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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】加飾フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240611BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240611BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B7/023
B32B27/20 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020063899
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021160220
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】氏平 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克典
(72)【発明者】
【氏名】森脇 幹文
(72)【発明者】
【氏名】山口 紘次朗
(72)【発明者】
【氏名】中井 正規
(72)【発明者】
【氏名】市原 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博紀
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-043427(JP,A)
【文献】特開2020-049722(JP,A)
【文献】特開2013-158662(JP,A)
【文献】特開2005-186410(JP,A)
【文献】特開2012-000905(JP,A)
【文献】特開2007-077257(JP,A)
【文献】特開平05-309996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-7/26
C09C 1/00-3/12
C09D 15/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材の表面に第1反射層と第2反射層を順次積層することで形成される加飾フィルムであって、
前記フィルム基材は、金属、又はプラスチックからなるフィルム、又は金属とプラスチックを積層した複合フィルムであって、
前記第1反射層及び前記第2反射層は、熱可塑性を有する樹脂からなる塗料基材に光輝顔料を混合した反射塗料で構成されており、
前記第2反射層が反射する光の強さは前記加飾フィルムの表面に沿う方向の伸長量に応じて減少する一方、前記第1反射層が反射する光の強さは前記加飾フィルムの表面に沿う方向の伸長量に応じて増加しており
前記第1反射層は、第1塗料基材と、前記第1塗料基材に含まれるフレーク状粉末の第1光輝顔料とを有しており、
前記第2反射層は、第2塗料基材と、前記第2塗料基材に含まれるフレーク状粉末の第2光輝顔料とを有しており、
前記第1光輝顔料の配向は、前記フィルム基材に垂直な方向に偏らされている、ことを特徴とする加飾フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のボディ等に貼り付けられる加飾フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属または樹脂の表面にフィルムを貼り付けて複合材料を製造する方法が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-87960号
【0004】
工業製品、特に自動車において、魅力的なボディカラーを車体に与えるため、光を反射する顔料を塗料と混ぜて、その塗料を用いて車体を塗装することがある。フィルムを貼り付けることにより車体にボディカラーを与える場合も、同様に、アクリルなどのフィルムの材料に顔料を混ぜて、光沢のある加飾フィルムが形成される。一方、車体などの基材にフィルムを貼り付けるとき、フィルムは、表面に生じ得る皺を押さえるために固定される。このとき、固定されているフィルムの近傍において、フィルムは引き伸ばされるように力を与えられるため、フィルムに含まれる顔料の隙間が広がり、透過する光が増え、光が反射され難くなることがある。したがって、光の反射率がフィルムの場所に応じて変化するようになるため、フィルムに色むらや装飾むらが生じ得る。このフィルムを車体に貼り付ける場合、所望のボディカラーが得られない虞がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本願発明は、曲面の多い自動車のボディ等に貼り付けた場合でも、光の反射率が常にほぼ一様になる加飾フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、本発明の実施形態に係る加飾フィルムは、フィルム基材の表面に第1反射層と第2反射層を順次積層することで形成される加飾フィルムであって、
