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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】プロテイン用マスキング剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240611BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240611BHJP
   A23L 2/66 20060101ALI20240611BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240611BHJP
   A21D 13/064 20170101ALI20240611BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L2/00 B
A23L2/66
A23L2/00 J
A23L2/52
A21D13/064
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019144399
(22)【出願日】2019-08-06
(65)【公開番号】P2021023219
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 拓真
(72)【発明者】
【氏名】三原 優子
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0214751(US,A1)
【文献】特開2010-200618(JP,A)
【文献】特開2002-171920(JP,A)
【文献】特開2004-089028(JP,A)
【文献】特開2008-037758(JP,A)
【文献】特開2018-143225(JP,A)
【文献】特開2005-336078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 2/00
A23L 2/66
A23L 2/52
A21D 13/064
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-グルコシル化ステビオサイドを、30重量%以上含有することを特徴とするホエイプロテイン及び/またはソイプロテイン用マスキング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテイン臭のマスキング剤及び前記マスキング剤を含む組成物に関するものであり、異味・特異臭を有する天然由来素材を含有する飲食物、医薬品、医薬部外品、化粧品などの経口摂取または口内利用可能な製品にこれを添加することにより、製品の異味・特異臭を改善し、効率的な摂取を可能にするものである。
【背景技術】
【0002】
粉末のプロテインといえば、一部アスリート以外には馴染みのないものであったが、近年のエクササイズブームの後押しもあり積極的に運動に取り組む人が増加した。そのパフォーマンスアップ、肉体改造、健康維持と多岐にわたる理由からプロのアスリートをはじめとして、近年では女性や一般消費者もサプリメントや粉末、飲料の形で摂取する機会が増加している。プロテインとしてはホエイ(乳清由来)とソイ(大豆由来)とピー(エンドウ豆由来)等あるがどれも独特の臭気があるため、摂取を気軽に行えなかった。
【0003】
天然素材の異味・特異臭への対策としては、一般に、香料等の添加により改良する方法や、砂糖や異性化糖などの糖類を用いて甘味を付与するとともに異味・特異臭をマスキングする方法、調味料や無機酸・有機酸を添加する方法などが採られている。
【0004】
しかし、香料の添加のみではプロテインの不快な異味・特異臭を十分に改善することは困難で、かつ過剰の添加はかえって製品全体の風味を損なわせる恐れがある。
【0005】
また糖類での甘味付けにより改善する方法においては、プロテインの異味・特異臭を抑制するには効果が低いばかりか、過剰の添加は製品の味わいのバランスを損ないやすく、特に糖類の場合はカロリーが付与されるので、近年の低カロリー志向にそぐわないばかりか、虫歯の誘発等の好ましくない結果を招く。
【0006】
カロリーを上昇させないために、低カロリー甘味料、例えばエリスリトール、キシリトール、マルチトール、還元水飴等の糖アルコール類、スクラロース、アセスルファムK、アスパルテーム、一般的なステビア等の高甘味度甘味料を添加する方法も考えられる。このような方法としては例えば、特許文献1、2に記載されている方法が挙げられる。しかし、これらの効果は十分とはいえないものであった。また、ステビア抽出物には、苦み、渋みをマスキングする効果も知られている(特許文献3,4)。しかし、特許文献3や4でマスキングの対象としているお茶の渋みや、分岐アミノ酸の苦みや渋みや特異臭は、プロテイン臭とは全く別のものであった。
