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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ツマアカスズメバチ誘引剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/32 20200101AFI20240611BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20240611BHJP
   A01P 19/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
A01N63/32
A01N25/02
A01P19/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020130525
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026862
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】本田 拓之
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03669648(EP,A1)
【文献】特開2020-033343(JP,A)
【文献】特開2007-176853(JP,A)
【文献】昆虫と自然,Vol.53, No.9,2018年,16-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 63/32
A01N 25/02
A01P 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紹興酒を有効成分とする、ツマアカスズメバチ誘引剤。
【請求項2】
紹興酒を用いる、ツマアカスズメバチの誘引方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツマアカスズメバチ誘引剤に関する。より詳しくは、本発明は、醸造酒を有効成分とする、ツマアカスズメバチ誘引剤やその誘引方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ツマアカスズメバチは、ハチ目スズメバチ科スズメバチ属に分類され、中国南部、台湾、東南アジア等に生息しており、食性が広く繁殖能力が高いことから、驚異的な速度で生息地域を拡大している。そのため、地域固有の生態系崩壊の懸念や養蜂業への被害の増大が問題視されている。またツマアカスズメバチに刺咬された人がアナフィラキシーショックを引き起こすこともあり、大きな問題となっている。
日本では、2012年に長崎県対馬市において初めてツマアカスズメバチが確認されたのち、緊急対策外来種に指定されているが、その生息地域はさほど拡大してはいない。この要因として、日本には7種類のスズメバチが生息しており、ツマアカスズメバチの天敵となることが考えられる。そのため、日本在来のスズメバチへの影響を抑え、ツマアカスズメバチを選択的に駆除することが有効な駆除方法と考えられている。
現在、スズメバチやアシナガバチなどのハチ類を駆除するために、エアゾール剤、毒餌剤、捕獲器など各種駆除剤や駆除方法が提案されている(例えば、特許文献1、2等)。しかしながら、これらの駆除剤や駆除方法では、ツマアカスズメバチと同時に在来のスズメバチも駆除されるため、両者のバランスが壊れ、ツマアカスズメバチの拡大を招くことが懸念される。
このような状況から、ツマアカスズメバチを選択的、かつ、効率的に駆除する処理剤や駆除方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-093846号公報
【文献】特開2011-144151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ツマアカスズメバチの駆除において、在来スズメバチへの影響を抑え、選択的かつ効率的にツマアカスズメバチを駆除する処理剤や駆除方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、醸造酒が特異的にツマアカスズメバチを誘引することを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0006】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.醸造酒を有効成分とする、ツマアカスズメバチ誘引剤。
2.醸造酒が紹興酒である、1.に記載のツマアカスズメバチ誘引剤。
