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特許7500964コアシェル型複合粒子およびその製造方法
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  • 特許-コアシェル型複合粒子およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】コアシェル型複合粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20240611BHJP
   C08J 3/16 20060101ALI20240611BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20240611BHJP
   C08F 251/02 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C08L1/02
C08J3/16 CEY
C08L101/12
C08F251/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019230332
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2021098784
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】森永 貴大
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/135384(WO,A1)
【文献】特開2003-113249(JP,A)
【文献】特開2011-246507(JP,A)
【文献】特開2019-038949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
C08F 251/00-251/02
C08J 3/00-3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材として温度応答性高分子、被覆材としてセルロースナノファイバーを含み、
前記温度応答性高分子は水溶性のモノマーの重合体であることを特徴とするコアシェル型複合粒子。
【請求項2】
前記温度応答性高分子が下限臨界溶液温度を有することを特徴とする請求項1に記載のコアシェル型複合粒子。
【請求項3】
前記温度応答性高分子がポリイソプロピルアクリルアミド系材料であることを特徴とする請求項1、または2に記載のコアシェル型複合粒子。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーが結晶表面にアニオン性官能基を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のコアシェル型複合粒子。
【請求項5】
前記アニオン性官能基が、カルボキシ基であることを特徴とする請求項4に記載のコアシェル型複合粒子。
【請求項6】
芯材として温度応答性高分子、被覆材としてセルロースナノファイバーを含むことを特徴とするコアシェル型複合粒子の製造方法であって、
セルロースナノファイバー分散液を調製する工程、
水溶性のモノマーおよび重合開始剤を前記セルロースナノファイバー分散液に溶解する工程、
前記水溶性のモノマーを、前記温度応答性高分子の下限臨界溶液温以上の温度又は上限臨界溶液温度以下の温度で重合させる工程、
を含むことを特徴とするコアシェル型複合粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル型複合粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノ粒子やマイクロ粒子は医療分野での研究が盛んに行われている。例えば薬物送達システム(DDS)では薬物を運ぶキャリアとして利用することが想定される。DDSに利用される場合には、材料として外部の熱、光、電流、電界、pH等の刺激により、体積や状態が変化(膨潤、収縮)する刺激応答性高分子が注目されている。
【0003】
刺激応答性高分子としては、例えば温度応答性高分子が知られている。温度応答性高分子は、一般に水和状態にある高分子が、ある温度以上で脱水和して体積や形態、性質等が変化する下限臨界溶液温度(LCST)を示すものと、ある温度以上で水和することにより体積や形態、性質等が変化する上限臨界溶液温度(UCST)を示すものが知られている。
【0004】
LCSTを示すものとして、例えばN-イソプロピルアクリルアミド (NIPAM)のホモポリマーまたはコポリマー(例えば、特許文献1)、UCSTを示すものとして、例えばN-アセチルアクリルアミドとアクリルアミドとの共重合体(例えば、特許文献2)等が知られている。特に、ポリN-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)系化合物は、体温に近い32℃付近で膨潤-収縮の体積転移をすることから注目されている。また、PNIPAM系化合物をマイクロ粒子として利用した研究も広く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-228850号公報
【文献】特開2000-86729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、PNIPAM系化合物をはじめとして温度応答性化合物は合成高分子であり、生体内での使用を想定すると、生体適合性に乏しいという問題があった。生体適合性に乏しいと、生体内組織に非特異的に吸着して炎症を起こしたり、生体内に蓄積したりするなど人体への悪影響が懸念される。
【0007】
