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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】車載用二次電池装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/392 20210101AFI20240611BHJP
   H01M 50/342 20210101ALI20240611BHJP
   H01M 50/249 20210101ALI20240611BHJP
   H01M 50/55 20210101ALI20240611BHJP
   H01M 50/367 20210101ALI20240611BHJP
【FI】
H01M50/392
H01M50/342 101
H01M50/249
H01M50/55 101
H01M50/367
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020073308
(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公開番号】P2021170481
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】増田 渉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 敏貴
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-194001(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063868(WO,A1)
【文献】特開2007-012485(JP,A)
【文献】特開2017-139088(JP,A)
【文献】特開2017-098011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/30-50/392
H01M 50/20-50/298
H01M 50/10-50/198
H01M 50/50-50/598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される二次電池装置であって、
内側に電極体および電解液を収容するセルケースと、一対の端子と、前記セルケースの下部に設けられて前記セルケースの内側の圧力が所定値以上になると当該セルケースの内外を連通するように開弁する開放弁とを有するバッテリーセルと、
前記バッテリーセルを内側に収容する収容容器と、
前記セルケースの下面とこれと対向する前記収容容器の底面との間に配設されて、前記電解液を吸収可能な吸液材とを備え
前記開放弁は、前記セルケースの下面に設けられており、
前記吸液材は、前記車両の上方側から見たときに、前記開放弁と重複しない位置に設けられている、ことを特徴とする車載用二次電池装置。
【請求項2】
請求項に記載の車載用二次電池装置において、
前記収容容器の底面に沿って列状に並ぶ複数の前記バッテリーセルを備え、
複数の前記バッテリーセルが並ぶ方向を前後方向、前記車両の上方側から見たときに当該前後方向と直交する方向を左右方向としたとき、複数の前記バッテリーセルは、前後方向に隣接する前側バッテリーセルおよび後側バッテリーセルを備え、
前記前側バッテリーセルの前記開放弁は、前後方向に延びる基準線に対し前記左右方向の一方側にずれた位置に設けられ、
前記後側バッテリーセルの前記開放弁は、前記基準線に対し前記左右方向の他方側にずれた位置に設けられている、ことを特徴とする車載用二次電池装置。
【請求項3】
請求項に記載の車載用二次電池装置において、
一対の前記端子は、前記セルケースを左右方向に二等分する中心線を挟んで互いに離間するように配置された正極端子および負極端子であり、
前記開放弁は、前記セルケースの下面における前記中心線よりも前記正極端子および前記負極端子のいずれかに偏った位置に設けられ、
前記前側バッテリーセルおよび前記後側バッテリーセルは、両バッテリーセルの前記中心線が前記基準線に一致し、且つ一方のバッテリーセルの前記正極端子と他方のバッテリーセルの前記負極端子とが前後方向に直線状に並ぶように配置されている、ことを特徴とする車載用二次電池装置。
【請求項4】
請求項またはに記載の車載用二次電池装置において、
前記吸液材は、前記車両の上方側から見たときに、前記前側バッテリーセルおよび前記後側バッテリーセルの前記各開放弁を含む領域を挟んで前記左右方向に対向する第1吸液部材および第2吸液部材を有し、
前記前側バッテリーセルと前記収容容器の底面との間に、前記車両の上方側から見たときに前記第1吸液部材から前記前側バッテリーセルの前記開放弁の後方を通って前記第2吸液部材に向かって延びる第1区画壁が設けられ、
前記後側バッテリーセルと前記収容容器の底面との間に、前記車両の上方側から見たときに前記第2吸液部材から前記後側バッテリーセルの前記開放弁の前方を通って前記第1吸液部材に向かって延びる第2区画壁が設けられ、
前記第1区画壁と前記第2吸液部材との間、および前記第2区画壁と前記第1吸液部材との間に、それぞれ隙間が形成されている、ことを特徴とする車載用二次電池装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車載用二次電池装置において、
前記収容容器の底面に沿って列状に並ぶ複数の前記バッテリーセルを備え、
複数の前記バッテリーセルが並ぶ方向を前後方向、前記車両の上方側から見たときに当該前後方向と直交する方向を左右方向としたとき、
前記各バッテリーセルの前記開放弁は、それぞれ前記セルケースの左右一方側の側面の下部に設けられ、
前記各バッテリーセルの前記開放弁と対向する前記収容容器の内側面には、隣接する2つの前記バッテリーセルの一方の前記開放弁と他方の前記バッテリーセルの前記開放弁とを側面視で前後方向に仕切る仕切り壁が設けられている、ことを特徴とする車載用二次電池装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される二次電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両には、各種の電気機器に電力を供給するために二次電池装置が搭載されている。また、下記特許文献1に開示されるように、電極体と電解液とが所定のケース(特許文献1では電池缶)に収容された二次電池装置として、ケースに開放弁を設けて、ケースの内圧が所定値を超えるとこの開放弁を開弁(開裂)させることでケース内のガスをケースの外部に放出するように構成されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-100273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のような安全弁を備える二次電池装置では、ケースの内圧が過度に高くなるのを防止できる。しかしながら、この二次電池装置を車両に搭載する場合において、これを高温になりやすい各種の装置が配設されたエンジンルーム等に単純に搭載すると、安全弁を介してケースの外部に漏洩したガス化した電解液が、前記高温の装置と接触することでさらに昇温するおそれがある。