前記フィルム基材は、金属、又はプラスチックからなるフィルム、又は金属とプラスチックを積層した複合フィルムであって、
前記第1反射層及び前記第2反射層は、熱可塑性を有する樹脂からなる塗料基材に光輝顔料を混合した反射塗料で構成されており、
前記第2反射層が反射する光の強さは前記加飾フィルムの表面に沿う方向の伸長量に応じて減少する一方、前記第1反射層が反射する光の強さは前記加飾フィルムの表面に沿う方向の伸長量に応じて増加しており
前記第1反射層は、第1塗料基材と、前記第1塗料基材に含まれるフレーク状粉末の第1光輝顔料とを有しており、
前記第2反射層は、第2塗料基材と、前記第2塗料基材に含まれるフレーク状粉末の第2光輝顔料とを有しており、
前記第1光輝顔料の配向は、前記フィルム基材に垂直な方向に偏らされている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
これらの実施形態によれば、加飾フィルムが覆う面の形状に関わらず(つまり、加飾フィルムが覆う面が曲面又は屈曲面であっても)、加飾フィルムにおいて反射される光の強さがほぼ一定であるため、被覆面は一様な反射率を発揮する。したがって、加飾フィルムを例えば曲面の多い自動車のボディ等に貼り付けた場合、色むらや装飾むらの無い面が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1と第2の実施形態に係る加飾フィルム製造装置の概略構成を示す概略図。
図2】第1の実施形態に係る加飾フィルムの断面図。
図3】第2の実施形態に係る加飾フィルムの断面図。
図4】第3の実施形態に係る加飾フィルム製造装置の概略構成を示す概略図。
図5】第3の実施形態に係る加飾フィルムの断面図。
図6】第3の実施形態に係る加飾フィルムの断面図。
図7】第1の実施形態の変形例に係る加飾フィルムの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態に係る加飾フィルムの製造方法と、その方法で製造される加飾フィルムの実施形態を説明する。なお、以下の図面を参照した説明では、図面の左右方向をx方向、x方向に直交する図面の表裏方向をy方向、x方向とy方向に直交する図面の上下方向をz方向という。また、図示する装置の大きさやそれを構成する各部分の大きさと形状は誇張して示されており、実際のものとは異なる。
【0011】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る加飾フィルム1を製造する加飾フィルム製造装置(以下、「フィルム製造装置」という。)100の概略構成を示す。以下に説明する第1の実施形態において、加飾フィルム1は、図2に示すように、薄いシート状のフィルム基材12、該フィルム基材12の一方の表面(上面)に配置される反射層14、該反射層14の表面(上面)に配置される着色層16、及び該着色層16の表面(上面)に配置されるコーティング層18を含む。
【0012】
反射層14は複数の層で構成される。第1の実施形態では、反射層14は、反射層14の下に位置するフィルム基材12に接する下部反射層(第1の反射層)14aと、反射層14の上に位置する着色層16に接する上部反射層(第2の反射層)14bを有する。
【0013】
図1に戻り、フィルム製造装置(塗布装置)100は、製造される加飾フィルム1を支持する下部構造102と、製造される加飾フィルム1のフィルム基材12の表面に反射層14、着色層16、及びコーティング層18を積層(塗布)する上部構造104を有する。第1の実施形態において、フィルム製造装置100はオフセット式塗布装置である。ただし、塗布装置は、これに限らず、グラビア印刷装置やスクリーン印刷装置等の各種印刷装置と同様の構成を有する各種塗布装置が利用可能である。
【0014】
下部構造102は、y方向に伸びる中心軸を中心に回転可能な略円柱形状の第1~第4のバックアップローラ110A,110B,110C,110Dを有する。第1~第4のバックアップローラ110A,110B,110C,110Dは、図の左側から右側に順番に配置されている。第1~第4のバックアップローラ110A,110B,110C,110Dは図面上近接して配置されているが、それらの間隔は任意に決めることができる。
【0015】
