(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】腸内菌叢改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/704 20060101AFI20240611BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20240611BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240611BHJP
A61P 1/12 20060101ALI20240611BHJP
A23L 33/11 20160101ALI20240611BHJP
A61K 36/899 20060101ALN20240611BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
A61K31/704
A61P1/14
A61P31/04
A61P1/12
A23L33/11
A61K36/899
A61K131:00
(21)【出願番号】P 2020101762
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】井治 賢希
(72)【発明者】
【氏名】奥原 康英
(72)【発明者】
【氏名】足立 知基
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】久保田 喜子
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-086153(JP,A)
【文献】特開平07-107939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/327
A61K31/33-31/80
A61K33/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 1/00-43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシル化ステロール配糖体を有効成分として含有する腸内菌
数中のFirmicutes門の菌占有率低下及びBacteroidetes門の菌占有率増加用組成物。
(但し、アシル化ステロール配糖体を2.7~4.1質量%、γ-オリザノールを0.6質量%又は1.4~2.1質量%含有する米糠抽出物を含むVLDL分泌抑制剤を除く)。
【請求項2】
アシル化ステロール配糖体を0.1質量%以上含有する請求項1に記載の腸内菌
数中のFirmicutes門の菌占有率低下及びBacteroidetes門の菌占有率増加用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内菌叢の改善作用を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの腸内菌叢の99%以上は、Firmicutes門、Bacteroidetes門、Proteobacteria門、又はActinobacteria門のいずれかに属することが明らかになっている。また健常者においては、Firmicutes門が全体の60%程度を占め、次いでBacteroidetes門が全体の20%程度を占めていることがわかっている。
一方、肥満者や肥満マウスでは、Firmicutes門の比率が上昇し、入れ替わるようにBacteroidetes門の比率が低下することが知られており、BMIとFirmicutes/Bacteroidetes比に正の相関関係があるともいわれている(非特許文献1、2参照)。
また腸内菌叢に占めるFirmicutes門の比率が高まると、腸内の異常発酵や、便秘が続き、不快な気分に至り、さらに長期間腸内菌叢がFirmicutes門主体の状態が続くと大腸がんが発生するなどの問題も指摘されている。このため腸内菌叢を改善することは健康を維持する上で重要であると考えられている。
【0003】
腸内菌叢の改善状態は、前記のFirmicutes門の割合が減少することを指標として評価するか、あるいは、分類学上の目のレベルで、善玉菌と呼ばれるLactobacillales目の乳酸菌、属のレベルではビフィドバクテリウム属のビフィズス菌の占有率が高まり、悪玉菌と呼ばれるClostridium属の細菌群の腸内菌叢占有比率が低下することなどを指標として評価することができるとされている。また、このような腸内菌叢の変化を指標として、様々な腸内菌叢改善物質や食生活改善方法が、見出されている。
