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特許7500942ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240611BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240611BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
B32B27/32 D
B32B27/32 C
B32B27/32 Z
B65D65/40 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019185104
(22)【出願日】2019-10-08
(65)【公開番号】P2021059675
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 基邦
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-055633(JP,A)
【文献】特開昭63-165417(JP,A)
【文献】国際公開第02/008304(WO,A1)
【文献】特開2019-150965(JP,A)
【文献】特開2005-002158(JP,A)
【文献】特開2008-138090(JP,A)
【文献】特開平11-124421(JP,A)
【文献】特開2007-224280(JP,A)
【文献】特開2006-307072(JP,A)
【文献】特開2006-307060(JP,A)
【文献】特開2006-307121(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0175793(US,A1)
【文献】特開2006-307119(JP,A)
【文献】国際公開第2019/123944(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B65D65/00-65/46
C08F251/00-283/00
283/02-289/00
291/00-297/08
C08J5/00-5/02
5/12-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン・エチレンブロック共重合体の溶融成形物であるポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムであって、
クロス分別クロマトグラフ分析(CEF)による成分分析において、溶出温度が-20~60℃に現れる非晶性エチレン・プロピレン共重合体成分が10重量%以下であることを特徴とするポリプロピレン系無延伸シーラントフィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の前記ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムに、二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリエステルフィルム、印刷紙、金属箔から選ばれる少なくとも1層の基材を積層したことを特徴とする包装材。
【請求項3】
請求項2に記載の前記包装材を用いて製袋してなる包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムに関し、さらに詳しくは、基材フィルムとの貼り合せ後の熱処理工程において、後収縮(変形)が小さいフィルムを成形できるポリプロピレン系樹脂組成物に関するものである。また、上記ポリプロピレン系樹脂組成物を用いたポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムを含む包装材、及び包装体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂であるポリプロピレン系樹脂は、剛性、耐熱性等において優れた特性を有している為、食品包装及び繊維包装や医薬包装などの包装分野に広く使用されている。
しかし、ポリプロピレン系樹脂を成形したフィルムは、基材フィルムとの貼り合せ後、接着剤を硬化させる熱処理工程において、後収縮が発生する。この後収縮が発生することで、基材フィルムとの貼り合せ後のフィルム寸法変化により、製袋工程中に搬送不良やシール貼り合せ位置のずれが発生する。
【0003】
ポリプロピレン系フィルムの後収縮を抑制する方法としては、ガラス転移温度が90℃以上の環状ポリオレフィン樹脂を添加する方法(特許文献1)やガラス転移温度が20℃以上90℃未満の非晶質樹脂を添加する方法(特許文献2)などが提案されているが、上記記載樹脂は高価であるため、コストデメリットが大きく実用が難しい。
【0004】
さらに、ポリエステル樹脂組成物からなる二軸配向延伸フィルムを基材として用いることで、フィルムの寸法変化を抑制する方法(特許文献3)が提案されているが、基材が薄くなると、寸法変化を抑制する効果が不足する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4370498号公報
【文献】特許第3608986号公報
【文献】国際公開第2018/225558号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の問題を鑑み、本発明の目的は、ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムの後収縮を抑制し、さらに低コストで製袋加工時の加工性を向上させるポリプロピレン系無延伸シーラントフィルム及びこれを用いた包装材、包装体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムは、
プロピレン・エチレンブロック共重合体を溶融製膜して成るポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムであって、
クロス分別クロマトグラフ分析(CEF)による成分分析において、溶出温度が-20~60℃に現れる非晶性エチレン・プロピレン共重合体成分が10重量%以下であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の包装材は、
