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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】塗布装置及び塗布方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 11/10 20060101AFI20240611BHJP
   B05C 5/02 20060101ALI20240611BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B05C11/10
B05C5/02
B05D1/26 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020029105
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021133273
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 義則
(72)【発明者】
【氏名】圓崎 諭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 暁雄
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-148769(JP,A)
【文献】特開2015-192984(JP,A)
【文献】特開2015-091569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00- 5/04
7/00-21/00
B05D1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に長い吐出口を先端部に有する塗布器と、
前記一方向に交差する方向に前記塗布器と基材との相対移動を行わせる移動機構と、
液を溜めるタンク、前記塗布器と前記タンクとを繋ぐ流路、前記流路に設けられているバルブ、及び、前記タンクの液を減圧調整する調圧手段を有する調整経路と、
前記移動機構、前記バルブ、及び前記調圧手段を制御する制御装置と、
前記調整経路とは別に設けられ前記塗布器に液を供給可能な独立した供給経路と、
を備え、
前記制御装置は、
前記バルブが閉じた状態で前記供給経路による液の供給を行い、前記吐出口から液を吐出して前記基材の端部に液を付着させるための着液制御と、
前記タンクの液が減圧状態であり前記バルブが開状態であることにより前記塗布器内の液を減圧しつつ、前記相対移動を行って前記基材へ液を塗布するための塗布制御と、
を実行可能であり、
前記塗布制御では、前記相対移動の開始以降に、前記バルブの開動作を開始する制御を行う、塗布装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記基材の前記端部に液が付着すると、前記塗布制御として、前記相対移動を、第一の速度で行い、その後、前記第一の速度よりも高い第二の速度に変更して行い、
前記相対移動を前記第一の速度で開始してから前記第二の速度に変更するまでの間に、前記バルブの開動作を開始する、請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記塗布器内の液の圧力が安定したことを検出すると、前記第二の速度に変更する、請求項2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記着液制御として、前記相対移動が行われていない状態で前記基材の端部への液の付着を行うための制御を実行する、請求項1~3のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記基材の前記端部に対する液の付着が確認されることで生成される着液信号が得られると、前記相対移動を開始する、請求項1~4のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項6】
一方向に長い吐出口を先端部に有する塗布器と、
液を溜めるタンク、前記塗布器と前記タンクとを繋ぐ流路、前記流路に設けられているバルブ、及び、前記タンクの液を減圧調整する調圧手段を有する調整経路と、前記調整経路とは別に設けられ前記塗布器に液を供給可能な独立した供給経路と、を備え、
前記一方向に交差する方向に前記塗布器と基材とを相対移動させながら、前記吐出口から当該基材に対して液を吐出することで行われる塗布方法であって、
前記バルブが閉じた状態で前記供給経路による液の供給を行い、前記吐出口から液を吐出して前記基材の端部に液を付着させる着液工程と、
前記タンクの液を減圧状態とし前記バルブを開状態とすることにより前記塗布器内の液を減圧しつつ、前記相対移動を行って前記基材へ液を塗布する塗布工程と、
を含み、
前記塗布工程では、前記相対移動の開始以降に、前記バルブの開動作を開始する、塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に液を塗布するための塗布装置及び塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体の製造工程では、半導体ウエハに液体の機能性材料(以下、単に「液」と称する。)が塗布される。半導体ウエハに液を塗布する技術としてスピンコートが知られている。しかし、スピンコートの場合、液の利用効率が悪い。
