(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】情報処理装置、及び情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/47 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
G01N21/47 Z
(21)【出願番号】P 2020036289
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】栗原 英三
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良輔
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 健二
(72)【発明者】
【氏名】大塚 泰弘
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-232788(JP,A)
【文献】特開2006-240009(JP,A)
【文献】特開2018-044929(JP,A)
【文献】特開2011-257242(JP,A)
【文献】特開2003-232712(JP,A)
【文献】特開2016-034718(JP,A)
【文献】特開2016-027953(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0031026(US,A1)
【文献】特開2009-300174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/17-21/61
G01N 13/00-13/04
G01N 27/00-27/24
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサを備え、
前記プロセッサは、
媒体の表面の形状的特性を示す第1の特性値を取得し
、
前記第1の特性値として、前記媒体の表面に入射する光のうち、前記表面で反射しかつ拡散する光の量を示す拡散光量画像から得られる輝度統計値を用いて、前記媒体への液滴の接触角を算出し、
前記輝度統計値は、前記拡散光量画像を構成する単位面積内の複数の画素の輝度に基づいて、前記媒体の表面における平滑度合いを表す最頻値の輝度として算出される、
情報処理装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、
前記媒体の表面の物理的特性を示す第2の特性値を取得し、
前記接触角の算出を、前記第1の特性値、及び、前記第2の特性値のうち、少なくとも一方に基づき行う、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記第2の特性値として、
前記媒体の表面上の電気抵抗値を用いる、
請求項
2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記第2の特性値として、
前記媒体の表面が照射を受けた赤外線の量のうち吸収した赤外線の量を用いる、
請求項
2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
コンピュータに、
媒体の表面の形状的特性を示す第1の特性値を取得し、
前記第1の特性値として、前記媒体の表面に入射する光のうち、前記表面で反射しかつ拡散する光の量を示す拡散光量画像から得られる輝度統計値を用いて、前記媒体への液滴の接触角を算出し、
前記輝度統計値は、前記拡散光量画像を構成する単位面積内の複数の画素の輝度に基づいて、前記媒体の表面における平滑度合いを表す最頻値の輝度として算出される、
処理を実行させるための情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、及び情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、接触角測定方法を開示する。特許文献1の接触角測定方法では、液滴をサンプル上に滴下した際の接触角の値を画像処理により測定する際、経時的な接触角θを測定し、得られた値から滴下後経過時間tを横軸に、接触角θを縦軸とする座標における近似直線を作成し、近似直線の切片をサンプルの表面エネルギーを評価できる接触角の値θsとして算出する手段を設ける。
【0003】
