IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ トーヨーカラー株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】導電材分散体およびその利用
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240611BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20240611BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20240611BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240611BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240611BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01G11/36
C09D5/24
C09D7/61
C09D7/65
C09D201/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020095281
(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2021190331
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青谷 優
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】森田 雄
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】名畑 信之
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-216129(JP,A)
【文献】特開2015-115109(JP,A)
【文献】特開2015-128069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01G 11/36
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材、分散剤、および水を含有し、
前記導電材が、酸性基量が0.1~1.0μmol/mかつ60~300μmol/gのカーボンナノチューブであり、
前記分散剤が、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位、およびカルボキシル基含有モノマー単位を含む共重合体であり、前記共重合体を構成する全モノマー単位中、前記(メタ)アクリロニトリルに由来する単位を40~99質量%含み、酸価が30~400mgKOH/gである、導電材分散体。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの平均外径が7nm以下である、請求項1記載の導電材分散体。
【請求項3】
前記共重合体を構成する全モノマー単位中、カルボキシル基含有モノマー単位が、3~40質量%である、請求項1または2記載の導電材分散体。
【請求項4】
前記分散剤が、さらに、活性水素基含有モノマー(カルボキシル基含有モノマーを除く)、塩基性モノマー、および(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1種以上のモノマー単位を含む共重合体である、請求項1~3いずれか記載の導電材分散体。
【請求項5】
さらに、消泡剤を含んでなる請求項1~4いずれか記載の導電材分散体。
【請求項6】
請求項1~5いずれか記載の導電材分散体を含んでなる、二次電池電極用組成物。
【請求項7】
請求項6記載の二次電池電極用組成物の塗工膜である電極膜。
【請求項8】
請求項7記載の電極膜を含む、二次電池。
【請求項9】
請求項1~5いずれか記載の導電材分散体を含んでなる、導電性塗料。
【請求項10】
請求項9記載の導電性塗料の塗工膜である導電性塗膜。
【請求項11】
導電材組成物にせん断応力をかけて、分散粒度が250μm以下となるまで分散する工程1と、工程1に続いて、高圧ホモジナイザーを用いて60~150MPaの圧力で、メジアン径が100μm以下となるまで分散する工程2を含む、請求項1~5いずれか記載の導電材分散体の製造方法。
【請求項12】
さらに、導電材分散体に含まれる鉄、ニッケル、クロムからなる金属含有量を100ppm以下にする工程3を含む、請求項11記載の導電材分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電材分散体、およびそれを用いてなる二次電池電極用組成物、電極膜、二次電池、導電性塗料および導電性塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電材によって各種材料へ帯電防止性、導電性、熱伝導性および電磁波シールド性等の機能を付与し、応用する開発が盛んに行われている。導電材としては、耐熱、対光、対腐食性が高い、軽量、比較的安価または導電性が高いといった理由から、炭素系の導電材が広く利用されている。こうした機能を付与するためには、プラスチックやガラス等の基材への練り込みといった方法もあるが、加工性の高さから、導電材分散体、あるいは導電材分散体と各種材料との湿式混合物を塗加工する方法が主流になりつつある。また、光学特性や意匠性、電気的特性といった他の用途特性を低下させないために、少ない導電材量で性能を発揮することが求められることから、比表面積が大きいナノカーボン、特にカーボンブラック(以下CB)やカーボンナノチューブ(以下CNT)を使用することが有効である。しかし、比表面積が大きいナノカーボンは凝集力が強いため、良好に分散させることが難しいという問題があった。
【0003】
こうした背景から、導電材向けに各種分散剤が検討されている。例えば、CBやCNTの分散においては特許文献1および2にポリビニルアルコール(以下PVA)やポリビニルピロリドン(以下PVP)といった重合体を分散剤として用いて分散体を作製する方法が、また、特許文献3には、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位および活性水素基含有モノマー等を含有する単位を含む共重合体を分散剤として用いた導電材分散体が提案されている。
【0004】
導電材分散体を用いた用途として、例えば透明帯電防止塗料が挙げられる。炭素系を初めとする導電材は有色であることが多く、導電材添加量を増やすほど導電性が向上する反面、透明性は損なわれることから、透明性と導電性をいずれも高いレベルで達成することは非常に難しい。そこで、導電材の中でも特にCNTに期待が寄せられている。CNTには、1つのグラフェン層からなる単層ナノチューブや複数のグラフェン層から構成される多層ナノチューブなどがあるが、アスペクト比が大きく、直径が小さいという構造上の特性から、極めて高いレベルで分散(理想的には単分散)させた場合に、少ない量で効率的にネットワーク状の導電パスを形成することができる。例えば、特許文献4には、特定の平均外径と比表面積を有するCNTを用い、水溶性分散樹脂と水とを分散混合して得た、特定の粒度分布を有するCNT分散液を用いることで、透明性と導電性を両立した例が報告されている。
【0005】
また、導電材分散体を二次電池に用いる例も多数報告されている。リチウムイオン二次電池の容量は、主材料である正極活物質および負極活物質に大きく依存することから、各種材料が盛んに研究されているが、実用化されている活物質の充電容量はいずれも理論値に近いところまで到達しており、改良は限界に近い。そこで、電池内の活物質充填量が増加すれば、単純に容量を増加させることができるため、容量には直接寄与しない導電材やバインダーの添加量を削減する試みが行われている。このうち導電材は、電池内部で導電パスを形成したり、活物質粒子間を繋ぐことで活物質の膨張収縮による導電パスの切断を防ぐ等の役割を担っており、少ない添加量で性能を維持するためには、導電材分散体を用いて効率的な導電ネットワークを形成させることが有効である。例えば、特許文献1、特許文献5、および特許文献6には、PVPやPVAといった重合体を分散剤として用い、導電材を予め分散することで電池の初期特性やサイクル寿命を向上させることが提案されている。
【0006】
一方、特許文献7には、ニトリル基を含有する単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含有し、重量平均分子量が1千~5万である水溶性の重合体を含む電極用バインダー組成物が開示されている。特許文献7によれば、重量平均分子量が小さく、水溶性のバインダー組成物を配合することで、活物質を主成分とする固形分の分散能を向上させつつ、電極の柔軟性および耐電圧特性を高めうるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-193986号公報
【文献】特開2003-157846号公報
【文献】特許第6638846号公報
【文献】特開2020-019924号公報
【文献】特開2005-162877号公報
【文献】特開2011-70908号公報
【文献】WO2018-235722号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、特許文献1および特許文献2では、PVPまたはPVAといった重合体を分散剤として用い、導電材を分散媒に分散させている。しかし、PVPまたはPVAは、一般的に親水性が高く、水に溶ける性質があるため、導電材分散体を塗膜にした際、塗膜の耐水性が低下するなどの不具合が生じる。例えば透明帯電防止塗料として用いた場合、屋外での使用では風雨等の影響で、また、屋内での使用では吸湿等によって劣化が促進されやすい。二次電池用の導電材分散体として用いた場合には、吸湿による電池性能の低下などの不具体が発生する。
【0009】
透明帯電防止塗料用途において、高い意匠性や厳しい光学特性が求められる場合には、一定の帯電防止性を保ったまま極めて高い透明性(例えば全光線透過率80%以上)を達成することが求められ、特許文献1~4の発明を以てしても達成は難しかった。
【0010】
さらに、特許文献1、2および6の導電材分散体では、特に比表面積の大きいCNTを分散させるには分散性が不十分であり、また、特許文献1~6に記載の発明は、良好な分散状態の導電材分散体を製造することができるものの、帯電防止膜や電極膜を形成させた状態では、導電性が悪化することが課題であった。また、特許文献7のバインダー組成物は、比表面積が小さく、ナノカーボンよりも分散が容易な活物質を主成分とする固形分の分散能を向上させるものであるが、比表面積の大きいナノカーボンを分散させるには、やはり分散性が不十分であった。
【0011】
本発明者らは、特に比表面積の大きいナノカーボンを良好に分散させ、塗料用組成に配合、または塗膜を形成し、あるいは電極膜を形成した状態でも、少ない添加量で良好な導電ネットワークを維持させる方法を鋭意検討した。その結果、前述の特許文献1~7において提案された方法では、確かに良好な分散状態の導電材分散体を製造することができるものの、塗膜形成用のバインダーや硬化剤等と混合する段階で、または塗膜を乾燥する工程で、あるいは電極膜用スラリーを形成する段階で分散不良が起きていることが判明した。これによって良好な導電ネットワークを形成できなくなり、特性が不良となるものと思われる。透明帯電防止膜や二次電池において良好な導電ネットワークを形成させ、導電材の添加量が少なくても用途特性を向上させるためには、導電材を導電材分散体中に分散させる段階での良好な「分散性」と、用途向けに加工した状態でも分散状態を維持できる「安定性」とを両立させることが求められる。なお、ここでいう「安定性」とは、導電材分散体を長期間保存した場合の貯蔵安定性とは異なる。
【0012】
そこで、本発明の実施形態は、良好な分散性と加工時の安定性とを両立できる導電材分散体を提供することを課題とする。また、本発明の実施形態は、良好な分散性と加工時の安定性とを両立できる導電性塗料および二次電池電極用組成物を提供することを課題とする。また、本発明の実施形態は、良好な分散性を有する導電性塗膜および電極膜を提供することを課題とする。さらに、本発明の実施形態は、高い透明性と帯電防止性を有する透明帯電防止膜を提供することを課題とする。また、本発明の実施形態は、二次電池の出力およびサイクル寿命を向上できる電極膜、および高い出力かつ良好なサイクル寿命を有する二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討したところ、特定の酸性基量を有する導電材と、特定の構造単位および特定の酸性基量を有する共重合体である分散剤と、水とを組み合わせることによって、導電材を水に良好に分散させ、かつ、塗料用組成に配合、または塗膜を形成し、あるいは電極膜を形成した状態でも、少ない添加量で良好な導電ネットワークを維持させることが可能になった。これにより、少ない導電材添加量でも帯電防止膜の透明性を向上させ、または二次電池のレート特性およびサイクル寿命を向上させることが可能となった。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の実施形態を含む。本発明の実施形態は以下に限定されない。
【0015】
本発明は、導電材、分散剤、および水を含有し、
前記導電材が、酸性基量が0.1~1.0μmol/mかつ60~300μmol/gのカーボンナノチューブであり、
前記分散剤が、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位、およびカルボキシル基含有モノマー単位を含む共重合体であり、前記共重合体を構成する全モノマー単位中、前記(メタ)アクリロニトリルに由来する単位を40~99質量%含み、酸価が30~400mgKOH/gである、導電材分散体に関する。
