IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-空気入りタイヤ 図1
  • 特許-空気入りタイヤ 図2
  • 特許-空気入りタイヤ 図3
  • 特許-空気入りタイヤ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 17/00 20060101AFI20240611BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20240611BHJP
   B60C 9/08 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B60C17/00 B
B60C15/06 D
B60C9/08 N
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019236366
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104718
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 健司
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 敏彰
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-138502(JP,A)
【文献】特開2017-137007(JP,A)
【文献】特開2018-016201(JP,A)
【文献】特開2014-031147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 17/00
B60C 9/08
B60C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面と接触するトレッド面を有するトレッドと、
前記トレッドの端に連なり、前記トレッドよりも径方向内側に位置する一対のサイドウォールと、
前記サイドウォールよりも径方向内側に位置する一対のクリンチと、
前記クリンチの軸方向内側に位置する一対のビードと、
前記トレッド、前記一対のサイドウォール及び前記一対のクリンチの内側において、一方のビードと他方のビードとを架け渡し、並列した多数のコードを含むカーカスと、
軸方向において前記カーカスの内側に位置し、径方向において前記ビードの外側に位置する一対のサイド補強層と
を備え、
それぞれのサイド補強層の外端がタイヤの最大幅位置よりも径方向外側に位置し、前記サイド補強層の内端が前記最大幅位置よりも径方向内側に位置し、
前記タイヤを正規リムに組み、前記タイヤの内圧を正規内圧に調整し、前記タイヤに荷重をかけない、正規状態の前記タイヤにおいて、前記正規リムから前記タイヤが離れる位置に対応する、前記タイヤの外面上の位置であるリム基準点を通り、径方向に延びる直線が、フランジ基準線であり、
前記サイド補強層の外端及び内端が前記フランジ基準線よりも軸方向内側に位置し、
前記最大幅位置において、前記サイド補強層が前記フランジ基準線よりも軸方向外側に位置し、
前記フランジ基準線と前記サイド補強層の内面との前記外端側交点における、前記サイド補強層の厚さL1、前記フランジ基準線と前記サイド補強層の内面との前記内端側交点における、前記サイド補強層の厚さL2、及び前記最大幅位置における前記サイド補強層の厚さLMが、次の式(1)を満たし、
前記フランジ基準線と前記サイド補強層の内面との前記外端側交点から前記フランジ基準線と前記サイド補強層の内面との前記内端側交点までの径方向距離の、前記タイヤの断面高さに対する比が0.20以上0.45以下である、
空気入りタイヤ。
L1+L2<LM (1)
【請求項2】
路面と接触するトレッド面を有するトレッドと、
前記トレッドの端に連なり、前記トレッドよりも径方向内側に位置する一対のサイドウォールと、
前記サイドウォールよりも径方向内側に位置する一対のクリンチと、
前記クリンチの軸方向内側に位置する一対のビードと、
前記トレッド、前記一対のサイドウォール及び前記一対のクリンチの内側において、一方のビードと他方のビードとを架け渡し、並列した多数のコードを含むカーカスと、
軸方向において前記カーカスの内側に位置し、径方向において前記ビードの外側に位置する一対のサイド補強層と
を備え、
それぞれのサイド補強層の外端がタイヤの最大幅位置よりも径方向外側に位置し、前記サイド補強層の内端が前記最大幅位置よりも径方向内側に位置し、
前記タイヤを正規リムに組み、前記タイヤの内圧を正規内圧に調整し、前記タイヤに荷重をかけない、正規状態の前記タイヤにおいて、前記正規リムから前記タイヤが離れる位置に対応する、前記タイヤの外面上の位置であるリム基準点を通り、径方向に延びる直線が、フランジ基準線であり、
前記サイド補強層の外端及び内端が前記フランジ基準線よりも軸方向内側に位置し、
前記最大幅位置において、前記サイド補強層が前記フランジ基準線よりも軸方向外側に位置し、
前記フランジ基準線と前記サイド補強層の内面との前記外端側交点における、前記サイド補強層の厚さL1、前記フランジ基準線と前記サイド補強層の内面との前記内端側交点における、前記サイド補強層の厚さL2、及び前記最大幅位置における前記サイド補強層の厚さLMが、次の式(1)を満たし、
前記カーカスが少なくとも1枚のカーカスプライを備え、
前記カーカスプライが一方のビードと他方のビードとを架け渡すプライ本体を含み、
前記トレッド面の端を通る前記プライ本体の第一法線と前記プライ本体との第一交点から、前記リム基準点を通る前記プライ本体の第二法線と前記プライ本体との第二交点までの、前記プライ本体の長さの、前記第一交点から前記第二交点までの径方向距離に対する比が1.05以上1.20以下である、空気入りタイヤ。
L1+L2<LM (1)
【請求項3】
路面と接触するトレッド面を有するトレッドと、
前記トレッドの端に連なり、前記トレッドよりも径方向内側に位置する一対のサイドウォールと、
前記サイドウォールよりも径方向内側に位置する一対のクリンチと、
前記クリンチの軸方向内側に位置する一対のビードと、
前記トレッド、前記一対のサイドウォール及び前記一対のクリンチの内側において、一方のビードと他方のビードとを架け渡し、並列した多数のコードを含むカーカスと、