そこで、近年、半導体ウエハ等の基材に液を塗布するための装置として、塗布器を備えた塗布装置が用いられる。その塗布器は、一方向に長いスリットを有し、スリットの開口が液の吐出口となる。塗布器と半導体ウエハとを相対的に移動させながら、吐出口から液を吐出し、半導体ウエハ上に塗膜を形成する。特許文献1に、塗布器を備えた塗布装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-148769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のような塗布器を備える塗布装置の場合、半導体ウエハにおける塗布の開始部(一端部)及び終了部(他端部)で、塗布した液の膜厚精度が低下しやすい。
ここで、半導体ウエハ上の塗布領域には、図9に示すように、チップ等の部品を形成するために高い膜厚精度が要求される有効領域A1と、その周囲(半導体ウエハの周縁部)の除外領域A2とが存在する。前記塗布装置の場合、基材Wの塗布開始の一端部Waと塗布終了の他端部Wbとで膜厚精度が低下しやすいが、このような一端部Wa及び他端部Wbが、除外領域A2の範囲内に収まるように液を塗布するのが望ましい。
【0005】
図10A図10B図10C、及び図11は、塗布器90を備える塗布装置による塗布方法を説明する図である。図10Aに示すように、基材Wの一端部Wa上に塗布器90を移動させ、一端部Waと吐出口91とを接近させた状態とする。ポンプ99が動作開始することで、塗布器90に液Lが供給され、吐出口91から液Lの吐出が開始される。この際、吐出口91の全幅Bから液Lは吐出される。なお、図10A図10B図10Cそれぞれの基材Wは、図9に示す基材Wの一端部Waを通過する断面(X1-X1矢視の断面)を含んで示されている。
【0006】
図10Bに示すように、吐出した液Lの一部が、基材Wの一端部Waに付着する。吐出口91の全幅Bから液Lは吐出されるが、基材Wは円形であることから、吐出された液Lのうち、中央の一部の液Laのみが一端部Waに付着し、吐出口91が開口する塗布器90の先端面92と基材Wの一端部Waとの間に、液LのビードLBが形成される。これに対して、中央の一部の液Laの両側にある残りの液Lbは基材Wに付着しない。このように基材Wの一端部Waに液Lを付着させる動作は、着液動作と称され、その一端部Waに液Lを付着させる工程は、着液工程と称される。
【0007】
一端部Waに液Lが付着すると、ポンプ99を停止させ、基材Wと塗布器90とを相対移動させるが、その前に、塗布器90とタンク97とを繋ぐ流路98のバルブ96を開く(図10C参照)。なお、タンク97の液Lは予め減圧されている。バルブ96を開くと、塗布器90内の液Lも減圧される。塗布器90内の液Lの圧力が所定の値(大気圧に対して僅かに負圧)で安定すると、基材Wと塗布器90との相対移動を開始する。これにより、基材Wに接した液Lにより、塗布器90内の液Lが基材W側に引き出され、基材Wに液Lが塗布される(図11の上側の図参照)。この塗布はキャピラリー塗布と称される。図11の上側の図は、基材Wと塗布器90とを塗布進行方向に沿って見た図であり、その下段の図は、平面図である。なお、図11の上側の図に示す基材Wは、図9に示す基材Wの途中部を通過する断面(X2-X2矢視の断面)を含んで示されている。
【0008】
ここで、図10Bに示すように、着液工程の際、基材Wの一端部Waの両側のエッジWeでは、液Lが表面張力によって集まりやすい。このため、塗布器90の先端部において、エッジWeの近傍に液溜まりLsが形成される。具体的に説明すると、エッジWeの近傍では液Lが集まりやすいことから、吐出口91が開口する先端面92を経て傾斜状となる塗布器90の側面93にも、液Lが付着する(図10B中の左側の側面図参照)。
そして、前記のとおり、着液工程の後、図10Cに示すように、バルブ96を開き、塗布器90内の液Lの圧力が負圧の所定値に安定するまで前記相対移動を待機するが、バルブ96が開状態にあることにより、タンク97と塗布器90との間で液Lが流れることが可能であるため、前記相対移動を開始するまでの間、基材WのエッジWeに限っては、液Lの表面張力が強く働いて液Lを引き出し、液溜まりLsを大きくさせる(成長させる)ことがある。
【0009】
液溜まりLsが大きくなった状態で、塗布器90と基材Wとの相対移動が開始されると、その液溜まりLsの液が、吐出口91から吐出される液Lと共に基材Wに塗布される。すると、図11の下側の図に示すように、基材W上に形成される液Lの塗膜において、液溜まりLsと対応する位置にスジJが生じてしまう。スジJが生じている部分は、膜厚が一定ではなく、その基材Wは欠陥品となってしまう。
そこで、本開示の発明は、基材に対して着液を行うと、その基材のエッジで液が集まりやすいが、その影響を抑えて液の塗布を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の塗布装置は、一方向に長い吐出口を先端部に有する塗布器と、前記一方向に交差する方向に前記塗布器と基材との相対移動を行わせる移動機構と、液を溜めるタンク、前記塗布器と前記タンクとを繋ぐ流路、前記流路に設けられているバルブ、及び、前記タンクの液を減圧調整する調圧手段を有する調整経路と、前記移動機構、前記バルブ、及び前記調圧手段を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記吐出口から液を吐出して前記基材の端部に液を付着させるための着液制御と、前記タンクの液が減圧状態であり前記バルブが開状態であることにより前記塗布器内の液を減圧しつつ、前記相対移動を行って前記基材へ液を塗布するための塗布制御と、を実行可能であり、前記塗布制御では、前記相対移動の開始以降に、前記バルブの開動作を開始する制御を行う。
