(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】固体電解質用ポリアリーレンスルフィド共重合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20240611BHJP
C08G 75/0222 20160101ALI20240611BHJP
C08G 75/0227 20160101ALI20240611BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240611BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240611BHJP
C08G 75/0209 20160101ALI20240611BHJP
【FI】
H01M10/0565
C08G75/0222
C08G75/0227
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
C08G75/0209
(21)【出願番号】P 2020045898
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮原 佑一郎
(72)【発明者】
【氏名】仲村 博門
(72)【発明者】
【氏名】東原 武志
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-103232(JP,A)
【文献】特開2013-139532(JP,A)
【文献】特開2019-119810(JP,A)
【文献】特表2019-530166(JP,A)
【文献】特表2019-517712(JP,A)
【文献】特開平05-290614(JP,A)
【文献】特開2016-219136(JP,A)
【文献】特開2003-077766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00 - 75/32
H01M 10/05 - 10/0587
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計で測定した融点が270℃以下であり、式-(Ar-S)-を構成単位とするポリアリーレンスルフィド共重合体であって、Arが(A)で表される構成単位を有し、さらに共重合単位としてArが(B)~(G)から選ばれる少なくとも一つの構造である構成単位を有する、固体電解質用ポリアリーレンスルフィド共重合体を含む、6.0×10
-5S/cm以上1×10
2S/cm以下のイオン伝導率を有する固体電解質。
【化1】
(R1,R2はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。R3、R4は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。Yはアルキレン基、O、CO、SO、SO
2から選ばれた置換基、または直接結合である。)
【請求項2】
前記固体電解質用ポリアリーレンスルフィド共重合体は、-(Ar-S)-で表される構成単位1モルに対し、前記共重合単位が、1モル%以上50モル%未満である、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記固体電解質用ポリアリーレンスルフィド共重合体の結晶化度が30%以下である、請求項1または2に記載の固体電解質。
【請求項4】
前記固体電解質用ポリアリーレンスルフィド共重合体の重量平均分子量が2万以上である、請求項1~3のいずれかに記載の固体電解質
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、電池、コンデンサーに用いる固体電解質に適したポリアリーレンスルフィド共重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池をはじめとした二次電池は、携帯電話など高電気容量を必要とする携帯用機器のみならず、ハイブリッド自動車や電気自動車などの環境配慮型自動車での普及が進展しており、更なる電池容量向上として電解質、活物質、電極などの電池部材に関する研究開発が、学術的のみならず産業分野でも盛んに行われている。
【0003】
一般的に普及している液系電解質を用いた二次電池は、可燃性物質を使用しているため発火の危険が指摘されていると共に、抜本的な電池技術の向上として全固体電池が注目されており、イオン伝導を担う電解質の固体化検討が進んでいる。近年研究開発が活発化している固体電解質として、酸化物系電解質、硫化物系電解質と共に、ポリエチレンオキサイドを中心としたポリマー系電解質が挙げられる。ポリマー系電解質は簡便かつ安価であるものの、可燃性化合物であり異常時に発火の危険性があるため、難燃ポリマーを用いた固体電解質が求められていた。
【0004】
難燃ポリマーとしては、液晶ポリエステルやポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す。)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下PASと略す。)が挙げられ、PASは優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性などエンジニアリングプラスチックとしては好適な性質を有しており、射出成形、押出成形用途を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品、フィルム、繊維などに使用されている。近年、これら難燃ポリマーである液晶ポリエステルやPPSをベースに、アルカリ金属塩との混合物に電子アクセプターをドープした固体電解質が特許文献1や特許文献2で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2017/0005356号明細書
