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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】レーダ装置とその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/34 20060101AFI20240611BHJP
   G01S 7/36 20060101ALI20240611BHJP
   G01S 13/931 20200101ALN20240611BHJP
   G08G 1/16 20060101ALN20240611BHJP
   G08G 1/04 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S7/36
G01S13/931
G08G1/16 C
G08G1/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020091349
(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公開番号】P2021188928
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】大塩 祥剛
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-203412(JP,A)
【文献】特開2000-131428(JP,A)
【文献】特開2018-179914(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0025866(US,A1)
【文献】特開2011-197011(JP,A)
【文献】KITSUKAWA, Yusuke 外4名,“An Interference Suppression Method by Transmission Chirp Waveform with Random Repetition Interval in Fast-Chirp FMCW Radar”,PROCEEDINGS OF THE 16TH EUROPEAN RADAR CONFERENCE [ISBN: 978-3-87487-057-6],2019年10月,Pages 165-168
【文献】GREENGARD, Leslie 外1名,“Accelerating the Nonuniform Fast Fourier Transform”,SIAM REVIEW,2004年07月30日,Volume 46, Number 3,Pages 443-454,<URL: http://www.siam.org/journals/sirev/46-3/43200/html >
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - G01S 7/42
G01S 13/00 - G01S 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信チャープ信号を、送信間隔信号に基づいて、不等間隔で送信する無線送信部と、前記複数の送信チャープ信号が物標で反射された後、前記反射された複数の送信チャープ信号を受信する無線受信部とを備えるレーダ装置であって、
前記無線受信部は、
前記複数の送信チャープ信号を複数の受信チャープ信号として受信し、
前記受信された複数の受信チャープ信号と、前記複数の送信チャープ信号とを混合することで、複数のビート信号を検出し、
前記送信間隔信号に基づいて、前記複数のビート信号に対して、前記複数の受信チャープ信号として受信するときの各受信間隔が実質的に同一になるように信号補間処理を実行することで、等間隔の複数のビート信号を生成し、
前記等間隔の複数のビート信号に基づいて、前記物標との相対速度を推定し、
前記無線受信部はさらに、
前記等間隔の複数のビート信号を、ビート信号の複数の距離スペクトラムに変換し、
前記ビート信号の複数の距離スペクトラムのピーク状態を抽出し、
複数の距離スペクトラムのピーク状態に基づいて、前記複数の受信チャープ信号間の干渉の有無を判定する、
レーダ装置。
【請求項2】
前記無線受信部は、前記等間隔の複数のビート信号に基づいて、前記物標との距離をさらに推定する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記送信チャープ信号は、連続的に変化する周波数をそれぞれ有する、
請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記無線受信部は、前記受信された複数の受信チャープ信号又は複数のビート信号に基づいて、前記物標の到来角度を推定する、