【0011】
前記塗布装置によれば、塗布器の吐出口から液を吐出して基材の端部に液を付着させた後、その塗布器の先端部において基材の端部のエッジの近傍に液溜まりが生じていても、前記バルブの開動作の開始以前に基材と塗布器との相対移動が開始される。このため、前記相対移動が行われていない状態でタンクから塗布器に液の供給がされない。そして、吐出口と対向する基材のエッジの位置は、前記相対移動に伴って塗布器の長手方向と平行な方向に徐々に移動することから、前記相対移動が開始されると、前記エッジに起因して生じる前記液溜まりは、その長手方向に引っ張られて拡散され、前記液溜まりは大きくならない。この結果、液の付着の際に塗布器の先端部に生じる液溜まりの影響を抑えて液の塗布が可能となる。
【0012】
また、好ましくは、前記制御装置は、前記基材の前記端部に液が付着すると、前記塗布制御として、前記相対移動を、第一の速度で行い、その後、前記第一の速度よりも高い第二の速度に変更して行い、前記相対移動を前記第一の速度で開始してから前記第二の速度に変更するまでの間に、前記バルブの開動作を開始する。
この場合、低速である第一の速度で相対移動が行われる間に、前記のような液溜まりの拡散を開始させることができる。このため、基材の縁部に対して液を塗布している間に、液溜まりの拡散を進めることが可能となる。そして、拡散が進むと、高速である第二の速度で塗布が継続され、液溜まりの影響を抑えつつ、塗布の作業効率が向上する。
【0013】
また、好ましくは、前記制御装置は、前記塗布器内の液の圧力が安定したことを検出すると、前記第二の速度に変更する。
前記構成によれば、前記バルブを開き、塗布器内の液の圧力を負圧とし、その圧力が安定すると、前記相対移動の速度を、高速である第二の速度に迅速に変更することが可能となり、塗布作業の効率を高め、しかも、塗布器内の液の圧力が安定していることで、膜厚精度の高い塗布が可能となる。
【0014】
また、好ましくは、前記制御装置は、前記着液制御として、前記相対移動が行われていない状態で前記基材の端部への液の付着を行うための制御を実行する。
前記構成によれば、着液が正確に行われる。
【0015】
また、好ましくは、前記制御装置は、前記基材の前記端部に対する液の付着が確認されることで生成される着液信号が得られると、前記相対移動を開始する。
前記構成により、着液後、迅速かつ確実に基材に対して液を塗布することが可能となる。
【0016】
また、好ましくは、前記塗布装置は、前記調整経路とは別に設けられ当該塗布器に液を供給可能な独立した供給経路を更に備え、前記制御装置は、前記着液制御として、前記バルブが閉じた状態で前記供給経路による液の供給を行わせる。
この場合、着液制御として、前記バルブが閉じた状態で、前記供給経路による液の供給を行わせることで、塗布器の吐出口から液を吐出して基材の端部に液を付着させることができる。着液制御は、前記調整経路と別である前記供給経路により行われ、着液後、前記相対移動の開始以降に、前記バルブの開動作を開始する制御が容易となる。
【0017】
本開示の塗布方法は、一方向に長い吐出口を先端部に有する塗布器と、液を溜めるタンク、前記塗布器と前記タンクとを繋ぐ流路、前記流路に設けられているバルブ、及び、前記タンクの液を減圧調整する調圧手段を有する調整経路と、を備え、前記一方向に交差する方向に前記塗布器と基材とを相対移動させながら、前記吐出口から当該基材に対して液を吐出することで行われる塗布方法であって、前記吐出口から液を吐出して前記基材の端部に液を付着させる着液工程と、前記タンクの液を減圧状態とし前記バルブを開状態とすることにより前記塗布器内の液を減圧しつつ、前記相対移動を行って前記基材へ液を塗布する塗布工程と、を含み、前記塗布工程では、前記相対移動の開始以降に、前記バルブの開動作を開始する。
前記塗布方法は、前記塗布装置によって実行可能である。このため、液の付着の際に塗布器の先端部に生じる液溜まりの影響を抑えて液の塗布が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
基材の端部に対して着液を行うと、その基材の端部のエッジで液が集まりやすいが、その影響を抑えて液の塗布が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】塗布装置の一例を示す概略構成図である。
図2】塗布器及び基材の斜視図である。
図3A】塗布方法の説明図である。
図3B】塗布方法の説明図である。
図3C】塗布方法の説明図である。
図4A】塗布方法の説明図である。
図4B】塗布方法の説明図である。
図5】基材及び塗布器の説明図である。
図6】基材及び塗布器の説明図である。
図7】塗布方法を説明するフロー図である。
図8】塗布方法を説明するフロー図である。
図9】基材の説明図である。
図10A】従来の塗布方法の説明図である。
図10B】従来の塗布方法の説明図である。
図10C】従来の塗布方法の説明図である。
図11】従来の塗布方法の課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔塗布装置の構成〕