【文献】中国特許出願公開第106450424号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池特性の指標であるイオン伝導率に関し、特許文献1では固体電解質の結晶化度が高いことが高イオン伝導率発現に必須としている。PPSはベンゼンと硫黄からなる構造単位を有し、分子が規則正しく並ぶことで高い結晶性を発現すると共に高融点となる特徴がある。しかしながら、特許文献1では320℃以上で加工しているため、含有成分の劣化等が起こり、イオン伝導性の低下や品質の不安定化をひきおこす可能性があった。また、特許文献2でも同様に300℃程度の温度で押出成形する工程が開示されており、含有成分の劣化等を引き起こす可能性があった。更に、特許文献1および2では、固体電解質の製造に際してアルカリ金属塩と混合する工程、及び電子アクセプターをドープする工程をそれぞれ設けており、生産性にも課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、固体電解質に適するポリマーとして、低温で加工できる低融点PAS共重合体を見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
1.示差走査熱量計で測定した融点が270℃以下であり、式-(Ar-S)-を構成単位とするポリアリーレンスルフィド共重合体であって、Arが(A)で表される構成単位を有し、さらに共重合単位としてArが(B)~(G)から選ばれる少なくとも一つの構造である構成単位を有する、固体電解質用ポリアリーレンスルフィド共重合体を含む、6.0×10
-5
S/cm以上1×10
2
S/cm以下のイオン伝導率を有する固体電解質。
【0009】
【0010】
(R1,R2はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。R3、R4は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。Yはアルキレン基、O、CO、SO、SO2から選ばれた置換基、または直接結合である。)
2.上記固体電解質用ポリアリーレンスルフィド共重合体は、-(Ar-S)-で表される構成単位1モルに対し、前記共重合単位が、1モル%以上50モル%未満である、1項に記載の固体電解質。
3.上記固体電解質用ポリアリーレンスルフィド共重合体の結晶化度が30%以下である、1項または2項に記載の固体電解質。
4.上記固体電解質用ポリアリーレンスルフィド共重合体の重量平均分子量が2万以上である、1項~3項のいずれかに記載の固体電解質。
【0011】
【0012】
(Xはハロゲン基である。R1,R2はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。R3、R4は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。Yはアルキレン基、O、CO、SO、SO2から選ばれた置換基、または直接結合である。)
6.共重合成分を、スルフィド化剤1モルに対して0.01モル以上0.5モル未満反応させることを特徴とする、5項に記載の固体電解質用ポリアリーレンスルフィド共重合体の製造方法。
7.有機カルボン酸金属塩、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸金属塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、および水から選ばれる少なくとも一種の化合物の存在下で反応を行うことを特徴とする、5項または6項に記載の固体電解質用ポリアリーレンスルフィド共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加工性に優れた低融点のPAS共重合体を固体電解質として用いることで、二次電池などに好適な高いイオン伝導率と高い品質安定性が発現する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド共重合体(アリーレン基を「Ar」と略する)は、式、-(Ar-S)-を構成単位とするポリマーであり、-(Ar-S)-の構成単位の中には、下記式(A)で表される構造と、さらに下記式(B)~(G)であらわされる構造を共重合単位として有するものである。融点や分子量を制御する観点で、特にArが(B)や(C)で示される構造からなる-(Ar-S)-の構成単位を共重合成分として含むことが好ましい。
【0015】
【0016】
(R1,R2はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。R3、R4は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。Yはアルキレン基、O、CO、SO、SO2から選ばれた置換基、または直接結合である。)
【0017】
-(Ar-S)-で表される構成単位1モルに対し、前記共重合単位(-(Ar-S)-のArが(B)~(G)で表される構造を有するもの)は、1モル%以上50モル%未満であることが好ましく。3モル%以上30モル%未満がより好ましく、5モル%以上25モル%未満がいっそう好ましい。共重合単位が1モル%未満では、融点が有意に下がらず、固体電解質を作製する際の加工温度が高くなり、イオン伝導率や品質安定性の低下につながる。一方、50モル%を超えると、PAS共重合体の重合反応終了後の反応液からPAS共重合体を回収する際に、回収不良となる傾向にある。なお、PAS共重合体中の共重合単位の含有比率は、重合時に添加する式(A’)~(G’)で表されるジハロゲン化芳香族化合物全量に対する、共重合成分として添加する(B’)~(G’)の化合物の添加量の比率、と同じである。
