(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240611BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20240611BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/045
B41J2/14 607
B41J2/14 501
B41J2/14 613
B41J2/175 503
(21)【出願番号】P 2020003491
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 大嗣
(72)【発明者】
【氏名】比江島 一樹
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-112001(JP,A)
【文献】特開2003-072068(JP,A)
【文献】特開2015-044324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/14
B41J 2/045
B41J 2/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する共通液室と、
前記共通液室と連通する複数の圧力室と、
複数の前記圧力室に連通する複数のノズルと、
前記圧力室の容積を変化させるアクチュエータと、
前記共通液室の内部に配置され、液体の圧力を吸収するダンパー部材とを備え、
前記ダンパー部材は、容積が0.3[mL]以上であり、前記ノズルの液滴吐出方向に垂直になるように、その両端部が前記共通液室の内壁に支持され、
前記共通液室は、前記ダンパー部材を除いた容積が2[mL]以上5[mL]以下であり、
全ての前記ノズルの吐出による液体の最大流量をF[mL/sec]とした場合に、前記ダンパー部材の圧力に対する体積変化量を3×F[uL/kPa]以上としたことを特徴とする吐出ヘッド。
【請求項2】
前記ダンパー部材の表面の少なくとも一つの面が弾性フィルム部材であって、前記ダンパー部材の内部に気体を封止した構造であることを特徴とする請求項
1に記載の吐出ヘッド。
【請求項3】
前記弾性フィルム部材の厚みは30[μm]以下であることを特徴とする請求項
2に記載の吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ダンパー部材の体積弾性率は2[GPa]以上であることを特徴とする請求項1から
3のいずれか一項に記載の吐出ヘッド。
【請求項5】
複数の前記ノズルのノズル径が35[μm]以上50[μm]以下であることを特徴とする請求項1から
4のいずれか一項に記載の吐出ヘッド。
【請求項6】
前記ノズル径が40[μm]以上であることを特徴とする請求項
5に記載の吐出ヘッド。
【請求項7】
複数の前記ノズルの吐出側の周囲の表面は吐出する液体に対して接触角が90°以下の親液性を有することを特徴とする請求項1から
6のいずれか一項に記載の吐出ヘッド。
【請求項8】
液体を前記共通液室へ供給する供給管の内径が6[mm]以上であることを特徴とする請求項1から
7のいずれか一項に記載の吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク等の液体を吐出する複数のノズルが設けられたインクジェットヘッド等の吐出ヘッドは、全ノズルに連通した共通液室である共通流路にインクを供給する供給経路と共通流路からインクを貯留タンクに戻す戻り経路のそれぞれの途中部分に圧力ダンパーを設けて、共通液室内の圧力変動を抑制していた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、他の従来の吐出ヘッドは、各ノズルごとに共通液室とノズルとの間に設けられた圧力室の共通液室側の開口に近接対向するように圧力ダンパーを配置し、圧力ダンパーによりインク吐出時における圧力室からの背圧の緩衝を行っていた(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-201698号公報
【文献】特開2015-044324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の吐出ヘッドは、圧力ダンパーが共通流路外に設けられているため、ヘッド外部の圧力変動の影響を抑制することはできるが、ヘッド内部の圧力ヘッドを抑制することはできなかった。
また、特許文献2の吐出ヘッドは、液体吐出時の背圧を抑制することは可能だが、例えば、一度に多くのノズルから大量のインクを吐出した時の共通液室内の急激な圧力低下や大量のインク吐出後に一斉に吐出を停止した場合の補充インクによる共通液室内の急激な圧力上昇を抑制することはできなかった。