【0016】
また、本発明は、前記カーボンナノチューブの平均外径が7nm以下である前記導電材分散体に関する。
【0017】
また、本発明は、前記共重合体を構成する全モノマー単位中、カルボキシル基含有モノマー単位が、3~40質量%である前記導電材分散体に関する。
【0018】
また、本発明は、前記分散剤が、さらに、活性水素基含有モノマー(カルボキシル基含有モノマーを除く)、塩基性モノマー、および(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1種以上のモノマー単位を含む共重合体である前記導電材分散体に関する。
【0019】
また、本発明は、さらに、消泡剤を含んでなる前記記載の導電材分散体に関する。
【0020】
また、本発明は、前記導電材分散体を含んでなる、二次電池電極用組成物に関する。
【0021】
また、本発明は、前記二次電池電極用組成物の塗工膜である電極膜に関する。
【0022】
また、本発明は、前記電極膜を含む、二次電池に関する。
【0023】
また、本発明は、前記導電材分散体を含んでなる、導電性塗料に関する。
【0024】
また、本発明は、前記導電性塗料の塗工膜である導電性塗膜に関する。
【0025】
また、本発明は、導電材組成物にせん断応力をかけて、分散粒度が250μm以下となるまで分散する工程1と、工程1に続いて、高圧ホモジナイザーを用いて60~150MPaの圧力で、メジアン径が100μm以下となるまで分散する工程2を含む、請求項1~4いずれか記載の導電材分散体の製造方法に関する。
【0026】
また、本発明は、さらに、導電材分散体に含まれる鉄、ニッケル、クロムからなる金属含有量を100ppm以下にする工程3を含む、前記導電材分散体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の実施形態によれば、良好な分散性と加工時の安定性とを両立できる導電材分散体を提供することが可能である。また、本発明の実施形態によれば、良好な分散性と加工時の安定性とを両立できる導電性塗料および二次電池電極用組成物を提供することが可能である。また、本発明の実施形態によれば、良好な分散性を有する導電性塗膜および電極膜を提供することが可能である。さらに、本発明の実施形態によれば、高い透明性と帯電防止性を有する透明帯電防止膜を提供することが可能である。また、本発明の実施形態によれば、二次電池の出力およびサイクル寿命を向上できる電極膜、および高い出力かつ良好なサイクル寿命を有する二次電池を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態である導電材、分散剤、導電材分散体、導電性塗膜、二次電池電極用組成物、電極膜、および二次電池等について詳しく説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明には要旨を変更しない範囲において実施される実施形態も含まれる。
【0029】
本明細書において、本発明の分散剤を、「共重合体」という場合がある。モノマー単位とは、モノマーを重合した結果、重合体に含まれた状態のモノマーを意味する。「帯電防止性」を「導電性」という場合がある。
【0030】
<導電材>
本発明の導電材は、少なくともカーボンナノチューブを含み、任意でその他の導電材を含んでもよい。その他の導電材としては、例えば金、銀、銅、銀メッキ銅粉、銀-銅複合粉、銀-銅合金、アモルファス銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モルブテン、白金等の金属粉、これらの金属で被覆した無機物粉体、酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウム等の金属酸化物の粉末、これらの金属酸化物で被覆した無機物粉末、およびカーボンブラック、グラファイト等の炭素材料が挙げられる。その他の導電材は、1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。その他の導電材を用いる場合、分散剤の吸着性能の観点から、カーボンブラックが好ましい。
【0031】
カーボンブラックは、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。また、カーボンブラックは、中性、酸性、塩基性のいずれでもよく、酸化処理されたカーボンブラックや、黒鉛化処理されたカーボンブラックを使用してもよい。
【0032】
カーボンナノチューブ(CNT)は、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブを含み、これらが混在してもよい。単層カーボンナノチューブは一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。多層カーボンナノチューブは、二又は三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。また、カーボンナノチューブの側壁はグラファイト構造でなくともよい。また、例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるカーボンナノチューブも本明細書ではカーボンナノチューブである。
【0033】
カーボンナノチューブの形状は限定されない。かかる形状としては、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、トランプ状(プレートレット)及びコイル状を含む様々な形状が挙げられる。本実施形態においてカーボンナノチューブの形状は、中でも、針状、又は、円筒チューブ状であることが好ましい。カーボンナノチューブは、単独の形状、または2種以上の形状の組合せであってもよい。
【0034】
カーボンナノチューブの形態は、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバー等が挙げられる。カーボンナノチューブは、これらの単独の形態又は二種以上を組み合わせられた形態を有していてもよい。
【0035】
カーボンナノチューブの酸性基量は、へキシルアミンの吸着量から逆滴定にて求めることができる。カーボンナノチューブは、へキシルアミンの吸着量より求めた酸性基量が、カーボンナノチューブのBET法で算出した表面積を基準として0.1μmol/m以上が好ましく、0.2μmol/m以上がより好ましい。また、1μmol/m以下が好ましく、0.7μmol/m以下がより好ましい。カーボンナノチューブの質量を基準として、60μmol/g以上が好ましく、100μmol/g以上がより好ましく、120μmol/gがさらに好ましい。また、300μmol/g以下が好ましく、250μmol/g以下がさらに好ましく、220μmol/g以下がより好ましい。カーボンナノチューブの酸性基量を上記範囲とすることで、分散媒および分散剤との親和性を高めて効率的に良好な導電材分散体を得ることができる。上記範囲を上回ると、塗膜の耐光性や耐酸化性が低下する懸念がある。
【0036】
カーボンナノチューブのBET法で算出した比表面積は100m/g以上が好ましく、150m/g以上がより好ましい。また、1200m/g以下が好ましく、800m/g以下がより好ましい。本発明の導電材分散体を透明帯電防止塗料に用いる場合には、より少ない導電材の添加量で高い透明性を実現するために、比表面積200m/g以上が好ましく、350m/g以上がより好ましく、450m/g以上がさらに好ましい。また、本発明の導電材分散体を透明帯電防止塗料に用いる場合には、単層カーボンナノチューブが特に好ましい。カーボンナノチューブの平均外径は、1nm以上が好ましい。また、30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましく、7nm以下が特に好ましい。平均外径を上記範囲とすることで、効率的な導電ネットワークを形成できる。なお、平均外径は、まず透過型電子顕微鏡によって、カーボンナノチューブを観測するとともに撮像する。次に観測写真において、任意の300個のカーボンナノチューブを選び、それぞれの外径を計測する。次に外径の数平均としてカーボンナノチューブの平均外径(nm)を算出する。
【0037】
カーボンナノチューブの炭素純度は一般的なCHN元素分析により求めることができ、導電材中の炭素原子の含有率(質量%)で表される。炭素純度は導電材100質量%に対して、80質量%が好ましく、90質量%以上がより好ましい。特に、本発明の導電材分散体を二次電池に用いる場合には、炭素純度は導電材100質量%に対して、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。炭素純度を上記範囲にすることにより、例えば透明帯電防止塗料に用いた場合には、不純物によって耐光性が低下する等の不具合を防ぐことができる。また、二次電池に用いた場合には、不純物によってデンドライトが形成されショートが起こる等の不具合を防ぐことができる。
【0038】
導電材の含有量は、分散体の不揮発分中、0.1~15質量%が好ましく、0.3~10質量%がより好ましい。上記範囲にすることで、沈降やゲル化を起こすことなく、導電材を良好に、かつ安定に存在させることができる。また、導電材の含有量は、導電材の比表面積、分散媒への親和性等によって、適当な流動性または粘度の導電材分散体が得られるように、適宜調整することが好ましい。
【0039】
<分散剤>
本発明の分散剤は、(メタ)アクリロニトリルに由来するモノマー単位と、カルボキシル基含有モノマー単位を含む共重合体を含有する。(メタ)アクリロニトリルに由来するモノマー単位の含有量は、共重合体を構成する全モノマー単位の質量を基準として、40質量%以上99質量%以下である。本発明の分散剤は、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位を高濃度に含有する。非水素結合性のシアノ基の強い分極と分散樹脂主鎖の炭素鎖が導電材への吸着性と分散媒への親和性を高め、導電材を分散媒中に安定に存在させることができる。
【0040】
(メタ)アクリロニトリルに由来するモノマー単位は、アクリロニトリルおよびメタアクリロニトリルがあげられる。1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができ、アクリロニトリルであることが好ましい。(メタ)アクリロニトリルに由来するモノマー単位がアクリロニトリルだと、共重合体の屈曲が少なくなり、隣接するシアノ基が配向して分極の強い部分構造を形成することから、分散剤と被分散物および/または分散剤と水との分子間力が高くなる。(メタ)アクリロニトリルに由来するモノマー単位の含有量は、前記分子間力を高める観点から、共重合体を構成する全モノマー単位の質量を基準として、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。共重合体を構成する全モノマー単位の質量を基準として、99質量%以下であることが好ましく、92質量%以下であることがより好ましく、87質量%以下であることがさらに好ましい。(メタ)アクリロニトリルに由来するモノマー単位の含有量を上記範囲にすることで、被分散物を分散媒中に安定に存在させることができる。また、二次電池に用いた場合には、電池内で分散剤が電解液に溶解して電解液の抵抗を増大させるなどの不具合を防ぐことができる。
【0041】
カルボキシル基含有モノマー単位は、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和脂肪酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタレート、エチレンオキサイド変性コハク酸(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記カルボキシル基含有モノマーの多量体である無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の酸無水物基含有単量体およびその単官能アルコール付加体等が挙げられる。カルボキシル基二つが脱水縮合した構造を有する基である「-C(=O)-O-C(=O)-」(本明細書では「酸無水物基」という)も、加水分解によりカルボキシル基を形成するため、本明細書では、カルボキシル基に含める。カルボキシル基含有モノマーは、不飽和脂肪酸が好ましく、(メタ)アクリル酸がより好ましく、アクリル酸がさらに好ましい。カルボキシル基含有モノマー単位の含有量は、分散媒である水と適度な親和性を持たせる観点から、共重合体を構成する全モノマー単位の質量を基準として、3質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。共重合体を構成する全モノマー単位の質量を基準として、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。
【0042】
分散剤は、活性水素基含有モノマー(カルボキシル基を除く)、塩基性モノマー、および(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1種以上のモノマー単位を含んでもよい。本発明の導電材分散体を適用する基材や混合する材料の親水性、疎水性、酸性、塩基性等の特性に合わせて上記モノマーを選択し、含有させることで、種々の用途に適用することができる。活性水素基含有モノマー(カルボキシル基を除く)、塩基性モノマー、および(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1種以上のモノマー単位の含有量は、共重合体の構成する全モノマー単位の質量を基準として、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲で含まれると、高い分子間力を保ったまま種々の用途への適正を付与することができる。