【0018】
上記-(Ar-S)-で表される単位を主要構成単位とする限り、下記式(H)~(J)で表される分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、-(Ar-S)-で表される構成単位1モルに対して0~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0019】
【0020】
また、本発明におけるPAS共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0021】
本発明の固体電解質用PAS共重合体の合成方法は特に限定されるものではなく、有機極性溶媒中でスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を反応させて得る方法や、ジヨード芳香族化合物と硫黄を無溶媒下で溶融反応させて得る方法などが挙げられるが、工業的に生産されている前者の重合方法を採用するのが汎用性の観点で好ましい。以下、合成原料であるスルフィド化剤、有機極性溶媒、ジハロゲン化芳香族化合物、その他の重合添加剤、およびこれら原料を用いたPAS重合工程での、前工程、重合工程、回収工程、後処理工程について以下詳述する。
【0022】
(1)スルフィド化剤
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0023】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0024】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0025】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤も用いることができる。あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤も用いることができる。
【0026】
本発明において、スルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0027】
なお、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を同時に使用することが好ましく、アルカリ金属水酸化物が特に好ましい。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられる。これらのうち、水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。使用量はアルカリ金属水硫化物100モルに対し95から120モル、好ましくは100から115モル、更に好ましくは100から110モルの範囲が例示できる。この範囲にすることで、分解を引き起こすことなく、また重合副生物量の少ないPASを得ることができる。
【0028】
(2)有機極性溶媒
重合溶媒として用いる有機極性溶媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)が好ましく用いられる。
【0029】
有機極性溶媒の使用量に特に制限はないが、安定した反応性および経済性の観点から、スルフィド化剤100モル当たり200モルから1000モル、好ましくは225から600モル、より好ましくは250から550モルの範囲が選択される。
【0030】
(3)ジハロゲン化芳香族化合物
本発明で用いるジハロゲン化芳香族化合物は、p-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼンなどのp-ジハロゲン化ベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼンなどのo-またはm-ジハロゲン化ベンゼン、2,3-ジクロロアニリン、2,4-ジクロロアニリン、2,5-ジクロロアニリン、2,5-ジクロロー1,4-フェニレンジアミン、4,5-ジクロロー1,2-フェニレンジアミン、2,3-ジクロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、2,5-ジクロロフェノール、2,3-ジクロロ安息香酸、2,4-ジクロロ安息香酸、2,5-ジクロロ安息香酸、2,3-ジクロロトルエン、2,4-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロトルエン、2,6-ジクロロトルエン、3,4-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロ-p-キシレン、2,5-ジクロロ-1,3-ジメチルベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼン、3,5-ジクロロ安息香酸などのハロゲン以外の置換基を含むジハロゲン化芳香族化合物、2,2’-ジクロロビフェニル、1,4-ジクロロナフタレンなどを挙げることができる。なかでも、PAS共重合体の-(Ar-S)-の構成単位の中で、式(A)で表されるp-フェニレンスルフィド単位を形成する化合物としてp-ジハロゲン化ベンゼンが好ましく、具体的にはp-ジクロロベンゼンが好ましい。共重合単位を形成する化合物として、ハロゲン以外の置換基を含むジハロゲン化芳香族化合物が好ましく、具体的にはm-ジクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロローp-キシレンが好ましい。これら化合物は、異なる2種以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて用いることも可能である。