3.醸造酒を用いる、ツマアカスズメバチの誘引方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、特異的にツマアカスズメバチを誘引し、ツマアカスズメバチの天敵である在来スズメバチへの影響を抑え、選択的かつ効率的にツマアカスズメバチを駆除する効果を発揮するものである。
また、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、種々の殺虫剤と組み合わせることにより、選択的かつ効率的にツマアカスズメバチの巣を崩壊させることができ、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例における「毒餌剤実地試験」の実施例5の試験結果を表すグラフである。
図2】実施例における「毒餌剤実地試験」の比較例4の試験結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤について、以下詳細に説明する。
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、特異的にツマアカスズメバチを誘引する成分として、醸造酒を有効成分とすることを特徴とするものである。
本発明における「醸造酒」とは、穀類、果実などの原料をアルコール発酵させて作る酒のことをいう。醸造酒としては、例えば、紹興酒、ビール、日本酒、果実酒(ワイン、シードル)等が挙げられる。
なお、みりんは、もち蒸米に米麹を混ぜ、焼酎または醸造用アルコールを加えて熟成したものを、圧搾、濾過したものであり、日本酒と違い、酵母によるアルコール発酵の工程を経ず製造される。みりんの中には、酵母によるアルコール発酵の工程を経て製造されるものもあるが、これらも含め、本発明における「醸造酒」は、みりんを含まない。
【0010】
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、「醸造酒」の香気成分が誘引効果を発揮していると推測される。その香気成分としては、例えば、下記成分が挙げられる。
「醸造酒」が紹興酒の場合の香気成分としては、アセタール、酪酸エチル、イソ吉草酸エチル、吉草酸エチル、イソペンチルアルコール、カプロン酸エチル、フルフラール、ベンズアルデヒド、フェニルエチルアルコール、γ-n-アミルブチロラクトン、酪酸、プロピオン酸、吉草酸、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘプタン、カプロン酸、2,2,4,4-テトラメチルオクタン、1-オクテン-3-オール、アセトフェノン、乳酸イソアミル、ノナン、ノナノール、マルトール、フェネチルアルコール、酢酸、安息香酸、コハク酸、カプリル酸、2-プロペン酸、ドデカン、2-ウンデカノール、テトラデカン、ベンゾフェノン、リン酸トリフェニル、4-ビニルグアイアコール、バニリン、ジメチルトリスルフィド等が挙げられる。
「醸造酒」がビールの場合の香気成分としては、イソペンチルアルコール、2-メチルテトラヒドロフラン-3-オン、フルフリルエチルエーテル、ヘプタン酸エチル、カプロン酸エチル、フルフラール、アセチルフラン、ベンズアルデヒド、リナロール、5-メチルフルフラール、テルピネオール、フルフリルアルコール、3-メチル酪酸、酢酸フェネチル、カプロン酸、フェネチルアルコール、ドデカノール、カプリル酸、ヘキサン酸フェネチル、酢酸、酪酸、1-ブタノール、1-ペンタノール、カプリル酸、シクロヘキサノン、1-ヘキサノール、アクリル酸、プロピオン酸、フェネチルアルコール、フタル酸ジブチル等が挙げられる。
「醸造酒」が日本酒、ワインの場合の香気成分としては、共通して、イソペンチルアルコール、酢酸イソペンチル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、1-ブタノール、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ベンズアルデヒド、1-オクタノール、フェネチルアルコール、酢酸、ε-カプロラクタム、ジブチルヒドロキシトルエン、プロピオン酸、フェノール、1,3-ジオキソラン、トルエン、ドデカン、ノナナール、1-ブトキシ-2-エチルヘキサン、カプリル酸、2-プロペン酸、カプリン酸、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート等が挙げられる。
【0011】
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤における醸造酒の含有量としては、実際に使用する誘引剤全体に対して0.5質量%以上含有することが好ましく、1質量%以上含有することがより好ましく、5質量%以上含有することが特に好ましい。この醸造酒の含有量が0.5質量%より少ない場合は、誘引効果を十分に発揮できない場合がある。また、この含有量が80質量%を超えると、製剤化やその安定性に課題が出てくるため、含有量は80質量%以下であることが好ましい。
【0012】
