(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20240611BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B41J2/175 315
B41J2/175 141
B41J2/175 169
B41J2/01 401
B41J2/01 451
B41J2/175 167
(21)【出願番号】P 2020046232
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100166523
【氏名又は名称】西河 宏晃
(74)【代理人】
【識別番号】100187539
【氏名又は名称】藍原 由和
(72)【発明者】
【氏名】祢津 貴広
(72)【発明者】
【氏名】臼田 拓真
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-269269(JP,A)
【文献】特開平07-237300(JP,A)
【文献】特開2019-130721(JP,A)
【文献】特開2004-209942(JP,A)
【文献】特開2007-326338(JP,A)
【文献】特開2007-058395(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0115804(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクタンクと、
前記インクタンク内のインクを用いて印刷を行う印刷ヘッドと、
前記インクタンク内に光を照射する光源と、
前記光源が発光する期間において前記インクタンクから入射される複数色の光を検出するセンサーと、
前記インクの
液面が屈曲している部分であるメニスカス部分に対応する位置の前記センサーの出力に基づいて、前記インクタンク内のインク種別を推定する処理部と、
を含
み、
前記処理部は、
前記メニスカス部分の読み取り結果である色に基づいて前記インク種別を推定することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記処理部は、
前記インク種別として、染料インクの色を判別することを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項
1又は2において、
前記処理部は、
前記メニスカス部分の読み取り結果である色が青である場合、前記インクの色がシアン又はブラックであると判定することを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項
1又は2において、
前記処理部は、
前記メニスカス部分の読み取り結果である色が赤である場合、前記インクの色がマゼンタ又はイエローであると判定することを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1又は2において、
前記処理部は、
前記メニスカス部分のインク有りからインク無しへと向かう方向において、波長帯域の異なる複数の光に対応する複数の色成分の信号の立ち上がり方に基づいて、前記インク種別を推定することを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
インクタンクと、
前記インクタンク内のインクを用いて印刷を行う印刷ヘッドと、
前記インクタンク内に光を照射する光源と、
前記光源が発光する期間において前記インクタンクから入射される複数色の光を検出するセンサーと、
前記インクのメニスカス部分に対応する位置の前記センサーの出力に基づいて、前記インクタンク内のインク種別を推定する処理部と、
を含
み、
前記処理部は、
前記メニスカス部分のインク有りからインク無しへと向かう方向において、波長帯域の異なる複数の光に対応する複数の色成分の信号の立ち上がり方に基づいて、前記インク種別を推定することを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
請求項
5又は6において、
前記複数色の光は、赤色の波長帯域に対応するR光、緑色の波長帯域に対応するG光及び青色の波長帯域に対応するB光であり、
前記R光に対応する信号をR信号とし、前記G光に対応する信号をG信号とし、前記B光に対応する信号をB信号とした場合に、
前記処理部は、
前記メニスカス部分における立ち上がり順が、前記B信号、前記G信号、前記R信号の順である場合、前記インクの色がシアン又はブラックであると判定し、
前記メニスカス部分における前記立ち上がり順が、前記R信号、前記B信号、前記G信号の順である場合、前記インクの色がマゼンタであると判定し、
前記メニスカス部分における前記立ち上がり順が、前記R信号、前記G信号、前記B信号の順である場合、前記インクの色がイエローであると判定することを特徴とする印刷装置。
【請求項8】
請求項1
、2
及び6のいずれか一項において、
前記複数色の光は、赤色の波長帯域に対応するR光、緑色の波長帯域に対応するG光及び青色の波長帯域に対応するB光であり、
前記R光に対応する信号をR信号とし、前記G光に対応する信号をG信号とし、前記B光に対応する信号をB信号とした場合に、
前記処理部は、
前記メニスカス部分における信号強度が、前記B信号>前記G信号>前記R信号である場合、前記インクの色がシアン又はブラックであると判定し、
前記メニスカス部分における前記信号強度が、前記R信号>前記B信号>前記G信号である場合、前記インクの色がマゼンタであると判定し、
前記メニスカス部分における前記信号強度が、前記R信号>前記G信号>前記B信号である場合、前記インクの色がイエローであると判定することを特徴とする印刷装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項において、
前記処理部は、
前
記メニスカス部分に対応する位置の前記センサーの出力に基づいて、前記インク種別を推定する処理、及び、インク量を検出する処理を行うことを特徴とする印刷装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項において、
前記センサーは、
光電変換デバイスと、前記光電変換デバイスに接続されたAFE(Analog Front End)回路を含むことを特徴とする印刷装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記光電変換デバイスは、
リニアイメージセンサーであることを特徴とする印刷装置。
【請求項12】
インクタンクと、
前記インクタンク内のインクを用いて印刷を行う印刷ヘッドと、
前記インクタンク内に光を照射する光源と、
前記光源が発光する期間において前記インクタンクから入射される複数色の光を検出するセンサーと、
前記インクの
液面が屈曲している部分であるメニスカス部分に対応する位置の前記センサーの出力に基づいて、前記インクタンク内のインク種別を推定する処理部と、
を含
み、
前記センサーは、
リニアイメージセンサーと、前記リニアイメージセンサーに接続されたAFE(Analog Front End)回路を含むことを特徴とする印刷装置。
【請求項13】
請求項11
又は12において、
前記リニアイメージセンサーは、
長手方向が鉛直方向に沿うように設けられることを特徴とする印刷装置。
【請求項14】
インクタンクと、
前記インクタンク内のインクを用いて印刷を行う印刷ヘッドと、
前記インクタンク内に光を照射する光源と、
前記光源が発光する期間において前記インクタンクから入射される複数色の光を検出するセンサーと、
センサー出力に基づいてインク量を検出する処理部と、
を含み、
前記処理部は、
前記複数色の各色に対応した前記センサーの検出結果において、インク有りからインク無しの方向において信号値が立ち上がる際の立ち上がり開始位置を最初に検知した色の前記検出結果に基づいて、前記インク量を検出することを特徴とする印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクを用いて印刷を行う印刷装置において、インク収容容器内のインクの有無を判定する手法が知られている。例えば特許文献1には、発光器から照射されインク瓶を通過した光を、受光器を用いて受光することによって、インクの液面を検出するインク供給装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
印刷装置の、なお一層の改良が求められていた。例えば、従来手法では、インクタンクに充填されるインクの種別を判定しない。特に、インクのメニスカス部分に着目してインク種別を判定する手法は開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、インクタンクと、前記インクタンク内のインクを用いて印刷を行う印刷ヘッドと、前記インクタンク内に光を照射する光源と、前記光源が発光する期間において前記インクタンクから入射される複数色の光を検出するセンサーと、前記インクのメニスカス部分に対応する位置の前記センサーの出力に基づいて、前記インクタンク内のインク種別を推定する処理部と、を含む印刷装置に関係する。
【0006】
本開示の他の態様は、インクタンクと、前記インクタンク内のインクを用いて印刷を行う印刷ヘッドと、前記インクタンク内に光を照射する光源と、前記光源が発光する期間において前記インクタンクから入射される複数色の光を検出するセンサーと、センサー出力に基づいてインク量を検出する処理部と、を含み、前記処理部は、前記複数色の各色に対応した前記センサーの検出結果において、インク有りからインク無しの方向において信号値が立ち上がる際の立ち上がり開始位置でインク面を検知した色の前記検出結果に基づいて、前記インク量を検出する印刷装置に関係する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】電子機器におけるインクタンクの配置を説明する図。
【
図3】インクタンクユニットの蓋部を開けた状態における電子機器の斜視図。
【
図5】プリンターユニット及びインクタンクユニットの構成例。
【
図7】基板、光電変換デバイス、光源の位置関係を示す図。
【
図12】センサーユニットの他の構成を示す斜視図。
【
図13】センサーユニットの他の構成を示す断面図。
【
図14】インクタンク、光源、光電変換デバイスの位置関係を説明する図。
【
図15】センサーユニットとインクタンクの位置関係を説明する図。
【
図16】センサーユニットとインクタンクの位置関係を説明する図。
【
図17】オンキャリッジタイプの印刷装置におけるセンサーユニットとインクタンクの位置関係を説明する図。
【
図21】インク量検出処理を説明するフローチャート。
【
図23】背景板を含むインクタンクを用いた場合の画素データの例。
【
図24】センサーユニット及びインクタンクの断面構成を説明する図。
【
図25】キャリブレーションによる波形の変化を説明する図。
【
図31】キャリブレーションの処理を説明するフローチャート。
【
図32】メニスカスの例、及び読み取り結果である画像の例。
【
図33】染料インクを対象とした読み取り結果の例。
【
図34】顔料インクを対象とした読み取り結果の例。
【
図35】スキャナーユニット使用時の電子機器の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが必須構成要件であるとは限らない。以下で説明する複数の実施形態は、互いに組み合わせてもよいし、入れ替えてもよい。
【0009】
1.電子機器の構成例
1.1 電子機器の基本構成
図1は、本実施形態に係る電子機器10の斜視図である。電子機器10は、プリンターユニット100と、スキャナーユニット200とを含む複合機(MFP:Multifunction Peripheral)である。また電子機器10は、印刷機能及びスキャン機能に加え、ファクシミリ機能等の他の機能を有してもよい。あるいは、印刷機能のみを有していてもよい。また電子機器10は、インクタンク310を収容するインクタンクユニット300を含む。プリンターユニット100は、インクタンク310から供給されるインクを用いて印刷を実行するインクジェットプリンターである。以下、電子機器10との記載は、適宜、印刷装置と読み替えることが可能である。
【0010】
図1には、Y軸と、Y軸と直交するX軸と、X軸及びY軸と直交するZ軸と、を示している。XYZ軸のそれぞれにおいて、矢印の向きが正方向を示しており、矢印の向きとは逆向きが負方向を示している。以下、X軸の正方向を+X方向、負方向を-X方向と表記する。Y軸及びZ軸についても同様である。電子機器10は、その使用状態において、X軸とY軸とによって規定される水平な平面に配置され、+Y方向が電子機器10の正面である。Z軸は、水平な平面に直交する軸であり、-Z方向が鉛直下方向となる。
【0011】
電子機器10は、ユーザーインターフェース部としての操作パネル101を有する。操作パネル101には、例えば、電子機器10の電源のON/OFF操作、印刷機能を用いた印刷に関する操作、スキャン機能を用いた原稿の読み取りに関する操作を行うためのボタン類が配置される。また操作パネル101には、電子機器10の動作状態及びメッセージなどを表示するための表示部150が配置される。さらに表示部150は、後述する方法で検知されたインク量を表示する。また操作パネル101には、インクタンク310にユーザーがインクを補充してリセット処理を実行するためのリセットボタンが配置されてもよい。
【0012】
1.2 プリンターユニット及びスキャナーユニット
プリンターユニット100は、インクを噴射することによって、印刷用紙などの印刷媒体Pに印刷を行う。プリンターユニット100は、当該プリンターユニット100の外殻であるケース部102を有する。ケース部102の正面側には、前面カバー104が設けられている。ここでの正面とは、操作パネル101が設けられる面を表し、電子機器10のうちの+Y方向の面を表す。操作パネル101及び前面カバー104は、ケース部102に対してX軸周りに回動可能である。電子機器10は、不図示の用紙カセットを含み、当該用紙カセットは前面カバー104に対して-Y方向に設けられる。用紙カセットは、前面カバー104と連結されており、ケース部102に対して着脱可能に装着される。用紙カセットの+Z方向には、不図示の排紙トレイが設けられており、当該排紙トレイは+Y方向及び-Y方向に伸縮可能である。排紙トレイは、
図1の状態において操作パネル101に対して-Y方向に設けられ、操作パネル101が回動することによって外部に露呈する。
【0013】
X軸が印刷ヘッド107の主走査軸HDであり、Y軸がプリンターユニット100の副走査軸VDである。用紙カセットには、複数の印刷媒体Pが積層状態で載置される。用紙カセットに載置された印刷媒体Pは、副走査軸VDに沿ってケース部102の内部に一枚ずつ供給され、プリンターユニット100で印刷された後、副走査軸VDに沿って排紙されて、排紙トレイ上に載置される。
【0014】
スキャナーユニット200は、プリンターユニット100の上に載置されている。スキャナーユニット200は、ケース部201を有している。ケース部201が、スキャナーユニット200の外殻を構成する。スキャナーユニット200は、フラットベッドタイプであり、ガラスなどの透明板状部材によって形成された原稿台と、イメージセンサーとを有している。スキャナーユニット200は、用紙などの媒体に記録された画像などを、イメージセンサーを介して画像データとして読み取る。また電子機器10は、不図示のオートドキュメントフィーダーを備えてもよい。スキャナーユニット200は、オートドキュメントフィーダーによって、積層された複数の原稿を一枚ずつ反転させながら順次給送し、イメージセンサーを用いて読み取る。
【0015】
1.3 インクタンクユニットとインクタンク
インクタンクユニット300は、プリンターユニット100に含まれる印刷ヘッド107にインクIKを供給する機能を有する。インクタンクユニット300は、ケース部301を含み、当該ケース部301は蓋部302を有する。ケース部301内には複数のインクタンク310が収容される。
【0016】
図2は、インクタンク310の収容状態を示す図である。
図2において実線で記載された部分が、インクタンク310を表す。複数のインクタンク310には、種類が異なる複数のインクIKが個別に収容されている。すなわち、複数のインクタンク310には、インクタンク310毎に異なる種類のインクIKが収容されている。
【0017】
図2の例においては、インクタンクユニット300は、5つのインクタンク310a,310b,310c,310d,310eを収容する。また本実施形態では、インクの種類として、2種類のブラックインクと、イエロー、マゼンタ、及びシアンのカラーインクとの5種類が採用されている。2種類のブラックインクとは、顔料インクと染料インクである。インクタンク310aには、顔料のブラックインクであるインクIKaが収容される。インクタンク310b,310c,310dには、イエロー、マゼンタ、シアンの各カラーインクIKb,IKc,IKdが収容される。インクタンク310eには、染料のブラックインクであるインクIKeが収容される。
