信号経路L12に電気的に接続されている。検出コイルC5,C7は他の一組のラジアル検出コイルを構成していて、それぞれの検出信号が打ち消し合うように直列に接続されている。検出コイルC1,C3,C5,C7は、本発明におけるラジアル検出コイルの一例である。検出コイルC1,C3は本発明における第1ラジアル検出コイルの一例であり、検出コイルC5,C7は本発明における第2ラジアル検出コイルの一例である。
【0046】
ロータ36のフロント側が初期位置からラジアル方向に変位すると、高調波成分の信号レベルは、一組となる検出コイルC1,C3のうち、ロータ36が近づく側(例えば、検出コイルC1)では増加して、ロータ36が遠ざかる側(例えば、検出コイルC3)では減少する。このとき、検出コイルC1,C3に対するロータ36の相対的な移動距離は同じであるため、信号レベルの増加量は減少量と同じである。一方、基本波成分の信号レベルは、増減しない。そのため、検出コイルC1,C3それぞれの検出信号がその差分を取る(生成する)ように合成されると、その合成信号(以下「合成信号(S13)」という。)では、変位量の増加に応じて高調波成分の信号レベルの差分が増加する。この差分により、ロータ36のフロント側のラジアル方向の変位量が検出可能である。すなわち、同差分は軸受32のラジアル方向の摩耗量を示していて、同差分の値は電圧値で表される。同様に、検出コイルC5,C7それぞれの検出信号の合成信号(以下「合成信号(S57)」という。)では、変位量の増加に応じて高調波成分の信号レベルの差分が増加する。この差分により、ロータ36のリア側のラジアル方向の変位量が検出可能である。すなわち、同差分は軸受33のラジアル方向の摩耗量を示していて、同差分の値は電圧値で表される。したがって、例えば、ロータ36のラジアル方向の変位が無いとき、各合成信号(S13,S57)において、基本波成分および高調波成分は打ち消し合い、理論上、その電圧値は「0」となる。一方、ロータ36のラジアル方向の変位が有るとき、各合成信号(S13,S57)において、変位量に応じて高調波成分の差分が増加して、その電圧値は同差分に応じて増加する。また、検出コイルC1,C3は検出コイルC5,C7とは独立しているため、合成信号(S13,S57)それぞれの値を比較することにより、軸受32,33の偏摩耗(一方が他方よりも摩耗している状態)が検出可能である。合成信号(S13)は本発明におけるラジアル合成信号および第1合成信号の一例であり、合成信号(S57)は本発明におけるラジアル合成信号および第2合成信号の一例である。
【0047】
検出コイルC2,C4,C6,C8は、軸受32,33とスラストワッシャ34,35との間の間隔(L1)が広がることによるロータ36のスラスト方向の変位に対応する磁束変化を検出することにより、ロータ36のスラスト方向の変位量(すなわち、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量)を検出可能である。検出コイルC2は、共通経路Lc2および検出コイルC4に電気的に接続されている。検出コイルC4は、接続部50を介して信号経路L13に電気的に接続されている。検出コイルC2,C4は一組のスラスト検出コイルを構成していて、互いの検出信号が重畳されるように直列に接続されている。そのため、検出コイルC2,C4それぞれからの検出信号は重畳するように合成されて、合成信号(S24)が生成される。検出コイルC6は、共通経路Lc2および検出コイルC8に電気的に接続されている。検出コイルC8は、接続部50を介して信号経路L14に電気的に接続されている。検出コイルC6,C8は他の一組のスラスト検出コイルを構成していて、互いの検出信号が重畳されるように直列に接続されている。そのため、検出コイルC6,C8それぞれからの検出信号は重畳するように合成されて、合成信号(S68)が生成される。検出コイルC2,C4,C6,C8は、本発明におけるスラスト検出コイルの一例である。検出コイルC2,C4は本発明における第1スラスト検出コイルの一例であり、検出コイルC6,C8は本発明における第2スラスト検出コイルの一例である。合成信号(S24)は本発明におけるスラスト合成信号および第3合成信号の一例であり、合成信号(S68)は本発明におけるスラスト合成信号および第4合成信号の一例である。
【0048】
ロータ36が初期位置からリア側に変位すると、スラスト方向において、検出コイルC2,C4とロータ36のフロント側の端部(エンドリング)との重なりは殆ど変わらないが、検出コイルC6,C8とロータ36のリア側の端部(エンドリング)との重なりは減少する。その結果、合成信号(S24)の基本波成分の信号レベルは殆ど変化しないが、合成信号(S68)の基本波成分の信号レベルは低下する。同様に、ロータ36が初期位置からフロント側に変位すると、合成信号(S68)の基本波成分の信号レベルは殆ど変化しないが、合成信号(S24)の基本波成分の信号レベルは低下する。そのため、合成信号(S24)と合成信号(S68)との合成となる差分により、ロータ36のスラスト方向の変位量が検出可能である。すなわち、同差分は、ロータ36のスラスト方向の変位量、つまり、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を示していて、同差分の値は電圧値で表される。したがって、例えば、ロータ36のスラスト方向の変位が無いとき、差分において基本波成分および高調波成分が打ち消し合い、理論上、その電圧値は「0」となる。一方、ロータ36のスラスト方向の変位が有るとき、一方側の合成信号(例えば、合成信号(S24))の基本波成分の信号レベルは変位量に応じて低下し、他方側の合成信号(例えば、合成信号(S68))の基本波成分の信号レベルは殆ど変化しない。そのため、差分を示す信号において基本波成分の差分値(電圧値)は変位量に応じて増加する。また、合成信号(S24,S68)の大小を比較することにより、スラスト方向における変位の方向が検出可能である。
【0049】
接続部50は、検出コイルC1~C8が接続されているインターフェイスである。接続部50には、共通経路Lc1,Lc2、検出コイルC3,C7,C4,C8、および信号経路L11~L14が接続されている。共通経路Lc1,Lo2は、接続部50を介して、グラウンドに接続されている。
【0050】
信号処理回路51a~51dは、対応する検出コイルC1~C8の組に接続されていて、対応する合成信号(S13,S57,S24,S68)に所定の信号処理(整流、AC-DC変換)を実行して、同合成信号(S13,S57,S24,S68)を交流から直流に変換する。信号処理回路51a~51dは、例えば、フィルタ回路、整流回路および積分回路により構成されている。信号処理回路51aは、信号経路L11に接続されていて、合成信号(S13)を交流から直流に変換する。直流に変換された合成信号(S13)は、信号経路L11を介してA/D変換器52に入力される。信号処理回路51bは、信号経路L12に接続されていて、合成信号(S57)を交流から直流に変換する。直流に変換された合成信号(S57)は、信号経路L12を介してA/D変換器52に入力される。信号処理回路51cは、信号経路L13に接続されていて、合成信号(S24)を交流から直流に変換する。直流に変換された合成信号(S24)は、信号経路L13を介してA/D変換器52に入力されると共に、信号経路L15を介してオフセット処理部56に入力される。信号処理回路51dは、信号経路L14に接続されていて、合成信号(S68)を交流から直流に変換する。直流に変換された合成信号(S68)は、信号経路L14を介してA/D変換器52に入力されると共に、信号経路L16を介してオフセット処理部56に入力される。
【0051】
共通経路Lc1、接続部50、信号経路L11、および信号処理回路51aは、検出コイルC1,C3と電気的に接続されていて、合成信号(S13)が流れる第1経路L1を形成している。共通経路Lc1、接続部50、信号経路L12、および信号処理回路51bは、検出コイルC5,C7に電気的に接続されていて、合成信号(S57)が流れる第2経路L2を形成している。共通経路Lc2、接続部50、信号経路L13、および信号処理回路51cは、検出コイルC2,C4に電気的に接続されていて、合成信号(S24)が流れる第3経路L3を形成している。共通経路Lc2、接続部50、信号経路L14、および信号処理回路51dは、検出コイルC6,C8に接続されていて、合成信号(S68)が流れる第4経路L4を形成している。第1経路L1および第2経路L2は本発明におけるラジアル信号経路の一例であり、第3経路L3および第4経路L4は本発明におけるスラスト信号経路の一例である。すなわち、ラジアル信号経路は第1経路L1および第2経路L2を含み、スラスト信号経路は第3経路L3および第4経路L4を含む。
【0052】
A/D変換器52は、信号処理回路51a~51d、後述される演算回路56cおよび差分絶対値変換回路56dそれぞれから入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して、制御部53に出力する。
【0053】
制御部53は、本装置5全体の動作を制御する。制御部53は、例えば、CPU(Central Processing Unit)53aなどのプロセッサ、CPU53aの作業領域として機能するRAM(Random Access Memory)53bなどの揮発性メモリ、および、本検出プログラムや他の制御プログラム(例えば、摩耗量検出プログラムなど)などの各種情報を記憶するROM(Read Only Memory)53cなどの不揮発性メモリ、により構成されている。制御部53は、第1取得部530、摩耗量検出部531、第2取得部532、更新部533、閾値設定部534、断線検出部535、および表示制御部536を備える。RAM53bは、本発明における閾値記憶部および電圧値記憶部の一例である。摩耗量検出プログラムは、後述される摩耗量検出処理(ST4:
図15参照)の実行に必要なプログラムである。
【0054】
制御部53では、本検出プログラムが動作して、本検出プログラムが本装置5のハードウェア資源と協働して、後述される本検出方法を実現している。また、制御部53を構成しているプロセッサ(CPU53a)に本検出プログラムを実行させることにより、本検出プログラムは同プロセッサを第2取得部532、更新部533、閾値設定部534、断線検出部535、および表示制御部536として機能させて、同プロセッサに本検出方法を実行させることができる。さらに、コンピュータに本検出プログラムおよび摩耗量検出プログラムを実行させることにより、本検出プログラムおよび摩耗量検出プログラムは、コンピュータを本装置5として機能させることができる。
【0055】
なお、本発明において、本検出プログラムは、記憶部54に記憶されていてもよい。また、本検出プログラムは、インストール可能なファイル形式、または、実行可能なファイル形式で非一時的な記憶媒体(例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、USB(Universal Serial Bus)メモリなど)に記憶されていて、専用の読み込み媒体を介して本装置5に提供されてもよい。
【0056】
第1取得部530は、合成信号(S13)、合成信号(S57)、および合成信号(S24)と合成信号(S68)との差分を示す信号(後述される差分信号(Sd))を取得する。第1取得部530の具体的な動作は、後述される。
【0057】
摩耗量検出部531は、第1取得部530により取得された各合成信号(S13,S57)の電圧値に基づいて、ロータ36のフロント側およびリア側のラジアル方向の変位量を検出することにより、軸受32,33のラジアル方向の摩耗量を検出する。また、摩耗量検出部531は、差分信号(Sd)の電圧値に基づいて、ロータ36のスラスト方向の変位量を検出することにより、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を検出する。摩耗量検出部531の具体的な動作は、後述される。
【0058】
