(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20240611BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20240611BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20240611BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/521
C08L27/18
C08L67/02
(21)【出願番号】P 2020055089
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今田 亮
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-224192(JP,A)
【文献】特開2015-151461(JP,A)
【文献】特開2017-149870(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159778(WO,A1)
【文献】特開2018-002996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08K 5/521
C08L 27/18
C08L 67/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂と、
ポリエチレンテレフタレート樹脂と、
有機リン系難燃剤と、
難燃滴下防止剤と、
を含み、
樹脂成分100質量部に対して、前記ポリカーボネート系樹脂の含有量が、40質量部以上91質量部以下であり、
樹脂成分100質量部に対して、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量が、9質量部以上40質量部以下であって、
前記ポリカーボネート系樹脂を含んでなる連続相と
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂を含んでなる分散相と、を含む樹脂相分離構造を有し、
前記分散相の長手方向における数平均直径が
0.88μm以上1.5μm以下であり、
前記分散相の短手方向における数平均直径が
0.38μm以上0.8μm以下であり、且つ、
前記長手方向の数平均直径と前記短手方向の数平均直径とのアスペクト比が2.5以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂成分100質量部に対して、前記ポリカーボネート系樹脂の含有量と前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量との総計が、95質量部以上100質量部以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記有機リン系難燃剤が、縮合リン酸エステルを含む、請求項
1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記難燃滴下防止剤が、フッ素含有樹脂を含む、請求項
1~請求項
3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記フッ素含有樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む、請求項
4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂成分100質量部に対して、前記有機リン系難燃剤の含有量が、1質量部以上25質量部以下である、請求項
1~請求項
5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
樹脂成分100質量部に対する、前記難燃滴下防止剤の含有量が、0.3質量部以上0.8質量部以下である、請求項
1~請求項
6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記分散相の長手方向における数平均直径R
LONGの1/2の値を、下記式(A)におけるr
iに代入したときに、下記式(A)で示される比表面積Aの値が2.0以上であり、且つ、
前記分散相の短手方向における数平均直径R
SHORTの1/2の値を、下記式(A)におけるr
iに代入したときに、下記式(A)で示される比表面積Aの値が7.0以上である、
請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【数1】
[式(A)中、Aは分散相の比表面積を示し、Nは観察視野中の分散相の個数を示し、r
iはi番目の分散相の半径を示す。]
【請求項9】
請求項1~請求項
8のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む樹脂成形体。
【請求項10】
射出成形体である、請求項
9に記載の樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂組成物は、様々な用途に使用されている。例えば、樹脂組成物は、これを含む樹脂成形体として、家電製品や自動車の各種部品、事務機器、電子電気機器の筐体等に使用されたりしている。
【0003】
樹脂組成物の中でもポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂が耐衝撃性、耐熱性などに優れた熱可塑性樹脂であることから、機械、自動車、電気、電子等の分野における部品などに用いられている。また、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む樹脂組成物は、良好な成形流動性を示すことが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、「ポリカーボネート系樹脂と、ポリエチレンテレフタレート樹脂と、グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体と、有機リン系難燃剤と、難燃滴下防止剤と、を含み、前記ポリカーボネート系樹脂及び前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の合計量に対して、前記ポリカーボネート系樹脂の含有量は60質量%以上90質量%以下であり、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量は10質量%以上40質量%以下であり、前記グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル単位と、エチレン単位とから構成されるポリエチレン系共重合体、又は当該ポリエチレン系共重合体の主鎖に重合性ビニル単量体をグラフト重合した共重合体である樹脂組成物」が開示されている。
【0005】