本発明はかかる事情を鑑みてなされたものであり、生体適合性の高い温度応答性のナノ粒子およびマイクロ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、セルロースナノファイバーを被覆材とするコアシェル型複合粒子とすることで粒子表面に生体適合性を付与できることが分かった。
【0009】
コアシェル型複合粒子は、一つの粒子中に成分を異ならせた箇所を有する複合粒子であり、内部と表面とが異なる物質で形成された複合粒子である。すなわち、コアとなる粒子の表面に被覆材が設けられて外殻が形成されており、被覆材の成分による機能を発揮させつつ、コア粒子の材料や形状の選択によって粒子の重量や柔軟性といった特性や粒子形状を用途に応じて調整できる粒子である。
【0010】
すなわち、本発明のコアシェル型複合粒子は、芯材として温度応答性高分子、被覆材としてセルロースナノファイバーを含み、前記温度応答性高分子は水溶性のモノマーの重合体であることを特徴とするコアシェル型複合粒子である。
【0011】
また、前記温度応答性高分子は下限臨界溶液温度(LCST)を有することが好ましく、ポリイソプロピルアクリルアミド系材料であることがより好ましい。
【0012】
また、前記セルロースナノファイバーは結晶表面にアニオン性官能基を有することが好ましく、アニオン性官能基はカルボキシ基であることがより好ましい。
【0013】
また、本発明のコアシェル型複合粒子の製造方法は、セルロースナノファイバー分散液を調製する工程、水溶性のモノマーおよび重合開始剤を前記セルロースナノファイバー分散液に溶解する工程、前記水溶性のモノマーを、前記温度応答性高分子の下限臨界溶液温以上の温度又は上限臨界溶液温度以下の温度で重合させる工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生体適合性の高い温度応答性のナノ粒子およびマイクロ粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のコアシェル型複合粒子の模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
[コアシェル型複合粒子]
図1は本発明のコアシェル型複合粒子の模式断面図である。本発明のコアシェル型複合粒子10は、芯材2として温度応答性高分子、被覆材としてセルロースナノファイバー(以下、CNFと称する場合もある)1を含む。
【0018】
CNFは天然のセルロースをナノメートルオーダーまで微細化した材料であり、生体適合性を有する。従って、本発明におけるコアシェル型複合粒子は温度応答性を有しつつ、表面に生体適合性を付与できる。
【0019】
<温度応答性高分子>
温度応答性高分子について説明する。ただし、本発明の温度応答性高分子は以下に説明する実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0020】
本発明に使用できる、温度応答性高分子としては、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-アクリル酸)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-アクリル酸ナトリウム)共重合体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-ビニルフェロセン)共重合体、ポリ(ビニルメチルエーテル)、等のポリN-置換アクリルアミド誘導体やポリN-置換メタアクリルアミド誘導体、ポリアミノ酸誘導体、α/β-アスパラギン誘導体から合成されたポリアスパラギン誘導体、ポリプロピレンオキサイド、プロピレンオキサイドと他のアルキレンオキサイドとの共重合体、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール部分酢化物、ポリアルキレンオキサイド等や、ポリ(エチレングリコール-block-(L-乳酸));(PEG-PLLA)ジブロック共重合体、ポリ(エチレングリコール-block-(D-乳酸));(PEG-PD
LA)ジブロック共重合体、ポリ(エチレングリコール-block-(DL-乳酸));(PEG-PDLLA)ジブロック共重合体、(PEG-PLLA-PEG)トリブロック共重合体、(PEG-PDLA-PEG)トリブロック共重合体、(PEG-PDLLA-PEG)トリブロック共重合体、ポリ(エチレングリコール-block-DL-乳酸-random-グリコール酸-block-エチレングリコール);(PEG-PLGA-PEG)トリブロック共重合体、(PLLA-PEG-PLLA)トリブロック共重合体、(PDLA-PEG-PDLA)トリブロック共重合体、(PDLLA-PEG-PDLLA)トリブロック共重合体、(PLGA-PEG-PLGA)トリブロック共重合体、分岐構造を持つPEGとポリ乳酸からなる(分岐PEG-PLLA)ブロック共重合体、(分岐PEG-PDLA)ブロック共重合体、(分岐PEG-PDLLA)ブロック共重合体、(分岐PEG-PLGA)ブロック共重合体、ラクチドと多糖類との共重合体、ポリエーテルとポリエステルとの共重合体およびその誘導体等、ポリエーテルにポリエステルが共重合されたブロック共重合体、ヒドロキシアルキルキトサン、ヒドロキシ酸単位とアスパラギン酸単位にポリエーテル側鎖が導入された共重合体、あるいは、これらの誘導体や架橋した高分子、などが挙げられる。これらは1種類であっても複数種類を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