第2取得部532は、後述される第1最大電圧値~第4最大電圧値、第1信号(S1)、第2信号(S2)、第3信号(S3)、および第4信号(S4)を取得する。第2取得部532は、本発明における取得部の一例である。第2取得部532の具体的な動作は、後述される。
【0059】
なお、本発明において、第2取得部532は第1取得部530として機能していてもよく、第1取得部530は第2取得部532として機能していてもよい。
【0060】
「第1信号(S1)」は、第1経路L1を流れる信号である。検出コイルC1,C3および第1経路L1が断線していないとき、第1信号(S1)は、合成信号(S13)だけでなく、ノイズ成分を含み得る。換言すれば、検出コイルC1,C3および第1経路L1が断線していないとき、合成信号(S13)は、第1信号(S1)として第1経路L1を流れている。一方、検出コイルC1,C3または第1経路L1が断線しているとき、第1信号(S1)は、合成信号(S13)を含んでおらず、主にノイズ成分を含み得る。換言すれば、検出コイルC1,C3および第1経路L1が断線しているとき、ノイズ成分は、第1信号(S1)として第1経路L1を流れ得る。
【0061】
「ノイズ成分」は、ノイズ源(例えば、モータ部3、モータ部3に供給される電源など)からの電磁ノイズに由来して、検出コイルC1~C8および第1経路L1~第4経路L4に流れる第1信号(S1)~第4信号(S4)に含まれるノイズを示す信号成分(波形)である。ノイズ成分の原因は複数存在していて、ノイズ成分の信号レベル(すなわち、電圧値)はその原因ごと、ノイズの侵入経路ごとに異なる。
【0062】
「第2信号(S2)」は、第2経路L2を流れる信号である。第1信号(S1)と同様に、検出コイルC5,C7および第2経路L2が断線していないとき、合成信号(S57)は、第2信号(S2)として第2経路L2を流れている。一方、検出コイルC5,C7または第2経路L2が断線しているとき、ノイズ成分は、第2信号(S2)として第2経路L2を流れ得る。
【0063】
「第3信号(S3)」は、第3経路L3を流れる信号である。第1信号(S1)と同様に、検出コイルC2,C4および第3経路L3が断線していないとき、合成信号(S24)は、第3信号(S3)として第3経路L3を流れている。一方、検出コイルC2,C4または第3経路L3が断線しているとき、ノイズ成分は、第3信号(S3)として第3経路L3を流れて得る。
【0064】
「第4信号(S4)」は、第4経路L4を流れる信号である。第1信号(S1)と同様に、検出コイルC6,C8および第4経路L4が断線していないとき、合成信号(S68)は、第4信号(S4)として第4経路L4を流れている。一方、検出コイルC6,C8または第4経路L4が断線しているとき、ノイズ成分は、第4信号(S4)として第4経路L4を流れ得る。
【0065】
第1信号(S1)および第2信号(S2)は本発明におけるラジアル経路信号の一例であり、第3信号(S3)および第4信号(S4)は、本発明におけるスラスト経路信号の一例である。すなわち、ラジアル経路信号は第1信号(S1)および第2信号(S2)を含み、スラスト経路信号は第3信号(S3)および第4信号(S4)を含む。
【0066】
更新部533は、RAM53bに記憶されている第1最大電圧値、第2最大電圧値、第3最大電圧値、および第4最大電圧値を更新する。更新部533の具体的な動作は、後述される。
【0067】
「第1最大電圧値」は、第1経路L1から取得される合成信号(S13)の電圧値のうち、最大値となる電圧値である。
【0068】
「第2最大電圧値」は、第2経路L2から取得される合成信号(S57)の電圧値のうち、最大値となる電圧値である。
【0069】
「第3最大電圧値」は、第3経路L3から取得される合成信号(S24)の電圧値のうち、最大値となる電圧値である。
【0070】
「第4最大電圧値」は、第4経路L4から取得される合成信号(S68)の電圧値のうち、最大値となる電圧値である。
【0071】
第1最大電圧値および第2最大電圧値は本発明におけるラジアル最大電圧値の一例であり、第3最大電圧値および第4最大電圧値は、本発明におけるスラスト最大電圧値の一例である。すなわち、ラジアル最大電圧値は第1最大電圧値および第2最大電圧値を含み、スラスト最大電圧値は第3最大電圧値および第4最大電圧値を含む。
【0072】
閾値設定部534は、第1最大電圧値~第4最大電圧値に基づいて、第1閾値、第2閾値、第3閾値、および第4閾値を設定する。設定された第1閾値~第4閾値は、RAM53bに記憶されている。第1閾値~第4閾値の詳細、および閾値設定部534の具体的な動作は、後述される。
【0073】
図8は、RAM53bに記憶されている情報の一例を示す模式図である。
同図は、第1最大電圧値が「V1
max」であり、第2最大電圧値が「V2
max」であり、第3最大電圧値が「V3
max」であり、第4最大電圧値が「V4
max」であり、第1閾値が「V
t1」であり、第2閾値が「V
t2」であり、第3閾値が「V
t3」であり、第4閾値が「V
t4」であること、を示している。また、同図は、第1最大電圧値~第4最大電圧値および第1閾値~第4閾値がRAM53bに記憶されていること、を示している。
【0074】
以下の説明において、
図4が主に参照される。
断線検出部535は、第1信号(S1)~第4信号(S4)および第1閾値~第4閾値に基づいて、検出コイルC1~C8および第1経路L1~第4経路L4の断線の有無を検出する。断線検出部535の具体的な動作は、後述される。
【0075】
表示制御部536は、摩耗量検出部531により検出された摩耗量、および、断線検出部535により検出された断線の有無に基づいて、表示部55の表示を制御する。表示制御部536の具体的な動作は、後述される。
【0076】
記憶部54は、本装置5の動作に必要な情報(例えば、オフセット情報、第1対応関係情報、第2対応関係情報など)を記憶する。記憶部54は、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)やフラッシュメモリなどの不揮発性メモリである。
【0077】
「オフセット情報」は、後述されるオフセット処理において、合成信号(S24)に加算または減算されるオフセット電圧を示す情報(例えば、電圧値)である。オフセット情報は、例えば、所定の基準駆動条件(例えば、駆動周波数:60Hz、駆動電圧:200V)において、本ポンプ1の出荷前に予め測定または設定されていて、記憶部54に記憶されている。
【0078】
「オフセット処理」は、基準駆動条件において、合成信号(S24)と合成信号(S68)との差分値がロータ36のスラスト方向の変位量(軸受32,33のスラスト方向の摩耗量)を正しく示すように、合成信号(S24)にオフセット電圧を加算または減算する処理を意味する。オフセット処理により、スラスト方向におけるステータ37に対するロータ36の磁気的な中心位置は、スラスト方向におけるステータ37に対するロータ36の機械的な中心位置に仮想的に合わせられる(両中心位置が一致する)。
【0079】
オフセット電圧が合成信号(S24)に加算される信号(加算信号)か減算される信号(減算信号)かは、合成信号(S24,S68)の大小により決定されている。すなわち、例えば、合成信号(S24)が合成信号(S68)より大きいときオフセット電圧は減算信号であり、その逆のときオフセット情報は加算信号である。本実施の形態では、オフセット電圧は、加算信号である。この大小関係は、オフセット処理が実行されていない信号、すなわち、第3経路L3および第4経路L4からA/D変換器52に入力される合成信号(S24,S68)に基づいて、決定されている。
【0080】
「第1対応関係情報」は、所定の駆動条件において、ステータ37に対するロータ36のスラスト方向の位置(変位量)と、合成信号(S24)と合成信号(S68)との差分値と、の対応関係を示す情報である。すなわち、第1対応関係情報は、所定の駆動条件における軸受32,33のスラスト方向の摩耗量と電圧値との対応関係を示している。
【0081】
「第2対応関係情報」は、所定の駆動条件において、ステータ37に対するロータ36のラジアル方向の位置(変位量)と、合成信号(S13,S57)の電圧値と、の対応関係を示す情報である。すなわち、第2対応関係情報は、所定の駆動条件における軸受32,33のラジアル方向の摩耗量と電圧値との対応関係を示している。
【0082】
図9は、表示部55の外観の一例を示す模式図である。
【0083】
表示部55は、軸受32,33の摩耗状態、回転軸31の回転方向、および検出コイルC1~C8および第1経路L1~第4経路L4の断線の有無を表示する。表示部55は、例えば、ラジアル方向およびスラスト方向の摩耗状態、回転方向、および断線の有無を表示する複数のLED(Light Emitting Diode)を備える。表示部55は、ラジアル方向およびスラスト方向の摩耗状態を、「緑」「黄」「赤」の3段階で表示して、回転方向を点灯(正転)および消灯(逆転)で表示している。また、表示部55は、断線の有無を点灯(断線有り)および消灯(断線無し)で表示している。
【0084】
図10は、オフセット処理部56の機能ブロック図である。
【0085】
オフセット処理部56は、オフセット情報に基づいて、オフセット処理を実行する。オフセット処理部56は、D/A変換器56a、オフセット電圧生成回路56b、演算回路56c、および差分絶対値変換回路56dを備える。
【0086】
D/A変換器56aは、オフセット情報をデジタル信号からアナログ信号に変換する。
【0087】
オフセット電圧生成回路56bは、アナログ信号に変換されたオフセット情報に基づいて、検出コイルC2,C4の合成信号(S24)に加算または減算されるオフセット電圧を生成する。
【0088】
演算回路56cは、合成信号(S24)にオフセット電圧を加算または減算することにより同合成信号(S24)にオフセット処理を実行すると共に、オフセット処理後の合成信号(S24)と、合成信号(S68)と、の差分値を算出する。信号経路L13は、信号処理回路51cとA/D変換器52との間において、信号経路L15を介して演算回路56cに接続されている。信号経路L14は、信号処理回路51dとA/D変換器52との間において、信号経路L16を介して演算回路56cに接続されている。
【0089】
差分絶対値変換回路56dは、演算回路56cにより算出された差分値を絶対値に変換する。この絶対値を示す信号(以下「差分信号(Sd)」という。)は、A/D変換器52によりデジタル信号に変換されて、制御部53に入力される。
【0090】
●第1閾値~第4閾値の設定
次に、第1閾値~第4閾値の設定が、以下に説明される。
【0091】
「第1閾値」は、検出コイルC1,C3または第1経路L1の断線の有無を区分けするために用いられる閾値である。第1閾値は、第1最大電圧値、および、検出コイルC1,C3および第1経路L1を流れるノイズ成分の信号レベルに基づいて設定される。第1閾値は、第3閾値および第4閾値よりも小さい。
【0092】
「第2閾値」は、検出コイルC5,C7または第2経路L2の断線の有無を区分けするために用いられる閾値である。第2閾値は、第2最大電圧値、および、検出コイルC5,C7および第2経路L2を流れるノイズ成分の信号レベルに基づいて設定される。第2閾値は、第3閾値および第4閾値よりも小さい。
【0093】
「第3閾値」は、検出コイルC2,C4または第3経路L3の断線の有無を区分けするために用いられる閾値である。第3閾値は、第3最大電圧値、および、検出コイルC2,C4および第3経路L3を流れるノイズ成分の信号レベルに基づいて設定される。
【0094】
「第4閾値」は、検出コイルC6,C8または第4経路L4の断線の有無を区分けするために用いられる閾値である。第4閾値は、第4最大電圧値、および、検出コイルC6,C8および第4経路L4を流れるノイズ成分の信号レベルに基づいて設定される。
【0095】
第1閾値および第2閾値は本発明におけるラジアル閾値の一例であり、第3閾値および第4閾値は、本発明におけるスラスト閾値の一例である。すなわち、ラジアル閾値は第1閾値および第2閾値を含み、スラスト閾値は第3閾値および第4閾値を含む。
【0096】