【0018】
インクタンク310a,310b,310c,310d,310eは、この順序で+X方向に沿って並ぶように配置され、ケース部301内に固定されている。なお、以下では、5つのインクタンク310a,310b,310c,310d,310e及び5種類のインクIKa,IKb,IKc,IKd,IKeを区別しない場合は、単にインクタンク310及びインクIKと表記する。
【0019】
本実施形態では、5つのインクタンク310のそれぞれについて、電子機器10の外部からインクタンク310内にインクIKを注入することが可能な構成になっている。具体的には、電子機器10のユーザーが、別の容器に収容されたインクIKをインクタンク310に注入して補充する。
【0020】
本実施形態では、インクタンク310aの容量はインクタンク310b,310c,310d,310eの容量よりも大きくなっている。インクタンク310b,310c,310d,310eの容量は互いに同じである。プリンターユニット100においては、顔料のブラックインクIKaが、カラーインクIKb,IKc,IKd及び染料のブラックインクIKeと比べて、多く消費されることを想定している。そして、顔料のブラックインクIKaが収容されたインクタンク310aは、X軸において、電子機器10の中央部に近い位置に配置されている。このようにすれば、例えばケース部301がインクタンク310の側面をユーザーに視認させるための窓部を有する場合に、使用頻度の高いインクの残量を確認しやすくなる。ただし5つのインクタンク310a,310b,310c,310d,310eの配置順は、特に限定されない。また、顔料のブラックインクIKaではなく、他のインクIKb,IKc,IKd,IKeのいずれかがより多く消費される場合は、そのインクIKを容量が大きいインクタンク310aに収容してもよい。
【0021】
図3は、インクタンクユニット300の蓋部302を開いた状態における電子機器10の斜視図である。蓋部302は、ヒンジ部303を介して、ケース部301に対して回動可能である。蓋部302を開くと、5つのインクタンク310が露呈する。より具体的には、蓋部302を開くことによって、各インクタンク310に対応する5つのキャップが露呈し、当該キャップを開くことによって、インクタンク310の+Z方向の一部が露呈する。インクタンク310の+Z方向の一部とは、当該インクタンク310が有するインクの注入口311を含む領域である。ユーザーは、インクタンク310にインクIKを注入する際に、蓋部302を回動させて上方に開くことによって、インクタンク310にアクセスする。
【0022】
図4は、インクタンク310の構成を示す図である。なお、
図4におけるX,Y,Zの各軸は、電子機器10が正常な姿勢で使用されており、且つ、インクタンク310がケース部301に適切に固定された状態における軸を表す。具体的には、X軸Y軸は水平方向に沿った軸であり、Z軸は鉛直方向に沿った軸である。XYZの各軸については、特に説明がない限り、以下の図面においても同様である。インクタンク310は、±X方向が短辺方向となり、±Y方向が長手方向となる立体である。以下、インクタンク310の面のうち、+Z方向の面を上面、-Z方向の面を底面、±X方向及び±Y方向の面を側面と表記する。なお側面とは、後述する第1インクタンク壁316~第4インクタンク壁319に対応する。
【0023】
インクタンク310は、例えば、ナイロンやポリプロピレンなどの合成樹脂で形成されている。或いは、インクタンク310は透過率が高いアクリル等で形成されてもよい。また
図22を用いて後述するように、インクタンク310の内部に背景板330が設けられてもよく、インクタンク310の具体的な材質、形状、構成については種々の変形実施が可能である。
【0024】
なお上述したようにインクタンクユニット300が複数のインクタンク310を含む場合、当該複数のインクタンク310は、それぞれが別体で構成されていてもよいし、一体で構成されていてもよい。インクタンク310を一体で構成する場合、インクタンク310を一体で成形してもよいし、別体で成形された複数のインクタンク310を一体に束ねたり連結したりしてもよい。
【0025】
インクタンク310は、ユーザーによってインクIKが注入される注入口311と、インクIKを印刷ヘッド107に向けて排出する排出口312とを含む。本実施形態では、インクタンク310の前方である+Y方向側の部分の上面は、後方である-Y方向側の部分の上面よりも高くなっている。インクタンク310の前方側の部分の上面には、外部からインクIKを注入するための注入口311が設けられている。
図3を用いて上述したように、蓋部302及びキャップを開けることによって、注入口311が露呈する。この注入口311からユーザーがインクIKを注入することにより、インクタンク310に各色のインクIKを補充できる。ユーザーがインクタンク310に補充するためのインクIKは、別体の補充用容器に収容され提供される。またインクタンク310の後方側の部分の上面には、印刷ヘッド107にインクを供給するための排出口312が設けられる。注入口311が電子機器10の正面に近い側に設けられることによって、インクIKの注入を容易にすることが可能である。
【0026】
1.4 電子機器のその他の構成
図5は、本実施形態に係る電子機器10の概略構成図である。
図5に示すように、本実施形態に係るプリンターユニット100は、キャリッジ106と、紙送りモーター108と、キャリッジモーター109と、紙送りローラー110と、処理部120と、記憶部140と、表示部150と、操作部160と、外部I/F部170を含む。なお、
図5においては、スキャナーユニット200の具体的な構成を省略している。また
図5は、プリンターユニット100及びインクタンクユニット300の各部の接続関係を例示する図であって、各部の物理的な構造や位置関係を限定するものではない。例えば、インクタンク310、キャリッジ106、チューブ105等の部材の電子機器10における配置は、種々の実施形態が考えられる。
【0027】
キャリッジ106には、印刷ヘッド107が搭載されている。印刷ヘッド107は、キャリッジ106の底面側である-Z方向にインクIKを噴射する複数のノズルを有している。印刷ヘッド107と各インクタンク310との間には、チューブ105が設けられている。インクタンク310内の各インクIKは、チューブ105を介して印刷ヘッド107に送られる。印刷ヘッド107は、インクタンク310から送られる各インクIKをインク滴として、複数のノズルから印刷媒体Pに対して噴射する。
【0028】
キャリッジ106は、キャリッジモーター109に駆動されることにより、印刷媒体P上を主走査軸HDに沿って往復移動する。紙送りモーター108は、紙送りローラー110を回転駆動し、印刷媒体Pを副走査軸VDに沿って搬送する。印刷ヘッド107の噴射制御は、ケーブルを介して処理部120により行われる。
【0029】
プリンターユニット100では、処理部120の制御に基づいて、キャリッジ106が主走査軸HDに沿って移動しながら、副走査軸VDに搬送される印刷媒体Pに対して印刷ヘッド107の複数のノズルからインクIKを噴射することによって、印刷媒体Pへの印刷がなされる。
【0030】
キャリッジ106の移動領域における主走査軸HDの一端部は、キャリッジ106が待機するホームポジション領域となっている。ホームポジション領域には、例えば、印刷ヘッド107のノズルのクリーニングなどのメンテナンスを行うための不図示のキャップ等が配置されている。また、キャリッジ106の移動領域には、印刷ヘッド107のフラッシングやクリーニングを行う際の廃インクを受容するための廃インクボックスなどが配置される。なお、フラッシングとは、印刷媒体Pの印刷中に、印刷ヘッド107の各ノズルから印刷とは無関係にインクIKを噴射させることをいう。クリーニングとは、印刷ヘッド107を駆動させることなく、廃インクボックスに設けられたポンプ等で印刷ヘッドを吸引することにより印刷ヘッド内をクリーニングすることをいう。
【0031】
なお、ここではインクタンク310がキャリッジ106とは異なる箇所に設けられるオフキャリッジタイプの印刷装置を想定している。ただし、プリンターユニット100は、インクタンク310がキャリッジ106に搭載され、印刷ヘッド107とともに主走査軸HDに沿って移動するオンキャリッジタイプの印刷装置であってもよい。オンキャリッジタイプの印刷装置については、
図17を用いて後述する。
【0032】
処理部120には、ユーザーインターフェース部としての、操作部160及び表示部150が接続される。表示部150は、各種の表示画面を表示するためのものであり、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどにより実現できる。操作部160は、ユーザーが各種操作を行うためのものであり、各種ボタンやGUI等により実現できる。例えば
図1に示したように、電子機器10は操作パネル101を含み、当該操作パネル101が表示部150と、操作部160であるボタン等を含む。また表示部150と操作部160は、タッチパネルによって一体構成されてもよい。ユーザーが操作パネル101を操作することによって、処理部120は、プリンターユニット100とスキャナーユニット200とを動作させる。
【0033】
例えば、
図1において、スキャナーユニット200の原稿台に原稿をセットした後、ユーザーが操作パネル101を操作して電子機器10の動作を開始させる。そうすると、スキャナーユニット200によって原稿が読み取られる。続いて、この読み取られた原稿の画像データに基づき、用紙カセットからプリンターユニット100の内部に印刷媒体Pが給紙され、この印刷媒体Pにプリンターユニット100によって印刷がなされる。
【0034】
処理部120には、外部I/F部170を介して、外部機器を接続できる。ここでの外部機器は、例えばPC(Personal Computer)である。処理部120は、外部I/F部170を介して外部機器から画像データを受信し、プリンターユニット100によって、その画像を印刷媒体Pに印刷する制御を行う。また、処理部120は、スキャナーユニット200によって原稿を読み取り、外部I/F部170を介して読み取り結果である画像データを外部機器に送信する制御、又は、読み取り結果である画像データを印刷する制御を行う。
【0035】
処理部120は、例えば駆動制御と、消費量算出処理と、インク量検出処理と、インク種別判定処理を行う。本実施形態の処理部120は、下記のハードウェアにより構成される。ハードウェアは、デジタル信号を処理する回路及びアナログ信号を処理する回路の少なくとも一方を含むことができる。例えば、ハードウェアは、回路基板に実装された1又は複数の回路装置や、1又は複数の回路素子によって構成することができる。1又は複数の回路装置は例えばIC等である。1又は複数の回路素子は例えば抵抗、キャパシター等である。
【0036】
また処理部120は、下記のプロセッサーにより実現されてもよい。本実施形態の電子機器10は、情報を記憶するメモリーと、メモリーに記憶された情報に基づいて動作するプロセッサーと、を含む。情報は、例えばプログラムと各種のデータ等である。プロセッサーは、ハードウェアを含む。プロセッサーは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等、各種のプロセッサーを用いることが可能である。メモリーは、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などの半導体メモリーであってもよいし、レジスターであってもよいし、ハードディスク装置等の磁気記憶装置であってもよいし、光学ディスク装置等の光学式記憶装置であってもよい。例えば、メモリーはコンピューターにより読み取り可能な命令を格納しており、当該命令がプロセッサーにより実行されることによって、電子機器10の各部の機能が処理として実現されることになる。ここでの命令は、プログラムを構成する命令セットの命令でもよいし、プロセッサーのハードウェア回路に対して動作を指示する命令であってもよい。
【0037】
処理部120は、キャリッジモーター109を制御して、キャリッジ106を移動させる駆動制御を行う。駆動制御に基づいて、キャリッジモーター109が、キャリッジ106に設けられる印刷ヘッド107を移動させる駆動を行う。
【0038】
また処理部120は、印刷ヘッド107の各ノズルからインクIKを噴射させることにより消費するインク消費量を算出する消費量算出処理を行う。処理部120は、各インクタンク310にインクIKが充填された状態を初期値として、消費量算出処理を開始する。より具体的には、ユーザーがインクタンク310にインクIKを補充してリセットボタンを押すと、処理部120は、そのインクタンク310に対して、インク消費量のカウント値を初期化する。具体的にはインク消費量のカウント値を0に設定する。また処理部120は、リセットボタンの押下操作をトリガーとして、消費量算出処理を開始する。
【0039】
また処理部120は、インクタンク310に対応して設けられるセンサーユニット320の出力に基づいて、インクタンク310に収容されているインクIKの量を検出するインク量検出処理を行う。また処理部120は、インクタンク310に対応して設けられるセンサーユニット320の出力に基づいて、当該インクタンク310に収容されているインクIKの種別を判定するインク種別判定処理を行う。インク量検出処理及びインク種別判定処理の詳細は後述する。
【0040】
1.5 センサーユニットの詳細な構成例
図6は、センサーユニット320の構成を模式的に示す分解斜視図である。センサーユニット320は、基板321、光電変換デバイス322、光源323、導光体324、レンズアレイ325、ケース326を含む。
【0041】
光源323及び光電変換デバイス322は、基板321に実装される。光電変換デバイス322は、例えば光電変換素子が所定方向に並んで配置されたリニアイメージセンサーである。リニアイメージセンサーは、光電変換素子が1列に並んで配置されたセンサーであってもよいし、光電変換素子が2列以上に並んで配置されたセンサーであってもよい。光電変換素子は、例えばPD(Photodiode)である。リニアイメージセンサーを用いることによって、複数の光電変換素子に基づく複数の出力信号が取得される。そのため、インクIKの有無だけでなく、液面の位置を推定することが可能になる。なお液面は、界面と言い換えてもよい。
【0042】
光源323は、例えば、R,G,Bの各発光ダイオード(LED:Light emitting diode)を有し、R,G,Bの各発光ダイオードを高速に切り換えながら順番に発光させる。以下、Rの発光ダイオードを赤色LED323Rと表記し、Gの発光ダイオードを緑色LED323Gと表記し、Bの発光ダイオードを青色LED323Bと表記する。導光体324は、光を導くための棒状部材であって、断面形状は四角形状であってもよいし、円形状であってもよいし、他の形状であってもよい。導光体324の長手方向は、光電変換デバイス322の長手方向に沿った方向である。なお、導光体324からは、光源323からの光が出て行くことになるので、導光体324と光源323とを区別する必要が無い場合には、導光体324と光源323とをまとめて光源と称することもある。
【0043】
光源323、導光体324、レンズアレイ325、及び光電変換デバイス322は、ケース326と基板321との間に収容されている。ケース326には光源用の第1開口部327と、光電変換デバイス用の第2開口部328が設けられている。光源323が発する光が、導光体324に入射されることによって、導光体全体が発光する。導光体324から射出される光は、第1開口部327を介してケース326の外部へ照射される。外部からの光は第2開口部328を介してレンズアレイ325に入力される。レンズアレイ325は、入力された光を光電変換デバイス322へと導く。レンズアレイ325は、具体的には屈折率分布型レンズが多数配列されたセルフォックレンズアレイ(セルフォックは登録商標)である。
【0044】
図7は、光電変換デバイス322の配置を模式的に示す図である。
図7に示されるように、n(nは1以上の整数)個の光電変換デバイス322が、基板321上に所与の方向に沿って並べて配置される。ここで、
図7に示すように、nは2以上であってもよい。即ち、センサーユニット320は、リニアイメージセンサーの長手方向側に設けられる第2リニアイメージセンサーを含む。ここでのリニアイメージセンサーは例えば
図7の322-1であり、第2リニアイメージセンサーは、322-2である。各光電変換デバイス322は、上述したように、並んで配置された多数の光電変換素子を有するチップである。複数の光電変換デバイス322を用いることによって、入射光を検出する範囲が広くなるため、インク量検出の対象範囲を広くできる。ただし、リニアイメージセンサーの数、即ちインク量検出の対象範囲の設定は種々の変形実施が可能であり、リニアイメージセンサーが1つであることは妨げられない。
【0045】
図8は、センサーユニット320の配置を模式的に示す断面図である。なお、