【0006】
本発明は、ヘッド内の圧力変動を効果的に抑制する吐出ヘッドを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の吐出ヘッドは、
液体を収容する共通液室と、
前記共通液室と連通する複数の圧力室と、
複数の前記圧力室に連通する複数のノズルと、
前記圧力室の容積を変化させるアクチュエータと、
前記共通液室の内部に配置され、液体の圧力を吸収するダンパー部材とを備え、
前記ダンパー部材は、容積が0.3[mL]以上であり、前記ノズルの液滴吐出方向に垂直になるように、その両端部が前記共通液室の内壁に支持され、
前記共通液室は、前記ダンパー部材を除いた容積が2[mL]以上5[mL]以下であり、
全ての前記ノズルの吐出による液体の最大流量をF[mL/sec]とした場合に、前記ダンパー部材の圧力に対する体積変化量を3×F[uL/kPa]以上としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、ヘッド内の圧力変動を効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態であるインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2(a)は、ヘッドユニットを正面から見た場合の内部構成の概略図、
図2(b)は、ヘッドユニットを搬送ベルト側から見た場合の内部構成の概略図である。
【
図3】記録ヘッド内のインク流路を正面から見た断面図である。
【
図4】ダンパー部材を有していない従来の記録ヘッドにおいて、全てのノズルからインクの一斉吐出と吐出の一斉停止とを数秒単位で繰り返した場合の共通インク室内のインクの圧力変化を記録した線図である。
【
図5】ダンパー部材を有していない従来の記録ヘッドにおいて、大量吐出からの停止後に、内部圧力が安定する時間を待たずに、段階的に吐出を行うノズルの数を増やすようにして吐出を再開した場合に形成されたテストパターン画像である。
【
図6】実施例1と比較例1~4とでそれぞれ、インクの一斉の吐出と一斉の停止とを数秒単位で繰り返し実行した場合に共通インク室内に生じる圧力振幅を測定した結果を示す図である。
【
図7】実施例1の記録ヘッドにより、大量吐出からの停止後すぐに段階的にノズルの数を増やして吐出を再開した場合に形成されたテストパターン画像を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の吐出ヘッドが適用されたインクジェット記録装置に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態であるインクジェット記録装置1の概略構成を示す図である。
インクジェット記録装置1は、搬送部10と、ヘッドユニット20などを備える。
【0012】
搬送部10は、
図1のX軸方向に延びる回転軸を中心に回転する2本の搬送ローラー101,102により内側が支持された輪状の搬送ベルト103を備える。搬送部10は、搬送ベルト103の搬送面上に記録媒体Mが載置された状態で搬送ローラー101が図示略の搬送モーターの動作に応じて回転して搬送ベルト103が周回移動することで記録媒体Mを搬送ベルト103の移動方向(搬送方向;
図1のY軸方向)に搬送する。
記録媒体Mは、一定の寸法に裁断された枚葉紙や長尺のシート材である。記録媒体Mは、図示略の供給装置により搬送ベルト103上に供給され、ヘッドユニット20から吐出対象となる液体であるインクが吐出されて画像が記録された後に搬送ベルト103から所定の排出部に排出される。
記録媒体Mとしては、普通紙や塗工紙といった紙のほか、布帛又はシート状の樹脂等、表面に着弾したインクを定着させることが可能な種々の媒体を用いることができる。
【0013】
ヘッドユニット20は、搬送部10により搬送される記録媒体Mに対して画像データに基づいて適切なタイミングでインクを吐出して画像を記録する。本実施形態のインクジェット記録装置1では、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクにそれぞれ対応する四つのヘッドユニット20が記録媒体Mの搬送方向上流側からY,M,C,Kの色の順に所定の間隔で並ぶように配列されている。なお、ヘッドユニット20の数は三つ以下又は五つ以上であってもよい。
【0014】
図2は、ヘッドユニット20の内部構成を示す図である。
図2(a)は、ヘッドユニット20を正面から見た場合の内部構成の概略図である。
図2(b)は、ヘッドユニット20を搬送ベルト103側から見た場合の内部構成の概略図である。なお、ヘッドユニット20を正面から見た場合とは、ヘッドユニット20を記録媒体Mの搬送方向から見た場合をいう。