一般的に、センサが故障した場合、センサからの信号を受信する受信機器が信号の異常値を検出することにより、受信機器はセンサの故障を検出できる。しかしながら、後述のとおり、本装置5は、合成信号(S24)と合成信号(S68)との差分値(絶対値)を示す差分信号(Sd)に基づいてスラスト方向の摩耗量を検出している。この検出方式では、仮に、一方の信号の経路が断線しても、他方の信号は正常値として残る。そして、スラスト方向の摩耗量は、差分信号(Sd)の基本波成分の電圧値に基づいて検出される。そのため、一方の信号が残っていると、その信号の基本波成分の電圧値により疑似的にスラスト方向の摩耗量(当然ながら、その摩耗量は真の摩耗量とは異なる)が検出され得る。その結果、単に、差分信号(Sd)の電圧値のみを用いる断線の検出方法では、異常値が検出されず、検出コイルC2,C4,C6,C8、第3経路L3、および第4経路L4の断線は検出できない場合がある。したがって、検出コイルC2,C4,C6,C8、第3経路L3、および第4経路L4の断線を検出するためには、差分信号(Sd)の電圧値の評価よりも、合成信号(S24,S68)の電圧値の評価が適している。
【0097】
一方、後述のとおり、本装置5は、合成信号(S13,S57)の電圧値に基づいてラジアル方向の摩耗量を検出している。この検出方式では、例えば、第1経路L1が断線すると、第1信号(S1)には合成信号(S13)が含まれず、理論上、その信号レベルは「0」になる。この場合、本装置5は、その値が異常値であることを認識して、検出コイルC1,C3または第1経路L1の断線を検出可能である。このとき、閾値を用いて異常値を検出する場合、閾値は、少なくとも合成信号(S13)の電圧値より小さくなくてはならない。ここで、ラジアル方向の摩耗量は、合成信号(S13,S57)それぞれの高調波成分の電圧値に基づいて検出される。そして、高調波成分の信号レベル(電圧値)は、正常時でも小さく(例えば、数十mV~300mV程度)、ノイズ成分の信号レベル(電圧値)と同程度となることもあり得る。そのため、仮に、検出コイルC1,C3または第1経路L1に断線が生じていても、ノイズ成分が含まれている第1信号(S1)の信号レベルは「0」にはならず、ノイズ成分が合成信号(S13)として誤認され得る。その結果、単に、合成信号(S13,S57)の電圧値のみを用いる断線の検出方法では、異常値が正常値として検出され得る。したがって、同検出方法では、検出コイルC1,C3,C5,C7、第1経路L1、および第2経路L2の断線の検出は難しい。このように、検出コイルC1,C3,C5,C7、第1経路L1、および第2経路L2の断線の検出には、本装置5特有の技術的課題が存在している。そこで、検出コイルC1,C3,C5,C7、第1経路L1、および第2経路L2の断線を検出するためには、ノイズ成分を考慮した閾値処理が必要となる。
【0098】
また、一般的に、モータの回転速度(回転数)は、インバータ制御により駆動周波数を可変させることにより変更される。このとき、駆動電圧を下げることなく駆動周波数のみを下げるとモータが焼損するため、一般的に、駆動周波数および駆動電圧は、同時に変更される。この駆動周波数の増減と駆動電圧との増減とは、比例関係となる。前述のとおり、検出信号の基本波成分は駆動電圧により発生するため、基本波成分の信号レベル(電圧値)は駆動周波数および駆動電圧の増減に比例して増減する。また、モータの回転数が増減すると、高調波成分の周波数およびその信号レベルも増減する。さらに、軸受32,33が摩耗するにつれて、合成信号(S13,S57)の電圧値は増加する。また、検出コイルC1~C8および第1経路L1~第4経路L4における接触抵抗は経時的に増加して、その増加に応じて各合成信号(S13,S57,S24,S68)の電圧値は増加する。したがって、本装置5において、固定値は、断線を検出するための閾値として適していない。
【0099】
そこで、本装置5では、第1閾値~第4閾値が電圧値の最新のトレンドに応じて変わるように、第1閾値~第4閾値は第1最大電圧値~第4最大電圧値に所定の係数を乗算することにより設定されている。すなわち、「係数」は、第1閾値~第4閾値を設定するために第1最大電圧値~第4最大電圧値に乗算される係数(%)である。具体的には、第1閾値「Vt1」は第1最大電圧値「V1max」に係数「A1」を乗じた値であり、第2閾値「Vt2」は第2最大電圧値「V2max」に係数「A2」を乗じた値であり、第3閾値「Vt3」は第3最大電圧値「V3max」に係数「A3」を乗じた値であり、第4閾値「Vt4」は第4最大電圧値「V4max」に閾値「A4」を乗じた値である。すなわち、第1閾値~第4閾値は、各合成信号(S13,S57,S24,S68)の電圧値(第1最大電圧値~第4最大電圧値)に基づいて増加する可変値である。各係数は、例えば、ポンプ1の出荷時に、作業者などにより、想定されるノイズ成分の信号レベルに基づいて予め設定されていて、本検出プログラムに組み込まれて、ROM53cに記憶されている。
【0100】
各係数は、対応する第1信号(S1)~第4信号(S4)に含まれるノイズ成分の信号レベルに基づいて設定されている。具体的には、各係数は、第1閾値~第4閾値が各合成信号(S13,S57,S24,S68)の電圧値よりも小さくなり、かつ、凡そのノイズ成分の信号レベルを上回るように、設定されている。
【0101】
例えば、第1閾値の設定の場合、前述のとおり、合成信号(S13)の電圧値は、小さく、ノイズ成分の電圧値と同程度となり得る。そのため、第1閾値が大きく設定されると、正常値までもが異常値(断線)と判定され得る。ここで、ノイズ成分の電圧値は安定せず、大きく変動している。また、ノイズ成分の種類も様々である。そのため、第1閾値が小さく設定されていても、ノイズ成分の電圧値が第1閾値を超える頻度は少なく、仮に、ノイズ成分の電圧値が第1閾値を超えても、同電圧値が第1閾値を下回るタイミングは存在する。また、合成信号(S13)の電圧値の変動幅は、比較的狭い(例えば、0V~300mV程度)。そのため、第1閾値が正常値よりも大きく離れた値に設定されている方が、誤検出が生じ難い。したがって、第1閾値の設定に用いられる係数は比較的小さい値(例えば、30%)に設定されている。このような設定は、第2閾値の設定に用いられる係数も同様である。
【0102】
一方、例えば、第3閾値の設定の場合、合成信号(S24)の電圧値は、大きく(例えば、1V~1.5V程度)、ノイズ成分の電圧値よりも十分に大きい。そのため、第3閾値は、ノイズ成分の電圧値よりも大きく設定できる。ここで、前述のとおり、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量が増加すると、合成信号(S24,S68)のうちの一方の電圧値は、減少する。そのため、第3閾値の設定に用いられる係数は、軸受32,33がスラスト方向に摩耗しても、正常値が第3閾値を下回ることがなく、かつ、第3閾値がノイズ成分の電圧値よりも大きくなるような値(例えば、50%)に、設定されている。このような設定は、第4閾値の設定に用いられる係数も同様である。
【0103】
このように、各係数は、ノイズ成分の信号レベル(電圧値)に基づいて、設定されている。換言すれば、第1閾値~第4閾値は、ノイズ成分の信号レベル(電圧値)に基づいて、設定されている。
【0104】
なお、本発明において、各係数は、「0%」より大きく、かつ、「50%」以下であることが好ましく、本実施の形態に限定されない。
【0105】
●キャンドモータポンプ(モータ軸受摩耗監視装置(1))の動作
次に、ポンプ1の動作が、本装置5の動作を中心に以下に説明される。以下の説明において、
図1~
図10は、適宜参照される。
【0106】
図11は、本装置5の動作の一例を示すフローチャートである。
【0107】
ポンプ1の動作中、モータ部3には駆動電源が供給されていて、ロータ36、回転軸31およびインペラ21は所定の回転数で回転している。このとき、本装置5は、更新処理(ST1)、ラジアル側断線検出処理(ST2)、スラスト側断線検出処理(ST3)、および摩耗量検出処理(ST4)を常時繰り返し実行している。ラジアル側断線検出処理(ST2)およびスラスト側断線検出処理(ST3)は、本検出方法の一例である。
【0108】
●更新処理
図12は、更新処理(ST1)の一例を示すフローチャートである。
【0109】
「更新処理(ST1)」は、ポンプ1の動作中、各合成信号(S13,S57,S24,S68)の電圧値を定期的に取得して、RAM53bに記憶されている第1最大電圧値~第4最大電圧値を更新して記憶する処理である。本装置5が起動したとき、更新処理(ST1)は、最初に実行される。検出コイルC1~C8は、ロータ36の回転中、常に検出信号を出力している。
【0110】
先ず、第2取得部532は、第1経路L1からA/D変換器52に入力された合成信号(S13)を第1信号(S1)として取得して、第2経路L2からA/D変換器52に入力された合成信号(S57)を第2信号(S2)として取得して、第3経路L3からA/D変換器52に入力された合成信号(S24)を第3信号(S3)として取得して、第4経路L4からA/D変換器52に入力された合成信号(S68)を第4信号(S4)として取得して、各合成信号(S13,S57,S24,S68)の電圧値「V1」~「V4」を取得する(ST11:更新取得ステップ)。各合成信号(S13,S57,S24,S68)の取得は、所定時間(例えば、10ms)ごとに実行されている。
【0111】
次いで、更新部533は、取得された電圧値「V1」~「V4」と、RAM53bに記憶されている第1最大電圧値「V1max」~第4最大電圧値「V4max」と、を比較する(ST12:更新比較ステップ)。具体的には、更新部533は、合成信号(S13)の電圧値「V1」と第1最大電圧値「V1max」とを比較して、合成信号(S57)の電圧値「V2」と第2最大電圧値「V2max」とを比較して、合成信号(S24)の電圧値「V3」と第3最大電圧値「V3max」とを比較して、合成信号(S68)の電圧値「V4」と第4最大電圧値「V4max」とを比較する。
【0112】
各合成信号(S13,S57,S24,S68)の電圧値「V1」~「V4」のいずれかが、対応する第1最大電圧値「V1max」~第4最大電圧値「V4max」よりも大きいとき(ST12の「Y」)、更新部533は、RAM53bに記憶されている第1最大電圧値「V1max」~第4最大電圧値「V4max」のうち、該当する電圧値「V1max」~「V4max」のみを対応する電圧値「V1」~「V4」により更新する(ST13:電圧値更新ステップ)。すなわち、RAM53bは、更新部533の判定結果に基づいて、第1最大電圧値「V1max」~第4最大電圧値「V4max」を更新して記憶する。
【0113】
次いで、閾値設定部534は、更新された第1最大電圧値「V1max」~第4最大電圧値「V4max」に基づいて、対応する第1閾値「Vt1」~第4閾値「Vt4」を設定する(ST14:閾値更新ステップ)。処理(ST14)は、更新された第1最大電圧値「V1max」~第4最大電圧値「V4max」に対応する第1閾値「Vt1」~第4閾値「Vt4」にのみ実行される。対応する第1閾値「Vt1」~第4閾値「Vt4」の設定後、制御部53は更新処理(ST1)を終了させる。
【0114】
一方、各合成信号(S13,S57,S24,S68)の電圧値「V1」~「V4」のいずれもが、対応する第1最大電圧値「V1max」~第4最大電圧値「V4max」以下のとき(ST12の「N」)、更新部533は第1最大電圧値「V1max」~第4最大電圧値「V4max」を更新せず、制御部53は更新処理(ST1)を終了させる。
【0115】
なお、本発明において、処理(ST14)は、第1閾値~第4閾値のすべてに実行されてもよい。
【0116】
また、本発明において、本装置5が起動したとき、第1最大電圧値~第4最大電圧値の全てが更新されて、第1閾値~第4閾値の全てが設定されるとよい。
【0117】
●ラジアル側断線検出処理
図13は、ラジアル側断線検出処理(ST2)の一例を示すフローチャートである。
【0118】