図6及び
図7からわかるように、光電変換デバイス322と光源323はZ軸における位置が重複しないが、他の部材との位置関係を説明する便宜上、
図8では光源323を記載している。
図8に示すように、センサーユニット320は、光源323と光電変換デバイス322の間に設けられる光遮断壁329を含む。光遮断壁329は、例えばケース326の一部であって、第1開口部327と第2開口部328の間の梁状部材が基板321まで延伸することによって形成される。光遮断壁329は、光源323から光電変換デバイス322へ向かう直接光を遮断する。光遮断壁329を設けることによって、直接光の入射を抑制できるため、インク量の検出精度を高くすることが可能になる。なお、光遮断壁329は光源323から光電変換デバイス322へ向かう直接光を遮断可能であればよく、具体的な形状は
図8に限定されない。また、光遮断壁329としてケース326とは別体の部材を用いてもよい。
【0046】
インク量を精度よく検出することを考慮すれば、インクタンク310に対して照射される光は、鉛直方向での位置によらず同程度とすることが好ましい。後述するように、インクIKの有無は明るさの差異として現れるため、照射光の光量にばらつきが出てしまうと精度低下につながるためである。よってセンサーユニット320は、長手方向が鉛直方向となるように配置される導光体324を有する。ここでの導光体324は、上述したように棒状のライトガイドである。なお、導光体324を均一に光らせることを考慮すれば、光源323は横方向、即ち導光体324の長手方向に沿った方向から導光体324に光を入射することが好ましい。このようにすれば、入射角が大きくなるため、全反射が発生しやすくなる。
【0047】
図9~
図11は、光源323と導光体324の位置関係を説明する図である。例えば、
図9に示すように、光源323と導光体324がZ軸において並ぶように設けられてもよい。光源323は+Z方向に光を照射することによって、導光体324の長手方向に光を導くことが可能になる。或いは、
図10に示すように、導光体324の光源側の端部を屈曲させてもよい。このようにすれば、光源323は基板321に垂直な方向に光を照射することによって、導光体324の長手方向に光を導くことが可能になる。或いは、
図11に示すように、導光体324の光源側の端部に反射面RSを設けてもよい。光源323は基板321に垂直な方向に光を照射する。光源323からの光は、反射面RSにおいて反射されることによって、導光体324の長手方向に導かれる。なお、導光体324の-Y方向の面に反射板を設ける、当該反射板の密度を光源323からの位置に応じて変える等、本実施形態における導光体324は公知の構成を広く適用可能である。また、光源323を導光体324よりも+Z方向に設けてもよいし、同じ色の光源323を導光体324の両端にそれぞれ設けてもよく、光源323と導光体324の構成は種々の変形実施が可能である。
【0048】
図12は、センサーユニット320の他の構成を示す斜視図である。
図13は、
図12に示すセンサーユニット320の断面図である。
図6を用いて上述した例と同様に、センサーユニット320は、基板321、光電変換デバイス322、光源323、導光体324、レンズアレイ325、ケース326を含む。
【0049】
図12、
図13に示すように、導光体324のうちの光の照射面は、光電変換デバイス322が設けられる基板321の基板面に対して、斜めに設けられてもよい。
図13に示すように、導光体324は、光源323からの光を、A1に示す方向を含む所与の範囲に照射する。導光体324から照射された光は、インクタンク310において反射される。A2に示すように、主に基板321の基板面に直交する方向の反射光がレンズアレイ325に入射し、レンズアレイ325は当該反射光を光電変換デバイス322に結像させる。このようにすれば、光源323からの光がインクタンク310に入射する際の入射角を調整することが可能になる。例えば
図22を用いて後述するようにインクタンク310の内部に背景板330が設けられる実施形態であれば、光源323から導光体324を介して照射される光が背景板330に到達可能な角度となるように、入射角が設定される。
【0050】
なお
図12、
図13では光源323を省略している。例えば光源323は、基板321に設けられ、
図10又は
図11に示したように、基板321の基板面に直交する方向に光を照射する。或いは、
図9に示したように光源323と導光体324がZ軸において並ぶように設けられ、光源323は+Z方向又は-Z方向に光を照射してもよい。この場合、例えば基板321とは別に、光源323用の基板が設けられてもよい。
【0051】
1.6 インクタンクとセンサーユニットの位置関係
センサーユニット320は、例えばインクタンク310との相対的な位置関係が固定されてもよい。例えばセンサーユニット320は、インクタンク310に接着される。或いは、センサーユニット320及びインクタンク310にそれぞれ固定用の部材が設けられ、当該部材同士が嵌合等によって固定されることによって、センサーユニット320がインクタンク310に装着されてもよい。固定用部材の形状、材質等は種々の変形実施が可能である。
【0052】
図14は、インクタンク310とセンサーユニット320との位置関係を説明する図である。
図14に示すように、センサーユニット320は、光電変換デバイス322の長手方向が±Z方向となる姿勢で、インクタンク310のいずれかの壁面に固定される。即ち、リニアイメージセンサーである光電変換デバイス322は、長手方向が鉛直方向に沿うように設けられる。ここでの鉛直方向とは、電子機器10が適切な姿勢で使用された場合における重力方向、及びその逆方向を表す。
【0053】
図14の例において、センサーユニット320は、インクタンク310の-Y方向の側面に固定される。即ち、光電変換デバイス322が設けられる基板321は、インクタンク310の注入口311よりも排出口312に近い。プリンターユニット100における印刷が実行できるか否かは、インクIKが印刷ヘッド107に供給されるか否かによる。そのため、排出口312側にセンサーユニット320を設けることによって、インクタンク310のうち、特にインク量が重要となる位置を対象として、インク量の検出処理を行うことが可能になる。
【0054】
なお
図14に示すように、インクタンク310は、メイン容器315と、第2排出口313と、インク流路314を含んでもよい。メイン容器315とは、インクタンク310のうち、インクIKの収容に用いられる部分である。第2排出口313は、例えばメイン容器315のうち、最も-Z方向の位置に設けられる開口である。ただし第2排出口313の設けられる位置や形状については、種々の変形実施が可能である。例えば、インクタンク310に対して、吸引ポンプによる吸引、或いは加圧ポンプによる加圧空気の供給が行われた場合、インクタンク310のメイン容器315内に蓄積されたインクIKは、第2排出口313から排出される。第2排出口313から排出されたインクIKは、インク流路314によって+Z方向に案内され、排出口312からインクタンク310の外部へ排出される。この際、
図14に示すように、インク流路314と、光電変換デバイス322が対向しない位置関係とすることによって、適切なインク量の検出処理が可能である。例えば、インク流路314はインクタンク310のうち、-X方向の端部に設けられ、センサーユニット320はインク流路314よりも+X方向に設けられる。このようにすれば、インク流路314内のインクによって、インク量検出処理の精度が低下することを抑制できる。ただし、排出口312は、インクタンク310の側面や底面に設けられてもよい。
【0055】
なお、インクタンク310の内壁のうち、少なくとも光電変換デバイス322に対向する部分は、インクタンク310の外壁に比べて撥インク性が高いことが望ましい。もちろんインクタンク310の内壁全体を加工して、インクタンク310の外壁に比べて撥インク性が高くなるようにしてもよい。光電変換デバイス322に対向する部分とは、インクタンク310の-Y方向の内壁全体であってもよいし、当該内壁の一部であってもよい。内壁の一部とは、具体的にはインクタンク310の-Y方向の内壁のうち、XZ平面での位置が光電変換デバイス322と重複する部分を含む領域である。インクタンク310の内壁にインク滴が付着した場合、当該インク滴の部分は、インクが存在しない部分に比べて暗くなる。そのため、インク滴に起因してインク量の検出精度が低下するおそれがある。インクタンク310の内壁の撥インク性を高くすることによって、インク滴の付着を抑制することが可能になる。
【0056】
光電変換デバイス322は、例えばZ軸において、z1~z2の範囲に設けられる。z1及びz2は、Z軸における座標値であり、z1<z2である。光源323からの光がインクタンク310に照射された場合、インクタンク310に充填されたインクIKによって、光の吸収、散乱が生じる。そのため、インクタンク310のうち、インクIKが充填されていない部分は相対的に明るくなり、インクIKが充填されている部分は相対的に暗くなる。例えば、Z軸における座標値がz0の位置にインクIKの液面が存在する場合、インクタンク310のうち、Z座標値がz0以下の領域が暗くなり、z0より大きい領域が明るくなる。
【0057】
図14に示すように、長手方向が鉛直方向となるように光電変換デバイス322を設けることによって、インクIKの液面の位置を適切に検出することが可能になる。具体的には、z1<z0<z2であれば、光電変換デバイス322のうち、z1~z0の範囲に対応する位置に配置された光電変換素子は、入力される光量が相対的に少ないため、出力値が相対的に小さくなる。z0~z2の範囲に対応する位置に配置された光電変換素子は、入力される光量が相対的に多いため、出力値が相対的に大きくなる。即ち、光電変換デバイス322の出力に基づいて、インクIKの液面であるz0を推定することが可能になる。インク量が所定量以上であるか否かという2値の情報だけでなく、具体的な液面位置を検出することが可能になる。液面の位置がわかれば、インクタンク310の形状に基づいてミリリットル等の単位でインク量を決定することも可能である。また、z1~z2の範囲全体の出力値が大きい場合、液面がz1よりも低いと判定し、z1~z2の範囲全体の出力値が小さい場合、液面がz2よりも高いと判定することも可能である。また、インク量を検出可能な範囲は光電変換デバイス322が設けられる範囲であるz1~z2の範囲となる。そのため、光電変換デバイス322の数や1チップあたりの長さを変更することによって、検出範囲を容易に調整可能である。
【0058】
なお、インクタンク310とセンサーユニット320は、インク量の検出処理を行う際に
図14に示す位置関係、或いはそれに類似する位置関係となればよく、当該位置関係が固定されるものに限定されない。
【0059】
図15及び
図16は、本実施形態の印刷装置におけるインクタンク310と、センサーユニット320の位置関係を説明する斜視図である。
図15及び
図16に示すように、複数のインクタンク310は第1方向に並ぶ。ここでの第1方向は例えば±X方向であり、印刷装置の主走査軸HDに対応する。ここではインクタンク310として5つのインクタンク310a~310eを例示している。ここで
図15及び
図16に示すように、センサーユニット320は、インクタンク310に対し、第1方向へ相対的に移動してもよい。
【0060】
インクタンク310とセンサーユニット320がX軸方向に沿って相対移動可能である場合、
図15に示すようにインクタンク310aとセンサーユニット320のX軸での位置が重複する状態と、
図16に示すようにインクタンク310bとセンサーユニット320のX軸での位置が重複する状態を切り替えることが可能になる。
図15に示す状態においては、センサーユニット320は、インクタンク310aに含まれるインクIKaのインク量を検出できる。
図16に示す状態においては、センサーユニット320は、インクタンク310bに含まれるインクIKbのインク量を検出できる。またインクタンク310c~310e等の他のインクタンク310についても同様である。
【0061】
そのため、少数のセンサーユニット320、狭義には1つのセンサーユニット320を用いて、複数のインクタンク310を対象としたインク量検出処理、インク種別判定処理を実行することが可能である。また
図28、
図29を用いて後述するように、インクタンク310の端部や、インクタンク310とは別に設けられる反射部材350を用いてキャリブレーションを行う場合に、インク量検出用のセンサーユニット320を用いて、キャリブレーション用のデータを取得できる。即ち、キャリブレーション用のセンサーユニットを別途設ける必要がなく、構成の簡略化が可能である。
【0062】
図17は、インクタンク310、センサーユニット320を+Z方向から観察した場合の、各部の位置関係を説明する図である。
図17に示すように、印刷装置は、インクタンク310を搭載し、筐体に対して移動するキャリッジ106を含む。即ち、キャリッジ106は、インクタンク310と印刷ヘッド107を有し、それらを搭載した状態で主走査方向に移動可能である。センサーユニット320は、キャリッジ106外の位置に固定される。このようにすれば、キャリッジ106を駆動する制御によって、インクタンク310とセンサーユニット320の位置関係を調整することが可能になる。なお、キャリッジ106とセンサーユニット320の両方を駆動することも妨げられない。
【0063】
1.7 センサーユニットと処理部の詳細な構成例
図18は、センサーユニット320に関する機能ブロック図である。電子機器10は、処理部120とAFE(Analog Front End)回路130を含む。本実施形態においては、光電変換デバイス322及びAFE回路130をセンサー190と表記する。処理部120は第2基板111に設けられる。処理部120は、
図5に示した処理部120に対応し、光電変換デバイス322を制御する制御信号を出力する。制御信号は、後述するクロック信号CLK、チップイネーブル信号EN1を含む。AFE回路130は、少なくとも、光電変換デバイス322からのアナログ信号をA/D変換する機能を備えた回路である。第2基板111は、例えば電子機器10のメイン基板であり、上述した基板321はセンサーユニット用のサブ基板である。
【0064】
図18においては、センサーユニット320は、赤色LED323R、緑色LED323G、青色LED323Bと、n個の光電変換デバイス322を含む。上述したように、nは1以上の整数である。赤色LED323R、緑色LED323G及び青色LED323Bは光源323に備えられており、複数の光電変換デバイス322は、基板321上に並べて配置されている。赤色LED323R、緑色LED323G及び青色LED323Bは、それぞれ複数個存在してもよい。
【0065】
AFE回路130は、例えば集積回路(IC:Integrated Circuit)で実現される。AFE回路130は不図示の不揮発性メモリーを含む。ここでの不揮発性メモリーは、例えばSRAMである。なお、AFE回路130は基板321に設けられてもよいし、基板321とは異なる基板に設けられてもよい。
【0066】
処理部120は、センサーユニット320の動作を制御する。まず、処理部120は、赤色LED323R、緑色LED323G及び青色LED323Bの動作を制御する。具体的には、処理部120は、一定の周期Tで赤色LED323Rに対して一定の露光時間Δtだけ駆動信号DrvRを供給し、赤色LED323Rを発光させる。同様に、処理部120は、周期Tで緑色LED323Gに対して露光時間Δtだけ駆動信号DrvGを供給して緑色LED323Gを発光させ、周期Tで青色LED323Bに対して露光時間Δtだけ駆動信号DrvBを供給して青色LED323Bを発光させる。処理部120は、周期Tの間に、赤色LED323R、緑色LED323G及び青色LED323Bを排他的に1つずつ順番に発光させる。
【0067】
また、処理部120は、n個の光電変換デバイス322(322-1~322-n)の動作を制御する。具体的には、処理部120は、n個の光電変換デバイス322に対して、クロック信号CLKを共通に供給する。クロック信号CLKは、n個の光電変換デバイス322の動作クロック信号であり、n個の光電変換デバイス322の各々はクロック信号CLKに基づいて動作する。
【0068】
各光電変換デバイス322-j(j=1~n)は、各光電変換素子が光を受けた後、チップイネーブル信号ENjを受けると、クロック信号CLKに同期して、各光電変換素子が受けた光に基づき、出力信号OSを生成し、出力する。
【0069】
処理部120は、赤色LED323R、緑色LED323G又は青色LED323Bを発光させた後、光電変換デバイス322-1が出力信号OSの出力を終了するまでの時間だけアクティブとなるチップイネーブル信号EN1を生成し、光電変換デバイス322-1に供給する。
【0070】
光電変換デバイス322-jは、出力信号OSの出力を終了する前にチップイネーブル信号ENj+1を生成する。そして、チップイネーブル信号EN2~ENnは、それぞれ、光電変換デバイス322-2~322-nに供給される。