【0031】
本発明では適度に融点および結晶性を低下させたPAS共重合体が必要であり、p-ジハロゲン化ベンゼンの使用量は、スルフィド化剤100モルあたり50モル以上105モル未満が好ましく、70モル以上100モル未満がより好ましく、80モル以上95モル未満が特に好ましい。本範囲を超える使用量では、生成PASの溶融粘度が低く加工性が低下し、逆に使用量が少ない場合は重合中に分解反応を引き起こす。
【0032】
また、ハロゲン以外の置換基を含むジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、スルフィド化剤100モルあたり1モル以上50モル未満が好ましく、3モル以上30モル未満がより好ましく、5モル以上25モル未満が特に好ましい。本範囲を超える使用量では、PAS共重合体の回収不良となる傾向にあり、逆に使用量が少ない場合は結晶性および融点が高いPASとなるため、固体電解質製造工程での加工温度が高すぎることによる固体電解質の品質低下を引き起こす。
【0033】
(4)その他の重合添加剤
本発明では、PAS共重合体の分子量調整の観点、および必要に応じてポリマー末端に官能基を導入する観点で、PAS共重合体合成時にモノハロゲン化化合物を使用することも可能である。モノハロゲン化化合物としては、クロロベンゼン、4-クロロ安息香酸、4-クロロフェノール、1-クロロナフタレン、4-クロロトルエンなどを挙げることができる。
【0034】
また、PAS共重合体合成時の高分子量化の促進を目的に、重合助剤を用いることも好ましい態様の一つであり、例えば有機カルボン酸金属塩、水、アルカリ金属塩化物、などが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上同時に用いても良く、有機カルボン酸金属塩および/または水が好ましく用いられる。
【0035】
有機カルボン酸金属塩の具体例としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。アルカリ金属塩化物の具体例としては、塩化リチウム、塩化カリウムを挙げることができる。安価でかつ反応系への適度な溶解性の観点から酢酸ナトリウムが好ましく用いられる。重合助剤として有機カルボン酸金属塩を使用する場合の使用量は、スルフィド化剤100モルに対し、1~70モルの範囲が好ましく、5~50モルの範囲がより好ましい。使用量が本範囲を超えてもそれ以上の高分子量化効果が得られにくく、使用量が少ないと高重合度化効果が不十分になる傾向にある。
【0036】
重合助剤として水を用いる場合は、有機カルボン酸金属塩と同時に用いることが好ましく、より少ない重合助剤の使用量でも短時間で高分子量のPAS共重合体を得ることができる傾向にある。重合系内の好ましい水分量の範囲は、スルフィド化剤100モルに対し80モル~300モルであり、85~180モルがより好ましい。本範囲を超えると反応系内の内圧上昇が大きく安全面で好ましくなく、使用量が少ないと高分子量化効果が不十分になる傾向にある。
【0037】
また、重合後に水を添加することも好ましい様態の一つである。重合後に水を添加した後の重合系内の水分量の好ましい範囲は、スルフィド化剤100モルに対して100~1500モルであり、150~1000モルがより好ましい。
【0038】
ポリマー高分子量化の他の手法として、トリハロゲン化以上のポリハロゲン化合物などの分岐・架橋剤を用いるのも好ましい態様である。ポリハロゲン化化合物の好ましい例としてポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、具体例として1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,4,6-トリクロロナフタレン等を挙げることができ、中でも1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼンが好ましい。分岐・架橋剤を多量に添加するとゲル化などを引き起こす傾向にあり、使用量はスルフィド化剤100モルに対し0.7モル未満が好ましく、0.1モル未満がより好ましい。
【0039】
本発明のPAS共重合体の製造において、副反応のひとつであるチオフェノールなどの生成を抑制し、反応系を安定化させる目的で重合安定剤を用いることもできる。前述した水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が具体例として挙げられ、それ以外として有機カルボン酸金属塩も重合安定剤の一つに入る。これら重合安定剤は単独でも2種以上を組み合わせて用いることもでき、使用量はスルフィド化剤100モルに対して、1~20モルが好ましく、3~10モルがより好ましい。使用量が多すぎると経済的に不利であり、少なすぎると反応系の安定化効果が不十分になる場合もある。
【0040】
(5)前工程
アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からスルフィド化剤を調製する場合を含め、取扱い性の観点からスルフィド化剤を含水状態で使用することが一般的である。ジハロゲン化芳香族化合物を添加する前に有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物から系外に水を除去することが好ましく、上記重合助剤や重合安定剤を混合物中に存在させた上で水を除去しても良い。水を除去する方法に特に制限はないが、不活性ガス雰囲気下で常温~150℃、好ましくは常温~100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180~260℃まで昇温し、水分を留出させる方法が挙げられる。水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。前工程が終了した段階での系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤100モル当たり90~110モルであることが好ましい。ここで系内の水分量とは前工程で仕込まれた水分量から系外に除去された水分量を差し引いた量である。
【0041】
(6)重合工程
本発明のPAS共重合体の重合では、有機極性溶媒中でスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を反応させるが、重合反応開始後200℃から260℃まで昇温してプレポリマーを合成する工程(工程A)と、次いで250℃以上で反応を継続する工程(工程B)を含むことが望ましい。少なくとも工程Aと工程Bを含む方法を採用することで、短い重合時間でも効率よくPAS共重合を得ることが可能である。
【0042】
以下に工程A及び工程Bについて詳述する。
【0043】
<工程A>有機極性溶媒中でスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を反応させてPAS共重合体を製造するに際し、200℃~260℃の範囲で反応を進行させてプレポリマーを合成することが好ましく、連続昇温や多段階昇温などを採用することができるが、3℃/分以上で高速に昇温すると反応制御が困難になる場合がある。工程A終了時のジハロゲン化芳香族化合物の転化率は60モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上になることが望ましい。これにより高重合度のPAS共重合体を得やすくなる傾向がある。なお、ジハロゲン化芳香族化合物(以下DHAと略する場合もある)の転化率は、以下の式で算出した値である。DHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(a)ジハロゲン化芳香族化合物をスルフィド化剤に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=[〔DHA仕込み量(モル)-DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)-DHA過剰量(モル)〕]×100%
(b)上記(a)以外の場合
転化率=[〔DHA仕込み量(モル)-DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)〕]×100%。
【0044】
<工程B>工程Aに続いて250℃以上で反応を継続する工程Bを行うことが望ましい。工程Bは255~280℃で行うことが好ましく、260~280℃がより好ましい。温度が250℃未満では反応速度が比較的遅く、短時間で高重合度PASを得ることが困難である。一方、300℃を超えると生成したポリマー成分の分解や、溶媒の劣化が起こりやすくなる傾向に有り、さらに、反応器内圧の上昇という安全面でのリスクがある。工程Bの反応時間は使用した原料の種類や量、あるいは反応温度に依存するので一概に規定できないが、0.1時間未満では未反応成分の量が増大したり生成するポリマーが低分子量になる可能性が高く、また40時間以上では経済的に不利となる。工程Bの好ましい反応時間としては0.5~10時間が例示でき、より好ましくは0.5~5時間である。
【0045】
上記重合工程は、バッチ方式、連続方式など公知の各重合方式を採用することができる。また、重合の際における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、特に、経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素が好ましい。
【0046】
(7)回収工程
上記重合工程で得た重合反応物からPAS共重合体を回収するが、回収方法については公知の如何なる方法を採用してもよい。
【0047】
例えば、重合工程終了後に0.1~3℃/分程度の速度で徐冷してポリマーを析出・回収する方法、急冷してポリマーを析出・回収する方法、重合工程終了後の高温・高圧(通常250℃以上、0.5MPa以上)の重合反応物を常圧または減圧条件で加熱して溶媒を留去してポリマーを回収する方法、高温・高圧の重合反応物を常圧または減圧雰囲気中に噴出(フラッシュ)させて溶媒を留去してポリマーを回収する方法が例示できる。なお、フラッシュさせる雰囲気として窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃~250℃の範囲が選ばれる。
【0048】
上記工程を経た回収物には、ポリマーと共に重合副生物、重合溶媒、未反応物成分などが含まれているため、洗浄を行うことが一般的である。洗浄溶液は、目的とするポリマーを回収する上で適宜有機溶媒や水などから選定でき、上記回収物を浸漬またはリンスする方法が採用できる。
【0049】