【0015】
ヘッドユニット20は、インクを吐出する複数の吐出ヘッドとしての記録ヘッド22を有する。
記録ヘッド22では、複数のノズル241がX軸方向に沿って二列に配列されて二つのノズル列を構成しており、これら二つのノズル列は、X軸方向についてノズルピッチの二分の一だけ互いにずれた状態で配置されている。
【0016】
ヘッドユニット20では、記録ヘッド22が二つずつ組み合わされてヘッドモジュール22M(インク吐出部)が構成され、このヘッドモジュール22Mが千鳥格子状に配列されている。各ヘッドモジュール22Mでは、二つの記録ヘッド22のノズル241がX軸方向について交互に配置されるような位置関係で記録ヘッド22が配置されている。ヘッドユニット20に設けられるヘッドモジュール22Mの数は、特には限られないが、本実施形態では二十四個とされている。このような記録ヘッド22の配置により、ヘッドユニット20に含まれるノズル241のX軸方向についての配置範囲が、搬送ベルト103により搬送される記録媒体Mのうち画像が形成可能な領域のX軸方向の幅(記録可能幅)を網羅するようになっている。ヘッドユニット20は、画像の記録時には位置が固定されて用いられ、記録媒体Mの搬送に応じて搬送方向の異なる位置に所定の間隔(搬送方向間隔)で順次インクを吐出していくことで、シングルパス方式で画像を記録する。
【0017】
図3は、記録ヘッド22内のインク流路を正面から見た断面図である。
記録ヘッド22は、せん断モード(シェアモード)型のインクジェットヘッドである。記録ヘッド22は、ヘッドチップ23、ヘッドチップ23の前側(インクの吐出が行われる方向を前とする)に接合されるノズル基板としてのノズルプレート24、ヘッドチップ23に接合される図示しない配線基板、配線基板の端部に接続され、吐出を制御する駆動回路を備える図示しないフレキシブル基板、ヘッドチップ23の後部側に設けられた共通液室としての共通インク室25等を備える。
【0018】
ノズルプレート24は、ヘッドチップ23の前面側に接着剤により接着されている。ノズルプレート24は、X-Y平面に沿った平板であり、インクに対して親液性を有する材料、例えば、ポリイミド等の樹脂からなる。
ノズルプレート24には、Z軸方向に沿った貫通孔からなるノズル241が複数形成されている。複数のノズル241がX軸方向に一定のピッチで並んだノズル列を構成し、ノズル列は、Y軸方向に並んで複数形成されている。
【0019】
ヘッドチップ23は、六面体からなり、Z軸方向に貫通形成された圧力室としての複数のチャネル231が形成されている。チャネル231は、X軸方向に並んでチャネル列を構成し、チャネル列は、Y軸方向に並んで複数形成されている。
各チャネル231は、ヘッドチップ23の前面にノズルプレート24が取り付けられた状態において、ノズルプレート24の各ノズル241と連通するように配置されている。
【0020】
X軸方向に並んだ複数のチャネル231の間に位置する隔壁は、アクチュエータとしての圧電素子からなる駆動壁となっている。駆動壁の圧電素子は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)である。
そして、各駆動壁の内面には、駆動電極が形成されており、配線基板及びフレキシブル基板に形成された配線電極を通じて所定電圧の駆動信号が印加される。これにより、一対の駆動電極に挟まれた駆動壁をせん断変形させて、チャネル231内に供給されたインクに吐出のための圧力変化を与え、当該チャネル231に連通したノズルプレート24のノズル241からインク滴を吐出させる。
【0021】
図2(a)に示されるように、記録ヘッド22は、記録ヘッド22内に供給されるインクが流入するインレット251と、記録ヘッド22から排出されるインクが流出するアウトレット252とを有する。
【0022】
共通インク室25は、内部にインクを収容する内部中空の箱体であり、インクの供給流路として内部に通じるインレット251とインクの排出流路として内部に通じるアウトレット252とを有する。
共通インク室25は、その前面(
図3における下側)にヘッドチップ23の後面が接着により取り付けられており、共通インク室25の内部がヘッドチップ23の各チャネル231に個別に連通する連通孔253が貫通形成されている。
なお、共通インク室25の前面は、ヘッドチップ23の後面と同一寸法か幾分大きく設定されており、ヘッドチップ23の後面全体が共通インク室25の前面に密着している。従って、ヘッドチップ23の全てのチャネル231は、連通孔253を介して共通インク室25の内部に連通している。
【0023】
共通インク室25の内部には、X-Y平面に沿った略平板形状のダンパー部材26が配置されている。