【0004】
腸内菌叢改善作用は、様々な化合物や組成物に見出されている。代表的なものとしてオリゴ糖類や多糖類などの糖類(特許文献1~3)がある。また食物繊維(特許文献4~5)や、食品由来の化合物(特許文献6)やたんぱく質・ペプチド(特許文献7)、あるいは微生物とその培養産物(特許文献8~9)などを挙げることができる。現在も様々な腸内菌叢改善作用を有する物質や、組成物の探索が進められている。
【0005】
アシル化ステロール配糖体は、玄米や米糠、大豆及びコーンなどの穀類に多く含まれステロール骨格に糖又は糖鎖が結合し、さらにこの糖又は糖鎖にアシル基が結合している化合物である。アシル化ステロール配糖体は、ステロールに結合する糖又は糖鎖の異なる化合物やアシル基の異なる化合物の総称であって、天然物中から得られるアシル化ステロール配糖体には通常複数の成分が含まれる。このアシル化ステロール配糖体には様々な生理作用が知られており、多数の提案がなされている(特許文献10~14参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-94307号公報
【文献】国際公開第2018/193897号
【文献】特開2019-92469号公報
【文献】特開2019-198281号公報
【文献】国際公開第2018/056284号
【文献】特開2018-12677号公報
【文献】国際公開第2017/142080号
【文献】特表2019-528763号公報
【文献】特開2016-204355号公報
【文献】特開2017-81841号公報
【文献】特開2017-43544号公報
【文献】特開2015-86153号公報
【文献】特開2014-156432号公報
【文献】特開2015-42627号公報
【文献】特開2015-86151号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Nature,Vol.444,1022-1023,2006
【文献】日本化学療法学会雑誌、Vol.66,No.1,129-138,2018
【文献】帯大研報.10(1977): 507~514
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新たな腸内菌叢改善用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、発芽玄米や玄米の糠に含有されるアシル化ステロール配糖体について研究を行っている。その研究の過程で、アシル化ステロール配糖体を含有する組成物に腸内菌叢改善作用を見いだし、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、以下の構成である。
(1)アシル化ステロール配糖体を有効成分として含有する腸内菌叢改善用組成物。
(2)アシル化ステロール配糖体を0.1質量%以上含有する(1)に記載の腸内菌叢改善用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、新たな腸内菌叢改善用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】対照である高脂肪食(以下「HF」)投与群、アシル化ステロール配糖体(以下「ASG」)0.5%投与群、ASG1.0%投与群の55日飼育後の盲腸内容物の重量測定結果を示すグラフである。
【
図2】HF投与群、ASG0.5%投与群、ASG1.0%投与群の55日飼育後の盲腸内容物のpH測定結果を示すグラフである。
【
図3】HF投与群、ASG0.5%投与群、ASG1.0%投与群の55日飼育後の盲腸内菌叢のFirmicutes門の占有率を示すグラフである。
【
図4】HF投与群、ASG0.5%投与群、ASG1.0%投与群の55日飼育後の盲腸内菌叢のBacteroidetes門の占有率を示すグラフである。
【
図5】HF投与群、ASG0.5%投与群、ASG1.0%投与群の55日飼育後の盲腸内菌叢のFirmicutes/Bacteroidetes比を示すグラフである。
【
図6】HF投与群、ASG0.5%投与群、ASG1.0%投与群の55日飼育後の盲腸内菌叢のLactobacillales目に分類される細菌群の占有率を示すグラフである。