【0007】
調味料類、例えば動植物エキス、核酸系調味料、アミノ酸系調味料、タンパク加水分解物等、また炭酸や塩酸などの無機酸、クエン酸やリンゴ酸などの有機酸、あるいはそれらの塩類を、異味・特異臭改善を目的に併用する場合もある。例えば、特許文献5に記載されている。しかし、これらの効果も十分とは言えず、また過剰の添加は製品の呈味を変え、好ましいとはいえない。
【0008】
以上のように、従来、プロテインが異味・特異臭を有し、それをマスキングする適切な方法が乏しかったために、健康意識の高い消費者が気軽に摂取でき、かつ効果と良味質を兼ね備えたプロテイン含有製品はなかった。
【0009】
【文献】国際公開第00/24273号パンフレット
【文献】特開2005-87184号公報
【文献】特開2005-336078号公報
【文献】特開2005-278467号公報
【文献】特開2004-357584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、プロテイン臭に対し、効果的なマスキング剤を提供し、さらにプロテイン臭を有する組成物を高濃度含有し、しかも風味の良好な飲食物、医薬品、医薬部外品、化粧品などの経口摂取または口内利用可能な製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、ステビオール配糖体がプロテイン臭を効果的にマスキングすることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下の各発明を提供するものである。
(1)ステビオール配糖体を含有することを特徴とする、プロテイン用マスキング剤。
(2)前記ステビオール配糖体が、α-グルコシル化ステビオール配糖体であることを特徴とする、(1)に記載のプロテイン用マスキング剤。
(3)前記α-グルコシル化ステビオール配糖体が、αグルコシル化ステビオサイドを含有することを特徴とする、(1)~(2)に記載のプロテイン用マスキング剤。
(4)前記α-グルコシル化ステビオール配糖体が、αグルコシル化レバウディオサイドAを含有することを特徴とする、(1)~(2)に記載のプロテイン用マスキング剤。
(5)前記α-グルコシル化ステビオール配糖体を、65重量%以上含有することを特徴とする(1)~(2)に記載のプロテイン用マスキング剤。
(6)前記αグルコシル化ステビオサイドを、30重量%以上含有することを特徴とする(1)~(3)に記載のプロテイン用マスキング剤。
(7)前記αグルコシル化レバウディオサイドAを、30重量%以上含有することを特徴とする(1)~(2)、(4)に記載のプロテイン用マスキング剤。
(8)(1)~(7)に記載のプロテイン用マスキング剤とプロテイン組成物を含有する飲料。
(9)(1)~(7)に記載のプロテイン用マスキング剤とプロテイン組成物を含有する焼成食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明のマスキング剤は、プロテイン臭を低減させることができる。また、プロテイン臭を高濃度含有する各種組成物に含有することにより、組成物のプロテイン臭を低減させるとともに、自然な甘味を付与することができ風味を良好にすることができる。さらに、組成物の風味が良好になることで、積極的な摂取が可能となり、結果としてプロテインの性能を期待通り発揮させることができ、美容・健康増進に貢献できる。そして、本発明のマスキング剤は、天然物由来であるため安全性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のプロテイン臭のマスキング剤に含有するステビオール配糖体は、ステビオールを骨格とした配糖体であれば特に限定はない。本発明のステビオール配糖体は、ステビオールの構造中の水酸基及び/又はカルボキシル基に糖または糖鎖が結合してなる構造を有する。すなわち、ステビオールを表す下記式(1)中の水酸基及びカルボキシル基のうちの一方のみ、又は両方に糖または糖鎖が結合していればよい。糖や糖鎖を構成する糖としては、グルコースなどの六炭糖が好ましく、グルコースが好ましい。水酸基、カルボキシル基への糖または糖鎖の結合様式としては、α結合とβ結合のいずれであってもよい。ステビア等天然物から抽出したものは、β結合であることが多い。ここで、糖鎖の場合、糖の構成数は特に限定されない。また、糖鎖の場合に糖鎖中の糖の結合様式も特に問わない。
【0015】
【化1】
【0016】