有機溶媒で洗浄する場合の溶媒種としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがPASの洗浄に用いる有機溶媒として挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N-メチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。有機溶媒でPAS共重合体を洗浄する温度に特に制限はなく、常温~300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温~150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。
【0050】
水で洗浄する場合は、蒸留水またはイオン交換水であることが好ましい。洗浄温度としては、20℃~220℃が好ましく、50℃~200℃がより好ましい。洗浄温度が20℃未満であると副生成物の除去が困難となり好ましくなく、220℃を超えても洗浄効率の更なる向上効果が見込めず、高圧という安全面においても好ましくない。
【0051】
上記洗浄工程において、酸、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を洗浄溶液に添加してポリマーを処理することも可能である。酸処理に用いる酸は、PAS共重合体を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、蟻酸、炭酸およびプロピオン酸などが挙げられる。なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられ、洗浄後の水溶液のpHが2~8であることが好ましい。アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する際は、上記酸処理に用いる酸のカルシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩等が例示でき、PAS共重合体に対する添加量は0.01~5重量%が好ましく、0.1~0.7重量%が更に好ましい。
【0052】
有機溶媒や水での洗浄回数や洗浄液量は特に制限はなく、重合副生物、重合溶媒、未反応物成分などを所定量除去できる条件であればよい。バッチ式であれば1分以上の条件で1回、好ましくは2回以上の複数回で浸漬・洗浄し、ろ過工程を含むことが好ましく、向流による連続洗浄であれば5分以上の条件で洗浄できれば良い。洗浄液量は、PAS共重合体に対する重量比で1~20が好ましく、2~10がより好ましい。
【0053】
上記にて回収したPAS共重合体は常圧下および/または減圧下に乾燥することが通例であり、乾燥温度は100~280℃の範囲が好ましく、120~250℃の範囲がより好ましい。乾燥雰囲気は、窒素、ヘリウム、減圧下などの不活性雰囲気でも、酸素、空気などの酸化性雰囲気、空気と窒素の混合雰囲気の何れでも良いが、溶融粘度の関係から不活性雰囲気が好ましい。
【0054】
(8)後処理工程
本発明のPAS共重合体は、上記回収工程中、または回収後のPASを、酸素雰囲気下での加熱や、過酸化物などの架橋剤を添加し、熱酸化架橋で高分子量化して用いることも可能である。熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合の温度は160℃~260℃が好ましく、170℃~250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5~100時間が好ましく、1時間~50時間がより好ましい。また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。その温度は130℃~250℃が好ましく、160℃~250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には3体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5時間~50時間が好ましく、1時間~20時間がより好ましい。
【0055】
(9)生成PAS共重合体
上記工程を経て得たPAS共重合体は、融点が270℃以下である必要がある。固体電解質作製時の加工温度低温化によるイオン伝導性、成形性、生産性、品質安定性の観点で、PAS共重合体の融点は低いことが好ましく、260℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。融点の下限は特に限定されるものではないが、低融点化のためにPASの共重合成分量が多くなると、PAS重合後の反応液からPAS共重合体の回収性が低下する傾向にあることから、融点は150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい範囲として例示できる。
【0056】
PAS共重合体の結晶化度は30%以下が好ましい。結晶化度が低いほど、固体電解質としたときのイオン伝導性が高い傾向にあり、25%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下が一層好ましい。結晶化度の下限は特に限定されるものではないが、結晶性を下げるためにPASの共重合成分量が多くなると、PAS重合後の反応液からPAS共重合体の回収性が低下する傾向にあることから、結晶化度は3%以上が好ましく、5%以上がより好ましい。なお、結晶化度は、示差走査型熱量計(DSC)で検出される融解ピーク面積より求められる融解熱量(J/g)を、PPS完全結晶時の融解熱量146.2(J/g)で除した値である。
【0057】
