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  • 特許-光学部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】光学部品
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20240611BHJP
   G02B 7/00 20210101ALI20240611BHJP
【FI】
G02B7/02 Z
G02B7/00 F
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021534571
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2020021226
(87)【国際公開番号】W WO2021014756
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019135671
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599109906
【氏名又は名称】住友電工ファインポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】岡部 昭平
(72)【発明者】
【氏名】山根 洋輝
【審査官】東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-126787(JP,A)
【文献】国際公開第17/131018(WO,A1)
【文献】特開2007-141416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02
G02B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子と、
上記光学素子を二色成形の熱溶着により保持する光学素子ホルダーと
を備え、
上記光学素子ホルダーが光学素子ホルダー用樹脂組成物から構成され、
上記光学素子ホルダー用樹脂組成物が熱可塑性樹脂を主成分とし、
上記光学素子ホルダー用樹脂組成物における昇温速度10℃/分の示差走査熱量分析で得られる融解曲線が、160℃以上230℃以下の範囲及び260℃以上320℃以下の範囲の合計で2つのピークを有し、全融解熱量に対する160℃以上230℃以下の範囲の融解熱量の割合が20%以上80%以下である光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学素子ホルダー及び光学部品に関する。
本出願は、2019年7月23日出願の日本出願第2019-135671号に基づく優先権を主張し、上記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信手段を備える各種の電子装置には、光ファイバーが広く用いられている。この光ファイバーを連結するための光コネクタは、レンズ及びレンズを保持するとともに光ファイバーが挿抜される光学素子ホルダーを有する光学部品を備えている。従来、光学素子ホルダーをレンズと異なる材料で構成し、アクティブアライメントを行った上で紫外線硬化接着剤等によりレンズと光学素子ホルダーを組み立てる方法が行われている。
【0003】
しかし、この組み立てには高精度が要求されるため高コストとなり、また、当該光学素子ホルダー及び光学素子間の二色成形時における接着性が不十分となり環境の影響でレンズ及び光学素子ホルダー間のズレや剥離が発生し、光学特性が損なわれるおそれがある。そこで、異なった材料の光学素子とホルダーとからなる光学部品を優れた位置精度で量産することができ、かつ接着性を向上するために、光学素子とホルダーを二色成形した後に架橋する方法が提案されている。この方法によれば、他方の成形時に光学素子と光学素子ホルダーが組立てられ、接着剤や組立工程が不要である。また、精度のよい金型を用いれば、高い位置精度での光学素子と光学素子ホルダーとの複合体を優れた生産性で量産することができる(特開2007-141416号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-141416号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の光学素子ホルダーは、光学素子を保持する光学素子ホルダーであって、光学素子ホルダー用樹脂組成物から構成され、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物が熱可塑性樹脂を主成分とし、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物における昇温速度10℃/分の示差走査熱量分析で得られる融解曲線が、160℃以上230℃以下の範囲及び260℃以上320℃以下の範囲で2つのピークを有し、全融解熱量に対する160℃以上230℃以下の範囲の融解熱量の割合が20%以上80%以下である。