天然に存在するステビオール骨格を有する配糖体としては、例えば、ステビア葉に含まれるステビオール配糖体であるβ-グルコシルステビオールが挙げられる。ステビア葉に含まれるβ-グルコシルステビオールとしては、ステビオサイド、レバウディオサイドA、レバウディオサイドB、レバウディオサイドC、レバウディオサイドD、レバウディオサイドE、ズルコサイドA、ステビオールビオサイド、ルブソサイドなどが挙げられる。
本発明では、レバウディオサイドA、レバウディオサイドC、ステビオサイド及びズルコサイドAが好ましい。中でも、甘味質の点からはステビオサイド、レバウディオサイドAが好ましい。
【0017】
本発明において、ステビア葉とは、キク科の多年生植物であるステビア(学名:Stevia Rebaudiana Bertoni)の葉をいう。産地や種に限定されることはない。
【0018】
また、ステビオール配糖体は、天然に存在するものに限定されず、人工的に合成されたものや、天然に存在するものを人工的に加工したものであっても利用可能である。
【0019】
本発明で用いるステビオール配糖体をステビア、特にステビア葉から抽出する場合の抽出方法を詳述するすると次の通りである。抽出条件は従来適用されてきたステビア甘味成分を取得する方法に従うことができる。例えば、水、熱水、もしくは含水あるいは無水のメタノール、エタノールなどの有機溶媒にて抽出する方法によることができる。また、抽出温度は5~100℃、抽出時間は1~24時間の範囲の条件で行うのが好ましい。一方、特開昭51-23300号公報に記載されているように、水あるいは熱水抽出時に、甘味成分の抽出を効果的に行うために、石灰等でpHを10程度に調整することがあるが、
このような補助薬剤を使用してもよい。
【0020】
上記条件にて抽出されたステビア抽出物は、抽出終了後、抽出液から残渣を分離除去することにより取得することができる。この残渣を分離する方法としては、自然沈降分離、強制ろ過、加圧ろ過等から適宜選択できるが、効率を優先する場合には、加圧ろ過が好適である。残渣を分離除去した抽出液には、主にステビオール配糖体が含まれており、このままでも利用可能であるが、必要に応じて濃縮あるいは乾燥させてもよい。また、この濃縮液を水で希釈あるいは乾燥物を水に再溶解した後、吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものや、ハイポーラスポリマー(例えば、アンバーライトXAD-
7HP、オルガノ(株)製)のカラムに吸着させた後、親水性溶媒で溶出し濃縮したもの、あるいはこれらを乾燥させたものも使用できる。
【0021】
さらに本発明でマスキング剤としてα-グルコシル化ステビオール配糖体を用いることもできる。ここで、α-グルコシル化ステビオール配糖体とは、ステビオール配糖体、好ましくはステビア葉に含まれるステビオール配糖体であるβ-グルコシルステビオールに対しα-グルコシル化がなされたものを意味する。本発明でいうα-グルコシル化とは、対象化合物に対し、α-グルコシル化糖化合物を糖供与体として、α-グルコシル糖転移酵素を用いてグルコースを転移させることを意味する。また、いったん付加したグルコースをアミラーゼなどα-1,4-グルコシダーゼにより配糖体から切断し、付加糖数を調節することもα-グルコシル化に含まれるものとする。α-グルコシル化による最終的な付加糖数は特に限定されないが、1個(α-モノグルコシル化)又は2個(α-ジグルコシル化)が最も好ましい。α-グルコシル化ステビオール配糖体としては、α-モノグルコシルステビオサイド、α-ジグルコシルステビオサイド、α-モノグルコシルレバウディオサイドA、α-ジグルコシルレバウディオサイドAが好ましく、これらのうち1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
ステビア葉に含まれるステビオール配糖体へのα-グルコシル化については、特公平5-22498号公報、特公昭57-18779号公報等に記載されている製造方法で実施することができる。ステビオール配糖体への糖付加の位置は限定されず、特に制御する必要はない。
【0023】
本発明のマスキング剤は、α-グルコシル化ステビオール配糖体としてα-モノグルコシルステビオサイド、α-ジグルコシルステビオサイド、α-モノグルコシルレバウディオサイドA、及びα-ジグルコシルレバウディオサイドAの中から選ばれる1種類以上を含む場合には、各成分比が下記(2)式を満たし、かつ、β-グルコシルステビオールに対しα-グルコシル基が平均付加数で1.0~2.5となるように付加されてなるα-グルコシル化ステビオール配糖体を含有することが好ましい。
【0024】
式(2)