<その他の誘引成分>
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、特異的にツマアカスズメバチを誘引する成分である醸造酒以外にも、目的に応じて公知のハチ誘引成分を配合してもよい。公知の誘引成分としては、例えば、バルサミコ酢、リンゴ酢、米酢、玄米酢、粕酢、大豆酢、黒酢、ワインビネガー、すだち酢、赤酢、柿酢、麦芽酢、紫イモ酢、サトウキビ酢等の酢、乳酸製品(乳酸菌飲料等)、砂糖類、でんぷん糖類、はちみつ、糖蜜、果実、果実加工品、果汁、果汁飲料、ウィスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、ジン、テキーラ、焼酎等の酒類、酒粕、魚介類、魚介類加工品、魚介類抽出物、食肉、食肉加工品、食肉抽出物、香料等をベースとしたものであってもよい。これらその他の誘引成分の中でも、液体のものや水溶性のものが好ましい。さらに、グリセリン等の脂肪族多価アルコール、ソルビトール等の糖アルコール、キサンタンガム等の増粘多糖類等の保湿成分を添加すれば、長期にわたり誘引成分の効能を発揮させることができる。
また、腐敗による発酵臭を発生させて捕獲効率を向上させる誘引液において、塩化ナトリウムの添加は、発酵に影響を及ぼすことがほとんどなく、かつ、誘引液の表面を覆う膜の形成を防止する効果が得られるため好ましい。
【0013】
<殺虫剤>
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、公知の殺虫剤と組み合わせて使用することにより、誘引したツマアカスズメバチを確実に駆除できる毒餌剤や捕獲剤などの駆除剤とすることができる。併用できる公知の殺虫剤としては、例えば、天然ピレトリン、アレスリン、レスメトリン、フラメトリン、プラレトリン、テラレスリン、フタルスリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、サイパーメスリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、イミプロトリン、エンペントリン、エトフェンプロックス、シラフルオフェン、メペルフルトリン、ジメフルトリン等のピレスロイド系化合物;プロポクスル、カルバリル等のカーバメイト系化合物;フェニトロチオン、ダイアジノン、テトラクロロビンホス、DDVP等の有機リン系化合物;メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物;フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物;アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物;イミダクロプリド、ジノテフラン等のネオニコチノイド系化合物;ピリプロキシフェン、メトプレン、ハイドロプレン等の昆虫幼若ホルモン様化合物;スルフルラミド等の酸化的リン酸化脱共役剤;プレコセン等の抗幼若ホルモン様化合物;ノバルロン、ジフルベンズロン、エトキサゾール等のキチン合成阻害剤;ヒドラメチルノン等のアミジノヒドラゾン系化合物;フィトンチッド、ハッカ油、オレンジ油、桂皮油、丁子油等の殺虫精油類等の各種殺虫剤を挙げることができ、さらに、サイネピリン、ピペロニルブトキサイド等の共力剤も併用することができる。忌避性の少ない、昆虫幼若ホルモン様化合物、抗幼若ホルモン様化合物、キチン合成阻害剤等の昆虫成長制御剤も、好適に併用することができる。中でも、ツマアカスズメバチの忌避性が少なく、かつ、遅効性の殺虫剤、例えば、ダイアジノン、テトラクロロビンホス、スルフルラミド、フィプロニル、ヒドラメチルノンが、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤を用いた毒餌剤や捕獲器に配合する殺虫剤として適している。
【0014】
また、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤と殺虫剤とを混合して使用する場合には、水で希釈する場合もあることも考慮すると、水溶性が高いものが製剤上好ましい場合がある。このような水溶解度を有する殺虫剤としては、例えば、アセフェート、バミドチオン、メチダチオン(DMTP)、フェノブカルブ(BPMC)、エチオフェンカルブ、カルタップ、チオシクラム、イミダクロプリド、チアクロプリド、シロマジン、ホスチアゼート、アセタミプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ピメトロジン、ジノテフラン等が挙げられる。これらの中でも、例えば、ジノテフラン(20℃における水溶解度:約54000ppm)、チアメトキサム(20℃における水溶解度:約4100ppm)、イミダクロプリド(20℃における水溶解度:約510ppm)、フェノブカルブ(BPMC、20℃における水溶解度:約610ppm)等の20℃における水溶解度が500ppm以上のものが、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤と組み合わせる殺虫剤として製剤上適している。