特許文献2は、接触角・表面形状複合測定装置を開示する。特許文献2の接触角・表面形状複合測定装置は、液滴滴下手段と、形状計測手段と、位置制御手段と、コンピュータとを具備する。液滴滴下手段は、試料表面の所望の位置に液滴を滴下する。形状計測手段は、非接触式の光学的方法により試料表面の三次元形状及び液滴形状を計測する。位置制御手段は、試料に対して液滴滴下手段と形状計測手段の位置を相対的に変位させる。コンピュータは、液滴滴下手段と形状計測手段と位置制御手段の動作制御、位置情報と画像情報の取り込み、液滴の形状から接触角の算出を行う。
【0004】
特許文献3は、試料上の液滴の接触角測定方法を開示する。特許文献3の接触角測定方法では、まず、前記試料上の液滴の接触角を光学的に計測することが可能な領域を参照とする領域とし、走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーを用いて、前記試料上の参照とする領域において該カンチレバーの探針先端と試料との間に働くフォースカーブから付着力を計測する。次に、光学顕微鏡を用いて、前記参照とする領域に滴下した液滴を側面から観察して参照とする領域の接触角を計測する。前記参照とする領域の付着力と、前記参照とする領域の接触角と、ヤングの式を基にして、予め付着力と接触角との関係式を求めておく。次に、前記試料上の接触角を測定すべき領域において該カンチレバーの探針先端と試料との間に働くフォースカーブから付着力を計測する。最後に、前記測定すべき領域の付着力の値を前記関係式に挿入して前記測定すべき領域の接触角を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-108007号公報
【文献】特開2003-232712号公報
【文献】特開2010-54312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
印刷用等の媒体への液体の接触角を計測する場合、実際に、印刷用等の媒体に液滴を滴下し、その結果の分析を、レーザ光照射装置、レーザ光源、及びプローブ(導電性、摩擦センサ、ガスセンサ等)を用いて行う方法が知られている。
【0007】
しかし、上記したレーザ光照射装置等は、大型であり、また、高価であることから、上記した接触角を簡易に計測することが困難であった。
【0008】
本発明の目的は、実際に液滴を滴下し、かつレーザ光照射装置等を用いる場合に比較して、印刷用等の媒体に対する液滴の接触角を、簡易に算出することができる情報処理装置、及び情報処理プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決すべく、第1態様に係る情報処理装置は、プロセッサを備え、前記プロセッサは、媒体の表面の形状的特性を示す第1の特性値を取得し、前記第1の特性値に基づき、媒体に対する液滴の接触角を算出する。
【0010】
第2態様に係る情報処理装置は、第1態様に係る情報処理装置において、前記プロセッサは、前記第1の特性値として、前記媒体の表面に入射する光のうち、前記表面で反射しかつ拡散する光の量を示す拡散光量画像から得られる輝度統計値を用いて、前記媒体への液滴の接触角を算出する。
【0011】
第3態様に係る情報処理装置は、第2態様に係る情報処理装置において、前記プロセッサは、前記拡散光量画像を構成する単位面積内の複数の画素の輝度に基づいて、前記媒体の表面における平滑度合いを表す最頻値の輝度を前記輝度統計値として算出する。
【0012】
第4態様に係る情報処理装置は、第1態様に係る情報処理装置において、前記プロセッサは、前記媒体の表面の物理的特性を示す第2の特性値を取得し、前記接触角の算出を、前記第1の特性値、及び、前記第2の特性値のうち、少なくとも一方に基づき行う。
【0013】
第5態様に係る情報処理装置は、第4態様に係る情報処理装置において、前記プロセッサは、前記第2の特性値として、前記媒体の表面上の電気抵抗値を用いる。
【0014】
第6態様に係る情報処理装置は、第4態様に係る情報処理装置において、前記プロセッサは、前記第2の特性値として、前記媒体の表面が照射を受けた赤外線の量のうち吸収した赤外線の量を用いる。
【0015】
第7態様に係る情報処理プログラムは、コンピュータに、媒体の表面の形状的特性を示す第1の特性値を取得し、前記第1の特性値に基づき、媒体に対する液滴の接触角を算出する、処理を実行させる。
【発明の効果】
【0016】