請求項1~3のうちのいずれか1つに記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記無線受信部は、前記干渉があると判定された受信チャープ信号の距離スペクトラムを、前記干渉の影響を除去した所定の距離スペクトラムに変換した後、変換された距離スペクトラムに基づいて前記物標との距離及び相対速度を推定する、
請求項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
連続的に変化する周波数をそれぞれ有する複数の送信チャープ信号を、送信間隔信号に基づいて、不等間隔で送信する無線送信部と、前記複数の送信チャープ信号が物標で反射された後、前記反射された複数の送信チャープ信号を受信する無線受信部とを備えるレーダ装置の制御方法であって、
前記制御方法は、
前記複数の送信チャープ信号を受信間隔で複数の受信チャープ信号として受信するステップと、
前記受信された複数の受信チャープ信号と、前記複数の送信チャープ信号とを混合することで、複数のビート信号を検出するステップと、
前記送信間隔信号に基づいて、前記複数のビート信号に対して、前記複数の受信チャープ信号として受信するときの各受信間隔が実質的に同一になるように信号補間処理を実行することで、等間隔の複数のビート信号を生成するステップと、
前記等間隔の複数のビート信号に基づいて、前記物標との相対速度を推定するステップと、
前記等間隔の複数のビート信号を、ビート信号の複数の距離スペクトラムに変換するステップと、
前記ビート信号の複数の距離スペクトラムのピーク状態を抽出するステップと、
複数の距離スペクトラムのピーク状態に基づいて、前記複数の受信チャープ信号間の干渉の有無を判定するステップと、
を含むレーダ装置の制御方法。
【請求項7】
前記制御方法は、
前記等間隔の複数のビート信号に基づいて、前記物標との距離を推定するステップを、
さらに含む、請求項に記載のレーダ装置の制御方法。
【請求項8】
前記送信チャープ信号は、連続的に変化する周波数をそれぞれ有する、
請求項6又は7に記載のレーダ装置の制御方法。
【請求項9】
前記受信された複数の受信チャープ信号又は複数のビート信号に基づいて、前記物標の到来角度を推定するステップをさらに含む請求項6~8のうちのいずれか1つに記載のレーダ装置の制御方法。
【請求項10】
前記干渉があると判定された受信チャープ信号の距離スペクトラムを、前記干渉の影響を除去した所定の距離スペクトラムに変換した後、変換された距離スペクトラムに基づいて前記物標との距離及び相対速度を推定するステップを、
さらに含む請求項に記載のレーダ装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置とその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来例1に係るレーダ装置において、周波数が連続的に変化するチャープ波を送信して物標との距離及び相対速度を検出するFCM(Fast Chirp Modulation)方式のレーダ装置が用いられている。この従来例1に係るレーダ装置では、レーダ間の相互干渉を回避するために、チャープ信号を不等間隔(ランダム)で送信していた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、チャープ波の干渉を高精度に検出するために、以下の構成を有する従来例2に係るレーダ装置が提案されている。ここで、送信部は、周波数が連続的に変化するチャープ信号によって複数のチャープ波が繰り返される送信波を出力する。これに応答して、受信部は、物標による送信波の反射波に応じた受信信号とチャープ信号とから生成されるチャープ波毎のビート信号に対して第1のFFT処理を行った後、第1のFFT処理の結果である周波数スペクトルのピーク状態を複数のチャープ波間で比較することでチャープ波の干渉の有無を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-105228号公報
【文献】特開2019-158828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来例1に係るレーダ装置では、チャープ信号の受信間隔が等間隔でなくなるために、物標の相対速度を誤って推定するという問題点があった。
【0006】
また、従来例2に係るレーダ装置では、たしかにスペクトラム間の干渉を高精度に検出することができるが、干渉有りのスペクトラムを除去するなどによって、物標の位置及び相対速度の推定精度が低いという問題点があった。
【0007】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、従来技術に比較して、干渉判定の有無に関係無く、物標の位置及び相対速度の推定精度を高くすることができるレーダ装置とその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るレーダ装置は、