【0015】
<界面活性剤>
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、界面活性剤を配合することができる。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤の何れでも特に制限なく使用することができるが、中でも、非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤が好適である。
具体的には、例えば、非イオン性界面活性剤としては、糖エステル型、脂肪酸エステル型、植物油型、アルコール型、アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー型、アルキルアミン型、ビスフェノール型、多芳香環型のものが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型のものが挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、アンモニウム型、ベンザルコニウム型のものが挙げられる。両性界面活性剤としては、ベタイン型のものが挙げられる。
これらの中でもポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンヒマシ油、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油等の非イオン性界面活性剤、スルホン酸塩等の陰イオン性界面活性剤が好ましいものとしては挙げられる。
これらの界面活性剤は、単独もしくは2種以上を混合したもの何れも用いることができる。
【0016】
<製剤>
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤の形態としては、必須成分である醸造酒以外に、必要に応じて上記殺虫剤や一般的に製剤に添加される助剤成分と共に製剤化したものと、製剤化したものを水で希釈したものが含まれる。中でも、製剤化したものが、コンパクトでありかつ保存安定性に優れるため、移送時や保管時において有利である。中でも、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、液状のものとして使用することが好ましいため、水で希釈する場合には希釈しやすく、溶け残りが少ない点において液状製剤が好適である。
希釈に使用する水としては、精製水、水道水、イオン交換水、蒸留水、ろ過処理した水、滅菌処理した水、地下水、井戸水等が用いられる。
【0017】
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤を製剤化する場合は、必要に応じて、一般的に製剤に添加される助剤成分を配合することができる。一般的に製剤に添加される助剤成分の例としては、安定化剤、防腐剤、着色料、誤飲・誤食防止剤、液体担体等が挙げられる。安定化剤の例としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化防止剤、アスコルビン酸等が挙げられる。防腐剤の例としては、ソルビン酸、ソルビン酸塩、パラヒドロキシ安息香酸エステル類、チアベンダゾール、塩化ナトリウム等が挙げられる。着色料としては、カラメル色素、クチナシ色素、アントシアニン色素、紅花色素、フラボノイド色素、赤色2号、赤色3号、黄色4号、黄色5号等が挙げられる。誤飲・誤食防止剤としては、安息香酸デナトニウム等が挙げられる。
【0018】
製剤化の際に用いられる液体担体としては、例えばアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族または脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレン等)、植物油(大豆油、綿実油等)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、レモン油等)、および水が挙げられる。
【0019】
<毒餌剤について>
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、公知の殺虫剤と併用して毒餌剤として使用してもよい。毒餌剤としては、例えば、液状製剤、粉末状製剤、団子状製剤、ペースト状製剤、ゲル状製剤、打錠製剤等とすることができ、塗布剤としては、例えば、はけ塗り型製剤、スプレー型製剤、注入型製剤等とすることができる。例えば、この毒餌剤を含浸、付着または塗布した喫食基体を、ツマアカスズメバチ駆除を行う場所に設置すれば、ツマアカスズメバチが喫食することで殺虫効果を得ることができる。この喫食基体の素材としては、スポンジ、脱脂綿、天然繊維、合成繊維の不織布、吸水性ポリマー等のポリマー、織布、紙、多孔質体等が挙げられる。