第1態様に係る情報処理装置、及び第7態様に係る情報処理プログラムによれば、実際に液滴を滴下し、かつレーザ光照射装置等を用いる場合と比較して、接触角を簡易に算出することができる。
【0017】
第2態様に係る情報処理装置によれば、前記接触角の算出を、レーザ光照射装置等を用いる場合と比較して、光学的に容易に行うことができる。
【0018】
第3態様に係る情報処理装置によれば、前記接触角の算出を、画像処理等を行うことと比較して、算術的に容易に行うことができる。
【0019】
第4態様に係る情報処理装置によれば、前記接触角の算出を、前記形状的特性、前記物理的特性、並びに、前記形状的特性及び前記物理的特性のうちのいずれかを用いて行うことができる。
【0020】
第5態様に係る情報処理装置によれば、前記接触角の算出を、前記電気抵抗値以外のパラメータを用いることと比較して、電気的に容易に行うことができる。
【0021】
第6態様に係る情報処理装置によれば、前記接触角の算出を、前記赤外線以外のパラメータを用いることと比較して、光学的に容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態の液滴接触角算出装置ESSの構成を示す。
【
図2】実施形態の液滴接触角算出装置ESSの機能ブロック図である。
【
図3】実施形態の液滴接触角算出装置ESSのユニット構成を示す。
【
図4】実施形態の印刷用媒体PMの表面を示す概略図である。
【
図5】
図5(A)は、実施形態の印刷用媒体PMの表面を示す第1の詳細図である。
図5(B)は、実施形態の印刷用媒体PMの表面を示す第2の詳細図である。
【
図6】実施形態の輝度検出ユニットKKUでの白色光HSの照射、及び拡散光KSの撮像を示す図である。
【
図7】実施形態の輝度検出ユニットKKUの動作を示すフローチャートである。
【
図10】実施形態の抵抗値測定ユニットTSUでの抵抗値の測定を示す図である。
【
図11】実施形態の抵抗値測定ユニットTSUの動作を示すフローチャートである。
【
図12】実施形態の赤外吸収量検出ユニットSKUでの赤外吸収量SKの測定を示す図である。
【
図13】実施形態の赤外吸収量検出ユニットSKUの動作を示すフローチャートである。
【
図14】実施形態の液滴接触角算出装置ESSでの接触角SSKの算出を示すフローチャートである。
【
図15】実施形態の接触角SSKについての予測値と真値との第1の関係を示す。
【
図16】実施形態の接触角SSKについての予測値と真値との第2の関係を示す。
【
図17】実施形態の接触角SSKについての予測値と真値との第3の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〈実施形態〉
以下、本発明に係る情報処理装置の一例である液滴接触角算出装置の実施形態について説明する。
【0024】
〈実施形態の構成〉
〈液滴接触角算出装置ESSの構成〉
図1は、実施形態の液滴接触角算出装置ESSの構成を示す。以下、実施形態の液滴接触角算出装置ESSの構成について、
図1を参照して説明する。
【0025】
実施形態1の液滴接触角算出装置ESSは、
図1に示されるように、入力部11と、CPU12(Central Processing Unit)と、出力部13と、記憶媒体14と、メモリ15と、を含む。
【0026】
入力部11は、例えば、センサ、フォトダイオード、キーボード、マウス、タッチパネルから構成される。CPU12は、プロセッサの一例であり、ソフトウェアに従ってハードウェアを動作させる、よく知られたコンピュータの中核である。出力部13は、例えば、発光ダイオード、プリンタ、液晶モニター、タッチパネルから構成される。記憶媒体14は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)、ROM(Read Only Memory)から構成される。メモリ15は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)から構成される。
【0027】
記憶媒体14は、プログラムPR、及び接触角算出式EQを記憶する。
【0028】
プログラムPRは、CPU12が実行すべき処理の内容を規定する命令群である。
【0029】
接触角算出式EQは、接触角を算出するための式である。
【0030】
ここで、「接触角」とは、『媒体』の一例である、紙等の印刷用媒体PM(例えば、