例えば、特許文献2には、「ポリカーボネート系樹脂と、グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体及びポリエチレンテレフタレート樹脂の反応物と、前記グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体と未反応のポリエチレンテレフタレート樹脂と、有機リン系難燃剤と、難燃滴下防止剤と、を含み、前記反応物中のポリエチレンテレフタレート樹脂は、前記反応物の総量に対して、3質量%以上であることを特徴とする樹脂組成物」が開示されている。
【0006】
例えば、特許文献3には、「ポリカーボネート系樹脂と、グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体及びポリエチレンテレフタレート樹脂の反応物と、前記グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体と未反応のポリエチレンテレフタレート樹脂と、有機リン系難燃剤と、難燃滴下防止剤と、を含み、電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造において、前記ポリカーボネート系樹脂及び前記未反応のポリエチレンテレフタレート樹脂が連続相であり、前記反応物が分散相であり、前記分散相の比表面積が2以上であることを特徴とする樹脂組成物」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6123787号
【文献】特開2017-149870号公報
【文献】特開2018-002996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、ポリカーボネート系樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を含み、ポリカーボネート系樹脂を含んでなる連続相とポリエチレンテレフタレート樹脂を含んでなる分散相と、を含む樹脂相分離構造を有する樹脂組成物において、前記分散相の長手方向における数平均直径が1.5μm超えである場合、又は、前記長手方向の数平均直径と前記短手方向の数平均直径とのアスペクト比が2.5超えである場合に比べて、射出成形における計量のばらつきが抑制される樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
【0010】
[1] ポリカーボネート系樹脂と、
ポリエチレンテレフタレート樹脂と、
を含み、
ポリカーボネート系樹脂を含んでなる連続相とポリエチレンテレフタレート樹脂を含んでなる分散相と、を含む樹脂相分離構造を有し、
前記分散相の長手方向における数平均直径が1.5μm以下であり、
前記分散相の短手方向における数平均直径が0.8μm以下であり、且つ、
前記長手方向の数平均直径と前記短手方向の数平均直径とのアスペクト比が2.5以下である、樹脂組成物。
[2] 前記分散相の長手方向における数平均直径が0.5μm以上1.3μm以下である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記分散相の短手方向における数平均直径が0.1μm以上0.6μm以下である、[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 有機リン系難燃剤と、
難燃滴下防止剤と、
を更に含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
[5] 前記有機リン系難燃剤が、縮合リン酸エステルを含む、[4]に記載の樹脂組成物。
[6] 前記難燃滴下防止剤が、フッ素含有樹脂を含む、[4]又は[5]に記載の樹脂組成物。
[7] 前記フッ素含有樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む、[6]に記載の樹脂組成物。
[8] 樹脂成分100質量部に対して、前記有機リン系難燃剤の含有量が、1質量部以上25質量部以下である、[4]~[7]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
[9] 樹脂成分100質量部に対する、前記難燃滴下防止剤の含有量が、0.3質量部以上0.8質量部以下である、[4]~[8]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
[10] 樹脂成分100質量部に対して、前記ポリカーボネート系樹脂の含有量が、40質量部以上90質量部以下である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
[11] 樹脂成分100質量部に対して、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量が、10質量部以上40質量部以下である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
[12] 前記分散相の長手方向における数平均直径R
LONGの1/2の値を、下記式(A)におけるr
iに代入したときに、下記式(A)で示される比表面積Aの値が2.0以上であり、且つ、
前記分散相の短手方向における数平均直径R
SHORTの1/2の値を、下記式(A)におけるr
iに代入したときに、下記式(A)で示される比表面積Aの値が7.0以上である、
[1]~[11]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【数1】
[式(A)中、Aは分散相の比表面積を示し、Nは観察視野中の分散相の個数を示し、r
iはi番目の分散相の半径を示す。]
[13] [1]~[12]のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む樹脂成形体。
[14] 射出成形体である、[13]に記載の樹脂成形体。
【発明の効果】
【0011】
[1]、[4]、[5]、[6]、[7]に係る発明によれば、
ポリカーボネート系樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を含み、ポリカーボネート系樹脂を含んでなる連続相とポリエチレンテレフタレート樹脂を含んでなる分散相と、を含む樹脂相分離構造を有する樹脂組成物において、前記分散相の長手方向における数平均直径が1.5μm超えである場合、又は、前記長手方向の数平均直径と前記短手方向の数平均直径とのアスペクト比が2.5超えである場合に比べて、射出成形における計量のばらつきが抑制される樹脂組成物が提供される。
【0012】
[2]に係る発明によれば、
前記分散相の長手方向における数平均直径が0.5μm未満又は1.3μm超えである場合に比べて、射出成形における計量のばらつきが抑制される樹脂組成物が提供される。
[3]に係る発明によれば、
前記分散相の短手方向における数平均直径が0.1μm未満又は0.6μm超えである場合に比べて、射出成形における計量のばらつきが抑制される樹脂組成物が提供される。
[8]に係る発明によれば、
樹脂成分100質量部に対して、前記有機リン系難燃剤の含有量が、1質量部未満又は25質量部超えである場合に比べて、射出成形における計量のばらつきが抑制される樹脂組成物が提供される。