上部構造104は、y方向に伸びる中心軸を中心に回転可能な略円柱形状の第1~第4の塗布ローラ112A,112B,112C,112Dを有する。第1~第4の塗布ローラ112A,112B,112C,112Dは、それぞれ第1~第4のバックアップローラ110A,110B,110C,110Dの上に平行に配置されている。図示しないが、第1~第4の塗布ローラ112A,112B,112C,112Dの近傍にはそれぞれ、第1~第4の塗料供給ローラが配置されている。第1~第4のバックアップローラ110A,110B,110C,110D、第1~第4の塗布ローラ112A,112B,112C,112D、及び第1~第4の塗料供給ローラは、モータを含む駆動系130に駆動連結されており、予め決められた速度で図示する方向(バックアップローラと塗料供給ローラは時計周り方向、塗布ローラは反時計周り方向)に回転するように構成されている。
【0016】
これら第1~第4のバックアップローラ110A,110B,110C,110Dはそれぞれ、対応する第1~第4の塗布ローラ112A,112B,112C,112Dと第1~第4の塗料供給ローラと組み合わされて、下部反射層14a,上部反射層14b,着色層16、及びコーティング層18を印刷する第1~第4の塗装工程114A,114B,114C,114Dを構成している。
【0017】
図2に示すように、一般的に、下部反射層14a,上部反射層14b,着色層16、及びコーティング層18の厚さは異なる。そのため、第1~第4の塗布ローラ112A,112B,112C,112Dとこれらに対応する第1~第4の塗料供給ローラとの接触圧又は間隔(ギャップ)、及び、第1~第4の塗布ローラ112A,112B,112C,112Dとこれらに対応する第1~第4のバックアップローラ110A,110B,110C,110Dとの間隔(ギャップ)は、印刷される層の厚さや印刷する材料の性質(例えば、粘度)に応じて適宜決められる。
【0018】
フィルム基材12、及びそれに印刷される下部反射層14a、上部反射層14b、着色層16、コーティング層18の材料について説明する。
【0019】
フィルム基材12は、図示するように、x方向とy方向に所定の長さを有する平坦なフィルムである。フィルム基材12は、金属(例えば、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケル、チタン、白金)からなるフィルムであってもよいし、プラスチック[例えば、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PU)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ガラス繊維強化ポリエチレンフタレート(GF-PET)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)]、又はその他のエンジニアリングプラスチック[超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、熱可塑性ポリエステルエラストマ(TPEE)]からなるフィルムであってもよいし、金属とプラスチックを積層した複合フィルムであってもよい。
【0020】
反射層14を構成する塗料は、熱可塑性を有するアクリル樹脂又はウレタン樹脂からなる塗料基材に光輝顔料を混合した反射塗料である。本明細書において、光輝顔料は、塗膜内に入射した光を反射させる物質、すなわちフィラーや一般的な顔料などのことを示す。反射顔料は、限定的ではないが、例えば、薄いアルミニウムフレークを基材とし、フレーク表面にシリカ層を被覆し、さらに金属粒子をメッキしたメタリック顔料が使われる。
【0021】
第1の実施形態では、下部反射層14aを構成する下部反射塗料20a(以下、適宜「第1の塗料」という。)は、下部塗料基材22aと、下部塗料基材22aに混合された下部光輝顔料24aを含む。また、上部反射層14bを構成する上部反射塗料20b(以下、適宜「第2の塗料」という。)は、上部塗料基材22bと、上部塗料基材22bに混合された上部光輝顔料24bを含む。下部光輝材料24aの平均粒径は上部光輝顔料24bの平均粒径よりも大きい。例えば、下部光輝顔料24aの平均粒径は約50マイクロメートル~約100マイクロメートル、上部光輝顔料24bの平均粒径は約10マイクロメートル~約20マイクロメートルである。なお、下部光輝顔料24aと上部光輝顔料24bは、それぞれ、薄い板状フレームを基材としており、顔料の平均粒径はフレークの長手方向のサイズである。
【0022】
下部反射層14aにおける下部光輝顔料24aの密度は上部反射層14bにおける上部光輝顔料24bの密度よりも大きい。ここで、「密度」とは、それぞれの反射層をその垂直方向の上方から見たとき、単位面積の中で光輝顔料が占める面積の比をいう。
【0023】
着色層16は、所望の色の着色剤を含む塗料(以下、適宜「第3の塗料」という。)である。例えば、加飾フィルムが自動車のボディ表面の外装材として使用される場合、塗料にはウレタン塗料、アクリル塗料が利用される。
【0024】
コーティング層18は、例えばガラスを材料とする透明又は半透明の塗料(以下、適宜「第4の塗料」という。)を塗布及び乾燥させることで形成される層である。
【0025】
上述のフィルム製造装置を用いた加飾フィルムの製造を説明する。