図1は、塗布装置の一例を示す概略構成図である。図1に示す塗布装置10は、基材Wに液Lを塗布するための装置である。塗布装置10は、後にも説明するが、一方向に長い吐出口23を有する塗布器11を備え、その塗布器11と基材Wとを相対移動させながら、吐出口23から液Lを吐出させる。これにより、基材Wの一面である被塗布面に液Lが塗布される。このような塗布を行うために、塗布装置10は、塗布器11、移動機構12、調整経路13、及び制御装置14を備える。本開示の塗布装置10は、更に、供給経路15、ステージ16、及び支持部17を備える。
【0021】
図2は、塗布器11及び基材Wの斜視図である。塗布器11は、スリットダイとも呼ばれ、一方向に長い部材である。前記一方向、つまり、塗布器11の長手方向を「第1方向」と定義する。図1及び図等2において「第1方向」を矢印Xで示している。塗布器11は、塗布装置10が備える支持部17(図1参照)に搭載されている。
【0022】
塗布器11内に、液が溜められる液溜め空間21と、スリット22とが形成されている。液溜め空間21及びスリット22は、第1方向に沿って長く直線状に形成されている。スリット22の一方側(図1では上側)は、液溜め空間21に開口し、液溜め空間21と繋がっている。スリット22の他方側(図1では下側)は、塗布器11の先端面24で開口している。スリット22の開口が、液Lを吐出する吐出口23である。吐出口23の第1方向の寸法は、基材Wの直径(第1方向の幅寸法)よりも大きい(図2参照)。塗布器11に供給され液溜め空間21に一旦溜められた液Lが、スリット22を通じて吐出口23から外部空間へ吐出される。塗布器11の先端面24は、基材Wに対向しており、吐出口23から吐出された液Lが基材Wに塗布される。
【0023】
移動機構12は、塗布器11と基材Wとを相対移動させる。本開示では、静止状態にある塗布器11に対して、基材Wを保持するステージ16を移動させる。移動する基材Wに対して相対的な塗布器11の移動方向が「塗布進行方向」となり、塗布進行方向は、第1方向に直交する方向となる。塗布進行方向を「第2方向」と定義し、図1及び図2等において「第2方向」を矢印Yで示している。
【0024】
第1方向及び第2方向の双方に直交する方向であり、液溜め空間21からスリット22の開口(吐出口23)に向かう方向を「第3方向」と定義する。図1及び図2等において「第3方向」を矢印Zで示している。本開示の発明では、第1方向及び第2方向は、水平面に沿った方向となり、第3方向は、鉛直線に沿って上から下に向かう方向となる。
【0025】
本開示の基材Wは、図2に示すように、一般的な半導体ウエハのような円形の板である。なお、基材Wは、円形以外であってもよく、基材Wの輪郭形状は、その基材Wのうちの第2方向の前半領域では、第2方向に向かうにしたがって第1方向の寸法(基材幅)が徐々に大きくなる形状である。また、基材Wの輪郭形状は、残りである第2方向の後半領域では、つまり、第2方向の途中から、第2方向に向かうにしたがって第1方向の寸法(基材幅)が小さくなる形状である。
【0026】
図1において、ステージ16は、基材Wを例えばエアの吸引によって保持する。基材Wに液Lを塗布する際、その基材Wの上方に塗布器11が位置する。本開示の移動機構12は、静止状態にある塗布器11に対して、ステージ16を移動させる構成を備える。具体的に説明すると、ステージ16は第2方向及びその反対方向に沿って前後移動可能となって設けられていて、移動機構12は、ステージ16を移動させるアクチュエータ26を有する。アクチュエータ26は、例えばリニアアクチュエータである。基材Wの被塗布面が水平状態となって基材Wが移動する。なお、本開示の構成とは反対に、ステージ16が静止状態であって塗布器11を搭載する支持部17が移動してもよい。つまり、移動機構12は、塗布器11の長手方向に交差する方向に、基材Wと塗布器11とを相対的に移動させる構成であればよい。移動機構12による前記相対的な移動の開始、移動の停止、移動の速度変更は制御装置14によって制御される。
【0027】
以上より、塗布器11に対して基材Wが移動しながら、その塗布器11の吐出口23から液Lが吐出されて、後にも説明するがキャピラリー塗布が行われる。塗布器11の吐出口23と、基材Wとの間隔(隙間)を調整するために、塗布器11は、被塗布面に直交する方向(第3方向及びその反対方向)に移動可能となって支持部17に搭載されている。
【0028】
図1において、調整経路13は、液Lを溜めるタンク31、塗布器11とタンク31とを繋ぐ流路を構成する配管32、配管32に設けられているバルブ33、及び、タンク31の液Lを減圧すると共にその液Lの圧力を調整する調圧手段34を有する。バルブ33は開閉動作するバルブであり、開状態にあると、配管32を通じて塗布器11とタンク31との間を液Lが流れることが可能である。バルブ33が閉状態にあると、配管32を通じて塗布器11とタンク31との間を液Lが流れることが不可能となる。バルブ33は、開閉動作のためにその弁体を動作させる駆動部を有する。その駆動部は、制御装置14が行う制御に基づいて動作する。制御装置14は、例えば、バルブ33を開動作させる信号(開動作信号)を生成する。
【0029】
調圧手段34は、吸引ポンプ(真空ポンプ)35と、レギュレータ36を有する。吸引ポンプ35は、タンク31内を減圧することでタンク31に溜められている液Lを減圧することができ、レギュレータ36は、タンク31の液Lの圧力を調整することができる。この調圧手段34により、タンク31の液Lが大気圧に対して負圧となる。その状態で、バルブ33が開状態になると、塗布器11内の液Lも大気圧に対して負圧となる。