軸方向において前記カーカスの内側に位置し、径方向において前記ビードの外側に位置する一対のサイド補強層と
を備え、
それぞれのサイド補強層の外端がタイヤの最大幅位置よりも径方向外側に位置し、前記サイド補強層の内端が前記最大幅位置よりも径方向内側に位置し、
前記タイヤを正規リムに組み、前記タイヤの内圧を正規内圧に調整し、前記タイヤに荷重をかけない、正規状態の前記タイヤにおいて、前記正規リムから前記タイヤが離れる位置に対応する、前記タイヤの外面上の位置であるリム基準点を通り、径方向に延びる直線が、フランジ基準線であり、
軸方向において、前記サイド補強層全体が前記フランジ基準線よりも外側に位置する、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。詳細には、本発明は、サイド補強タイプの空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来のサイド補強タイプの空気入りタイヤ2(ランフラットタイヤ)の一部を示す。このタイヤ2は、サイドウォール4及びカーカス6の内側にサイド補強層8を備える。サイド補強層8がタイヤ2に作用する荷重に耐えるので、このタイヤ2を装着した車両は、タイヤ2がパンクしても所定の速度で一定距離走行できる。このタイヤ2を装着した車両には、スペアタイヤは不要である。このタイヤ2は、車両の軽量化に貢献する。
【0003】
路面にあるポットポール等の段差をタイヤ2が通過する際、タイヤ2には大きな衝撃力が加えられ、タイヤ2が撓む。タイヤ2は路面とリムRのフランジFとに挟まれ、カーカス6に含まれるコード(図示されず)に応力がかかる。コードにかかる応力の程度によってはコードが切れる恐れがある。このコードの切断を伴う損傷は、ピンチカットと称される。
【0004】
ピンチカットはカーカス6の機能を損なう。ピンチカットが生じにくい、言い換えれば、耐ピンチカット性に優れるタイヤの開発が進められている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-43717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、ピンチカットの発生メカニズムについて鋭意検討し、フランジによって路面に押し付けられる部分におけるサイド補強層の厚さが、タイヤが撓みきる前のコードの切断に影響するとの知見を得た。
【0007】
前述の特許文献1に開示されたタイヤでは、サイド補強層としての荷重支持層を半径方向においてベルトとオーバーラップさせ、タイヤに含まれる荷重支持層の比率Psを10%以下に設定し、そして、ベルトの端の直下における荷重支持層の厚さT1を2.0mm以上に設定することで、ピンチカットの発生が抑えられている。しかし、ベルトの端の直下における荷重支持層の厚さT1が2.0mm以上あり、前述の知見によれば、このタイヤでは、タイヤに作用する荷重によっては、タイヤが撓みきる前にコードが切れる恐れがあることは否めない。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、タイヤが撓みきる前の、カーカスに含まれるコードの切断が抑制され、耐ピンチカット性の向上が達成された、空気入りタイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る空気入りタイヤは、路面と接触するトレッド面を有するトレッドと、前記トレッドの端に連なり、前記トレッドよりも径方向内側に位置する一対のサイドウォールと、前記サイドウォールよりも径方向内側に位置する一対のクリンチと、前記クリンチの軸方向内側に位置する一対のビードと、前記トレッド、前記一対のサイドウォール及び前記一対のクリンチの内側において、一方のビードと他方のビードとを架け渡し、並列した多数のコードを含むカーカスと、軸方向において前記カーカスの内側に位置し、径方向において前記ビードの外側に位置する一対のサイド補強層と、を備える。それぞれのサイド補強層の外端はタイヤの最大幅位置よりも径方向外側に位置し、前記サイド補強層の内端は前記最大幅位置よりも径方向内側に位置する。前記タイヤを正規リムに組み、前記タイヤの内圧を正規内圧に調整し、前記タイヤに荷重をかけない、正規状態の前記タイヤにおいて、前記正規リムから前記タイヤが離れる位置に対応する、前記タイヤの外面上の位置であるリム基準点を通り、径方向に延びる直線が、フランジ基準線である。前記サイド補強層の外端及び内端は前記フランジ基準線よりも軸方向内側に位置し、前記最大幅位置において、前記サイド補強層は前記フランジ基準線よりも軸方向外側に位置する。前記フランジ基準線と前記サイド補強層の内面との前記外端側交点における、前記サイド補強層の厚さL1、前記フランジ基準線と前記サイド補強層の内面との前記内端側交点における、前記サイド補強層の厚さL2、及び前記最大幅位置における前記サイド補強層の厚さLMは、次の式(1)を満たす。
L1+L2<LM (1)
【0010】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記厚さL1の、前記厚さLMに対する比は1/3以下であり、前記厚さL2の、前記厚さLMに対する比は1/3以下である。
【0011】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記フランジ基準線と前記サイド補強層の内面との前記外端側交点から、前記フランジ基準線と前記サイド補強層の内面との前記内端側交点までの、径方向距離の、前記タイヤの断面高さに対する比は、0.20以上0.45以下である。
【0012】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、前記カーカスは少なくとも1枚のカーカスプライを備える。前記カーカスプライは、一方のビードと他方のビードとを架け渡すプライ本体を含む。前記トレッド面の端を通る前記プライ本体の第一法線と前記プライ本体との第一交点から、前記リム基準点を通る前記プライ本体の第二法線と前記プライ本体との第二交点までの、前記プライ本体の長さの、前記第一交点から前記第二交点までの径方向距離に対する比は、1.05以上1.20以下である。
【0013】