【
図7】HF投与群、ASG0.5%投与群、ASG1.0%投与群の55日飼育後の盲腸内菌叢のClostridium cluster XIに分類される細菌群の占有率を示すグラフである。
【
図8】HF投与群、ASG0.5%投与群、ASG1.0%投与群の55日飼育後の盲腸内菌叢のClostridium subcluster XIVaに分類される細菌群の占有率を示すグラフである。
【
図9】HF投与群、ASG0.5%投与群、ASG1.0%投与群それぞれの飼育期間の平均体重変化(平均増加量)示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、アシル化ステロール配糖体を有効成分として含有する、腸内菌叢改善用組成物に係るものである。
本発明でいう腸内菌叢の改善とは、哺乳動物の大腸内における微生物群のうちFirmicutes門の占有比率を低下させ、Bacteroidetes門の占有比率を上昇させること、及び/又はラクトバシラス目(Lactobacillales)に分類される細菌群の占有比率を増加させクロストリジウム属(Clostridium)に分類される細菌群の占有比率を減少させることをいう。
本発明でいう腸内菌叢改善用組成物とは、医薬品、医薬部外品、飲料、食品、健康食品、サプリメントである。
【0014】
本発明の腸内菌叢改善用組成物に含まれる有効成分であるアシル化ステロール配糖体は、玄米や米糠、大豆及びコーンなどの原料から得ることができる。
本発明でいうアシル化ステロール配糖体とは、ステロール骨格に糖又は糖鎖が結合し、糖又は糖鎖にアシル基が結合した化合物をいう。さらにまた、本発明でいうアシル化ステロール配糖体なる用語は、ステロールに結合した糖又は糖鎖が異なる化合物、及び糖又は糖鎖に結合したアシル基が異なる化合物を包含する。天然物からの抽出物中には、通常複数種の異なるアシル化ステロール配糖体が含有される。アシル化ステロール配糖体の構成糖は、主にグルコースであるが、それ以外の単糖又はオリゴ糖であってもよい。また構成ステロールはβ-シトステロール、スチグマステロール、カンペステロールである。
アシル化ステロール配糖体は、主にステロールに結合したグルコースの6位が、脂肪酸によってアシル化されており、脂肪酸は、主としてリノール酸、オレイン酸、パルミチン酸であることが明らかとなっている(非特許文献3参照)。
【0015】
本発明に用いるアシル化ステロール配糖体は、天然物から抽出したものが好ましい。また、化学的に合成したものも用いることができる。天然物から抽出したものは、分析するときアシル化ステロール1質量%以上含有するものであれば、本発明の組成物の原料として使用可能である。また抽出物の形態は、本発明の組成物に配合するに適した液体、固体、粉末等いずれの形態であって適宜選択して使用することが可能である。
【0016】
本発明の有効成分であるアシル化ステロール配糖体を、玄米や米糠、大豆及びコーンなどの穀類から抽出物として得るための方法として、溶媒抽出法、超臨界抽出法等を例示できる。
【0017】
玄米や米糠、大豆及びコーンなどの穀類からアシル化ステロール配糖体を得る方法について概略を説明する。
玄米や米糠、大豆及びコーンなどの穀類を原料とする。このとき、これらの原料に含まれている外皮などの異物を選別除去した後、ノルマルヘキサンを用いて脱脂する。得られた脱脂糠を蒸留装置により脱溶媒し、さらにノルマルヘキサン、アセトン、エタノール、水などの溶媒によって溶媒抽出する。かくして得られた溶媒抽出液を、脱溶剤装置を用いて脱溶剤することで本発明の有効成分であるアシル化ステロール配糖体を含有する、発芽玄米糠または玄米糠の抽出物を得ることができる。この抽出物は、本発明の腸内菌叢改善用組成物の原料として使用することができる。
またこの抽出物をさらにクロロホルム、メタノール等の溶媒を用いた溶媒抽出を繰り返すことで、アシル化ステロール配糖体の純度を高めることができる。あるいは分取用液体クロマトグラフィー装置やカラムクロマトグラフィーを用いてアシル化ステロール配糖体をさらに高純度に精製することもできる。この精製アシル化ステロール配糖体を賦形剤等と混合して、腸内菌叢改善用組成物とすることができる。
【0018】
アシル化ステロール配糖体の含有量は、以下の方法により測定することができる。
