(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】排液の前処理方法および前処理システム
(51)【国際特許分類】
B01D 61/14 20060101AFI20240611BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20240611BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20240611BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20240611BHJP
【FI】
B01D61/14 500
B01D61/02 500
B01D61/58
C02F1/44 A
C02F1/44 D
C02F1/44 F
(21)【出願番号】P 2020077492
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【氏名又は名称】鮫島 睦
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 道士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 栄治
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101219840(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102993039(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102167465(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106145496(CN,A)
【文献】特開2016-198986(JP,A)
【文献】特開2004-202339(JP,A)
【文献】特開平05-131191(JP,A)
【文献】特開昭63-178888(JP,A)
【文献】国際公開第2012/128119(WO,A1)
【文献】特開2002-253931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、溶剤および溶解および/または分散しているポリマーを含んで成る、
中空糸紡糸工程から排出される排液としての原料混合物
から溶剤を回収する蒸留処理工程の前処理方法であって、
(1)原料混合物を限外濾過処理に付して、ポリマーを濾別してポリマーが減少した濾液混合物を得る工程
を含む前処理方法であって、
限外濾過処理は、濃縮倍率が少なくとも5倍のデッドエンドフロー方式、およびその後の濃縮倍率が少なくとも2倍のクロスフロー方式を直列で組み合わせて実施する、前処理方法。
【請求項2】
デッドエンド方式限外濾過処理によって、固形分含量が5~20質量%の濃縮物を得る請求項1に記載の前処理方法。
【請求項3】
(2)工程(1)で得られた濾液混合物を逆浸透濾過処理に付して水が減少した濃縮混合物を得る工程
を更に含む請求項1または2に記載の前処理方法。
【請求項4】
水、溶剤および溶解および/または分散しているポリマーを含んで成る、
中空糸紡糸工程から排出される排液としての原料混合物
から溶剤を回収する蒸留処理装置の前処理システムであって、
原料混合物からポリマーを濾別してポリマーが減少した濾液混合物を得る限外濾過装置、および
得られた濾液混合物から水を減らした濃縮混合物を得る逆浸透濾過装置処理
を含んで成るシステムであって、
限外濾過装置は、
濃縮倍率が少なくとも5倍のデッドエンドフロー方式、およびその後の濃縮倍率が少なくとも2倍のクロスフロー方式を直列で組み合わせて限外濾過処理を実施する、前処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排液の前処理方法に関する。より詳しくは、本発明は、固形分を含む排液の前処理方法に関する。具体的には、この方法は排液中に含まれる有用成分の回収を容易ならしめるための準備として、排液を前処理するために実施できる。
【背景技術】
【0002】
種々の製造プロセスから排液が生成するが、そのような排液中には、不要成分に加えて、有用成分が含まれている場合が多い。環境保護の面から、また、製品コストの面から、そのような有用成分は、回収して再使用するのが望ましい。
【0003】
例えば、ポリマー材料(例えばポリスルホン系ポリマー)を適当な溶媒(例えばジメチルアセトアミドおよび水)に溶かしてドープを作り、それを用いて中空糸を製造する場合、芯液(例えばジメチルアセトアミド)と共にドープを口金から吐出する。吐出されたドープは凝固浴に浸漬され、そこで、凝固および相分離が進み、中空糸が形成される。