複数の送信チャープ信号を、送信間隔信号に基づいて、不等間隔で送信する無線送信部と、前記複数の送信チャープ信号が物標で反射された後、前記反射された複数の送信チャープ信号を受信する無線受信部とを備えるレーダ装置であって、
前記無線受信部は、
前記複数の送信チャープ信号を所定の受信間隔で複数の受信チャープ信号として受信し、
前記受信された複数の受信チャープ信号と、前記複数の送信チャープ信号とを混合することで、複数のビート信号を検出し、
前記送信間隔信号に基づいて、前記複数のビート信号に対して前記各受信間隔が実質的に同一になるように信号補間処理を実行することで、等間隔の複数のビート信号を生成し、
前記等間隔の複数のビート信号に基づいて、前記物標との相対速度を推定する。
【発明の効果】
【0009】
従って、本発明に係るレーダ装置等によれば、従来技術に比較して、干渉判定の有無に関係無く、物標の位置及び相対速度の推定精度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るレーダ装置100の構成例を示すブロック図である。
図2A】実施形態に係る、送信チャープ信号の送信間隔が不等間隔であるレーダ装置の動作例の第1の部分を示す波形図である。
図2B】実施形態に係る、送信チャープ信号の送信間隔が不等間隔であるレーダ装置の動作例の第2の部分を示す波形図、位相図及びスペクトル図である。
図3図1のレーダ装置100により実行される距離、速度及び到来角度推定処理を示すフローチャートである。
図4A】比較例1に係る、送信チャープ信号の送信間隔が等間隔であるレーダ装置の動作例の第1の部分を示す波形図及びスペクトル図である。
図4B】比較例1に係る、送信チャープ信号の送信間隔が等間隔であるレーダ装置の動作例の第2の部分を示す波形図、位相図及びスペクトル図である。
図5A】比較例2に係る、送信チャープ信号の送信間隔が不等間隔であるレーダ装置の動作例の第1の部分を示す波形図及びスペクトル図である。
図5B】比較例2に係る、送信チャープ信号の送信間隔が不等間隔であるレーダ装置の動作例の第2の部分を示す波形図、位相図及びスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、比較例及び実施形態に係る、FCM方式を用いたレーダ装置とその制御方法の実施形態について説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0012】
(比較例1)
図4A及び図4Bは、比較例1に係る、送信チャープ信号の送信間隔が等間隔であるレーダ装置の動作例の波形図、位相図及びスペクトル図である。以下、図4A及び図4Bを参照して、比較例1に係る、送信チャープ信号の送信間隔が等間隔であるレーダ装置の動作例の概要について説明する。
【0013】
図4A(a)において、無線送信部は、所定の送信間隔信号に基づいて、周波数が連続的に高くなる複数の送信チャープ信号Stを所定の送信間隔Tで繰り返し、物標に向けて無線送信する。ここで、送信間隔Tは次式で表され、送信チャープ信号Stによらず一定である。なお、nは1を超える整数である。
【0014】
T=t-tn-1, n>1
【0015】
ここで、tは送信開始時刻である。
【0016】
図4A(b)及び(c)において、無線受信部は、物標で反射された複数の送信チャープ信号Stを受信して、受信した送信チャープ信号である受信チャープ信号Srと、送信した送信チャープ信号Stとを混合した後ローパスフィルタリングすることで、複数のビート信号y(t)~y(t)を検出する。ここで、ビート信号y(t)は次式で表される。
【0017】
(t)=sin(2πft+θ
【0018】
ここで、fはビート周波数であり、位相差θは次式で表される。
【0019】
θ=4πv(t-t)/λ
【0020】
ここで、vは物標の相対速度[m/s]であり、λは送信チャープ信号を含む無線信号の波長である。
【0021】
図4A(d)において、ビート信号y(t)に対してFFT(Fast Fourier Transformation)を実行することで、ビート信号y(t)の距離スペクトラムR(ω)に変換する。ここで、ビート信号y(t)の距離スペクトラムR(ω)は次式で表される。
【0022】
(ω)=10log10|Y(ω)|
|Y(ω)|exp(-jω+θ)=FFT[y(t)]
【0023】
ここで、FFT[]は高速フーリエ変換の演算子である。
【0024】
図4B(a)において、ビート信号y(t)の距離スペクトラムR(ω)のピーク値Rnpを検出した後、図4B(b)において、その位相θを抽出する。
【0025】