【0006】
本開示の光学部品は、光学素子と、上記光学素子を熱溶着により保持する光学素子ホルダーとを備え、上記光学素子ホルダーが光学素子ホルダー用樹脂組成物から構成され、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物が熱可塑性樹脂を主成分とし、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物における昇温速度10℃/分の示差走査熱量分析で得られる融解曲線が、160℃以上230℃以下の範囲及び260℃以上320℃以下の範囲で2つのピークを有し、全融解熱量に対する160℃以上230℃以下の範囲の融解熱量の割合が20%以上80%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施例の示差走査熱量分析で得られる融解曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、電子部品の表面実装部品化とともに、プリント配線基板の接合部位にはんだペーストを印刷した後、その上に電子部品をマウントしてからリフロー炉に送り、はんだを溶かして接合するリフロー方式が採用されている。上記光学部品は、リフロー方式により各種の電子装置に装着される。このリフロー方式では、環境保護の観点から融点の高い鉛フリーはんだが使用されるようになっている。その結果、耐熱性に対する要望はより高くなり、光学素子ホルダー及び光学素子のいずれに対しても、リフロー炉内の温度260℃程度において高い剛性を保持する耐熱性、すなわちリフロー炉に対する耐熱性が求められるようになっている。
【0009】
そこで、当該光学素子ホルダー及び光学素子には、融点や軟化点が高い樹脂の光学素子ホルダーが用いられる。しかし、当該光学素子ホルダー及び光学素子に用いる樹脂として融点や軟化点の差が大きい熱可塑性樹脂を用いて二色成形を行うと、レンズやミラー等の光学素子と光学素子ホルダーとの接着が不十分となりやすく、特にレンズ及び光学素子ホルダー間の隙間やレンズの剥がれが発生しやすくなるおそれがある。
【0010】
本開示は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、当該光学素子ホルダー及び光学素子間の二色成形時における接着性を向上させるとともに、リフロー炉に対応できる高い耐熱性を有する光学素子ホルダーを提供することを目的とする。
【0011】
[本開示の効果]
本開示によれば、当該光学素子ホルダー及び光学素子間の二色成形時における接着性を向上させるとともに、リフロー炉に対応できる高い耐熱性を有する光学素子ホルダーを提供できる。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0013】
本開示の光学素子ホルダーは、光学素子を保持する光学素子ホルダーであって、光学素子ホルダー用樹脂組成物から構成され、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物が熱可塑性樹脂を主成分とし、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物における昇温速度10℃/分の示差走査熱量分析で得られる融解曲線が、160℃以上230℃以下の範囲及び260℃以上320℃以下の範囲で2つのピークを有し、全融解熱量に対する160℃以上230℃以下の範囲の融解熱量の割合が20%以上80%以下である。
【0014】
当該光学素子ホルダーは、光学素子ホルダー用樹脂組成物から構成され、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物が昇温速度10℃/分の示差走査熱量分析で得られる融解曲線が、上記温度範囲で2つのピークを有し、全融解熱量に対する160℃以上230℃以下の範囲の融解熱量の割合が上記範囲であることで、当該光学素子ホルダー及び光学素子間の二色成形時において、光学素子ホルダーと光学素子との接触面では光学素子ホルダーの表面のみが溶融する。そのため、当該光学素子ホルダー及び光学素子は、形状を維持しつつ良好な接着力を有した状態で熱溶着される。また、リフロー炉に対応できる高い耐熱性を有する。本開示における上記「光学素子ホルダー用樹脂組成物」とは成形後の光学素子ホルダーを構成している材料を意味する。ここで、「ピーク温度」とは、示差走査熱量測定(DSC)で測定した融解曲線において樹脂の融解による吸熱ピークを示す温度をいう。「主成分」とは、最も含有量の多い成分を指す。「全融解熱量」とは、各ピークの面積から求められる融解熱量の値の和である。「熱溶着」とは熱可塑性樹脂同士を接合する技術であり、超音波溶着や高周波溶着等も広い意味で熱溶着に含まれるものとする。