ダンパー部材26は、その平板面の一方(前面側)が全体的に開口し、内部が中空である六面体形状の箱体からなる本体部261と、本体部261の開口した前面側全体を閉塞するように本体部261に装着された弾性フィルム部材262とを備えている。
ダンパー部材26の本体部261の内部は弾性フィルム部材262により密閉され、その密閉空間内には圧縮可能な気体(例えば、空気)が封入されている。なお、本体部261の密閉空間内には、気体と共に圧縮性を有するスポンジ等の発泡性材料を封止してもよい。
【0024】
ダンパー部材26は、X軸方向又はY軸方向の幅が、共通インク室25の内部のX軸方向又はY軸方向の幅と等しく設定されており、ダンパー部材26のX軸方向又はY軸方向の両端部が共通インク室25の内壁に接着等が行われて支持されている。
なお、ダンパー本体部261は、共通インク室25とX軸方向又はY軸方向の両端部が一体となっていてもよい。
ダンパー部材26は、上記の如く、前面側に弾性フィルム部材262が設けられ、内部には圧縮性の気体が密封されているので、共通インク室25の内部のインクの流入又は流出により圧力変動が生じた場合に弾性フィルム部材262が内側又は外側に弾性的に撓み、急激な圧力変動を抑制することができる。
弾性フィルム部材262は、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS:Poly Phenylene Sulfide Resin)、液晶ポリマー(LCP:Liquid Crystal Polymer)、ポリイミド樹脂等から形成されている。
【0025】
記録ヘッド22のインレット251とアウトレット252は、それぞれ、供給管としてのチューブ254と排出管としてのチューブ255を介して図示しないインクタンクに接続されている。
インクタンクと記録ヘッド22との間には図示しないポンプが設けられており、インクタンクと共通インク室25との間で、チューブ254,255を通じてインクが循環して供給される。
【0026】
使用されるインクは、特に種類は問わないが、分散媒の他に、該分散媒よりも比重が大きい固形粒子を含んだインクを用いることができる。固形粒子としては、例えば、セラミックインクにおけるセラミック粒子の他、酸化チタン等の顔料粒子が挙げられる。
また、インクは常温、常圧では乾燥により揮発しないものが使用されることが好ましい。ここで、揮発しないとは、常温における蒸気圧が水より大きい物質の含有量が10%以下、好ましくは5%以下であるインクのことをいう。このようなインクは、使用時において、水系インク等のような揮発性のインクを使用する場合に見られる揮発成分の蒸発による粘度上昇が問題となることはない。このようなインクとしては、例えばUVインク、オイルインク等が挙げられる。
【0027】
[吐出ヘッドの実施例]
上記吐出ヘッドとしての記録ヘッド22について、数値等を用いてより具体的な実施例について説明する。
【0028】
図4はダンパー部材を有していない従来の記録ヘッドにおいて、全てのノズルからインクの一斉吐出と吐出の一斉停止とを数秒単位で繰り返した場合の共通インク室内のインクの圧力変化を記録した線図である。共通インク室内のインクの圧力は、記録ヘッドのアウトレット内部に設けられた圧力センサにより検出を行った。
図示のように、記録ヘッドの共通インク室内のインクの圧力は吐出直後に急激に低下し、その後、一定の低圧状態を維持し、一斉に吐出を停止した直後に吐出開始前の当初圧力を大きく上回り、その後、当初の圧力に戻るという変化を示す。
【0029】
大量にインク吐出を行ってから停止すると、共通インク室内では圧力低下した状態でインクの吐出が停止するので、インレットからは大量のインクが慣性力によって余分に流入し、内部圧力の上昇が生じる。
その場合、ノズルプレートの吐出面において、各ノズルからはインクが外側に膨出した状態となる。
このため、再び、インク吐出を再開すると、膨出したインクが妨げとなり、良好な吐出が行われなくなる場合があった。
【0030】
図5は、ダンパー部材を有していない従来の記録ヘッドにおいて、大量吐出からの停止後に、内部圧力が安定する時間を待たずに、段階的に吐出を行うノズルの数を増やすようにして吐出を再開した場合に形成されたテストパターン画像を示している。
図示のように、再開した吐出の直後に、ノズルに吐出端部に溜まった膨出状態のインクにより、ドット径が不安定になったり、吐出できないノズルが生じたり、インクの飛散を生じたりしているのが分かる。
【0031】
本発明の記録ヘッド22は、共通インク室25内に圧力変動を緩和するためのダンパー部材26を設け、記録ヘッド22の各部の設定条件を整えることで、共通インク室25内の圧力変動を効果的に低減して良好なインク吐出を実現している。当該記録ヘッド22の特徴的な構成について説明する。