「ラジアル側断線検出処理(ST2)」は、軸受32,33のラジアル方向の摩耗量を検出するための信号(合成信号(S13,S57))の経路の断線の有無を検出する処理である。すなわち、ラジアル側断線検出処理(ST2)は、検出コイルC1,C3,C5,C7および第1経路L1~第2経路L2の断線の有無を自動的に検出する処理である。
【0119】
先ず、第2取得部532は、第1経路L1からA/D変換器52に入力された第1信号(S1)の電圧値「V1」を取得して、第2経路L2からA/D変換器52に入力された第2信号(S2)の電圧値「V2」を取得する(ST21:第1取得ステップ)。電圧値「V1」「V2」の取得は、所定時間(例えば、10ms)ごとに実行されている。ここで、検出コイルC1,C3,C5,C7および第1経路L1~第2経路L2が断線していないとき、第2取得部532は、第1信号(S1)として合成信号(S13)を取得して、第2信号(S2)として合成信号(S57)を取得している。
【0120】
なお、本発明において、処理(ST21)は、更新処理(ST1)における処理(ST11)により代用されていてもよい。すなわち、第2取得部532は、処理(ST11)において取得された電圧値「V1」「V2」を取得していてもよい。
【0121】
次いで、断線検出部535は、取得された合成信号(S13)の電圧値「V1」と第1閾値「Vt1」とを比較する(ST22:第1比較ステップ)。
【0122】
電圧値「V1」が第1閾値「Vt1」未満のとき(ST22の「Y」)、断線検出部535は、検出コイルC1,C3および第1経路L1に断線が有る(異常)と判定する(ST23)。すなわち、断線検出部535は、検出コイルC1,C3および第1経路L1の断線を検出する。このとき、第1信号(S1)は、合成信号(S13)を含んでおらず、ノイズ成分を含み得る。換言すれば、ノイズ成分は、第1信号(S1)として第1経路L1を流れ得る。
【0123】
一方、電圧値「V1」が第1閾値「Vt1」以上のとき(ST22の「N」)、断線検出部535は、検出コイルC1,C3および第1経路L1に断線が無い(正常)と判定する(ST24)。このとき、合成信号(S13)は、第1信号(S1)として第1経路L1を流れている。
【0124】
次いで、断線検出部535は、取得された合成信号(S57)の電圧値「V2」と第2閾値「Vt2」とを比較する(ST25:第2比較ステップ)。
【0125】
電圧値「V2」が第2閾値「Vt2」未満のとき(ST25の「Y」)、断線検出部535は、検出コイルC5,C7および第2経路L2に断線が有る(異常)と判定する(ST26)。すなわち、断線検出部535は、検出コイルC5,C7および第2経路L2の断線を検出する。このとき、第2信号(S2)は、合成信号(S57)を含んでおらず、ノイズ成分を含み得る。換言すれば、ノイズ成分は、第2信号(S2)として第2経路L2を流れ得る。
【0126】
一方、電圧値「V2」が第2閾値「Vt2」以上のとき(ST25の「N」)、断線検出部535は、検出コイルC5,C7および第2経路L2に断線が無い(正常)と判定する(ST27)。このとき、合成信号(S57)は、第2信号(S2)として第2経路L2を流れている。
【0127】
次いで、表示制御部536は、断線検出部535の判定結果に基づいて、表示部55の表示態様を変更する(ST28:第1表示ステップ)。具体的には、断線検出部535が「異常」と判定したとき、表示制御部536は、表示部55のラジアル側のLEDを点灯させる。一方、断線検出部535が「正常」と判定したとき、表示制御部536は、表示部55のラジアル側のLEDを消灯させる。次いで、制御部53は、ラジアル側断線検出処理(ST2)を終了させる。
【0128】
このように、ラジアル側断線検出処理(ST2)では、検出コイルC1,C3および第1経路L1の断線の有無の判定に、第1閾値が用いられている。前述のとおり、第1閾値は、「0」には設定されておらず、第1信号(S1)に含まれるノイズ成分に対応した値に設定されている。そのため、検出コイルC1,C3または第1経路L1が断線したとき、第1信号がノイズ成分を含んでいても(電圧値が「0」でなくても)、断線検出部535は、その断線を検出できる。ここで、第1閾値の係数の設定上、第1信号(S1)が正常時の合成信号(S13)と同程度の信号レベルを有するノイズ成分を含んでいると、断線検出部535は、断線を検出できず、誤検出し得る。しかしながら、ノイズ成分の電圧値は、不安定であり、大きく変動している。そのため、誤検出は瞬間的に生じ得るが、ノイズ成分の電圧値が第1閾値を下回ったとき、断線検出部535は、検出コイルC1,C3および第1経路L1の断線を検出できる。このような効果は、検出コイルC5,C7および第2経路L2の断線の有無の判定においても同様に奏される。
【0129】
また、ラジアル側断線検出処理(ST2)では、断線検出部535は、ラジアル方向の摩耗量の検出に用いられる合成信号(S13,S57)を用いて、検出コイルC1,C3,C5,C7および第1経路L1~第2経路L2の断線の有無を自動的に判定することにより、同断線を自動的に検出している。そのため、本装置5は、ラジアル側断線検出処理(ST2)の実行において、専用の配線や回路を必要としない。また、本装置5は、第1経路L1および第2経路L2に接続される端子(端子台)に対する本装置5の外部からのアクセスを必要としない。すなわち、本装置5は、検出コイルC1,C3,C5,C7などの断線の有無を確認するための本装置5の外部からの端子台へのアクセスを必要としない。したがって、ポンプ1の使用者は、ポンプ1を停止させることなく安全に検出コイルC1,C3,C5,C7および第1経路L1~第2経路L2の断線の有無を確認できる。
【0130】
なお、本発明において、断線検出部535は、所定時間の間に、取得された電圧値が複数回第1閾値未満となったとき、検出コイルC1,C3および第1経路L1の断線を検出してもよい。このような検出方法は、検出コイルC5,C7および第2経路L2の断線の検出においても同様である。
【0131】
●スラスト側断線検出処理
図14は、スラスト側断線検出処理(ST3)の一例を示すフローチャートである。
【0132】
「スラスト側断線検出処理(ST3)」は、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を検出するための信号(合成信号(S24,S68))の経路の断線の有無を検出する処理である。すなわち、スラスト側断線検出処理(ST3)は、検出コイルC2,C4,C6,C8および第3経路L3~第4経路L4の断線の有無を自動的に検出する処理である。
【0133】
先ず、第2取得部532は、第3経路L3からA/D変換器52に入力された第3信号(S3)の電圧値「V3」を取得して、第4経路L4からA/D変換器52に入力された第4信号(S4)の電圧値「V4」を取得する(ST31:第2取得ステップ)。電圧値「V3」「V4」の取得は、所定時間(例えば、10ms)ごとに実行されている。ここで、検出コイルC2,C4,C6,C8および第3経路L3~第4経路L4が断線していないとき、第2取得部532は、第3信号(S3)として合成信号(S24)を取得して、第4信号(S4)として合成信号(S68)を取得している。
【0134】
なお、本発明において、処理(ST31)は、更新処理(ST1)における処理(ST11)により代用されていてもよい。すなわち、第2取得部532は、処理(ST11)において取得された電圧値「V3」「V4」を取得していてもよい。
【0135】
次いで、断線検出部535は、取得された合成信号(S24)の電圧値「V3」と第3閾値「Vt3」とを比較する(ST32:第3比較ステップ)。
【0136】
電圧値「V3」が第3閾値「Vt3」未満のとき(ST32の「Y」)、断線検出部535は、検出コイルC2,C4および第3経路L3に断線が有る(異常)と判定する(ST33)。すなわち、断線検出部535は、検出コイルC2,C4および第3経路L3の断線を検出する。このとき、第3信号(S3)は、合成信号(S24)を含んでおらず、ノイズ成分を含み得る。換言すれば、ノイズ成分は、第3信号(S3)として第3経路L3を流れ得る。
【0137】
一方、電圧値「V3」が第3閾値「Vt3」以上のとき(ST32の「N」)、断線検出部535は、検出コイルC2,C4および第3経路L3に断線が無い(正常)と判定する(ST34)。このとき、合成信号(S24)は、第3信号(S3)として第3経路L3を流れている。
【0138】
次いで、断線検出部535は、取得された合成信号(S68)の電圧値「V4」と第4閾値「Vt4」とを比較する(ST35:第4比較ステップ)。
【0139】
電圧値「V4」が第4閾値「Vt4」未満のとき(ST35の「Y」)、断線検出部535は、検出コイルC6,C8および第4経路L4に断線が有る(異常)と判定する(ST36)。すなわち、断線検出部535は、検出コイルC6,C8および第4経路L4の断線を検出する。このとき、第4信号(S4)は、合成信号(S68)を含んでおらず、ノイズ成分を含み得る。換言すれば、ノイズ成分は、第4信号(S4)として第4経路L4を流れ得る。
【0140】
一方、電圧値「V4」が第4閾値「Vt4」以上のとき(ST35の「N」)、断線検出部535は、検出コイルC6,C8および第4経路L4に断線が無い(正常)と判定する(ST37)。このとき、合成信号(S68)は、第4信号(S4)として第4経路L4を流れている。
【0141】
次いで、表示制御部536は、断線検出部535の判定結果に基づいて、表示部55の表示態様を変更する(ST38:第2表示ステップ)。具体的には、断線検出部535が「異常」と判定したとき、表示制御部536は、表示部55のスラスト側のLEDを点灯させる。一方、断線検出部535が「正常」と判定したとき、表示制御部536は、表示部55のスラスト側のLEDを消灯させる。次いで、制御部53は、スラスト側断線検出処理(ST3)を終了させる。
【0142】
このように、スラスト側断線検出処理(ST3)では、検出コイルC2,C4および第3経路L3の断線の有無の判定に、第3閾値が用いられている。前述のとおり、第3閾値は、「0」には設定されておらず、第3信号に含まれるノイズ成分に対応した値に設定されている。そのため、検出コイルC2,C4または第3経路L3が断線したとき、第3信号がノイズ成分を含んでいても(電圧値が「0」でなくても)、断線検出部535は、その断線を確実に検出できる。このような効果は、検出コイルC6,C8および第4経路L4の断線の有無の判定においても同様に奏される。
【0143】
また、スラスト側断線検出処理(ST3)では、断線検出部535は、オフセット電圧の加算/減算の決定に用いられる合成信号(S24,S68)を用いて、検出コイルC2,C4,C6,C8、第3経路L3、および第4経路L4の断線の有無を自動的に判定することにより、同断線を自動的に検出している。すなわち、断線検出部535は、スラスト方向の摩耗量を検出するために用いられる差分信号(Sd)の生成に必要な合成信号(S24,S68)を用いて断線を検出している。そのため、本装置5は、スラスト側断線検出処理(ST3)の実行において、専用の配線や回路を必要としない。すなわち、従来のモータ軸受摩耗検出装置において、配線および回路構成の変更をすることなく、本検出プログラムの追加のみで、本検出方法が実行可能である。また、本装置5は、第3経路L3および第4経路L4に接続される端子(端子台)に対する本装置5の外部からのアクセスを必要としない。すなわち、本装置5は、検出コイルC2,C4,C6,C8などの断線の有無を確認するための本装置5の外部からの端子台へのアクセスを必要としない。したがって、ポンプ1の使用者は、ポンプ1を停止させることなく安全に検出コイルC2,C4,C6,C8および第3経路L3~第4経路L4の断線の有無を確認できる。
【0144】
●摩耗量検出処理
図15は、摩耗量検出処理(ST4)の一例を示すフローチャートである。
【0145】
「摩耗量検出処理(ST4)」は、各合成信号(S13,S57,S24,S68)に基づいて、軸受32,33の摩耗量を検出する処理である。摩耗量検出処理(ST4)は、本装置5により実行される摩耗量検出方法の一例である。
【0146】
検出コイルC1~C8は、ロータ36の回転中、常に検出信号を出力している。検出コイルC1,C3,C5,C7からの合成信号(S13,S57)は、第1経路L1および第2経路L2を流れて、A/D変換器52に入力される。