【0004】
このように中空糸を製造する過程において、溶媒および芯液を含む排液が生成する。この排液に含まれる溶剤および/または芯液を有用成分として回収して再使用することが好ましい。例えば、このように排液からそれに含まれる有用成分を回収する場合、例えば蒸留操作がしばしば使用される。
【0005】
蒸留操作は、溶媒および/または芯液のような有用成分を高純度で回収できるので、回収した有用成分を再使用するには有用な処理方法である。しかしながら、蒸留操作は相変換を伴うので、そのために必要なエネルギーは一般的に大きく、製造コストの面および環境保護の面から必ずしも望ましくはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、蒸留操作を用いる場合、排液の処理には、大きなエネルギーを必要とするので、必要なエネルギーを減らす工夫が必要である。更に、排液が溶媒および芯液に加えて、それに溶解および/または分散しているポリマーのような高沸点成分または固形分を含む場合、排液を蒸留操作に付した場合、そのような成分は、残渣成分としてリボイラーに残る。この残渣成分は、リボイラーの伝熱管にスケールとして付着して伝熱に悪影響を与える可能性が大きい。
【0008】
従って、排液を単に蒸留操作に付すのは必ずしも好ましくはなく、上述のような排液からそれに含まれる有用成分を回収するための新たな有用な方法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題について、本発明者らは、有用成分を含む排液、例えば中空糸を防止する際に生成する排液から有用成分(例えばドープを調製するために用いる溶媒)を回収する新たな方法について検討を重ね、排液を蒸留操作に付す前に、前処理として濾過処理することにより、効率的に有用成分を回収できることを見出した。
【0010】
第1の要旨において、本発明は、水、溶剤および溶解および/または分散しているポリマーを含んで成る、排液としての原料混合物の前処理方法を提供し、この前処理方法は、原料混合物を限外濾過処理に付して、ポリマー含量が増加した濃縮混合物および濾液を得る工程を含んで成る。得た濾液は、ポリマーを実質的に含まないので、例えば溶剤を回収する蒸留処理に付すことができる。
【0011】
好ましい態様では、上述の前処理方法は、限外濾過処理によって得られた濾液を逆浸透濾過処理に付して水が減少した保持液を得る工程を更に含んで成る。このようにして得た保持液を、先と同様に、例えば溶剤を回収する蒸留処理に付すことができる。
【0012】
このような前処理方法は、例えば中空糸の製造において生成する、原料混合物としての紡糸排液から溶剤を回収する際の前処理として実施できる。従って、本発明は、中空糸の製造方法を提供し、この方法では、紡糸工程から生成する原料混合物は、水、溶剤および溶解および/または分散しているポリマーを含んで成り、(1)原料混合物を限外濾過処理に付して、ポリマーを濾別してポリマーが減少した濾液混合物を得る工程を含んで成り、好ましい態様では、工程(1)の後に、(2)得られた濾液混合物を逆浸透濾過処理に付して水が減少した濃縮混合物を得る工程を含んで成る。
【0013】
第2の要旨において、本発明は、水、溶剤および溶解および/または分散しているポリマーを含んで成る、排液としての原料混合物の前処理システムを提供し、この排液前処理システムは、原料混合物からポリマーを濾別してポリマーを実質的に含まない濾液を得る限外濾過装置、および必要に応じて存在する、得られた濾液から水が減少した保持液を得る逆浸透濾過装置処理を有して成る。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、限外濾過処理により得られる濾液、および/または逆浸透濾過処理により得られる保持液を蒸留処理に付すことが好ましい。濾液を蒸留処理する場合、元の原料混合物と比較して、濾液は実質的にポリマーを含まず、たとえ含むとしても非常に僅かな量であるので、蒸留処理において熱を供給するリボイラーにおいて、ポリマーに起因するスケールの量が大幅に減少するので、スケールによる伝熱への悪影響を抑制できる。更に、保持液を蒸留処理する場合、元の原料混合物と比較して、保持液が含んでいる水の量は大幅に減少しているので、蒸留処理において必要とするエネルギーを節約できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の前処理方法を実施する前処理システムのフローシートを模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、「前処理」とは、排液としての原料混合物から特定の有用成分を回収する目的で、原料混合物を当該前処理に付した後に、別の処理を実施するに際して、当該別の処理の実施を容易ならしめる、および/または効率的ならしめることを目的とする前者の処理を意味する。