【0015】
また、本開示の光学部品は、光学素子と、上記光学素子を熱溶着により保持する光学素子ホルダーとを備え、上記光学素子ホルダーが光学素子ホルダー用樹脂組成物から構成され、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物が熱可塑性樹脂を主成分とし、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物における昇温速度10℃/分の示差走査熱量分析で得られる融解曲線が、160℃以上230℃以下の範囲及び260℃以上320℃以下の範囲で2つのピークを有し、全融解熱量に対する160℃以上230℃以下の範囲の融解熱量の割合が20%以上80%以下である。
【0016】
当該光学部品は、光学素子と、上記光学素子を熱溶着により保持する光学素子ホルダーとを備え、上記光学素子ホルダーが光学素子ホルダー用樹脂組成物から構成され、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物における昇温速度10℃/分の示差走査熱量分析で得られる融解曲線が、上記温度範囲で2つのピークを有し、全融解熱量に対する160℃以上230℃以下の範囲の融解熱量の割合が上記範囲であることで、当該光学素子ホルダー及び光学素子が形状を維持しつつ良好な接着力を有した状態で熱溶着されている。また、リフロー炉に対応できる高い耐熱性を有する。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係る光学素子ホルダー及び光学部品について図面を参照しつつ詳説する。
【0018】
<光学素子ホルダー>
光学素子ホルダーは、樹脂製のレンズやミラー等の光学素子を保持するものである。当該光学素子ホルダーは、光学素子ホルダー用樹脂組成物から構成される。
【0019】
(光学素子ホルダー用樹脂組成物)
光学素子ホルダー用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を主成分とする。また、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物における昇温速度10℃/分の示差走査熱量分析で得られる融解曲線が、160℃以上230℃以下の範囲及び260℃以上320℃以下の範囲で2つのピークを有する。融解曲線は、以下の条件で示差走査熱量分析を行うことにより求める。示差走査熱量計を用いて、8mgの試料を窒素雰囲気下で-50℃から昇温速度10℃/分で350℃まで昇温する。融解熱量は、上記2つのピークの各面積を算出して求める。なお、ピークが多峰性の場合は、全体のピークの面積を算出して求める。
【0020】
上記光学素子ホルダー用樹脂組成物における全融解熱量に対する160℃以上230℃以下の範囲の融解熱量の割合の下限としては、20%であり、30%が好ましい。上記全融解熱量に対する160℃以上230℃以下の範囲の融解熱量の割合の上限としては、80%であり、70%が好ましい。上記全融解熱量に対する160℃以上230℃以下の範囲の融解熱量の割合が上記範囲であることで、当該光学素子ホルダー及び光学素子間の二色成形時において、光学素子ホルダーと光学素子との接触面では光学素子ホルダーの表面のみが溶融する。そのため、当該光学素子ホルダー及び光学素子は、形状を維持しつつ良好な接着力を有した状態で熱溶着される。また、リフロー炉に対応できる高い耐熱性を有する。
【0021】
〈熱可塑性樹脂〉
上記光学素子ホルダー用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を主成分とする。熱可塑性樹脂は、昇温速度10℃/分の示差走査熱量分析で得られる融解曲線が、160℃以上230℃以下の範囲でピークを有する熱可塑性樹脂と、260℃以上320℃以下の範囲でピークを有する熱可塑性樹脂とを含有することが好ましい。
【0022】
160℃以上230℃以下の範囲でピークを有する熱可塑性樹脂としては、例えばナイロン12等の商品名で市販されているラウリルラクタムを開環重縮合したポリアミド(融点:176℃)、ナイロン11等の商品名で市販されているウンデカンラクタムを開環重縮合したポリアミド(融点187℃)等が挙げられる。
【0023】
260℃以上320℃以下の範囲でピークを有する熱可塑性樹脂としては、例えばナイロン9T等の商品名で市販されているノナンジアミンとテレフタル酸を主成分とするポリアミド(融点:308℃)、ナイロン46等の商品名で市販されているブタンジアミンとアジピン酸を主成分とするポリアミド(融点:290℃)、ナイロン10T等の商品名で市販されているデカンジアミンとテレフタル酸を主成分とするポリアミド(融点:285℃)等が挙げられる。