図4に図示。)の表面に対し、液滴の面がなす角をいう。
【0031】
接触角算出式EQは、以下のとおりに表される。
【0032】
接触角SSK=A×輝度統計値KT+B×電気抵抗値DT+C×赤外吸収量SK1/赤外吸収量SK2+D ・・・(1)
【0033】
「輝度統計値KT」は、印刷用媒体PMの表面の平滑度合いHD(
図4、
図5(A)、
図5(B)を用いて後述。)をいう。
【0034】
「輝度統計値KT」は、印刷用媒体PMの表面の『形状的特性』を示す『第1の特性値』の一例である。
【0035】
「電気抵抗値DT」は、印刷用媒体PMの表面の単位長さ当たりの抵抗値をいう。
【0036】
「赤外吸収量SK1」は、印刷用媒体PMの表面に波長1400nmの赤外線を照射したときに、印刷用媒体PMの表面により吸収される赤外線の量をいう。
【0037】
「赤外吸収量SK2」は、印刷用媒体PMの表面に波長1250nmの赤外線を照射したときに、印刷用媒体PMの表面により吸収される赤外線の量をいう。
【0038】
「電気抵抗値DT」、「赤外吸収量SK1」、及び「赤外吸収量SK2」は、印刷用媒体PMの表面の『物理的特性』を示す『第2の特性値』の一例である。
【0039】
1250nm及び1400nmの両波長の赤外線を用いる理由は、以下のとおりである。前者の波長1250nmを用いることにより、印刷用媒体PMの材質を問わず、赤外線吸収量を測定することができる。そのため、前者の波長1250nmを用いた測定により得られた赤外線吸収量を基準量(基準値)として、後者の1400nmを用いた測定により得られた赤外線吸収量を較正(キャリブレーション)することができるためである。
【0040】
「定数A」、「定数B」、「定数C」は、それぞれ、接触角SSKを予測したい対象である印刷用媒体PMの輝度統計値KT、電気抵抗値DT、及び、赤外吸収量SK1、SK2の各々から、前記した印刷用媒体PMの接触角SSKを得るために用いられる、実験的に得られた換算のための定数である。
【0041】
「定数A」、「定数B」、「定数C」は、例えば、予め、液滴接触角算出装置ESSとは相違する、より精度高く測定することができる環境(例えば、レーザ顕微鏡等を用いる環境)の下で、実験者により特定された数値である。「定数A」、「定数B」、「定数C」は、より具体的には、上記した「接触角SSKを予測したい対象である印刷用媒体PM」とは異なる複数の印刷用媒体PMを実験的に用いて、前記複数の印刷用媒体PMの各々の接触角SSKと、前記複数の印刷用媒体PMの各々の輝度統計値KT、電気抵抗値DT、及び、赤外吸収量SK1、SK2の各々との間の関係を規定するように特定される。
【0042】
「定数D」は、輝度統計値KT、電気抵抗値DT、及び、赤外吸収量SK1、SK2、及び、定数A、B、Cを用いて接触角SSKを算出するときにおける、当該算出を補完するための定数である。
【0043】
〈液滴接触角算出装置ESSの機能〉
図2は、実施形態の液滴接触角算出装置ESSの機能ブロック図である。
【0044】
実施形態の液滴接触角算出装置ESSは、
図2に示されるように、計測部(取得部)21と、算出部22と、制御部23と、記憶部24と、を含む。
【0045】
液滴接触角算出装置ESSにおける、ハードウェアの構成と機能的構成との関係については、ハードウェア上で、CPU12が、記憶媒体14(記憶部24の一部の機能を実現する。)に記憶されたプログラムPRを、メモリ15(記憶部24の他の一部の機能を実現する。)を用いつつ実行すると共に、必要に応じて、制御部23として、入力部11及び出力部13の動作を制御することにより、計測部21及び算出部22の各部の機能を実現する。各部の機能については、後述する。
【0046】
〈液滴接触角算出装置ESSのユニット構成〉
図3は、実施形態の液滴接触角算出装置ESSのユニット構成を示す。
【0047】
実施形態の液滴接触角算出装置ESSは、
図3に示されるように、3つのユニット、即ち、輝度検出ユニットKKU、抵抗値測定ユニットTSU、及び、赤外吸収量検出ユニットSKUを含む。
【0048】
輝度検出ユニットKKUは、
図3に示されるように、白色発光ダイオード31、及びCMOSセンサ32を有する。白色発光ダイオード31は、出力部13(
図1に図示。)に相当し、また、CMOSセンサ32は、入力部11(
図1に図示。)に相当する。
【0049】
輝度検出ユニットKKUは、