塗布器11に圧力センサ39が設けられていて、圧力センサ39は塗布器11内の液Lの圧力を検出する。制御装置14は圧力センサ39の測定値を取得し、その測定値に基づいてレギュレータ36を制御する。圧力センサ39により、塗布器11内の液Lの圧力が所定の値(負圧)に保たれるように、タンク31に溜めている液Lの圧力が調圧手段34によって調整される。調圧手段34は、塗布器11内の液Lの圧力を大気圧に対して負圧に調整することが可能であり、これにより、塗布器11によるキャピラリー塗布が可能となる。キャピラリー塗布については後に説明する。調圧手段34の動作の他、バルブ33の開閉動作は制御装置14によって制御される。
【0030】
供給経路15は、塗布器11と第二の流路(配管37)を通じて繋がる供給ポンプ38を有する。供給ポンプ38は単位時間当たり一定量の液Lを塗布器11に供給することができ定量ポンプである。供給ポンプ38が動作開始して、液Lを塗布器11に供給することで、塗布器11の吐出口23から液Lが吐出され始め、その液Lを基材Wの一端部Waに付着させることができる。また、基材Wへ液Lが塗布されることで塗布器11の液Lは消費されることから、供給ポンプ38によって液Lを塗布器11に補充することができる。このように、供給経路15は、塗布器11と繋がり塗布器11に液Lを供給可能である。なお、基材Wへ液Lが塗布される際、塗布器11への液Lの補充は、調整経路13が行ってもよい。つまり、タンク31の液Lが塗布器11に補充されてもよい。
【0031】
制御装置14は、コントロールユニットと呼ばれるものであり、コンピュータを含む。そのコンピュータに記憶されているプログラムが、コンピュータの処理装置(CPU)によって実行されることで、塗布装置10が備える各部の動作及びその動作タイミングが制御され、基材Wに対する液の塗布が行われる。制御装置14は、移動機構12、つまり、アクチュエータ26の動作を制御することで、塗布器11に対する基材W(ステージ16)の移動の制御を行う機能を有する。また、制御装置14は、供給ポンプ38、バルブ33及び調圧手段34の動作の制御を行う機能を有する。
【0032】
後にも説明するが、塗布装置10が基材Wに液Lを塗布するために、塗布器11から吐出させた液Lを基材Wの一端部Waに付着させる。このように一端部Waに液Lを付着させる動作は、着液動作と称され、一端部Waに液Lを付着させる工程は、着液工程と称される。
本開示の塗布装置10は、一端部Waに液Lが付着完了したことを検出する着液検出手段18を更に備える。着液検出手段18は、例えば、カメラ40、前記圧力センサ39、及び、前記供給ポンプ38からの液Lの供給量を求める計測器41のうち、少なくとも1つを含んで構成される。一端部Waに液Lが付着完了したことが検出されると、着液検出手段18は、着液信号を生成する。着液信号は、一端部Waに対する液Lの付着が確認されることで生成される信号である。制御装置14は、その着液信号を取得し、次の動作に進める。
【0033】
カメラ40は、基材Wの一端部Waと、その一端部Waに接近した状態にある塗布器11の先端面24との間を撮影し、画像解析処理によって、液Lが一端部Waに付着したことを検出する。画像解析処理は制御装置14が行ってもよい。
圧力センサ39は、塗布器11内の液Lの圧力を刻々と検出する。液Lが一端部Waに付着すると、塗布器11内の液Lの圧力が僅かではあるが変化する。その変化が圧力センサ39によって検出される。つまり、着液工程において、塗布器11内の液Lの圧力を圧力センサ39が検出し、その圧力が所定の閾値を超えて変化すると、一端部Waに液Lが付着完了したと検出することができる。
着液工程(着液動作)では、供給ポンプ38が液Lを塗布器11に供給する。供給ポンプ38から塗布器11を経て基材Wの一端部Waまでの経路は既知であり、また、その経路の長さに変化はないことから、一端部Waに液Lが付着するために要する供給ポンプ38による液Lの供給総量を予め調べることができる。そこで、供給ポンプ38が供給する液Lの量を計測器41が求め(積算し)、供給ポンプ38による液Lの供給量が予め設定されている値に達すると、一端部Waに液Lが付着完了したと検出(推定)することができる。
【0034】
〔塗布方法〕
以上の構成を備える塗布装置10が行う塗布方法について図3Aから図6により説明する。図7及び図8は、塗布方法を説明するフロー図であり、以下に説明する「ステップS1~S5」は図7に示すステップであり、「ステップS11~S18」は図8に示すステップである。
基材Wを載せたステージ16を移動機構12により移動させ(ステップS1)、基材Wの一端部Waの上方に塗布器11の吐出口23が位置すると、ステージ16を停止させる(ステップS2)。基材Wが静止した状態、及び、その一端部Waと吐出口23とが接近した状態で、供給ポンプ38が動作を開始する(ステップS3)。液Lが塗布器11に供給され、吐出口23から液Lの吐出が開始される(図3A参照)。この際、吐出口23の全幅Bから液Lは吐出される。図3A図3B図3Cそれぞれの基材Wは、図2に示す基材Wの一端部Waを通過する断面(X1-X1矢視の断面)を含んで示されている。
【0035】
図3Bに示すように、吐出した液Lの一部が、基材Wの一端部Waに付着する。吐出口23の全幅Bから液Lは吐出されるが、基材Wは円形であることから、吐出された液Lのうち、中央の一部の液Laのみが一端部Waに付着し、吐出口23が開口する塗布器11の先端面24と一端部Waとの間に、液LのビードLBが形成される。これに対して、中央の一部の液Laの両側にある残りの液Lbは基材Wに付着しない。
【0036】