【0147】
検出コイルC2,C4,C6,C8からの検出信号(合成信号(S24,S68))は、信号経路L15および信号経路L16を介して、演算回路56cに入力される。演算回路56cにおいて、オフセット処理が実行され、差分値が算出される。差分値は差分絶対値変換回路56dにより絶対値に変換される。オフセット後の合成信号(S24)、合成信号(68)、および絶対値を示す信号(差分信号(Sd))は、A/D変換器52に入力される。
【0148】
摩耗量検出処理(ST4)において、摩耗量検出部531は、ラジアル方向の摩耗量の検出処理(ST41)、および、スラスト方向の摩耗量の検出処理(ST42)を個別に実行している。ラジアル方向の摩耗量の検出処理(ST41)、および、スラスト方向の摩耗量の検出処理(ST42)は公知の処理であるため、以下、概要のみが説明される。
【0149】
ラジアル方向の摩耗量の検出処理(ST41)では、第1取得部530は、合成信号(S13,S57)の電圧値「V1」「V2」を取得する。次いで、摩耗量検出部531は、第2対応関係情報および電圧値「V1」「V2」に基づいて、軸受32,33の摩耗量を検出する。次いで、摩耗量検出部531は、両摩耗量を比較して、摩耗量の大きい方をラジアル方向の摩耗量として選択する。検出された摩耗量は、ログ情報として、例えば、記憶部54に記憶される。
【0150】
なお、本発明において、第1取得部530は、処理(ST11)において取得された電圧値「V1」「V2」を取得していてもよい。
【0151】
スラスト方向の摩耗量の検出処理(ST42)では、第1取得部530は、差分信号(Sd)の電圧値(絶対値)「Vd」を取得する。摩耗量検出部531は、第1対応関係情報および電圧値「Vd」に基づいて、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を検出する。前述のとおり、差分信号(Sd)は、合成信号(S24,S68)から生成されている。換言すれば、摩耗量検出部531は、合成信号(S24,S68)に基づいて、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を検出する。検出された摩耗量は、ログ情報として、例えば、記憶部54に記憶される。
【0152】
次いで、表示制御部536は、検出された摩耗量に基づいて、表示部55の表示態様を決定して、決定された表示態様で表示部55に表示させる(ST43)。
【0153】
●まとめ(1)
以上説明された実施の形態によれば、本装置5は、摩耗量検出部531、第2取得部532、および断線検出部535を備える。摩耗量検出部531は、合成信号(S13,S57)それぞれの電圧値に基づいて、軸受32,33のラジアル方向の摩耗量を検出して、合成信号(S24,S68)それぞれの電圧値に基づいて、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を検出する。第2取得部532は、第1経路L1を流れる第1信号(S1)、第2経路L2を流れる第2信号(S2)、第3経路L3を流れる第3信号(S3)、および第4経路L4を流れる第4信号(S4)を取得する。断線検出部535は、第1経路L1を介して取得された第1信号(S1)の電圧値と第1閾値とに基づいて検出コイルC1,C3および第1経路L1の断線の有無を検出して、第2経路L2を介して取得された第2信号(S2)の電圧値と第2閾値とに基づいて検出コイルC5,C7および第2経路L2の断線の有無を検出して、第3経路L3を介して取得された第3信号(S3)の電圧値と第3閾値とに基づいて検出コイルC2,C4および第3経路L3の断線の有無を検出して、第4経路L4を介して取得された第4信号(S4)の電圧値と第4閾値とに基づいて検出コイルC6,C8および第4経路L4の断線の有無を検出する。断線検出部535が断線を検出していないとき、合成信号(S13)は第1信号(S1)として第1経路L1を流れていて、合成信号(S57)は第2信号(S2)として第2経路L2を流れていて、合成信号(S24)は第3信号(S3)として第3経路L3を流れていて、合成信号(S68)は第4信号(S4)として第4経路L4を流れている。第1閾値は合成信号(S13)の電圧値より小さくなるように設定されていて、第2閾値は合成信号(S57)の電圧値より小さくなるように設定されていて、第3閾値は合成信号(S24)の電圧値より小さくなるように設定されていて、第4閾値は合成信号(S68)の電圧値より小さくなるように設定されている。この構成によれば、本装置5は、本検出方法の実行において、専用の配線や回路を必要としない。また、本装置5は、検出コイルC1~C8および第1経路L1~第4経路L4の断線の有無を自動的に検出できる。したがって、ポンプ1の使用者は、ポンプ1を停止させることなく安全に検出コイルC1~C8および第1経路L1~第4経路L4の断線の有無を確認できる。
【0154】
また、以上説明された実施の形態によれば、RAM53bは、第1最大電圧値~第4最大電圧値を更新して記憶する。第1閾値は第1最大電圧値に基づいて設定されていて、第2閾値は第2最大電圧値に基づいて設定されていて、第3閾値は第3最大電圧値に基づいて設定されていて、第4閾値は第4最大電圧値に基づいて設定されている。この構成によれば、第1閾値~第4閾値は、電圧値の最新のトレンドに応じて変わるように設定される。そのため、本装置5は、各合成信号(S13,S57,S24,S68)の電圧値が経時的に増加しても適切に断線の有無を検出可能であり、駆動周波数が増加されても適切に断線の有無を検出可能である。
【0155】
さらに、以上説明された実施の形態によれば、第1閾値は第1信号(S1)に含まれるノイズ成分の信号レベルに基づいて設定されていて、第2閾値は第2信号(S2)に含まれるノイズ成分の信号レベルに基づいて設定されていて、第3閾値は第3信号(S3)に含まれるノイズ成分の信号レベルに基づいて設定されていて、第4閾値は第4信号(S4)に含まれるノイズ成分の信号レベルに基づいて設定されている。この構成によれば、第1信号(S1)~第4信号(S4)にノイズ成分が含まれていても、本装置5は、検出コイルC1~C8および第1経路L1~第4経路L4の断線の有無を自動的に検出できる。
【0156】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、第1閾値および第2閾値は、第3閾値および第4閾値よりも小さい。この構成によれば、第1閾値~第4閾値は、各合成信号(S13,S57,S24,S68)の信号レベルに応じた値に設定可能となる。その結果、断線検出部535は、特に、ノイズ成分の影響を受けることなく、検出コイルC2,C4,C6,C8および第3経路L3~第4経路L4の断線の有無を確実に検出できる。
【0157】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、本装置5は、第1閾値~第4閾値を設定する閾値設定部534を備える。この構成によれば、本装置5は、ノイズ成分の信号レベル、および電圧値の最新のトレンドに応じた第1閾値~第4閾値を自動的に設定できる。
【0158】
なお、以上説明された実施の形態において、本検出方法は、制御部53により実行されていた。これに代えて、本検出方法は、本装置5に接続されている外部演算装置(例えば、コンピュータなど)により実行されていてもよい。
【0159】
また、以上説明された実施の形態において、RAM53bに記憶されている情報の一部または全部(例えば、第1最大電圧値~第4最大電圧値、第1閾値~第4閾値など)は、記憶部54に記憶されていてもよい。
【0160】
さらに、以上説明された実施の形態において、本装置5は、第1信号(S1)~第4信号(S4)それぞれの電圧値からノイズ成分の信号レベルを取得して、取得されたノイズ成分の信号レベルに基づいて、係数を設定する機能を備えていてもよい。ノイズ成分の信号レベルの取得は、例えば、公知のフィルタ処理およびFFTを用いて実行される。
【0161】
さらにまた、以上説明された実施の形態において、本装置5は、差分信号(Sd)、および差分信号(Sd)に対応する閾値(第5閾値)に基づいて、検出コイルC2,C4,C6,C8、第3経路L3~第4経路L4、および信号経路L15,L16の断線の有無を検出してもよい。前述のとおり、差分信号(Sd)は、一方の合成信号が存在すれば正常値となり得る。しかしながら、差分値を算出するための一方の電圧値が極端に低下するため、異常時の差分信号(Sd)の電圧値(絶対値)は、正常時の同電圧値よりも大きくなる。したがって、第1閾値~第4閾値とは異なり、差分信号(Sd)の電圧値よりも大きい値となるように第5閾値が設定されることにより、本装置5は、差分信号(Sd)の電圧値および第5閾値に基づいて、断線の有無を検出し得る。この場合、本装置5は、差分信号(Sd)の電圧値の最大値も第5最大電圧値として記憶部54に記憶する。ここで、異常時の電圧値は、正常時の電圧値の最新のトレンドからは大きく乖離し得る。そのため、本装置5は、差分信号(Sd)の電圧値の変化量を定期的に取得して、同変化量に基づいて、検出コイルC2,C4,C6,C8、第3経路L3~第4経路L4、および信号経路L15,L16の断線の有無を検出してもよい。
【0162】
さらにまた、以上説明された実施の形態において、本装置5は、閾値設定部534を備えていなくてもよい。この場合、第1閾値~第4閾値は固定値となるため、断線の検出精度は低下する。
【0163】
さらにまた、以上説明された実施の形態において、第1閾値~第4閾値は、少なくとも、対応する合成信号(S13,S57,S24,S68)の電圧値よりも小さくなるように設定されていればよく、必ずしも、電圧値の最大値やノイズ成分に基づいて設定されていなくてもよい。
【0164】
さらにまた、以上説明された実施の形態において、本検出プログラムおよび各係数は、記憶部54に記憶されていてもよい。
【0165】
●モータ軸受摩耗監視装置(2)●
次に、本装置の別の実施の形態(以下「第2実施形態」という。)が、先に説明した実施の形態(以下「第1実施形態」という。)とは異なる部分を中心に、以下に説明される。第2実施形態では、学習モデルを用いて断線の有無を推定する点が、第1実施形態と異なる。以下の説明において、第1実施形態と共通する要素については、同一の符号が付されていて、その説明は省略される。
【0166】
●モータ軸受摩耗監視装置(2)の構成
図16は、本装置の別の実施の形態(第2実施形態)を示す機能ブロック図である。
【0167】
本装置5Aは、8つの検出コイルC1~C8、接続部50、2つの共通経路Lc1,Lo2、6つの信号経路L11~L16、4つの信号処理回路51a~51d、A/D変換器52、制御部53A、記憶部54A、表示部55、およびオフセット処理部56を備える。A/D変換器52および制御部53Aは、例えば、マイクロコンピュータにより構成されている。
【0168】
本装置5Aの構成は、制御部53Aおよび記憶部54Aを除き、第1実施形態の本装置5の構成と共通する。また、本装置5Aでは、第1実施形態の本検出プログラムに代えて本推定プログラムが、後述される学習モデルを用いて断線の有無を推定している。すなわち、本装置5Aは、本検出方法に代えて、学習モデルを用いた検出コイルC1~C8の断線推定方法(以下単に「推定方法」という。)を実行している。学習モデルの詳細は、後述される。
【0169】
制御部53Aは、本装置5A全体の動作を制御する。制御部53Aは、例えば、CPU53aなどのプロセッサ、CPU53aの作業領域として機能するRAM53bなどの揮発性メモリ、および、本推定プログラムや他の制御プログラム(例えば、摩耗量検出プログラム)などの各種情報を記憶するROM53cなどの不揮発性メモリ、により構成されている。制御部53Aは、第1取得部530、摩耗量検出部531、第2取得部532、更新部533、表示制御部536、および断線推定部537を備える。
【0170】