[9]に係る発明によれば、
樹脂成分100質量部に対する、前記難燃滴下防止剤の含有量が、0.3質量部未満又は0.8質量部超えである場合に比べて、射出成形における計量のばらつきが抑制される樹脂組成物が提供される。
[10]に係る発明によれば、
樹脂成分100質量部に対して、前記ポリカーボネート系樹脂の含有量が、40質量部未満又は90質量部超えである場合に比べて、射出成形における計量のばらつきが抑制される樹脂組成物が提供される。
[11]に係る発明によれば、
樹脂成分100質量部に対して、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量が、10質量部未満又は40質量部超えである場合に比べて、射出成形における計量のばらつきが抑制される樹脂組成物が提供される。
[12]に係る発明によれば、
前記分散相の長手方向における数平均直径RLONGの1/2の値を、前記式(A)におけるriに代入したときに、前記式(A)で示される比表面積Aの値が2.0未満である場合、又は、前記分散相の短手方向における数平均直径RSHORTの1/2の値を、前記式(A)におけるriに代入したときに、前記式(A)で示される比表面積Aの値が7.0未満である場合に比べて、射出成形における計量のばらつきが抑制される樹脂組成物が提供される。
[13]又は[14]に係る発明によれば、
ポリカーボネート系樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を含み、ポリカーボネート系樹脂を含んでなる連続相とポリエチレンテレフタレート樹脂を含んでなる分散相と、を含む樹脂相分離構造を有する樹脂組成物において、前記分散相の長手方向における数平均直径が1.5μm超え、又は、前記長手方向の数平均直径と前記短手方向の数平均直径とのアスペクト比が2.5超えである樹脂組成物を含む樹脂成形体である場合に比べて、重量及び寸法のばらつきが抑制された樹脂成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0014】
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0015】
本明細書において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0016】
再利用が指向されているポリエチレンテレフタレート樹脂と耐薬品性を有するポリカーボネート系樹脂とを含む樹脂組成物を含む樹脂成形体の開発が進められている。しかしながら、従来のポリカーボネート系樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を含有する樹脂組成物は、射出成形における計量にばらつきが生じる傾向にあった。この要因は必ずしも明らかではないが以下のように推定することができる。
【0017】
ポリエチレンテレフタレート樹脂は、一般に、結晶性を有する樹脂である。このため、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む樹脂組成物は、ポリエチレンテレフタレート樹脂の融点付近まで加熱すると、極端な粘度変化が生じ、射出成形の際に、樹脂組成物の計量にばらつきが生じる傾向にある。射出成形の際に樹脂組成物の計量にばらつきが生じると、成形ショット毎に吐出される樹脂の体積にもばらつきが生じる傾向にある。その結果、樹脂成形体の重量及び寸法にまでばらつきが生じることがあった。
【0018】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂と、ポリエチレンテレフタレート樹脂と、を含み、ポリカーボネート系樹脂を含んでなる連続相とポリエチレンテレフタレート樹脂を含んでなる分散相と、を含む樹脂相分離構造を有し、前記分散相の長手方向における数平均直径が1.5μm以下であり、前記分散相の短手方向における数平均直径が0.8μm以下であり、且つ、前記長手方向の数平均直径と前記短手方向の数平均直径とのアスペクト比が2.5以下である。
【0019】
本実施形態に係る樹脂組成物は、射出成形における計量にばらつきが抑制される。この効果を奏する要因は必ずしも明らかではないが以下のように推定することができる。
【0020】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂を含んでなる連続相とポリエチレンテレフタレート樹脂を含んでなる分散相と、を含む樹脂相分離構造を有する。そして、分散相の長手方向における数平均直径が1.5μm以下であり、分散相の短手方向における数平均直径が0.8μm以下であり、且つ、前記長手方向の数平均直径と前記短手方向の数平均直径とのアスペクト比が2.5以下である。つまり、本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含んでなる分散相のサイズが小さく、且つ、球形に近い形態をとる。このように、ポリカーボネート系樹脂を含んでなる連続相と接触する、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含んでなる分散相の体積が小さく抑えられているため、樹脂組成物全体に対するポリエチレンテレフタレート樹脂の粘度変化による影響が、小さく抑制され易くなる。その結果、射出成形の際に樹脂組成物の計量にばらつきが生じることが抑制されると考えられる。
【0021】
≪樹脂相分離構造≫
本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂成形体としたときに、ポリカーボネート系樹脂を含んでなる連続相とポリエチレンテレフタレート樹脂を含んでなる分散相と、を含む樹脂相分離構造を有する。
【0022】
本実施形態に係る樹脂組成物は、前記樹脂相分離構造を構成する、前記分散相の長手方向における数平均直径が1.5μm以下であり、前記分散相の短手方向における数平均直径が0.8μm以下であり、且つ、前記長手方向の数平均直径と前記短手方向の数平均直径とのアスペクト比が2.5以下である。
【0023】
(長手方向における数平均直径)
本実施形態に係る樹脂組成物は、前記樹脂相分離構造を構成する、前記分散相の長手方向における数平均直径が1.5μm以下であり、射出成形における計量のばらつきをより抑制する観点からは、0.1μm以上1.4μm以下であることが好ましく、0.5μm以上1.3μm以下であることがより好ましい。
【0024】
(短手方向における数平均直径)
本実施形態に係る樹脂組成物は、前記樹脂相分離構造を構成する、前記分散相の短手方向における数平均直径が0.8μm以下であり、射出成形における計量のばらつきをより抑制する観点からは、0.05μm以上1.0.7μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.6μm以下であることがより好ましい。
【0025】
(アスペクト比)