【0017】
本発明において、対象とする原料混合物は、水、溶剤およびポリマーを含んで成り、溶剤は、水より高い沸点を有し、ポリマーは実質的に沸点を有さない。ポリマーは、通常、原料混合物中に固形分として存在し、熱を加えると、蒸発せずに、分解するが、環境によっては酸化または炭化する場合がある。このような原料混合物は、固形分含量が大きくなると、その粘度は高くなり、容易に濾過処理することが難しくなる。
【0018】
本発明において、溶剤は、例えばジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等であってよく、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明において、ポリマーは、例えばセルロースまたはその誘導体であるセルロースアセテート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルピロリドン等であってよく、これらに限定されるものではない。このようなポリマーは、原料混合物中で溶解状態であっても、あるいは分散状態であっても、あるいはその双方の状態であってもよい。
【0020】
濾過処理を実施する場合、いずれの方式を用いても、一般的には濾過処理の時間の経過と共に、膜の目詰まり等の理由によって、濾過性能が低下していく。この場合、濾過処理を一旦停止して、濾過性能を回復させるためのメンテナンス処置(例えば膜洗浄、膜交換等)を実施する必要があり、その後、濾過処理を再開する。濾過処理を停止している間にも、処理すべき原料混合物が生成している場合には、その間に生成する原料混合物を再開後に処理する必要がある。
【0021】
この場合、原料混合物の保持タンクの容量および再開後の濾過処理性能が十分な場合には、1系列の濾過処理装置を用いて、濾過処理を実施できる。他方、保持タンクの容量および/または濾過処理性能が不十分である場合、複数系列の濾過処理装置を用いて、一方の系列をメンテナンス処理する間、別の系列に切り替えて濾過処理装置を運転して濾過処理を継続する。メンテナンス処理の時間、濾過処理能力、保持タンクの容量等に応じて2系列またはそれより多くの系列の濾過処理装置を用いることができる。
【0022】
本発明において、限外濾過処理は一般的にUF濾過と呼ばれている処理である。限外濾過に用いる濾過膜は、いずれの適当な形態であってもよく、平膜であっても、中空糸膜の形態であってもよい。また、平膜を用いる場合、それを有する濾過モジュールはプリーツ型であっても、スパイラル型であってもよい。中空糸膜を用いる場合、それを有する濾過モジュールは通常チューブ型である。本発明において、限外濾過装置はこのような濾過モジュールを有して成る。
【0023】
この限外濾過処理によって、透過液としての濾液を得ると共に、処理すべき原料混合物に含まれるポリマーのポリマー含量よりポリマー含量が高い濃縮混合物を得る。この限外濾過処理において、固形分としてのポリマーは濾過膜を通過して濾液側には実質的に移行せず、従って、濾液は、溶媒及び水を含んで成る。濃縮混合物のポリマー含量は、高いのが好ましく、原料混合物のポリマー含量の好ましくは少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも40倍、特に好ましくは少なくとも50倍、最も好ましくは少なくとも60倍、例えば70倍のポリマー含量を有する濃縮混合物を得る。このように高い濃縮倍率となるように限外濾過処理を実施することによって、原料混合物に含まれる溶媒および水の大部分を濾液としてえることができる。
【0024】
本発明の特に好ましい態様において、限外濾過処理をデッドエンドフロー方式およびその後のクロスフロー方式で実施する。即ち、限外濾過処理を、デッドエンドフロー方式およびクロスフロー方式を直列で組み合わせて実施する。この組み合わせを採用することによって、上述のポリマー含量が大きい濃縮混合物を得ることが容易になる。
【0025】
例えば、最初のデッドエンドフロー方式の限外濾過処理によって、濃縮倍率が好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは10倍、例えば15倍またはそれ以上となるように濾過膜を透過する濾液のみを取り出す。濃縮物に含まれるポリマー含量がそのような濃縮倍率に達した段階で、別のデッドエンドフロー濾過処理に切り替えて濾過を継続すると共に、濃縮物を取り出す。この濃縮物をクロスフロー方式の限外濾過処理に付し、濃縮倍率が好ましくは少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも4倍、特に好ましくは少なくとも5倍となるように限外濾過を実施して、濾過膜を透過する濾液、およびそのような濃縮倍率でポリマー含量が大きくなった濃縮混合物を得る。