制御部53Aでは、本推定プログラムが動作して、本推定プログラムが本装置5Aのハードウェア資源と協働して、後述する推定方法を実現している。また、制御部53Aを構成しているプロセッサ(CPU53a)に本推定プログラムを実行させることにより、本推定プログラムは同プロセッサを第2取得部532、表示制御部536、および断線推定部537として機能させて、同プロセッサに推定方法を実行させることができる。さらに、コンピュータに本推定プログラムおよび摩耗量検出プログラムを実行させることにより、本推定プログラムおよび摩耗量検出プログラムは、コンピュータを本装置5Aとして機能させることができる。
【0171】
なお、本発明において、本推定プログラムは、記憶部54Aに記憶されていてもよい。また、本推定プログラムは、インストール可能なファイル形式、または、実行可能なファイル形式で非一時的な記憶媒体(例えば、CD、DVD、USBメモリなど)に記憶されていて、専用の読み込み媒体を介して本装置5Aに提供されてもよい。
【0172】
断線推定部537は、第1信号(S1)~第4信号(S4)、第1最大電圧値~第4最大電圧値、および後述される学習モデル(第1学習モデルM1、第2学習モデルM2、第3学習モデルM3、および第4学習モデルM4)に基づいて、検出コイルC1~C8および第1経路L1~第4経路L4の断線の有無を推定する。断線推定部537の具体的な動作は、後述される。
【0173】
記憶部54Aは、本装置5Aの動作に必要な情報(例えば、第1学習モデルM1~第4学習モデルM4、オフセット情報、第1対応関係情報、第2対応関係情報など)を記憶する。記憶部54Aは、例えば、EEPROMやフラッシュメモリなどの不揮発性メモリである。記憶部54Aは、本発明における学習モデル記憶部の一例である。
【0174】
図17は、記憶部54Aに記憶されている情報(第1学習モデルM1~第4学習モデルM4)の一例を示す模式図である。
【0175】
「第1学習モデルM1」は、第1信号(S1)の電圧値「V1」および第1最大電圧値「V1max」が入力されたとき、検出コイルC1,C3および第1経路L1の断線の有無(正常/異常)を出力するように機械学習された学習済みの機械学習アルゴリズム(すなわち、学習モデル)である。第1学習モデルM1は、例えば、機械学習装置により予め生成されていて、記憶部54Aに記憶されている。
【0176】
「第2学習モデルM2」は、第2信号(S2)の電圧値「V2」および第2最大電圧値「V2max」が入力されたとき、検出コイルC5,C7および第2経路L2の断線の有無(正常/異常)を出力するように機械学習された学習済みの学習モデルである。第2学習モデルM2は、例えば、機械学習装置により予め生成されていて、記憶部54Aに記憶されている。
【0177】
「第3学習モデルM3」は、第3信号(S3)の電圧値「V3」および第3最大電圧値「V3max」が入力されたとき、検出コイルC2,C4および第3経路L3の断線の有無(正常/異常)を出力するように機械学習された学習済みの学習モデルである。第3学習モデルM3は、例えば、機械学習装置により予め生成されていて、記憶部54Aに記憶されている。
【0178】
「第4学習モデルM4」は、第4信号(S4)の電圧値「V4」および第4最大電圧値「V4max」が入力されたとき、検出コイルC6,C8および第4経路L4の断線の有無(正常/異常)を出力するように機械学習された学習済みの学習モデルである。第4学習モデルM4は、例えば、機械学習装置により予め生成されていて、記憶部54Aに記憶されている。
【0179】
第1学習モデルM1および第2学習モデルM2は本発明におけるラジアル学習モデルの一例であり、第3学習モデルM3および第4学習モデルM4は、本発明におけるスラスト学習モデルの一例である。すなわち、ラジアル学習モデルは第1学習モデルM1および第2学習モデルM2を含み、スラスト学習モデルは第3学習モデルM3および第4学習モデルM4を含む。
【0180】
ここで、機械学習装置による機械学習は、例えば、公知の機械学習アルゴリズム(例えば、入力層、複数の中間層、および出力層を有するニューラルネットワーク)に学習データを機械学習させることにより実行される。「学習用データ」は、機械学習アルゴリズム(学習モデル)に対する入力データとなる情報、および、入力データに関連付けられる出力データ(教師データ)となる情報を含む。
【0181】
「入力データ」は、機械学習における説明変数であり、本実施の形態では、所定状態(所定駆動条件、所定摩耗状態、所定期間、断線の有無)における第1信号(S1)~第4信号(S4)の電圧値、および第1最大電圧値~第4最大電圧値である。前述のとおり、検出コイルC1,C3および第1経路L1が断線していなければ、合成信号(S13)は第1信号(S1)として流れていて、その電圧値は第1閾値よりも大きい正常値である。一方、検出コイルC1,C3または第1経路L1が断線していれば、第1信号(S1)には合成信号(S13)が含まれておらず、その電圧値は第1閾値よりも小さい異常値である。同様に、検出コイルC2,C4~8および第2経路L2~第4経路L4が断線していなければ、第2信号(S2)~第4信号(S4)の電圧値は、対応する第2閾値~第4閾値よりも大きい正常値である。一方、検出コイルC2,C4~8または第2経路L2~第4経路L4が断線していれば、第2信号(S2)~第4信号(S4)の電圧値は、対応する第2閾値~第4閾値よりも小さい異常値である。また、第1実施形態において、この断線の有無の判定に用いられる第1閾値~第4閾値は、第1最大電圧値~第4最大電圧値に対する割合で設定されている。そのため、第1閾値~第4閾値は、第1最大電圧値~第4最大電圧値に比例する。したがって、第1信号(S1)の電圧値および第1最大電圧値と、検出コイルC1,C3および第1経路L1の断線の有無と、の間には、相関関係がある。同様に、第2信号(S2)~第4信号(S4)の電圧値および第2最大電圧値~第4最大電圧値と、検出コイルC5,C7,C2,C4,C6,C8および第2経路L2~第4経路L4の断線の有無と、の間には、相関関係がある。このように、入力データと出力データとの間には、相関関係がある。入力データは、例えば、ポンプ1を模した試験装置を所定条件で所定時間稼働させることにより得られる。ここで、断線の有無は、例えば、試験装置において、複数個所(例えば、直列に接続されている検出コイルC1,C3の間、検出コイルC3と接続部50の間、など)に設けられたスイッチのオン/オフにより再現可能である。
【0182】
なお、入力データは、例えば、ポンプ1と同一機種のポンプにおいて過去に取得された実データ(例えば、ログデータ)に基づいて、信号発生装置により所定期間内に生成される疑似的な各信号(電圧値)でもよい。
【0183】
ここで、「所定駆動条件」は、例えば、40Hz~60Hzの間の駆動周波数のうち、ポンプ1が設置される環境に応じた駆動周波数である。「所定摩耗状態」は、例えば、各合成信号(S13,S57,S24,S68)が正常値となる摩耗状態である。「所定期間」は、所定駆動条件、所定摩耗状態において、学習データとして使用可能な信号が得られる時間(例えば、数秒~数十秒)である。
【0184】
「出力データ」は、機械学習における目的変数であり、本実施の形態では、検出コイルC1~C8および第1経路L1~第4経路L4の断線の「有」「無」を示す情報である。断線の「有」「無」には、例えば、「0」「1」のような数値が割り当てられている。1つの出力データは、対応する1つの入力データに関連付けられて1つの学習データを構成している。
【0185】
なお、本発明において、出力データは、断線の「有」「無」の2つの状態に限定されない。すなわち、例えば、断線の位置によりノイズ成分の信号レベルに差異が有る場合には、出力データは、「断線の位置」を含んでいてもよい。
【0186】
また、本発明において、機械学習に用いられる機械学習アルゴリズムは、複数の学習データを用いた機械学習により生成される第1学習モデルM1~第4学習モデルM4が断線の有無を推定可能であればよく、ニューラルネットワークに限定されない。すなわち、例えば、機械学習アルゴリズムは、ランダムフォレスト、決定木、サポートベクターマシンなどでもよい。
【0187】
このように生成された第1学習モデルM1は、
図17に示されるとおり、第1信号(S1)の電圧値および第1最大電圧値が入力されることにより、検出コイルC1,C3または第1経路L1の断線の「有」「無」を出力可能である。すなわち、第1学習モデルM1は、入力データとして第1信号(S1)の電圧値および第1最大電圧値が入力されたとき、検出コイルC1,C3または第1経路L1の断線の「有」「無」を出力するように機械学習されている。同様に、第2学習モデルM2~第4学習モデルM4は、入力データとして、対応する第2信号(S2)~第4信号(S4)の電圧値および第2最大電圧値~第4最大電圧値が入力されたとき、対応する検出コイルC2,C4~C8または第2経路L2~第4経路L4の断線の「有」「無」を出力するように機械学習されている。
【0188】
●キャンドモータポンプ(モータ軸受摩耗監視装置(2))の動作
次に、ポンプ1の動作(すなわち、推定方法)が、本装置5Aの動作を中心に以下に説明される。
【0189】
図18は、本装置5Aの動作の一例を示すフローチャートである。
【0190】
第2実施形態におけるポンプ1の動作は、本装置5Aがラジアル側断線検出処理(ST2)およびスラスト側断線検出処理(ST3)に代えて、ラジアル側断線推定処理(ST5)およびスラスト側断線推定処理(ST6)を実行する点、を除き、第1実施形態におけるポンプ1の動作と共通する。すなわち、本装置5Aは、更新処理(ST1)、ラジアル側断線推定処理(ST5)、スラスト側断線推定処理(ST6)、および摩耗量検出処理(ST4)を常時繰り返し実行している。ラジアル側断線推定処理(ST5)およびスラスト側断線推定処理(ST6)は、推定方法の一例である。以下の説明において、
図16は、適宜参照される。
【0191】
●ラジアル側断線推定処理
図19は、ラジアル側断線推定処理(ST5)の一例を示すフローチャートである。
【0192】
「ラジアル側断線推定処理(ST5)」は、軸受32,33のラジアル方向の摩耗量を検出するための信号(合成信号(S13,S57))の経路の断線の有無を推定する処理である。すなわち、ラジアル側断線推定処理(ST5)は、検出コイルC1,C3,C5,C7および第1経路L1~第2経路L2の断線の有無を自動的に推定する処理である。
【0193】
先ず、第2取得部532は、第1経路L1からA/D変換器52に入力された第1信号(S1)の電圧値「V1」を取得して、第2経路L2からA/D変換器52に入力された第2信号(S2)の電圧値「V2」を取得すると共に、RAM53bから第1最大電圧値「V1max」および第2最大電圧値「V2max」を取得する(ST51:第1取得ステップ)。各電圧値の取得は、所定時間(例えば、10ms)ごとに実行されている。
【0194】
次いで、断線推定部537は、電圧値「V1」および第1最大電圧値「V1max」を第1学習モデルM1に入力して、第1学習モデルM1の出力に基づいて、検出コイルC1,C3および第1経路L1の断線の「有」「無」を推定する。同様に、断線推定部537は、電圧値「V2」および第2最大電圧値「V2max」を第2学習モデルM2に入力して、第2学習モデルM2の出力に基づいて、検出コイルC5,C7および第2経路L2の断線の「有」「無」を推定する(ST52:第1推定ステップ)。
【0195】
次いで、表示制御部536は、推定された断線の「有」「無」に基づいて、表示部55の表示態様を決定して、決定された表示態様で表示部55に表示させる(ST53:第1表示ステップ)。すなわち、例えば、断線が「有」と推定されたとき、表示制御部536は、表示部55のラジアル側のLEDを点灯させる。次いで、制御部53Aは、ラジアル側断線推定処理(ST5)を終了させる。
【0196】
●スラスト側断線推定処理
図20は、スラスト側断線推定処理(ST6)の一例を示すフローチャートである。
【0197】
「スラスト側断線推定処理(ST6)」は、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を検出するための信号(合成信号(S24,S68))の経路の断線の有無を推定する処理である。すなわち、スラスト側断線推定処理(ST6)は、検出コイルC2,C4,C6,C8および第3経路L3~第4経路L4の断線の有無を自動的に推定する処理である。