(1)前記の抽出物を適量秤取し、クロロホルム/メタノール混液(クロロホルム:メタノール=2:1)を加え、メスフラスコにてメスアップする。
(2)(1)で得られた溶液は、成分濃度に応じて適宜希釈し、分析用試料溶液とする。
(3)アシル化ステロール配糖体の標品は、Esterified Steryl Glucoside(フナコシ)を用いる。測定は、高速液体クロマトグラフ法によりアシル化ステロール配糖体の濃度を算出する。
(4)高速液体クロマトグラフ法による分析条件
分析装置 :HPLC
移動相A :メタノール:水=95:5(v/v)
移動相B :クロロホルム=100(v/v)
ポンプ :Model 582
solvent delivery system
分析カラム :LiChrospher Si60(5μm)
HPLC-Cartridge(MERCK)
検出器 :荷電化粒子検出器(コロナ ダイオネクス社)
Injection Volume:20μL
カラムオーブン:40℃(FLO社 model 502)
分析時間 :40min
脱泡装置 :uniflows Degasys
Ultimate DV 3003
流速 :1mL/min
グラジェント条件
以下に示すとおり
0-15分
移動相A: 1%→25%、移動相B:99%→75%
15-20分
移動相A:25%→90%、移動相B:75%→10%
20-25分
移動相A:90%、 移動相B:10%
25-30分
移動相A:90%→ 1%、移動相B:10%→99%
30-40分
移動相A: 1%、 移動相B:99%
【0019】
アシル化ステロール配糖体を含有する抽出物は、加水分解したときに、加水分解前の質量に対して20~30質量%のリノール酸、24~37質量%のオレイン酸、11~17質量%のパルミチン酸を含有する。
【0020】
前記した加水分解後のリノール酸、オレイン酸、パルミチン酸の量は、以下の方法により測定できる。
すなわち、前記抽出物に0.5mol/Lの水酸化ナトリウムを含有するメタノールを加えてケン化し、三フッ化ホウ素メタノール錯体メタノール溶液を添加してメチルエステル化する。ヘキサンと飽和食塩水を加えて脂肪酸のメチルエステル化物を分配抽出し、ガスクロマトグラフィーで水素炎イオン検出器を用いて定量分析する。
【0021】
本発明の有効成分であるアシル化ステロール配糖体を含有する抽出物は、加水分解したときに、加水分解前の質量に対して1.7~2.6質量%の植物ステロールを含有している。なお植物ステロールの主成分は、β-シトステロール、スチグマステロール、カンペステロールである。
【0022】
そして、植物ステロールの量は、以下の方法により測定できる。
玄米や米糠、大豆及びコーンなどの原料からの抽出物に塩化ナトリウム水溶液、ピロガロール-エタノール溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カリウムを順次加えて、ケン化する。塩化ナトリウム水溶液とヘキサン、酢酸エチル混液を添加して、不ケン化物を分配抽出する。不ケン化物からシリカカートリッジカラムを用いて植物ステロール画分を分離し、植物ステロール画分中の植物ステロールをガスクロマトグラフィーで水素炎イオン検出器を用いて定量分析することで植物ステロールの量を測定できる。
【0023】
本発明に係るアシル化ステロール配糖体を含有する玄米や米糠、大豆及びコーンなどの穀類からの抽出物、あるいは高純度に精製したアシル化ステロール配糖体は、公知の方法により、賦形剤とともに任意の形態に製剤化して、経口摂取(投与)用の剤型とすることができる。具体的な剤型は、カプセル剤又は錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤を例示できる。
また飲食品とする場合、それぞれの飲食品の製造方法に従って添加して飲食品とすることができる。
【0024】
本発明の腸内菌叢改善用組成物は、アシル化ステロール配糖体を0.1質量%以上、好ましくは0.3~10質量%、より好ましくは0.5~3質量%含有する。
本発明の腸内菌叢改善用組成物の投与量は、投与方法と、対象者の年齢、病状や一般状態等によって変更し得るが、成人では体重1kg当たり通常、1日当たりアシル化ステロール換算で0.1~500mg投与することが適当である。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