[{α-モノグルコシルステビオサイドの含有量(g)+α-ジグルコシルステビオサイドの含有量(g)+α-モノグルコシルレバウディオサイドAの含有量(g)+α-ジグルコシルレバウディオサイドAの含有量(g)}/α-グルコシル化ステビオール配糖体総量(g)]×100≧30
【0025】
上記成分比を満たすものは、プロテイン臭をマスキングするとともに、それ自身の甘味質がシャープで切れがよく、かつ雑味や異臭を呈さないことから、本発明においては好適である。上記成分比を満たす、α-グルコシル化ステビオール配糖体は、特公平5-22498号公報に記載の方法にて好ましく製造することができる。
【0026】
α-グルコシル化ステビオール配糖体の製造に用いられるα-グルコシル糖転移酵素としては例えば、バチルス・マセランス(Bacillus maceranns)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)などのバチルス属起源のサイクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼが挙げられる。一方、α-1,4グルコシダーゼとしてはα-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼが用いられるが、α-モノグルコシルステビオサイド、α-ジグルコシルステビオサイ
ド、α-モノグルコシルレバウディオサイドA、α-ジグルコシルレバウディオサイドAの含有量を上げるにはグルコアミラーゼを用いるのが好ましい。サイクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼとα-1,4グルコシダーゼによる酵素反応は、pH3~8、反応温度は30~80℃で行うが、サイクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼによる糖転移反応はpH5~7、温度50~70℃が好ましく、α-1,4グルコシダーゼによる糖鎖分解反応はpH4~7、温度40~70℃が好ましい。酵素量は反応時間に応じて適度に添加すれば良い。
【0027】
本発明のマスキング剤として利用するステビオール配糖体またはα-グルコシル化ステビオール配糖体の含有量は、ステビオールとしての換算濃度が、通常は10重量%以上、好ましくは10~40重量%となるように定めることができる。10重量%未満では十分な効果を示さないおそれがある。尚、ステビオールとしての換算濃度は、分子量から算出することができる。
【0028】
本発明のマスキング剤中のαグルコシル化ステビオサイドの含有量は、ステビオールとしての換算濃度が、通常は10重量%以上、好ましくは10~40重量%となるように定めることができる。10重量%未満では十分な効果を示さないおそれがある。
【0029】
本発明のマスキング剤中のαグルコシル化レバウディオサイドAの含有量は、ステビオールとしての換算濃度が、通常は10重量%以上、好ましくは10~40重量%となるように定めることができる。10重量%未満では十分な効果を示さないおそれがある。
【0030】
さらに、前記ステビオール配糖体は、デキストリン、乳糖、その他一般に使用される倍散剤と混合し製剤化してもよい。その形態は、錠剤、粉末、シロップなど、いかなる形状でもかまわない。倍散剤との混合製剤を本発明の目的に使用するときは、製剤中のステビオール換算濃度を考慮して添加量を決めればよい。
【0031】
本発明のマスキング剤の対象は、プロテイン臭を有する組成物である。ここでプロテイン臭を有する組成物とは、プロテインと同一あるいは類似するにおいや味を有する物質(以下、プロテイン様物質ともいう。)を含有する組成物のことをいう。具体的にはホエイ(乳清由来)、ソイ(大豆由来)、ピー(エンドウ豆由来)を含有する組成物等が挙げられる。
【0032】
本発明のマスキング剤は、プロテイン臭を有する組成物に適用することにより、各種の組成物、例えば経口用組成物、外用組成物として利用することができる。経口用組成物、外用組成物として具体的には、飲食物、医薬品、医薬部外品、化粧品などの経口摂取または口内利用可能な製品が挙げられる。
【0033】
本発明でいう飲食物は、粉末、固形状、半固形状、液状いずれの形状をとるものであってかまわない。また医薬品および医薬部外品は、各種の経口摂取、口内利用可能な製品を挙げることができる。その剤形としては、粉末などの固形製剤、シロップ等の液状製剤等特に限定されない。また適用部位についても特に限定されず、化粧水、マウスウォッシュ、歯磨き等顔面をはじめとする外皮・口腔などに用いられるものであれば特に限定されることはない。
【0034】