本実施形態に係る樹脂組成物は、前記樹脂相分離構造を構成する、前記分散相の長手方向の数平均直径と前記分散相の短手方向の数平均直径とのアスペクト比(=長手方向における数平均直径/短手方向における数平均直径)が2.5以下であり、射出成形における計量のばらつきをより抑制する観点からは、1以上2.3以下であることが好ましく、1.5以上2.25以下であることがより好ましい。
【0026】
樹脂相分離構造は、以下のようにして確認できる。
樹脂組成物、又は、樹脂組成物を含む樹脂成形体(例えば、後述する手法により成形された評価試験片)における、断面方向中心部を、1mm角に切削する。樹脂成形体又は評価試験片を、四酸化ルテニウムにより、ポリエチレンテレフタレート樹脂を染色する。その後、樹脂成形体又は評価試験片を、ウルトラミクロトームにより-196℃で切削し、0.1μm以下(約80nm)の超薄切片とし、3万5千倍に拡大して透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM―2100)で観察する。そして、得られた画像を基に、連続相及び分散相の樹脂相分離構造を確認する。
【0027】
長手方向の数平均直径とは、上記得られた画像において、例えばアメリカ国立衛生研究所製画像解析ソフト「Image J」により観測される分散相について測定された長手方向の直径の算術平均値を表す。短手方向の数平均直径とは、上記得られた画像において、例えばImage Jにより観測される分散相について測定された短手方向の直径の算術平均値を表す。そして、得られた長手方向の数平均直径と短手方向の数平均直径とのアスペクト比を求める。
【0028】
長手方向の直径とは、分散相の最長径を表す。短手方向の直径とは、長手方向の直径に対して垂直の方向における、分散相の短手方向の一端部から他端部を結んだときに最長となる直線距離を表す。
【0029】
樹脂相分離構造における、長手方向の数平均直径、短手方向の数平均直径、及びアスペクト比をそれぞれ上記範囲内とする手法は特に制限されないが、例えば、1)混錬の比エネルギー(ESP、単位重量当たりに加えられる仕事量)を高くする手法;2)混錬温度を低くし樹脂組成物の粘性を調整する手法;3)ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリカーボネート系樹脂の重量平均分子量を調整する手法;4)混練機のスクリュー構成における混練ゾーンを強化する手法;などが挙げられる。
【0030】
(比表面積A)
本実施形態に係る樹脂相分離構造は、射出成形における計量のばらつきをより抑制する観点から、
前記分散相の長手方向における数平均直径RLONGの1/2の値を、下記式(A)におけるriに代入したときに、下記式(A)で示される比表面積Aの値が2.0以上であり、
且つ、前記分散相の短手方向における数平均直径RSHORTの1/2の値を、下記式(A)におけるriに代入したときに、下記式(A)で示される比表面積Aの値が7.0以上であることが好ましく、
前記分散相の長手方向における数平均直径RLONGの1/2の値を、下記式(A)におけるriに代入したときに、下記式(A)で示される比表面積Aの値が2.3以上であり、
且つ、前記分散相の短手方向における数平均直径RSHORTの1/2の値を、下記式(A)におけるriに代入したときに、下記式(A)で示される比表面積Aの値が7.2以上であることがより好ましく、
前記分散相の長手方向における数平均直径RLONGの1/2の値を、下記式(A)におけるriに代入したときに、下記式(A)で示される比表面積Aの値が2.4以上であり、
且つ、前記分散相の短手方向における数平均直径RSHORTの1/2の値を、下記式(A)におけるriに代入したときに、下記式(A)で示される比表面積Aの値が7.4以上であることがさらに好ましい。
【0031】
【数2】
式(A)中、Aは分散相の比表面積を示し、Nは観察視野中の分散相の個数を示し、r
iはi番目の分散相の半径を示す。
【0032】
式(A)中、の分母は分散相の体積を表し、分子は分散相の表面積を表している。式(A)における各パラメータは、上記得られた画像を基に、アメリカ国立衛生研究所製画像解析ソフト「Image J」を使用して求められる。
【0033】
前記比表面積Aのそれぞれの値を上記範囲内とする手法は特に制限されないが、例えば、1)混錬の比エネルギー(ESP、単位重量当たりに加えられる仕事量)を高くする手法;2)混錬温度を低くし樹脂組成物の粘性を調整する手法;3)ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリカーボネート系樹脂の重量平均分子量を調整する手法;4)混練機のスクリュー構成における混練ゾーンを強化する手法;などが挙げられる。
【0034】
≪樹脂組成物の成分≫
本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂と、ポリエチレンテレフタレート樹脂と、を含む。本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体、有機リン系難燃剤、難燃滴下防止剤、及びその他の成分を含んでいてもよい。
【0035】
[ポリカーボネート系樹脂]
ポリカーボネート系樹脂とは、少なくともカーボネート基(-O-(C=O)-O-)を構成単位に含む樹脂を意味する。
【0036】
ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート、ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、脂環式ポリカーボネートなどが挙げられる。上記の中でも、ポリカーボネート系樹脂は、樹脂成形体の面衝撃強度の点等から、芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂としては、具体的には、ビスフェノールA型、Z型、S型、MIBK型、AP型、TP型、ビフェニル型、ビスフェノールA水添加物型等のポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0037】
ポリカーボネート系樹脂は、例えば、二価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造されていてもよい。
【0038】
二価フェノールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル及びビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
【0039】
カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、カルボニルエステル、及びハロホルメート等が挙げられ、より具体的には、ホスゲン、二価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等が挙げられる。
【0040】
ポリカーボネート系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、例えば、50000以上600000以下であることが好ましい。ポリカーボネート系樹脂の重量平均分子量が50000以上600000以下であると、樹脂組成物を樹脂成形体としたときに面衝撃強度がより向上する傾向にある。