【0005】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、高い安全性を確保できる車載用二次電池装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、車両に搭載される二次電池装置であって、内側に電極体および電解液を収容するセルケースと、一対の端子と、前記セルケースの下部に設けられて前記セルケースの内側の圧力が所定値以上になると当該セルケースの内外を連通するように開弁する開放弁とを有するバッテリーセルと、前記バッテリーセルを内側に収容する収容容器と、前記セルケースの下面とこれと対向する前記収容容器の底面との間に配設されて、前記電解液を吸収可能な吸液材とを備え、前記開放弁は、前記セルケースの下面に設けられており、前記吸液材は、前記車両の上方側から見たときに、前記開放弁と重複しない位置に設けられている、ことを特徴とする(請求項1)。
【0007】
本発明によれば、開放弁がセルケースの下部に設けられている。そのため、セルケースの上部に溜まったガス化した電解液ではなくセルケースの下部に溜まっている液体の電解液を開放弁からセルケースの外部に流出させて、これによりセルケースの内部の圧力を低減できる。そのため、セルケースの内圧が過度に高くなるのを防止しつつ、ガス化した電解液がセルケースおよび収容容器の外部に漏洩するのを抑制できる。従って、エンジンルーム等に当該車載用二次電池装置を搭載した場合であっても、ガス化した電解液と高温の装置との接触を防止して高い安全性を確保できる。
【0008】
しかも、本発明では、セルケースの下面と収容容器の底面との間に吸液材が設けられていることで、開放弁を介からセルケースの外部に流出した電解液を吸液材に吸収させることができる。従って、セルケースから流出した電解液の収容容器外への漏洩も抑制でき、安全性が確実に高められる。
【0010】
さらに、本発明によれば、開放弁がセルケースの下面に設けられていることで、より確実にガス化した電解液が開放弁を介してセルケースの外部へ流出するのを防止できる。しかも、車両の上方側から見たときに開放弁と吸液材とが重複していないことで、劣化等に伴って吸液力が低下した吸液材によって開放弁が塞がれるのを回避でき、電解液をセルケースの外部により確実に早期に流出させることができる。
【0011】
前記構成において、好ましくは、前記収容容器の底面に沿って列状に並ぶ複数の前記バッテリーセルを備え、複数の前記バッテリーセルが並ぶ方向を前後方向、前記車両の上方側から見たときに当該前後方向と直交する方向を左右方向としたとき、複数の前記バッテリーセルは、前後方向に隣接する前側バッテリーセルおよび後側バッテリーセルを備え、前記前側バッテリーセルの前記開放弁は、前後方向に延びる基準線に対し前記左右方向の一方側にずれた位置に設けられ、前記後側バッテリーセルの前記開放弁は、前記基準線に対し前記左右方向の他方側にずれた位置に設けられている(請求項)。
【0012】
この構成では、隣接する2つのバッテリーセルの開放弁が基準線を挟んで左右方向に互いに異なる位置に配置されており、これら開放弁が前後方向に一列に配置される場合に比べて、開放弁どうしの距離が長くされている。そのため、隣接する2つのバッテリーセルの一方の開放弁から流出した電解液が、他方の開放弁付近に流れ込んでこの他方の開放弁からの電化液の流出を阻害するのを抑制できる。従って、各開放弁からそれぞれ円滑に電解液を流出させて各セルケースの内圧を早期に低減できる。
【0013】
前記構成において、好ましくは、一対の前記端子は、前記セルケースを左右方向に二等分する中心線を挟んで互いに離間するように配置された正極端子および負極端子であり、前記開放弁は、前記セルケースの下面における前記中心線よりも前記正極端子および前記負極端子のいずれかに偏った位置に設けられ、前記前側バッテリーセルおよび前記後側バッテリーセルは、両バッテリーセルの前記中心線が前記基準線に一致し、且つ一方のバッテリーセルの前記正極端子と他方のバッテリーセルの前記負極端子とが前後方向に直線状に並ぶように配置されている(請求項)。
【0014】
この構成によれば、同じ構造を有するバッテリーセルを用いて、前記の構成、すなわち、隣接するバッテリーセルの開放弁が基準線を挟んで左右方向について異なる位置となる構成を実現できる。そのため、構造の異なる複数種類のバッテリーセルを準備する必要がなく、コスト面で有利となる。
【0015】
前記構成において、好ましくは、前記吸液材は、前記車両の上方側から見たときに、前記前側バッテリーセルおよび前記後側バッテリーセルの前記各開放弁を含む領域を挟んで前記左右方向に対向する第1吸液部材および第2吸液部材を有し、前記前側バッテリーセルと前記収容容器の底面との間に、前記車両の上方側から見たときに前記第1吸液部材から前記前側バッテリーセルの前記開放弁の後方を通って前記第2吸液部材に向かって延びる第1区画壁が設けられ、前記後側バッテリーセルと前記収容容器の底面との間に、前記車両の上方側から見たときに前記第2吸液部材から前記後側バッテリーセルの前記開放弁の前方を通って前記第1吸液部材に向かって延びる第2区画壁が設けられ、前記第1区画壁と前記第2吸液部材との間、および前記第2区画壁と前記第1吸液部材との間に、それぞれ隙間が形成されている(請求項)。
【0016】
この構成によれば、第1区画壁と第2区画壁とによって、隣接する前側バッテリーセルと後側バッテリーセルの一方の開放弁から流出した電解液が他方のバッテリーセル側に流れるのを規制しつつ、左右の吸液部材に早期に電解液を吸収させることができる。これより、流出した高温の電解液によって他方のバッテリーセルが昇温・昇圧されるのを確実に抑制できる。
【0017】
前記とは別の構成として、前記収容容器の底面に沿って列状に並ぶ複数の前記バッテリーセルを備え、複数の前記バッテリーセルが並ぶ方向を前後方向、前記車両の上方側から見たときに当該前後方向と直交する方向を左右方向としたとき、前記各バッテリーセルの前記開放弁は、それぞれ前記セルケースの左右一方側の側面の下部に設けられ、前記各バッテリーセルの前記開放弁と対向する前記収容容器の内側面には、隣接する2つの前記バッテリーセルの一方の前記開放弁と他方の前記バッテリーセルの前記開放弁とを側面視で前後方向に仕切る仕切り壁が設けられている、としてもよい(請求項)。
【0018】