温度応答性高分子としては下限臨界溶液温度(LCST)を有することが好ましい。LCSTは0~80℃であることが好ましく、10~70℃であることがより好ましく、20~60℃であることがさらに好ましい。LCSTを有することで、LCST以下の温度で粒子が膨潤状態となり薬物などを保持でき、LCST以上の温度では粒子が収縮して薬物を好適に放出できる。また、温度応答性高分子としてはポリイソプロピルアクリルアミド系材料であることがより好ましい。ポリイソプロピルアクリルアミドはLCSTが比較的体温に近い32℃にある。さらに、その誘導体または共重合体であるポリイソプロピルアクリルアミド系材料は体温付近でのLCSTを制御可能であり、生体内での使用を考えた場合に望ましい。
【0022】
<セルロースナノファイバー>
セルロースナノファイバー1は特に限定されないが、CNF原料は化学改質されていることが好ましい。より具体的には、CNF原料の結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることが好ましい。セルロース結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることによって浸透圧効果でセルロース結晶間に溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料の微細化が進行しやすくなるためである。当該アニオン性官能基の含有量は、セルロース1g当たり0.1mmol以上、5.0mmol以下であることが好ましい。
【0023】
セルロースの結晶表面に導入されるアニオン性官能基の種類や導入方法は特に限定されないが、カルボキシ基やリン酸基が好ましい。セルロース結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基が特に好ましい。
さらに、セルロースナノファイバー1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であることが好ましい。具体的には、セルロースナノファイバー1は繊維状であって、数平均短軸径が1nm以上、1000nm以下、数平均長軸径が50nm以上であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の5倍以上であることが好ましい。また、セルロースナノファイバー1の結晶構造は、セルロースI型であることが好ましい。これらの理由については、以下の[コアシェル型複合粒子の製造方法]において述べる。
【0024】
[コアシェル型複合粒子の製造方法]
本発明のコアシェル型複合粒子の製造方法は、(第1工程)CNF分散液を調製する工程、(第2工程)CNF分散液にモノマーおよび重合開始剤を溶解する工程、(第3工程)モノマーを重合する工程を含む。
【0025】
<(第1工程)セルロースナノファイバー分散液の調製工程>
製造方法の第1工程に当たる、セルロースナノファイバー分散液の調製工程について説明する。より具体的には、セルロース原料を酸化する工程と、酸化したセルロース原料を
溶媒中で解繊して微細化しCNF分散液を得る工程からなる。
【0026】
セルロースナノファイバー1の原料として用いることができるセルロースの種類や結晶構造は特に限定されない。具体的には、セルロースI型結晶からなる原料としては、例えば、木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースを用いることができる。
【0027】
さらには、セルロースII型結晶からなるレーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロースも用いることができる。材料調達の容易さから、木材系天然セルロースを原料とすることが好ましい。木材系天然セルロースとしては、特に限定されず、針葉樹パルプや広葉樹パルプ、古紙パルプ、など、一般的にセルロースナノファイバーの製造に用いられるものを用いることができる。精製および微細化のしやすさから、針葉樹パルプが好ましい。
【0028】
セルロースの繊維表面にカルボキシ基を導入する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化を行ってもよい。また、オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースを直接反応させてカルボキシ基を導入してもよい。
【0029】
さらには、水系の比較的温和な条件で、可能な限り構造を保ちながら、アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル)をはじめとするN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法を用いてもよい。カルボキシ基導入部位の選択性および環境負荷低減のためにはN-オキシル化合物を用いた酸化がより好ましい。
【0030】
ここで、N-オキシル化合物としては、TEMPOの他に、2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル等が挙げられる。そのなかでも、反応性が高いTEMPOが好ましい。N-オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して0.01~5.0質量部程度である。
【0031】
N-オキシル化合物を用いた酸化方法としては、例えば木材系天然セルロースを水中に分散させ、N-オキシル化合物の共存下で酸化処理する方法が挙げられる。このとき、N-オキシル化合物とともに、共酸化剤を併用することが好ましい。この場合、反応系内において、N-オキシル化合物が順次共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩が生成し、上記オキソアンモニウム塩によりセルロースが酸化される。この酸化処理によれば、温和な条件でも酸化反応が円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。酸化処理を温和な条件で行うと、セルロースの結晶構造を維持しやすい。
【0032】
共酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、酸化反応を推進することが可能であれば、いずれの酸化剤も用いることができる。入手の容易さや反応性から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。上記共酸化剤の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~200質量部程度である。
【0033】
また、N-オキシル化合物および共酸化剤とともに、臭化物およびヨウ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに併用してもよい。これにより、酸化反応を円滑に進行させることができ、カルボキシ基の導入効率を改善することができる。このような化合物としては、臭化ナトリウムまたは臭化リチウムが好ましく、コストや安定性から、臭化ナトリウムがより好ましい。化合物の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~50質量部程度である。
【0034】
酸化反応の反応温度は、4~80℃が好ましく、10~70℃がより好ましい。4℃未満であると、試薬の反応性が低下し反応時間が長くなってしまう。80℃を超えると副反応が促進して試料が低分子化して高結晶性の剛直なCNF繊維構造が崩壊し、O/W型エマルションの安定化剤として用いることができない。
【0035】
また、酸化処理の反応時間は、反応温度、所望のカルボキシ基量等を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、通常、10分~5時間程度である。
【0036】
CNFに導入するカルボキシ基の含有量としては、0.1mmol/g以上、5.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上、2.0mmol/g以下がより好ましい。ここで、カルボキシ基量が0.1mmol/g未満であると、セルロースミクロフィブリル間に浸透圧効果による溶媒進入作用が働かないため、セルロースを微細化して均一に分散させることは難しい。また、5.0mmol/gを超えると化学処理に伴う副反応によりセルロースミクロフィブリルが低分子化するため、高結晶性の剛直なCNF繊維構造をとることができず、粒子の安定化剤として用いることができない。
【0037】
酸化反応時の反応系のpHは特に限定されないが、9~11が好ましい。pHが9以上であると反応を効率良く進めることができる。pHが11を超えると副反応が進行し、試料の分解が促進されてしまうおそれがある。また、酸化処理においては、酸化が進行するにつれて、カルボキシ基が生成することにより系内のpHが低下してしまうため、酸化処理中、反応系のpHを9~11に保つことが好ましい。反応系のpHを9~11に保つ方法としては、pHの低下に応じてアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
【0038】
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0039】
N-オキシル化合物による酸化反応は、反応系にアルコールを添加することにより停止させることができる。このとき、反応系のpHは上記の範囲内に保つことが好ましい。 添加するアルコールとしては、反応をすばやく終了させるためメタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量のアルコールが好ましく、反応により生成される副産物の安全性などから、エタノールが特に好ましい。
【0040】
酸化処理後の反応液は、そのまま微細化工程に供してもよいが、N-オキシル化合物等の触媒、不純物等を除去するために、反応液に含まれる酸化セルロースを回収し、洗浄液で洗浄することが好ましい。酸化セルロースの回収は、ガラスフィルターや20μm孔径のナイロンメッシュを用いたろ過等の公知の方法により実施できる。酸化セルロースの洗浄に用いる洗浄液としては純水が好ましい。
【0041】
上記のように酸化した各種セルロース原料を溶媒中に分散し、懸濁液とする。懸濁液中
のセルロース原料の濃度としては0.1%以上、10%未満が好ましい。0.1%未満であると、溶媒過多となり生産性を損なうため好ましくない。10%以上になると、セルロース原料の解繊に伴い懸濁液が急激に増粘し、均一な解繊処理が困難となるため好ましくない。懸濁液作製に用いる溶媒としては、水を50%以上含むことが好ましい。懸濁液中の水の割合が50%以下になると、セルロース原料を溶媒中で解繊してセルロースナノファイバー分散液を得る工程において、セルロースナノファイバー1の分散が阻害される。
【0042】
また、水以外に含まれる溶媒としては親水性溶媒が好ましい。親水性溶媒については特に制限はないが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。
【0043】
必要に応じて、セルロースや生成するセルロースナノファイバー1の分散性を上げるために、懸濁液のpH調整を行ってもよい。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0044】
続いて、懸濁液に物理的解繊処理を施して、セルロース原料を微細化する。物理的解繊処理の方法としては特に限定されないが、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突などの機械的処理が挙げられる。
【0045】
前記のような物理的解繊処理を行うことで、懸濁液中のセルロースが微細化され、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロースの分散液を得ることができる。また、このときの物理的解繊処理の時間や回数により、得られるセルロースナノファイバー1の数平均短軸径および数平均長軸径を調整することができる。