図3に示されるように、抵抗値測定器41を含む。抵抗値測定器41は、入力部11及び出力部13に相当する。
【0050】
赤外吸収量検出ユニットSKUは、
図3に示されるように、赤外線発光ダイオード51、及び、フォトダイオード52を有する。赤外線発光ダイオード51は、出力部13に相当し、また、フォトダイオード52は、入力部11に相当する。
【0051】
〈実施形態の液滴接触角算出装置ESSが想定する事実関係〉
図4は、実施形態の印刷用媒体PMの表面を示す概略図である。
【0052】
図5(A)は、実施形態の印刷用媒体PMの表面を示す第1の詳細図である。
【0053】
図5(B)は、実施形態の印刷用媒体PMの表面を示す第2の詳細図である。
【0054】
印刷用媒体PMの表面は、
図4に示されるように、平面HM及び孔ANを有する。印刷用媒体PMの表面上では、平面HMの面積と、孔ANの面積とを比較すると、平面HMの面積が極めて広い。従って、印刷用媒体PMの表面の性質である接触角SSKは、印刷用媒体PMの平面HMの性質により決定付けられる。
【0055】
以下では、平面HMが「粗い」印刷用媒体PMを「印刷用媒体PM(AR)」といい、他方で、平面HMが「滑らかな」印刷用媒体PMを「印刷用媒体PM(NM)」という。
【0056】
印刷用媒体PM(AR)の表面の平面HMは、
図5(A)に示されるように、入射する白色光HSを乱反射することにより、光量が大きい拡散光KS11、KS12、KS13を反射する。
【0057】
上記とは対照的に、印刷用媒体PM(NM)の表面の平面HMは、
図5(B)に示されるように、照射される白色光HSを乱反射するものの、光量が小さい拡散光KS21、KS22、KS23を反射する。
【0058】
従って、印刷用媒体PMの接触角SSKは、より詳しくは、印刷用媒体PMの表面における、平面HMがどの程度、粗いか滑らかであるかの度合いである「平滑度合いHD」により決定付けられる。
【0059】
〈実施形態の液滴接触角算出装置ESSの動作〉
以下では、説明及び理解を容易にすべく、印刷用媒体PMが、液滴接触角算出装置ESSとの関係で、印刷用媒体PMの輝度統計値KT、電気抵抗値DT、及び、赤外吸収量SKを計測する、即ち、測定し検出することができる位置に、予め設定されていることを想定する。
【0060】
〈輝度検出ユニットKKUの動作〉
図6は、実施形態の輝度検出ユニットKKUでの白色光HSの照射、及び拡散光KSの撮像を示す図である。
【0061】
図7は、実施形態の輝度検出ユニットKKUの動作を示すフローチャートである。以下、実施形態の輝度検出ユニットKKUの動作について、輝度検出ユニットKKUの動作を示す
図6、
図7を参照して説明する。
【0062】
ステップS10:液滴接触角算出装置ESSのユーザ(図示せず。)が、液滴接触角算出装置ESSの入力部11(
図1に図示。)から、例えば、輝度統計値KTの算出のボタン(図示せず。)を押下する。押下に応答して、液滴接触角算出装置ESSでは、CPU12(
図1に図示。)は、計測部21(
図2に図示。)として、出力部13(
図1に図示。)である白色発光ダイオード31の動作を始動させる。これにより、白色発光ダイオード31は、
図6に示されるように、印刷用媒体PMに向けて、白色光HSを照射する。
【0063】
輝度検出ユニットKKUの白色発光ダイオード31は、
図6に示されるように、印刷用媒体PMに向けた白色光HSの照射を、印刷用媒体PMに対し、概ね16度で行うことが望ましい。
【0064】
図7に戻り、液滴接触角算出装置ESSの動作についての説明を続ける。
【0065】
ステップS11:ステップS10で、白色光HSが照射されると、液滴接触角算出装置ESSでは、CPU12は、計測部21として、入力部11(
図1に図示。)であるCMOSセンサ32の動作を始動させる。これにより、CMOSセンサ32は、印刷用媒体PMの表面から放射される拡散光KS、即ち、拡散光KS11~HS23(
図5(A)、(B)に図示。)及び他の拡散光KSを受光する。
【0066】
【0067】
CMOSセンサ32による拡散光KSの受光により、CPU12は、計測部21として、
図7に示されるように、印刷用媒体PMの表面で、特に、平面HMで拡散される光の量を示す、即ち、単位面積内の複数の画素の輝度である拡散光量画像GZを生成する。
【0068】
拡散光量画像GZとして、
図8に示されるように、印刷用媒体PMの表面における、例えば、縦横5mmの正方形の領域が撮像されている。拡散光量画像GZは、