【0071】
これにより、赤色LED323R、緑色LED323G又は青色LED323Bが発光した後、n個の光電変換デバイス322が順番に出力信号OSを出力する。そして、センサーユニット320は、n個の光電変換デバイス322が順番に出力する出力信号OSを不図示の端子から出力する。出力信号OSは、AFE回路130に転送される。
【0072】
AFE回路130は、n個の光電変換デバイス322から順番に出力される出力信号OSを順次受け取り、各出力信号OSに対して、増幅処理やA/D変換処理を行って、各光電変換素子の受光量に応じたデジタル値を含むデジタルデータに変換し、各デジタルデータを順番に処理部120に送信する。処理部120は、AFE回路130から順番に送信される各デジタルデータを受け取って、後述するインク量検出処理及びインク種別判定処理を行う。
【0073】
図19は、光電変換デバイス322の機能ブロック図である。光電変換デバイス322は、制御回路3222、昇圧回路3223、画素駆動回路3224、p個の画素部3225、CDS(Correlated Double Sampling)回路3226、サンプルホールド回路3227、出力回路3228を備えている。なお、光電変換デバイス322の構成は
図19に限定されず、一部の構成を省略する等の変形実施が可能である。例えば、CDS回路3226、サンプルホールド回路3227、出力回路3228が省略され、AFE回路130においてノイズ低減処理、増幅処理等の対応する処理が行われてもよい。
【0074】
光電変換デバイス322は、2つの電源端子VDP,VSPからそれぞれ電源電圧VDD及び電源電圧VSSが供給される。また光電変換デバイス322は、チップイネーブル信号EN_Iと、クロック信号CLKと、基準電圧供給端子VRPから供給される基準電圧VREFとに基づいて動作する。電源電圧VDDは高電位側電源に対応し、例えば3.3Vである。VSSは低電位側電源に対応し、例えば0Vである。チップイネーブル信号EN_Iは、
図18のチップイネーブル信号EN1~ENnのいずれかである。
【0075】
チップイネーブル信号EN_I、クロック信号CLKは、制御回路3222に入力される。制御回路3222は、チップイネーブル信号EN_I及びクロック信号CLKに基づいて、昇圧回路3223、画素駆動回路3224、p個の画素部3225、CDS回路3226及びサンプルホールド回路3227の動作を制御する。具体的には、制御回路3222は、昇圧回路3223を制御する制御信号CPC、画素駆動回路3224を制御する制御信号DRC、CDS回路3226を制御する制御信号CDSC、サンプルホールド回路3227を制御するサンプリング信号SMP、画素部3225を制御する画素選択信号SEL0、リセット信号RST及びチップイネーブル信号EN_Oを生成する。
【0076】
昇圧回路3223は、制御回路3222からの制御信号CPCに基づいて、電源電圧VDDを昇圧し、昇圧された電源電圧をハイレベルとする転送制御信号Txを生成する。転送制御信号Txは、露光時間Δtの間に光電変換素子による光電変換に基づいて生成された電荷を転送するための制御信号であり、p個の画素部3225に共通に供給される。
【0077】
画素駆動回路3224は、制御回路3222からの制御信号DRCに基づいて、p個の画素部3225を駆動する駆動信号Drvを生成する。p個の画素部3225は1次元方向に並んで設けられており、駆動信号Drvはp個の画素部3225に転送される。そして、i番目(iは1~pのいずれか)の画素部3225は、駆動信号Drvがアクティブ、かつ、画素選択信号SELi-1がアクティブのときに、画素選択信号SELiをアクティブにして信号を出力する。画素選択信号SELiはi+1番目の画素部3225に出力される。
【0078】
p個の画素部3225は、光を受けて光電変換する光電変換素子を含み、それぞれ、転送制御信号Tx、画素選択信号SEL(SEL0~SELp-1のいずれか)、リセット信号RST及び駆動信号Drvに基づき、光電変換素子が露光時間Δtの間に受けた光に応じた電圧の信号を出力する。p個の画素部3225から出力される信号は、順番にCDS回路3226に転送される。
【0079】
CDS回路3226は、p個の画素部3225からそれぞれ出力される信号を順番に含む信号Voが入力され、制御回路3222からの制御信号CDSCに基づいて動作する。CDS回路3226は、p個の画素部3225が有する増幅トランジスターの特性ばらつきにより発生し、信号Voに重畳されている雑音を、基準電圧VREFを基準とする相関二重サンプリングによって除去する。すなわち、CDS回路3226は、p個の画素部3225から出力された信号に含まれるノイズを低減するノイズ低減回路である。
【0080】
サンプルホールド回路3227は、CDS回路3226によって雑音が除去された信号をサンプリング信号SMPに基づいてサンプリングし、サンプリングした信号をホールドして出力回路3228に出力する。
【0081】
出力回路3228は、サンプルホールド回路3227が出力する信号を増幅して出力信号OSを生成する。前述の通り、出力信号OSは出力端子OP1を介して光電変換デバイス322から出力され、AFE回路130に供給される。
【0082】
制御回路3222は、出力回路3228からの出力信号OSの出力が終了する少し前に、ハイパルス信号であるチップイネーブル信号EN_Oを生成し、出力端子OP2から次段の光電変換デバイス322に出力する。ここでのチップイネーブル信号EN_Oは、
図18におけるチップイネーブル信号EN2~ENn+1のいずれかである。その後、制御回路3222は、出力回路3228に出力信号OSの出力を停止させ、さらに出力端子OP1をハイインピーダンスに設定する。
【0083】
以上のように、本実施形態のセンサー190は、光電変換デバイス322と、当該光電変換デバイス322に接続されたAFE回路130を含む。このようにすれば、光電変換デバイス322から出力される出力信号OSに基づいて、適切な画素データを出力することが可能になる。出力信号OSはアナログ信号であり、画素データはデジタルデータである。例えばセンサー190は、光電変換デバイス322に含まれる光電変換素子の数に対応する数の画素データを出力する。
【0084】
2.インク量検出処理
2.1 インク量検出処理の概要
図20は、センサー190の出力である画素データの波形を示す模式図である。なお、
図18を用いて上述したように、光電変換デバイス322の出力信号OSはアナログ信号であり、AFE回路130によるA/D変換によって、デジタルデータである画素データが取得される。
【0085】
図20の横軸は光電変換デバイス322の長手方向における位置を表し、縦軸は当該位置に設けられる光電変換素子に対応する画素データの値を表す。
図20は、例えば赤色LED323Rに対応するR信号、緑色LED323Gに対応するG信号、青色LED323Bに対応するB信号のいずれかを表す波形である。
【0086】
光電変換デバイス322の長手方向が鉛直方向となる場合において、横軸の左方向は-Z方向に対応し、右方向が+Z方向に対応する。光電変換デバイス322とインクタンク310の位置関係が既知であれば、各光電変換素子と、インクタンク310の基準位置からの距離とを対応付けることが可能である。インクタンク310の基準位置とは、例えば、インクタンク310の内側底面に相当する位置である。内側底面とは、想定される最も低いインク液面の位置である。
【0087】
また1つの光電変換素子に対応する画素データは、例えば8ビットのデータであって、0~255の範囲の値となる。なお縦軸の値は、
図25等を用いて後述するキャリブレーション等が行われた後のデータであってもよい。また画素データは、8ビットに限定されるものでもなく、4ビットや12ビットなど、他のビットであってもかまわない。
【0088】
上述したように、インクIKが存在しない領域に対応する光電変換素子は相対的に受光する光量が多く、インクIKが存在する領域に対応する光電変換素子は相対的に受光する光量が少ない。
図20の例においては、D1に示した範囲において画素データの値が大きく、D3に示した範囲において画素データの値が小さい。そして、D1とD3の間のD2に示した範囲において、位置の変化に対して画素データの値が大きく変化する。即ち、D1の範囲は、インクIKが存在しない蓋然性が高い。D3の範囲は、インクIKが存在する蓋然性が高い。D2の範囲に、インクIKが存在する領域と存在しない領域の境界である液面が位置する蓋然性が高い。
【0089】
処理部120は、センサー190が出力する画素データに基づいてインク量検出処理を行う。具体的には、処理部120は、画素データに基づいて、インクIKの液面の位置を検出する。
図20に示したように、インクIKの液面は、D2のいずれかの位置に存在すると考えられる。よって処理部120は、D1における画素データの値よりも小さく、且つ、D3における画素データの値よりも大きい所与の閾値Thに基づいて、インクIKの液面を検出する。
【0090】
このようにすれば、リニアイメージセンサーである光電変換デバイス322を用いて、インクタンク310に含まれるインク量を検出可能になる。なおThを用いて直接的に求められる情報は、光電変換デバイス322に対するインク液面の相対的な位置である。よって処理部120は、液面の位置に基づいて、インクIKの残量を求める演算を行ってもよい。
【0091】
また処理部120は、全ての画素データがThよりも大きい場合、インク量検出の対象範囲にインクIKが存在しない、即ち液面は光電変換デバイス322の-Z方向の端点よりもさらに低い位置にあると判定する。また処理部120は、全ての画素データがThよりも小さい場合、インク量検出の対象範囲はインクIKが充填されている、即ち液面は光電変換デバイス322の+Z方向の端点よりもさらに高い位置にあると判定する。もし、液面が光電変換デバイス322の+Z方向の端点よりもさらに高い位置にあるということがありえないのであれば、異常が発生していると判定してもよい。
【0092】
なお、インク量検出処理は、
図20の閾値Thを用いた処理に限定されない。例えば処理部120は、
図20に示すグラフの傾きを求める処理を行う。傾きとは、具体的には微分値であり、さらに具体的には隣り合う画素データの差分値である。そして処理部120は、傾きが所定閾値よりも大きい点、より具体的には傾きが最大となる位置を液面の位置として検出する。なお処理部120は、求められた傾きの最大値が所与の傾き閾値以下の場合、液面は光電変換デバイス322の-Z方向の端点よりもさらに低い位置、又は、+Z方向の端点よりもさらに高い位置にあると判定する。液面がいずれの側にあるかは、画素データの値から識別可能である。
【0093】
なお、センサー190が波長帯域の異なる複数の光を受光可能な場合、インク量検出処理は、いずれか1つの光の受光結果に基づいて行われてもよい。例えば
図32等を用いて後述するように、メニスカス部分における画素データの特性に基づいて、いずれの光に対応する画素データを用いてインク量検出処理を行うかが決定されてもよい。或いは処理部120は、各画素データを用いてそれぞれ液面の位置を特定し、特定された位置に基づいて、最終的な液面の位置を決定してもよい。例えば処理部120は、Rの画素データに基づいて求められた液面位置と、Gの画素データに基づいて求められた液面位置と、Bの画素データに基づいて求められた液面位置と、の平均値等を液面位置として決定する。或いは処理部120は、RGBの3つの画素データを合成した合成データを求め、当該合成データに基づいて液面の位置を求めてもよい。合成データとは、例えば各点においてRGBの画素データを平均することによって求められる平均データである。
【0094】
図21は、インク量検出処理を含む処理を説明するフローチャートである。この処理が開始されると、処理部120は、光源323を発光させる制御を行う(S101)。そして光源323が発光する期間において、光電変換デバイス322を用いた読み取り処理を行う(S102)。光源323が複数のLEDを含む場合、処理部120は赤色LED323R、緑色LED323G、青色LED323Bのそれぞれについて、順次S101及びS102の処理を実行する。以上の処理によって、RGB3つの画素データが取得される。
【0095】
次に処理部120は、取得された画素データに基づいてインク量の検出処理を行う(S103)。S103の具体的な処理は、上述したように、閾値Thとの比較処理、傾きの最大値の検出処理等、種々の変形実施が可能である。
【0096】
処理部120は、検出した液面の位置に基づいて、インクタンク310に充填されているインクIKの量を判定する(S104)。例えば処理部120は、あらかじめ「残量大」、「残量小」、「インクエンド」の3段階のインク量を設定しておき、現在のインク量がそのうちのいずれに該当するかを判定する。残量大とは、インクIKが十分な量だけ残っており印刷の継続においてユーザーの対応が不要である状態を表す。残量小とは、印刷の継続自体は可能であるが、インク量が減っておりユーザーによる補充が望ましい状態を表す。インクエンドとは、インク量が著しく減っており、印刷動作を停止すべき状況を表す。
【0097】
S104の処理において残量大と判定された場合(S105)、処理部120は報知等を行わずに処理を終了する。S104の処理において残量小と判定された場合(S106)、処理部120はユーザーにインクIKの補充を促す報知処理を行う(S107)。報知処理は、例えば表示部150にテキストや画像を表示することによって行われる。ただし、報知処理は表示に限定されず、報知用の発光部を発光させることによる報知であってもよいし、スピーカーを用いた音による報知であってもよいし、これらを組み合わせた報知であってもよい。S104の処理においてインクエンドと判定された場合(S108)、処理部120はユーザーにインクIKの補充を促す報知処理を行う(S109)。S109の報知処理は、S107の報知処理と同じ内容であってもよい。ただし、上述したようにインクエンドは印刷動作の継続が難しく、残量小に比べて深刻な状態である。よって処理部120は、S109においてS107とは異なる報知処理を行ってもよい。具体的には、処理部120は、S107の処理に比べて、表示するテキストをユーザーにより強くインクIKの補充を促す内容に変更する、光の発光頻度を高くする、音を大きくする等の処理をS109において実行してもよい。また処理部120は、S109の処理後、印刷動作の停止制御等の不図示の処理を行ってもよい。
【0098】
図21に示したインク量検出処理の実行トリガーは種々の設定が可能である。例えば、所与の印刷ジョブの実行開始を実行トリガーとしてもよいし、所定時間の経過を実行トリガーとしてもよい。
【0099】
また処理部120は、インク量検出処理によって検出されたインク量を記憶部140に記憶してもよい。そして処理部120は、検出されたインク量の時系列変化に基づいて処理を行う。例えば処理部120は、所与のタイミングにおいて検出されたインク量と、それよりも前のタイミングにおいて検出されたインク量の差分に基づいて、インク増加量又はインク減少量を求める。
【0100】
インクIKは印刷やヘッドクリーニング等に用いられるため、インク量が減少することは電子機器10の動作として自然である。ただし、印刷における単位時間あたりのインクIKの消費量や、ヘッドクリーニングの1回あたりのインクIKの消費量はある程度決まっており、極端に消費量が大きい場合、インクの漏れなどの何らかの異常が発生しているおそれがある。
【0101】
例えば処理部120は、印刷等において想定される標準インク消費量をあらかじめ求めておく。標準インク消費量は、単位時間あたりの予想インク消費量に基づいて求められてもよいし、1ジョブあたりの予想インク消費量に基づいて求められてもよい。処理部120は、時系列のインク量検出処理に基づいて求められたインク減少量が、標準インク消費量に比べて所定量以上多い場合に異常と判定する。或いは処理部120は、インクIKの吐出回数をカウントすることによってインク消費量を算出する消費量算出処理を行ってもよい。この場合、処理部120は、時系列のインク量検出処理に基づいて求められたインク減少量が、消費量算出処理によって算出されたインク消費量に比べて所定量以上多い場合に異常と判定する。
【0102】
処理部120は、異常と判定された場合に異常フラグをオンに設定する。このようにすれば、インク量が過剰に減少した場合に、何らかのエラー処理を実行することが可能になる。異常フラグがオンに設定された場合の処理は種々考えられる。例えば、処理部120は異常フラグをトリガーとして、
図21に示したインク量検出処理を再度実行してもよい。或いは、処理部120は、異常フラグに基づいてユーザーにインクタンク310の確認を促す報知処理を行ってもよい。
【0103】