この構成によっても、仕切り壁によって、隣接する2つのバッテリーセルの一方の開放弁から流出した電解液が他方のバッテリーセルに向かうのを規制して、流出した高温の電解液によって他のバッテリーセルが昇温・昇圧されるのを抑制できる。また、この構成では、セルケースの左右方向の側面に開放弁が設けられていることで、セルケースの下面に開放弁を設ける場合に比べて、セルケースの外部に流出する電解液の量を少なく抑えることが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の車載用二次電池装置によれば、車載時の安全性を確実に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るリチウムバッテリが搭載された車両の概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係るエンジンルーム内のリチウムバッテリ周辺部分を示した概略正面図である。
図3】本発明の実施形態に係るリチウムバッテリの概略斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係るバッテリーセルの概略斜視図である。
図5】第1実施形態に係るケース本体の内部を示した上面図である。
図6図5のVI-VI線断面図である。
図7図6のVII-VII線断面図である。
図8】第1実施形態に係るケース本体の底面付近の構造を説明するための概略斜視図である。
図9】第1実施形態に係るリチウムバッテリの作用を説明するための概略上面図である。
図10】第1実施形態に係るリチウムバッテリの作用を説明するための概略上面図である。
図11】第2実施形態に係るケース本体の内部を示した上面図である。
図12図11のXII-XII線断面図である。
図13図12のVIII-VIII線断面図である。
図14】第2実施形態に係るケース本体の底面付近の構造を説明するための概略斜視図である。
図15】第2実施形態に係るリチウムバッテリの作用を説明するための概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(車両の概略構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る車載用二次電池装置1が搭載された車両100の概略構成を示す図である。本図に示すように、本実施形態の車両100は、四輪自動車であり、車体101と、車体101を支持する複数(4つ)の車輪103と、車輪103を回転駆動するためのパワートレインユニット104とを備えている。パワートレインユニット104は、車輪103を回転駆動する(換言すれば車両を走行させる)動力源である4サイクルのエンジン105と、エンジン105の回転を変速しつつ車輪103に伝達する変速機106とを備える。エンジン105と変速機106とは、車両100の前部に設けられたエンジンルームR内に、車幅方向に並ぶ姿勢で搭載されている。図1の例では、エンジン105は、エンジン本体105aに4つの気筒110が形成された多気筒エンジンである。エンジン105は、これら気筒110が車幅方向に並び、且つ、各気筒110から排出された排気ガスが流通する排気マニホールド105bがエンジン本体105aの後方に位置する姿勢で、エンジンルームR内に搭載されている。
【0022】
車載用二次電池装置1は、電解液と電極体とを備える充放電が可能な二次電池であり、車両100に備わる種々の電気機器に対して電力を供給する機能と、エンジン4に付属されたオルタネータ等の発電機(不図示)により発電された電力を充電する機能とを兼ね備えている。
【0023】
第1実施形態では、車載用二次電池装置1は、リチウムを含む正極および有機溶剤からなる電解液を備え、電解液を介した正極と負極との間でのリチウムイオンの移動により充放電するリチウムイオンバッテリである。以下では、車載用二次電池装置1を単にリチウムバッテリ1という。
【0024】
図2は、エンジンルームR内のリチウムバッテリ1の周辺を示した概略正面図である。図1および図2に示すように、リチウムバッテリ1は、エンジンルームR内に搭載されている。詳細には、リチウムバッテリ1は変速機106の車両前後方向の後部(車両100が前進する場合の進行方向の後側の端部)の上方であって排気マニホールド105bに比較的近い位置に配設されている。
【0025】
図3は、リチウムバッテリ1の概略斜視図である。リチウムバッテリ1は、後述するバッテリーセル20を内側に収容するバッテリーケース10と、一対の外部端子60(正極の外部端子60と負極の外部端子60)とを備える。バッテリーケース10は、上方に開口する箱状のケース本体11と、ケース本体11の上方に装着されてケース本体11の開口部分を塞ぐ蓋部12とを有する。一対の外部端子60は、蓋部12の上面から上方に突出している。バッテリーケース10は、請求項の「収容容器」に相当する。
【0026】
図2に示すように、リチウムバッテリ1は、その上下方向と、車両100を基準とする上下方向つまり車輪3の接地面と直交する方向とが一致し、リチウムバッテリ1を基準とする「上」と車両を基準とする「上」とが一致するように、車両100に搭載されている。すなわち、リチウムバッテリ1は、ケース本体11の車両100を基準とした「上方」に蓋部12が位置する姿勢で車両100に搭載されている。
【0027】
以下では、リチウムバッテリ1を基準とした上下方向および車両100を基準とした上下方向を、ともに単に「上下方向」という。なお、車両100を基準としたときの天に向かう側およびリチウムバッテリ1においてケース本体11から蓋部12に向かう側が「上」であり、その反対側が「下」である。
【0028】
(リチウムバッテリ)
図4は、第1実施形態に係るリチウムバッテリ1のケース本体11の内部を示した上面図である。図4に示すように、ケース本体11つまりバッテリーケース10の内側には、複数のバッテリーセル20が収容されている。第1実施形態では、ケース本体11内において、4つのバッテリーセル20がケース10の底面11aつまりケース本体11の底面11a(ケース本体11の内側面のうち下側の面)に沿って列状に並んでいる。以下、適宜、ケース本体11の底面11aを、ケース底面11aという。
【0029】
第1実施形態では、図1に示すように、バッテリーセル20が車両前後方向に沿って並ぶ姿勢でリチウムバッテリ1が車両100に搭載されている。つまり、リチウムバッテリ1が車両100に搭載された状態において、リチウムバッテリ1の姿勢は、バッテリーセル20の並び方向と車両前後方向(車両100を基準とする前後方向)とが一致する姿勢とされている。また、リチウムバッテリ1が車両100に搭載された状態において、リチウムバッテリ1の姿勢は、リチウムバッテリ1を基準とする上下方向およびバッテリーセル20の並び方向と直交する方向つまりリチウムバッテリ1において車両100の上方側から見たときにバッテリーセル20の並び方向と直交する方向と、車両100の車幅方向とが一致する姿勢とされている。