図8に示されるように、例えば、縦横650×650の画素GS(全体で、約42万個の画素GS)から構成されている。各画素GSは、印刷用媒体PMの表面の輝度KD、換言すれば、拡散光KSの光量の強さを8ビット(0~255までの256段階)で示す。
【0069】
図7に戻り、液滴接触角算出装置ESSの動作についての説明を続ける。
【0070】
ステップS12:ステップS11で、拡散光量画像GZが生成されると、CPU12は、計測部21として、印刷用媒体PMの表面の輝度KDの分布を示す分布
図BPZを作成する。
【0071】
【0072】
CPU12は、より詳しくは、
図9に示されるように、拡散光量画像GZ(
図8に図示。)に含まれる複数(上記した約42万個)の画素GSと、各画素GSが示す輝度KDとの関係を示す分布
図BPZを作成する。分布
図BPZは、
図9に示されるように、輝度KDと頻度(画素GSの数)との関係が、正規分布に近似することを示す。
【0073】
ここで、印刷用媒体PM(AR)(
図5(A)に図示。)及び、印刷用媒体PM(NM)(
図5(B)に図示。)の両者について分布
図BPZを作成すると、
図9に示されるように、前者の印刷用媒体PM(AR)についての輝度(画素GSの数)の最頻値SH2は、後者の印刷用媒体PM(NM)についての輝度(画素GSの数)の最頻値SH1より大きい。
【0074】
上記した、最頻値SH2が最頻値SH1より大きい理由は、
図5(A)、(B)を参照して上述したように、印刷用媒体PM(AR)の平面HMでの拡散光KS11、KS12、KS13の光量が、印刷用媒体PM(NM)の平面HMでの拡散光KS21、KS22、KS23の光量より大きいことに起因する。
【0075】
要約すれば、接触角SSKが明らかでない印刷用媒体PMの最頻値SHの位置を取得することにより、前記した印刷用媒体PMの表面の平面HMが、どの程度、粗いか滑らかであるかという「平滑度合いHD」を得て、それにより、接触角SSKが明らかになる。
【0076】
図7に戻り、液滴接触角算出装置ESSの動作についての説明を続ける。
【0077】
ステップS13:ステップS12で、輝度KDの分布
図BPZが作成されると、CPU12は、算出部22(
図2に図示。)として、分布
図BPZにおける、画素GSの数が最も多い輝度KDである最頻値SHを求める。これにより、CPU12は、輝度統計値KTを算出する。
【0078】
〈抵抗値測定ユニットTSUの動作〉
図10は、実施形態の抵抗値測定ユニットTSUでの抵抗値の測定を示す図である。
【0079】
図11は、実施形態の抵抗値測定ユニットTSUの動作を示すフローチャートである。
【0080】
以下、実施形態の抵抗値測定ユニットTSUの動作について、抵抗値測定ユニットTSUの動作を示す
図10及び
図11を用いて説明する。
【0081】
ステップS20:液滴接触角算出装置ESSのユーザが、液滴接触角算出装置ESSの入力部11(
図1に図示。)から、例えば、電気抵抗値DTの算出のボタン(図示せず。)を押下する。押下に応答して、液滴接触角算出装置ESSでは、CPU12(
図1に図示。)は、計測部21(
図2に図示。)として、出力部13(
図1に図示。)である抵抗値測定器41の動作を始動させる。これにより、抵抗値測定器41は、印刷用媒体PM上の2つの電極42A、42B間に電圧を印加する。
【0082】
ここで、印刷用媒体PMの電気抵抗値DTは、極めて大きいことから、2つの電極42A、42B間の距離は、例えば、概ね1mmであり、かつ、印加する電圧は、概ね数百V以上(例えば、200V)であることが望ましい。
【0083】
ステップS21:ステップS20で、2つの電極42A、42B間に電圧が印加されると、CPU12は、計測部21(
図2に図示。)として、抵抗値測定器41に、印刷用媒体PMの抵抗値、即ち、電気抵抗値DTの測定を指示する。これにより、抵抗値測定器41は、印刷用媒体PMの電気抵抗値DTを測定する。
【0084】
〈赤外吸収量検出ユニットSKUの動作〉
図12は、実施形態の赤外吸収量検出ユニットSKUでの赤外吸収量SKの測定を示す図である。
【0085】
図13は、実施形態の赤外吸収量検出ユニットSKUの動作を示すフローチャートである。
【0086】
以下、実施形態の赤外吸収量検出ユニットSKUの動作について、赤外吸収量検出ユニットSKUの動作を示す
図12及び
図13を用いて説明する。