本発明の他の態様に係る空気入りタイヤは、路面と接触するトレッド面を有するトレッドと、前記トレッドの端に連なり、前記トレッドよりも径方向内側に位置する一対のサイドウォールと、前記サイドウォールよりも径方向内側に位置する一対のクリンチと、前記クリンチの軸方向内側に位置する一対のビードと、前記トレッド、前記一対のサイドウォール及び前記一対のクリンチの内側において、一方のビードと他方のビードとを架け渡すカーカスと、軸方向において前記カーカスの内側に位置し、径方向において前記ビードの外側に位置する一対のサイド補強層と、を備える。それぞれのサイド補強層の外端はタイヤの最大幅位置よりも径方向外側に位置し、前記サイド補強層の内端は前記最大幅位置よりも径方向内側に位置する。前記タイヤを正規リムに組み、前記タイヤの内圧を正規内圧に調整し、前記タイヤに荷重をかけない、正規状態の前記タイヤにおいて、前記正規リムから前記タイヤが離れる位置に対応する、前記タイヤの外面上の位置であるリム基準点を通り、径方向に延びる直線が、フランジ基準線である。軸方向において、前記サイド補強層全体が前記フランジ基準線よりも外側に位置する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る空気入りタイヤでは、タイヤが撓みきる前の、カーカスに含まれるコードの切断が抑制される。このタイヤでは、耐ピンチカット性の向上が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図2図2は、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図3図3は、本発明のさらに他の実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図4図4は、従来の空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0017】
本発明においては、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけない状態は、正規状態と称される。本発明では、特に言及がない限り、タイヤの各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
【0018】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0019】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。乗用車用タイヤの正規内圧は、例えば、180kPaである。
【0020】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。乗用車用タイヤの正規荷重は、例えば、前記荷重の88%に相当する荷重である。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ12(以下、単に「タイヤ12」と称することがある。)の一部を示す。このタイヤ12は、乗用車に装着される。
【0022】
図1は、タイヤ12の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ12の断面の一部を示す。図1において、左右方向はタイヤ12の軸方向であり、上下方向はタイヤ12の径方向である。図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ12の周方向である。図1において、一点鎖線CLはタイヤ12の赤道面を表す。図1においてタイヤ12は、リムR(正規リム)に組まれており、正規状態にある。
【0023】
図1において、軸方向に延びる実線BBLはビードベースラインである。このビードベースラインは、リムRのリム径(JATMA等参照)を規定する線である。
【0024】
このタイヤ12は、トレッド14、一対のサイドウォール16、一対のクリンチ18、一対のビード20、カーカス22、ベルト24、バンド26、一対のチェーファー28、インナーライナー30及び一対のサイド補強層32を備える。
【0025】
トレッド14は、その外面の一部、すなわちトレッド面34において路面と接触する。トレッド14は、路面と接触するトレッド面34を有する。トレッド面34には、溝36が刻まれる。
【0026】
図1において、符号PEはトレッド面34の端である。このタイヤ12では、正規状態のタイヤ12に正規荷重を負荷して、キャンバー角を0゜としトレッド14を平面に接触させて得られる接地面の軸方向外側端がトレッド面34の端PEとして定められる。
【0027】
図1において、符号PCはトレッド面34と赤道面との交点である。この交点PCはこのタイヤ12の赤道である。この赤道PCはタイヤの径方向外端でもある。両矢印HSは、ビードベースラインから赤道PCまでの径方向距離である。この径方向距離HSは、タイヤ12の断面高さ(JATMA等参照)である。
【0028】
トレッド14は、ベース部38と、このベース部38の径方向外側に位置するキャップ部40とを備える。ベース部38は、発熱性が考慮された架橋ゴムからなる。キャップ部40は、耐摩耗性及びグリップ性能が考慮された架橋ゴムからなる。
【0029】
それぞれのサイドウォール16は、トレッド14の端に連なる。サイドウォール16は、トレッド14よりも径方向内側に位置する。サイドウォール16は、トレッド14の端からクリンチ18に向かって延びる。サイドウォール16は、架橋ゴムからなる。サイドウォール16は、カーカス22を保護する。
【0030】
それぞれのクリンチ18は、サイドウォール16よりも径方向内側に位置する。クリンチ18は、リムRのフランジFと接触する。クリンチ18は、耐摩耗性が考慮された架橋ゴムからなる。
【0031】
図1において、符号PWはタイヤ12の軸方向外端である。この外端PWは、サイドウォール16及びクリンチ18を含む部分の外面に、模様や文字等の装飾がないと仮定して得られる仮想外面に基づいて特定される。一方の外端PWから他方の外端PWまでの軸方向距離は、このタイヤ12の最大幅である。この外端PWは、このタイヤ12が最大幅を示す位置(以下、タイヤ12の最大幅位置)である。なお、このタイヤ12の最大幅は断面幅(JATMA等参照)とも称される。
【0032】
それぞれのビード20は、クリンチ18の軸方向内側に位置する。ビード20は、コア42と、エイペックス44とを備える。コア42はリング状である。コア42はスチール製のワイヤーを含む。エイペックス44は、コア42の径方向外側に位置する。エイペックス44は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。図1に示されるように、エイペックス44は径方向外向きに先細りである。