【0026】
図1に示す状態で、駆動系130の駆動に基づいて、バックアップローラ110A,110B,110C,110D、塗布ローラ112A,112B,112C,112D、及び塗料供給ローラがそれぞれ所定の方向に回転する。これにより、第1~第4の塗布ローラ112A,112B,112C,112Dの外周面にはそれぞれ、隣接する第1~第4の塗料供給ローラから第1~第4の塗料が供給され、所望の厚さの塗膜が形成される。第1~第4の塗布ローラ112A,112B,112C,112Dの塗膜は、バックアップローラ110A,110B,110C,110Dと塗布ローラ112A,112B,112C,112Dとの間を図の左側から右側に向かって搬送されるフィルム基材12に順次転写され、これにより、フィルム基材12の表面には所定の厚さの下部反射層14a、上部反射層14b、着色層16、及びコーティング層18が順次積層され、図2に示す層構造を有する加飾フィルム1が製造される。
【0027】
このように製造された加飾フィルム1を、例えば凸状曲面又は凸状屈曲面を有する車体表面上に、その面方向に力を加えながら貼り付けた場合、凸状曲面又は凸状屈曲面を覆うフィルム部分は大きく伸びる。これにより、上部反射層14bにおける上部光輝顔料24bの間隔が拡がり、上部反射層14bを通過して下部反射層14aに向かう光の量が大きくなる。一方、下部反射層14aにおける下部光輝顔料24aの密度は上部反射層14bにおける上部光輝顔料24bの密度よりも大きい。したがって、上部反射層14bにおいて上部光輝顔料24bの間を透過した光は、下部反射層14aにおいて下部光輝顔料24aで反射される。このように、凸状曲面部分又は凸状屈曲面部分を覆う加飾フィルム1では、上部反射層14bにおいて反射される光の量が小さくなるものの、下部反射層14aにおいて反射される光の量が大きくなり、その他の平坦な面を覆うフィルム部分における反射光の量とほぼ等しくなり、凸状曲面又は凸状屈曲面を覆うフィルム部分とその他の平坦な面を覆うフィルム部分は同等の色合いをもたらす。
【0028】
[第2の実施形態]
以下に説明する第2の実施形態において、図3に示す加飾フィルム201は、第1の実施形態の加飾フィルム1の変形例であり、下部光輝顔料224aと上部光輝顔料224bは互いに同じ形状を有する。その他の構成は第1の実施形態と同じである。したがって、第1の実施形態の層と同じ又は対応する層には、第1の実施形態の符号に「200」を加えた符号を付して、説明を省略する。
【0029】
第2の実施形態におけるフィルム製造装置(塗布装置)の構成は、第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0030】
反射層214の内、下部反射層214aを構成する下部反射塗料220aは、熱可塑性を有するアクリル樹脂又はウレタン樹脂からなる下部塗料基材222aと、下部塗料基材222aに混合された下部光輝顔料224aを含む。下部光輝顔料224aは、限定的ではないが、例えば、光の屈折率が約1.76である酸化アルミニウムフレークを基材とし、フレーク表面にシリカ層を被覆し、さらに金属粒子をメッキしたメタリック顔料が使われる。
【0031】
反射層214の内、上部反射層214bを構成する上部反射塗料220bは、熱可塑性を有するアクリル樹脂又はウレタン樹脂からなる上部塗料基材222bと、上部塗料基材222bに混合された上部光輝顔料224bを含む。上部光輝顔料224bは、限定的ではないが、例えば、光の屈折率が約1.48であるアルミニウムフレークを基材とし、フレーク表面にシリカ層を被覆し、さらに金属粒子をメッキしたメタリック顔料が使われる。
【0032】
下部反射層214aの下部反射塗料220aに含まれる下部光輝顔料224aと、上部反射層214bの上部反射塗料220bに含まれる上部光輝顔料224bは、それぞれ、約10~20マイクロメートルの平均粒径を有する。なお、下部光輝顔料224aと上部光輝顔料224bは、それぞれ、薄い板状フレームを基材としており、顔料の平均粒径はフレークの長手方向のサイズである。
【0033】
下部反射層214aの反射率と上部反射層214bの反射率について説明する。それぞれの反射層の反射率は以下の数式1から求まる。この数式1から求まる値Rは、それぞれの反射層の反射率を示す。また、変数n1は、下部塗料基材222a又は上部塗料基材222bの屈折率であり、実施形態における塗料基材がアクリル樹脂又はウレタン樹脂であるため、約1.49である。一方、変数n2は、下部光輝顔料224a又は上部光輝顔料224bの上述の屈折率である。
【0034】
【数1】
【0035】
この数式1から、下部反射層214aの反射率は約6.90×10-3と求まる。一方、上部反射層214bの反射率は約1.13×10-5と求まる。したがって、下部反射層214aの反射率は上部反射層214bの反射率よりも大きい。
【0036】