抽出したビート信号y(t)の距離スペクトラムR(ω)のピーク値Rnpの位相θを時間軸上で表すと図4B(c)のようになり、このグラフに対してFFTを実行することで、図4B(d)の速度スペクトラムV(ω)に変換してそのピーク値に基づいて、物標の相対速度vを、次式を用いて計算することができる。
【0026】
v=λΔθ/(4πT)
Δθ=θ-θ
【0027】
(比較例2)
これに対して、送信間隔Tが不等間隔Tであるときの比較例2について、図5A及び図5Bを参照して説明する。図5A及び図5Bは、比較例2に係る、送信チャープ信号Stの送信間隔が不等間隔であるレーダ装置の動作例を示す波形図、位相図及びスペクトル図である。
【0028】
図5A(a)において、無線送信部は、所定の送信間隔信号に基づいて、周波数が連続的に高くなる複数の送信チャープ信号Stを不等送信間隔Tで繰り返し、物標に向けて無線送信する。ここで、送信間隔Tは次式で表され、送信チャープ信号Stによらず一定ではない。なお、nは1を超える整数である。
【0029】
=t’-t’n-1, n>1
【0030】
ここで、t’は送信開始時刻である。
【0031】
図5A(b)及び(c)において、無線受信部は、物標で反射された複数の送信チャープ信号Stを受信して、受信した送信チャープ信号である受信チャープ信号Srと、送信した送信チャープ信号Sとを混合した後ローパスフィルタリングすることで、複数のビート信号y(t)~y(t)を検出する。ここで、ビート信号y(t)は次式で表される。
【0032】
(t)=sin(2πft+θ
【0033】
ここで、fはビート周波数であり、位相差θは次式で表される。
【0034】
θ=4πv(t’-t’)/λ
【0035】
ここで、vは物標の相対速度[m/s]であり、λは送信チャープ信号Sを含む無線信号の波長である。
【0036】
図5A(d)において、ビート信号y(t)に対してFFT(Fast Fourier Transformation)を実行することで、ビート信号y(t)の距離スペクトラムR(ω)に変換する。ここで、ビート信号y(t)の距離スペクトラムR(ω)は次式で表される。
【0037】
(ω)=10log10|Y(ω)|
|Y(ω)|exp(-jω+θ)=FFT[y(t)]
【0038】
図5B(a)において、ビート信号y(t)の距離スペクトラムR(ω)のピーク値Rnpを検出した後、図5B(b)において、その位相θを抽出する。
【0039】
抽出したビート信号y(t)の距離スペクトラムR(ω)のピーク値Rnpの位相θを時間軸上で表すと図5B(c)のようになり、これを真値と比較すると、図5B(d)に示すようになり、推定値は真値からずれることがわかる。このグラフに対してFFTを実行することで、図5B(e)の速度スペクトラムV(ω)に変換してそのピーク値に基づいて、物標の相対速度vを計算することができるが、物標の相対速度vにおいて誤差が発生することは明らかである。
【0040】
すなわち、相対速度vは次式で表されるが、分母の送信間隔Tが一定ではないために、相対速度vに誤差が発生する。
【0041】
v=λΔθ/(4πT)
Δθ=θ-θ
【0042】
(実施形態)
本発明に係る実施形態では、前記の誤差を減少させるために、比較例2において、複数のビート信号が等間隔になるように、受信間隔を補正することを特徴としている。
【0043】
図1は実施形態に係るレーダ装置100の構成例を示すブロック図である。以下、レーダ装置100の構成例について説明する。
【0044】
図1において、レーダ装置100は、例えばFCM(Fast Chirp Modulation)方式を用いて、物標との距離及び相対速度を推定する。FCM方式では、周波数が連続的に変化する複数のチャープ信号が繰り返される送信チャープ信号を、物標に対して無線送信して、検出範囲内に存在する各物標との距離及び相対速度を検出する。具体的には、FCM方式は、複数のチャープ信号Stを生成する変調信号と物標による送信信号の反射波を受信して得られる受信信号とから生成されたチャープ信号毎の複数のビート信号y(t)に対して2次元高速フーリエ変換処理(以下、2次元FFT処理という)を実行して物標との距離及び相対速度を推定する。なお、2次元FFT処理は、距離FFT処理及び速度FFT処理の2回のFFT処理を含む。
【0045】
図1において、レーダ装置100は、無線送信部1と、無線受信部2と、信号処理部3とを備える。ここで、無線送信部1は、送信制御部10と、変調信号生成部11と、発振器12と、電力増幅器13と、送信アンテナ14とを備える。また、無線受信部2は、1個以上のN個の受信アンテナ21-1~21-N(以下、総称して符号21を付す)と、複数N個の低雑音増幅器22-1~22-N(以下、総称して符号22を付す)と、複数N個の混合器23-1~23-N(以下、総称して符号23を付す)と、複数N個のローパスフィルタ(LPF)24-1~24-N(以下、総称して符号24を付す)と、複数N個のAD変換器(ADC)25-1~25-N(以下、総称して符号25を付す)とを備える。さらに、信号処理部3は、複数N個の受信間隔補正部31-1~31-N(以下、総称して符号31を付す)と、複数N個の距離及び速度推定部32-1~32-N(以下、総称して符号32を付す)と、到来角度推定部33とを備える。