【0033】
カーカス22は、トレッド14、一対のサイドウォール16及び一対のクリンチ18の内側に位置する。カーカス22は、一方のビード20と他方のビード20とを架け渡す。カーカス22は、ラジアル構造を有する。カーカス22は、少なくとも1枚のカーカスプライ46を備える。
【0034】
このタイヤ12のカーカス22は、1枚のカーカスプライ46で構成される。カーカスプライ46は、それぞれのビード20のコア42の周りにて折り返される。このカーカスプライ46は、一方のコア42と他方のコア42とを架け渡すプライ本体48と、このプライ本体48に連なりそれぞれのコア42の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部50とを含む。
【0035】
図1に示されるように、折り返し部50の端50eは、プライ本体48とベルト24との間に挟まれる。このカーカス22は、ウルトラハイターンアップ構造を有する。
【0036】
図示されないが、カーカスプライ46は並列された多数のコード(以下、カーカスコードとも称される。)を含む。これらカーカスコードは赤道面と交差する。このタイヤ12では、有機繊維からなるコードがカーカスコードとして用いられる。この有機繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維及びレーヨン繊維が挙げられる。
【0037】
ベルト24は、トレッド14の径方向内側において、カーカス22と積層される。ベルト24は径方向に積層された少なくとも2層のベルトプライ52で構成される。
【0038】
このタイヤ12のベルト24は、2層のベルトプライ52からなる。図示されないが、この2層のベルトプライ52はそれぞれ、並列された多数のコードを含む。これらコードは赤道面に対して傾斜する。コードの材質はスチールである。
【0039】
バンド26は、径方向においてトレッド14の内側に位置する。このバンド26は、径方向においてトレッド14とベルト24との間に位置する。このタイヤ12のバンド26は、ベルト24全体を覆うフルバンド54と、このフルバンド54の端部を覆う一対のエッジバンド56とで構成される。このバンド26がフルバンド54のみで構成されてもよく、一対のエッジバンド56のみで構成されてもよい。
【0040】
図示されないが、バンド26はコードを含む。フルバンド54及びエッジバンド56のそれぞれにおいて、コードは周方向に螺旋状に巻かれる。有機繊維からなるコードがバンド26のコードとして用いられる。
【0041】
それぞれのチェーファー28は、ビード20の径方向内側に位置する。チェーファー28はリムRのシートと接触する。このタイヤ12では、チェーファー28は布とこの布に含浸したゴムとからなる。
【0042】
インナーライナー30は、カーカス22及びサイド補強層32の内側に位置する。インナーライナー30は、タイヤ12の内面を構成する。インナーライナー30は、気体透過性の低い架橋ゴムからなる。インナーライナー30は、タイヤ12の内圧を保持する。
【0043】
それぞれのサイド補強層32は、軸方向において、サイドウォール16の内側に位置する。サイド補強層32は、軸方向において、カーカス22の内側に位置する。サイド補強層32は、径方向において、ビード20の外側に位置する。サイド補強層32は架橋ゴムからなる。
【0044】
図1に示されるように、サイド補強層32は最大幅位置PW付近において厚く、径方向外向きに先細りであり、径方向内向きに先細りである。径方向において、サイド補強層32の外端58は最大幅位置PWよりも外側に位置し、サイド補強層32の内端60は最大幅位置PWよりも内側に位置する。このサイド補強層32の外端58は、軸方向において、ベルト24の端62よりも内側に位置する。このサイド補強層32の内端60は、径方向において、エイペックス44の外端64よりも内側に位置する。
【0045】
パンクによって内圧が低下した状態、すなわちパンク状態において、このタイヤ12が装着された車両(図示されず)の支持に、サイド補強層32は貢献する。このタイヤ12は、サイド補強タイプの空気入リタイヤ(ランフラットタイヤ)である。
【0046】
図1において、符号PRは、正規状態のタイヤ12において、リムRからタイヤ12が離れる位置に対応する、このタイヤ12の外面上の位置である。この位置PRは、タイヤ12とリムRとの接触面の径方向外縁である。このタイヤ12では、この位置PRがリム基準点である。実線LFは、リム基準点PRを通り径方向に延びる直線である。このタイヤ12では、この実線LFがフランジ基準線である。
【0047】
このタイヤ12では、フランジ基準線LFはサイド補強層32の内面と交差する。図1において、符号P1及び符号P2はそれぞれ、フランジ基準線LFとサイド補強層32の内面との交点である。交点P1がサイド補強層32の外端58側交点であり、交点P2がサイド補強層32の内端60側交点である。
【0048】
図1において、両矢印LMは最大幅位置PWにおけるサイド補強層32の厚さである。両矢印L1は、サイド補強層32の外端58側交点P1におけるサイド補強層32の厚さである。両矢印L2は、サイド補強層32の内端60側交点P2におけるサイド補強層32の厚さである。
【0049】
図1において、実線LWは、最大幅位置PWを通り軸方向に延びる直線である。この実線LWは、径方向基準線と称される。サイド補強層32の厚さLMは、この径方向基準線LWに沿って計測される。サイド補強層32の厚さL1及び厚さL2は、サイド補強層32の内面の法線に沿って計測される。
【0050】
図4に示された従来タイヤ2では、フランジ基準線LFはサイド補強層8の内面と交差しない。この従来タイヤ2では、サイド補強層8の内面全体が、軸方向において、フランジ基準線LFよりも内側に位置する。これに対して、このタイヤ12では、前述したように、フランジ基準線LFはサイド補強層32の内面と交差する。このタイヤ12では、軸方向において、サイド補強層32の外端58及び内端60はフランジ基準線LFよりも内側に位置する。最大幅位置PWにおいてサイド補強層32は、フランジ基準線LFよりも外側に位置する。
【0051】