液Lが一端部Waに付着すると(図3B参照)、前記着液検出手段18(図1参照)によって、一端部Waへの液Lの付着完了が検出される(ステップS4)。制御装置14は、着液検出手段18が生成する前記着液信号を取得し、指令信号を出力して、供給ポンプ38を停止させ、液Lの供給を終了する(図3C参照、ステップS5)。
【0037】
供給ポンプ38による液Lの供給の開始及び終了は、制御装置14による指令信号に基づいて行われる。つまり、制御装置14は、着液制御として、塗布器11の吐出口23から液Lを吐出して基材Wの一端部Waにその液Lを付着させるための制御を行う。図3A及び図3Bに示すように、制御装置14は、着液制御として、バルブ33が閉じた状態で、供給ポンプ38を有する供給経路15による液Lの供給を行う。
更に、本開示では、制御装置14は、着液制御として、基材Wと塗布器11との相対移動が行われていない状態で一端部Waへの液Lの付着を行うための制御を実行する。これにより、一端部Waへの液Lの着液が正確に行われる。以上が着液工程である。
【0038】
ここで図3Bに示すように、着液工程の際、基材Wの一端部Waの両側のエッジWeでは、液Lが表面張力によって集まりやすい。このため、塗布器11の先端部において、エッジWeの近傍に液溜まりLsが形成される。具体的に説明すると、エッジWeの近傍では液Lが集まりやすいことから、吐出口23が開口する先端面24を経て傾斜状となる塗布器11の側面25にも、液Lが付着する(図3B中の左側の側面図参照)。このように、塗布器11の先端部において、エッジWeに対応する位置に、液溜まりLsが形成される。液溜まりLsは基材WのエッジWeに起因して生じる。
図3Cに示すように、着液動作が完了すると供給ポンプ38は停止していて、また、バルブ33は閉状態にある。このため、塗布器11に対して液Lは供給されず、液溜まりLsは、生じていたとしても大きくなることなくそのまま維持される。
【0039】
図3Cに示すように、着液工程の間(図7)及びその後の塗布工程が開始される際、バルブ33は閉状態にある(図8のステップS11)。また、調圧手段34によりタンク31の液Lの圧力は大気圧に対して負圧である所定の値に減圧されている(ステップS12)。
【0040】
前記のとおり、着液が完了すると、前記着液検出手段18によって着液信号が出力される。制御装置14は、着液信号が得られると(ステップS13)、移動機構12に動作信号を出力し、基材Wと塗布器11との相対移動を開始する(ステップS14)。図4Aに示すように、バルブ33が閉状態のままで、移動機構12によって基材Wと塗布器11との相対移動が開始される。相対移動の開始を、塗布工程の開始とする。この相対移動の速度は、第一の速度V1であり、後に説明する第二の速度V2よりも低速である(V1<V2)。第一の速度V1による相対移動は、微動であり、第一の速度V1は極低速である。
なお、本開示では、供給ポンプ38が完全に停止してから、前記相対移動を開始しているが、前記着液信号を取得していれば、供給ポンプ38が停止する前に、前記相対移動を開始してもよい。
【0041】
ここで、図5及び図6は、基材W及び塗布器11の説明図である。
図5中の(A)は、平面図であり、塗布器11の吐出口23と基材Wの中心Cとが第二方向に距離y1について離れた状態を示し、図5中の(B)は、図5の(A)に示す基材W及び塗布器11を第二方向に沿って見た図である。図5中の(A)(B)は着液動作が完了した直後を示す。図6中の(A)は、平面図であり、塗布器11の吐出口23と基材Wの中心Cとが第二方向に距離y2(y1>y2)について離れた状態を示し、図6中の(B)は、図6の(A)に示す基材W及び塗布器11を第二方向に沿って見た図である。図6中の(A)(B)は、図5中の(A)(B)に示す状態から、第一の速度V1により前記相対移動が少し行われた状態を示す。
【0042】
図5中の(A)(B)に示す状態と図6中の(A)(B)に示す状態とを見比べると明らかなように、基材Wと塗布器11とが相対移動すると、吐出口23と対向する基材WのエッジWeの位置は、第2方向に徐々に移動する。なお、吐出口23と対向する一方のエッジWeから他方のエッジWeまでが、液Lが基材Wに付着している範囲の幅である。図5に示すように、着液動作が完了した直後では、エッジWeは、前記幅が狭い「K1」となる位置にあるが、図6に示すように、相対移動が進むと、エッジWeは、前記幅が広い「K2」となる位置にある。基材Wは円形であることから、前記のとおり、相対移動が行われると、吐出口23と対向する基材WのエッジWeの位置は、第2方向に徐々に移動する。
すると、前記のとおり液溜まりLsはエッジWeに起因して生じることから、図3Cから図4Aに示すように、相対移動に伴って、液溜まりLsは塗布器11の長手方向(第1方向)に、移動するエッジWeに引っ張られて拡散される。そして、やがて液溜まりLsを消滅させることも可能である。
【0043】
塗布方法の塗布工程(図8参照)の説明に戻る。
前記のとおり、着液後、第一の速度V1で相対移動が開始(ステップS14)されると、バルブ33が開状態となり(ステップS15)、その相対移動の間、バルブ33の開状態が継続される(図4B参照)。バルブ33の開動作開始の前、つまり、バルブ33は閉状態で(ステップS11)タンク31の液Lは予め減圧調整されている(ステップS12)。このため、相対移動の開始後、バルブ33が開動作を開始すると、塗布器11内の液Lが減圧され、所定の圧力(負圧)で安定する。
このように、制御装置14は、着液後、基材Wと塗布器11との第一の速度V1での相対移動の開始以降に、バルブ33の開動作を開始する制御を行う(ステップS15)。バルブ33の開動作の開始は、前記相対移動の開始と同時であってもよいが、本開示では、前記相対移動が開始された後、少し遅れて行われる。