【0026】
デッドエンドフロー方式では、原料混合物を連続的に濾過装置に供給し、濾液のみを連続的に取り出しながら、膜を透過しない濃縮物を溜める。濃縮物のポリマー含量が上述のようの濃縮倍率に到達した段階で、例えば別の系列の限外濾過装置に切り替えて同様に限外濾過処理を実施する。従って、この方式で限外濾過処理するには、例えば少なくとも2系列の限外濾過装置を用いるのが好ましい。例えば、一方の系列の濾過装置で濾過処理を実施し、その間、他方の系列の濾過装置では、溜まった濃縮物の取り出しおよび濾過膜の洗浄等のメンテナンスを実施する。
【0027】
このように複数系列の濾過装置を用いることによって、限外濾過処理を連続的に実施できるが、限外濾過処理すべき原料混合物を保持するタンクの容量が十分であり、また、その後の濾過処理能力が十分である場合、上述のように1系列の限外濾過装置を用いてもよい。この場合、限外濾過処理を停止して、濃縮物を取り出してその後にメンテナンスを実施してよい。濾過処理を停止している間、原料混合物を保持するタンクに原料混合物を溜めておけばよい。
【0028】
デッドエンドフロー方式限外濾過処理において、上述のように濃縮物のポリマー含量が大きくなると、濃縮物の粘度が高くなり、デッドエンドフロー方式限外濾過処理を継続して、ポリマー含量を更に大きくすることは容易でない。そこで、クロスフロー方式限外濾過を採用して限外濾過処理を実質的に連続的に実施でするのが好ましい。クロスフロー方式では、濾過膜を通過する透過液および濾過マックを通過しない保持液の双方を連続的に取り出す。デッドエンドフロー方式と同様に、濾過装置のメンテナンスを考慮して2系列のクロスフロー方式限外濾過装置を有してよい。デッドエンドフロー方式限外濾過装置とクロスフロー限外濾過装置との間に十分な容量の保持タンクを設ける場合には、クロスフロー方式限外濾過装置は1系列であってもよい。例えば、第1濃縮物のポリマー含量が例えば5~20質量%、好ましくはと7~15質量%、より好ましくは8~12質量%、例えば10質量%になるまでデッドエンドフロー方式で限外濾過を実施し、その後、第1濃縮物をクロスフロー方式で限外濾過に付す。
【0029】
このように、2段階で限外濾過処理を実施することによって、固形分としてのポリマー含量が大きい、例えば少なくとも30重量%、好ましくは40重量%、より好ましくは50重量%の濃縮混合物を得ることができる。尚、上述のように、デッドエンドフロー方式とクロスフロー方式とを組わせると、デッドエンドフロー方式のみで限外濾過処理する場合と比較して、濃縮混合物中のポリマー含量をより大きくすることができ、また、限外濾過装置の膜寿命を延ばすことができる。その理由の可能性として、クロスフロー方式では膜の目詰まりが相対的に抑制されることが考えられる。
【0030】
本発明において、逆浸透濾過処理は一般的にRO濾過と呼ばれている処理である。逆浸透濾過に用いる濾過膜は、いずれの適当な形態であってもよく、平膜であっても、中空糸膜の形態であってもよい。また、平膜を用いる場合、それを有する濾過モジュールはプリーツ型であっても、スパイラル型であってもよい。中空糸膜を用いる場合、それを有する濾過モジュールは通常チューブ型である。本発明において、逆浸透濾過装置はこのような濾過モジュールを有して成る。
【0031】
限外濾過処理によって生成する濾液をこの逆浸透濾過処理によって処理し、処理すべき濾液からそれに含まれる水を除去する。除去する水の量は、限外濾過処理によって得られる濾液に含まれる水の相当部分、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも60%、例えば65%を透過液として除去する。この透過液は、微量、好ましくは50ppm以下、より好ましくは20ppm以下、更に好ましくは10ppm以下の溶剤を含み得る。逆浸透濾過処理によって生じる、水が減少した保持液は、残りの溶剤と水を含んで成る。
【0032】
このようにして得られる保持液は、更に別の処理、例えば蒸留処理に付して、含まれている溶剤を高純度で例えば高沸点缶出物として回収し、必要に応じて、例えば紡糸工程にリサイクルして再使用できる。他方、このような蒸留処理では、溶剤を低濃度で含む水を低沸点留出物として回収でき、必要に応じて、例えば、限外濾過処理によって生成する濾液と一緒に逆浸透濾過処理に付してよい。
【0033】