タイヤ12において、リム基準線LFの部分は、タイヤ12に大きな衝撃力が加えられタイヤ12が大きく撓んだ際に、路面とリムRのフランジFとの間に挟まれる部分に対応する。このタイヤ12では、リム基準線LFよりも軸方向内側に位置するサイド補強層32のボリュームは従来タイヤ2のそれに比べて小さい。このタイヤ12では、フランジFによって路面に押し付けられる部分のボリュームが低減される。このボリュームの低減は、タイヤ12が撓む際にカーカス22のコードにかかる応力の低減に貢献する。このタイヤ12では、カーカス22に含まれるコードは切れにくい。
【0052】
このタイヤ12では、前述の、サイド補強層32の厚さL1、厚さL2、及び厚さLMは、次の式(1)を満たす。
L1+L2<LM (1)
【0053】
このタイヤ12では、サイド補強層32の厚さL1と厚さL2との和がサイド補強層32の厚さLMより小さい。このタイヤ12では、フランジFによって路面に押し付けられる部分のサイド補強層32は薄い。タイヤ12が撓む際の、カーカス22のストローク量が確保できるので、カーカス22(特に、プライ本体48)のコードにかかる応力が低減される。このタイヤ12では、タイヤ12が撓みきる前の、カーカス22に含まれるコードの切断が抑制される。このタイヤ12では、耐ピンチカット性の向上が達成される。
【0054】
さらにこのタイヤ12では、サイド補強層32の厚さLMがサイド補強層32の厚さL1と厚さL2との和より大きい。このタイヤ12では、サイド補強層32全体のボリュームが確保される。このタイヤ12では、パンク状態において、タイヤ12に作用する荷重に、このサイド補強層32は耐える。このタイヤ12を装着した車両は、タイヤ12がパンクしても所定の速度で一定距離走行できる。このタイヤ12では、必要なランフラット性能が確保される。このタイヤ12では、必要なランフラット性能を確保しつつ、耐ピンチカット性の向上が達成される。また、このタイヤ12を装着した車両には、スペアタイヤは不要である。このタイヤ12は、車両の軽量化にも貢献する。
【0055】
このタイヤ12では、必要なランフラット性能が確保される観点から、最大幅位置PWにおけるサイド補強層32の厚さLMは、5.5mm以上が好ましく、6.0mm以上がより好ましく、6.5mm以上がさらに好ましい。乗り心地への影響が抑えられる観点から、この厚さLMは、10.0mm以下が好ましく、9.5mm以下がより好ましく、9.0mm以下がさらに好ましい。
【0056】
このタイヤ12では、サイド補強層32の厚さL1の、このサイド補強層32の厚さLMに対する比(L1/LM)は1/3以下が好ましい。これにより、フランジ基準線LFとサイド補強層32の内面との外端58側交点P1における、サイド補強層の厚さL1が適切に維持される。このタイヤ12では、フランジFによって路面に押し付けられる部分のサイド補強層32は薄い。このタイヤ12では、タイヤ12が撓みきる前の、カーカス22に含まれるコードの切断が抑制される。この観点から、この比(L1/LM)は、1/4以下がより好ましく、1/5以下がさらに好ましい。耐ピンチカット性の向上の観点においては、この厚さL1は小さいほど好ましいので、この比(L1/LM)の好ましい下限は設定されない。
【0057】
このタイヤ12では、サイド補強層32の厚さL2の、このサイド補強層32の厚さLMに対する比(L2/LM)は1/3以下が好ましい。これにより、フランジ基準線LFとサイド補強層32の内面との内端60側交点P2における、サイド補強層の厚さL2が適切に維持される。このタイヤ12では、フランジFによって路面に押し付けられる部分のサイド補強層32は薄い。このタイヤ12では、タイヤ12が撓みきる前の、カーカス22に含まれるコードの切断が抑制される。この観点から、この比(L2/LM)は、1/4以下がより好ましく、1/5以下がさらに好ましい。耐ピンチカット性の向上の観点においては、この厚さL2は小さいほど好ましいので、この比(L2/LM)の好ましい下限は設定されない。
【0058】
このタイヤ12では、耐ピンチカット性の向上が効果的に図れる観点から、サイド補強層32の厚さL1の、このサイド補強層32の厚さLMに対する比(L1/LM)は1/3以下が好ましく、サイド補強層32の厚さL2の、このサイド補強層32の厚さLMに対する比(L2/LM)は1/3以下が好ましい。
【0059】
図1において、両矢印HRは、外端58側交点P1から内端60側交点P2までの径方向距離である。
【0060】
このタイヤ12では、径方向距離HRの、タイヤ12の断面高さHSに対する比(HR/HS)は、0.20以上が好ましく、0.45以下が好ましい。
【0061】
比(HR/HS)が0.20以上に設定されることにより、適切なボリュームを有するサイド補強層32が得られる。このサイド補強層32がランフラット性能の確保に貢献する。この観点から、この比(HR/HS)は0.25以上がより好ましく、0.30以上がさらに好ましい。
【0062】
比(HR/HS)が0.45以下に設定されることにより、フランジFによって路面に押し付けられる部分において、薄いサイド補強層32が得られる。このサイド補強層32は、耐ピンチカット性の向上に貢献する。この観点から、この比(HR/HS)は0.40以下がより好ましく、0.35以下がさらに好ましい。
【0063】
図1において、両矢印H1は径方向基準線LWから外端58側交点P1までの径方向距離である。両矢印H2は、径方向基準線LWから内端60側交点P2までの径方向距離である。
【0064】
このタイヤ12では、好ましくは、径方向基準線LWから外端58側交点P1までの径方向距離H1は径方向基準線LWから内端60側交点P2までの径方向距離H2よりも長い。これにより、必要なランフラット性能を確保しつつ、耐ピンチカット性の向上が図れる。この観点から、径方向距離H1の径方向距離H2に対する比(H1/H2)は、1.15以上が好ましく、1.20以上がより好ましく、1.25以上がさらに好ましい。この比(H1/H2)は、1.40以下が好ましく、1.35以下がより好ましく、1.30以下がさらに好ましい。
【0065】
図1において、実線Laはトレッド面34の端PEを通るプライ本体48の外面の第一法線である。符号Paは、この第一法線Laとプライ本体48の外面との第一交点である。実線Lbは、リム基準点PRを通るプライ本体48の外面の第二法線である。符号Pbは、この第二法線Lbとプライ本体48の外面との第二交点である。両矢印Labは、第一交点Paから第二交点Pbまでの径方向距離である。この距離Labはプライ距離とも称される。このプライ距離Labは、前述の、径方向距離HRよりも長い。図示されないが、プライ本体48の外面に沿って計測される、第一交点Paから第二交点Pbまでのプライ本体48の長さが、プライ長さMabである。