<高脂肪食摂取による腸内菌叢の悪化状態の改善試験>
高脂肪食を長期間摂取すると、腸内菌叢におけるいわゆる「善玉菌」と呼ばれる乳酸菌群やビフィズス菌群の比率が減少し、「悪玉菌」と呼ばれるクロストリジウム属の細菌群が増加していることが、従来技術に記載の通り、知られている。本試験は、高脂肪食の持続摂取によるこのような腸内菌叢の変化(悪化)をアシル化ステロール配糖体が改善することを確認するために行った。
【0026】
<1.動物試験用高純度アシル化ステロール配糖体の調製>
市場に流通している玄米糠を選別し、混入している胚乳や異物を除いた玄米糠を得た。得られた選別済みの玄米糠10kgに対して50Lのノルマルヘキサンを用い、常法により脱脂した。この脱脂作業をもう一度繰り返し、脱脂玄米糠を得た。得られた脱脂玄米糠を、蒸留装置を用いて溶媒を除去した。
この脱脂玄米糠8kgに対し、50Lのエタノールを用いて70±3℃の温度条件にて1時間還流抽出した。これを3回繰り返し、得られた抽出液について、脱溶剤装置を用いてエタノールを除去した。なお以上の抽出操作は特許文献15に開示されている方法に基づいて行った。
この玄米糠抽出物中のアシル化ステロール配糖体の含有量は3.4質量%であった。
【0027】
前記のアシル化ステロール配糖体(以下「アシル化ステロール配糖体」を「ASG」と略記する)含有玄米糠抽出物(以下「抽出物」)を再度溶媒抽出とカラムクロマトグラフィー操作を行い、溶媒を除去し、ASG 91質量%純度の白色のグリース状物質を得た。具体的な方法として1:1の容積比で混合したヘキサン-クロロホルム混合液(以下「ヘキクロ」)90mLを抽出物142gと均質に混合した後、25℃,5000rpm×10min.の条件で遠心し上澄みを精製サンプルとした。精製用のカラムには直径100mmのガラス製のオープンカラムを用いた。カラム単体にはシリカゲル700gを用いヘキクロ1Lと均質に混合した後にカラムへ充填した。充填した後約60分間静置し精製サンプル全量をアプライした。アプライ後、ヘキクロ2.2L、クロロホルム3.2L及びクロロホルムとメタノールを容積比9:1で均質に混合したクロロホルム-メタノール混合液(以下「クロメタ」)3Lの順で通液し、クロメタの通液時に溶出される1番目と2番目の褐色色素(リング状)の間をASG画分として分取した。分取したASG画分を含む溶液はエバポレーターにて濃縮後、24時間凍結乾燥しASG91質量%純度の精製物を得た。これを以下の動物試験用試料とした。
【0028】
<2.動物試験>
1.試験動物
入荷時7週齢のC57BL/6J雄マウス(日本エスエルシー株式会社)を試験に用いた。マウスは、ブリーダーより導入後、MF飼料(オリエンタル酵母工業)と飲用水(水道水)を自由摂取させ、7日間予備飼育した後、健常な動物一群8匹とし、3群に群分けした。
【0029】
2.飼育条件
動物飼育室は、室温24℃、湿度55%、12時間の明暗サイクル(明期はAM7:00~PM7:00、暗期はPM7:00~AM7:00)の条件で管理した。
【0030】
3.試験期間(飼育期間)
本試験におけるASG投与期間を55日として、動物試験を行った。
【0031】
4.試験用餌料の調製
ASGの腸内菌叢に対する効果を確認するため試験用餌料を調製した。
試験用餌料に配合するASGは、上記した高純度精製ASG (純度91%)を使用した。
試験用餌料は、ラードを30%とした高脂肪食(HF)にASGを0.5%(0.5%ASG)、又は1.0%(1.0%ASG)添加したものを調製した。
また対照の高脂肪食(以下「HF」と略記)は市販の標準飼料AIN93G(オリエンタル酵母株式会社)の組成をベースとし、これを高脂肪にした組成に改変したものである。このHF及び上記の試験用餌料は、本発明者らが調製した。
このHFの調製に当たっては、餌料100質量部当たり、カゼイン(ミルクカゼイン:日本配合餌料株式会社)20質量部、L-シスチン(富士フィルム和光純薬工業株式会社)0.3質量部、シュクロース(第一糖業株式会社)13質量部、デキストリン(三晶株式会社)17.1986質量部、とうもろこし油(ビタミンEフリー(タマ生化学株式会社))10質量部、ラード(株式会社ADEKA)30質量部、セルロースパウダー(オリエンタル酵母工業株式会社)5質量部、AIN-93G ミネラル混合(オリエンタル酵母工業株式会社)3.5質量部、AIN-93ビタミン コリン有(オリエンタル酵母工業株式会社)1質量部、第三ブチルヒドロキノン(富士フイルム和光純薬工業株式会社)0.0014質量部を用い、攪拌装置に投入し、十分攪拌混合して餌料とした。また0.5%ASG配合餌料は、前記の精製品を0.55質量部加え、とうもろこし油を9.45質量部に減量して調製した。また1.0%ASG配合餌料は、同様に精製ASG1.11質量部、とうもろこし油8.89質量部に減量して調製した。各餌料の原料配合量を、下記表1に示した。