ポリカーボネート系樹脂の数平均分子量(Mn)は、例えば、10000以上30000以下であることがより好ましい。ポリカーボネート系樹脂の数平均分子量が10000以上であると、樹脂組成物の流動性が過剰になり樹脂成形体の加工性が低下することが抑制される傾向にある。他方、ポリカーボネート系樹脂の数平均分子量が30000以下であると、樹脂組成物の流動性が低くなり過ぎ樹脂成形体の加工性が低下することが抑制される傾向にある。
【0041】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂の含有量が、射出成形における計量のばらつきをより抑制する観点から、樹脂組成物における樹脂成分100質量部に対して、40質量部以上90質量部以下であることが好ましく、50質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。
【0042】
ポリカーボネート系樹脂の末端水酸基濃度は、例えば、10μeq/g以上15μeq/g以下であることが好ましい。
ポリカーボネート系樹脂の末端水酸基濃度が10μeq/g以上であると、得られる樹脂成形体の面衝撃強度がより向上する傾向にある。他方、ポリカーボネート系樹脂の末端水酸基濃度が15μeq/g以下であると、樹脂組成物の成形流動性の低下が抑制され、面衝撃強度がより向上する傾向にある。
【0043】
ポリカーボネート系樹脂の末端水酸基濃度とは、ポリカーボネート系樹脂1g中に存在するフェノール性末端水酸基の個数を示す。ポリカーボネート系樹脂の末端水酸基濃度の測定は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88215(1965)に記載の方法)に準じる。
【0044】
ポリカーボネート系樹脂の末端水酸基濃度は、樹脂が未使用である場合、重合工程の末端封止剤添加量により調整することができる。他方、樹脂が市場から回収した回収ポリカーボネート系樹脂(以下、「リサイクルPC樹脂」とも称す。)を含む場合、ポリカーボネート系樹脂の末端水酸基濃度は、リサイクルPC樹脂の市場での使用状態等により変動しうる。
【0045】
ポリカーボネート系樹脂は、リサイクルPC樹脂を含むことが好ましい。リサイクルPC樹脂は、市場に出る前のポリカーボネート系樹脂と比較して、加水分解が進行しているため、10μeq/g以上15μeq/g以下の末端水酸基濃度を有するポリカーボネート系樹脂となり易い。
【0046】
リサイクルPC樹脂の含有量は、例えば、ポリカーボネート系樹脂全体100質量部に対して、10質量部以上90質量部以下であることが好ましく、20質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。リサイクルPC樹脂の含有量が、ポリカーボネート系樹脂全体100質量部に対して、10質量部以上90質量部以下であると、樹脂組成物を樹脂成形体としたときの耐衝撃性が向上する傾向にある。
【0047】
リサイクルPC樹脂は、例えば、ポリカーボネート系樹脂の樹脂成形体を市場より回収し、乾式又は湿式の破砕機等を用いて粉砕された後に、使用される。
【0048】
[ポリエチレンテレフタレート樹脂]
ポリエチレンテレフタレート樹脂の重量平均分子量は、例えば、5000以上100000以下であることが好ましい。ポリエチレンテレフタレート樹脂の数平均分子量は、例えば、5000以上50000以下であることが好ましい。ポリエチレンテレフタレート樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量が上記範囲内であると、樹脂組成物を成形する際の流動性が高くなり過ぎず、樹脂成形体の加工性が向上する傾向にある。
【0049】
ポリエチレンテレフタレート樹脂の酸価は、5eq/t以上20eq/t以下であることが好ましく、10eq/t以上18eq/t以下であることがより好ましい。
ポリエチレンテレフタレート樹脂の酸価は、公知の手法によって調整し得るが、例えば、固相重合により調整することができる。
【0050】
ポリエチレンテレフタレート樹脂の酸価測定は、以下の手順で行う。
1)試料の調整
試料を粉砕し、70℃で24時間、真空乾燥を行った後、天秤を用いて0.20±0.0005gの範囲に秤量し、そのときの重量をW(g)とする。試験管にベンジルアルコール10mlと秤量した上記試料を加え、試験管を205℃に加熱したオイルバスに浸し、ガラス棒で攪拌しながら試料を溶解する。溶解時間を、3分間、5分間及び7分間としたときのサンプルを、それぞれA、B及びCとする。次いで、新たに試験管を用意し、ベンジルアルコールのみを入れ、同様の手順で処理し、溶解時間を3分間、5分間及び7分間としたときのサンプルを、それぞれa、b及びcとする。
2)滴定
予めファクターの分かっている0.04mol/l水酸化カリウム溶液(エタノール溶液)を用いて、上記サンプルの滴定を行う。指示薬としてフェノールレッドを用い、上記サンプルが黄緑色から淡紅色に変化したところを終点とし、終点時の水酸化カリウム溶液の滴定量(ml)を求める。サンプルA、B、Cの滴定量を、それぞれXA、XB及びXC(ml)とし、サンプルa、b及びcの滴定量を、それぞれXa、Xb及びXc(ml)とする。
3)酸価の算出
各溶解時間に対しての滴定量XA、XB及びXCを用いて、最小2乗法により、溶解時間0分での滴定量V(ml)を求める。同様にXa、Xb及びXcを用いて、滴定量V0(ml)を求める。次いで、次式に従い、ポリエチレンテレフタレート樹脂の酸価を求める。
酸価(eq/t)=[(V-V0)×0.04×NF×1000]/W
NF:0.04mol/l水酸化カリウム溶液のファクター
W:試料重量(g)
【0051】
ポリエチレンテレフタレート樹脂は、市場から回収した回収ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、「リサイクルPET樹脂」とも称す。)を含むことが好ましい。リサイクルPET樹脂は、市場に出る前の未使用のポリエチレンテレフタレートET樹脂と比較して、加水分解が進行しているため、5eq/t以上20eq/t以下の酸価を有するPET樹脂となり易い。
【0052】
リサイクルPET樹脂の含有量は、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂全体100質量部に対して、30質量部以上であることが好ましく、40質量部%以上であることがより好ましい。リサイクルPET樹脂の含有量が上記範囲内であると、樹脂組成物を含む樹脂成形体としたときの引張破断伸度の低下が抑制される傾向にある。
【0053】
リサイクルPET樹脂は、例えば、ポリカーボネート系樹脂の樹脂成形体を市場より回収し、乾式又は湿式の破砕機等を用いて粉砕された後に、使用される。
【0054】
本実施形態に係る樹脂組成物は、射出成形における計量のばらつきをより抑制する観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量が、樹脂組成物における樹脂成分100質量部に対して、10質量部以上40質量部以下であることが好ましく、15質量部以上40質量部以下であることがより好ましく、20質量部以上40質量部以下であることがさらに好ましい。