【0046】
無線送信部1の送信制御部10は、互いに不等の送信間隔Tを有する送信間隔信号Siを発生して変調信号生成部11及び受信間隔補正部31に出力する。変調信号生成部11は例えば鋸波形状などの三角波形状で周波数が変化する変調信号を生成し、発振器12に出力する。発振器12は、変調信号に従って、不等の送信間隔Tを有する送信チャープ信号Stを生成して、電力増幅器13を介して送信アンテナ14に出力されて、送信チャープ信号Stを含む無線信号が送信アンテナ14から物標に向けて放射される。
【0047】
なお、発振器12からの送信チャープ信号Stは無線受信部2の混合器23にも分配される。また、送信間隔信号Siは無線受信部2の受信間隔補正部31にも分配される。
【0048】
無線受信部2において、アレーアンテナを構成する複数N個の受信アンテナ21は、物標からの反射波である、送信チャープ信号Stを含む無線信号を、受信チャープ信号Srを含む受信無線信号として受信し、受信無線信号を低雑音増幅器22を介して混合器23に出力する。各混合器23は、各低雑音増幅器22からの受信無線信号に含まれる受信チャープ信号Srと、発振器12からの送信チャープ信号Stとを混合して、各ローパスフィルタ24に出力する。各ローパスフィルタ24は、入力される混合結果の信号から不要な信号成分を除去するためのローパスフィルタリングを行うことで、ビート周波数fを有するビート信号y(t)を検出して各AD変換器25に出力する。各AD変換器25は入力されるビート信号y(t)をデジタル形式のビート信号にAD変換して信号処理部3の各受信間隔補正部31に出力する。
【0049】
なお、図1に示す受信アンテナ21等の個数Nは、例えば1以上である。本実施形態において、距離の推定、又は速度の推定は1個の受信アンテナ21で可能であるが、到来角度の推定まで行なう場合2個以上の受信アンテナ21が必要である。
【0050】
信号処理部13は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力ポート等を含むマイクロコンピュータで構成され、レーダ装置100の全体を制御する。
【0051】
各受信間隔補正部31は、送信制御部10からの送信間隔信号Siに基づいて、入力されるビート信号y(t)を所望の最大検知速度を満たす送信間隔Tよりも短い間隔で信号補間処理を行うことで、所定の等間隔Tであるビート信号yen(t)を生成する。ここで、等間隔Tであるビート信号yen(t)は次式で表される。
【0052】
en(t)
=y(t)+(y(t)-yn-1(t))/(t-t’n-1
×(t’-t’n-1
【0053】
ここで、信号補間(内挿)を行っているが、本発明はこれに限らず、信号補外処理(外挿)を行って、所定の等間隔Tであるビート信号yen(t)を生成してもよい。なお、信号補間処理は、例えば線形補間法、多次スプライン関数法、ラグランジェ補間法、指数スプライン補間法、最小二乗法を用いた補間法などの公知の信号補間法を用いることができる。
【0054】
各距離及び速度推定部32は、各受信間隔補正部31から出力されるビート信号yen(t)に対してそれぞれ公知の2次元FFT処理(距離FFT処理及び速度FFT処理)を行い、かかる2次元FFT処理の結果に基づいて物標の距離及び相対速度を演算して到来角度推定部33に出力する。なお、各距離及び速度推定部32はさらに、前記の距離FFT処理の結果を用いて干渉の有無を判定してもよい。
【0055】
すなわち、各距離及び速度推定部32は、ビート信号yen(t)におけるピーク状態の違いに着目して干渉を検出する。具体的には、距離FFT処理の結果それぞれのピーク状態(ピーク値、ピーク数、ピークの位置)を複数の受信チャープ信号Sr間で比較することで複数の受信チャープ信号の干渉の有無を判定する。例えば、複数の受信チャープ信号のうち、他の受信チャープ信号とはピークの数や、ピークの位置等のピーク状態が異なるチャープ信号があった場合、かかるチャープ信号が干渉を受けていると判定する。このように、レーダ装置100では、距離FFT処理の結果のピーク状態を比較することで、受信チャープ信号の干渉を高精度に検出することができる。特に、レーダ装置100以外の、例えば他車両に搭載されたレーダ装置との干渉も高精度に検出することができる。
【0056】