分散剤の合成に使用する活性水素基含有モノマー(カルボキシル基を除く)、塩基性モノマー、および(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1種以上のモノマー単位のうち、活性水素基含有モノマーは、活性水素基として、例えば、水酸基、一級アミノ基、二級アミノ基、メルカプト基等を有するモノマーである。ここで、「一級アミノ基」とは、-NH(アミノ基)を意味し、「二級アミノ基」とは、一級アミノ基上の一つの水素原子がアルキル基等の有機残基で置換された基を意味する。ただし、酸アミド中の一級アミノ基および二級アミノ基は、本明細書では、活性水素基には含めない。
【0043】
水酸基含有モノマーは、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートまたはこれらモノマーのカプロラクトン付加物(付加モル数は1~5)等が挙げられる。活性水素基含有モノマーの内、原料の入手しやすさ、取り扱いやすさ、後述する分散媒との親和性等の観点から、水酸基含有モノマーが好ましい。水酸基含有モノマーは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、ヒドロキシエチルアクリレートがさらに好ましい。
【0044】
1級アミノ基含有モノマーは、例えば、アミノメチル(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、アリルアミン塩酸塩、二水素アリルアミンリン酸塩、2-イソプロペニルアニリン、3-ビニルアニリン、4-ビニルアニリン等が挙げられる。
【0045】
2級アミノ基含有モノマーは、例えば、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0046】
メルカプト基含有モノマーは、例えば、アクリル酸2-(メルカプトアセトキシ)エチル、アリルメルカプタン等が挙げられる。
【0047】
活性水素基含有モノマーは、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0048】
塩基性モノマーは、塩基性基を有するモノマーである。塩基性基としては、例えば、3級アミノ基、アミド基、ピリジン環、マレイミド基などが挙げられる。なお、1級アミノ基を有するモノマー、および2級アミノ基を有するモノマーは、塩基性モノマーにも含まれうるが、本発明においては前記活性水素基含有モノマーとして扱い、塩基性モノマーには含めない。
【0049】
塩基性モノマーは、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、及びアクリロイルモルホリン等のN置換型(メタ)アクリルアミド類;
1-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール等の複素環式芳香族アミン含有ビニルモノマー類;
N-(ジメチルアミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド等のN-(アルキルアミノアルキル)(メタ)アクリルアミド類;
N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等のN,N-アルキル(メタ)アクリルアミド類等が挙げられる。
【0050】
塩基性モノマーは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。塩基性モノマーの中でも、原料の入手しやすさ、取り扱いやすさ、後述する分散媒との親和性の観点からジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、またはジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートが好ましく、ジメチルアミノエチルアクリレートがより好ましい。
【0051】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(RC=C-CO-O-Rで表される構造(ただし、Rは水素原子またはメチル基であって少なくとも一方が水素原子であり、Rは置換基を有していてもよいアルキル基である)を有するモノマーである。
なお、アルキル基の置換基として前記活性水素基または前記塩基性基を含むものは、前記活性水素基含有モノマーまたは前記塩基性モノマーとして扱い、(メタ)アクリル酸アルキルエステルには含めない。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の鎖状アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル;
(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソステアリル等の分岐状アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル;
(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の環状アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル;
(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の芳香環置換アルキル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;
(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル等のフルオロ基が置換された(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;
(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;
3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシリルエーテル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;
(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルキルオキシ基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;
2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル等の環化重合性モノマー類
等が挙げられる。
【0052】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの中でも、原料の入手しやすさ、取り扱いやすさ、後述する分散媒との親和性の観点から(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリルが好ましく、より好ましくはアクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリルである。
【0053】
本発明の分散剤は、さらに他モノマー単位を有してもよい。他モノマー単位を構成するモノマーは、例えばスチレン、及びα-メチルスチレン等のスチレン類;
エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、及びイソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;
酢酸ビニル、及びプロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニル類;
N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、等のN-置換マレイミド類;
テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート、又は3-メチルオキセタニル(メタ)アクリレート等の複素環式(メタ)アクリレート類;等が挙げられる。
【0054】
分散剤の製造方法は、特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法、沈殿重合等が挙げられるところ、溶液重合または沈殿重合法が好ましい。重合反応系は、例えば、イオン重合、フリーラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合等が挙げられるところ、フリーラジカル重合またはリビングラジカル重合が好ましい。また、ラジカル重合開始剤は、例えば、過酸化物、アゾ系開始剤等が挙げられる。分散剤の重合に際して、連鎖移動剤等の分子量調整剤が使用できる。
【0055】
連鎖移動剤は、例えば、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール等のアルキルメルカプタン類、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸ノニル、チオグリコール酸-2-エチルヘキシル等のチオグリコール酸エステル類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン、α-ピネン、β-ピネン等が挙げられる。特に、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール、チオグリコール酸エステル類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン、α-ピネン、β-ピネン等が、得られる重合体が低臭気となる点で好ましい。
【0056】
連鎖移動剤の使用量は、全モノマー単位100質量部に対して、0.01~4質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましい。連鎖移動剤を上記範囲とすることで本発明の分散剤の分子量を好適な分子量範囲に調整することが出来る。
【0057】
分散剤の重量平均分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量で、5,000以上が好ましく、6,000以上がより好ましく、7,000以上がさらに好ましい。また、400,000以下が好ましく、200,000以下がより好ましく、100,000以下がさらに好ましく、60,000以下が特に好ましい。適度な重量平均分子量を有すると被分散物への吸着性が向上し、分散体の安定性がより向上する。
【0058】
本発明の分散剤は、既に説明した共重合体そのままでも分散性や保存安定性に優れるが、前記アクリロニトリルに由来する単位が、環状構造を有するとこれらの特性がより向上する。共重合体をアルカリで処理するとアクリロニトリルに由来する単位が水素化ナフチリジン環等の環状構造へ変化する。本明細書では、前記環状構造の存在により分散性がより向上する。なお、アルカリ処理は、共重合体の合成後、分散体の製造が完了するまでの任意のタイミングで行えばよい。また、加温すると変化しやすくなる。前記アクリロニトリルに由来する単位が環状構造を形成するには、アクリロニトリルに由来する単位が少なくとも2つ以上連続した部分構造を有する必要があり、3つ以上連続した部分構造を有することが好ましい。2つ以上連続した部分構造を有する重合体は、例えば、フリーラジカル重合などの付加重合によってランダム重合体を重合する場合には、アクリロニトリルに由来する単位を50質量%以上含有すると得られやすく、70質量%以上含有するとさらに得られやすい。また、イオン重合またはリビングラジカル重合などの付加重合によってブロック重合体を重合しても得ることができる。
【0059】
更に本発明の分散剤が、(メタ)アクリル酸に由来する単位を有する場合、当該(メタ)アクリル酸単位が環状構造を形成していてもよい。
(メタ)アクリル酸単位を有する場合、アルカリ処理によりアクリロニトリルに由来する単位とともに環状構造としてグルタルイミド環を形成することがあるため、水素化ナフチリジン環等の環構造と、グルタルイミド環が併存する。これにより分散安定性がより向上する。本分散剤が環状構造を形成する(メタ)アクリル酸単位を有する重合体である場合、(メタ)アクリル酸単位は、共重合体の全モノマー単位中、1~25質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。また、アクリロニトリルに由来する単位は、共重合体の全モノマー単位中、40~99質量%が好ましく、55~99質量%がより好ましく、75~99質量%がさらに好ましい。前記グルタルイミド環を形成するには、少なくともアクリロニトリルに由来する単位とアクリル酸単位とが、隣り合った部分構造を有する必要がある。
【0060】
分散剤の酸価は、KOHの中和滴定より求めることができる。分散剤の酸価は、30mgKOH/g以上が好ましく、55mgKOH/g以上がより好ましく、70mgKOH/g以上がさらに好ましい。また、400mgKOH/g以下が好ましく、300mgKOH/g以下がより好ましく、200mgKOH/g以下がさらに好ましい。分散剤の酸価を上記範囲にすることで、分散剤と分散媒との親和性を適度に制御し、被分散物に対して効果的に作用しつつ、良好な分散状態を維持できるようになる。分散剤の酸化が上記範囲を上回ると、分散媒に対する親和性が高くなりすぎ(すなわち水への溶解性が高くなりすぎ)、上記範囲を下回ると、分散媒に対する親和性が低くなりすぎ(すなわち水への溶解性が低くなりすぎ)、いずれの場合も分散剤としての作用が低くなる場合がある。また、前記導電材の酸性基量と、分散剤の酸価とをいずれも上記範囲とすることで、分散剤、分散媒、被分散物の間の親和性バランスがさらに良好となり、分散性が向上する。
【0061】