【0198】
先ず、第2取得部532は、第3経路L3からA/D変換器52に入力された第3信号(S3)の電圧値「V3」を取得して、第4経路L4からA/D変換器52に入力された第4信号(S4)の電圧値「V4」を取得すると共に、RAM53bから第3最大電圧値「V3max」および第4最大電圧値「V4max」を取得する(ST61:第2取得ステップ)。各電圧値の取得は、所定時間(例えば、10ms)ごとに実行されている。
【0199】
次いで、断線推定部537は、電圧値「V3」および第3最大電圧値「V3max」を第3学習モデルM3に入力して、第3学習モデルM3の出力に基づいて、検出コイルC2,C4および第3経路L3の断線の「有」「無」を推定する。同様に、断線推定部537は、電圧値「V4」および第4最大電圧値「V4max」を第4学習モデルM4に入力して、第4学習モデルM4の出力に基づいて、検出コイルC6,C8および第4経路L4の断線の「有」「無」を推定する(ST62:第2推定ステップ)。
【0200】
次いで、表示制御部536は、推定された断線の「有」「無」に基づいて、表示部55の表示態様を決定して、決定された表示態様で表示部55に表示させる(ST63:第2表示ステップ)。すなわち、例えば、断線が「有」と推定されたとき、表示制御部536は、表示部55のスラスト側のLEDを点灯させる。次いで、制御部53Aは、スラスト側断線推定処理(ST6)を終了させる。
【0201】
●まとめ(2)
以上説明された実施の形態によれば、本装置5Aは、RAM53b、摩耗量検出部531、第2取得部532、断線推定部537、および記憶部54Aを備える。RAM53bは、第1最大電圧値~第4最大電圧値を更新して記憶する。第2取得部532は、第1最大電圧値~第4最大電圧値、および第1信号(S1)~第4信号(S4)それぞれの電圧値を取得する。記憶部54Aは、第1学習モデルM1~第4学習モデルM4を記憶する。断線推定部537は、第1信号(S1)~第4信号(S4)それぞれの電圧値および第1最大電圧値~第4最大電圧値それぞれを対応する第1学習モデルM1~第4学習モデルM4に入力して、検出コイルC1~C8または第1経路L1~第4経路L4の断線の有無を推定する。この構成によれば、本装置5Aは、推定方法の実行において、専用の配線や回路を必要としない。また、本装置5Aは、第1実施形態の本装置5のような閾値処理を経ることなく、検出コイルC1~C8および第1経路L1~第4経路L4の断線の有無を自動的に推定できる。したがって、ポンプ1の使用者は、ポンプ1を停止させることなく安全に検出コイルC1~C8および第1経路L1~第4経路L4の断線の有無を確認できる。
【0202】
●その他の実施形態●
なお、以上説明された各実施形態において、本発明が実施可能であれば、検出コイルC1~C8の数は「8」に限定されない。
【0203】
また、以上説明された各実施形態において、制御部53,53Aは、CPU53aに代えて、DSP(Digital Signal Processor)や、(GP)GPU((General Purpose)Graphics Processing Unit)などのプロセッサにより構成されていてもよい。
【0204】
さらに、以上説明された第2実施形態において、推定方法は、制御部53Aにより実行されていた。これに代えて、推定方法は、本装置5Aに接続されている外部演算装置(例えば、コンピュータなど)により実行されていてもよい。
【0205】
さらにまた、以上説明された第2実施形態において、記憶部54Aに記憶されている情報の一部(例えば、第1学習モデルM1~第4学習モデルM4)は、本推定プログラムに組み込まれて、ROM53cに記憶されていてもよい。この場合、ROM53cは、本発明における学習モデル記憶部として機能し得る。
【0206】
さらにまた、以上説明された各実施形態において、ポンプ1は、本装置5,5Aを備えていなくてもよい。すなわち、例えば、検出コイルC1~C8はモータ部3に備えられていて、本装置5,5Aは、ポンプ部2、モータ部3、およびアダプタ4とは離れて配置されていてもよい。この場合、本装置5,5Aはケーブルを介して検出コイルC1~C8と接続されていてもよく、または、本装置5,5Aとモータ部3とが通信機能を備えていて、本装置5,5Aが無線通信回線を介してモータ部3と接続されていて、検出信号を受信可能に構成されていてもよい。
【0207】
さらにまた、以上説明された第2実施形態において、本推定プログラムは、記憶部54Aに記憶されていてもよい。
【0208】
さらにまた、以上説明された各実施形態において、本装置5,5Aではなくポンプ1が検出コイルC1~C8を備えていてもよい。
【0209】
●本発明の実施態様●
次に、以上説明した各実施形態から把握される本発明の実施態様が、各実施形態において記載された用語と符号とが援用されて、以下に記載される。
【0210】
本発明の第1の実施態様は、キャンドモータポンプ(例えば、キャンドモータポンプ1)のモータ(例えば、モータ部3)のステータ(例えば、ステータ37)に対するロータ(例えば、ロータ36)の機械的な位置変化に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイル(例えば、検出コイルC1~C8)それぞれの検出信号に基づいて、前記ロータの回転軸(例えば、回転軸31)を支持する軸受(例えば、軸受32,33)の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置(例えば、モータ軸受摩耗監視装置5)であって、複数の前記検出コイルは、前記回転軸のラジアル方向における前記磁束変化を検出する一組のラジアル検出コイル(例えば、検出コイルC1,C3、検出コイルC5,C7)と、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を検出する一組のスラスト検出コイル(例えば、検出コイルC2,C4、検出コイルC6,C8)と、を含み、前記スラスト方向において、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト検出コイルとは、前記ステータの一方向側または他方向側の端部に配置されて、前記ラジアル検出コイルは、前記ラジアル検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたラジアル合成信号(例えば、合成信号(S13)、合成信号(S57))が流れるラジアル信号経路(例えば、第1経路L1、第2経路L2)に電気的に接続されて、前記スラスト検出コイルは、前記スラスト検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたスラスト合成信号(例えば、合成信号(S24)、合成信号(S68))が流れるスラスト信号経路(例えば、第3経路L3、第4経路L4)に電気的に接続されて、前記ラジアル合成信号の電圧値より小さくなるように設定されるラジアル閾値(例えば、第1閾値、第2閾値)と、前記スラスト合成信号の電圧値より小さくなるように設定されるスラスト閾値(例えば、第3閾値、第4閾値)と、を記憶する閾値記憶部(例えば、RAM53b)と、前記ラジアル信号経路を流れるラジアル経路信号(例えば、第1信号(S1)、第2信号(S2))と、前記スラスト信号経路を流れるスラスト経路信号(例えば、第3信号(S3)、第4信号(S4))と、を取得する取得部(例えば、第2取得部532)と、前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれの断線の有無を検出する断線検出部(例えば、断線検出部535)と、を有してなり、前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれが断線していないとき、前記ラジアル合成信号は、前記ラジアル経路信号として前記ラジアル信号経路を流れて、前記スラスト合成信号は、前記スラスト経路信号として前記スラスト信号経路を流れて、前記断線検出部は、前記ラジアル経路信号の電圧値と前記ラジアル閾値とに基づいて、前記ラジアル検出コイルと前記ラジアル信号経路との前記断線の有無を検出して、前記スラスト経路信号の電圧値と前記スラスト閾値とに基づいて、前記スラスト検出コイルと前記スラスト信号経路との前記断線の有無を検出する、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、ポンプの使用者は、ポンプを停止させることなく安全に検出コイルおよび第1経路~第4経路の断線の有無を確認できる。
【0211】
本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、前記ラジアル合成信号の電圧値のうち、最大値となるラジアル最大電圧値と、前記スラスト合成信号の電圧値のうち、最大値となるスラスト最大電圧値と、を更新して記憶する電圧値記憶部(例えば、RAM53b)、を有してなり、前記ラジアル閾値は、前記ラジアル最大電圧値に基づいて設定されて、前記スラスト閾値は、前記スラスト最大電圧値に基づいて設定される、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、本装置は、各合成信号の電圧値が経時的に増加しても適切に断線の有無を検出できる。
【0212】
本発明の第3の実施態様は、第2の実施態様において、前記ラジアル閾値は、前記ラジアル経路信号に含まれるノイズ成分の信号レベルに基づいて、設定されて、前記スラスト閾値は、前記スラスト経路信号に含まれるノイズ成分の信号レベルに基づいて、設定される、モータ軸受摩耗監視である。
この構成によれば、第1信号~第4信号にノイズ成分が含まれていても、本装置は、検出コイルおよび第1経路~第4経路の断線の有無を自動的に検出できる。
【0213】
本発明の第4の実施態様は、第3の実施態様において、前記ラジアル閾値は、前記スラスト閾値よりも小さい、モータ軸受摩耗監視である。
この構成によれば、第1閾値~第4閾値は、合成信号の信号レベルに応じた値に設定できる。
【0214】
本発明の第5の実施態様は、第1乃至第4のいずれか1つの実施態様において、前記ラジアル閾値と、前記スラスト閾値それぞれを設定する閾値設定部(例えば、閾値設定部534)、を有してなる、モータ軸受摩耗監視である。
この構成によれば、本装置は、ノイズ成分の信号レベル、および電圧値の最新のトレンドに応じた第1閾値~第4閾値を自動的に設定できる。
【0215】