到来角度推定部33は、複数の受信チャープ信号Sr又はそれに基づいて生成されたビート信号y(t)に基づいて、所定の公知の到来角度演算処理により物標の到来角度を推定する。例えば、来角度推定部33は、受信アンテナ21で受信された複数個の受信信号に基づく複数個のビート信号y(t)の周波数スペクトルそれぞれの同一距離ビンのピークの位相の違いにより物標の到来角度を推定する。なお、同一距離ビンのピークの位相の違いにより、同一距離ビンに複数の物標が存在することが検出された場合、それら複数の物標それぞれについて角度推定を行う。なお、到来角度推定部33における角度の推定は、例えば、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、DBF(Digital Beam Forming)、又はMUSIC(Multiple Signal Classification)などの公知の推定方式を用いて実行される。
【0057】
到来角度推定部33は、演算した物標で反射された無線信号の到来角度に加えて、各距離及び速度推定部32において推定された、物標との距離及び相対速度に係る情報を他制御装置200に出力する。なお、図1において、他制御装置200は、他のレーダ装置、又は、当該レーダ装置100及び他のレーダ装置を統括的に制御する制御装置である。
【0058】
図2A及び図2Bは、実施形態に係る、送信チャープ信号の送信間隔が不等間隔であるレーダ装置の動作例を示す波形図及びスペクトル図である。
【0059】
図2A(a)において、無線送信部1は、送信間隔信号Siに基づいて、周波数が連続的に高くなる複数の送信チャープ信号Stを不等送信間隔Tで繰り返し、物標に向けて無線送信する。ここで、送信間隔Tは次式で表され、送信チャープ信号Stによらず一定ではない。なお、nは1以上の整数である。
【0060】
=t’-t’n-1, n>1
【0061】
ここで、t’は送信開始時刻である。
【0062】
図2A(b)及び(c)において、無線受信部2は、物標で反射された複数の送信チャープ信号Stを受信して、受信した送信チャープ信号である受信チャープ信号Srと、送信した送信チャープ信号Sとを混合した後ローパスフィルタリングすることで、複数のビート信号y(t)~y(t)を検出する。ここで、ビート信号y(t)は次式で表される。
【0063】
(t)=sin(2πft+θ
【0064】
ここで、fはビート周波数であり、位相差θは次式で表される。
【0065】
θ=4πv(t’-t’)/λ
【0066】
ここで、vは物標の相対速度[m/s]であり、λは送信チャープ信号Sを含む無線信号の波長である。
【0067】
図2A(d)において、各受信間隔補正部31は、送信制御部10からの送信間隔信号Siに基づいて、入力されるビート信号y(t)を所望の最大検知速度を満たす送信間隔Tよりも短い間隔で信号補間処理を行うことで、所定の等間隔Tであるビート信号yen(t)を生成する。ここで、等間隔Tであるビート信号yen(t)は次式で表される。
【0068】
en(t)
=y(t)+(y(t)-yn-1(t))/(t-t’n-1
×(t’-t’n-1
【0069】
図2B(a)において、信号補間された等間隔のビート信号yen(t)に対してFFT(Fast Fourier Transformation)を実行することで、等間隔のビート信号ye(t)の距離スペクトラムR(ω)に変換する。ここで、等間隔のビート信号yen(t)の距離スペクトラムR(ω)は次式で表される。
【0070】
(ω)=10log10|Yen(ω)|
|Yen(ω)|exp(-jω+θ)=FFT[yen(t)]
【0071】
図2B(b)において、等間隔のビート信号yen(t)の距離スペクトラムR(ω)のピーク値Rnpを検出した後、図2B(c)において、その位相θを抽出する。
【0072】
生成した等間隔のビート信号yen(t)の距離スペクトラムR(ω)のピーク値Rnpの位相θを時間軸上で表すと、比較例1と同様に、図2B(c)のようになり、従来技術に比較して、高精度で物標との距離及び相対速度を推定することができる。このグラフに対してFFTを実行することで、図2B(d)の速度スペクトラムV(ω)に変換してそのピーク値に基づいて、物標の相対速度vを計算することができるが、物標の相対速度vにおいて誤差が発生しない。
【0073】
図3は、図1のレーダ装置100により実行される距離、速度及び到来角度推定処理を示すフローチャートである。
【0074】
図3のステップS1において、無線送信部1は、チャープ信号を所定の不等間隔で送信し、当該不等間隔を含む送信間隔信号Siを受信間隔補正部31に出力する。
【0075】
次いで、ステップS2において、無線受信部2は、チャープ信号を受信し、受信チャープ信号と送信チャープ信号とを混合して低域通過フィルタリングすることで複数のビート信号を検出し、検出した複数のビート信号をAD変換して信号処理部3に出力する。ステップS3において、信号処理部3の受信間隔補正部31は、送信間隔信号Siに基づいて、複数のビート信号に対して各受信間隔が同一になるように、信号補間処理を実行することで、等間隔のビート信号列を生成する。