PAS共重合体の分子量は、固体電解質を作製する際の溶融混練やフィルム成形などの溶融加工性、および固体電解質として形態保持の観点から、重量平均分子量は2万以上が好ましく、3万以上がより好ましい。この範囲を下回ると、例えばフィルム成形する際に良好な成形性が得られない傾向にある。重量平均分子量の上限は特に制限されるものではないが、15万以下が好ましく、10万以下がより好ましい。重量平均分子量が15万を超えると固体電解質作製時の溶融混練の剪断発熱が大きくなり品質の低下につながることや、混練機への負荷が大きくなる。なお、重量平均分子量は、溶離液に1-クロロナフタレンを用い、カラム温度210℃の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した値である。
【0058】
(10)固体電解質
本発明の固体電解質用PAS共重合体を用いた固体電解質とは、室温において固体状態であり、外部から電場をかけることで容易にイオンを移動させる物質のことをいう。本発明の固体電解質におけるアルカリ金属イオンの移動しやすさは、25℃におけるイオン伝導率で判断することができる。電池として高い機能であることを判断できる固体電解質のイオン伝導率は、6.0×10-5S/cm以上であることが好ましく、8.0×10-5S/cm以上がより好ましく、9.0×10-5S/cm以上がいっそう好ましい。イオン伝導率が高いほど電池としては高性能でありイオン伝導率の上限は特に制限されるものではないが、1×102S/cm以下の範囲が一般的な固体電解質の範囲として例示できる。なお、イオン伝導率は、高周波インピーダンス測定システムを用いて複素インピーダンス法で測定した値である。
【0059】
なお、本発明における固体とは、電池容器の形とは無関係にその形状を保持するもの、をいう。
【0060】
本発明のPAS共重合体を用いた固体電解質は、イオン伝導性の観点からアルカリ金属塩を含むことが重要である。アルカリ金属塩は、アルカリ金属イオンが構成イオンとして含まれる塩であり、例えばリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどをカチオンとして含む金属塩があげられる。イオン拡散性の観点から、イオン半径が小さい金属イオンが好ましい。アルカリ金属塩の具体例としては、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO3)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、六フッ化リン酸ナトリウム(NaPF6)、四フッ化ホウ酸ナトリウム(NaBF4)、過塩素酸ナトリウム(NaClO4)、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)、及びナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(NaTFSI)より選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、イオンの解離性の高さの観点から、LiTFSI、及びLiFSIより得られる1種以上を含むことがさらに好ましい。アルカリ金属塩の含有量は、PAS共重合体100モルに対し、2~400モルが好ましく、2~100モルがより好ましく、2~50モルが更に好ましい。
【0061】
また、固体電解質に電子アクセプターを含むことも好ましい態様である。本発明の効果を損なわない限り限定されないが、キノン系、シアン系電子アクセプターがあげられる。例えば2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)、クロラニル、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラシアノエチレン(TCNE)、酸素、ヨウ素、五フッ化ヒ素(AsF5)等があげられ、1種類以上含有してもよいが、複数種類のアクセプターを適宜な比率で使用してもよい。
【0062】
更に、アルカリ金属塩の解離を促進し、イオン伝導性を向上させる観点から、上記以外の成分を固体電解質に含ませても良い。例えば、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、トリエチルホスフェート、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、水及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることが好ましい。
【0063】
上記固体電解質の製造方法は、PAS共重合体の融点以上に加熱してPAS共重合体と上記添加剤を混合して成形することが好ましく、加熱温度は60℃以上320℃以下が好ましく、200℃以上280℃以下がより好ましい。この温度範囲で成形することで、品質が良好な固体電解質を得ることができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明について実施例および比較例にて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0065】
[融点]
PAS共重合体を340℃で溶融して得た非晶フィルム約5mgを示差走査型熱量計(DSC)にセットし、窒素雰囲気下、以下(1)(2)の温度域を20℃/分で昇降温した際に(1)にあらわれる融解ピーク温度を融点(Tm)とした。
(1)50℃から340℃まで昇温し、340℃で1分間ホールドする
(2)(1)の終了後、100℃まで降温する。
【0066】
[結晶化度]