本発明の第6の実施態様は、第1の実施態様において、複数の前記検出コイルは、一組の前記ラジアル検出コイルとして機能する一組の第1ラジアル検出コイル(例えば、検出コイルC1,C3)および一組の第2ラジアル検出コイル(例えば、検出コイルC5,C7)と、一組の前記スラスト検出コイルとして機能する一組の第1スラスト検出コイル(例えば、検出コイルC2,C4)および一組の第2スラスト検出コイル(例えば、検出コイルC6,C8)と、を含み、前記第1ラジアル検出コイルと前記第1スラスト検出コイルとは、前記ステータの前記一方向側の端部に配置されて、前記第2ラジアル検出コイルと前記第2スラスト検出コイルとは、前記ステータの前記他方向側の端部に配置されて、前記ラジアル信号経路は、前記第1ラジアル検出コイルと電気的に接続されて、前記第1ラジアル検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成された第1合成信号(例えば、合成信号(S13))が前記ラジアル合成信号として流れる第1経路(例えば、第1経路L1)と、前記第2ラジアル検出コイルと電気的に接続されて、前記第2ラジアル検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成された第2合成信号(例えば、合成信号(S57))が前記ラジアル合成信号として流れる第2経路(例えば、第2経路L2)と、を備えて、前記スラスト信号経路は、前記第1スラスト検出コイルと電気的に接続されて、前記第1スラスト検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成された第3合成信号(例えば、合成信号(S24))が前記スラスト合成信号として流れる第3経路(例えば、第3経路L3)と、前記第2スラスト検出コイルと電気的に接続されて、前記第2スラスト検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成された第4合成信号(例えば、合成信号(S68))が前記スラスト合成信号として流れる第4経路(例えば、第4経路(L4))と、を備えて、前記ラジアル閾値は、前記第1合成信号の電圧値より小さくなるように設定される第1閾値と、前記第2合成信号の電圧値より小さくなるように設定される第2閾値と、を含み、前記スラスト閾値は、前記第3合成信号の電圧値より小さくなるように設定される第3閾値と、前記第4合成信号の電圧値より小さくなるように設定される第4閾値と、を含み、前記取得部は、前記第1経路を流れる第1信号(例えば、第1信号(S1))と前記第2経路を流れる第2信号(例えば、第2信号(S2))それぞれを前記ラジアル経路信号として取得して、前記第3経路を流れる第3信号(例えば、第3信号(S3))と前記第4経路を流れる第4信号(例えば、第4信号(S4))それぞれを前記スラスト経路信号として取得して、前記検出コイルと、前記第1経路と、前記第2経路と、前記第3経路と、前記第4経路それぞれが断線していないとき、前記第1合成信号は、前記第1信号として前記第1経路を流れて、前記第2合成信号は、前記第2信号として前記第2経路を流れて、前記第3合成信号は、前記第3信号として前記第3経路を流れて、前記第4合成信号は、前記第4信号として前記第4経路を流れて、前記断線検出部は、前記第1信号の電圧値と前記第1閾値とに基づいて、前記第1ラジアル検出コイルと前記第1経路との前記断線の有無を検出して、前記第2信号の電圧値と前記第2閾値とに基づいて、前記第2ラジアル検出コイルと前記第2経路との前記断線の有無を検出して、前記第3信号の電圧値と前記第3閾値とに基づいて、前記第1スラスト検出コイルと前記第3経路との前記断線の有無を検出して、前記第4信号の電圧値と前記第4閾値とに基づいて、前記第2スラスト検出コイルと前記第4経路との前記断線の有無を検出する、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、本装置は、各合成信号の電圧値が経時的に増加しても、適切に第1経路~第4経路の断線の有無を検出できる。
【0216】
本発明の第7の実施態様は、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルそれぞれの検出信号に基づいて、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置(例えば、モータ軸受摩耗監視装置5A)であって、複数の前記検出コイルは、前記回転軸のラジアル方向における前記磁束変化を検出する一組のラジアル検出コイルと、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を検出する一組のスラスト検出コイルと、を含み、前記スラスト方向において、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト検出コイルとは、前記ステータの一方向側または他方向側の端部に配置されて、前記ラジアル検出コイルは、前記ラジアル検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたラジアル合成信号が流れるラジアル信号経路に電気的に接続されて、前記スラスト検出コイルは、前記スラスト検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたスラスト合成信号が流れるスラスト信号経路に電気的に接続されて、前記ラジアル合成信号の電圧値のうち、最大値となるラジアル最大電圧値と、前記スラスト合成信号の電圧値のうち、最大値となるスラスト最大電圧値と、を更新して記憶する電圧値記憶部と、前記ラジアル信号経路を流れるラジアル経路信号と、前記スラスト経路を流れるスラスト経路信号と、前記ラジアル最大電圧値と、前記スラスト最大電圧値と、を取得する取得部と、前記ラジアル経路信号の電圧値と前記ラジアル最大電圧値とが入力されたとき、前記ラジアル検出コイルと前記ラジアル信号経路との断線の有無を推定するように機械学習された学習済みのラジアル学習モデル(例えば、第1学習モデルM1、第2学習モデルM2)と、前記スラスト経路信号の電圧値と前記スラスト最大電圧値とが入力されたとき、前記スラスト検出コイルと前記スラスト信号経路との断線の有無を推定するように機械学習された学習済みのスラスト学習モデル(例えば、第3学習モデルM3、第4学習モデルM4)と、を記憶する学習モデル記憶部(例えば、記憶部54A)と、前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれの断線の有無を推定する断線推定部(例えば、断線推定部537)と、を有してなり、前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれが断線していないとき、前記ラジアル合成信号は、前記ラジアル経路信号として前記ラジアル信号経路を流れて、前記スラスト合成信号は、前記スラスト経路信号として前記スラスト信号経路を流れて、前記断線推定部は、前記ラジアル経路信号の前記電圧値と前記ラジアル最大電圧値とを前記ラジアル学習モデルに入力して、前記ラジアル検出コイルと前記ラジアル信号経路それぞれの断線の有無を推定して、前記スラスト経路信号の前記電圧値と前記スラスト最大電圧値とを前記スラスト学習モデルに入力して、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト信号経路それぞれの断線の有無を推定する、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、本装置は、閾値処理を経ることなく、検出コイルおよび第1経路~第4経路の断線の有無を自動的に推定できる。
【0217】
本発明の第8の実施態様は、コンピュータを第1の実施態様におけるモータ軸受摩耗監視装置として機能させる、断線検出プログラムである。
この構成によれば、ポンプの使用者は、ポンプを停止させることなく安全に検出コイルおよび第1経路~第4経路の断線の有無を確認できる。
【0218】
本発明の第9の実施態様は、コンピュータを第7の実施態様におけるモータ軸受摩耗監視装置として機能させる、断線推定プログラムである。
この構成によれば、本装置は、閾値処理を経ることなく、検出コイルおよび第1経路~第4経路の断線の有無を自動的に推定できる。
【0219】
本発明の第10の実施態様は、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルそれぞれの検出信号に基づいて、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置(例えば、モータ軸受摩耗監視装置5)により実行される断線検出方法(例えば、ラジアル側断線検出処理(ST2)、スラスト側断線検出処理(ST3))であって、複数の前記検出コイルは、前記回転軸のラジアル方向における前記磁束変化を検出する一組のラジアル検出コイルと、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を検出する一組のスラスト検出コイルと、を含み、前記スラスト方向において、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト検出コイルとは、前記ステータの一方向側または他方向側の端部に配置されて、前記ラジアル検出コイルは、前記ラジアル検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたラジアル合成信号が流れるラジアル信号経路に電気的に接続されて、前記スラスト検出コイルは、前記スラスト検出コイルそれぞれの前記検出信号が合成されたスラスト合成信号が流れるスラスト信号経路に電気的に接続されて、前記モータ軸受摩耗監視装置は、前記ラジアル合成信号の電圧値より小さくなるように設定されるラジアル閾値と、前記スラスト合成信号の電圧値より小さくなるように設定されるスラスト閾値と、を記憶する閾値記憶部、を備えて、前記検出コイルと、前記ラジアル信号経路と、前記スラスト信号経路それぞれが断線していないとき、前記ラジアル合成信号は、ラジアル経路信号として前記ラジアル信号経路を流れて、前記スラスト合成信号は、スラスト経路信号として前記スラスト信号経路を流れて、前記断線検出方法は、前記モータ軸受摩耗監視装置が、前記ラジアル信号経路から前記ラジアル経路信号を取得して、前記スラスト信号経路から前記スラスト経路信号を取得する、取得ステップ(例えば、第1取得ステップ(ST21)、第2取得ステップ(ST31))と、前記モータ軸受摩耗監視装置が、前記ラジアル経路信号の電圧値と前記ラジアル閾値とに基づいて、前記ラジアル検出コイルと前記ラジアル信号経路それぞれの前記断線を検出して、前記スラスト経路信号の電圧値と前記スラスト閾値とに基づいて、前記ラジアル検出コイルと前記スラスト信号経路それぞれの前記断線を検出する、断線検出ステップ(例えば、第1比較ステップ(ST22)、第2比較ステップ(ST25)、第3比較ステップ(ST32)、第4比較ステップ(ST35))と、を含む、断線検出方法である。
この構成によれば、ポンプの使用者は、ポンプを停止させることなく安全に検出コイルおよび第1経路~第4経路の断線の有無を確認できる。
【符号の説明】
【0220】
1 キャンドモータポンプ
3 モータ部
31 回転軸
32 軸受
33 軸受
36 ロータ
37 ステータ
5 モータ軸受摩耗監視装置
53a CPU(プロセッサ)
53b RAM(閾値記憶部、電圧値記憶部)
531 摩耗量検出部
532 第2取得部(取得部)
534 閾値設定部
535 断線検出部
5A モータ軸受摩耗監視装置
537 断線推定部
54A 記憶部(学習モデル記憶部)
C1 検出コイル(ラジアル検出コイル、第1ラジアル検出コイル)
C2 検出コイル(スラスト検出コイル、第1スラスト検出コイル)
C3 検出コイル(ラジアル検出コイル、第1ラジアル検出コイル)
C4 検出コイル(スラスト検出コイル、第1スラスト検出コイル)
C5 検出コイル(ラジアル検出コイル、第2ラジアル検出コイル)
C6 検出コイル(スラスト検出コイル、第2スラスト検出コイル)
C7 検出コイル(ラジアル検出コイル、第2ラジアル検出コイル)
C8 検出コイル(スラスト検出コイル、第2スラスト検出コイル)
L1 第1経路(ラジアル信号経路)
L2 第2経路(ラジアル信号経路)
L3 第3経路(スラスト信号経路)
L4 第4経路(スラスト信号経路)
M1 第1学習モデル(ラジアル学習モデル)
M2 第2学習モデル(ラジアル学習モデル)
M3 第3学習モデル(スラスト学習モデル)
M4 第4学習モデル(スラスト学習モデル)
【要約】
【課題】キャンドモータポンプを停止させることなく安全に検出コイルの断線の有無を確認する。
【解決手段】本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置5は、ステータ37に対するロータ36の機械的な位置変化に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルC1~C8それぞれの検出信号に基づいて、軸受の摩耗状態を監視する。モータ軸受摩耗監視装置は、閾値記憶部53bと、ラジアル信号経路L1,L2を流れるラジアル経路信号とスラスト信号経路L3,L4を流れるスラスト経路信号とを取得する取得部532と、検出コイルとラジアル信号経路とスラスト信号経路それぞれの断線の有無を検出する断線検出部535と、を有してなる。断線検出部は、ラジアル経路信号とスラスト経路信号それぞれの電圧値とラジアル閾値とスラスト閾値とに基づいて、対応する検出コイルとラジアル信号経路とスラスト信号経路それぞれの断線の有無を検出する。
【選択図】
図4