本発明で用いるステビオール配糖体は、天然物に含有される天然甘味料であり、各種食品の甘味料として広く使用されており安全性も極めて高いものである。従って、使用にあたり如何なる制限もない。よって、経口用組成物、又は外用組成物への添加量は、含有されるプロテイン様物質の特異臭・不快臭や異味をマスキングする量であれば特に限定されないが、組成物中のプロテイン様物質に対し、0.01重量%以上、好ましく0.05は重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上である。また、添加量に特に上限はないが、経済性、添加効果及び本来の風味に与える影響を考慮すると10重量%以下が好ましい。
【0035】
本発明のマスキング剤を、プロテイン臭を有する組成物に対して、0.001重量%以上添加すると、プロテイン臭のマスキング効果とともに甘味を付与することもできる。付与された甘味は自然で違和感がない。上限は特に限定されないが、1重量%より多いと、マスキング機能が飽和して、増量に見合う効果が見込めず経済的に好ましくない上、甘味が過剰になって添加する組成物の味質のバランスを乱すこともあるので、好ましくない。
【0036】
本発明のマスキング剤には、副材料として、一般的な食品や医薬品原料、無機酸、有機酸、甘味料、香料などの添加物が添加されていてもかまわない。
【0037】
無機酸としては例えば、炭酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等があげられるが、特に、炭酸、塩酸、リン酸等が好ましい。また、有機酸としては例えば、クエン酸、無水クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸、酢酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、マロン酸、L-グルタミン酸塩酸塩等があげられるが、特に、クエン酸、無水クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸、酢酸等が好ましい。
【0038】
本発明にて併用できる甘味料としては、砂糖、果糖、異性化糖、グルコース、マルトース、パラチノース、トレハロース、フラクトオリゴ糖などの糖類・オリゴ糖類、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール等の糖アルコール類、アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム、アセスルファムK、スクラロースなどの合成甘味料、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウムなどの天然高甘味度甘味料等があげられる。
【0039】
また、本発明において、着香目的に各種香料を併用することもできる。例えば、レモンフレーバー、オレンジフレーバー、グレープフレーバー、グレープフルーツフレーバー、チョコレートフレーバー、DL-メントール等があげられる。
【0040】
本発明のプロテイン臭を有する組成物にはプロテイン飲料が含まれる。プロテイン飲料は水溶液、スムージー、シェイク、ゼリータイプ、またはプロテイン粉末を水や清涼飲料水、果汁、牛乳、豆乳、青汁等の溶媒に溶解、分散後飲用するタイプのどちらにも用いることが可能である。またプロテインには補助機能の付与を目的に、カルシウム、マグネシウム、鉄分、ビタミン類、アミノ酸、デキストリン、クエン酸、葉酸など添加することがある。
【0041】
前記プロテイン飲料に含有されるプロテインとしてはホエイ(乳清由来)とソイ(大豆由来)とピー(エンドウ豆由来)等が挙げられる。プロテイン飲料中のプロテインに対する前記マスキング剤の比率は、マスキング効果の点からは、0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上である。上限は特に限定されないが、10重量%より多いと、マスキング機能が飽和して、増量に見合う効果が見込めず経済的に好ましくない。
【0042】
また、甘味付与を目的とした場合、プロテイン飲料中の前記マスキング剤の割合は0.001wt/vol%以上、好ましくは0.005wt/vol%以上、より好ましくは0.01wt/vol%以上である。上限は特に限定されないが、1wt/vol%より多いと、甘味が過剰になって添加する組成物の味質のバランスを乱すこともあるので好ましくない。
【0043】
本発明のプロテイン臭を有する組成物には焼成食品が含まれる。飲料以外にクッキーをはじめとした固形物からプロテインを摂取することで、筋肉増強の目的だけでなく、高齢者やダイエット中の人のプロテインの摂取・栄養補給が可能となる。
【0044】