分散剤の添加量は、導電材分散体として求められる分散度、流動性および貯蔵安定性が達成されるために必要な量を実験的に決定するのが好ましい。必要量を超えて過剰に添加するとかえって貯蔵安定性が悪くなったり、二次電池に用いた場合に抵抗を悪化させるといった問題が起こり得る。分散剤の必要量は、導電材の比表面積、形状、結晶性、炭素純度、濡れ性、分散媒、その他添加剤等、様々な因子に影響されるため、導電材の種類によって適宜決定するのが好ましく、例えば比表面積が高く濡れ性が悪い導電材ほど分散剤を多く必要とする。
【0062】
分散剤の含有量は、導電材の質量を基準として10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、透明帯電防止塗料に用いる場合には、1000質量%以下が好ましく、500質量%以下がより好ましく、300質量%以下が特に好ましい。二次電池に用いる場合には、100質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。上記範囲にすることで、用途特性を害することなく導電材を良好に、かつ安定に存在させることができる。
【0063】
<消泡剤>
本発明の導電材分散体は消泡剤を含むことが好ましい。消泡剤は、市販の消泡剤、湿潤剤、水溶性有機溶剤等、消泡効果を有するものであれば任意に用いることができ、1種類でも、複数を組み合わせて用いてもよい。
例えば、アルコール系;エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、プロピレングリコール、その他グリコール類等、
脂肪酸エステル系;ジエチレングリコールラウレート、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレート、天然ワックス等、
アミド系;ポリオキシアルキレンアミド、アクリレートポリアミン等、
リン酸エステル系;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等、
金属セッケン系;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等、
油脂系;動植物油、胡麻油、ひまし油等、
鉱油系:灯油、パラフィン等、
シリコーン系;ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン、フルオロシリコーン油等、
または、アルコール系以外の水溶性有機溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
中でも、アセチレングリコール系が好ましい。上記のような消泡剤を用いると、導電材分散体の表面張力を下げることができる。導電材分散体の表面張力は、分散機のエネルギー効率および塗工性の観点から、73mN/m以下が好ましく、70mN/m以下がより好ましく、65mN/m以下がさらに好ましい。消泡剤は、仕込みを含む分散工程の開始から終了までの任意のタイミングで添加することができるが、仕込み性や分散効率の観点から、被分散物と分散媒を混合する前に添加するのが好ましい。また、一度に添加しても、複数回にわけて添加してもよい。
【0064】
<分散媒>
本発明の分散媒は水であるり、任意で、他の溶媒を含んでいてもよい。
【0065】
<導電材分散体>
本発明の導電材分散体は、導電材、分散剤、および水を含有することが好ましい。導電材分散体の用途は、例えば、蓄電デバイス、帯電防止材、電子部品、透明電極(ITO膜)代替、電磁波シールド等が挙げられる。蓄電デバイスは、例えば、二次電池用電極、電気二重層キャパシタ用電極、非水電解質キャパシタ用電極等が挙げられる。この場合、導電材は炭素材料が好ましい。帯電防止材は、プラスチックやゴム製品のICトレーや電子部品材料の成形体が挙げられる。
【0066】
本発明の導電材分散体は、無機塩基、無機金属塩、または有機塩基を含有できる。これにより被分散物の経時分散安定性がより向上する。無機塩基および無機金属塩としては、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を有する化合物が好ましい。無機塩基および無機金属塩としては、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、ならびにホウ酸塩等が挙げられる。これらの中でも容易にカチオンを供給できる面でアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物、水酸化物、炭酸塩が好ましい。アルカリ金属の水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物は、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
アルカリ金属の炭酸塩は、例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属の炭酸塩は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが挙げられる。これらの中でも水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムがより好ましい。なお、本発明の無機塩基および無機金属塩が有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0067】
有機塩基は、例えば、炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級、3級アルキルアミン、またはその塩基性窒素原子を含有する化合物が挙げられる。
【0068】
炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する1級アルキルアミンは、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、オクチルアミン、2ーエチルヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、2-アミノエタノール、3-アミノプロパノール、3-エトキシプロピルアミン、3-ラウリルオキシプロピルアミン等が挙げられる。
【0069】
炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する2級アルキルアミンは、例えば、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、N-メチルヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジステアリルアミン、2-メチルアミノエタノール等が挙げられる。
【0070】
炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する3級アルキルアミンは、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エタノール等が挙げられる。
【0071】
これらの中でも炭素数1~30の置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級または3級アルキルアミンが好ましく、炭素数置換されていてもよいアルキル基を有する1~20の1級、2級または3級アルキルアミンがより好ましい。
置換されていてもよいアルキル基とは、水素原子が置換されていてもよいことを意味し、置換基としては、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0072】
その他の塩基性窒素原子を含有する化合物は、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、イミダゾール、1-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0073】
無機塩基、無機金属塩、および有機塩基の配合量の合計は、分散剤100質量部に対して、1~100質量部が好ましく、1~50質量部がより好ましい。適量配合すると分散性がより向上する。
【0074】
導電材分散体のpHは、7.0以上11.0以下が好ましく、9.0以上10.5以下が好ましい。pHが上記範囲を下回ると、導電材分散体がゲル化しやすくなる。pHが上記範囲を上回ると、電池内での各種原料および外装材等の腐食、またはバインダーのゲル化といった問題が生じやすくなる。pHは、一般的なpHメーターにより測定することができる。
【0075】
導電材分散体における導電材の分散性は、レーザー回折/散乱式の粒度分布計にて求めたメジアン径(μm)でも評価できる。レーザー回折/散乱式の粒度分布計にて求めたメジアン径(μm)では、粒子による散乱光強度分布により、CNT凝集粒子の粒子径を見積もることができる。メジアン径(μm)は0.5以上5.0以下が好ましく、0.5以上2.0以下がより好ましい。上記範囲とすることで適切な分散状態の導電材分散体を得ることができる。上記範囲を下回ると凝集した状態の導電材が存在し、また、上記範囲を上回ると微細に切断された導電材が多数生じることから、効率的な導電ネットワークの形成が難しくなる。メジアン径は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0076】
本発明の分散体は必要に応じて、例えば濡れ浸透剤、酸化防止剤、防腐剤、防カビ剤、レベリング剤などその他添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができ、分散体作製前、分散時、分散後等、任意のタイミングで添加することが出来る。なお、本明細書では、導電材分散体を単に「分散体」という場合がある。
【0077】
<分散方法>
本発明の導電材分散体は、例えば、導電材、分散剤、および水を含有する導電材組成物を、分散装置を使用して、分散処理を行い微細に分散して製造することが好ましい。なお、分散処理は、使用する材料の添加タイミングを任意に調整し、2回以上の多段階処理ができる。
【0078】
分散装置は、例えば、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、プラネタリーミキサー、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター、ハイシアミキサー、ディスパー、または高圧ホモジナイザー等が挙げられる。高圧ホモジナイザーを使用する際の圧力は60~150MPaが好ましく、60~120MPaであることがより好ましい。
【0079】
分散装置を用いた分散方式には、バッチ式分散、パス式分散、循環分散等があるが、いずれの方式でもよく、2つ以上の方式を組み合わせてもよい。バッチ式分散とは、配管などを用いずに、分散装置本体のみで分散を行う方法である。取扱いが簡易であるため、少量製造する場合に好ましい。パス式分散とは、分散装置本体に、配管を介して被分散液を供給するタンクと、被分散液を受けるタンクとを備え、分散装置本体を通過(パス)させる分散方式である。また、循環式分散とは、分散装置本体を通過した被分散液を、被分散液を供給するタンクに戻して、循環させながら分散を行う方式である。いずれも処理時間を長くするほど分散が進むため、目的の分散状態になるまでパス、あるいは循環を繰り返せばよく、タンクの大きさや処理時間を変更すれば処理量を増やすことができる。パス式分散は循環式分散と比較して分散状態を均一化させやすい点で好ましい。循環式分散はパス式分散と比較して作業や製造設備が簡易である点で好ましい。分散工程は、凝集粒子の解砕、導電材の解れ、濡れ、安定化等が順次、あるいは同時に進行し、進行の仕方によって仕上がりの分散状態が異なることから、各分散工程における分散状態を各種評価方法を用いることにより管理することが好ましい。例えば、実施例に記載の方法で管理することができる。
【0080】
また、導電材組成物にせん断応力をかけて、グラインドゲージによる判定(JIS K5600-2-5に準ず)で分散粒度が250μm以下となるまで予備分散を行ってから、引き続き高圧ホモジナイザー等を用いて60~150MPaの圧力で、メジアン径が100μm以下となるまで本分散を行うことにより導電材分散体を製造する方法が好ましい。この際、塩基を添加して分散媒のpHを7.0以上13.5以下に調整すると、導電材の濡れ性が向上し、また、分散剤の作用を高めることができる。
【0081】
せん断応力をかける分散方法としては、3本ロールミル、プラネタリーミキサー、ハイシアミキサー、ディスパー等の分散装置を用いる方法が挙げられる。中でも、高圧ホモジナイザーに適した粘度と同等の粘度で分散できるハイシアミキサーの使用が好ましい。
【0082】
また、さらに、導電材分散体に含有される金属異物を除去する工程を含むことが好ましい。金属異物とは、導電材分散体中に粒子状で存在している鉄、ニッケル、クロム等であり、溶解し金属イオン状態で存在しているものは含まない。金属異物除去工程における、導電材分散体から粒子状の金属異物を除去する方法は特に限定されず、例えば、フィルターを用いた濾過により除去する方法、振動ふるいによる除去する方法、遠心分離により除去する方法、磁力により除去する方法等が挙げられる。中でも、鉄、ニッケル、クロム等の金属異物は磁性を有するため、磁力により除去する方法が好ましく、磁力により除去する工程とフィルターを用いた濾過により除去する工程を組み合わせる方法がより好ましい。
【0083】
磁力により除去する方法としては、金属異物が除去できる方法であれば特に限定はされないが、生産性および除去効率を考慮すると、導電材分散体の製造ライン中に、磁気フィルターを配置して、導電材組成物を通過させることにより除去する方法が好ましい。
磁気フィルターによって導電材分散体中から金属異物を除去する工程は、1,000ガウス以上の磁束密度以上の磁場を形成する磁気フィルターを通過させることにより行われることが好ましい。磁束密度が低いと金属成分の除去効率が低下するため、好ましくは5,000ガウス以上、磁性の弱いステンレスを除去することを考慮するとさらに好ましくは10,000ガウス以上、最も好ましくは12,000ガウス以上である。