本発明の特に好ましい態様において、逆浸透濾過処理をクロスフロー方式で実施する。この方式では、処理すべき濾液を連続的に濾過装置に供給し、保持液および透過液の双方を連続的に取り出す。濾過膜の性能が低下した段階で、濾過膜を洗浄するために、別の系列の逆浸透濾過装置に切り替えて同様に逆浸透濾過処理を実施するのが好ましい。従って、この方式で逆浸透濾過処理するには、少なくとも2系列の逆浸透濾過装置が必要である。例えば、一方の系列の濾過装置で濾過処理を実施し、その間、他方の系列の濾過装置では、濾過膜の洗浄等のメンテナンスを実施する。
【0034】
このように複数系列の濾過装置を用いることによって、逆浸透濾過処理を連続的に実施できるが、上述のように濾液の保持タンクの容量および濾過能力が十分である場合、一系列の逆浸透濾過装置を用いてもよい。この場合、濾過処理を停止して、その後にメンテナンスを実施してよい。濾過処理を停止している間、濃縮混合物を保持するタンクに濾液混合物を溜めておけばよい。
【0035】
本発明の1つの好ましい態様では、水、溶剤およびポリマーを含んで成る原料混合物は、中空糸を紡糸する工程にて生成する排水である。この排水は、水を主成分(例えば95%またはそれ以上)として含み、残部(例えば数%)としての溶剤(例えばポリアセトアミド)を含んで成り、通常、原料混合物に溶解および/または分散しているポリマー(例えばポリスルホン)を少量(例えば1%またはそれ以下)含む。溶剤は、環境面および製造コスト面から回収して再使用することが望ましい。
【0036】
次に、添付図面を参照して本発明の実施するための形態を詳細に説明する。
図1に本発明の前処理を実施する、原料混合物の前処理システムをフローシートで模式的に示す。図示した態様では、2系列のデッドエンドフロー方式限外濾過処理装置、およびそれに直列接続された1系列のクロスフロー方式限外濾過装置で限外濾過処理を実施し、これによって得られた濾液を2系列の逆浸透濾過処理装置で逆浸透濾過処理を実施する。即ち、原料混合物を2段階で限外濾過処理して濾液を得、その濾液を逆浸透濾過処理する。図示した態様では、限外濾過処理は、2系列のデッドエンドフロー方式濾過装置を交互に切り替えて第1段階目の限外濾過処理を実施し、生成する濃縮物をクロスフロー方式濾過処理装置に供給して第2段階目の限外濾過処理を実施して濾液および濃縮混合物を得る。
【0037】
紡糸工程10にて生成する原料混合物12は、水、溶剤および固形分としてのポリマーを含んで成り、原料混合物保持タンク14に貯留する。この原料混合物を本発明の前処理方法を用いて前処理する。タンク14に溜まった原料混合物を、一方の系列の限外濾過装置16に供給して第1段階目の限外濾過処理としてのデッドエンド方式限外濾過処理を実施する。図示したフローシートでは、他方の系列の限外濾過装置18も設けられ、併せて2系列の限外濾過装置が2系列設けられている。これを切り替えて使用するによって、限外濾過処理をデッドエンドフロー方式で実施することができる。
【0038】
より具体的には、一方の系列16でデッドエンドフロー方式限外濾過処理を実施して濾液を得る。この濾過処理によって、原料混合物に含まれているポリマーの大部分、好ましくは実質的に全量を、溶剤および水と共に、含む第1濃縮物20を得、また、これらが除去されて含まれない、溶剤および水を含む第1濾液22を得ることができる。第1濃縮物のポリマー含量は、原料混合物のポリマー含量(例えば0.5~1.0重量%)より相当大きく、例えば15倍のポリマー含量である。濾過処理の経過につれて濾過能力が不十分となったタイミングで、他方の系列の濾過装置18に切り替えて濾過処理を継続して同様に第1濃縮物20’および第1濾液22’を得る。その間、前者の系列の濾過装置16で濃縮物の取り出しおよび濾過膜の洗浄を行ない、必要なメンテナンスを実施して次の濾過処理に備える。このように2系列の濾過装置16および18を設けることによって、原料混合物を連続的に濾過処理できる。
【0039】
このようにデッドエンドフロー方式限外濾過処理によって生成する第1濃縮物20(または20’)は、限外濾過装置としてのクロスフロー方式限外濾過装置24に供給して第2段階目の限外濾過処理に付する。この処理によって、膜を透過する第2濾液26および第2濃縮物28を濃縮混合物として得る。第2濃縮物は、第1濃縮物よりも更に大きい、例えば5倍のポリマー含量を有する。第1濃縮物20から第2濃縮物28を差し引いた量が膜を透過して第2濾液26として生成し、第2濾液26は水および溶剤を含んで成る。図示した態様では、第1濾液および第2濾液を濾液保持タンク30にて貯留する。
【0040】