【0032】
【0033】
5.試験の実施
試験用餌料を、それぞれ群分けしたマウス3群に無作為に割り付けた。そして各群の毎日の摂取カロリーを同じにするため、HF群を基準とするペアフィーディング法による餌料の投与を行った。なお、水は自由摂取とした。
55日間試験用餌料を上記の通り給餌して飼育した。また、毎週1回体重を測定した。
試験動物は、飼育期間が終了した後、イソフルランによる吸引麻酔下で、心臓採血により脱血死させた。屠体を解剖し、盲腸を摘出して、その重量を測定した。さらに腸内菌叢解析のため盲腸内容物を回収し重量を測定した。
【0034】
6.腸内細菌叢の解析方法
回収した盲腸内容物は、15mlの生理食塩水に懸濁してpHを測定し、さらにこの懸濁液を検体として腸内細菌叢の細菌群解析を行った。
腸内細菌叢の解析は、末端標識制限酵素断片多型分析(Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism:T-RFLP)法(株式会社テクノスルガ・ラボ)により行った。
解析対象とした細菌群は、T-RFLP法で提供されている分類に従い、分類学上の門のレベルでFirmicutes門、Bacteroidetes門の2門、目のレベルでは、Lactobacillalesに分類される細菌群、属のレベルではクロストリジウム(Clostridium)属に分類されるClostridium cluster XI、Clostridium subcluster XIVa、Clostridium cluster XVIII、Clostridium cluster IV、Bifidobacterium(ビフィドバクテリウムに分類される細菌群、Prevotella属に分類される細菌群、Bacteroides属に分類される細菌群を選定して解析対象とした。また、検体から抽出したDNAの16SrDNA部分をPCRで増幅し、制限酵素で切断したDNAの長さが、上記の細菌群に該当しないものについては、その他(other)として解析した。
【0035】
解析に当たっては、検体から抽出したDNAの16SrDNA部分をPCRで増幅し、制限酵素で切断したDNAの長さが近いものをグループ化した。菌種ごとに全細菌数に対する細菌数に換算して腸内菌叢における占有率(%)を求め、細菌群集の構成を解析した。なお結果は、Tukeyの多重比較検定法によって有意差検定を行った。有意水準をp<0.05、P<0.01の2水準で評価した。
【0036】
7.解析結果
(1)盲腸内容物重量
盲腸内容物の重量測定結果を
図1に示した。
ASG0.5%、1.0%投与群の両群とも、盲腸内容物重量が、HF群に比して有意に増加していた。
【0037】
(2)盲腸内容物のpH
盲腸内容物のpHを
図2に示した。
盲腸内容物のpHは、HF投与群に対してASG1.0%投与群において有意に低下した。
【0038】
(3)Firmicutes門
全細菌数に対するFirmicutes門の占有率を
図3に示した。HF投与群と比べ、ASG0.5%投与群及び1.0%投与群ともにFirmicutes門の占有率が明らかに有意に減少した。
【0039】
(4)Bacteroidetes門
全細菌数に対するBacteroidetes門の占有率を
図4に示した。HF投与群と比べ、ASG0.5%投与群のBacteroidetes門の占有率が明らかに有意に増加した。
【0040】
(5)Firmicutes門/Bacteroidetes門の比
腸内菌叢の変化を見る指標としてFirmicutes門の占有率とBacteroidetes門の占有率の比、すなわちFirmicutes門/Bacteroidetes門の比を見ることが重要である。Firmicutes門/Bacteroidetes門の比を
図5に示した。