製造ライン中に磁気フィルターを配置する際には、磁気フィルターの上流側に、カートリッジフィルターなどのフィルターにより粗大な異物、あるいは金属粒子を除く工程を含ませることが好ましい。粗大な金属粒子は、濾過する流速によっては、磁気フィルターを通過してしまう恐れがあるためである。また、磁気フィルターは、一回ろ過するのみでも効果はあるが、循環式であることがより好ましい。循環式とすることで、金属粒子の除去効率が向上するためである。
導電材分散体の製造ライン中に、磁気フィルターを配置する場合は、磁気フィルターの配置場所は特に制限されないが、好ましくは導電材分散体を容器に充填する直前、容器への充填前に濾過フィルターによる濾過工程が存在する場合には、濾過フィルターの前に配置することが好ましい。これは、磁気フィルターから金属成分が脱離した場合に、製品への混入を防止するためである。
【0084】
金属含有量は、導電材分散体中の金属異物量は導電材分散体を乾燥した後、ICP分析することによって求めることができる。ICP分析によって検出される鉄、ニッケル、クロムからなる金属含有量は、粒子状で存在している金属異物、および、溶解し金属イオン状態で存在しているものを含む。すなわち、金属異物の除去工程を経た導電材分散体の金属異物量は、除去しきれなかった金属異物、および、溶解し金属イオン状態で存在しているものを含む。
【0085】
本発明の導電材分散体に含まれる金属含有量は、鉄、ニッケル、クロムの合計で100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましい。金属含有量を上記範囲にすることで、導電材分散体や塗料の貯蔵安定性を向上させ、塗膜や電池に用いた際の劣化を抑えることができる。金属量の測定は、実施例に記載の方法で行うことができる。
【0086】
<二次電池電極用組成物>
本発明の二次電池電極用組成物は、上記導電材分散体、およびバインダー樹脂を含むことが好ましい。二次電池電極用組成物は、導電材分散体と、バインダー樹脂とを混合することにより製造することができる。導電材分散体とバインダー樹脂と共に、任意の成分をさらに混合してもよい。二次電池電極用組成物は水を含み、導電材の分散媒として例示した水溶性溶媒を任意に含んでもよい。
【0087】
<二次電池電極用組成物に用いるバインダー樹脂>
二次電池電極用組成物に用いるバインダー樹脂は、通常、塗料のバインダー樹脂として用いられるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、二次電池電極用組成物に用いるバインダー樹脂は、活物質、導電材等の物質間を結合することができる樹脂であり、本明細書において、本発明の分散剤とは異なる。二次電池電極用組成物に用いるバインダー樹脂は、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;セルロース樹脂(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC));スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなエラストマー;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でも良い。これらの中でも、正極のバインダー樹脂として使用する場合は、耐性面から分子内にフッ素原子を有する重合体または共重合体、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等が好ましい。また、負極のバインダー樹脂として使用する場合は、密着性が良好なカルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸等が好ましい。
【0088】
二次電池電極用組成物に用いるバインダー樹脂の含有量は、樹脂組成物の不揮発分中、0.5~30質量%が好ましく、0.5~25質量%がより好ましい。
【0089】
二次電池電極用組成物は、正極活物質または負極活物質を含んでもよい。本明細書では、正極活物質および負極活物質を、単に「活物質」という場合がある。活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。活物質は、起電力から、正極活物質と負極活物質に分けられる。本明細書では、正極活物質または負極活物質を含む二次電池電極用組成物を、それぞれ「正極合材組成物」、「負極合材組成物」、または単に「合材組成物」という場合がある。合材組成物は、均一性および加工性を向上させるためにスラリー状であることが好ましい。合材組成物は、前記導電材分散体と活物質を少なくとも含有するか、または前記導電材分散体とバインダー樹脂と活物質とを少なくとも含有する。本明細書において、合材組成物を「合材スラリー」という場合がある。
【0090】
<正極活物質>
正極活物質は、特に限定されないが、例えば、二次電池用途は、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物および金属硫化物等の金属化合物を使用することができる。例えば、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMnまたはLiMnO)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1-yCo)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLiMnCo1-y)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(例えばLiNiCoMn1-y-z)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLiMn2-yNi)等のリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物粉末(例えばLiFePO、LiFe1-yMnPO、LiCoPOなど)、酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、バナジウム酸化物(例えばV、V13)、酸化チタン等の遷移金属酸化物粉末、硫酸鉄(Fe(SO)、TiS、およびFeS等の遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。ただし、x、y、zは、数であり、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1である。これら正極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0091】
<負極活物質>
負極活物質は、特に限定されないが、例えば、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属Li、またはその合金、スズ合金、シリコン合金負極、LiTiO、LiFe、LiFe、LiWO等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料を用いることができる。ただし、xは数であり、0<x<1である。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0092】
合材組成物中の導電材の含有量は、導電材の含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましく、0.03%以上であることがさらに好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0093】
合材組成物中の分散剤の含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0094】
合材組成物がバインダー樹脂を含有する場合、合材組成物中のバインダー樹脂の含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.5質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0095】
合材組成物中の固形分量は、合材組成物の質量を基準として(合材組成物の質量を100質量%として)、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。また、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0096】
合材組成物は、従来公知の様々な方法で作製することができる。例えば、導電材分散体に活物質を添加して作製する方法;導電材分散体に活物質を添加した後、バインダー樹脂を添加して作製する方法;導電材分散体にバインダー樹脂を添加した後、活物質を添加して作製する方法等が挙げられる。合材組成物を作製する方法としては、導電材分散体にバインダー樹脂を添加した後、活物質をさらに加えて分散させる処理を行う方法が好ましい。分散に使用される分散装置は特に限定されない。導電材分散体の説明において挙げた分散手段を用いて、合材組成物を得ることができる。したがって、合材組成物を作製する方法としては、導電材分散体にバインダー樹脂を添加することなく、活物質を加えて分散させる処理を行ってもよい。
【0097】
<電極膜>
電極膜は、前記導電材分散体を用いて形成した膜、前記二次電池電極用組成物を用いて形成した膜からなる群から選択される少なくとも1種を含む。電極膜は、さらに集電体を含んでもよい。電極膜は、例えば、集電体上に二次電池電極用組成物を塗工し、乾燥させることで得ることができ、集電体と膜とを含む。正極合材組成物を用いて形成した電極膜を、正極として使用することができる。負極合材組成物を用いて形成した電極膜を、負極として使用することができる。本明細書において、活物質を含む二次電池電極用組成物を用いて形成した膜を「電極合材層」という場合がある。
【0098】
前記電極膜の形成に用いられる集電体の材質および形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、またはステンレス等の導電性金属または合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平面状の箔が用いられるが、表面を粗面化した集電体、穴あき箔状の集電体、メッシュ状の集電体も使用できる。集電体の厚みは、0.5~30μm程度が好ましい。
【0099】
集電体上に導電材分散体または二次電池電極用組成物を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げることができる。乾燥方法としては、放置乾燥、または、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等を用いる乾燥を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0100】
塗工後に、平版プレス、カレンダーロール等により圧延処理を行ってもよい。形成された膜の厚みは、例えば、1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0101】
導電材分散体または二次電池電極用組成物を用いて形成された膜は、電極合材層と集電体との密着性向上、または、電極膜の導電性を向上させるために、電極合材層の下地層として用いることも可能である。
【0102】
<二次電池>
二次電池は、正極と、負極と、電解質とを含み、正極及び負極からなる群から選択される少なくとも1つが、前記電極膜を含む。
【0103】
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、Li(CFSOC、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN、又はLiBPh(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0104】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、及び1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0105】
非水電解質二次電池は、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施した不織布が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0106】
本実施形態の非水電解質二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとを備え、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【0107】
<導電性塗料>
本発明の導電性塗料は、少なくとも上記導電材分散体、およびバインダー樹脂を含む。導電性塗料は、導電材分散体とバインダー樹脂とを混合することにより製造することができる。導電材分散体とバインダー樹脂と共に、任意の成分をさらに混合してもよい。
【0108】
<導電性塗料用バインダー樹脂>
導電性塗料用バインダー樹脂としては、通常、塗料のバインダー樹脂として用いられるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、導電性塗料用バインダー樹脂は、造膜する機能を有するものであり、本明細書において、本発明の分散剤とは異なる。導電性塗料用バインダー樹脂としては、例えば、縮合系合成樹脂、付加系合成樹脂、天然高分子化合物、などが挙げられる。前記縮合系合成樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、珪素樹脂などが挙げられる。前記付加系合成樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルエステル系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、不飽和カルボン酸系樹脂などが挙げられる。前記天然高分子化合物としては、例えば、セルロース類、ロジン類、天然ゴムなどが挙げられる。前記水分散性樹脂は、ホモポリマーとして使用されてもよく、また、コポリマーとして使用して複合系樹脂として用いてもよく、単相構造型、コアシェル型、及びパワーフィード型エマルジョンのいずれのものも使用できる。