【0066】
このタイヤ12では、プライ距離Labの、タイヤ12の断面高さHSに対する比(Lab/HS)は、0.32以上が好ましく、0.50以下が好ましい。
【0067】
比(Lab/HS)が0.32以上に設定されることにより、タイヤ12が撓む際の、カーカス22のストローク量が確保できるので、カーカス22のコードにかかる応力が低減される。このタイヤ12では、タイヤ12が撓みきる前の、カーカス22に含まれるコードの切断が抑制される。この観点から、この比(Lab/HS)は0.35以上がより好ましく、0.37以上がさらに好ましい。
【0068】
比(Lab/HS)が0.50以下に設定されることにより、適正なプロファイルを有するプライ本体48が得られる。プライ本体48に作用する応力がプライ本体48全体に分散されるので、良好な耐久性が確保される。この観点から、この比(Lab/HS)は0.47以下がより好ましく、0.45以下がさらに好ましい。
【0069】
このタイヤ12では、プライ長さMabの、プライ距離Labに対する比(Mab/Lab)は、1.05以上が好ましく、1.20以下が好ましい。
【0070】
比(Mab/Lab)が1.05以上に設定されることにより、適切な長さを有するプライ本体が得られる。タイヤ12が撓む際の、カーカス22のストローク量が確保できるので、カーカス22のコードにかかる応力が低減される。このタイヤ12では、タイヤ12が撓みきる前の、カーカス22に含まれるコードの切断が抑制される。この観点から、この比(Mab/Lab)は1.07以上がより好ましく、1.10以上がさらに好ましい。
【0071】
比(Mab/Lab)が1.20以下に設定されることにより、サイドウォール16の部分においてプライ本体48が概ね径方向に延びるように、プライ本体48のプロファイルが構成される。このタイヤ12では、タイヤ12が撓むことによってカーカス22のコードに作用する応力がコード全体に分散される。このタイヤ12では、タイヤ12が撓みきる前の、カーカス22に含まれるコードの切断が抑制される。この観点から、この比(Mab/Lab)は1.18以下がより好ましく、1.15以下がさらに好ましい。
【0072】
図2は、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤ72の一部を示す。図2には、タイヤ72の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ72の断面の一部が示される。図2において、左右方向はタイヤ72の軸方向であり、上下方向はタイヤ72の径方向である。図2の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ72の周方向である。図2においてタイヤ72は、リムR(正規リム)に組まれており、正規状態にある。
【0073】
このタイヤ72を構成する要素は、図1に示されたタイヤ12を構成する要素と同じである。このタイヤ72は、トレッド14、一対のサイドウォール16、一対のクリンチ18、一対のビード20、カーカス22、ベルト24、バンド26、一対のチェーファー28、インナーライナー30及び一対のサイド補強層32を備える。このタイヤ72では、最大幅位置PWにおけるサイド補強層32の厚さLMを変えることなく、このサイド補強層32の外端58及び内端60を軸方向においてフランジ基準線LFよりも内側に配置させた他は、図1に示されたタイヤ12と同様の構成を有する。
【0074】
図2に示されるように、このタイヤ72では、軸方向において、サイド補強層32全体がフランジ基準線LFよりも外側に位置する。このタイヤ72では、リム基準線LFよりも軸方向内側にサイド補強層32は設けられない。このタイヤ72では、タイヤ72が撓む際の、カーカス22のストローク量が確保できるので、カーカス22(特に、プライ本体48)のコードにかかる応力が低減される。このタイヤ72では、図1に示されたタイヤ12と同様、タイヤ72が撓みきる前の、カーカス22に含まれるコードの切断が抑制される。このタイヤ72では、耐ピンチカット性の向上が達成される。
【0075】
このタイヤ72のサイド補強層32は、図1に示されたタイヤ12のサイド補強層32のボリュームとほぼ同等のボリュームを有する。このタイヤ72においても、この図1に示されたタイヤ12と同様、パンク状態において、タイヤ72に作用する荷重に、このサイド補強層32は耐える。このタイヤ72を装着した車両は、タイヤ72がパンクしても所定の速度で一定距離走行できる。このタイヤ72では、必要なランフラット性能が確保される。このタイヤ72では、必要なランフラット性能を確保しつつ、耐ピンチカット性の向上が達成される。
【0076】
図2において、両矢印HSRは、サイド補強層32の外端58から内端60までの径方向距離である。この径方向距離HSRは、サイド補強層32の断面高さである。
【0077】
このタイヤ72では、必要なランフラット性能を確保しつつ、耐ピンチカット性の向上が図れる観点から、サイド補強層32の断面高さHSRの、このタイヤ72の断面高さHSに対する比(HSR/HS)は、0.25以上が好ましく、0.30以上がより好ましく、0.35以上がさらに好ましい。この比(HSR/HS)は、0.50以下が好ましく、0.45以下がより好ましく、0.40以下がさらに好ましい。
【0078】
図3は、本発明のさらに他の実施形態に係る空気入りタイヤ82の一部を示す。図3には、タイヤ82の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ82の断面の一部が示される。図3において、左右方向はタイヤ82の軸方向であり、上下方向はタイヤ82の径方向である。図3の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ82の周方向である。図3においてタイヤ82は、リムR(正規リム)に組まれており、正規状態にある。
【0079】