第2の実施形態における加飾フィルム201の製造方法は、第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0037】
製造された加飾フィルム201を、例えば凸状曲面又は凸状屈曲面を有する車体表面上に、その面方向に力を加えながら貼り付けた場合、凸状曲面又は凸状屈曲面を覆うフィルム部分は大きく伸びる。これにより、上部反射層214bにおける上部光輝顔料224bの間隔が拡がり、上部反射層214bを通過して下部反射層214aに向かう光の量が大きくなる。一方、下部反射層214aの反射率は上部反射層214bの反射率よりも大きい。したがって、上部反射層214bにおいて上部光輝顔料224bの間を透過した光は、下部反射層214aにおいて強く反射される。このように、凸状曲面部分又は凸状屈曲面部分を覆う加飾フィルム201では、上部反射層214bにおいて反射される光の強さが小さくなるものの、下部反射層214aにおいて反射される光の強さが大きくなり、その他の平坦な面を覆うフィルム部分における反射光の強さとほぼ等しくなり、凸状曲面又は凸状屈曲面を覆うフィルム部分とその他の平坦な面を覆うフィルム部分は同等の色合いをもたらす。
【0038】
[第3の実施形態]
図4は、第3の実施形態に係る加飾フィルム401を製造する加飾フィルム製造装置(以下、「フィルム製造装置」という。)300の概略構成を示す。以下に説明する第3の実施形態において、加飾フィルム401は、図5に示すように、第1の実施形態の加飾フィルム1の変形例であり、下部光輝顔料424aと上部光輝顔料424bは、互いに同じ形状を有する一方、配向が異なる。その他の構成は第1の実施形態と同じである。したがって、第1の実施形態の層と同じ又は対応する層には、第1の実施形態の符号に「400」を加えた符号を付して、説明を省略する。
【0039】
図4に戻り、フィルム製造装置300は、第1の実施形態のフィルム製造装置100の変形例であり、第2の塗装工程314Bと第3の塗装工程314Cの間に偏向磁場部316を備える。その他の構成は第1の実施形態と同じである。したがって、第1の実施形態の層と同じ又は対応する層には、第1の実施形態の符号に「200」を加えた符号を付して、説明を省略する。
【0040】
偏向磁場部316は、下部構造302と上部構造304にそれぞれ配置されている1対のコイル318A,318Bを備える。詳しく図示しないが、コイル318A,318Bは、z方向を軸とする略円筒形状のヘルムホルツコイルとして形成されており、外部に設けられているコントローラ340に電気的に接続されている。コントローラ340は、直流電源を含んでおり、コイル318A,318Bにそれぞれ電流を流すことで、コイル318Aからコイル318Bに向けて、すなわち上向き(図4のz方向)に磁場を発生させるように構成されている。このコイル318A,318Bを含む偏向磁場部316は、後述する偏向工程320を構成している。
【0041】
図5に示すように、反射層414の内、下部反射層414aを構成する下部反射塗料420aは、アクリル樹脂又はウレタン樹脂からなる下部塗料基材422aと、下部塗料基材422aに混合された下部光輝顔料424aを含む。下部光輝顔料424aは、限定的ではないが、例えば、透磁率(一般的に、磁場による磁化の起こり易さを示す。)が十分に大きいステンレスフレークを基材とし、フレーク表面にシリカ層を被覆し、さらに金属粒子をメッキしたメタリック顔料が使われる。
【0042】
反射層414の内、上部反射層414bを構成する上部反射塗料420bは、アクリル樹脂又はウレタン樹脂からなる上部塗料基材422bと、上部塗料基材422bに混合された上部光輝顔料424bを含む。上部光輝顔料424bは、限定的ではないが、例えば、透磁率が十分に小さいアルミニウムフレークを基材とし、フレーク表面にシリカ層を被覆し、さらに金属粒子をメッキしたメタリック顔料が使われる。
【0043】
下部反射層414aの下部光輝顔料424aと、上部反射層414bの上部光輝顔料424bは、それぞれ、約10~20マイクロメートルの平均粒径を有する。なお、下部光輝顔料424aと上部光輝顔料424bは、それぞれ、薄い板状フレームを基材としており、顔料の平均粒径はフレークの長手方向のサイズである。
【0044】
上述のように、下部光輝顔料424aは、透磁率の大きなステンレスフレークを基材としているので、磁場に置かれると、図5に示すように、ステンレスフレークの平坦面(主面)が磁束方向に揃うように偏向されて概ね同方向に配向される。一方、上部光輝顔料424bは、透磁率の小さなアルミニウムフレークを基材としているので、磁場に置かれても、アルミニウムフレークの平坦面は偏向されず、塗布時の配向を維持する。
【0045】
第3の実施形態における加飾フィルム401の製造方法は、第1の実施形態における加飾フィルム1の製造方法の変形例であり、第2の塗装工程314Bと第3の塗装工程314Cの間の偏向工程320において、光輝顔料の配向を変化させる。その他の工程は第1の実施形態と同じである。