またインク量は、ユーザーがインクIKを補充することによって増加する。ただし、電子機器10の揺れによる一時的な液面の変化、チューブ105からのインクIKの逆流、光電変換デバイス322の検出誤差等、インクIKが補充されていない場合にもインク量が増加することは考えられる。よって処理部120は、インク増加量が所与の閾値以下である場合、インクIKは補充されておらず、且つ、増加幅も許容可能な誤差の範囲内と判定する。この場合、インク量の変化は正常な状態であると判定されるため、追加の処理は特に行われない。
【0104】
一方、処理部120は、インク増加量が所与の閾値よりも大きい場合、インクIKが補充されたと判定し、インク補充フラグをオンに設定する。インク補充フラグは、例えば後述するインク種別判定処理の実行トリガーとして用いられる。またインク補充フラグは、消費量算出処理において、初期値をリセットする処理のトリガーとして用いられてもよい。
【0105】
ただし、インク増加量が所与の閾値よりも大きい場合、何らかの異常によって許容できないほど大きい誤差が生じている可能性も否定できない。よって処理部120は、ユーザーに対してインクIKを補充したか否かの入力を求める報知処理を行い、ユーザーの入力結果に基づいて異常フラグを設定するか、インク補充フラグを設定するかを決定してもよい。
【0106】
2.2 背景板を用いる例
上述したように、インクタンク310は例えばポリプロピレン等の種々の材料を用いることが可能である。インクタンク310の材料に応じて、或いは、インクタンク310を成型する際の温度等の条件に応じて、インクタンク310の透過率が異なる。ここでの透過率とは、所与の物体に入射した光の強度と、当該物体を通過した後の光の強度の比率を表す。例えば所与の物体の透過率が50%であるとは、当該物体を通過することによって、光の強度が半分に減衰することを表す。インクタンク310の透過率とは、例えばインクタンク310の1つの壁面における透過率であって、センサーユニット320からインクタンク310の+Y方向側の側面に入射する光と、+Y方向側の側面を透過してインクタンク310の内部に進入した光の強度比を表す。
【0107】
例えばポリプロピレンでは、内部に存在する細かい粒子によって光の吸収、散乱が発生することによって、透過率が低くなる場合がある。透過率が100%に比べてある程度低い場合、インクタンク310に入射した光は、インクタンク310の壁面や壁の内部等において反射、散乱する。ここでの壁面は、外壁と内壁の両方を含む。そのため、インクタンク310が導光体となり、インクタンク310の光が当たっていない場所が発光する。上述したように、インクIKが存在する領域ではインクIKにより光が吸収され、インクIKが存在しない領域では光が吸収されないという違いがある。当該違いに起因して、導光体であるインクタンク310からの光は、インクIKが存在する領域からの光量は小さく、インクIKが存在しない領域からの光量が大きいという特性を有する。そのため、上述したように画素データに基づくインク量検出が可能になる。
【0108】
しかし透過率が低い場合、インクタンク壁において光の散乱が生じやすい。そのため、インクタンク310内の所与の位置からの光が、±Z方向に拡散する。結果として液面の近傍では、インクが存在しない領域がある程度暗く観察されたり、インクが存在する領域がある程度明るく観察される。例えば、インクタンク壁が曇りガラスであると考えれば理解が容易であり、インクタンク壁を介することによって、液面がぼやけた状態で観察される。
【0109】
結果として、
図20のD2に示すように、液面が存在する蓋然性が高い領域が、±Z方向において、ある程度の幅を有してしまう。換言すれば、センサー190から出力される画素データの傾きが小さくなってしまう。所与の閾値Thとの比較処理に基づいて液面を判定する場合、画素データの傾きが小さいと、Thの設定に応じて判定結果である液面の位置が大きく変化してしまう。例えば所与の種別のインクIKについて、閾値Thは50~100程度の値が妥当であるということがわかっていたとしても、Th=50とした場合とTh=100とした場合での液面位置の差が大きい。そのため、精度の高い液面検出を行うためには閾値Thを厳密に設定する必要が生じてしまう。或いは、後述するキャリブレーションを精度よく行っておく必要が生じてしまう。
【0110】
これに対して、インクタンク310の透過率を高くすることによって、画素データの傾きも大きくなることが期待できる。透過率が高いということは壁面での散乱、吸収が発生しにくい。そのため光の拡散が抑制され、インクタンク310内からの光は、Z軸での位置を維持したままレンズアレイ325及び光電変換デバイス322に到達しやすくなる。
【0111】
しかし、透明度が高い場合、反射光の光量が少なくなるおそれがある。例えば、インクタンク310の全ての面が完全に透明である場合、センサーユニット320から照射された光は、インクIKが存在しない領域を通過し、-Y方向の側面等から射出されてしまう。換言すれば、インクタンク310が導光体のように発光することがない。この場合、インクIKが存在しない領域から光が返ってこないため、当該領域での画素データが大きくならない。インクIKが存在する領域からは、インクIKによる反射光が戻ることになるが、
図20等を用いて上述したように光量は小さい。即ち、単純にインクタンク310の透過率を高くするだけでは、インクIKの有無によらず画素データの値が小さくなってしまい、インク量検出が難しくなるおそれがある。
【0112】
図22は、インクタンク310の構成を示す模式図である。なお、
図22ではインクタンク310の形状を簡略化し、直方体である例について説明するが、インクタンク310は例えば
図4に示す形状であってもよいし、他の形状であってもよい。インクタンク310は、センサーユニット320に対応する第1インクタンク壁316と、第1インクタンク壁に対向する第2インクタンク壁317を含む。例えば、第1インクタンク壁316は-Y方向の側面であり、第2インクタンク壁317は+Y方向の側面である。またインクタンク310は、センサーユニット320から見て右方の側面である第3インクタンク壁318と、左方の側面である第4インクタンク壁319を含む。ここでの左右方向とは、センサーユニット320からインクタンク310を見た方向、及び鉛直方向に直交する方向であり、例えば+X方向が左方、-X方向が右方である。
【0113】
図22に示すように、本実施形態の印刷装置は、インクタンク310の内部に背景板330を備えてもよい。詳しくは、第1インクタンク壁316と第2インクタンク壁317との間に設けられ、光源323及びセンサー190に対向する背景板330を含んでもよい。上述したように、第1インクタンク壁316は、光源323及びセンサー190に対向する側面である。第2インクタンク壁317は、第1インクタンク壁316に対向する側面である。なおここでのセンサー190とは狭義には光電変換デバイス322である。そして処理部120は、センサー190の出力に基づいて、インクタンク310内のインク量を検出する。
【0114】
このようにすれば、センサーユニット320の光源323から照射された光は、背景板330によって反射され、反射光がレンズアレイ325を介して光電変換デバイス322に到達可能である。そのため、インクタンク310の透過率を高くすることが可能である。
【0115】
図23は、
図20に比べてインクタンク310の透過率を高くし、且つ、インクタンク310の内部に背景板330を設けた場合の画素データの例である。インクIKが存在する領域では、インクIKに光が吸収されることによって、画素データの値が低くなる点は
図20と同様である。またインクIKが存在しない領域では、上述したように背景板330による反射光が検出されるため、画素データの値は十分大きくなる。またインクタンク310の透過率を高くできるため、インクIKの有無に応じた画素データの変化が
図20に比べて急峻になる。グラフの傾きが大きいため、閾値Thが所与の範囲で変化したとしても、判定結果であるインク液面位置の変化が抑制される。即ち、閾値設定に多少のバラツキがあったとしても、インク液面を精度よく検出することが可能になる。
【0116】
なお、インクタンク310の内部空間を、背景板330よりも-Y方向の空間と+Y方向の空間とに区分し、注入口311側である+Y方向の空間を前室とし、排出口312側である-Y方向の空間を後室と定義する。上述したように、センサーユニット320は背景板330からの反射光を検出する構成であるため、センサーユニット320によって検出されるインク液面は、後室におけるインク液面である。仮に前室におけるインク液面と後室におけるインク液面の位置が相違する場合、後室のインク液面位置を検出できたとしても、インクタンク310全体に含まれるインク量を正確に推定することはできない。即ち、適切なインク量検出を実現するためには、前室と後室のインクレベルが対応するように、前室と後室とが連通している必要がある。その際、前室と後室が、背景板330の鉛直上方で連通していたとしても、インク液面が背景板330の高さを超えなければ2つの空間のインクレベルは一致しない。即ち、前室と後室は、背景板330の左方、右方、下方のうちの少なくとも1つの方向において連通する。ここでの左右方向は、センサー190から背景板330を見た方向、及び鉛直方向に直交する方向であって、例えば±X方向である。
【0117】
例えば、背景板330の左右方向の左方及び右方の少なくとも一方において、インクタンク310内の前室と後室とが連通する。
図22の例では、背景板330が左方の第4インクタンク壁319に接し、且つ、右方の第3インクタンク壁318に接しないため、背景板330の右方で前室と後室が連通する。また右方の第3インクタンク壁318に接し、且つ、左方の第4インクタンク壁319に接しない背景板330を用いることによって、背景板330の左方で前室と後室が連通してもよい。いずれで前室と後室とが連通するにせよ、前室と後室とでインクの高さが異なるようでは、正確なインク残量を測定することが難しいため、前室と後室とでインクの高さが等しくなるように前室と後室とを連通させる。
【0118】
図14等を用いて上述したように、光電変換デバイス322は、具体的には鉛直方向に沿って複数の光電変換素子が配置されるリニアイメージセンサーである。リニアイメージセンサーである光電変換デバイス322は、上下方向において比較的広い範囲を読み取り可能なセンサーであるが、左右方向での読み取り範囲は狭い。そのため、背景板330は左右方向での長さを大きくする必要性が低い。背景板330の左方又は右方を空けることによって、効率的な構成により、前室と後室を連通させることが可能になる。また、第3インクタンク壁318と第4インクタンク壁319の両方に接しない背景板330が用いられてもよい。
【0119】
なお、前室と後室との間でインクIKがスムーズに流れることを考慮すれば、背景板330の下方において前室と後室が連通することも妨げられない。ただし、印刷ヘッド107における空打ちの抑制、或いは、印刷が停止することの抑制等を考慮すれば、インク量の検出においてはインクエンドを検出することの重要性が高い。背景板330がインクタンク310の下壁に接していない場合、インクタンク310の底面付近でのインク液面検出ができなくなり、インクエンドの検出が難しくなるおそれがある。よってインクタンク310の背景板330の下端は、インクタンクの下壁に接していてもよい。下壁とは、具体的にはインクタンク310の底面を構成する部材の内壁である。このようにすれば、液面検出の重要性が高い領域を検出対象とすることが可能になる。
【0120】
図24は、センサーユニット320、インクタンク310、背景板330の位置関係を示す断面図である。
図24に示すように、光源323の光は導光体324を介してインクタンク310に照射される。以下、
図24を用いて、導光体324から光電変換デバイス322までの具体的な光の経路と、経路上の物質の透過率について検討する。また透過率に基づいて、背景板330の設けられる位置についても検討する。
【0121】
図24に示すように、本実施形態の印刷装置は、光源323及びセンサー190と、第1インクタンク壁316との間に設けられ、光源323及びセンサー190に対向する透過板340を含んでもよい。透過板340は、例えばガラス板であるが、プラスチック等の他の部材が用いられてもよい。
【0122】
ここでの透過板340とは、センサーユニット320、狭義にはレンズアレイ325を保護するための保護板である。印刷装置の構成によっては、センサーユニット320と印刷ヘッド107の距離が近くなり、センサーユニット320がインクミストによって汚れる場合がある。或いは、印刷媒体Pがセンサーユニット320の近傍を移動することによって、紙粉がセンサーユニット320に付着する場合がある。例えばレンズアレイ325にミストや紙粉が付着した場合、対応する部分の画素データの値が小さくなるため、インク量検出の精度が低下する。透過板340を設けることによって、ミストや紙粉からレンズアレイ325を保護することが可能になる。例えば、透過板340にミスト等が付着したとしても、ユーザーが拭き取り可能であるため、レンズアレイ325のクリーニングに比べてメンテナンスの負荷を軽減できる。
【0123】
まず本実施形態では、第1インクタンク壁316の透過率がPiであり、インクIKの透過率がTiであるとき、Pi>Tiである。第1インクタンク壁316の透過率Piを高くすることによって、上述したように画素データの変化を急峻にすることが可能になる。
【0124】
また透過板340の透過率がGiであるとき、Gi≧Pi>Tiである。上述したように、透過板340は主にセンサーユニット320を保護するために設けられるものである。インク量検出の精度を考慮すれば、透過板340が、インク量検出用の光に与える影響は小さいことが望ましい。例えば第1インクタンク壁316との比較において、Gi≧Piとすることによって、透過板340による光の減衰を小さくできる。
【0125】
図24に示すように、導光体324から照射される光は、透過板340、センサーユニット320とインクタンク310の間の空気層、第1インクタンク壁316、第1インクタンク壁316と背景板330の間の領域Rを経由した後、背景板330に到達する。背景板330による反射光は、背景板330と第1インクタンク壁316の間の領域R、第1インクタンク壁316、空気層、透過板340を経由した後、レンズアレイ325に到達する。
【0126】
領域RにインクIKが存在しない場合、領域Rは空気層となる。空気層の透過率を1と考えた場合、反射光強度I’は、導光体324が照射する光の強度Iと、各部材の透過率を用いて下式(1)のように表される。下式(1)におけるrは、背景板330に到達した光の強度に対する反射光の強度の比率を表す情報である。なおここでの反射光とは、背景板330で反射される光のうち、レンズアレイ325に入射可能な方向に反射された光のみを表すものとする。
I’=I×Gi×Pi×r×Pi×Gi …(1)
【0127】
一方、領域RにインクIKが存在する場合、領域RはインクIKが充填された領域となる。領域Rに充填されたインクIKの透過率をTiとした場合、反射光強度I”は下式(2)のように表される。ここでのTiは、インクIKに入射した光と、インクIKを通過して背景板330に到達する光の強度比を表す。またTiは、背景板330で反射した光と、インクIKを通過して第1インクタンク壁316に到達する光の強度比を表す。
I”=I×Gi×Pi×Ti×r×Ti×Pi×Gi …(2)
【0128】
上式(1)及び(2)により、下式(3)が導かれる。
I”/I’=Ti2 …(3)
【0129】
即ち、インクIKが存在する領域では、インクIKが存在しない領域に比べて、反射光の強度がTi
2(<1)に減衰する。
図20や
図23を用いて上述したように、本実施形態の手法ではインクIKの有無に応じた画素データの差に基づいてインク液面を検出する。反射光強度と画素データの値は相関するため、I”とI’の差が十分大きい場合に、画素データの差が大きくなり、インク量検出を精度よく行うことが可能になる。
【0130】
第1インクタンク壁316と背景板330との距離Lが長いほど、インクIKを通過するための光路が長くなり、インクIKによる光の減衰量も大きくなる。換言すれば、Tiは距離Lによって決定される。そのため、第1インクタンク壁316と背景板330との間の距離Lは、光源323からの光がインクIKを通過し、背景板330で反射され、センサー190に入射したときに、センサー190の出力が所定値以下となる距離である。ここでの所定値は、例えば処理部120がインク有りと判定する際の閾値である。このように、インクIKが存在する場合に、当該インクIKによって十分反射光強度が小さくなるように背景板330の位置を決定することによって、インク量検出の精度向上が可能になる。
【0131】
例えばインク量を検出する処理において、処理部120がインク無しと判定する閾値をVT1とし、インク有りと判定する閾値をVT2(VT2は、VT2<VT1を満たす数)としたとき、Ti2<(VT2/VT1)であってもよい。VT1及びVT2は、例えば8ビットで表現されるデジタルデータである。VT1は例えば150程度であり、VT1は例えば50程度である。この場合、処理部120は、例えば50と150の間に閾値Thを設定することによって、インク液面を検出する。ただし、VT1とVT2の具体的な値は種々の変形実施が可能である。