【0046】
上記のようにして、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロースの分散体(CNF分散液)が得られる。得られた分散体は、そのまま、または希釈、濃縮等を行って、後述するO/W型エマルションの安定化剤として用いることができる。
【0047】
通常、セルロースナノファイバー1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であるため、本実施形態の製造方法に用いるセルロースナノファイバー1としては、以下に示す範囲にある繊維形状のものが好ましい。
【0048】
繊維状のセルロースナノファイバー1は、短軸径において数平均短軸径が1nm以上1000nm以下であればよく、好ましくは2nm以上、500nm以下であればよい。ここで、数平均短軸径が1nm未満では高結晶性の剛直なCNF繊維構造をとることができず、エマルションの安定化と、エマルションを鋳型とした重合反応とを実施することができない。一方、1000nmを超えると、エマルションを安定化させるにはサイズが大きくなり過ぎるため、得られるコアシェル型複合粒子10のサイズや形状を制御することが困難となる。
【0049】
また、数平均長軸径においては特に制限はないが、好ましくは数平均短軸径の5倍以上であればよい。数平均長軸径が数平均短軸径の5倍未満であると、コアシェル型複合粒子
10のサイズや形状を十分に制御することができないために好ましくない。
【0050】
なお、CNF繊維の数平均短軸径は、透過型電子顕微鏡観察および原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の短軸径(最小径)を測定し、その平均値として求められる。一方、CNF繊維の数平均長軸径は、透過型電子顕微鏡観察および原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の長軸径(最大径)を測定し、その平均値として求められる。
【0051】
<(第2工程)CNF分散液にモノマーおよび重合開始剤を溶解する工程>
第2工程では、各温度応答性高分子に応じたモノマーと重合開始剤を第1工程で作製したCNF分散液に溶解する。
【0052】
<(第3工程)モノマーを重合し、複合粒子を形成する工程>
第3工程の重合工程では、加熱や紫外線照射などの公知の方法で反応を開始して、モノマーを重合し複合粒子を得る。
【0053】
重合開始剤としては、例えばハイドロパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類などの有機過酸化物、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物などを挙げることができる。重合開始剤は、効率よく重合を行うため、水溶性であることが好ましい。
【0054】
第3工程におけるモノマーの重合は、生成する温度応答性高分子のLCST以上、またはUCST以下の温度で行うことが望ましい。LCST以上またはUCST以下の温度で重合を行うことで、重合の進行とともに温度応答性高分子が析出し、かつ、CNFが分散安定剤として働くため、温度応答性高分子が芯材、CNFが被覆材となったコアシェル型複合粒子を形成することができる。
【実施例
【0055】
以下、実施例1、2及び比較例1、2に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲は本発明の主旨を逸脱しない範囲で、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
<(第1工程)セルロースナノファイバー分散液の調製>
(木材セルロースのTEMPO酸化)
針葉樹クラフトパルプ70gを蒸留水3500gに懸濁し、蒸留水350gにTEMPOを0.7g、臭化ナトリウムを7g溶解させた溶液を加え、20℃まで冷却した。ここに2mol/L、密度1.15g/mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液450gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。系内の温度は常に20℃に保ち、反応中のpHの低下は0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpH10に保ち続けた。セルロースの重量に対して、水酸化ナトリウムの添加量の合計が3.50mmol/gに達した時点で、約100mLのエタノールを添加し反応を停止させた。その後、ガラスフィルターを用いて蒸留水によるろ過洗浄を繰り返し、酸化パルプを得た。
【0057】
(酸化パルプのカルボキシ基量測定)
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプおよび再酸化パルプを固形分重量で0.1g量りとり、1質量部濃度で水に分散させ、塩酸を加えてpHを2.5とした。その後0.5M水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により、カルボキシ基量(mmol/g)を求めた。結果は1.6mmol/gであった。
【0058】
(酸化パルプの解繊処理)
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプ1gを99gの蒸留水に分散させ、ジューサーミキサーで30分間微細化処理し、CNF1質量部のCNF水分散液を得た。CNF水分散
液を光路長1cmの石英セルに入れ、分光光度計(島津製作所社製「UV-3600」)を用いて分光透過スペクトルの測定を行った結果、CNF水分散液は高い透明性を示した。また、CNF水分散液に含まれるCNFの数平均短軸径は3nm、数平均長軸径は1110nmであった。さらに、レオメーターを用いて定常粘弾性測定を行った結果、CNF水分散液はチキソトロピック性を示した。