【0055】
[グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体]
グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体とは、重合性ビニル単量体に由来する構成単位と、グリシジル基及び(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位(以下、「グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル単位」とも称す。)と、を少なくとも含む共重合体を意味する。
【0056】
本実施形態に係る樹脂組成物がグリシジル基含有ポリエチレン系共重合体を含むと、グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体が、分散相を形成するポリエチレンテレフタレート樹脂と反応し、得られた反応物が分散相となる傾向にある。この反応物を含む分散相は、ポリエチレンテレフタレート樹脂のみからなる分散相に比べて、高分子量化されているため、射出成形における連続相と分散相との粘性の差がより小さく抑えられやすくなる。その結果、射出成形における計量のばらつきがより抑制される傾向にある。
また、グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体は、冷却等によりゴム状の弾性を有するエラストマーとしても機能しやすい。そのため、グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体を含む樹脂組成物とすると、樹脂成形体としたときに面衝撃強度が向上する傾向にある。
【0057】
重合性ビニル単量体としては、例えば、エチレン、エステル系ビニル、芳香族ビニル、シアン化ビニル等が挙げられる。
エステル系ビニルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
芳香族ビニルとしては、例えば、スチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
シアン化ビニルとしては、例えば、アクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
【0058】
グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル単位としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、ビニルグリシジルエーテル、(メタ)アクリルグリシジルエーテル、2-メチルプロペニルグリシジルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテル、グリシジルシンナメート、イタコン酸グリシジルエステル及びN-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3,5-ジメチルベンジル]メタクリルアミド等が挙げられる。
【0059】
本明細書において「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。本明細書において「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。
【0060】
グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体を構成する全構成単位に対して、2質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量が2質量%以上であると、ポリエチレンテレフタレート樹脂と反応して、連続相が高分子量化される傾向にある。他方、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量が20質量%以下であると、樹脂組成物の流動性が低下することが抑制され、樹脂組成物を含む樹脂成形体の加工性の低下も抑制されると考えられる。
【0061】
グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体は、ガラス転移温度が0℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であると、樹脂組成物を含む樹脂成形体としたときの弾性が低下することが抑制される傾向にある。
グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体のガラス転移温度は、示差熱量測定装置(株式会社島津製作所製、示唆差走査熱量計DSC-60)を用いて、毎分10℃の昇温速度で熱量スペクトルを測定し、ガラス転移温度に由来するピークから接線法により求めた2つのショルダー値の中間値(Tgm)とする。
【0062】
グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体等のいずれであってもよい。
【0063】
一態様として、グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体は、例えば、グリシジル基及び(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を重合してなる主鎖に、重合性ビニル単量体に由来する構成単位がグラフト重合された共重合体であってもよい。
【0064】
グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体の製造方法としては、例えば、重合性ビニル単量体と、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル単位を構成する単量体とを、リビング重合する方法等が挙げられる。リビング重合の手法としては、例えば、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩などの鉱酸塩存在下でアニオン重合する方法;有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし、有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法;有機希土類金属錯体を重合開始剤として重合する方法;α-ハロゲン化エステル化合物を開始剤として銅化合物の存在下で、ラジカル重合する方法;などが挙げられる。
例えば、グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体が、先述のグラフト共重合体である場合、グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体の製造方法としては、先述のリビング重合の他に、ラジカル重合により一段階又は多段階で重合する方法も適用できる。