【0024】
上記熱可塑性樹脂における160℃以上230℃以下の範囲でピークを有する熱可塑性樹脂の含有割合の下限としては、20質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。一方、上記160℃以上230℃以下の範囲でピークを有する熱可塑性樹脂の含有割合の上限としては、80質量%が好ましく、70質量%がより好ましい。
【0025】
上記光学素子ホルダー用樹脂組成物における上記熱可塑性樹脂の含有量の下限としては、30質量%が好ましく、40質量%がより好ましい。一方、上記熱可塑性樹脂の含有量の上限としては、例えば99質量%である。但し、上記熱可塑性樹脂の含有量は、100質量%であってもよい。上記熱可塑性樹脂の含有量が上記下限より小さい場合、当該光学素子ホルダーの寸法安定性が不十分となるおそれがある。
【0026】
上記光学素子ホルダー用樹脂組成物は、架橋していることが好ましい。上記光学素子ホルダー用樹脂組成物が架橋していることで、光学素子ホルダーの耐熱性及び機械的強度を向上できる。
【0027】
(添加剤)
光学素子ホルダー用樹脂組成物は、添加剤としてフィラー及び架橋助剤を含有することが好ましい。光学素子ホルダー用樹脂組成物がフィラーを含有することで、光学素子と接合された当該光学素子ホルダーのリフロー炉内での寸法安定性が向上する。また、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物が架橋助剤を含有することで、架橋を促進することができる。
【0028】
上記フィラーとしては、例えばガラスファイバー、塩基性硫酸マグネシウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ等の無機系ウィスカ、モンモリロナイト、合成スメクタイト、アルミナ、カーボンファイバー等の無機フィラーや、セルロース、ケナフ、アラミド繊維等の有機材料、有機化クレーなどを挙げることができる。これらの中でも光学素子と接合された当該光学素子ホルダーのリフロー炉内での寸法安定性の向上の観点から、ガラスファイバーが好ましい。
【0029】
上記光学素子ホルダー用樹脂組成物が無機フィラーを含有する場合、無機フィラーの含有量の下限としては、上記熱可塑性樹脂100質量部に対して、10質量部が好ましく、20質量部がより好ましい。一方、無機フィラーの含有量の上限としては、上記熱可塑性樹脂100質量部に対して、100質量部が好ましく、80質量部がより好ましい。無機フィラーの含有量が上記下限より小さい場合、光学素子と接合された当該光学素子ホルダーのリフロー炉内での寸法安定性が不十分となるおそれがある。逆に、無機フィラーの含有量が上記上限を超える場合、当該光学素子ホルダーへの成形が困難になるおそれがある。
【0030】
上記架橋助剤としては、例えばp-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム類;
エチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルメタクリレート等のアクリレート又はメタクリレート類;
ジビニルベンゼン等のビニルモノマー類;
ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート(DA-MGIC)、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のアリル化合物類;
N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、N,N’-(4,4’-メチレンジフェニレン)ジマレイミド等のマレイミド化合物類などが挙げられる。上記架橋助剤としては、架橋反応を効果的に促進する観点から、TMPTA、DA-MGIC及びTAICが好ましい。
【0031】
上記光学素子ホルダー用樹脂組成物が上記架橋助剤を含有する場合、架橋助剤の含有量の下限としては、上記熱可塑性樹脂100質量部に対して、1質量部が好ましく、3質量部がより好ましい。一方、架橋助剤の含有量の上限としては、上記熱可塑性樹脂100質量部に対して、15質量部が好ましく、10質量部がより好ましい。上記架橋助剤の含有量が上記下限より小さい場合、当該光学素子ホルダーの架橋密度が低下し、十分な寸法安定性が得られないおそれがある。逆に、上記架橋助剤の含有量が上記上限を超える場合、架橋反応のさらなる促進効果が得られないおそれがある。
【0032】
上記光学素子ホルダー用樹脂組成物は、本開示の効果が損なわれない範囲で、無機フィラー及び架橋助剤以外の他の添加剤成分、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可視光吸収剤、耐候性安定剤、銅害防止剤、難燃剤、滑剤、導電剤、メッキ付与剤、着色剤等を含有することができる。