【0109】
導電性塗料用バインダー樹脂としては、樹脂自身が親水基を持ち自己分散性を持つもの、樹脂自身は分散性を持たず界面活性剤や親水基を持つ樹脂にて分散性を付与したものが使用できる。これらの中でも、ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂のアイオノマーや不飽和単量体の乳化及び懸濁重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョンが好適である。不飽和単量体の乳化重合の場合には、不飽和単量体、重合開始剤、及び界面活性剤、連鎖移動剤、キレート剤、pH調整剤などを添加した水にて反応を行い樹脂エマルジョンを得るため、容易に水分散性樹脂を得ることができ、樹脂構成を容易に替えやすいため目的の性質を作りやすい。
【0110】
前記不飽和単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、(メタ)アクリル酸エステル単量体類、(メタ)アクリル酸アミド単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルシアノ化合物単量体類、ビニル単量体類、アリル化合物単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類、不飽和炭素を持つオリゴマー類などを単独及び複数組み合わせて用いることができる。これらの単量体を組み合わせることで柔軟に性質を改質することが可能であり、オリゴマー型重合開始剤を用いて重合反応、グラフト反応を行うことで樹脂の特性を改質することもできる。
【0111】
前記不飽和カルボン酸類としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられる。
前記単官能の(メタ)アクリル酸エステル類としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウム塩、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n-へキシルアクリレート、2-エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロキシエチルトリメチルアンモニウム塩、などが挙げられる。
【0112】
前記多官能の(メタ)アクリル酸エステル類としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2'-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)
プロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2'-ビス(4-アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2'-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパントリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、などが挙げられる。
【0113】
前記(メタ)アクリル酸アミド単量体類としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
前記芳香族ビニル単量体類としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、4-t-ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0114】
前記ビニルシアノ化合物単量体類としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
前記アリル化合物単量体類としては、例えば、アリルスルホン酸又はその塩、アリルアミン、アリルクロライド、ジアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
前記オレフィン単量体類としては、例えば、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
前記ジエン単量体類としては、例えば、ブタジエン、クロロプレン等が挙げられる。
前記ビニル単量体類としては、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、塩化ビニル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン、ビニルスルホン酸又はその塩、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0115】
前記不飽和炭素を持つオリゴマー類としては、例えば、メタクリロイル基を持つスチレンオリゴマー、メタクリロイル基を持つスチレン-アクリロニトリルオリゴマー、メタクリロイル基を持つメチルメタクリレートオリゴマー、メタクリロイル基を持つジメチルシロキサンオリゴマー、アクリロイル基を持つポリエステルオリゴマー等が挙げられる。
【0116】
前記基体樹脂の官能基と反応しうる架橋剤としての役割を持つメラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネ-ト化合物、エポキシ化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂等を用いることができる。架橋性官能基を含有する樹脂と架橋剤としての役割を持つ樹脂は併用することが望ましく、中でも、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂及び尿素樹脂から選ばれる1種を用いることが好ましく、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂及びメラミン樹脂から選ばれる1種を用いることがより好ましく、アクリル樹脂とメラミン樹脂とを併用することがより好ましい。
【0117】
メラミン樹脂は、熱硬化性を有し硬化剤として作用することから、特に好ましく用いられる。アクリル樹脂は、当業者によってよく知られた重合性不飽和二重結合を有するモノマーを常法によって重合することにより得られるものが好ましい。上記重合性不飽和二重結合を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等のカルボン酸基含有モノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性アクリルモノマー等の水酸基含有モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、スチレン、α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー等を挙げることができる。また、重合には、当業者によってよく知られたラジカル重合開始剤等を用いることが好ましい。
【0118】
メラミン樹脂の具体例としては、例えばサイメル300、303、325、327、350、370(三井サイテック製)、ニカラックMS15、MS17、MX430、MX650(三和ケミカル製)、スミマールM-55(住友化学製)、レジミン740、741(モンサント製)などのメチルエーテル化メラミン樹脂;サイメル202、235、同238、254、272、1130(三井サイテック製)、ニカラックMX485、MX487(三和ケミカル製)、レジミン755(モンサント製)などのメチルエーテル・ブチルエーテル混合エーテル化メラミン樹脂を挙げることができる。これらのメラミン樹脂は1種で又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0119】
<導電性塗膜>
本発明の導電性塗膜は、前記導電性塗料を基材に対して塗工、乾燥して得られる。基材は特に限定されず様々な種類を選択できる。例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅等及びその表面処理物等の金属基材;セメント類、石灰類、石膏類等のセメント系基材;ポリ塩化ビニル類、ポリエステル類、ポリカーボネート類、アクリル類等のプラスチック系基材等を挙げることができる。また、これらの各種基材からなる、建材、建築物、構造物等の建築・建材分野の各種被塗物等を挙げることができる。
【0120】
導電性塗料の塗布方法としては、特に限定されず、例えば、刷毛塗り、ローラー塗装、スプレー塗装等を挙げることができる。塗装後、通常、常温乾燥又は加熱乾燥させることにより塗膜を得ることができる。なお、塗布量;下塗り、中塗り、上塗り等の塗装順;塗装膜厚;乾燥時間等は、カーボンナノチューブ塗料の種類や適用する基材に応じて任意に設定することができる。
【0121】
導電性塗膜中の導電材の含有量は、塗料の全固形分中の質量を基準として、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。また、3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。
【実施例
【0122】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0123】
(分散剤の酸価の測定方法)
分散剤の酸価は、分散剤/NMP溶液の滴定から算出した。分散剤1gをビーカー(100ml)に採取し、NMPを30ml加えてスターラーで撹拌して溶解させた。さらにイオン交換水20mlで希釈して被滴定液とした。被滴定液を別途電位差自動滴定装置(AT-710S、京都電子工業製)を用いて0.1mol/lのKOH/エタノール溶液にて滴定し、等電点における滴定量から分散剤の酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0124】
(重量平均分子量(Mw)の測定方法)
合成した分散剤の重量平均分子量(Mw)は、RI検出器を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。
装置は、HLC-8320GPC(東ソー製)を用い、分離カラムを3本直列に繋ぎ、充填剤には順に東ソー製「TSK-GELSUPERAW-4000」、「AW-3000」、及び「AW-2500」を用い、オーブン温度40℃、溶離液として30mMトリエチルアミン及び10mMLiBrのN,N-ジメチルホルムアミド溶液を用い、流速0.6ml/minで測定した。サンプルは上記溶離液からなる溶剤に1wt%の濃度で調製し、20マイクロリットル注入した。分子量はポリスチレン換算値である。
【0125】
(導電材の酸性基量の測定方法)
導電材の酸性基量は、ヘキシルアミンの吸着量を逆滴定によって以下のように求め、算出した。導電材0.2gをガラス瓶(M-70、柏洋硝子製)に採取し、ヘキシルアミン/NMP溶液(0.02mol/l)を30ml加えた。ガラス瓶に超音波(周波数28Hz)を1時間照射し、目開き25μmのナイロンメッシュにて粗粒を除去した。さらに遠心分離機(ミニ遠心機MCF-1350(LMS製))にて10,000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを採取し、メンブレンフィルター(フィルター孔径0.22μm)にてろ過を行い、ろ液を回収した。得られたろ液を10ml採取し、イオン交換水40mlで希釈して被滴定液とした。また、導電材とともに超音波処理を行っていないヘキシルアミン/NMP溶液(0.02mol/l)10mlをイオン交換水40mlで希釈し、標準被滴定液とした。被滴定液および標準被滴定液を、それぞれ、別途電位差自動滴定装置(AT-710S、京都電子工業製)を用いて0.1mol/lのHCl/エタノール溶液にて滴定し、等電点における滴定量の差異から導電材に吸着したヘキシルアミンの量([ヘキシルアミン吸着量](μmol))を算出した。
被滴定液は、ヘキシルアミン/NMP溶液30mlの内、10mlを採取しており、導電材質量は0.2gなので、[へキシルアミン吸着量]に3を乗じて0.2で除した値が導電材単位重量あたりの[ヘキシルアミン吸着量](μmol/g)であり、さらに導電材の比表面積で除した値が導電材表面積あたりの[ヘキシルアミン吸着量](μmol/m)である。
【0126】
(導電材の比表面積測定方法)
導電材を電子天秤(sartorius社製、MSA225S100DI)を用いて、0.03g計量した後、110℃で15分間、脱気しながら乾燥させた。その後、全自動比表面積測定装置(MOUNTECH社製、HM-model1208)を用いて、導電材の比表面積(m/g)を測定した。
【0127】
(導電材分散体の分散粒度の測定方法)
分散粒度は、溝の最大深さ300μmのグラインドゲージを用い、JIS K5600-2-5に準ずる判定方法により求めた。
【0128】
(導電材分散体のメジアン径の粒度測定方法)
メジアン径は粒度分布測定装置(Partical LA-960V2、HORIBA製)を用いて測定した。循環/超音波の動作条件は、循環速度:3、超音波強度:7、超音波時間:1分、撹拌速度:1、撹拌モード:連続とした。また、空気抜き中は超音波強度7、超音波時間5秒で超音波作動を行った。水の屈折率は1.333、カーボン材料の屈折率は1.92とした。測定は、測定試料を赤色レーザーダイオードの透過率が60~80%となるように希釈した後行い、粒子径基準は体積とした。