【0132】
VT1=150、VT2=50である場合、Ti2<1/3である。即ち、インクタンク310と背景板330の間のインクIKによって、光量が1/3未満に減衰するという条件が満たされる場合に、インクIKが存在する領域での画素データの値が、インクIKが存在しない領域での画素データと明確に区別できる程度に小さくなるため、精度の高い液面検出が可能になる。
【0133】
第1インクタンク壁316と背景板330との距離をLとし、インクIKの単位長あたりの透過率をtとしたときに、t
2L<(VT2/VT1)であってもよい。例えば、tはインクIKの1メートル当たりの透過率であり、第1インクタンク壁316と背景板330との距離がLメートルである。単位長の2倍の距離のインクIKを透過する場合、光はt倍に低減された後、さらにt倍に低減されるため、単位長の2倍の距離のインクIKの透過率はt
2となる。
図24に示すように、導光体324からレンズアレイ325までの光路において、光は少なくとも往復分の長さ2LだけインクIK内を移動する。即ち、インクIKによって光はt
2L倍に減衰する。t
2L<(VT2/VT1)に基づいて距離Lを決定することによって、インクIKによる減衰量を十分大きくすることが可能になる。例えば、インクIKの種別を決定することによってtが決定されるため、t、VT1及びVT2に基づいてLが満たすべき条件が決定される。
【0134】
なお、ここではt<1であるため、上式はLの下限値を決定する条件となる。即ち、背景板330を第1インクタンク壁316からある程度遠い位置に配置することによって、精度の高い液面検出が可能になる。距離Lが小さい場合、インクIKの厚みがないため、インクIKが存在する領域でも背景板330からある程度の強度の反射光が返ってきてしまうが、そのようなことを抑制できる。
【0135】
なお、厳密には光は±X方向にも移動するため、インクIK内の移動距離は2Lよりも大きくなる場合がある。その場合、光量はt2L倍よりもさらに小さい値まで減衰するため、インクIKによる減衰量を大きくするという条件は満たされる。
【0136】
なお、背景板330のセンサー190に対向する面は、例えば白色である。背景板330を白色とすることによって、背景板330で反射する光量を多くできる。換言すれば、背景板330での反射率を大きくすることによって、インクIKが存在しない領域における画素データの値が大きくなる。ダイナミックレンジを大きくできるためインク量検出の精度向上が可能になる。ただし、本実施形態の背景板330は、ある程度の強度の光を反射可能な構成であればよく、白色に限定されない。例えば他の色の背景板330が用いられてもよい。
【0137】
また背景板330は、
図22、
図24に示すように、センサー190の面に対応する方向の面を有してもよい。具体的には、背景板330はセンサー190の面に平行な面を有する。ここでのセンサー190の面とは、例えば複数の光電変換素子が設けられる面であり、狭義には基板321の基板面である。このようにすれば、背景板330での反射光を適切に光電変換デバイス322に入射させることが可能になる。狭義には、背景板330での反射光を適切にレンズアレイ325に入射させることが可能になる。
【0138】
またインクタンク310は、その複数の壁面の透過度が等しくてもよい。例えば、インクタンク310は、全体がアクリル等の透過率の高い部材であってもよい。ただし
図24を用いて上述したように、光源323からの光は、光電変換デバイス322に到達するまでの間に、第1インクタンク壁316を透過し、且つ、インクタンク310の他の壁面を透過しないことが想定される。よって第1インクタンク壁316は、インクタンク310の左方の及び右方の壁面に比べて、透過率が高くてもよい。少なくとも第1インクタンク壁316の透過率を高くすることによって、第3インクタンク壁318や第4インクタンク壁319の透過率が相対的に低い場合であっても、精度の高いインク量検出が可能になる。また第1インクタンク壁316の透過率が高ければよく、第1インクタンク壁316が透明フィルム等により実現されてもよい。
【0139】
2.3 キャリブレーション
本実施形態の光電変換デバイス322は、スキャナー等において広く行われるシェーディング補正が適用されてもよい。例えば印刷装置の出荷前に、白色の基準となる被写体を読み取った際の白基準値と、黒色の基準となる被写体を読み取った際の黒基準値とが取得される。処理部120は、光電変換デバイス322の出力である画素データに対して、白基準値及び黒基準値を用いた補正処理を行う。例えば処理部120は、インクIKが存在しない領域を読み取った結果がデジタルデータの最大値となり、インクIKが存在する領域を読み取った結果が最小値となるように、白基準値及び黒基準値に基づく補正処理を行う。以下、最大値が255であり、最小値が0である例について説明する。このようにすれば、複数の光電変換素子間のバラツキを低減することが可能になる。またデジタルデータのレンジをフルに用いることが可能になるため、インク量検出の精度向上が可能になる。
【0140】
ただし、LED等の光源323は、経時変化によって光度が変化することが知られている。ここでの光度とは、光源323から照射される光の強度を表す。例えばLEDは、駆動回路から同じ電流を供給した場合であっても、時間の経過によって出力される光度が変動する。
【0141】
例えば、光源323の光度が低下した場合、インクIKが存在する領域を読み取った結果が255よりも低い値、例えば200程度に低下してしまう。この場合、光電変換デバイス322に基づく画素データは、0~200程度の範囲で変動するため、分解能が低下し、インク量検出処理の精度が低下するおそれがある。また、画素データの波形も変化するため、インク量検出に用いる閾値Thを変更しなければ液面位置に誤差が生じてしまうおそれもある。上述したように、シェーディング補正は出荷時点での情報を用いた補正であり、光源323の経時変化には対応できない。
【0142】
よって本実施形態の印刷装置では、キャリブレーションにおいて、光源323の光度の調整が行われてもよい。具体的には、光源323は、インクIKが存在しない領域から反射された光をセンサー190が検出した結果に基づいた光量によって点灯する。以下、キャリブレーションに用いられるインクIKが存在しない領域をキャリブレーション領域CAと表記する。
【0143】
ここでの光量とは、光度と、点灯時間とに基づいて決定される。本実施形態では、光電変換素子を用いる手法を想定しているため、点灯時間とは光電変換素子が1つの画素信号を出力する期間における点灯時間を表す。以下で説明する光量の調整とは、光度の調整であってもよいし、点灯時間の調整であってもよい。光源323は、キャリブレーション領域CAの読み取り結果に基づいた光度で点灯してもよいし、キャリブレーション領域CAの読み取り結果に基づいた時間で点灯してもよいし、その両方が行われてもよい。例えばパルス信号によって光源323が駆動される場合、点灯時間の調整とはパルス信号のパルス幅の調整であってもよい。具体的には、点灯時間の調整とはデューティー比の調整である。
【0144】
上述したように、本実施形態のインク量検出処理においては、インクIKの有無に応じた画素データの差が大きい場合に、処理精度を高くできる。以下の説明において、インク量検出処理において、センサー190を用いて取得された画素データの最大値をDAT1とし、最小値をDAT2とする。DAT1は、インクIKが存在しない領域の読み取り結果に対応する。DAT2は、インクIKが存在する領域の読み取り結果に対応する。DAT1が大きく、DAT2が小さい場合に、インク量検出処理の精度向上が可能になる。例えば8ビットのデジタルデータを用いる場合、DAT1=255、且つ、DAT2=0の場合に、レンジをフルに利用することが可能になる。
【0145】
DAT2の値は光源323の光量によらずにある程度小さくなることが期待されるため、DAT1の値をデジタルデータの最大値に近づけることが特に重要となる。DAT1が255よりも小さいほど、画素データのレンジが狭くなり、処理精度が低下する。また、光源323の光量が過剰に大きい場合、DAT1を255に近づけることが容易であるが、本来、255よりも値が小さくなるべき箇所で画素データが飽和してしまうため、これも好ましくない。インクIKが存在しないキャリブレーション領域CAから反射された光は、インクIKによる吸収を考慮する必要がないため、光源323の照射光に応じた光量の光となる。即ち、キャリブレーション領域CAから反射された光を基準とするキャリブレーションを行うことによって、光源323の光量を適切に制御できる。
【0146】
図25は、キャリブレーション前とキャリブレーション後の画素データの例である。キャリブレーション前は、例えばDAT1が150前後の値である。本実施形態では、
図25に示すように、キャリブレーション後のDAT1が255に近づくような制御が行われる。これにより、画素データのレンジを広くできるため、インク量検出処理等の精度向上が可能になる。
【0147】
処理部120は、キャリブレーション領域CAを読み取った結果が、調整目標値になるように光源323の光量を調整する処理を行う。ここでの調整目標値は、例えば
図25に示したようにデジタルデータの最大値であり、狭義には255である。ただし後述するように、調整目標値は状況に応じて変更される。
【0148】
図26は、キャリブレーション領域CAの例である。
図26に示すように、キャリブレーション領域CAは、鉛直方向においてインク液面よりも上方の領域である。より具体的には、インクタンク310の-Y方向の壁面である第1インクタンク壁316のうち、液面よりも上方の領域の画素データに基づいて、キャリブレーションが行われてもよい。
【0149】
例えば、インクタンク310内のインクを視認するための窓部が設けられる印刷装置において、当該窓部に目盛りを設けることによって、注入量の上限の目安をユーザーに提示することが考えられる。この場合、当該目盛りに従ってインクIKの補充が行われれば、当該目盛りよりも上方の領域はインクIKが存在しない蓋然性が高い。
【0150】
またキャリブレーション領域CAは、鉛直方向において、インクタンク310の上面に設けられる開口よりも上方の領域であってもよい。ここでの開口とは、例えばインクタンク310の注入口311であるが、排出口312であってもよいし、空気穴等の他の開口であってもよい。インクタンク310の上面とは、+Z方向の壁面である。上面に開口が設けられる場合、インクIKの液面が当該開口よりも上方に位置すると、開口からインクIKが漏れてしまう。開口の態様によってはキャップ等を用いて密閉可能な場合もあるが、インクIKの液面が開口よりも上方に位置することは好ましくない。よって第1インクタンク壁316に、開口よりも上方の領域が存在する場合、当該領域をキャリブレーション領域CAとして用いることが可能である。
【0151】
また
図27は、キャリブレーション領域CAの他の例である。
図27に示すように、インクタンク310が空である場合には、第1インクタンク壁316の広い範囲を、キャリブレーション領域CAとして利用することが可能である。例えば、処理部120は、本実施形態の手法、或いは、従来のインクIKの吐出回数をカウントする手法、或いはその両方を用いてインクエンドを検出、報知する。ユーザーは、インクエンドが報知された場合に、ボトル等からインクタンク310にインクIKを補充し、補充後にインク残量のリセット操作を行う。このようなユースケースでは、インクエンドの報知後、且つ、リセット操作の受付前は、インクタンク310内のインク量が非常に少ないことが想定される。そのため、
図27に示すように第1インクタンク壁316の広い範囲を、キャリブレーション領域CAと考えることが可能である。
【0152】
図26及び
図27のいずれにおいても、キャリブレーション領域CAは、第1インクタンク壁316の一部の領域となる。そのため、キャリブレーション領域CAの読み取り結果である画素データは上述したDAT1に対応する。この場合、キャリブレーション領域CAの読み取り結果がデジタルデータの最大値となるように、光源323の制御が行われる。例えば、(255/キャリブレーション領域CAの画素データ)という比率を用いて、光源323の光量を高くする。上述したように、光量を高くする制御は、光度を高くする制御、及び、デューティー比を高くする制御の少なくとも一方により実現が可能である。
【0153】
なお光源323によっては、経時変化によって光度が高くなる光源も存在する。事前にDAT1=255になるようなキャリブレーションが行われていた場合、経時変化によって光度が高くなると、キャリブレーション領域CAからは255に対応する光量よりも大きい光量の光が返ってくる。実際には、AFE回路130のA/D変換回路では、変換可能なアナログ電圧の範囲が設定されている。経時変化によって光度が高くなった場合、キャリブレーション領域CAの読み取り結果である出力信号OSは変換範囲の上限値Vmaxよりも大きい電圧値となるため、上限値Vmaxにクリッピングされ、画素データの値は255となる。しかし、もともと画素データが飽和していなかった領域では、画素データが望ましい値よりも大きくなるため、この場合もインク量検出の精度は低下する。
【0154】
例えば処理部120は、キャリブレーション領域の読み取り結果が255である場合、一旦光量を下げる制御を行ってもよい。キャリブレーション領域CAの読み取り結果が飽和しない程度まで光量を下げた後、キャリブレーション領域CAの読み取り結果が255に近づくまで光量を上げるという2段階の制御によって適切なキャリブレーションが可能である。以上のように、キャリブレーション領域CAの読み取り結果がDAT1に対応する場合、調整目標値は255となるため、調整目標値の設定、及びキャリブレーション処理が容易である。
【0155】
図28はキャリブレーション領域CAの他の例である。
図28に示すように、キャリブレーション領域CAは第1インクタンク壁316に限定されない。例えばインクIKが存在しない領域は、インクタンク310の側方外側に設けられる領域であってもよい。このようにすれば、キャリブレーション領域CAにはインクIKが存在しないことが保証されるため、インクIKによるキャリブレーションへの影響を抑制可能である。
【0156】
例えば、印刷装置において、インクタンク310とセンサーユニット320が相対的に移動する場合、インクタンク310の側方外側に反射部材350を設けてもよい。キャリブレーション領域CAは、反射部材350に含まれる領域である。例えば、印刷装置はオンキャリッジタイプの装置であって、センサーユニット320はキャリッジ106外に設けられ、反射部材350はキャリッジ106に搭載される。反射部材350は、インクタンク310の+X方向又は-X方向に設けられ、キャリッジ106がセンサーユニット320に対してX軸方向に往復移動する。このようにすれば、インク量検出用のセンサーユニット320を、キャリブレーションにも用いることが可能になる。
【0157】
例えば反射部材350は、インクタンク310と同じ材質の部材である。狭義には反射部材350は、第1インクタンク壁316と同じ部材である。このようにすれば、
図26や
図27の例と同様に、キャリブレーション領域CAの読み取り結果がDAT1に相当する。そのため、キャリブレーション領域CAの読み取り結果を255に近づければよく、調整目標値の設定が容易である。
【0158】
ただし、本実施形態のキャリブレーションは、キャリブレーション領域CAの読み取り結果がDAT1に相当する例に限定されない。換言すれば、調整目標値はデジタルデータの最大値に限定されない。
【0159】
図29はキャリブレーション領域CAの他の例である。
図29に示すように、キャリブレーション領域CAは、水平方向でのインクタンク310の端部の領域であってもよい。ここでの水平方向は±X方向であり、水平方向での端部の領域とは、センサーユニット320からインクタンク310を観察した平面視において、+X方向の端部又は-X方向の端部である。
【0160】
より具体的には、上記端部の領域は、インクタンク310の側面壁の厚みに対応する領域である。ここでの側面壁とは、-X方向の壁である第3インクタンク壁318又は+X方向の壁である第4インクタンク壁319である。具体的には、キャリブレーション領域CAは、センサーユニット320からインクタンク310を観察した平面視において、第1インクタンク壁316と第3インクタンク壁318が重複する領域、又は、第1インクタンク壁316と第4インクタンク壁319が重複する領域であってもよい。或いはキャリブレーション領域CAは、第3インクタンク壁318又は第4インクタンク壁319が露出している領域であってもよい。
【0161】
インクIKは、インクタンク310のうち、第1インクタンク壁316~第4インクタンク壁319のそれぞれの内面に囲まれる領域に貯蔵される。
図29に示すキャリブレーション領域CAは、インクIKが存在しないため、精度の高いキャリブレーションが可能になる。また
図28の例とは異なり、キャリブレーション専用の部材を別途設ける必要がない。
【0162】