【0087】
ステップS30:液滴接触角算出装置ESSのユーザが、液滴接触角算出装置ESSの入力部11(
図1に図示。)から、例えば、赤外吸収量SKの算出のボタン(図示せず。)を押下する。押下に応答して、液滴接触角算出装置ESSでは、CPU12(
図1に図示。)は、計測部21(
図2に図示。)として、出力部13(
図1に図示。)である赤外線発光ダイオード51の動作を始動させる。これにより、赤外線発光ダイオード51は、印刷用媒体PMの表面に向けて、赤外線SG1を照射する。
【0088】
ステップS31:ステップS30で、印刷用媒体PMの表面に向けて、赤外線SG1が照射されると、CPU12は、計測部21として、入力部11(
図1に図示。)であるフォトダイオード52の動作を指示し、例えば、フォトダイオード52による検出結果がCPU12に帰還されるように、CPU12及びフォトダイオード52間の回路配線を切り換える。これにより、フォトダイオード52は、印刷用媒体PMの表面で反射する赤外線SG2の量、即ち、反射量を測定する。
【0089】
ステップS32:ステップS31で、赤外線SG2の反射量が測定されると、CPU12は、算出部22(
図2に図示。)として、ステップS30で赤外線発光ダイオード51から照射された赤外線SG1の量から、ステップS31でフォトダイオード52により測定された、赤外線SG2の反射量を減算する。これにより、CPU12は、印刷用媒体PMの表面で吸収された、赤外線SG3の量(吸収量)、即ち、赤外吸収量SK1、SK2を算出する。
【0090】
赤外線吸収量の測定は、上記したステップS30~32を1セットにして、2セット分を行う。1回目のセットでは、赤外線SG1の波長として、上述した1400nmを用いる。2回目のセットでは、赤外線SG2の波長として、上述した1250nmを用いる。
【0091】
〈接触角SSKの算出〉
図14は、実施形態の液滴接触角算出装置ESSでの接触角SSKの算出を示すフローチャートである。以下、接触角SSKの算出について、
図14のフローチャートを参照して説明する。
【0092】
ステップS40で、液滴接触角算出装置ESSでは、CPU12(
図1に図示。)は、算出部22(
図2に図示。)として、上述したステップS13で算出された輝度統計値KT、上述したステップS21で測定された電気抵抗値DT、上述したステップS32で算出された赤外吸収量SK1、SK2を、接触角算出式EQに代入する。これにより、接触角SSKが算出される。
【0093】
なお、CPU12は、液滴接触角算出装置ESSのユーザの求めに応じて、算出された接触角SSKを、プリンタ、液晶モニター等である出力部13(
図2に図示。)に出力する。
【0094】
CPU12は、より詳しくは、以下の代入を行う。
【0095】
(1)輝度統計値KTの算出のみが行われたときには、輝度統計値KTのみを、接触角算出式EQに代入する。
【0096】
(2)輝度統計値KTの算出、及び、電気抵抗値DTの測定が行われたときには、輝度統計値KT、及び電気抵抗値DTを、接触角算出式EQに代入する。
【0097】
(3)輝度統計値KTの算出、及び、赤外吸収量SK1、SK2の算出が行われたときには、輝度統計値KT、及び赤外吸収量SK1、SK2を接触角算出式EQに代入する。
【0098】
(4)電気抵抗値DTの測定、及び赤外吸収量SK1、SK2の算出が行われたときには、電気抵抗値DT、及び赤外吸収量SK1、SK2を接触角算出式EQに代入する。
【0099】
〈接触角算出式EQから算出される接触角の予測値と、接触角の真値との比較〉
図15は、実施形態の接触角SSKについての予測値と真値との第1の関係を示す。
【0100】
図16は、実施形態の接触角SSKについての予測値と真値との第2の関係を示す。
【0101】
図17は、実施形態の接触角SSKについての予測値と真値との第3の関係を示す。
【0102】
「接触角SSKの予測値」とは、上記した接触角算出式EQに、輝度統計値KT、電気抵抗値DT、及び、赤外吸収量SK1、SK2のうち、1つ以上を代入することにより得られる、印刷用媒体PMの接触角SSKの値である。
【0103】
図15中の「接触角SSKの予測値」は、上記した接触角算出式EQに、輝度統計値KTのみを代入することにより得られる、印刷用媒体PMの接触角SSKの値である。
【0104】
図16中の「接触角SSKの予測値」は、上記した接触角算出式EQに、電気抵抗値DT、及び、赤外吸収量SK1、SK2を代入することにより得られる、印刷用媒体PMの接触角SSKの値である。