この毒餌剤は、容器に収納して使用することが好ましく、収納する容器としては、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤を内部に収容できる形態であれば形状や大きさ等は制限されず、使用場所や使用方法に合った形態であればよい。この容器の材質としては、例えば、ガラス、金属、プラスチック等のほか、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤が容器から漏出することがない防水や撥水機能を有する特殊紙などの材質であれば特に制限されない。このツマアカスズメバチ毒餌剤を野外に設置する場合、雨水等が浸入し毒餌剤が希釈され、ツマアカスズメバチ防除効果が低下することを防止するために、開口部に対し空間を有しつつ雨水等の浸入を防止する覆い部を備える態様が好ましい。本発明のツマアカスズメバチ誘引剤を含有する毒餌剤の容器は、なるべく直射日光の当たらない場所に吊るす、または容器の入り口がふさがらないような平坦な場所に置いて使用することが好ましい。
【0020】
<ツマアカスズメバチ捕獲器について>
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、容器に収納してツマアカスズメバチ捕獲器として使用してもよい。
収納する容器は、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤を内部に収容できる形態であれば形状や大きさ等は制限されず、使用場所や使用方法に合った形態であればよい。この容器の材質としては、例えば、ガラス、金属、プラスチック等のほか、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤が容器から漏出することがない防水や撥水機能を有する特殊紙などの材質であれば特に制限されない。
容器の態様の1例として、容器の開口部を覆う蓋を有し、この蓋または容器の何れかにハチが侵入する開口部が形成されていると良い。この開口部は、ハチが容器内に容易に侵入できる大きさや形状であればよく、開口部の寸法(径、幅、長さ)は、10mm以上35mm以下に設定することが好ましく、10mm以上30mm以下に設定することがより好ましい。開口部が10mmより小さくなると、ツマアカスズメバチが開口部から侵入し難く捕獲効率が低下する。また、開口部が35mmより大きくなると、ハチ以外の蝶、蛾、甲虫等が容器内に侵入してしまう。ツマアカスズメバチが容器内に侵入しやすいように、複数の開口部を容器に形成することが良いが、その数は容器の大きさにもよるが2個以上5個以下が好ましい。
容器は、ツマアカスズメバチ捕獲数を目視できるように、透明又は半透明の窓相当部を設けたもの、もしくは透明または半透明の容器としてもよく、捕獲したツマアカスズメバチを見えにくくして不快感を抑えることもできる。
また、容器内に侵入したツマアカスズメバチが容易に容器外に脱出することを防止するために、開口部は漏斗状等の形状であることが好ましい。
ツマアカスズメバチ捕獲器を野外に設置する場合、雨水等が浸入し本発明のツマアカスズメバチ誘引剤が希釈され、ツマアカスズメバチ捕獲効率が低下することを防止するために、開口部に対し空間を有しつつ雨水等の浸入を防止する覆い部を備える態様が好ましい。
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤を用いるツマアカスズメバチ捕獲器は、なるべく直射日光の当たらない場所に吊るす、柵などに固定して使用する、または容器の入り口がふさがらないような平坦な場所に置いて使用することが好ましい。
【実施例
【0021】
以下、処方例および試験例等により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
【0022】
<誘引試験1>
本発明の誘引剤が、ツマアカスズメバチに対して誘引効果を示すことを確認するために、以下の試験を行った。
(1)試験検体の調製
紹興酒を5質量%、その他の誘引成分(酢、糖、乳酸菌飲料等)を12.9質量%、製剤助剤(溶媒、界面活性剤等)を0.1質量%および水を残量分含有する、本発明の誘引剤の具体例である実施例検体Aを調製した。
また、比較例検体aとして、市販の誘引剤入りハチ捕獲器を使用した。
【0023】
(2)試験方法
長崎県対馬市内のツマアカスズメバチが生息する地域の林道周辺で、試験を実施した。