【0044】
前記相対移動が第一の速度V1で開始されると、やがて、第二の速度V2に変更される。その変更のタイミング及び変更の制御について説明する。
前記のとおり、塗布器11内の液Lの圧力は圧力センサ39によって検出され(ステップS16)、その検出結果を制御装置14は取得する。制御装置14は、圧力センサ39の検出結果が継続して上の閾値と下の閾値との間に収まることを条件として、塗布器11内の液Lの圧力が安定したことを検出することができる(ステップS17)。制御装置14は、塗布器11内の液Lの圧力が安定したことを検出すると、基材Wと塗布器11との相対移動の速度を、第一の速度V1よりも高速である第二の速度V2に変更する(ステップS18)。このように、塗布器11内の液Lの圧力が安定している状態で、第二の速度V2に変更して塗布を継続することで、膜厚精度の高い塗布が可能となる。
【0045】
以上のように、基材Wの一端部Waに液が付着すると、制御装置14は、前記相対移動を、第一の速度V1で行い(ステップS14)、その後、第一の速度V1よりも高い第二の速度V2に変更して行う(ステップS18)。そして、本開示では、前記相対移動を第一の速度V1で開始してから第二の速度V2に変更するまでの間に、バルブ33の開動作が開始される(ステップS15)。
相対移動を第二の速度V2で一定としたまま、相対移動を継続し、基材Wの他端部Wbまで液Lを塗布する(塗布工程の終了)。
【0046】
ここで、基材W上の被塗布面の領域について説明する。図5及び図6に示すように、基材W上の被塗布面には、高い膜厚精度が要求される有効領域A1と、その周囲(基材Wの周縁部)の除外領域A2とが存在する。有効領域A1と除外領域A2との境界を仮想線(二点鎖線)で示している。除外領域A2の幅寸法Qは、例えば、2ミリメートル以上10ミリメートル以下である。
本開示では、第一の速度V1から第二の速度V2への変更は、塗布器11の吐出口23の一部が除外領域A2に対向している間に行われる。つまり、図6に示す状態で、相対移動の速度が第二の速度V2に変更される。より具体的に説明すると、除外領域A2で着液動作が行われると、基材Wと塗布器11との相対移動が開始され、その相対移動の開始初期、その速度を低速(第一の速度V1)とし、その低速で相対移動を行う間にバルブ33の開動作を開始し、塗布器11内の液Lの圧力を安定させ、その圧力が安定したことを検出すると、吐出口23が除外領域A2の直上を通過している間に、高速である第二の速度V2に変更する。
【0047】
このように制御装置14が移動速度を制御することで、前記のとおり液溜まりLsは相対移動によって拡散するが、拡散する液溜まりLsが塗膜精度に及ぼす影響を、除外領域A2に収めることが可能となる。これを実現するために、第一の速度V1を極低速とすればよい。
この速度制御により、塗布器11の吐出口23が除外領域A2の直上を通過する間に、液溜まりLsを拡散させることができ、その間に液溜まりLsが解消される。その結果、液溜まりLsが有効領域A1における膜厚精度に影響を与えにくくすることが可能となる。
【0048】
〔キャピラリー塗布について〕
基材Wと塗布器11との相対移動によって、その基材Wの一端部Waから他端部Wbまでの間で液Lの塗布が行われる。本開示の塗布装置10が行う液Lの塗布はキャピラリー塗布である。
キャピラリー塗布を行うために、その塗布開始の前、調圧手段34によって、タンク31の液Lの圧力が大気圧よりも低い圧力となるように調整されている。前記のとおり、着液工程が行われ、基材Wの一端部Waと塗布器11の先端面24との間に液LのビードLBが形成される。その後、基材Wと塗布器11との相対移動が開始されると、バルブ33が開状態となり、塗布器11内の液Lの圧力が負圧となる。
【0049】
前記相対移動に伴って液LのビードLBを継続して形成するため、液Lが基材Wと塗布器11の先端面24との間の隙間に満たされるように、塗布器11から液Lが引き出され、その液Lが基材Wに対して連続的に塗布される。これにより、基材Wに液が塗布され続ける。このようなキャピラリー塗布では、吐出口23からは、直下に基材Wが存在している領域に対してのみ液が吐出され、直下に基材Wが存在していない領域に対しては液が吐出されない。
【0050】
以上のように、キャピラリー塗布では、塗布器11から吐出させた液Lを基材Wに付着させ、その状態で塗布器11と基材Wとを相対移動させる。すると、基材Wに付着した液Lにより塗布器11から液Lを更に引き出す力が生じ、引き出された液Lが基材Wに塗布される。つまり、基材Wに液Lが接触した状態で、基材Wと塗布器11とが相対移動すると、塗布器11から液Lを引き出す力が生じ、これにより、基材Wへの液Lの塗布が行われる。このような液Lを引き出す力は、基材Wの移動により生じる液のせん断力(粘性力)によって生じる。
【0051】
〔本開示の塗布装置10及びその塗布装置10が行う塗布方法〕
本開示の塗布装置10は、塗布器11と、塗布器11と基材Wとの相対移動を行わせる移動機構12と、調整経路13と、制御装置14とを備える。調整経路13は、液Lを溜めるタンク31、塗布器11とタンク31を繋ぐ配管32に設けられているバルブ33、及び、タンク31の液Lを減圧しその圧力を調整(減圧調整)する調圧手段34を有する。制御装置14は、移動機構12、バルブ33、及び調圧手段34を制御する。制御装置14は、着液制御と、塗布制御とを実行可能である。着液制御は着液工程で実行され、塗布制御は塗布工程で実行される。