【0030】
以下では、バッテリーセル20の並び方向および車両前後方向を、ともに単に「前後方向」という。また、この「前後方向」において、車両が前進する場合の進行方向の前側(図1の例では車体101の中心からエンジンルームRに向かう側)のことを「前」、車両が後退する場合の進行方向の前側(図1の例ではエンジンルームRから車体101の中心に向かう側)のことを「後」という。リチウムバッテリ1について言えば、車両100に搭載された状態で、車両が前進する場合の進行方向の前側に配置される側が「前」、反対側が「後」になる。また、リチウムバッテリ1を基準とする、上下方向およびバッテリーセル20の並び方向と直交する方向と、車両100の車幅方向とを、ともに単に「左右方向」といい、車両100について車両前方を向いた状態での右側のことを(リチウムバッテリ1については、車両100に搭載された状態でこの右側となる側のことを)「右」、左側のことを「左」という。なお、各図における「前」「後」「右」「左」も、前記の「前」「後」「右」「左」に対応している。
【0031】
また、以下では、適宜、最前列のバッテリーセル20を第1バッテリーセル20aといい、前から2列目のバッテリーセル20を第2バッテリーセル20bといい、前から3列目のバッテリーセル20を第3バッテリーセル20cといい、前から4列目のバッテリーセル20を第4バッテリーセル20dという。
【0032】
図5は、バッテリーセル20の概略斜視図である。なお、図5は、後述する正極セル側端子22aが右側となる姿勢でのバッテリーセル20を例示している。図6は、図4のVI-VI線断面図である。図7は、図6のVII-VII線断面図である。図8は、ケース底面11a付近の構造を説明するための概略斜視図である。図8では、ケース底面11a付近の構造が明瞭になるように、ケース本体11から各バッテリーセル20を取り除き、且つ、ケース本体11の後側の側壁と右側の側壁の図示を省略している。
【0033】
4つのバッテリーセル20は、すべて同じ構造を有している。図5に示すように、バッテリーセル20は、正極シート、負極シートおよびセパレータ(いずれも不図示)が積層されることで構成された電極体25と、電解液24とが収容されたセルケース21と、正極シートおよび負極シートにそれぞれ接続された一対のセル側端子22、22とを有する。セル側端子22の一方は正極の端子であり、他方のセル側端子22は負極の端子である。以下では、2つのセル側端子22を分けて説明する場合において、正極のセル側端子22aを正極セル側端子22aといい、負極のセル側端子22bを負極セル側端子22bという。一対のセル側端子22、22は請求項の「一対の端子」に相当し、正極セル側端子22aは請求項の「正極端子」に相当し、負極セル側端子22bは請求項の「負極端子」に相当する。
【0034】
バッテリーセル20はいわゆる角型のバッテリーセルであり、セルケース21は左右方向に延びる扁平な直方体を呈している。2つのセル側端子22は、セルケース21の上面21aに、左右方向に並び、且つ、セルケース21の上面21aから上方に突出するように設けられている。また、2つのセル側端子22は、平面視でつまり車両100の上方側から見たときに、セルケース21を左右方向に二等分する中心線O2を挟んで互いに離間する位置に配置されている。第1実施形態では2つのセル側端子22、22は、中心線O2を中心として左右対称となる位置に配置されている。なお、以下では、前記のように、車両100の上方側から見たときのことを、単に、平面視で、と表現する。
【0035】
セルケース21の下部21dつまりセルケース21を上下方向に二等分する線(セルケース21の上下方向の中心線)O1よりも下側の部分には、セルケース21の内側の圧力つまりセルケース21の内圧が所定値以上になるとセルケース21の内外を連通するように開弁する開放弁23が設けられている。第1実施形態では、開放弁23は、セルケース21の下面21bに設けられている。開放弁23の具体的な構成は、限定されないが、例えば、開放弁23は、セルケース21の内側から所定値以上の圧力が付与されると開裂してセルケース21の内外を連通するように構成されている。以下、適宜、セルケース21の下面21bをセルケース下面21bという。
【0036】
開放弁23は、左右方向についてセルケース下面21bの中心線O2よりも一方側の部分に設けられている。つまり、開放弁23は、一対のセル側端子22の並び方向についてセルケース下面21bにおける中心線O2よりも一方のセル側端子22に偏った部分に設けられている。第1実施形態では、開放弁23は、正極セル側端子22aに偏った部分に設けられている。
【0037】
図4に示すように、4つのバッテリーセル20は、各セルケース21の中心線O2が前後方向に延びる基準線O20と一致するように配列されている。また、4つのバッテリーセル20は、隣接する2つのバッテリーセル20において、一方のバッテリーセル20の正極セル側端子22aと他方のバッテリーセル20の負極セル側端子22bとが前後方向に直線状に並ぶように、ケース本体11内に収容されている。つまり、4つのバッテリーセル20は、その左右の向きが前から順に互い違いになるように配設されている。
【0038】
前記のバッテリーセル20の配置に伴い、隣接する2つのバッテリーセル20において、一方のバッテリーセル20の開放弁23と他方の開放弁23との位置は、基準線O20に対する左右方向の位置が互いに異なり、左右方向の位置が互いにずれた位置になっている。
【0039】
図4の例では、第1バッテリーセル20aと、第3バッテリーセル20cとが、各正極セル側端子22aが右側(中心線O2および基準線O20よりも右側)となる向きでケース本体11内に収容され、第2バッテリーセル20bと、第4バッテリーセル20dとが、各正極セル側端子22aが左側(中心線O2および基準線O20よりも左側)となる向きでケース本体11内に収容されている。そして、開放弁23は、前から順に、基準線O20を挟んで、右側→左側→右側→左側に配置されている。
【0040】
ケース底面11aと各セルケース下面21bとの間には、これらの間の空間を区画する複数の区画壁30と、電解液を吸収可能な吸液材40とが配設されている。以下では、適宜、ケース底面11aと各セルケース下面21bとの間の空間を、ケース底部空間X1という。
【0041】
第1実施形態では、吸液材40として有機繊維からなるものが用いられており、スチールウール等の金属からなるものやガラスウールからなるものに比べて熱伝導率が低く抑えられている。
【0042】
各区画壁30は、それぞれ前後方向と直交する長方形の板状を有し、ケース底面11aから上方に延びている。各区画壁30の上下方向の寸法は、互いに同じである。
【0043】