【0032】
まず、上記共通インク室25は、ダンパー部材26を除いた容積を2[mL]以上5[mL]以下としている。ここでは、より具体的に4.5[mL]とする場合を例示する。
これに対して、ダンパー部材26の容積は0.3[mL]以上3[mL]以下としている。ここでは、より具体的に3[mL]とする場合を例示する。
【0033】
さらに、ダンパー部材26の弾性フィルム部材262は、厚みを30[μm]以下としている。ここでは、より具体的に25[μm]とする場合を例示する。
そして、ダンパー部材26の体積弾性率は2[GPa]以上6[GPa]以下としている。ここでは、より具体的に4[GPa]とする場合を例示する。
【0034】
さらに、記録ヘッド22では、全てのノズル241の吐出による液体の最大流量をF[mL/sec]とした場合に、ダンパー部材26の圧力に対する体積変化量を3×F[uL/kPa]以上となるように、ダンパー部材26の体積や弾性フィルム部材262の厚さや体積弾性率によって調整されている。
例えば、記録ヘッド22がノズル241を1024個備え、吐出周波数を11.7[kHz]、一つのノズル241からの一回のインク吐出量を80[pL]とした場合、最大流量F=1.0[mL/sec]となる。
これに対して、ダンパー部材26の圧力に対する体積変化量を3.16[uL/kPa](≧3×F)とする場合を例示する。
【0035】
また、記録ヘッド22の各ノズル241の内径は、35[μm]以上、より好ましくは40[μm]以上であって50[μm]以下としている。ここでは、より具体的に35[μm]とする場合を例示する。
また、ノズルプレート24の吐出面をインクに対して親液性を有する構成としている。具体的には、インクに親液性を有するポリイミド樹脂からノズルプレート24を形成し、外側となる吐出面の表面には、撥液性のコーティングを行わず、ポリイミド樹脂からなる表面を露出させている。
ノズルプレート24の吐出面の親液性の基準としては、インクに対して接触角が90°以下となることとしている。
また、共通インク室25のインレット251からインクを供給するチューブ254とアウトレット252からインクを排出するチューブ255の内径を6[mm]以上としている。ここでは、より具体的に6[mm]とする場合を例示する。
【0036】
ここで、上述した具体的な設定数値で設計された記録ヘッド22である実施例1と、ダンパー部材26の弾性フィルム部材262の厚さとダンパー部材26の圧力に対する体積変化量とを異なる数値で設計した記録ヘッドの比較例1~4とを用意した。なお、ダンパー部材26の弾性フィルム部材262の厚さとダンパー部材26の圧力に対する体積変化量以外の設計条件については、比較例1~4と実施例1とは同一とした。
比較例1~4は、いずれも、弾性フィルム部材262の厚さを全て50[μm]とし、さらに、比較例1は体積変化量を1.24[uL/kPa]、比較例2は体積変化量を1.35[uL/kPa]、比較例3は体積変化量を1.95[uL/kPa]、比較例4は体積変化量を2.24[uL/kPa]とした。
【0037】
そして、上記実施例1と比較例1~4とでそれぞれ、
図4の場合と同様に、一斉に全てのノズルからの一斉のインクの吐出と一斉の停止とを数秒単位で繰り返し実行した場合に共通インク室内に生じる圧力振幅を測定した結果を
図6に示す。なお、圧力振幅は、全てのノズルからインクの一斉吐出直後に生じる最低圧力と一斉に吐出を停止した直後に生じる最大圧力との圧力差である。
図6においてP1~P4はそれぞれ比較例1~4の圧力振幅、P5は実施例1の圧力振幅を示している。
【0038】
図6に示すように、比較例1~4の圧力振幅は、それぞれ、2.0[kPa],1.1[kPa],0.4[kPa],0.8[kPa]と大きな数値を示したのに対して、実施例1の圧力振幅は、0.03[kPa]まで低減することができた。
図6中のL1は、比較例1~4と実施例1の結果をプロットして圧力振幅とコンプライアンス(圧力に対する体積変化量)との関係を求めた対応曲線である。この対応曲線L1によれば、圧力に対する体積変化量を3.0(=3×F)[uL/kPa]とすれば、圧力振幅を0.05[kPa]程度まで低減することができることが分かる。
【0039】
図7は、
図5の場合と同様に、実施例1の記録ヘッド22により、大量吐出からの停止後すぐに段階的にノズルの数を増やして吐出を再開した場合に形成されたテストパターン画像を示している。
図5と比較すると分かるように、実施例1の記録ヘッド22では、吐出再開直後のドット径の不安定化、不吐出のノズルの発生、インクの飛散の発生が抑制され、良好な吐出が行われているのが分かる。
【0040】
[発明の実施形態の技術的効果]