【0052】
この塗布装置10が行う塗布方法は、基材Wと塗布器11とを相対移動させながら、塗布器11の吐出口23から基材Wに対して液Lを吐出することで行われる塗布方法であり、着液工程と、塗布工程とを含む(図7参照)。
前記着液工程では、吐出口23から液Lを吐出して基材Wの一端部Waに液Lを付着させる。着液すると塗布器11に対する液Lの供給が停止される。
前記塗布工程では、タンク31の液Lを減圧状態としバルブ33を開状態とすることにより塗布器11内の液Lを減圧しつつ、前記相対移動を行って基材Wへ液Lを塗布する。そして、その塗布工程では、前記相対移動の開始以降に、バルブ33の開動作を開始する(図8のステップS14、S15)。
【0053】
この塗布装置10及び塗布方法によれば、着液動作の後、塗布器11の先端部において基材Wの一端部WaのエッジWe(図3B参照)の近傍に液溜まりLsが生じていても、バルブ33の開動作の開始以前に基材Wと塗布器11との相対移動が開始される。このため、前記相対移動が行われていない状態でタンク31から塗布器11に液Lの供給がされない。そして、吐出口23と対向する基材WのエッジWeの位置は、図5及び図6により説明したように、前記相対移動に伴って塗布器11の長手方向と平行な方向に徐々に移動することから、前記相対移動が開始されると、エッジWeに起因して生じる液溜まりLsは、その長手方向に引っ張られて拡散され、液溜まりLsは大きくならない。この結果、液Lの付着の際に塗布器11の先端部に生じる液溜まりLsの影響を抑えて液の塗布が可能となる。
【0054】
本開示の塗布装置10では、前記相対移動の方向は、その開始からその終了まで一方向である。このため、前記相対移動が開始されると、吐出口23が対向する位置における基材Wの幅が徐々に広がり、これにより、液溜まりLsの液が基材Wへの塗布のために迅速に消費される。よって、前記相対移動の開始直後に液溜まりLsが拡散される(解消される)。
本開示では、塗布装置10は、調整経路13とは別に設けられ塗布器11に液Lを供給可能な独立した供給経路15を更に備える。前記着液工程では、バルブ33が閉じた状態で供給経路15による液Lの供給を行うことで、基材Wの一端部Waに液Lを付着させる。
【0055】
なお、着液工程(着液制御)は、供給経路15からの液Lの供給によって行われるのではなく、調整経路13からの液Lの供給によって行われてもよい。この場合、着液工程では、着液制御として、タンク31の液Lの圧力を大気圧とし、調整経路13に含まれるバルブ33を一旦開状態とし、着液が行われると、そのバルブ33は閉じられる制御が行われる。そして、塗布工程では、塗布制御として、前記相対移動の開始以降に、閉状態であったバルブ33の開動作を開始する制御が行われる。また、着液工程が調整経路13によって行われる場合、供給経路15が省略可能である。
【0056】
本開示では、制御装置14は、前記相対移動を、低速である第一の速度V1で行い、その後、高速である第二の速度V2に変更して行う。そして、図8のステップS14~S18に示すように、前記相対移動を第一の速度V1で開始してから第二の速度V2に変更するまでの間に、バルブ33の開動作を開始する。
このため、低速である第一の速度V1で相対移動が行われる間に、液溜まりLsの拡散を開始させることができる。よって、基材Wの縁部である除外領域A2(図5図6参照)に対して液Lを塗布している間に、液溜まりLsの拡散を進めることが可能となる。つまり、基材Wの周囲の除外領域A2で液溜まりLsを拡散させ、その内側の有効領域A1に対して液Lを塗布する段階では、液溜まりLsが解消されているようにすることが可能となる。そして、拡散が進むと(拡散が進み液溜まりLsが解消されると)、高速である第二の速度V2で塗布が継続され、液溜まりLsの影響を抑えつつ、塗布の作業効率が向上する。
【0057】
〔その他〕
本開示では、基材Wの一端部Waに液Lを付着させた後、前記相対移動の方向は、その開始からその終了まで一方向である。その変形例として、前記相対移動の方向を、前記液溜まりLsを解消させる段階で、途中変更してもよい。つまり、まず、塗布器11と基材Wとの相対的な位置が、図6に示す状態となるようにして、その状態で着液動作を行う。その後、基材Wを第2方向の反対方向(図6では上向きの方向)に移動させ、塗布器11と基材Wとの相対的な位置が、図5に示す状態となると、相対移動の方向を反転させる。つまり、基材Wを第2方向(図6では下向きの方向)に移動させる。この場合であっても、基材Wと塗布器11との相対移動により液溜まりLsを拡散させることが可能である。
前記実施形態では、前記相対移動の速度を第一の速度V1から、より高速である第二の速度V2に変更する場合について説明したが、第一の速度V1と第二の速度V2とは同じ(V1=V2)であってもよい。つまり、見かけ上、前記相対移動の速度を変化させないように制御してもよい。
【0058】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲に記載された構成と均等の範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0059】
10:塗布装置 11:塗布器 12:移動機構
13:調整経路 14:制御装置 15:供給経路
23:吐出口 31:タンク 32:配管(流路)
33:バルブ 34:調圧手段 W:基材
Wa:一端部(端部) L:液
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11