上記DSCの(1)で検出される融解ピーク面積より求められる融解熱量(J/g)を、PPS完全結晶時の融解熱量146.2(J/g)で除した値を結晶化度(%)とした。なお、PPS完全結晶時の融解熱量はInternational Polymer Processing, 1988, Vol.3, No.2, p.79-85の記載値を用いた。
【0067】
[重量平均分子量]
PAS共重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:SSC-7100(センシュー科学)
カラム名:GPC3506(センシュー科学)
溶離液:1-クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
【0068】
[固体電解質の調製]
PAS共重合体を平均粒子径20μm以下になるまで粉砕後、PAS共重合体100重量部に対し、アルカリ金属塩としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを23重量部、アクセプターとしてクロラニルを66重量部で混合した。混合粉末を密閉容器に投入し、表1の処理温度で加熱し3時間保持した。その後、140℃で1時間保持した後25℃に冷却し、直径10mm、厚み0.2mmの固体電解質ペレットを得た。
【0069】
[イオン伝導率]
上記で得た固体電解質は、高周波インピーダンス測定システム(東陽テクニカ社製4990EDMS-120K)を用いて100Hz~100MHzの交流電圧を印加し、複素インピーダンス法でイオン伝導率を測定した。
【0070】
[品質安定性]
固体電解質を5回作製し、それぞれのイオン伝導率を測定し得られた標準偏差をイオン伝導率の平均値で除した値を品質安定性の評価基準とした。
【0071】
[比較例1]
撹拌機付きの1リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム118g(1.00モル)、96%水酸化ナトリウム41.2g(0.99モル)、酢酸ナトリウム27.1g(0.33モル)、N-メチルー2-ピロリドン(NMP)164g(1.65モル)、およびイオン交換水150gを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水210gおよびNMP4gを留出した後、反応容器を150℃に冷却した。硫化水素の飛散量は、仕込み水硫化ナトリウム1モル当たり0.02モルであった。
【0072】
次にp-ジクロロベンゼン(p-DCB)147g(1.00モル)、NMP134g(1.35モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温し、270℃で140分反応した。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水34g(1.9モル)を圧入した。ついで250℃から180℃まで0.4℃/分の速度で冷却した後、室温近傍まで冷却した。
【0073】
内容物を取り出し、0.5リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80メッシュ)で濾別し、得られた粒子を1リットルの温水で複数回洗浄、濾別し、回収品を120℃で乾燥させてPPS(ポリマー1)を得た。
【0074】
得られたポリマー1を上記の固体電解質調製方法で固体電解質を作製し、イオン伝導率および品質安定性を評価した。
【0075】
[実施例1]
p-DCB147g(1.00モル)を加える代わりに、p-DCBを133g(0.90モル)、メタージクロロベンゼン(m-DCB)を14.4g(0.10モル)としたこと以外は比較例1と同様に重合を行い、PPS共重合体(ポリマー2)を得た。固体電解質としての評価も比較例1と同様に行った。なお、添加したp-DCBおよびm-DCBの添加量の割合から、PAS共重合体における共重合単位(m-DCBに由来する構成単位)は10モル%である。
【0076】
[実施例2]
p-DCB147g(1.00モル)を加える代わりに、p-DCBを133g(0.90モル)、メタージクロロベンゼン(m-DCB)を14.4g(0.10モル)、酢酸ナトリウムを12.3g(0.15モル)としたこと以外は比較例1と同様に重合を行い、PPS共重合体(ポリマー3)を得た。固体電解質としての評価も比較例1と同様に行った。
【0077】
[実施例3]
p-DCB147g(1.00モル)を加える代わりに、p-DCBを125g(0.85モル)、メタージクロロベンゼン(m-DCB)を21.6g(0.15モル)、酢酸ナトリウムを12.3g(0.15モル)としたこと以外は比較例1と同様に重合を行い、PPS共重合体(ポリマー4)を得た。固体電解質としての評価も比較例1と同様に行った。
【0078】
[実施例4]
p-DCB147g(1.00モル)を加える代わりに、p-DCBを133g(0.90モル)、2,5-ジクロロトルエン(2,5-DCT)を15.8g(0.10モル)としたこと以外は比較例1と同様に重合を行い、PPS共重合体(ポリマー5)を得た。固体電解質としての評価も比較例1と同様に行った。
【0079】
[実施例5]
p-DCB147g(1.00モル)を加える代わりに、p-DCBを133g(0.90モル)、2,5-ジクロローp-キシレン(2,5-DCX)を17.2g(0.10モル)としたこと以外は比較例1と同様に重合を行い、PPS共重合体(ポリマー6)を得た。固体電解質としての評価も比較例1と同様に行った。
【0080】
評価結果を表1に示す。実施例1~5からわかるように、固体電解質の作製において、融点が270℃以下のPAS共重合体を用いることで加工温度を下げることができ、融点が280℃の比較例1のPASに比べて高いイオン伝導率と、良好な品質安定性が得られることがわかる。
【0081】