【0033】
上記光学素子ホルダー用樹脂組成物が無機フィラー及び架橋助剤以外の他の添加剤を含有する場合、上記他の添加剤の合計含有量としては、上記熱可塑性樹脂100質量部に対して、例えば0質量部超10質量部以下とすることができる。
【0034】
[光学素子ホルダーの製造方法]
上記光学素子ホルダーの製造方法は、上記熱可塑性樹脂と、フィラー、架橋助剤等の任意の添加物とを含有する成形用樹脂組成物を成形する工程と、成形後の樹脂組成物を架橋する工程とを備えることが好ましい。以下、各工程について説明する。
【0035】
(成形する工程)
本工程では、上記熱可塑性樹脂と、フィラー、架橋助剤等の任意の添加物とを含有する成形用樹脂組成物を成形する。上記光学素子ホルダー用樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂と必要に応じて添加される任意成分とをスーパーミキサー等で予備混合した後、単軸混合機、2軸混合機等を用いて溶融混練することにより製造できる。上記溶融混練の具体的な温度としては、例えば180℃以上360℃以下である。
【0036】
上記光学素子ホルダー用樹脂組成物を成形する方法としては、特に限定されないが、例えば射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等が挙げられ、これらの中で射出成形法が好ましい。上記光学素子ホルダー用樹脂組成物を射出成形法で成形する場合、成形条件としては、例えばバレル温度200℃以上300℃以下、射出圧20kg/cm以上3,000kg/cm以下、保圧時間3秒以上30秒以下、金型温度30℃以上100℃以下とすることができる。
【0037】
(架橋する工程)
本工程では、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物を架橋する。架橋方法としては、電子線の照射による電子線架橋や、加熱による熱架橋等を挙げることができる。電子線の照射による架橋は、成形時の温度、流動性の制限を伴わず、架橋の制御が容易であるため好ましい。電子線の照射線量は、耐熱性を得る観点から、例えば10kGy以上1000kGy以下とすることができる。
【0038】
当該光学素子ホルダーによれば、当該光学素子ホルダー及び光学素子間の二色成形時における接着性を向上させるとともに、リフロー炉に対応できる高い耐熱性を有する。
【0039】
<光学部品>
当該光学部品は、光学素子と、上記光学素子を熱溶着により保持する光学素子ホルダーとを備える。
【0040】
当該光学部品は、光ケーブルの連結のための光コネクタとして好適に用いられる。当該光学部品は、例えば光通信装置等の受発光素子が搭載された装置、光記録再生装置中の光ピックアップや、LED(発光ダイオード)レンズパッケージ等の発光素子、受光素子等の光学素子として、各種の電子装置、例えばカーナビ、CD、MD、DVDや、イメージセンサー、カメラモジュール、IRセンサ、モーションセンサ、リモコン等に好適に用いられる。
【0041】
[光学素子]
光学素子は、例えばレンズやミラーが挙げられる。光学部品に使用されるレンズやミラーには透明性が要求される。センサや通信用途の場合、波長が650nm、850nm、1300nm等であるLED、VCSEL(垂直共振器面発光レーザー)、その他のレーザー、シリコンフォトニクス等の発光素子から発生する光の厚さ1mmにおける透過率が80%以上必要である。また、撮影や監視の用途ならば、全光可視域で80%以上の透過率が必要である。従って、光学素子を形成する樹脂としては、この透過率を達成できる透明樹脂から選ばれることが好ましい。なお、ここで透過率とは、透明性を表す指標であり、その測定は、JIS-K7361(1997)に規定される測定法を用いて行い、所定の波長の光について、入射光量と試験片を通った全光量との比の百分率で示される値である。
【0042】
光学素子を形成する樹脂としては、例えばポリエーテルイミド、熱可塑ポリイミド、透明ポリアミド、環状ポリオレフィン、透明フッ素樹脂、透明ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル樹脂、透明ポリプロピレン、エチレン系アイオノマー、フッ素系アイオノマー等が好ましい。
【0043】
[光学素子ホルダー]
上記光学素子ホルダーは、上記光学素子を熱溶着により保持する。上記光学素子ホルダーの具体的な構成については、上述の当該光学素子ホルダーの通りであるので説明を省略する。当該光学素子ホルダーは、形状は特に限定されず、搭載される電子機器に合わせ適宜変更可能である。
【0044】
[光学部品の製造方法]