【0065】
グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体の重量平均分子量は、例えば、3000以上100000以下であることが好ましい。グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体の重量平均分子量が3000未満の場合、上記範囲を満たしている場合と比較して、耐衝撃性が低下する場合があり、グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体の重量平均分子量が100000を超える場合、上記範囲を満たしている場合と比較して、樹脂組成物への分散性が低下する場合がある。
【0066】
グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体の含有量は、射出成形における計量のばらつきをより抑制する観点から、樹脂組成物における樹脂成分100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、3質量部以上8質量部以下であることがより好ましい。
【0067】
[有機リン系難燃剤]
有機リン系燃焼剤とは、炭素-リン結合を含み、燃焼性を有する有機リン化合物を意味する。有機リン系燃焼剤は、連続相に分散される傾向にある。そのため、本実施形態に係る樹脂組成物が有機リン系燃焼剤を含むと、成形の際に連続相の粘性を低下させ、連続相の粘性が分散相の粘性に近づき易く、射出成形における計量のばらつきがより抑制される傾向にある。また、樹脂組成物が有機リン系燃焼剤を含むことにより、樹脂組成物に難燃性が付与される傾向にある。
【0068】
有機リン系難燃剤としては、例えば、芳香族リン酸エステル、縮合リン酸エステル、ホスフィン酸塩、及びトリアジン骨格を有するポリリン酸塩等が挙げられる。上記の中でも、有機リン系燃焼剤は、縮合リン酸エステルを含むことが好ましく、芳香族縮合リン酸エステルを含むことがより好ましい。
【0069】
有機リン系難燃剤は、合成品であっても、市販品であってもよい。有機リン系難燃剤の市販品としては、大八化学工業社製の「CR-741」、クラリアント社製の「AP422」、燐化学工業社製の「ノーバエクセル140」等が挙げられる。
【0070】
本実施形態に係る樹脂組成物は、射出成形における計量のばらつきをより抑制する観点から、有機リン系難燃剤の含有量が、樹脂成分100質量部に対して、1質量部以上25質量部以下であることが好ましく、10質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
【0071】
[難燃滴下防止剤]
難燃滴下防止剤とは、樹脂組成物を加熱する際のドリップ(滴下)を防止し、難燃性を高める材料を意味する。難燃滴下防止剤は、連続相及び分散相のそれぞれに分散される傾向にある。そのため、本実施形態に係る樹脂組成物が難燃滴下防止剤を含むと、成形の際に、連続相中で分散相を分散性高く存在し易くなる。その結果、成形の際に分散相のサイズが大きくなることがより抑制され易く、射出成形における計量のばらつきがより抑制される傾向にある。また、樹脂組成物が難燃滴下防止剤を含むことにより、樹脂組成物に難燃性が付与される傾向にある。
【0072】
難燃滴下防止剤としては、例えば、ガラスファイバー、液晶ポリマー、フッ素含有樹脂等が挙げられる。上記の中でも、難燃滴下防止剤は、フッ素含有樹脂を含むことが好ましい。
フッ素含有樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン等が挙げられる。上記の中でも、フッ素含有樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むことが好ましい。
【0073】
本実施形態に係る樹脂組成物は、射出成形における計量のばらつきをより抑制する観点から、難燃滴下防止剤の含有量が、樹脂成分100質量部に対して、0.2質量部以上1.0質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以上0.8質量部以下であることがより好ましい。
【0074】
[その他の成分]
本実施形態に係る樹脂組成物は、射出成形における計量のばらつきが抑制される範囲内であれば、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体、有機リン系難燃剤及び難燃滴下防止剤以外のその他の成分(以下、単に「その他の成分」とも称す。)を含んでいてもよい。
【0075】
その他の成分としては、例えば、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS共重合体);ポリエチレンテレフタレート樹脂及びグリシジル基含有ポリエチレン系共重合体以外のその他の樹脂;加水分解防止剤;酸化防止剤;充填剤;などが挙げられる。
【0076】
その他の成分の含有量は、射出成形における計量のばらつきが抑制される範囲内であれば特に制限されないが、例えば、樹脂組成物を構成する樹脂成分の全量に対して、0.01質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下であることがより好ましい。
【0077】
加水分解防止剤としては、例えば、カルボジイミド化合物、オキソゾリン系化合物が挙げられる。カルボジイミド化合物としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ナフチルカルボジイミド等が挙げられる。
【0078】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、アミン系、リン系、イオウ系、ヒドロキノン系、キノリン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0079】
充填剤としては、例えば、カオリン、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土などのクレイ、タルク、マイカ、モンモリナイト等が挙げられる。
【0080】
[樹脂組成物の成形方法]
材料を溶融混練する手法は特に制限されず、溶融混練機として、二軸押出機、一軸押出機等の従来公知の溶融混練機が適用できる。
溶融混練温度は、使用する樹脂の種類、組成比等に応じて適宜設計できるが、例えば、バレル(シリンダ)温度は、例えば220℃以上280℃以下の範囲であることが好ましく、ダイス温度は、220℃以上280℃以下の範囲であることが好ましい。
溶融混練時間は、原料の投入量等に応じて適宜設計できるが、例えば、溶融混錬機として二軸押出機を用いる場合、平均滞留時間は10分以下であることが好ましい。
【0081】
[樹脂成形体]
本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物を含む。
本実施形態に係る樹脂成形体は、上記構成を有することにより、射出成形における計量のばらつきが抑制されるため、成形ショット毎に吐出される樹脂の体積にばらつきが生じることも抑制される傾向にある。その結果、樹脂成形体の重量及び寸法にばらつきが生じることが抑制される。