ケース底部空間X1の前後方向の中央には、区画壁30として、左右一対の主区画壁31、31が設けられている。これら2つの主区画壁31、31は、左右方向に延びる板状を有し、且つ、ケース底部空間X1の左右方向の中央部分に隙間C1を開けた状態で左右に並設されている。具体的には、右側の主区画壁31は、ケース本体11の右側の内側面11bから、基準線O20よりも右側に設けられた開放弁23(第1バッテリーセル20aおよび第3バッテリーセル20cの各開放弁23)と左側に設けられた開放弁23(第2バッテリーセル20bおよび第4バッテリーセル20dの各開放弁23)との間の位置まで延びている。左側の主区画壁31は、ケース本体11の左側の内側面11cから、基準線O20よりも右側に設けられた開放弁23(第1バッテリーセル20aおよび第3バッテリーセル20cの各開放弁23)と左側に設けられた開放弁23(第2バッテリーセル20bおよび第4バッテリーセル20dの各開放弁23)との間の位置、且つ、右側の主区画壁31の左端よりも左側の位置まで延びている。
【0044】
吸液材40は、ケース底面11a上に載置されている。吸液材40は、平面視で、開放弁23と重複しない位置に配設されている。吸液材40の上下方向の寸法は、各区画壁30の上下方向の寸法と同じに設定されている。これら吸液材40および区画壁30の上下方向の寸法は、セルケース下面21bとケース底面11aの上下方向の離間距離と一致しており、各バッテリーセル20はこれら区画壁30および吸液材40上に載置されている。
【0045】
ケース底部空間X1のうち主区画壁31よりも前側の領域には、吸液材40として、平面視で第1バッテリーセル20aおよび第2バッテリーセル20bの各開放弁23を含む領域を挟んで左右方向に対向する第1吸液部材41と第2吸液部材42とが配設されている。
【0046】
第1吸液部材41は直方体状を有し、ケース底部空間X1のうち、主区画壁31よりも前側、且つ、開放弁23から右側にわずかに離間した位置から右側となる領域全体に敷設されている。第2吸液部材42は、第1吸液部材41と左右対称の構造を有しており、直方体状を有するとともに、ケース底部空間X1のうち、主区画壁31よりも前側、且つ、開放弁23から左側にわずかに離間した位置から左側となる領域全体に敷設されている。
【0047】
ケース底部空間X1のうち主区画壁31よりも前側の領域に含まれる第1バッテリーセル20aとケース底面11aの間の空間には、区画壁30として、第1吸液部材41の左縁から左方に延びる右側区画壁32が設けられている。右側区画壁32は、平面視で、第1吸液部材41から第1バッテリーセル20aの開放弁23の後方を通って左方に延びている。右側区画壁32の左右方向の寸法は、第1吸液部材41と第2吸液部材42の左右方向の離間距離よりも短く、右側区画壁32と第2吸液部材42との間には隙間C2が形成されている。
【0048】
ケース底部空間X1のうち主区画壁31よりも前側の領域に含まれる第2バッテリーセル20bとケース底面11aの間の空間には、区画壁30として、第2吸液部材42の左縁から右方に延びる左側区画壁33が設けられている。左側区画壁33は、平面視で、第2吸液部材42から第2バッテリーセル20bの開放弁23の前方を通って右方に延びている。左側区画壁33の左右方向の寸法は、第1吸液部材41と第2吸液部材42の左右方向の離間距離よりも短く、左側区画壁33と第1吸液部材41との間には隙間C3が形成されている。
【0049】
ケース底部空間X1の構造は、主区画壁31、31の前側と後側とで同じである。つまり、ケース底部空間X1のうち主区画壁31よりも後側の領域にも、開放弁23よりも右側の領域に敷設された第1吸液部材41と、開放弁23よりも左側の領域に敷設された第2吸液部材42とが設けられている。また、ケース底部空間X1のうち主区画壁31よりも後側の領域にも、区画壁30として、第3バッテリーセル20cとケース底面11aの間において第3バッテリーセル20cの開放弁23の後方を通って第1吸液部材41の左縁から左方に延びる右側区画壁32と、第4バッテリーセル20dとケース底面11aの間において第4バッテリーセル20dの開放弁23の前方を通って第2吸液部材42の右縁から右方に延びる左側区画壁33と、が設けられている。
【0050】
ここで、ケース底部空間X1の主区画壁31、31よりも前側の領域については、第1バッテリーセル20aが請求項の「前側バッテリーセル」に相当し、第2バッテリーセル20bが請求項の「後側バッテリーセル」に相当し、この領域に設けられた右側区画壁32が請求項の「第1区画壁」に相当し、左側区画壁33が請求項の「第2区画壁」に相当する。また、ケース底部空間X1の主区画壁31、31よりも後側の領域については、第3バッテリーセル20cが請求項の「前側バッテリーセル」に相当し、第4バッテリーセル20dが請求項の「後側バッテリーセル」に相当し、この領域に設けられた右側区画壁32が請求項の「第1区画壁」に相当し、左側区画壁33が請求項の「第2区画壁」に相当する。
【0051】
(第1実施形態の作用等)
以上のように、第1実施形態に係るリチウムバッテリ1では、セルケース21に、その内圧が所定値以上になるとセルケース21の内外を連通するように開弁する開放弁23が設けられている。そのため、セルケース21の内圧が過度に上昇してセルケース21が破裂等するのを防止できる。
【0052】
しかも、このリチウムバッテリ1では、セルケース21の下部21dに開放弁23が設けられているとともに、セルケース下面21bと、これと対向するケース底面11aとの間に、電解液を吸収可能な吸液材40が設けられている。そのため、セルケース21の上部に溜まったガス化した電解液ではなくセルケース21の底部に溜まっている液体の電解液を開放弁23からセルケース21の外部に流出させて、これによりセルケース21の内圧を低減できる。そのため、セルケース21の内圧が過度に高くなるのを防止しつつ、ガス化した電解液がセルケース21さらにはバッテリーケース10の外部に漏洩するのを抑制できる。従って、エンジンルームR内にリチウムバッテリ1を搭載しつつ、ガス化した電解液がエンジンルームR内の各種の高温の装置と接触してさらに昇温するのを防止できる。特に、排気マニホールド105bは、高温の排気ガスが内部を流通することで高温になりやすく、前記のようにリチウムバッテリ1を排気マニホールド105bに比較的近い位置に配設した場合には、ガス化した電解液が排気マニホールド105bとの接触等によって昇温されて引火するおそれがある。これに対して、第1実施形態では、ガス化した電解液および液体の電解液のバッテリーケース10外への漏洩が防止されることで電解液の引火を確実に防止でき、排気マニホールド105bに近い位置にリチウムバッテリ1を配置しつつ高い安全性を確保できる。
【0053】
特に、第1実施形態では、開放弁23がセルケース下面21bに設けられている。そのため、セルケース21の上部に溜まるガス化した電解液が開放弁23を介してセルケース21の外部に流出するのを確実に防止できる。