ただし、第1インクタンク壁316は±Y方向での厚みが相対的に薄いのに対して、
図29のキャリブレーション領域CAは、±Y方向での厚みが相対的に厚い。インクタンク310が、相対的に透過率が低い乳白色の部材である場合、±Y方向での厚みが厚い部分の方が白色が強くなるため、読み取り結果である画素データの値が大きくなる。
【0163】
この場合、キャリブレーション領域CAの読み取り結果である画素データは、DAT1よりも大きい。そのため、キャリブレーション領域CAの読み取り結果が255となるキャリブレーションを行っても、DAT1は255よりも小さくなってしまう。
【0164】
キャリブレーション領域CAの読み取り結果と、DAT1の関係は設計から既知である。ここでの関係とは、例えば読み取り結果であるデジタル値の比率である。そのため例えば、キャリブレーション領域CAの読み取り結果がX(X≠255)になれば、DAT1が255になる、という条件を満たすXをあらかじめ決定しておくことが可能である。よって処理部120は、Xを調整目標値として取得しておき、キャリブレーション領域CAの読み取り結果が当該調整目標値になるように光源323の光量を調整する。
【0165】
ただし
図29に示した例では、X>255となることが想定される。例えばX=300であって、キャリブレーション領域CAの読み取り結果の値を300とすることによって、DAT1を255に近づけることが可能になる。しかし、AFE回路130のA/D変換回路が8ビットのA/D変換を行う場合、300というデジタル値は表現できない。例えばA/D変換の対象となる上限電圧値をVmaxとしたとき、Vmax以上の電圧値はVmaxにクリッピングされた上でA/D変換が行われ、255が出力される。
【0166】
例えばA/D変換回路は、インク量検出処理を行うときよりもビット数の多いA/D変換が可能な構成であってもよい。例えばA/D変換回路は、上記Vmaxを255に変換し、且つ、0~511の範囲のデジタル値を出力可能な9ビットのA/D変換器であってもよい。この場合、Vmaxの2倍相当までのアナログ電圧もクリッピングされない。そのため、255よりも大きいデジタル値を調整目標値として設定し、キャリブレーション領域CAの読み取り結果の値を当該調整目標値に近づける制御が可能になる。
【0167】
ただし、本実施形態のキャリブレーションはこれに限定されない。例えばA/D変換回路は、A/D変換の対象となる電圧範囲が可変であってもよい。上限電圧値をVmaxよりも大きくすることによって、キャリブレーション領域CAの読み取り結果がクリッピングされず、適切なキャリブレーションが可能になる。
【0168】
また
図28に示す反射部材350を用いる構成において、反射部材350はインクタンク310とは異なる材質の部材であってもよい。この場合も、反射部材350の反射率と、インクタンク310の反射率との関係から調整目標値をあらかじめ決定可能である。調整目標値は、上述したようにデジタルデータの最大値よりも大きい値であってもよいし、小さい値であってもよい。処理部120は、キャリブレーション領域CAを読み取った結果が調整目標値になるように光源323の光量を調整する。
【0169】
またキャリブレーション領域CAは、インクタンク310の壁のうち、他の部分よりも厚い部分であってもよい。例えば、
図29に示したキャリブレーション領域CAも、インクタンク310の壁であって、他の部分、例えば第1インクタンク壁316のうち第3インクタンク壁318に重複しない部分よりも厚い部分である。ただし、キャリブレーション領域CAはこれに限定されない。
【0170】
図30はキャリブレーション領域CAの他の例である。例えばインクタンク310の第1インクタンク壁316は、
図30に示すようにZ軸における位置に応じて厚みが異なってもよい。
図30の例では、Z座標値が所与の閾値以下の領域の厚みt1と、Z座標値が当該閾値よりも大きい領域の厚みt2は、t2>t1を満たす。キャリブレーション領域CAは、第1インクタンク壁316のうち、厚みがt2を満たす部分に設定される。この場合、センサーユニット320から見てキャリブレーション領域CAの奥側、具体的には+Y方向側にはインクIKが存在する可能性がある。しかしインクタンク310の透過率がある程度低い場合、第1インクタンク壁316内部での散乱、吸収が大きくなる。そのため、第1インクタンク壁316での反射光強度が、インクIKに到達する光の強度に比べて十分強くなるため、インクIKによるキャリブレーションへの影響を抑制可能である。即ち、本実施形態におけるインクIKが存在しない領域とは、センサーユニット320からインクタンク310へと向かう+Y方向においてインクIKが全く存在しない領域に限定されず、奥側にインクIKが存在しても当該インクIKまで十分な光が到達しない領域を含む。
【0171】
なお処理部120は、キャリブレーション領域CAを読み取った結果に基づいたゲインを用いて、センサー190の出力を調整してもよい。このようにすれば、光源323の制御に加えて、画素データに対するゲインの大きさを用いて、画素データのレンジを調整することが可能になる。画素データの分解能が向上する、或いはノイズの増幅が抑制されるという点では、ゲイン調整よりも光源323の光量調整の方が優位である。ただし、光源323のみの調整ではレンジを拡大しきれない場合等にはゲイン調整が有効である。例えばキャリブレーション領域CAを読み取った結果は、センサー190の出力に対してゲインをかけた後の値であってもよい。即ち、ゲインを作用させた後の値が調整目標値となるように、光量及びゲインの調整が行われる。調整後の光量を用いてセンサー190の出力を取得し、当該出力に調整後のゲインを作用させることによって、DAT1をデジタルデータの最大値に近づけることが可能になる。
【0172】
図31は、キャリブレーションを説明するフローチャートである。
図31の処理は、例えば印刷装置が起動された際に実行される。この処理が開始されると、まず光電変換デバイス322のウォームアップが行われる(ステップS201)。次に、処理部120は、光量及びゲインを初期値に設定する(ステップS202)。なお、以下では光量が光源323の点灯時間を用いて調整される例について説明する。
【0173】
次に処理部120は、センサーユニット320を制御することによって、ステップS202で設定された光量、ゲインを用いてキャリブレーション領域CAの読み取り結果を取得する(ステップS203)。処理部120は、ステップS203で取得した結果が調整目標値となるように、点灯時間を制御する(ステップS204)。
【0174】
点灯時間の調整によって読み取り結果が調整目標値に到達した場合、処理部120はキャリブレーションを終了し、調整後の点灯時間を用いてインク量検出処理等を実行する。
【0175】
一方、点灯時間の調整では読み取り結果が調整目標値に到達しない場合、処理部120は、読み取り結果が調整目標値に到達するまで、点灯時間の再調整(ステップS204)や、ゲインの調整(ステップS205)を繰り返す。なお、点灯時間の調整とゲインの調整は交互に行われるものに限定されない。例えば、点灯時間を優先的に調整し、点灯時間では調整目標値に到達しない場合にゲインの調整が行われてもよい。
【0176】
3.インク種別判定処理
また本実施形態においては、処理部120は、センサー190の出力に基づいてインクタンク310内のインクIKのインク種別を判定してもよい。
【0177】
3.1 インク種別判定処理の概要
図2及び
図3を用いて上述したように、電子機器10はそれぞれ種類の異なるインクIKが充填される複数のインクタンク310を含んでもよい。この場合、インクタンク310aに充填すべきインクIKaを、ユーザーが誤ってインクタンク310b等の他のインクタンク310に充填してしまう可能性がある。また電子機器10が1つのインクタンク310を有するモノクロ印刷装置であったとしても、ユーザーが機種の異なる印刷装置を併用している場合、他の印刷装置に用いられるインクIKを誤って充填する可能性がある。さらに言えば、ユーザーが1つのモノクロ印刷装置のみを使用する場合であっても、機種に応じて異なる多数のインクIKが市場で流通しているため、ユーザーが異機種用のインクを誤って購入、充填する可能性は否定できない。
【0178】
仮に、イエローインクを充填すべきインクタンク310にマゼンタインクを充填してしまった場合、印刷結果の色味は所望の色味から大きく乖離してしまう。即ち、適切な印刷を行うためには、インクIKの色の誤りを適切に検出する必要がある。よって処理部120は、インク種別としてインク色を判定する。
【0179】
本実施形態のセンサー190は、光源323が発光する期間においてインクタンク310から入射される複数色の光を検出する。処理部120は、インクIKのメニスカス部分に対応する位置のセンサー190の出力に基づいて、インクタンク310内のインク種を推定する。
【0180】
本実施形態における複数色の光は、赤色の波長帯域に対応するR光、緑色の波長帯域に対応するG光及び青色の波長帯域に対応するB光であってもよい。R光に対応する信号をR信号とし、G光に対応する信号をG信号とし、B光に対応する信号をB信号とする。
【0181】
例えば、印刷装置は、赤色LED323Rと、緑色LED323Gと、青色LED323Bを含み、光電変換デバイス322は、各LEDの発光に基づいて、R信号、G信号及びB信号を出力する。或いは、印刷装置は、白色光源と、通過域の異なる複数のフィルターを含み、光電変換デバイス322は、フィルターの透過光に基づいて、R信号、G信号及びB信号を出力してもよい。ただし、本実施形態における複数の光は、RGBに限定されず、いずれかの光が省略されてもよいし、他の波長帯域の光が追加されてもよい。
【0182】
図32はメニスカス部分、及びメニスカス部分の読み取り結果を説明する図である。メニスカスとは、インクタンク310とインクIKとの相互作用によって生じるインク液面の屈曲を表す。メニスカス部分とは、インク液面が屈曲している部分である。例えば、
図32のB1に示す範囲がメニスカス部分である。
図32に示すように、メニスカス部分では、それよりも鉛直下方の領域に比べて、インクIKの厚みが薄い。具体的には、±Y方向においてインクIKが存在する領域の長さが短い。そのため、インクIKによる光の吸収度合いが、相対的に低くなる。
【0183】
インクIKは光を吸収しやすく、特に染料のインクIKは吸光度合いが大きい。そのため、観察方向におけるインクIKの厚みがある程度厚い場合、インクIKの存在する領域は黒に近い色に観察される。光電変換デバイス322を用いてインクタンク310からの信号を検出する場合、観察方向とは±Y方向である。そのため、メニスカス部分よりも下方では、インク色によらず黒色に近い色となってしまい、インク種別の判定が難しい場合が多い。
【0184】
図32のB2は、センサー190による読み取り結果を表す。読み取り結果とは、例えば光電変換デバイス322の出力を用いて形成される画像データである。
図32に示すように、読み取り結果は、メニスカス部分より下方では黒色に近く、上方では白色に近くなる。メニスカス部分は、
図32では便宜上、黒から白へのグラデーションとなる図を示しているが、実際のインクIKを対象とした場合、濃度が薄い部分ではインクIK特有の色が現れる。例えば画像データのメニスカス部分に対応する領域は、インク色に応じたシアン、マゼンタ、イエロー等の色味を有する。
【0185】
よって処理部120は、メニスカス部分の読み取り結果である色に基づいてインク種を推定してもよい。例えばセンサー190は、読み取り結果としてR信号、G信号及びB信号を取得する。そして処理部120は、R画素値、G画素値、B画素値の少なくとも1つに基づいて色を判定する。上述したように、メニスカス部分以外の部分は白又は黒に近いため、彩度が非常に小さい。よって処理部120は、例えば彩度が所定閾値以上の領域をメニスカス部分と判定する。
【0186】
例えば処理部120は、メニスカス部分の読み取り結果である色が青である場合、インクIKの色がシアン又はブラックであると判定する。また処理部120は、メニスカス部分の読み取り結果である色が赤である場合、インクIKの色がマゼンタ又はイエローであると判定する。このようにすれば、RGBのいずれの成分の寄与度が高いかに基づいて、インク色を判別できる。なお、シアンとブラックの識別、マゼンタとイエローの識別が必要である場合、異なる色成分を比較すればよい。また処理部120は、例えばRGBの各画素値に基づいて色相を算出し、色相の値に基づいてインク色を判定してもよい。
【0187】
或いは、R信号、G信号及びB信号の波形に基づいて、メニスカス部分の判定、及びインク色の判定が行われてもよい。詳細については
図33等を用いて後述する。
【0188】
なお、顔料のマゼンタインク、顔料のイエローインク等、インクIKの厚みが厚い領域でも黒とは明確に区別可能な色となるインクIKも存在するため、そのようなインクIKを他のインクIKと識別する際には、メニスカス部分よりも下方の領域の読み取り結果が用いられてもよい。
【0189】
3.2 染料インクのインク色判別
処理部120は、インク種として、染料インクの色を判別してもよい。染料インクは顔料インクに比べて光の吸収度合いが高い。そのため、インクIKに厚みがある場合、インク領域がインク色によらず黒色に近くなってしまうためインク色判定が難しい。その点、上述したようにメニスカス部分を判定に用いることによって、適切にインク色判定が可能になる。
【0190】
図33は、染料のシアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインクのそれぞれの読み取り結果を表すグラフである。
図33に示すように、各読み取り結果は、R信号、G信号、B信号を含む。
図33の各グラフの横軸が光電変換素子の位置を表し、縦軸が信号値を表す。信号値は、例えば8ビットのデジタルデータである。なお、ここではインク非検出領域の画素値が150~200程度の値となっているが、キャリブレーションを行うことによって、当該値を255程度に補正してもよい。また、ここではインク液面の高さはインクIKごとに異なる。
【0191】
上述したように、染料インクは光の吸収が大きく、インクIKが十分な厚みで存在する部分からの反射光が非常に少ない。よって、処理部120は、RGBの各信号の値が最低値に近い領域をインクIKが存在する領域と判定する。メニスカス部分では、上述したようにインクIKの厚みが薄くなるため、インク色に対応する色成分が観察される。これは例えば、
図33のC1~C3に示すように、RGBの各信号の立ち上がりとして検出される。ここでの立ち上がりとは、鉛直下方から上方へと向かう方向において、信号値が最小値、或いは最小値の近傍の値から増加を開始することを表す。染料のシアンインクの例であれば、C1がB信号の立ち上がりであり、C2がG信号の立ち上がりであり、C3がR信号の立ち上がりである。
【0192】
処理部120は、読み取り結果の立ち上がりを含む範囲の信号を、メニスカス部分の読み取り結果とする。例えば処理部120は、染料シアンインクを対象とした読み取り結果のうち、C4に示す範囲を含む信号に基づいてインク種別を判定する。
【0193】
例えば処理部120は、メニスカス部分のインク有りからインク無しへと向かう方向において、波長帯域の異なる複数の光に対応する複数の色成分の信号の立ち上がり方に基づいて、インク種を推定してもよい。インク有りからインク無しへと向かう方向とは、例えば鉛直下方から上方へと向かう方向であって、狭義には+Z方向である。立ち上がりは、インクタンク310の下壁の上側の位置において、上述したように信号値が上昇を開始する点であるため、検出が容易であるという利点がある。
【0194】
具体的な立ち上がり順は、
図33に示した通りである。例えば処理部120は、メニスカス部分における立ち上がり順が、B信号、G信号、R信号の順である場合、インクIKの色がシアン又はブラックであると判定する。処理部120は、メニスカス部分における立ち上がり順が、R信号、B信号、G信号の順である場合、インクIKの色がマゼンタであると判定する。処理部120は、メニスカス部分における立ち上がり順が、R信号、G信号、B信号の順である場合、インクIKの色がイエローであると判定する。
【0195】
なおここでのシアンインクには、ライトシアンインク等のシアンに類似する色のインクが含まれる。同様に、マゼンタインクには、ライトマゼンタインク、レッドインク等のマゼンタに類似する色のインクが含まれる。イエローインクには、ライトイエローインク等のイエローに類似する色のインクが含まれる。ブラックインクには、ライトブラックインク等のイエローに類似する色のインクが含まれる。
【0196】
このようにすれば、メニスカス部分を用いて染料インクのインク色を判定することが可能になる。なお、インク色ごとの信号波形の差を明確にすることや、立ち上がりの位置を精度よく判定することを考慮すれば、インクタンク310の透過率は高いことが望ましい。例えば、メニスカス部分の読み取り結果を用いてインク種別の判定処理を行う場合、インクタンク310は
図22に示したように、内部に背景板330を含む構成であってもよい。
【0197】