前記ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムに、二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリエステルフィルム、印刷紙、金属箔から選ばれる少なくとも1層の基材を積層し
たことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の包装体は、
前記包装材を用いて製袋してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱処理工程におけるフィルムの後収縮を抑制し、さらに低コストで製袋加工時の加工性を向上させるポリプロピレン系無延伸シーラントフィルム、及びこれを用いた包装材、包装体が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明のポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムについて詳細を記述する。
【0012】
本発明者らの技術的知見によれば、ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムの後収縮は、ポリプロピレンの結晶性が経時ないし熱処理工程により変化することが重要な因子として作用する。そのため、ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムの後収縮を抑制するには、使用するポリプロピレン系材料をある特定の成分比率に調整することが必要となる。
そこで、本発明のポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムにおいては、次に示すような構成とした。
【0013】
[プロピレン・エチレンブロック共重合体]
本発明に使用されるプロピレン・エチレンブロック共重合体は、クロス分別クロマトグラフ分析(CEF)による成分分析において、成分分離を行った際、溶出温度-20~60℃に現れる非晶性エチレン・プロピレン共重合体成分量が10重量%以下である。この範囲内であれば、後収縮は生じない。
【0014】
逆にこの範囲外であると、ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムと基材フィルムをドライラミネート法で貼り合せた後、接着剤を硬化させる50℃の熱処理工程において、ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムが後収縮し、フィルム全体が変形することで、二次加工時の搬送不良やシール貼り合せ位置のずれが生じる。
【0015】
次に、プロピレン系無延伸シーラントフィルムに関し、厚みについて記載する。ポリプロプレン系無延伸シーラントフィルムとしては、包装材料用フィルムとして、使用可能な範囲であれば特に制限ざれることはないが、厚みが厚すぎる場合にはコストデメリットとなる。このため、100um以下の範囲であることが好ましい。
【0016】
本発明のポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムを熱成形加工する方法は特に制限されるものではなく、公知の方法を使用することが可能である。
例えば、単軸スクリュ-押出機、2軸スクリュ-押出機、多軸スクリュ-押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法、各成分を溶解又は分散混合後、溶剤を加熱除去する方法等を用いることが出来る。作業性を考慮した場合、単軸スクリュー押出機または2軸スクリュー押出機を使用することが特に好ましい。
【0017】
単軸押出機を用いる場合にはフルフライトスクリュー、ミキシングエレメントを持つスクリュー、バリアフライトスクリュー、フルーテッドスクリュー等特に制限されることなく、使用することが可能である。
2軸混練装置については、同方向回転2軸スクリュー押出機、異方向回転2軸スクリュー押出機、またスクリュー形状もフルフライトスクリュー、ニーディングディスクタイプと
特に限定されるものではない。
【0018】
上記方法において、ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムを単軸押出機または2軸押出機等により溶融したのち、フィードブロックまたはマルチマニホールドを介しTダイで製膜する方法を用いることが可能である。
【0019】
また、本発明のポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムは、必要に応じて適宜、後工程適性を向上する表面改質処理を実施することが可能である。例えば、単体フィルム使用時の印刷適性向上、積層使用時のラミネート適性向上のために他基材と接触する面に対して表面改質処理を行うことが可能である。表面改質処理はコロナ放電処理、プラズマ処理、フレーム処理等のフィルム表面を酸化させることにより官能基を発現させる手法や、易接着層のコーティング等のウェットプロセスによる改質を好適に用いることが可能である。
【0020】
また、本発明によって得られるポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムにおいて、単体フィルム及び他基材と積層して使用することや、製袋様式に関して、特に制限されるものではない。具体的には、本発明のポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムに、二軸延伸ポリアミドフィルム(ONy)、二軸延伸ポリエステルフィルム(PET)、印刷紙、金属箔(AL箔)、透明蒸着フィルムから選ばれる少なくとも1層を積層し、積層体を形成することができる。
【0021】
これらの代表的な積層体の構成は、例えばPET/AL箔/ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルム、PET/ONy/AL箔/ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルム、PET/AL箔/ONy/ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルム、ONy/ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムである。
積層体の製造方法は、積層体を構成するフィルムに接着剤を用いて貼合せる通常のドライラミネート法が好適に採用できるが、必要に応じて直接ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムを押出ラミネートする方法も採用することができる。