【0054】
また、第1実施形態では、第1吸液部材41と第2吸液部材42とが、左右方向に互いに離間した位置に配設されている。また、2つの第1吸液部材41どうし、および、2つの第2吸液部材42が、互いに主区画壁31を介して離間している。これより、劣化等により4つの吸液部材41、42のいずれかの吸液力が低下した場合であっても、他の吸液部材41、42に電解液を吸収させることができる。従って、電解液のバッテリーケース10の外部への漏洩をより確実に防止できる。例えば、第1実施形態において、ケース底部空間X1の後右側に配設された第1吸液部材41が、排気マニホールド105bからの放射熱を受けて熱劣化して、その吸液力が低下した場合であっても、残りの第1吸液部材41および2つの第2吸液部材42に電解液を吸収させることができる。
【0055】
また、第1実施形態では、各開放弁23が、平面視で、開放弁23と重複しない位置に設けられている。
【0056】
そのため、劣化等に伴って吸液材40の吸液力が低下した場合であっても、この吸液材40によって開放弁23が塞がれるのを回避できる。これより、より確実に電解液をセルケース21の外部に流出させてセルケース21の内圧の過上昇を抑制できる。
【0057】
また、第1実施形態では、各開放弁23が、前方から順に基準線O20を挟んで左右交互に並んでいる。つまり、隣接する2つのバッテリーセル20の開放弁23が前後方向に一列に並ぶ場合に比べて、これら開放弁23どうしの距離が長くされている。そのため、隣接するバッテリーセル20の一方の開放弁23から流出した電解液が、他方の開放弁23の周辺に流れ込んで、この他方の開放弁23からの電解液の流出を妨害するのを抑制できる。これより、各開放弁23からそれぞれ円滑に電解液を流出させて各セルケース21の内圧をより確実に早期に低減できる。
【0058】
特に、第1実施形態では、この開放弁23の左右交互の配置が、同一の構造を有するバッテリーセル20左右の向きを変えることによって実現されている。具体的には、バッテリーセル20として、一対のセル側端子22がセルケース21の上面21aに左右方向に沿って並び、開放弁23がセルケース21の左右方向の中心線O2よりも正極セル側端子22a側に設けられたものが用いられている。そして、4つのバッテリーセル20が、その中心線O2が基準線O20と一致し、且つ、隣接する2つのバッテリーセル20において一方の正極セル側端子22aと他方の負極セル側端子22bとが前後方向に直線状に並ぶようにケース本体11に収容されることで、前記の開放弁23の左右交互の配置が実現されている。そのため、この配置を実現するために、異なる構造のバッテリーセル20を複数準備する必要がなく、コスト面で有利となる。
【0059】
さらに、第1実施形態では、第1バッテリーセル20aおよび第2バッテリーセル20bとケース底面11aとの間の空間に、開放弁23を含む領域を挟んで左右方向に対向する第1吸液部材41と第2吸液部材42とが配設されている。そして、右側区画壁32が、第1バッテリーセル20aとケース底面11aとの間において、平面視で、第1吸液部材41から第1バッテリーセル20aの開放弁23の後方を通って第2吸液部材42よりも左側の位置まで延びている。また、左側区画壁33が、第2バッテリーセル20bとケース底面11aとの間において、平面視で、第2吸液部材42から第2バッテリーセル20bの開放弁23の前方を通って第1吸液部材41よりも左側の位置まで延びている。また、第3バッテリーセル20cおよび第4バッテリーセル20dとケース底面11aとの間の空間に、同様の構成を有する第1吸液部材41と第2吸液部材42とが配設されるとともに、同様の構成を有する右側区画壁32と左側区画壁33とが設けられている。
【0060】
この構造により、第1実施形態では、前後方向の隣接する2つのバッテリーセル20のうちの一方の開放弁23から流出した電解液が他方のバッテリーセル20側に流れるのを規制できるとともに、各吸液部材41、42によって早期に電解液を吸収させることができる。これより、流出した高温の電解液によって他方のバッテリーセル20が昇温・昇圧されるのを確実に抑制できる。
【0061】
図9図10を用いて具体的に説明する。
【0062】
図9は、第4バッテリーセル20dの開放弁23が開弁した例を示している。開放弁23が開弁すると電解液が下方に流出する。電解液は開放弁23の四方に移動しようとするが、左側区画壁33によって電解液の前方への移動は規制される。これより、電解液は、矢印Y1、Y2に示すように左右方向にのみ移動する。矢印Y1に示すように、左方に移動した電解液は、第2吸液部材42により吸収される。ここで、第4バッテリーセル20dの開放弁23と第2吸液部材42との距離は比較的短い。そのため、多量の吸液材が早期に第2吸液部材42により吸収されることになる。また、矢印Y2に示すように、右方に移動した電解液は、第1吸液部材41により吸収される。そのため、隙間C3を通って前方つまり第3バッテリーセル20c側に移動する電解液の量は少なく抑えられる。さらに、矢印Y3に示すように、隙間C3を通って前方に移動した電解液も、右側区画壁32によって左方に案内される。そのため、隙間C3を通過した電解液の多くも第1吸液部材41により吸液されることになる。
【0063】
このようにして、第3バッテリーセル20cの主たる部分に到達する電解液の量は非常に少なく抑えられ、高温の電解液によって第3バッテリーセル20cが昇温されるのは抑制される。
【0064】
また、前記のように、第4バッテリーセル20dから流出した電解液は、第1吸液部材41と第2吸液部材42とにそれぞれ吸液される。そのため、仮に劣化等によって第1吸液部材41と第2吸液部材42の一方の吸液力が低下していたとしても、他方に電解液を吸収させることができ、電解液を確実に吸液材40に吸収させることができる。特に、第1吸液部材41と第2吸液部材42とは、それぞれ2つのバッテリーセル20に亘る大きさに設定されている。そのため、仮に一方の吸液部材41、42にしか電解液を吸収させることができない場合であっても、これに確実に電解液を吸収させることができる。
【0065】
なお、第1実施形態では、右側区画壁32、左側区画壁33の左右方向の寸法を、第1吸液部材41と第2吸液部材42との離間距離よりも短くして隙間C1、C2が形成される寸法としたが、これに代えて、右側区画壁32、左側区画壁33の左右方向の寸法を、前記の離間距離と同じとして隙間C1、C2が形成されないようにしてもよい。ただし、隙間C1、C2が形成されていれば、4つの吸液部材41、42のいずれかの吸液力が低下している場合において、隙間C1、C2を介して電解液を拡散させることができ、開弁した開放弁23の周りに高温の電解液が留まって新たな電解液の流出が阻害されることを防止できる。
【0066】