【0059】
<(第2工程)モノマー及び重合開始剤の溶解、(第3工程)モノマー重合及び粒子形成>
製造例1のCNF水分散液45質量部に、モノマーとしてN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM、KJケミカル株式会社製)2.5質量部、および、N、N-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm、関東化学株式会社製)0.025質量部を添加し、攪拌して溶解した。さらに70℃で30分間窒素置換を行った。その後、70℃の温度を維持したまま、水2.5質量部に溶解した2,2‘-アゾビス(2-アミノプロパン)二塩酸塩(V-50、和光純薬株式会社製)0.025質量部を添加し、重合を開始した。重合は1時間行い、白濁した分散液を得た。分散液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、数μm程度の大きさの粒子が分散している様子が確認された。
【0060】
得られた分散液に対し相対遠心力75,000gで5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、さらに孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水で繰り返し洗浄した。こうして得られた精製・回収物を20質量部で水に再分散させ分散液を得た。
【0061】
また、得られた分散液を純水で1質量部に調整し粒度分布計(日機装株式会社製「NANOTRAC UPA-EX150」)を用いて粒径を評価した。25℃における平均粒径1.5μm、40℃における平均粒径0.6μmであり、温度に応答して粒径が変化することを確認した。また、LCSTは32℃付近であった。
【0062】
[実施例2]
モノマーをN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM、KJケミカル株式会社製)2.25質量部、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA、KJケミカル株式会社製)0.25質量部、およびN、N-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm、関東化学株式会社製)0.025質量部とした以外は実施例1と同様の条件で粒子およびその分散液を得た。
【0063】
得られた粒径を評価したところ、25℃における平均粒径1.4μm、40℃における平均粒径0.6μmであり、温度に応答して粒径が変化することを確認した。また、LCSTは37℃付近であった。
【0064】
<比較例1>
CNF水分散液を純水にしたこと以外は実施例1と同様の条件で粒子およびその分散液を得た。
【0065】
得られた粒径を評価したところ、25℃における平均粒径2.1μm、40℃における平均粒径1.0μmであり、温度に応答して粒径が変化することを確認した。また、LCSTは32℃付近であった。
【0066】
<比較例2>
CNF水分散液を純水にしたこと以外は実施例2と同様の条件で粒子およびその分散液を得た。
【0067】
得られた粒径を評価したところ、25℃における平均粒径2.2μm、40℃における平均粒径1.2μmであり、温度に応答して粒径が変化することを確認した。また、LC
STは37℃付近であった。
【0068】
[生体適合性の評価]
得られた粒子をマウスL929線維芽細胞へ導入し、細胞毒性を確認することで生体適合性を評価した。
【0069】
まず、マウスL929線維芽細胞を培地に播種し、サブコンフルエント(細胞密度が飽和密度の4/5程度になった状態)になるまで培養した。この培地に、粒子を添加し、37℃の5%CO存在下で、一昼夜インキュベートを行った。その後、細胞の観察を行い、細胞増殖が促進された場合は細胞毒性が低いため生体適合性を「〇(好適)」、細胞増殖が抑制された場合は細胞毒性が高いため生体適合性を「×(不適)」とした。
【0070】
結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
実施例1、2では生体適合性が「〇」、比較例1、2では生体適合性が「×」となった。実施例1、2ではCNFが粒子表面を被覆しているため細胞毒性が低く、比較例1、2ではCNFを用いておらず温度応答性高分子が細胞と接触するため細胞毒性が高かったといえる。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
芯材として温度応答性高分子、被覆材としてセルロースナノファイバーを含むことを特徴とするコアシェル型複合粒子。
[2]
前記温度応答性高分子が下限臨界溶液温度を有することを特徴とする項1に記載のコアシェル型複合粒子。
[3]
前記温度応答性高分子がポリイソプロピルアクリルアミド系材料であることを特徴とする項1、または2に記載のコアシェル型複合粒子。
[4]
前記セルロースナノファイバーが結晶表面にアニオン性官能基を有することを特徴とする項1~3のいずれか一項に記載のコアシェル型複合粒子。
[5]
前記アニオン性官能基が、カルボキシ基であることを特徴とする項4に記載のコアシェル型複合粒子。
[6]
芯材として温度応答性高分子、被覆材としてセルロースナノファイバーを含むことを特徴とするコアシェル型複合粒子の製造方法であって、
セルロースナノファイバー分散液を調製する工程、
モノマーおよび重合開始剤を前記セルロースナノファイバー分散液に溶解する工程、
モノマーを重合させる工程、
を含むことを特徴とするコアシェル型複合粒子の製造方法。
【符号の説明】
【0073】
1 セルロースナノファイバー
2 芯材
10 コアシェル型複合粒子
図1