【0082】
本実施形態に係る樹脂成形体は、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形等の成形方法により、先述の本実施形態に係る樹脂組成物を成形することで、得られる。
【0083】
本実施形態に係る樹脂成形体は、重量及び寸法のばらつきをより抑制する観点から、射出成形体であることが好ましい。
【0084】
射出成形は、例えば、日精樹脂工業製「NEX150」、日精樹脂工業製「NEX70000」、東芝機械製「SE50D」等の市販の装置を用いて行うことができる。この際、シリンダ温度としては、例えば、170℃以上280℃以下とすることが好ましい。また、金型温度としては、例えば、生産性等の点から、30℃以上120℃以下とすることが好ましい。
【0085】
(用途)
本実施形態に係る樹脂成形体は、寸法変化率が小さいことが要求される精密機器等の部品に好適に用いられる。本実施形態に係る樹脂成形体は、例えば、家電製品、電子・電気機器等の筐体;自動車内装材;各種部品;ラッピングフィルム、CD-ROM、DVD等の梱包材;食器類、食品トレイ、飲料ボトル等の飲食品包装材;薬品ラップ材;などに用いられる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。なお、特に断りがない限り「部」は「質量部」を意味する。
【0087】
-材料の準備-
下記の材料を準備した。
(ポリカーボネート系樹脂)
実施例及び比較例で使用したポリカーボネート系樹脂は、飲料ボトル由来のリサイクルPC樹脂である。
【0088】
(ポリエチレンテレフタレート樹脂)
実施例又は比較例で使用したポリエチレンテレフタレート樹脂は、ポリエチレンテレフタレート製の飲料ボトル由来のリサイクルPET樹脂である。
【0089】
(その他の樹脂)
・グリシジル基含有ポリエチレン系共重合体:
AX8900、ARKEMA社製
グリシジルメタアクリレート/エチレン/メチルアクリレート共重合体(質量%組成比8/68/24)、ガラス相転移点(Tg):-33℃
【0090】
・メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS共重合体):
三菱ケミカル株式会社製、C―223A
【0091】
(有機リン系難燃剤)
・芳香族縮合リン酸エステル:
大八化学工業株式会社製、CR-741、燐分9%
・ポリリン酸アンモニウム:
クラリアント製、AP422
【0092】
(難燃滴下防止剤)
・難燃滴下防止剤1:
ポリテトラフルオロエチレン含量100%、ダイキン工業株式会社製、FX500H
【0093】
(酸化防止剤)
・酸化防止剤1:
フェノール系酸化防止剤、BASF株式会社製、Irganox1076
【0094】
表1に、先述の測定方法により求めた、ポリカーボネート系樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、Mw/Mn、末端水酸基濃度及び酸価を示す。
【0095】
【0096】
-樹脂組成物の作製-
[実施例1~8及び比較例1~3]
表1に示す種類と量のポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂及び難燃滴下防止剤有機リン系難燃剤と、酸化防止剤0.2質量部と、をタンブラーで混合した。その後、ベント付2軸押出機(日本製鋼所社製:TEX‐30α、L/D=49)にて、バレル(シリンダ)温度を表2に示す温度(混錬温度)に設定し、ダイス温度を表2に示す温度(ダイス温度)に設定した。スクリューは、ニーディングゾーンを3箇所備えたものを使用した。そして、表2に示す混錬の比エネルギー(ESP値、単位重量当たりに加えられる仕事量)、スクリュー回転数240rpm、ベント吸引度100MPa、及び吐出量10kg/hの条件下で、各例の樹脂組成物を溶融混練した。
【0097】
ベント付2軸押出機のバレルは、長手方向(原料押出方向)に14のセグメントに分かれている。このバレルにおける8つ目のセグメント上に設けた投入口から、溶融混練系に対し、表2に示す量の有機リン系難燃剤を添加した。続いて、2軸押出機から吐出された樹脂を、ペレット状にカッティングした。
【0098】
-樹脂成形体の作製-
得られたペレット状の樹脂組成物を、90℃で4時間、熱風乾燥機を用いて乾燥した後、射出成形機(製品名「NEX500」、東芝機械社製)により、シリンダ温度260℃、金型温度60℃で射出成型し、各例の樹脂成形体(評価用試験片)を得た。
【0099】
各例の樹脂成形体を、透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM―2100)により観察した結果、いずれの樹脂成形体も、ポリカーボネート系樹脂を含んでなる連続相と、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含んでなる分散相と、を含む相分離構造(海島構造)を形成していることを確認した。
【0100】
表3に、先述の測定方法により求めた、分散相の長手方向における数平均直径、分散相の短手方向における数平均直径、アスペクト比、式(A)における比表面積Aの値を示す。なお、式(A)における比表面積Aの値は、前記透過型電子顕微鏡により得られた画像を基に、アメリカ国立衛生研究所製画像解析ソフト「Image J」を使用して求めた。
【0101】
-評価・試験-
各例の樹脂組成物について、以下の評価及び試験を行った。表2に各結果を示す。
【0102】
<計量安定性の評価>
各例の樹脂組成物及びこれを用いた樹脂成形体の作製において、平板(300mm×200mm、厚み1.8mm)を射出成型し計量時間を測定した。30ショット成型し、その平均計量時間(算術平均値)、標準偏差、及び、ばらつき(標準偏差×3を平均計量時間で除して算出)を求めた。
【0103】
<引張強度及び引張り破断伸度>
各例の樹脂組成物から、射出成形によりJIS1号試験片(厚さ4mm)射出成形体を得た。得られた射出成形体における引張強度及び引張り破断伸度を、JIS K-7113に準じて測定した。
引張強度の数値が大きいほど、引張強度に優れることを示す。
引張り破断伸度の数値が大きいほど、引張り破断伸度に優れることを示す。
【0104】
<シャルピー耐衝撃強度>
各例の樹脂成形体について、ISO多目的ダンベル試験片をノッチ加工したものを用いて、デジタル衝撃試験機(東洋精機製、DG-5)により、ISO-179に準拠して、MD方向にシャルピー耐衝撃強度(単位:kJ/m2)を測定した。測定条件は、持ち上げ角度150度、使用ハンマー2.0J、測定数n=10とした。
シャルピー耐衝撃強度の数値が大きいほど、耐衝撃性に優れていることを示す。
【0105】
【0106】
表2に示すように、実施例の樹脂組成物を含む樹脂成形体は、比較例の樹脂組成物を含む樹脂成形体に比べ、射出成形における計量のばらつきが抑制さることがわかった。また、実施例の樹脂組成物を含む樹脂成形体は、比較例の樹脂組成物を含む樹脂成形体に比べ、引張強度及び引張り破断伸度、シャルピー耐衝撃強度にも優れることがわかった。