上述のようにして得られた第1濾液および第2濾液は、ポリマーを実質的に含まず、水および溶剤を含んで成り、限外濾過処理によって得られた濾液として逆浸透濾過処理に付される。図示した態様では、逆浸透濾処理は、並列に配置され、上述のように切り替えることができる2系列の濾過装置で実施され、一方の系列で濾過処理する間、他方の系列では、例えば濾過膜の洗浄等を含めて必要なメンテナンスを実施できる。2系列の逆浸透濾過装置32および34を逆浸透濾過処理に用いる。上述の原料混合物を前処理する場合、ポリマーは限外濾過処理によって実質的に全部濃縮物側に移っているので、逆浸透濾過装置32(または34)に供給される濾液36は、微量の溶剤を含み得る水を透過液38として、残りを保持液40として得ることができる。
【0041】
逆浸透濾過処理によって、濾液に含まれる水分を透過液38に除去して溶剤濃度が増加した保持液40を得ることがきる。例えば、溶剤濃度が2~3質量%である濾液36を逆浸透濾過処理することによって、5~10質量%の溶剤を含む保持液40を得ることができる。限外濾過処理のメカニズム故にその濾液中のポリマー量は、含まれるとしても非常に微量であるので、逆浸透濾過処理によって得られる保持液に含まれるポリマーも微量である。
【0042】
従って、生成する保持液40を蒸留処理42に付して溶剤を回収する場合、沸点が低い水およびそれに同伴される溶剤が留出物44として生成し、沸点が高い溶剤を多く含む、好ましくは実質的に水を含まない缶出物46(例えば蒸留装置の缶出液)が排出される。それにはポリマーは実質的に含まれず、紡糸工程10で再使用するのに好適である。また、ポリマーは蒸留系に入らないので、蒸留に用いるリボイラーのポリマーに由来するスケールの問題も実質的に解消される。尚、留出物44(例えば蒸留装置の塔頂留出液)は溶剤および水を含むが、例えば逆浸透濾過処理にリサイクルしてよく、最終的に、水を透過液38の側に移すようにできる。
【0043】
尚、限外濾過処理により得られる濾液は、実質的にポリマーを含まないので、逆浸透濾過処理することなく、破線ライン50で示すように、保持タンク30から濾液を直接蒸留処理42に付してもよい。この場合、逆浸透濾過処理によって濾液から水を除去しないのでエネルギー的な利点は無いが、蒸留に用いるリボイラーにおけるスケールの問題を回避できる。
【0044】
また、限外濾過処理によってポリマー含量を、従って、濃縮倍率を大きくする(例えば50倍)ことによって得られる濃縮物28は、その絶対量が少なく、しかも、原料混合物に含まれる実質的に全部のポリマーを固形分として含むので、固液分離装置52に供給して固液分離することによって、ポリマーを含む固形分54と残りの液体分56とに分離できる。必要に応じて、液体分56は、濾液36と共に逆浸透濾過処理に供給して処理できる。固形分54は、必要に応じて適当な処理を経て廃棄または焼却できる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例を説明して本発明をより具体的に説明するが、本発明はそのような実施例に限定されるものではない。
ダイアライザー用の中空糸を紡糸する際に生成する、原料混合物としての紡糸排液の前処理を実施した。紡糸排液は、例えば、溶剤としてジメチルホルムアミド(例えば3~5質量%)、固形分としてのポリマーであるセルロースアセテート(例えば0.5~1.2質量%)を、水に加えて含む。
【0046】
この原料混合物をデッドエンドフロー方式限外濾過処理装置に供給して、固形分含量が10質量%の第1濃縮物および実質的に固形分を含まない第1濾液を得た。第1濃縮物をクロスフロー方式限外濾過装置に供給して、固形分含量が45質量%の濃縮混合物としての第2濃縮物および実質的に固形分を含まない第2濾液を得た。この第2濃縮物は、固液分離装置に供給して固形分と液体分に分離した。
【0047】
濾液保持タンクに貯留した第1濾液および第2濾液を濾液として逆浸透濾過処理装置に供給して、溶剤濃度が5~10質量%の保持液として得、残りを透過液として回収した。透過液に含まれる溶剤は微量であり、例えば10ppm以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の前処理方法および前処理装置は、水、溶剤およびポリマーを含む混合物から溶剤を回収するに際して、実際に溶剤を回収する工程に先立って実施できる有効な手段であり、溶剤の回収を容易化および有効化ならしめる。
【符号の説明】
【0049】
10…紡糸工程
12…原料混合物
14…原料混合物保持タンク
16,18…デッドエンド方式限外濾過装置
20,20’…第1濃縮物
22,22’…第1濾液
24…クロスフロー方式限外濾過装置
26…第2濾液
28…濃縮混合物としての第2濃縮物
30…濾液保持タンク
32,34…逆浸透濾過装置
36…濾液
38…透過液
40…保持液
42…蒸留処理
44…留出物
46…缶出物
50…濾液を蒸留処理に直接供給するライン
52…固液分離装置
54…固形分
56…液体分