焼成食品の具体例としては、クッキー、ビスケット、クラッカー、パイ、マフィン、ブラウニー、ドーナツ、ケーキ、パンなどが挙げられるが、必ずしもこの限りではない。
【0045】
前記焼成食品に含有されるプロテインとしてはホエイ(乳清由来)とソイ(大豆由来)とピー(エンドウ豆由来)等が挙げられる。焼成食品中のプロテインに対する前記マスキング剤の比率は、マスキング効果の点からは、0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上である。上限は特に限定されないが、10重量%より多いと、マスキング機能が飽和して、増量に見合う効果が見込めず経済的に好ましくない。
【0046】
また、甘味付与を目的とした場合、焼成食品中の前記マスキング剤の割合は、0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上である。上限は特に限定されないが、1重量%より多いと、甘味が過剰になって添加する組成物の味質のバランスを乱すこともあるので好ましくない。
【実施例
【0047】
以下に具体的な実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。

<プロテイン飲料のマスキング効果>
ホエイプロテイン5g、水100ml、各種甘味料を表に示した通りに加え、よく混合しプロテイン水溶液を作製した。なお、各実施例、比較例ともにBrix7となるよう甘味料の量を調節して添加した。(Brix1とは砂糖1gを水100mlに溶解させた際の甘味強度)
【0048】
【表1】
【0049】
ホエイプロテイン・・・濃縮乳清たんぱく質「PROVON 190」
Glanbia Nutritionals
アセスルファムK・・・東京化成工業(株)
HN2J・・・ステビア抽出物 「ステビアフィンHN2J」日本製紙(株)
Z3・・・酵素処理ステビア「SKスイートZ3」日本製紙(株)
FZ・・・酵素処理ステビア「SKスイートFZ」日本製紙(株)
GRA・・・酵素処理ステビア「SKスイートGRA」日本製紙(株)
官能評価
実施例、比較例により得られたプロテイン水溶液について、訓練された専門のパネラー5名が比較例を基準とし、以下の評価基準で評価を行い、その平均を表に記載した。
【0050】
<口に含んだ直後のプロテイン臭のマスキング程度>
5段階評価(5が最良)
<口に含んでから数秒後、後味のプロテイン臭のマスキング程度>
5段階評価(5が最良)
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
特に実施例4では全体的にプロテイン臭がマスキングされており、非常に飲みやすくなっている。更にはプロテイン組成物やプロテイン飲料を作製する場合、味付けとしてチョコレートフレーバーやフルーツ系フレーバーを添加するが、実施例4はプロテイン臭がないすっきりとした水溶液であるためフレーバーの味が発現しやすいというメリットがある。
【0054】
<プロテインクッキーのマスキング効果>
表に示した分量のソイプロテイン、バター、卵、甘味料をよく混ぜ生地を作製し、伸ばして成型した。その後、オーブンを180℃に予熱してから、12分焼いた。表中の数字は添加量gである。
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
ソイプロテイン・・・「ボタニカルソイプロテイン」 販売元 株式会社50’s
アセスルファムK・・・東京化成工業(株)
HN2J・・・ステビア抽出物 「ステビアフィンHN2J」日本製紙(株)
Z3・・・酵素処理ステビア「SKスイートZ3」日本製紙(株)
FZ・・・酵素処理ステビア「SKスイートFZ」日本製紙(株)
GRA・・・酵素処理ステビア「SKスイートGRA」日本製紙(株)
【0058】
<官能評価>
実施例、比較例により得られたクッキーについて、訓練された専門のパネラー5名が比較例を基準とし、以下の評価基準で評価を行い、その平均を表に記載した。
<口に含んだ直後のプロテイン臭のマスキング程度>
5段階評価(5が最良)
<口に含んでから数秒後、後味のプロテイン臭のマスキング程度>
5段階評価(5が最良)
【0059】
【表6】
【0060】
【表7】
【0061】
比較例2を例にとると、砂糖で甘味を付与する場合には、全固形重量に対する甘味料の割合が増え、有効成分であるプロテインの割合が減ってしまう。一方で高甘味度甘味料であるステビアは極少量で十分な甘味を付与できるため、甘味料以外の有効成分割合を高めることができ、また甘味料に由来するカロリーを実質的にゼロにすることも可能である。更にステビアは植物由来の天然系甘味料であり、ナチュラル志向に対応した処方設計に対応できる。