以上のように、インクジェット記録装置1の記録ヘッド22は、全てのノズルの吐出による液体の最大流量F[mL/sec]に対してダンパー部材26の圧力に対する体積変化量を3×F[uL/kPa]以上としている。このため、全吐出からの停止等のように、従前であれば共通インク室25内での圧力振幅が大きくなっていた場合であっても、圧力振幅を飛躍的に低減することができる。
これにより、ノズル241の吐出面からのインクの膨出が抑制され、インクのドットを良好な状態で目標とするサイズで安定的に形成することができる。また、吐出不良を抑制し、安定的な吐出が可能となる。さらに、インクの飛散も抑制することができる。
【0041】
また、記録ヘッド22では、ダンパー部材26を除いた共通インク室25の容積を2[mL]以上5[mL]以下としているがこれにより、このように共通インク室25の小型化を図った場合であっても、上記良好な吐出を実現することが可能である。
また、ダンパー部材の容積は0.3[mL]以上とすることで、共通インク室25の容積に対して、共通インク室25の小型化に対して、ダンパー部材26の圧力に対する体積変化量を大きく確保することができ、3×F[uL/kPa]以上の条件を容易に達成することが可能となる。
【0042】
また、記録ヘッド22は、ダンパー部材26の表面の一つの面を弾性フィルム部材262で形成し、本体部261の内部に気体を封止した構造としているので、簡易な構造で圧力振幅の低減を図るためのダンパー効果を得ることが可能である。
さらに、弾性フィルム部材の厚みを30[μm]以下とすることにより、圧力に対する体積変化量を大きく確保することができ、3×F[uL/kPa]以上の条件を容易に達成することが可能となる。
特に、ダンパー部材26の体積弾性率を2[GPa]以上とすると、圧力に対する体積変化量を大きく確保することができ、3×F[uL/kPa]以上の条件をより容易に達成することが可能となる。
【0043】
また、記録ヘッド22は、複数のノズル241のノズル径が35[μm]以上50[μm]以下の範囲、さらには、40[μm]以上50[μm]以下の範囲とした場合のようにノズル径を大きくした場合でも、ノズル241の吐出面からのインクの膨出を抑制することができ、インクの良好な吐出を行うことが可能である。
また、ノズルプレート24の複数のノズル241の吐出側の周囲の表面をインクに対して親液性のある状態としているので、ノズルプレート24の複数のノズル241の吐出側の周囲において、インクが濡れ性によって広がりやすくなり、ノズル241からの膨出状態を抑制することが可能となる。
【0044】
また、記録ヘッド22では、共通インク室25にインクを供給するチューブ254の内径を6[mm]以上としているが、このような内径であれば、大量吐出時の共通インク室25内の急激な圧力低下を抑制することが可能となる。また、吐出停止時の慣性によるインクの流入時にも、上記ダンパー部材26により、圧力振幅を低減して、インクの良好な吐出を行うことが可能である。
【0045】
[その他]
なお、上記実施の形態における記述は、本発明に係る吐出ヘッドの一例であり、これに限定されるものではない。装置を構成する各部の細部構成及び細部動作に関しても本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
例えば、吐出ヘッドとしての記録ヘッド22として、せん断モード(シェアモード)型のインクジェットヘッドを例示したが、これに限らず、他の形式のインクジェットヘッドにも共通インク室25及びダンパー部材26の構成を適用することが可能である。
また、吐出対象となる液体は、インクに限らず、液滴として吐出の要請があるあらゆる液体の吐出ヘッドとして、共通インク室25(共通液室)及びダンパー部材26の構成を適用することが可能である。
【0046】
なお、上記実施例では、記録ヘッド22について、全てのノズルによる全吐出と全停止とを行った場合の振動振幅を抑制することを効果として記載したが、このような大きな圧力振幅が発生する場合に限らず、通常のインク吐出時の使用において共通インク室25内に生じる圧力変動も当然として抑制することが可能であり、通常の吐出状態にあっても、良好な吐出性能を発揮することが可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0047】
1 インクジェット記録装置
10 搬送部
20 ヘッドユニット
22 記録ヘッド(吐出ヘッド)
22M ヘッドモジュール
23 ヘッドチップ
231 チャネル(圧力室)
24 ノズルプレート
241 ノズル
25 共通インク室(共通液室)
251 インレット
252 アウトレット
253 連通孔
254,255 チューブ
26 ダンパー部材
261 本体部
262 弾性フィルム部材
M 記録媒体