【0022】
これらの積層体の積層構造は、包装体の要求特性、例えば包装する食品の品質保持期間を満たすバリア性、内容物の重量に対応できるサイズ・耐衝撃性、内容物の視認性などに応じて適宜選択する必要がある。
【0023】
これらの積層体は、ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムをシール材として、平袋、三方袋、合掌袋、ガゼット袋、スタンディングパウチ、スパウト付きパウチ、ビーク付きパウチ等に用いることが可能である。
【実施例
【0024】
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
なお発明の詳細な説明及び実施例中の各項目の測定方法は、次の通りである。
【0025】
(1)クロス分別クロマトグラフ分析
装置: ハイスループット組成分布分析装置、CEF(Polymer Char)
検出器(内蔵):IR5型赤外分光光度計(Polymer Char)
検出波長: 濃度センサー CH ν3.42um(2920cm-1
メチルセンサー CH ν3.38um(2960cm-1
カラム: CEFカラム(Polymer Char)、長さ150mm、
容量2.3mL
移動相: o-ジクロロベンゼン(ODCB)、BHT添加
試料濃度: 16mg/8mL
溶解条件: 150℃、60min(N雰囲気下)
注入量: 0.2mL
降温条件: 95℃→-20℃、1.0℃/min、流量 0.012mL/min
昇温条件: -20℃→140℃、4.0℃/min、流量1.0mL/min
【0026】
(2)リタデーション(Re)
リタデーションとは、フィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△Nxy=|nx-ny|)と厚みd(nm)との積(△Nxy×d)で定義されるパラメーターであり、光学的等方性及び異方性を示す尺度であり、結晶性高分子材料の結晶化度と正の相関関係にある特徴を有する。また、リタデーションは、微小な変化に対する応答が良いため、熱処理工程によるポリプロピレンの結晶性変化の評価として用いた。
リタデーション評価では、王子計測機器製位相差測定装置を用い、面内位相差測定により評価した。本評価では、製膜した直後の試料と、50℃、4日間熱処理を行った試料とで測定を実施し、熱処理後のリタデーション増加量で良否の判定を行った。
このとき増加量が15nm以下であれば、ポリプロピレンの結晶性変化によるフィルム寸法変化が少なく、二次加工性が良好であると判定した。
【0027】
<実施例1>
クロス分別クロマトグラフ分析(CEF)によって、分離を行った際、溶出温度-20~60℃に現れる非晶性エチレン・プロピレン共重合体成分が5.3重量%に調整したプロピレン・エチレンブロック共重合体を使用した。
【0028】
このプロピレン・エチレンブロック共重合体を温度250℃に温調させた押出機に供給し、溶融押出しを行い、フィルム厚みが70μmとなるように調整し、実施例1の無延伸フィルムを作製した。
【0029】
<実施例2>
プロピレン・エチレンブロック共重合体として、クロス分別クロマトグラフ分析(CEF)によって、成分分離を行った際、溶出温度-20~60℃に現れる非晶性エチレン・プロピレン共重合体成分が4.1重量%に調整したプロピレン・エチレンブロック共重合体を使用した。
【0030】
このプロピレン・エチレンブロック共重合体を実施例1に記載した同様の方法で製膜し、実施例2の無延伸フィルムを作製した。
【0031】
<実施例3>
プロピレン・エチレンブロック共重合体として、クロス分別クロマトグラフ分析(CEF)によって、成分分離を行った際、溶出温度-20~60℃に現れる非晶性エチレン・プロピレン共重合体成分が7.6重量%に調整したプロピレン・エチレンブロック共重合体を使用した。
【0032】
このプロピレン・エチレンブロック共重合体を実施例1に記載した同様の方法で製膜し、実施例3の無延伸フィルムを作製した。
【0033】
<実施例4>
プロピレン・エチレンブロック共重合体として、クロス分別クロマトグラフ分析(CEF)によって、成分分離を行った際、溶出温度-20~60℃に現れる非晶性エチレン・プロピレン共重合体成分が6.2重量%に調整したプロピレン・エチレンブロック共重合体を使用した。
【0034】
このプロピレン・エチレンブロック共重合体を実施例1に記載した同様の方法で製膜し、実施例4の無延伸フィルムを作製した。
【0035】
<比較例1>
プロピレン・エチレンブロック共重合体として、クロス分別クロマトグラフ分析(CEF)によって、成分分離を行った際、溶出温度-20~60℃に現れる非晶性エチレン・プロピレン共重合体成分が12.3重量%に調整したプロピレン・エチレンブロック共重合体を使用した。
【0036】
このプロピレン・エチレンブロック共重合体を実施例1に記載した同様の方法で製膜し、比較例1の無延伸フィルムを作製した。
【0037】
<比較例2>
プロピレン・エチレンブロック共重合体として、クロス分別クロマトグラフ分析(CEF)によって、成分分離を行った際、溶出温度-20~60℃に現れる非晶性エチレン・プロピレン共重合体成分が10.3重量%に調整したプロピレン・エチレンブロック共重合体を使用した。
【0038】
このプロピレン・エチレンブロック共重合体を実施例1に記載した同様の方法で製膜し、比較例2の無延伸フィルムを作製した。
【0039】
作製した実施例1~4と比較例1、2において、上述の評価を実施した結果を表1に記載する。
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果から、実施例1~4においては、熱処理後のリタデーション増加量が上述の判定基準を全て満たしている。
【0042】
比較例1、2に関しては、熱処理後のリタデーション増加量がそれぞれ21.93nm、23.70nmと、15nm以上であり、熱処理により、ポリプロピレンの結晶性が変化し、フィルム寸法変化が発生しているため、二次加工性が不足し、実用が難しい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムにおいて、基材フィルムとの貼り合せ後の接着剤を硬化させる熱処理工程において、発生するフィルムの後収縮を抑制し、製袋工程等の二次加工性を向上させたポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムを提供することが可能となる。