上記実施例検体Aを、比較例検体aと同じハチ捕獲器の空容器(プラスチック製、開口部直径90mm、高さ120mm)に収納したものと、比較例検体aを、それぞれ3m離し地上から2mの高さに設置して、1週間(2019年6月初旬)後のツマアカスズメバチの累積捕獲数を計測した。試験は3回実施し、それぞれのツマアカスズメバチの累積捕獲数の合計を試験結果として評価した。
(3)試験結果
誘引剤として紹興酒を含有する実施例検体Aは、捕獲されたハチの全てがツマアカスズメバチであり、オオスズメバチやキイロスズメバチは全く捕獲されなかった。
これに対して、誘引剤として紹興酒を含有しない比較例検体a(市販のハチ捕獲器)は、ツマアカスズメバチはもとより、オオスズメバチやキイロスズメバチなどのスズメバチも捕獲されなかった。
この結果より、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、ツマアカスズメバチの誘引選択率が100%であり、特異的な誘引効果を発揮することが明らかとなった。
【0024】
<誘引試験2>
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤が、ツマアカスズメバチに対して選択的な誘引効果を発揮することが、有効成分である醸造酒によることを確認するために、以下の試験を行った。
(1)試験検体の調製
上記「誘引試験1」の実施例検体Aを使用した。
比較例検体bは、実施例検体Aの紹興酒を、みりんに代えた点のみ相違する組成で調製した。
【0025】
(2)試験方法
長崎県対馬市内のツマアカスズメバチが生息する地域の林道周辺で、試験を実施した。
上記実施例検体A、比較例検体bを、比較例検体aと同じハチ捕獲器の空容器(プラスチック製、開口部直径90mm、高さ120mm)に収納したもの(実施例1、比較例1)を準備し、各試験検体が3m離れるように、地上から2mの高さに設置して、2週間(2019年9月下旬)後に捕獲されたスズメバチ数の合計を計測した。試験は3回実施し、それぞれのツマアカスズメバチの累積捕獲数の合計を試験結果として評価した。
【0026】
(3)試験結果
実施例1、比較例1の試験検体(各3個)において、捕獲されたスズメバチは、ツマアカスズメバチ、オオスズメバチ、キイロスズメバチの3種類であった。実施例1、比較例1の各試験検体が捕獲したスズメバチの合計数におけるツマアカスズメバチの捕獲割合を、下記表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示すように、紹興酒を含有する誘引剤を使用する実施例1は、みりんを含有する誘引剤を使用する比較例1に比べて、選択的にツマアカスズメバチを誘引することが明らかとなった。
この結果より、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、紹興酒がツマアカスズメバチに対して、特異的な誘引効果を発揮することが明らかとなった。
【0029】
<誘引試験3>
上記「誘引試験2」と同様に、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤の誘引効果が、有効成分である醸造酒によることを確認するために試験を行った。
(1)試験検体の調製
誘引剤として紹興酒を含有する上記実施例検体Aを使用した。
比較例検体cは、市販の乳酸菌飲料の濃度60%水溶液を使用した(乳酸菌飲料の水溶液は、ツマアカスズメバチの捕獲に使用されている)。
(2)試験方法
長崎県対馬市内のツマアカスズメバチが生息する地域の林道周辺で、試験を実施した。
上記実施例検体A、比較例検体cを、比較例検体aと同じハチ捕獲器の空容器(プラスチック製、開口部直径90mm、高さ120mm)に収納したもの、(実施例2、比較例2)を準備し、各試験検体が3m離れるように、地上から2mの高さに設置して、2週間(2019年9月下旬~10月初旬)後の捕獲されたスズメバチ数の合計を計測した。試験は4回実施し、それぞれのツマアカスズメバチの累積捕獲数の合計を試験結果として評価した。
【0030】
(3)試験結果
実施例2、比較例2の試験検体(各4個)において、捕獲されたスズメバチは、ツマアカスズメバチ、オオスズメバチ、コガタスズメバチ、キイロスズメバチの4種類であった。実施例2、比較例2の各試験検体が捕獲したスズメバチの合計数におけるツマアカスズメバチの捕獲割合を、下記表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表2に示すように、紹興酒を含有する誘引剤を使用する実施例2は、ツマアカスズメバチの捕獲に一般的に使用されている誘引剤を使用する比較例2に比べて、上記「誘引試験2」の結果と同じく、選択的にツマアカスズメバチを誘引することが明らかとなった。
この結果と上記「誘引試験2」の結果より、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、紹興酒がツマアカスズメバチに対して、特異的な誘引効果を発揮することが確認された。