【0129】
(金属含有量の測定方法)
導電材分散体の金属含有量は以下の方法で測定した。ガラス瓶(M-140、柏洋硝子製)に導電材分散体を加えて、電気オーブン中で120℃±5℃で乾燥させて、導電材分散体乾燥品を得た。導電材分散体乾燥品を、乳鉢を用いて粉状にし、マイクロ波試料前処理装置(マイルストーンゼネラル社製、ETHOS1)を使用して、酸分解し、CNTに含まれる金属を抽出した。その後、マルチ型ICP発光分光分析装置(Agilent社製、720-ES)を用いて分析を行い、導電材分散体に含まれる鉄、ニッケル、クロムからなる金属含有量を算出した。
導電材分散体に含まれる金属含有量は次のように計算した。
導電材分散体の金属含有量(ppm)=(導電材乾燥品中の鉄含有量+ 導電材乾燥品中のニッケル含有量+導電材分散体乾燥品中のクロム含有量)×(CNT分散液中のCNT濃度(%))
【0130】
<分散剤の合成>
(合成例1)
(分散剤1の合成)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メチルエチルケトン100部、アクリロニトリル90.0部、アクリル酸10.0部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール0.5部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を70℃に加熱してメチルエチルケトン10部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬製:V-65)0.4部からなる混合物を6時間かけて反応容器内に滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、70℃で1時間反応させた後、V-65を0.1部添加し、さらに70℃で1時間反応を続け目的物を沈殿物として得た。その後、不揮発分測定にて転化率が98%を超えたことを確認した。生成物を減圧濾過によって濾別し、酢酸エチル100部にて洗浄を行い、減圧乾燥によって溶媒を完全に除去して重合体(A-1)を得た。分散剤(A-1)の重量平均分子量(Mw)は52,000であった。また、酸価は78mgKOH/gであった。
【0131】
(合成例2~22)
(分散剤2~22の合成)
使用するモノマー、連鎖移動剤を表1に従って変更した以外は、合成例1と同様にして、それぞれ分散剤2~22の製造を作製した。各分散剤の重量平均分子量(Mw)、酸価は表1に示す通りであった。なお、分散剤の合成は、連鎖移動剤の添加、重合開始剤量の調整、および反応条件等を適宜変更してMwを調製した。
【0132】
【表1】
【0133】
AA:アクリル酸
IA:イタコン酸
SAMA:2-メタクリロイルオキシエチルサクシネート
β-CEA:β-カルボキシエチルアクリレート
a-1:無水マレイン酸のイソプロピルアルコール付加体(下記式(1))
a-2:2-アクリロイルオキシエチルサクシネート
a-3:ヒドロキシエチルアクリレートのオクテニルコハク酸無水物付加体(下記式(2))
DMAEA:ジメチルアミノエチルアクリレート
BA:ブチルアクリレート
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
【0134】
【化1】
【0135】
【化2】
【0136】
<実施例α:二次電池への適用>
【0137】
(導電材分散体の作製)
(実施例1α-1)
表2に示す組成に従い、ステンレス容器にイオン交換水、分散剤、添加剤、消泡剤(サーフィノール104E、日本信越工業製)を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、導電材をディスパーで撹拌しながら添加し、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,600rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。このとき、グラインドゲージにて確認した分散粒度は180μmであった。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、メジアン径が100μm以下になるまで20回パス式分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。さらに、目開き48μmのナイロンメッシュに3度通過させた後、磁気フィルター(トックエンジニアリング製)を介し、室温、磁束密度12,000ガウスの条件で濾過し、導電材分散体(分散体1α)を得た。濾過後の磁気フィルターには磁性を有する粒状の金属片の付着が見られた。また、表2に示す通り、分散体1αは低粘度かつ貯蔵安定性が良好であり、鉄、ニッケル、クロムからなる金属含有量は30ppmだった。
【0138】
(実施例1α-2~1α-33、比較例1α-1~1α-6)
表2に示す組成に従い、実施例1α-1と同様にして、各分散体(分散体2α~33α、比較分散体1α~6α)を得た。ただし、メジアン径が100μm以上である場合、追加で2パス分散処理を行い、再度測定し、メジアン径が100μm以下になるまで繰り返した。表2に示す通り、本発明の導電材分散体(分散体2α~33α)はいずれも低粘度かつ貯蔵安定性が良好であった。また、鉄、ニッケル、クロムからなる金属含有量は表2示す通りであった。
【0139】
(導電材分散体の粘度測定方法)
粘度の測定は、B型粘度計(東機産業製「BL」)を用いて、分散体温度25℃にて、分散体をヘラで充分に撹拌した後、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2,000mPa・s未満の場合はNo.3を、2,000以上10,000mPa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。低粘度であるほど分散性が良好であり、高粘度であるほど分散性が不良である。得られた分散体が明らかに分離や沈降しているものは分散性不良とした。
判定基準
◎:500mPa・s未満(優良)
○:500mPa・s以上2,000mPa・s未満(良)
△:2,000mPa・s以上10,000mPa・s未満(不良)
×:10,000mPa・s以上、沈降または分離(極めて不良)
【0140】
(導電材分散体の安定性評価方法)
貯蔵安定性の評価は、分散体を50℃にて7日間静置して保存した後の粘度を測定した。測定方法は初期粘度と同様の方法で測定した。
判定基準
◎:初期同等(優良)
○:粘度がやや変化した(良)
△:粘度は上昇しているがゲル化はしていない(不良)
×:ゲル化している(極めて不良)
【0141】
【表2】
【0142】
・6A:JENOTUBE6A(JEIO製、多層CNT、平均外径6nm、比表面積700m/g、酸性基量0.27μmol/m、190μmol/g)
・10B:JENOTUBE10B(JEIO製、多層CNT、平均外径10nm、比表面積230m/g、酸性基量0.67μmol/m、154μmol/g)
・TUBALL1:シングルウォールカーボンナノチューブ(OCSiAl製、平均外径1.7nm、純度80%、比表面積490m/g、酸性基量0.38μmol/m、186μmol/g)
・TUBALL2:シングルウォールカーボンナノチューブ(OCSiAl製、平均外径1.6nm、純度93%、比表面積975m/g、酸性基量0.21μmol/m、205μmol/g)
・100T:K-Nanos100T(Kumho Petrochemical製、多層CNT、平均外径13nm、比表面積240m/g、酸性基量0.23μmol/m、54μmol/g)
・EC-300J:ケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ製、平均一次粒子径40nm、比表面積800m2/g、酸性基量0.27μmol/m、219μmol/g)
・HS-100:デンカブラックHS-100(デンカ製、アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m2/g比表面積975m/g、酸性基量0.21μmol/m、205μmol/g)
・PVP:ポリビニルピロリドン K-30(日本触媒製、不揮発分100%、酸価0mgKOH/g)
・F01MC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩 サンローズF F01MC(日本製紙製、不揮発分100%、酸価 NMPに不溶のため測定不可)
【0143】
(負極合材組成物および負極の作製)
(実施例2α-1)
容量150cmのプラスチック容器に導電材分散体(分散体1α)と、CMCと、水とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。その後、負極活物質として人造黒鉛、シリコンを添加し、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。さらにその後、SBRを加えて、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、負極合材組成物を得た。負極合材組成物の不揮発分は48質量%とした。負極合材組成物の不揮発分の内、人造黒鉛:シリコン:導電材:CMC:SBRの不揮発分比率は87:10:0.5:1:1.5とした。
【0144】
得られた負極合材組成物を、アプリケーターを用いて、厚さ20μmの銅箔上に塗工して後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間、塗膜を乾燥させて電極膜を作製した。その後、電極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行って、負極(負極1)を得た。なお、合材層の単位当たりの目付量は10mg/cmであり、圧延処理後の合材層の密度は1.6g/ccであった。
【0145】
・人造黒鉛:CGB-20(日本黒鉛工業製)、不揮発分100%
・シリコン:一酸化珪素(大阪チタニウムテクノロジー製、SILICON MONOOXIDE SiO 1.3C 5μm)、不揮発分100%
・CMC:カルボキシメチルセルロース#1190(ダイセルファインケム製)、不揮発分100%
・SBR:スチレンブタジエンゴムTRD2001(JSR製)、不揮発分48%
【0146】
(実施例2α-2~2α-33、比較例2α-1~2α-6)
導電材分散体を、表3に示す各分散体(分散体2α~33α)に変更した以外は、実施例2α-1と同様の方法により、負極2~33、および比較負極1~6を得た。
【0147】
(負極の導電性評価方法)
得られた負極を、三菱化学アナリテック製:ロレスターGP、MCP-T610を用いて合材層の表面抵抗率(Ω/□)を測定した。測定後、合材層の厚みを乗算し、負極の体積抵抗率(Ω・cm)とした。合材層の厚みは、膜厚計(NIKON製、DIGIMICROMH-15M)を用いて、電極中の3点を測定した平均値から、銅箔の膜厚を減算し、負極の体積抵抗率(Ω・cm)とした。
判定基準
◎:0.3Ω・cm未満(優良)
○:0.3Ω・cm以上0.5Ω・cm未満(良)
×:0.5Ω・cm以上(不良)
【0148】
(負極の密着性評価方法)
得られた負極を、塗工方向を長軸として90mm×20mmの長方形に2本カットした。剥離強度の測定には卓上型引張試験機(東洋精機製作所製、ストログラフE3)を用い、180度剥離試験法により評価した。具体的には、100mm×30mmサイズの両面テープ(No.5000NS、ニトムズ製)をステンレス板上に貼り付け、作製した負極の合材層側を両面テープのもう一方の面に密着させ試験用試料とした。次いで、試験用試料を長方形の短辺が上下にくるように垂直に固定し、一定速度(50mm/分)で銅箔の末端を下方から上方に引っ張りながら剥離し、このときの応力の平均値を剥離強度とした。
判定基準
◎:0.5N/cm以上(優良)
○:0.1N/cm以上0.5N/cm未満(良)
×:0.1N/cm未満(不良)
【0149】
【表3】

【0150】
(正極用合材組成物および正極の作製)
(実施例3α-1)
容量150cmのプラスチック容器に導電材分散体(分散体1α)と、CMCと、水とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、その後、正極活物質としてLFPを添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。さらにその後、PTFEを添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、正極用合材組成物を得た。正極用合材組成物の不揮発分は75質量%とした。正極用合材組成物の不揮発分の内、LFP:導電材:PTFE:CMCの不揮発分比率は97:0.5:1:1.5とした。
【0151】
正極合材組成物を、アプリケーターを用いて、厚さ20μmのアルミ箔上に塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥し、電極膜を作製した。その後、電極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、正極(正極1)を得た。なお、合材層の単位当たりの目付量が20mg/cmであり、圧延処理後の合材層の密度は2.1g/ccであった。
【0152】
・LFP:リン酸鉄リチウム HED(商標)LFP-400(BASF製、不揮発分100%)
・PTFE:ポリテトラフルオロエチレン ポリフロン PTFE D-210C(ダイキン製、不揮発分60%)
・CMC:カルボキシメチルセルロース#1190(ダイセルファインケム製、不揮発分100%)
【0153】
(実施例3α-2~3α-33、比較例3α-1~3α-6)
導電材分散体を、表4に示す各分散体(分散体2α~33α)に変更した以外は、実施例3α-1と同様の方法により正極2~33および比較正極1~6を得た。