図10は、第3バッテリーセル20cの開放弁23が開弁した例を示している。この例においても、右側区画壁32および左側区画壁33によって電解液の第4バッテリーセル20d側への移動が規制されるとともに電解液が第1吸液部材41、第2吸液部材42に案内されることで、第4バッテリーセル20d側に到達する電解液の量が少なく抑えられる。また、開弁した開放弁23に近い位置に配置された第1吸液部材41によって早期に電解液が吸収される。これより、高温の電解液による第4バッテリーセル20dの昇温が抑制される。また、矢印Y13に示すように一部の電解液は隙間C1を通って第2バッテリーセル20b側に流れ込むが、主区画壁31と右側区画壁32とによって電解液の流れ方向が矢印Y11、Y12に示すようにこれら区画壁30に沿う方向つまり左右方向とされることで、第2バッテリーセル20b側に流れ込む電解液の量は少なく抑えられる。これより、高温の電解液による第2バッテリーセル20bの昇温も抑制される。
【0067】
また、図9の例と同様に、第3バッテリーセル20cから流出した電解液は、第1吸液部材41と第2吸液部材42とにそれぞれ吸液されるため、仮に劣化等によって第1吸液部材41と第2吸液部材42の一方の吸液力が低下していたとしても、他方に電解液を吸収させることができ、電解液を確実に吸液材40に吸収させることができる。
【0068】
ここで、第1実施形態では、2つの主区画壁31を隙間C1を開けて配設する場合を説明したが、隙間C1が塞がれるように主区画壁31が設けられてもよい。つまり、ケース本体11の左右全体にわたって主区画壁31が設けられてもよい。ただし、隙間C1が形成されていれば、主区画壁31よりも後側の吸液材40の吸液力が低下している場合において、電解液を主区画壁31よりも前側に移動させて主区画壁31よりも前側の吸液材40に吸収させることができる。そのため、電解液をより確実に吸液材40に吸液させることができる。また、開弁した開放弁23の周りに高温の電解液が留まって新たな電解液の流出が阻害されることを防止できる。
【0069】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る車載用二次電池装置1について説明する。以下では、第1実施形態と異なる構成について説明する。図11は、第2実施形態に係るリチウムバッテリ201のケース本体211の内部を示した上面図であり、第1実施形態の図5に対応する図である。図12は、図11のXII-XII線断面図である。図13は、図12のXIII-XIII線断面図であり、第1実施形態の図7に対応する図である。なお、第1実施形態と同様の構成を有するものについては第1実施形態と同様の符号を付して説明する。
【0070】
第2実施形態でも、第1実施形態と同様に、4つのバッテリーセル20(前から順に、第1バッテリーセル20a、第2バッテリーセル20b、第3バッテリーセル20c、第4バッテリーセル20d)がケース本体211の底面であるケース底面211aに沿って前後方向に並設されている。
【0071】
一方、第2実施形態では、各バッテリーセル20のセルケース21の右側の側面21cの下部(セルケース21の上下方向の中心線O1よりも下側の部分)に開放弁23がそれぞれ設けられている。例えば、開放弁23は、セルケース21の下端からセルケース21の上下方向の寸法の6分の1程度上側の位置に設けられている。また、各セルケース21とケース本体211の右側の内側面211bとの間には比較的広い空間が区画されている。以下では、適宜、この空間をケース右側空間X21という。
【0072】
第2実施形態では、ケース右側空間X21に前後方向に並ぶ3つの仕切り壁250が設けられている。これら仕切り壁250は互いに同じ構造を有する。仕切り壁250は、前後方向と直交する板状を有する。各仕切り壁250は、上下方向について、開放弁23よりもわずかに上方の位置からケース底面211aまで延びている。各仕切り壁250は、前後方向について、隣接する2つのバッテリーセル20の境界部分に設けられており、側面視で(右方から見たときに)、隣接する2つの開放弁23どうしをそれぞれ区画している。各仕切り壁250の左右両縁は、上下方向の全体にわたって、隣接する2つのセルケース21の右側の側面21cおよびケース本体211の右側の内側面211bに接触している。以下では、適宜、3つの仕切り壁250を、前方から順に、第1仕切り壁250a、第2仕切り壁250b、第3仕切り壁250cという。
【0073】
第1実施形態と同様に、ケース底面211aと各セルケース下面21bとの間のケース底部空間X1には、これらの間の空間を区画する複数の区画壁230と、電解液を吸収可能な複数の吸液材240とが配設されている。第2実施形態においても、各区画壁230は板状を有し、ケース底面211aから上方に延びている。また、第2実施形態においても、各吸液材240は、直方体状を有し、ケース底面211a上に載置されている。また、各区画壁230および吸液材240の上下方向の寸法は、ケース底面211aと各セルケース下面21bとの間の寸法と一致し、各バッテリーセル20はこれら区画壁230および吸液材240上に載置されている。ただし、第2実施形態と第1実施形態とでは、これらの配置が異なっている。
【0074】
第2実施形態では、ケース底部空間X1の前後方向の中央に、区画壁230として、第1主区画壁231と第2主区画壁232とが配設されている。
【0075】
第1主区画壁231は、第2仕切り壁250bの下部の左縁から左方に延びている。第2主区画壁232は、第1主区画壁231の左端よりも左側の位置から左方に延びている。第2主区画壁232は、ケース本体211の左側の内側面211cから右側に離間した位置まで延びている。
【0076】
第2実施形態では、吸液材40として、第2主区画壁232の左側に第1吸液材241が配設されている。第1吸液材241は、ケース底部空間X1のうち左右方向について第2主区画壁232の左端よりも左側の領域全体に敷設されている。図例では、第1吸液材241は、ケース底部空間X1のおよそ3分の1程度の領域を占めている。
【0077】
ケース底部空間X1の前側の領域には、区画壁230として、前後方向に延びる縦区画壁233が配設されている。縦区画壁233は、その前後方向の中央部分が第1仕切り壁250aの下端部の左側にこれと接触するように配設されている。縦区画壁233の前後方向の寸法は、セルケース21の前後方向の寸法とほぼ同じであり、前後方向について、縦区画壁233は第1バッテリーセル20aの中央付近から第2バッテリーセル20bの中央付近まで延びている。
【0078】
ケース底部空間X1の前側の領域には、縦区画壁233の前後方向の両縁からそれぞれ左方に延びる前後一対の第1横区画壁234、234が配設されている。左右方向について、各第1横区画壁234は、第2主区画壁232の右縁よりも左方まで延びている。
【0079】