このタイヤ82は、トレッド84、一対のサイドウォール86、一対のクリンチ88、一対のビード90、カーカス92、ベルト94、バンド96、一対のチェーファー98、インナーライナー100、一対のサイド補強層102及び一対のエイペックス補強層104を備える。このタイヤ82では、ビード90、カーカス92及びエイペックス補強層104以外は、図1に示されたタイヤ12の構成と同じ構成を有する。トレッド84、サイドウォール86、クリンチ88、ベルト94、バンド96、チェーファー98、インナーライナー100及びサイド補強層102については、説明を省略する。
【0080】
このタイヤ82では、ビード90は、コア106とエイペックス108とを備える。コア106はリング状である。コア106はスチール製のワイヤーを含む。エイペックス108は、コア106よりも径方向外側に位置する。エイペックス108は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。図3に示されるように、エイペックス108は径方向外向きに先細りである。このタイヤ82のエイペックス108は、図1に示されたタイヤ12のエイペックス44よりも小さい。
【0081】
このタイヤ82では、カーカス92はラジアル構造を有し、1枚のカーカスプライ110で構成される。カーカスプライ110は、それぞれのビード90のコア106の周りにて折り返される。このカーカスプライ110は、一方のコア106と他方のコア106とを架け渡すプライ本体112と、このプライ本体112に連なりそれぞれのコア106の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部114とを含む。図3に示されるように、この折り返し部114はエイペックス108とエイペックス補強層104との間に挟まれる。
【0082】
図3に示されるように、折り返し部114の端の部分は、プライ本体112とベルト94との間に挟まれる。このカーカス92は、ウルトラハイターンアップ構造を有する。
【0083】
図示されないが、このカーカスプライ110も、図1に示されたタイヤ12のカーカス22をなすカーカスプライ46と同様、並列された多数のコード(以下、カーカスコードとも称される。)を含む。これらカーカスコードは赤道面と交差する。有機繊維からなるコードがカーカスコードとして用いられる。
【0084】
このタイヤ82では、エイペックス補強層104はカーカス92とクリンチ88との間に位置する。このエイペックス補強層104は、径方向において、エイペックス108よりも外側に位置する。このエイペックス補強層104は、高い剛性を有する架橋ゴムからなる。
【0085】
図3に示されるように、エイペックス補強層104の内端116は、径方向において、エイペックス108とコア106との境界部分に位置する。エイペックス補強層104の外端118は、径方向において、最大幅位置PWよりも内側に位置する。エイペックス補強層104とエイペックス108との間、そしてエイペックス補強層104とプライ本体112との間に折り返し部114が位置する。
【0086】
このタイヤ82では、エイペックス補強層104はカーカス92のプロファイルの適正化に貢献する。このタイヤ82は、操縦安定性及び耐久性に優れる。さらにこのタイヤ82では、良好なランフラット性能も得られる。
【0087】
このタイヤ82においても、図1に示されたタイヤ12と同様、フランジ基準線LFはサイド補強層102の内面と交差する。このタイヤ82では、軸方向において、サイド補強層102の外端120及び内端122はフランジ基準線LFよりも内側に位置する。最大幅位置PWにおいて、サイド補強層102は、フランジ基準線LFよりも外側に位置する。
【0088】
このタイヤ82では、リム基準線LFよりも軸方向内側に位置するサイド補強層102のボリュームは従来タイヤ2のそれに比べて小さい。このタイヤ82では、フランジFによって路面に押し付けられる部分のボリュームが低減される。このボリュームの低減は、タイヤ82が撓む際にカーカス92のコードにかかる応力の低減に貢献する。このタイヤ82では、カーカス92に含まれるコードは切れにくい。
【0089】
このタイヤ82では、フランジ基準線LFとサイド補強層102の内面との外端120側交点P1における、サイド補強層102の厚さL1、フランジ基準線LFとサイド補強層102の内面との内端122側交点P2における、サイド補強層102の厚さL2、及び最大幅位置PWにおけるサイド補強層102の厚さLMが、次の式(1)を満たす。
L1+L2<LM (1)
【0090】
このタイヤ82では、サイド補強層102の厚さL1と厚さL2との和がサイド補強層102の厚さLMより小さい。このタイヤ82では、フランジFによって路面に押し付けられる部分のサイド補強層102は薄い。タイヤ82が撓む際の、カーカス92のストローク量が確保できるので、カーカス92(特に、プライ本体112)のコードにかかる応力が低減される。このタイヤ82では、タイヤ82が撓みきる前の、カーカス92に含まれるコードの切断が抑制される。このタイヤ82では、耐ピンチカット性の向上が達成される。
【0091】
さらにこのタイヤ82では、サイド補強層102の厚さLMがサイド補強層102の厚さL1と厚さL2との和より大きい。このタイヤ82では、サイド補強層102全体のボリュームが十分に確保される。このタイヤ82では、パンク状態において、タイヤ82に作用する荷重に、このサイド補強層102は耐える。このタイヤ82を装着した車両は、タイヤ82がパンクしても所定の速度で一定距離走行できる。このタイヤ82では、必要なランフラット性能が確保される。このタイヤ82では、必要なランフラット性能を確保しつつ、耐ピンチカット性の向上が達成される。
【0092】
以上説明したように、本発明によれば、タイヤが撓みきる前の、カーカスに含まれるコードの切断が抑制され、耐ピンチカット性の向上が達成された、空気入りタイヤが得られる。本発明は、50%以下の偏平比を有する、サイド補強タイプの空気入リタイヤにおいて、顕著な効果を奏する。
【実施例
【0093】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0094】
[検討1]
[実施例1]
図1に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=245/40RF19)を得た。
【0095】