図5から、Firmicutes門/Bacteroidetes門の比がHF群に対してASG0.5%投与群及び1.0%投与群ともに有意に減少していることが明らかとなった。すなわちマウス盲腸内の菌叢は、ASG投与群においてFirmicutes門の細菌群が減少しBacteroidetes門の細菌群が増加していた。
以上のFirmicutes門とBacteroidetes門の盲腸内におけるそれぞれの占有率と、Firmicutes門/Bacteroidetes門の比を見ることによって、高脂肪食による腸内菌叢を、ASGがFirmicutes門を減少させ、Bacteroidetes門を増加させていることが明らかとなった。
【0041】
(6)Lactobacillales目
全細菌数に対するLactobacillalesの占有率を
図6に示した。HF投与群と比べ、ASG1.0%投与群の占有率が明らかに有意に増加した。Lactobacillalesは、いわゆる「善玉菌」に分類されている乳酸菌群が含まれる。ASGは善玉菌を増加させる作用を有していることが明らかである。
【0042】
(7)Clostridium cluster XI
全細菌数に対するClostridium cluster XIの占有率を
図7に示した。HF投与群と比べ、ASG0.5%投与群及び1.0%投与群の、腸内全細菌数に対するClostridium cluster XIの占有率が明らかに有意に減少した。
【0043】
(8)Clostridium subcluster XIVa
全細菌数に対するClostridium subcluster XIVaの占有率を
図8に示した。HF投与群と比べ、ASG0.5%投与群及び1.0%投与群の、腸内全細菌数に対するClostridium subcluster XIVaの占有率が明らかに有意に減少した。
【0044】
(9)体重変化(体重増加量)
各試験動物群の、試験開始日からの体重変化(体重増加量)の推移を
図9に示す。
HF投与群の体重増加量に対して、ASG0.5%投与群及び1.0%投与群において、投与開始5週目以降の体重増加量は、有意に抑制されていた。
【0045】
8.解析結果の総括
ASGの投与により盲腸内容物重量が、HF群に比し増加し、あわせて盲腸内容物のpHも低下した。このことから、ASGの投与により盲腸内で短鎖脂肪酸や腸内細菌由来発酵物の産生が亢進し、盲腸内容物の重量が増加しているものと考えられた。これは腸内菌叢の変化に由来しているものと推測された。
【0046】
腸内菌叢の解析から、HF投与によりFirmicutes門が増加したことが確認された。このFirmicutes門の増加は、ASG投与により減少したことが確認された。そして、Firmicutes門の占有率とBacteroidetes門の占有率の比、すなわちFirmicutes門/Bacteroidetes門の比が低下しており、腸内菌叢が改善していることが明らかである。
Bacteroidetes門もHF投与群と比べASG投与群で増加し、さらにFirmicutes/Bacteroidetes比は、この結果を反映して、ASG投与により有意に低下した。これは、ASGの、生理的な腸内菌叢改善作用を裏付けるデータである。すなわち、従来技術に述べた通り、肥満者や肥満マウスでは、Firmicutes門の占有比率が上昇し、Bacteroidetes門が増加しその結果、
図9に示すような高脂肪食(HF)摂取による体重増加を抑制したものと考えられる。
ASGの腸内菌叢改善効果は、従来知られておらず、全く予想外であった。
【0047】
さらにまた、細菌群の目レベルや属レベルでの詳細な占有率解析から見ると、ASG投与により善玉菌として知られているLactobacillales目の細菌群の占有比率の増加が確認された。また、Clostridium属のうち、Clostridium cluster XIとClostridium subcluster XIVaが、ASG投与において占有比率が顕著に減少した。Clostridium cluster XIやClostridium subcluster XIVaに属するClostridium sordelliiやClostridium scindensは、デオキシコール酸を産生し、悪玉菌として一般には理解されており、ASGはこれらの悪玉菌を減少させる効果を有することが明らかとなった。すなわち、ASGは善玉菌を増加させ、悪玉菌を減少させるという作用効果を示すことが明らかとなった。
すなわちASGは腸内菌叢改善剤として極めて有用であると考えられる。