【0154】
(正極の導電性評価方法)
得られた正極を、銅箔の替わりにアルミ箔とした以外は負極と同様の方法で導電性評価した。
判定基準
◎:10Ω・cm未満(優良)
〇:10Ω・cm以上20Ω・cm未満(良)
×:20Ω・cm以上(不良)
【0155】
(正極の密着性評価方法)
得られた正極を、銅箔の替わりにアルミ箔とした以外は負極と同様の方法で密着性評価した。
判定基準
◎:1N/cm以上(優良)
○:0.5N/cm以上1N/cm未満(良)
×:0.5N/cm未満(不良)
【0156】
【表4】

【0157】
(標準正極の作製)
正極活物質としてLFP(HED(商標)LFP-400、BASF製、不揮発分100%)92質量部、アセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS‐100、デンカ製、不揮発分100%)4質量部、CMC(#1190、ダイセルファインケム製、不揮発分100%)1.6質量部を容量150mlのプラスチック容器に加えた後、ヘラを用いて粉末が均一になるまで混合した。その後、水を20.5質量部添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。その後、プラスチック容器内の混合物をヘラを用いて、均一になるまで混合し、前記の自転・公転ミキサーを用いて、PTFE(ダイキン製、不揮発分60質量%)4質量部を加え、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらにその後、水を11.2質量部添加し、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。最後に、高速攪拌機を用いて、3,000rpmで10分間撹拌し、標準正極用合材組成物を得た。
【0158】
上述の標準正極用合材組成物を集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が20mg/cmとなるように調整した。さらにロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が2.1g/cmとなる標準正極を作製した。
【0159】
(標準負極の作製)
容量150mlのプラスチック容器にアセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS‐100、デンカ製)0.5質量部と、CMC(#1190、ダイセルファインケム製、不揮発分100%)1質量部と、水98.4質量部とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらに活物質として人造黒鉛(CGB-20、日本黒鉛工業製、不揮発分100%)を87質量部、シリコン(一酸化珪素、大阪チタニウムテクノロジー製、SILICON MONOOXIDE SiO 1.3C 5μm、不揮発分100%)を10質量部添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。続いてSBR(TRD2001、JSR製)を3.1質量部加えて、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、標準負極用合材組成物を得た。標準負極用合材組成物の不揮発分は50質量%とした。
【0160】
上述の標準負極用合材組成物を集電体となる厚さ20μmの銅箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で80℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が10mg/cmとなるように調整した。さらにロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が1.6g/cmとなる標準負極を作製した。
【0161】
(実施例4α-1~4α‐33、比較例4-1~4-6)
(実施例5α-1~5α-33、比較例5-1~5-6)
(二次電池の作製)
表5および表6に記載した負極および正極を使用して、各々50mm×45mm、45mm×40mmに打ち抜き、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)をアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、70℃で1時間乾燥した。その後、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液(エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1:1の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、ビニレンカーボネートを100質量部に対して1質量部加えた後、LiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を2mL注入した後、アルミ製ラミネートを封口して、それぞれ負極評価用電池1~33、負極評価用比較電池1~6、正極評価用電池1~33、正極評価用比較電池1~6を作製した。
【0162】
(二次電池のレート特性評価方法)
得られた負極評価用二次電池および正極評価用二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流1mA(0.02C))を行った後、放電電流10mA(0.2C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を3回繰り返した後、充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流(1mA0.02C))を行い、放電電流0.2Cおよび3Cで放電終止電圧3.0Vに達するまで定電流放電を行って、それぞれ放電容量を求めた。レート特性は0.2C放電容量と3C放電容量の比、以下の数式1で表すことができる。

(数式1) レート特性 = 3C放電容量/3回目の0.2C放電容量 ×100 (%)

判定基準
◎:80%以上(優良)
○:60%以上80%未満(良)
×:60%未満(不良)
【0163】
(二次電池のサイクル特性評価方法)
得られた負極評価用二次電池および正極評価用二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流25mA(0.5C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流2.5mA(0.05C))を行った後、放電電流25mA(0.5C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を200回繰り返した。サイクル特性は25℃における3回目の0.5C放電容量と200回目の0.5C放電容量の比、以下の数式2で表すことができる。

(数式2)サイクル特性 = 3回目の0.5C放電容量/200回目の0.5C放電容量×100(%)

判定基準
◎:85%以上(優良)
○:80%以上85%未満(良)
×:80%未満(不良)
【0164】
【表5】

【0165】
【表6】

【0166】
本発明の導電材分散体を用いた上記実施例では、電極の状態でも良好な分散状態が維持された結果、発達した導電ネットワークが形成されたと思われ、比較例に比べて導電性および密着性に優れた電極が得られた。さらに、その結果として、レート特性およびサイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られた。特定の酸性基量を有する導電材と、特定の構造および特定の酸価を有する分散剤を組み合わせることにより、比較例に比べて特性に優れた非水電解質二次電池が得られたと思われる。よって、本発明は従来の導電材分散体では実現しがたい良好な特性を有する非水電解質二次電池を提供できることが明らかとなった。
【0167】
<実施例β:導電性塗料への適用>
【0168】
(導電材分散体の作製)
(実施例1β-1)
表7に示す組成に従い、ステンレス容器にイオン交換水、分散剤、添加剤、消泡剤(サーフィノール104E、日本信越工業製)を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、導電材をディスパーで撹拌しながら添加し、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,600rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。このとき、グラインドゲージにて確認した分散粒度は170μmであった。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、メジアン径が100μm以下になるまで20回パス式分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。さらに、目開き48μmのナイロンメッシュに3度通過させた後、磁気フィルター(トックエンジニアリング製)を介し、室温、磁束密度12,000ガウスの条件で濾過し、導電材分散体(分散体1β)を得た。濾過後の磁気フィルターには磁性を有する粒状の金属片の付着が見られた。表7に示す通り、分散体1βは低粘度かつ貯蔵安定性が良好だった。鉄、ニッケル、クロムからなる金属含有量は31ppmだった。
【0169】
(実施例1β-2~1β-32、比較例1β-1~1β-4)
表7に示す組成に従い、実施例1β-1と同様にして、各分散体(分散体2β~32β、比較分散体1β~4β)を得た。ただし、メジアン径が100μm以上である場合、追加で2パス分散処理を行い、再度測定し、メジアン径が100μm以下になるまで繰り返した。表2に示す通り、本発明の導電材分散体(分散体2β~32β)はいずれも低粘度かつ貯蔵安定性が良好であった。また、鉄、ニッケル、クロムからなる金属含有量は表7に示す通りであった。
【0170】
(導電材分散体の粘度測定方法)
粘度の測定は、B型粘度計(東機産業製「BL」)を用いて、分散体温度25℃にて、分散体をヘラで充分に撹拌した後、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2,000mPa・s未満の場合はNo.3を、2,000以上10,000mPa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。低粘度であるほど分散性が良好であり、高粘度であるほど分散性が不良である。得られた分散体が明らかに分離や沈降しているものは分散性不良とした。
判定基準
◎:500mPa・s未満(優良)
○:500mPa・s以上2,000mPa・s未満(良)
△:2,000mPa・s以上10,000mPa・s未満(不良)
×:10,000mPa・s以上、沈降または分離(極めて不良)
【0171】
(導電材分散体の安定性評価方法)
貯蔵安定性の評価は、分散体を50℃にて7日間静置して保存した後の粘度を測定した。測定方法は初期粘度と同様の方法で測定した。
判定基準
◎:初期同等(優良)
○:粘度がやや変化した(良)
△:粘度は上昇しているがゲル化はしていない(不良)
×:ゲル化している(極めて不良)
【0172】
(金属含有量の測定方法)
金属含有量は実施例2α-1に記載の方法と同様にして測定した。
【0173】
【表7】
【0174】
(導電性塗料および導電性塗膜の作製)
(実施例2β-1)
表8に示す組成に従い、容器に導電材分散体、塗料用バインダー、水を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌し、塗料1を得た。
【0175】
(実施例2β-2~35、比較例2β-1~4)
表7に示す分散体に変更した以外は、実施例2β-1と同様にして、各塗料(塗料2~35、比較塗料1~4)を得た。
【0176】
(塗料評価)
得られた塗料について、さらに、塗料をコロナ放電処理PETフィルムに膜厚が1μmになるようにバーコーターで塗工し、30分間セッティング後、60℃にて30分間乾燥させた後、140℃にて20分間焼き付けを行って、各塗料の試験塗膜を作製し、塗料とその塗膜について以下の評価を行った。その結果を表3に示した。
(相溶性)
得られた塗料をJIS K56002-5に従い、粒子の密集を確認することで、導電材分散体と、塗料用バインダーの相溶性を判断した。下記基準にて評価を行った。尚、〇(良好)、×(不良)の2段階で評価した。
判定基準
○:密集20μm未満
×:密集20μm以上
(透明性)
透明性については、PETフィルムに塗工した試験塗膜を、日本電色工業社製:ヘーズメーター(300A)で全光線透過率を測定した。下記基準にて評価を行った。尚、◎(極めて良好)、〇(良好)、△(普通)、×(不良)の4段階で評価した。
判定基準
◎:80%以上
〇:60%以上80%未満
△:40%以上60%未満
×:40%未満
(表面抵抗率)
導電性については、PETフィルムに塗工した試験塗膜を、三菱化学社製:ロレスターGP(CP-T610)を用いて表面抵抗率(Ω/□)を測定した。下記基準にて評価を行った。尚、◎(極めて良好)、〇(良好)、△(普通)、×(不良)の4段階で評価した。
判定基準
◎:1.0×108未満
〇:1.0×108以上1.0×1010未満
△:1.0×1010以上1.0×1014未満
×:1.0×1014以上(測定不可)
【0177】
【表8】
【0178】
なお、表8に示した略号は以下を意味する。
・ウレタン:エバファノールHA-107C(日華化学社製、水系ウレタン樹脂、固形分40%)
・オレフィン:スーパークロンE-415(日本製紙社製、水系オレフィン樹脂、固形分30%)
【0179】
表7、表8に示した結果から、本発明の導電材分散体は貯蔵安定性、塗料用バインダーへの相溶性に優れ、透明性と表面抵抗率に優れていることが示された。