【0033】
<誘引試験4>
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤における醸造酒の配合量による、ツマアカスズメバチに対する誘引効果を確認するために、以下の試験を行った。
(1)試験検体の調製
誘引剤として紹興酒を含有する上記実施例検体A(実施例3)、実施例検体Aの紹興酒の配合量を2倍にした実施例検体B(実施例4)、さらに、市販の乳酸菌飲料の60%水溶液からなる上記比較例検体c(比較例3)を使用した。
【0034】
(2)試験方法
上記「誘引試験2」と同じ方法で試験を実施し、2週間(2019年9月下旬)後に捕獲されたスズメバチ数の合計を計測した。
(3)試験結果
実施例3、4、比較例3の試験検体(各3個)において、捕獲されたスズメバチは、ツマアカスズメバチ、オオスズメバチ、キイロスズメバチの3種類であった。実施例3、4、比較例3の各試験検体が捕獲したスズメバチの合計数におけるツマアカスズメバチの捕獲割合を、下記表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
表3に示すように、紹興酒を含有する誘引剤を使用した実施例3、4は、比較例3に比べて、上記「誘引試験2」と同じく、選択的にツマアカスズメバチを誘引することが明らかとなった。
また、実施例3、4の結果より、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は少量でも、ツマアカスズメバチに対する選択的な誘引効果を発揮することが確認された。
【0037】
<毒餌剤実地試験>
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤と、公知の殺虫剤とを組み合わせた毒餌剤について、ツマアカスズメバチに対する駆除効果を確認するために、以下の試験を行った。
(1)試験検体の調製
紹興酒を10質量%、その他の誘引成分(糖、乳酸菌飲料等)を85質量%、殺虫剤(フィプロニル)を0.05質量%、製剤助剤(溶媒、界面活性剤等)を0.52質量%および水を残量分含有する、本発明の誘引剤の具体例である実施例検体Cを調製した。
紹興酒を水に代えた点でのみ相違する比較例検体dを調製した。
【0038】
(2)試験方法について
長崎県対馬市内のツマアカスズメバチが営巣している樹木周辺で、試験を実施した。
直径13mmの穴を6個開けた、直径75mm、厚さ20mmの円柱状の不織布に、上記実施例検体Cまたは比較例検体dを90g含浸させた。これを、雨水の浸入を防ぐ傘を備えた容器(直径100mm、高さ30mm、傘まで含めた高さ55mm、円柱形容器)に収納したものをそれぞれ5個(実施例5、比較例4)準備した。
実施例5の各試験検体が3m離れるように、地上から2mの高さのスズメバチが餌場としていた樹木付近に設置(2019年10月、観察時間:12~14時)した。設置後、ツマアカスズメバチの巣を観察し、概略同時刻のツマアカスズメバチの巣の出入り数を「活動数(回)」として5分間計測した。
また、実施例5とは異なるタイミングで、比較例4の各試験検体が3m離れるように、地上から2mの高さのスズメバチが餌場としていた樹木付近に設置(2019年10月、観察時間:12~14時)後、実施例5と同じように、ツマアカスズメバチの巣の出入り数を「活動数(回)」として5分間計測した。
実施例5の結果を図1に、比較例4の結果を図2に示す。
【0039】
(3)試験結果
図1に示すように、紹興酒を含有する本発明の誘引剤と公知の殺虫剤とを組み合わせた毒餌剤を使用した実施例5は、効果的にツマアカスズメバチを誘引し致死させることにより、設置からわずか20日後に巣を崩壊させ得ることが明らかとなった。
これに対して、図2に示すように、紹興酒を含有しない誘引剤と公知の殺虫剤とを組み合わせた毒餌剤を使用した比較例4は、ツマアカスズメバチを効果的に誘引できず、巣を崩壊させることができなかった。
この結果より、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、公知の殺虫剤と組み合わせることにより、ツマアカスズメバチを確実に誘引し、その巣を崩壊させて駆除することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、醸造酒を有効成分とすることにより、特異的にツマアカスズメバチを誘引することができ、ツマアカスズメバチの天敵である在来スズメバチへの影響を抑え、選択的かつ効率的にツマアカスズメバチを駆除することができる。
また、本発明のツマアカスズメバチ誘引剤は、公知の殺虫剤と組み合わせることにより、誘引したツマアカスズメバチを確実に駆除することができる駆除薬剤となり、選択的かつ効率的にツマアカスズメバチの巣を崩壊させることができるなど、ツマアカスズメバチに対する効率的な駆除効果を得ることができ、有用である。
図1
図2