【0076】
さらに、ステップS4において、信号処理部3の距離及び速度推定部32は、等間隔のビート信号列に対して距離及び速度推定処理を実行することで、各ビート信号に対応する距離及び速度を演算する。なお、ここで、各距離スペクトラム間の干渉の有無を判定してもよく、干渉があるときは、干渉有りの距離スペクトラムを除去するなどにして干渉の影響を除去した所定の距離スペクトラムに変換して距離及び相対速度の推定、及び到来角度の推定を行うことで、より高精度な推定を行うことができる。
【0077】
次いで、ステップS5において、信号処理部3の到来角度推定部33は、各受信アンテナ21により受信された受信チャープ信号の位相差に基づいて到来角度推定処理を実行して、各ビート信号に対応する到来角度を演算する。さらに、ステップS6において、推定された距離、速度及び到来角度を含む推定結果信号を他制御装置200に出力して当該推定処理を終了する。
【0078】
(実施形態の効果)
以上説明したように、本実施形態に係るレーダ装置100によれば、各受信アンテナ21に対応して各受信間隔補正部31を設けることで、無線受信部2において等間隔のビート信号yen(t)を生成することができ、これに基づいて、物標との距離、相対速度及び到来角度を推定することで、従来技術と比較して高精度な推定を行うことができる。
【0079】
また、各距離及び速度推定部32において、ビート信号yen(t)の干渉状態を検出することで、干渉の有無を判定し、干渉有りのビート信号yen(t)を除去して、物標との距離、相対速度及び到来角度を推定することで、従来技術に比較して高精度な推定を行うことができる。すなわち、距離及び相対速度の推定を行う前に、送信間隔とビート信号の関係性を用いて、等間隔な受信間隔で得られたビート信号に補正することにより、干渉回避と速度推定を両立できるようになった。言い換えれば、干渉が発生した場合に、干渉の影響を除去し、正確に距離、相対速度及び到来角度の推定を行うことができる。
【0080】
すなわち、本実施形態によれば、干渉判定の有無に関係なく適用可能である。
【0081】
(変形例)
以上の実施形態では、送信チャープ信号Stは、周波数が連続的に増加する(すなわち、アップチャープ)場合を示したが、周波数が連続的に減少する(すなわち、ダウンチャープ)チャープ信号であってもよい。また、それらの組み合わせであってもよい。
【0082】
以上の実施形態では、FCM方式を用いたレーダ装置について説明したが、本発明はこれに限らず、FMCW変調方式又はパルス圧縮変調方式を用いたレーダ装置に適用可能である。
【0083】
以上の実施形態では、物標の位置及び相対速度を推定しているが、本発明はこれに限らず、物標の相対速度のみを推定するように構成してもよい。
【0084】
以上の実施形態に対してさらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細及び代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲及びその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上詳述したように、本発明に係るレーダ装置とその制御方法によれば、従来技術に比較して、干渉判定の有無に関係無く、物標の位置及び相対速度の推定精度を高くする。例えば、道路監視向けミリ波レーダにおいて、干渉回避と速度推定精度を達成するための技術手段として用いることができる。具体的なアプリケーションとしては、信号機や交通標識などに当該レーダ装置を取り付け、車両の位置と速度を検知し、渋滞緩和のためのトラフィックカウンを行うことができる。
【0086】
すなわち、レーダ間の干渉を回避しつつ、速度推定をより正確に行うことができる。これにより、ユーザは、反射物体である物標の正確な位置情報(距離及び相対速度、到来角度である方位)を得ることができ、自動運転の補助や交通事故の発生低減に繋がる。
【符号の説明】
【0087】
1 無線送信部
2 無線受信部
10 送信制御部
11 変調信号生成部
12 発振器
13 電力増幅器
14 送信アンテナ
21,21-1~21-N 受信アンテナ
22,22-1~22-N 低雑音増幅器
23,23-1~23-N 混合器
24,24-1~24-N ローパスフィルタ(LPF)
25,25-1~25-N AD変換器(ADC)
31,31-1~31-N 受信間隔補正部
32,32-1~32-N 距離及び速度推定部
33 到来角度推定部
100 レーダ装置
200 他制御装置
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B