上述したように、シアンインクとブラックインクは信号の立ち上がり順が同じとなる。本実施形態では、シアンインクとブラックインクの識別を行わなくてもよい。この場合であっても、シアン又はブラック、マゼンタ、イエロー、という3つのインク種別の識別が可能である。そのため、例えば所与のインクタンク310に誤った色のインクIKが充填されたことを検出できる。
【0198】
なお処理部120は、信号間の立ち上がり位置の差に基づいて、シアンインクとブラックインクを識別してもよい。立ち上がり位置の差とは、例えばB信号の立ち上がり位置と、R信号の立ち上がり位置との、Z軸における距離を表す。
図33に示すように、シアンインクにおける立ち上がり位置の差はC4であり、ブラックインクにおける立ち上がり位置の差であるC5に比べて大きい。よって処理部120は、立ち上がり位置の差と、所与の閾値との比較処理を行うことによって、処理対象のインクIKがシアンインクであるかブラックインクであるかを判定できる。
【0199】
またメニスカス部分の読み取り結果を用いたインク種別の判定処理は、立ち上がり順を用いたものに限定されない。例えば処理部120は、メニスカス部分における信号強度が、B信号>G信号>R信号である場合、インクIKの色がシアン又はブラックであると判定する。処理部120は、メニスカス部分における信号強度が、R信号>B信号>G信号である場合、インクIKの色がマゼンタであると判定する。処理部120は、メニスカス部分における信号強度が、R信号>G信号>B信号である場合、インクIKの色がイエローであると判定する。
【0200】
各信号の強度とは具体的にはA/D変換後のデジタルデータの値である。ただし、
図33に示したように、メニスカス部分において、複数の色の信号が順次立ち上がる。そのため、2つ以上の信号が立ち上がり前である場合、信号強度を適切に比較できない。よってメニスカス部分における信号強度とは、例えば+Z方向において最後の信号が立ち上がった位置における信号強度であってもよい。シアンインクを対象とした場合、最後の信号の立ち上がり位置とは、R信号の立ち上がり位置であるC3である。C3に対応する位置でのB信号の強度はC6であり、G信号の強度はC7であり、R信号の強度は0である。そのため、シアンインクの信号強度はB信号>G信号>R信号となる。ただし、全ての信号が立ち上がっていれば強度比較は可能であるため、C3よりも+Z方向の位置における信号強度を用いてインク種別が判定されてもよい。例えば、処理部120は、上述したように彩度が所定閾値以上という条件を用いてメニスカス部分の+Z側の端点を求めてもよい。そして処理部120は、全ての信号が立ち上がった点と、上記+Z側の端点との間の任意の位置において、各信号の信号強度を求めてもよい。
【0201】
3.3 顔料インクのインク色判別
また処理部120は、インク種として、顔料インクの色を判別してもよい。顔料インクは染料インクに比べて光の吸収度合いが低い。そのため、例えば背景板330を設けることによって透過率が相対的に高いインクタンク310を用いた場合、インクIKが存在する領域においてもある程度反射光の強度が高くなる。
【0202】
図34は、顔料のシアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインクのそれぞれの読み取り結果を表すグラフである。
図33と同様に、各読み取り結果は、R信号、G信号、B信号を含む。また各グラフの横軸が光電変換素子の位置を表し、縦軸が信号値を表す。
【0203】
ブラックインク及びシアンインクは、染料インクと同様の傾向を示す。即ち、メニスカス部分において、B信号、G信号、R信号の順で立ち上がる。また信号間の立ち上がり位置の差は、シアンインクがブラックインクに比べて大きい。
【0204】
顔料マゼンタインクは、
図34に示すように、インクIKが存在する領域においてもR信号が最小値に比べて十分大きい値となる。例えば、8ビットのデジタルデータを用いた場合、R信号のインクIKが存在する領域における信号値は100程度の十分大きな値となる。R信号については、+Z方向において値が最小値近傍から増加を始めることがないため、立ち上がりが検出されない。一方、B信号及びG信号は、インクIKが存在する領域において値が十分小さく、メニスカス部分においてB信号、G信号の順で立ち上がりが検出される。
【0205】
顔料イエローインクは、
図34に示すように、インクIKが存在する領域においてもR信号及びG信号が最小値に比べて十分大きい値となる。例えば、インクIKが存在する領域において、R信号の信号値は200程度で有り、G信号の信号値は100程度である。そのため、R信号及びG信号については、立ち上がりが検出されない。一方、B信号は、インクIKが存在する領域において値が十分小さく、メニスカス部分において立ち上がりが検出される。
【0206】
処理部120は、メニスカス部分における信号強度に基づいてインク種別を判定してもよい。処理部120は、メニスカス部分における信号強度がB信号>G信号>R信号である場合、インクIKの色がシアン又はブラックであると判定する。処理部120は、メニスカス部分における信号強度が、R信号>B信号>G信号である場合、インクIKの色がマゼンタであると判定する。処理部120は、メニスカス部分における信号強度が、R信号>G信号>B信号である場合、インクIKの色がイエローであると判定する。
【0207】
図34に示したように、顔料のマゼンタインクについては、R信号の立ち上がりが検出されないため、G信号の立ち上がり位置が、+Z方向において最後の信号が立ち上がった位置と判定される。顔料のイエローインクについては、R信号及びG信号の立ち上がりが検出されないため、B信号の立ち上がり位置が、+Z方向において最後の信号が立ち上がった位置と判定される。このようにすれば、顔料インクについても、メニスカス部分の読み取り結果を用いてインク色を判定することが可能になる。その際、染料インクと同様の判定基準を用いることが可能であるため、処理を共通化できる。ただし顔料マゼンタインクや顔料イエローインクについては、各信号の立ち上がりの有無に基づく識別が可能であり、顔料インクのインク色判定処理は上記に限定されない。
【0208】
3.4 インク量検出との関係
また処理部120は、インクIKのメニスカス部分に対応する位置のセンサー190の出力に基づいて、インク種を推定する処理、及び、インク量を検出する処理を行ってもよい。このようにすれば、インク量を検出するためのセンサーユニット320を用いて、インク種別を判定することが可能になる。メニスカス部分がインク種別の判定に有用であることは上述したとおりであるが、メニスカスはインク液面に対応するため、インク量検出にも有用である。即ち、読み取り結果のうち、メニスカス部分を適切に特定することによって、インク量検出とインク種別判定の両方の処理を適切に実行できる。
【0209】
また処理部120は、複数色の各色に対応したセンサー190の検出結果において、インク有りからインク無しの方向において信号値が立ち上がる際の立ち上がり開始位置でインク面を検知した色の検出結果に基づいて、インク量を検出してもよい。
【0210】
上述したように、複数の色の信号を検出可能な構成、例えばRGBの各信号を取得可能な構成を用いる場合、いずれか1つの信号を用いてインク量検出が行われてもよいし、複数の信号の組み合わせによってインク量検出が行われてもよい。ただし上述したように、メニスカス部分では各信号がインク色に応じた順で立ち上がる。そのため、いずれの信号をインク量検出に用いるかに応じて、検出結果である液面の位置が変化する可能性がある。メニスカス部分では、薄いもののインクIKが存在するため、当該インクIKに吸収されやすい波長帯域の信号は、立ち上がりが遅くなる。換言すれば、+Z方向において、インクIKが十分存在する領域からインクIKの厚みが薄く変化した場合に、当該変化に対して高い感度を有する信号がインク量検出に適している。
【0211】
立ち上がり開始位置とは、インク有りからインク無しの方向において、初めて立ち上がりが発生した位置を表し、インク面を検知したとは、信号値が最小値から増加を始めたことを表す。例えば、染料シアンインク及び染料ブラックインクは、B信号に基づいてインク量が検出される。染料マゼンタインク及び染料イエローインクは、R信号に基づいてインク量が検出される。顔料インクについては、立ち上がりが検出可能であり、且つ、最も早く立ち上がる信号は、いずれの色についてもB信号となる。よって顔料インクは、B信号に基づいてインク量が検出される。
【0212】
なお本実施形態の手法は、立ち上がり開始位置でインク面を検知した色の検出結果に基づいてインク量を検出し、且つ、インク種別の判定処理を行わない印刷装置に適用されてもよい。
【0213】
4.複合機
本実施形態にかかる電子機器10は、印刷機能とスキャン機能を有する複合機であってもよい。
図35は、
図1の電子機器10において、スキャナーユニット200のケース部201をプリンターユニット100に対して回動させた状態を表す斜視図である。
図35に示す状態において、原稿台202が露呈する。ユーザーは原稿台202に読取り対象となる原稿をセットした上で、操作部160を用いてスキャン実行を指示する。スキャナーユニット200は、ユーザーの指示操作に基づいて、不図示の画像読取部を移動させながら読取り処理を行うことによって、原稿の画像を読み取る。なおスキャナーユニット200は、フラットベッド型のスキャナーに限定されない。例えば、スキャナーユニット200は、不図示のADF(Auto Document Feeder)を有するスキャナーであってもよい。また電子機器10は、フラットベッド型のスキャナーとADFを有するスキャナーの両方を有する機器であってもよい。
【0214】
電子機器10は、第1センサーモジュールを含む画像読取部と、インクタンク310と、印刷ヘッド107と、第2センサーモジュールと、処理部120を含む。画像読取部は、m(2以上の整数)個のリニアイメージセンサーチップを含む第1センサーモジュールを用いて原稿を読み込む。第2センサーモジュールは、n(nは1以上、n<mの整数)個のリニアイメージセンサーチップを含み、インクタンク310から入射される光を検出する。処理部120は、第2センサーモジュールの出力に基づいて、インクタンク内のインク量を検出する。第1センサーモジュールはスキャナーユニット200における画像のスキャンに用いられるセンサーモジュールであり、第2センサーモジュールは、インクタンクユニット300におけるインク量検出処理に用いられるセンサーモジュールである。
【0215】
第1センサーモジュールと第2センサーモジュールは、いずれもリニアイメージセンサーチップを含む。リニアイメージセンサーチップの具体的な構成は、上述してきた光電変換デバイス322と同様であり、複数の光電変換素子が所定方向に並んで配置されるチップである。画像読み取りに用いるリニアイメージセンサーとインク量検出処理に用いるリニアイメージセンサーを共通化することが可能であるため、電子機器10の製造を効率化することが可能である。もちろん、画像読み取りに用いるリニアイメージセンサーとインク量検出処理に用いるリニアイメージセンサーをそれぞれに特化した別のリニアイメージセンサーとすることも可能である。
【0216】
ただし、第1センサーモジュールは読取り対象となる原稿サイズに応じた長さを有する必要がある。1つのリニアイメージセンサーチップの長さは例えば20mm程度であるため、第1センサーモジュールは少なくとも2以上のリニアイメージセンサーチップを含む必要がある。これに対して、第2センサーモジュールはインク量検出の対象範囲に対応する長さを有する。インク量検出の対象範囲は種々の変形実施が可能であるが、一般的には画像読取りに比べて短い。即ち、上述したとおり、mは2以上の整数、nは1以上の整数であって、m>nとなる。このようにすれば、用途に合わせてリニアイメージセンサーチップの個数を適切に設定することが可能になる。
【0217】
また第1センサーモジュールと第2センサーモジュールの差は、リニアイメージセンサーチップの個数に限定されない。第1センサーモジュールのm個のリニアイメージセンサーチップは、長手方向が水平方向に沿って設けられる。第2センサーモジュールのn個のリニアイメージセンサーチップは、長手方向が鉛直方向に沿って設けられる。第2センサーモジュールは、上述したようにインクIKの液面を検出する必要があるため、長手方向が鉛直方向となる。
【0218】
一方、原稿の画像を読み取ることを考慮すれば、第1センサーモジュールの長手方向は水平方向とする必要がある。第1センサーモジュールの長手方向を鉛直方向とした場合、原稿台202に原稿を安定してセットすることが難しい、或いはADFによる原稿搬送時に、原稿姿勢を安定させることが難しいためである。用途に合わせてリニアイメージセンサーチップの長手方向を設定することによって、インク量検出処理と画像読み取りを適切に実行することが可能になる。
【0219】
また、第1センサーモジュールは、第1動作周波数で動作し、第2センサーモジュールは、第1動作周波数よりも低い第2動作周波数で動作する。画像読取りにおいては、多数の画素に対応する信号を連続的に取得し、当該信号のA/D変換処理、補正処理等を行って画像データを形成する必要がある。そのため、第1センサーモジュールによる読取りは高速で行うことが望ましい。一方、インク量検出は、光電変換素子の数が少ない上に、インク量の検出までにある程度の時間がかかっても問題になりにくい。センサーモジュールごとに動作周波数を設定することによって、各センサーモジュールを適切な速度によって動作させることが可能になる。
【0220】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本実施形態の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また本実施形態及び変形例の全ての組み合わせも、本開示の範囲に含まれる。また電子機器、プリンターユニット、スキャナーユニット、インクタンクユニット等の構成及び動作等も、本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【0221】
例えば、光電変換デバイスは、リニアイメージセンサーを水平方向や水平方向から斜めに配置してもよい。この場合は、複数のリニアイメージセンサーを垂直方向に並べる又はインクタンクに対して相対的に垂直方向に移動させることで、リニアイメージセンサーを垂直方向に配置したときと同等の情報を得ることができる。また、光電変換デバイスは、1又は複数のエリアイメージセンサーであってもよい。このようにすることで、1つのイメージセンサーを複数のインクタンクに跨るようにしてもよい。
【0222】
また例えば、光電変換デバイスとインクタンクと一対一に用意して、それぞれを固定していてもよいが、1の光電変換デバイスと複数のインクタンクとを相対移動させるようにしてもよい。相対移動させる場合には、光電変換デバイスをキャリッジ上に搭載してインクタンクをキャリッジ外に設けてもよいし、逆にインクタンクをキャリッジ上に搭載して光電変換デバイスをキャリッジ外に設けてもよい。
【符号の説明】
【0223】
10…電子機器、100…プリンターユニット、101…操作パネル、102…ケース部、104…前面カバー、105…チューブ、106…キャリッジ、107…印刷ヘッド、108…紙送りモーター、109…キャリッジモーター、110…紙送りローラー、111…第2基板、120…処理部、130…AFE回路、140…記憶部、150…表示部、160…操作部、170…外部I/F部、190…センサー、200…スキャナーユニット、201…ケース部、202…原稿台、300…インクタンクユニット、301…ケース部、302…蓋部、303…ヒンジ部、310,310a,310b,310c,310d,310e…インクタンク、311…注入口、312…排出口、313…第2排出口、314…インク流路、315…メイン容器、316…第1インクタンク壁、317…第2インクタンク壁、318…第3インクタンク壁、319…第4インクタンク壁、320…センサーユニット、321…基板、322…光電変換デバイス、3222…制御回路、3223…昇圧回路、3224…画素駆動回路、3225…画素部、3226…CDS回路、3227…サンプルホールド回路、3228…出力回路、323…光源、323B…青色LED、323G…緑色LED、323R…赤色LED、324…導光体、325…レンズアレイ、326…ケース、327…開口部、328…第2開口部、329…光遮断壁、330…背景板、340…透過板、350…反射部材、CDSC,CPC,DRC…制御信号、CLK…クロック信号、Drv,DrvB,DrvG,DrvR…駆動信号、EN_I,EN_O,EN1~ENn…チップイネーブル信号、HD…主走査軸、VD…副走査軸、IK,IKa,IKb,IKc,IKd,IKe…インク、OP1,OP2…出力端子、OS…出力信号、P…印刷媒体、RS…反射面、RST…リセット信号、SEL…画素選択信号、SMP…サンプリング信号、Tx…転送制御信号、VDD,VSS…電源電圧、VDP,VSP…電源端子、VREF…基準電圧、VRP…基準電圧供給端子