この実施例1では、サイド補強層の外端はフランジ基準線LFよりも軸方向内側に配置された。このことが、表1の外端の欄に「Y」で表されている。サイド補強層の内端は、フランジ基準線LFよりも軸方向内側に配置された。このことが、表1の内端の欄に「Y」で表されている。また最大幅位置PWにおいて、サイド補強層はフランジ基準線LFよりも軸方向外側に配置された。このことが、表1の最大幅の欄に「Y」で表されている。
【0096】
さらにこの実施例1では、フランジ基準線LFとサイド補強層の内面との外端側交点P1における、サイド補強層の厚さL1の、最大幅位置PWにおけるサイド補強層の厚さLMに対する比(L1/LM)は0.28であった。フランジ基準線LFとサイド補強層の内面との内端側交点P2における、サイド補強層の厚さL2の、最大幅位置PWにおけるサイド補強層の厚さLMに対する比(L2/LM)は0.28であった。そして、外端側交点P1から内端側交点P2までの径方向距離HRの、タイヤ2の断面高さHSに対する比(HR/HS)は、0.33であった。
【0097】
[実施例2]
図3に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=245/40RF19)を得た。
【0098】
この実施例2では、サイド補強層の外端及び内端はフランジ基準線LFよりも軸方向内側に配置された。最大幅位置PWにおいて、サイド補強層はフランジ基準線LFよりも軸方向外側に配置された。
【0099】
さらにこの実施例2では、実施例1と同様、比(L1/LM)は0.28であり、比(L2/LM)は0.28であり、そして、比(HR/HS)は0.33であった。
【0100】
[比較例1]
図4に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=245/40RF19)を得た。
【0101】
この比較例1は従来タイヤである。この比較例1では、サイド補強層の外端及び内端はフランジ基準線LFよりも軸方向内側に配置された。最大幅位置PWにおいて、フランジ基準線LFはサイド補強層と交差した。最大幅位置PWにおいて、サイド補強層はフランジ基準線LFよりも軸方向外側に配置されなかったことが、表1の最大幅の欄に「N」で表されている。
【0102】
この比較例1では、サイド補強層の内面は軸方向においてフランジ基準線LFの内側に配置されたので、(L1/LM)、比(L2/LM)及び比(HR/HS)は計測できなかった。
【0103】
[耐ピンチカット性]
有限要素法(Finite Element Method;FEM)による解析によって、リム(19×8.5J)に組み、内圧を230kPaに調整した試作タイヤに荷重をかけて、このタイヤを撓ませたときに、カーカスのコードに作用する引張応力を算出した。算出した引張応力の逆数に基づいて、耐ピンチカット性を評価した。その結果が、下記の表1に指数で示されている。数値が大きいほどコードに作用する応力は低く耐ピンチカット性に優れる。
【0104】
[ランフラット性能]
試作タイヤをリム(19×8.5J)に組み、空気を充填して内圧を230kPaに調整した。このタイヤをドラム式走行試験機に装着し、キャンバー角を2°(degrees)に調整後、正規荷重の75%に相当する縦荷重をタイヤに負荷した。その後、このタイヤの内圧を常圧としてパンク状態を再現し、このタイヤを80km/hの速度で、半径が1.7mであるドラム上を走行させた。タイヤが破壊するまでの走行距離を測定した。その結果が、指数で下記の表1に指数で示されている。数値が大きいほど走行距離は長くランフラット性能に優れる。
【0105】
【表1】
【0106】
表1に示されているように、実施例では、必要なランフラット性能を確保しつつ、耐ピンチカット性の向上が達成されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0107】
[検討2]
[実施例3]
図2に示された基本構成を備え、下記の表2に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=245/40RF19)を得た。
【0108】
この実施例3では、軸方向において、サイド補強層全体がフランジ基準線LFよりも外側に配置された。このことが、表2のSRLの欄に「Y」で表されている。サイド補強層の断面高さHSRの、タイヤの断面高さHSに対する比(HSR/HS)は、0.38であった。
【0109】
[比較例2]
図4に示された基本構成を備え、下記の表2に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=245/40RF19)を得た。
【0110】
この比較例2は前述の比較例1と同じタイヤである。この比較例2は従来タイヤである。この比較例2では、サイド補強層の内面が軸方向においてフランジ基準線LFの内側に配置された。軸方向において、サイド補強層全体がフランジ基準線LFよりも外側に配置されなかったことが、表2のSRLの欄に「N」で表されている。
【0111】
この比較例2では、サイド補強層の断面高さHSRの、タイヤの断面高さHSに対する比(HSR/HS)は、0.61であった。
【0112】
[耐ピンチカット性]
検討1と同様にして、耐ピンチカット性を評価した。
【0113】
[ランフラット性能]
検討1と同様にして、ランフラット性能を評価した。
【0114】
【表2】
【0115】
表2に示されているように、実施例では、必要なランフラット性能を確保しつつ、耐ピンチカット性の向上が達成されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0116】
以上説明された、必要なランフラット性能を確保しつつ、耐ピンチカット性の向上を達成させるための技術は種々のタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0117】
2、12、72、82・・・タイヤ
4、16、86・・・サイドウォール
6、22、92・・・カーカス
8、32、102・・・サイド補強層
14、84・・・トレッド
18、88・・・クリンチ
20、90・・・ビード
24、94・・・ベルト
34・・・トレッド面
46、110・・・カーカスプライ
48、112・・・プライ本体
50、114・・・折り返し部
58・・・サイド補強層32の外端
60・・・サイド補強層32の内端
104・・・エイペックス補強層
120・・・サイド補強層102の外端
122・・・サイド補強層102の内端
図1
図2
図3
図4