【0046】
第3の実施形態では、第2の塗装工程314Bと第3の塗装工程314Cの間に設けられている偏向工程320において、コントローラ140から供給される電流に基づいて、コイル318A,318Bが上向き(図4のz方向)の磁場を形成する。この磁場は、第2の塗装工程314Bを終えて、第3の塗装工程314Cに向かって搬送されるフィルム基材412、及びその表面に積層された下部反射層414aと上部反射層414bに作用する。このとき、上部反射層414bの上部反射塗料420bだけでなく、下部反射層414aの下部反射塗料420aも未硬化の状態を保っている。したがって、下部光輝顔料424aの基材は透磁率の大きなステンレスフレークであるので、図5に示すように、偏向磁場部116を通過する際に上向き磁場の影響を受け、ステンレスフレークの平坦面(主面)が磁束方句に偏向されて概ね同方向に配向される。一方、上部反射層414bに含まれる上部光輝顔料424bの基材は透磁率の小さなアルミニウムフレークであるため、磁場の影響を殆ど受けず、塗布時の配向を維持する。
【0047】
製造された加飾フィルム401を、例えば凸状曲面又は凸状屈曲面を有する車体表面上に、その面方向に力を加えながら貼り付けた場合、凸状曲面又は凸状屈曲面を覆うフィルム部分は大きく伸びる。これにより、上部反射層414bにおける上部光輝顔料424bの間隔が広がり、上部反射層414bを通過して下部反射層414aに向かう光の量が大きくなる。また、下部反射層414aも同方向に伸びるが、この伸びによって下部反射層414aにおいて上下方向に向けられていた下部光輝顔料424aが図6に示すように傾き、上下方向から見たときの下部光輝顔料424aの面積が大きくなり、その結果、上部光輝顔料424bの間を透過した光は、下部反射層414aにおいて下部光輝顔料424aで反射され易くなる。このように、凸状曲面部分又は凸状屈曲面部分を覆う加飾フィルム401では、上部反射層414bにおいて反射される光の量が小さくなるものの、下部反射層414aにおいて反射される光の量が大きくなり、その他の平坦な面を覆うフィルム部分における反射光の量とほぼ等しくなり、凸状曲面又は凸状屈曲面を覆うフィルム部分とその他の平坦な面を覆うフィルム部分は同等の色合いをもたらす。
【0048】
[他の実施形態]
上述の実施形態では、反射層14,214,414を2つの層、すなわち、下部反射層14a,214a,414aと上部反射層14b,214b,414bでそれぞれ構成したが、反射層14,214,414を構成する層の数は限定的ではない。例えば、反射層は3つの層で構成されていてもよい。いずれの場合においても、上部反射層において反射される光の強さが小さくなるとき、下部反射層で反射される光の強さが、上部反射層において反射される光の強さを補うことができるように十分大きくなることが必要である。
【0049】
上述の実施形態では、基材12,212,412の表面に所定の厚さの下部反射層14a,214a,414a、上部反射層14b,214b,414b、着色層16,216,416、及びコーティング層18,218,418が順次積層されて、加飾フィルム1,201,401が製造されるが、透明又は半透明な基材の裏面に所定の厚さの着色層、上部反射層、及び下部反射層が順次積層されて、加飾フィルムが製造されてもよい。例えば、図7は、第1の実施形態の変形例として、透明又は半透明な基材518の裏面に所定の厚さの着色層516、上部反射層514b、及び下部反射層514aが順次積層された実施形態を示している。また、第3の実施形態では、偏向工程320が第2の塗装工程314Bと第3の塗装工程314Cの間で実施されるが、変形例では、偏向工程は、上部反射層と下部反射層が積層された後に実施されることが必要である。
【0050】
上述の実施形態では、塗装装置としてオフセット式の塗布装置を採用したが、それ以外の塗布装置、例えば、ダイコータを使った塗布装置を使用してもよい。
【0051】
上述の実施形態では、第1~第4の塗装工程を一定の間隔に配置しているが、隣接する塗装工程の間隔は適宜決定すればよいし、隣接する塗装工程の間に適宜乾燥工程を設けてもよい。また、上述の実施形態では、バックアップローラの上に塗布ローラを配置したが、逆に、塗布ローラの上にバックアップローラを配置し、基材の下面に塗料を塗布してもよい。
【0052】
上述の実施形態では、基材と着色層を単一の層で形成しているが、それらは複数の層で形成されてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1:加飾フィルム、12:フィルム基材、14a:第1反射層(下部反射層)、14b:第2反射層(上部反射層)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7