当該光学部品は、二色成形により製造される。上記二色成形とは、1台の成形機中で2種類の樹脂を熱溶着する成形方法であり、安定した製品品質を得ることができる。二色成形では、通常、材質の異なる2種類の材料を1つの金型から成形する。例えば光学素子又は光学素子ホルダーのいずれか一方の光学素子ホルダーを得た後、金型中にその光学素子ホルダーを装着し、その金型の空間(キャビティー)内に、他方を構成する樹脂を溶融して射出成形し、その後、冷却固化する等により光学素子と光学素子ホルダーとの複合体を得る。当該光学部品は、好ましくは、二色成形により当該光学素子ホルダー及び光学素子が熱溶着されたものを得た後、一体となった光学素子ホルダーに電子線照射等を行うことにより、一体として樹脂の架橋が行われてもよい。
【0045】
当該光学部品によれば、当該光学素子ホルダーを備えることで、当該光学素子ホルダー及び光学素子間で良好な接着力を有し、リフロー炉に対応できる高い耐熱性を有する。
【0046】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【実施例
【0047】
以下、実施例によって本開示をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
[試験No.1~試験No.10]
(1)光学素子ホルダーの作製
表1に示す処方で配合した熱可塑性樹脂100質量部に、架橋助剤5質量部とガラスファイバー30質量部を配合して、光学素子ホルダー用樹脂組成物を製造した。次に、光学素子ホルダー用樹脂組成物を射出成形して、外径10mm、内径6mmの円筒状の光学素子ホルダーを成形した。
【0049】
光学素子ホルダー用樹脂組成物に用いた熱可塑性樹脂及び架橋助剤は以下の通りである。
ナイロン9T:ジェネスタG1300A(クラレ社製、ポリアミド9T、融点:308℃)
ナイロン46:DSM社製Stanyl TW241、ポリアミド46、融点:290℃)
ナイロン12:UBEナイロン3024U(宇部興産社製、ポリアミド12、融点:176℃)
トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)
なお、表1において、「-」は各材料を用いなかった場合を示す。
【0050】
(2)光学部品の作製(二色成形)
上記光学素子ホルダーの作製後、金型を約80℃に加熱し、その金型内の空間に、レンズ用熱可塑性樹脂組成物透明ポリアミドを射出した。その後、冷却して、外径6mm、中心部厚さ1mmのレンズと光学素子ホルダーとが一体となった光学部品を得た。このようにして得られた光学部品に、600kGyの電子線を照射することで架橋を行い、光学部品を作製した。
【0051】
[評価]
このようにして得られた試験No.1~試験No.10の光学部品について、下記の方法により、評価を実施した。その結果を下記表1に示す。
【0052】
(融解熱量の測定)
融解温度及び融解熱量は、以下の条件でDSC測定を行い求めた。
示差走査熱量計(商品名:DSC8500、パーキンエルマー社製)を用いて、8mgの試料を窒素雰囲気下で-50℃から昇温速度10℃/分で350℃まで昇温した。この昇温の際に観測される2つの吸熱ピークが現れる温度を融解温度として求めた。また、融解熱量は、上記2つのピークの各面積を算出して求めた。なお、ピークが多峰性の場合は、全体のピークの面積を算出して求めた。図1に、試験No.2の融解曲線の例を示す。
【0053】
(接着性)
レンズと光学素子ホルダーとの界面を目視し、剥がれの有無によりレンズと光学素子ホルダー間の接着性を判定した。
【0054】
(接着面の表面性状)
レンズと光学素子ホルダーとの接着面となる界面を目視し、光学素子ホルダーの界面の変形の有無により光学素子ホルダーの接着面の表面性状を判定した。
【0055】
(耐熱性)
260℃のリフロー炉に10分間入れて、光学素子ホルダーの変形の有無により光学素子ホルダーの耐熱性を判定した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すように、上記光学素子ホルダー用樹脂組成物におけるDSCによる融解曲線が、160℃以上230℃以下の範囲及び260℃以上320℃以下の範囲で2つのピークを有し、全融解熱量に対する160℃以上230℃以下の範囲の融解熱量の割合が20%以上80%以下である試験No.1~試験No.6の光学素子ホルダーは、接着性、接着面の表面性状及び耐熱性の全てにおいて良好であった。一方、上記要件を満たさない試験No.7~試験No.10の光学素子ホルダーは、接着性、接着面の表面性状及び耐熱性のいずれかが劣っていた。
【0058】
以上の結果から、当該光学素子ホルダーは、光学素子ホルダー及び光学素子間の二色成形時における接着性を向上させるとともに、リフロー炉に対応できる高い耐熱性を有することが示された。
図1