【0105】
図17中の「接触角SSKの予測値」は、上記した接触角算出式EQに、輝度統計量KT、電気抵抗値DT、及び、赤外吸収量SK1、SK2の全てを代入することにより得られる、印刷用媒体PMの接触角SSKの値である。
【0106】
「接触角SSKの真値」とは、例えば、高解像度・高速度カメラ(例えば、0.1~0.5μm/画素、10~20μ秒/コマ)による撮像により得られる、印刷用媒体PMの表面に対し、液滴の面がなす角である。
【0107】
図15~
図17では、プロット(描画)された点は、複数の用紙毎の点である。複数の用紙は、パラメータにより規定される。パラメータは、例えば、用紙の種類、及び用紙の銘柄(製造会社、工場)である。
【0108】
用紙の種類は、例えば、グロスコート紙、マットコート紙等である。用紙の銘柄は、用紙の製造会社(例えば、製造会社A、製造会社B)、及び用紙の工場(例えば、用紙の製造会社Aが有する工場a1、工場a2)である。
【0109】
例えば、
図15~
図17中で、ある1つの用紙(プロットされた点)は、例えば、グロスコート紙であり、製造会社Aの工場a1で製造されていることを示す。他の別の用紙(プロットされた点)は、例えば、グロスコート紙であり、製造会社Aの他の工場a2で製造されていることを示す。更に他の別の用紙(プロットされた点)は、例えば、グロスコート紙であり、製造会社Bの工場bで製造されていることを示す。
【0110】
図15~
図17に示されるように、接触角SSKの予測値及び、接触角SSKの真値を示す複数のプロットされた点の間には、最小二乗法の下に、直線を描くことができる。従って、上記した用紙の種類、及び、用紙の銘柄の如何に左右されることなく、印刷用媒体PMの接触角SSKの真値と、印刷用媒体PMの接触角SSKの予測値との間に、線形的な関連があるといえる。
【0111】
換言すれば、上記した接触角算出式EQによる得られる、印刷用媒体PMの接触角SSKの予測値は、印刷用媒体PMの接触角SSKの真値を代表し、また、象徴することができるといえる。即ち、印刷用媒体PMの接触角SSKの真値を、レーザ顕微鏡等を用いた大規模かつ高価な環境の下で得ることなく、上記した接触角算出式EQに、白色発光ダイオード31、CMOSセンサ32等の小規模かつ安価な環境の下で得られた輝度統計値KT、電気抵抗値DT、及び、赤外吸収量SK1、SK2を代入することのみで、印刷用媒体PMの接触角SSKを推定可能となる。
【0112】
〈変形例〉
接触角算出式EQへの代入については、例えば、(1)輝度統計値KT、及び電気抵抗値DTを代入すること、(2)輝度統計値KT、及び赤外吸収量SK1、SK2を代入すること、(3)電気抵抗値DTのみを代入すること、(4)赤外吸収量SK1、SK2のみを代入すること、も可能である。
【0113】
〈プロセッサ、プログラムの補足説明〉
上記した実施形態において、プロセッサとは、広義的なプロセッサを指し、汎用的なプロセッサ(例えば、CPU: Central Processing Unit等)に加えて、専用のプロセッサ(例えば、GPU: Graphics Processing Unit、ASIC: Application Specific Integrated Circuit、FPGA: Field Programmable Gate Array、プログラマブル論理デバイス等)を含む。
【0114】
上記した実施形態において、プロセッサの動作は、1つのプロセッサによって実現されてもよく、また、複数のプロセッサの協働によって実現されてもよい。また、プロセッサの各動作の順序は、上記した実施形態における順序に限定されず、適宜変更してもよい。
【0115】
上記した実施形態において、プログラムPRは、記憶媒体14に予め記憶(インストール)されていることに代えて、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体に記録されて提供されてもよく、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされてもよい。
【符号の説明】
【0116】
ESS 液滴接触角算出装置
11 入力部
12 CPU
13 出力部
14 記憶媒体
15 メモリ
PR プログラム
EQ 接触角算出式
21 計測部
22 算出部
23 制御部
24 記憶部