これら縦区画壁233と2つの第1横区画壁234,234とによって、ケース底部空間X1の前側の領域の一部は、コ字状に区画されており、これら縦区画壁233と2つの第1横区画壁234,234で囲まれた空間には、吸液材240として第2吸液材242が敷設されている。
【0080】
また、ケース底部空間X1の前側の領域には、第1バッテリーセル20aと第2バッテリーセル20bとの境界部分において第1吸液材241の右縁から右方に延びる第2横区画壁235が設けられている。第2横区画壁235は、第1横区画壁234および第2吸液材242の左縁から左側に離間した位置まで延びている。
【0081】
ケース底部空間X1のこれら主区画壁231、232よりも前側の部分と後側の部分とは同じ構造を有している。つまり、ケース底部空間X1の主区画壁231、232よりも後側の部分にも、第3仕切り壁250cの下端部の左側と接触し、且つ、前後方向について、第3バッテリーセル20cの中央付近から第4バッテリーセル20dの中央付近まで延びる縦区画壁233が設けられている。また、縦区画壁233の前後方向の両縁からそれぞれ左方に延びる2つの第1横区画壁234が設けられるとともに、これら縦区画壁233と第1横区画壁234との間に第2吸液材242が敷設されている。また、第3バッテリーセル20cと第4バッテリーセル20dとの境界部分に、第1吸液材241の右縁から右方に延びる第2横区画壁235が設けられている。
【0082】
(第2実施形態の作用等)
以上のように、第2実施形態に係るリチウムバッテリ201においても、セルケース21の下部21dに開放弁23が設けられ、且つ、セルケース下面21bとケース底面211aとの間に吸液材240が設けられていることで、セルケース21の内圧が過度に高くなるのを防止しつつ、ガス化した電解液がセルケース21さらにはバッテリーケース10の外部に漏洩するのを抑制できる。
【0083】
ここで、第1実施形態のようにセルケース21の下面aに開放弁23を設ければ、セルケース21の内圧と電解液の自重の両方の作用で電解液の排出を促進できる。一方、この構成では、セルケース21の内圧が十分に低下した後でも電解液がその自重によって開放弁23からセルケース21の外部に排出される場合がある。これに対して、第2実施形態では、開放弁23がセルケース21の右側の側面21cに設けられていることで、電解液がその自重によって過度にセルケース21の外部に排出されるのを抑制でき、セルケース21の内圧を低減しつつ、セルケース21の外部に流出する電解液の量を少なく抑えることができる。
【0084】
また、第2実施形態においても、3つの吸液材240(第1吸液材241、2つの第2吸液材242)が互いに離間した状態で配設されていることで、一部の吸液材240の吸液力が低下した場合であっても、電解液のバッテリーケース10の外部への漏洩をより確実に防止できる。
【0085】
また、第2実施形態においても、開放弁23どうしが仕切り壁250によって互いに区画されている。そのため、隣接する2つのバッテリーセル20の一方の開放弁23から流出した電解液が他方のバッテリーセル20側に向かうのを抑制でき、流出した高温の電解液によって他のバッテリーセル20が昇温・昇圧するのを防止できる。
【0086】
また、第2実施形態においても、ケース底部空間X1内に複数の区画壁230が配設されるとともに第1吸液材241、第2吸液材242が前記のように配設されていることで、電解液を確実に吸液材240に吸収させられるとともに、高温の電解液によって開放弁23が開弁していないバッテリーセル20までもが昇温・昇圧するのを抑制できる。
【0087】
具体的には、図13に対応する図15の矢印Y21に示すように、第4バッテリ―セル20dの開放弁23が開弁した場合、仕切り壁250、後側の縦区画壁233および後側の第1横区画壁234によって、電解液は、後側の第1横区画壁234とケース本体211の後側の内側面211eとの間の通路に案内される。これにより、電解液の多くは左方に案内されて、第1吸液剤410により吸収されることになる。また、前方に向かう一部の電解液も、矢印Y22に示すように、その途中で第2吸液材242により吸収されることになる。
【0088】
ここで、第2横区画壁235は、これに対向する第2吸液材242の左縁から左側に離間しており、これらの間には隙間C22が形成されている。そのため、電解液の流出量が多いときには、この隙間C22を通って電解液の一部が第3バッテリーセル20c側へ移動する。しかし、前記のように第3バッテリーセル20cに到達するまでに多くの電解液が第1吸液材241、242により吸収されることで、第3バッテリーセル20cに到達する電解液の量は少なく抑えられる。
【0089】
そして、前記のように隙間C22が設けられていることで、仮に、第1吸液材40の吸収力が低下している場合であっても、矢印Y3に示すように、この隙間C22および第1主区画壁231と第2主区画壁232との間の隙間C21を介して電解液を前側の第2吸液材240まで移動させて、これに吸収させることができる。
【0090】
(変形例)
前記第1実施形態および第2実施形態では、バッテリーケース10に4つのバッテリーセル20が収容された場合を説明したが、バッテリーケース10に収容されるバッテリーセル20の数はこれに限らない。
【0091】
また、開放弁23が配設される場所は、セルケース21の下部21dであればよく、前記に限らない。また、第1実施形態において、開放弁23は左右方向について基準線O20よりも負極セル側端子22b側に設けられてもよい。
【0092】
また、吸液材40および区画壁30の配置は前記に限らない。例えば、吸液材40がケース底部空間X1の全体に敷設されてもよい。また、区画壁30は省略してもよい。
【0093】
また、リチウムバッテリ1として、第1実施形態および第2実施形態の構造を左右方向について反転させた構造を有するものを用いてもよい。つまり、前記の第1実施形態および第2実施形態の説明および図において「右」を「左」と読み替え、「左」を「右」と読み替えた構造を用いてもよい。
【0094】
また、リチウムバッテリ1の車載姿勢は前記に限らない。例えば、リチウムバッテリ1は、バッテリーセル20が車幅方向に並ぶ姿勢で車両100に搭載されてもよい。
【0095】
また、本発明に係る車載用二次電池装置はリチウムバッテリに限らない。
【符号の説明】
【0096】
1 リチウムバッテリ(二次電池装置)
10 バッテリーケース(収容容器)
20 バッテリーセル
21 セルケース
22 端子
22a 正極セル側端子(正極端子)
22b 負極セル側端子(負極端子)
23 開放弁
24 電解液
25 電極体
30 区画壁
32 右側区画壁(第1区画壁)
33 左側区画壁(第2区画壁)
40 吸液材
41 第1吸液部材
42 第2吸液部材
250 仕切り壁
O2 中心線
O20 基準線
図1
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